(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130136
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】転写方法および転写装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/50 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L21/52 C
H01L21/50 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039673
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】風間 浩一
(72)【発明者】
【氏名】陣田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】新井 義之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 達弥
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA19
5F047BA21
5F047BB03
5F047BB18
(57)【要約】
【課題】ブリスタリングにより被転写基板上に転写された後の素子が位置ずれすることを防ぐことができる転写方法および転写装置を提供する。
【解決手段】転写基板上22に保持された素子21を被転写基板23へ転写する転写方法であり、転写基板22に保持された素子21と被転写基板23とを対向させる転写準備工程と、所定の素子21の周囲の圧力が第1の圧力である環境下において所定の素子21の保持領域もしくはその近傍で転写基板22にブリスタ30を生じさせることによって、所定の素子21を被転写基板23に保持させる転写工程と、所定の素子21の周囲の圧力を第1の圧力より高い第2の圧力に変更し、ブリスタ30を収縮させるブリスタ収縮工程と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写基板上に保持された素子を被転写基板へ転写する転写方法であり、
前記転写基板に保持された素子と前記被転写基板とを対向させる転写準備工程と、
所定の素子の周囲の圧力が第1の圧力である環境下において所定の素子の保持領域もしくはその近傍で前記転写基板にブリスタを生じさせることによって、前記所定の素子を前記被転写基板に保持させる転写工程と、
前記所定の素子の周囲の圧力を前記第1の圧力より高い第2の圧力に変更し、前記ブリスタを収縮させるブリスタ収縮工程と、
を有することを特徴とする、転写方法。
【請求項2】
前記ブリスタを収縮させた後、前記転写基板上の素子の配列方向に前記転写基板と前記被転写基板とを相対移動させる配列方向移動工程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の転写方法。
【請求項3】
前記第1の圧力は大気圧より低く、前記第2の圧力は大気圧であることを特徴とする、請求項1に記載の転写方法。
【請求項4】
前記第1の圧力は大気圧であり、前記第2の圧力は大気圧より高いことを特徴とする、請求項1に記載の転写方法。
【請求項5】
転写基板へ活性エネルギー線を照射することによって当該転写基板に保持された素子を被転写基板へ転写する転写装置であり、
転写基板へ活性エネルギー線を照射し、転写基板の所定の素子の保持領域もしくはその近傍でブリスタを生じさせるエネルギー照射部と、
少なくとも前記転写基板に保持される素子の周囲の圧力を調節する圧力調節部と、
を備え、
前記圧力調節部は、前記エネルギー照射部が前記転写基板に前記ブリスタを生じさせるときの前記所定の素子の周囲の圧力である第1の圧力に対し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲の圧力を前記第1の圧力より高い第2の圧力に変更することにより前記ブリスタを収縮させることを特徴とする、転写装置。
【請求項6】
前記転写基板を把持する転写基板把持部と、前記被転写基板を把持する被転写基板把持部と、をさらに有し、前記転写基板把持部は前記転写基板の把持領域を囲い、前記被転写基板把持部へ延びる側壁部を有し、前記側壁部が前記被転写基板把持部と当接することにより、前記転写基板の把持領域と前記被転写基板の把持領域を囲う密閉空間が形成され、前記圧力調節部は当該密閉空間の圧力を調節することを特徴とする、請求項5に記載の転写装置。
【請求項7】
