IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ Rehabilitation3.0株式会社の特許一覧

特開2024-130199バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム
<>
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図1
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図2
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図3
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図4
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図5
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図6
  • 特開-バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130199
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】バイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/117 20160101AFI20240920BHJP
【FI】
A61B5/117 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039795
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】520057531
【氏名又は名称】Rehabilitation3.0株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【弁理士】
【氏名又は名称】寒川 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100224915
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 茉友
(74)【代理人】
【識別番号】100229116
【弁理士】
【氏名又は名称】日笠 竜斗
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩和
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA07
4C038VB01
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】バイタルサインのデータから被測定者の識別を可能にするバイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラムを提供する。
【解決手段】バイタルサインを測定する測定装置1と、測定されたバイタルサインのデータを処理するデータ処理装置2とで構成される。データ処理装置2は、入力される1または2以上のバイタルサインのデータから、対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて、対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得し、取得した特徴量から被測定者の識別に用いる照合用データを生成する。そして、照合用データの特徴量と同種の新規データの入力に対して、判定手段24が、照合用データを用いて入力された新規データの被測定者を判定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置と、
前記測定装置で測定されたバイタルサインのデータを処理するデータ処理装置とからなり、
前記データ処理装置は、
前記測定装置で測定された対象者のバイタルサインのデータを入力する入力手段と、
前記入力手段に入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、前記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
前記特徴量取得手段で取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成手段と、
前記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを前記照合用データと照合して被測定者を判定する判定手段と、を備えた
ことを特徴とするバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項2】
前記バイタルサインとして、心拍数、脈拍、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度、体温、発汗量のうちの少なくとも1つが用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項3】
前記特徴量は、前記バイタルサインのデータを加工した加工済みデータであることを特徴とする請求項2に記載の被測定者判定システム。
【請求項4】
前記加工済みデータは、所定期間内の平均値、標準偏差、最高値、最低値、中央値、または、これらの値を基に演算された演算値のうちの少なくとも1つを含んでいる
ことを特徴とする請求項3に記載の被測定者判定システム。
【請求項5】
前記照合用データ生成手段は、特徴量取得手段で取得した特徴量を教師データとして、機械学習により、対象者ごとのバイタルサインの特徴をあらかじめ学習し、学習済みモデルを生成し、
