(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130088
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電気駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 9/04 20060101AFI20240920BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20240920BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240920BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240920BHJP
B60L 50/10 20190101ALI20240920BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02P9/04 J
B60L1/00 L
B60L7/14
B60L9/18 J
B60L50/10
E02F9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039601
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松尾 興祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】西濱 和雄
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】石田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡彦
(72)【発明者】
【氏名】池上 ▲徳▼磨
【テーマコード(参考)】
5H125
5H590
【Fターム(参考)】
5H125AA12
5H125AC08
5H125BA02
5H125BB03
5H125BB07
5H125BB09
5H125BC25
5H125CA01
5H125CB02
5H125EE08
5H125EE42
5H125EE44
5H125FF07
5H590CA07
5H590CA23
5H590CC03
5H590CC34
5H590CD03
5H590CE02
5H590CE04
5H590CE05
5H590FB07
5H590FC11
5H590HA02
5H590HA04
5H590HA27
(57)【要約】
【課題】二巻線誘導発電機の回転数及び補助巻線側の負荷の大きさに係わらず、補助巻線側に設けられた1台の電力変換器で、補助巻線側の直流電圧を維持することが可能な電気駆動システムを提供する。
【解決手段】制御装置11は、第1直流電圧VmDCと第1直流電圧VmDCの指令値VmDC*とに基づいて補助巻線2132の第1のd軸電流指令値Iad_1*を算出し、発電機2の回転数ωrと補機41の要求電力Pa_reqとに基づいて補助巻線2132の第2のd軸電流指令値Iad_2*を算出し、トラクション状態では、補助巻線2132のd軸電流値が前記第1のd軸電流指令値Iad_1*と一致するように電力変換器7を制御し、リタード状態またはアイドリング状態では、補助巻線2132のd軸電流値が前記第2のd軸電流指令値Iad_2*と一致するように電力変換器7を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータと、
補機と、
主巻線と補助巻線とを含む固定子を有する発電機と、
前記主巻線に接続され、前記主巻線で発電した交流電圧を第1直流電圧に変換する整流器と、
前記整流器に接続され、前記第1直流電圧を交流電圧に変換して前記走行モータに供給する走行用インバータと、
前記補助巻線に接続され、前記主巻線および前記補助巻線の電圧を制御するとともに、前記補助巻線で発電した交流電圧を第2直流電圧に変換して前記補機に供給する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置とを備えた電気駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記第1直流電圧と前記第1直流電圧の指令値とに基づいて前記補助巻線の第1のd軸電流指令値を算出し、
前記発電機の回転数と前記補機の要求電力とに基づいて前記補助巻線の第2のd軸電流指令値を算出し、
前記走行用インバータから前記走行モータに電力が供給されるトラクション状態では、前記補助巻線のd軸電流値が前記第1のd軸電流指令値と一致するように前記電力変換器を制御し、
前記走行モータが回生電力を発生させるリタード状態または前記走行モータが停止しているアイドリング状態では、前記補助巻線のd軸電流値が前記第2のd軸電流指令値と一致するように前記電力変換器を制御する
ことを特徴とする電気駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電気駆動システムにおいて、
前記走行モータの加速を指示するアクセル操作装置と、
前記走行モータの減速を指示するブレーキ操作装置と、
前記走行モータの回転数を検出する第1回転数センサとを備え、
前記制御装置は、前記アクセル操作装置が操作されておらず、かつ前記第1回転数センサで検出した前記走行モータの回転数が第1所定値以上の状態、または前記ブレーキ操作装置が操作されている状態を前記リタード状態と判定する
ことを特徴とする電気駆動システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電気駆動システムにおいて、
前記走行モータの回転数を検出する第1回転数センサと、
