(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130154
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20240920BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240920BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240920BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/66 A
H01M4/587
H01G11/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039706
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 智美
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA09
5E078AB01
5E078BA18
5E078BA32
5E078BA44
5E078BA71
5H017AA03
5H017CC03
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH03
5H050AA12
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA04
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの低温での反応抵抗をより低減する。
【解決手段】本開示の蓄電デバイス用電極は、基材の表面上に厚さ0.15μm以上0.8μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含み集電体に隣接して形成された電極活物質層と、を備え、単位面積当たりの黒鉛の質量ρs(mg/cm
2)、電極活物質層の密度ρ(g/cm
3)、黒鉛のメディアン径D
50(μm)としたときに、数式(1)で求められるY値が1未満の範囲である。
【数1】
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に厚さ0.15μm以上0.8μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含み前記集電体に隣接して形成された電極活物質層と、を備え、
単位面積当たりの前記黒鉛の質量ρs(mg/cm
2)、前記電極活物質層の密度ρ(g/cm
3)、前記黒鉛のメディアン径D
50(μm)としたときに、数式(1)で求められるY値が1未満の範囲である、蓄電デバイス用電極。
【数1】
【請求項2】
前記集電体は、前記金属層の厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である、請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
前記Y値は、0以上0.4以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記電極活物質層は、前記質量ρsが6mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
前記電極活物質層は、前記密度ρが0.9g/cm3以上1.5g/cm3以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
前記電極活物質層は、前記黒鉛のメディアン径D50が6μm以上28μm以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
正極活物質を含む正極と、
請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、リン酸鉄リチウムの正極活物質と、黒鉛の負極活物質と、有機支持層とその少なくとも一方の表面に設けられた導電層を含む正極集電体及び/又は負極集電体である複合集電体とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1など参照)。この蓄電デバイスは、良好な低温性能を有する、としている。また、蓄電デバイスとしては、不織布に金属被膜を形成させ不織布を分解除去して得られる、厚さ10μm~100μmのシート状の三次元網状金属多孔体を集電体に用いたものが提案されている(例えば、特許文献2など参照)。この蓄電デバイスでは、三次元網状金属多孔体の集電体と活物質との接触面積が増大し、電池の内部抵抗を低減できることから高い出力が得られる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2021-530831号公報
【特許文献2】国際公開第2013/140941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1では、良好な低温性能を有するものとしているが、まだ十分でなく、更なる改良が求められていた。また、上述した特許文献2では、電池の内部抵抗を低減できるとしているが、例えば、-30℃などの低温特性については検討されておらず、更なる改良が望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、低温での反応抵抗をより低減することができる蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、基材の表面上に厚さ1μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含む電極活物質層とを備えたものにおいて、単位面積当たりの黒鉛の質量ρs(mg/cm2)、電極活物質層の密度ρ(g/cm3)、及び黒鉛のメディアン径D50(μm)をより好適な範囲とすると、低温での反応抵抗をより低減することができることを見いだし、本開示の蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の蓄電デバイス用電極は、
