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特開2024-130036メタン化触媒及びそれを用いたメタンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130036
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】メタン化触媒及びそれを用いたメタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20240920BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20240920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039519
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 拓飛
(72)【発明者】
【氏名】松本 満
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】小野地 裕策
(72)【発明者】
【氏名】平林 武史
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅彦
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA03
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CC22
4G169DA05
4G169EB18X
4G169FB09
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC11
4H006BA05
4H006BA55
4H006BA56
4H006BC13
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA99
4H039CB40
(57)【要約】
【課題】ライトオフ温度T50が低く、低温での触媒活性に優れ、かつ、高い最大CO転化率を有するメタン化触媒を提供すること。
【解決手段】NiO-CeO複合酸化物粒子と前記NiO-CeO複合酸化物粒子に担持されているCuとを含有するメタン化触媒であり、
Cu担持量が触媒全体に対して0.3~10質量%であることを特徴とするメタン化触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiO-CeO複合酸化物粒子と前記NiO-CeO複合酸化物粒子に担持されているCuとを含有するメタン化触媒であり、
Cu担持量が触媒全体に対して0.3~10質量%であることを特徴とするメタン化触媒。
【請求項2】
Cuが微粒子の状態で担持されていることを特徴とする請求項1に記載のメタン化触媒。
【請求項3】
前記NiO-CeO複合酸化物粒子が、平均粒子径が1~10nmのNiO微粒子と平均粒子径が1~10nmのCeO微粒子の高分散体であることを特徴とする請求項1に記載のメタン化触媒。
【請求項4】
請求項1に記載のメタン化触媒に二酸化炭素と水素との混合ガスを接触せしめることを特徴とするメタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン化触媒及びそれを用いたメタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COを原料としたメタン化反応は、近年の地球温暖化抑制のためのCO排出量削減の観点から注目されており、貴金属であるRuやベースメタル元素であるNiが、COを原料としたメタン化反応において高い活性を示す触媒として検討されている。このような触媒のうち、貴金属触媒は高コストであるため、製造コストの面では、安価なベースメタルであるNiを含有する触媒が実用的に有望な触媒として期待されている。しかしながら、Ni系触媒は、NiOが還元されにくく、初期活性が低いため、ライトオフ温度T50(COの転化率が50%となる温度)が320℃以上となり、初期ライトオフのエネルギー消費量が大きいという問題があった。
【0003】
そこで、特開2020-32331号公報(特許文献1)には、250℃以下の低温であっても高い触媒活性を示すメタン化触媒として、セリア微粒子と酸化ニッケル微粒子との共沈物からなるメタン化触媒が提案されている。しかしながら、このメタン化触媒においても、ライトオフ温度T50が高く、低温での触媒活性が低いため、メタン化反応の開始時には高温にする必要があり、また、COの最大転化率も必ずしも十分に高いものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-32331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ライトオフ温度T50が低く、低温での触媒活性に優れ、かつ、高い最大CO転化率を有するメタン化触媒、及びこのメタン化触媒を用いたメタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、NiO-CeO複合酸化物粒子に、特定量のCuを担持させることによって、ライトオフ温度T50が低く、低温での触媒活性に優れ、かつ、高い最大CO転化率を有するメタン化触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0008】
