(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130094
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】腐食試験装置および腐食モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01N17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039611
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】平田 瞭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 妃奈
(72)【発明者】
【氏名】西本 工
(72)【発明者】
【氏名】金子 道郎
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 信樹
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA01
2G050BA02
2G050BA03
2G050EA01
2G050EA02
2G050EA04
2G050EB02
2G050EC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、腐食性液体の断続的で不均一な飛沫付着により腐食(不均一腐食)が進行する飛沫付着環境における、材料の経時的な腐食評価を可能にすることを課題とする。
【解決手段】飛沫発生手段を有する腐食試験装置において、試験片の電流値、電圧値、温度を逐次測定して電気抵抗値から腐食量を評価する。その際に、試験片と飛沫条件を以下の式1~式3を満足する。
a×D
max≦W(但し、1.0≦a)・・・・式1
b×D
mean≦W(但し、2.0≦b)・・・・式2
0<S/A≦0.5・・・・式3
D
max:最大飛沫径[m]、
D
mean:平均飛沫径[m]、
W:試験片幅(有効試験片幅)[m
2]、
S:所定時間当たりの飛沫付着面積[m
2/H]、
A:試験片の面積(有効評価面の面積)[m
2]、を示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製試験片の表面に試験溶液の飛沫を付着させ、前記試験片に電流を流して電気抵抗を計測し、さらに前記試験片の温度を測定して前記試験片の腐食を評価する腐食試験装置であって、
前記試験片を保持する試験片保持手段と、
前記試験溶液の飛沫を発生する飛沫発生手段と、
前記試験片の温度および電気抵抗を測定する測定手段と、
測定した前記温度と電気抵抗から前記試験片の腐食量を計算する腐食量計算手段を有し、
前記試験片に付着する飛沫の最大飛沫径をDmax、平均飛沫径をDmeanとし、
前記試験片の表面において腐食を評価するための面である有効評価面の面積をAとし、
前記試験片の有効評価面の前記電流方向に垂直方向の幅をWとし、
前記試験片の有効評価面に所定時間あたり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積をSとしたとき、
以下の式1~式3の関係を満足することを特徴とする腐食試験装置。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
【請求項2】
前記試験片保持手段は、前記試験片を加熱するヒーターと、前記試験片と前記ヒーターの間に前記試験片の裏面全体と接する温度緩衝板を有する請求項1に記載の腐食試験装置。
【請求項3】
前記温度緩衝板が金属板である請求項2に記載の腐食試験装置。
【請求項4】
前記試験片がスリットを有する請求項1または2に記載の腐食試験装置。
【請求項5】
前記スリットの幅であるWslitが以下の式4を満足する請求項4に記載の腐食試験装置。
Dmean<Wslit ・・・・式4
【請求項6】
請求項1または2に記載の腐食試験装置を用いた腐食試験方法であって、
試験片を準備する試験片準備ステップと、
前記準備した試験片を保持する試験片保持ステップと、
前記試験溶液の飛沫を発生させて前記試験片の表面に前記飛沫を付着させ前記試験片の温度および電気抵抗を測定する測定ステップと、
測定した前記温度と前記電気抵抗から前記試験片の腐食量を計算する腐食量計算ステップを有し、
前記試験片準備ステップにおいて、予め前記試験片に付着する前記試験溶液の飛沫の直径を測定して最大飛沫径Dmaxと平均飛沫径Dmeanを求め、
前記試験片の表面において腐食を評価するための面である有効評価面の面積をAとし、
前記試験片の有効評価面で前記電流方向に垂直方向の幅をWとし、
前記試験片の有効評価面に所定時間あたり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積をSとしたときに、
以下の式1~式3の関係を満足する試験片を準備することを特徴とする腐食試験方法。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
【請求項7】