基材の表面上に厚さ0.15μm以上0.8μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含み前記集電体に隣接して形成された電極活物質層と、を備え、
単位面積当たりの前記黒鉛の質量ρs(mg/cm2)、前記電極活物質層の密度ρ(g/cm3)、前記黒鉛のメディアン径D50(μm)としたときに、数式(1)で求められるY値が1未満の範囲であるものである。
【0008】
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、低温での反応抵抗をより低減することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、黒鉛に接する集電体にニッケル薄膜を使用することによって、例えば、-30℃などの低温での反応抵抗が低下することに加え、単位面積当たりの黒鉛の質量(目付量)ρsや電極活物質層の密度ρ、黒鉛のメディアン径D50などが所定の範囲にある場合に、ニッケル薄膜集電体の表面ラフネス効果が最大化され、電極活物質層と集電体との接触面積が最大化されると共に、アンカー効果がより効果的に働くことによって、反応抵抗低減効果が顕著に現れるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図2】実験例1、10の交流インピーダンス測定でのナイキストプロット。
【
図3】金属層の厚さと、規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図。
【
図4】負極の単位面積あたりの黒鉛質量ρsと規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図。
【
図5】負極活物質層の密度ρと規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図。
【
図6】黒鉛のメディアン径D
50と規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスに用いられるものであり、基材の表面上に厚さ1μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含み前記集電体に隣接して形成された電極活物質層と、を備える。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。ここでは、蓄電デバイス用電極を負極とし、蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池を主として説明する。
【0013】
集電体に含まれる金属層は、ニッケル金属により構成された薄膜である。金属層の厚さは、単位質量当たりのエネルギー密度の観点からは、より薄いことが好ましく、0.8μm以下であるものとし、0.6μm以下が好ましく、0.5μm以下としてもよい。また、金属層の厚さは、導電性の観点からは、より厚いことが好ましく、0.15μm以上であるものとし、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上としてもよい。金属層の厚さは、0.2μm以上0.6μm以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、シート抵抗とエネルギー密度とを両立することができ、特に好ましい。金属層は、電極の構造などによって、基材の両面に形成されてもよいし、基材の片面に形成されるものとしてもよい。
【0014】
基材は、柔軟性を有する素材が好ましく、樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムなどの汎用樹脂フィルムや、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリイミド(PI)フィルムなどのエンジニアリング樹脂フィルムが挙げられ、エンジニアリング樹脂フィルムが好ましい。このうち、基材は、ポリイミドフィルムにより構成されることがより好ましい。この基材において、その厚さは、エネルギー密度の関係からより薄いことが好ましく、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下としてもよい。また、基材の厚さは、機械的強度の観点からはより厚い方が好ましく、5μm以上や7μm以上、10μm以上としてもよい。基材の厚さや面積は、例えば、用いられる電極に求められる特性に応じて適宜選択されるものとすればよい。
【0015】
この集電体は、シート抵抗が0.7Ω/sq以下であることが好ましい。集電体のシート抵抗は、導電性の観点からは、より低いことが好ましく、0.6Ω/sq以下が好ましく、0.5Ω/sq以下がより好ましく、0.4Ω/sq以下や0.2Ω/sq以下としてもよい。なお、このシート抵抗は、集電体の作製の容易性の観点から、0.01Ω/sq以上とすることができる。この集電体では、金属層の厚さの増加に伴いシート抵抗が低下する。
【0016】
集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば基材及び金属層の加算した厚さであり、5~50μmのものが用いられる。
【0017】
電極活物質層は、例えば、電極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば電極活物質と、必要に応じて導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。電極活物質としては、例えば電極活物質として、黒鉛などが挙げられる。炭素材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、黒鉛としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられる。
【0018】
電極活物質層に用いられる導電材は、電極の電池性能に悪影響を及ぼさない導電性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0019】