[1]NiO-CeO複合酸化物粒子と前記NiO-CeO複合酸化物粒子に担持されているCuとを含有するメタン化触媒であり、Cu担持量が触媒全体に対して0.3~10質量%である、メタン化触媒。
【0009】
[2]Cuが微粒子の状態で担持されている、[1]に記載のメタン化触媒。
【0010】
[3]前記NiO-CeO複合酸化物粒子が、平均粒子径が1~10nmのNiO微粒子と平均粒子径が1~10nmのCeO微粒子の高分散体である、[1]又は[2]に記載のメタン化触媒。
【0011】
[4][1]~[3]のうちのいずれか1項に記載のメタン化触媒に二酸化炭素と水素との混合ガスを接触せしめる、メタンの製造方法。
【0012】
なお、本発明のメタン化触媒が低いライトオフ温度T50及び高い最大CO転化率を有するものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、CeO微粒子とNiO微粒子とを含有するメタン化触媒にHを高温下で接触させると、Hは触媒表面に吸着して解離し、活性種Hを生成する。この活性種Hはメタン化触媒中のNiOを金属Niに還元する。このような状態のメタン化触媒にCOが吸着すると、金属Niが活性点となって、逆水性ガスシフト反応(下記式(1))とメタン化反応(下記式(2))によりCOがCHに変換される。
CO+H→CO+HO (1)
CO+3H→CH+HO (2)
前記式(1)及び前記式(2)の反応においては、H吸着解離、CO吸着、CO→CO→Cへの還元、Cの水素化といった多種類の活性サイトが同時に必要であるため、メタン化触媒上のCOのメタン化反応は構造に敏感な触媒反応であると推察される。
【0013】
従来のCeO微粒子とNiO微粒子とを含有するメタン化触媒(例えば、特許文献1に記載のメタン化触媒)においては、CeO微粒子とNiO微粒子の粒子径が共に小さく、また、高分散されているため、CeO微粒子とNiO微粒子との相互作用が不十分であり、低温においてNiOの金属Niへの還元が進行しにくくなり、COのメタン化反応(前記式(1)及び前記式(2))における低温活性が低くなると推察される。
【0014】
一方、本発明のメタン化触媒においては、粒子径が共に小さいCeO微粒子とNiO微粒子とが高分散したNiO-CeO複合酸化物粒子に特定量のCuが担持されており、NiO-CeO複合酸化物粒子の表面にCuOが細かく分散した複合構造が形成されている。このような複合構造を有するメタン化触媒においては、CuOが低温でもCuに還元されるため、Cu表面で水素の吸着解離が起こり、活性種Hが生成する。この活性種Hは、低温でもNiOをNi2+に還元し、CeOをCe4+に還元するため、上記の多種類の活性サイトが数多く存在し、COの吸着や、前記式(1)及び前記式(2)で表される反応が進行しやすくなり、COのメタン化反応における低温活性が高くなると推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ライトオフ温度T50が低く、低温での触媒活性に優れ、かつ、高い最大CO転化率を有するメタン化触媒を得ることが可能となる。また、このようなメタン化触媒を用いることによって、低温であっても二酸化炭素と水素とから高収率でメタンを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1及び比較例1~4で得られた触媒粉末のライトオフ温度T50を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例1、5~6で得られた触媒粉末のライトオフ温度T50を示すグラフである。
図3】実施例1~8及び比較例1、7で得られた触媒粉末のライトオフ温度T50を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔メタン化触媒〕
先ず、本発明のメタン化触媒について説明する。本発明のメタン化触媒は、NiO-CeO複合酸化物粒子と前記NiO-CeO複合酸化物粒子に担持されているCuとを含有するものである。
【0019】
本発明のメタン化触媒において、前記NiO-CeO複合酸化物粒子は、NiOとCeOとが複合化されたものであり、NiO及びCeOはそれぞれ微粒子を形成していることが好ましく、NiO微粒子とCeO微粒子は高分散体を形成していることがより好ましい。
【0020】
