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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130048
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水質測定装置および水質測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/404 341E
G01N27/416 376
G01N27/416 353Z
G01N27/26 361G
G01N27/404 341K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039539
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】三原 俊哉
(57)【要約】
【課題】測定対象液に含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる技術を提供する。
【解決手段】水質測定装置10は、測定対象液Lに含まれる対象ガスの濃度を測定する。水質測定装置10は、測定対象液L中にガスを供給するガス供給部44を有し、測定対象液Lに含まれる対象ガスとは異なる妨害ガスを除去する妨害ガス除去部40を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象液に含まれる対象ガスの濃度を測定する隔膜式センサを備える水質測定装置であって、
前記測定対象液中にガスを供給するガス供給部を有し、前記測定対象液に含まれる前記対象ガスとは異なる妨害ガスを除去する妨害ガス除去部を備える水質測定装置。
【請求項2】
前記対象ガスは、アンモニアガスであり、
前記妨害ガスは、前記測定対象液が酸性である場合に前記測定対象液から気化するガスであり、
前記妨害ガス除去部は、前記測定対象液に対して酸を加えるpH調整部を有する請求項1に記載の水質測定装置。
【請求項3】
前記ガス供給部は、前記pH調整部によって酸を加えられた後の前記測定対象液中にガスを供給する請求項2に記載の水質測定装置。
【請求項4】
前記測定対象液のpHを測定するpH測定部を備え、
前記ガス供給部による前記測定対象液へのガスの送り込みを開始した後、前記pH測定部によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、前記pH調整部によって前記測定対象液に対して酸を加える請求項2又は請求項3に記載の水質測定装置。
【請求項5】
前記妨害ガスは、二酸化炭素である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水質測定装置。
【請求項6】
前記測定対象液は、嫌気性生物を含み、
前記ガス供給部は、前記測定対象液中に酸素を含むガスを供給する請求項5に記載の水質測定装置。
【請求項7】
隔膜式センサを用いて測定対象液に含まれる対象ガスの濃度を測定する水質測定方法であって、
前記測定対象液中にガスを供給するガス供給部を有する妨害ガス除去部によって前記測定対象液に含まれる前記対象ガスとは異なる妨害ガスを除去し、
前記妨害ガス除去部による前記妨害ガスの除去後、前記隔膜式センサによって前記測定対象液に含まれる前記対象ガスの濃度を測定する水質測定方法。
【請求項8】
前記対象ガスは、アンモニアガスであり、
前記妨害ガスは、前記測定対象液が酸性である場合に前記測定対象液から気化するガスであり、
前記妨害ガス除去部による前記妨害ガスの除去のとき、pH測定部によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、pH調整部によって前記測定対象液に対して酸を加える請求項7に記載の水質測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質測定装置および水質測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象液中の特定の対象ガスの濃度を測定する方法として、例えば、液体クロマトグラフィー、電気伝導率計を用いる方法、隔膜式センサを用いる方法などがある。例えば、特許文献1には、隔膜式センサを用いて試料溶液に含まれる特定物質を検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-107335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隔膜式センサを用いる方法では、隔膜を通過させた対象ガスを電解液でイオン化させ、その際に変化するpHを検知して対象ガスの濃度を測定する。しかし、測定対象液中に含まれる妨害ガスが、対象ガスとともに隔膜を通過して電解液に入り、pHを変化させてしまう。そのため、妨害ガスは、対象ガスが変化させた電解液のpHを相殺あるいは過剰変化させるため、対象ガスを正確に測定することが難しかった。そこで、隔膜式センサによる対象ガスの測定時に妨害ガスを除いた状態で対象ガスの濃度を測定し得る技術が求められている。