前記発電機の回転数を検出する第2回転数センサとを備え、
前記制御装置は、前記第1回転数センサで検出した前記走行モータの回転数が第1所定値未満であり、かつ前記第2回転数センサで検出した前記発電機の回転数が第2所定値未満の状態を前記アイドリング状態と判定する
ことを特徴とする電気駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二巻線誘導発電機を備えた電気駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の巻線で回転機を制御するシステムが知られている。例えば、特許文献1には、「エンジンの出力軸上に設けられ主巻線及び補機巻線を有する回転電機と、回転電機をエンジンによって回転駆動することにより車両走行用モータの駆動電力及び/又は主バッテリの充電電力を主巻線にて発生させる発電制御手段と、回転電機が回転駆動しているときに補機巻線に誘起される電圧を利用して補機バッテリを充電する補機充電制御手段と、を備えることを特徴とするシリーズハイブリッド車の補機バッテリ充電装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
主巻線と補助巻線を有する固定子を備えた誘導発電機(二巻線誘導発電機)では、主巻線側の負荷(主機の要求電力)がゼロに近くかつ二巻線誘導発電機の回転数が低い状態で、主巻線側の直流電圧の指令値に応じてd軸補助巻線電流(励磁電流)を決定すると、補助巻線側の負荷(補機の要求電力)の大きさよっては励磁量が過不足になり、発電効率が悪化してしまう。また、励磁量が不足すると、補助巻線側の直流電圧を維持できなくなり、補助巻線側の負荷を賄うことができなくなる。
【0005】
特許文献1では、回転電機の回転数が所定値以下である場合に、永久磁石による励磁束を強調するよう、主巻線に励磁電流が供給される。これにより、回転電機の回転数が低くても、降圧チョッパ回路の動作可能電圧以上の電圧が補機巻線に誘起されるため、回転電機の回転数如何によらず補機バッテリを充電できる。しかしながら、回転電機の回転数のみに応じて主巻線の励磁電流を決定しているため、補助巻線側の負荷(補機バッテリの要求電力)が増大したときに励磁量が不足する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、二巻線誘導発電機の回転数及び補助巻線側の負荷の大きさに係わらず、補助巻線側に設けられた1台の電力変換器で、補助巻線側の直流電圧を維持することが可能な電気駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、走行モータと、補機と、主巻線と補助巻線とを含む固定子を有する発電機と、前記主巻線に接続され、前記主巻線で発電した交流電圧を第1直流電圧に変換する整流器と、前記整流器に接続され、前記第1直流電圧を交流電圧に変換して前記走行モータに供給する走行用インバータと、前記補助巻線に接続され、前記主巻線および前記補助巻線の電圧を制御するとともに、前記補助巻線で発電した交流電圧を第2直流電圧に変換して前記補機に供給する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御装置とを備えた電気駆動システムにおいて、前記制御装置は、前記第1直流電圧と前記第1直流電圧の指令値とに基づいて前記補助巻線の第1のd軸電流指令値を算出し、前記発電機の回転数と前記補機の要求電力とに基づいて前記補助巻線の第2のd軸電流指令値を算出し、前記走行用インバータから前記走行モータに電力が供給されるトラクション状態では、前記補助巻線のd軸電流値が前記第1のd軸電流指令値と一致するように前記電力変換器を制御し、前記走行モータが回生電力を発生させるリタード状態または前記走行モータが停止しているアイドリング状態では、前記補助巻線のd軸電流値が前記第2のd軸電流指令値と一致するように前記電力変換器を制御するものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二巻線誘導発電機を備えた電気駆動システムにおいて、二巻線誘導発電機の回転数及び補助巻線側の負荷の大きさに係わらず、補助巻線側に設けられた1台の電力変換器で、補助巻線側の直流電圧を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態におけるダンプトラックの構成を示す図
【
図2】本発明の実施形態における電気駆動システムの構成を示す図
【
図3】本発明の実施形態における二巻線誘導発電機の構造を示す側面図および部分断面拡大図
【
図4】本発明の実施形態における制御装置の機能ブロック図
【
図5】本発明の実施形態における電流指令演算部および電圧指令演算部の処理を示すブロック図
【
図6】本発明の実施形態における周波数指令演算部の処理を示すブロック図
【
図7】本発明の実施形態における電圧指令補償部の処理を示すブロック図
【
図8】本発明の実施形態における電圧指令補償部の処理の変形例を示すブロック図
【
図9】本発明の実施形態における補機要求電力推定部の処理を示すブロック図
【
図10】本発明の実施形態における補機要求電力と発電機回転数と第2のd軸補助巻線電流指令値との関係の一例を示す図
【
図11】本発明の実施形態における電気駆動システムの各パラメータの時系列変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各図中、同等の要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態におけるダンプトラックの構成を示す図である。
