(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130214
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】鉄道保安制御装置及び制御システム
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H02J1/00 309R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039828
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 孝
【テーマコード(参考)】
5G165
【Fターム(参考)】
5G165BB05
5G165EA06
5G165GA09
5G165KA08
5G165KA09
(57)【要約】
【課題】電源装置の容量を小さくするために、鉄道保安制御装置における電源投入時の突入電流の最大値を簡易な制御で小さくすることができる技術を提供すること。
【解決手段】鉄道保安制御装置であるATC架10は、外部電源から電気が供給される制御用電源系統12及び動作用電源系統14と、制御用電源系統12の電源で動作する制御部であるFS-CPU26と、動作用電源系統14における電気の通流を開閉可能なスイッチ部30と、スイッチ部30の下流側に接続され、作動対象装置である軌道回路に対する出力動作がFS-CPU26によって制御される当該作動対象装置毎に用意された出力動作部である送信器32とを備える。FS-CPU26は、起動時に自己照査を行い、正常と判断した場合にスイッチ部30を閉制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源から電気が供給される制御用電源系統及び動作用電源系統と、
前記制御用電源系統の電源で動作する制御部と、
前記動作用電源系統における電気の通流を開閉可能なスイッチ部と、
前記動作用電源系統における前記スイッチ部の下流側に接続され、前記動作用電源系統の電源で動作し、作動対象装置に対する出力動作が前記制御部によって制御される当該作動対象装置毎に用意された出力動作部と、
を備え、
前記制御部は、起動時に自己照査を行い、正常と判断した場合に前記スイッチ部を閉制御する、
鉄道保安制御装置。
【請求項2】
前記動作用電源系統の消費電力は、前記制御用電源系統の消費電力より高い、
請求項1に記載の鉄道保安制御装置。
【請求項3】
前記作動対象装置は、軌道回路であり、
前記出力動作部は、N個(N≧2)の前記軌道回路それぞれに対応してN個用意され、対応する前記軌道回路に対する出力動作が前記制御部によって制御される、
請求項1に記載の鉄道保安制御装置。
【請求項4】
前記外部電源を共通とする請求項1~3の何れか一項に記載の鉄道保安制御装置を複数具備し、前記外部電源をオンすることで各鉄道保安制御装置が起動可能となる制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道保安制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ATC装置等の鉄道保安制御装置は、通常、機器室に多数の機器を設置して構成される。これらの機器に対して電源を供給する電源装置の数は、機器の数に比べて少ない。すなわち、数少ない電源装置が、負荷と言える多くの機器に対して電源を供給する構成となっている。装置全体を起動させる際には、数少ない電源装置が一斉に各機器に電源を供給するため、大きな突入電流が生じる。鉄道保安制御装置全体としての突入電流の総和の最大値が大きくなる結果、電源装置の容量も大きくせざるを得ないという問題があった。
【0003】
そこで、電源装置の容量を小さくするための従来技術の一例として、例えば、複数の負荷それぞれへの電源投入時間(タイミング)をずらす技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の複数の負荷それぞれへの電源投入時間(タイミング)をすらす従来技術では、負荷ごとの応答時間の差などから電源投入の順序を設定し、その順序に従って電源を順次投入するといった煩雑な制御が必要である。このため、より簡易な制御で、電源投入時の突入電流の最大値を小さくすることができる技術が望まれている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電源装置の容量を小さくするために、鉄道保安制御装置における電源投入時の突入電流の最大値を簡易な制御で小さくすることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
外部電源から電気が供給される制御用電源系統及び動作用電源系統と、
前記制御用電源系統の電源で動作する制御部と、
前記動作用電源系統における電気の通流を開閉可能なスイッチ部と、
前記動作用電源系統における前記スイッチ部の下流側に接続され、前記動作用電源系統の電源で動作し、作動対象装置に対する出力動作が前記制御部によって制御される当該作動対象装置毎に用意された出力動作部と、
を備え、
前記制御部は、起動時に自己照査を行い、正常と判断した場合に前記スイッチ部を閉制御する、
