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特開2024-130181不織布および不織布用アニオン変性セルロースの製造方法
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  • 特開-不織布および不織布用アニオン変性セルロースの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130181
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】不織布および不織布用アニオン変性セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20240920BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20240920BHJP
   D04H 1/26 20120101ALI20240920BHJP
【FI】
D04H1/4382
D21H11/20
D04H1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039761
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 敬子
(72)【発明者】
【氏名】山中 実央
【テーマコード(参考)】
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
4L047AA08
4L047AA13
4L047AA14
4L047AA19
4L047AA27
4L047AB02
4L047AB06
4L047AB08
4L047AB09
4L047BA09
4L047BB02
4L047CB07
4L047CC04
4L047CC05
4L055AA02
4L055AC06
4L055AF10
4L055AG06
4L055AG07
4L055AG99
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA16
(57)【要約】
【課題】柔軟性を維持しつつ、吸収性能が向上した不織布を提供すること。さらに、上記不織布用のアニオン変性セルロースの製造方法を提供すること。
【解決手段】未変性のフラッフパルプ、合成繊維、および繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロースを含有する、不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未変性のフラッフパルプ、合成繊維、および繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロースを含有する、
不織布。
【請求項2】
前記アニオン変性セルロースが、リンオキソ酸基導入セルロースである、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記アニオン変性セルロースが、アニオン性基が中和されたアニオン変性セルロースを含む、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
前記アニオン変性セルロースが、アニオン性基がアルカリ金属イオンにより中和されたアニオン変性セルロースを含む、請求項3に記載の不織布。
【請求項5】
前記アニオン変性セルロースを2質量%となるように水に懸濁した溶液のpHが5.5以上である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項6】
前記アニオン変性セルロースのアニオン性基量が、0.3mmol/g以上1.8mmol/g以下である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項7】
前記アニオン変性セルロースの含有量が、未変性のフラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロースの合計量を100質量部としたとき、10質量部以上50質量部以下である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項8】
前記不織布が、さらに、繊維幅が1000nm未満であるアニオン変性微細繊維状セルロースを含有する、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項9】
密度が0.2g/cm以下である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項10】
セルロースを含む繊維原料に、アニオン性基を導入する工程、
アニオン性基が導入された繊維原料に塩基性水溶液を添加して中和する工程、および
中和されたアニオン性基を有するセルロース繊維をフラッフ化する工程を有する、
不織布用アニオン変性セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布および不織布用アニオン変性セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンや使い捨ておむつといった吸収性物品は、尿などの排泄液を吸収体によって吸収する。一般的な吸収性物品においては、液透過性のトップシートと液不透過性のバックシートとの間に、セルロース繊維と高吸水性ポリマー(SAP)などによって構成された吸収体が設けられている。また、液透過性のトップシートの構成材料にもセルロース繊維が用いられている。
【0003】
特許文献1には、高い吸収性能を発揮し得る吸収性材料を提供することを目的として、アニオン性置換基を有するセルロース繊維およびアニオン性置換基の対イオンを含むパルプと、吸水性ポリマーと、を含み、対イオンの少なくとも一部は、水素イオンを除くカチオンである吸収性材料が記載されている。
また、特許文献2には、永久的な脱臭および殺菌加工の施された吸収性機能繊維材料を基材とする衛生用品、つまり洗出不可能で、製造および加工の容易な衛生用品を提供することを目的として、全部または部分的に、脱臭性および殺菌性で吸収性の繊維材料からなる衛生用品において、該繊維材料が塩を形成する陰イオン基によって改質されたセルロース繊維からなりかつ前記陰イオン基を介して繊維に結合された銅を含有することを特徴とする前記衛生用品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-62631号公報
【特許文献2】特開昭60-207661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
未変性のパルプをフラッフ化したフラッフパルプは、吸収性物品に利用されている。アニオン変性セルロースや、それを微細化した微細繊維状セルロースは、未変性パルプに比して保水性が高く、吸収性物品への応用が期待されている。
一方、不織布化するためには、脱水・乾燥する必要があるが、アニオン変性セルロースを加熱脱水すると、柔軟性が損なわれるという問題があり、特許文献1および2の不織布では、柔軟性が十分ではなかった。
本発明は、柔軟性を維持しつつ、吸収性能が向上した不織布を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記不織布用のアニオン変性セルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、未変性のフラッフ化パルプ、合成繊維と共に、繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロースを含有する不織布とすることにより、上記の柔軟性を維持しつつ、吸収性能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0007】
[1] 未変性のフラッフパルプ、合成繊維、および繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロースを含有する、不織布。
[2] 前記アニオン変性セルロースが、リンオキソ酸基導入セルロースである、[1]に記載の不織布。
[3]前記アニオン変性セルロースが、アニオン性基が中和されたアニオン変性セルロースを含む、[1]または[2]に記載の不織布。
[4] 前記アニオン変性セルロースが、アニオン性基がアルカリ金属イオンにより中和されたアニオン変性セルロースを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の不織布。
[5] 前記アニオン変性セルロースを2質量%となるように水に懸濁した溶液のpHが5.5以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の不織布。
[6] 前記アニオン変性セルロースのアニオン性基量が、0.3mmol/g以上1.8mmol/g以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の不織布。
[7] 前記アニオン変性セルロースの含有量が、未変性のフラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロースの合計量を100質量部としたとき、10質量部以上50質量部以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の不織布。
[8] 前記不織布が、さらに、繊維幅が1000nm未満であるアニオン変性微細繊維状セルロースを含有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の不織布。
[9] 密度が0.2g/cm以下である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の不織布。
[10]セルロースを含む繊維原料に、アニオン性基を導入する工程、アニオン性基が導入された繊維原料に塩基性水溶液を添加して中和する工程、および中和されたアニオン性基を有するセルロース繊維をフラッフ化する工程を有する、不織布用アニオン変性セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性を維持しつつ、吸収性能が向上した不織布を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記不織布用のアニオン変性セルロースの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図3図3は、本実施形態の不織布の製造方法において使用可能なウェブ形成装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[不織布]
本実施形態の不織布は、未変性のフラッフパルプ、合成繊維、および繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロースを含有する。
本発明によれば、柔軟性を維持しつつ、吸収性能が向上した不織布を提供することができる。
上記の効果が得られる理由は、以下のように考えられる。
不織布にアニオン変性セルロースを添加したことにより、吸収性能が向上したものと考えられる。また、アニオン変性セルロースとして、フラッフ化されたアニオン変性セルロースを使用することにより、柔軟性が維持されたものと考えられる。
上述したように、アニオン変性セルロースを加熱脱水すると、繊維角質化や凝集により、柔軟性が損なわれるが、本実施形態では、アニオン変性セルロースをフラッフ化して使用することで、柔軟性が維持されたものと考えられる。
本実施形態の不織布は、吸収性能を有し、吸収性材料として使用することが好ましい。
以下、本発明について詳述する。
【0012】
〔未変性のフラッフパルプ〕
本実施形態の不織布は、未変性のフラッフパルプを含有する。
原料となるパルプ繊維としては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、ラグパルプ、リンターパルプ、リネンパルプ、楮・三椏・雁皮パルプなどの非木材パルプ、古紙パルプなどのパルプが例示される。
未変性のフラッフパルプとしては、これらの原料パルプを機械的処理により繊維状に解繊したフラッフパルプを使用する。
これらの中でも、強度に優れた不織布が得られる観点から、原料パルプとして針葉樹パルプを用いたフラッフパルプが好ましい。
【0013】
原料パルプのフラッフ化法は特に限定されず、公知の方法で得られたものを使用できる。一般に、フラッフ化する前の原料パルプの含水率は好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、好ましくは2質量%以上程度である。含水率の低いドライな状態の原料パルプを解繊することにより、繊維間結合しにくく、それ自体が嵩高なフラッフパルプが効率的に得られる。一方、原料パルプの含水率が2質量%以上であると、セルロース繊維の損傷が抑制されるので好ましい。
そして、このようなフラッフパルプを用いて製造した不織布は、内部に隙間が生じ、低密度化し、吸収性能に優れる傾向にある。
【0014】