【0005】
本開示は、測定対象液に含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕測定対象液に含まれる対象ガスの濃度を測定する隔膜式センサを備える水質測定装置であって、
前記測定対象液中にガスを供給するガス供給部を有し、前記測定対象液に含まれる前記対象ガスとは異なる妨害ガスを除去する妨害ガス除去部を備える水質測定装置。
【0007】
〔1〕の水質測定装置では、妨害ガス除去部のガス供給部から測定対象液中に供給されるガスが、測定対象液中の妨害ガスを伴って測定対象液の外部へと放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液から除去することができる。これにより、隔膜式センサによる対象ガスの濃度の測定時に妨害ガスの影響を抑制できる。したがって、測定対象液に含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる。
【0008】
〔2〕前記対象ガスは、アンモニアガスであり、前記妨害ガスは、前記測定対象液が酸性である場合に前記測定対象液から気化するガスであり、前記妨害ガス除去部は、前記測定対象液に対して酸を加えるpH調整部を有する〔1〕に記載の水質測定装置。
【0009】
〔2〕の水質測定装置では、測定対象液にpH調整部によって酸を加えることで測定対象液が酸性になり、測定対象液から妨害ガスが気化して測定対象液の外部へ放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液から除去することができる。
【0010】
〔3〕前記ガス供給部は、前記pH調整部によって酸を加えられた後の前記測定対象液中にガスを供給する〔2〕に記載の水質測定装置。
【0011】
〔3〕の水質測定装置では、測定対象液にpH調整部によって酸を加えることで測定対象液が酸性になり、測定対象液から妨害ガスが気化して測定対象液の外部へと放出される。その上で、妨害ガスが気化した測定対象液に対してガス供給部によってガスを供給することで、妨害ガスが測定対象液から外部へより一層放出され易くなる。
【0012】
〔4〕前記測定対象液のpHを測定するpH測定部を備え、前記ガス供給部による前記測定対象液へのガスの送り込みを開始した後、前記pH測定部によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、前記pH調整部によって前記測定対象液に対して酸を加える〔2〕又は〔3〕に記載の水質測定装置。
【0013】
〔4〕の水質測定装置では、測定対象液へのガスの送り込みを開始した後、測定対象液のpHを所定の閾値を超えないように調整することができる。そのため、妨害ガスが測定対象液から外部へ放出され易い状態で、測定対象液へのガスの送り込み易くなる。
【0014】
〔5〕前記妨害ガスは、二酸化炭素である〔1〕から〔4〕のいずれか一つに記載の水質測定装置。
【0015】
〔5〕の水質測定装置では、妨害ガス除去部によって測定対象液から二酸化炭素を除去することができ、二酸化炭素による電解液のpHの変化を抑制することができる。
【0016】
〔6〕前記測定対象液は、嫌気性生物を含み、前記ガス供給部は、前記測定対象液中に酸素を含むガスを供給する〔5〕に記載の水質測定装置。
【0017】
〔6〕の水質測定装置では、測定対象液中に酸素を含むガスを供給することで、二酸化炭素を生成する嫌気性生物を不活化することができる。これにより、二酸化炭素による電解液のpHの変化を抑制することができる。したがって、酸素を含むガスの供給により、妨害ガスを測定対象液から除去しつつ、嫌気性生物を不活化することができる。
【0018】
〔7〕隔膜式センサを用いて測定対象液に含まれる対象ガスの濃度を測定する水質測定方法であって、
