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特開2024-130179LCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130179
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】LCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240920BHJP
【FI】
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039759
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】517303292
【氏名又は名称】株式会社コトバデザイン
(71)【出願人】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】広島県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋介
(72)【発明者】
【氏名】石田 哲俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好幸
(72)【発明者】
【氏名】土田 正明
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙介
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち作業者の判断に頼ることなく、しかも「置換用辞書テーブル」のみに頼ることなく、見積内訳書等の「項目」とIDEAの「製品名」を照らし合わせることができるLCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラムを提供することである。
【解決手段】本願発明のLCA評価支援システムは、建築物に係る環境負荷についてライフサイクルアセスメントに基づく定量評価を支援するシステムであって、IDEA記憶手段と積算ファイル入力手段、IDEAレコード選出手段、製造負荷量算出手段を備えたものである。このうちIDEAレコード選出手段は、積算テキストデータに基づいてIDEA識別子を選出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に係る環境負荷について、ライフサイクルアセスメントに基づく定量評価を支援するシステムであって、
複数のIDEAレコードを記憶するIDEA記憶手段と、
前記建築物の製造に係る複数の積算レコードからなる積算ファイルを入力する積算ファイル入力手段と、
前記積算ファイルと、複数の実績レコードからなる実績データと、を用いて、前記IDEAレコードを選出するIDEAレコード選出手段と、
前記建築物の製造に係る環境負荷量である「製造負荷量」を算出する製造負荷量算出手段と、を備え、
前記IDEAレコードは、該IDEAレコードの識別子であるIDEA識別子と、環境負荷物質ごとの環境負荷原単位と、を含んで構成され、
前記積算レコードは、積算テキストデータと、積算数量と、を含んで構成され、
前記実績レコードは、実績テキストデータと、前記IDEA識別子と、を含んで構成され、
前記IDEAレコード選出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記積算テキストデータと前記実績テキストデータとの類似性に基づいて前記実績レコードを選出するとともに、選出された該IDEA識別子に係る前記IDEAレコードを前記IDEA記憶手段から選出し、
前記製造負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記IDEAレコード選出手段によって選出された前記IDEAレコードに含まれる前記環境負荷原単位を読み出すとともに、該環境負荷原単位と前記積算数量に基づいて該積算レコードごとの前記環境負荷量である「個別製造負荷量」を算出したうえで、前記製造負荷量を算出する、
ことを特徴とするLCA評価支援システム。
【請求項2】
前記IDEAレコード選出手段は、前記積算テキストデータと前記実績テキストデータに基づいて類似度を算出するとともに、該類似度に基づいて該積算テキストデータに類似する該実績テキストデータを含む前記実績レコードを選出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項3】
前記IDEAレコード選出手段は、前記類似度に基づいてk個(kは自然数)の前記実績レコードを選出し、
また前記IDEAレコード選出手段は、k個の前記実績レコードを前記IDEA識別子ごとのグループに分類したうえで、該グループに属する該実績レコードの前記類似度を総和することによって個別指標値を求め、
さらに前記IDEAレコード選出手段は、前記個別指標値が最大となる前記グループの前記IDEA識別子に係る前記IDEAレコードを選出する、
ことを特徴とする請求項2記載のLCA評価支援システム。
【請求項4】
前記IDEAレコード選出手段は、前記類似度に基づいてk個(kは自然数)の前記実績レコードを選出し、
また前記IDEAレコード選出手段は、k個の前記実績レコードを前記IDEA識別子ごとのグループに分類したうえで、該グループに係る前記類似度のうち最大値を示す最大類似度を抽出するとともに、該グループに属する該実績レコードの数と該最大類似度との積を個別指標値として求め、
さらに前記IDEAレコード選出手段は、前記個別指標値が最大となる前記グループの前記IDEA識別子に係る前記IDEAレコードを選出する、
ことを特徴とする請求項2記載のLCA評価支援システム。
【請求項5】
前記IDEAレコード選出手段は、前記類似度があらかじめ定められた閾値を超える該実績テキストデータを含む前記実績レコードを、最大k個(kは自然数)まで選出する、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載のLCA評価支援システム。
【請求項6】
前記IDEAレコード選出手段は、前記積算テキストデータと前記実績テキストデータに基づいてコサイン類似度を算出し、
また前記IDEAレコード選出手段は、前記コサイン類似度に基づいて前記IDEAレコードを選出する、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載のLCA評価支援システム。
【請求項7】
前記IDEAレコード選出手段は、前記実績レコードに含まれる前記実績テキストデータと前記IDEA識別子に基づく学習データを機械学習することによって、前記積算テキストデータから該IDEA識別子を選出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項8】
前記積算レコードは、積算単位を含んで構成され、
前記実績レコードは、実績単位を含んで構成され、
前記IDEAレコード選出手段は、前記積算レコードに含まれる前記積算単位と同じ単位である前記実績単位を含む前記実績レコードを選出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項9】
前記IDEAレコードは、IDEA単位を含んで構成され、
前記積算レコードは、積算単位を含んで構成され、
前記実績レコードは、前記積算単位を前記IDEA単位に換算する単位換算値と、を含んで構成され、
前記製造負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記IDEAレコード選出手段によって選出された前記実績レコードに含まれる前記単位換算値によって前記積算数量を換算した換算数量に基づいて該積算レコードごとの前記環境負荷量を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項10】
前記IDEAレコードは、IDEA単位を含んで構成され、
前記積算レコードは、積算単位を含んで構成され、
前記積算単位と、前記IDEA単位と、該積算単位を前記IDEA単位に換算する単位換算値と、の対応を示す換算値テーブルを記憶する換算値テーブル記憶手段を、さらに備え、
前記製造負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記IDEAレコード選出手段によって選出された前記IDEAレコードに含まれる前記IDEA単位と、該積算レコードに含まれる前記積算単位と、を照らし合わせるとともに、該IDEA単位と該積算単位が異なるときは、前記換算値テーブル記憶手段から読み出した前記換算値テーブルの前記単位換算値によって前記積算数量を換算した換算数量に基づいて該積算レコードごとの前記環境負荷量を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項11】
複数のBELCAレコードを記憶するBELCA記憶手段と、
前記BELCAレコードを選出するBELCAレコード選出手段と、
前記建築物の修繕に係る前記環境負荷量である「修繕負荷量」を算出する修繕負荷量算出手段と、をさらに備え、