前記転写基板を把持する転写基板把持部と、前記被転写基板を把持する被転写基板把持部と、をさらに有し、前記被転写基板把持部は前記被転写基板の把持領域を囲い、前記転写基板把持部へ延びる側壁部を有し、前記側壁部が前記転写基板把持部と当接することにより、前記転写基板の把持領域と前記被転写基板の把持領域を囲う密閉空間が形成され、前記圧力調節部は当該密閉空間の圧力を調節することを特徴とする、請求項5に記載の転写装置。
【請求項8】
前記前記圧力調節部は減圧機構であり、前記ブリスタを生じさせる時は前記所定の素子の周囲を減圧し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲を大気開放することを特徴とする、請求項5に記載の転写装置。
【請求項9】
前記前記圧力調節部は加圧機構であり、前記ブリスタを生じさせる時は前記所定の素子の周囲を大気開放し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲を加圧することを特徴とする、請求項5に記載の転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを転写基板に照射し、ブリスタリングを利用して素子を被転写基板へ転写する、転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップはコスト低減のために小型化され、この小型化した半導体チップを高精度に実装するための取組みが行われている。この小型化したチップを高速で実装するにあたり、転写基板に接合されたチップの転写基板との接合面へレーザを照射することによってアブレーションを生じさせ、チップを転写基板から剥離、付勢させて被転写基板へと転写する、いわゆるレーザリフトオフなる手法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、転写基板に設けられた、表面側に接着材層を有するブリスタリング層にレーザビームを照射することによって、ブリスタリング層をアブレーションさせる技術が開示されている。このブリスタリング層ではアブレーションによってブリスタ(膨らみ)が生じ、このブリスタの発生によって接着剤層に接着されていた物品(素子)を押し出し、これにより物品を転写基板から切り離す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で示される素子の転写方法では、被転写基板に転写された素子が位置ずれを起こすおそれがあった。具体的には、
図7(a)に示すように転写基板122が有するブリスタリング層124にレーザ光111を照射してブリスタ130を生じさせて素子121を被転写基板123へ転写するにあたって、ブリスタ130の大きさによっては
図7(b)に示すように素子121の全体が被転写基板123上のキャッチ層125に転写された後もブリスタ130がしぼむまでブリスタリング層124が素子121に付着している状態が続く場合がある。ここで、仮にキャッチ層125の粘着力がブリスタリング層124の粘着力よりも充分大きくなかった場合には、たとえば素子の配列間隔を変更するために転写基板122と被転写基板123とを相対移動させたときに、
図7(c)に示すように未だ素子121に付着しているブリスタリング層124に素子121が引っ張られて位置ずれが生じるといった問題があった。
【0006】
本願発明は、上記問題点を鑑み、ブリスタリングにより被転写基板上に転写された後の素子が位置ずれすることを防ぐことができる転写方法および転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の転写方法は、転写基板上に保持された素子を被転写基板へ転写する転写方法であり、前記転写基板に保持された素子と前記被転写基板とを対向させる転写準備工程と、所定の素子の周囲の圧力が第1の圧力である環境下において所定の素子の保持領域もしくはその近傍で前記転写基板にブリスタを生じさせることによって、前記所定の素子を前記被転写基板に保持させる転写工程と、前記所定の素子の周囲の圧力を前記第1の圧力より高い第2の圧力に変更し、前記ブリスタを収縮させるブリスタ収縮工程と、を有することを特徴としている。
【0008】
本発明の転写方法によれば、ブリスタ収縮工程を有していることにより、被転写基板への素子の転写に供したブリスタを強制的に萎ませて素子から離間させることができるため、ブリスタによって素子の位置ずれが生じることを防ぐことができる。
【0009】
また、前記ブリスタを収縮させた後、前記転写基板上の素子の配列方向に前記転写基板と前記被転写基板とを相対移動させる配列方向移動工程をさらに有すると良い。
