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特開2024-130110リチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130110
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240920BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039634
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】廣田 洋平
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ13
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029HJ14
5H029HJ18
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出するために必要なエージング時間を短縮でき、かつ集電体やリチウムイオン電池活物質等の部材の腐食を抑制できるリチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】塩素元素とLiFSIを含むリチウムイオン電池用電解液であって、前記塩素元素の含有量が0.0008ppm以上1500ppm以下である、リチウムイオン電池用電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素元素とLiFSIを含むリチウムイオン電池用電解液であって、
前記塩素元素の含有量が0.0008ppm以上1500ppm以下である、リチウムイオン電池用電解液。
【請求項2】
前記LiFSIの含有量が0.001mol/L以上5mol/L以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項3】
前記LiFSIとは異なるリチウム塩をさらに含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項4】
前記LiFSIとは異なるリチウム塩の含有量が0.001mol/L以上5mol/L以下である、請求項3に記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項5】
さらに溶媒を含む、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項6】
前記溶媒がカーボネート類を含む、請求項5に記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項7】
正極と、負極と、セパレータと、請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液と、を含むリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液を含むリチウムイオン電池をエージングするエージング工程を含む、リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項9】
前記エージング工程における前記リチウムイオン電池の電圧降下量を測定し、前記電圧降下量を基準値と比較することにより前記リチウムイオン電池中の導電性異物の有無を検出する異物検出工程と、
前記導電性異物が検出されなかった前記リチウムイオン電池を良品として選別する選別工程と、
をさらに含む、請求項8に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項10】
前記エージング工程における環境温度が0℃以上100℃以下である、請求項8又は9に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項11】
前記エージング工程の時間が1時間以上720時間以下である、請求項8~10のいずれかに記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項12】
前記エージング工程後に前記リチウムイオン電池の放電をおこない、さらに前記異物検出工程における前記リチウムイオン電池の電圧を2.5V以上4.5V以下に設定する、請求項8~11のいずれかに記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池内に金属等の導電性異物が混入した場合、リチウムイオン電池の使用中に正負電極間で短絡が起き、電圧の低下や発熱が生じるおそれがある。そのため、リチウムイオン電池の製造工程においては、導電性異物が混入した電池を検出し、その電池を製品から不良品として取り除いている。
【0003】
リチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出する技術としては、特許文献1に記載の技術が挙げられる。
特許文献1には、正極活物質にリチウム遷移金属複酸化物を用いた正極と、負極活物質に炭素材を用いた負極とがポリオレフィン系セパレータを介して配置されたリチウム二次電池中の導電性異物の有無を検査するリチウム二次電池の検査方法であって、前記リチウム二次電池に少なくとも1回充電し、前記リチウム二次電池を45℃以上の環境温度下で所定時間放置後の電圧低下を求め、該求めた電圧低下が予め設定された電圧低下基準より大きいときに前記導電性異物が前記リチウム二次電池中に存在すると判定することを特徴とする検査方法が開示されている。
