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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130046
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】合成壁構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/045 20060101AFI20240920BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E02D29/045 Z
E02D5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039537
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 征晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 祐一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 めぐみ
【テーマコード(参考)】
2D049
2D147
【Fターム(参考)】
2D049EA09
2D049GE03
2D147AB04
2D147AB08
(57)【要約】
【課題】剛性、強度を高めて山留壁の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制可能な、合成壁構造を提供する。
【解決手段】山留壁11に沿わせて地下外壁12が設けられる合成壁構造であって、地下中間階と地下最下階との間において、地下外壁12Aと山留壁11が山留壁11の芯材13に設けられたスタッドコネクタ50で一体化され、地下中間階より上方においては、芯材13にはスタッドコネクタ50は設けられておらず、地下外壁12Bと山留壁11は一体化されていない、合成壁構造を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁に沿わせて地下外壁が設けられる合成壁構造であって、
地下中間階と地下最下階との間において、前記地下外壁と前記山留壁が当該山留壁の芯材に設けられたスタッドコネクタで一体化され、
前記地下中間階より上方においては、前記芯材には前記スタッドコネクタは設けられておらず、前記地下外壁と前記山留壁は一体化されていない
ことを特徴とする合成壁構造。
【請求項2】
前記地下外壁の内部には、複数の壁横筋を囲うようにせん断補強筋が閉鎖型状に配筋された外周内部梁が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の合成壁構造。
【請求項3】
前記地下外壁は、基礎杭に埋設される構真柱の表面に設けるスタッドコネクタ、及び耐圧版を介して前記基礎杭と連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の合成壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁に沿わせて地下外壁が設けられる合成壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地下階等の地下躯体を備える建築構造物を施工する場合においては、ソイルミキシングウォール等の山留壁を構築し、周囲の土圧、水圧を受け止め、地盤の崩落を防止することが、広く行われている。従来、山留壁は、建築構造物の施工後には不要となるため、撤去されるか、使用されない状態で埋設されていた。しかし、このような山留壁に対して、スタッドコネクタ等で、山留壁に沿って設けられる地下外壁を一体化させて合成壁を形成することで、山留壁を地下の壁の一部として利用することが行われている。このようにすると、地下外壁の厚さを低減して、地下の空間を広くすることができる。
【0003】
このような構造として、特許文献1には、山留壁の内側の地盤中に施工された構真柱で支持された本設の床梁を山留壁支保工として利用しながら、地下躯体を上階から下階へと順次構築して行くに当たり、地下躯体の外壁用立下り壁と山留壁の芯材をスタッドコネクタで一体化することで、外壁用立下り壁で山留壁の変形を防止しつつ地盤の掘削を行う構成が記載されている。
