(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130193
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039786
(22)【出願日】2023-03-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】515115688
【氏名又は名称】株式会社コエスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】森永 博
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB20
3E172BA01
3E172BB04
3E172BC06
3E172DA41
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】六フッ化硫黄ガスを大気中へ排出せずに、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法を提供する。
【解決手段】六フッ化硫黄ガスの貯留構造は、地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造である。この貯留構造は、六フッ化硫黄ガスを充填したボンベと、地下に存在すると共にボンベの周囲に存在し、六フッ化硫黄を吸着する多孔質材と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造であって、
六フッ化硫黄ガスを充填したボンベと、
地下に存在すると共に前記ボンベの周囲に存在し、六フッ化硫黄を吸着する多孔質材と、を備えた
ことを特徴とする六フッ化硫黄ガスの貯留構造。
【請求項2】
前記ボンベを封入した密閉ケースを更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留構造。
【請求項3】
前記密閉ケースの内部にドライ窒素が充填されたことを特徴とする請求項2に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留構造。
【請求項4】
前記密閉ケースに、その内部の六フッ化硫黄ガスを検知するガスセンサを更に備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留構造。
【請求項5】
前記多孔質材が、大谷石であることを特徴とする請求項1に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留構造。
【請求項6】
地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留方法であって、
六フッ化硫黄ガスをボンベに充填する充填工程と、
前記充填工程の後に実行され、前記ボンベを六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間に配置する配置工程と、を含む
ことを特徴とする六フッ化硫黄ガスの貯留方法。
【請求項7】
前記充填工程の後で且つ前記配置工程の前に実行され、前記ボンベを密閉ケースに封入する封入工程を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留方法。
【請求項8】
前記封入工程において、前記密閉ケースの内部にドライ窒素を充填することを特徴とする請求項7に記載の六フッ化硫黄ガスの貯留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法に係り、さらに詳細には、六フッ化硫黄ガスを大気中へ排出せずに、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素ガスや六フッ化硫黄ガスなどの温室効果ガスは、地球温暖化への影響が大きいため、大気中への排出を減らすことが求められている。六フッ化硫黄ガスは、その排出量が二酸化炭素ガスの排出量よりも少ないものの、その温暖化効果係数が二酸化炭素の温暖化効果係数の22,800倍と非常に大きいため、大気中への漏えいや放出が厳しく規制されている(地球温暖化防止法第2条参照)。
【0003】
二酸化炭素の排出量を抑制できる技術として、二酸化炭素の回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage(CCS))が注目されている。CCSの一例として、炭酸ガスを溶媒に溶解させた状態で海底地盤中の帯水層に圧入し、貯留・隔離するための炭酸ガスの地中貯留システムが提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
一方で、六フッ化硫黄ガスは、回収された後に再利用されることが多かったため、恒久的に保管することが考えられていなかった。これに対して、本出願人は、ボンベにおいて六フッ化硫黄ガスを恒久的に保管するための密閉用キャップを提案している(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-274047号公報
【特許文献2】実用新案登録第3237687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたCCSのように、大量の六フッ化硫黄ガスを、安全、且つ、恒久的に貯留するための技術開発は何らなされていなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、六フッ化硫黄ガスを大気中へ排出せずに、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、六フッ化硫黄ガスが充填されたボンベを六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間に配置することにより、前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の六フッ化硫黄ガスの貯留構造は、地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造である。