前記測定対象液中にガスを供給するガス供給部を有する妨害ガス除去部によって前記測定対象液に含まれる前記対象ガスとは異なる妨害ガスを除去し、
前記妨害ガス除去部による前記妨害ガスの除去後、前記隔膜式センサによって前記測定対象液に含まれる前記対象ガスの濃度を測定する水質測定方法。
【0019】
〔7〕の水質測定方法では、妨害ガス除去部のガス供給部から測定対象液中に供給されるガスが、測定対象液中の妨害ガスを伴って測定対象液の外部へと放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液から除去することができる。これにより、隔膜式センサによる対象ガスの濃度の測定時に妨害ガスの影響を抑制できる。したがって、測定対象液に含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる。
【0020】
〔8〕前記対象ガスは、アンモニアガスであり、前記妨害ガスは、前記測定対象液が酸性である場合に前記測定対象液から気化するガスであり、前記妨害ガス除去部による前記妨害ガスの除去のとき、pH測定部によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、pH調整部によって前記測定対象液に対して酸を加える〔7〕に記載の水質測定方法。
【0021】
〔8〕の水質測定方法では、測定対象液へのガスの送り込みを開始した後、測定対象液のpHを所定の閾値を超えないように調整することができる。そのため、妨害ガスが測定対象液から外部へ放出され易い状態で、測定対象液へのガスの送り込み易くなる。
【発明の効果】
【0022】
本開示に係る技術は、測定対象液に含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態の水質測定システムを概略的に示す説明図である。
図2図2は、図1のガス測定部を概略的に示す説明図である。
図3図3は、図2の隔膜式センサを概略的に示す説明図である。
図4図4は、水質測定装置の電気的構成を例示するブロック図である。
図5図5は、水質測定装置の測定制御の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、アンモニウムイオンを含む標準液に対して、二酸化炭素を添加することなく、隔膜式センサによるアンモニウムイオン濃度の測定を行った結果を示す図である。
図7図7は、アンモニウムイオンを含む標準液に対して、二酸化炭素を添加して、隔膜式センサによるアンモニウムイオン濃度の測定を行った結果を示す図である。
図8図8は、隔膜式センサによる測定対象液の測定において、酸の添加及びエアレーションを行う場合と、酸の添加及びエアレーションを行わない場合に関して、時間経過によるアンモニウムイオン濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
1-1.水質測定システムの構成
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1図8を参照して説明する。図1は、第1実施形態の水質測定システム100を説明する説明図である。図1に示す水質測定システム100は、測定対象液Lの水質を測定するシステムである。具体的には、水質測定システム100は、測定対象液Lに含まれる対象ガス(例えばアンモニアガス)の濃度を測定する。水質測定システム100は、例えばバイオガスプラントに用いられる。水質測定システム100は、一時保管タンク102と、配管ライン104と、廃液タンク106と、ガス測定部110と、を備えている。
【0025】
一時保管タンク102は、供給ライン108を介して供給元から供給される測定対象液Lが溜められる水槽である。測定対象液Lは、例えば、家畜糞尿や食品残渣などの有機性廃棄物をメタン発酵することで生じる消化液である。配管ライン104は、一時保管タンク102から廃液タンク106へと測定対象液Lが搬送される経路である。ガス測定部110は、配管ライン104に設けられている。
【0026】
図2に示すガス測定部110は、貯留槽112と、pH測定部32と、隔膜式センサ34と、妨害ガス除去部40と、を有している。
【0027】
貯留槽112は、配管ライン104に設けられ、一時保管タンク102から供給される測定対象液Lを貯留する。貯留槽112は、第1貯留部112Aと、第2貯留部112Bと、を具備している。第1貯留部112A及び第2貯留部112Bは、測定対象液Lを貯留する。第1貯留部112Aと第2貯留部112Bは、配管ライン112Cによってつながっている。例えば、第1貯留部112Aは、第2貯留部112Bよりも上流側に配され、配管ライン112Cを介して第1貯留部112Aから第2貯留部112Bに測定対象液Lが搬送される。