図1において、ダンプトラックは、車体30と、原動機1と、車体30の上側後方に上下方向に回転可能に取り付けられた荷台31と、車体30の上側前方に設けられた運転席32とを備えている。また、車体30の下方前側には左右一対の従動輪33が配置されており、車体30の下方後側には左右一対の駆動輪34が配置されている。駆動輪34は、走行モータ5によって駆動される。鉱山向けダンプトラックは、積み込み場で土砂を積載し、積み込み場から放土場まで走行し、放土場で放土し、放土場から積み込み場まで走行するという一連の作業サイクルを繰り返し行う。
【0012】
図2は、
図1に示すダンプトラックに搭載された電気駆動システムの構成を示す図である。
図2において、電気駆動システムは、原動機1と、主巻線と補助巻線を有する固定子を備えた二巻線誘導発電機2と、整流器3と、走行用インバータ4と、走行モータ5と、回生放電抵抗器6と、電力変換器7と、走行モータ冷却用インバータ8aと、回生放電抵抗器冷却用インバータ8bと、ポンプ用インバータ8cと、発電機冷却用インバータ8dと、走行モータ冷却用モータ9aと、回生放電抵抗器冷却用モータ9bと、ポンプ用モータ9cと、発電機冷却用モータ9dと、始動用バッテリ10と、制御装置11と、補機側直流電圧センサ12と、補助巻線電流センサ13と、発電機回転数センサ14と、主巻線電圧センサ15と、主巻線電流センサ16と、主機側直流電圧センサ17と、走行モータ回転数センサ50と、アクセル操作装置53aと、アクセル操作量センサ53bと、ブレーキ操作装置54aと、ブレーキ操作量センサ54bとを備えている。ここで、原動機1、二巻線誘導発電機2、整流器3、電力変換器7、制御装置11、補機側直流電圧センサ12、補助巻線電流センサ13、発電機回転数センサ14、主巻線電圧センサ15、主巻線電流センサ16、および主機側直流電圧センサ17は、本実施形態における発電システム40を構成している。走行用インバータ4および走行モータ5は、主巻線側の負荷である主機を構成している。走行モータ冷却用インバータ8a、回生放電抵抗器冷却用インバータ8b、ポンプ用インバータ8c、発電機冷却用インバータ8d、走行モータ冷却用モータ9a、回生放電抵抗器冷却用モータ9b、ポンプ用モータ9c、および発電機冷却用モータ9dは、補助巻線側の負荷である補機41を構成している。
【0013】
原動機1は、二巻線誘導発電機2の回転子を回転させる。二巻線誘導発電機2の主巻線は、整流器3を介して走行用インバータ4に接続されている。走行用インバータ4は、走行モータ5に接続されている。回生放電抵抗器6は、走行モータ5が発電しているときには整流器3と走行用インバータ4に接続される。二巻線誘導発電機2の補助巻線は、電力変換器7を介して補機41に接続されている。始動用バッテリ10は、二巻線誘導発電機2が始動しているときに電力変換器7と補機41に接続される。走行モータ5の要求電力は補機41の要求電力よりも大きいため、整流器よりも高価な電力変換器を走行用インバータ4ではなく要求電力の小さい補機41に接続することにより、電力変換器が小容量化され、発電システム40のコストが低減される。
【0014】
走行モータ冷却用インバータ8aは走行モータ冷却用モータ9aに接続されている。回生放電抵抗器冷却用インバータ8bは回生放電抵抗器冷却用モータ9bに接続されている。ポンプ用インバータ8cはポンプ用モータ9cに接続されている。発電機冷却用インバータ8dは発電機冷却用モータ9dに接続されている。走行モータ冷却用モータ9aは走行モータ冷却用インバータ8aによって制御され、回生放電抵抗器冷却用モータ9bは回生放電抵抗器冷却用インバータ8bによって制御され、ポンプ用モータ9cはポンプ用インバータ8cによって制御され、発電機冷却用モータ9dは発電機冷却用インバータ8dによって制御される。走行モータ冷却用モータ9a、回生放電抵抗器冷却用モータ9b、ポンプ用モータ9c、および発電機冷却用モータ9dに要求される回転数は、制御装置11により算出され、各インバータに送信される。
【0015】
ここで、本発明が想定している課題が生じる場面をダンプトラックの動作を一例に説明する。ダンプトラックが前述した作業サイクルを繰り返し行う内に、二巻線誘導発電機2と、走行モータ5と、回生放電抵抗器6の温度が上昇していく。この温度上昇を抑制するため、二巻線誘導発電機2、走行モータ5、回生放電抵抗器6に対してそれぞれ走行モータ冷却用モータ9aと、回生放電抵抗器冷却用モータ9bと、発電機冷却用モータ9dを駆動することで冷却させる。積み込み待機時や放土時はダンプトラックが停車するため発電機回転数の低いアイドリング状態となるが、アイドリング時でも温度が高い場合は走行モータ冷却用モータ9aと、回生放電抵抗器冷却用モータ9bと、発電機冷却用モータ9dを、高い出力で駆動させる必要があるため、補機41の要求電力は大きくなる。このような場合、二巻線誘導発電機2の励磁電流を適切に決めないと励磁量が過不足となり、効率の悪化や、補機41の要求電力を賄うことができない恐れがある。
【0016】
図3は、本実施形態における二巻線誘導発電機2の構造を示す側面図および部分断面拡大図である。二巻線誘導発電機2は固定子210と回転子220を備え、固定子210は、固定子鉄心211で形成された固定子スロット212に一次巻線213が設置され、一次巻線213は、主巻線2131と補助巻線2132を有している。一次巻線213は、楔214によって固定子スロット212に保持されている。回転子220は、回転子鉄心221で形成された回転子スロット222に回転子バー2231が設置され、回転子バー2231はエンドリング2232で端部を短絡されている。二次導体223は、回転子バー2231とエンドリング2232を有する。ギャップ230は、固定子210と回転子220の間の空隙である。
【0017】
図4は、電力変換器7を制御する制御装置11の機能ブロック図である。