前記BELCAレコードは、該BELCAレコードの識別子であるBELCA識別子と、更新周期と、修繕率と、を含んで構成され、
前記実績レコードは、前記BELCA識別子を含んで構成され、
前記BELCAレコード選出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記積算テキストデータに類似する前記実績テキストデータを含む前記実績レコードを選出するとともに、選出された該実績レコードに含まれる前記BELCA識別子と同じ該BELCA識別子に係る前記BELCAレコードを前記BELCA記憶手段から選出し、
前記修繕負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記BELCAレコード選出手段によって選出された前記BELCAレコードに含まれる前記更新周期と前記修繕率を読み出すとともに、あらかじめ定められた耐用年数を該更新周期で除した更新回数を求め、
また前記修繕負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、該積算レコードに係る前記個別製造負荷量に前記更新回数を乗じた「個別更新負荷量」を算出するとともに、該積算レコードに係る該個別製造負荷量に前記修繕率と前記耐用年数を乗じた「個別修復負荷量」を算出し、
さらに前記修繕負荷量算出手段は、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに算出された前記個別更新負荷量と前記個別修復負荷量に基づいて、前記環境負荷量を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載のLCA評価支援システム。
【請求項12】
前記実績レコードは、修繕対象とするか否かを判断することができる修繕有無情報を含んで構成され、
前記修繕負荷量算出手段は、前記BELCAレコード選出手段によって選出された前記実績レコードに含まれる前記修繕有無情報が修繕対象を示すときに、前記積算レコードに係る前記個別更新負荷量と前記個別修復負荷量を算出する、
ことを特徴とする請求項11記載のLCA評価支援システム。
【請求項13】
建築物に係る環境負荷について、ライフサイクルアセスメントに基づく定量評価を支援する機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
IDEA記憶手段には、複数のIDEAレコードを記憶され、
入力された積算ファイルを取り込む積算ファイル取込処理と、
前記積算ファイルと、複数の実績レコードからなる実績データと、を用いて、前記IDEAレコードを選出するIDEAレコード選出処理と、
前記建築物の製造に係る環境負荷量である「製造負荷量」を算出する製造負荷量算出処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備え、
前記IDEAレコードは、該IDEAレコードの識別子であるIDEA識別子と、2種類以上の環境負荷物質ごとの環境負荷原単位と、を含んで構成され、
前記積算ファイルは、前記建築物の製造に係る複数の積算レコードを含んで構成され、
前記積算レコードは、積算テキストデータと、積算数量と、を含んで構成され、
前記実績レコードは、実績テキストデータと、前記IDEA識別子と、を含んで構成され、
前記IDEAレコード選出処理では、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記積算テキストデータと前記実績テキストデータとの類似性に基づいて前記実績レコードを選出するとともに、選出された該IDEA識別子に係る前記IDEAレコードを前記IDEA記憶手段から選出し、
前記製造負荷量算出処理では、前記積算ファイルに含まれる前記積算レコードごとに、前記IDEAレコード選出処理で選出された前記IDEAレコードに含まれる前記環境負荷原単位を読み出すとともに、該環境負荷原単位と前記積算数量に基づいて該積算レコードごとの前記環境負荷量である「個別製造負荷量」を算出したうえで、前記製造負荷量を算出する、
ことを特徴とするLCA評価支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建築物に係る環境負荷を定量的に評価する技術に関するものであり、より具体的には、建築工事に掛かる費用を算出するための見積内訳書などを入力情報として建築物に係る環境負荷量を算出することができるLCA評価支援システムとLCA評価支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による環境破壊が進み、地球環境の保全が世界的かつ喫緊の課題となっており、我が国においても2021年に「地球温暖化対策計画」を策定するなど、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて気候変動対策に取り組んでいるところである。同時に、環境負荷の少ない製品やサービスを社会に普及させることが求められており、平成13年に施行された循環型社会形成推進基本法では、製造段階(プロセス)だけでなく使用後の環境負荷の低減についても製造者等が一定の責任を負うという「拡大生産者責任」の考え方が示されている。また消費者からは、より環境に負荷を与えない製品やサービスを選択することができるように、製品のライフサイクル全体(原料調達、製造、輸送、廃棄、リサイクルなど)に係る環境負荷の情報を開示するよう求める声も上がっている。
【0003】
製品のライフサイクルを通じた環境負荷を定量的に評価する手法は、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)といわれ、国際的にも広く活用されているところである。このLCAについては、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントの国際規格の中でISO規格が作成されており、LCAの原則と枠組みを定めるISO14040をはじめLCAの要素ごとにその内容が詳細に定められている。
【0004】
LCAは、種々のプロセスを実施することで行われ、そのうち「インベントリ分析」を実施すると製品のライフサイクルのプロセスごとに環境負荷物質を把握することができる。例えば、建築物を製造する(つまり、建築工事を行う)プロセスにおいて、どのような資材や機材など(以下、「資機材等」という。)がどのくらいの数量だけ消費され、さらにその消費に伴ってどの程度の二酸化炭素などの環境負荷物質が排出されたのか、といった情報を把握することができるわけである。
【0005】
インベントリ分析を実施するにあたっては、製品やサービスに係る環境負荷物質(CO2をはじめ、NOx、SOx,PM2.5、ヒ素、カドミウム、クロム、鉛などの化学物質の排出、鉄や銅などの資源消費など)を定量化する必要があり、そのため環境負荷物質ごとの原単位あたりの環境負荷量(以下、単に「環境負荷原単位」という。)が必要となる。そして、一般財団法人サステナブル経営推進機構では、製品やサービスに係る環境負荷物質とその環境負荷原単位を示すデータベース「IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)」を提供している。これにより、建築工事を行う際に使用する資機材等を挙げることができれば、資機材等ごとであって環境負荷物質ごとの環境負荷量を求めることができ、すべての資機材等に係る環境負荷量を集計することによって建築工事全体に係る環境負荷量を算出することができる。
【0006】
LCAは、特定のプロセスにおける環境負荷を評価することもあるが、上記したとおりライフサイクル全体、あるいは2以上のプロセスについて環境負荷を評価することが望ましい。建築物のライフサイクルとしては、製造プロセスと建設プロセス、修繕プロセス、解体プロセスなどが挙げられ、これら全てのプロセスについて環境負荷を評価したり、例えば製造プロセスと修繕プロセスについて環境負荷を評価したりするとよい。
【0007】
修繕プロセスについて環境負荷を評価するにあたっては、製造プロセスに係る環境負荷量を参考にすることができる。例えば、耐用年数を設定すればその建築物を更新すべき回数が得られ、製造プロセスに係る環境負荷量に更新回数を乗ずることによって更新に係る環境負荷量を算出することができる。また、耐用年数を通じて行われる修復に関しては、製造プロセスに係る環境負荷量に修繕率と耐用年数を乗ずることによって修復に係る環境負荷量を算出することができる。そして、更新に係る環境負荷量と修復に係る環境負荷量を足し合わせることによって、修繕プロセスに係る環境負荷量を得ることができるわけである。
【0008】
ところで、建築物全体のうち修繕(更新や修復)が必要な部材(個所)もあれば、修繕を必要としない部材もある。換言すれば、部材を構成する資機材等ごとに、修繕の必要性があらかじめ定められているわけである。また、上記した更新回数は耐用年数を更新周期で除した値であり、そのため更新に係る環境負荷量を算出するには部材(それを構成する資機材等)ごとの耐用年数が必要であり、修復に係る環境負荷量を算出するには部材(それを構成する資機材等)ごとの修繕率が必要である。したがって、修繕プロセスに係る環境負荷量を算出するためには、資機材等ごとの属性情報、すなわち「修繕の有無」と「耐用年数」、「修繕率」が必要とされる。