【0028】
pH測定部32は、第1貯留部112A内の測定対象液LのpHを検出する公知のpHセンサである。pH測定部32は、検出したpHの値を示す検出値を出力する。pH測定部32の検出値は、後述する制御部12に出力される。
【0029】
隔膜式センサ34は、公知の隔膜式イオンセンサとして構成されている。隔膜式センサ34は、第2貯留部112B内の測定対象液Lに浸されている。隔膜式センサ34は、図3に示すように、pH電極34Aと、参照電極34Bと、収容部34Cと、隔膜34Dと、電解液34Eと、電位差計34Fと、を有している。隔膜式センサ34は、測定対象液L中の対象ガスを含むガス(後述する妨害ガスも含み得るガス)を隔膜34Dを通過させて電解液34Eに溶け込ませ、ガスのイオン化に応じて変化する電解液34EのpHに基づく検出値を出力する。アンモニアガス(NH)は、本開示の「対象ガス」の一例に相当する。
【0030】
pH電極34Aおよび参照電極34Bは、電解液34Eに浸されている。収容部34Cには、電解液34Eが収容されている。収容部34Cの下端には、隔膜34Dが設けられている。電位差計34Fは、pH電極34Aおよび参照電極34Bに電気的に接続されている。pH電極34Aは、電解液34EのpHに応じた電極電位(起電力)を発生させる。電位差計34Fは、pH電極34Aの電極電位と参照電極34Bの電極電位との差を測定し、測定結果(電解液34EのpHに基づく検出値)として後述する制御部12に出力する。このように、隔膜式センサ34は、測定対象液L中の対象ガスを含むガスを隔膜34Dを通過させて電解液34Eに溶け込ませ、ガスのイオン化に応じて変化する電解液34EのpHに基づく検出値を出力する。
【0031】
測定対象液Lに含まれるアンモニアガスは、隔膜34Dを通過して電解液34Eに溶け込み、イオン化する際に水酸化物イオンを生じさせる。この水酸化物イオンが電解液34EのpHを変化させる。測定対象液Lに二酸化炭素が含まれる場合には、隔膜34Dを通過して電解液34Eに溶け込み、イオン化する際に水素イオンを生じさせる。この水素イオンが電解液34EのpHを変化させる。
【0032】
妨害ガス除去部40は、測定対象液Lに含まれる妨害ガスを除去する。妨害ガスは、対象ガスとは異なるガスである。二酸化炭素は、本開示の「妨害ガス」の一例に相当する。妨害ガス除去部40は、pH調整部42と、ガス供給部44と、を具備している。
【0033】
pH調整部42は、第1貯留部112A内の測定対象液Lに酸またはアルカリを添加して、測定対象液LのpHを調整する。酸として、例えば、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)などが挙げられる。アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)などが挙げられる。例えば、測定対象液LにpH調整部42によって酸を加えることで測定対象液Lが酸性になり、測定対象液Lから妨害ガスが気化して測定対象液Lの外部へ放出される。例えば、測定対象液L中の妨害ガスである二酸化炭素に起因する炭酸イオン(CO 2-)や炭酸水素イオン(HCO )を二酸化炭素として外部へ放出できる。
【0034】
ガス供給部44は、第1貯留部112A内の測定対象液L中にガスを供給する。ガスとして、例えば酸素(O)、窒素(N)などが挙げられる。ガス供給部44から測定対象液L中に供給されるガスが、測定対象液L中の妨害ガスを伴って(巻き込んで)測定対象液Lの外部へと放出されることで、妨害ガスを測定対象液Lから除去することができる。ガス供給部44は、例えばエアレーションポンプとして構成され、圧縮空気を供給する。エアレーションポンプとしては、ダイヤフラム式ポンプ、電磁式ポンプ、モータ式ポンプなど公知のポンプを用いることができる。なお、ガス供給部44は、ガスボンベとして構成されていてもよい。ガス供給部44は、例えば第1貯留部112A内の測定対象液Lに浸されてガスを放出するホース44Aを備えている。ホース44Aの先端は、ガスの排出口として構成されている。ホース44Aの排出口は、測定対象液Lに浸されている。
【0035】
第1貯留部112A内において妨害ガス除去部40によって妨害ガスが除去された測定対象液Lが、配管ライン112Cを介して第1貯留部112Aから第2貯留部112Bに搬送される。そして、隔膜式センサ34によって、第2貯留部112Bに貯留される測定対象液L(妨害ガスが除去された測定対象液L)に含まれる対象ガスの濃度が測定される。