前記判定手段は、前記教師データの特徴量と同種の新規データの入力に対して、前記学習済みモデルに基づいて、入力された新規データの被測定者を判定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項6】
前記特徴量取得手段は、継続的に入力されるバイタルサインのデータから所定周期で新たな特徴量を取得する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項7】
前記特徴量は、所定期間の平均心拍数、所定期間の心拍数の標準偏差、所定期間のうちの最高心拍数、所定期間のうちの最低心拍数、所定期間のうちの中央値、所定期間の平均心拍数-標準偏差、所定期間の平均心拍数+標準偏差、所定時間ごとの平均心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの心拍数の標準偏差の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最高心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最低心拍数の所定期間分の中央値のうちの少なくとも1つを含んでいる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項8】
前記測定装置は、対象者の心拍数を測定可能なウェアラブルデバイスで構成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項9】
前記測定装置は、対象者の心拍数を測定可能な非接触式の体動センサで構成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項10】
前記入力手段は、ネットワークを介して前記測定装置から心拍数に関するデータを取得する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイタルサインの被測定者判定システム。
【請求項11】
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置から入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、前記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成ステップと、
前記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを前記照合用データと照合して前記新規データの被測定者を判定する判定テップと、を備えた
ことを特徴とするバイタルサインの被測定者判定方法。
【請求項12】
バイタルサインの新規データの被測定者をコンピュータに判定させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置から入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、前記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成ステップと、
前記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを前記照合用データと照合して前記新規データの被測定者を判定する判定ステップと、を実行させる
ことを特徴とするバイタルサインの被測定者判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はバイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラムに関し、より詳細には、入力されたバイタルサインのデータの被測定者を識別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の健康状態の把握に役立つ各種の生命兆候(以下、「バイタルサイン」という)を手軽に測定できる測定装置が提案されている。たとえば、手首や指など身体に装着して、対象者の脈拍、心拍数、血圧、血中酸素飽和度、体温、発汗量、体動などを測定するいわゆる装着型の測定装置や、布団やマットの下に配置して、臥床する対象者の脈拍、心拍数、呼吸数、体動などを測定する据置型の測定装置などが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
この種の測定装置は、バイタルサインを手軽に測定できる一方で、測定結果を電子データとして取り出すことができることから、データの保存や加工が容易であり、データの分析や解析に適している。そのため、個人による健康状態の把握にとどまらず、病院や介護施設などでの患者や被介護者の経過観察に用いられるなど、近年広く普及しつつある。なかでも装着型の測定装置は、昨今の健康意識の高まりなどとも相まって、情報端末装置としても機能するスマートウォッチタイプのものが急速に普及しており、個人で所有する測定装置が従来に比べて身近な存在となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-137110号公報
【特許文献2】特開2016-87355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バイタルサインのデータを使って健康状態の把握や経過観察を行う場合、分析や解析を行うバイタルサインのデータが誰のデータであるかが重要であるが、その確認は、バイタルサインのデータに含まれる測定装置のシリアル番号などを使い、どの測定装置で測定されたデータであるかを特定するにとどまっている。そのため、たとえば、特定の対象者のバイタルサインの測定に使用している測定装置を使って、当該対象者以外の第三者がバイタルサインを測定した場合、新たに測定された第三者のバイタルサインのデータが特定の対象者のバイタルサインのデータとして取り扱われるおそれがある。つまり、測定されたバイタルサインのデータが誰のデータであるのかについての検証はまったく行われていなかった。なお、このようなデータの取り違えは、偶発的に起きることもあれば意図的に起こされる場合もあり、データの取り違えリスクは常に存在していた。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、バイタルサインのデータから被測定者の識別を可能にするバイタルサインの被測定者判定システム、被測定者判定方法および被測定者判定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムは、