前記試験片に付着する前記試験溶液の飛沫の直径を予め計測する際に、前記試験片の表面に感水試験紙を貼付し、前記感水試験紙に残存した飛沫の直径を測定する請求項6に記載の腐食試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐食試験装置および腐食モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性の液体が鋼材に付着することで腐食が進行する環境がいくつか挙げられる。例えば、融雪塩散布環境では、自動車運転時に路上の塩化物イオンを含んだ液が巻き上げられ飛沫が付着し、足回りが腐食することが知られている。また、海洋構造物では、波の衝突によって発生した飛沫が付着し、激しい腐食が進行することが知られている。このような飛沫が付着する環境では、腐食性物質、例えば高濃度の塩化物イオン等を含んだ腐食性液体が直接構造物に付着し、さらにその乾湿の繰り返しで激しい腐食が発生する。このような数mm程度の腐食性液体の飛沫が付着する環境(以下、飛沫付着環境と言う。)に対して、めっきや重防食塗装や高合金耐食鋼で防食対策を行っているが、鋼材寿命の長時間化や塗装簡略化などによるLCC(Life-Cycle Cost)の低減が望まれている。LCC低減に資する材料開発のため、飛沫付着環境を再現した腐食試験法が求められており、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には回転体により試験溶液の飛沫を発生させる腐食試験方法が提案されている。特許文献2には金属片の電気抵抗と温度を同時に測定し、初期の抵抗と温度の関係から抵抗値の温度変化の影響を低減させた腐食モニタリング法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-78615号公報
【特許文献2】特開2020-20735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の腐食試験装置は、試験片に融雪剤や海水などの腐食性溶液の飛沫を付着させるものであり飛沫付着環境をうまく再現している。しかし、これはバッチ式の試験装置の提案であるため、断続的に付着する飛沫による腐食の経時変化評価には適していない。
【0006】
特許文献2に記載の腐食モニタリング方法は、腐食による試験片の断面積変化から試験片の電気抵抗変化をモニタリングすることができる。一方、飛沫による不均一な腐食進行については考慮されておらず、飛沫下の正確な腐食現象をモニタリングできることが求められている。
【0007】
そこで本発明は、飛沫付着環境で生じる腐食性液体の断続的で不均一な飛沫付着による腐食(不均一腐食)に対しても、経時的な腐食評価を可能にすることを課題とし、そのような腐食試験装置および腐食試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本発明の課題を達成するため鋭意検討し、以下の知見を得た。
(ア)
飛沫試験装置の試験片に電気抵抗モニタリングを適用することにより、試験片の不均一腐食の経時的モニタリングが可能になることを着想した。しかし、試験片サイズと飛沫飛散状態を適切に対応させないと飛沫付着環境を適正に再現した不均一腐食の評価ができない。そのため飛沫径分布と試験片形状の関係、および予め設定した所定時間当たりの飛沫付着面積と試験片の腐食を評価する面(有効評価面)の面積との関係を調査し、適正な飛沫条件と試験片形状の関係を見出した。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
ここで、
Dmax:最大飛沫径[m]、
Dmean:平均飛沫径[m]、
W:試験片幅(有効評価面の幅)[m]、
S:所定時間当たりの飛沫付着面積[m2/H]、
A:試験片の評価面(有効評価面)の面積[m2]、を示す。
【0009】
(イ)
電気抵抗モニタリングを適用する際に、試験片(金属板)の抵抗値は温度に影響される。そのため試験片内に温度ムラが生じると正確な腐食量を評価することができない。そこで、試験片内に温度ムラが発生しないよう、試験片全体(少なくとも有効評価面)に接するようにヒーターを配置し、尚且つヒーターと試験片の間に温度を均一化させるよう温度緩衝板(例えばTi板などの金属板)を配置するとよいことを見出した。これにより、試験片の評価面の温度を均一にすることができる。
【0010】
(ウ)
腐食量評価の精度を上げるためには、試験片の面積(有効評価面積)をできるだけ広くし、試験装置固有の局所的影響因子(ローカルな影響因子)を無視できるほど小さくして評価することが好ましい。一方で、電気抵抗モニタリングは、試験片の腐食による断面積の減少を電気抵抗で評価するものであるから、試験片の断面積が小さい方が変化を捉え易く、精度が高くなる。そこで、試験片にスリットを入れ、広い有効評価面積を確保しつつ、試験片の断面積を小さくすることにより、評価精度を向上させることができることを見出した。
【0011】
本発明は上記知見に基づいて成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]
