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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130071
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/06 20060101AFI20240920BHJP
   H01Q 3/30 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01Q21/06
H01Q3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039575
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小▲濱▼ 臣将
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AB06
5J021DB03
5J021GA05
(57)【要約】
【課題】本開示は、複数のサブアレーを備えるアレーアンテナにおいて、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することを目的とする。
【解決手段】本開示は、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2を複数備えるアレーアンテナAであって、サブアレーS1、S2同士の間に、各々の隙間δが設けられ、アンテナ素子同士の間に、各々のチョーク構造C1、C2が設けられ、アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造C1、C2は、サブアレーS1、S2同士の間の各々の隙間δとともに、各々のアンテナ素子に対する各々の二次放射源となり、各々のアンテナ素子の配列方向に沿った、二次放射源同士の間の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭いことを特徴とするアレーアンテナAである。
【選択図】図8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を備えるサブアレーを複数備えるアレーアンテナであって、
前記サブアレー同士の間に、各々の隙間が設けられ、
前記アンテナ素子同士の間に、各々のチョーク構造が設けられ、
前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造は、前記サブアレー同士の間の各々の隙間とともに、各々の前記アンテナ素子に対する各々の二次放射源となり、
各々の前記アンテナ素子の配列方向に沿った、前記二次放射源同士の間の各々の間隔は、各々の前記アンテナ素子の励振波長より狭いことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
各々の前記アンテナ素子の偏波方向(直交方向のうちの一方向又は両方向)に沿った、前記二次放射源同士の間の各々の間隔は、各々の前記アンテナ素子の励振波長より狭い
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造の放射電力は、前記サブアレー同士の間の各々の隙間の放射電力と比べて等しいオーダーであり、各々の前記二次放射源の放射電力は、各々の前記アンテナ素子の放射電力と比べて低いオーダーであり、
前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造の放射パターンは、前記サブアレー同士の間の各々の隙間の放射パターンと比べてほぼ等しい形状である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
各々の前記サブアレーの端部にも、各々のチョーク構造が設けられる
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
各々の前記アンテナ素子は、多層基板に形成されるパッチアンテナ素子であり、
前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造は、前記多層基板内部に形成される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレーアンテナ。
【請求項6】
各々の前記アンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のサブアレーを備えるアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のサブアレーを備えるアレーアンテナが、特許文献1~3等に開示されている。アレーアンテナは、理想的には、複数のサブアレーに分割されない全体アレーを備えたいが、製作の都合等により、複数のサブアレーに分割される全体アレーを備えている。
【0003】
第1従来技術(特許文献1、2)のアレーアンテナの構成を図1に示す。アレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2、S3、S4を備える。アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間d’は、電波望遠鏡等におけるパラボラアンテナ等のように、各々のアンテナ素子の励振波長λの1倍のオーダーである。
【0004】
すると、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4は、各々に1素子とみなされる。そして、みなし1素子同士の各々の間隔Dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより広くなる。よって、アレーアンテナAは、グレーティングローブを発生させてしまう。そこで、特許文献1では、サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間において、電磁波的結合素子を備える。そして、特許文献2では、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4において、グレーティングローブの発生角度でのヌル点を生じさせる。