前記NiO-CeO複合酸化物粒子において、NiOの含有量としては、Ni元素基準で、前記NiO-CeO複合酸化物粒子に含まれる全金属元素に対して5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましく15~75質量%が更に好ましい。NiOの含有量が前記範囲内にあると、得られるメタン化触媒は、ライトオフ温度T50が低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現する傾向にある。一方、NiOの含有量が前記下限未満になると、NiO微粒子とCeO微粒子とが互いに高分散することが困難となるため、これらの相互作用が減少し、低温においてNiOのNi2+への還元が進行しにくくなることから、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にあり、他方、NiOの含有量が前記上限を超えると、相対的にCeOの含有量が減少し、COの吸着サイトが少なくなり、COの吸着量が減少するため、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にある。
【0021】
また、前記NiO-CeO複合酸化物粒子において、CeOの含有量としては、Ce元素基準で、前記NiO-CeO複合酸化物粒子に含まれる全金属元素に対して5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましく15~75質量%が更に好ましい。CeOの含有量が前記範囲内にあると、得られるメタン化触媒は、ライトオフ温度T50が低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現する傾向にある。一方、CeOの含有量が前記下限未満になると、COの吸着サイトが少なくなり、COの吸着量が減少するため、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にあり、他方、CeOの含有量が前記上限を超えると、相対的にNiOの含有量が減少し、NiO微粒子とCeO微粒子とが互いに高分散することが困難となるため、これらの相互作用が減少し、低温においてNiOのNi2+への還元が進行しにくくなることから、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にある。
【0022】
前記NiO微粒子の平均粒子径としては、1~10nmが好ましく、2~9.6nmがより好ましい。NiO微粒子の平均粒子径が前記範囲内にあると、得られるメタン化触媒は、ライトオフ温度T50が低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現する傾向にある。一方、NiO微粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、加熱時の粒成長により触媒性能が低下しやすい傾向にあり、他方、NiO微粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、触媒活性点が少なくなるため、触媒性能が低下する傾向にある。なお、NiO微粒子の平均粒子径は、例えば、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折測定により得られるXRDスペクトルの2θ=43°付近のXRDピークに基づいてシェラーの式を用いて求めることができる。
【0023】
また、前記CeO微粒子の平均粒子径としては、1~10nmが好ましく、2~8.1nmがより好ましい。CeO微粒子の平均粒子径が前記範囲内にあると、得られるメタン化触媒は、ライトオフ温度T50が低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現する傾向にある。一方、CeO微粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、加熱時の粒成長により比表面積が減少しやすく、COの吸着量が減少するため、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にあり、他方、CeO微粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、CeO微粒子が高分散しにくくなるため、NiO微粒子とCeO微粒子との相互作用が減少し、低温においてNiOのNiへの還元が進行しにくくなることから、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する傾向にある。なお、CeO微粒子の平均粒子径は、例えば、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折測定により得られるXRDスペクトルの2θ=47°付近のXRDピークに基づいてシェラーの式を用いて求めることができる。
【0024】
本発明のメタン化触媒において、前記NiO-CeO複合酸化物粒子は、NiO微粒子及びCeO微粒子のみからなるものであってもよいが、ZrO及び希土類金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物の微粒子(以下、「他の金属酸化物微粒子」という)が更に含まれていてもよい。このようなZrO微粒子等の他の金属酸化物微粒子を含有することによって、CeO微粒子の熱安定性が向上し、メタン化触媒の耐熱性が向上する。
【0025】