また、特許文献2には、山留壁として鉄骨を芯材とするソイルミキシングウォールを採用し、山留壁の上部前面側に鉄筋コンクリート壁を一体に設けて本設の合成壁とし、山留壁の下端部に他の部分よりも富調合のソイルセメントによる根固め部を形成する構成が記載されている。山留壁と鉄筋コンクリート壁とは、芯材に植設した多数のスタッド等のシヤキーにより構造的に一体化して合成壁とされている。
また、特許文献3には、複数のソイルセメント柱とそれぞれのソイルセメント柱の内部に立設された芯材からなるソイルセメント柱列壁と、芯材にスタッド等のシェアーコネクタによって接合された後打ちコンクリート壁と、を備える構成が記載されている。
【0004】
このように、特許文献1~3においては、地下外壁と山留壁とを、スタッドコネクタ等により一体化させることで、合成壁の剛性、強度を高め、外方からの土圧、水圧に抵抗し、山留壁の変形を抑制することができる。
しかし、特許文献1~3に記載された構造においては、地下外壁は上下方向の全体にわたって、山留壁と一体化されている。このため、地下の上層階においても、地下外壁の荷重は山留壁に伝達する。すると、地下の上層階において、山留壁が沈下するように作用し、当該構造物に近接するように他の構造物が設けられている場合には、この山留壁の沈下に伴って、近接する構造物へも沈下の影響が及ぶ可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-252290号公報
【特許文献2】特開2005-120781号公報
【特許文献3】特開2004-162350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、剛性、強度を高めて山留壁の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制可能な、合成壁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の合成壁構造は、山留壁に沿わせて地下外壁が設けられる合成壁構造であって、地下中間階と地下最下階との間において、前記地下外壁と前記山留壁が当該山留壁の芯材に設けられたスタッドコネクタで一体化され、前記地下中間階より上方においては、前記芯材には前記スタッドコネクタは設けられておらず、前記地下外壁と前記山留壁は一体化されていないことを特徴とする。
このような構成によれば、地下中間階より上方では、芯材にはスタッドコネクタは設けられておらず、地下外壁と山留壁は一体化されていない。つまり地下中間階よりも上方において、地下外壁と山留壁とは非接合状態であり、地下外壁の荷重は山留壁には作用しない状態となっている。このため、例えば地下中間階より上方においても地下外壁と山留壁が一体化されている場合と比べると、少なくとも地下中間階より上方においては、山留壁に作用する軸力が低減され、結果として、山留壁の沈下と、これに伴う近接する構造物の沈下と、を抑制することができる。
また、上記のような構成においては、地下中間階と地下最下階との間において、地下外壁と山留壁とが、当該山留壁の芯材に設けられたスタッドコネクタで一体化されているため、合成壁の剛性、強度を高めることができる。これにより、土圧、水圧が高くなる地下の下側において、山留壁の変形を抑制することができる。
このようにして、剛性、強度を高めて山留壁の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制可能な、合成壁構造を提供することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記地下外壁の内部には、複数の壁横筋を囲うようにせん断補強筋が閉鎖型状に配筋された外周内部梁が形成されている。
このような構成によれば、山留壁と一体化された地下外壁の内部に、外周内部梁が設けられることで、地下外壁の外側に梁部を設けることなく、外周内部梁によって、地下階の床梁を支持することができる。したがって、地下階の内部スペースを狭めるのを抑えることができる。
【0009】
また、本発明の別の態様においては、前記地下外壁は、基礎杭に埋設される構真柱の表面に設けるスタッドコネクタ、及び耐圧版を介して前記基礎杭と連結されている。