原料パルプをフラッフ化する際に用いる装置には特に制限はないが、例えば紙おむつ等の吸収性材料の製造時等に使用されている公知の解繊機、機械的処理として摩擦力や剪断力を利用する解繊機等を好適に使用でき、公知のフラッファー、ディスクリファイナー、ブレンダー等が挙げられる。具体的には、歯付きシリンダーを有する解繊装置を好適に使用できる(特許第2521577号公報参照)。
機械的処理に供する原料パルプの形状は特に限定されないが、シート状にしたパルプ(いわゆるパルプシート)やシート状に抄き取ったパルプを巻取ロールのような状態にしたものが、取扱いが容易なため好ましい。
【0015】
未変性のフラッフパルプの密度は、好ましくは1g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以下、さらに好ましくは0.2g/cm以下であり、そして、好ましくは0.01g/cm以上、より好ましくは0.02g/cm以上、さらに好ましくは0.025g/cm以上である。
未変性のフラッフパルプの密度を上記範囲内とすることにより、解繊が適度に施され、吸収性能および柔軟性に優れる不織布が得られるので好ましい。
未変性のフラッフパルプの密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0016】
本実施形態のフラッフパルプに適用可能なパルプ繊維としては、その製法および種類等に特に限定はない。例えば、広葉樹および/または針葉樹のクラフトパルプのような化学パルプ、SGP、RGP、BCTMPおよびCTMP等の機械パルプ、脱墨パルプのような古紙パルプ、並びにケナフ、ジュート、バガス、竹、藁、麻等の非木材パルプであってもよい。また、ECFパルプ、TCFパルプ等の塩素フリーパルプを用いることができる。
上記パルプ繊維の中でも、クラフトパルプ繊維、特に、繊維長の長い針葉樹クラフトパルプ繊維(NBKP)は製造容易性の観点から好ましい。
【0017】
パルプ繊維の平均繊維長は、製造容易性の観点から、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上であり、そして、好ましくは50mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2.5mm以下である。
パルプ繊維の平均繊維幅は、吸収性能向上および柔軟性向上の観点や、製造容易性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、よりさらに好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下、よりさらに好ましくは50μm以下である。
【0018】
不織布における未変性のフラッフパルプの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0019】
〔合成繊維〕
本実施形態の不織布は、合成繊維を含有する。合成繊維は、不織布を構成すると共に、サーマルボンド方式で繊維同士を接着させるバインダーとしての役目を果たす。詳細には、合成繊維は、熱融着性樹脂を含有することが好ましく、かかる熱融着性樹脂の融点以上の温度で加熱処理することにより合成繊維に含まれる熱融着性樹脂が溶融して、バインダーとして働く。
【0020】
合成繊維に使用可能な熱融着性樹脂として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、低融点ポリエステル(例えば低融点ポリエチレンテレフタレート(PET))、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンブタジエン共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。熱融着性樹脂は、1種類に限定されず、2種類以上を併用するものであってもよい。
【0021】
合成繊維には、従来公知の様々な合成繊維を使用することができる。合成繊維の1つの例として、熱融着性樹脂のみからなる繊維が挙げられる。また、合成繊維の別の例として、相対的に融点の低い熱融着性樹脂と相対的に融点の高い熱可塑性樹脂とが複合された複合体から形成されていて、繊維の外側のみまたは外側の一部分が熱溶融可能な熱融着性複合繊維が挙げられる。例えば、芯部分が熱可塑性樹脂であり鞘部分が熱融着性樹脂である芯鞘型繊維や、長手方向に垂直な横断面において片側半分が熱融着性樹脂からなりもう一方の片側半分が熱可塑性樹脂からなるサイドバイサイド型繊維などの複合繊維を使用することができる。具体的には、芯部分がポリエチレンで鞘部分が低融点ポリエチレンの芯鞘型繊維であるポリエチレン/低融点ポリエチレン芯鞘複合繊維、芯部分がポリプロピレンで鞘部分がポリエチレンの芯鞘型繊維であるポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘複合繊維、芯部分がポリエステルで鞘部分がポリエチレンの芯鞘型繊維であるポリエステル/ポリエチレン芯鞘複合繊維、および芯部分がポリエステルで鞘部分が低融点ポリエステルの芯鞘型繊維であるポリエステル/低融点ポリエステル芯鞘複合繊維などを使用することができる。
【0022】
繊維に使用される樹脂の融点と製造工程における加熱処理温度との関係によって、合成繊維は、熱可塑性繊維としても分類され得る。
【0023】
本実施形態において、合成繊維は、好ましくは短繊維の形態で用いられる。短繊維の形態で用いられる場合の合繊繊維の平均繊維長は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上、さらに好ましくは3.0mm以上であり、そして、好ましくは50mm以下、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下である。
また、合成繊維の維度は、好ましくは0.01dtex以上、より好ましくは0.1dtex以上、さらに好ましくは1dtex以上であり、そして、好ましくは100dtex以下、より好ましくは50dtex以下、さらに好ましくは10dtex以下である。
短繊維の形態の合成繊維の平均繊維長および繊度が上記範囲内であると、不織布をエアレイド法によって製造する場合において、ウェブを形成しやすく、均一な分散状態を得やすい。
【0024】
不織布における合成繊維の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0025】
〔繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロース〕
本実施形態の不織布は、繊維幅が1μm以上であるフラッフ化されたアニオン変性セルロース(以下、単に「アニオン変性セルロース」ともいう)を含有する。
アニオン変性セルロースは、アニオン変性されており、さらに、繊維幅が1μm以上であると共にフラッフ化されている。
【0026】
アニオン変性セルロースの繊維幅は、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、よりさらに好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下、よりさらに好ましくは50μm以下である。アニオン変性セルロースの繊維幅が1μm未満であると、柔軟性が低下する傾向がある。
アニオン変性セルロースの繊維幅は、長さ加重平均繊維幅を意味し、実施例に記載の方法により測定される。
【0027】
アニオン変性セルロースはフラッフ化されている。フラッフ化の方法としては、後述するように、パルプ繊維をアニオン変性した後、解繊(リファイニング)する方法や、凍結乾燥する方法が例示される。
上述したように、不織布を作製する際には、アニオン変性セルロースを乾燥する必要があるが、加熱脱水した場合には、柔軟性が損なわれるが、上述のような解繊や凍結乾燥などのような方法を採用することにより、柔軟性が損なわれることを抑制し、柔軟性が維持された不織布を得ることができる。
【0028】
アニオン変性セルロースの含水率は、不織布の製造に好適である観点、製造容易性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
含水率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0029】
フラッフ化されたアニオン変性セルロースの密度は、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、好ましくは1g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以下、さらに好ましくは0.2g/cm以下であり、そして、好ましくは0.01g/cm以上、より好ましくは0.02g/cm以上、さらに好ましくは0.025g/cm以上である。
アニオン変性セルロースの密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
アニオン変性セルロースは、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、I型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、アニオン変性セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
アニオン変性セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、例えば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0031】
本実施形態におけるアニオン変性セルロースは、アニオン性基を有する。アニオン性基を有することにより、吸収性能に優れる不織布を得ることができる。
アニオン性基としては、例えばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)、ザンテート基、ホスホン基、ホスフィン基、カルボキシアルキル基(カルボキシメチル基を含む)等を挙げることができる。スルホン基またはスルホン基に由来する置換基が、エステル結合を介して導入されている場合、同置換基を、硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)ということもある。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、硫黄オキソ酸基および硫黄オキソ酸基に由来する置換基よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、硫黄オキソ酸基および硫黄オキソ酸基に由来する置換基よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。すなわち、アニオン変性セルロースは、リンオキソ酸基導入セルロースであることが特に好ましい。
【0032】
アニオン性基は、中和されていても、中和されていなくてもよいが、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、中和されていることが好ましい。
有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンで中和されていればよく、有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。
無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
これらの中でも、金属イオンにより中和されていることが、製造容易性、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から好ましく、アルカリ金属イオンにより中和されていることがより好ましい。
なお、アニオン性基の全てが中和されていなくてもよく、アニオン変性セルロースが、アニオン性基がアルカリ金属イオンにより中和されたアニオン変性セルロースを含むことが好ましい。
【0033】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。アニオン変性セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
【化1】
【0035】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはOであり、残りはRまたはORである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(1)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0036】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO)、ヒドロキシ基、およびアミノ基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、アニオン変性セルロースの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合やアニオン変性セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0038】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0039】