【0010】
こうすることにより、配列方向移動工程が実施されるときにブリスタが素子に付着している状態を回避することができるため、配列方向移動工程中に素子がブリスタに引っ張られて位置ずれすることを防ぐことができる。
【0011】
ここで、前記第1の圧力は大気圧より低く、前記第2の圧力は大気圧であっても良い。
【0012】
一方、前記第1の圧力は大気圧であり、前記第2の圧力は大気圧より高いと良い。
【0013】
また、上記課題を解決するために本発明の転写装置は、転写基板へ活性エネルギー線を照射することによって当該転写基板に保持された素子を被転写基板へ転写する転写装置であり、転写基板へ活性エネルギー線を照射し、転写基板の所定の素子の保持領域もしくはその近傍でブリスタを生じさせるエネルギー照射部と、少なくとも前記転写基板に保持される素子の周囲の圧力を調節する圧力調節部と、を備え、前記圧力調節部は、前記エネルギー照射部が前記転写基板に前記ブリスタを生じさせるときの前記所定の素子の周囲の圧力である第1の圧力に対し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲の圧力を前記第1の圧力より高い第2の圧力に変更することにより前記ブリスタを収縮させることを特徴としている。
【0014】
本発明の転写装置によれば、圧力調節部により所定の素子の周囲の圧力を第1の圧力から第2の圧力にすることにより、被転写基板への素子の転写に供したブリスタを強制的に萎ませて素子から離間させることができるため、ブリスタによって素子の位置ずれが生じることを防ぐことができる。
【0015】
また、前記転写基板を把持する転写基板把持部と、前記被転写基板を把持する被転写基板把持部と、をさらに有し、前記転写基板把持部は前記転写基板の把持領域を囲い、前記被転写基板把持部へ延びる側壁部を有し、前記側壁部が前記被転写基板把持部と当接することにより、前記転写基板の把持領域と前記被転写基板の把持領域を囲う密閉空間が形成され、前記圧力調節部は当該密閉空間の圧力を調節すると良い。
【0016】
一方、前記転写基板を把持する転写基板把持部と、前記被転写基板を把持する被転写基板把持部と、をさらに有し、前記被転写基板把持部は前記被転写基板の把持領域を囲い、前記転写基板把持部へ延びる側壁部を有し、前記側壁部が前記転写基板把持部と当接することにより、前記転写基板の把持領域と前記被転写基板の把持領域を囲う密閉空間が形成され、前記圧力調節部は当該密閉空間の圧力を調節しても良い。
【0017】
こうすることにより、圧力を調節する領域を限定することができ、圧力の調節に要する時間を短縮することができる。
【0018】
ここで、前記前記圧力調節部は減圧機構であり、前記ブリスタを生じさせる時は前記所定の素子の周囲を減圧し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲を大気開放しても良い。
【0019】
一方、前記前記圧力調節部は加圧機構であり、前記ブリスタを生じさせる時は前記所定の素子の周囲を大気開放し、前記所定の素子が前記被転写基板に保持されたときに前記所定の素子の周囲を加圧すると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の転写方法および転写装置により、ブリスタリングにより被転写基板上に転写された後の素子が位置ずれすることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の転写方法を実施するための転写装置を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態における転写工程を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるブリスタ収縮工程を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態における転写方法を説明する図である。
【
図5】本発明の他の実施形態における転写装置を説明する図である。
【
図6】本発明の他の実施形態における転写工程を説明する図である。
【
図7】従来の転写方法において素子の転写に失敗した例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の転写方法を実施するための転写装置について、
図1を参照して説明する。
【0023】