図4において、制御装置11は、3相/2相変換部18a,18b,18c、電流指令演算部19、周波数指令演算部20、電圧指令演算部21、電圧指令補償部22、巻数比換算部23、補機要求電力推定部24、2相/3相変換部25、および制御信号生成部26から構成される。制御装置11は、演算処理機能を有するコントローラ、外部機器との間の信号入出力を行う入出力インタフェース等で構成され、ROM等の記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより各部の機能を実現する。本実施形態において、制御装置11は、主機側直流電圧VmDC及び補機側直流電圧VaDCが、それぞれ主機側直流電圧指令値VmDC*及び補機側直流電圧指令値VaDC*と一致するように、電力変換器7を介して主巻線及び補助巻線の電圧制御及び電流制御を行う。
【0018】
電圧制御は、電流指令演算部19にて、主機側直流電圧センサ17及び補機側直流電圧センサ12から取得した値(主機側直流電圧VmDC及び補機側直流電圧VaDC)を用いて、例えば比例積分演算を行い、補助巻線電流指令値Iad*,Iaq*を算出することにより行われる。電流制御は、電圧指令演算部21にて、補助巻線電流センサ13から取得した値(補助巻線の3相電流Iau,Iav,Iaw)を3相/2相変換部18cでdq軸上に座標変換した値(d軸補助巻線電流Iad、q軸補助巻線電流Iaq)を用いて、例えば比例積分演算を行い、補助巻線電圧指令値Vad*,Vaq*を算出することにより行われる。電圧指令演算部21にて、発電機回転数センサ14から取得した発電機回転数ωrと、周波数指令値ω1*は、それぞれ二巻線誘導発電機2の回転子が回転することにより生じる誘起電圧と、dq軸間の干渉成分を補償するために用いている。
【0019】
図5は、電流指令演算部19および電圧指令演算部21の処理を示すブロック図である。電流指令演算部19は、主機側直流電圧指令値VmDC*と主機側直流電圧VmDCとの差分を比例積分し、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*を算出する。なお、図中のKmv_pは主機側電圧制御比例ゲインであり、Kmv_iは主機側電圧制御積分ゲインである。
【0020】
また、電流指令演算部19は、第2のd軸補助巻線電流指令演算部19aと、電流指令切替判定部19bと、電流指令切替部19cとを有する。第2のd軸補助巻線電流指令演算部19aは、発電機回転数ωrと補機要求電力推定部24で推定した補機要求電力Pa_reqとに基づき、第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*を算出する。電流指令切替判定部19bは、アクセル操作量Aaと、ブレーキ操作量Abと、走行モータ回転数ωmと発電機回転数ωrとに基づき、電流指令切替フラグFL_Iad_refのオン/オフを決定する。電流指令切替部19cは、電流指令切替フラグFL_Iad_refに応じて、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*または第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*をd軸補助巻線電流指令値Iad*として出力する。
【0021】
また、電流指令演算部19は、補機側直流電圧指令値VaDC*と補機側直流電圧VaDCとの差分を比例積分し、q軸補助巻線電流指令値Iaq*として出力する。なお、図中のKav_pは補機側電圧制御比例ゲインであり、Kav_iは補機側電圧制御積分ゲインである。
【0022】
電圧指令演算部21は、d軸補助巻線電流指令値Iad*とd軸補助巻線電流Iadとの差分の比例積分値から、dq軸間に生じる干渉成分を減算し、d軸補助巻線電圧指令値Vad*として出力する。ここでいうdq軸間に生じる干渉成分は、d軸補助巻線電流指令値Iad*とd軸補助巻線電流Iadとの差分の積分値にω1*Lσm/Rσaを乗算することで得られる。なお、図中のKmc_pは主機側電流制御比例ゲインであり、Kmc_iは主機側電流制御積分ゲインである。
【0023】
また、電圧指令演算部21は、q軸補助巻線電流指令値Iaq*とq軸補助巻線電流Iaqとの差分の比例積分値に、dq軸間に生じる干渉成分と誘起電圧ωr*μ*φ2dとを加算し、q軸補助巻線電圧指令値Vaq*として出力する。ここでいうdq軸間に生じる干渉成分は、補機側電流制御積分ゲインKac_iを用いた、q軸補助巻線電流指令値Iaq*とq軸補助巻線電流Iaqとの差分の積分値に、ω1*Lσm/Rσaを乗算することで得られる。なお、図中のKac_pは、補機側電流制御比例ゲインであり、Kac_iは補機側電流制御積分ゲインである。
【0024】
図6は、周波数指令演算部20の処理を示すブロック図である。周波数指令演算部20は、発電機回転数ωrにすべり周波数指令演算部20aで算出した周波数指令値ωs*を加算し、周波数指令値ω1*として出力する。
【0025】
図4に戻り、電圧指令補償部22の役割について説明する。二巻線誘導発電機2は、主巻線と補助巻線が磁気的に結合していることにより、巻線間で干渉成分が生じる。この現象は、数1式に示す二巻線誘導発電機2の補助巻線部における微分方程式を用いて説明できる。
【0026】
【0027】
数1式における記号は以下の通りである。
【0028】
Rσm:dq軸モデルにおける補助巻線に係る主巻線抵抗
Rσa:dq軸モデルにおける補助巻線に係る補助巻線抵抗
Lσm:dq軸モデルにおける補助巻線に係る主巻線自己インダクタンス
Lσa:dq軸モデルにおける補助巻線に係る補助巻線自己インダクタンス
μ:補助巻線に係る一次換算係数
τ2:二次時定数(=二次インダクタンス/二次抵抗)
p:微分演算子
Imd,Imq:d軸主巻線電流、q軸主巻線電流
