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特開2024-130113プラント用の事故対策の評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130113
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】プラント用の事故対策の評価システム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20240920BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240920BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240920BHJP
【FI】
G21C17/00 110
G05B23/02 Z
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039638
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】神田 憲一
【テーマコード(参考)】
2G075
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA02
2G075DA18
2G075EA03
2G075EA07
2G075FB18
3C223AA01
3C223BA01
3C223CC01
3C223FF02
3C223FF16
5L049AA20
(57)【要約】
【課題】事故対策が及ぼす影響を知ることができるプラント用の事故対策の評価システムの提供。
【解決手段】個々に異なる内容の事故のリスクを評価する複数のリスク評価手段、及び事故の内容と対策を示す事故対策情報を取得する第1取得手段と、事故対策情報が示す対策をとる前後のプラントの状態を示す対策前プラント情報、対策後プラント情報を取得する第2取得手段と、各リスク評価手段について対策前プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策前個別リスク情報、及び対策後プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策後個別リスク情報を取得する個別リスク取得手段と、対策後個別リスク情報が示すリスクと対策前個別リスク情報が示すリスクとを比較し、対策前個別リスク情報からリスクが変化している対策後個別リスク情報の有無を判定する個別比較判定手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが異なる内容の事故のリスクを評価する複数のリスク評価手段、及び事故の内容と対策を示す事故対策情報を取得する第1取得手段と、
前記事故対策情報によって示される対策が行われる前のプラントの状態を示す対策前プラント情報と、前記事故対策情報によって示される対策が行われた後のプラントの状態を示す対策後プラント情報とを取得する第2取得手段と、
前記複数のリスク評価手段のそれぞれについて、前記対策前プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策前個別リスク情報、及び前記対策後プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策後個別リスク情報を取得する個別リスク取得手段と、
前記対策後個別リスク情報が示すリスクと前記対策前個別リスク情報が示すリスクとを比較する個別比較判定手段であって、複数の前記対策後個別リスク情報に前記対策前個別リスク情報からリスクが変化しているものが含まれているか否かを判定する個別比較判定手段と、を備える、
プラント用の事故対策の評価システム。
【請求項2】
前記個別比較判定手段は、
複数の前記対策後個別リスク情報に前記対策前個別リスク情報が示すリスクから変化しているものが含まれていると判定した場合に、複数の前記対策後プラント情報のそれぞれについて、前記対策前プラント情報との差分である個別差分を導出する個別差分導出処理と、
複数の前記個別差分のそれぞれについて、許容されるリスク値を示す個別閾値を上回っているか否かを判定する個別超過判定処理と、を実行する、
請求項1に記載のプラント用の事故対策の評価システム。
【請求項3】
前記個別比較判定手段は、
前記個別超過判定処理が複数の前記個別差分のなかに前記個別閾値を上回っているものがないと判定した場合に、複数の前記対策後個別リスク情報のそれぞれについて前記対策前個別リスク情報に対する変化状態を判定する個別変化判定処理を実行するように構成される、