このような構成によれば、地下外壁が、基礎杭に埋設される構真柱の表面に設けるスタッドコネクタ、及び耐圧版を介して、基礎杭と連結されることにより、合成壁が耐圧版を介して基礎杭と一体化されている。よって、合成壁に作用する外荷重が、構真柱の表面に設けられるスタッドコネクタ、及び耐圧版を介して基礎杭へ伝達される。その結果、合成壁構造を構成する山留壁の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剛性、強度を高めて山留壁の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制可能な、合成壁構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る合成壁構造の構成を示す断面図である。
図2】地盤中に山留壁を構築した状態を示す断面図である。
図3】山留壁の一例を示す横断面図である。
図4】山留壁の他の一例を示す横断面図である。
図5】山留壁の内側の地盤を掘削し、地下階を逆打ち工法で構築する途中の状態を示す断面図である。
図6】山留壁のコンクリート部の一部を斫り、芯材にスタッドコネクタを接合した状態を示す横断面図である。
図7】地下階の下層階を構築している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、山留壁に沿わせて地下階を形成する地下外壁が設けられる合成壁構造において、地下外壁の上部側では山留壁とは接合されていなく、地下中間階と地下最下階との間において、山留壁の芯材に設けるスタッドコネクタを介して、山留壁と地下外壁が一体化されている。
具体的には、合成壁構造を構成する地下外壁は、地上1階から地下最下階に向かって、地盤を掘削しながら地下躯体を形成していく逆打ち工事で構築される。よって、合成壁構造では、地下躯体を工事中に地下躯体の重量が山留壁に伝達されることで、地下躯体の沈下に引きずられて山留壁が沈下することのないように、地下外壁の上部側では山留壁と接合させていない。また、地下躯体が着床する地下最下階を含む地下外壁を構築する地下中間階と地下最下階との間においては、山留壁の芯材に設けるスタッドコネクタを介して地下外壁と接合される合成壁構造を実現した。
以下、添付図面を参照して、本発明による合成壁構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の実施形態に係る合成壁構造の構成を示す断面図を図1に示す。
図1に示されるように、建物1は、下部構造部2と、下部構造部2上に設けられた上部構造部3と、を有している。下部構造部2は、地盤G中に構築された複数の基礎杭4によって支持された耐圧版5と、耐圧版5の周囲を囲うように形成された合成壁10と、を主に備えている。下部構造部2の、合成壁10によって囲われた内側には、地下空間Sが形成され、この地下空間Sは、複数の床スラブ8によって、複数の地下階Gfに区画されている。本実施形態において、上部構造部3の地上1階F1の床の下方に、複数の地下階Gfとして、例えば、地下1階Gf1~地下5階Gf5、及び地下最下階GfMを有している。
複数の基礎杭4は、水平方向に所定の間隔をあけて配置されている。各基礎杭4は、地盤G中で上下方向に延びるように設けられている。耐圧版5は、複数の基礎杭4の杭頭部に接合されている。各基礎杭4には、例えば鉄骨製の構真柱7の下端部が埋設されている。各構真柱7は、耐圧版5を貫通して上方に延びている。構真柱7の下端部の表面には、スタッドコネクタ51が接合されている。スタッドコネクタ51は、構真柱7の下端部の、基礎杭4が設けられる位置から、耐圧版5が設けられる位置まで、高さ方向に間隔をおいて複数が設けられている。これにより、構真柱7の下端部は、スタッドコネクタ51とともに、基礎杭4と耐圧版5に埋設されている。なお、スタッドコネクタ51は、図面を簡単にするために、図1以外の他の図面においては省略されている。
構真柱7には、床スラブ8を下方から支持する梁9が接合されている。このようにして、耐圧版5や床スラブ8の荷重は、構真柱7に伝達されている。
【0013】
合成壁10は、山留壁11と、地下外壁12と、を有している。
山留壁11は、下部構造部2を形成するために地盤Gに掘削された凹部100の内周面に沿って構築されている。山留壁11は、周囲の、より詳細には凹部100の外側の地盤Gから作用する土圧や水圧に抗する。山留壁11は、本実施形態においては、後に図3図4を用いて説明するような、等厚式ソイルセメント地中連続壁や、ソイルセメント柱列壁の、ソイルミキシングウォールである。山留壁11は、水平方向(図1における紙面に直交する方向)に間隔をあけて配置された複数本の芯材13と、芯材13を覆うように設けられたコンクリート部14と、を備えている。