特許文献1には、正負極とセパレータとの間に導電性異物が存在する場合、リチウム二次電池を45℃以上の環境温度下に所定時間放置すると、導電性異物から導電性結晶の成長が進行し、短時間で導電性異物がセパレータを貫通して内部短絡を引き起こすため、通常の電圧低下を越える電圧低下が発生する、と記載されている。また、特許文献1には、特許文献1の検査方法では、この原理に着目して、所定時間放置後の電圧低下を求め、求めた電圧低下が予め設定された電圧低下基準より大きいときに導電性異物がリチウム二次電池中に存在すると判定する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-158643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出するために必要なエージング時間を短縮でき、かつ集電体やリチウムイオン電池活物質等の部材の腐食を抑制できるリチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下に示すリチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法が提供される。
[1]
塩素元素とLiFSIを含むリチウムイオン電池用電解液であって、
前記塩素元素の含有量が0.0008ppm以上1500ppm以下である、リチウムイオン電池用電解液。
[2]
前記LiFSIの含有量が0.001mol/L以上5mol/L以下である、上記[1]に記載のリチウムイオン電池用電解液。
[3]
前記LiFSIとは異なるリチウム塩をさらに含む、上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン電池用電解液。
[4]
前記LiFSIとは異なるリチウム塩の含有量が0.001mol/L以上5mol/L以下である、上記[3]に記載のリチウムイオン電池用電解液。
[5]
さらに溶媒を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液。
[6]
前記溶媒がカーボネート類を含む、上記[5]に記載のリチウムイオン電池用電解液。
[7]
正極と、負極と、セパレータと、上記[1]~[6]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液と、を含むリチウムイオン電池。
[8]
上記[7]に記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
上記[1]~[6]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電解液を含むリチウムイオン電池をエージングするエージング工程を含む、リチウムイオン電池の製造方法。
[9]
前記エージング工程における前記リチウムイオン電池の電圧降下量を測定し、前記電圧降下量を基準値と比較することにより前記リチウムイオン電池中の導電性異物の有無を検出する異物検出工程と、
前記導電性異物が検出されなかった前記リチウムイオン電池を良品として選別する選別工程と、
をさらに含む、上記[8]に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
[10]
前記エージング工程における環境温度が0℃以上100℃以下である、上記[8]又は[9]に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
[11]
前記エージング工程の時間が1時間以上720時間以下である、上記[8]~[10]のいずれかに記載のリチウムイオン電池の製造方法。
[12]
前記エージング工程後に前記リチウムイオン電池の放電をおこない、さらに前記異物検出工程における前記リチウムイオン電池の電圧を2.5V以上4.5V以下に設定する、上記[8]~[11]のいずれかに記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出するために必要なエージング時間を短縮でき、かつ集電体やリチウムイオン電池活物質等の部材の腐食を抑制できるリチウムイオン電池用電解液、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0009】
[リチウムイオン電池用電解液]
以下、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液について説明する。
【0010】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液は、塩素元素とLiFSIを含むリチウムイオン電池用電解液であって、前記塩素元素の含有量が0.0008ppm以上1500ppm以下である。
【0011】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中の塩素元素の含有量は、エージング時間をより一層短縮させる観点から、より好ましくは0.001ppm以上、さらに好ましくは0.0025ppm以上、より好ましくは0.005ppm以上、さらに好ましくは0.0075ppm以上、さらに好ましくは0.01ppm以上、さらに好ましくは0.025ppm以上、さらに好ましくは0.05ppm以上、さらに好ましくは0.075ppm以上、さらに好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.25ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは0.75ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上であり、そして、電池部材の腐食をより一層抑制する観点から、好