請求項2に記載のプラント用の事故対策の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント事故対策のリスク影響を評価するプラント用の事故対策の評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、原子力発電所等のプラントでは、例えば、特許文献1に開示されているような、複数の手順書を格納した手順書データベースと、事故が起きた際にプラント内のセンサで計測した計測値(センサ信号)に基づいて事故を推定する事故推定装置と、該事故推定装置で推定した事故の収束に適した手順書を手順書データベースから選択する手順書選択装置と、該手順書選択装置で選択した手順書から次の操作を決定する手順自動確認装置と、を備えるシステムが利用されることがあり、プラントの運転員が、事故を収束させるための対策として選択された手順書に示された操作内容に従って事故に対する措置をとれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/151267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のようなプラントでは、事故の内容と、事故の内容に合わせて構成される事故への対策の内容(上記従来のプラントでは手順書の内容)とに基づいてリスク評価が行われることがある。しかしながら、事故への対策の内容は、共にリスク評価の対象とされる事故とは別の事故のリスクに影響を与えることがあるため、事故への対策の内容が及ぼす影響をより正確に把握できるようにすることが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、事故対策が及ぼす影響を知ることができるプラント用の事故対策の評価システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラント用の事故対策の評価システムは、
それぞれが異なる内容の事故のリスクを評価する複数のリスク評価手段、及び事故の内容と対策を示す事故対策情報を取得する第1取得手段と、
前記事故対策情報によって示される対策が行われる前のプラントの状態を示す対策前プラント情報と、前記事故対策情報によって示される対策が行われた後のプラントの状態を示す対策後プラント情報とを取得する第2取得手段と、
前記複数のリスク評価手段のそれぞれについて、前記対策前プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策前個別リスク情報、及び前記対策後プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策後個別リスク情報を取得する個別リスク取得手段と、
前記対策後個別リスク情報が示すリスクと前記対策前個別リスク情報が示すリスクとを比較する個別比較判定手段であって、複数の前記対策後個別リスク情報に前記対策前個別リスク情報からリスクが変化しているものが含まれているか否かを判定する個別比較判定手段と、を備える。
【0007】
上記構成のプラント用の事故対策の評価システムによれば、複数の事故(複数のリスク評価手段のそれぞれにおいて評価対象としている事故)のうち、事故の対策(事故対策情報が示す対策)の影響を受けてリスクに変化が生じるものを知ることができる。
【0008】
このように、上記構成のプラント用の事故対策の評価システムは、事故の対策が様々な事故に及ぼす影響を知ることができるようになっている。
【0009】
また、本発明のプラント用の事故対策の評価システムにおいて、
前記個別比較判定手段は、
複数の前記対策後個別リスク情報に前記対策前個別リスク情報が示すリスクから変化しているものが含まれていると判定した場合に、複数の前記対策後プラント情報のそれぞれについて、前記対策前プラント情報との差分である個別差分を導出する個別差分導出処理と、
複数の前記個別差分のそれぞれについて、許容されるリスク値を示す個別閾値を上回っているか否かを判定する個別超過判定処理と、を実行するように構成されていてもよい。
【0010】
上記構成のプラント用の事故対策の評価システムによれば、複数の事故(複数のリスク評価手段のそれぞれにおいて評価対象としている事故)のうち、事故対策の影響を受けてリスクに変化が生じる事故がある場合は、個別比較判定手段によって、個別差分導出処理と個別超過判定処理とが実行されることによって対策前個別リスク情報との個別差分(対策前個別リスク情報からの変化量)が個別閾値を上回っている対策後個別リスク情報の有無が判定されるため、対策前個別リスク情報からリスクが大きく変化する対策後個別リスク情報があること(すなわち、事故対策から大きな影響を受ける事故があること)をいち早く把握できるようになっている。
【0011】
この場合、
前記個別比較判定手段は、
前記個別超過判定処理が複数の前記個別差分のなかに前記個別閾値を上回っているものがないと判定した場合に、複数の前記対策後個別リスク情報のそれぞれについて前記対策前個別リスク情報に対する変化状態を判定する個別変化判定処理を実行するように構成されていてもよい。
【0012】
このようにすれば、事故対策が複数の事故に与える変化の傾向を把握しやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のプラント用の事故対策の評価システムは、事故対策が及ぼす影響を知ることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムの機能ブロック図である。
図2図2は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムで扱う情報の状態遷移図であって、増加状態であるか、低減状態であるか、混合状態であるかの判定が行われるまでの処理に伴う状態の変化を示す状態遷移図である。