【0005】
第2従来技術(特許文献3)のアレーアンテナの構成を図2に示す。アレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2、S3、S4と、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4の励振位相を設定する各々の移相器P1、P2、P3、P4と、を備える。アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間は、ほぼ空いていない。
【0006】
アレーアンテナAは、理想的には、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器を備えたいが、部品の削減等により、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4の励振位相を設定する各々の移相器P1、P2、P3、P4を備えている。
【0007】
すると、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4は、各々に1素子とみなされる。そして、みなし1素子同士の各々の間隔D’は、各々のアンテナ素子の励振波長λより広くなる。よって、アレーアンテナAは、グレーティングローブを発生させてしまう。そこで、特許文献3では、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4を非周期的に配置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09-260937号公報
【特許文献2】特開2003-168912号公報
【特許文献3】特開2008-066936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決課題のアレーアンテナの構成を図3に示す。図3に示した解決課題では、図1、2に示した第1、2従来技術(特許文献1~3)を踏まえ、以下の構成を考える。
【0010】
図3の左欄では、アレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2、S3、S4と、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器P1、P2、P3、P4と、を備える。アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間は、ほぼ空いていない。つまり、図3の左欄は、後述する図3の右欄と同等であると考えられる。
【0011】
図3の右欄では、アレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるが複数のサブアレーに分割されない全体アレーと、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器Pと、を備える。アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。つまり、図3の右欄は、前述した図3の左欄と同等であると考えられる。
【0012】
よって、図3の左欄では、図3の右欄と同様に、各々のサブアレーS1、S2、S3、S4は、各々に1素子とみなされず、アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭く、アレーアンテナAは、グレーティングローブを発生させないと考えられる。しかし、図3の左欄では、図3の右欄と異なり、シミュレーション結果として、アレーアンテナAは、グレーティングローブを発生させてしまう。
【0013】
解決課題のアレーアンテナの放射パターンを図4、5に示す。図4、5では、各々のアンテナ素子は、Hポート及びVポートを備える偏波共用パッチであり、アレーアンテナの放射パターンは、垂直面内の放射パターンである。そして、「隙間なし」の場合では、全体アレーは、垂直方向に16個又は32個のアンテナ素子を備え、水平方向にn個のアンテナ素子を備える(図3の右欄において、水平方向にn周期分の周期境界を設ける。)。一方で、「隙間あり」の場合では、各々のサブアレーは、垂直方向に4個のアンテナ素子を備え、水平方向にn個のアンテナ素子を備え、4つ又は8つのサブアレーは、垂直方向に並ぶ(図3の左欄において、水平方向にn周期分の周期境界を設ける。)。
【0014】
すると、「隙間なし」の場合では、アレーアンテナAは、水平偏波を放射するときには、グレーティングローブを発生させず、垂直偏波を放射するときにも、グレーティングローブを発生させない。そして、アレーアンテナAは、振幅テーパ(Taylоr窓等)をかけたときには、サイドローブを抑圧するとともに、振幅テーパ(Taylоr窓等)をかける以前から、グレーティングローブを相変わらず発生していない。
【0015】
一方で、「隙間あり」の場合では、アレーアンテナAは、水平偏波を放射するときには、グレーティングローブを発生させず、垂直偏波を放射するときには、グレーティングローブを発生させる。そして、アレーアンテナAは、振幅テーパ(Taylоr窓等)をかけたときには、サイドローブを抑圧するものの、グレーティングローブを抑圧しない。
【0016】
なお、図3の左欄において、アレーアンテナAは、垂直方向に沿って「隙間」を配列したときには、垂直偏波のグレーティングローブを発生させるが、水平方向に沿って「隙間」を配列したときには、水平偏波のグレーティングローブを発生させる。また、図2において、アレーアンテナAは、「隙間」によるグレーティングローブを発生させる可能性があるが、「多素子対1移相器」によるグレーティングローブをより大きく発生させる。