Vmd,Vmq:d軸主巻線電圧、q軸主巻線電圧
Vad,Vaq:d軸補助巻線電圧、q軸補助巻線電圧
φ2d,φ2q:d軸二次磁束、q軸二次磁束
ω1:一次周波数
数1式を整理すると、数2式が得られる。
【0029】
【0030】
数2式より、補助巻線電圧について、dq軸上の主巻線電流Imd,Imq及び主巻線電圧Vmd,Vmqが含まれていることが分かる。この主巻線電流及び主巻線電圧に係る項が、補助巻線に対する主巻線の干渉成分であり、二巻線誘導発電機2を制御する上で不安定化の原因となる。従って、この干渉成分を制御装置11で補償することで、主巻線及び補助巻線間に磁気的な結合がある場合でも、二巻線誘導発電機2を安定して制御することができる。具体的には、電圧指令演算部21で算出した補助巻線電圧指令値Vad*,Vaq*に対して、電圧指令補償部22で算出した電圧補償量ΔVad*,ΔVaq*をそれぞれ加算し、補償後の補助巻線電圧指令値Vad**,Vaq**として巻数比換算部23への入力とする。
【0031】
巻数比換算部23は、補償後の補助巻線電圧指令値Vad**,Vaq**に対して、dq軸モデルにおける補助巻線に係る主巻線自己インダクタンスLσmとdq軸モデルにおける補助巻線に係る補助巻線自己インダクタンスLσaとの比を、それぞれ乗じる。巻数比換算部23で巻数比換算後の補助巻線電圧指令値Vad***、Vaq***を2相から3相に変換する2相/3相変換部25に入力し、変換された3相の電圧指令値Vau*,Vav*,Vaw*を制御信号生成部26の入力とする。ここで、3相/2相変換部18a,18b,18c、および2相/3相変換部25において、座標変換に用いる位相は、例えば、周波数指令値ω1*を積分することで得られる値を用いる。制御信号生成部26では、例えば、3相の電圧指令値Vau*,Vav*,Vaw*から算出されるデューティー信号と搬送波との比較に基づき、電力変換器7に送信する制御信号を生成する。
【0032】
図7は、電圧指令補償部22の処理を示すブロック図である。主巻線電圧センサ15、主巻線電流センサ16から取得した値(主巻線の3相電流Imu,Imv,Imw、主巻線の3相電圧Vmu,Vmv,Vmw)をそれぞれ3相/2相変換部18a,18bで座標変換し、その座標変換した値(Imd,Imq,Vmd,Vmq)を電圧指令補償部22の入力とする。d軸電圧補償量ΔVad*は、d軸主巻線電圧Vmdと、d軸主巻線電流Imdと補助巻線に係る主巻線抵抗Rσmの乗算値との差分であり、q軸電圧補償量ΔVaq*は、q軸主巻線電圧Vmqと、q軸主巻線電流Imqと補助巻線に係る主巻線抵抗Rσmの乗算値との差分である。このように主巻線電圧センサ15及び主巻線電流センサ16から取得した値を直接使用することで、演算遅れなく補償電圧量ΔVad*,ΔVaq*を算出することができる。
【0033】
図8は、
図7で示した処理の変形例として考え得る、主巻線電圧センサ15を使用しない場合の電圧指令補償部22の処理を示すブロック図である。
図8において、電圧指令補償部22には、主巻線電圧センサ15で検出した主巻線電圧Vmd,Vmqに代えて、電圧指令演算部21から出力される補助巻線の電圧指令値Vad*,Vaq*が入力される。電圧指令補償部22は、二巻線誘導発電機2の主巻線の電圧が補助巻線の電圧に概ね比例するという性質を利用し、補助巻線の電圧指令値Vad*,Vaq*に補正ゲインK(補助巻線電圧に対する主巻線電圧の比)を乗じて主巻線電圧Vmd,Vmqの推定値を算出する。このような構成でも、
図7の構成と同等の効果を達成することができ、主巻線電圧Vmd,Vmqを検出する主巻線電圧センサ15が不要となるため、発電システム40の構成を簡素化することが可能となる。
【0034】
図4に戻り、補機要求電力推定部24について説明する。補機要求電力推定部24の出力である補機要求電力Pa_reqは、補機41で要求される電力であり、本実施形態では、走行モータ冷却用モータ9a、回生放電抵抗器冷却用モータ9b、ポンプ用モータ9c、および発電機冷却用モータ9dをそれぞれ所望の回転数で駆動させるために必要な電力の合計である。
【0035】
図9は、補機要求電力推定部24の処理を示すブロック図である。走行モータ冷却用モータ電力推定部24aは、走行モータ冷却用モータ9aが走行モータ冷却用モータ速度指令ωa_mot*で回転するときに必要な電力(走行モータ冷却用モータ要求電力)Pa_mot_reqを算出する。回生放電抵抗器冷却用モータ電力推定部24bは、回生放電抵抗器冷却用モータ9bが回生放電抵抗器冷却用モータ速度指令ωa_grid*で回転するときに必要な電力(回生放電抵抗器冷却用モータ要求電力)Pa_grid_reqを算出する。ポンプ用モータ電力推定部24cは、ポンプ用モータ9cがポンプ用モータ速度指令ωa_pump*で回転するときに必要な電力(ポンプ用モータ要求電力)Pa_pump_reqを算出する。発電機冷却用モータ電力推定部24dは、発電機冷却用モータ9dが発電機冷却用モータ速度指令ωa_gen*で回転するときに必要な電力(発電機冷却用モータ要求電力)Pa_gen_reqを算出する。以上で算出した走行モータ冷却用モータ要求電力Pa_mot_req、回生放電抵抗器冷却用モータ要求電力Pa_grid_req、ポンプ用モータ要求電力Pa_pump_req、および発電機冷却用モータ要求電力Pa_gen_reqを合計して補機要求電力Pa_reqを算出し、第2のd軸補助巻線電流指令演算部19aへの入力とする。
【0036】
図5に示す第2のd軸補助巻線電流指令演算部19aは、
図10に示す特性に従い、補機要求電力推定部24で算出した補機要求電力Pa_reqと、発電機回転数ωrとに基づいて、第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*を算出する。