電極活物質層の厚さは、その蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。なお、蓄電デバイス用電極の対極には、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものなどを対極集電体として用いることができる。
【0020】
この蓄電デバイス用電極は、単位面積当たりの黒鉛の質量ρs(mg/cm2)、電極活物質層の密度ρ(g/cm3)、黒鉛のメディアン径D50(μm)としたときに、数式(1)で求められるY値が1未満の範囲であるものである。なお、単位面積当たりの黒鉛の質量ρsを電極活物質の目付量とも称し、電極活物質層の密度ρを、電極合材密度とも称する。このY値は、より小さいことが好ましく、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.35以下としてもよい。なお、Y値は、0以上である。
【0021】
【0022】
この蓄電デバイス用電極において、単位面積当たりの黒鉛の質量ρs(mg/cm2)は、6mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲が好ましく、7mg/cm2以上15mg/cm2以下の範囲がより好ましく、8mg/cm2以上14mg/cm2以下の範囲としてもよい。単位面積当たりの黒鉛の質量ρsがこの範囲であれば、低温での反応抵抗をより低減することができ好ましい。この蓄電デバイス用電極において、電極活物質層の密度ρ(g/cm3)は、0.9g/cm3以上1.5g/cm3以下の範囲が好ましく、1.0g/cm3以上1.45g/cm3以下の範囲がより好ましく、1.1g/cm3以上1.4g/cm3以下の範囲としてもよい。電極活物質層の密度ρがこの範囲であれば、低温での反応抵抗をより低減することができ好ましい。この蓄電デバイス用電極において、黒鉛のメディアン径D50(μm)は、6μm以上28μm以下の範囲が好ましく、7μm以上25μm以下の範囲がより好ましく、10μm以上22.5μm以下の範囲としてもよい。黒鉛のメディアン径D50がこの範囲であれば、低温での反応抵抗をより低減することができ好ましい。
【0023】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した電極活物質層と集電体とを備えた蓄電デバイス用電極を有するものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用電極を負極として備えることが好ましい。
【0024】
対極としての正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、例えば、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0025】
あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素材料としてもよい。炭素材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。また、正極に用いられる導電材、結着材、溶剤、及び集電体などは、それぞれ蓄電デバイス用電極で例示したものを用いることができる。
【0026】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0027】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーや固体電解質をイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0028】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0029】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
図1は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。負極15は、上述した蓄電デバイス用電極であり、集電体17は上述した集電体である。集電体17は、基材21と、基材21上に形成された薄膜状のニッケル金属による金属層22とを備える。基材21は厚さTで形成され、金属層22は厚さtで形成されている。この負極15は、上述した数式(1)で示されるY値が1未満である。
【0030】
(集電体の製造方法)
本開示の集電体の製造方法を説明する。ここでは、集電体の各物性などについて、上述した蓄電デバイス用電極の集電体と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。この製造方法は、電子ビーム蒸着(EB)によって基材の表面上に厚さ0.15μm以上0.8μm以下のニッケル金属による金属層を形成し、シート抵抗が0.7Ω/sq以下である集電体を得る処理工程、を含む。この処理工程では、厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である金属層を形成することが好ましい。また、この工程では、厚さが25μm以下である基材を用いることが好ましい。基材としては、樹脂フィルムが好ましく、このうちエンジニアリングプラスチックのフィルムがより好ましく、ポリイミドフィルムが好ましい。電子ビーム蒸着は、真空中で電子銃から発生する電子ビームをターゲット材料に照射し、加熱、蒸発させ、基材上に薄膜を形成する方法である。ターゲット材料としてはニッケル金属を用いることができる。また、電子ビームの照射時間に応じて、金属層の厚さを制御することができる。この工程では、基材としてポリイミドフィルムを用い、金属層が0.15μm以上0.8μm以下の範囲の厚さになるよう電子ビームを制御するものとしてもよい。
【0031】
以上詳述したように、本実施形態の蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスでは、低温での反応抵抗をより低減することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、黒鉛に接する集電体にニッケル薄膜を使用することによって、例えば、-30℃などの低温での反応抵抗が低下することに加え、単位面積当たりの黒鉛の質量(目付量)ρsや電極活物質層の密度ρ、黒鉛のメディアン径D50などが所定の範囲にある場合に、ニッケル薄膜集電体の表面ラフネス効果が最大化され、電極活物質層と集電体との接触面積が最大化されると共に、アンカー効果がより効果的に働くことによって、反応抵抗低減効果が顕著に現れるものと推察される。
