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特開2024-130167シーブの加熱システム、シーブの加熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130167
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】シーブの加熱システム、シーブの加熱方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/00 20060101AFI20240920BHJP
   B23P 11/02 20060101ALI20240920BHJP
   B66B 11/04 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B66B7/00 K
B23P11/02 A
B66B11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039731
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】長岐 一輝
(72)【発明者】
【氏名】畔上 卓人
【テーマコード(参考)】
3F305
3F306
【Fターム(参考)】
3F305DA21
3F306AA01
3F306BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】建屋内でシーブにシャフトを水平方向から挿入して焼嵌めする際に熱変化による変位量の不均一化の抑制を図る。
【解決手段】シーブ2と熱風発生装置3とを備え、シーブ2の両端開口部はカバー11により閉塞されている。この熱風発生装置3からシーブ2に熱風を排出することでシーブ2内に熱風が供給される一方、供給された熱風は熱風発生装置3に吸入される。この排出と吸入とにより熱風発生装置3とシーブ2との間を熱風が循環し、シーブ2が加熱される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ装置用巻上機のシーブにシャフトを焼嵌めする際に前記シーブを加熱するシステムであって、
前記シーブを加熱する熱風を発生させる装置を備え、
前記装置から前記シーブに前記熱風を排出することで前記シーブ内に前記熱風を供給する一方、
前記シーブ内に供給された前記熱風を前記装置に吸入し、
前記排出と前記吸入とにより前記装置と前記シーブとの間を熱風が循環し、前記シーブが加熱されることを特徴とするシーブの加熱システム。
【請求項2】
前記シーブの両端開口部を閉塞するカバーを設けた
ことを特徴とする請求項1に記載されたシーブの加熱システム。
【請求項3】
前記カバーには、前記シャフトの挿入用の孔部が形成され、
前記孔部を閉塞するカバーを着脱自在に設けたことを特徴とする請求項2に記載されたシーブの加熱システム。
【請求項4】
前記カバーは、
前記装置が前記熱風を前記シーブ内に排出する排出口と、
前記装置が前記熱風を前記シーブ内から吸入する吸入口と、
を備え、
前記排出口と前記吸入口とが上下の対称位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載されたシーブの加熱システム。
【請求項5】
エレベータ装置用巻上機のシーブと、
前記シーブを加熱する熱風を発生させる装置と、
を備え、
前記シーブにシャフトを焼嵌めにより装着する際に前記シーブを加熱する方法であって、
前記装置から前記シーブに前記熱風を排出し、前記熱風を前記シーブ内に供給する工程と、
前記シーブ内に供給された前記熱風を前記装置に吸入する工程と、
を有し、
前記各工程の実行により前記熱風が前記装置と前記シーブとの間を循環し、前記シーブが加熱されることを特徴とするシーブの加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ装置用巻上機のシーブにシャフトを焼嵌めする際にシーブを加熱する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)周知のようにエレベータ装置については、ベース上に電動機を設置し、電動機の回転軸の一端を延長したシャフトに巻上用のシーブを装着したギヤレス巻上機が提案されている。
【0003】