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置と、
上記測定装置で測定されたバイタルサインのデータを処理するデータ処理装置とからなり、
上記データ処理装置は、
上記測定装置で測定された対象者のバイタルサインのデータを入力する入力手段と、
上記入力手段に入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、上記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
上記特徴量取得手段で取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成手段と、
上記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを上記照合用データと照合して被測定者を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
そして、その好適な実施態様として、以下の構成を備えている。
(1)上記バイタルサインとして、心拍数、脈拍、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度、体温、発汗量のうちの少なくとも1つが用いられることを特徴とする。
【0009】
(2)上記特徴量は、上記バイタルサインのデータを加工した加工済みデータであることを特徴とする。
【0010】
(3)上記加工済みデータは、所定期間内の平均値、標準偏差、最高値、最低値、中央値、または、これらの値を基に演算された演算値のうちの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする。
【0011】
(4)上記照合用データ生成手段は、特徴量取得手段で取得した特徴量を教師データとして、機械学習により、対象者ごとのバイタルサインの特徴をあらかじめ学習し、学習済みモデルを生成し、上記判定手段は、上記教師データの特徴量と同種の新規データの入力に対して、上記学習済みモデルに基づいて、入力された新規データの被測定者を判定することを特徴とする。
【0012】
(5)上記特徴量取得手段は、継続的に入力されるバイタルサインのデータから所定周期で新たな特徴量を取得することを特徴とする。
【0013】
(6)上記特徴量は、所定期間の平均心拍数、所定期間の心拍数の標準偏差、所定期間のうちの最高心拍数、所定期間のうちの最低心拍数、所定期間のうちの中央値、所定期間の平均心拍数-標準偏差、所定期間の平均心拍数+標準偏差、所定時間ごとの平均心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの心拍数の標準偏差の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最高心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最低心拍数の所定期間分の中央値のうちの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする。
【0014】
(7)上記測定装置は、対象者の心拍数を測定可能なウェアラブルデバイスで構成されていることを特徴とする。
【0015】
(8)上記測定装置は、対象者の心拍数を測定可能な非接触式の体動センサで構成されていることを特徴とする。
【0016】
(9)上記入力手段は、ネットワークを介して上記測定装置から心拍数に関するデータを取得することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定方法は、
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置から入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、上記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成ステップと、
上記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを上記照合用データと照合して上記新規データの被測定者を判定する判定ステップと、を備えた
ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定プログラムは、
バイタルサインの新規データの被測定者をコンピュータに判定させるプログラムであって、
上記コンピュータに、
対象者のバイタルサインを継続的に測定する測定装置から入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、上記対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成ステップと、