【0032】
また、例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスにおいて、負極活物質としての黒鉛を含む負極集電体には、従来はCu箔が用いられているが、電池全体に占める集電体の質量が非常に大きい。一方で、Cuは資源リスクが高く、蓄電デバイスのライフサイクルを考慮する場合に、集電体に用いる金属の選択が重要である。負極集電体としては使用できる金属種が限定され、酸化還元電位から、Au、Ag、Cu、Pb、Ni、Fe等の金属が挙げられるが、Niは、正極活物質に含まれる元素であり、集電体の金属導電層として用いると、蓄電デバイスに使用される金属種を一種削減することができる。更に、基材上にニッケル金属の薄膜である金属層を有する集電体を用いることによって、集電体の軽量化を図ると共に単位質量あたりのエネルギー密度をより向上することができる。この集電体では、基材として樹脂などを用いて金属箔に比して軽量化を図り、金属層を厚さ0.8μm以下の薄膜層とすることにより、集電体の使用金属量がより低減することから、軽量化を図ることができる。また、基材上にニッケル金属層を形成することによって、金属単体では自立することが困難である極めて薄い金属薄膜の作製が可能になる。そして、この軽量化により、単位質量当たりのエネルギー密度をより向上することができる。
【0033】
また、電子ビーム蒸着を用いてニッケル金属層を形成することによって、ニッケルの磁性による作用を回避し、薄いながらも集電体に必要な電子伝導性を充足するのに十分な厚みの均質な集電体が得られる。更に、基材上に金属薄膜を形成した集電体は、柔軟であり、多様な形に変形できて成型性がよく、広い用途に利用可能である。更にまた、基材にポリイミドシートを利用した集電体では、金属箔の集電体に比べて破れにくく、広い用途に利用可能である。そして、金属層を薄膜化することによって、蓄電デバイスの解体時における金属廃棄量の削減にもつながるもの推察される。
【0034】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0035】
本開示は、以下の[1]~[7]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 基材の表面上に厚さ0.15μm以上0.8μm以下の範囲で形成されたニッケル金属による金属層を備える集電体と、電極活物質として黒鉛を含み前記集電体に隣接して形成された電極活物質層と、を備え、
単位面積当たりの前記黒鉛の質量ρs(mg/cm
2)、前記電極活物質層の密度ρ(g/cm
3)、前記黒鉛のメディアン径D
50(μm)としたときに、数式(1)で求められるY値が1未満の範囲である、蓄電デバイス用電極。
[数1]
[2] 前記集電体は、前記金属層の厚さが0.2μm以上0.6μm以下の範囲である、[1]に記載の蓄電デバイス用電極。
[3] 前記Y値は、0以上0.4以下の範囲である、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用電極。
[4] 前記電極活物質層は、前記質量ρsが6mg/cm
2以上20mg/cm
2以下の範囲である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
[5] 前記電極活物質層は、前記密度ρが0.9g/cm
3以上1.5g/cm
3以下の範囲である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
[6] 前記電極活物質層は、前記黒鉛のメディアン径D
50が6μm以上28μm以下の範囲である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
[7] 正極活物質を含む正極と、
[1]~[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【実施例0036】
以下には、本開示の蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~9が本開示の実施例であり、実験例10~24が比較例であり、実験例25が参考例である。
【0037】
(電極集電体の作製)
基材としての厚さ25μmのポリイミドシートを蒸着基板上に設置し、EB蒸着装置内に設置後、蒸着源にNi金属板を用い、5.0×10-4Paの減圧下、蒸着速度1Å/secにてEB蒸着を行った。これにより、蒸着時間を変更することによって、ポリイミドシート上に厚さ0.1~10μmのNi金属層を形成した。EB蒸着は、キヤノンアネルバ株式会社製電子ビーム蒸着装置を用いた。金属層の厚さが0.1μm、0.2μm、0.4μm、0.6μm、0.8μm及び1.0μmのものを作製した。
【0038】
厚さ10μmのCu箔及びNi箔を集電体として用意した。また、厚さ25μmのポリイミドフィルムの上にスパッタリング法により厚さ0.2μmで銅を成膜したものを用意した。スパッタリングは、キヤノントッキ株式会社製スパッタ成膜装置を用い、ターゲットを銅金属とした。
【0039】
(電極スラリーの調整と正負極電極の作製)
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(戸田工業製)を用い、繊維状黒鉛、膨張黒鉛を含む導電材、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比率90:6:4で混合し、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶かした正極電極スラリーとし、これを市販の厚み15μmのアルミ箔上に塗布し、加熱乾燥した。また、メディアン径D50が20μmの黒鉛および結着材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を重量比率98:1:1で混合し、イオン交換水に溶かした負極電極スラリーとし、これを、単位面積あたりの目付量ρsが5mg/cm2~22mg/cm2の範囲で先に用意したいずれかの電極集電体の上に塗布し、加熱乾燥した。それぞれ乾燥した。得られた塗布シートを必要に応じてロールプレスに通して負極合材の密度ρが0.8g/cm3~1.5g/cm3の範囲とし、25mm幅に切り出し、正極および負極電極を得た。