図3図3は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムで扱う情報の遷移を示す状態遷移図であって、増加状態であることが判定された後、事故対策が及ぼす影響を判定する処理が行われるまでの処理に伴う状態の変化を示す状態遷移図である。
図4図4は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムで扱う情報の遷移を示す状態遷移図であって、低減状態であることが判定された後、事故対策が及ぼす影響を判定する処理が行われるまでの処理に伴う状態の変化を示す状態遷移図である。
図5図5は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムで扱う情報の遷移を示す状態遷移図であって、混合状態であることが判定された後、事故対策が及ぼす影響を判定する処理が行われるまでの処理に伴う状態の変化を示す状態遷移図である。
図6図6は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムの動作における処理の流れを示すメインフローチャートである。
図7図7は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムの増加時判定処理の流れを示すサブフローチャートである。
図8図8は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムの低減時判定処理の流れを示すサブフローチャートである。
図9図9は、同実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システムの混合時判定処理の流れを示すサブフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るプラント用の事故対策の評価システム(以下、評価システムと称する)について添付図面を参照しつつ説明を行う。
【0016】
本実施形態に係る評価システムは、ある事故を収束させるための事故対策が、他の事故のリスクを高めることになるか否かを評価するように構成されたものである。
【0017】
本実施形態の評価システム1は、図1に示すように、それぞれが異なる内容の事故のリスクを評価する複数のリスク評価手段、及び事故の内容と対策の内容を示す事故対策情報を取得する第1取得手段2と、事故対策情報によって示される対策が行われる前のプラントの状態を示す対策前プラント情報と、事故対策情報によって示される対策が行われた後のプラントの状態を示す対策後プラント情報とを取得する第2取得手段3と、複数のリスク評価手段のそれぞれについて、対策前プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策前個別リスク情報、及び対策後プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策後個別リスク情報を取得する個別リスク取得手段4と、対策後個別リスク情報が示すリスクと対策前個別リスク情報が示すリスクとを比較する個別比較判定手段5であって、複数の対策後個別リスク情報に対策前個別リスク情報からリスクが変化しているものが含まれているか否かを判定する個別比較判定手段5と、個別比較判定手段5が、複数の対策後個別リスク情報のなかに対策前個別リスク情報からリスクが変化しているものが含まれているものがあると判定した場合に、複数の対策前個別リスク情報が示すリスクを合算した対策前合算リスク情報、及び複数の対策後個別リスク情報が示すリスクを合算した対策後合算リスク情報を取得する合算リスク取得手段6と、対策前合算リスク情報と対策後合算リスク情報とを比較して事故対策が及ぼす影響を判定する合算比較判定手段7と、情報を記憶する記憶手段8と、を備える。
【0018】
第1取得手段2が取得するリスク評価手段は、記憶手段8に記憶されている。
【0019】
リスク評価手段は、確率論的リスク評価(所謂、PRA)により対象の事故のリスクを導出するように構成されたものである。なお、リスク評価手段は、プラントの状態を示す情報(対策前プラント情報や、対策後プラント情報)に基づいて、事故のリスクを導出するように構成されていればよい。
【0020】
第1取得手段2が取得する事故対策情報は、記憶手段8に記憶されている。
【0021】
事故対策情報は、事故の内容を示す事故内容情報と、事故内容情報が示す事故への対策の取り方を示す対策情報とを有するように構成されており、事故内容情報と対策情報とは互いに関連付けられている。
【0022】
事故内容情報は、例えば、原子力発電所等のプラント内で起こる事故の内容を示す情報であり、対策情報は、事故内容情報が示す事故への対策(プラント内の設備や機器の操作の仕方等)を示す情報である。
【0023】
第2取得手段3が取得する対策前プラント情報と対策後プラント情報は、プラント内の設備や機器の状態を示す情報である。
【0024】
また、第2取得手段3は、対策前プラント情報をプラント内の設備や機器から直接的に取得するように構成されていてもよいし、対策前プラント情報を記憶手段8から読み出すように構成されていてもよい。