転写装置10は、レーザ光11を照射するレーザ照射部12、転写基板22を保持して少なくともX軸方向、Y軸方向に移動可能な転写基板把持部13、転写基板把持部13の下側にあって転写基板22と隙間を有して対向するように被転写基板23を保持する被転写基板把持部14、および図示しない制御部を備えており、転写基板22にレーザ光11を照射することによって転写基板でアブレーションを生じさせ、転写基板22から被転写基板23へ素子21を転写する。
【0024】
レーザ照射部12は、本発明におけるエネルギー照射部の一実施形態であり、活性エネルギー線であるエキシマレーザなどのレーザ光11を照射する装置であり、転写装置10に固定して設けられる。本実施形態においては、レーザ照射部12はスポット状のレーザ光11を間欠的に出射し、レーザ光11は、制御部により角度が調節されるガルバノミラー15およびFθレンズ16を介してX軸方向およびY軸方向の照射位置が制御され、転写基板把持部13に保持された転写基板22に複数配置されている素子21に選択的に照射する。レーザ光11が転写基板22を通して素子21近傍に入射することによって、転写基板22と素子21との間で活性エネルギー(光エネルギー)の付与によるアブレーションが生じ、このアブレーションによって素子21は付勢され、転写基板22から被転写基板23へ素子21が転写される。なお、本説明では素子21はたとえば半導体チップである。
【0025】
また、転写装置10はレーザ出射部12から出射されたレーザ光11を真下(Z軸方向)に反射するミラー17aおよびミラー17aが反射したレーザ光11を反射してガルバノミラー15へ入射させるミラー17bを有している。また、レーザ出射部12とミラー17aの間には、図示しないエキスパンダーレンズ、コリメートレンズなどの光学系が設けられている。
【0026】
また、
図1の二点鎖線に囲まれたミラー17b、ガルバノミラー15、Fθレンズ16は共通のフレームに取り付けられて一体となってZ軸方向に移動可能となっており、これらがZ軸方向に移動することにより、転写基板22近傍におけるレーザ光11のZ軸方向の焦点位置を調節することができる。
【0027】
転写基板把持部13は開口を有し、転写基板22の外周部近傍を吸着把持する。転写基板把持部13に保持された転写基板22へこの開口を介してレーザ照射部12から発せられたレーザ光11を当てることができる。
【0028】
転写基板22は、ガラスなどを材料としてレーザ光11を透過することが可能な基板であり、下面側で素子21を保持する。また、この転写基板22の素子21を保持する面にはブリスタリング層24が形成されており、このブリスタリング層24の表面は粘着性を有する。このブリスタリング層24の表面の粘着力が素子21の保持力となり、素子21を粘着保持する。
【0029】
また、転写基板把持部13は図示しない移動機構により、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に関して被転写基板把持部14に対して相対移動する。図示しない制御部がこの移動機構を制御し、転写基板把持部13の位置を調節することにより、転写基板22に保持された素子21の被転写基板23に対する相対位置を調節することができる。
【0030】
ここで、転写基板把持部13は、転写基板23を把持する領域を囲うように、下方へ(被転写基板把持部14の方向へ)延びる側壁部41を有している。側壁部41の下端部の高さは均一であり、転写基板把持部13が被転写基板把持部14に接近した際、側壁部41の下端部全体が同時に被転写基板把持部14の上面に当接する。また、側壁部41の下端部にはOリングが設けられており、側壁部41は少なくとも下端部が可撓性を有している。
【0031】
また、転写基板把持部13の側壁部41より内側には、圧力調節部40が接続されている。本実施形態の圧力調節部40は、減圧ポンプ42、三方弁43、および大気開放部44を有している。転写基板把持部13につながる配管45の接続先が三方弁43により切り替え可能となっており、配管45が三方弁43を介して減圧ポンプ42と接続されている場合と、配管45が三方弁43を介して大気開放部44と接続されている場合とで切り替わる。なお、本実施形態では、大気開放部44は三方弁43と接続されていない方の端部が何とも繋がれていない(解放された)配管である。
【0032】
被転写基板把持部14は、上面に平坦面を有し、素子21の転写工程中、転写基板22のブリスタリング層24およびブリスタリング層24が保持する素子21と被転写基板23の被転写面が対向するように被転写基板23を把持する。この被転写基板把持部14の上面には複数の吸引孔が設けられており、吸引力により被転写基板23の裏面(素子21が転写されない方の面)を把持する。
【0033】