【0040】
(試験セル:ラミネート型電池の作製)
上記作製した電極において正極塗工部は40mm長とし、余分に残した集電体の部分にAlタブを固定させた。負極塗工部は42mm長とし、余分に残した集電体の部分にNiタブを固定させた。上記の正極シートと負極シートを25μm厚のポリエチレン製セパレータを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネート型袋に封入し、非水系電解液を含侵させた後に密閉してリチウム二次電池を作製した。非水系電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比において30:40:30で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。上記手順で作製したラミネート型電池を試験セルとした(
図1参照)。
【0041】
(実験例1~3)
Ni金属層の厚さを0.4μmとした集電体に、メディアン径D50が20μmの黒鉛を用い、負極合材目付量ρsが11mg/cm2、合材層の密度ρが1.3g/cm3となるように試験セルを作製したものを実験例1とした。負極合材目付量ρsを7mg/cm2とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例2とした。負極合材目付量ρsを15mg/cm2とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例3とした。
【0042】
(実験例4~5)
Ni金属層の厚さを0.2μmとした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例4とした。Ni金属層の厚さを0.6μmとした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例5とした。
【0043】
(実験例6~7)
合材層の密度ρを1.0g/cm3とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例6とした。合材層の密度ρを1.5g/cm3とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例7とした。
【0044】
(実験例8~9)
メディアン径D50を7μmの黒鉛とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例8とした。メディアン径D50を25μmの黒鉛とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例9とした。
【0045】
(実験例10~12)
10μmのCu箔の集電体に、メディアン径D50が20μmの黒鉛を用い、負極合材目付量ρsが11mg/cm2、合材層の密度ρが1.3g/cm3となるように試験セルを作製したものを実験例10とした。負極合材目付量ρsを7mg/cm2とした以外は実験例10と同様に作製した試験セルを実験例11とした。負極合材目付量ρsを15mg/cm2とした以外は実験例10と同様に作製した試験セルを実験例12とした。
【0046】
(実験例13~16)
負極合材目付量ρsを5mg/cm2とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例13とした。負極合材目付量ρsを22mg/cm2とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例14とした。Ni金属層の厚さを0.1μmとした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例15とした。Ni金属層の厚さを1.0μmとした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例16とした。
【0047】
(実験例17~19)
メディアン径D50が20μmのソフトカーボン(SC)を負極活物質とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例17とした。メディアン径D50が20μmのハードカーボン(HC)を負極活物質とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例18とした。メディアン径D50が20μmのチタン酸リチウム(LTO)を負極活物質とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例19とした。
【0048】
(実験例20~23)
合材層の密度ρを0.8g/cm3とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例20とした。合材層の密度ρを1.6g/cm3とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例21とした。メディアン径D50を5μmの黒鉛とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例22とした。メディアン径D50を30μmの黒鉛とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例23とした。
【0049】
(実験例24~25)
厚さ0.2μmのCu金属層を設けた集電体とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例24とした。厚さ10μmのNi金属箔を集電体とした以外は実験例1と同様に作製した試験セルを実験例25とした。
【0050】
(電極集電体の抵抗測定とシート抵抗算出)
四探針測定装置を用いて、集電体の抵抗R(Ω)を測定し、その値から数式(2)を用いてシート抵抗(Ω/sq.)を算出した。
シート抵抗Rs(Ω/sq.)=(R・π)/(ln2) …式(2)
【0051】
(初期充放電試験)