本実施形態においては、芯材13は、対向する一対のフランジと、一対のフランジを連結するウェブと、を備えたH形鋼である。後に図3図4を用いて説明するように、芯材13は、一方のフランジの、ウェブとは反対側の表面13fが、地下空間Sを向くように設けられている。
少なくとも地下1階Gf1~地下5階Gf5、及び地下最下階GfMが形成される位置においては、芯材13の、地下空間S側の表面13fは、山留壁11を構成するコンクリート部14からは露出し、次に説明する地下外壁12に接している。
地下外壁12は、山留壁11の内側に形成されている。地下外壁12は、山留壁11において、周囲の地盤Gに面する側とは反対側の、芯材13の表面13fが露出するように形成された、地下空間S側の内壁面に沿って設けられている。地下外壁12は、山留壁11の内壁面の全体を、内側から覆うように設けられている。地下外壁12は、例えば鉄筋コンクリート造である。
【0014】
複数の地下階Gfを形成する地下外壁12のうち、地下中間階(本実施形態では、例えば地下5階Gf5)と、地下最下階GfMとの間に設けられた地下外壁12Aにおいては、芯材13の地下空間S側の表面13fに、スタッドコネクタ50が接合されている。
より詳細には、スタッドコネクタ50は、地下外壁12の、地下中間階(本実施形態では、例えば地下5階Gf5)を形成する部分と、地下中間階よりも下方に位置する地下階GfM(本実施形態では、例えば地下最下階GfM)までを形成する部分、すなわち図1において符号12Aが付された、後に説明するようにより上方の地下外壁12Bよりも厚く描かれた地下外壁12の部分に、設けられている。
ここで、本実施形態においては、地下中間階は、地下最上階である地下1階Gf1と地下最下階GfMとの間に位置する、少なくとも地下最上階Gf1と地下最下階GfMを除く地下階GfMである。
【0015】
スタッドコネクタ50は、鋼製で、例えば棒状の基部と、基部よりも大きな径を有し、基部の一端に設けられた頭部と、を備えている。スタッドコネクタ50の形状はこれに限られず、他の形状を有するものであってよい。スタッドコネクタ50は、地下空間Sに向けて芯材13の、地下空間S側の表面13fから突出するように、基部の、頭部とは反対側の端部が、山留壁11の各芯材13の表面13fに、溶接により接合されている。スタッドコネクタ50は、例えば地下中間階と地下最下階GfMとの間において、各芯材13に、上下方向に間隔をあけて複数設けられている。
既に説明したように、芯材13の地下空間S側の表面13fは、山留壁11を構成するコンクリート部14からは露出し、地下外壁12に接している。このため、芯材13に、表面13fから地下空間S側に突出するように設けられたスタッドコネクタ50は、芯材13の表面13fに接するように設けられた地下外壁12に、埋設されている。
また、図1を用いて既に説明したように、基礎杭4に埋設される構真柱7の下部側の表面には、スタッドコネクタ51が接合されている。
このようにして、地下中間階と地下最下階GfMとの間に設けられた地下外壁12Aは、山留壁11に対し、山留壁11の芯材に設けるスタッドコネクタ50によって一体化されて、合成壁10が形成される。また、合成壁10と基礎杭4は、構真柱7の下端部がスタッドコネクタ51とともに、基礎杭4と耐圧版5に埋設され、なおかつ基礎杭4及び耐圧版5に埋設される構真柱7の表面にスタッドコネクタ51が設けられることにより、構真柱7と耐圧版5を介して、一体化されている。よって、合成壁10に作用する外荷重が耐圧版5、及び構真柱7を介して基礎杭4に伝達される。その結果、合成壁構造では、山留壁11の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制することができる。
【0016】
地下中間階(本実施形態では、例えば地下5階Gf5)より上方、すなわち地下中間階の一つ上の階層以上の地下階Gfにおいて、芯材13にはスタッドコネクタ50は設けられていない。したがって、地下中間階より上方に設けられた地下外壁12Bは、山留壁11とは非接合状態であり、山留壁11とは一体化されていない。