ここで、本実施形態における被転写基板23は、ガラスなどを材料とする基板であり、被転写面(素子21を受ける側の面)には、粘着性を有するキャッチ層25が設けられ、転写基板22から転写された素子21を粘着保持する。
【0034】
なお、本実施形態では、転写基板把持部13のみがX軸方向およびY軸方向に移動することにより転写基板把持部13と被転写基板把持部14とがXY方向に相対移動する形態をとっているが、被転写基板23の寸法が大きく、レーザ光11の照射範囲の直下に被転写基板23の全面が位置できない場合には、被転写基板把持部14にもX軸方向およびY軸方向の移動機構が設けられていても良い。
【0035】
この被転写基板把持部14に対し、転写基板22を把持した状態で転写基板把持部13が接近し、側壁部41が被転写基板把持部14の表面に当接することにより、
図1に示すように転写基板把持部13における転写基板22の把持領域、転写基板22、被転写基板把持部14における被転写基板23の把持領域、および側壁部41に囲われた密閉空間が形成される。減圧ポンプ42はこの密閉空間の減圧を行う。この減圧により、転写基板22に保持されている素子21の周囲の圧力が低減される(調節される)。また、本実施形態のように密閉空間を形成することにより、圧力を調節する領域を限定することができ、圧力の調節に要する時間を短縮することができる。
【0036】
なお、
図1では便宜上側壁部41は被転写基板23の近辺にあるように描画しているが、後述のように転写基板把持部13と被転写基板把持部14とがXY方向に相対移動しても側壁部41と被転写基板23とが衝突することが無いよう、実際の形態では側壁部41は被転写基板23の把持領域から充分に離れた位置にて被転写基板把持部14と当接する。
【0037】
以上の構成を有する転写装置10において、素子21を挟んで転写基板22と被転写基板23とが対向した状態において転写基板22を通して素子21に向けてレーザ光11が照射され、ブリスタリング層24にレーザ光11が照射されることによって、レーザ光11のエネルギーによってブリスタリング層24の材料の一部が分解され、ガスが発生する。このブリスタリング層24の材料の分解およびガスの発生により、
図1に示すようにブリスタリング層24の内部もしくは転写基板22のガラス面22aとブリスタリング層24との間でブリスタ(気泡)30が発生する。このようにブリスタ30が発生する現象を本説明ではブリスタリングと呼ぶ。
【0038】
本発明の転写装置を用いた転写方法内の一工程である転写工程の一実施形態を、
図2を用いて説明する。
図2(a)は
図1におけるAA矢視図であり、
図2(b)は転写基板22および被転写基板23を含めた正面図である。
【0039】
本実施形態の転写工程では、
図2(a)に示す通り、転写基板22に設けられたブリスタリング層24における一つの素子21が保持されている領域(
図2(a)における破線部)において照射位置を変更しながらレーザ光11を複数回照射することにより、各照射位置で生じる小さなブリスタを連結させて
図2(b)に示すような1つの大きなドーム状のブリスタ30を形成させる。このようにブリスタ30を形成させることにより、素子21がブリスタリング層24の表面部分に保持されたまま素子21を被転写基板23へ接近させるとともにブリスタリング層24と素子21の接触面積を減少させて、素子21を転写基板22から被転写基板23へ転写する。このレーザ光11の照射位置(以下、照射スポットとも呼ぶ)の変更は、本実施形態では前述の通り照射位置制御部であるガルバノミラー15によって行われる。
【0040】
このとき、本実施形態におけるレーザ光11の照射スポットの移動の軌跡は、
図2(a)に示すようにX軸方向の直線状の移動、移動方向の90度回転、Y軸方向の直線状の移動、移動方向の90度回転、が繰り返されて、略渦巻き形態となっている。そして、各照射スポットの間隔が略均一になるようにレーザ光11の照射を行っている。
【0041】
ここで、この転写工程における素子21の周囲の圧力である第1の圧力P1は、本実施形態では減圧ポンプ42の作動によって大気圧以下となっている。
【0042】
次に、転写方法内の一工程であるブリスタ収縮工程の一実施形態を、
図3を用いて説明する。
【0043】
本発明におけるブリスタ収縮工程は、転写工程の実施後に、素子21の転写のために形成したブリスタ30を強制的に収縮させる工程である。
【0044】
本実施形態では、転写工程では大気圧以下の第1の圧力P1にて素子21の転写を行ったのに対し、ブリスタ収縮工程では素子21の周囲の圧力を第1の圧力P1より高い第2の圧力P2に変更する。具体的には、圧力調節部40の三方弁43を作動させ、配管45と大気開放部44とを接続することにより、素子21の周囲の圧力が大気圧である第2の圧力P2となるように大気開放する。