前記他の金属酸化物の含有量としては、前記他の金属酸化物を構成する金属元素基準で、前記NiO-CeO複合酸化物粒子に含まれる全金属元素に対して2~20モル%が好ましく、3~15モル%がより好ましい。前記他の金属酸化物の含有量が前記下限未満になると、メタン化触媒の耐熱性が十分に向上しにくい場合があり、他方、前記他の金属酸化物の含有量が前記上限を超えると、NiO微粒子とCeO微粒子との相互作用が得られにくい傾向にある。
【0026】
本発明のメタン化触媒は、このようなNiO-CeO複合酸化物粒子に特定量のCuが担持されたものである。本発明のメタン化触媒において、Cuの担持量は触媒全体に対して0.3~10質量%であることが必要である。Cuの担持量が前記下限未満になると、Cu表面での水素の吸着解離が起こりにくく、活性種Hの生成量が減少し、活性種HによるNiOの還元やCeOの還元が進行しにくくなるため、COの吸着や、前記式(1)及び前記式(2)で表される反応が進行しにくくなり、COのメタン化反応における低温活性が低下する。他方、Cuの担持量が前記上限を超えると、NiO微粒子やCeO微粒子の表面がCuで覆われるため、COの吸着サイトや触媒活性点が少なくなり、COの吸着量が減少したり、触媒性能が低下することから、ライトオフ温度T50が高くなり、低温での触媒活性が低下する。また、ライトオフ温度T50が更に低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現するという観点から、Cuの担持量としては、0.5~8質量%が好ましく、0.6~6質量%がより好ましく、0.8~5質量%が更に好ましく、0.8~3質量%が特に好ましい。
【0027】
また、本発明のメタン化触媒において、Cuは微粒子の状態で担持されていることが好ましい。これにより、Cuが前記NiO-CeO複合酸化物粒子の表面に細かく分散した状態で担持されるため、上記の多種類の活性サイトが数多く存在し、COの吸着や、前記式(1)及び前記式(2)で表される反応が進行しやすくなり、COのメタン化反応における低温活性が高くなる。
【0028】
Cuが微粒子の状態で担持されている場合、その平均粒子径としては、1~10nmが好ましく、2~10nmがより好ましい。Cu微粒子の平均粒子径が前記範囲内にあると、得られるメタン化触媒は、ライトオフ温度T50が低くなり、低温において更に優れた触媒活性が発現する傾向にある。一方、Cu微粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、加熱時の粒成長により比表面積が減少しやすく、Cu表面での水素の吸着解離が起こりにくく、活性種Hの生成量が減少し、活性種HによるNiOの還元やCeOの還元が進行しにくくなるため、COの吸着や、前記式(1)及び前記式(2)で表される反応が進行しにくくなり、COのメタン化反応における低温活性が低下する傾向にあり、他方、Cu微粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、Cu微粒子が細かく分散しにくくなるため、上記の多種類の活性サイトが減少し、COの吸着や、前記式(1)及び前記式(2)で表される反応が進行しにくくなり、COのメタン化反応における低温活性が低くなる傾向にある。なお、Cu微粒子の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡観察において、無作為に抽出した20個のCu微粒子の粒子径を測定し、平均化することによって求めることができる。
【0029】
(メタン化触媒の製造方法)
このような本発明のメタン化触媒は、Cu担持量が所定の範囲内となるように、前記NiO-CeO複合酸化物粒子(触媒担体)にCuイオンを含有する前駆体溶液を含浸させて、前記NiO-CeO複合酸化物粒子にCuイオンが付着した触媒前駆体を調製し、この触媒前駆体を所定の温度で焼成することによって製造することができる。
【0030】
Cuイオンを含有する前駆体溶液としては特に制限はないが、例えば、溶媒にCuの塩を溶解した前駆体溶液が挙げられる。Cuの塩としては、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等が挙げられる。溶媒としては、Cuの塩が溶解する溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、エタノール、メタノール等、及び、水とエタノール、メタノール等との混合溶媒が挙げられる。
【0031】
Cuイオンを含有する前駆体溶液において、Cuイオンの含有量としては、得られるメタン化触媒中のCuの担持量が所定の範囲内となる量であることが必要である。これにより、前記NiO-CeO複合酸化物粒子の表面にCuが細かく分散した状態で担持されるため、ライトオフ温度T50が低く、低温において優れた触媒活性が発現するメタン化触媒が得られる。
【0032】
