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特開2024-130153集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法
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  • 特開-集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法 図1
  • 特開-集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法 図2
  • 特開-集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法 図3
  • 特開-集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130153
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20240920BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240920BHJP
   H01G 11/66 20130101ALI20240920BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01G11/66
H01G11/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039705
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 智美
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA13
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA06
5E078FA12
5E078FA15
5E078FA24
5E078FA25
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB08
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE04
5H017EE07
5H017HH03
5H017HH10
5H050AA08
5H050BA17
5H050BA20
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA04
5H050FA18
5H050HA04
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】軽量化を図ると共に蓄電デバイスの質量エネルギー密度をより向上する。
【解決手段】本開示の集電体は、ポリイミドフィルムからなる基材と、基材の表面上に形成され厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層と、を備え、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムからなる基材と、
前記基材の表面上に形成され厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層と、を備え、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である、集電体。
【請求項2】
前記金属層は、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である、請求項1に記載の集電体。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムは、厚さが25μm以下である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の集電体と、
前記集電体の前記金属層に隣接して形成され電極活物質を含む活物質層と、
を備えた蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄電デバイス用電極と、
前記蓄電デバイス用電極に接触しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項6】
電子ビーム蒸着によってポリイミドフィルムからなる基材の表面上に厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層を形成し、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である集電体を得る処理工程、を含む集電体の製造方法。
【請求項7】
前記処理工程では、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である前記金属層を形成する、請求項6に記載の集電体の製造方法。
【請求項8】
前記処理工程では、厚さが25μm以下である前記ポリイミドフィルムを用いる、請求項6又は7に記載の集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスに用いられる集電体としては、樹脂フィルムの表面に導電処理して導電処理層を形成後、電解めっき処理によりめっき層を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1など参照)。この集電体は、二次電池の軽量化及び薄厚化に有効であるとしている。また、集電体としては、樹脂フィルムに金属薄膜を成膜し、集電体の軽量化がなされ、重量エネルギー密度の高い電池を構成することができるものが提案されている(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-31224号公報
【特許文献2】特開2004-253270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の集電体では、めっき層を必要としており、エネルギー密度の向上には更なる改良が望まれていた。また、上述した特許文献2では、集電体上にPTC素子を配し、その上から集電タブを配置する構造になっており、PTC素子を配した部分の電極厚みが局所的に増加するなど、更なる改良が望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、軽量化を図ると共に単位質量あたりのエネルギー密度をより向上することができる集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、基材としてポリイミドフィルムを用い、基材上にニッケル金属層を電子ビーム蒸着(EB)法で形成すると、軽量化を図ると共に単位質量あたりのエネルギー密度をより向上することができることを見いだし、本開示の集電体、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び集電体の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の集電体は、