このシャフトおよびシーブは、大荷重に耐えるため、締めりばめ(穴の最小許容寸法よりも軸の最大許容寸法が大きい状態)による締結が用いられ、所定の締め代を有し、芯出しの容易さからシャフトを垂直に吊った姿勢でシーブに締結されている。
【0004】
確かにエレベータ用巻上機を工場内で組み立てる場合、機材やスペースなどの余裕があるため、前記締結方法にスペース的な問題は生じない。その一方でエレベータ巻上機は、既存設備の更新時に建屋(エレベータ機械室)内に分解状態で搬入して組み立てを実施する場合がある。
【0005】
この場合、建屋内にはスペースに限りがあり、特に垂直方向でのシャフトの挿入は建屋内スペースの限界を超えるおそれがあるため、水平方法でシャフトを締結する必要がある。
【0006】
(2)建屋内でシーブとシャフトを締結する方法としては、
・油圧ジャッキなどを用いた圧入
・加熱装置でシーブを加熱膨張させることによる焼嵌め
の2パターンが用いられている。
【0007】
ところが、前記圧入については、各部品および治具が圧入時の高荷重に耐えうる強度を有する必要があり、高強度化のために寸法・質量が大きく、コストが高騰するおそれがある。また、圧入の過程でシーブとシャフトの接触面が傷つくおそれもある。
【0008】
前記焼嵌めについては、建屋内にシーブを丸ごと加熱できるような加熱装置を搬入できず、シーブを加熱することが困難な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-114729号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】”T.S.K熱風発生器 C型シリーズ” 株式会社関西電熱 2021.7D.10,000 インターネットURL:https://kansaidennetsu.meclib.jp/no4/book/index.html#target/page_no=1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、特許文献1に示すように、シーブのボス孔下部のヒータにより加熱して焼嵌めする方法が提案されている。
【0012】
しかしながら、ヒータから発せられる幅射熱は拡散されて弱くなるので、ヒータからの距離に応じてボス孔の加熱に強弱が生じる場合がある。この場合に特許文献1はヒータ加熱の対流現象でボス孔上部の内周面を加熱しようとしているが、ヒータで直接加熱される部分との温度差が大きく、熱変化による変位量の不均一化を招くおそれがある。
【0013】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、建屋内でシーブにシャフトを水平方向から挿入して焼嵌めする際、シーブの熱変化による変位量の不均一化の抑制を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明の一態様は、
エレベータ装置用巻上機のシーブにシャフトを焼嵌めする際に前記シーブを加熱するシステムであって、
前記シーブを加熱する熱風を発生させる装置を備え、
前記装置から前記シーブに前記熱風を排出することで前記シーブ内に前記熱風が供給する一方、
前記シーブ内に供給された前記熱風を前記装置に吸入し、
前記排出と前記吸入とにより前記装置と前記シーブとの間を熱風が循環し、前記シーブが加熱されることを特徴としている。
【0015】
(2)本発明の他の態様は、
エレベータ装置用巻上機のシーブと、
前記シーブを加熱する熱風を発生させる装置と、
を備え、
前記シーブにシャフトを焼嵌めにより装着する際に前記シーブを加熱する方法であって、
前記装置から前記シーブに前記熱風を排出し、前記熱風を前記シーブ内に供給する工程と、
前記シーブ内に供給された前記熱風を前記装置に吸入する工程と、
を有し、
前記各工程の実行により前記熱風が前記装置と前記シーブとの間を循環し、前記シーブが加熱されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、建屋内でシーブにシャフトを水平方向から挿入して焼嵌めする際、シーブの熱変化による変位量の不均一化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態のシーブ加熱時の外観を示す熱風排出側の斜視図。
図2】同 熱風吸入側の斜視図。
図3】同 シャフト挿入後の外観を示す熱風排出側の斜視図。
図4】同 熱風吸入側の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るシーブの加熱システム(加熱方法)を説明する。