上記特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを上記照合用データと照合して上記新規データの被測定者を判定する判定ステップと、を実行させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量が取得され、取得した特徴量から被測定者を判定するための照合用データが生成される。そして、生成した照合用データと同種の新規データが入力されると、当該新規データを照合用データと照合して新規データの被測定者を判定する。そのため、入力された新規データが、照合用データが存在する対象者のバイタルサインと評価できるか否か、さらには、いずれの対象者のバイタルサインと評価できるかを判定でき、新規データの被測定者を識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムのハードウェア構成の一例を示したシステム構成図である。
図2】同被測定者判定システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】同被測定者判定システムのハードウェア構成の他の一例を示したシステム構成図である。
図4】同被測定者判定システムのハードウェア構成の他の一例を示したシステム構成図である。
図5】同被測定者判定システムの第1の実施例において新規データの判定処理に用いた判定基準の一例を示す説明図である。
図6】同被測定者判定システムの第2の実施例において新規データの判定処理に用いた被験者の睡眠時における脈拍数の推移の一例を示しており、図6(a)は第1日目の脈拍数の推移を、図6(b)は第2日目の脈拍数の推移をそれぞれ示している。
図7図6に示す脈拍数の推移のうち特徴量とする脈拍数の変動を拡大して示しており、図7(a)は寝入りばなの脈拍数の変動を、図7(b)は睡眠後に出現する周期性のある脈拍数の変動をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に説明する実施形態はあくまでも例示であり、その趣旨を逸脱しない範囲で改変して実施することができる。なお、本明細書では、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一の符合を付して重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムのハードウェア構成の一例を示している。本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムは、入力されたバイタルサインのデータがあらかじめシステムに登録されている対象者のバイタルサインのデータであるか否かを判定するシステムであって、測定装置1と、データ処理装置2とを主要部として備えている。
【0023】
測定装置1は、対象者Tのバイタルサインを測定する装置で構成される。ここで、バイタルサインとは、人の健康状態の把握に役立つ各種の生命兆候を意味しており、たとえば、脈拍、心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度、体温、発汗量、体動などが例示される。本実施形態では、バイタルサインとして心拍数を用いており、測定装置1には心拍数の測定が可能な装置が用いられる。
【0024】
測定装置1は、接触式、非接触式のいずれの装置で構成されていてもよい。接触式の測定装置1としては、身体に装着するタイプの測定装置(ウェアラブルデバイス)が例示される。たとえば、いわゆるスマートウォッチのように手首に装着するタイプのものや、スマートリングのように手指に装着するタイプのもの、さらには、センサを内蔵したシートで構成された身体に貼付するタイプのものなどが例示される。一方、非接触式の測定装置1としては、マイクロ波や赤外線を利用して心拍数を測定する装置や、圧力センサを利用して心拍数を測定する装置が例示される。
【0025】
図1は、測定装置1として、マットの下に配置して非接触で心拍数を測定する体動センサを用いた場合を示している。この種の体動センサには圧力センサが備えられており、圧力センサによってマット上に臥床する対象者Tの心拍数や体動の有無などが測定されるようになっている。
【0026】
また、測定装置1には、対象者Tのバイタルサインを継続的に測定する装置が用いられる。本実施形態では、測定装置1として、対象者Tの心拍数を一定周期(たとえば、数秒乃至数十秒周期)で継続的に測定する装置が用いられている。
【0027】
なお、測定装置1は、図2に示すように、少なくとも、対象者Tの心拍数を測定する測定部11と、測定された対象者Tの心拍数のデータを外部に出力するインターフェース部12とを有している。測定部11は、測定した心拍数をデジタルデータに変換する。インターフェース部12は、心拍数のデータを有線または無線により外部に出力する。図1ではインターフェース部12が無線を使って心拍数のデータを送信する場合を示している。無線を用いる場合、インターフェース部12としては、たとえば、Bluetooth(登録商標)のような近距離無線通信の通信装置が用いられるほか、無線LAN(Local area network)に対応した通信装置が用いられる。そして、一定周期で測定される心拍数や体動などデータは、測定の都度または所定のタイミング(たとえば、数分周期)で測定装置1から継続的に出力される。
【0028】
データ処理装置2は、測定装置1で測定されるバイタルサインのデータの分析等を行う装置であって、パーソナルコンピュータやサーバコンピュータなどの電子計算機で構成される。図1は、データ処理装置2として、表示部201、操作部202、入出力インターフェース部203、記憶部204、演算部205等を備えたノート型のパーソナルコンピュータを用いた場合を示している。なお、図示例では、データ処理装置2には後述する判定結果などを印刷するためのプリンタ3が有線接続されている。
【0029】