図10は、補機要求電力Pa_reqと発電機回転数ωrと第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*との関係の一例を示す図である。
図10において、第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*は、補機要求電力Pa_reqに比例して増加する。補機要求電力Pa_reqに対する第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*の増加度合い(図中のグラフの傾き)は、発電機回転数ωrが大きくなるほど小さくなる。補機要求電力Pa_reqがゼロのときは、発電機回転数ωrに大小に関わらず、第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*は所定の最小値Iad_2_minとなる。
図10の特性は、予め計算もしくは実験によって決定される。
【0037】
図5に戻り、電流指令切替判定部19bについて説明する。電流指令切替判定部19bは、走行モータ回転数ωmが所定値ωm_th未満でかつ発電機回転数ωrが所定値ωr_th未満である場合に、または、アクセル操作装置53aが操作されておらずかつ走行モータ回転数ωmが所定値ωm_th以上の場合に、または、ブレーキ操作装置54aが操作されている場合に、電流指令切替フラグFL_Iad_refをオンに設定する(FL_Iad_ref=1)。
【0038】
ここで、所定値ωm_thは走行モータ回転数閾値であり、車体が走行状態にあるか否かを判定するための閾値である。所定値ωr_thは発電機回転数閾値であり、車体がアイドリング状態にあるか否かを判定するための閾値である。走行モータ回転数ωmが走行モータ回転数閾値ωm_th未満でかつ発電機回転数ωrが発電機回転数閾値ωr_th未満の状態は、走行モータ5が停止しているアイドリング状態に相当する。また、アクセル操作装置53aが操作されておらずかつ走行モータ回転数ωmが走行モータ回転数閾値ωm_th以上の状態、または、ブレーキ操作装置54aが操作されている状態は、走行モータ5が回生電力を発生させるリタード状態に相当する。走行モータ回転数閾値ωm_thおよび発電機回転数閾値ωr_thはそれぞれ計算もしくは実験により定められる。
【0039】
電流指令切替部19cは、電流指令切替フラグFL_Iad_refがオフに設定されていた場合(FL_Iad_ref=0)、d軸補助巻線電流指令値Iad*として第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*を出力する。電流指令切替フラグFL_Iad_refがオンに設定されていた場合(FL_Iad_ref=1)、d軸補助巻線電流指令値Iad*として第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*を出力する。
【0040】
以下、
図11を参照して、本実施形態における電気駆動システムの主な動作と作用効果について説明する。
図11は、本実施形態における電気駆動システムの各パラメータ(走行モータ回転数ωm、発電機回転数ωr、電流指令切替フラグFL_Iad_ref、補機要求電力Pa_req、d軸補助巻線電流Iad、主機側直流電圧VmDC、補機側直流電圧VaDC)の時系列変化を示す図である。以下では、走行モータ回転数ωmと、発電機回転数ωrと、補機要求電力Pa_reqが変化した場合の動作の一例について説明する。また、本実施形態の作用効果を明確にするため、第2のd軸補助巻線電流指令演算部19aで算出した第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*を使用せず、常に第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*がd軸補助巻線電流指令値Iad*に設定されている場合と比較して説明する。なお、本実施形態における電気駆動システムと比較例における電気駆動システムとでは、走行モータ回転数ωm、発電機回転数ωr、および補機要求電力Pa_reqの変化量は同じであるものとする。
【0041】
図11において、本実施形態の各パラメータの時系列変化は実線で示し、比較例の各パラメータの時系列変化は破線で示す。
図11(a)~(g)の横軸は、時刻(経過時間)を示す。
図11(a)の縦軸は走行モータ回転数ωmを示し、
図11(b)の縦軸は発電機回転数ωrを示し、
図11(c)の縦軸は電流指令切替フラグFL_Iad_refを示し、
図11(d)の縦軸は補機要求電力Pa_reqを示し、
図11(e)の縦軸はd軸補助巻線電流Iadを示し、
図11(f)の縦軸は主機側直流電圧センサ17で検出された主機側直流電圧VmDCを示し、
図11(g)の縦軸は補機側直流電圧センサ12で検出された補機側直流電圧VaDCを示す。
【0042】
図11において、時刻t0は、走行モータ回転数ωmが変動し始めた時刻である。時刻t1は、本実施形態において,走行モータ回転数ωmと発電機回転数ωrに基づき、電流指令切替フラグFL_Iad_refをオフからオンに切り替わった時刻である。時刻t2は、本実施形態において、走行モータ5が停止した時刻である。
【0043】
図11(a)に示すように、本実施形態の場合、時刻t0から走行モータ5が減少し始め、時刻t2で停止している。
【0044】
図11(b)に示すように、本実施形態の場合、時刻t0から時刻t2まで発電機回転数ωrが減少し、時刻t2以降はアイドリング時の回転数で回転している。
【0045】
図11(c)に示すように、本実施形態の場合、時刻t1で走行モータ回転数ωmが走行モータ回転数閾値ωm_th以下、かつ発電機回転数ωrが発電機回転数閾値ωr_th以下になったことを電流指令切替判定部19bで判定し、電流指令切替フラグFL_Iad_refをオフからオンに設定する。