また、スルホン基(スルホン基またはスルホン基に由来する置換基)は、例えば下記式(2)で表される置換基である。各アニオン変性セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
【化2】
【0041】
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含むアニオン変性セルロースを加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0042】
アニオン変性セルロースに対するアニオン性基の導入量は、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、例えばアニオン変性セルロース1g(質量)あたり、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、さらに好ましくは0.5mmol/g以上、特に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、アニオン変性セルロースに対するアニオン性基の導入量は、例えばアニオン変性セルロース1g(質量)あたり、好ましくは5.2mmol/g以下、より好ましくは3.6mmol/g以下、さらに好ましくは3.0mmol/g以下、よりさらに好ましくは2.00mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下である。アニオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、吸収性能に優れる不織布が得られるので好ましい。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、アニオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときのアニオン変性セルロースの質量を示す。
また、後述するように、不織布が、アニオン変性セルロースをさらに解繊して得られる微細繊維状セルロースをさらに含有する場合には、前記微細繊維状セルロースのアニオン性基の導入量も上記範囲内であることが好ましい。この場合、アニオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
【0043】
アニオン変性セルロースに対するアニオン性基の導入量は、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られたアニオン変性セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
以下に記載の方法によるアニオン性基量の測定は、繊維幅が1μm以上であるアニオン変性セルロースのアニオン性基の量を測定する場合には、アニオン変性セルロースを後述する解繊処理により微細化してから測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有するアニオン変性セルロースに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【0044】
図1は、リンオキソ酸基を有するアニオン変性セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。アニオン変性セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、アニオン変性セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれるアニオン変性セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるアニオン変性セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるアニオン変性セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のアニオン変性セルロースの質量を示すことから、酸型のアニオン変性セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるアニオン変性セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:アニオン変性セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の強酸性基量と弱酸性基量を足した値)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0045】
図2は、カルボキシ基を有するアニオン変性セルロースに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
アニオン変性セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、アニオン変性セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。
図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H)であるときのアニオン変性セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
【0046】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のアニオン変性セルロースの質量であることから、酸型のアニオン変性セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのアニオン変性セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))(mmol/g)を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0047】
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量やカルボキシ基量等の置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低い置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、アニオン変性セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0048】
また、アニオン変性セルロースに対するスルホン基の導入量は、得られたアニオン変性セルロースを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定する。
この硫黄量を、供試したアニオン変性セルロースの絶乾質量で除した値をスルホン基量(単位:mmol/g)とする。
【0049】
アニオン変性セルロースに対するザンテート基量の測定方法は、Bredee法により測定し、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
不織布中のアニオン変性セルロースの含有量は、不織布の吸収性能および柔軟性の観点から、未変性のフラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロースの合計量を100質量部としたとき、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、そして、好ましくは50質量部以下である。
【0051】
アニオン変性セルロースを2質量%となるように水に懸濁した溶液のpHは、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは6.4以上であり、そして、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.0以下である。
上記pHが上記範囲内であると、吸収性能向上の観点および安全性の観点から好ましい。
【0052】
〔アニオン変性セルロースの製造方法〕
本実施形態において、不織布用のアニオン変性セルロースの製造方法は、以下の工程を有することが好ましい。
工程1:セルロースを含む繊維原料に、アニオン性基を導入する工程(アニオン性基導入工程)、
工程2:アニオン性基が導入された繊維原料に塩基性水溶液を添加して中和する工程(中和工程)、および
工程3:中和されたアニオン性基を有するセルロース繊維をフラッフ化する工程(フラッフ化工程)
なお、工程1および工程3は必須の工程であるが、工程2は任意の工程である。本実施形態において、工程1~3をこの順で有することが好ましい。
また、工程1の後、工程2の前に、洗浄工程を有していてもよく、工程2の後、工程3の前にも、洗浄工程を有していてもよい。
以下、それぞれの工程について説明する。
【0053】
<工程1:セルロースを含む繊維原料に、アニオン性基を導入する工程>
(セルロースを含む繊維原料)
アニオン変性セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。
セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、例えば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、例えば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、例えば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きくアニオン変性セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維のアニオン変性セルロースが得られる観点から、例えば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。これらの中でも、クラフトパルプが特に好ましく、不織布に強度を付与する観点から、針葉樹クラフトパルプが最も好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、例えばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。
【0054】
上述のようなアニオン性置換基を導入したアニオン変性セルロースを得るためには、上述したセルロースを含む繊維原料にアニオン性置換基を導入するアニオン性基導入工程を有し、これに加えて、洗浄工程、中和工程をこの順で有していてもよい。洗浄工程の代わりに、または洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。本実施形態では、これらの工程に加えて、フラッフ化工程を有する。
【0055】
(アニオン性基導入工程)
アニオン性置換基導入工程としては、リンオキソ酸基導入工程、カルボキシ基導入工程、スルホン酸基導入工程、ザンテート基導入工程、ホスホン基またはホスフィン基導入工程、およびスルホン基導入工程が例示される。以下、それぞれについて説明する。
-リンオキソ酸基導入工程-
リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、例えば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0056】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、例えば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、例えば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、アニオン変性セルロースに所望の量でアニオン性基を導入することができ、また、収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0057】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述の通り、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、例えば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、例えばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0059】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、熱風乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0060】
