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特開2024-130202硬化材、硬化材液、注入材液及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130202
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】硬化材、硬化材液、注入材液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20240920BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240920BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20240920BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240920BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B24/38 B
C04B28/02
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039798
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 昌明
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB31
4G112MA00
4G112MB06
4G112PB03
4G112PB08
4G112PB40
4G112PC08
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】主材液と硬化材液を混ぜた後に短時間でゲル化するとともに、ゲル化前における水中不分離性に優れ、また、温度変化による主材液、硬化材液の流動性の変動が低減された硬化材、硬化材液、注入材液を提供する。
【解決手段】水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いる硬化材であって、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩及び増粘剤IIを含む硬化材。増粘剤IIが天然多糖類誘導体である硬化材。この硬化材よりなる硬化材液、及び注入材液とその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いる硬化材であって、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩及び増粘剤IIを含む硬化材。
【請求項2】
前記硬化材に含まれる前記増粘剤IIが天然多糖類誘導体である請求項1に記載の硬化材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硬化材と水を含む硬化材液。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化材液と、水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液とを含む注入材液。
【請求項5】
前記主材液に含まれる前記増粘剤Iがセルロース系水溶性ポリマーである請求項4に記載の注入材液。
【請求項6】
請求項3に記載の硬化材液と、水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液とを混合する注入材液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化材、硬化材液、注入材液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤等の空隙に注入して補強、あるいは、止水するために使用する注入材として、セメントを水に懸濁させたセメント懸濁液が用いられている。
セメント懸濁液は凝結速度が遅く、凝結するまでに数時間を要する。凝結速度が遅いとセメント懸濁液中のセメントが沈降してしまい、全容を硬化させることができなくなる。
また、地下水が流動しているような地盤内や護岸堤防と地盤との空隙部、トンネル壁面と地盤との空隙部などのように、注入したセメント懸濁液が流水に接触する場合、凝結速度が遅いと、該セメント懸濁液は、流水と混合してセメントの濃度が低下してしまうため、セメントは充分に硬化しなくなる。
【0003】
そこで最近では、セメント懸濁液に所定の時間で非流動化する機能を付与した材料が用いられるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、石灰及び水を含む主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いる硬化材であって、乾燥水酸化アルミニウムゲル(非晶質の水酸化アルミニウム)及びアルカリ金属炭酸塩を含むことを特徴とする硬化材、及び硬化材液、土質安定用薬液が開示されている。この文献によると、この材料を用いた主材液と硬化材液を混ぜることで、混合後10秒程度でゲル化する例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-42088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の注入材は、ゲル化が進んで流動性が下がった後には、水中に入っても分離しないが、10秒程度と短いとはいえ、流動性が下がるまでの間に材料が水中に分散、あるいは薬液が水に希釈されてしまう為、強度が弱くなることが懸念されることが分かった。
【0007】
このような水中での分散、水希釈を防ぐために、事前に薬液中に増粘剤を添加することが知られている。この際、主材液、あるいは硬化材液側のいずれかに増粘剤を添加することが考えられるが、本材料系では、一方の液への増粘剤の添加では、混合による増粘剤の水中不分離性が発生する前に水中への分散、水希釈が生じてしまう。