ましくは1200ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは750ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは250ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは25ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは7.5ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは2.5ppm以下である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中の塩素元素の定量方法は特に限定されず、イオンクロマトグラフィーなど公知の方法によりおこなうことができる。イオンクロマトグラフィーは、検出限界が低く信頼性が高い点で好ましい。
【0012】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中の塩素元素の含有量を上記範囲に調整する手段は特に限定されず、例えば、電解液に塩素元素を含有する化合物を添加することにより電解液中に塩素元素を含有させてもよいし、電極やセパレータ等の電池部材に含まれる塩素元素を電解液中に溶出させることにより電解液中に塩素元素を含有させてもよい。
【0013】
本発明者らは、電解液中にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下LiFSIと呼ぶことがある)と塩素元素が共存すると、異物検出までのエージング時間が短縮されることを見出した。
エージング時間短縮のメカニズムは明らかではないが、電解液中にLiFSIと塩素元素が共存すると、まず、塩素元素が導電性異物表面上の不動態被膜を破壊することで導電性異物の溶解が開始し、溶解が開始すると、LiFSIが溶解を促進し、これにより導電性異物の結晶の成長が促進され、導電性異物発生までの時間が短縮されるというメカニズムが推測される。
さらに、本発明者らは、検討の結果、電解液中にLiFSIと塩素元素が共存し、塩素元素の含有量が一定以下であると、集電体やリチウムイオン電池活物質等の電池部材の腐食を抑制できるということを見出した。
【0014】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中のLiFSIの含有量は、エージング時間をより一層短縮させる観点から、好ましくは0.0001mol/L以上、より好ましくは0.00025mol/L以上、さらに好ましくは0.0005mol/L以上、さらに好ましくは0.00075mol/L以上、さらに好ましくは0.001mol/L以上、さらに好ましくは0.0025mol/L以上、さらに好ましくは0.005mol/L以上、さらに好ましくは0.0075mol/L以上、さらに好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.025mol/L以上であり、そして、電池部材の腐食をより一層抑制する観点から、例えば5mol/L以下であり、好ましくは2.5mol/L以下、より好ましくは1mol/L以下、さらに好ましくは0.75mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下、さらに好ましくは0.25mol/L以下、さらに好ましくは0.1mol/L以下、さらに好ましくは0.075mol/L以下、さらに好ましくは0.05mol/L以下である。
【0015】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液は、イオン伝導度向上の観点から、好ましくはLiFSIとは異なるリチウム塩をさらに含む。
【0016】
本実施形態に係るLiFSIとは異なるリチウム塩は、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON及び低級脂肪酸カルボン酸リチウムからなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくはLiPF及びLiClからなる群から選択される一種または二種以上を含含み、より好ましくはLiPFを含む。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中の前記LiFSIとは異なるリチウム塩の含有量は、イオン伝導度向上の観点から、好ましくは0.001mol/L以上、より好ましくは0.0025mol/L以上、さらに好ましくは0.005mol/L以上、さらに好ましくは0.0075mol/L以上、さらに好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.025mol/L以上、さらに好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.075mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/L以上、さらに好ましくは0.25mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上、さらに好ましくは0.75mol/L以上、さらに好ましくは1.0mol/L以上であり、そして、電池部材の腐食をより一層抑制する観点から、例えば5mol/L以下、好ましくは2.5mol/L以下、より好ましくは2.0mol/L以下、さらに好ましくは1.5mol/L以下、さらに好ましくは1.25mol/L以下である。