【0036】
水質測定システム100は、図4に示す水質測定装置10を備えている。水質測定装置10は、測定対象液Lに含まれる対象ガスの濃度を測定する。水質測定装置10は、制御部12と、通信部14と、操作部16と、記憶部18と、表示部22と、pH測定部32と、隔膜式センサ34と、妨害ガス除去部40と、を有している。
【0037】
制御部12は、例えば、PLC(シーケンサ)やSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)を主体として構成され、CPU等を有する。制御部12は、各種制御を行う機能を有し、各種信号を取得する機能や各種情報処理を行う機能を有する。制御部12は、pH測定部32による検出値、隔膜式センサ34による検出値が入力される。制御部12は、pH調整部42およびガス供給部44の動作を制御する。制御部12は、通信部14と、操作部16と、記憶部18と、表示部22と、通信可能である。制御部12は、操作部16からの信号が入力される。制御部12は、表示部22に表示動作を行わせる。通信部14は、無線通信などのインタフェースとして構成されている。操作部16は、ユーザの操作によって情報を入力し得る構成である。操作部16は、キーボード、タッチパネル等の入力インタフェースである。記憶部18には、制御部12を制御させるためのプログラム(後述する制御(図5参照)を実行し得るプログラム)が記憶されている。表示部22は、液晶ディスプレイ等の画像表示装置として構成されている。
【0038】
測定対象液Lは、嫌気性生物を含むことが好ましい。嫌気性生物は、嫌気条件(酸素濃度が低い状態)で有機物を消費して二酸化炭素を生成する。嫌気性生物は、酸素が供給されることで、不活化する。嫌気性生物は、例えばメタン菌である。測定対象液Lに嫌気性生物が含まれる場合に、ガス供給部44が測定対象液L中に酸素を含むガスを供給することが好ましい。これにより、二酸化炭素を生成する嫌気性生物を不活化することができ、二酸化炭素による電解液34EのpHの変化を抑制することができる。したがって、酸素を含むガスの供給により、妨害ガスを測定対象液Lから除去しつつ、嫌気性生物を不活化することができる。
【0039】
1-2.水質測定制御
水質測定装置10の測定制御について、図5で示すフローチャートを参照しつつ説明する。図5で示すフローチャートは、水質測定装置10の制御部12で実行される水質測定制御(アンモニアガスの濃度の測定制御)の流れを示すフローチャートである。
【0040】
制御部12は、まず、pH測定部32によって測定される測定対象液LのpHが所定の閾値を超えているか否か判断する(ステップS11)。所定の閾値は、測定対象液LのpHがその閾値以下となる場合に、妨害ガスが測定対象液Lから気化するように設定される。所定の閾値は、7以下の数値が好ましく、4以下の数値がより好ましく、3以下の数値(特に3)がさらに好ましい。
【0041】
制御部12は、ステップS11で、pH測定部32によって測定される測定対象液LのpHが所定の閾値を超えていると判断する場合、Yesに進み、pH調整部42によって測定対象液Lに酸を添加する(ステップS12)。pH調整部42は、妨害ガスが測定対象液Lから気化するようなpHとなるように酸を添加する。例えば、pH調整部42は、ステップS11でNoと判断されるようなpHとなるように、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)などの酸(好ましくは硫酸(HSO))を測定対象液Lに添加する。これらの酸は、妨害ガスの発生の原因にならず、対象ガスの濃度の測定に影響を及ぼさないことが好ましい。このように、測定対象液Lに酸を加えることで測定対象液Lが酸性になり、測定対象液Lから妨害ガス(二酸化炭素等)が気化して測定対象液Lの外部へ放出される。そのため、妨害ガス(二酸化炭素等)を測定対象液Lから除去することができる。制御部12は、ステップS12の後、ステップS13を行う。
【0042】
一方で、制御部12は、ステップS11で、pH測定部32によって測定される測定対象液LのpHが所定の閾値以下である(閾値を超えていない)と判断する場合、Noに進み、ステップS13を行う。
【0043】