【0017】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、複数のサブアレーを備えるアレーアンテナにおいて、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブの発生原理を追究した。すると、サブアレー同士の各々の隙間が、二次放射源となるとともに、これらの隙間同士の各々の間隔が、各々のアンテナ素子の励振波長より広くなることが判明した。そこで、サブアレー同士の各々の隙間を模擬する構造として、複数のチョーク構造をアンテナ素子同士の間に備えることとした。そして、複数のチョーク構造も、二次放射源となるとともに、これらの二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造)同士の各々の間隔が、各々のアンテナ素子の励振波長より狭くなるように工夫した。よって、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することができる。
【0019】
具体的には、本開示は、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーを複数備えるアレーアンテナであって、前記サブアレー同士の間に、各々の隙間が設けられ、前記アンテナ素子同士の間に、各々のチョーク構造が設けられ、前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造は、前記サブアレー同士の間の各々の隙間とともに、各々の前記アンテナ素子に対する各々の二次放射源となり、各々の前記アンテナ素子の配列方向に沿った、前記二次放射源同士の間の各々の間隔は、各々の前記アンテナ素子の励振波長より狭いことを特徴とするアレーアンテナである。
【0020】
この構成によれば、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することができる。
【0021】
また、本開示は、各々の前記アンテナ素子の偏波方向(直交方向のうちの一方向又は両方向)に沿った、前記二次放射源同士の間の各々の間隔は、各々の前記アンテナ素子の励振波長より狭いことを特徴とするアレーアンテナである。
【0022】
この構成によれば、各々のアンテナ素子の偏波方向を考慮したうえで、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することができる。
【0023】
また、本開示は、前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造の放射電力は、前記サブアレー同士の間の各々の隙間の放射電力と比べて等しいオーダーであり、各々の前記二次放射源の放射電力は、各々の前記アンテナ素子の放射電力と比べて低いオーダーであり、前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造の放射パターンは、前記サブアレー同士の間の各々の隙間の放射パターンと比べてほぼ等しい形状であることを特徴とするアレーアンテナである。
【0024】
この構成によれば、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧するとともに、放射パターンに対する二次放射源の影響を低減することができる。
【0025】
また、本開示は、各々の前記サブアレーの端部にも、各々のチョーク構造が設けられることを特徴とするアレーアンテナである。
【0026】
この構成によれば、サブアレー背面の電気回路への電波漏洩を抑圧することができる。
【0027】
また、本開示は、各々の前記アンテナ素子は、多層基板に形成されるパッチアンテナ素子であり、前記アンテナ素子同士の間の各々のチョーク構造は、前記多層基板内部に形成されることを特徴とするアレーアンテナである。
【0028】
この構成によれば、パッチアンテナ素子が形成される多層基板において、グランド層及び金属ビア壁等を形成することにより、複数のチョーク構造を備えることができる。
【0029】
また、本開示は、各々の前記アンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器をさらに備えることを特徴とするアレーアンテナである。
【0030】
この構成によれば、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧するとともに、多素子対1移相器によるグレーティングローブも抑圧することができる。
【0031】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0032】
このように、本開示は、複数のサブアレーを備えるアレーアンテナにおいて、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1従来技術のアレーアンテナの構成を示す図である。
図2】第2従来技術のアレーアンテナの構成を示す図である。
図3】解決課題のアレーアンテナの構成を示す図である。
図4】解決課題のアレーアンテナの放射パターンを示す図である。
図5】解決課題のアレーアンテナの放射パターンを示す図である。
図6】解決課題のグレーティングローブの発生原理を示す図である。
図7】解決課題のグレーティングローブの発生原理を示す図である。
図8】第1実施形態のアレーアンテナの構成を示す図である。
図9】第1実施形態のチョーク構造の構成を示す図である。
図10】第1実施形態の2次元アレーアンテナの構成を示す図である。
図11】第1実施形態のアレーアンテナの放射パターンを示す図である。
図12】第2実施形態のアレーアンテナの構成を示す図である。
図13】第2実施形態のチョーク構造の構成を示す図である。
図14】第2実施形態の2次元アレーアンテナの構成を示す図である。
図15】第2実施形態のアレーアンテナの放射パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0035】
(解決課題のグレーティングローブの発生原理)
