(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130162
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置及び排ガス浄化触媒システム
(51)【国際特許分類】
B01J 35/57 20240101AFI20240920BHJP
B01J 29/74 20060101ALI20240920BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240920BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J29/74 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039726
(22)【出願日】2023-03-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康
(72)【発明者】
【氏名】白山 陽大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐哉
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB03
3G091AB08
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4G169ZA07A
4G169ZA14A
4G169ZA14B
4G169ZF02B
(57)【要約】
【課題】ガソリンエンジンの排気系で用いたときに、耐熱性が高く、高度の3元触媒性能を有し、かつ、NH3排出量が低減されたガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置を提供すること。
【解決手段】基材と、プロトン型ゼオライトを含有するNH3吸着層と、Pd、Pt、及びRhから選択される触媒貴金属を含有するPGM層と、有する、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置であって、前記NH3吸着層に含まれる前記プロトン型ゼオライトは、平均細孔径が0.60nm以下であり、前記NH3吸着層は、前記PGM層よりも前記基材側に配置されており、前記基材の排ガス流れ上流端から、前記基材の全長よりも短い長さで配置されており、かつ、前記PGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から、前記NH3吸着層よりも長い長さで配置されている、排ガス浄化触媒装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
プロトン型ゼオライトを含有するNH3吸着層と、
Pd、Pt、及びRhから選択される触媒貴金属を含有するPGM層と、
を有する、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置であって、
前記NH3吸着層に含まれる前記プロトン型ゼオライトは、平均細孔径が0.60nm以下であり、
前記NH3吸着層は、
前記PGM層よりも前記基材側に配置されており、
前記基材の排ガス流れ上流端から、前記基材の全長よりも短い長さで配置されており、かつ、
前記PGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から、前記NH3吸着層よりも長い長さで配置されている、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項2】
前記プロトン型ゼオライトが、基本骨格が4、6、及び8員環から選ばれる環のみから構成されている少員環プロトン型ゼオライトを、前記プロトン型ゼオライトの全質量に対して80質量%以上含む、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項3】
前記少員環プロトン型ゼオライトが、H-ACO、H-AEI、H-AEN、H-AFN、H-AFT、AFX、H-ANA、H-APC、H-APD、H-ATT、H-CDO、H-CHA、H-DDR、H-DFT、H-EAB、H-EDI、H-EPI、H-ERI、H-GIS、H-GOO、H-IHW、H-ITE、H-ITW、H-LEV、H-LTA、H-KFI、H-MER、H-MON、H-NSI、H-OWE、H-PAU、H-PHI、H-RHO、H-RTH、H-SAT、H-SAV、H-SIV、H-THO、H-TSC、H-UEI、H-UFI、H-VNI、H-YUG、及びH-ZONから選択される1種又は2種以上である、請求項2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項4】
前記NH3吸着層が、前記基材の上流端から、基材全長の40%以上90%以下の長さで配置されている、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項5】
前記NH3吸着層が、前記基材の上流端から、基材全長の40%以上90%以下の長さで配置されている、請求項2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項6】
前記PGM層が、Pd及びPtから選択される触媒貴金属を含有する第1のPGM層と、Rhを含有する第2のPGM層とを有し、
前記第1のPGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から基材全長の10%以上の長さが、排ガスと直接接する最上層となっており、かつ、
前記第2のPGM層は、前記基材の排ガス流れ下流端から基材全長の20%以上の長さが、排ガスと直接接する最上層となっている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
前記第1のPGM層が、前記基材の排ガス上流端から基材全長の10%以上80%以下の長さで配置されている、請求項6に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
前記第2のPGM層が、前記基材の排ガス下流端から基材全長の20%以上90%以下の長さで配置されている、請求項6に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項9】
前記第1のPGM層が、前記基材の排ガス上流端から基材全長の20%以上80%以下の長さで配置されており、
前記第2のPGM層が、前記基材の排ガス下流端から基材全長の30%以上90%以下の長さで配置されており、
前記第1のPGM層の長さと前記第2のPGM層の長さとの合計が前記基材の全長を超え、かつ、
前記第1のPGM層と前記第2のPGM層とが重複している領域では、前記第2のPGM層が排ガスと直接接する最上層となっている、
請求項6に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
ガソリンエンジンの排気系に、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置を配置して、前記ガソリンエンジンから排出された排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【請求項11】
ガソリンエンジンの排気系の排ガス流れ上流側に配置された上流側浄化触媒装置と、
前記排気系の排ガス流れ下流側に配置された下流側浄化触媒装置と
を含む、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒システムであって、
前記上流側浄化触媒装置が、白金族の触媒貴金属を含む3元系排ガス浄化触媒装置であり、
前記下流側浄化触媒装置が、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置である、
排ガス浄化触媒システム。
【請求項12】
ガソリンエンジンの排気系に、請求項11に記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記ガソリンエンジンから排出された排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジンの排気系で用いられる、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンから排出される排ガスには、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等が含まれており、これらは、エンジンの排気系に配置された排ガス浄化触媒装置又はシステムによって浄化された後に大気に排出される。
【0003】
排ガス浄化触媒システムとして、排気系の排ガス流れ方向に沿って複数の排ガス浄化触媒装置を直列に配置したものが知られている。例えば、特許文献1には、Pt又はRhを担持した上流側3元触媒装置と、Pd及びHC吸着剤を担持した下流側3元触媒装置とを備える排ガス浄化システムが開示されている。
【0004】
上流側3元触媒装置と下流側3元触媒装置とを備える排ガス浄化システムでは、上流側3元触媒装置において、排ガス中のNOxの水蒸気改質反応が起こり、NO2及びH2が生成する。ここで、排ガスがリッチ雰囲気であると、排ガス中のNOxが生成したH2により還元されて、NH3が生成されることがある。上流側3元触媒装置で生成したNH3は、下流側3元触媒装置で再酸化されてNOxが再生されることがあり、NOx浄化の観点から問題が生じる。
【0005】
そこで、例えば、特許文献2では、排ガス中の成分を酸化する第1浄化部と、アンモニア吸蔵能を有し、第1浄化部で酸化された成分を吸蔵アンモニアにより還元浄化する機能を有する第2浄化部とを備えるシステムにおいて、排ガス流れの上流側に第1浄化部を含む上流側触媒装置を配置し、下流側に第1浄化部から成る下層上に第2浄化部から成る上層を積層した2層型の下流側触媒装置を配置することが記載されている。
【0006】
そして、上流側触媒装置でNH3が生成した場合、下流側触媒装置の第2浄化部がNH3を吸蔵し、流入するNOxを吸蔵NH3によってN2に還元浄化すると説明されている。この特許文献2では、NH3吸蔵能を有する第2浄化部に、Cu-ゼオライトを採用すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-263450号公報
【特許文献2】特開2018-100619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車の排ガス規制は、年々厳しくなっており、近年発表されたEuro7規制では、従来からのHC、CO、及びNOxとともに、NH3が規制対象に加えられた。したがって、従来の3元触媒性能を維持しつつ、NH3排出量が低減された、排ガス浄化触媒装置又はシステムが必要となってきた。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガソリンエンジンの排気系で用いたときに、耐熱性が高く、高度の3元触媒性能を有し、かつ、NH3排出量が低減されたガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置、及びこの排ガス浄化触媒装置を含む排ガス浄化触媒システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》基材と、
プロトン型ゼオライトを含有するNH3吸着層と、
Pd、Pt、及びRhから選択される触媒貴金属を含有するPGM層と、
を有する、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置であって、
前記NH3吸着層に含まれる前記プロトン型ゼオライトは、平均細孔径が0.60nm以下であり、
前記NH3吸着層は、
前記PGM層よりも前記基材側に配置されており、
前記基材の排ガス流れ上流端から、前記基材の全長よりも短い長さで配置されており、かつ、
前記PGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から、前記NH3吸着層よりも長い長さで配置されている、
排ガス浄化触媒装置。
《態様2》前記プロトン型ゼオライトが、基本骨格が4、6、及び8員環から選ばれる環のみから構成されている少員環プロトン型ゼオライトを、前記プロトン型ゼオライトの全質量に対して80質量%以上含む、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様3》前記少員環プロトン型ゼオライトが、H-ACO、H-AEI、H-AEN、H-AFN、H-AFT、AFX、H-ANA、H-APC、H-APD、H-ATT、H-CDO、H-CHA、H-DDR、H-DFT、H-EAB、H-EDI、H-EPI、H-ERI、H-GIS、H-GOO、H-IHW、H-ITE、H-ITW、H-LEV、H-LTA、H-KFI、H-MER、H-MON、H-NSI、H-OWE、H-PAU、H-PHI、H-RHO、H-RTH、H-SAT、H-SAV、H-SIV、H-THO、H-TSC、H-UEI、H-UFI、H-VNI、H-YUG、及びH-ZONから選択される1種又は2種以上である、態様2に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様4》前記NH3吸着層が、前記基材の上流端から、基材全長の40%以上90%以下の長さで配置されている、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様5》前記NH3吸着層が、前記基材の上流端から、基材全長の40%以上90%以下の長さで配置されている、態様2に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様6》前記PGM層が、Pd及びPtから選択される触媒貴金属を含有する第1のPGM層と、Rhを含有する第2のPGM層とを有し、
前記第1のPGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から基材全長の10%以上の長さが、排ガスと直接接する最上層となっており、かつ、
前記第2のPGM層は、前記基材の排ガス流れ下流端から基材全長の20%以上の長さが、排ガスと直接接する最上層となっている、
態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様7》前記第1のPGM層が、前記基材の排ガス上流端から基材全長の10%以上80%以下の長さで配置されている、態様6に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様8》前記第2のPGM層が、前記基材の排ガス下流端から基材全長の20%以上90%以下の長さで配置されている、態様6に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様9》前記第1のPGM層が、前記基材の排ガス上流端から基材全長の20%以上80%以下の長さで配置されており、
前記第2のPGM層が、前記基材の排ガス下流端から基材全長の30%以上90%以下の長さで配置されており、
前記第1のPGM層の長さと前記第2のPGM層の長さとの合計が前記基材の全長を超え、かつ、