蓄電デバイスに用いられる集電体であって、
ポリイミドフィルムからなる基材と、
前記基材の表面上に形成され厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層と、を備え、シート抵抗が0.7Ω/sq以下であるものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイス用電極は、
上述した集電体と、
前記集電体の前記金属層に隣接して形成され電極活物質を含む活物質層と、を備えたものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
上述した蓄電デバイス用電極と、
前記蓄電デバイス用電極に接触しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本開示の集電体の製造方法は、
電子ビーム蒸着によってポリイミドフィルムからなる基材の表面上に厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層を形成し、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である集電体を得る処理工程、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、軽量化を図ると共に単位質量あたりのエネルギー密度をより向上することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、金属を厚さ1μm以下の薄膜層とすることにより、集電体の使用金属量がより低減することから、軽量化を図ることができる。また、基材としてポリイミドシート上にニッケル金属層を形成することによって、金属単体では自立することが困難である極めて薄い金属薄膜の作製が可能になり、それらの表面相互作用によりポリイミドシートからの剥がれや割れがない均質なニッケル金属層の作製が可能となる。そして、これによって、単位質量当たりのエネルギー密度をより向上することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
図2】ポリイミド上に形成したNi膜厚に対するシート抵抗の関係図。
図3】ポリイミド上に形成した金属膜厚に対する規格化した質量エネルギー密度との関係図。
図4】実験例2、5、7の規格化した充放電挙動の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(集電体)
本開示の集電体は、蓄電デバイスに用いられる導電部材である。蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。また、この集電体は、負極集電体としてもよいし、正極集電体としてもよいが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この集電体は、ポリイミドフィルムからなる基材と、基材の表面上に形成され厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層と、を備える。
【0014】
金属層は、ニッケル金属により構成された薄膜である。金属層の厚さは、単位質量当たりのエネルギー密度の観点からは、より薄いことが好ましく、0.8μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.5μm以下としてもよい。また、金属層の厚さは、導電性の観点からは、より厚いことが好ましく、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上としてもよい。金属層の厚さは、0.2μm以上0.6μm以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、シート抵抗とエネルギー密度とを両立することができ、特に好ましい。金属層は、電極の構造などによって、基材の両面に形成されてもよいし、基材の片面に形成されるものとしてもよい。
【0015】
基材は、ポリイミドフィルムにより構成される。この基材において、その厚さは、エネルギー密度の関係からより薄いことが好ましく、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下としてもよい。また、基材の厚さは、機械的強度の観点からはより厚い方が好ましく、5μm以上や7μm以上、10μm以上としてもよい。基材の厚さや面積は、例えば、用いられる電極に求められる特性に応じて適宜選択されるものとすればよい。
【0016】
この集電体は、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である。集電体のシート抵抗は、導電性の観点からは、より低いことが好ましく、0.6Ω/sq以下が好ましく、0.5Ω/sq以下がより好ましく、0.4Ω/sq以下や0.2Ω/sq以下としてもよい。なお、このシート抵抗は、集電体の作製の容易性の観点から、0.01Ω/sq以上とすることができる。この集電体では、金属層の厚さの増加に伴いシート抵抗が低下する。
【0017】
集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば基材及び金属層の加算した厚さであり、5~50μmのものが用いられる。
【0018】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、上述した集電体と、集電体の金属層に隣接して形成され電極活物質を含む活物質層と、を備える。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。
【0019】
電極活物質層は、例えば、電極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば電極活物質と、必要に応じて導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。電極活物質としては、例えば負極活物質として、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素材料が安全性の面からみて好ましい。
【0020】
電極活物質は、例えば、正極活物質として、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0021】
あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素材料としてもよい。炭素材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。
【0022】
電極活物質層に用いられる導電材は、電極の電池性能に悪影響を及ぼさない導電性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0023】
電極活物質層の厚さは、その蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。なお、蓄電デバイス用電極の対極には、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものなどを対極集電体として用いることができる。