また、主材液と硬化材液の流動性の差により、例えば主材液、硬化材液を等量づつ混合する際、同能力のポンプで圧送しても、主材液と硬化材液の送液量に差が出てしまうという問題がある。
更には、主材液と硬化材液の流動性が異なると、流動性の差により両液の混ざりが悪くなり、水中での分散、水希釈を十分に防ぐことができない。
【0008】
そこで本発明では、主材液と硬化材液を混ぜた後に短時間でゲル化するとともに、ゲル化前における水中不分離性に優れた、硬化材、硬化材液、及び注入材液を提供することを目的とする。
また、本発明は、温度変化による主材液、硬化材液の流動性の変動が低減された硬化材、硬化材液、及び注入材液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく検討したところ、本材料系では、主材液及び硬化材液両液に増粘剤を添加することで、主材液と硬化材液の流動性の差を少なくすることができること、かつ、混合後の液に高い水中不分離性を付与できることを確認した。
また、本材料系において、セメント系の材料に水中不分離性を付与する増粘剤として一般的なヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加して検討したところ、20℃で主材液、硬化材液の流動性が同等であっても、液温が上がると硬化材液側の流動性が上がってしまい、結果として主材液と硬化材液の流動性の差により、ポンプ圧送の際の主材液と硬化材液の送液量比が変動してしまう、あるいは、主材液と硬化材液の混ざりが悪くなってしまうことが判明したが、この問題は、硬化材液の増粘剤として、特定の増粘剤を用いることで、解決することができることを確認した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下の[1]~[6]の態様を包含する。
【0010】
[1] 水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いる硬化材であって、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩及び増粘剤IIを含む硬化材。
[2] 前記硬化材に含まれる前記増粘剤IIが天然多糖類誘導体である[1]に記載の硬化材。
[3] [1]又は[2]に記載の硬化材と水を含む硬化材液。
[4] [3]に記載の硬化材液と、水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液とを含む注入材液。
[5] 前記主材液に含まれる前記増粘剤Iがセルロース系水溶性ポリマーである[4]に記載の注入材液。
[6] [3]に記載の硬化材液と、水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液とを混合する注入材液の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主材液と硬化材液を混合後に短時間でゲル化するとともに、ゲル化前における水中不分離性に優れた硬化材、硬化材液、及び注入材液を提供することができる。
また、薬液の温度が高くなっても、主材液と硬化材液の粘度差が少ない硬化材、硬化材液、及び注入材液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「固結体」とは、本発明の注入材液が地盤内等で凝結したものをいう。
【0013】
[主材液]
本発明に係る主材液(以下、「本発明の主材液」と称す場合がある。)は、水硬性セメント、石灰、増粘剤I、並びに水を含有する。本発明の主材液は、さらに、石膏を含んでいてもよい。また、本発明の主材液は、その他の添加剤を含んでいてもよい。
以下、本発明の主材液が含む各成分について説明する。
【0014】
(水硬性セメント)
水硬性セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱及び白色などのポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの混合セメント、微粒子セメント、超微粒子セメント、極超微粒子セメントや高炉水砕スラグ、アルミナセメントが挙げられる。石灰の存在により水硬性を示すことから、水硬性セメントとしてはポゾラン反応性物質も含まれる。該ポゾラン反応性物質としては、例えば、シリカヒューム、フライアッシュ、活性カオリン等が挙げられる。
水硬性セメントは、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0015】
本発明の主材液中の水硬性セメントの含有量は、主材液200L(全注入材液400L)あたり、25~300kgが好ましく、50~200kgがより好ましく、70~150kgが特に好ましい。水硬性セメントの含有量が上記下限値以上であれば、固結体の圧縮強度をより高めることができる。一方、上記上限値以下であれば、主材液の粘度が抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、主材液又は後述する注入材液が地盤等に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0016】
(石灰)
石灰は、水中で水酸化カルシウム(Ca(OH))の形をとるものであり、例えば、消石灰(Ca(OH))や生石灰(CaO)が挙げられる。中でも、取扱いが容易な消石灰が好ましい。
【0017】
石灰のブレーン値は6000~30000cm/gが好ましく、8000~20000cm/gがより好ましい。石灰のブレーン値が上記下限値以上であれば、主材液中で沈降し難くなるとともに、反応性が高まる点で優れる。一方、上記上限値以下であれば、主材液の粘性が低下するとともに、水と混合した時に凝集が起こりにくくなる。
石灰は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0018】
