(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130156
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】鉄骨階段の乾式踊り場構造
(51)【国際特許分類】
E04F 11/025 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E04F11/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039711
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】390010065
【氏名又は名称】株式会社横森製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】有明 威
【テーマコード(参考)】
2E301
【Fターム(参考)】
2E301CC47
2E301CC53
2E301CD04
2E301CD43
2E301EE02
(57)【要約】
【課題】
踊り場板の強度を高め、単純な構造で、振動を軽減して踊り場板の歩行安定を図る。
【解決手段】
階段1の踊り場であって、踊り場上板10の下面に下踊り場板11を積層してなる。下踊り場板11の両端を側板7の内面7aに固定した。下踊り場板を、複数の支持鋼鈑15に分割して、分割した各支持鋼鈑15の間に連結間隙25を形成した。支持鋼鈑15は水平の本体板16の一縁17、他縁18から下方に向けて連結垂直片20、21を連設する。連結垂直片21の下端に水平方向の連結塞ぎ片23を連設し、連結塞ぎ片23は水平視で連結間隙25に位置する。連結垂直片20、21の間に防振片27を挿入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の異なるフロアをつなぐ階段において、その階段の中間部、または前記階段の前記フロアに連結される踊り場であって、以下のように構成したことを特徴とした鉄骨階段の乾式踊り場構造。
(1) 前記踊り場は「踊り場上板の下面に配置される踊り場板」、あるいは「単独で踊り場の歩行面として使用される踊り場板を備えた。
(2) 前記踊り場構造は、前記階段の進行方向に沿って並列して配置される側板を備え、前記踊り場板の両端は前記側板の内面に固定した。
(3) 前記踊り場板を、前記階段の進行方向で、複数の支持鋼鈑に分割して、分割した各支持鋼鈑の間に連結間隙を形成した。
(4) 前記支持鋼鈑の下面であって、前記連結間隙に臨む縁に、前記支持鋼鈑と略直角に、連結垂直板を形成した。
【請求項2】
以下のように構成した請求項1に記載した鉄骨階段の乾式踊り場構造。
(1) 連結垂直板の両端を側板の内面に固定した。
【請求項3】
以下のように構成した請求項1に記載した鉄骨階段の乾式踊り場構造。
(1) 連結垂直板の下端であって、平面視で前記連結間隙に臨む位置に、塞ぎ片の一端を連設し、前記塞ぎ片の他端を、前記連結間隙に臨む他の支持鋼板の連結垂直板の近傍に位置させた。
【請求項4】
以下のように構成した請求項1に記載した鉄骨階段の乾式踊り場構造。
(1) 連結間隙に防振板を配置して、当該連結間隙に臨む両支持鋼板の連結垂直板で前記防振板を挟んだ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段の中間部や上下端に形成される鉄骨階段の乾式踊り場構造に関する。
【背景技術】
【0002】
階段60の踊り場5の構造で、鉄筋とコンクリートをベースにした湿式構造と、鉄骨と鋼鈑とをベースとした乾式構造があった。湿式構造では、歩行などによる振動や騒音はコンクリート41がある程度吸収できた(
図2)。しかし、コンクリートの調合や固化に時間を要し、表面の仕上げ作業も煩雑であった。
乾式構造では、鉄骨と鋼鈑をベースとするために、歩行時の振動や騒音を和らげる工夫が必要となっていた。また、一般に、階段1の踏み板を幅方向で支えるためにささら板3と称する鋼板を配置して、踏み板2、2の両端をささら桁3、3で挟んでいた。踊り場5ではささら桁3、3に連続する側板7、7が配置されていた(
図3(a)(b))。
【0003】