【0009】
公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA(登録商標):Building and Equipment Long-life Cycle Association)では、「建築物のライフサイクルマネジメント用データ集」のデータベースおよびコード(以下、便宜上ここでは「BELCAデータベース」という。)を提供しており、建築物の修繕プロセスにおける環境負荷量を算出するために必要な情報、すなわち修繕を要する資機材等ごとの「耐用年数」と「修繕率」といった情報を提供している。これにより、建築工事を行う際に使用する資機材等を挙げることができれば、資機材等ごとであって環境負荷物質ごとの環境負荷量を求めることができ、すべての資機材等に掛かる環境負荷量を集計することによって修繕プロセスに係る環境負荷量を算出することができる。
【0010】
ここまで説明したように、建築工事を行う際に使用する資機材等を挙げることができれば、製造プロセスや修繕プロセスに係る環境負荷量を算出することができる。しかしながら、この環境負荷量を算出するために、そのような資機材等を列挙することはこれまであまり例がなかった。他方、建築工事を発注するための発注金額や、それを受注するための受注金額を算出するためには、工事に必要な資機材等を列挙することは必須であり、見積内訳書や積算内訳書、あるいは単価や金額を記載しない金抜き設計書(以下、これらを総じて「見積内訳書等」という。)などを作成する際に、必要な資機材等(以下、「項目」という。)を挙げるとともに、その項目に対して数量を記入していた。
【0011】
そこで見積内訳書等を利用して、製造プロセスや修繕プロセスに係る環境負荷量を算出することが考えられる。IDEAはそのレコード(ただし、建築物に限らない)を表す名称(以下、「製品名」という。)と「環境負荷物質ごとの環境負荷原単位」といった属性情報を含むレコードからなるデータベースであり、またBELCAデータベースは「製品名」と「耐用年数」、「修繕率」といった属性情報を含むレコードからなるデータベースである。したがって、見積内訳書等の「項目」と、IDEAやBELCAデータベースの「製品名」を照らし合わせることによって、その項目に係る環境負荷量を算出するために必要な情報を、IDEAやBELCAデータベースから拾い出すことができるわけである。
【0012】
見積内訳書等に記入する項目に付す名称(用語)は、作成者の個性が現れ、同じ資機材等であっても作成者によって異なる項目とされることが知られている。例えば、「コンクリート」を項目とするケースでは、「生コン」と記入したり、あるいは「フレッシュコンクリート」や「生con」と記載したりすることがあった。また「型枠」を項目とするケースでは、「コンパネ」と記入したり、あるいは「コンクリートパネル」や「コンクリート型枠用合板」と記載したりすることがあった。
【0013】
一方、IDEAやBELCAデータベースを構成する各レコードには、1種類のみの「製品名」が含まれている。すなわち、見積内訳書等の「項目」とIDEAやBELCAデータベースの「製品名」が表面的には相違するものの、実際には同じ物を意味していることが頻繁に起こり得るわけである。建築工事に関係する者であれば、「コンクリート」と「生コン」が同じ項目を意味しており、「コンパネ」と「コンクリート型枠用合板」が同じ項目を意味していることは理解できるが、関係者でない者にとってはこれらを同じものとして理解することは容易ではない。また建築工事は、一般的に多くの工種で構成され、そのうえ数多くの種類の項目が使用されることから、たとえ関係者であっても異なる名称が同じ項目を意味しているか否か判別できないこともある。
【0014】
このように、見積内訳書等の「項目」と、IDEAやBELCAデータベースの「製品名」を照らし合わせる作業は著しく困難なものであり、しかも建築工事の見積内訳書等を構成する項目の種類は膨大であり、さらにIDEAやBELCAデータベースは夥しい数のレコードによって構成されていることから、その作業には相当の時間を要することになる。
【0015】
そこで、ばらばらの名称で記載される項目を、所定の名称に変換する(いわば翻訳する)ことが考えられる。上記の例では、「生コン」や「フレッシュコンクリート」、「生con」とされた項目は全て「コンクリート」に変換し、「コンパネ」や「コンクリートパネル」、「コンクリート型枠用合板」とされた項目は全て「型枠」に変換するわけである。これまでにも、見積内訳書等の項目を所定の用語に統一して利用する技術については提案されている。例えば特許文献1では、発注図書の情報と積算システムによる積算結果を照合チェックするため、使用されている同じ意味を持つ用語を一つの用語に置換して照合する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2017-10501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1に開示される発明は、「置換前の用語(複数の候補)」と「置換後の用語(1つの用語)」が対応するいわゆる「置換用辞書テーブル」を作成したうえで、用語を置換する技術である。しかしながら、上記したとおり建築工事に係る項目の種類は膨大であって、IDEAやBELCAデータベースは夥しい数のレコードを含んでいることから、どの項目も漏れなく変換することができる「置換用辞書テーブル」を作成することは極めて困難であり、およそ現実的とは言えない。
【0018】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち作業者の判断に頼ることなく、しかも「置換用辞書テーブル」のみに頼ることなく、見積内訳書等の「項目」とIDEAの「製品名」を照らし合わせることができるLCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、過去に見積内訳書等の「項目の名称(積算テキストデータ)」とIDEA等の「製品名」を対応付けした事例を取りまとめた「実績データ」を作成するとともに、見積内訳書等の項目とこの実績データを照らし合わせることによって、環境負荷量算出のために必要な情報をIDEAやBELCAデータベースから抽出する、というこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0020】
本願発明のLCA評価支援システムは、建築物に係る環境負荷についてライフサイクルアセスメントに基づく定量評価を支援するシステムであって、IDEA記憶手段と積算ファイル入力手段、IDEAレコード選出手段、製造負荷量算出手段(製造時の環境負荷量を算出する手段)を備えたものである。このうちIDEA記憶手段は複数のIDEAレコードを記憶する手段であり、積算ファイル入力手段は建築物の製造に係る複数の積算レコードからなる「積算ファイル」を入力する手段である。また、IDEAレコード選出手段は積算ファイルと実績データ(複数の実績レコードからなるデータ)を用いてIDEAレコードを選出する手段であり、製造負荷量算出手段は「製造負荷量(建築物の製造に係る環境負荷量)」を算出する手段である。なお、IDEAレコードはIDEA識別子(IDEAレコードの識別子)と環境負荷物質ごとの環境負荷原単位を含んで構成され、積算レコードは積算テキストデータと積算数量を含んで構成され、実績レコードは実績テキストデータとIDEA識別子を含んで構成される。そしてIDEAレコード選出手段が、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、積算テキストデータと実績テキストデータとの類似性に基づいて実績レコードを選出するとともに、選出されたIDEA識別子に係るIDEAレコードをIDEA記憶手段から選出する。製造負荷量算出手段は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、IDEAレコード選出手段によって選出されたIDEAレコードに含まれる環境負荷原単位を読み出すとともに、環境負荷原単位と積算数量に基づいて「個別製造負荷量(積算レコードごとの環境負荷量)」を算出したうえで、製造負荷量を算出する。
【0021】
本願発明のLCA評価支援システムは、積算テキストデータと実績テキストデータに基づいて類似度を算出するとともに、この類似度に基づいて積算テキストデータに類似する実績テキストデータを含む実績レコードを選出するものとすることもできる。
【0022】
本願発明のLCA評価支援システムは、類似度に基づいてIDEAレコードを選出するものとすることもできる。この場合、まずIDEAレコード選出手段は、積算テキストデータと実績テキストデータに基づいて類似度を算出するとともに、類似度に基づいてk個(kは自然数)の実績レコードを選出する。次いでIDEAレコード選出手段は、k個の実績レコードをIDEA識別子ごとのグループに分類したうえで、グループに属する実績レコードの類似度を総和することによって個別指標値として求める。そしてIDEAレコード選出手段は、個別指標値が最大となるグループのIDEA識別子に係るIDEAレコードを選出する。