【0046】
図11(d)に示すように、本実施形態の場合、時刻t0以降、補機要求電力Pa_reqは所定の値まで減少している。
【0047】
図11(e)に示すように、比較例の場合、時刻t0以降、d軸補助巻線電流Iadは所定の値まで減少している。これは、走行モータ回転数ωmが減少し、主機側直流電圧VmDCを高く維持する必要がなくなったためである。
【0048】
これに対して、本実施形態の場合、時刻t1までは
図11(e)の比較例と同様の波形だが、時刻t1でd軸補助巻線電流指令値Iad*の設定値が、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*から第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*に切り替わった後は、発電機回転数ωrと補機要求電力Pa_reqを考慮したd軸補助巻線電流Iadを電力変換器7が出力するため所定の値まで上昇している。
【0049】
図11(f)に示すように、比較例の場合、時刻t0以降、主機側直流電圧VmDCは所定の値まで減少している。これは、走行モータ回転数ωmが減少したことで、主機側直流電圧VmDCを高く維持する必要がなくなったため、主機側直流電圧指令値VmDC*を低下させたためである。
【0050】
これに対して、本実施形態の場合、時刻t1までは
図11(f)の比較例と同様の波形だが、時刻t1でd軸補助巻線電流指令値Iad*の設定値が、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*から第2のd軸補助巻線電流指Iad_2*に切り替わった後は、d軸補助巻線電流Iadが所定の値まで上昇しているため、主巻線が励磁されて主機側直流電圧VmDCは上昇する。尚、このときのd軸補助巻線電流指令値Iad*は、主機側直流電圧VmDCがとりうる最大電圧に合わせて上限値を決めているため、主機側直流電圧VmDCが最大電圧を超えるまで上昇することはない。また、主機側直流電圧VmDCが最大電圧を超えた場合には、回生放電抵抗器6が接続され、最大電圧以下になるように放電させる。
【0051】
図11(g)に示すように、比較例の場合、時刻t0以降、補機側直流電圧VaDCは減少している。これは、発電機回転数ωrと補機要求電力Pa_reqを考慮していない第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*がd軸補助巻線電流指令値Iad*に設定されているため、補機要求電力Pa_reqに対して十分な励磁量が得られず、補機側直流電圧VaDCを補機側直流電圧指令値VaDC*に維持できなくなったためである。
【0052】
これに対して、本実施形態の場合、時刻t1までは
図11(g)の比較例と同様の波形だが、時刻t1で発電機回転数ωrと補機要求電力Pa_reqを考慮したd軸補助巻線電流Iadを電力変換器7が出力するため、補機側直流電圧VaDCを補機側直流電圧指令値VaDC*まで復帰させることができている。
【0053】
次に、本実施形態の構成が電気駆動システムに正しく実装されているか否かを検証する方法について説明する。本実施形態の構成はソフトウェア(制御装置11のプログラム)に実装される可能性が高いため、電気駆動システムの外観等に基づいて検証を行うことが困難であると予想される。そこで、電気駆動システムを動作させ、その挙動に基づいて検証を行う。
【0054】
検証を行う際は、例えば発電システム40(
図2に示す)の主機側及び補機側の直流部に電圧センサを接続するとともに、補機側直流部に負荷装置を接続し、原動機1の回転数と、負荷装置の負荷を変動させたときの主機側直流電圧及び補機側直流電圧を電圧センサで測定する。ただしこのとき、主機側は無負荷とする。
【0055】
原動機1の回転数を減少させ、補機側負荷を増大させたとき、主機側直流電圧が上昇し、補機側直流電圧が一定値を維持していれば、本実施形態の構成が実装されていることが確認できる。逆に、本実施形態の構成が実装されていない場合は、主機側直流電圧は上昇せず、補機側直流電圧は一定値を維持できない。このように、発電システム40における主機側及び補機側の直流電圧を電圧センサで測定することで本実施形態の構成が実装されているか否かを検証できる。
【0056】
(まとめ)
本実施形態では、走行モータ5と、補機41と、主巻線2131と補助巻線2132とを含む固定子210を有する発電機2と、主巻線2131に接続され、主巻線2131で発電した交流電圧を第1直流電圧VmDCに変換する整流器3と、整流器3に接続され、第1直流電圧VmDCを交流電圧に変換して走行モータ5に供給する走行用インバータ4と、補助巻線2132に接続され、主巻線2131および補助巻線2132の電圧を制御するとともに、補助巻線2132で発電した交流電圧を第2直流電圧VaDCに変換して補機41に供給する電力変換器7と、電力変換器7を制御する制御装置11とを備えた電気駆動システムにおいて、制御装置11は、第1直流電圧VmDCと第1直流電圧VmDCの指令値VmDC*とに基づいて補助巻線2132の第1のd軸電流指令値Iad_1*を算出し、発電機2の回転数ωmと補機41の要求電力Pa_reqとに基づいて補助巻線2132の第2のd軸電流指令値Iad_2*を算出し、走行用インバータ4から走行モータ5に電力が供給されるトラクション状態では、補助巻線2132のd軸電流値が第1のd軸電流指令値Iad_1*と一致するように電力変換器7を制御し、走行モータ5が回生電力を発生させるリタード状態または走行モータ5が停止しているアイドリング状態では、補助巻線2132のd軸電流値が第2のd軸電流指令値Iad_2*と一致するように電力変換器7を制御する。