【0045】
このようにブリスタ収縮工程において素子の周囲の圧力が転写工程時の圧力よりも高くなることにより、
図3に矢印で示すようにブリスタ30を外側から押す力が増加する。これによりブリスタ30が収縮し、ブリスタリング層24を素子21から強制的に離間させることができる。
【0046】
次に、本発明の一実施形態における転写方法の一連のフローを、
図4を用いて説明する。
【0047】
まず、
図4(a)の左半分に示すように、転写基板22が素子21を保持し、素子21と被転写基板23とが離間した状態で、素子21を挟むように転写基板22と被転写基板23とを対向させる。本説明では、この工程を転写準備工程と呼ぶ。この転写準備工程後、素子21の周囲の圧力を減圧状態である第1の圧力P1とする。
【0048】
次に、
図4(a)の右半分に示すように、所定の素子21の近傍にレーザ光11を照射してブリスタリング層24にブリスタ30を生じさせることにより、素子21を被転写基板23に接近させ、被転写基板23に保持させる。この工程を、前述の通り転写工程と呼ぶ。
【0049】
図4(b)は、転写工程が進行して一つの素子21の保持領域に対し複数回のレーザ光11の照射が行われ、大きなブリスタ30が形成されるとともに、ブリスタリング層24が素子21に付着したまま素子21全体が被転写基板23のキャッチ層25に転写された状態を示している。ここで、素子21の周囲の圧力が減圧状態であることから、素子21が被転写基板23へ向かう際の空気抵抗が低減され、空気抵抗によって転写位置にずれが生じることを低減させることができる。
【0050】
次に、
図4(c)に示すように素子21の周囲を大気開放して大気圧である第2の圧力P2まで上昇させ、ブリスタ30を収縮させる。この工程を、前述の通りブリスタ収縮工程と呼び、ブリスタ30が収縮することによりブリスタ30は萎み、ブリスタリング層24が素子21から離間する。
【0051】
被転写基板23に転写された素子21とブリスタリング層24とがブリスタ収縮工程によって完全に分離された後、次に、
図4(d)に示すように転写基板22上の素子21の配列方向(
図4におけるX軸方向)に転写基板22と被転写基板23とが相対移動する。本説明では、この工程を配列方向移動工程と呼ぶ。本実施形態では、転写基板把持部13がX軸方向に移動することにより、転写基板22と被転写基板23とが相対移動する。
【0052】
このように配列方向移動工程が行われることにより、転写基板22上では素子21のピッチが
図4(a)に示すように距離D1だったものが任意に調節され、後述するように任意のピッチで被転写基板23上に複数の素子21を配列させることができる。
【0053】
ここで、仮に従来のようにブリスタ収縮工程無く配列方向移動工程を実施しようとする場合、素子21の被転写基板23に保持される面全体が被転写基板23に保持された後でも、ブリスタ30が自然に萎むまではブリスタリング層24が素子21に付着し続ける可能性がある。
【0054】
そしてブリスタリング層24が素子21に付着したまま配列方向移動工程が実施された場合、被転写基板23上の素子21がブリスタリング層24に引っ張られて位置ずれが生じる可能性がある。
【0055】
このようにブリスタリング層24が素子21を位置ずれさせてしまうか否かは、ブリスタリング層24に起因するものだと、ブリスタ30の大きさ、形状に起因するキャッチ層25への押付力や密着性のばらつき、ブリスタリング層24自身の粘着力や厚みのばらつきに応じて左右される。また、素子21に起因するものだと、素子21の形状の不均一性、それによるキャッチ層との密着性のばらつきに応じて左右される。また、キャッチ層25に起因するものだと、その粘着力や厚みのばらつきに応じて左右される。また、レーザ光11に起因するものだと、その照射位置やエネルギー分布のばらつきに応じて左右される。
【0056】
これに対し、本発明では配列方向移動工程の前にブリスタ収縮工程が設けられることにより、配列方向移動工程開始時にはブリスタリング層24から素子21が完全に分離している。そのため、上記のような被転写基板23上の素子21の位置ずれが生じることを防止することができる。
【0057】
また、本実施形態では第2の圧力P2を大気圧とし、配列方向移動工程は大気開放状態で実施されるため、転写基板把持部13と被転写基板把持部14とを相対移動させることが比較的容易である。ここで、相対移動時に側壁部41と被転写基板把持部14との間でこすれが生じなくするように、転写基板把持部13と被転写基板把持部14とをZ軸方向に少し離間させても良い。