なお、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液中にLiFSIとは異なるリチウム塩が複数種含まれる場合、LiFSI以外のすべてのリチウム塩の合計量をLiFSIとは異なるリチウム塩の含有量とする。
【0018】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液は、溶媒をさらに含む。
【0019】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液が含む溶媒は、電解質を溶解させることができるものであれば特に限定されるものではなく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;及び1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類からなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくはカーボネート類を含む。
【0020】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液の粘度は、例えば1.5mPa・s以上であり、そして、電池内の導電性異物をより短期間で検出する観点から、好ましくは4.5mPa・s以下であり、より好ましくは4.0mPa・s以下であり、さらに好ましくは3.5mPa・s以下である。電解液の粘度が上記上限値以下であると、電解液中での導電性異物のイオンの拡散が良好なものとなり、導電性異物の上記タネをより早く成長させることができるため、リチウムイオン電池内の導電性異物をより短期間で検出することができると考えられる。
ここで、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液の粘度は、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液の各成分の種類及び量等を調整することにより調節することができる。
【0021】
[リチウムイオン電池]
以下、本実施形態に係るリチウムイオン電池について説明する。
【0022】
本実施形態に係るリチウムイオン電池は、正極と、負極と、セパレータと、上記のリチウムイオン電池用電解液と、を含む。
【0023】
以下、本実施形態に係るリチウムイオン電池の各部材について説明する。
【0024】
<電極>
まず、電極、つまり負極及び正極について説明する。
【0025】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の正極及び負極は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0026】
はじめに、電極スラリーを調製する。
上記電極スラリーの調製は一般的に公知の方法に準じておこなうことができるため、特に限定されないが、例えば、活物質と、バインダーと、増粘剤と、導電助剤とを混合機により混合して、任意の溶媒に分散または溶解させることにより調製することができる。電極スラリー中の各材料の混合比は、電池の使用用途等に応じて適宜決定される。混合機としては、ボールミルやプラネタリーミキサー等の公知のものが使用でき、特に限定されない。混合方法も特に限定されず、公知の方法に準じておこなうことができる。
【0027】
上記活物質は特に限定されず、電池の使用用途等に応じて適宜選択される。また、正極を作製するときは正極活物質を使用し、負極を作製するときは負極活物質を使用する。
【0028】
上記正極活物質は、リチウムイオン電池の正極に使用可能な正極活物質であれば特に限定されないが、リチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が容易におこなえるように電子伝導度が高い材料を用いるという観点から、例えば、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・マンガン・ニッケル複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物;TiS、FeS、MoS等の遷移金属硫化物;MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物及びオリビン型リチウムリン酸化物からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0029】
上記負極活物質は、リチウムイオン電池の負極に使用可能な負極活物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料;リチウム金属、リチウム合金等のリチウム系金属;シリコン、スズ等の金属;及びポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマーからなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0030】
上記電極スラリーは、上記活物質同士および上記活物質と集電体とを結着させる役割をもつバインダーをさらに含んでもよい。
【0031】
上記バインダーは、リチウムイオン電池に使用可能なバインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレン・ブタジエン系ゴム及びポリイミドからなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0032】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の正極は、好ましくはポリフッ化ビニリデンを含む。