【0024】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した電極活物質層と集電体とを備えた蓄電デバイス用電極を有するものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用電極を負極として備えることが好ましい。
【0025】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0026】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0027】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0028】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。図1は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。負極15は、上述した蓄電デバイス用電極であり、集電体17は上述した集電体である。集電体17は、ポリイミドフィルムからなる基材21と、基材21上に形成された薄膜状のニッケル金属による金属層22とを備える。基材21は厚さTで形成され、金属層22は厚さtで形成されている。
【0029】
(集電体の製造方法)
本開示の集電体の製造方法は、上述した集電体を作製する製造方法であるものとしてもよい。ここでは、集電体の各物性などについて、上述した集電体と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。本開示の集電体の製造方法は、電子ビーム蒸着(EB)によってポリイミドフィルムからなる基材の表面上に厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層を形成し、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である集電体を得る処理工程、を含む。この処理工程では、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である金属層を形成することが好ましい。また、この工程では、厚さが25μm以下であるポリイミドフィルムを用いることが好ましい。電子ビーム蒸着は、真空中で電子銃から発生する電子ビームをターゲット材料に照射し、加熱、蒸発させ、基材上に薄膜を形成する方法である。ターゲット材料としてはニッケル金属を用いることができる。また、電子ビームの照射時間に応じて、金属層の厚さを制御することができる。この工程では、基材としてポリイミドフィルムを用い、金属層が0.1μm以上1μm以下の範囲の厚さになるよう電子ビームを制御するものとしてもよい。
【0030】
以上詳述したように、本実施形態の集電体、蓄電デバイス用電極及び集電体の製造方法では、集電体の軽量化を図ると共に単位質量あたりのエネルギー密度をより向上することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、金属を厚さ1μm以下の薄膜層とすることにより、集電体の使用金属量がより低減することから、軽量化を図ることができる。また、基材としてポリイミドシート上にニッケル金属層を形成することによって、金属単体では自立することが困難である極めて薄い金属薄膜の作製が可能になり、それらの表面相互作用によりポリイミドシートからの剥がれや割れがない均質なニッケル金属層の作製が可能となる。そして、これによって、単位質量当たりのエネルギー密度をより向上することができるものと推察される。
【0031】
また、電子ビーム蒸着を用いてニッケル金属層を形成することによって、ニッケルの磁性による作用を回避し、薄いながらも集電体に必要な電子伝導性を充足するのに十分な厚みの均質な集電体が得られるものと推察される。更に、単極ラミセル型電池などでは、金属集電箔と同等もしくはそれを上回る充放電挙動および放電容量が得られる。更にまた、基材上に金属薄膜を形成した集電体は、柔軟であり、多様な形に変形できて成型性がよく、広い用途に利用可能である。そして、基材にポリイミドシートを利用した集電体では、金属箔の集電体に比べて破れにくく、広い用途に利用可能である。そしてまた、金属層を薄膜化することによって、蓄電デバイスの解体時における金属廃棄量の削減にもつながるものと推察される。
【0032】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
本開示は、以下の[1]~[8]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] ポリイミドフィルムからなる基材と、
前記基材の表面上に形成され厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層と、を備え、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である、集電体。
[2] 前記金属層は、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である、[1]に記載の集電体。
[3] 前記ポリイミドフィルムは、厚さが25μm以下である、[1]又は[2]に記載の集電体。
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載の集電体と、
前記集電体の前記金属層に隣接して形成され電極活物質を含む活物質層と、を備えた蓄電デバイス用電極。
[5] [4]に記載の蓄電デバイス用電極と、
前記蓄電デバイス用電極に接触しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
[6] 電子ビーム蒸着によってポリイミドフィルムからなる基材の表面上に厚さ1μm以下のニッケル金属による金属層を形成し、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である集電体を得る処理工程、を含む集電体の製造方法。
[7] 前記処理工程では、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である前記金属層を形成する、[6]に記載の集電体の製造方法。
[8] 前記処理工程では、厚さが25μm以下である前記ポリイミドフィルムを用いる、[6]又は[7]に記載の集電体の製造方法。
【実施例0034】
以下には、本開示の蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~6が本開示の実施例であり、実験例7~11が比較例である。
【0035】
(電極用集電体の作製;実験例1~6)
基材としての厚さ25μmのポリイミドシートを蒸着基板上に設置し、EB蒸着装置内に設置後、蒸着源にニッケルを用い、5.0×10-4Paの減圧下、蒸着速度1Å/secにてEB蒸着を行った。これにより、蒸着時間を変更することによって、ポリイミドシート上に厚さ0.1~10μmのNi金属層を形成した。EB蒸着は、キヤノンアネルバ株式会社製電子ビーム蒸着装置を用いた。金属層の厚さが0.1μm、0.2μm、0.4μm、0.6μm、0.8μm及び1.0μmのものをそれぞれ実験例1~6とした。