地下中間階(地下5階Gf5)と地下最下階GfMとの間に設けられ、芯材13にスタッドコネクタ50を介して一体化された地下外壁12Aの厚さT1は、地下中間階(地下5階Gf5)より上方に設けられた地下外壁12Bの厚さT2よりも大きい。
【0017】
また、地下中間階(地下5階Gf5)と地下最下階GfMとの間に設けられる、下側に位置する地下外壁12Aの内部には、下側外周内部梁(外周内部梁)20が形成されている。下側外周内部梁20には、地下中間階(地下5階Gf5)と地下最下階GfMとの間に設けられる地下5階Gf5、地下最下階GfMの梁9が接合されている。下側外周内部梁20は、地下外壁12Aと一体化している。下側外周内部梁20は、地下外壁12Aの一部として形成されている。下側外周内部梁20は、山留壁11の内壁面に沿って、水平方向に延びている。下側外周内部梁20は、鉄筋コンクリート造で、下側外周内部梁20の延伸方向に延びる複数の壁横筋25と、複数の壁横筋25を囲うように設けられたせん断補強筋26とが閉鎖型状に配筋されている。
更に、地下中間階(地下5階Gf5)より上方に設けられる、上側に位置する地下外壁12Bの内部には、上側外周内部梁21が形成されている。上側外周内部梁21には、地下中間階よりも上に位置する、地下1階Gf1、地下2階Gf2、地下3階Gf3、地下4階Gf4の梁9が接合されている。上側外周内部梁21は、地下外壁12Bと一体化している。上側外周内部梁21は、地下外壁12Bの一部として形成されている。上側外周内部梁21は、山留壁11の内壁面に沿って、水平方向に延びている。上側外周内部梁21は、鉄筋コンクリート造で、上側外周内部梁21の延伸方向に延びる複数の壁横筋25と、複数の壁横筋25を囲うように設けられたせん断補強筋26とが閉鎖型状に配筋されている。
【0018】
次に、上記したような合成壁10の構築方法について説明する。
図2は、地盤中に山留壁を構築した状態を示す断面図である。図3は、山留壁の一例を示す横断面図である。図4は、山留壁の他の一例を示す横断面図である。
図2に示されるように、まず、地盤G中に山留壁11を構築する。山留壁11は、上方から見た際に、構築すべき下部構造部2の外周部に沿って連続するように形成する。
ここで、構築する山留壁11としては、例えば、図3に示されるように、等厚式ソイルセメント地中連続壁11Rを用いることができる。等厚式ソイルセメント地中連続壁11Rは、上方から見た際に、水平方向に間隔をあけて設置された、H形鋼等からなる複数の芯材13と、芯材13の周囲に設けられたソイルセメントからなるコンクリート部14と、を有している。等厚式ソイルセメント地中連続壁11Rにおいては、上方から見た際に等厚式ソイルセメント地中連続壁11Rが延びる水平方向に、一定の壁厚を有している。
また、山留壁11としては、例えば、図4に示されるような、ソイルセメント柱列壁11Sを用いることができる。ソイルセメント柱列壁11Sは、平面視したときに円形に形成された複数本のソイルセメント柱15が、水平方向に、平面視したときに互いに重なり合うように、並べて設けられることで、構成されている。ソイルセメント柱列壁11Sは、各ソイルセメント柱15に設けられ、上下方向に延びるH形鋼等からなる複数の芯材13と、その周囲に設けられたソイルセメントからなるコンクリート部14と、を備えている。
これらいずれの形態においても、芯材13は、一方のフランジの、ウェブとは反対側の表面13fが、地下空間Sを向くように設けられる。
また、図2に示されるように、山留壁11の内側には、基礎杭4、及び構真柱7を構築する。
【0019】
図5は、山留壁の内側の地盤を掘削し、地下階を逆打ち工法で構築する途中の状態を示す断面図である。
その後、図5に示すように、山留壁11の内側の地盤Gを掘削し、地上1階F1の下側に、複数の地下階Gfを、上階から下階に向かって、逆打ち工法で順次構築する。これには、地盤Gを、例えば1階層分掘削する毎に、山留壁11の内側に、上側外周内部梁21または下側外周内部梁20、梁9、床スラブ8を構築する。このような作業を、地下1階Gf1、地下2階Gf2、…と、最下階となる地下最下階GfMまで、順次繰り返しながら行っていく。
【0020】