本発明の主材液中の石灰の含有量は、主材液200L(全注入材液400L)あたり、5~60kgが好ましく、10~50kgがより好ましく、20~40kgが更に好ましい。石灰の含有量が上記下限値以上であれば、ゲル化後の初期強度の立ち上がりが早くなる。上記上限値以下であれば、主材液の粘度が抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、主材液又は後述する注入材液が地盤等に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0019】
(増粘剤I)
増粘剤Iとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系水溶性ポリマー;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ソーダ共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物などのアクリル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸ソーダ、カゼイン、天然多糖類誘導体などの水溶性ポリマーなど各種の増粘剤が挙げられる。
増粘剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
なかでも、水中不分離性能の向上効果が高いという観点で、セルロース系水溶性ポリマーが好ましく、水溶性セルロースエーテルがより好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが更に好ましい。これらは、ママコ(ダマ)防止の観点から、グリオキザール処理品が特に好ましい。
【0020】
セルロース系水溶性ポリマーの増粘性能は、2質量%の水溶液の粘度として50~1000000mPa・sが好ましく、1500~500000mPa・sがより好ましく、4000~400000mPa・sが更に好ましく、100000~200000mPa・sが特に好ましい。2質量%の水溶液の粘度が上記下限値以上であれば、少量の添加で水中不分離性能を高めることができる。一方、上記上限値以下であれば、流動性を高めることができる。
【0021】
本発明の主材液中の増粘剤Iの含有量は、主材液200L(全注入材液400L)あたり、0.1kg~2.0kgが好ましく、0.2kg~1.0kgがより好ましく、0.3kg~0.8kgが更に好ましい。増粘剤Iの含有量が上記下限値以上であれば、水中不分離性が高いという観点で好ましい。増粘剤Iの含有量が上記上限以下であれば、混合5分後の硬さが硬くなるという観点から好ましく、この観点から増粘剤Iの含有量は特に0.5kg以下が好ましい。
【0022】
(石膏)
石膏としては、例えば、II型無水石膏、III型無水石膏、α半水石膏、β半水石膏、2水石膏など、各種の形態の石膏が挙げられる。また、天然石膏でも人工的に製造又は副生する化学石膏(リン酸石膏、排煙脱硫石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、鉱水・製錬石膏等)でも良い。中でも、固結体の圧縮強度がより高くなることから、II型無水石膏が好ましい。
【0023】
石膏のブレーン値は、1500~12000cm/gが好ましく、2000~10000cm/gがより好ましく、2500~8000cm/gがさらに好ましい。石膏のブレーン値が上記下限値以上であれば、固結体の圧縮強度がより高くなる。一方、上記上限値以下であれば、主材液の粘性が低下するとともに、水と混合した時に凝集が起こりにくくなる。
石膏は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0024】
本発明の主材液が石膏を含有する場合、その含有量は、主材液200L(全注入材液400L)あたり、0.5~30kgが好ましく、1~20kgがより好ましく、2~10kgが更に好ましい。石膏の含有量が上記下限値以上であれば、固結体の初期及び最終強度が高くなる。上記上限値以下であれば、主材液の粘度が抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、主材液又は後述する注入材液が地盤等に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0025】
(水)
水としては、例えば、上水、工業用水、地下水、河川水、海水などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上水や工業用水が好ましい。
【0026】
(添加剤)
本発明の主材液は、消泡剤や硬化遅延剤、減水剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
消泡剤としては、高級アルコール系、アルキルフェノール系、ジエチレングリコール系、ジブチルフタレート系、非水溶性アルコール系、トリブチルホスフェート系、ポリグリコール系、シリコーン系、酸化エチレン-酸化プロピレン共重合物のようなポリエーテル系、などの消泡剤が挙げられる。
これらの消泡剤は、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
減水剤としては、減水性能に優れた高性能減水剤を用いることが好ましく、例えば、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物系、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体系、メラミンホルマリン縮合物系(スルホン酸塩、(変性)メチロール)、ポリカルボン酸系、アミノスルホン酸系、ポリエーテル系を主成分とする減水剤が挙げられる。ここで「主成分」とは通常全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%~100質量%を占める成分をいう。
これらの減水剤は、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