【0025】
対策後プラント情報は、対策前プラント情報が示すプラント状態と、事故対策情報が示す対策とに基づいて導出される情報である。例えば、事故対策情報がプラント内の設備や機器の操作の仕方を示すものである場合、対策後プラント情報は、対策前プラント情報が示す状態のプラントに対して事故対策情報が示す設備や機器の操作を行った後の状態を示すものになる。
【0026】
個別リスク取得手段4は、第1取得手段2が取得した複数のリスク評価手段のそれぞれに事故のリスクを評価させ、リスク評価手段が評価(導出)したリスクを示す情報を取得するように構成されている。
【0027】
より具体的に説明すると、個別リスク取得手段4は、リスク評価手段に対策前プラント情報を与えて事故のリスクを評価する処理を実行させることによって、かかる処理の評価結果を対策前個別リスク情報として取得し、また、リスク評価手段に対策後プラント情報を与えて事故のリスクを評価する処理を実行させることによって、かかる処理の評価結果を対策後個別リスク情報として取得するように構成されている。
【0028】
なお、本実施形態の個別リスク取得手段4が取得する対策前個別リスク情報と、対策後個別リスク情報は、リスクの高さを表す数値によって構成されている。
【0029】
個別比較判定手段5は、複数の対策後プラント情報のそれぞれについて、対策前プラント情報との差分(数値の差分であり、以下個別差分と称する)を導出する個別差分導出処理と、複数の個別差分のそれぞれについて、許容されるリスク値を示す個別閾値を上回っているか否かを判定する個別超過判定処理と、個別超過判定処理によって複数の個別差分のなかに個別閾値を上回っているものがないと判定された場合に、複数の対策後個別リスク情報のそれぞれについて対策前個別リスク情報に対する変化状態を判定する個別変化判定処理と、を実行するように構成されている。
【0030】
個別比較判定手段5は、個別差分導出処理で導出した個別差分の全てが0である場合(全ての対策後プラント情報のリスクが対策前プラント情報から変化していない場合)、すなわち、全てのリスク評価手段の評価結果が対策(対策情報が示す対策)をとる前後で変化していない場合(図2のT1参照)は、リスク評価手段で評価対象としている事故のリスクに事故対策情報が示す対策が与える影響が無いと判定するように構成されている。
【0031】
なお、図2のT1~T7では、対策前個別リスク情報をV1aで示し、対策後個別リスク情報をV1bで示し、個別差分をV1cで示している。
【0032】
一方で、個別比較判定手段5は、個別差分導出処理で導出した個別差分に0でないものが含まれている場合(対策後個別リスク情報のなかに対策前個別リスク情報と比べてリスクが変化しているものが含まれている場合)、すなわち、複数のリスク評価手段の評価結果に対策(対策情報が示す対策)をとる前後で変化しているものが含まれている場合(図2のT2参照)は、個別差分導出処理と個別超過判定処理を実行する。
【0033】
そして、個別比較判定手段5は、個別超過判定処理において、複数の個別差分に個別閾値を上回るものがあると判定した場合(図2のT3参照)は、事故対策情報が示す対策がリスク評価手段が評価対象としている事故のリスクを高めていると判定するように構成されている。
【0034】
一方で、個別比較判定手段5は、個別超過判定処理において、複数の個別差分に個別閾値を上回るものがないと判定した場合(図2のT4参照)は、個別変化判定処理を実行する。
【0035】
個別比較判定手段5は、個別変化判定処理において、複数の対策後個別リスク情報が、対策前個別リスク情報からリスクが高まっているもののみ、若しくは対策前個別リスク情報から変化のないもの及び対策前個別リスク情報からリスクが高まっているもので構成される増加状態であるか(図2のT5参照)、複数の対策後個別リスク情報が、対策前個別リスク情報からリスクが低減しているもののみ、若しくは対策前個別リスク情報から変化のないもの及び対策前個別リスク情報からリスクが低減しているもので構成される低減状態(図2のT6参照)であるか、増加状態でも低減状態でもない混合状態であるか(図2のT7参照)を判定するように構成されている。
【0036】
合算リスク取得手段6は、複数の対策前個別リスク情報を合算した対策前合算リスク情報と、複数の対策後個別リスク情報を合算した対策後合算リスク情報と、を導出する合算処理を実行するように構成されている。
【0037】
合算比較判定手段7は、個別比較判定手段5が増加状態と判定している状態で事故対策が及ぼす影響を判定する増加時判定処理と、個別比較判定手段5が低減状態と判定している状態で事故対策が及ぼす影響を判定する低減時判定処理と、個別比較判定手段5が混合状態と判定している状態で事故対策が及ぼす影響を判定する混合時判定処理と、を実行可能に構成されている。
【0038】
合算比較判定手段7は、増加時判定処理において、合算リスク取得手段6に合算処理を実行させることによって、対策前合算リスク情報と、対策後合算リスク情報と、を取得する取得処理と、対策前合算リスク情報に対する対策後合算リスク情報の差分(合算差分)を導出する合算差分導出処理と、合算差分が許容されるリスク値を示す合算閾値(増加用合算閾値)以下であるか否かを判定する増加時超過判定処理と、増加時超過判定処理の判定結果に応じて事故対策が及ぼす影響を導出する増加時影響導出処理とを実行するように構成されている。