このデータ処理装置2は、機能構成として、対象者のバイタルサインのデータを入力する入力手段21と、入力手段21に入力される1または2以上の対象者のバイタルサインのデータから、対象者ごとに、安静時のバイタルサインのデータを用いて対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得する特徴量取得手段22と、特徴量取得手段22で取得した特徴量から判定用の照合用データを生成する照合用データ生成手段23と、特徴量と同種の新規データに対して、当該新規データを上記照合用データと照合して被測定者を判定する判定手段24と、を主要部として備えている。
【0030】
入力手段21は、測定装置1で測定されたバイタルサインのデータ、すなわち、本実施形態では心拍数や体動などのデータを入力するためのインターフェース(入出力インターフェース部203)で構成される。具体的には、入力手段21は、心拍数のデータが近距離無線通信を介して入力される場合には近距離無線通信用の通信装置で構成され、無線LANを介して入力される場合には無線LANに対応した通信装置で構成されるなど、心拍数等のデータが入力される態様に応じた有線または無線のインターフェースで構成される。そして、測定装置1から継続的に送信されるバイタルサインのデータは、入力手段21によって逐次受信され、バイタルサインの被測定者である対象者Tごとにバイタルサインのデータが記憶部204に記憶される。
【0031】
特徴量取得手段22は、記憶部204に記憶されたバイタルサインのデータから対象者Tの識別に用いる1または複数の特徴量を抽出する処理を行う。具体的には、記憶部204から対象者Tごとにバイタルサインのデータを読み出して、それぞれ対象者Tごとに特徴量の抽出を行う。この処理は、電子計算機にインストールされたプログラムに従って電子計算機の演算部によって実行される。
【0032】
ここで、対象者Tの識別に用いる特徴量の抽出には、安静時のバイタルサインのデータが用いられる。「安静」とは、医学的には、「身体活動を最小限に抑え、心拍数や呼吸数を落ち着かせ、休息をとることである。手術後や疾患の治療中には、患者が必要に応じて安静にするように指示する。安静になるためには、患者はベッドに横になり、できる限り身動きをせずに、静かに呼吸し、リラックスして休むように努める。」(日本医師会「診療報酬マニュアル」より)ことを意味するが、ここでの「安静」は、特徴量の抽出に適する程度にバイタルサインが落ち着いた(または落ち着いたであろう)状態を意味しており、たとえば、身体活動を抑え、心拍数や呼吸数を落ち着かせる状態を一定時間(たとえば、1分)継続させることが例示されるが、その具体的な定義は、測定するバイタルサインの種類、被測定者の年齢、性別、体格、健康状態などに応じて適宜設定され得る。一般的には、バイタルサインを安定させるには、立位よりは座位、座位よりは臥位が好ましく、体を動かさない静止時間は長いほど好ましい。また、排尿を済ませる、閉眼する、深呼吸などにより呼吸を整えるといった心身をリラックスさせる行為も有効である。さらには、覚醒中よりは睡眠中、睡眠中においては眠りが浅いレム睡眠時より眠りの深いノンレム睡眠時が好ましい。特徴量の抽出は、このような条件から選択的に設定される「安静」の定義を満たすバイタルサインのデータを用いて行われる。たとえば、安静時として、臥床して四肢を動かさない静止状態を2分以上継続したときと定義されている場合、特徴量取得手段22は、入力手段21で受信される心拍数および体動のデータまたは記憶部204に記憶されたバイタルサインのデータを監視して、臥床中で、かつ、体動のない(または安静と評価できる程度に体動が少ない)状態が2分継続しているときの心拍数のデータを用いて特徴量の抽出を行う。なお、出願人の経験によれば、バイタルサインの測定に適した「安静」を得るには、少なくとも、四肢を動かさず姿勢を一定に保ち、かつ、深呼吸などにより呼吸を整えることが重要である。そのため、この条件を満たすように安静時を定義するのが好ましい。たとえば、安静時として、閉眼座位で呼吸を整え、四肢を動かさない静止状態を1分継続すると定義を用いることができる。安静時をこのように定義することで、短間隔で特徴量の抽出ができ、汎用性の高いシステムを提供できるようになる。
【0033】
特徴量の抽出は、プログラムの設定に基づいて所定の周期で行われる。たとえば、1日の平均心拍数など1日単位の加工データを特徴量として用いる場合、特徴量を抽出する周期を加工用のデータ集計期間に合わせて「1日」に設定することができる。同様に、特徴量として数十分ごとの平均心拍数を用いる場合には、数十分周期で特徴量を抽出するように設定することができる。また、特徴量の抽出は、このような加工用のデータ集計期間とは関係なく設定することもできる。たとえば、特徴量として1分間の心拍数を用いる場合に、1分未満(たとえば、10秒周期)で特徴量の抽出を行うように構成してもよい。このように、特徴量取得手段22は、あらかじめ設定された所定周期で新たな特徴量を取得するように構成され、取得された特徴量は対象者Tごとに記憶部204に記憶される。なお、特徴量の抽出周期を加工用のデータ集計期間より短く設定することで、一定期間内により多くの特徴量の抽出が可能になる。
【0034】
また、特徴量の抽出は対象者Tごとに行われる。特徴量を抽出する対象者Tは、少なくとも1人以上であるが、本実施形態では、複数の対象者Tについて特徴量の抽出を行う。そのため、特徴量取得手段22は、入力された心拍数のデータがどの対象者Tのデータであるかを特定し、対象者ごとに特徴量を取得する。ここでの対象者Tの特定は、たとえば、心拍数のデータのヘッダなどに含まれる測定装置1を特定する情報(たとえば、測定装置1のシリアルナンバー)と対象者Tとをあらかじめ対応付けておいた情報を使って特定したり、あるいは、操作部202を使ってマニュアルで入力さる対象者Tの情報を使うなどして特定される。特徴量取得手段22は、このようにして特定される対象者Tごとに、心拍数のデータからそれぞれ特徴量を取得する。
【0035】