前記第1のPGM層と前記第2のPGM層とが重複している領域では、前記第2のPGM層が排ガスと直接接する最上層となっている、
態様6に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様10》ガソリンエンジンの排気系に、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置を配置して、前記ガソリンエンジンから排出された排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
《態様11》ガソリンエンジンの排気系の排ガス流れ上流側に配置された上流側浄化触媒装置と、
前記排気系の排ガス流れ下流側に配置された下流側浄化触媒装置と
を含む、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒システムであって、
前記上流側浄化触媒装置が、白金族の触媒貴金属を含む3元系排ガス浄化触媒装置であり、
前記下流側浄化触媒装置が、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置である、
排ガス浄化触媒システム。
《態様12》ガソリンエンジンの排気系に、態様11に記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記ガソリンエンジンから排出された排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ガソリンエンジンの排気系で用いたときに、耐熱性が高く、高度の3元触媒性能を有し、かつ、NH3排出量が低減されたガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置、及びこの排ガス浄化触媒装置を含む排ガス浄化触媒システムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置》
本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置は、
基材と、
プロトン型ゼオライトを含有するNH3吸着層と、
Pd、Pt、及びRhから選択される触媒貴金属を含有するPGM層と、
を有する、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置であって、
前記NH3吸着層に含まれる前記プロトン型ゼオライトは、平均細孔径が0.60nm以下であり、
前記NH3吸着層は、
前記PGM層よりも前記基材側に配置されており、
前記基材の排ガス流れ上流端から、前記基材の全長よりも短い長さで配置されており、かつ、
前記PGM層は、前記基材の排ガス流れ上流端から、前記NH3吸着層よりも長い長さで配置されている。
【0014】
本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置では、NH3吸着層が、平均細孔径が0.60nm以下のプロトン型ゼオライトを含有している。NH3吸着層に含まれるゼオライトがプロトン型ゼオライトであることにより、NH3吸着層の耐熱性が向上されており、耐久後でも、高度のNH3吸着能が発揮される。プロトン型ゼオライトの平均細孔径が0.60nm以下であることにより、NH3吸着層は、NH3を効果的に吸着することができる。
【0015】
また、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置では、NH3吸着層が、PGM層よりも基材側に配置されている。すなわち、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置は、基材上に2層構成の触媒層が配置された積層型の触媒装置であって、NH3吸着層が下層であり、PGM層が上層である。このことにより、排ガス浄化触媒装置が暖機され、NH3吸着層から脱離したNH3は、高い確率でPGM層と接触して浄化されることになる。
【0016】
更に、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置では、
NH3吸着層が、基材の排ガス流れ上流端から、基材の全長よりも短い長さで配置されており、かつ、
PGM層が、基材の排ガス流れ上流端から、NH3吸着層よりも長い長さで配置されている。これらの要件により、NH3吸着層は、その全長にわたってPGM層に被覆され、特に、NH3吸着層の下流端が、PGM層に被覆されることになる。したがって、排ガス浄化触媒装置が暖機され、NH3吸着層から脱離したNH3は、更に高い確率でPGM層と接触して浄化される。
【0017】
以下、本発明のガソリンエンジン用排ガス浄化触媒装置を構成する要素について、順に説明する。
【0018】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置に適用される基材は、隔壁によって区分された複数のセル流路を有する基材であってよく、従来技術の排ガス浄化触媒装置に用いられているハニカム基材であってよい。基材の隔壁は、隣接する排ガス流路間を流体的に連通する細孔を有していてもよいし、このような細孔を有していなくてもよい。
【0019】
基材の構成材料は、例えば、コージェライト等の耐火性無機酸化物であってよいし、金属であってもよい。基材は、ストレートフロー型であっても、ウォールフロー型であってもよい。
【0020】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法における基材は、典型的には、例えば、コージェライト製のストレートフロー型のモノリスハニカム基材、コージェライト製のウォールフロー型のモノリスハニカム基材、メタルハニカム基材等であってよい。
【0021】
基材の形状は、円柱形、楕円柱形、多角柱等であってよい。
【0022】
基材の容量は、底面積×長さで表される見かけ容量として、例えば、500mL以上、800mL以上、1.0L以上、又は1.2L以上であってよく、例えば、5.0L以下、3.0L以下、2.0L以下、1.5L以下、又は1.2L以下であってよい。
【0023】
〈NH3吸着層〉
NH3吸着層は、プロトン型ゼオライトを含有する。
【0024】
通常のゼオライトは、電荷補償カチオンが金属イオンであるため、耐久後には電荷補償カチオンが溶出して、NH3吸着能が損なわれることが多い。これに対して、プロトン型ゼオライトは、ゼオライトの電荷補償カチオンがプロトンであるため、耐熱性が高く、電荷補償カチオンの溶出によるNH3吸着能の低下が抑制されている。
【0025】
NH3吸着層に含まれるプロトン型ゼオライトの平均細孔径は、0.60nm以下である。ゼオライトの吸着性能は、ゼオライトの細孔径と、吸着物の分子サイズとの関係に依存する。NH3の分子サイズは約0.26nmであるため、平均細孔径0.60nm以下のゼオライトに高い効率で吸着され得る。
【0026】
プロトン型ゼオライトの平均細孔径は、0.55nm以下、0.50nm以下、0.45nm以下、0.40nm以下、0.35nm以下、又は0.30nm以下であってよく、例えば、0.25nm以上、0.30nm以上、0.35nm以上、又は0.40nm以上であってよい。
【0027】
プロトン型ゼオライトの細孔径は、結晶構造に応じて、国際ゼオライト学会構造委員会のデータベースの記載により一義的に定まる。プロトン型ゼオライトが複数の結晶構造の混合物である場合、当該プロトン型ゼオライトの平均細孔径は、データベースに示された各結晶構造の細孔径の平均値として定義される。