硬化遅延剤としては、有機カルボン酸(塩)、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコヘプトン酸、オキシマロン酸、粘液酸、グルクロン酸、ラクトビオン酸等のオキシカルボン酸、及びこれらのオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。また、グルタミン酸等のアミノカルボン酸、及びこれらのアミノカルボン酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、ゲル化直後のゲル強度の立ち上がりの観点からオキシカルボン酸及び/又はその塩が好ましく、クエン酸、クエン酸のナトリウム塩、グルコン酸、グルコン酸のナトリウム塩が特に好ましい。
これらの有機カルボン酸(塩)は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の主材液はまた、硫酸イオン供給源として、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩を含有していてもよい。
【0031】
(主材液の製造方法)
本発明の主材液は、公知の撹拌器等を用いて、各成分を所望の配合量で水に分散させることにより製造される。
主材液を製造する際の、石灰、水硬性セメント、増粘剤I、水、必要に応じて用いられる石膏、その他の添加剤を混合する順序は、特に限定されない。主材液の製造方法は、石灰、水硬性セメント、増粘剤I、任意成分である石膏、消泡剤などの添加剤を水に分散させた後、水硬性セメントを加え、所定時間撹拌して混合する方法が好ましい。
【0032】
地盤安定化を行う施工現場で主材液を製造する方法としては、例えば、以下の(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1) 石灰、水硬性セメント、増粘剤I、水、必要に応じて用いられる石膏、その他の添加剤を別々に施工現場に搬入し、所定の量比で混合した後、水を加えて混合する方法
(2) 石灰、水硬性セメント、増粘剤I、水、必要に応じて用いられる石膏、その他の添加剤を所定の量比で予め配合した主材の混合物を施工現場に搬入し、これに水を加えて混合する方法
(3) 水硬性セメント以外の材料を所定の量比で予め混合した混合物を水硬性セメントとともに施工現場に搬入し、これに水を加えて混合する方法
中でも、施工現場での作業を簡略化できる点から、上記(2),(3)の方法が好ましい。
【0033】
主材液中の各成分は水に充分に分散されていることが好ましい。各成分が水に充分に分散されていることにより、主材液と硬化材液とがより均一に混合され、ゲルタイムや水中不分離性、送液性が安定する。
【0034】
[硬化材・硬化材液]
本発明の硬化材は、主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いるものである。
本発明の硬化材は、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩、及び増粘剤IIを含む。
本発明の硬化材液は、本発明の硬化材と水を含むものである。
即ち、本発明の硬化材液は、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩、及び増粘剤II及び水を含み、本発明の硬化材液中の水以外の成分を本発明の硬化材と称す。
本発明の硬化材及び硬化材液は、上記以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
以下、本発明の硬化材及び硬化材液が含む各成分について説明する。
【0035】
(非晶質水酸化アルミニウム)
本発明において非晶質水酸化アルミニウムは、非晶質の水酸化アルミニウムをすべて含む。非晶質水酸化アルミニウムの例としては、乾燥水酸化アルミニウムゲルがあり、アルマイト処理で発生するアルミスラッジ等が挙げられる。
なかでも活性が高いという観点から、乾燥水酸化アルミニウムゲルが好ましい。
【0036】
乾燥水酸化アルミニウムゲルは、Al(OH)・mHOの化学組成を持つ化合物であり、非晶質の水酸化アルミニウムである。乾燥水酸化アルミニウムゲルとしては、例えば日本薬局方の医療用制酸剤・潰瘍治癒剤等に用いられるものが挙げられるが、工業用として、吸着剤等に用いられる乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末が好ましい。乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末の酸化アルミニウム含有量は45%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
また、乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末の粒子径は、レーザー回折散乱法によるメジアン径で40~120μmが好ましく、60~100μmが更に好ましい。メジアン径が上記下限値以上であれば、粒子が舞い難く、取扱い性がよくなる。一方、上記上限値以下であれば、粒子の沈降が抑えられるとともに、反応性が高くなりゲルタイムの発現性が優れる。
【0037】
(アルカリ金属炭酸塩)
アルカリ金属炭酸塩は、ゲル化能力を有する石灰と非晶質水酸化アルミニウムとの組み合わせにおいて、ゲルタイムを付加する成分である。アルカリ金属炭酸塩は、主材液に配合すると該主材液を不安定にするが、硬化材液に配合しても該硬化材液を不安定にすることはない。
【0038】
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、LiCO、NaCO、KCOなどのアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩は一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0039】
(増粘剤II)