また、抽出する特徴量としては、個人差が出現しやすい項目が用いられる。個人差が出現しやすい項目は、学術的観点または経験的に見出した項目が用いられ、これらの項目のうちから1または2以上の項目を選択して特徴量として用いる。たとえば、所定期間(たとえば、1日)の平均心拍数、所定期間の心拍数の標準偏差、所定期間のうちの最高心拍数、所定期間のうちの最低心拍数、所定期間のうちの中央値、所定期間の平均心拍数-標準偏差、所定期間の平均心拍数+標準偏差、所定時間ごとの平均心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの心拍数の標準偏差の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最高心拍数の所定期間分の中央値、所定時間ごとの最低心拍数の所定期間分の中央値、所定期間の心拍数の中央値などが特徴量として例示され、これらのうちの少なくとも1項目(たとえば、これらのうちの10項目など)が特徴量として使用される。
【0036】
また、このほか、睡眠中の心拍数なども特徴量として例示される。たとえば、睡眠中の心拍数としては、寝入りばな(睡眠の初期段階)や、脳が休息中と考えられているノンレム睡眠時の心拍数などが例示される。出願人の経験によれば、これらは特に個人差が出やすいと考えられる。
【0037】
なお、特徴量取得手段における特徴量の演算は、専用のプログラムを用いて演算するように構成されるが、平均心拍数や標準偏差などのように、一般的な表計算プログラムで演算可能な特徴量については、データ処理装置2に汎用の表計算プログラムをインストールしておき、この表計算プログラムを用いて演算するように構成してもよい。
【0038】
照合用データ生成手段23は、特徴量取得手段22で取得した特徴量から判定手段24での判定に用いる照合用データを生成する。この処理は、電子計算機にインストールされたプログラムに従って電子計算機の演算部によって実行される。
【0039】
ここで、照合用データの生成にあたっては、たとえば、それぞれの対象者Tについて、一つの特徴量につき複数回分(たとえば、特徴量が「一日の平均心拍数」である場合、数日分)の特徴量を取得し、これら複数回分の特徴量の中央値を算出し、その値(中央値)を照合用データとする。このように、複数回分の特徴量から照合用データを生成することで、照合用データとしての精度が向上する。なお、照合用データは、データ処理装置2の記憶部204に記憶され、後述する判定手段24による判定処理に利用される。
【0040】
判定手段24は、照合用データの特徴量と同種の新規データの入力に対して、照合用データに基づいて、入力された新規データの被測定者(新規データが測定された被験者)を判定する処理(判定処理)を行う。この処理は、電子計算機にインストールされたプログラムに従って電子計算機の演算部によって実行される。
【0041】
ここで、被測定者の判定は、電子計算機の演算部に、入力された新規データに対応する(近似する)照合用データが存在するか否かを判断させるとともに、対応する照合用データが存在する場合には、それはどの対象者の照合用データと近似するかを特定させる。すなわち、対応する(近似する)照合用データが存在しない場合には被測定者は不明となる一方、対応する照合用データが存在する場合には、最も近似する照合用データの対象者Tであるとして特定する。なお、この判定結果は、プリンタ3を使って印刷できる。
【0042】
このように、本発明によれば、1または2以上の対象者Tのバイタルサインのデータから対象者ごとに対象者Tの識別に用いる1または複数の特徴量が取得され、取得した特徴量から被測定者を判定するための照合用データが生成される一方、生成した照合用データと同種の新規データが入力されると、当該新規データを照合用データと照合して新規データの被測定者を判定されるので、照合用データが存在しない第三者のバイタルサインのデータが対象者Tのバイタルサインとして取り扱われることが防止される。しかも、入力された新規データに対応する照合用データが存在していれば、入力された新規データがいずれの対象者Tのデータであるかを特定することもできる。そのため、本発明によって対象者Tのデータであると判定された新規データは、その被測定者が明らかになり、データの真正性を担保することができ、データの取り違えが防止される。
【0043】
図3は、ハードウェア構成の改変例を示している。
図3では、測定装置1として、対象者Tの手首に装着するタイプの測定装置を用いている。また、データ処理装置2として、サーバコンピュータを用いている。この場合、測定装置1とデータ処理装置2はネットワークNを介して通信可能に接続される。ネットワークNとしては、たとえば、LAN(Local area network)やインターネットが例示される。なお、図2に示す例では、判定結果の出力装置として、上述したプリンタに代えて、ネットワークNに接続された携帯端末4(たとえば、スマートフォンやタブレット型のコンピュータなど)を用いており、データ処理装置2による判定の結果は、携帯端末4の表示部に表示されるようになっている。
【0044】
図4は、ハードウェア構成の他の改変例を示している。
図4に示す構成は、図3に示す構成の改変例であって、測定装置1として、対象者Tの手指に装着するタイプの測定装置を用いている。そして、測定装置1と携帯端末4とが近距離無線通信などの無線によって通信接続され、測定装置1での測定結果が携帯端末4に送信されるように構成されている。携帯端末4には専用のアプリケーションプログラムがインストールされており、このプログラムに従って、測定装置1から取得した心拍数のデータを、ネットワークNを介してデータ処理装置2に送信するようになっている。なお、データ処理装置2による判定の結果は、図3と同様に携帯端末4の表示部に表示されるようになっている。
【0045】
これらの改変例に示すように、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムは、測定装置1で測定された心拍数のデータをネットワークNを介してデータ処理装置2に取得させるように構成してもよい。