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒装置におけるNH3吸着層に含まれるプロトン型ゼオライトは、少員環プロトン型ゼオライトを含んでいてよい。本明細書において、「少員環プロトン型ゼオライト」とは、基本骨格が4、6、及び8員環から選ばれる環のみから構成されている、プロトン型ゼオライトを意味する。
【0029】
少員環プロトン型ゼオライトは、例えば、H-ACO、H-AEI、H-AEN、H-AFN、H-AFT、AFX、H-ANA、H-APC、H-APD、H-ATT、H-CDO、H-CHA、H-DDR、H-DFT、H-EAB、H-EDI、H-EPI、H-ERI、H-GIS、H-GOO、H-IHW、H-ITE、H-ITW、H-LEV、H-LTA、H-KFI、H-MER、H-MON、H-NSI、H-OWE、H-PAU、H-PHI、H-RHO、H-RTH、H-SAT、H-SAV、H-SIV、H-THO、H-TSC、H-UEI、H-UFI、H-VNI、H-YUG、H-ZON等であってよく、これらから選択される1種又は2種以上を使用してよい。
【0030】
本発明におけるNH3吸着層中のプロトン型ゼオライトは、NH3をより効果的に吸着する観点から、少員環プロトン型ゼオライトを、プロトン型ゼオライトの全質量に対して、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、若しくは99質量%以上含んでいてよく、又はプロトン型ゼオライトの100質量%が少員環プロトン型ゼオライトであってもよい。
【0031】
プロトン型ゼオライトのSiO2/Al2O3比(SAR)は、特に限定されず、例えば、5以上、10以上、20以上、30以上、40以上、又は50以上であってよく、例えば、500以下、300以下、200以下、100以下、又は50以下であってよい。
【0032】
NH3吸着層は、プロトン型ゼオライト以外の任意成分を含んでいてよい。NH3吸着層に含まれる任意成分は、例えば、プロトン型ゼオライト以外のゼオライト、ゼオライト以外の無機酸化物、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素等を含む化合物やバインダー等であってよい。
【0033】
NH3吸着層に含まれる任意成分としての、ゼオライト以外の無機酸化物は、例えば、Al、Si、Ti、Zr、Ce、Ce以外の希土類等から選択される1種又は2種以上の元素の酸化物であってよい。バインダーは、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等から選択されてよい。
【0034】
ここで、NH3吸着層は、鉄族元素又は銅族元素(特に鉄及び銅)を、含んでいてもよいし、含まなくてもよい。NH3吸着層中に鉄族元素又は銅族元素が含まれると、プロトン型ゼオライトがこれらの元素にイオン交換されることがある。イオン交換されたゼオライトから交換イオンが脱離すると、ゼオライトの骨格崩壊が起こってNH3吸着能が損なわれる場合がある。この観点からは、NH3吸着層は、鉄族元素又は銅族元素を含まなくてもよい。
【0035】
また、NH3吸着層は、触媒貴金属(例えば白金族元素)を、含んでいてもよいし、含まなくてもよい。NH3吸着層中の触媒貴金属は、使用中に凝集して触媒性能が損なわれる場合があるため、NH3吸着層は、触媒貴金属を含まなくてよい。
【0036】
NH3吸着層中のプロトン型ゼオライトの割合は、NH3をより効果的に吸着する観点から、NH3吸着層の全質量に対するプロトン型ゼオライトの質量割合として、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、100質量%未満、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
【0037】
本発明の排ガス浄化触媒装置において、NH3吸着層は、後述のPGM層よりも基材側に配置されている。NH3吸着層は、例えば、基材の隔壁に接するように配置されて、触媒層の下層を形成していてよい。
【0038】
本発明の排ガス浄化触媒装置において、NH3吸着層は、基材の排ガス流れ上流端から、基材の全長よりも短い長さで配置されている。すなわち、NH3吸着層は、基材の下流端付近には配置されていない。このような構成により、排ガス浄化触媒装置に流入してきたNH3を効率よく吸着することができるとともに、排ガス浄化触媒装置が暖機された後にNH3吸着層から脱離したNH3が、上層のPGM層と接触せずに排ガス浄化触媒装置から排出される確率を減ずることができるから、NH3エミッションを低減する観点から好適である。
【0039】
NH3を効率よく吸着する観点から、NH3吸着層の長さは、基材の上流端から、基材全長の30%以上、40%以上、50%以上、又は60%以上であってよい。一方、脱離したNH3をPGM層と確実に接触させて浄化する観点から、NH3吸着層の長さは、基材の上流端から、基材全長の95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、又は70%以下であってよい。
【0040】
本発明の排ガス浄化触媒装置におけるNH3吸着層の配置量は、NH3吸着層が配置されていない部分も含めた基材の容量当たりのNH3吸着層の質量として、実効的なNH3の吸着量を確保するとの観点から、20g/L以上、50g/L以上、80g/L以上、又は100g/L以上であってよく、圧損を過度に上昇させないとの観点から、300g/L以下、250g/L以下、200g/L以下、又は150g/L以下であってよい。
【0041】
〈PGM層〉
PGM層は、Pd、Pt、及びRhから選択される触媒貴金属を含有する。PGM層は、例えば、Pd及びPtから選択される1種以上と、Rhとを含有していてよい。
【0042】
触媒貴金属は、無機酸化物に担持された微粒子の形態であってよい。触媒貴金属粒子の平均粒径は、例えば、1nm以上、2nm以上、又は3nm以上であってよく、15nm以下、10nm以下、7nm以下、又は5nm以下であってよい。
【0043】
PGM層における触媒貴金属の含有量は、基材の容量当たりのPd、Pt、及びRhの合計質量として、例えば、0.05g/L以上、0.10g/L以上、0.20g/L以上、0.30g/L以上、0.40g/L以上、又は0.50g/L以上であってよく、例えば、2.00g/L以下、1.50g/L以下、1.20g/L以下、1.00g/L以下、0.80g/L以下、又は0.60g/L以下であってよい。
【0044】
PGM層に含まれる無機酸化物は、NH3吸着層に含まれる無機酸化物として上記に例示したものの中から適宜に選択されてよい。PGM層に含まれる無機酸化物は、特に、アルミナと、OSC材とを含んでいてよく、これら以外の無機酸化物を更に含んでいてよい。
【0045】
OSC材は、酸素吸蔵放出能を有する無機酸化物であり、例えばセリアが例示できる。セリアは、単体のセリアであっても、Ceと他の無機元素との複合酸化物(例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物)に含まれる形態であってもよい。
【0046】
PGM層は、セリアを一定量含むことにより、三元触媒能が向上される。PGM層中のセリアの含有量は、PGM層の全質量に対するセリアの質量割合として、5質量%以上、10質量%以上、12質量%以上、又は15質量%以上であってよく、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、又は20質量%以下であってよい。セリアがCeと他の無機元素との複合酸化物の形態である場合、上記のセリアの質量割合は、複合酸化物の質量割合をセリア相当量に換算した値である。
【0047】
触媒貴金属は、PGM層に含まれる無機酸化物の1種又は2種以上に担持されていてよい。