制御部12は、ステップS13で、ガス供給部44によって測定対象液L中へのガスの供給(エアレーション)を開始する。このように、ガス供給部44から測定対象液L中に供給されるガスが、測定対象液L中の妨害ガスを伴って(巻き込んで)測定対象液Lの外部へと放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液Lから除去することができる。そして、ガス供給部44は、pH調整部42によって酸を加えられた後の測定対象液L中にガスを供給するため、妨害ガスが測定対象液Lから外部へより一層放出され易くなる。続いて、制御部12は、ステップS14で、エアレーションを所定の設定時間行ったか否か判断する。所定の設定時間は、予め設定された時間であり、例えば20分などである。
【0044】
制御部12は、ステップS14で、所定のエアレーション時間が経過したと判断する場合、Yesに進み、ガス供給部44による測定対象液L中へのガスの供給(エアレーション)を停止する(ステップS15)。
【0045】
制御部12は、ステップS14で、所定のエアレーション時間が経過していないと判断する場合、Noに進み、pH測定部32によって測定される測定対象液LのpHが所定の閾値を超えているか否か判断する(ステップS16)。所定の閾値は、ステップS11と同様に、測定対象液LのpHがその閾値未満となる場合に、妨害ガスが測定対象液Lから気化するように設定される。所定の閾値は、酸性を示す値(7未満)が好ましく、3以上4以下がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0046】
制御部12は、ステップS16で、pH測定部32によって測定される測定対象液LのpHが所定の閾値を超えていると判断する場合、Yesに進み、pH調整部42によって測定対象液Lに酸を添加する(ステップS17)。pH調整部42は、妨害ガスが測定対象液Lから気化するようなpHとなるように酸を添加する。例えば、pH調整部42は、ステップS16でNoと判断されるようなpHとなるように、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)などの酸(好ましくは硫酸(HSO))を測定対象液Lに添加する。
【0047】
このように、ガス供給部44による測定対象液Lへのガスの送り込みを開始した後、pH測定部32によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、pH調整部42によって測定対象液Lに対して酸を加える。これにより、測定対象液Lへのガスの送り込みを開始した後、二酸化炭素の気化などの影響により測定対象液LのpHが大きくなった場合でも、測定対象液LのpHを所定の閾値を超えないように調整することができる。制御部12は、ステップS17の後、再びステップS14を行う。
【0048】
制御部12は、ステップS15でエアレーションを停止した後、続くステップS18で、pH調整部42によって測定対象液LのpHを調整する。pH調整部42は、イオン化している対象ガスをガス化するために、測定対象液LのpHを調整する。例えば、対象ガスがアンモニアガスの場合、アンモニウムイオン(NH )をアンモニアガス(NH)にして気化させるために、測定対象液Lにアルカリを添加する。測定対象液Lに添加するアルカリの水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いる。
【0049】
制御部12は、続くステップS19で、隔膜式センサ34を用いて測定対象液Lを測定する。隔膜式センサ34は、測定対象液L中の対象ガスを含むガス(妨害ガスも含み得るガス)を隔膜34Dを通過させて電解液34Eに溶け込ませ、ガスのイオン化に応じて変化する電解液34EのpHに基づく検出値を出力する。例えば、隔膜式センサ34は、対象ガスであるアンモニアガスに加え、妨害ガスである二酸化炭素のイオン化に応じて変化する電解液34EのpHに基づく検出値が出力され得る。そこで、妨害ガス除去部40(pH調整部42による酸の添加、およびガス供給部44によるエアレーション)によって、測定対象液Lに含まれる妨害ガスを除去できる。そのため、隔膜式センサ34の隔膜34Dを通過する妨害ガスを低減でき、電解液34EのpHに基づく検出値における妨害ガスの影響を抑制できる。したがって、測定対象液Lに含まれる対象ガスの濃度の測定精度を向上できる。制御部12は、ステップS19の後、図5の測定制御を終了する。
【0050】
1-3.水質測定制御に関する測定結果