【0057】
以上のように構成した本実施形態によれば、二巻線誘導発電機2を備えた電気駆動システムにおいて、主機の負荷(走行用インバータ4および走行モータ5の要求電力)が減少することにより発電機回転数ωrが低下した状態(アイドリング状態またはリタード状態)でも、補助巻線側に設けられた1台の電力変換器7によって、補機側直流電圧VaDCを補機41の要求電力を賄うのに必要な電圧(補機側直流電圧指令値VaDC*)に維持することが可能となる。これにより、二巻線誘導発電機2の回転数ωr及び補助巻線側の負荷(補機要求電力Pa_req)の大きさに係わらず、補助巻線側に設けられた1台の電力変換器7で、補助巻線側の直流電圧VaDCを維持することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る電気駆動システムは、走行モータ5の加速を指示するアクセル操作装置53aと、走行モータ5の減速を指示するブレーキ操作装置54aと、走行モータ5の回転数ωmを検出する第1回転数センサ50とを備え、制御装置11は、アクセル操作装置53aが操作されておらず、かつ第1回転数センサ50で検出した走行モータ回転数ωmが第1所定値ωm_th以上の状態またはブレーキ操作装置54aが操作されている状態をリタード状態と判定する。これにより、リタード状態を正確に判定することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態に係る電気駆動システムは、走行モータ5の回転数ωmを検出する第1回転数センサ50と、発電機2の回転数ωrを検出する第2回転数センサ14とを備え、制御装置11は、第1回転数センサ50で検出した走行モータ回転数ωmが第1所定値ωm_th未満であり、かつ第2回転数センサ14で検出した発電機2の回転数ωrが第2所定値ωr_th未満の状態をアイドリング状態と判定する。これにより、アイドリング状態を正確に判定することが可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、上記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、本発明は必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0061】
また、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0062】
<変形例1>
上記実施形態において、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*と第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*間の遷移を緩やかにしてもよい。例えば、電流指令切替部19cの出力に変化率制限部を設けることで、第1のd軸補助巻線電流指令値Iad_1*と第2のd軸補助巻線電流指令値Iad_2*間の切替に伴うd軸補助巻線電流指令値Iad*の変動を緩やかにすることができる。これにより、補助巻線電流と、主機側直流電圧VmDCと補機側直流電圧VaDCの過渡的な変動を抑制することができる。
【0063】
<変形例2>
上記実施形態において、制御装置11は、外乱及びノイズの影響を避けるため、各種判定及び計算に用いる値に対して移動平均処理またはローパスフィルタ処理を施してもよい。
【0064】
<変形例3>
上記実施形態で説明した制御装置11の機能は、それらの一部または全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0065】
<変形例4>
上記実施形態では、ダンプトラックに搭載された電気駆動システムを例に説明したが、本発明の適用対象はこれに限定されない。2系統の負荷を有する発電システムを備えた種々の車両に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…原動機、2…発電機、2…二巻線誘導発電機、3…整流器、4…走行用インバータ、5…走行モータ、6…回生放電抵抗器、7…電力変換器、8a…走行モータ冷却用インバータ、8b…回生放電抵抗器冷却用インバータ、8c…ポンプ用インバータ、8d…発電機冷却用インバータ、9a…走行モータ冷却用モータ、9b…回生放電抵抗器冷却用モータ、9c…ポンプ用モータ、9d…発電機冷却用モータ、10…始動用バッテリ、11…制御装置、12…補機側直流電圧センサ、13…補助巻線電流センサ、14…発電機回転数センサ(第2回転数センサ)、15…主巻線電圧センサ、16…主巻線電流センサ、17…主機側直流電圧センサ、19…電流指令演算部、19a…第2のd軸補助巻線電流指令演算部、19b…電流指令切替判定部、19c…電流指令切替部、20…周波数指令演算部、20a…周波数指令演算部、21…電圧指令演算部、22…電圧指令補償部、23…巻数比換算部、24…補機要求電力推定部、24a…走行モータ冷却用モータ電力推定部、24b…回生放電抵抗器冷却用モータ電力推定部、24c…ポンプ用モータ電力推定部、24d…発電機冷却用モータ電力推定部、26…制御信号生成部、30…車体、31…荷台、32…運転席、33…従動輪、34…駆動輪、40…発電システム、41…補機、50…走行モータ回転数センサ(第1回転数センサ)、53a…アクセル操作装置、53b…アクセル操作量センサ、54a…ブレーキ操作装置、54b…ブレーキ操作量センサ、210…固定子、211…固定子鉄心、212…固定子スロット、213…一次巻線、214…楔、220…回転子、221…回転子鉄心、222…回転子スロット、223…二次導体、230…ギャップ、2131…主巻線、2132…補助巻線、2231…回転子バー、2232…エンドリング。