【0039】
合算比較判定手段7は、増加時超過判定処理において合算差分が増加用合算閾値以下であると判定した場合(図3のT8参照)、増加時影響導出処理において個別リスクは増加傾向であるが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する。
【0040】
また、合算比較判定手段7は、増加時超過判定処理において合算差分が増加用合算閾値以下でない(上回っている)と判定した場合(図3のT9参照)、増加時影響導出処理において個別リスクは増加傾向であり、事故対策が事故のリスクを高めていると判定する。
【0041】
なお、図3では、合算差分をV2で示している。
【0042】
合算比較判定手段7は、低減時判定処理において、前記取得処理と、前記合算差分導出処理と、合算差分が許容されるリスク値を示す合算閾値(低減用合算閾値)以上であるか否かを判定する低減時超過判定処理と、低減時超過判定処理の判定結果に応じて事故対策が及ぼす影響を導出する低減時影響導出処理とを実行するように構成されている。
【0043】
合算比較判定手段7は、低減時超過判定処理において合算差分が低減用合算閾値以上でない(下回っている)と判定した場合(図4のT10参照)、低減時影響導出処理において個別リスクは低減傾向であり、事故対策が事故のリスクを低減させていると判定する。
【0044】
また、合算比較判定手段7は、低減時超過判定処理において合算差分が低減用合算閾値以上であると判定した場合(図4のT11参照)、低減時影響導出処理において個別リスクは低減傾向であるが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する。
【0045】
なお、図4においても、合算差分はV2で示している。また、図5に示すように、低減用合算閾値は、例えば、負の値で設定されていればよい。
【0046】
合算比較判定手段7は、混合時判定処理において、前記取得処理と、前記合算差分導出処理と、対策後合算リスク情報が対策前合算リスク情報に対して低減しているか否かを判定する混合時比較処理と、混合時比較処理において対策後合算リスク情報が対策前合算リスク情報に対して低減していると判定された際に、合算差分が許容されるリスク値を示す合算閾値(第1混合用合算閾値)以上であるか否かを判定する第1混合時超過判定処理と、第1混合時超過判定処理の判定結果に応じて事故対策が及ぼす影響を導出する第1混合時影響導出処理と、混合時比較処理において対策後合算リスク情報が対策前合算リスク情報に対して低減していないと判定された際に、合算差分が第1混合用合算閾値とは別に設定されている合算閾値であり、合算差分が許容されるリスク値を示す合算閾値(第2混合用合算閾値)以下であるか否かを判定する第2混合時超過判定処理と、第2混合時超過判定処理の判定結果に応じて事故対策が及ぼす影響を導出する第2混合時影響導出処理と、を実行可能に構成されている。
【0047】
合算比較判定手段7は、第1混合時超過判定処理において合算差分が第1混合用合算閾値以上でない(下回っている)と判定した場合(図5のT12参照)、第1混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在しているが、事故対策が事故のリスクを低減させていると判定する。
【0048】
また、合算比較判定手段7は、第1混合時超過判定処理において合算差分が第1混合用合算閾値以上であると判定した場合(図5のT13参照)、第1混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在し、総合のリスクは低減しているが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する。
【0049】
合算比較判定手段7は、第2混合時超過判定処理において合算差分が第2混合用合算閾値以下であると判定した場合(図5のT14参照)、第2混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在し、総合のリスクは増加しているが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する。
【0050】
合算比較判定手段7は、第2混合時超過判定処理において合算差分が第2混合用合算閾値以下でない(上回っている)と判定した場合(図5のT15参照)、第2混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在しており、事故対策が事故のリスクを増加させていると判定する。
【0051】
なお、図5においても、合算差分はV2で示している。また、図5に示すように、第1混合用合算閾値は、例えば、負の値で設定され、第2混合用合算閾値は、例えば、正の値で設定されていればよい。
【0052】
本実施形態の評価システムの構成は以上の通りである。続いて評価システム1の動作を説明する。
【0053】
評価システム1は、図6に示すように、第1取得手段2が複数のリスク評価手段と事故対策情報とを取得し(S1)、第2取得手段3が対策前プラント情報と対策後プラント情報とを取得する(S2)。