【0048】
PGM層は、基材の排ガス流れ上流端から、NH3吸着層よりも長い長さで配置されている。この構成によると、NH3吸着層は、その全長にわたってPGM層に被覆され、特に、NH3吸着層の下流端が、PGM層に被覆されることになる。そのため、NH3吸着層から脱離したNH3がPGM層と確実に接触して浄化されることになる点で、好適である。
【0049】
PGM層の配置範囲は、基材の排ガス流れ上流端から、NH3吸着層の長さの100%超、かつ、基材全長と同じ長さまでの範囲である。PGM層の長さは、基材全長と同じ長さ以下であることを条件に、NH3吸着層の長さの、105%以上、110%以上、又は120%以上であってよい。PGM層は、基材の排ガス流れ上流端から、基材全長と同じ長さで配置されていてよい。
【0050】
本発明の排ガス浄化触媒装置において、PGM層は、NH3吸着層に対して基材と反対側に配置されている。PGM層は、基材上にNH3吸着層が配置されている領域では、該NH3吸着層の上に配置されていてよく、基材上にNH3吸着層が配置されていない領域では、基材の隔壁に接するように配置されていてよい。
【0051】
本発明の排ガス浄化触媒装置におけるPGM層の配置量は、基材の容量当たりのPGM層の質量として、実効的な三元触媒性能を確保するとの観点から、80g/L以上、100g/L以上、120g/L以上、160g/L以上、又は180g/L以上であってよく、圧損を過度に上昇させないとの観点から、400g/L以下、350g/L以下、300g/L以下、又は250g/L以下であってよい。
【0052】
PGM層は、単一の層として配置されていてもよいし、Pd及びPtから選択される触媒貴金属を含有する第1のPGM層と、Rhを含有する第2のPGM層とを有していてもよい。
【0053】
第1のPGM層は、Pd及びPtから選択される1種又は2種の触媒貴金属を含む。
【0054】
第1のPGM層における触媒貴金属の含有量は、第1のPGM層が配置されていない部分も含めた基材の容量当たりのPd及びPtの合計質量として、0.05g/L以上、0.10g/L以上、0.20g/L以上、0.30g/L以上、又は0.40g/L以上であってよく、例えば、1.50g/L以下、1.20g/L以下、1.00g/L以下、0.80g/L以下、0.60g/L以下、又は0.50g/L以下であってよい。
【0055】
第1のPGM層における触媒貴金属は、無機酸化物に担持された微粒子の形態であってよい。この無機酸化物は、NH3吸着層中の無機酸化物として上記に例示したものの中から適宜に選択されてよい。
【0056】
ここで、第1のPGM層は、ゼオライトを含んでいてもよいし、含まなくてもよい。しかしながら、第1のPGM層がゼオライトを含むと、NH3吸着層とPGM層とを別々の層として配置することにより、NH3を効率的に吸着し、脱離したNH3の効率的な浄化とを期した本発明の趣旨が損なわれる懸念がある。この観点から、第1のPGM層は、ゼオライトを含まなくてもよい。
【0057】
第1のPGM層は、セリアを一定量含んでいてよい。第1のPGM層中のセリアの含有量は、PGM層中のセリアの含有量として上述したのと同じであってよい。
【0058】
第1のPGM層中の触媒貴金属は、第1のPGM層に含まれる無機酸化物の1種又は2種以上に担持されていてよい。
【0059】
第1のPGM層は、Pd及びPtから選択される1種又は2種の触媒貴金属及び無機酸化物以外の任意成分を含んでいてよい。第1のPGM層に含まれる任意成分は、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、バインダー等であってよい。バインダーは、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等から選択されてよい。
【0060】
ここで、第1のPGM層は、鉄族元素又は銅族元素(特に鉄及び銅)を、含んでいてもよいが、含まなくてもよい。上述のNH3吸着層の場合とは異なり、第1のPGM層中に鉄族元素又は銅族元素が含まれていても、特に不都合はない。
【0061】
第1のPGM層の配置量は、第1のPGM層が配置されていない部分も含めた基材の容量当たりの第1のPGM層の質量として、実効的な酸化浄化性能を確保するとの観点から、40g/L以上、50g/L以上、60g/L以上、80g/L以上、又は90g/L以上であってよく、圧損を過度に上昇させないとの観点から、200g/L以下、170g/L以下、150g/L以下、又は120g/L以下であってよい。
【0062】
第2のPGM層は、Rhである触媒貴金属を含む。
【0063】
第2のPGM層における触媒貴金属(Rh)の含有量は、第2のPGM層が配置されていない部分も含めた基材の容量当たりのRhの質量として、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.04g/L以上、0.06g/L以上、又は0.08g/L以上であってよく、例えば、0.30g/L以下、0.25g/L以下、0.20g/L以下、0.15g/L以下、又は0.10g/L以下であってよい。
【0064】
第2のPGM層における触媒貴金属は、無機酸化物に担持された微粒子の形態であってよい。この無機酸化物は、NH3吸着層中の無機酸化物として上記に例示したものの中から適宜に選択されてよい。
【0065】
第2のPGM層は、セリアを一定量含んでいてよい。第2のPGM層中のセリアの含有量は、PGM層中のセリアの含有量として上述したのと同じであってよい。
【0066】
第2のPGM層中の触媒貴金属は、第2のPGM層に含まれる無機酸化物の1種又は2種以上に担持されていてよい。
【0067】
第2のPGM層は、Rhである触媒貴金属及び無機酸化物以外の任意成分を含んでいてよい。第2のPGM層に含まれる任意成分は、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、バインダー等であってよい。バインダーは、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等から選択されてよい。
【0068】
ここで、第2のPGM層は、鉄族元素又は銅族元素(特に鉄及び銅)を、含んでいてもよいが、含まなくてもよい。上述のNH3吸着層の場合とは異なり、第2のPGM層中に鉄族元素又は銅族元素が含まれていても、特に不都合はない。
【0069】
第2のPGM層は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を含まなくてよい。
【0070】
第2のPGM層の配置量は、第2のPGM層が配置されていない部分も含めた基材の容量当たりの第2のPGM層の質量として、実効的な浄化性能を確保するとの観点から、40g/L以上、50g/L以上、60g/L以上、80g/L以上、又は90g/L以上であってよく、圧損を過度に上昇させないとの観点から、200g/L以下、170g/L以下、150g/L以下、又は120g/L以下であってよい。
【0071】
PGM層が、第1のPGM層及び第2のPGM層を有する場合、第1のPGM層及び第2のPGM層の長さの合計は、基材の全長と同じがこれよりも長くてよい。
【0072】
第1のPGM層は、基材の排ガス流れ上流端から、排ガス流れの下流側に向かって延在するように配置されていてよい。第1のPGM層の長さは、基材全長の、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上であってよく、例えば、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下であってよい。
【0073】