地下中間階(本実施形態では、例えば地下5階Gf5)よりも上方(すなわち地下4階Gf4以上)においては、各階の梁9、及び床スラブ8を形成するとともに、その外周部に、後に地下外壁12Bの一部となる、上側外周内部梁21を形成する。上側外周内部梁21を形成するには、山留壁11のコンクリート部14を、芯材13の表面13fに対して山留壁11の内側、すなわち図3図4中に二点鎖線Lで示される位置から地下空間S側の部分を斫ることで除去し、芯材13の表面13fを露出させる。コンクリート部14は、高さ方向において、上側外周内部梁21が形成される部分のみならず、上側外周内部梁21が形成されない、上側外周内部梁21とその下方に位置する床スラブ8との間の部分においても斫られる。
後に説明するように、地下中間階と地下最下階GfMとの間に関しては、芯材13の表面13fにスタッドコネクタ50を接合するが、地下中間階よりも上方に関しては、芯材13の表面13fには、スタッドコネクタ50は接合しない。
その後、露出した芯材13の表面13fの内側に、壁横筋25とせん断補強筋26を配筋し、周囲にコンクリートを打設して、上側外周内部梁21を形成する。地下中間階よりも上方に関しては、芯材13の表面13fには、スタッドコネクタ50は接合されない。このため、上側外周内部梁21は、山留壁11及びこれを構成する芯材13とは、表面13fに接触してはいるが、一体化されておらず、分離した構成となる。
このようにして構築された、各階の梁9、上側外周内部梁21、及び床スラブ8の荷重は、構真柱7によって支持されている。
【0021】
図5に示すように、上側外周内部梁21の高さh21は、梁9の梁せいh9よりも、大きく形成するのが好ましい。上側外周内部梁21は、山留壁11を介して外部の地盤Gから作用する土圧Pに対する反力Fを、山留壁11に作用させる。このとき、上側外周内部梁21の高さh21を、梁9の梁せいh9よりも大きくすることで、互いに上下に位置する二つの上側外周内部梁21の間隔Dが小さくなり、山留壁11に作用する反力Fの支点間距離Dを小さくすることができる。これにより、施工途中における、山留壁11の変形を有効に抑えることができる。
上側外周内部梁21の高さh21は、下階となるほど土圧が大きくなることに対応して、漸次大きくするのが好ましい。
【0022】
図6は、山留壁のコンクリート部の一部を斫り、芯材にスタッドコネクタを接合した状態を示す横断面図である。図7は、地下階の下層階を構築している状態を示す断面図である。
地下中間階(本実施形態では、例えば地下5階Gf5)と地下最下階GfMとの間においても、地下中間階よりも上方と同様に、各階の梁9、及び床スラブ8を形成するとともに、その外周部に、後に地下外壁12Aの一部となる、下側外周内部梁(外周内部梁)20を形成する。下側外周内部梁20を形成するには、上側外周内部梁21を形成する場合と同様に、山留壁11のコンクリート部14を、芯材13の表面13fに対して山留壁11の内側、すなわち図3図4中に二点鎖線Lで示される位置から地下空間S側の部分を斫ることで除去し、芯材13の表面13fを露出させる。そして、図6に示すように、露出した芯材13の表面13fに、スタッドコネクタ50を溶接等によって接合する。コンクリート部14は、高さ方向において、下側外周内部梁20が形成される部分のみならず、下側外周内部梁20が形成されない、下側外周内部梁20とその下方に位置する床スラブ8や耐圧版5との間の部分においても斫られる。また、スタッドコネクタ50も、高さ方向において、下側外周内部梁20が形成される部分のみならず、下側外周内部梁20が形成されない、下側外周内部梁20とその下方に位置する床スラブ8や耐圧版5との間の部分においても接合される。
その後、露出した芯材13の表面13fの内側に、壁横筋25とせん断補強筋26を配筋し、周囲にコンクリートを打設して、下側外周内部梁20を形成する。この、下側外周内部梁20を形成するに際して打設されるコンクリートに、芯材13の表面13fに接合されて、表面13fから地下空間S側に突出するように設けられたスタッドコネクタ50が埋設される。これにより、下側外周内部梁20は、山留壁11及びこれを構成する芯材13と、スタッドコネクタ50を介して一体化された構成となる。
このようにして構築された、各階の梁9、下側外周内部梁20、及び床スラブ8の荷重は、構真柱7によって支持されている。
【0023】
地下中間階と地下最下階GfMとの間においても、地下中間階よりも上方と同様に、下側外周内部梁20の高さは、梁9の梁せいよりも、大きく形成するのが好ましい。また、下側外周内部梁20の高さは、下階となるほど土圧が大きくなることに対応して、漸次大きくするのが好ましい。