【0054】
続いて、個別リスク取得手段4が複数のリスク評価手段のそれぞれについて、対策前プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策前個別リスク情報と、対策後プラント情報に基づくリスクの評価結果を示す対策後個別リスク情報とを取得する(S3)。
【0055】
そして、個別比較判定手段5が複数の対策後個別リスク情報と対策前個別リスク情報とを比較する。より具体的には、個別比較判定手段5が個別差分導出処理を実行することによって複数の対策後プラント情報のそれぞれについて個別差分を導出し、個別差分の値に基づいて比較結果を導出する。
【0056】
個別比較判定手段5は、個別差分導出処理で導出した個別差分の全てが0である場合(全ての対策後プラント情報のリスクが対策前プラント情報から変化していない場合)、すなわち、全てのリスク評価手段の評価結果が対策(対策情報が示す対策)をとる前後で変化していない場合は、事故対策情報が示す対策がリスク評価手段で評価対象としている事故のリスクに与える影響が無いと判定する(S5)。
【0057】
一方で、個別差分導出処理で導出した個別差分に0でないものが含まれている場合(対策後プラント情報のなかにリスクが対策前プラント情報から変化しているものが含まれている場合)、すなわち、複数のリスク評価手段の評価結果に対策(対策情報が示す対策)をとる前後で変化しているものが含まれている場合(S4でNo)は、個別差分導出処理と個別超過判定処理を実行する。
【0058】
個別比較判定手段5は、個別超過判定処理において、複数の個別差分に個別閾値を上回るものがあると判定した場合(S6でYes)は、事故対策情報が示す対策がリスク評価手段で評価対象としている事故のリスクを高めていると判定する(S7)ように構成されている。
【0059】
一方で、個別比較判定手段5は、個別超過判定処理において、複数の個別差分に個別閾値を上回るものがないと判定した場合(S6でNo)は、個別変化判定処理を実行する。
【0060】
そして、合算比較判定手段7が個別比較判定手段5による個別変化判定処理の実行結果に応じた処理を実行する。
【0061】
より具体的に説明すると、個別比較判定手段5による個別変化判定処理の実行結果が増加状態である場合(S8でYes)、合算比較判定手段7は、増加時判定処理を実行し(S9)、個別比較判定手段5による個別変化判定処理の実行結果が低減状態である場合(S8でNo、且つS10でYes)、合算比較判定手段7は、低減時判定処理を実行し(S11)、個別比較判定手段5による個別変化判定処理の実行結果が混合状態である場合(S8でNo、且つS10でNo)、合算比較判定手段7は、混合時判定処理を実行する(S12)。
【0062】
合算比較判定手段7は、増加時判定処理(S9)を実行すると、図7に示すように、取得処理において合算リスク取得手段6に合算処理を実行させ(S13)、合算差分導出処理を実行し、増加時超過判定処理を実行する。
【0063】
合算比較判定手段7は、増加時超過判定処理において合算差分が増加用合算閾値以下であると判定した場合(S14でYes)、増加時影響導出処理において個別リスクは増加傾向であるが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する(S15)。
【0064】
一方で、合算比較判定手段7は、増加時超過判定処理において合算差分が増加用合算閾値以下でない(上回っている)と判定した場合(S14でNo)、増加時影響導出処理において個別リスクは増加傾向であり、事故対策が事故のリスクを高めていると判定する(S16)。
【0065】
合算比較判定手段7は、低減時判定処理(S11)を実行すると、図8に示すように、取得処理において合算リスク取得手段6に合算処理を実行させ(S17)、合算差分導出処理を実行し、低減時超過判定処理を実行する。
【0066】
合算比較判定手段7は、低減時超過判定処理において合算差分が低減用合算閾値以上でない(下回っている)と判定した場合(S18でNo)、低減時影響導出処理において個別リスクは低減傾向であり、事故対策が事故のリスクを低減させていると判定する(S19)。
【0067】
一方で、合算比較判定手段7は、低減時超過判定処理において合算差分が低減用合算閾値以上であると判定した場合(S18でYES)、低減時影響導出処理において個別リスクは低減傾向であるが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する(S20)。
【0068】
合算比較判定手段7は、混合時判定処理を実行すると、図9に示すように、取得処理において合算リスク取得手段6に合算処理を実行させ(S21)、合算差分導出処理を実行し、混合時比較処理を実行する。
【0069】
合算比較判定手段7は、混合時比較処理において対策後合算リスク情報が対策前合算リスク情報に対して低減していると判定すると(S22でYes)、第1混合時超過判定処理を実行する。
【0070】
合算比較判定手段7は、第1混合時超過判定処理において、合算差分が第1混合用合算閾値以上でない(下回っている)と判定した場合(S23でNo)、第1混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在しているが、事故対策が事故のリスクを低減させていると判定する(S24)。