【0046】
次に、本発明に係るバイタルサインの被測定者判定システムの実施例について、出願人が行った実験結果を示しながら説明する。
【0047】
[実施例1]
本実施例は、教師データとする特徴量として、1日の平均心拍数、1日の心拍数の標準偏差、1日のうちの最高心拍数、1日のうちの最低心拍数、1日の平均心拍数-標準偏差、1日の平均心拍数+標準偏差、10分ごとの平均心拍数の複数日分の中央値、10分ごとの心拍数の標準偏差の複数日分の中央値、10分ごとの最高心拍数の複数日分の中央値、10分ごとの最低心拍数の複数日分の中央値の合計10項目を用いた。
【0048】
実験は、対象者Tとして15人の被験者を集め、これら被験者について5~13日(平均8.73日)分の心拍数のデータを収集した。そして、収集したデータのうちの前半分のデータから特徴量を抽出し、抽出した特徴量から照合用データをを生成した。すなわち、前半分のデータから、15人の対象者Tについて、それぞれ10項目の照合用データを生成した。
【0049】
これに対し、被測定者の判定処理に用いる新規データには、15人の被験者それぞれの後半分のデータを用いた。具体的には、各被験者の後半分のデータについて、それぞれ、1日の平均心拍数、1日の心拍数の標準偏差、1日のうちの最高心拍数、1日のうちの最低心拍数、1日の平均心拍数-標準偏差、1日の平均心拍数+標準偏差、10分ごとの平均心拍数の1日分の中央値、10分ごとの心拍数の標準偏差の1日分の中央値、10分ごとの最高心拍数の1日分の中央値、10分ごとの最低心拍数の1日分の中央値の合計を求め、これを判定処理用の新規データとして用いた。なお、新規データの作成にあたり、欠測値がでたものについては、欠測値を補間せずに生値のみで特徴量を抽出した新規データと、欠測値を補間して特徴量を抽出した新規データの2種類を用意した。
【0050】
図5は、被測定者の判定処理における判定基準を示している。この判定基準は、新規データについて、欠測値を補間しない生値の場合と、補間後の補間値の双方についての判定基準を示している。上段(「幅の設定」の欄)は、照合用データと新規データとの間で許容されるずれ幅の判定値を示している。たとえば、「1日の平均心拍数」は、ずれ幅の判定値として、生値は4.8、補間値は5.2が設定されている。また、「1日の標準偏差」は、ずれ幅の判定値として、生値、補間値ともに2.4が設定されている。また、判定処理において10分ごとの加算値を用いる「10分ごとの平均心拍数」は、ずれ幅の判定値として、生値は0.200、補間値は0.260に設定され、「10ごとの標準偏差」は、ずれ幅の判定値として、生値は0.055、補間値は0.027に設定されている。
【0051】
一方、下段(「点数の設定」の欄)は、新規データと照合用データとを対比した際のずれが、ずれ幅の判定値以内の場合に加算する評価点を示している。たとえば、「1日の平均心拍数」のずれ幅が判定値以内であれば評価点として1点を加算する。また、「1日の標準偏差」についてもずれ幅が判定値以内であれば評価点として1点を加算する。また、判定処理において10分ごとの加算値を用いる「10分ごとの平均心拍数」の中央値については、ずれ幅が判定値以内であれば評価点として0.2点を加算する。同様に、「10ごとの標準偏差」のずれ幅が判定値以内であれば評価点として0.2点を加算する。
【0052】
そして、この判定基準を用いた判定は、新規データと照合用データとを対比して得られる評価点の合算値に基づいて行われる。具体的には、合算値が所定の閾値Xを超えるか否かを判断し、合算値が閾値X未満の場合には、新規データに対応する対象者Tは存在しないと判定する。これに対して、評価点の合算値が閾値X以上となった場合には、新規データは当該照合用データの対象者Tのデータであると判定する。なお、閾値Xを超える対象者Tが複数いる場合は、新規データは最も評価点の高い照合用データの対象者Tのデータであると判定する。
【0053】
このようにして判定処理を被験者15人についてそれぞれ実施した結果、生値、補間値のいずれにおいても、すべての新規データについてほぼ100%に近い正答率で対象者Tの特定に成功した。すなわち、15人の被験者について、それぞれの後半分の新規データを使って上記判定処理を行ったところ、15人の被験者全員につき、どの被験者の新規データであるかについての正答を得ることができた。特に、欠測値を補間した補間値を用いた場合は、生値を用いた場合(本試験では93%の正答率)に比してより高い正答率(本試験では100%の正答率)で被測定者の判定に成功した。
【0054】
[実施例2]
次に、本発明の第2の実施例ついて説明する。
第2の実施例は、教師データとする特徴量として、睡眠時の脈拍数から得られるデータを用いている。図6は、ある一人の被験者の睡眠時(臥床時)における脈拍数の推移の一例を示しており、図6(a)は第1日目の測定結果を、図6(b)は第2日目の測定結果をそれぞれ示している。
【0055】
出願人が調べたところでは、睡眠時の脈拍数の推移には人それぞれの個人差がある。たとえば、図6に示す被験者の場合、第1日目と第2日目の脈拍数の変化を比較すると理解できるように、寝入りばなの脈拍数の変動(P1で示す部分参照)と、臥床から200分ほど経過した後に出現する周期性のある脈拍数の変動(P2で示す部分参照)とにこの被験者の特徴が表れている。
【0056】
具体的には、寝入りばなの脈拍数の変動P1としては、臥床開始数分後から短時間で脈拍数が低下し、その後同様に短時間で脈拍数が上昇するという特徴が出現している。図7(a)は、この寝入りばなの脈拍数の変動を拡大して図示している。ここで、この特徴を特徴量として捉えるにあたり、本実施例では、最低脈拍数を谷としてその前後に生じる2つの山の頂点までの略V字状の区間を1つのまとまりとして把握する。そして、特徴量としては、たとえば、略V字状部分の発生個数(図示例では1個)、発生した時間帯(図示例では臥床開始から15~30分)、高さL1、幅L2、山や谷の脈拍数などが例示される。