本実施形態に係る加熱処理においては、例えば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、例えばスラリーが保持する水分および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等の熱風乾燥装置が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高いアニオン変性セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、例えば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0061】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リンオキソ酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0062】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えばアニオン変性セルロース1g(質量)あたり、好ましくは0.10mmol/g以上、より好ましくは0.20mmol/g以上、さらに好ましくは0.50mmol/g以上、特に好ましくは0.80mmol/g以上である。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えばアニオン変性セルロース1g(質量)あたり、好ましくは5.20mmol/g以下、より好ましくは3.65mmol/g以下、さらに好ましくは3.00mmol/g以下、特に好ましくは2.0mmol/g以下である。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、吸収性能が向上すると共に、柔軟性も維持される傾向にあるので好ましい。
【0063】
-カルボキシ基導入工程-
カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0064】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0065】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、例えばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、例えば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0066】
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、例えばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、アニオン変性セルロース1g(質量)あたり、好ましくは0.10mmol/g以上、より好ましくは0.20mmol/g以上、さらに好ましくは0.50mmol/g以上、特に好ましくは0.90mmol/g以上である。また、好ましくは3.65mmol/g以下、より好ましくは3.00mmol/g以下、さらに好ましくは2.5mmol/g以下、よりさらに好ましくは2.20mmol/g以下、特に好ましくは2.00mmol/g以下である。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、アニオン変性セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0067】
-スルホン基導入工程-
イオン性置換基導入工程としては、スルホン基導入工程を含んでもよい。スルホン基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、スルホン基を有するセルロース繊維(スルホン基導入繊維)を得ることができる。
【0068】
スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、スルホン基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、アミド硫酸などが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩または亜硫酸塩としては、硫酸塩または亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。アミド硫酸としては、スルファミン酸などを使用することができる。スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0069】
スルホン基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、並びに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、スルホン基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、加熱処理温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
【0070】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0071】
セルロース原料に対するスルホン基の導入量は、好ましくは0.05mmol/g以上、より好ましくは0.10mmol/g以上、さらに好ましくは0.20mmol/g以上、よりさらに好ましくは0.40mmol/g以上、特に好ましくは0.50mmol/g以上である。また、セルロース原料に対するスルホン基の導入量は、好ましくは5.00mmol/g以下、より好ましくは3.00mmol/g以下、さらに好ましくは2.00mmol/g以下である。スルホン基の導入量を上記範囲内とすることにより、不織布の吸収性能を向上し、また、柔軟性を維持することができる。
【0072】
-塩素系酸化剤による酸化工程(第二のカルボキシ基導入工程)-
イオン性置換基導入工程としては、塩素系酸化剤による酸化工程を含んでもよい。塩素系酸化剤による酸化工程では、塩素系酸化剤を湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
【0073】
塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸、亜塩素酸塩、塩素酸、塩素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、二酸化塩素などが挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から、塩素系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素であることが好ましい。塩素系酸化剤を添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。
【0074】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤の溶液中濃度は、例えば有効塩素濃度に換算して、好ましくは1質量%以上1,000質量%以下、より好ましくは5質量%以上500質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上100質量%以下である。塩素系酸化剤の繊維原料100質量部に対する添加量は、好ましくは1質量部以上100,000質量部以下、より好ましくは10質量部以上10,000質量部以下、さらに好ましくは100質量部以上5,000質量部以下である。
【0075】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤との反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば、好ましくは1分間以上1,000分間以下、より好ましくは10分間以上500分間以下、さらに好ましくは20分間以上400分間以下である。反応時のpHは、好ましくは5以上15以下、より好ましくは7以上14以下、さらに好ましくは9以上13以下である。また、反応開始時、反応中のpHは塩酸や水酸化ナトリウムを適宜添加しながら一定(例えば、pH11)を保つことが好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0076】
-ザンテート基導入工程(キサントゲン酸エステル化工程)-
アニオン性基導入工程としては、例えばザンテート基導入工程(以下、ザンテート化工程ともいう。)を含んでもよい。ザンテート化工程では、二硫化炭素とアルカリ化合物を、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にザンテート基が導入される。具体的には、二硫化炭素を後述の手法でアルカリセルロース化した繊維原料に対して加え、反応を行う。
【0077】
<<アルカリセルロース化>>
繊維原料へのイオン性置換基導入に際しては、繊維原料が含むセルロースにアルカリ溶液を作用させ、セルロースをアルカリセルロース化することが好ましい。この処理により、セルロースの水酸基の一部がイオン解離し、求核性(反応性)を高めることができる。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。アルカリセルロース化は、イオン性置換基の導入と同時に行ってもよいし、その前段として行ってもよいし、両方のタイミングで行ってもよい。
【0078】
アルカリセルロース化を始める際の溶液温度は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0079】
アルカリ溶液中のアルカリ濃度としては、モル濃度として、好ましくは0.01mol/L以上4mol/L以下、より好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、さらに好ましくは1mol/L以上2.5mol/L以下である。特に、アルカリセルロース化における処理温度が10℃未満である場合は、アルカリ濃度は、好ましくは1mol/L以上2mol/L以下である。
【0080】
アルカリセルロース化の処理時間は、好ましくは1分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは30分間以上である。また、アルカリ処理の時間は、好ましくは6時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。
【0081】
アルカリ溶液の種類、処理温度、濃度、浸漬時間を上述のように調整することで、セルロースの結晶領域へのアルカリ溶液浸透を抑制でき、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、アニオン変性セルロースの収率を高めることができる。
【0082】
アニオン性基導入とアルカリセルロース化を同時に行わない場合、アルカリセルロース化はアニオン性基導入の前段で行われるのが好ましい。この場合、アルカリセルロース化処理で得られたアルカリセルロースは、遠心分離や、濾別などの一般的な脱液方法により、固液分離し、水分を除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるアニオン性基導入工程での、反応効率が向上する。固液分離後のセルロース繊維濃度は、5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましく、15%以上35%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
-ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)-
アニオン性基導入工程としては、ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)を含んでもよい。ホスホアルキル化工程では、必須成分として、反応性基とホスホ基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にホスホン基またはホスフィン基が導入される。
【0084】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、例えばビニルホスホン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物Eはビニルホスホン酸であることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0085】
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述の通りである。
【0086】
反応時の温度は、例えば、好ましくは50℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上250℃以下、さらに好ましくは130℃以上200℃以下である。
【0087】
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、好ましくは1質量部以上100,000質量部以下、より好ましくは2質量部以上10,000質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上1,000質量部以下である。