金属製試験片の表面に試験溶液の飛沫を付着させ、前記試験片に電流を流して電気抵抗を計測し、さらに前記試験片の温度を測定して前記試験片の腐食を評価する腐食試験装置であって、
前記試験片を保持する試験片保持手段と、
前記試験溶液の飛沫を発生する飛沫発生手段と、
前記試験片の温度および電気抵抗を測定する測定手段と、
測定した前記温度と電気抵抗から前記試験片の腐食量を計算する腐食量計算手段を有し、
前記試験片に付着する飛沫の最大飛沫径をDmax、平均飛沫径をDmeanとし、
前記試験片の表面において腐食を評価するための面である有効評価面の面積をAとし、
前記試験片の有効評価面の前記電流方向に垂直方向の幅をWとし、
前記試験片の有効評価面に所定時間あたり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積をSとしたとき、
以下の式1~式3の関係を満足することを特徴とする腐食試験装置。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
[2]
前記試験片保持手段は、前記試験片を加熱するヒーターと、前記試験片と前記ヒーターの間に前記試験片の裏面全体と接する温度緩衝板を有する[1]に記載の腐食試験装置。
[3]
前記温度緩衝板が金属板である[2]に記載の腐食試験装置。
[4]
前記試験片がスリットを有する[1]または[2]に記載の腐食試験装置。
[5]
前記スリットの幅であるWslitが以下の式4を満足する[4]に記載の腐食試験装置。
Dmean<Wslit ・・・・式4
[6]
[1]~[5]のいずれか一項に記載の腐食試験装置を用いた腐食試験方法であって、
試験片を準備する試験片準備ステップと、
前記準備した試験片を保持する試験片保持ステップと、
前記試験溶液の飛沫を発生させて前記試験片の表面に前記飛沫を付着させ前記試験片の温度および電気抵抗を測定する測定ステップと、
測定した前記温度と前記電気抵抗から前記試験片の腐食量を計算する腐食量計算ステップを有し、
前記試験片準備ステップにおいて、予め前記試験片に付着する前記試験溶液の飛沫の直径を測定して最大飛沫径Dmaxと平均飛沫径Dmeanを求め、
前記試験片の表面において腐食を評価するための面である有効評価面の面積をAとし、
前記試験片の有効評価面で前記電流方向に垂直方向の幅をWとし、
前記試験片の有効評価面に所定時間あたり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積をSとしたときに、
以下の式1~式3の関係を満足する試験片を準備することを特徴とする腐食試験方法。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
[7]
前記試験片に付着する前記試験溶液の飛沫の直径を予め計測する際に、前記試験片の表面に感水試験紙を貼付し、前記感水試験紙に残存した飛沫の直径を測定する[6]に記載の腐食試験方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば飛沫付着環境を再現し、腐食性液体の断続的飛沫付着による不均一腐食に対しても経時的な腐食評価を可能にすることができる。本発明により断続的不均一腐食に対する材料開発や構造開発を効率的に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る腐食試験装置の一例の概要を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る試験片の断面の概要を示す図である。
【
図3】
図3(a)、
図3(b)とも、スリットを入れた試験片(有効評価面)の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例で測定した腐食量と時間(サイクル)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
[腐食試験装置]
腐食試験装置は、金属製試験片の表面に試験溶液の飛沫を断続的に付着させ、当該試験片に電流を流して電気抵抗を計測し、さらに試験片の温度を測定して、これら測定した電気抵抗と温度から試験片の腐食量を算出して腐食評価するものである。そのため、試験片を保持する試験片保持手段、試験溶液の飛沫を発生させる飛沫発生手段、試験片の温度と電気抵抗を測定する測定手段、そして測定した試験片の温度と電気抵抗から腐食量を算出する腐食量計算手段を少なくとも有している。
【0016】
例えば、前記の試験片保持手段、飛沫発生手段、測定手段が一つの閉空間を成す筐体内にあってもよい。例えば、この閉空間の温度、湿度、圧力などの大気雰囲気が制御され、より飛沫付着環境の実態に近い環境を再現することができるようにしてもよい。
【0017】
また、それ以外の付随手段があってもよい。例えば、さらに別の測定手段で測定したデータや腐食量計算手段で計算したデータを採取時間データとともに保存しデータベース化するストレージ手段や、そのデータベースを活用して解析・分析する腐食解析手段、さらにはデータ採取状況や腐食解析手段での解析結果などを表示するモニター手段を有していてもよい。腐食量計算手段、ストレージ手段、腐食評価手段、モニター手段は試験片保持手段の近傍にある必要はなく、データ回線などで接続されていればどこに存在していてもよい。