増粘剤IIとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル系;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ソーダ共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物などのアクリル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸ソーダ、カゼイン、天然多糖類誘導体などの水溶性ポリマーなど各種の増粘剤が挙げられる。
なかでも、セルロース系水溶性ポリマー、天然多糖類誘導体が好ましい。これらは、水中不分離性能の向上効果が高いという観点で好ましい。
セルロース系水溶性ポリマーのなかでも、水溶性セルロースエーテルが好ましく、更にはヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。これらは、ママコ(ダマ)防止の観点から、グリオキザール処理品が特に好ましい。
中でも天然多糖類誘導体が、高温になった場合の粘度の変化が小さいという観点で特に好ましい。
セルロース系水溶性ポリマーの増粘性能は、2質量%の水溶液の粘度として50~1000000mPa・sが好ましく、1500~500000mPa・sがより好ましく、4000~400000mPa・sが更に好ましく、100000~200000mPa・sが特に好ましい。2質量%の水溶液の粘度が上記下限値以上であれば、少量の添加で水中不分離性能を高めることができる。一方、上記上限値以下であれば、流動性を高めることができる。
【0040】
なお、増粘剤IIは、主材液に含まれる増粘剤Iと同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0041】
(水)
水としては、例えば、上水、工業用水、地下水、河川水、海水などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上水や工業用水が好ましい。
【0042】
(添加剤)
本発明の硬化材及び硬化材液は、非晶質水酸化アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲルを含む)、アルカリ金属炭酸塩、増粘剤II以外に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属珪酸塩、消泡剤等、各種の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤の詳細は主材液に含まれる添加剤と同様である。
【0043】
例えば、硬化材液にアルカリ金属水酸化物を添加することで、硬化材液の活性を上げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、LiOH、NaOH、KOHなどが挙げられる。アルカリ金属水酸化物は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0044】
同様に、硬化材液にアルカリ金属珪酸塩を添加することで、硬化材液の活性を上げることができる。アルカリ金属珪酸塩としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属珪酸塩は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0045】
アルカリ金属珪酸塩としては、アルカリ金属オルト珪酸塩、アルカリ金属セスキ珪酸塩、アルカリ金属メタ珪酸塩、アルカリ金属1号珪酸塩、アルカリ金属2号珪酸塩、アルカリ金属3号珪酸塩、アルカリ金属4号珪酸塩の水溶液、粒状品、粉末品が挙げられる。中でも反応性を高める効果が高い点から、アルカリ度の高いアルカリ金属オルト珪酸塩が好ましく、オルト珪酸ナトリウムが更に好ましい。
【0046】
更に、水硬性セメントの中でも潜在水硬性を有する高炉水砕スラグ微粉末やアルミナセメント、ポゾラン反応性物質については、硬化材側に添加することも可能である。該ポゾラン反応性物質としては、例えば、シリカヒューム、フライアッシュ、活性カオリン等が挙げられる。
これらの材料を硬化材側に添加しても、ゲル化性能への影響や硬化材液の安定性への影響はない。また、硬化材側にこれらの成分を入れることで、主材液に入れる材料の量を減らす事が可能であり、主材液と硬化材液の流動性を合わせやすくなる。また、これらの成分を硬化材液側に入れることで、主材液との比重の調整も可能であり、比重が近づくことで、主材液と硬化材液の圧送性が似通ったものとなり、安定した送液が可能となる。
【0047】
(硬化材液中の各成分の含有量)
硬化材液中の非晶質水酸化アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲルを含む)の含有量は、該硬化材液200L(注入材液400L)あたり、2~20kgであることが好ましく、3~12kgがより好ましく、4~8kgが特に好ましい。非晶質水酸化アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲルを含む)の含有量が上記下限値以上であれば、ゲルタイムが短くなり、また、ゲル化直後の強度が強く、また強度発現までに要する時間が短縮される。一方、上記上限値以下であれば、硬化材液の粘度が抑えられるため、主材液と硬化材液とがより均一に混合され、固結体の圧縮強度のバラツキがより少なくなる。また、上記上限値以下であれば、ポンプによる圧送が容易となり、硬化材液又は後述する注入材液が地盤等に浸透しやすくなる。
【0048】
硬化材液中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、該硬化材液200L(全注入材液400L)あたり、2~12kgであることが好ましく、3~10kgがより好ましく、4~8kgが更に好ましい。アルカリ金属炭酸塩の含有量が上記範囲内にあれば、よりゲルタイムを短くすることができる。本発明の効果をより発揮させるためには、後述の通り硬化材から硬化材液を調製する際に、アルカリ金属炭酸塩の不溶解分が残らないようにすることが好ましい。