この貯留構造は、六フッ化硫黄ガスを充填したボンベと、地下に存在すると共にボンベの周囲に存在し、六フッ化硫黄を吸着する多孔質材と、を備える。
【0010】
また、本発明の六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留方法である。
この貯留方法は、六フッ化硫黄ガスをボンベに充填する充填工程と、充填工程の後に実行される、ボンベを六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間に配置する配置工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、六フッ化硫黄ガスが充填されたボンベを六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間に配置することとしたため、六フッ化硫黄ガスを大気中へ排出せずに、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の六フッ化硫黄ガスの貯留構造の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示した多孔質材が六フッ化硫黄を吸着した状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図1に示した密閉ケースを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の六フッ化硫黄ガスの貯留構造及び貯留方法について詳細に説明する。
【0014】
図1(A)及び(B)は、六フッ化硫黄ガスが充填されたボンベが配置される六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間を模式的に示す縦断面図及び横断面図である。また、
図2は、
図1に示した多孔質材が六フッ化硫黄(SF
6)を吸着した状態を模式的に示す断面図である。さらに、
図3は、
図1に示した密閉ケースを模式的に示す断面図である。
【0015】
図1~
図3に示すように、本実施形態の六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、六フッ化硫黄ガスを充填したボンベ10と、地下に存在すると共にボンベ10(図示例ではボンベ10を封入した密閉ケース20)の周囲に存在し、六フッ化硫黄を吸着する多孔質材30とを備えている。
【0016】
本実施形態の六フッ化硫黄ガスの貯留構造1によれば、上述したボンベ10と多孔質材30とを備えているので、ボンベ10の弁機構等が破損して仮にボンベ10から六フッ化硫黄ガスが漏れても、周囲の多孔質材30により六フッ化硫黄が吸着される。そのため、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。
【0017】
ここで、上述した各構成要素の仕様や材質等について詳細に説明する。
【0018】
ボンベ10は、例えば、特許文献2に開示された鋼鉄製の密閉用キャップを有する鋼鉄製のボンベであることが好適である。
【0019】
多孔質材30は、例えば、採石跡の地下空間USにおける床面、周囲壁(
図1(B)における右側の符号30参照)や残柱(
図1(B)における左側の符号30参照)に存在する。また、多孔質材30は、例えば、乾燥剤、軽石、スポンジ、ゼオライト鉱石のような多数の微細な空隙を有する岩石であることが好ましい。このような岩石としては、大谷石や十和田石を好適例として挙げることができる。多孔質岩石層の多孔質材30は、SF
6を吸着することができ、SF
6ガスを保持することもできる(
図2参照)。特に、六フッ化硫黄ガスは、空気を1としたときの比重が5.11であって空気より重く、さらにその粘度が高い。そのため、多孔質材30に吸着された六フッ化硫黄は、多孔質材30から脱離、移動し難く、地震等による地殻変動が生じても大気中に排出され難い。また、風の影響がない地下空間においては、六フッ化硫黄は床側に溜まりやすい。六フッ化硫黄の吸着量は、例えば、多孔質岩(大谷石等)の粒度、浸透深さ、経過年数によって異なる。粒度、浸透深さ、経過年数が増すにしたがって六フッ化硫黄の吸着量は増加する。床面下に1m
3の多孔質岩(大谷石等)があると仮定した場合、六フッ化硫黄の吸着可能量は1年間当たり、約2kg/m
3である。また、このような地下貯留空間の温度は、通年平均で-1℃~12℃と安定しており、六フッ化硫黄、密閉用キャップ付きボンベ、後述の密閉ケースにおける温度による膨張や金属疲労等が殆ど生じない。
【0020】
また、六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述したボンベ10を封入した密閉ケース20を更に備えていることが好ましい。このような密閉ケース20としては、例えば、機械加工、溶接などを利用した鋼鉄製の箱型やドラム型のものを用いることが好ましい。このような六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述した密閉ケース20を更に備えているので、ボンベ10の弁機構等が仮に破損してボンベ10から六フッ化硫黄ガスが漏れても、多孔質材30で吸着するより前の段階で密閉ケース20の内部20aに六フッ化硫黄ガスを留めることができる。そのため、より確実に、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。