前記触媒前駆体の焼成温度としては、150~600℃が好ましく、200~550℃がより好ましく、200~500℃が更に好ましい。また、前記触媒前駆体の焼成時間としては、0.5~5.0時間が好ましく、1.0~4.0時間がより好ましく、1.5~3.0時間が更に好ましい。触媒前駆体の焼成温度及び焼成時間を前記範囲内とすることによって、焼成時にCuが粒成長しにくく、前記NiO-CeO複合酸化物粒子の表面にCuが細かく分散した状態で担持されるため、ライトオフ温度T50が低く、低温において優れた触媒活性を発現するメタン化触媒が得られる。
【0033】
また、前記NiO-CeO複合酸化物粒子(触媒担体)は、例えば、NiイオンとCeイオンとを含有する前駆体溶液に沈殿剤を添加して共沈法により触媒担体前駆体(共沈物)を調製し、この触媒担体前駆体を所定の温度で焼成することによって製造することができる。
【0034】
NiイオンとCeイオンとを含有する前駆体溶液としては特に制限はないが、例えば、溶媒にNiの塩とCeの塩とを溶解した前駆体溶液が挙げられる。また、得られるメタン化触媒の耐熱性を向上させるために、この前駆体溶液に、Zr及び希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(以下、「他の金属」という)の塩を添加してもよい。Niの塩、Ceの塩及び他の金属の塩としては、これらの金属の硝酸塩、酢酸塩、塩化物等が挙げられる。溶媒としては、Niの塩、Ceの塩及び他の金属の塩が溶解し、沈殿剤を添加することによって共沈物が生成する溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、エタノール、メタノール等、及び、水とエタノール、メタノール等との混合溶媒が挙げられる。
【0035】
CeイオンとNiイオンとを含有する前駆体溶液において、Niイオンの含有量としては、得られるメタン化触媒中のNiOの含有量が所定の範囲内となる量であることが好ましい。これにより、ライトオフ温度T50が低く、低温において優れた触媒活性が発現するメタン化触媒が得られる。
【0036】
また、CeイオンとNiイオンとを含有する前駆体溶液において、Ceイオンの含有量としては、得られるメタン化触媒中のCeOの含有量が所定の範囲内となる量であることが好ましい。これにより、ライトオフ温度T50が低く、低温において優れた触媒活性が発現するメタン化触媒が得られる。
【0037】
さらに、CeイオンとNiイオンとを含有する前駆体溶液において、他の金属イオンの含有量としては、得られるメタン化触媒中の他の金属酸化物の含有量が所定の範囲内となる量であることが好ましい。これにより、NiO微粒子とCeO微粒子との相互作用が維持され、耐熱性に優れたメタン化触媒が得られる。
【0038】
前記共沈法に用いる沈殿剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のNaを含有する沈殿剤、炭酸水素アンモニウム等のNaを含有しない沈殿剤が挙げられる。沈殿剤としてNaを含有するものを用いた場合には、得られた共沈物を水等により洗浄してNaを除去することが好ましい。
【0039】
前記触媒担体前駆体の焼成温度としては、150~600℃が好ましく、200~550℃がより好ましく、200~500℃が更に好ましい。また、前記触媒担体前駆体の焼成時間としては、0.5~5.0時間が好ましく、1.0~4.0時間がより好ましく、1.5~3.0時間が更に好ましい。触媒担体前駆体の焼成温度及び焼成時間を前記範囲内とすることによって、焼成時にNiO微粒子及びCeO微粒子が粒成長しにくく、NiO微粒子とCeO微粒子とが互いに高分散するため、これらの相互作用により、低温においてNiOのNi2+への還元が進行しやすくなることから、ライトオフ温度T50が低く、低温において優れた触媒活性が発現するメタン化触媒が得られる。
【0040】
〔メタンの製造方法〕
次に、本発明のメタンの製造方法について説明する。本発明のメタンの製造方法は、前記本発明のメタン化触媒に、二酸化炭素と水素との混合ガスを接触せしめることによって、メタンを製造する方法である。本発明のメタン化触媒を用いることによって、低温であっても二酸化炭素と水素とから高収率でメタンを製造することができる。また、二酸化炭素と水素からメタンを製造する際に、初期ライトオフのエネルギー消費を低減することができる。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
先ず、得られるNiO-CeO複合酸化物粒子中の酸化ニッケル(NiO)の含有量が50質量%、セリア(CeO)の含有量が50質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸ニッケル六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)及び硝酸セリウム六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)を溶解してニッケルイオン(Ni)及びセリウムイオン(Ce2+)を含有する前駆体水溶液を調製した。この前駆体水溶液に、攪拌しながら、Ni及びCe2+に対して1.3当量の炭酸ナトリウム(NaCO)を含有する沈殿剤水溶液を30分間かけて滴下した後、70℃で1時間加熱し、次いで、一晩静置して共沈物を生成させた。その後、ろ過と60℃の温水での洗浄とを7回繰り返して共沈物中のNaを除去した。得られた精製物を110℃で12時間乾燥した後、大気中、450℃で3時間焼成して、NiO-CeO共沈物からなる担体粉末(NiO-CeO共沈担体粉末)を得た。なお、このNiO-CeO共沈担体粉末中のNi含有量はNi元素基準で39.3質量%である。