【0018】
以下、飛沫発生手段、試験片、試験片保持手段、測定手段、腐食量計算手段を中心に本発明に係る腐食試験装置の一実施形態について説明する。
【0019】
[飛沫発生手段]
飛沫を発生させる方法は特に限定されない。例えば特許文献1に開示されているような回転ブラシなどの回転体を試験溶液に浸漬させ、回転による遠心力で試験溶液の飛沫を飛散させてもよい。また例えばスプレーノズルにより、試験溶液を液滴化して試験片に吹き付けるようにして飛沫を飛散させてもよい。また例えば試験溶液中にバブル(空気などの気体の泡)を導入し、バブルがはじけることによって飛沫を飛散させてもよい。
【0020】
以降、
図1に示すような回転ブラシ2を飛沫発生手段とする腐食試験装置1を例として説明する。
図1の腐食試験装置1において、回転ブラシ2の一部が試験溶液3に浸漬し、遠心力により試験溶液の飛沫4を飛散させ試験片5に付着させる。試験片5に付着させる飛沫の形状(粒径)や飛沫の量などは、回転ブラシ2のブラシ材性状(ブラシ材(毛状の繊維)の形状、材質、本数、密度など)、回転ブラシ形状(回転ブラシ全体の直径や幅など)、回転数、試験溶液の性状(成分、粘度など)、回転ブラシの浸漬深さ、試験片までの距離などで調整することができる。
【0021】
[試験片]
腐食試験においては、試験片サイズと飛沫飛散状態を適切に対応させないと断続的な飛沫による不均一な腐食(不均一腐食)の適正な腐食評価ができない。例えば融雪塩散布環境や海洋構造物の飛沫帯は、常時全面に飛沫が付着しているということはない。腐食性液体が付着し乾燥することを繰り返すことで腐食が進んでいく。そのため、飛沫の粒径などの性状と試験片との最適化が求められる。発明者らは、融雪塩散布環境や海洋構造物の飛沫帯環境など実際の飛沫付着環境を研究したところ、飛沫粒径分布と試験片形状の関係、および所定時間当たり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積と試験片の腐食試験する面(有効評価面)の面積との関係が重要であることを見出した。
【0022】
まず、試験片の腐食試験する面(有効評価面)の幅と飛沫粒径との関係について説明する。飛沫粒径が有効評価面の幅に比較して大き過ぎると飛沫が有効評価面に納まりきらず適正な評価ができない。そのため有効評価面の幅Wは飛沫の最大粒径より大きくすることが好ましい。即ち、試験片の有効評価面の幅Wは、飛沫の最大粒径Dmaxの1.0倍以上にするとよい(式1)。即ち、式1に示す係数aは1.0以上であるとよく、例えば1.5以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上、4.0以上、5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上または10.0以上にすることが好ましい。式1の係数aは大きい方がよく上限は特に限定されないが、装置の形状などから制限される。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
【0023】
また、有効評価面において飛沫が適度に分散されて付着することが、実際の飛沫付着環境の状態に近くなり好ましい。例えば、試験片の有効評価面の幅Wが、飛沫の平均粒径Dmeanの2.0倍以上であることが好ましい(式2)。即ち、式2に示す係数bは2.0以上であるとよく、例えば3.0以上、4.0以上、5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上、または10.0以上であることが好ましい。
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
【0024】
次に所定時間当たり付着する飛沫の合計面積である飛沫付着面積と試験片の腐食試験する面(有効評価面)の面積との関係について説明する。実際の飛沫付着環境は、適度に飛沫が付着する状態を再現することが好ましい。本発明者らは幾多の実験を行い、実際の飛沫付着環境を再現するに適切な条件を見出した。所定時間(例えば30分間、または1時間など、予め設定した時間)当たりの飛沫付着面積が広すぎると、付着と乾燥のサイクルができず、常時付着して湿潤状態となるため実際の飛沫付着環境を再現できない。そこで所定時間の飛沫付着面積Sと試験片の腐食評価する面(有効評価面)の面積Aの比S/Aは、0.50以下であるとよい(式3)。好ましくは0.45以下、0.40以下、または0.35以下であるとよい。一方、飛沫付着面積の下限は特に限定しない。飛沫が少しでも試験片に付着すればよい。よって、飛沫付着面積Sは0より大きければよい。しかし、飛沫付着面積が少なすぎると、腐食が局所的になり、精度の高い腐食評価がし難くなる。そのため、好ましくは所定時間当たりの飛沫付着面積Sと試験片の腐食評価する面(有効評価面)の面積Aの比は、0.03以上であるとよい(式3)。さらに好ましくは0.05以上、0.07以上、0.10以上、0.15以上、または0.20以上であるとよい。