【0071】
一方で、合算比較判定手段7は、第1混合時超過判定処理において合算差分が第1混合用合算閾値以上であると判定した場合(S23でYes)、第1混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在し、リスクは低減しているが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する(S25)。
【0072】
合算比較判定手段7は、混合時比較処理において対策後合算リスク情報が対策前合算リスク情報に対して低減していないと判定すると(S22でNo)、第2混合時超過判定処理を実行する。
【0073】
合算比較判定手段7は、第2混合時超過判定処理において合算差分が第2混合用合算閾値以下であると判定した場合(S26でYes)、第2混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在し、リスクは増加しているが、事故対策が事故のリスクに与える影響は小さいと判定する(S27)。
【0074】
一方で、合算比較判定手段7は、第2混合時超過判定処理において合算差分が第2混合用合算閾値以下でない(上回っている)と判定した場合(S26でNo)、第2混合時影響導出処理において個別リスクには増加と低減が混在しており、事故対策が事故のリスクを増加させていると判定する(S28)。
【0075】
本実施形態の評価システム1は、このようにして、事故対策情報が示す対策がプラント内で起こり得る様々な事故に及ぼす影響を導出できるようになっている。
【0076】
以上のように、本実施形態の評価システム1によれば、プラント内で起こる事故への対策(事故対策情報の対策情報により示される対策)が、対策の対象とする事故のリスクや他の事故のリスクのそれぞれに変化を与えているか否かを個別比較判定手段によって判定できるため、事故対策をとった際に対策の対象としている事故や他の事故のうちリスクに変化が生じるものを判定できる。
【0077】
従って、本実施形態の評価システム1は、事故対策が様々な事故に及ぼす影響を知ることができるという優れた効果を奏し得る。その結果として、総合的な判断を行うことが可能となり、プラントの安全性向上に資することとなる。
【0078】
また、複数の事故(複数のリスク評価手段のそれぞれにおいて評価対象としている事故)のうち、事故対策の影響を受けてリスクに変化が生じる事故がある場合は、個別比較判定手段5による個別変化判定処理や合算リスク取得手段6、合算比較判定手段7による処理を実行する前に、個別比較判定手段5が個別差分導出処理と個別超過判定処理とを実行することによって、対策前個別リスク情報との個別差分(対策前個別リスク情報からの変化量)が個別閾値を上回っている対策後個別リスク情報の有無を判定するため、対策前個別リスク情報からリスクが大きく変化する対策後個別リスク情報があること(すなわち、事故対策から大きな影響を受ける事故があること)をいち早く知ることができるようになっている。
【0079】
そのうえで、個別比較判定手段5は、個別超過判定処理によって複数の個別差分のなかに個別閾値を上回っているものがないと判定された場合に、複数の対策後個別リスク情報のそれぞれについて対策前個別リスク情報に対する変化状態を判定する個別変化判定処理を実行するように構成されているため、事故対策が複数の事故に与える変化の傾向を把握しやすくなる。
【0080】
なお、本実施形態の個別比較判定手段5の個別変化判定処理では、事故対策が複数の事故に与える変化の傾向が増加状態か低減状態として判定されるようになっている。
【0081】
なお、本発明のプラント用の事故対策の評価システム1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0082】
上記実施形態において、特に言及しなかったが、評価システム1は、事故対策情報の対策が事故のリスクを高めていると判定した場合に、事故対策情報が示す事故対策を行うか否かの判定も併せて行うように構成されていてもよいし、事故対策情報の変更情報を変化させることによって、事故内容情報が示す事故のリスクが高まらない変更内容(すなわち、事故への対策の内容)を導出するようにしたり、総合的な事故のリスクを最小化するように事故対策の最適化が行えるように構成されていてもよい。
【0083】
また、複数の事故のリスクを統合的に評価する方法は上記に示した個別リスク情報を加算する方法にとらわれるものでなく、例えば影響の大きさに応じて重み付けし加算する方法や、リスクの合算値に大きな変化がない場合でも個別リスク情報のプロファイルも勘案して評価する方法、定量的な評価結果に定性的な考慮事項を加味して判断する方法等を用いることも考えられる。
【符号の説明】
【0084】
1…評価システム、2…第1取得手段、3…第2取得手段、4…個別リスク取得手段、5…個別比較判定手段、6…合算リスク取得手段、7…合算比較判定手段、8…記憶手段、V1a…対策前個別リスク情報、V1b…対策後個別リスク情報、V1c…個別差分、V2…合算差分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9