鉄道保安制御装置である。
【0008】
第1の発明によれば、鉄道保安制御装置における電源投入時の突入電流の最大値を簡易な制御で小さくすることができる。つまり、鉄道保安制御装置に外部電源から電気が供給されると、先ず、制御用電源系統の電源で動作する制御部が起動され、制御部は、その起動時に自己照査を行い、正常と判断した場合に動作用電源系統におけるスイッチ部を閉制御する。スイッチ部が閉制御された後にスイッチ部の下流側に接続された出力動作部に電源が投入されて起動される。このように、鉄道保安制御装置の電源投入時において、負荷である制御部と出力動作部との間で電源の投入タイミング、つまり突入電流が生じるタイミングが原理的に分散化することから、鉄道保安制御装置全体としての突入電流を抑制できる。その結果、外部電源の容量を小さくすることができる。また、制御部の起動時の自己照査の結果が正常でない(異常の)場合には、出力動作部に電源が投入されることがないため、不要な電力消費を抑制することもできる。
【0009】
第2の発明は、上述の発明において、
前記動作用電源系統の消費電力は、前記制御用電源系統の消費電力より高い、
鉄道保安制御装置である。
【0010】
第2の発明によれば、動作用電源系統の消費電力は制御用電源系統の消費電力より高い。このため、制御部と出力動作部との電源投入のタイミングの分散化を図ることは、装置全体としての突入電流の最大値の抑制に効果的であり、外部電源の容量をより小さくすることが可能となる。
【0011】
第3の発明は、上述の発明において、
前記作動対象装置は、軌道回路であり、
前記出力動作部は、N個(N≧2)の前記軌道回路それぞれに対応してN個用意され、対応する前記軌道回路に対する出力動作が前記制御部によって制御される、
鉄道保安制御装置である。
【0012】
第3の発明によれば、作動対象装置として複数(N個)の軌道回路それぞれに対する出力動作を行う鉄道保安制御装置に適用して突入電流の最大値を抑制し、外部電源の容量を小さくすることが可能である。
【0013】
第4の発明は、
前記外部電源を共通とする上述の発明の鉄道保安制御装置を複数具備し、前記外部電源をオンすることで各鉄道保安制御装置が起動可能となる制御システムである。
【0014】
例えば、機器室には複数の鉄道保安制御装置が設置され、当該機器室内の装置への電源は、共通の機器室電源(外部電源)から供給される場合が多い。第4の発明によれば、このような構成においては、鉄道保安制御装置ごとに、当該装置が備える制御部が自己照査を完了するまでの時間が異なり得るから、動作用電源系統のスイッチ部を閉制御するタイミングも異なり得る。これにより、突入電流の最大値を抑制し、共通の外部電源の容量を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0017】
[構成]
図1は、本実施形態における制御システムの一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における制御システム1は、複数の鉄道保安制御装置であるATC架10(10A,10B,・・・)を具備して構成される。これらのATC架10は、共通の外部電源9から電源が供給されており、外部電源9が投入されることで起動可能となる。また、ATC架10は、外部電源9や他の鉄道保安制御装置などとともに機器室に設置される。外部電源9は、制御システム1を含む機器室内に設置された機器全体に対して電源を安定して供給するための機器室電源であり、例えば、AC100Vの交流電源を供給する。
【0018】
1つのATC架10は、制御スイッチ24と、制御部であるFS-CPU(Fail Safe Central Processing Unit)26と、スイッチ部30と、出力動作部である複数の送信器32とを備えている。
【0019】
制御スイッチ24は、保守などの際に人為的にFS-CPU26への電源を投入/遮断するためのスイッチであり、制御システム1の管理者などによって手動で開閉(オンオフ)が制御される。この制御スイッチ24は、通常は閉状態(オン)となっている。
【0020】
FS-CPU26は、ATC装置の機能に係る各種制御を行う。具体的には、FS-CPU26は、軌道回路別に、当該軌道回路へ送信する送信信号を生成して当該軌道回路に対応する送信器32に出力し、当該送信器32にATC信号として当該軌道回路へ出力させる制御を行う。また、FS-CPU26は、詳細を後述するように、起動時に自己照査(正常動作の確認)を行い、正常と判断した場合にスイッチ部30を閉制御した後にATC装置の機能に係る制御を開始する。なお、FS-CPU26は、CPUのみではなく、ROM(Read Only memory)やRAM(Random Access Memory)、I/O(Input/Output)等の周辺回路を含む制御回路を有している。
【0021】
スイッチ部30は、外部電源9の遮断時(ATC架10の起動前)は開状態(オフ)となっており、外聞電源9の投入後(ATC架10の起動後)にFS-CPU26による制御によって閉状態(オン)となる。なお、スイッチ部30は、リレー回路(電磁的スイッチ)によって構成されるが、これに限らず、電気の通流を開閉可能であれば機械的スイッチ(物理的スイッチ)などの他の種類のスイッチによって構成されるとしてもよい。さらには、第2内部電源28にスイッチ部30の機能を内蔵させて一体として構成してもよい。