【0033】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の負極は、好ましくはポリフッ化ビニリデン及びスチレン・ブタジエン系ゴムからなる群から選択される一種又は二種以上を含み、より好ましくはスチレン・ブタジエン系ゴムを含む。
【0034】
上記バインダーの使用形態は特に限定されないが、環境に優しい点や結着性に優れる点から、水系溶媒に上記バインダーをラテックス状態で分散あるいは溶解して用いる、いわゆる水系バインダーが好ましい。なお、電池性能をより一層向上させる観点から、水系バインダーは負極に使用することが好ましい。
【0035】
上記電極スラリーは、塗布に適した流動性を確保する点から、増粘剤をさらに含んでもよい。
【0036】
上記増粘剤は、リチウムイオン電池に使用可能な増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等からなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくはCMCを含む。
【0037】
上記電極スラリーは、さらに導電助剤を含んでもよい。
上記導電助剤は、リチウムイオン電池に使用可能な導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック、カーボンブラック及び気相法炭素繊維等の炭素材料からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0038】
上記電極スラリーの各材料を分散または溶解させる溶媒は特に限定されず、公知のものを適宜用いることができる。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)及び水からなる群から選択される一種又は二種以上を用いることができる。
【0039】
つづいて、得られた電極スラリーを集電体上に塗布して乾燥する。
電極スラリーを集電体上に塗布する方法は、一般的に公知の方法を用いることができ、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等を挙げることができる。
【0040】
上記電極スラリーは、集電体の片面のみ塗布しても両面に塗布してもよい。集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次でも、両面同時に塗布してもよい。また、集電体の表面に連続で、あるいは、間欠で塗布してもよい。塗布層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさに応じて、適宜決定することができる。
【0041】
塗布した上記電極スラリーの乾燥方法は、一般的に公知の方法を用いることができる。熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。乾燥温度は、例えば30℃以上350℃以下の範囲である。
【0042】
本実施形態に係る電極の製造に用いられる集電体は、リチウムイオン電池に使用可能な集電体であれば特に限定されないが、価格や入手容易性、電気化学的安定性等の観点から、正極用としてはアルミニウム、負極用としては銅が好ましい。また、集電体の形状についても特に限定されないが、例えば、厚さが0.001~0.5mmの範囲で箔状のものを用いることができる。
【0043】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極は、必要に応じてプレスしてもよい。プレスの方法としては、一般的に公知の方法を用いることができる。例えば、金型プレス法やカレンダープレス法等が挙げられる。プレス圧は特に限定されないが、例えば、0.2~3t/cmの範囲である。
【0044】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極の配合は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0045】
本実施形態に係る正極及び負極の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0046】
<セパレータ>
次に、セパレータについて説明する。
【0047】
上記セパレータは、好ましくは、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に備えられたセラミック層を含む。これにより耐熱性をさらに向上させることができる。また、これによりセパレータの熱収縮を小さくすることができ、電極間の短絡をより一層抑制できる。基材にはポリエチレン、ポリプロピレンまたはこれらを積層したポリオレフィン系のフィルムを用いることができる。基材は、例えば多孔性基材である。
【0048】
上記セラミック層は、例えば、基材上にセラミック層形成材料を塗布して乾燥させることにより形成することができる。セラミック層形成材料としては、例えば、無機フィラー及びバインダー等を任意の溶媒に分散または溶解させたものを用いることができる。
【0049】
上記無機フィラーは、リチウムイオン電池のセパレータに使用される公知の材料であれば特に限定されず、例えば、絶縁性の高い酸化物、窒化物、硫化物、炭化物などが好ましく、酸化チタン、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化鉄、セリア、イットリア等の酸化物系セラミックからなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくは酸化チタン及びアルミナからなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0050】