(1) 一の踊り場5では、踊り場5を平面方向で塞ぐ踊り場板6(水平鋼鈑)を2枚重ねて、上踊り場板47、下踊り場板48とそして両板を栓溶接またはスポット溶接をして固定していた。また。下踊り場板48の下面にフラットバー根太43と称する帯状鋼板を下方に向けて垂直に溶接していた。この場合、各踊り場板47、48の両端面は側板7、7の内側に溶接固定し側板7、7の内面で、フラットバー根太43の外周縁に沿って溶接していた(
図3(c)、特許文献1)。
この構造では、フラットバー根太43により補強されるので、たわみを軽減するとともに、フラットバー根太43により踊り場板47、48の長さを短くできるので、防振、防音の鳴りも軽減されていた。
【0004】
(2) また、他の踊り場5も、踊り場5を平面方向で上踊り場板47、下踊り場板48の2枚配置する構造である。この場合には、まず、下踊り場板48の下面にフラットバー根太43を下方に向けて垂直に固定していた。この場合、同様に踊り場板47の端面は側板7、7の内側に溶接固定し、また、フラットバー根太43の外周縁に沿って側板7、7の内面に溶接していた。
その後、下踊り場板48の上面に防振ゴム板51、上踊り場板47を互いに接着して、下踊り場板47、防振ゴム板51、上踊り場板48を積層していた(
図3(d)、特許文献1)。
この構造でも、フラットバー根太43により補強されるので、たわみを軽減するとともに、フラットバー根太43による踊り場板47、48の長さを短くできるので、鳴りも軽減されていた。さらに、上下踊り場板47、48で防振ゴム板51を挟んだので、消音効果も強化された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前者の踊り場板47、48を2枚重ねにした場合、溶接量が多くなり歪が生じやすく、特に上面側に平滑度を確保しにくく、平滑度を保つためには上側踊り場板47の矯正などの加工を必要としていた。
また、後者の場合には、溶接を多用しないが、両踊り場板47、48と防振ゴム板51とを接着するために作業効率が悪く接着作業に手間がかかっていた。また、踊り場5の使用頻度が多くなると溶接に比べて踊り場板47、48と防振ゴム板51との接着が切れてはがれるおそれがあった。さらに、防振ゴム板51の弾力性や劣化により上踊り場板47が浮き沈みするおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の支持鋼鈑に分割して踊り場板を形成し、かつ分割した各支持鋼鈑の間に連結間隙を形成し、さらに支持鋼鈑の連結間隙の縁に連結垂直板を形成したので、前記問題点を解決した。
【0008】
即ちこの発明は、建築物の異なるフロアをつなぐ階段において、その階段の中間部、または前記階段の前記フロアに連結される踊り場であって、以下のように構成したことを特徴とした鉄骨階段の乾式踊り場構造である。
(1) 前記踊り場は「踊り場上板の下面に配置される踊り場板」、あるいは「単独で踊り場の歩行面として使用される踊り場板を備えた。
(2) 前記踊り場構造は、前記階段の進行方向に沿って並列して配置される側板を備え、前記踊り場板の両端は前記側板の内面に固定した。
(3) 前記踊り場板を、前記階段の進行方向で、複数の支持鋼鈑に分割して、分割した各支持鋼鈑の間に連結間隙を形成した。
(4) 前記支持鋼鈑の下面であって、前記連結間隙に臨む縁に、前記支持鋼鈑と略直角に、連結垂直板を形成した。
【0009】
また、前記において、連結垂直板の両端を側板の内面に固定した鉄骨階段の乾式踊り場構造である。
【0010】
また、前記において、連結垂直板の下端であって、平面視で前記連結間隙に臨む位置に、塞ぎ片の一端を連設し、前記塞ぎ片の他端を、前記連結間隙に臨む他の支持鋼板の連結垂直板の近傍に位置させた鉄骨階段の乾式踊り場構造である。
【0011】
さらに、前記において、連結間隙に防振板を配置して、当該連結間隙に臨む両支持鋼板の連結垂直板で前記防振板を挟んだ鉄骨階段の乾式踊り場構造である。
【発明の効果】
【0012】
複数の支持鋼鈑に分割して踊り場板を形成し、かつ分割した各支持鋼鈑の間に連結間隙を形成し、さらに支持鋼鈑の連結間隙の縁に連結垂直板を形成した。よって、踊り場板の強度を高め、さらに、連結間隙を挟んで連結垂直板が配置されるので、単純な構造で、踊り場板の歩行安定を図り、歩行時の振動も軽減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施形態で、(a)は平面図、(b)はA-A線における縦断面図、(c)は(b)のB部拡大図、をそれぞれ表す。