【0023】
本願発明のLCA評価支援システムは、最大類似度に基づいてIDEAレコードを選出するものとすることもできる。この場合、IDEAレコード選出手段は、グループに係る類似度のうち最大値を示す最大類似度を抽出するとともに、各グループに属する実績レコードの数と最大類似度との積を個別指標値として求める。そしてIDEAレコード選出手段は、個別指標値が最大となるグループのIDEA識別子に係るIDEAレコードを選出する。
【0024】
本願発明のLCA評価支援システムは、類似度があらかじめ定められた閾値を超える実績テキストデータを選出し、その実績テキストデータ含む実績レコードを、最大k個まで選出するものとすることもできる。
【0025】
本願発明のLCA評価支援システムは、積算テキストデータと実績テキストデータに基づいてコサイン類似度を算出し、このコサイン類似度に基づいてIDEAレコードを選出するものとすることもできる。
【0026】
本願発明のLCA評価支援システムは、機械学習を利用してIDEAレコードを選出するものとすることもできる。この場合、IDEAレコード選出手段は、学習データを機械学習することによって、積算テキストデータからIDEA識別子を出力するとともに、そのIDEA識別子に係るIDEAレコードを選出する。なおこの学習データは、実績レコードに含まれる「実績テキストデータ」と「IDEA識別子」に基づいて生成されたものである。
【0027】
本願発明のLCA評価支援システムは、積算レコードが積算単位を含んで構成され、実績レコードが実績単位を含んで構成されるものとすることもできる。この場合、IDEAレコード選出手段は、積算レコードに含まれる積算単位と同じ単位である実績単位を含む実績レコードを実績データ記憶手段から選出する。
【0028】
本願発明のLCA評価支援システムは、換算数量に基づいて環境負荷量を算出するものとすることもできる。この場合、IDEAレコードはIDEAにより環境評価用に用いる単位として定義されたもの(以下、「IDEA単位」という。)を含んで構成され、積算レコードは工事費を算出するために通常用いる単位(以下、「積算単位」という。)を含んで構成され、実績レコードは単位換算値(積算単位をIDEA単位に換算する数値)を含んで構成される。製造負荷量算出手段は、IDEAレコード選出手段によって選出された実績レコードに含まれる単位換算値によって積算数量を換算した「換算数量」に基づいて積算レコードごとの環境負荷量を算出する。
【0029】
本願発明のLCA評価支援システムは、換算値テーブルを記憶する換算値テーブル記憶手段をさらに備えたものとすることもできる。この換算値テーブルは、積算単位と、IDEA単位と、単位換算値との対応を示す対応表(テーブル)である。この場合、IDEAレコードはIDEA単位を含んで構成され、積算レコードは積算単位を含んで構成され、実績レコードはIDEA単位と単位換算値を含んで構成される。製造負荷量算出手段は、IDEA単位と積算単位が異なるときは、換算値テーブル記憶手段から読み出した換算値テーブルの単位換算値によって積算数量を換算した換算数量に基づいて積算レコードごとの環境負荷量を算出する。
【0030】
本願発明のLCA評価支援システムは、複数のBELCAレコードを記憶するBELCA記憶手段と、BELCAレコードを選出するBELCAレコード選出手段、「修繕負荷量(建築物の修繕に係る環境負荷量)」を算出する修繕負荷量算出手段をさらに備えたものとすることもできる。なお、BELCAレコードはBELCA識別子(BELCAレコードの識別子)と更新周期、修繕率を含んで構成される。また、この場合の実績レコードは、BELCA識別子を含んで構成される。そして、BELCAレコード選出手段は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、積算テキストデータに類似する実績テキストデータを含む実績レコードを実績データ記憶手段から選出するとともに、選出された実績レコードに含まれるBELCA識別子と同じBELCA識別子に係るBELCAレコードをBELCA記憶手段から選出する。修繕負荷量算出手段は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、BELCAレコード選出手段によって選出されたBELCAレコードに含まれる更新周期と修繕率を読み出すとともに、あらかじめ定められた耐用年数を更新周期で除した更新回数を求める。また修繕負荷量算出手段は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、積算レコードに係る個別製造負荷量に更新回数を乗じた「個別更新負荷量」を算出するとともに、積算レコードに係る個別製造負荷量に修繕率と耐用年数を乗じた「個別修復負荷量」を算出する。さらに修繕負荷量算出手段は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに算出された個別更新負荷量と個別修復負荷量に基づいて環境負荷量を算出する。
【0031】
本願発明のLCA評価支援システムは、実績レコードが修繕対象とするか否かを判断することができる「修繕有無情報」を含んで構成されるものとすることもできる。この場合、修繕負荷量算出手段は、BELCAレコード選出手段によって選出された実績レコードに含まれる修繕有無情報が修繕対象を示すときに、積算レコードに係る個別更新負荷量と個別修復負荷量を算出する。
【0032】
本願発明のLCA評価支援プログラムは、建築物に係る環境負荷についてライフサイクルアセスメントに基づく定量評価を支援する機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、積算ファイル取込処理とIDEAレコード選出処理、製造負荷量算出処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。このうち積算ファイル取込処理ではオペレータによって入力された積算ファイルを取り込む。またIDEAレコード選出処理では、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、積算テキストデータと実績テキストデータとの類似性に基づいて実績レコードを選出するとともに、選出されたIDEA識別子に係るIDEAレコードをIDEA記憶手段から選出する。製造負荷量算出処理では、積算ファイルに含まれる積算レコードごとに、IDEAレコード選出手段によって選出されたIDEAレコードに含まれる環境負荷原単位を読み出すとともに、環境負荷原単位と積算数量に基づいて個別製造負荷量を算出したうえで、製造負荷量を算出する。
【発明の効果】
【0033】
本願発明のLCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラムには、次のような効果がある。
(1)従来、作業者の判断によって見積内訳書等の「項目」とIDEA等の「製品名」を照らし合わせていたため、建築工事全体に係る環境負荷量を算出するには著しい時間を要していた。具体的には、1物件の建築工事について約10人工の熟練者を要する作業であった。一方、本願発明によれば、熟練者を確保することなく誰でも操作することができ、しかも1物件の建築工事について迅速に結果を出力することができる。
(2)また、作業者の判断に頼ることなく、見積内訳書等の「項目」とIDEA等の「製品名」を照らし合わせることから、ヒューマンエラーを抑制することができ、すなわち高い精度で建築工事に係る環境負荷量を算出することができる。
(3)建築工事に係る環境負荷量を容易に算出することができる。その結果、これまではその算出に掛かるコストを考えると対象とし難かった建築工事も、環境負荷量を算出する対象につながり、延いては脱炭素化に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本願発明のLCA評価支援システムの主な構成を示すブロック図。
図2】複数の積算レコードによって構成される積算ファイルを模式的に示すモデル図。
図3】複数のIDEAレコードによって構成されるIDEAを模式的に示すモデル図。
図4】複数のBELCAレコードによって構成されるBELCAデータベースを模式的に示すモデル図。
図5】複数の実績レコードによって構成される実績データを模式的に示すモデル図。
図6】重み付きk近傍法を用いたIDEAレコード選出手段の主な構成を示すブロック図。
図7】重み付きk近傍法を説明するステップ図。
図8】本願発明のLCA評価支援システムが製造負荷量を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
図9】本願発明のLCA評価支援システムが修繕負荷量を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