【0058】
配列方向移動工程により所定の距離だけ転写基板22と被転写基板23とが相対移動し終わると、次に転写する素子21が被転写基板23に対向した状態となり、これは次の素子21に対する転写準備工程が行われたことに相当する。そして、素子21の周囲の圧力を再度第1の圧力P1へ変更した後、
図4(e)に示すように次の素子21へのレーザ光11の照射が行われることにより、次の素子21への転写工程が行われる。
【0059】
上記の通り転写準備工程、転写工程、ブリスタ破裂工程、配列方向移動工程を経ることにより、
図4(e)にて距離D2で示すように、転写基板22上での素子21のピッチ(距離D1)に対して被転写基板23上の素子21同士のピッチが任意のピッチとなるように調節された上で、次の素子21が転写基板22から被転写基板23へ転写される。
【0060】
以上の転写方法により、ブリスタリングにより被転写基板上に転写された後の素子が位置ずれすることを防ぐことが可能である。
【0061】
ここで、本発明の転写方法は、以上で説明した形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。たとえば、上記の説明では圧力調節部40は減圧機構であり、第1の圧力P1が減圧状態、第2の圧力P2が大気圧状態であったが、これに限らず、圧力調節部40が加圧機構であって第1の圧力P1が大気圧状態、第2の圧力P2が加圧状態であっても構わない。
【0062】
また、上記の実施形態では側壁部は転写基板把持部から被転写基板把持部に向かって延びていたが、それに限らず被転写基板把持部から転写基板把持部に向かって延びるものであっても構わない。
【0063】
また、上記の説明では
図1に示すように側壁部41が設けられることにより転写基板22の周囲の局所に対して圧力調節部40が圧力調節を行うものであったが、これに限らず、たとえば
図5に示すように転写装置10全体を収容するチャンバ壁46が設けられ、圧力調節部40はチャンバ壁46の内部、すなわち転写装置10全体の周囲の圧力を調節するものであっても良い。
【0064】
また、上記の説明では
図2(a)などに示すように照射スポットの移動の軌跡は略渦巻き状であるが、これに限らずたとえば
図6に示すようにジグザグ状であっても良い。
【0065】
また、素子21の面積が充分に小さい場合、1回の転写工程におけるレーザ光11の照射は1回のみであっても良い。
【0066】
また、上記の説明では、素子21の全体が被転写基板23に転写された後にブリスタ収縮工程が実施されているが、これに限らずたとえば
図4(a)に示すように素子21の一部が先行して被転写基板23と接触し、その後徐々に被転写基板23と保持される部分が増加することによって最終的に素子21全体が被転写基板23に保持される形態を転写工程が有しているならば、素子21の一部が被転写基板23に保持された時にブリスタ収縮工程が実施されても良い。
【0067】
また、上記の説明では、レーザ光11は
図2(a)などに破線で示した素子保持領域内に照射されているが、これに限らず、ブリスタリングにより所定の素子21を被転写基板23へ接近させる効果を奏することを条件に、素子保持領域の近傍であって素子保持領域の周辺にレーザ光11が照射されても良い。
【0068】
また、必ずしも転写基板22上の全ての素子21において被転写基板23への転写後もブリスタリング層24が素子21に付着している必要は無く、一部の素子21において被転写基板23への転写後もブリスタリング層24が素子21に付着するおそれがある場合に、本発明の通りブリスタ収縮工程を有する転写方法が好適に用いられうる。
【0069】
また、上記の説明ではブリスタリング層およびキャッチ層は粘着力によって素子を保持するが、粘着力以外の保持力によって素子を保持しても良い。
【符号の説明】
【0070】
10 転写装置
11 レーザ光(活性エネルギー線)
12 レーザ光源(エネルギー照射部)
13 転写基板把持部
14 被転写基板把持部
15 ガルバノミラー
16 Fθレンズ
17a ミラー
17b ミラー
21 素子
22 転写基板
22a ガラス面
23 被転写基板
24 ブリスタリング層
24a 破裂部
25 キャッチ層
30 ブリスタ
40 圧力調節部
41 側壁部
42 圧空源
43 三方弁
44 大気開放部
45 配管
46 チャンバ壁
111 レーザ光
121 素子
122 転写基板
123 被転写基板
124 ブリスタリング層
125 キャッチ層
130 ブリスタ