図6図7は、アンモニウムガスを含む標準液に対して、隔膜式センサ34によるアンモニウムイオン濃度の測定を行った結果を示す図である。なお、図6図7において、それぞれのアンモニウムイオン濃度に関する縦軸の目盛りは一致している。標準液は、アンモニウムイオンが1500mg/L含まれる水溶液である。図6における0秒~140秒程度では、標準液に何も添加されていない状態であり、基準状態の把握のための測定が行われている。140秒程度~360秒では、アルカリ液(NaOH)が滴下され、アンモニウムイオン(NH )濃度が測定されている。図7における0秒~140秒程度では、標準液に何も添加されていない状態であり、基準状態の把握のための測定が行われている。140秒程度~310秒程度では、二酸化炭素ガスが添加されている。二酸化炭素ガスが液体に溶け込み、pHが酸性に振れている。310秒程度~610秒程度では、アルカリ液(NaOH)が滴下され、アンモニウムイオン(NH )が測定されている。アンモニウムイオン濃度の値は、センサからの出力値に応じた値となるように変換した値で示している。
【0051】
図6は、二酸化炭素の添加を行わない場合の標準液に対して測定を行った結果を示している。図6に示すように、アンモニウムイオン濃度の値が時間経過によって飽和した状態での平均値は、1638mg/Lである。図7は、二酸化炭素の添加を行った場合の標準液に対して測定を行った結果を示している。図7に示すように、アンモニウムイオン濃度の値が時間経過によって飽和した状態での平均値は、924mg/Lである。これらの結果から、二酸化炭素を添加した場合、標準液のpHを変化させ、アンモニアガスがイオン化する際に変化させたpHを相殺させることが分かる。これにより、測定対象液Lに妨害ガス(測定対象液LのpHを変化させガス)が含まれていることで、隔膜式センサ34によって対象ガス(アンモニアガス等)の濃度を正確に測定できない懸念が生じる。
【0052】
図8は、測定対象液Lに対する隔膜式センサ34による測定において、酸の添加及びエアレーションを行う場合と、酸の添加及びエアレーションを行わない場合に関して、時間経過によるアンモニウムイオン濃度の変化を示す図である。測定対象液Lは、消化液(バイオガスプラントの発酵液)である。酸の添加及びエアレーションを行う場合では、全ての経過時間において、硫酸滴定後の条件での測定(上記水質測定制御のステップS13の処理)を行っている。測定対象液Lに対する測定は、アルカリ(水酸化ナトリウム)を添加してアンモニウムイオンがアンモニアガスに気化した状態で行っている。図8において、酸の添加及びエアレーションを行わない場合のアンモニウムイオン濃度は2720mg/L程度であり、酸の添加及びエアレーションを行う場合の時間経過で飽和したアンモニウムイオン濃度は3750mg/L程度である。なお、いずれの場合も、アンモニウムイオン濃度として、以下に示す式(1)で算出される補正値を用いた。
(補正値)=(補正前のアンモニウムイオン濃度)×((pH調整量)+(測定液量))/測定液量 …(1)
ここで、pH調整量は、酸の添加及びエアレーションを行う場合、硫酸滴定量と水酸化ナトリウム滴定量の総和であり、酸の添加及びエアレーションを行わない場合、水酸化ナトリウム滴定量の総和である。図8に示す測定で用いた測定対象液Lに対して、液体クロマトグラフィーで測定した際のアンモニウムイオン濃度は3700mg/L程度である。酸の添加及びエアレーションを行う場合、時間経過に応じてアンモニウムイオン濃度(隔膜式センサ34によるpH出力電圧)が増加しており、二酸化炭素が除去されていくことでアンモニアガス濃度の正確な値に近づいていることが推定できる。
【0053】
1-4.第1実施形態の効果
第1実施形態の水質測定装置10では、妨害ガス除去部40のガス供給部44から測定対象液L中に供給されるガスが、測定対象液L中の妨害ガスを伴って測定対象液Lの外部へと放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液Lから除去することができる。これにより、隔膜式センサ34による対象ガスの濃度の測定時に妨害ガスの影響を抑制できる。
【0054】
第1実施形態の水質測定装置10において、対象ガスは、アンモニアガスである。妨害ガスは、測定対象液Lが酸性である場合に測定対象液Lから気化するガスである。妨害ガス除去部40は、測定対象液Lに対して酸を加えるpH調整部42を有する。これにより、測定対象液LにpH調整部42によって酸を加えることで測定対象液Lが酸性になり、測定対象液Lから妨害ガスが気化して測定対象液Lの外部へ放出される。そのため、妨害ガスを測定対象液Lから除去することができる。