第1のPGM層は、基材の排ガス流れ上流端付近で、排ガスと直接接する最上層となっていてよい。この構成によると、排ガス浄化触媒装置が暖機される前でも、HC及びCOを効果的に浄化することができ、好適である。
【0074】
第1のPGM層が、基材の排ガス流れ上流端付近で排ガスと直接接する最上層となっている長さは、例えば、基材全長の、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上であってよく、例えば、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下であってよい。
【0075】
第2のPGM層は、基材の排ガス流れ下流端から、排ガス流れの上流側に向かって延在するように配置されていてよい。第2のPGM層の長さは、基材全長の、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、又は60%以上であってよく、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下であってよい。
【0076】
第2のPGM層は、基材の排ガス流れ下流端付近で、排ガスと直接接する最上層となっていてよい。この構成によると、排ガス浄化触媒装置が暖機される前にはNOxを、排ガス浄化触媒装置が暖機された後には、NOx及びNH3吸着層から脱離したNH3を、それぞれ、効果的に浄化することができ、好適である。
【0077】
第2のPGM層が、基材の排ガス流れ下流端付近で排ガスと直接接する最上層となっている長さは、例えば、基材全長の、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、又は60%以上であってよく、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下であってよい。
【0078】
第1のPGM層及び第2のPGM層の長さの合計が、基材の全長よりも長い場合、基材の中央付近の領域では、第1のPGM層と第2のPGM層とが重複するため、積層して配置されることになる。この場合、両層の重複部分では、第2のPGM層が排ガスと直接接する最上層となっていてよい。
【0079】
ある実施態様において、本発明の排ガス浄化触媒装置におけるPGM層は、
第1のPGM層が、基材の排ガス上流端から基材全長の20%以上80%以下の長さで配置されており、
第2のPGM層が、基材の排ガス下流端から基材全長の30%以上90%以下の長さで配置されており、
第1のPGM層の長さと第2のPGM層の長さとの合計が基材の全長を超え、かつ、
第1のPGM層と第2のPGM層とが重複している領域では、第2のPGM層が排ガスと直接接する最上層となっている。
【0080】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、上記の構成を有している限り、どのような方法で製造されてもよい。
【0081】
非限定的な例として、PGM層が第1のPGM層及び第2のPGM層を有する排ガス浄化触媒装置の製造方法の一例を、以下に説明する。
【0082】
PGM層が第1のPGM層及び第2のPGM層を有する排ガス浄化触媒装置は、例えば、基材のセル流路を区分する隔壁上に、NH3吸着層、第1のPGM層、及び第2のPGM層を、この順に配置する方法によって製造されてよい。
【0083】
NH3吸着層は、例えば、基材の隔壁上に、排ガス流れ上流端から所定の長さにわたって、NH3吸着層形成用塗工液を塗布し、乾燥及び焼成することにより配置されてよい。
【0084】
基材は、所望の排ガス浄化触媒装置の基材に応じて、適宜に選択されてよく、例えば、コージェライト製のストレートフロー型のモノリスハニカム基材を用いてよい。
【0085】
NH3吸着層形成用塗工液は、例えば、所定のプロトン型ゼオライト、及びその他の任意成分の各所定量を、適当な溶媒(典型的には水)中に溶解又は分散した液状物であってよい。NH3吸着層形成用塗工液に適当な増粘剤を配合して、塗工液の粘度を調節すると、塗工液の塗工長さの制御が容易化されるために、好適である。増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;ロジン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用してよい。
【0086】
塗工液塗布後の乾燥及び焼成は、公知の方法にしたがって、又はこれに当業者による適宜の変更を加えたうえで、行ってよい。
【0087】
次に、第1のPGM層を配置する。
【0088】
第1のPGM層は、例えば、NH3吸着層が配置された基材の隔壁上に、排ガス流れ上流端から所定の長さにわたって、第1のPGM層形成用塗工液を塗布し、乾燥及び焼成することにより配置されてよい。
【0089】
第1のPGM層形成用塗工液は、例えば、所定の無機酸化物、並びにPd及びPtから選ばれる触媒貴金属の前駆体、並びにその他の任意成分の各所定量を、適当な溶媒(典型的には水)中に溶解又は分散した液状物であってよい。
【0090】
触媒貴金属前駆体は、所望の触媒貴金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化水素酸塩、酢酸塩等であってよい。
【0091】
第1のPGM層形成用塗工液の場合も、NH3吸着層形成用塗工液の増粘剤と同様の増粘剤を配合して、塗工液の粘度を調節することにより、塗工液の塗工長さの制御が容易化される。
【0092】
塗工液塗布後の乾燥及び焼成は、公知の方法にしたがって、又はこれに当業者による適宜の変更を加えたうえで、行ってよい。
【0093】
更に、第2のPGM層を配置する。
【0094】
第2のPGM層は、例えば、NH3吸着層及び第1のPGM層が配置された基材の隔壁上に、排ガス流れ下流端から所定の長さにわたって、第2のPGM層形成用塗工液を塗布し、乾燥及び焼成することにより配置されてよい。
【0095】
第2のPGM層形成用塗工液は、触媒貴金属前駆体として、Rhの硝酸塩、硫酸塩、塩化水素酸塩、酢酸塩等を使用する他は、第1のPGM層形成用塗工液と同様であってよい。
【0096】
塗工液塗布後の乾燥及び焼成は、公知の方法にしたがって、又はこれに当業者による適宜の変更を加えたうえで、行ってよい。
【0097】
PGM層が第1のPGM層及び第2のPGM層を有する排ガス浄化触媒装置は、以上の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、製造されてよい。
【0098】
《排ガス浄化触媒システム》
本発明の別の観点によると、排ガス浄化触媒システムが提供される。
【0099】
本発明の排ガス浄化触媒システムは、
ガソリンエンジンの排気系の排ガス流れ上流側に配置された上流側浄化触媒装置と、
前記排気系の排ガス流れ下流側に配置された下流側浄化触媒装置と
を含む、ガソリンエンジン用排ガス浄化触媒システムであって、
前記上流側浄化触媒装置が、白金族の触媒貴金属を含む3元系排ガス浄化触媒装置であり、
前記下流側浄化触媒装置が、上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒装置である。
【0100】
上流側浄化触媒装置としての3元系排ガス浄化触媒装置としては、公知のものを用いてよく、特に、Pd及びPtから選択される1種以上と、Rhとを含む、3元系排ガス浄化触媒装置が好適である。
【0101】
《排ガス浄化方法》
本発明の更に別の観点によると、排ガス浄化方法が提供される。
【0102】
本発明の排ガス浄化方法は、