【
図2】この発明の従来例で、(a)は平面図、(b)は縦断面図、(c)は(b)のC部拡大図、をそれぞれ表す。
【
図3】この発明の従来例で、(a)は平面図、(b)は縦断面図、(c)は(b)のD部拡大図、(d)は(b)の他の一部拡大図、をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
【0015】
1.踊り場構造
【0016】
(1) この発明を適用する階段1は、段々の踏板2、2の幅方向の両端をささら桁3で挟んで構成する。階段1は、通常、建築物の上下階を行き来する構造物で、階段1の中間階や階段1の上下でフロアとつなぐ位置に踊り場5が適用される。
水平の踊り場5では、ささら桁3、3に連続する側板7、7の間に踊り場板6を挟んで構成される。
【0017】
(2) 踊り場5は、上踊り場鋼板10と下踊り場鋼板11とを積層して、上踊り場鋼板10と下踊り場鋼板11とを栓溶接またはスポット溶接、あるいはその他の手段で積層して固定する。また、上踊り場鋼板10と側板7,7を溶接せずに、下踊り場鋼板11の両端のみを側板7、7の内面7a、7aに固定する。なお、図中7bは側板7の上縁である。
【0018】
(3) 下踊り場鋼板11は、矢示31の階段の進行方向に沿って複数の支持鋼鈑15、15に分割して、各支持鋼鈑15を、隣接する支持鋼鈑15との間に連結間隙25を形成して配置した。
支持鋼鈑15は、矢示31の歩行方向で(
図1(a)、平板状の本体板16の一縁17および他縁18に、本体板16と直角に(直角下方に向けて)連結垂直片20、21をそれぞれ形成する。一方の連結垂直片21の先端部を本体板16の反対側に水平に屈曲して、平面視で連結間隙25に位置する連結塞ぎ片22を形成する。一方の連結垂直片21の連結塞ぎ片22の高さと、他縁の連結垂直片20の上端20aまでの高さとを略同一に形成する。以上のような構造に形成される支持鋼鈑15は一枚の鋼板をプレス工程などで一体に(溶接などを使用せずに)形成する。
【0019】
(4) 以上のようにして形成した支持鋼板15、15を、上踊り場板10の下面10bに連結間隙25、25を空けて配置して、隣接する支持鋼鈑15、15で連結間隙25に一方の支持鋼鈑15の連結垂直片21の塞ぎ片22の自由端が他方の支持鋼鈑15の連結垂直片20の上縁20aに当接あるいは近接(きわめて近づく)した状態となるように配置される。位置が決まったならば、各支持鋼鈑15、15と上踊り場板10とを溶接などで固定する。これにより同時に、連結間隙25を設けて支持鋼鈑15、15を並列した下踊り場板11をも構成する。
なお、この作業は通常、上踊り場板10の下面を上に向けて支持鋼鈑15、15が上に位置させて作業をする。
【0020】
(5) また、接合隅間25内に防振ゴムなどの防振片27を挿入充填する。この場合、防振片27の上端は上踊り場板10の下面10bに当接し、防振片27の垂直面は連結垂直片20、21の内面に当接するが、防振片27の下端は連結塞ぎ片22に当接せずに空間23を空けてある。
【0021】
(6) また、連結垂直片20、21は側板7の内面7aに溶接固定したが、全部または一部を溶接しないこともできる。
なお、図中33は溶接代である。
【0022】
(7) このように形成した踊り場5では、上踊り場板10の上面10aで発生する歩行時の振動は下踊り場板11(支持鋼鈑15)の連結垂直片20、21に吸収されるので、振動を軽減できる。さらに連結垂直片20、21内の防振片27、連結塞ぎ片22で振動の吸収を高めることができる。すなわち、振動を直接に防振止片27に伝える構造ではなく、いったん連結垂直片20、21に伝えて吸収するので、防振片27が対応すべき振動をより小さくでき、防振片27、27の大きさを小さくできる効果もある。
このように形成した踊り場5では、下踊り場板11(支持鋼鈑15)に形成した連結垂直片20、21により、鉛直強度を高めることができる。したがって、上踊り場板10と下踊り場板11とは部分的に溶接固定されていればよく、溶接個所を軽減でき、また、下踊り場板11(支持鋼鈑15)に連結垂直片20、21を設けたので、踊り場5上の歩行安定性を高めることができる。