【0055】
第1実施形態の水質測定装置10において、ガス供給部44は、pH調整部42によって酸を加えられた後の測定対象液L中にガスを供給する。これにより、測定対象液LにpH調整部42によって酸を加えることで測定対象液Lが酸性になり、測定対象液Lから妨害ガスが気化して測定対象液Lの外部へと放出される。その上で、妨害ガスが気化した測定対象液Lに対してガス供給部44によってガスを供給することで、妨害ガスが測定対象液Lから外部へより一層放出され易くなる。
【0056】
第1実施形態の水質測定装置10において、測定対象液LのpHを測定するpH測定部32を備えている。ガス供給部44による測定対象液Lへのガスの送り込みを開始した後、pH測定部32によって測定されるpHが所定の閾値を超える場合に、pH調整部42によって測定対象液Lに対して酸を加える。これにより、測定対象液Lへのガスの送り込みを開始した後、測定対象液LのpHを所定の閾値を超えないように調整することができる。そのため、妨害ガスが測定対象液Lから外部へ放出され易い状態で、測定対象液Lへのガスの送り込み易くなる。
【0057】
第1実施形態の水質測定装置10において、妨害ガスが二酸化炭素である場合、妨害ガス除去部40によって測定対象液Lから二酸化炭素を除去することができ、二酸化炭素による電解液34EのpHの変化を抑制することができる。
【0058】
第1実施形態の水質測定装置10において、測定対象液Lが嫌気性生物を含む場合、ガス供給部44は、測定対象液L中に酸素を含むガスを供給する。これにより、二酸化炭素を生成する嫌気性生物を不活化することができる。そのため、二酸化炭素による電解液34EのpHの変化を抑制することができる。したがって、酸素を含むガスの供給により、妨害ガスを測定対象液Lから除去しつつ、嫌気性生物を不活化することができる。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態や後述する実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わされてもよい。
【0060】
上記第1実施形態では、妨害ガス除去部40が、pH調整部42と、ガス供給部44と、を備えていたが、pH調整部42を備えない構成であってもよい。
【0061】
上記第1実施形態では、水質測定装置10の測定制御において、ガス供給部44による測定対象液Lへのガス供給を行いつつ測定対象液LのpH調整を行ったが(ステップS17)、ステップS16のpHの測定時点で一旦ガス供給部44によるガス供給を停止し、pH調整(ステップS17)後、ガス供給部44によるガス供給を再開してもよい。
【0062】
上記第1実施形態では、水質測定装置10の測定制御において、ステップS19の処理(pH調整部42による測定対象液LのpH調整)を行わなくてもよい。
【0063】
上記第1実施形態では、隔膜式センサ34を用いたアンモニアガスの測定において、二酸化炭素によってアンモニアガスがイオン化する際に変化させた測定対象液LのpHを相殺する構成を例示したが、妨害ガスによって測定対象液LのpHが過剰変化させる構成であってもよい。
【0064】
上記第1実施形態では、妨害ガスが二酸化炭素である例を示したが、酢酸などその他のガスであってもよい。
【0065】
上記第1実施形態では、水質測定システム100がバイオガスプラントに適用される構成であったが、別の構成であってもよい。水質測定システム100は、海上養殖、陸上養殖、水処理、排水処理、アクアリウム、農業(水耕栽培)など廃液管理が必要な施設に適用される構成であってもよい。
【0066】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
10: 水質測定装置
12: 制御部
14: 通信部
16: 操作部
18: 記憶部
22: 表示部
32: pH測定部
34: 隔膜式センサ
34A: pH電極
34B: 参照電極
34C: 収容部
34D: 隔膜
34E: 電解液
34F: 電位差計
40: 妨害ガス除去部
42: pH調整部
44: ガス供給部
44A: ホース
100: 水質測定システム
102: 一時保管タンク
104: 配管ライン
106: 廃液タンク
108: 供給ライン
110: ガス測定部
112: 貯留槽
112A: 第1貯留部
112B: 第2貯留部
112C: 配管ライン
L: 測定対象液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8