ガソリンエンジンの排気系に、本発明の排ガス浄化触媒装置、又は本発明の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記ガソリンエンジンから排出された排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法である。
【実施例0103】
先ず、以下の参考例及び比較参考例により、本発明の目的を達成するために好適なゼオライト種の検討を行った。
【0104】
《参考例1》
1.塗工液の調製
塗工液の調製において、アルミナ,OSC材、及びバインダーとしては、それぞれ、下記のものを用いた。
アルミナ:及び96.0%のAl2O3を含むアルミナ
第1のPGM層(Pd層)形成用塗工液のOSC材:40.0質量%のCeO2、50.0質量%のZrO2、5.0量%のPr2O3、及び5.0質量%のLa2O3を含む複合酸化物
第2のPGM層(Rh層)形成用塗工液のOSC材:21.0質量%のCeO2、72.0質量%のZrO2、5.3量%のNd2O3、及び1.7質量%のLa2O3を含む複合酸化物
バインダー:アルミナバインダー
【0105】
(1)NH3吸着層形成用塗工液
イオン交換水中に、40.0g/LのH-*BEA、2.6g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、NH3吸着層形成用塗工液を調製した。なお、上記「H-*BEA」の「*」は、構造の類似する多型の混晶であることを示す(以下同じ)。
【0106】
(2)第1のPGM層形成用塗工液の調製
イオン交換水中に、Pd金属換算0.294g/L相当の硝酸パラジウム、25.8g/Lのアルミナ、25.8g/LのOSC材、8.4g/LのBaSO4、1.2g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、第1のPGM層形成用塗工液を調製した。
【0107】
(3)第2のPGM層形成用塗工液の調製
イオン交換水中に、Rh金属換算0.0589g/L相当の硝酸ロジウム、34.4g/Lのアルミナ、51.2g/LのOSC材、1.6g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、第2のPGM層形成用塗工液を調製した。
【0108】
2.排ガス浄化触媒装置の製造
コージェライト製のハニカム基材(直径105.7mm、全長114.3mm、見かけ容量1.003L、セル数400cpsi)の基材の全長にわたって、NH3吸着層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、基材上にNH3吸着層を形成した。
【0109】
次いで、NH3吸着層形成後の基材の排ガス流れ上流端から基材全長の60%の領域にわたって、第1のPGM層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、ゼオライト層上の排ガス流れ上流側に第1のPGM層(Pd層)を形成した。
【0110】
更に、ゼオライト層及びPd層形成後の排ガス流れ下流端から基材全長の80%の領域にわたって、第2のPGM層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、ゼオライト層上の排ガス流れ下流側に第2のPGM層(Rh層)を形成することにより、参考例1の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0111】
3.排ガス浄化触媒装置の評価
上記で得られた参考例1の排ガス浄化触媒装置は、触媒貴金属としてPd及びRhを含む3元系触媒装置(基材の見かけ容量1.003L)と組み合わせた排ガス浄化触媒システムとして、以下の方法によって評価した。
【0112】
(1)耐久
V型8気筒、排気量4,600ccのガソリンエンジンの排気系の上流側に3元系触媒装置を、下流側に参考例1の排ガス浄化触媒装置を配置して、排ガス浄化触媒システムを構成した。そして、エンジンを稼働して、平均エンジン回転数3,000rpm、下流側排ガス浄化触媒装置への入りガス温度を700℃にて、46時間にわたって、排ガス浄化触媒システムに、ストイキ雰囲気及びリーン雰囲気の排ガスを一定時間ずつ交互に流通させることによって、排ガス浄化触媒システムの耐久を行った。
【0113】
(2)NH3エミッションの測定
排気量1,500ccのガソリンエンジンを備える実車両のエンジン直下に3元系触媒装置を、床下触媒として、上記の耐久を行った後の参考例1の排ガス浄化触媒装置を配置して、排ガス浄化触媒システムを構成した。また、参考例1の排ガス浄化触媒装置の出側を、FT-IR装置に接続した。この状態の実車両を、シャシダイナモメータ上でRDE(Real Driving Emission)試験を模した運転モードで運転した。そして、FT-IRによって、参考例1の排ガス浄化触媒装置から排出される排ガス中のNH3濃度を測定し、NH3エミッションを求めた。結果を表1に示す。
【0114】
《参考例2》
「1.塗工液の調製」のうちの「(1)NH3吸着層形成用塗工液の調製」において、H-*BEAの代わりにH-CHAを使用し、NH3吸着層としてH-CHA層を形成した他は、参考例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造して評価した。結果を表1に示す。
【0115】
《参考例3》
「1.塗工液の調製」のうちの「(2)上流側PGM層形成用塗工液の調製」において、硝酸パラジウムの代わりにPt金属換算0.294g/L相当の硝酸白金(II)を使用して、上流側PGM層をPt層とした他は、参考例2と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造して評価した。結果を表1に示す。
【0116】
《比較参考例1》
「1.塗工液の調製」のうちの「(1)NH3吸着層形成用塗工液の調製」において、H-*BEAの代わりに銅イオンでイオン交換したCHA型ゼオライト(Cu-CHA)を使用し、NH3吸着層としてCu-CHA層を形成した他は、参考例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造して評価した。結果を表1に示す。
【0117】
《比較参考例2》
「2.排ガス浄化触媒装置の製造」において、各層の形成順を、上流側の第1のPGM層(Pd層)、下流側の第2のPGM層(Rh層)、及びNH3吸着層の順とし、NH3吸着層を最上層とした他は、参考例2と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造して評価した。結果を表1に示す。
【0118】
《比較参考例3》
1.塗工液の調製
比較参考例1の「1.塗工液の調製」と同様にして得られたNH3吸着層形成用塗工液、第1のPGM層形成用塗工液、及び第2のPGM層形成用塗工液を混合して、触媒層一括形成用塗工液とした。
【0119】
2.排ガス浄化触媒装置の製造
コージェライト製のハニカム基材(直径117mm、全長100mm、セル数600cpsi(93セル/cm2))の基材全長にわたって、上記で得られた触媒層一括形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、基材上に、Cu-CHA、Pd、及びRhを含む単層の触媒層(Cu-CHA+Pd+Rh層)を形成することにより、比較参考例3の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0120】
3.排ガス浄化触媒装置の評価
上記で得られた比較参考例3の排ガス浄化触媒装置を用いて、参考例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
《比較参考例4》