図10】本願発明のLCA評価支援プログラムがコンピュータに実行させる処理の流れの一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本願発明のLCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0036】
1.LCA評価支援システム
はじめに本願発明のLCA評価支援システムについて、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明のLCA評価支援プログラムは、本願発明のLCA評価支援システムを実行する際に用いられるプログラムである。したがって、まずは本願発明のLCA評価支援システムについて説明し、その後に本願発明のLCA評価支援プログラムについて説明することとする。
【0037】
図1は、本願発明のLCA評価支援システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明のLCA評価支援システム100は、積算ファイル入力手段110とIDEAレコード選出手段120、製造負荷量算出手段130、IDEA記憶手段170を含んで構成され、さらに実績データ記憶手段160、BELCAレコード選出手段140や修繕負荷量算出手段150、BELCA記憶手段180、換算値テーブル記憶手段190などを含んで構成することもできる。
【0038】
LCA評価支援システム100を構成する主な要素のうち、積算ファイル入力手段110とIDEAレコード選出手段120、製造負荷量算出手段130、BELCAレコード選出手段140や修繕負荷量算出手段150は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、後述する本願発明のLCA評価支援プログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれ手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するものであって所定のプログラムによって演算処理を実行するものであり、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。
【0039】
実績データ記憶手段160とIDEA記憶手段170、BELCA記憶手段180、換算値テーブル記憶手段190は、(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0040】
以下、本願発明のLCA評価支援システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0041】
(積算ファイル入力手段)
積算ファイル入力手段110は、積算ファイルを入力する手段であり、例えばオペレータがポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボード等を操作することによって積算ファイルを取り込む仕様にすることができる。ここで積算ファイルとは、建築工事の発注金額や受注金額を算出するための「見積内訳書等(見積内訳書や積算内訳書、金抜き設計書など)」を、「Microsoft Excel」や「Google スプレッドシート」といったいわゆる表計算ソフトによって作成したファイルである。
【0042】
積算ファイルは、すなわち見積内訳書等であるため、建築物の製造(建築工事)に係る複数の積算レコード(つまり、項目)によって構成される。図2は、複数の積算レコードによって構成される積算ファイルを模式的に示すモデル図である。この図に示すようにそれぞれの積算レコードには、積算レコードのID(IDentification)と、積算レコードの内容を表すテキストデータ(この図では、名称や品質・形状寸法)、単位、数量、単価、金額といった情報が含まれている。便宜上ここでは、積算レコードのIDのことを「積算識別子」と、積算レコードの内容を表すテキストデータのことを「積算テキストデータ」、積算レコードの単位のことを「積算単位」、積算単位レコードの数量のことを「積算数量」ということとする。なおこの図に示すように、積算レコードの内容を表すための情報として「名称」と「品質・形状寸法」のように複数の情報を含んでいる場合、これら複数の情報を統合したものを積算テキストデータとすることもできるし、どちらか一方を積算テキストデータとすることもできる。
【0043】
(IDEA記憶手段)
IDEA記憶手段170は、複数のIDEAレコードからなるデータベース「IDEA」を記憶する手段である。図3は、複数のIDEAレコードによって構成されるIDEAを模式的に示すモデル図である。この図に示すようにそれぞれのIDEAレコードには、IDEAレコードのID(つまり、IDEAコード)と、IDEAレコードの内容を表すテキストデータ、単位、環境負荷物質ごとの環境負荷原単位(原単位あたりの環境負荷量)といった情報が含まれている。ただし、IDEAレコードには1又は2種類以上の環境負荷物質(例えば、CO2やSOx、クロム、鉄など)が含まれ、それぞれの環境負荷物質について環境負荷原単位が示されている。便宜上ここでは、IDEAレコードのIDのことを「IDEA識別子」と、IDEAレコードの内容を表すテキストデータのことを「IDEAテキストデータ」、IDEAレコードの単位のことを「IDEA単位」ということとする。
【0044】
(BELCA記憶手段)
BELCA記憶手段180は、複数のBELCAレコードからなるデータベース「BELCAデータベース」を記憶する手段である。図4は、複数のBELCAレコードによって構成されるBELCAデータベースを模式的に示すモデル図である。この図に示すようにそれぞれのBELCAレコードには、BELCAレコードのID(つまり、BELCAコード)と、BELCAレコードの内容を表すテキストデータ(この図では、大分類、中分類、小分類、寸法・仕様)、単位、更新周期、修繕率といった情報が含まれており、さらに税法耐用年数や更新単価係数、修繕内容、修繕周期、対象数量係数、修繕単価係数などを含んで構成することもできる。便宜上ここでは、BELCAレコードのIDのことを「BELCA識別子」と、BELCAレコードの内容を表すテキストデータのことを「BELCAテキストデータ」、BELCAレコードの単位のことを「BELCA単位」ということとする。なおこの図に示すように、BELCAレコードの内容を表すための情報として「大分類」と「中分類」、「小分類」、「寸法・仕様」のように複数の情報を含んでいる場合、これら複数の情報(例えば、「小分類」と「寸法・仕様」)を統合したものをBELCAテキストデータとすることもできるし、いずれかの一つの情報をBELCAテキストデータとすることもできる。
【0045】
(実績データ記憶手段)
実績データ記憶手段160は、複数の実績レコードからなる「実績データ」を記憶する手段である。図5は、複数の実績レコードによって構成される実績データを模式的に示すモデル図である。なお実績データは、必ずしもデータベース構造とする必要はなく(もちろん、データベース構造としてもよい)、単なる実績レコードの集合として構成することもできる。この図に示すようにそれぞれの実績レコードには、少なくとも実績レコードの内容を表すテキストデータとIDEA識別子が含まれ、さらに実績レコードのIDや単位、IDEAテキストデータ、単位換算値、BELCA識別子、修繕有無情報といった情報を含むこともできる。便宜上ここでは、実績レコードのIDのことを「実績識別子」と、実績レコードの内容を表すテキストデータのことを「実績テキストデータ」、実績レコードの単位のことを「実績単位」ということとする。なお実績データは、実績データを構成するために作成された実績レコードのほか、他の運用で実績テキストデータとIDEA識別子などを関連付けたものを実績レコードとして利用したり、後述する学習データを生成する際に実績テキストデータとIDEA識別子を関連付けたものを実績レコードとして利用したりすることができる。
【0046】
既述したとおり、建築物全体のうち修繕が必要な部材(個所)もあれば、修繕を必要としない部材もある。換言すれば、あらかじめ項目ごとに「修繕対象」と「修繕非対象」のいずれかが定められている。そして、修繕対象の項目はBELCAレコードとして挙げられているが、修繕非対象の項目はBELCAレコードとしては挙げられていない。つまり、修繕非対象となる実績レコードには、BELCA識別子を含めることができないわけである。そこでこのような実績レコードには、むしろBELCA識別子が存在しないことを示す情報を含めるとよい。例えば図5では、修繕非対象となる場合、BELCA識別子として実際には存在しない「BE_999999」が記録されている。
【0047】