【0021】
また、ボンベの体積に対する密閉ケースの内部容積の比が、1.1以上1.5以下であることが好ましい。上述の比が1.1以上の場合には、密閉ケース20の内部20aに六フッ化硫黄ガスを留めやすく、また、ボンベを密閉ケースに封入しやすい。一方、上述の比が1.5以下の場合には、ボンベの破損に繋がる可能性がある密閉ケース20の内部20aでのボンベの移動が抑制されやすい。
【0022】
さらに、六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述した密閉ケース20の内部20aにドライ窒素が充填されていることが好ましい。このドライ窒素は、例えば、ドライ窒素充填口21から充填すればよい(
図3参照)。このような六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述した密閉ケース20の内部20aにドライ窒素が充填されているので、ボンベ10の弁機構等の破損につながる可能性がある腐食を抑制することができる。そのため、より確実に、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。
【0023】
さらに、六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述した密閉ケース20に、その内部20aの六フッ化硫黄ガスを検知するガスセンサ(図示せず)を備えていることが好ましい。このガスセンサとしては、例えば、センサー検知範囲が1~1500ppmVのものを用いることが好ましい。このガスセンサは、例えば、ドライ窒素充填口21を兼用して取り付けることができる(
図3参照)。このような六フッ化硫黄ガスの貯留構造1は、上述のように密閉ケース20にガスセンサを備えているので、ボンベ10から密閉ケース20の内部20aへの六フッ化硫黄ガスの微量な漏れを検知することができる。
【0024】
次に、上述した六フッ化硫黄ガスの貯留構造を構築する方法の一実施形態であって、地下に六フッ化硫黄ガスを貯留するための六フッ化硫黄ガスの貯留方法の一実施形態を説明する。
【0025】
本実施形態の六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、六フッ化硫黄ガスをボンベに充填する充填工程と、充填工程の後に実行され、ボンベを六フッ化硫黄を吸着する多孔質材が存在する地下空間に配置する配置工程と、を含んでいる。
【0026】
本実施形態の六フッ化硫黄ガスの貯留方法によれば、上述した充填工程と配置工程を含んでいるので、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。また、このような六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、既に特定地域に多数存在する多孔質岩石層(多孔質材)の採掘跡である地下空間を利用するので、CCSのような大きな地上施設や地中への強制圧入工程を必要とせず、低コストであるという利点もある。さらに、このような六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、上述した地域的な特徴を活かして、世界的な問題である地球温暖化の抑制に寄与する六フッ化硫黄の不使用化や六フッ化硫黄の代替化を促進することができるという利点もある。
【0027】
充填工程においては、六フッ化硫黄ガスをボンベに充填する。密閉用キャップを利用する場合には、ボンベ本体にキャップをねじ込み溶接加工で一体化すればよい。
【0028】
配置工程においては、ボンベ(又は密閉ケースに封入されたボンベ)を多孔質岩石層の多孔質材の採掘跡である地下空間に配置する。その際、立坑等から搬入する。ボンベの配置にはフォークリフトやクレーン車等が利用できる。
【0029】
また、六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、充填工程の後で且つ配置工程の前に実行され、ボンベを密閉ケースに封入する封入工程を更に含んでいることが好ましい。このような六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、上述した理由により、より確実に、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。さらに、このような六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、既に特定地域に多数存在する多孔質岩石層(多孔質材)の採掘跡に、ボンベを封入した強靱な密閉ケースを配置するので、配置された密閉ケースによって表層地盤を支えることも可能である。これによって、採掘跡で発生する陥没を抑制でき、地域の安全や環境保全に寄与できる。
【0030】
さらに、六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、封入工程において、密閉ケースの内部にドライ窒素を充填することが好ましい。また、その際に密閉ケースにガスセンサを設けることが好ましい。このような六フッ化硫黄ガスの貯留方法は、上述した理由により、より確実に、大量の六フッ化硫黄ガスを安全、且つ、恒久的に地下に貯留できる。
【0031】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 六フッ化硫黄ガスの貯留構造
10 ボンベ
20 密閉ケース
20a 内部
21 ドライ窒素充填口
30 多孔質材(残柱又は周囲壁)
US 地下空間
VS 立坑
A 横坑