解決課題のグレーティングローブの発生原理を図6、7に示す。アレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2、S3、S4と、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器P1、P2、P3、P4と、を備える。アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間δは、ほぼ空いておらず、各々のアンテナ素子の励振波長λの10-2又は10-1(0.005以上、0.2以下等)倍のオーダーである。
【0036】
各々のアンテナ素子は、Hポート及びVポートを備える偏波共用パッチである。各々のサブアレーS1、S2、S3、S4は、垂直方向に4個のアンテナ素子を備え、水平方向に1個のアンテナ素子を備える。この条件下で、シミュレーションを実行した。
【0037】
図6では、アレーアンテナAは、水平偏波を放射する。すると、サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間は、電界を集中させない。よって、これらの隙間同士の各々の間隔D’は、各々のアンテナ素子の励振波長λより広くなるものの、これらの隙間は、二次放射源とならないことが判明した。そして、アレーアンテナAは、これらの隙間によるグレーティングローブを発生させない(図4、5の右上欄を参照)。
【0038】
図7では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射する。すると、サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間は、電界を集中させる。よって、これらの隙間は、二次放射源となるとともに、これらの隙間同士の各々の間隔D’は、各々のアンテナ素子の励振波長λより広くなることが判明した。そして、アレーアンテナAは、これらの隙間によるグレーティングローブを発生させる(図4、5の右下欄を参照)。
【0039】
サブアレーS1、S2、S3、S4同士の各々の隙間によるグレーティングローブは、D’/λsinθ=n(±1、±2、±3、・・・)を満たす角度θにおいて発生する。図4の右下欄では、d=30.3mm、D’=121.2mm、励振周波数f=5.335GHz、λ=56mm、n=±2において、θ=±68.0°となる。
【0040】
(第1実施形態のアレーアンテナの構成)
第1実施形態のアレーアンテナの構成を図8に示す。図8の上段では、解決課題のアレーアンテナの構成を示す。図8の下段では、第1実施形態のアレーアンテナの構成を示す。第1実施形態では、サブアレー同士の各々の隙間を模擬する構造として、複数のチョーク構造をアンテナ素子同士の間に備えることとした。そして、複数のチョーク構造も、二次放射源となるとともに、これらの二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造)同士の各々の間隔が、各々のアンテナ素子の励振波長より狭くなるように工夫した。
【0041】
第1実施形態のアレーアンテナAは、複数のアンテナ素子を備えるサブアレーS1、S2と、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器P1、P2と、を備える。サブアレーS1、S2は、サブアレーS1、S2同士の各々の隙間とともに二次放射源となる、アンテナ素子同士の間のチョーク構造C1、C2を備える。
【0042】
アンテナ素子同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。サブアレーS1、S2同士の各々の隙間δは、ほぼ空いておらず、各々のアンテナ素子の励振波長λの10-2又は10-1(0.005以上、0.2以下等)倍のオーダーである。各々のアンテナ素子の配列方向に沿った、二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造C1、C2)同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。
【0043】
ここで、アンテナ素子同士の各々の間隔dが、各々のアンテナ素子の励振波長λの半分(=λ/2)より広い場合には、二次放射源同士の各々の間隔は、アンテナ素子同士の各々の間隔dと等しいときに、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭くなる。しかし、アンテナ素子同士の各々の間隔dが、各々のアンテナ素子の励振波長λの半分(=λ/2)より狭い場合には、二次放射源同士の各々の間隔は、アンテナ素子同士の各々の間隔dの2倍(=2d)と等しくても、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭くなる。
【0044】
このように、サブアレー同士の各々の隙間(各々のアンテナ素子の励振波長の10-2倍又は10-1倍のオーダー)によるグレーティングローブを抑圧することができる。
【0045】
第1実施形態のチョーク構造の構成を図9に示す。各々のアンテナ素子Eは、多層基板に形成されるパッチアンテナ素子である。アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cは、多層基板内部に形成される。多層基板は、図9の下側から数えて、グランド層G、誘電体層D(金属ビア壁Bを形成される)、グランド層G及び誘電体層Dを備える。
【0046】
アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cは、以下の構成を備える:(1)上側の誘電体層Dの厚さ方向の往復伝搬経路、(2)上側のグランド層Gの切れ目の開口部、(3)下側の誘電体層Dの基板面内の往復伝搬経路、(4)往復伝搬経路(3)の周縁をなす、上側及び下側のグランド層G並びに金属ビア壁B(下側の誘電体層Dに形成される)。
【0047】