0<S/A≦0.50 ・・・・式3
【0025】
飛沫付着面積を測定するため飛沫飛散させる時間である所定時間は、腐食評価前提となる飛沫付着環境により決定するとよいが、一般的な飛沫付着環境、例えば融雪塩散布環境や海洋構造物の飛沫帯の場合の所定時間は30分間であれば問題はない。また、上記した式1~式3をまとめると以下のとおりである。
a×Dmax≦W (但し、1.0≦a) ・・・・式1
b×Dmean≦W(但し、2.0≦b) ・・・・式2
0<S/A≦0.5 ・・・・式3
Dmax:最大飛沫径[m]、
Dmean:平均飛沫径[m]、
W:試験片幅(有効試験片幅)[m2]、
S:所定時間(例えば30分)での飛沫付着面積[m2]、
A:試験片の面積(有効評価面の面積)[m2]、を示す。
【0026】
試験片5の材質は、電気抵抗値で腐食評価するため導電性ものであれば特に限定されない。一般に自動車や海洋構造物としては金属材料が多用されるので、試験片も金属製である場合が多い。金属であればその材質は特に限定しない。Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)などの非鉄材料も適用できる。また、金属を母材として表面にめっきや耐食塗料塗布などの表面処理をした材料でもよい。例えば鉄鋼材料などで表面にめっきを施した鋼材や、表面に耐食性塗料を塗布した鋼材でも構わない。これによりめっき皮膜や耐食性塗料の耐食評価を行うことができる。
【0027】
試験片の形状は、上記の飛沫性状との関係を満足すれば、形状自体は特に限定しない。試験片は平板状であってもよく、棒状やパイプ状であってもよく、部品のような複雑形状であってもよい。対象となる構造物に応じて適宜決定するとよい。しかし、材料の腐食評価をするに当たり、できるだけ面内において飛散飛沫の付着条件を均一にすることが好ましく、この観点から平板状にすることが好ましい。また、試験片の形も特に限定しないが、有効評価面の幅はできる限り一定であることが好ましい。そのため、好ましくは長方形(正方形も含む)であるとよい。以下、長方形で平板状の試験片を前提に説明する。
【0028】
試験片の大きさも特に限定しない。飛散飛沫が付着し腐食を評価する面(有効評価面)が狭すぎると試験片の局所状態などが影響し精度のよい評価ができない場合があるので、有効評価面をできるだけ広くすることが好ましい。試験片の厚さも特に限定はしないが、試験片内で温度を均一にする観点から板厚はできるだけ薄い方が好ましい。しかし、想定される腐食量や強度などから板厚は適宜決定すればよい。
【0029】
また、
図2に示すように、試験片に電気を流し、試験片5の電気抵抗値をモニタリングするため、試験片中の有効評価面10の端部には電極端子(図示せず。)を設ける。ここで、試験片の有効評価面において電気の流れる方向(電流方向)の長さを試験片の長さ、電流経路に垂直方向の長さが試験片の幅であり、試験片の幅のうち最も短い値をその試験片の幅Wとして定義する。本明細書において、単に「試験片の幅」と言う場合はこの最も短い試験片の幅Wを指すものとする。試験片の電気抵抗値は、これら電極端子間の電圧値と電流値から求めるため、実際評価する範囲は電極端子間になる。即ち電極端子の間が有効評価面になる。
【0030】
さらに、試験片5には少なくとも一つの温度センサ11(
図2では熱電対をイメージした図である。)が組み込まれる。試験片の代表温度を測定するため、少なくとも有効評価面の中央近傍に温度センサが配置されることが好ましい。
【0031】
[試験片保持手段]
図1に示すように、試験片5は試験保持手段6により腐食試験装置1の筐体9に保持される。試験片保持方法については特に限定しない。飛沫の飛散に対し、有効評価面に適切に飛沫が付着するように試験片を配置し保持すればよい。例えば、
図1のように回転ブラシ2で飛沫飛散させる場合は、回転ブラシの回転軸、試験溶液3の液面、試験片5の有効評価面が互いに平行になるように配置するとよい。例えば、スプレーノズルにより飛沫を飛散させる場合は、スプレー形状の軸に垂直になるように試験片の有効評価面を配置するとよい。
【0032】
試験片全体で温度が均一になるよう、試験片5の裏面(有効評価面の反対側の面)にヒーター(加熱器)8を設置してもよい。ヒーター8により、試験片の温度を試験環境に合わせて設定することができる。試験片全体を均一に加熱し温度保持する観点から、平面状のヒーターが好ましい。例えば、電気的に加熱でき制御が簡便なマイカヒーターなどが好ましい。電磁誘導などの非接触加熱を適用してもよい。また、ヒーター内の温度ムラが試験片に伝わり、試験片内で温度ムラが生じないよう、試験片5とヒーター8の間に温度緩衝板7を挟んで配置してもよい。この温度緩衝板は試験片裏面と、好ましくは裏面全体と接するように配置するとよい。温度緩衝板によりヒーター8からの伝熱性を均一にしてヒーター8の温度ムラなどの要因で試験片5内の温度が不均一になることを抑制することができる。温度緩衝板7の材質は特に限定しないが、加工性や耐食性の観点から金属板が好ましい。金属板の材質としては耐腐食性を有し伝熱性もよいTiやAlが好ましい。