【0088】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば、好ましくは1分間以上1,000分間以下、より好ましくは10分間以上500分間以下、さらに好ましくは20分間以上400分間以下である。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0089】
-スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)(第二のスルホン基導入工程)-
イオン性置換基導入工程としては、スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)を含んでもよい。スルホアルキル化では、必須成分として、反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物E)と、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にスルホン基が導入される。
【0090】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物Eはビニルスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0091】
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述の通りである。
【0092】
反応時の温度は、例えば、好ましくは50℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上250℃以下、さらに好ましくは130℃以上200℃以下である。
【0093】
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、好ましくは1質量部以上100,000質量部以下、より好ましくは2質量部以上10,000質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上1,000質量部以下である。
【0094】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば、好ましくは1分間以上1,000分間以下、より好ましくは10分間以上500分間以下、さらに好ましくは15分間以上400分間以下である。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0095】
-カルボキシアルキル化工程(第三のカルボキシ基導入工程)-
イオン性置換基導入工程としては、カルボキシアルキル化工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
【0096】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0097】
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述の通りである。
【0098】
反応時の温度は、例えば、好ましくは50℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上250℃以下、さらに好ましくは130℃以上200℃以下である。
【0099】
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、好ましくは1質量部以上100,000質量部以下、より好ましくは2質量部以上10,000質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上1,000質量部以下である。
【0100】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば、好ましくは1分間以上1,000分間以下、より好ましくは3分間以上500分間以下、さらに好ましくは5分間以上400分間以下である。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0101】
(洗浄工程)
本実施形態におけるアニオン変性セルロースの製造方法においては、必要に応じてアニオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば水や有機溶媒によりアニオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0102】
(中和工程)
アニオン変性セルロースを製造する場合、アニオン性基導入工程と、後述するフラッフ化工程との間に、繊維原料に対して中和処理を行う中和工程を有することが好ましい。なお、中和工程は必須の工程ではなく、中和を行わずにフラッフ化工程を行ってもよい。
中和処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、アニオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。また、脱水乾燥したアニオン性基導入繊維にアルカリ水溶液を直接添加してもよい。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液が好ましい。
中和処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5℃以上80℃以下、より好ましくは10℃以上60℃以下である。
中和処理工程において、アニオン性基導入繊維をアルカリ溶液に浸漬する場合には、アニオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5分間以上30分間以下、より好ましくは10分間以上20分間以下である。中和処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、アニオン性基導入繊維をアルカリ溶液に浸漬する場合には、例えばアニオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して、好ましくは100質量%以上100,000質量%以下、より好ましくは1,000質量%以上25,000質量%以下である。
【0103】
中和工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、アニオン性基導入工程の後であって中和工程の前に、アニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。中和工程の後であってフラッフ化工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、中和処理を行ったアニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。
【0104】
(酸処理工程)
アニオン変性セルロースを製造する場合、アニオン性基を導入する工程と、後述するフラッフ化工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、アニオン性基導入工程、酸処理工程、中和工程およびフラッフ化工程をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、例えば、好ましくは0以上4以下、より好ましくは1以上3以下である。酸性液に含まれる酸としては、例えば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5℃以上100℃以下、より好ましくは20℃以上90℃以下である。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5分以上120分以下、より好ましくは10分以上60分以下である。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば繊維原料の絶対乾燥質量に対して、好ましくは100質量%以上100,000質量%以下、より好ましくは1,000質量%以上10,000質量%以下である。
【0105】
(フラッフ化工程)
アニオン変性セルロースを製造する場合、フラッフ化工程を有する。フラッフ化されたアニオン変性セルロースを使用することにより、柔軟性を維持しつつ、吸収性能に優れた不織布を提供することができる。フラッフ化工程後のアニオン変性セルロースの密度が、上述の範囲となるように、フラッフ化を行うことが好ましい。
フラッフ化工程は、アニオン性基導入繊維またはこれを必要に応じて中和処理、酸処理したものを乾燥すると共に、低密度化するものである。フラッフ化工程としては、リファイナー処理する方法や、凍結乾燥する方法が例示される。
リファイナー処理は、公知のリファイナー(叩解機、離解機)を用いて行うことができ、ディスクリファイナーが例示される。
ディスクリファイナーとは、叩解刃のついた円盤(ディスクプレート)が至近距離で向い合い、一方のみまたは相互に逆方向に所定の回転数で回転して、その間を通過するアニオン性基導入繊維に対して加圧叩解の効果と遠心力による連続送り出し効果とを与える装置をいう。ディスクリファイナーのうち、ディスクプレートによって形成される叩解間隙の数が一つのものを、シングルディスクリファイナー(「SDR」と略記することがある)といい、叩解間隙の数が二つのものを、ダブルディスクリファイナーという。シングルディスクリファイナーとしては、例えば、相川鉄工株式会社製のシングルディスクリファイナー、株式会社長谷川鉄工所製のスーパーファイブレーター等が挙げられる。ダブルディスクリファイナーは、2個の固定ディスクとその間で自由に回転するフローティングディスクからなり、例えば、相川鉄工株式会社製のダブルディスクリファイナー、三菱重工業/ベロイト(ジョーンズ)製のダブルディスクリファイナー、石川島産業機械/ブラック・クローソン製のツインハイドラディスク、日立造船(日立造船富岡機械)/エッシャーウイス製のツインディスクリファイナー等が挙げられる。
【0106】
シングルディスクリファイナーは、ダブルディスクリファイナーと比較してクリアランスの調節が行いやすい。従って、メタルタッチのリスクが減るため、よりクリアランスを狭くすることができる。一方、ダブルディスクリファイナーは、シングルディスクリファイナーと比較して処理量を増やすことができる。目的に応じて使用する装置を選択すればよい。
【0107】
ディスクリファイナーの運転条件としては、クリアランスは、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下であり、下限は特に制限しないが、メタルタッチを避けるため、0.3mm以上が好ましい。運転温度としては、好ましくは5℃以上120℃以下である。なお、所望の密度を有するアニオン変性セルロースが得られるように、処理速度、処理時間またはその他条件等は、適宜調整される。
【0108】
アニオン性基導入繊維は、凍結乾燥によりフラッフ化してもよい。凍結乾燥は、当業者に公知の方法を適宜作用すればよく、湿潤状態にある繊維を、液体の凍結店より低い温度にした後、昇華により凍結した液体を除去する。昇華は凍結した繊維を減圧下に置いて、昇華してくる上記を吸引すればよい。
アニオン性基導入繊維が、水を含む場合、凍結温度は0℃未満であり、好ましくは-5℃以下、より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-15℃以下である。下限は特に限定されないが、製造容易性の観点から、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-30℃以上である。
凍結に要する時間は特に限定されず、アニオン性基導入繊維が十分に凍結されればよいが、例えば、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下である。凍結乾燥処理を行う時間も特に限定されず、十分に乾燥が行われ、フラッフ化されていればよいが、好ましくは10日間以下、より好ましくは7日間以下、さらに好ましくは5日間以下、よりさらに好ましくは3日間以下であり、そして、好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上である。
【0109】
〔アニオン変性微細繊維状セルロース〕
本実施形態の不織布は、未変性フラッフパルプ、合成繊維およびアニオン変性セルロースに加えて、繊維幅が1000nm未満であるアニオン変性微細繊維状セルロースを含有することが好ましい。アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維幅は、例えば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
不織布がアニオン変性微細繊維状セルロースを含有する場合、不織布中のアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量は、柔軟性を維持しつつ、吸水性能に優れた不織布を得る観点、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0110】
アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維幅は、1,000nm以下である。アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維幅は、例えば2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、アニオン変性微細繊維状セルロースによる吸水性能の向上という効果をより発現しやすくすることができる。
【0111】
アニオン変性微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば1,000nm以下である。アニオン変性微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1,000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下、さらに好ましくは2nm以上50nm以下、特に好ましくは2nm以上10nm以下である。アニオン変性微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、アニオン変性微細繊維状セルロースによる吸水性能の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、アニオン変性微細繊維状セルロースは、例えば単繊維状のセルロースである。
【0112】
アニオン変性微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.01質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1,000倍、5,000倍、10,000倍あるいは50,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上100本以下の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上100本以下の繊維が交差する。
【0113】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅をTEM画像内に設定したスケールバーと比較して算出する。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0114】
アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、例えば、好ましくは0.1μm以上1,000μm以下、より好ましくは0.1μm以上800μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上600μm以下である。繊維長を上記範囲内とすることにより、アニオン変性微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、アニオン変性微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、アニオン変性微細繊維状セルロースの繊維長は、例えばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0115】
アニオン変性微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、アニオン変性微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、アニオン変性セルロースと同様の方法で確認され、アニオン変性微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合好ましい範囲は、アニオン変性セルロースと同様である。
【0116】
アニオン変性微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、例えば20以上10,000以下であることが好ましく、50以上1,000以下であることがより好ましい。軸比を上記範囲内とすることで、ハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0117】
アニオン変性微細繊維状セルロースは、上述したアニオン変性セルロースの製造方法において、アニオン性基導入工程、必要に応じて洗浄工程、中和工程、酸処理工程にって得られたアニオン性基導入繊維に対して、解繊処理を行うことによって得ることが好ましい。
従って、アニオン変性微細繊維状セルロースが有するアニオン性基やその導入量、アニオン性基導入工程、洗浄工程、中和工程等の好ましい態様は、アニオン変性セルロースにおけるものと同様である。
【0118】
(解繊処理工程)
アニオン性基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、アニオン変性微細繊維状セルロースが得られる。
解繊処理工程においては、例えば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0119】
解繊処理工程においては、例えばアニオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0120】
解繊処理時のアニオン変性微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。
また、リンオキソ酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0121】
上述のような解繊処理により得られたアニオン変性微細繊維状セルロース含有スラリーから乾燥によりアニオン変性微細繊維状セルロースを得ることができる。
この際、上述したフラッフ化パルプと同様の方法によりフラッフ化を行うことができ、前記スラリーを直接凍結乾燥することによって、アニオン変性微細繊維状セルロースを得てもよく、また、前記スラリーから固液分離により固形分を得た後、さらにリファイナーによりフラッフ化を行ってもよく、特に限定されない。これらの中でも、製造容易性の観点から、前記スラリーを直接凍結乾燥することが好ましい。
【0122】
〔その他の成分〕
本実施形態において、不織布は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その用途に応じて、1つまたは複数のその他の成分を配合することができる。
その他の成分としては、例えば:油性基剤、保湿剤、感触向上剤、界面活性剤、高分子、増粘・ゲル化剤、溶媒、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、防腐剤、抗菌剤、キレート剤、pH調整剤、酸、炭酸塩、アルカリ、粉体、無機塩、紫外線吸収剤、美白剤、ビタミン類およびその誘導体類、消炎剤、抗炎症剤、育毛用薬剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、鎮痒剤、角質剥離・溶解剤、制汗剤、清涼剤、収れん剤、酵素、核酸、香料、色素、着色剤、染料、顔料、金属含有化合物、不飽和単量体、多価アルコール、高分子添加剤、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、補助剤、湿潤剤、増粘剤、粘着付与物質、止痒剤、角質軟化剥離剤、油性原料、紫外線遮断剤、防腐殺菌剤、抗酸化物質、液状マトリックス、脂溶性物質、高分子カルボン酸塩、添加剤、金属セッケン、吸水性材料等、が挙げられる。
その他の成分の不織布中での合計含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、よりさらに好ましくは5質量%以下である。
【0123】
〔不織布の製造方法〕
不織布の製造方法としては特に限定されず、乾式抄紙法、湿式抄紙法のいずれを使用してもよいが、吸水性能および柔軟性に優れる不織布を得る観点から、乾式抄紙法が好ましく、より好ましくは、エアレイド法である。
例えば、エアレイド法を採用するウェブ形成装置で、少なくとも未変性フラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロースを含有する吸水性層を作製し、他の層が含まれる場合は、吸水性層に対して他の層を別途積層させる製造方法を用いることができる。エアレイド法を採用するウェブ形成装置で吸水性層を作製する際に、吸水性層となるウェブ層を搬送するためのキャリアシートに他の層を使用し、吸水性層との積層体を形成して不織布を得てもよい。
【0124】
(エアレイド法を採用する不織布の製造方法)
エアレイド法を採用する本実施形態の不織布の製造方法は、解繊工程と混合工程とウェブ形成工程と結着工程とを任意選択的に有する。
【0125】
-解繊工程-
解繊工程は、繊維原料である未変性フラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロース、並びに必要に応じてアニオン変性微細繊維状セルロースを、空気流によって解繊して解繊ショートカットファイバーを得る工程である。
ショートカットファイバーの空気流による解繊方法では、ブロアー等によって空気流を形成し、その空気流に上記の繊維を供給し、空気流の撹拌効果によって解繊する。
解繊方法としては、旋回する空気流で解繊することが好ましい。旋回する空気流を利用した解繊方法によれば、繊維原料を充分に解繊することができ、エアレイド法によってエアレイドウェブを形成する際に、各繊維の分散性をより高めることができる。
旋回する空気流を利用した解繊方法としては、例えば、ブロアーの中に繊維原料を投入してブロアーにて解繊する方法が挙げられる。また、ブロアーによって円筒容器内に、周方向に沿うように空気を送って旋回流を形成し、その旋回流の中に繊維原料を供給し、撹拌して解繊する方法が挙げられる。
空気流の流速は、繊維原料の量に応じて適宜選択されるが、通常は、10m/秒以上150m/秒以下の範囲内である。
なお、本実施形態において、繊維原料の解繊が十分に進行している場合には、解繊工程を省略してもよい。
【0126】
(混合工程)
混合工程は、未変性フラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロース、並びに必要に応じてアニオン変性微細繊維状セルロースを混合してウェブ原料を得る工程である。このとき同時に、任意の他の材料を混合することができる。任意の他の材料の形状は、繊維状でも粒子状でもよい。任意の他の材料の例としては、上述したその他の成分等の必要に応じて添加される助剤等が挙げられる。これらの材料の添加順に特に限定はなく、また、これらの材料は、混合工程よりも後の工程で、例えば散布等によって添加することもできる。
【0127】
混合に際しては、必要応じて解繊した繊維原料の分散性を向上させるために、必要に応じて解繊した繊維原料と他の材料とを撹拌することが好ましい。ただし、繊維原料の破断を防ぐために、機械的剪断力を利用した撹拌ではなく、空気流を用いた撹拌を適用することが好ましい。
【0128】
混合工程は、解繊工程の後でもよいし、解繊工程と同時でもよい。混合工程を解繊工程と同時とする場合には、解繊工程での空気流を利用して、繊維原料と任意の材料を混合する。また、後述する粒子散布工程で繊維原料のウェブ形成ラインにその他の成分を投入し、混合してもよい。
【0129】
(ウェブ形成工程)
ウェブ形成工程は、エアレイド法によってウェブ原料からエアレイドウェブを得る工程である。ここで、エアレイド法とは、空気流を利用して繊維を3次元的にランダムに堆積させてウェブを形成する方法である。なお、ウェブとは、熱融着前の繊維の堆積物である。
本実施形態におけるウェブ形成工程では、例えば、図3に示すウェブ形成装置1を用いる。このウェブ形成装置1は、コンベア10と透気性無端ベルト20とウェブ原料供給手段30と第1のキャリアシート供給手段40と第2のキャリアシート供給手段50とサクションボックス60と備える。
ここで、コンベア10は、複数のローラー11によって構成されている。透気性無端ベルト20は、コンベア10に装着されて回転するようになっている。ウェブ原料供給手段30は、透気性無端ベルト20にウェブ原料を空気流と共に供給するものである。第1のキャリアシート供給手段40は、透気性無端ベルト20に向けて第1のキャリアシート41を供給するものである。第2のキャリアシート供給手段50は、透気性無端ベルト20を通過した第1のキャリアシート41に向けて第2のキャリアシート51を供給するものである。サクションボックス60は、透気性無端ベルト20をその内側から吸引するものである。
【0130】
ウェブ形成装置1においては、ウェブ原料供給手段30は透気性無端ベルト20の上方に設置され、第1のキャリアシート供給手段40は透気性無端ベルト20よりも上流に設置され、第2のキャリアシート供給手段50は透気性無端ベルト20よりも下流に設置されている。
上記ウェブ形成装置1を用いたウェブ形成工程では、各ローラー11を同方向に回転させることによりコンベア10を駆動させて透気性無端ベルト20を回転させる。また、透気性無端ベルト20の上に接触するように、第1のキャリアシート41を第1のキャリアシート供給手段40から繰り出す。
【0131】