実績データは、上記したとおり過去に積算レコードとIDEAレコードを関連付けたときの記録や、積算レコードとBELCAレコードを関連付けたときの記録を取りまとめたものであり、文字どおりレコードどうしを関連付けた「実績」に基づくデータベースである。もちろんレコードどうしを関連付けるにあたっては、作業者が積算テキストデータとIDEAテキストデータやBELCAテキストデータを照らし合わせることで関連付けたり、本願発明のLCA評価支援システム100を用いて関連付けたりすることができる。例えば図5では、積算テキストデータが「生コン」である積算レコードと、IDEAテキストデータが「コンクリート」であるIDEAレコードが関連付けられ、それぞれ積算レコードとIDEAレコードから必要な情報(積算テキストデータやIDEA識別子など)を取り込んで、実績識別子が「AC_00002」の実績レコードが生成されている。なお積算レコードから取り込んだ積算テキストデータは、実績レコードとして格納されると「実績テキストデータ」とされ、同様に、積算レコードから取り込んだ積算単位は、実績レコードとして格納されると「実績単位」とされる。つまり実績テキストデータや実績単位の由来は、積算テキストデータや積算単位である。
【0048】
上記したとおり実績データは、積算レコードとIDEAレコードを関連付けた実績や、積算レコードとBELCAレコードを関連付けた実績に基づいて生成される。したがって、実績データにおける実績識別子は他の実績レコードとは重ならないユニークな情報であるのに対して、実績データにおけるIDEA識別子やBELCA識別子は他の実績レコードと重複することがある。例えば図では、実績識別子が「AC_00006」~「AC_00008」の実績レコードは、IDEA識別子がいずれも「ID_100003」とされ、BELCA識別子がいずれも「BE_100051」とされている。
【0049】
(IDEAレコード選出手段)
IDEAレコード選出手段120は、その積算レコードにとって適切なIDEAレコード(以下、「適合IDEAレコード」という。)を、IDEA記憶手段170に記憶される「IDEA」から選出する手段である。もちろん積算ファイルを構成する全て(あるいは一部)の積算レコードに対して、それぞれ適合IDEAレコードが選出される。以下、IDEAレコード選出手段120が適合IDEAレコードを選出する概ねの手順について説明する。
【0050】
まずIDEAレコード選出手段120は、積算レコードに含まれる積算テキストデータを実績データ記憶手段160(実績データ)に照会し、その積算テキストデータに類似する実績テキストデータを検出するとともに、検出された実績テキストデータを含む実績レコード(以下、「類似実績レコード」という。)を実績データ記憶手段160から選出する。このとき、1つの実績レコードを類似実績レコードとして選出することもできるし、2以上の実績レコードを類似実績レコードとして選出することもできる。また、その積算レコードの積算単位と実績レコードの実績単位が同一であることを条件として、類似実績レコードを選出する仕様とすることもできる。そして、選出された類似実績レコードに含まれるIDEA識別子をIDEA記憶手段170(IDEA)に照会し、その類似実績レコードのIDEA識別子と同一のIDEA識別子に係るIDEAレコードを「適合IDEAレコード」として選出する。IDEAレコード選出手段120が選出した適合IDEAレコードは、オペレータ操作によって適宜変更し得る仕様とすることもできる。
【0051】
IDEAレコード選出手段120が、適合IDEAレコードを選出するにあたっては、機械学習をはじめ従来用いられている種々の技術を利用することができる。例えば、積算テキストデータと実績テキストデータとの類似の程度を「類似度」で表すとともに、この類似度に応じて適合IDEAレコードを選出することができる。また、類似度を用いた「k近傍法」によって最も多い票(この場合は、類似実績レコードの数)を得たIDEAレコードを適合IDEAレコードとして選出することもできる。類似度を計測するにあたっては、従来用いられている種々の手法を採用することができる。例えば。積算テキストデータと実績テキストデータに基づいて算出される「距離」の値が小さいほど類似していると判断する手法(以下、「距離ベース手法」という。)や、積算テキストデータと実績テキストデータに基づいて算出される値が1に近づくほど類似していると判断する手法(以下、「類似性ベース手法」という。)などが知られている。この距離ベース手法の代表的な例としては、ユークリッド距離を用いた手法や、マンハッタン距離を用いた手法、チェビシェフ距離を用いた手法を挙げることができ、類似性ベース手法の代表的な例としては、コサイン類似度を用いた手法や、ジャッカード係数を用いた手法、ダイス係数を用いた手法を挙げることができる。
【0052】
あるいは、機械学習(例えば、Deep Learningなど)を用いてモデルを学習し、これを利用してIDEAレコードを選出することもできる。この学習データは、ここでの機械学習のため専用のものとして生成することもできるし、実績データを構成する複数の実績レコードを利用する、すなわち実績レコードに含まれる実績テキストデータとIDEA識別子の関連付けを利用して生成することもできる。そして、機械学習によって生成されたモデルと「積算テキストデータ」によって所定の「実績テキストデータ」を選出し、換言すればその「積算テキストデータ」との類似性が高い「実績テキストデータ」を選出し、選出された実績テキストデータを含む実績レコードのIDEAレコード(すなわち、適合IDEAレコード)を選出するわけである。この場合、積算レコードとIDEAレコードを照らし合わせ、同じIDEA識別子を持つときは積算テキストデータと実績テキストデータと類似度が高くなるように、一方、双方のIDEA識別子が異なるときはその類似度が低くなるようにモデルを学習(いわゆる、類似度学習や距離学習)することができる。
【0053】
またIDEAレコード選出手段120は、従来用いられている「k近傍法」を応用した新たな手法(以下、便宜上ここでは「重み付きk近傍法」という。)によって、積算テキストデータに類似する実績テキストデータを検出することもできる。以下、重み付きk近傍法によって類似する実績テキストデータを検出する手順について詳しく説明する。
【0054】
図6は、重み付きk近傍法を用いたIDEAレコード選出手段120の主な構成を示すブロック図であり、図7は、重み付きk近傍法を説明するステップ図である。図6に示すようにこの場合のIDEAレコード選出手段120はベクトル変換手段121と類似度算出手段122、候補レコード選出手段123、グループ分類手段124、個別指標値算出手段125、k近傍法選出手段126などを含んで構成することができる。
【0055】
図6に示すように、まずはベクトル変換手段121が積算テキストデータをベクトル変換した「積算テキストベクトル」を生成するとともに、実績テキストデータをベクトル変換した「実績テキストベクトル」を生成する。このとき、実績データに含まれる複数の実績テキストデータについて実績テキストベクトルが生成される。このベクトル変換に当たっては、従来用いられている種々の技術を利用することができる。またベクトル変換を行う際に、不適切な区切りとならないよう単語辞書テーブルを参照したり、同じような用語を統一する正規化を行ったり、区切られた用語の出現頻度に応じて重みづけしたり(あるいは、除去したり)することもできる。
【0056】
積算テキストベクトルと実績テキストベクトルが得られると、類似度算出手段122がこれらベクトルに基づいて「コサイン類似度」を算出する。このとき、1つの積算テキストベクトルについて、実績データに含まれる実績テキストベクトルごとにコサイン類似度が算出される。このコサイン類似度の算出に当たっても、従来用いられている種々の技術を利用することができる。
【0057】
実績データに含まれる実績テキストベクトルごとにコサイン類似度が算出されると、候補レコード選出手段123がk個(kは自然数)の実績レコードを、コサイン類似度が高い順に選出する。この「k個」の値についてはあらかじめ定めておくとよい。あるいは、選出する数(例えばk個)を制限することなく、コサイン類似度があらかじめ定められた閾値(以下、「類似度閾値」という。)を超えるすべての実績レコードを選出することもできる。さらに、コサイン類似度が類似度閾値を超える実績レコードを、最大k個まで選出することもできる。故にこのケースでは、k個の実績レコードが選出されることもあるし、k個未満の実績レコードが選出されることもある。なおここで選出されたk個の実績レコードは、「暫定類似実績レコード」ということとする。そしてグループ分類手段124が、図7に示すようにk個の暫定類似実績レコードを各グループ(図では、グループAとグループB、グループC)に分類する。具体的には、共通するIDEA識別子を含む暫定類似実績レコードを集合してグループを形成する。例えば、図7のグループAにはIDEA識別子「ID_100001」を含む暫定類似実績レコードが集められ、グループBにはIDEA識別子「ID_100002」を含む暫定類似実績レコードが集められ、グループCにはIDEA識別子「ID_100003」を含む暫定類似実績レコードが集められている。
【0058】