【0033】
[測定手段]
試験片の温度と電気抵抗を測定する手段についても特に限定しないが、前述したように試験片5の有効評価面10の両端に電極端子(図示せず。)を設け、端子間の電圧値と電流値を測定し、少なくとも有効評価面の中央部近傍に温度センサを配置して測定するとよい。
【0034】
温度測定の場合、例えば試験片5の裏面に温度センサ11を設置して温度を測定するとよい。試験片全体で温度が均一になることが望ましく、そのため温度センサは一つでもよいが、できれば複数設置することが好ましい。温度センサ11としては、熱電対や赤外線放射温度計などを適用することができる。外乱が少なく信頼性が高いものとしては熱電対が好ましい。
【0035】
試験片5の電気抵抗は、前述したように試験片に直接電気を流すことによりその電流と試験片端の電圧を計測することで、試験片の電気抵抗を随時求めることができる。
【0036】
図2に試験片5の断面において、温度センサ11としての熱電対と電気抵抗を求めるための電流計13と電圧計12の設置状態を示す概念図を示す。電流測定のための端子と電圧測定のための端子は試験片5の有効評価面10の長手方向の両端部に配置することが望ましい。これら両端子間の領域の腐食状態をモニタリングすることができるからである。
図2の場合、試験片5の左端から右端に向かって電気が流れており、電圧計12と電流計13により測定された電圧値と電流値から電圧端子間の電気抵抗が算出される。
図2では、図面上方が試験片5で実際に腐食を評価する面(有効評価面10)になっており、その裏面に温度センサ11や電流端子、電圧端子を設け、有効評価面以外は試験溶液が直接センサや端子に付着しないように樹脂などでコーティング14している。コーティング14は絶縁性を有するとよく、また試験溶液に対する耐性(耐食性や耐薬品性など)を有するとよい。
【0037】
[腐食量計算手段:腐食量計算ステップ]
腐食計算手段(腐食計算ステップ)では、測定手段(測定ステップ)によって計測された温度、電流値、電圧値から試験片の腐食量を算出する。
以下、説明を簡単にするため、腐食試験期間(腐食試験を開始してから終了するまでの期間)において温度が一定であることを前提として説明する。
【0038】
腐食試験は、試験溶液の飛沫が試験片に断続的で不均一に付着しその後乾燥することを繰り返すことで腐食が進む。腐食することにより、腐食部分に当たる試験片の断面積が減少することにより、その分電気抵抗値が増加することになる。金属などの導体における電気抵抗値は電流経路の断面積に反比例することはよく知られている(式5)。即ち、有効評価面の長さLと材料の抵抗率ρは一定であるから、電気抵抗値Rと断面積Aの積は一定になる。
R=V/I=ρL/A ・・・・式5
R:電気抵抗値
V:電圧
I:電流
ρ:材料の抵抗率
L:導体(試験片の有効評価面)長さ
A:導体(試験片の有効評価面)断面積
つまり、任意の測定時点における電気抵抗Rが測定されたとき、その時点での試験片断面積Aは式6で求められる。
A=A0×R0/R ・・・・式6
R0:腐食試験前の初期状態においての試験片(有効評価面)の電気抵抗値
A0:初期状態においての試験片(有効評価面)の断面積
また、試験片(有効評価面)の幅W、厚さdとし、有効評価面全体が均一に腐食したと仮定して求める平均腐食量Δdは式7で求められる。
Δd=A0/W-A/W
=(A0/W)×(1-R0/R)
=d0(1-R0/R) ・・・・式7
d0:初期状態においての試験片(有効評価面)の厚さ
以上のようして求められる平均腐食量Δdで試験片の耐腐食性を評価するとよい。
【0039】
温度変化による電気抵抗の補償方法については特許文献2に記載の方法を適用することができる。簡潔に説明すると、試験片の電気抵抗値Rは温度の関数となるのでこれを温度依存関数としてRF(T)と表す。金属材料により電気抵抗値の温度変化は異なるため、予め試験片の材質に応じた温度依存関数RF(T)を求めておく。初期状態での温度をT0とし、腐食評価試験中の任意の時点で測定したときの温度がT、電気抵抗値がRであったとき、測定時の電気抵抗値Rを温度T0での電気抵抗値RT0に換算するには式8で求めることができる。このように、任意の測定時点において測定された電気抵抗値Rを、初期状態での温度T0に換算した電気抵抗値RT0にて比較することにより温度変化の影響を補償して腐食量を把握することができる。
RT0=R×{RF(T0)/RF(T)} ・・・・式8
【0040】
測定した電気抵抗値Rを初期状態での温度T0に式8で換算した電気抵抗値RT0を式7のRに代入することで、温度の影響を相殺して精度よく平均腐食量を求めることができる。もちろん、初期状態(温度T0)での電気抵抗値R0を測定時の温度(T)に換算して式7に代入してもよい。どちらの方法も同じ値になるので、どちらの換算方法をとっても問題はない。
【0041】
[試験片準備ステップ]
[飛沫粒径、飛沫付着面積]