上記バインダーは、リチウムイオン電池に使用可能なバインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレン・ブタジエン系ゴム及びポリイミドからなる群から選択される一種又は二種以上を含み、好ましくはPVdF及びスチレン・ブタジエン系ゴムからなる群から選択される一種又は二種以上を含む。
【0051】
上記バインダーの使用形態は特に限定されないが、環境に優しい点や結着性に優れる点から、水系溶媒に上記バインダーをラテックス状態で分散あるいは溶解して用いる、いわゆる水系バインダーを用いることができる。
【0052】
上記セラミック層形成材料は、塗布に適した流動性を確保する点から、増粘剤をさらに含んでもよい。
上記増粘剤は、リチウムイオン電池に使用可能な増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等からなる群から選択される一種又は二種以上を含み、好ましくはCMCを含む。
【0053】
上記セラミック層形成材料に用いる溶媒は特に限定されず、公知のものを適宜用いることができる。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)及び水からなる群から選択される一種又は二種以上を用いることができる。
【0054】
上記セラミック層の厚みは、機械的強度、取扱い性およびリチウムイオン伝導性の性能バランスを向上させる観点から、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上12μm以下である。
【0055】
本実施形態に係るリチウムイオン電池のセパレータは、基材と接着層を含む構成でもよい。
【0056】
上記接着層は、例えば、接着剤を塗布することにより形成することができる。上記接着剤の成分は特に限定されず、公知の接着剤を用いればよく、例えばPVdFを含有する接着剤等を用いることができる。
【0057】
本実施形態に係るリチウムイオン電池は、上記手順により得られた正極および負極を、乾燥空気または不活性ガス雰囲気において、セパレータを介して積層、あるいは積層したものを捲回した後に、電池缶に収容したり、合成樹脂と金属箔との積層体からなる可とう性フィルム等によって封口したりすることによって得ることができる。
【0058】
本実施形態に係るリチウムイオン電池において、正極と負極は、例えば、電解液に浸漬した状態のセパレータを介して対向配置されている。
【0059】
リチウムイオン電池の形状として、角型、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型等種々の形状を採用することができる。外装材料その他の構成部材は特に限定されるものではなく、電池形状に応じて選定すればよい。
【0060】
[リチウムイオン電池の製造方法]
以下、本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法について説明する。
【0061】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法は、上記のリチウムイオン電池の製造方法であって、上記のリチウムイオン電池用電解液を含むリチウムイオン電池をエージングするエージング工程(A2)を含む。
【0062】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法は、好ましくは、前記エージング工程における前記リチウムイオン電池の電圧降下量を測定し、前記電圧降下量を基準値と比較することにより前記リチウムイオン電池中の導電性異物の有無を検出する異物検出工程と、前記導電性異物が検出されなかったリチウムイオン電池を良品として選別する選別工程と、をさらに含む。
【0063】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法は、好ましくは、エージング工程(A2)の前に電池の初回充電工程(A1)を含む。
【0064】
エージング工程(A2)は、電池の初回充電工程(A1)の後に充放電を1度もおこなわずにおこなうことが好ましい。これにより導電性の異物をより短期間で検出することができる。
【0065】
初回充電工程(A1)における環境温度T[℃]は、例えば0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、例えば100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。
【0066】
エージング工程(A2)における環境温度は、導電性異物の結晶をより早く成長させ、電池内の導電性異物をより短期間で検出する観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、そして、エージング工程(A2)における電池のセル特性(特に充放電容量)の劣化をより抑制する観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下である。
【0067】
エージング工程(A2)の時間は、導電性異物をより高感度で検出する観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上、さらに好ましくは48時間以上、さらに好ましくは72時間以上である。そして、本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法によれば、リチウムイオン電池内の導電性異物を短期間で感度良く検出することができるため、エージング工程(A2)の時間は、好ましくは720時間以下、より好ましくは600時間以下、さらに好ましくは480時間以下、さらに好ましくは360時間以下、さらに好ましくは300時間以下、さらに好ましくは240時間以下である。