また、連結塞ぎ片22を設けて、両連結垂直片20、21の間を塞いだので、防振片27の落下を防ぎ、かつ下方から防振片27や両連結垂直片20、21の内面が見えず、踊り場の下面のデザインの幅を広げることができる。さらに、鋼板を折り曲げて両連結垂直片20、21及び本体板16を形成したので、踊り場5の下から見える溶接代も生じない。
【0023】
踊り場5の大きさは、種々選択できるが、例えば
・踊り場5の幅W=1500mm
・踊り場の支持鋼鈑15
厚さt=3.2mm
歩行方向31の長L1=400mm
連結垂直片20、21の高さH=65mm
・連結間隙25の長さL2=25mm
で形成する(
図1)。
【0024】
2.試験
【0025】
(1) 同じ構造の踊り場5で、防振片27をすなわち、
(ケース1)厚さ25mm防振ゴム板をとした場合、
(ケース2)厚さ50mmとした場合
で実験をした。なお、防振片27の厚さに応じて連結間隙25の厚さも同じに設定する。
【0026】
(2) 実験は上踊り場板10の上方30cmの位置からゴルフボールを落下させた。この場合、落下位置は、側板7、7から離れた踊り場5の中央付近で、下方に支持鋼鈑15の連結垂直片20、21が無い位置(すなわち連結間隙25が無い位置)でおこなった。
【0027】
(3) 上記内容、防振片27が無い場合と比較して、振動測定をした。ケース1の場合には、騒音レベルが2dB(A)だけ低下した。この軽減レベルは、鉄板に仕上げ材として厚さ2mm程度の樹脂仕上げ材を張ったものに相当する効果を示している。
また、ケース2の場合には、振動は4dB(A)の低下がみられた。
また、防振片27は、同じ体積であれば。その密度が高いほど(硬質なほど)防振効果が大きいと考えられる。
【0028】
3.他の実施形態
【0029】
(1) 前記実施形態において、連結塞ぎ片22を直線状としたが、円弧状、屈曲山形など形状は任意である(図示していない)。
また、連結塞ぎ片22の自由端を連結垂直片20の上端20aに溶接固定することもできる。
また、連結塞ぎ片22の自由端は他方の連結垂直片20の上端20aに当接したが、離すこともできる。
【0030】
(2) また、前記実施形態において、一方の連結垂直片21にのみ連結塞ぎ片22を設けたが連結垂直片20にも同じ連結塞ぎ片22を設けることもできる(図示していない)。この場合、連結塞ぎ片22、22が、平面視で連結間隙25の位置で上下に重なるのでより高い歩行安定性と防振を図ることができる。
また、前記実施形態において、両方の連結垂直片20、21に短い連結塞ぎ片22を設けて、両連結塞ぎ片22の自由端を、平面視で連結間隙25内に位置させて、両連結塞ぎ片22の自由端を当接または近接させることもできる(図示していない)。
【0031】
(3) また、前記実施形態において、防振片27を省略することもできる(図示していない)。この場合、両方の連結垂直片20、21で、連結塞ぎ片22を省略することもできる(図示していない)。この場合には、防振性能がやや弱くなるので、この踊り場5の適用場所が制限される可能性もある。
【0032】
(4) また、前記実施形態において、防振片27の有無にかかわらず、両方の連結垂直片20、21で、連結塞ぎ片22を省略することもできる(図示していない)。この場合には、防振性能がやや弱くなり、また踊り場5の下方からの見栄えが悪くなるので、この踊り場5の適用場所が制限される。
【符号の説明】
【0033】
1 階段
2 踏み板
3 ささら桁
5 踊り場
6 踊り場部
7 側板
7a 側板内面
7b 側板の上縁
10 上踊り場板
10a 上踊り場板の上面
11 下踊り場板
11a 下踊り場板の下面
15 支持鋼鈑
16 本体板
17 本体板の一縁
18 本体板の他縁
20 連結垂直片
20a 連結垂直片の上端
21 連結垂直片
22 連結塞ぎ片
25 連結間隙
33 溶接代
27 防振片
31 矢示
41 コンクリート(従来例)
43 フラットバー根太(従来例)
45 溶接代(従来例)
47 上踊り場板(従来例)
48 下踊り場板(従来例)
51 防振ゴム板(従来例)
60 階段(従来例)