試験セルの充放電試験を、25℃の温度条件下で上限電圧4.1V、下限電圧2.5Vで以下の通り行った。0.1Cの定電流でCC充電、CC放電を行い、これを3サイクル繰り返し、これを初期のコンディショニングとした。さらに、0.2Cの定電流でCCCV充電したのち、0.1Cの定電流でCCCV放電することにより、充放電容量を得た。
【0052】
(交流インピーダンス測定)
交流インピーダンスは、残容量SOCが50%となるように0.2Cの定電流でCCCV充電した試験セルを用い、周波数0.001~100000Hzにおいて25℃~-30℃で温度範囲で測定した。
図2は、実験例1、10の交流インピーダンス測定における-30℃でのナイキストプロットである。また、ナイキストプロットをフィッティング解析することにより反応抵抗を見積もった。
【0053】
(Y値の算出)
負極合材目付量ρs(mg/cm2)、負極合材層の密度ρ(g/cm3)、負極活物質のメディアン径D50(μm)を用い、上述した数式(1)からY値を算出した。
【0054】
(結果と考察)
図3は、金属層の厚さと、規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図である。
図4は、負極合材目付量と、規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図である。
図5は、負極合材目付量と、規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図である。
図6は、負極活物質のメディアン径と、規格化した-30℃反応抵抗及びY値との関係図である。各実験例の負極における、集電体の金属種及びその厚さ(μm)、活物質、活物質のメディアン径D
50(μm)、活物質の目付量ρs(mg/cm
2)、合材層の密度(g/cm
3)、実験例10を1として規格化した-30℃での反応抵抗、数式(1)により算出されたY値を表1にまとめた。また、金属層の厚さとシート抵抗との関係を表2にまとめた。
【0055】
表2に示すように、Ni金属層を有する集電体では、厚さ0.1μm~1.0μmのシート抵抗が0.2~0.5Ω/sq.であり、厚さ10μmのCu箔のシート抵抗に対して遜色ないものであった。
【0056】
図3、表1に示すように、実験例1~6および実験例10、15、16によれば、Ni金属層の厚さが0.15μm以上0.8μm以下の範囲、特に、0.2μm以上0.6μm以下のNi金属層を有する集電体では、-30℃におけるACインピーダンス測定から得られた反応抵抗が、従来の厚さ10μmのCu箔よりも低減されることがわかった。一方、Ni金属層の厚さが0.1μmの実験例15では、集電体自体の電子伝導性の不足により、また厚さが1.0μmの実験例16では、均一な薄膜の作製が困難であり物理的なパスが断絶されてしまうことがあり、反応抵抗が増大するものと推察された。なお、Ni金属層の厚さが0.8μmを超えると、Ni金属層が均一になりにくく、破れ等が生じることがあることから、より適切なNi金属層の厚さは0.2μm以上0.6μm以下の範囲であると推察された。
【0057】
図4、表1に示すように、実験例1~3および実験例10~14によれば、単位面積当たりの黒鉛質量(目付量)ρsが6mg/cm
2以上20mg/cm
2以下の範囲、より好ましくは、7mg/cm
2以上15mg/cm
2以下の範囲であるときに、従来の厚さ10μmのCu箔に比して-30℃での反応抵抗が低減されることがわかった。また、
図5、表1に示すように、実験例1、6~7および実験例10、20~21によれば、負極合材密度ρが0.9g/cm
3以上1.5g/cm
3以下の範囲、より好ましくは、1.0g/cm
3以上1.45g/cm
3以下の範囲であるときに、従来の厚さ10μmのCu箔に比して-30℃での反応抵抗が低減されることがわかった。また、
図6、表1に示すように、実験例1、8~9および実験例10、22~23によれば、黒鉛粒子のメディアン径D
50が6μm以上28μm以下の範囲、より好ましくは、7μm以上25μm以下の範囲であるときに、従来の厚さ10μmのCu箔に比して-30℃での反応抵抗が低減されることがわかった。
【0058】
また、表1に示すように、蒸着によって薄膜化したCu金属薄膜を有する集電体を備えた実験例24によれば、実験例10のCu箔に比べて反応抵抗が高くなった。この結果から、Cu薄膜では、同じ厚さの実験例4のNi薄膜と比べて異なる表面状態であることが予想された。これによりNi薄膜では、負極合材との相互作用が向上しているものと推察された。更に、Ni箔を有する集電体を備えた実験例25によれば、通常の厚さ10μmのNi箔では厚さ10μmのCu箔の実験例10と同等性能であり、-30℃における顕著な反応抵抗抑制効果は得られなかった。更にまた、負極活物質として、ソフトカーボンを用いた実験例17、ハードカーボンを用いた実験例18、チタン酸リチウムを用いた実験例19では、特に、低温での反応抵抗の低減効果は明確にみられなかった。したがって、Ni薄膜を有する集電体と、黒鉛粒子とを用いた蓄電デバイス用電極において、特異的な相互効果があるものと推察された。
【0059】
また、単位面積当たりの黒鉛の質量ρs(mg/cm2)、電極活物質層の密度ρ(g/cm3)、黒鉛のメディアン径D50(μm)としたときに、それらの因子の関係を考察した。数式(1)で示されるY値について検討すると、Y値が1未満の範囲であるとき、より好ましくは、Y値が0以上0.4以下の範囲であるときに、-30℃での反応抵抗が低減されることがわかった。
【0060】
以上のことから、単位面積当たりの黒鉛質量ρsが6~20mg/cm2、負極合材密度ρが0.9~1.5g/cm3の範囲であり、且つ、黒鉛のメディアン径D50が6~28μmの範囲にある場合に、EB蒸着により0.15~0.8μmの厚さに作製したNi薄膜集電体の表面ラフネス効果が最大化され、負極活物質層と集電体との接触面積が最大化されると共に、アンカー効果がより効果的に働くことによって、例えば-30℃などの低温での抵抗低減が実現するものと推察された。
【0061】
【0062】
【0063】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 基材、22 金属膜、T,t 厚さ。