各々のアンテナ素子Eの放射電力は、大部分が空間中に放射されるが、一部分がアンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cに結合したうえで、二次的に空間中に放射される。そして、各々の二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造C)の放射電力は、各々のアンテナ素子Eの放射電力と比べて低いオーダー(数十dBの差程度等)である。
【0048】
アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cの放射電力は、サブアレーS同士の間の各々の隙間の放射電力と比べて等しいオーダー(数dBの差程度等)である。ここで、チョーク構造Cの溝の長さlは、λ/4(λは誘電体層Dでの伝搬波長)に限られず、チョーク構造C及び隙間の放射電力が等しいオーダーとなるように設計される。
【0049】
アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cの放射パターンは、サブアレーS同士の間の各々の隙間の放射パターンと比べてほぼ等しい形状である。これは、チョーク構造Cが多層基板内部に形成されるとともに、隙間が多層基板間に形成されるため、チョーク構造C及び隙間の配置面内がほぼ同様であるからであると考えられる。
【0050】
このように、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧するとともに、放射パターンに対する二次放射源の影響を低減することができる。
【0051】
第1実施形態の1次元アレーアンテナの構成を図8に示す。各々のサブアレーS1、S2は、水平方向に4個のアンテナ素子を備え、垂直方向に1個のアンテナ素子を備え、水平方向に4-1=3個のチョーク構造C1、C2をアンテナ素子間に備える。各々のアンテナ素子の偏波方向(水平方向)に沿った、二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造C1、C2)同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。
【0052】
第1実施形態の2次元アレーアンテナの構成を図10に示す。図10では、第1実施形態の2次元アレーアンテナの透視上面図を示す。各々のサブアレーS1、S2、S3、S4は、水平方向に4個のアンテナ素子を備え、垂直方向に2個のアンテナ素子を備え、水平方向に(4-1)×2=6個のチョーク構造C1、C2、C3、C4をアンテナ素子間に備え、垂直方向に(2-1)×4=4個のチョーク構造C1、C2、C3、C4をアンテナ素子間に備える。水平方向に並ぶ6個のチョーク構造C1、C2、C3、C4は、斜線で示した開口部(長辺が垂直方向となる)及び砂地で示したチョーク部を備える。垂直方向に並ぶ4個のチョーク構造C1、C2、C3、C4は、斜線で示した開口部(長辺が水平方向となる)及び砂地で示したチョーク部を備える。各々のアンテナ素子の偏波方向(水平方向及び垂直方向)に沿った、二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造C1、C2、C3、C4)同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。
【0053】
第1実施形態のアレーアンテナの放射パターンを図11に示す。各々のアンテナ素子は、Hポート及びVポートを備える偏波共用パッチであり、アレーアンテナの放射パターンは、垂直面内の放射パターンである。そして、各々のサブアレーは、垂直方向に4個のアンテナ素子を備え、水平方向に1個のアンテナ素子を備え、垂直方向に30台を並べる。さらに、「隙間ありかつチョークなし」と「隙間ありかつ素子間にチョークあり」とを比較する。なお、シミュレーション解析では、垂直方向に周期境界を設ける。
【0054】
すると、「隙間ありかつチョークなし」の場合では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射するときには、垂直面内の放射パターンのグレーティングローブを発生させる。しかし、「隙間ありかつ素子間にチョークあり」の場合では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射するときにも、垂直面内の放射パターンのグレーティングローブを抑圧できている。
【0055】
このように、各々のアンテナ素子の偏波方向を考慮したうえで、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧することができる。そして、パッチアンテナ素子が形成される多層基板において、グランド層及び金属ビア壁等を形成することにより、複数のチョーク構造をサブアレー同士の各々の隙間と同一面内に備えることができる。
【0056】
(第2実施形態のアレーアンテナの構成)
第2実施形態のアレーアンテナの構成を図12に示す。図12の上段では、解決課題のアレーアンテナの構成を示す。図12の下段では、第2実施形態のアレーアンテナの構成を示す。第2実施形態では、第1実施形態に加えて、サブアレー背面の電気回路への電波漏洩を抑圧する構造として、別個のチョーク構造をサブアレー端部に備えることとした。
【0057】
第2実施形態のサブアレーS1、S2は、第1実施形態のサブアレーS1、S2に加えて、サブアレーS1、S2の背面の電気回路(図12に不図示)への電波漏洩を抑圧する構造として、サブアレーS1、S2の端部のチョーク構造CEを備える。
【0058】
第2実施形態のチョーク構造の構成を図13に示す。図13では、第2実施形態のチョーク構造の構成が、第1実施形態のチョーク構造の構成と比べて異なる点を説明する。
【0059】
サブアレーSの端部の各々のチョーク構造CEは、以下の構成を備える:(1)下側の誘電体層Dの基板面内の往復伝搬経路、(2)往復伝搬経路(1)の周縁をなす、上側及び下側のグランド層G並びに金属ビア壁B(下側の誘電体層Dに形成される)。
【0060】