次いで、サクションボックス60によって透気性無端ベルト20を吸引しながら、ウェブ原料供給手段30から空気流と共にウェブ原料(混合した未変性フラッフパルプ、合成繊維、およびアニオン変性セルロース、並びに必要に応じてアニオン変性微細繊維状セルロース、その他の成分)を下降させ、透気性無端ベルト20上の第1のキャリアシート41上にウェブ原料を落下、堆積させる。これにより、エアレイドウェブWを形成する。
次いで、エアレイドウェブWの上に、第2のキャリアシート51を第2のキャリアシート供給手段50より供給して、エアレイドウェブ含有積層シートを得る。
【0132】
(結着工程)
結着方式は、水を使わずに結着させる観点から、サーマルボンド方式を使用することが好ましい。サーマルボンド方式による結着工程は、エアレイドウェブを加熱処理して、合成繊維同士を熱融着性樹脂によって結着させる工程である。
エアレイドウェブの加熱処理としては、熱風処理、赤外線照射処理が挙げられ、装置が低コストである点では、熱風処理が好ましい。
熱風処理としては、エアレイドウェブを、周面に通気性を有する回転ドラムを備えたスルーエアードライヤに接触させて熱処理する方法(熱風循環ロータリードラム方式)や、エアレイドウェブを、ボックスタイプドライヤに通し、エアレイドウェブに熱風を通過させることで熱処理する方法(熱風循環コンベアオーブン方式)などが挙げられる。
【0133】
本実施形態のように、エアレイドウェブが第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートに挟まれて積層シートになっている場合には、積層シートのまま熱風処理してもよい。第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートは、熱風処理後にエアレイドウェブから剥離することができる。加熱処理温度は、熱融着性樹脂が溶融する温度とすればよい。
【0134】
結着工程の後には、不織布の厚みおよび密度を微調整する目的で、加熱ロールに通して圧縮処理してもよい。
【0135】
不織布の密度は、吸収性能および柔軟性に優れた不織布とする観点から、好ましくは1g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以下、さらに好ましくは0.3g/cm以下、よりさらに好ましくは0.2g/cm以下であり、そして、好ましくは0.005g/cm以上、より好ましくは0.010g/cm以上、さらに好ましくは0.020g/cm以上、よりさらに好ましくは0.025g/cm以上である。
【0136】
(用途)
本実施形態の不織布は、吸収性物品に好適に使用される。すなわち、本実施形態の吸収性物品は、本実施形態の不織布を有すればよい。
吸収性物品としては、例えば、使い捨ておむつや、乳児用または失禁者用として供される吸収パッド、生理用ナプキンを挙げることができる。吸収性物品において、本実施形態の不織布は吸収体および吸収体の周辺部材を構成する材料として用いられることが好ましい。
また、本実施形態の不織布は、これに限定されず、吸油シート、液体芳香剤揮散体、土木用吸収シート、清掃用タオルなどに使用してもよい。
【実施例0137】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0138】
[リン酸基導入セルロース(リン酸化パルプ)のフラッフ化]
<製造例1>
[リン酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m、シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。
まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸の混合水溶液を添加して、リン酸水素二ナトリウム49質量部、リン酸29質量部、水233質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で25分加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は0.91mmol/gであった。なお、総解離酸量は、1.55mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。
【0139】
[中和処理]
リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。
リン酸化パルプ100質量部(絶乾質量)に5Nの水酸化ナトリウム水溶液5質量部を少しずつ添加した。
【0140】
[フラッフ化]
上記リン酸化パルプをギャップ1mmのリファイナー処理に供して、フラッフ化されたリン酸化パルプを得た。フラッフ化後のリン酸化パルプの含水率は10%、密度は0.074g/cmであった。
【0141】
<製造例2>
中和処理において5Nの水酸化ナトリウム水溶液の代わりに5Nの炭酸ナトリウム水溶液を用いた以外は製造例1と同様に操作を行い、フラッフ化されたリン酸化パルプを得た。フラッフ化後のリン酸化パルプの含水率は10%、密度は0.084g/cmであった。
【0142】
<製造例3>
中和処理を行わなかったこと以外は製造例1と同様に操作を行い、フラッフ化されたリン酸化パルプを得た。フラッフ化後のリン酸化パルプの含水率は5%、密度は0.11g/cmであった。
【0143】
<製造例4>
[リン酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m、シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0144】
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0145】
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0146】
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は1.45mmol/gであった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。
【0147】
[凍結乾燥処理]
得られたリン酸化パルプを-20℃の冷凍庫で3時間凍結させた。その後、凍結乾燥装置(朝日ライフサイエンス株式会社、ラブコンコFZ-6SFPV)で乾燥が完了するまで約2日間凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後のリン酸化パルプの含水率は1%、密度は0.066g/cmであった。
【0148】
<製造例5>
[乾燥処理]
製造例4と同様に、リン酸化処理、洗浄処理、中和処理を行い、リン酸化パルプを得た。次いで、得られたパルプを105℃で1時間送風乾燥機(ヤマト科学株式会社、DKM400)にて乾燥処理を行い、固形分90質量%のパルプを得た。次いで、得られたパルプを製造例1と同様に、リファイナーに供し、フラッフ化パルプを得た。フラッフ化後のリン酸化パルプの含水率は10%、密度は0.11g/cmであった。
【0149】
[リン酸基導入微細繊維状セルロース(リン酸化CNF)のフラッフ化]
<製造例6>
[解繊処理]
製造例4と同様に、リン酸化処理、洗浄処理、中和処理を行い、リン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、リン酸基導入微細繊維状セルロース(リン酸化CNF)分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gであった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。
【0150】
[凍結乾燥処理]
次いで得られたスラリーを-20℃の冷凍庫で3時間凍結させた。その後、凍結乾燥装置(朝日ライフサイエンス株式会社、ラブコンコFZ-6SFPV)で乾燥が完了するまで約2日間凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後のリン酸化CNFの含水率は1%、密度は0.087g/cmであった。
【0151】
[亜リン酸基導入セルロース(亜リン酸化パルプ)のフラッフ化]
<製造例7>
[亜リン酸化処理]
リン酸化処理においてリン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例4と同様に操作(亜リン酸化処理、洗浄処理、中和処理)を行い、亜リン酸化パルプを得た。この亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1,210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される(亜)リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gであった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。
【0152】
得られた亜リン酸化パルプに対し[製造例4]と同様に凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後の亜リン酸化パルプの含水率は1%、密度は0.085g/cmであった。
【0153】
[硫酸基導入セルロース(硫酸化パルプ)のフラッフ化]
<製造例8>
[硫酸化処理]
リン酸二水素アンモニウムの代わりにアミド硫酸38質量部を用いた以外は、製造例4と同様に操作(硫酸化処理、洗浄処理、中和処理)を行い、硫酸化パルプを得た。ただし、熱風乾燥機での加熱時間は、20分間とした。この硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸基に基づく吸収が観察され、パルプに硫酸基が付加されていることが確認された。また、得られた硫酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される硫酸基量は1.47mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。
【0154】
得られた硫酸化パルプに対し[製造例4]と同様に凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後の硫酸化パルプの含水率は1%、密度は0.073g/cmであった。
【0155】
[カルボキシ基導入セルロース(TEMPO酸化パルプ)のフラッフ化]
<製造例9>
[TEMPO酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)と、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを、水10,000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0156】
[洗浄処理]
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5,000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0157】
得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。
【0158】
得られたTEMPO酸化パルプに対し[製造例4]と同様に凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後のTEMPO酸化パルプの含水率は1%、密度は0.089g/cmであった。
【0159】
[ザンテート基導入セルロース(ザンテート化パルプ)のフラッフ化]
<製造例10>
リン酸化処理に代えて下記のザンテート化処理を行った以外は、製造例4と同様に操作を行い、ザンテート化パルプを得た。
【0160】
[ザンテート化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、8.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液2,500質量部を添加し、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心分離(ろ布400メッシュ、3,000rpmで5分間)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。得られたアルカリセルロース10質量部(絶乾質量)に対して、二硫化炭素を3.5質量部添加し、室温で4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行った。
【0161】
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[ザンテート基量の測定]に記載の測定方法で測定されるザンテート基量は1.73mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。
【0162】
得られたザンテート化パルプに対し[製造例4]と同様に凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥後の硫酸化パルプの含水率は1%、密度は0.083g/cmであった。