【0049】
硬化材液中の増粘剤IIの含有量は、該硬化液200L(全注入材液400L)あたり、0.1~2kgであることが好ましく、0.2~1kgより好ましく、0.3kg~0.8kgが更に好ましい。増粘剤IIの含有量が上記下限値以上であれば、水中不分離性が高いという観点で好ましい。一方、上記上限値以下であれば、硬化材液の粘度が抑えられ、流動性が向上する。
【0050】
本発明の硬化材が、前述の高炉水砕スラグ微粉末やアルミナセメント、ポゾラン反応性物質を含有する場合、その含有量は、硬化材200L(全注入材液400L)あたり、20~200kgが好ましく、30~150kgがより好ましい。これらの成分の含有量が上記下限値以上であれば、固結体の圧縮強度を上げることができる。一方、上記上限値以下であれば、硬化材液の粘度が抑えられるため、主材液と硬化材液とがより均一に混合され、固結体の圧縮強度のバラツキがより少なくなる。また、上記上限値以下であれば、ポンプによる圧送が容易となり、硬化材液又は後述する注入材液が地盤等に浸透しやすくなる。
【0051】
(硬化材液の製造方法)
本発明の硬化材液は、原料となるそれぞれの材料(本発明の硬化材の成分)を単体で準備し、現場にて水に投入し混合して用いてもよく、事前に粉の状態で混合したものを現場にて水に投入して用いてもよい。好ましくは、非晶質水酸化アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲルを含む)とアルカリ金属炭酸塩、および、増粘剤IIを事前に粉の状態で混合して用いる。これらを事前に混合することにより、アルカリ金属炭酸塩が固結することを防止することができる。また、増粘剤がママコ(ダマ)になることを防止出来る。
増粘剤IIは、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩と混ぜて添加してもよく、その他の添加剤と混ぜて添加してもよい。より量の多い粉体と混ぜることで、増粘剤IIを水に分散する際に生じる継子の生成が抑えられる。このことから、一部の硬化材側に添加可能な水硬性セメントと混合して添加してもよい。
【0052】
粉体を混合して、本発明の硬化材を製造するには、一般的な混合器に、各成分を所望の配合量で投入し、混ぜ合わせることで行うことができる。混合器は、工場又は施工現場に固定されているものでもよく、ミキサートラックに搭載されているものでもよい。
【0053】
各成分は充分に混合されていることが好ましい。各成分が充分に混合されていることにより、均質な硬化材液を素早く製造することができる。
【0054】
本発明の硬化材液は、公知の撹拌器等を用いて、本発明の硬化材の各成分を水に分散させることにより製造される。分散方法としては、予め製造した硬化材を水に分散させる方法でもよく、硬化材の各成分を任意の順序で水に分散させる方法でもよい。
【0055】
本発明の硬化材の各成分は水に充分に分散されていることが好ましい。各成分が水に充分に分散されていることにより、主材液と硬化材液とがより均一に混合されるようになり、固結体の圧縮強度のバラツキがより小さくなる。
【0056】
なお、本発明の硬化材に含まれる非晶質水酸化アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲルを含む)、アルカリ金属炭酸塩、増粘剤II、その他の成分の含有量は、前述の本発明の硬化材液の各成分の好適配合を満たすような割合であればよい。
【0057】
[注入材液]
本発明の注入材液は、本発明の硬化材液と、水硬性セメント、石灰、水及び増粘剤Iを含む主材液を含む。即ち、本発明の注入材液は、本発明の硬化材液と、本発明の主材液を含む。また、本発明の注入材液は、非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩、増粘剤II、水硬性セメント、石灰、及び増粘剤I、並びに水を含む。本発明の注入材液は、これらの成分以外に、石膏、その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の注入材液が含む各成分の詳細は、前述の本発明の硬化材、本発明の主材液、及び本発明の硬化材液における成分と同様である。
【0059】
[注入材液の製造方法]
本発明の注入材液の製造方法は、公知の撹拌器等を用いて、各成分を水に分散させる方法でもよく、主材液に、硬化材又は硬化材の成分を添加する方法でもよく、硬化材液に、主材液中の水以外の成分を添加する方法でもよく、主材液と硬化材液とを混合する方法でもよい。中でも、施工現場での作業を簡略化できる点及び瞬結性をより高める点から、本発明の注入材液の製造方法は、本発明の主材液と本発明の硬化材液とを混合する方法であることが好ましい。
【0060】
以下、主材液と硬化材液とを混合する方法について説明する。
本発明の注入材液を土質安定用薬剤として地盤に注入して用いる場合、本発明の主材液と本発明の硬化材液の混合は、地盤に注入する前に行ってもよく、各液を地盤に注入しながら行ってもよい。地盤に注入する前に行う場合は、セメントを製造する際に通常用いる撹拌器等を用いて、一般的な撹拌方法によって混合すればよい。各液を地盤に注入する直前に混合する場合は、例えば、主材液と硬化材液とを、それぞれ単位時間当りの送液容量が等しいポンプを用いて個別にY字管、撹拌装置、注入管内に設けられた混合室(管内混合器・管路混合器)などに圧送して混合する方法が挙げられる。注入しながら混合する方法としては、主材液と硬化材液を二重管の内管と外管で別々に送液し、注入時に地盤中で主材液と硬化材液を合流させて混合する方法などが挙げられる。両液が注入中に硬化しないようにするため、注入液は、注入直前又は注入しながら混合することが好ましく、注入直前で混合することが、両液の混ざりが良くなるという観点で、より好ましい。
【0061】
施工がし易くなる点から、主材液と硬化材液とは7:3~3:7の容量比で混合することが好ましく、6:4~4:6の容量比で混合することがより好ましく、等容量で混合することが特に好ましい。