【0043】
次に、得られる触媒中のCuの担持量が2.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅(富士フイルム和光純薬株式会社製)を溶解してCu2+を含有する硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に、攪拌しながら、所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した。得られた分散液を180℃に設定したホットスターラー上で蒸発乾固させ、前記NiO-CeO共沈担体粉末に硝酸銅が付着した粉末を得た。この粉末を大気中、450℃で3時間焼成して、前記NiO-CeO共沈担体にCuが所定量担持した触媒粉末(Cu担持NiO-CeO共沈触媒粉末)を得た。
【0044】
(実施例2)
得られる触媒中のCuの担持量が0.3質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0045】
(実施例3)
得られる触媒中のCuの担持量が0.5質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0046】
(実施例4)
得られる触媒中のCuの担持量が1.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0047】
(実施例5)
得られる触媒中のCuの担持量が3.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0048】
(実施例6)
得られる触媒中のCuの担持量が5.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0049】
(実施例7)
得られる触媒中のCuの担持量が8.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0050】
(実施例8)
得られる触媒中のCuの担持量が10.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様にしてNiO-CeO共沈物を調製し、この共沈物をそのまま(Cuを担持せずに)触媒粉末として使用した。
【0052】
(比較例2)
硝酸銅の代わりに硝酸鉄(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、得られる触媒中のFeの担持量が2.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解してFe3+を含有する硝酸鉄水溶液を調製し、この硝酸鉄水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にして、前記NiO-CeO共沈担体にFeが所定量担持した触媒粉末(Fe担持NiO-CeO共沈触媒粉末)を得た。
【0053】
(比較例3)
硝酸銅の代わりに硝酸コバルト(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、得られる触媒中のCoの担持量が2.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸コバルトを溶解してCo2+を含有する硝酸コバルト水溶液を調製し、この硝酸コバルト水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にして、前記NiO-CeO共沈担体にCoが所定量担持した触媒粉末(Co担持NiO-CeO共沈触媒粉末)を得た。
【0054】
(比較例4)
硝酸銅の代わりに硝酸マンガン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、得られる触媒中のMnの担持量が2.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸マンガンを溶解してMn2+を含有する硝酸マンガン水溶液を調製し、この硝酸マンガン水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にして、前記NiO-CeO共沈担体にMnが所定量担持した触媒粉末(Mn担持NiO-CeO共沈触媒粉末)を得た。
【0055】
(比較例5)
得られる触媒中のNiの担持量が2.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸ニッケル(富士フイルム和光純薬株式会社製)を溶解してNi2+を含有する硝酸ニッケル水溶液を調製し、この硝酸ニッケル水溶液に、攪拌しながら、所定量の酸化セリウム担体粉末(高純度化学研究所株式会社製「PC」)を添加した。得られた分散液を180℃に設定したホットスターラー上で蒸発乾固させ、前記酸化セリウム担体粉末に硝酸ニッケルが付着した粉末を得た。この粉末を大気中、450℃で3時間焼成して、前記酸化セリウム担体粉末にNiが所定量担持した触媒粉末(Ni担持CeO触媒粉末)を得た。