前述したように、腐食試験においては、飛沫の飛散状態と試験片を適切に対応させないと、断続的な飛沫による不均一な腐食(不均一腐食)の適正な腐食評価ができない。そのため、飛沫の粒径などの性状と試験片との最適化が求められ、飛沫粒径分布と試験片形状の関係、および所定時間当たりの飛沫付着面積と試験片の腐食試験する面(有効評価面)の面積との関係が重要であることを示した。従って、試験片の形状を決めるため、事前に試験装置における飛沫の粒径などの性状を測定する。
【0042】
[飛沫粒径の測定]
飛沫粒径は感水試験紙にて測定することができる。試験片の腐食試験する面(有効評価面)に感水試験紙を貼付し、腐食試験と同様にして試験溶液の飛沫を飛散させ、飛沫の付着状況を観察することで測定することができる。感水試験紙は、水分が付着すると変色するものであり、乾燥しても変色部分は変化しないので、飛沫の付着痕を事後に確認することができる。所定時間飛沫を飛散させ、感水試験紙に残された付着痕で、飛沫の最大粒径、平均粒径、粒径分布を求めることができる。また、有効評価面全体に感水試験紙を貼付することで、飛沫付着面積を測定することも可能となる。例えば、画像処理により二値化することで容易に飛沫の粒径分布や飛沫付着面積を求めることができる。試験片の有効評価面全体で測定してもよいし、有効評価面のうち、10mm角の正方形(もしくは、有効評価面の幅が10mm以下の場合は、その幅以下の長さを1辺とする正方形)の観察面を任意に3か所以上選択し、それら観察面内で飛沫の最大粒径、平均粒径および飛沫付着面積比を測定し、それらの数値を算術平均して求めてもよい。
【0043】
[スリット]
試験片の有効評価面の腐食量評価の精度を上げるためには、試験片の面積(有効評価面積)をできるだけ広くし、試験装置固有の局所的影響因子(ローカルな影響因子)を無視できるほど小さくして評価することが好ましい。一方で、電気抵抗モニタリングは、試験片の腐食による断面積の減少を電気抵抗で評価するものであり、試験片の断面積が小さい方が、精度が上がる。そこで、
図3(a)、
図3(b)に一例を示すように試験片5にスリット31を入れてもよい。スリットを入れることにより、広い有効評価面積を確保しつつ、有効評価面の幅を狭くして断面積を小さくすることにより、評価精度を向上させることができる。具体的には、試験片の有効評価面にスリットを入れ、電流経路長(電流の流れる長さ)を長くするとよい。スリットの入れ方は特に限定しないが、有効評価面の幅Wができるだけ同じになるようにスリットを入れることが好ましい(一例を
図3(a)、図(b)に示す。)。
【0044】
またスリット幅は特に限定しないが狭すぎると、そこに飛沫が付着した時に電流経路が形成され電気的短絡(ショート)を生じる可能性がある。一方、飛沫(液体)によりスリット部が短絡したとしても試験片である金属の電気伝導性が極めて高いため、多少の飛沫付着によりスリット部が短絡したとしても影響は少なく、無視できる程度である。そのため、スリット幅Wslitは飛沫の平均粒径Dmeanより広くすることが望ましい(式4)。好ましくは、平均粒径Dmeanの1.2倍以上、1.4倍以上、または1.5倍以上にするとよい。
Dmean<Wslit ・・・・式4
Wslit:スリット幅
なお、試験片の有効評価面積に余裕があり、スリット幅を十分に確保できる場合は、スリット幅(Wslit)を最大粒径(Dmax)より広くすることが好ましい。
【0045】
スリットを入れることにより試験片の有効評価面の面積は減少する可能性があるが、スリットを入れる前の有効評価面(
図3中の点線で示す)内と同じ不均一腐食が起きていると想定されるため、同じ不均一腐食評価において問題はない。さらに、厚さは変わらないので有効評価面の幅Wは狭くなる分断面積が小さくなり腐食評価の精度が上がるため有効である。試験体の有効評価面の面積はスリットを入れた分減少するものの、スリットを入れる前の有効評価面(
図3中の点線で示す)内と同じ不均一腐食が起きていると想定されるため、同じ不均一腐食評価において精度を上げることができる。同じ不均一腐食が起きていることを確認するため、スリットを入れた場合、所定時間の飛沫付着面積と有効評価面の面積との比(式3のS/A)の下限を大きくすることが好ましく、できれば0.10以上、好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上であるとよい。
【0046】
[腐食試験方法]
以上説明した腐食試験装置を用いた腐食試験方法について説明する。
【0047】
[試験片保持ステップ]
腐食試験に先立ち、試験片に付着する試験溶液の飛沫性状を把握する。飛沫性状については、前述したように試験片に感水試験紙を貼付し、所定時間実際の腐食試験と同様に飛沫を付着させ、感水試験紙に残存した飛沫の付着痕から飛沫性状(最大粒径Dmax、平均粒径Dmean)を把握する。また、試験片の腐食試験をする面(有効評価面)における飛沫の付着面積Sと有効評価面の面積Aの比率を求める。
【0048】
次に得られた最大粒径Dmaxと平均粒径Dmeanと試験片の有効評価面の幅W、および所定時間当たりの付着面積Sと有効評価面の面積Aの比S/Aが所定の範囲になるように試験装置の飛沫発生手段を調整する。
【0049】