このシステムは、エレベータ用巻き上げ機のシーブにシャフトを水平方向(横向き)に焼嵌めすることで工期の短縮と省スペース化を図っている。
【0019】
≪システム構成例≫
図1および図2中の1は前記加熱システムを示し、シーブ2と熱風発生装置3とを備えている。ここでは図1中のHを熱風発生装置3の排出側と呼び、図2中のIを熱風発生装置3の吸入側と呼ぶ。
【0020】
(1)熱風発生装置3
熱風発生装置3は、熱風を発生させる装置本体3aと、装置本体3aに一端部が取り付けられた一対のパイプ3b,3cとを備え、装置本体3aには排出ファンおよび吸入ファンが内蔵されている。
【0021】
排出側Hでは、装置本体3aは排出ファンを駆動させることでパイプ3bを通じて熱風をシーブ2内に排出する。一方、吸入側Iでは、装置本体3aは吸入ファンを駆動させることでシーブ2内から熱風を吸入する。この点で熱風発生装置3は熱風循環型の仕様となっている。
【0022】
ただし、熱風発生装置3は、シーブ2の焼嵌めに必要な温度(110℃以上)に加熱する熱風を発生させることが可能であればよく、オーバーヒート対策などの安全装置が組みこまれた火気厳禁の屋内仕様品であれば、汎用品を用いることができる。例えば非特許文献1の「TSK熱風発生装置」を用いることが可能である。
【0023】
(2)シーブ2
シーブ2は円筒状に形成され、外周面に形成されたワイヤロープ用のシーブ溝4と、軸方向に形成されたボス部5とを備え、ボス部5のボス孔5aにシャフト10(図3および図4参照)が焼嵌めにより締結される。
【0024】
また、シーブ2の両端開口部4a,4bは、それぞれカバー11,12に閉塞されている。すなわち、排出側の開口部4aがカバー11に閉塞されている一方、吸入側の開口部4bがカバー12に閉塞されている。
【0025】
このカバー11,12は相似に形成され、それぞれドーナツ状に形成されたカバー本体11a,12aと、カバー本体11a,12aの中央部に形成された孔部11b,12bと、孔部11b,12bを閉塞するカバー13,14を有している。
【0026】
カバー本体11a,12aは周方向に沿って等間隔に図示省略の挿通孔が形成されている一方、シーブ2の開口端部4c,4dは該挿通孔に応じた位置に図示省略の雌ねじ孔が形成されている。ここでは前記挿通孔を介してボルトA,Bの軸部を前記雌ねじ孔に締結することでカバー本体11a,12aがシーブ2に固定されている。
【0027】
孔部11b,12bは焼嵌め時にシャフト10の挿入口/出口となるため、カバー13,14は着脱自在に設けられている。すなわち、カバー13,14は、周方向に沿って等間隔にダルマ穴15が形成されている一方、ボス部5の開口端面5bにはダルマ穴15に応じた位置に雌ねじ孔が形成されている。このときダルマ穴15の小径孔の内径はボルトC,Dの頭部径よりも小さく形成されている一方、ダルマ穴15の大径孔の内径はボルトC,Dの頭部径よりも大きく形成されている。
【0028】
したがって、ダルマ穴15の小径孔を介してボルトC,Dの軸部を開口端面5bの雌ねじ孔に締結することでカバー13,14がシーブ2に固定することができる。一方、カバー13,14は、ボルトC,Dを緩めて軸部をダルマ穴15の大径孔にずらすだけ取り外すことができる。
【0029】
排出側Hのカバー本体11aの下部には、図1に示すように、装置本体3aが熱風をシーブ2内に排出するための排出口Xが形成されている。この排出口Xはシーブ2側からみれば吸気口/取込口とも呼べる。
【0030】
吸入側Iのカバー本体12aの上部には、図2に示すように、装置本体3aがシーブ2内から熱風を吸入するための吸入口Yが形成されている。この吸入口Yはシーブ2側からみれば排気口とも呼べ、排出口Xと吸入口Yとは上下の対称位置に形成されている。
【0031】
ここでパイプ3a,3bの他端部にはディフューザ16が連結されている一方、排出口X/吸入口Yの開口縁にはディフューザ16のフランジ部16aが固定されている。このフランジ部16aには、排出口X/吸入口Yの開口縁の周方向に等間隔に形成された雌ねじ孔に応じた挿通孔が形成されている。
【0032】
この挿通孔を介してボルトE,Fの軸部を前記開口縁の雌ねじ孔に締結することでディフューザ16がシーブ2に固定されている。なお、図1および図2中では、破線内のボルトのみに符号A~Fが付されているが、他の箇所も同様なものとする。
【0033】