【0024】
また、施工中、上階と下階の下側外周内部梁20どうしの間に隙間が形成され、地下外壁12が上下に連続していない状態では、周囲の地盤Gからの土圧によって山留壁11が変形する可能性がある。これを抑えるため、図7に示されるように、仮設の斜梁部材200を、下側外周内部梁20と各階の梁9の間に設置してもよい。この場合、斜梁部材200としては、伸長方向に力を発揮する油圧ジャッキ等が用いられ得る。斜梁部材200を設けるに際しては、斜梁部材200に予め圧縮力を導入し、その反発力により、下側外周内部梁20を外方へと押し広げるような力を作用させることで、土圧や水圧に効率的に対応することが可能である。
ここで、周囲の地盤Gからの土圧が大きい、地下最下階GfMに近い部分では、外周内部梁20の高さを、上階の外周内部梁20の高さよりも大きくし、例えば2本の斜梁部材200を上下に並設するようにしてもよい。
【0025】
その後、図1に示すように、地盤Gを所定の深さまで掘削した後、その底部に、耐圧版5を構築する。そして、互いに上下に位置する上側外周内部梁21、下側外周内部梁20間にコンクリートを追設することで、上側外周内部梁21、下側外周内部梁20を上下に連続させて、地下外壁12を完成させる。このようにして形成された地下外壁12には、上側外周内部梁21、下側外周内部梁20は、地下外壁12の内部梁として残される。
地下中間階よりも上方においては、芯材13の表面13fには、スタッドコネクタ50は接合されないため、この追設されたコンクリートは、山留壁11及びこれを構成する芯材13とは、一体化されず、分離した構成となる。このようにして、地下中間階よりも上方においては、山留壁11とは一体化されていない構成の地下外壁12Bが実現される。
また、地下中間階と地下最下階GfMとの間においては、芯材13の表面13fに、スタッドコネクタ50が接合されているため、追設されたコンクリートは、スタッドコネクタ50を埋設することで、山留壁11及びこれを構成する芯材13と、一体化される。このようにして、地下中間階と地下最下階GfMとの間においては、山留壁11と一体化された構成の地下外壁12Aが実現される。
上側外周内部梁21、下側外周内部梁20を上下に連続させて、地下外壁12を形成させることで、地下外壁12が全体として十分な強度を有するようになった後に、仮設の斜梁部材200を撤去して、合成壁構造が完成する。
【0026】
上述したような合成壁構造によれば、山留壁11に沿わせて地下外壁12が設けられる合成壁構造であって、地下中間階と地下最下階との間において、地下外壁12Aと山留壁11が山留壁11の芯材13に設けられたスタッドコネクタ50で一体化され、地下中間階より上方においては、芯材13にはスタッドコネクタ50は設けられておらず、地下外壁12Bと山留壁11は一体化されていない。
このような構成によれば、地下中間階より上方では、芯材13にはスタッドコネクタ50は設けられておらず、地下外壁12Bと山留壁11は一体化されていない。つまり地下中間階よりも上方において、地下外壁12Bと山留壁11とは非接合状態であり、地下外壁12の荷重は山留壁11には作用しない状態となっている。このため、例えば地下中間階より上方においても地下外壁12Bと山留壁11が一体化されている場合と比べると、少なくとも地下中間階より上方においては、山留壁11に作用する軸力が低減され、結果として、山留壁11の沈下と、これに伴う近接する構造物の沈下と、を抑制することができる。
また、上記のような構成においては、地下中間階と地下最下階との間において、地下外壁12Aと山留壁11とが、山留壁11の芯材13に設けられたスタッドコネクタ50で一体化されているため、合成壁10の剛性、強度を高めることができる。これにより、土圧、水圧が高くなる地下の下側において、山留壁11が地下躯体側に傾斜しないようにその傾斜変形を抑制することができる。
このようにして、剛性、強度を高めて山留壁11が傾斜する変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制可能な、合成壁構造を提供することができる。
【0027】