【0068】
エージング工程(A2)開始時のリチウムイオン電池の電圧は、導電性の異物をより高感度で、かつ、より短期間で検出する観点から、好ましくは2.5V以上、より好ましくは3.0V以上、さらに好ましくは3.5以上、さらに好ましくは4.0V以上であり、そして、エージング工程(A2)における電池のセル特性(特に充放電容量)の劣化をより抑制する観点から、好ましくは4.50V以下、より好ましくは4.30V以下、さらに好ましくは4.20V以下である。
【0069】
エージング工程(A2)におけるリチウムイオン電池中の電解液の粘度は、例えば1.5mPa・s以上であり、そして、電池内の導電性異物をより短期間で検出する観点から、好ましくは4.5mPa・s以下、より好ましくは4.0mPa・s以下、さらに好ましくは3.5mPa・s以下である。電解液の粘度が上記上限値以下であると、電解液中での導電性異物のイオンの拡散が良好なものとなり、導電性異物のタネをより早く成長させることができるため、リチウムイオン電池内の導電性異物をより短期間で検出することができると考えられる。
ここで、エージング工程(A2)におけるリチウムイオン電池中の電解液の粘度は、エージング工程(A2)における環境温度を調整すること、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電解液の各成分の種類及び量等を調整することにより調節することができる。
【0070】
異物検出工程(A3)においては、リチウムイオン電池の電圧降下量を測定し、上記電圧降下量を基準値と比較することにより上記リチウムイオン電池の導電性異物の有無を検出する。そして、導電性異物が検出されなかったリチウムイオン電池は選別工程で良品と判定される。
【0071】
電圧降下量を比較する際の基準値は、基準となる電圧降下量を予め決めてもよいし、所定の製造ロットを全数検査しその電圧降下量を正規分布で表し、標準偏差σを求め、平均値±nσを基準値とし(nは好ましくは2以上5以下だがこれに限らない)、この範囲から外れたものを不良としてもよい。
【0072】
異物検出工程における異物検出は、異物が存在する可能性があるものを検出することを含む。
【0073】
異物検出工程(A3)は、エージング工程(A2)と同時におこなってもよいし、エージング工程(A2)の後におこなってもよい。例えば、エージング工程(A2)中に常に電圧降下量をモニタリングしてもよいし、エージング工程(A2)の後に電圧値を測定して電圧降下量としてもよい。
【0074】
異物検出工程(A3)は、例えば、自己放電によりおこなう。リチウムイオン電池を規定温度に所定の期間放置し、自己放電させる。規定温度は、例えば15℃以上であり、例えば40℃以下である。所定の期間は、導電性異物をより高精度で検出する観点から、例えば1日間以上、好ましくは2日間以上、より好ましくは3日間以上である。そして、所定の期間としては、例えば20日間以下、好ましくは14日間以下、より好ましくは7日間以下である。本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法によれば、リチウムイオン電池内の導電性異物を感度良く検出することができるため、異物検出工程(A3)における放置期間を上記上限値以下としても、導電性異物が混入したリチウムイオン電池を精度良く検出して除去することができ、正負電極間での短絡が起き難いリチウムイオン電池を効率良く得ることができる。
なお、たいていのリチウムイオン電池では導電性異物以外により、通常起こる自己放電がある。このため、通常起こる自己放電と比べて大きい、異常な自己放電が起きているものを異物混入電池と判断する。
【0075】
電圧降下量は、自己放電前電圧と自己放電後電圧との差分により求めることができる。例えば、電圧降下量が基準値未満であれば、電池内に導電性異物がないと判定される。一方、電圧降下量が基準値以上であれば、電池内に導電性異物があると判定される。
【0076】
基準値は、製造する電池と同一規格の電池を用いて、予め実験的に求めることができる。例えば、以下の通り求めることができる。まず、導電性異物が混入していないことが予め判明している初回充電前のリチウムイオン電池を準備する。次に、前述のとおり、異物検出工程(A3)の前まで進める。
次いで、自己放電前の電圧を測定後、正極および負極端子に、所定の電気抵抗を有する抵抗器を接続する。所定の電気抵抗は、検出したい導電性異物の大きさ、または導電率に基づき決定することができる。検出したいと考える導電性異物が小さく、導電性が低い場合は、電気抵抗の大きい抵抗器を用いるのが好ましい。
次いで、自己放電をおこない、自己放電後電圧の値を得る。自己放電前の電圧と自己放電後電圧との差分を、上記規格の電池に応じた基準値として用いることができる。
【0077】
本実施形態に係るリチウムイオン電池の製造方法においては、エージング工程(A2)後にリチウムイオン電池の放電をおこない、さらに異物検出工程(A3)におけるリチウムイオン電池の電圧を好ましくは2.5V以上4.5V以下、より好ましくは3.0V以上4.3V以下、さらに好ましくは3.5V以上4.2V以下に設定することが好ましい。リチウムイオン電池の電圧が上記範囲内であると、自己放電による電圧降下量が大きくなるため、上記リチウムイオン電池の導電性異物の有無をより高精度に検出することができる。
【0078】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
[実施例1~8及び比較例1~4]