【0163】
[未変性パルプのフラッフ化]
<製造例11>
針葉樹クラフトパルプを製造例1と同様にフラッフ化処理を行い、未変性のフラッフ化パルプを得た。含水率は7%、密度は0.053g/cmであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。
【0164】
<製造例12>
リン酸化処理において加熱時間を5分にした以外は製造例1と同様に操作を行い、フラッフ化されたリン酸化パルプを得た。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は0.29mmol/gであった。なお、総解離酸量は、0.54mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。
フラッフ化後のリン酸化パルプの含水率は10%、密度は0.11g/cmであった。
【0165】
<製造例13>
[リン酸化パルプの粉砕]
製造例4と同様に、リン酸化処理、洗浄処理、中和処理を行い、リン酸化パルプを得た。次いで、得られたパルプを105℃で1時間送風乾燥機(ヤマト科学株式会社、DKM400)にて乾燥処理を行い、固形分90質量%のパルプを得た。次いで、得られたパルプをラボミルサー(大阪ケミカル株式会社)で粉砕し、フラッフ化していない粉砕パルプを得た。粉砕後のリン酸化パルプの含水率は10%、密度は0.42g/cmであった。
【0166】
[リンオキソ酸基量の測定]
製造例1~3、12についてはリン酸化処理後のパルプに対して、製造例4および製造例6に記載の洗浄処理、中和処理、および解繊処理を行ったのちに下記の操作を行った。製造例4~5、製造例7については、リン酸化処理後、または亜リン酸化処理後のパルプに対して、製造例6に記載の解繊処理を行ったのちに下記の操作を行った。
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量(リン酸基もしくは亜リン酸基量)は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を、イオン交換水で、含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで、樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
【0167】
[硫黄オキソ酸基量の測定]
製造例8に記載の硫酸化処理後のパルプを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定した。
この硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とした。
【0168】
[カルボキシ基量の測定]
製造例9で得られたTEMPO酸化パルプに対して、製造例6に記載の解繊処理を行ったのち、下記の操作を行った。
解繊処理後の微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えた以外は[リンオキソ酸基量の測定]と同様に測定した。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0169】
[ザンテート基量の測定]
ザンテート基量は、Bredee法により測定した。具体的には、製造例10に記載のザンテート化処理後のパルプに対して、製造例6に記載の解繊処理を行ったのち、繊維状セルロース1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製、GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、1.5M酢酸で中和した。(フェノールフタレイン指示薬)中和後、蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸 10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液 10mLを、ホールピペットを使用して添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。チオ硫酸ナトリウムの滴定量、繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出した。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/繊維状セルロースの絶乾質量(g)
【0170】
[繊維幅の測定]
パルプの繊維幅は、カヤーニ繊維長測定器(カヤーニオートメーション株式会社製、FS-200形)を用いて、長さ加重平均繊維幅を測定した。
微細繊維状セルロースの繊維幅は、以下の方法で測定した。微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEOL-2000EX)により観察した。観察対象となる繊維の幅に応じて1,000倍、5,000倍、10,000倍あるいは50,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行った。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上100本以下の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上100本以下の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅をTEM画像内に設定したスケールバーと比較して算出した。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得た。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取った。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取った。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とした。
【0171】
[含水率の測定]
パルプの含水率は、JIS P 8203:2010に準じて測定した。下記の式により、含水率を算出した。
含水率(%)=100-(乾燥後のパルプ質量)/(乾燥前のパルプ質量)×100
【0172】
[密度の測定]
パルプのかさ密度は以下の方法で測定した。パルプを100mLのメスシリンダーにかさ体積が60から100mLとなるように静かに入れ、質量を測定した。下記の式により、密度を算出した。
パルプ密度(g/cm)=測定した重さ/読み取ったかさ体積
【0173】
[pHの測定]
パルプのpHは以下の方法で測定した。製造例1~12に記載のアニオン変性セルロースまたは未変性のセルロースを固形分2質量%となるようにイオン交換水に懸濁した。ディスパーザーにて4,000rpm、5分間撹拌したのち、上清のpHを測定した。
【0174】
【表1-1】
【0175】
【表1-2】
【0176】
[実施例1]
製造例11で得られた未変性フラッフ化パルプ、PP合成繊維(PP/PE 芯鞘繊維、繊度1.7dtex、繊維長5mm)、製造例1で得られたアニオン変性セルロースをそれぞれ55質量部、15質量部、30質量部の比率で配合し、ブレンダー(株式会社エフ・エム・アイ製、CB-15T)で混合した。得られた混合繊維を5g測りとり、5cm×12cmの枠に入れ、上から150℃に熱したアイロンを0.5kPaの力で押し当てて不織布を作製した。
【0177】
[実施例2]
アニオン変性セルロースを製造例2で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0178】
[実施例3]
アニオン変性セルロースを製造例3で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0179】
[実施例4]
アニオン変性セルロースを製造例4で得られたアニオン変性セルロース21質量部および製造例6で得られた微細繊維状セルロース9質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0180】
[実施例5]
アニオン変性セルロースを製造例4で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0181】
[実施例6]
アニオン変性セルロースを製造例5で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0182】
[実施例7]
アニオン変性セルロースを製造例7で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0183】
[実施例8]
アニオン変性セルロースを製造例8で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0184】
[実施例9]
アニオン変性セルロースを製造例9で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0185】
[実施例10]
アニオン変性セルロースを製造例10で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0186】
[実施例11]
製造例11で得られた未変性フラッフ化パルプ、合成繊維(PP/PE 芯鞘繊維、繊度1.7dtex、繊維長5mm)、製造例1で得られたアニオン変性セルロースをそれぞれ35質量部、15質量部、50質量部の比率に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0187】
[実施例12]
アニオン変性セルロースを製造例2で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例11と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0188】
[実施例13]
アニオン変性セルロースを製造例3で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例11と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0189】
[実施例14]
アニオン変性セルロースを製造例12で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0190】
[比較例1]
未変性フラッフ化パルプと合成繊維(PP/PE 芯鞘繊維、繊度1.7dtex、繊維長5mm)をそれぞれ85質量部、15質量部に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0191】
[比較例2]
アニオン変性セルロースを製造例13で得られたアニオン変性セルロースに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不織布を得た。
【0192】
[不織布密度の測定]
不織布の密度は下記の方法で測定した。4cm角に切り出した不織布の厚みをJIS L 1913:2010 A法に記載の方法で測定し、不織布の体積を求めた。下記の式により、密度を算出した。
不織布密度(g/cm)=不織布の重さ(g)/(4cm×4cm×厚み(cm))
【0193】
[不織布柔軟性評価]
不織布の柔軟性は検査員5名により、それぞれ以下の評価基準に基づき5段階評価で判定し、その平均値を柔軟性の指標として算出した。なお、平均値が3点未満の評価を、柔軟性が好ましくないものとした。
5点:フワフワで肌触りがよい
4点:肌触りはよい
3点:普通
2点:触ったときに固さを感じるが不快ではない
1点:触るとゴワゴワで固さや不快感がある
【0194】
[吸水率評価]
4cm角に切り出した上記不織布に対し、水を40g添加し、1分間静置した。その後、吸いきれなかった水の質量を測定することで不織布が吸収した水の質量を求めた。また、以下の式より吸水率を算出した。
吸水率(%)=不織布が吸収した水の質量(g)/不織布の重さ(g)×100
【0195】
【表2-1】
【0196】
【表2-2】
【0197】
実施例に示すように、アニオン変性セルロースを含まない比較例1と比して、吸水率が高い不織布が得られた。また、同じパルプでもフラッフ化していないアニオン変性セルロースを含む比較例2と比して、柔軟性が高く密度が低いほど不織布の吸水率が高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明により、柔軟性を維持しつつ吸収性が向上した不織布を得ることができる。そのため、種々の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0199】
1 ウェブ形成装置
10 コンベア
11 ローラー
20 透気性無端ベルト
30 ウェブ原料供給手段
40 第1のキャリアシート供給手段
41 第1のキャリアシート
50 第2のキャリアシート供給手段
51 第2のキャリアシート
60 サクションボックス
W エアレイドウェブ
図1
図2
図3