≪動作例≫
図1図4に基づき前記加熱システム1の動作例を説明する。ここでは事前にシーブ2にカバー11,12が取り付けられ、カバー本体11a,12aにカバー13,14およびディフューザ16が取り付けられた状態となっているものとする。
【0034】
(1)シーブ2の加熱時
前記加熱システム1によれば、焼嵌め時に装置本体3aを稼働させるだけでシーブ内2の加熱が開始される。すなわち、装置本体3aを稼働させると排出ファンが駆動し、図1中の矢印Pに示すように、熱風がパイプ3b内を通って排出口Xからシーブ2内に排出される。
【0035】
これと同時に吸入ファンが駆動し、図2中の矢印Qに示すように、シーブ2内の熱風が吸入口Yからパイプ3cを通って吸入され、シーブ2と装置本体3aとの間で熱風を循環させる。
【0036】
このときシーブ2内には、排出ファンの駆動により下部の排出口Xから熱風が順次に供給される。ここで供給された熱風はシーブ2内の全域に広がり、吸入ファンの駆動により反対側上部の吸入口Yに向かって順次に流れていく(図1中の矢印S参照)。
【0037】
これにより装置本体3aの稼働中はシーブ2内に熱風が充満し、シーブ2の全域が略均等に加熱される。したがって、シーブ2の熱変化による変位量は全体的に均一化し、その不均一化が抑制される。
【0038】
その結果、局部的な変位や応力集中などが発生しなく、シーブ2に余計なストレスを与えることなくシャフト10を焼き嵌めすることができ、また以下の効果を得ることもできる。
【0039】
(A)油圧ジャッキなどを用いた圧入と比較し、製品を損傷させることなくシーブ2とシャフトを締結することができる。
【0040】
(B)加熱装置としてバーナーや特許文献1のヒータを用いた焼嵌めと比較し、シーブ2の全域を均等に加熱することが可能である。特にバーナーを用いた場合、作業者のスキルにより加熱箇所にバラツキが生じ易い。
【0041】
(C)バーナーによる焼嵌めと比較し、火気や加熱中のシーブ2に近づくことなく、シーブ2を加熱でき、昇温時の作業者の安全性を向上させることができる。
【0042】
特にバーナーでシーブ2を炙って焼嵌めすると、シーブ2が焼嵌め可能な温度に達するまで多大な時間を要し、また火気を直接当てることでシーブ2が変色するおそれがあり、さらに建屋内が火気厳禁なことが多く、バーナーで炙ること自体が禁止されていることが多い。
【0043】
なお、シーブ2の両端開口部4a,4bがカバー11~14で閉塞されているため、シーブ2内に供給された熱風を漏らすことなく加熱に用いることができる効果も得られる。
【0044】
(2)焼嵌め時
熱風発生装置3による加熱完了後にカバー13,14を取り外し、シャフト10をシーブ2のボス孔5aに挿入して焼嵌めによる締結が行われる。
【0045】
このときボルトC,Dの通し孔はダルマ穴15なため、ボルトC,Dを緩めて、大径部にずらすだけで簡単にカバー13,14を取り外しでき、シーブ2の加熱後に即座にシャフト10をボス孔5aに挿入することができる。
【0046】
その後、図3および図4に示すように、ボルトGを用いてシャフト10にL字状の吊り治具20の一端部20aを固定する一方、吊り治具20の他端部20bの貫通孔20cに吊り装置(図示省略)のフックを係止し、シャフト10を横向き姿勢で吊る。
【0047】
これにより図4中の矢印Rに示すように、シーブ2をボス孔5aに横向きに挿入する際に姿勢を安定させることができる。この点で建屋内にてシーブ2を水平方向に容易に挿入可能となり、作業性が向上する。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えばカバー11,12を円形状に形成し、孔部11b,12bおよびカバー13,14を廃止してもよい。この場合は、熱風発生装置3の加熱が完了した後にカバー11,12を取り外し、シャフト10をシーブ2のボス孔5aに挿入して焼嵌めすればよい。
【0049】
また、熱風発生装置3とシーブ2とを連結するパイプ3b,3cの外周部分を図示省略の断熱材で覆うことで、
(a)熱風発生装置3からシーブ2への熱風を供給する際、パイプ3b,3c部分での放熱を抑制し、シーブ2の加熱効率を向上させることができ、
(b)また、作業者の火傷防止ともなる。
【符号の説明】
【0050】
1…加熱システム
2…シーブ
3…熱風発生装置
3b,3c…パイプ
10…シャフト
11~14…カバー
11b,12b…孔部
X…排出口
Y…吸入口
図1
図2
図3
図4