各々のアンテナ素子Eの放射電力は、大部分が空間中に放射されるが、一部分がサブアレーSの端部の各々のチョーク構造CEに結合したうえで、二次的に空間中に放射される。そして、各々の二次放射源(前述の隙間及びチョーク構造C)の放射電力は、各々のアンテナ素子Eの放射電力と比べて低いオーダー(数十dBの差程度等)である。
【0061】
ここで、チョーク構造CEの溝の長さl’は、ほぼλ/4(λは誘電体層Dでの伝搬波長)であり、サブアレーSの背面の電気回路(図13に不図示)への電波漏洩を抑圧するように設計される。よって、第2実施形態のサブアレーS同士の間の各々の隙間の放射電力は、第1実施形態のサブアレーS同士の間の各々の隙間の放射電力と比べて、サブアレーSの端部の各々のチョーク構造CEにより、高くなることに留意する必要がある。
【0062】
第2実施形態の1次元アレーアンテナの構成を図12に示す。第2実施形態では、第1実施形態に加えて、各々のサブアレーS1、S2は、水平方向に2個のチョーク構造CEを各々のサブアレーの端部に備える。各々のアンテナ素子の偏波方向(水平方向)に沿った、二次放射源(前述のチョーク構造CEを形成された隙間及びチョーク構造C1、C2)同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。
【0063】
第2実施形態の2次元アレーアンテナの構成を図14に示す。図14では、第2実施形態の2次元アレーアンテナの透視上面図を示す。第2実施形態では、第1実施形態に加えて、各々のサブアレーS1~S4は、水平方向に2×2=4個のチョーク構造CEを各々のサブアレーの端部に備え、垂直方向に2×4=8個のチョーク構造CEを各々のサブアレーの端部に備える。水平方向に並ぶ4個のチョーク構造CEは、砂地で示したチョーク部及び基板側面にある開口部(図14では図示されない)を備える。垂直方向に並ぶ8個のチョーク構造CEも、砂地で示したチョーク部及び基板側面にある開口部(図14では図示されない)を備える。各々のアンテナ素子の偏波方向(水平方向及び垂直方向)に沿った、二次放射源(前述のチョーク構造CEを形成された隙間及びチョーク構造C1~C4)同士の各々の間隔dは、各々のアンテナ素子の励振波長λより狭い。
【0064】
第2実施形態のアレーアンテナの放射パターンを図15に示す。各々のアンテナ素子は、Hポート及びVポートを備える偏波共用パッチであり、アレーアンテナの放射パターンは、垂直面内の放射パターンである。そして、各々のサブアレーは、垂直方向に4個のアンテナ素子を備え、水平方向に1個のアンテナ素子を備え、垂直方向に30台を並べる。さらに、「隙間ありかつチョークなし」と「隙間ありかつ端部のみチョークあり(素子間はチョークなし)」と「隙間ありかつ素子間もチョークあり(端部もチョークあり)」とを比較する。なお、シミュレーション解析では、垂直方向に周期境界を設ける。
【0065】
すると、「隙間ありかつチョークなし」の場合では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射するときには、垂直面内の放射パターンのグレーティングローブを発生させる。そして、「隙間ありかつ端部のみチョークあり」の場合では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射するときには、垂直面内の放射パターンのグレーティングローブを増大させる。しかし、「隙間ありかつ素子間もチョークあり」の場合では、アレーアンテナAは、垂直偏波を放射するときにも、垂直面内の放射パターンのグレーティングローブを抑圧できている。
【0066】
(変形例のアレーアンテナの構成)
第2実施形態では、アレーアンテナAは、アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cと、サブアレーSの端部の各々のチョーク構造CEと、を備えている(図12~14を参照)。変形例として、アレーアンテナAは、サブアレーSの端部の各々のチョーク構造CEのみを備えてもよい(図12~14からチョーク構造Cのみ削除)。
【0067】
第1、2実施形態では、アレーアンテナは、各々のアンテナ素子の励振位相を設定する各々の移相器を備えている(図8、12を参照)。よって、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧するとともに、アレーアンテナが正面方向以外に放射するときにも、多素子対1移相器によるグレーティングローブも抑圧することができる。
【0068】
変形例として、アレーアンテナは、各々のサブアレーの励振位相を設定する各々の移相器を備えてもよい(図2を参照)。よって、サブアレー同士の各々の隙間によるグレーティングローブを抑圧するとともに、アレーアンテナが正面方向のみに放射するときには、多素子対1移相器によるグレーティングローブを考慮する必要がない。
【0069】
第1、2実施形態では、各々のアンテナ素子Eは、多層基板に形成されるパッチアンテナ素子である。アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cは、多層基板内部に形成されている。変形例として、各々のアンテナ素子Eは、ヘリカルアンテナ素子、ダイポールアンテナ素子、モノポールアンテナ素子又はスロットアンテナ素子等でもよい。アンテナ素子E同士の間の各々のチョーク構造Cは、多層基板を用いず形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示のアレーアンテナは、サブアレー同士の各々の隙間がほぼ空いていない場合において、気象レーダ等のアンテナを含む様々な用途のアンテナに適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
A:アレーアンテナ
S1、S2、S3、S4、S:サブアレー
P1、P2、P3、P4、P:移相器
C1、C2、C3、C4、C:チョーク構造
CE:チョーク構造
E:アンテナ素子
D:誘電体層
G:グランド層
B:金属ビア壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15