【0062】
増粘剤Iを含む本発明の主材液と増粘剤IIを含む本発明の硬化材液とを混合することで得られる本発明の注入材液中の増粘剤の含有量(増粘剤Iと増粘剤IIの合計の含有量)は、注入材液400Lあたり、0.2~4kgであることが好ましく、0.4~2kgがより好ましく、0.6~1.6kgが更に好ましい。増粘剤の合計含有量が上記範囲内にあれば、水中不分離性、流動性をバランスよく向上させることができる。
増粘剤Iと増粘剤IIの比率は、増粘剤の増粘能力がほぼ同じ場合、主材液と硬化材液の流動性の差を少なくするという観点から、質量比で7:3~3:7が好ましく、6:4~4:6がより好ましく、5.5:4.5~4.5:5.5が特に好ましい。
【0063】
[作用効果]
本発明によれば、主材液に増粘剤Iを含み、硬化材液に増粘剤IIを含むことで、主材液、硬化材液の流動性の差が小さく、ポンプ圧送時の主材液、硬化材液の比率の変動が抑えられ、主材液、硬化材液の均一混合性が良好な状態で、水中不分離性を付与できる。
特に、硬化材液側の増粘剤IIを天然多糖類誘導体とすることで、温度が上昇した場合でも主材液側との粘度の差を抑制でき、ポンプ圧送時の主材液、硬化材液の送液量比の変動が抑えられ、且つ、主材液、硬化材液の均一混合性が良好となる。
【0064】
<水中不分離性の付加のメカニズム>
増粘剤を添加することにより水中不分離性能が得られる事は既に知られていることであるが、主材液、及び硬化材液のそれぞれに添加することにより、両液の水中不分離性が向上するとともに、流動性が同等となり均一混合性に優れたものとなることから、より一層水中不分離性が確保できているものと推定している。
【0065】
更には、本材料は、主材液と硬化材液が混合された際に、ゲル化にまでは至らないものの主材液と硬化材液の反応が起こり、これが水中不分離にも影響していると思われる。増粘剤をそれぞれの液に添加することが、この反応にも良い影響を与えることで、水中不分離性の向上に関与していると推測される。
【0066】
<主材液、硬化材液の温度上昇による粘度差抑制のメカニズム>
本発明の主材液は水硬性セメント、石灰、水を基本とする材料であるのに対し、硬化材液は非晶質水酸化アルミニウム、炭酸アルカリ金属塩、水を基本とする材料からなる。その原因の詳細は不明であるが、硬化材側の材料と主材液側の材料では、増粘剤の拡散性に対する影響に差があり、特に温度が上昇した際にその影響が顕著となり、硬化材側では、例えば3価のアルミニウムによる増粘剤の凝集等、増粘剤の分子の拡散が抑えられてしまい、粘度が極端に低下してしまうことで、主材液と硬化材液とに粘度差が生じるものと考えられる。本発明の硬化材の増粘剤IIを天然多糖類誘導体とすることで、このような影響が抑えられるものと推定される。
【実施例0067】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で用いた材料、主材液及び硬化材液の調製方法、並びに各種測定・評価方法は以下のとおりである。
【0068】
[材料]
(主材液)
・石膏:II型無水石膏(ブレーン値:5700cm/g)
・石灰:特号消石灰(ブレーン値:12000cm/g)
・増粘剤1:hiメトローズ90SH-4000(信越化学工業(株)製、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、20℃における2質量%水溶液の粘度値:4000mPa・s、グリオキザール処理品)
・増粘剤4:HEADCEL HPK150MS(SKWイーストアジア(株)製、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、20℃における2質量%水溶液の粘度値:150000mPa・s)
・消泡剤:SNデフォーマ14HP(サンノプコ(株)製、ポリエーテル系消泡剤)
・水硬性セメント1:普通ポルトセメント(UBE三菱セメント(株)製)
・水:水道水
【0069】
(硬化材液)
・非晶質水酸化アルミニウム:乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末(メジアン径:84μm)
・アルカリ金属炭酸塩:ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)
・水硬性セメント2:セラメント((株)ディ・シィ製、高炉水砕スラグ微粉末)
・増粘剤1:hiメトローズ90SH-4000(信越化学工業(株)製、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、20℃における2質量%水溶液の粘度値:4000mPa・s、グリオキザール処理品)
・増粘材2:メトローズ90SH-50(信越化学工業(株)製、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、20℃における2質量%水溶液の粘度値:50mPa・s)
・増粘剤3:ESACOL HS30(SKWイーストアジア(株)製、グアガム系(天然多糖類誘導体))
・増粘剤4:HEADCEL HPK150MS(SKWイーストアジア(株)製、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、20℃における2質量%水溶液の粘度値:150000mPa・s)
・消泡剤:SNデフォーマ14HP(サンノプコ(株)製、ポリエーテル系消泡剤)
・水:水道水
【0070】
[主材液の調製方法]
20℃に調整した材料を使用し、それぞれ20℃の室内で石膏、石灰、表1に示す増粘剤I、消泡剤の混合物(ブレンドA)を水に分散させた後、水硬性セメント1を分散させ、撹拌して主材液を得た。
撹拌は、水中不分離性の測定の場合、マグネチックスターラーを用い、200mLのディスカップに長さ4cmのスターラーバーを入れ、主材液200mLの入った状態で、回転数650~750rpmの条件で行った。
主材液、硬化材液の流動性測定の場合、撹拌は、スリーワンモーターを用い、2Lの手付きビーカーに撹拌羽根を入れ、主材液1.2Lの入った状態で、回転数2000rpm程度の条件で行った。