【0036】
(実験例7、8)
市販の厚さ10μmのNi箔を実験例7の集電体とした。市販の厚さ10μmの銅箔を実験例8の集電体とした。
【0037】
(実験例9~11)
厚さ25μmのポリイミドフィルムの上にスパッタリング法により銅を成膜したものを実験例9とした。スパッタリングは、キヤノントッキ株式会社製スパッタ成膜装置を用い、ターゲットを銅金属とした。また、厚さ25μmのポリイミドフィルムの上にスパッタリング法によりNiを成膜したものを実験例10とした。厚さ8μmのポリプロピレン(PP)フィルムの上にEB法によりNiを成膜したものを実験例11とした。
【0038】
(電極集電体の抵抗測定とシート抵抗算出)
四探針測定装置を用いて、集電体の抵抗R(Ω)を測定し、その値から式(1)を用いてシート抵抗(Ω/sq.)を算出した。
シート抵抗Rs(Ω/sq.)=(R・π)/(ln2) …式(1)
【0039】
(蓄電デバイス用電極の作製)
黒鉛および結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量比率98:1:1で混合し、イオン交換水に溶かした負極電極スラリーとし、これを、上記作製した金属集電体の上に塗布し、加熱乾燥した。乾燥して得られた塗布シートをロールプレスに通して高密度化させ、25mm幅に切り出し、蓄電デバイス用電極を得た(図1参照)。
【0040】
(質量エネルギー密度の算出)
作製した電極を56mm×25mmの長方形に切り出し、中央に電極面積42mm×25mmを残してそれ以外の部分をはぎ取った。この厚さと質量を測定し、電極当たりの質量エネルギー密度(Ah/g)を算出した。厚さ10μmの集電体を有する電極(実験例7)の質量エネルギー密度を1として規格化し、金属の厚さに対する規格化質量エネルギー密度とした。
【0041】
(対極にリチウム金属を配した単極ラミネート型電池(評価セル)の作製)
作製した電極において電極活物質の塗工部を42mm長とし、余分に残した集電体の部分にNiタブを固定した。また、74mm×25mmに切り出した銅箔の中央部に25mm×45mmで切り出した金属リチウムを貼り付け、両端の銅箔部にNiタブを固定した。これらを、セパレータを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネート型袋に封入し、非水電解液を含侵させた後に密閉して単極評価用ラミネート型電池を作製した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比にて30:40:30%で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0042】
(充放電試験)
評価セルの充放電試験は、25℃の温度条件下で上限電圧1.5V、下限電圧0.005Vで以下の通り行った。C/12の定電流でCC充電、CC放電を行い、これを5サイクル繰り返した。さらに、C/12Cの定電流でCCCV充電したのち、C/12の定電流でCCCV放電を1サイクル行った。Ni金属層の厚さが0.4μm(実験例4)のときの放電容量を1として規格化したときの金属厚さに対する規格化放電容量を求めた。
【0043】
(結果と考察)
図2は、ポリイミド上に形成したNi膜厚に対するシート抵抗の関係図である。図3は、ポリイミド上に形成した金属膜厚に対する規格化した質量エネルギー密度との関係図である。図4は、実験例2、5、7の規格化した充放電挙動の比較図である。また、実験例1~8の金属種、金属膜の厚さ(μm)、シート抵抗(Ω/sq)、実験例7の結果により規格化した質量エネルギー密度(-)、実験例7の結果により規格化した放電容量(-)を表1にまとめた。また、実験例3、9~13の製膜方法、金属種、基材の種別及び製膜状態を表2にまとめた。製膜状態は、ひびや割れなどのない良好な状態を「A」、ひびや割れなどがある不良な状態を「D」として評価した。
【0044】
まず、表2に示した、部材の種類及び製膜方法を検討した結果(実験例9~13)を考察する。樹脂フィルム上にCu膜を形成した実験例9では、0.4μm程度の銅箔膜集電体を得ることができたが、部分的に割れが見られ、集電体として使用できなかった。実験例9の結果から、ポリイミドシートと銅の組み合わせでは、集電体に必要な電子伝導を充足する厚みの金属層を作製することが困難であった。これは、銅とポリイミドの線膨張係数の違いや、一般的に銅がポリイミド中に拡散してしまい合金化することや、硬化したポリイミドシートとは化学反応しにくいためであると推察された。また、ポリイミドフィルムの上にスパッタリング法によりニッケルを成膜したところ、6時間成膜しても30nm程度のニッケル金属層しか得られず、成膜スピードが著しく遅いため、成膜が困難であった。また、ポリイミドフィルム以外の樹脂層としてPPフィルム上にEB蒸着によりニッケルを成膜したところ、樹脂フィルムが変形してしまい均一で平らな表面のニッケル金属層の作製が困難であった。これは、PPとニッケルとの線膨張係数が大きく異なることに加え、EB蒸着装置内の温度は高温になるが、PPの耐熱温度が150℃程度までであり、ポリイミドの400℃程度に比べて低いためであると推察された。一方、ポリイミドフィルムに対してEB蒸着でNiを成膜すると、金属膜が均一且つひび、割れのない状態で良好なシート状の集電体が得られることがわかった。このように、負極集電体として使用するためには、使用できる金属が銅、またはニッケルに限られる中で、金属種としてニッケルを選択し、ニッケルは磁性をもつため、スパッタリング法により成膜することは極めて難しいことから、金属層を作製する物理蒸着法のうち、電子ビーム(EB)蒸着法を選択し、基材としては、熱的安定性と化学的安定性の高いポリイミドシートを選択した。
【0045】
次に、ポリイミドフィルムに対してEB蒸着でNiを成膜した実験例1~7について考察する。実験例1~6では、樹脂フィルムの上にEB蒸着法により厚み1.0μm以下の範囲のニッケル層を成膜し、ニッケル金属層を有する集電体を得ることができた。なお、実験例6では、フィルムの端部にてニッケル金属層の剥離が一部観察されたため、ニッケル金属層の厚さは1.0μmまでの検討とした。充放電試験結果から、0.2μm、0.4μmの金属層でも金属箔の厚さ10μmに匹敵する、もしくは、それを超える放電容量が得られた。一方、それより薄い0.1μmの場合は集電体自体の電子伝導性の不足により、また、1μmより厚い場合には均一な金属層の作製が困難であり、物理的なパスが断絶されてしまうため、放電容量が低下したものと考えられる。また、質量エネルギー密度の観点から、ニッケル金属層の厚さは1μm以下が望ましいことがわかった。また、0.8~1.0μmでは、破れ等が発生するおそれがあることから、質量エネルギー密度と放電容量を充足する膜厚は0.2μm以上0.6μm以下の範囲が好ましいものと推察された。また、ポリイミドフィルムは、より薄いことが好ましく、厚さが25μm以下、好ましくは厚さが5μm以上であるものと推察された。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 基材、22 金属層、T,t 厚さ。
図1
図2
図3
図4