<1.電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を、30:70(体積比)で混合して得られた混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、その含有量が1.0mol/Lとなるように溶解させ、さらにリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を、その含有量が表1に記載された通りになるように溶解させ、さらに塩化リチウム(LiCl)を、塩素元素の含有量が表1に記載された通りになるように溶解させ、電解液を調製した。
【0081】
<2.ラミネート型リチウムイオン電池の製造>
正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)、導電助剤(アセチレンブラック)及びバインダー(PVdF)を95:2.5:2.5の質量比で混合し、これを溶媒(N-メチル-2-ピロリドン)に分散させた正極合剤スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗工して乾燥し、さらに裏面にも同様に正極合剤スラリーを塗工することで両面塗工された正極極板を作製した。
負極活物質(天然黒鉛)、バインダー(スチレン-ブタジエンゴム)及び増粘剤(カルボキシメチルセルロース)を96:2:2の質量比で混合し、水に分散させた負極合剤スラリーを厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の片面に塗工して乾燥し、負極極板を作製した。
上記で得られた正極極板を、集電用に幅8mm、長さ20mmのアルミニウム箔の未塗工部を残して塗工部分の大きさが26mm×26mmになるよう旗状に切り出した。また上記で得られた負極極板を、集電用に幅10mm、長さ20mmの銅箔の未塗工部を残して塗工部分の大きさが30mm×30mmになるよう旗状に切り出した。さらにポリエチレン製のセパレータを34mm×34mmの正方形に切り出した。
導電性異物の検出時間を評価するため、上記で作製した正極極板塗工部の片面の中央部に、導電性異物として直径100μmの球状のステンレス粒子(SUS304)を埋め込んだ。
上記の正極極板1枚と片面塗工した負極極板2枚を、セパレータを介して互いの塗工面が向かい合うように対向させ、積層した。集電用に切り出したアルミニウム箔部分と銅箔部分は四角形の極板の一辺に寄せ、アルミニウム箔と銅箔は互いに接触することがないよう、四角形の一辺の互いに反対側になるように配置した。このようにして作製した積層体を折りたたんだラミネート製のフィルムに包み込み、集電用に切り出したアルミニウム箔及び銅箔がラミネートから突出するようにして、集電用の箔を突出させた部分を含む辺とその対辺の2辺を熱溶着して、一辺のみが開いた状態のラミネート型電池を作製した。
上記ラミネートセルの開口部から、上記<1.電解液の調製>で調製した所定量の電解液を注液し、減圧封止することでラミネート型電池を得た。
【0082】
<3.エージング試験>
得られたラミネート型電池を、温度25℃環境下にて、充電電流0.2Cで電池電圧3.2Vまで充電し、その後、温度25℃環境下にて12時間放置することでプレコンディショニングを行った。その後、温度25℃にて充電電流0.2Cで電池電圧4.2Vまで定電流充電を行い、電池電圧4.2V到達後は、電流値が0.05Cに低下するまで定電圧充電を行った。
上記条件で充電した電池を温度45℃環境下にて、電池電圧をモニターしながら480時間保存した。電池電圧がエージング開始時点の電圧から100mV低下するまでの時間を導電性異物の検出時間とした。480時間保存後も開始時点の電圧から100mV低下しなかった場合、検出不可と判断した。結果を表1に示す。
【0083】
<4.腐食の確認>
上記<3.エージング試験>をおこなった後に電池を分解し、電池部材の腐食を評価した。具体的には、正極及び負極の表面を目視で確認し、下記の基準により評価を行った。結果を表1に示す。
有:正極及び負極のいずれか又は両方に腐食があった。
無:正極及び負極の両方に腐食がなかった。
【0084】
[比較例5]
また、正常な電池のエージング中の電池電圧の推移を比較するため、直径100μmの球状のステンレス粒子(SUS304)を埋め込んでいない正極を用いたラミネート型電池を作製し、これを比較例5とし、実施例1~8及び比較例1~4と同条件で導電性異物の検出時間と電池部材の腐食を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、実施例に係る製造方法によると、リチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出するために必要なエージング時間を短縮でき、かつ電池部材の腐食を抑制できた。
一方、比較例1及び3~5に係る製造方法によると、エージング時間を短縮できず、規定時間内に導電性異物を検出することができなかった。また、比較例2に係る製造方法によると、電池部材が腐食した。
これらのことから、本実施形態に係る製造方法によるとリチウムイオン電池内へ混入した導電性異物を検出するために必要なエージング時間を短縮でき、かつ電池部材の腐食を抑制できることがわかる。
【0087】
以下、実施例間の比較からわかることを記載する。
実施例1~7の比較によると、塩素元素の含有量が増加すると導電性異物の検出時間を短くできる傾向があるが、塩素元素の含有量が1ppm以上になると、検出時間の短縮効果は小さくなる傾向があることがわかる。
実施例5と8の比較によると、LiFSIの含有量が増加すると導電性異物の検出時間を短くできる傾向があることがわかる。