本発明では、逆打ち工事において、山留壁11の芯材13にスタッドコネクタ50が設けられていない地下中間階までは山留壁11に対して、施工中に発生する地下躯体の沈下の影響を防止することができる。また、地下階の工事を進めて、地下躯体が着床する地下最下階を含む地下外壁12を構築する地下中間階と地下最下階との間においては、地下最下階の下部に耐圧版5が構築されるために地下躯体の沈下が抑止されるために、スタッドコネクタ50を介して山留壁11と地下外壁12とを接合させ、厚い壁厚さを実現するために合成壁構造とした。
【0028】
また、地下中間階と地下最下階との間に設けられる地下外壁12Aは、地下中間階より上方における地下外壁12の厚さよりも、厚くなるように形成されている。
このような構成によれば、地下中間階と地下最下階との間に設けられる地下外壁12Aの厚さが、地下中間階より上方における地下外壁12Bの厚さよりも大きい。このように、土圧、水圧が高くなる地下中間階より下方においては、地下外壁12Aの厚さを大きくすることで、山留壁11の変形を有効に抑えることができる。
また、地下中間階よりも上方においては、地下中間階より下方に比較すると、周囲からの土圧、水圧が小さいので、地下外壁12Bの厚さを小さくすることができる。このように、地下中間階よりも上方においては、地下外壁12Bの厚さを小さくすることで、地下階の内部スペースを広く確保し、平面計画の自由度を高めることができる。
【0029】
また、地下中間階と地下最下階との間に設けられる地下外壁12Aの内部には、複数の壁横筋25を囲うようにせん断補強筋26が閉鎖型状に配筋された外周内部梁(下側外周内部梁)20が形成されている。
このような構成によれば、山留壁11と一体化された地下外壁12Aの内部に、外周内部梁(下側外周内部梁)20が設けられることで、地下外壁12Aの外側に梁部を設けることなく、外周内部梁20によって、地下階の床梁を支持することができる。したがって、地下階の内部スペースを狭めるのを抑えることができる。
【0030】
また、地下外壁12は、基礎杭4に埋設される構真柱7の表面に設けるスタッドコネクタ51、及び耐圧版5を介して基礎杭4と連結されている。
このような構成によれば、地下外壁12が、基礎杭4に埋設される構真柱7の表面に設けるスタッドコネクタ51、及び耐圧版5を介して、基礎杭4と連結されることにより、合成壁10が耐圧版5を介して基礎杭4と一体化されている。よって、合成壁10に作用する外荷重が、構真柱7の表面に設けられるスタッドコネクタ51、及び耐圧版5を介して基礎杭4へ伝達される。その結果、合成壁構造を構成する山留壁11の変形を抑制しつつ、近接する他の構造物の沈下を抑制することができる。
【0031】
なお、本発明の合成壁構造は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、建物1は、地下1階Gf1~地下5階Gf5、及び地下最下階GfMを有していたが、建物の階層数はこれに限られず、より多くても少なくてもよいことは、言うまでもない。また、上記実施形態においては、地下中間階を地下最下階GfMの1つ上の階層として、これら地下の最も下に位置する2つの階層において、地下外壁12と山留壁11が芯材13に設けられたスタッドコネクタ50で一体化された構成を説明したが、これに限られない。地下中間階を地下最下階GfMの、2つ以上、上の階層として、これら地下の最も下に位置する3つ以上の階層において、地下外壁12と山留壁11が芯材13に設けられたスタッドコネクタ50で一体化された構成としてもよいのは、言うまでもない。
また、上記実施形態においては、合成壁構造を構築するに際し、斜梁部材200は、地下中間階と地下最下階GfMとの間の地下外壁12Aを構築する場合にのみ用いていたが、地下中間階よりも上方の地下外壁12Bを構築する場合にも、設置するようにしてもよい。
これ以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
4 基礎杭 13 芯材
5 耐圧版 20 外周内部梁(下側外周内部梁)
7 構真柱 25 壁横筋
10 合成壁 26 せん断補強筋
11 山留壁 50、51 スタッドコネクタ
12 地下外壁
12A 地下中間階と地下最下階との間に設けられた地下外壁
12B 地下中間階より上方に設けられた地下外壁
GfM 地下最下階
T1 地下中間階と地下最下階との間に設けられる地下外壁の厚さ
T2 地下中間階より上方における地下外壁の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7