【0057】
一方、周期性のある脈拍数の変動P2としては、浅い眠りのレム睡眠のときは脈拍が増加し、深い眠りのノンレム睡眠のときには脈拍が少なくなるという特徴が出現する。図7(b)は、この周期性の脈拍変動を拡大して図示している。ここで、この特徴を特徴量として捉えるにあたっても寝入りばなの脈拍数の変動と同様に、最低脈拍数を谷としてその前後に生じる2つの山の頂点までの略U字状の区間を1つのまとまりとして把握する。そして、特徴量としては、たとえば、周期性を持って発現する略U字状部分の連続時間、発生個数(図示例では3個)、発生した時間帯(図示例では臥床開始から220分、280分、310分ごろ)、高さL3、幅L4、山や谷の脈拍数などが例示される。
【0058】
本実施例では、このような睡眠時における脈拍数の推移から対象者の識別に用いる1または複数の特徴量を取得して、対象者Tごとの学習済みモデルを生成し、被測定者の判定処理に供する。このように、本実施例においては、バイタルサインが安定する臥床時、より具体的には、睡眠時の脈拍数を用いて被測定者の判定処理を行うので、高い判定精度で被測定者の識別をすることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0060】
たとえば、上述した実施形態では、対象者Tのバイタルサインとして心拍数を用いた場合を示したが、心拍数に代えてまたは心拍数とともに、他のバイタルサイン、たとえば、脈拍、血圧、血中酸素飽和度、体温、発汗量、体動などを用いてもよい。すなわち、教師データとなる特徴量を取得するバイタルサインとしては、心拍数以外のバイタルサインを用いたり、複数種類のバイタルサインを組み合わせて用いることができる。
【0061】
ここで、特徴量を取得するバイタルサインとしてどのバイタルサインを用いるかについては、たとえば、本発明が用いられる目的・用途との関係で決定するのが好ましい。たとえば、本発明のシステムが、入力される新規データが特定の対象者Tのバイタルサインのデータであるとの陽性予測に高い正答率を求める場合には、陽性予測に高い正答率が得られるバイタルサインを実験などによって把握し、高い正答率が得られるバイタルサインを特徴量の抽出に用いる。同様に、入力される新規データが特定の対象者Tのバイタルサインでないとの陰性予測に高い正答率を求める場合には、陰性予測に高い正答率が得られるバイタルサインを実験などによって把握し、高い正答率が得られるバイタルサインを特徴量の抽出に用いる。つまり、本発明において特徴量の抽出に用いるバイタルサインは、本発明のシステムの使用目的・使用用途などに応じて最適なバイタルサインが選択される。
【0062】
また、このバイタルサインの選択と関連して、選択されたバイタルサインからどのような特徴量を抽出するかについても、本発明が用いられる目的・用途との関係で決定するのが好ましい。すなわち、上記同様、本発明のシステムが、陽性予測に高い正答率を求めるシステムである場合には、陽性予測に高い正答率が得られる特徴量を実験などによって把握し、高い正答率が得られる特徴量を用いる。同様に、本発明のシステムが、陰性予測に高い正答率を求めるシステムである場合には、陰性予測に高い正答率が得られる特徴量を実験などによって把握し、高い正答率が得られる特徴量を用いる。つまり、本発明に用いらる特徴量は、本発明のシステムの使用目的・使用用途に応じて最適な特徴量が選択される。
【0063】
また、上述した実施形態では、平均心拍数などの特徴量の抽出にあたり、欠測値が存在する場合の補間方法についての説明は省略したが、欠測値については、単一補間、多重補間等、適宜の方法で補間することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、入力された新規データについて、その被測定者を判定するまでの過程を説明したが、被測定者が記憶部204にデータが存在する対象者Tのいずれかで会った場合には、その新規データを当該対象者Tの教師データに加え、学習済みモデルの生成を行うように構成することも可能である。そうすることで、新たに入力される新規データを用いて被測定者判定処理の精度向上を図ることができる。
【0065】
また、上述した実施形態では、記憶部204には15名の対象者についてのバイタルサインのデータを記憶した場合を示したが、バイタルサインのデータを記憶する対象者の数は適宜変更可能であり、たとえば、数万人、数十万人、さらにはそれ以上の単位の対象者のデータを記憶するように構成することもできる。そうすることで、本発明を生体認証技術として使用することも可能になる。
【0066】
また、上述した実施形態では、新規データとの照合に用いる照合用データとして、それぞれの特徴量につき複数回分の特徴量を取得し、その中央値を照合用データとして用いた場合を示したが、中央値以外の数値を照合用データとして用いることも可能である。たとえば、特徴量の中央値に代えて、特徴量取得手段22で取得された特徴量を教師データとして、機械学習により、対象者Tごとのバイタルサインの特徴をあらかじめ学習させて、学習済みモデルを生成し、判定手段24では、この学習済みモデルに基づいて、特徴量と同種の新規データの入力に対して、入力された新規データの被測定者を判定するように構成するように構成することも可能である。このように機械学習を利用することで、被測定者の判定精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 測定装置
2 データ処理装置
3 プリンタ
4 携帯端末
11 測定部
12 インターフェース部
21 入力手段
22 特徴量取得手段
23 照合用データ生成手段
24 判定手段
N ネットワーク
T 対象者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7