暫定類似実績レコードを各グループに分類すると、個別指標値算出手段125が「個別指標値」を算出する。個別指標値を算出するにあたっては、まず各グループに属する暫定類似実績レコードに係るコサイン類似度のうち最大値を示すものを「最大コサイン類似度」として設定する。次いで図7に示すように、グループごとに「最大コサイン類似度」と「そのグループに属する暫定類似実績レコードの数」を乗じることによって個別指標値を算出する。あるいは個別指標値算出手段125が、グループごとに個別コサイン類似度(グループに属する暫定類似実績レコードごとのコサイン類似度)を総和することによって個別指標値を算出する仕様とすることもできる。いずれにしろ個別指標値は、グループごとに得られ、つまりグループの数だけ得られる。
【0059】
各グループでそれぞれの個別指標値が得られると、k近傍法選出手段126は個別指標値が最大となるグループを選出し、そのグループに対応するIDEA識別子を出力し、さらにそのIDEA識別子に係るIDEAレコードを適合IDEAレコードとして選出する。このように、従来の「k近傍法」では、グループ内に数多くの実績レコードがあるもののそれぞれの類似度が低いときでも、そのグループ係るIDEAレコードを選出することになる。一方、「重み付きk近傍法」によれば、単なる多数決ではなく、類似度(この場合、コサイン類似度)の程度を勘案したうえでIDEA識別子を決定することができ、すなわち適合IDEAレコードを選出することができる。なお、ここでは類似度をコサイン類似度とした例で説明したが、もちろん他の類似性ベース手法や、距離ベース手法などを採用することもできる。
【0060】
(製造負荷量算出手段)
製造負荷量算出手段130は、建築物の製造プロセスに係る環境負荷量(以下、「製造負荷量」という。)を算出する手段である。以下、製造負荷量算出手段130が製造負荷量を算出する手順について説明する。
【0061】
まず製造負荷量算出手段130は、積算ファイルに含まれる積算レコードごとの製造負荷量(以下、「個別製造負荷量」という。)を算出する。もちろん積算ファイルを構成する一部の積算レコードに対して、それぞれ個別製造負荷量が算出される。個別製造負荷量を算出するにあたっては、IDEAレコードに含まれる1又は2種類以上の環境負荷物質(CO2やSOx、クロム、鉄など)ごとの環境負荷原単位(以下、「物質別単位負荷量」という。)に、積算テキストデータに含まれる「積算数量」を乗ずることで算出する。このとき、それぞれ積算レコードには既に適合IDEAレコードが関連付けられており、すなわちその積算レコードには適合IDEAレコードに係る物質別単位負荷量が関連付けられているため、物質別単位負荷量に積算数量を乗ずることができる。具体的には、1又は2種類以上の物質別単位負荷量に積算数量を乗じて環境負荷物質ごとの製造負荷量(以下、「物質別製造負荷量」という。)を算出し、1又は2種類以上の物質別製造負荷量を総和することによって「個別製造負荷量」を求める。そして、積算ファイルを構成する全て(あるいは一部)の積算レコードに係る個別製造負荷量を総和することによって「製造負荷量」を求めるわけである。
【0062】
ところで物質別単位負荷量は、IDEAレコードに含まれるIDEA単位を基準とするものである。一方、積算レコードに含まれる積算数量の単位(つまり、積算単位)と、その積算レコードにおける適合IDEAレコードに含まれるIDEA単位が相違することもある。この場合、実績レコードに含まれる「単位換算値(図5)」を用いて積算数量を換算するとよい。この単位換算値は、積算単位を基準とする積算数量を、IDEA単位を基準とする数量に変換するいわば係数であり、積算数量に単位換算値を乗ずることによって変換後の数量(以下、「換算数量」という。)が得られる。このとき、それぞれ積算レコードには既に類似実績レコードが選出されていることから、その類似実績レコードに含まれる単位換算値に積算数量を乗じて換算数量を求めることができる。そして製造負荷量算出手段130は、物質別単位負荷量に換算数量を乗じて物質別製造負荷量を算出する。
【0063】
換算数量は、積算単位とIDEA単位が相違するときに求める仕様とすることもできる。この場合、製造負荷量算出手段130が、積算レコードに含まれる積算単位と、その積算レコードの適合IDEAレコードに含まれるIDEA単位とを照らし合わせ、積算単位とIDEA単位が異なるときは、実績レコードに含まれる単位換算値を用いて換算数量を求める。あるいは、積算単位とIDEA単位との異同にかかわらず換算数量を求める仕様とすることもできる。この場合、常に実績レコードに含まれる単位換算値を参照することとし、また積算単位とIDEA単位が同一であったときの実績レコードには「単位換算値=1」が記録される。
【0064】
実績レコードに含まれる単位換算値を用いる仕様に代えて、換算値テーブル記憶手段190に記憶される「換算値テーブル」を用いて換算数量を算出する仕様とすることもできる。この換算値テーブルは、積算単位とIDEA単位、換算値との対応を示すテーブル(対応表)である。この場合、製造負荷量算出手段130が、積算レコードに含まれる積算単位と、その積算レコードの適合IDEAレコードに含まれるIDEA単位とを照らし合わせ、積算単位とIDEA単位が異なるときは、換算値テーブル記憶手段190から読み出した換算値テーブルの単位換算値に積算数量を乗ずることによって換算数量を算出する。
【0065】
(BELCAレコード選出手段)
BELCAレコード選出手段140は、その積算レコードにとって適切なBELCAレコード(以下、「適合BELCAレコード」という。)を、BELCA記憶手段180に記憶される「BELCAデータベース」から選出する手段である。以下、BELCAレコード選出手段140が適合BELCAレコードを選出する手順について説明する。
【0066】
まずBELCAレコード選出手段140は、積算レコードに含まれる積算テキストデータを実績データ記憶手段160(実績データ)に照会し、その積算テキストデータに類似する実績テキストデータを検出するとともに、検出された実績テキストデータを含む実績レコード(以下、「類似実績レコード」という。)を実績データ記憶手段160から選出する。このとき、1つの実績レコードを類似実績レコードとして選出することもできるし、2以上の実績レコードを類似実績レコードとして選出することもできる。また、その積算レコードの積算単位と実績レコードの実績単位が同一であることを条件として、類似実績レコードを選出する仕様とすることもできる。そして、選出された類似実績レコードに含まれるBELCA識別子をBELCA記憶手段180(BELCAデータベース)に照会し、その類似実績レコードのBELCA識別子と同一のBELCA識別子に係るBELCAレコードを「適合BELCAレコード」として選出する。BELCAレコード選出手段140が選出した適合BELCAレコードは、オペレータ操作によって適宜変更し得る仕様とすることもできる。
【0067】
BELCAレコード選出手段140が、適合BELCAレコードを選出するにあたっては、IDEAレコード選出手段120と同様の処理を行う。すなわち、機械学習(k近傍法やDeep Learningなど)をはじめ従来用いられている種々の技術を利用したり、重み付きk近傍法を用いたりすることができる。
【0068】
(修繕負荷量算出手段)
修繕負荷量算出手段150は、建築物の修繕プロセスに係る環境負荷量(以下、「修繕負荷量」という。)を算出する手段である。既述したとおり、建築物全体のうち修繕(更新や修復)が必要な部材(個所)もあれば、修繕を必要としない部材もある。つまり、積算ファイルを構成する積算レコード(項目)のうち、修繕負荷量に影響するものもあれば、そうでないものある。したがって修繕負荷量算出手段150は、実績レコードに含まれる「修繕有無情報(図5)」に応じて、その積算レコードに係る環境負荷量(以下、「個別修繕負荷量」という。)を算出する仕様にするとよい。この修繕有無情報は、修繕対象か修繕非対象修かを判断することができる情報であり、繕対象あるいは修繕非対象修を直接的に示す「フラグデータ」のほか、工種(土工事は対象外とするが、防水工事は対象とする、など)や資機材等(タイルは対象とするが、型枠は対象としない、など)のようにいわば間接的な情報とすることもできる。この場合、BELCAレコード選出手段140によって選出された類似実績レコードの修繕有無情報を参照し、その修繕有無情報が「修繕対象」であるときはその積算レコードに係る環境負荷量を算出し、一方、その修繕有無情報が「非対象」であるときはその積算レコードに係る環境負荷量を算出しないこととする。また、修繕有無情報の修繕対象と非対象は、オペレータ操作によって適宜変更し得る仕様とすることもできる。あるいは、積算ファイルを構成する全て(あるいは一部)の積算レコードに対してそれぞれ個別修繕負荷量を算出する仕様とすることもできる。以下、修繕負荷量算出手段150が修繕負荷量を算出する手順について説明する。
【0069】