最終的に最大粒径Dmaxと平均粒径Dmeanと試験片の有効評価面の幅W、および所定時間当たりの付着面積Sと有効評価面の面積Aの比S/Aが所定の範囲になることを確認したのち、試験片を試験片保持手段に取付け、腐食試験を開始する。
【0050】
[測定ステップ]
腐食試験を開始後は、飛沫発生手段により試験溶液の飛沫を飛散させて試験片に付着させ、測定手段により温度、電流値、電圧値を測定し、測定されたデータを腐食計算手段に送付する。
【0051】
[腐食量計算ステップ]
測定ステップで得られた温度、電流値、電圧値のデータから、腐食量計算手段において、測定時点における試験片の電気抵抗を計算し、そこから平均腐食量などを算出する。算出した電気抵抗や平均腐食量から腐食性を評価することができる。
【0052】
なお、腐食量計算手段で計算したデータを、ストレージ手段にて時間データとともに保存しデータベース化してもよい。また、そのデータベースを活用して、腐食評価手段で解析・分析してもよい。さらにはモニター手段において、データ採取状況やデータ解析結果などを表示してもよい。腐食量計算手段、ストレージ手段、腐食評価手段、モニター手段は試験片保持手段の近傍にある必要はなく、データ回線などで接続されていればどこに存在していてもよい。
【0053】
上記測定ステップと腐食量計算ステップを繰り返し行うことで、試験片の不均一腐食を経時的に腐食評価することができる。
【実施例0054】
図1に示すような回転ブラシ式の腐食試験装置(本腐食試験装置)を用いて、間欠的に腐食性液体が飛散する飛沫付着環境を再現した腐食試験を行った。腐食試験の内容は以下のとおりである。
・試験片材料:炭素鋼(SM490A)、
・試験片の有効評価面サイズ:0.5t×10w×100L(mm)
・試験サイクル:1日(24時間)を1サイクルとし、腐食促進を目的に2回/日飛沫飛散することを前提としたサイクル条件を表1に示す。回転ブラシの回転数および試験片温度、さらに飛沫粒径の最大粒径(D
max)と平均粒径(D
mean)の試験前提の諸元を表1に示す。
・試験溶液:人工海水(八洲薬品製アクアマリン)。試験溶液(人工海水)の成分を表2に示す。
・試験溶液交換頻度:2~4サイクル毎に交換
・試験期間 :30サイクル(30日相当)
・温度センサや端子は
図2に示すように、試験片の有効評価面の裏側に設置した。電圧電流端子は、有効評価面の長手方向の両端に、温度センサは有効評価面のほぼ中央に熱電対を設置した。計測された温度、電流、電圧のデータはコンピュータ(図示していない。)に取込み、計算処理して電気抵抗値を求め、それに応じて平均腐食量Δdを求めた。
・なお、腐食試験開始前に、試験片に感水試験紙を貼付し、飛沫性状と付着面積の調整を行った。この時、30分間飛沫付着させ、感水試験紙に残存した飛沫痕を二値化して計測した飛沫粒径(飛沫サイズ)と付着面積比(S/A)も表1に示す。
【0055】
また、センサが正しく機能しているかを確認するため、試験前の試験片の重量を測定し、30サイクル後に試験片表面に形成した腐食生成物を除去した後に重量を測定し、試験前後の重量変化からも平均腐食量を算出した(重量法)。各試験における本腐食試験装置で計測した腐食量と、従来のように重量法により測定した腐食量を表3に示す。
【0056】
得られた試験片の不均一腐食時の腐食量の経時変化測定結果の例(試験条件1)を
図4に示す。
図4には、重量法から求めた30サイクル後の腐食量も記載している(図中の〇印)。
【0057】
表3および
図4から分かるように、本腐食試験機による腐食試験方法で求めた腐食速度は、試験前後の試験片の重量変化測定(重量法)結果とよく一致しており、今回用いた本腐食試験装置で精度よく飛沫付着環境で腐食モニタリングできたことが確認された。
【0058】
図4から腐食量が時間経過に従い若干加速されていることが分かる。図示はしていないが、他の試験条件でも同様に腐食量が時間経過とともに加速されていることが確認されている。即ち、飛沫付着環境のような不均一腐食の場合、時間の経過と共に徐々に腐食速度が上がることが確認できた。従来のような試験前後の重量減少だけの評価であると腐食速度が変化していることは把握できず、一定の腐食速度を前提とすることしかできなかったが、本発明に係る本腐食試験装置および腐食測定方法を採用することにより、経時的な腐食変化を計測できることが可能となり、実際には経時的に腐食速度が加速されていることが確認できた。
【0059】
また、除錆後の試験片の表面(有効評価面)を観察したところ、試験片表面は不均一な腐食で全面が覆われており、粒径サイズが数mm程度の飛沫で腐食が進行したことが確認された。このように、本発明に係る腐食試験装置、腐食試験方法により、不均一腐食において何が起きているのかを詳細に解析・分析できることが確認された。
【0060】
【0061】
【0062】
本発明は腐食性液体の飛沫が付着して不均一腐食が進行する飛沫付着環境下で用いる構造物に適用するための材料開発や材料選定に利用することができる。そうして開発された材料は、広く建築業界、電力業界、造船業界など広く産業界や、環境問題への対応などあらゆる分野において利用することができる。