【0056】
(比較例6)
得られる触媒中のCuの担持量が2.0質量%、Niの担持量が20.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅(富士フイルム和光純薬株式会社製)及び硝酸ニッケル(富士フイルム和光純薬株式会社製)を溶解してCu2+とNi2+を含有する硝酸塩水溶液を調製し、この硝酸塩水溶液に、攪拌しながら、所定量の酸化セリウム担体粉末(高純度化学研究所株式会社製「PC」)を添加した。得られた分散液を180℃に設定したホットスターラー上で蒸発乾固させ、前記酸化セリウム担体粉末に硝酸銅と硝酸ニッケルが付着した粉末を得た。この粉末を大気中、450℃で3時間焼成して、前記酸化セリウム担体粉末にCuとNiが所定量担持した触媒粉末(Cu-Ni担持CeO触媒粉末)を得た。
【0057】
(比較例7)
得られる触媒中のCuの担持量が12.0質量%となるように、イオン交換水に所定量の硝酸銅を溶解して硝酸銅水溶液を調製し、この硝酸銅水溶液に所定量の前記NiO-CeO共沈担体粉末を添加した以外は実施例1と同様にしてCu担持NiO-CeO共沈触媒粉末を得た。
【0058】
<NiO微粒子、CeO微粒子及びCuO微粒子の平均粒子径>
得られた各触媒粉末中のNiO微粒子及びCeO微粒子の平均粒子径を粉末X線回折装置(XRD、株式会社リガク製「UltimaIV」)を用いて測定した。また、走査型顕微鏡観察により、無作為に抽出した20個のCuO微粒子の粒子径を測定し、その平均値をCuO微粒子の平均粒子径とした。これらの結果を表1に示す。
【0059】
<触媒性能評価試験>
得られた各触媒粉末0.2mlを内径6mmのステンレス製反応管に充填し、この反応管を昇温脱離装置(TPD-MS、ヘンミ計算尺株式会社製「TP-5000」)に装着した。この触媒に、Heを室温下、流量60ml/minで10分間流通させた後、H(40%)+CO(10%)+He(50%)の反応ガス(H/CO=4.0)を0.1MPaの圧力下、流量40ml/min(SV=12000/h)で流通させながら、触媒を室温から400℃まで5℃/minで昇温した。この間の触媒出ガス中のCO濃度及びCH濃度を質量分析(m/e=2(H)、15(CH)、44(CO))により測定し、各温度におけるCO転化率を算出し、CO転化率が50%となる温度(ライトオフ温度T50)及び最大CO転化率を求めた。これらの結果を表1及び図1図3に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示したように、実施例1~8で得られた触媒粉末中のNiO微粒子の平均粒子径は9.6nm未満であり、CeO微粒子の平均粒子径は8.1nm未満であり、CuO微粒子の平均粒子径は9.3nm未満であることがわかった。特に、Cu担持量が2.0質量%以下になると、CuO微粒子の平均粒子径は5.0nm未満となることがわかった。また、走査型電子顕微鏡観察の結果、NiO-CeO複合酸化物粒子はNiO微粒子とCeO微粒子との高分散体であり、CuO微粒子はNiO-CeO複合酸化物粒子の表面に分散した状態で担持されていることがわかった。
【0062】
表1及び図1に示したように、NiO-CeO複合酸化物粒子にCuが担持されている触媒(実施例1)は、Cuが担持されていない触媒(比較例1)、並びにFe(比較例2)、Co(比較例3)及びMn(比較例4)が担持されている触媒に比べて、ライトオフ温度T50が低く、低温活性に優れており、また、最大CO転化率が増大することがわかった。
【0063】
また、表1及び図2に示したように、共沈法により調製したNiO-CeO複合酸化物粒子にCuが担持されている触媒(実施例1)は、Cuが担持されていない触媒(比較例1)、並びにCeO粒子にNiが含浸担持されている触媒(比較例5)及びCeO粒子にCuとNiとが含浸担持されている触媒(比較例6)に比べて、ライトオフ温度T50が低く、低温活性に優れており、また、最大CO転化率が増大することがわかった。
【0064】
さらに、表1及び図3に示したように、所定量のCuが担持されている触媒(実施例1~8)は、Cuが担持されていない触媒(比較例1)及びCu担持量が所定量よりも多い触媒(比較例7)に比べて、ライトオフ温度T50が低く、低温活性に優れており、また、最大CO転化率が増大することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、ライトオフ温度T50が低く、低温での触媒活性に優れ、かつ、高い最大CO転化率を有するメタン化触媒を得ることが可能となる。したがって、本発明のメタンの製造方法は、このようなメタン化触媒を用いているため、低温においても二酸化炭素と水素とから高収率でメタンを製造することが可能であり、さらに、初期ライトオフのエネルギー消費が低減されたメタンの製造方法として有用である。
図1
図2
図3