主材液中の各成分の含有量は表1に示す通りとした。
【0071】
[硬化材液の調製方法]
20℃に調整した材料を使用し、20℃の室内で非晶質水酸化アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩を混合した材料(ブレンドB)、消泡剤、表1に示す増粘剤II、水硬性セメント2を混合した材料(ブレンドC)を水に分散させ、撹拌して硬化材液を得た(ブレンドB、ブレンドCを合わせたものを硬化材とする)。
撹拌は、水中不分離性確認の際は、マグネチックスターラーを用い、200mLのディスカップに長さ4cmのスターラーバーを入れ、硬化材液200mLの入った状態で、回転数650~750rpmの条件で行った。
主材液、硬化材液の流動性測定の場合、撹拌は、スリーワンモーターを用い、2Lの手付きビーカーに撹拌羽根を入れ、主材液1.2Lの入った状態で、回転数1900rpm程度の条件で行った。
硬化材液中の各成分の含有量は表1に示す通りとした。
【0072】
[水中不分離性の測定]
まず、20℃における上記調製で得られた主材液50mLと硬化材液50mLとをそれぞれ200mLディスカップA,Bに入れ、硬化材液の入ったディスカップBに主材液の全量を勢いよく入れた後、両液の混合液を直ちに主材液が入っていたディスカップAに移し替え、さらに2回移し替えを実施した後(合計4回移し替え)、直ちに、45°に傾けた500mLディスカップ(200mLの水が入ったもの)に流し込み、水中の薬液の状況を確認した。水中不分離性は以下の基準で評価した。
○:水と薬液が完全に分離している状態でカップ底まで到達した。
△:薬液表面部分でわずかに薬液の水中への分散あるがほぼ完全に分離している。
×:薬液が表層付近よりも広く水中に分散する部分があった。
××:薬液が水中に全体的に分散し、水が全体的に濁った。
【0073】
[流動性の測定]
コンクリート標準示方書(2007年制定)F.フレッシュコンクリート 16.PCグラウトの流動性試験方法に準拠して、JA漏斗を用い、20℃、25℃、30℃、35℃の各温度で、流出口からのグラウト流が初めて途切れるまでの流下時間をストップウォッチで測定した。
流動性の差が大きいと、以下の不具合が生じる。
(1)混合による増粘剤の水中不分離性が発生する前に水中への分散、水希釈が生じてしまう。
(2)主材液と硬化材液の流動性の差により、例えば主材液、硬化材液を等量づつ混ぜる場合、同能力のポンプで圧送する場合には主材液と硬化材液の送液量に差が出てしまう。
(3)主材液と硬化材液の流動性が異なると、流動性の差により両液の混ざりが悪くなり、水中での分散、水希釈を十分に防ぐことができない。
主材液と硬化材液との流動性の差は、以下の基準で評価した。
○:0秒以上3秒未満
△:3秒以上10秒未満
×:10秒以上
【0074】
[比重の測定]
100mLの容器に液を入れ、その重さから比重(g/cm)を測定した。
【0075】
[ゲル化時間(ゲルタイム)の測定]
主材液50mLと硬化材液50mLとをそれぞれ200mLディスカップA,Bに入れ、硬化材液の入ったディスカップBに主材液の全量を勢いよく入れた後、両液の混合液を直ちに主材液が入っていたディスカップAに移しかえ、さらに2回移し替えを実施した後(合計4回移し替え)、次いで、ディスカップAの様子を観察しながら、ディスカップAを45度傾けて、動かなくなるまでの時間を確認した。
【0076】
[実施例1~6及び比較例1~6]
実施例1~6及び比較例1~6では、それぞれ表1に示された成分、該成分の含有量で調製した主材液と硬化材液を用いて流動性、水中不分離性、比重を測定した。結果を表2に示す。
ゲルタイムについては、比較例1~6、実施例1~6いずれも10秒前後であった。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
比較例1、2より、増粘剤を含まないと水中不分離性が非常に低いことが確認された。
比較例3、4では増粘剤を主材液側のみ又は硬化材液側のみに添加したところ、主材液と硬化材液の流動性の差が大きく、水中不分離性は若干改善したものの十分ではない結果となった。そこで、更に主材液側のみ、硬化材液側のみの増粘剤を増やした比較例5、6では、水中不分離性は改善されたものの、増粘剤側の流動性が悪化し、主材液と硬化材液の流動性の差が極端に大きくなってしまい、ポンプ圧送の観点から好ましくない。
これに対して、実施例1~6では増粘剤を主材液、硬化材液の両方に分けて配合しており、主材液と硬化材液の流動性は改善するとともに、水中不分離性が更に改善された結果が得られた。おそらく、混合前の液自体に増粘剤が添加され、水への分散が抑えられていること、及び主材液と硬化材液の粘度が似通っているために主材液と硬化材液の均一混合性が向上したことが原因として考えられる。
また、特に実施例2では、水硬性セメントのうち、潜在水硬性を有する高炉水砕スラグを硬化材側に多く加えることで、主材液と硬化材液の比重が似通ったものとなり、ポンプ圧送性の主材液と硬化材液の差は更に良好になる。
また、実施例1~3より、温度が上がると主材液と硬化材液の粘度差が大きくなるが、実施例4より、硬化材側の増粘剤IIを天然多糖類誘導体とすることで、温度が上がった場合でも、主材液と硬化材液の流動性の差を小さくできることが確認された。これにより、温度が上昇した場合でも、安定したポンプ圧送性と、主材液と硬化材液の均一混合性の向上が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の硬化材、硬化材液、注入材液及びその製造方法は、例えば、地盤内の空隙、護岸堤防と地盤との空隙、液状化によって生じた空洞及びトンネル背面の空洞等に薬液を注入して地盤を補強、あるいは、止水をするために有用である。
【0081】
ただし、本発明の硬化材、硬化材液、注入材液及びその製造方法は、このような土質安定用薬剤としての用途に限らず、3Dプリンター用途等、その他の用途においても有効に応用することができる。