「1.塗工液の調製」のうちの「(1)NH3吸着層形成用塗工液の調製」において、H-*BEAの代わりに水素イオンでイオン交換したFAU型ゼオライト(H-FAU)を使用し、NH3吸着層としてH-FAU層を形成した他は、参考例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造して評価した。結果を表1に示す。
【0122】
【0123】
表1を参照すると、以下のことが分かる。
【0124】
ゼオライトとして、Cu-CHAを用いた比較参考例1、及びH-FAU(細孔径7.35Å)を用いた比較参考例4の排ガス浄化触媒装置は、NH3エミッションが多かった。また、ゼオライトとして、H-CHA(細孔径3.72Å)を用いた場合であっても、NH3吸着層を上層に配置した比較参考例2、及びゼオライト及びPGMを単層中に含む比較参考例3の排ガス浄化触媒装置も、NH3エミッションが多かった。
【0125】
上記において、細孔径の大きなH-FAUを用いた比較参考例4の排ガス浄化触媒装置は、NH3エミッションが顕著に多かったことが特筆される。
【0126】
これらに対して、ゼオライトとして、H-*BEA(細孔径5.95Å)又はH-CHA(細孔径3.72Å)を用い、かつNH3吸着層を下層に配置した参考例1~3の排ガス浄化触媒装置では、NH3エミッションが少なかった。特に、4、6、及び8員環のみから構成されている少員環プロトン型ゼオライト(H-CHA)を用いた参考例2及び3の排ガス浄化触媒装置は、NH3エミッションが顕著に少なかった。
【0127】
以上のことから、本発明の目的を達成するためのゼオライトとしては、細孔径の小さいプロトンゼオライトが好ましく、特に、4、6、及び8員環のみから構成されている少員環プロトン型ゼオライトが好適であることが検証された。
【0128】
《比較例1》
1.塗工液の調製
塗工液の調製において、アルミナ,OSC材、及びバインダーとしては、それぞれ、下記のものを用いた。
アルミナ:及び96.0%のAl2O3を含むアルミナ
Pd層形成用塗工液のOSC材:40.0質量%のCeO2、50.0質量%のZrO2、5.0量%のPr2O3、及び5.0質量%のLa2O3を含む複合酸化物
Rh層形成用塗工液のOSC材:21.0質量%のCeO2、72.0質量%のZrO2、5.3量%のNd2O3、及び1.7質量%のLa2O3を含む複合酸化物
バインダー:アルミナバインダー
【0129】
(1)NH3吸着層形成用塗工液
イオン交換水中に、106.0g/LのH-CHA、7.0g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、NH3吸着層形成用塗工液を調製した。
【0130】
(2)第1のPGM層形成用塗工液の調製
イオン交換水中に、Pd金属換算0.44g/L相当の硝酸パラジウム、43.0g/Lのアルミナ、43.0g/LのOSC材、14.0g/LのBaSO4、2.0g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、第1のPGM層形成用塗工液を調製した。
【0131】
(3)第2のPGM層形成用塗工液の調製
イオン交換水中に、Rh金属換算0.08g/L相当の硝酸ロジウム、43.0g/Lのアルミナ、64.0g/LのOSC材、2.0g/Lのアルミナバインダー、及び増粘剤としてのセルロース系樹脂を投入し、撹拌することにより、第2のPGM層形成用塗工液を調製した。
【0132】
2.排ガス浄化触媒装置の製造
コージェライト製のハニカム基材(直径105.7mm、全長114.3mm、見かけ容量1.003L、セル数400cpsi)の、排ガス流れ上流端から基材の全長にわたって、NH3吸着層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、基材上にNH3吸着層を形成した。
【0133】
次いで、ゼオライト層形成後の基材の排ガス流れ上流端から基材全長の60%の領域にわたって、第1のPGM層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、排ガス流れ上流側に第1のPGM層(Pd層)を形成した。
【0134】
更に、ゼオライト層及びPd層形成後の排ガス流れ下流端から基材全長の80%の領域にわたって、第2のPGM層形成用塗工液全量を塗布し、90℃において2時間通風乾燥した後、500℃において2時間焼成して、排ガス流れ下流側に第2のPGM層(Rh層)を形成することにより、比較例1の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0135】
3.排ガス浄化触媒装置の評価
上記で得られた比較例1の排ガス浄化触媒装置は、触媒貴金属としてPd及びRhを含む3元系触媒装置(基材の見かけ容量1.003L)と組み合わせた排ガス浄化触媒システムとして、以下の方法によって評価した。
【0136】
比較例1の排ガス浄化触媒装置を用いて、耐久温度を850℃に変更した他は、上記の参考例1と同様にして、エミッションの評価を行った。エミッションの評価では、FT―IRによって排ガス中のNH3濃度を測定し、NH3エミッションを求めた。また、市販の自動車排ガス測定器を比較例1の排ガス浄化触媒装置の出側に接続して、COエミッション及びTHC(総炭化水素)エミッションを測定した。結果を表2に示す。
【0137】
《実施例1~4》
NH3吸着層の形成長さを、排ガス流れ上流端から、基材全長に対して表2に記載した割合(百分率)の長さとした他は、比較例1と同様にして、それぞれ、排ガス浄化触媒装置を製造した。ここで、排ガス浄化触媒装置に含まれるゼオライト量は、比較例1及び実施例1~4において、すべて同じ量とした。
【0138】
得られた排ガス浄化触媒装置について、比較例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0139】
【0140】
表2を参照すると、以下のことが分かる。
【0141】
NH3吸着層は、基材の排ガス流れ上流端から、基材全長に対して表2の「形成長さ」欄に示した割合の長さで形成されている。このNH3吸着層の形成長さが、基材全長の100%のときに比べて、これよりも短い方が、NH3エミッションが少なくなる(比較例1と、実施例1~4との比較)。しかしながら、NH3吸着層の形成長さが基材全長の40%である実施例4では、NH3吸着層の形成長さが基材全長の50~75%である実施例1~3と比べて、NH3エミッションが多くなっている。この現象は、以下の理由によると推察される。
【0142】
NH3吸着層の形成長さが長いと、暖機時にNH3吸着層の排ガス流れの下流側で吸着されたNH3が、暖機後に脱離しても、上層のPGM層と接触せずに排ガス浄化触媒装置から放出される確率が増えるため、NH3エミッションが増大すると考えられる。一方、NH3吸着層の形成長さが過度に短いと、吸着可能なNH3量が少ないため、暖機時のNH3エミッションが増大すると考えられる。
【0143】
しかしながら、表2から、NH3吸着層の形成長さが、基材の排ガス流れ上流端から40%以上75%以下の範囲では、NH3エミッションは十分に少なくなっていることが検証された。
【0144】
一方、CO、THC、及びNOxのエミッションは、NH3吸着層の形成長さによらず、ほぼ一定であった。
【0145】
なお、実施例1~4の排ガス浄化触媒装置のNH3エミッションは、見かけ上、参考例1~3の排ガス浄化触媒装置のNH3エミッションよりも多い。これは、排ガス浄化触媒装置の耐久温度が違うことにより、触媒の劣化の程度が異なることに起因する。したがって、参考例1~3におけるNH3エミッションと、実施例1~4におけるNH3エミッションとの直接比較はできない。