まず修繕負荷量算出手段150は、製造負荷量算出手段130と同様の処理によって、積算ファイルに含まれる積算テキストデータごとの個別製造負荷量を算出する。すなわち、その積算レコードに含まれる積算テキストデータに基づいて類似実績レコードを選出するとともに、その類似実績レコードに含まれるIDEA識別子に基づいてIDEA識別子レコードを選出したうえで、物質別製造負荷量と換算数量(あるいは、積算数量)を用いて個別製造負荷量を求める。あるいは製造負荷量算出手段130によって既にその積算テキストデータに係る個別製造負荷量が算出されているときは、その個別製造負荷量を読み出すこともできる。次いで、BELCAコードに含まれる「更新周期(図4)」と「修繕率(図4)」を読み出す。このとき、それぞれ積算レコードには既に適合BELCAレコードが関連付けられており、すなわちその積算レコードには適合BELCAコードに係る更新周期と修繕率が関連付けられているため、これらを読み出すことができる。
【0070】
更新周期を読み出すと、次式によって更新回数を求める。
(更新回数)=(耐用年数)÷(更新周期)
なお耐用年数は、あらかじめ定めておくこともできるし、オペレータ操作によって入力することもできる。更新回数が得られると、次式によって「個別更新負荷量」を求める。ここで個別更新負荷量とは、積算テキストデータごとに求められる値であって、建築物の修繕のうち「更新」に係る修繕負荷量である。
(個別更新負荷量)=(個別製造負荷量)×(更新回数)
【0071】
一方、修繕率を読み出すと、次式によって「個別修復負荷量」を求める。ここで個別修復負荷量とは、積算テキストデータごとに求められる値であって、建築物の修繕のうち「修復」に係る修繕負荷量である。
(個別修復負荷量)=(個別製造負荷量)×(修繕率)×(耐用年数)
【0072】
個別更新負荷量と個別修復負荷量が得られると、次式によって更新回数を求める。
(個別修繕負荷量)=(個別更新負荷量)+(個別修復負荷量)
そして、積算ファイルのうち修繕対象とされる積算レコードに係る個別修繕負荷量を総和することによって「修繕負荷量」を求める。
【0073】
(処理の流れ)
以下、図8図9を参照しながら本願発明のLCA評価支援システム100の主な処理について詳しく説明する。なお、図8は本願発明のLCA評価支援システム100が製造負荷量を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、図9は本願発明のLCA評価支援システム100が修繕負荷量を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図である。また図8図9は、中央の列に実行する処理を示し、左列にはその処理に必要な情報を、右列にはその処理から生ずる情報を示している。
【0074】
製造負荷量を算出するにあたっては、まずオペレータが積算ファイル入力手段110を用いて積算ファイルを入力する(図8のStep201)。これによりIDEAレコード選出手段120が、類似実績レコードを選出するとともに(図8のStep202)、適合IDEAレコードを選出する(図8のStep203)。また、類似実績レコードに含まれる単位換算値に積算数量を乗じることによって換算数量を求める(図8のStep204)。そして、それぞれの物質別単位負荷量に換算数量(あるいは、積算数量)を乗じて物質別製造負荷量を算出し、全ての物質別製造負荷量を総和することによって個別製造負荷量を求める(図8のStep205)。積算ファイルを構成する全て(あるいは一部)の積算レコードに係る個別製造負荷量が得られると、これらを総和することによって製造負荷量を算出する(図8のStep206)。
【0075】
修繕負荷量を算出するにあたっては、BELCAレコード選出手段140が、類似実績レコードを選出するとともに(図9のStep207)、適合BELCAレコードを選出する(図9のStep208)。次いで修繕負荷量算出手段150が、積算ファイルのうち修繕対象とされる積算レコードに係る個別更新負荷量を求めるとともに(図9のStep209)、個別修復負荷量を求めたうえで(図9のStep210)、個別修繕負荷量を求める(図9のStep211)。そして、修繕対象とされる全ての積算レコードに係る個別修繕負荷量が得られると、これらを総和することによって修繕負荷量を算出する(図9のStep212)。
【0076】
2.LCA評価支援プログラム
次に本願発明のLCA評価支援プログラムについて、図10を参照しながら詳しく説明する。図10は、本願発明のLCA評価支援プログラムがコンピュータに実行させる処理の流れの一例を示すフロー図である。なお、本願発明のLCA評価支援プログラムは、ここまで説明したLCA評価支援システム100を実行する際に用いられるプログラムである。したがってLCA評価支援システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のLCA評価支援プログラムに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.LCA評価支援システム」で説明したものと同様である。
【0077】
まず積算ファイル取込処理では、オペレータが積算ファイル入力手段110を用いて入力した積算ファイルを取り込む(図10のStep301)。これにより積算ファイルを構成する積算レコードごとに、類似実績レコードを選出し(図10のStep302)、適合IDEAレコードを選出する(図10のStep303)。次いで、換算数量を求めたうえで、それぞれの物質別単位負荷量に換算数量(あるいは、積算数量)を乗じて物質別製造負荷量を算出し、全ての物質別製造負荷量を総和することによって個別製造負荷量を求める(図10のStep304)。積算ファイルを構成する全て(あるいは一部)の積算レコードに係る個別製造負荷量が得られた場合は(図10のStep305のYes)後続の処理に進み、そうでないときは(図10のStep305のNo)積算レコードを変更しながら類似実績レコードの選出(図10のStep302)~個別製造負荷量の算出(図10のStep304)からなる一連の処理を繰り返し実行する。そして、積算ファイルを構成する全ての積算レコード積算ファイルに係る個別製造負荷量が得られると、これらを総和することによって製造負荷量を算出する(図10のStep306)。
【0078】
続いて、修繕負荷量を算出する処理を実行する。修繕負荷量を算出するにあたっては、類似実績レコードを選出するとともに(図10のStep307)、適合BELCAレコードを選出する(図10のStep308)。次いで、適合BELCAレコードに含まれる修繕有無情報を参照して、修繕対象とされる積算レコードか否かの判定を行う(図10のStep309)。その修繕有無情報が「修繕対象」であるときは(図10のStep309のYes)後続の処理に進み、その修繕有無情報が「非対象」であるときは(図10のStep309のNo)積算レコードを変更しながら類似実績レコードの選出(図10のStep307)~適合BELCAレコードの選出(図10のStep308)からなる一連の処理を繰り返し実行する。
【0079】
修繕対象とされる積算レコードについては、個別修繕負荷量を算出する(図10のStep310)。修繕対象とされる全ての積算レコードに係る個別修繕負荷量が得られた場合は(図10のStep311のYes)後続の処理に進み、そうでないときは(図10のStep311のNo)類似実績レコードの選出(図10のStep307)~個別修繕負荷量の算出(図10のStep310)からなる一連の処理を繰り返し実行する。そして、修繕対象とされる全ての積算レコードに係る個別修繕負荷量が得られると、これらを総和することによって修繕負荷量を算出する(図10のStep312)。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本願発明のLCA評価支援システム、及びLCA評価支援プログラムは、建築物のほか、土木構造物や電気設備等に対して有効に実施することができる。本願発明によれば環境影響を正確に把握することができ、延いては今まさに喫緊の課題となっている「地球環境の保全」に寄与することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0081】
100 本願発明のLCA評価支援システム
110 (LCA評価支援システムの)積算ファイル入力手段
120 (LCA評価支援システムの)IDEAレコード選出手段
121 (IDEAレコード選出手段の)ベクトル変換手段
122 (IDEAレコード選出手段の)類似度算出手段
123 (IDEAレコード選出手段の)候補レコード選出手段
124 (IDEAレコード選出手段の)グループ分類手段
125 (IDEAレコード選出手段の)個別指標値算出手段
126 (IDEAレコード選出手段の)k近傍法選出手段
130 (LCA評価支援システムの)製造負荷量算出手段
140 (LCA評価支援システムの)BELCAレコード選出手段
150 (LCA評価支援システムの)修繕負荷量算出手段
160 (LCA評価支援システムの)実績データ記憶手段
170 (LCA評価支援システムの)IDEA記憶手段
180 (LCA評価支援システムの)BELCA記憶手段
190 (LCA評価支援システムの)換算値テーブル記憶手段
図1
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図10