【0022】
送信器32は、作動対象装置に対する出力動作がFS-CPU26によって制御される出力動作部である。具体的には、FS-CPU26からの送信信号をパワーアンプで増幅等することでATC信号とし、作動対象装置である軌道回路にATC信号を出力する出力動作を行う。また、送信器32は、複数(N個。N≧2)の軌道回路それぞれに対応させて同数(N個)用意されており、対応する軌道回路に対する出力動作がFS-CPU26によって制御される。
【0023】
また、制御システム1は、外部電源9から供給される電源の電源系統として、制御用電源系統12と、動作用電源系統14とを備える。制御用電源系統12は、第1内部電源22により、例えば、外部電源9から供給されたAC100Vの交流電源がFS-CPU26を動作させるためのDC5Vの直流電源に変換されて供給される電源系統である。動作用電源系統14は、第2内部電源28により、例えば、外部電源9から供給されたAC100Vの交流電源が送信器32のパワーアンプを動作させるためのDC24Vの直流電源に変換されて供給される電源系統である。この例では、動作用電源系統14の電源電圧は、制御用電源系統12の電源電圧より高いが、これに限らず、動作用電源系統14の電源電圧は制御用電源系統12の電源電圧より低くてもよいし同じでもよい。
【0024】
また、FS-CPU26が有するCPUの消費電力は100W程度であるから、制御用電源系統12の消費電力は100W程度である。送信器32が有するパワーアンプの消費電力は10W程度であるが、1つのATC架10には30台程度の送信器32が実装される場合がある。そのため、動作用電源系統14の消費電力は300W程度となる。したがって、動作用電源系統14の消費電力は、制御用電源系統12の消費電力より高い。
【0025】
制御用電源系統12には、第1内部電源22に近い上流側から順に、制御スイッチ24と、FS-CPU26とが接続されている。制御部であるFS-CPU26は、制御用電源系統の電源で動作する。
【0026】
動作用電源系統14には、第2内部電源28に近い上流側から順に、動作用電源系統14における電気の通流を開閉可能なスイッチ部30と、複数の送信器32とが接続されている。送信器32は、動作用電源系統14の電源で動作する。なお、
図1では、1つのATC架10は1つのスイッチ部30を備えるとしているが、1又は複数の送信器32ごとにその上流側にスイッチ部30を備え、スイッチ部30ごとに開閉を制御することでその下流側の送信器32への電源の供給を制御するようにしてもよい。また、スイッチ部30を、第2内部電源28の一次側(上流側)に設けるとしてもよい。また、動作用電源系統14の電圧が外部電源9の出力電圧を同じ場合には、第2内部電源28を省略する構成としてもよい。
【0027】
[起動時の動作]
図2は、制御システム1の起動時におけるFS-CPU26の動作を説明するフローチャートである。制御システム1が具備する複数のATC架10それぞれのFS-CPU26は同様の動作を行うため、
図2では、1つのATC架10におけるFS-CPU26の動作を示している。制御システム1の起動時とは、例えば、一日の運行開始前や、停電等の何らかの障害からの復旧時などであり、外部電源9がオフ(遮断)の状態である。したがって、各機器(FS-CPU26や送信器32)には電源が供給されておらず停止している。
【0028】
先ず、制御システム1の管理者が、制御システム1を起動するために外部電源9を投入する(ステップS1)。これにより、ATC架10の電源系統である制御用電源系統12及び動作用電源系統14それぞれに外部電源9からの電源が供給される。制御スイッチ24は閉状態(オン)であるので、制御用電源系統の電源がFS-CPU26に供給されて起動する。一方、動作用電源系統14では、スイッチ部30が開状態(オフ)であるので、その下流側の送信器32には電源が供給されず停止したままである。
【0029】
起動されたFS-CPU26は、自己照査を行い(ステップS3)、正常と判断したならば(ステップS5:YES)、スイッチ部30を閉制御する(ステップS7)。これにより、動作用電源系統14の電源が送信器32に供給されて起動する。その後、FS-CPU26は、ATC装置の機能に係る制御(通常制御)を開始する(ステップS9)。つまり、軌道回路への送信信号を生成して対応する送信器32に出力し、ATC信号として当該軌道回路へ出力させる出力動作を行わせる制御を行う。これにより、制御システム1が起動することになる。
【0030】
一方、自己照査により正常でないと判断したならば(ステップS5:NO)、FS-CPU26は動作を停止する(ステップS11)。したがって、制御システム1は起動されない。スイッチ部30は開状態のままとなり、動作用電源系統14に電源が供給されることはない。
【0031】
[作用効果]
本実施形態によれば、鉄道保安制御装置における電源投入時の突入電流の最大値を簡易な制御で小さくすることができる。つまり、鉄道保安制御装置であるATC架10に外部電源9から電気が供給されると、先ず、制御用電源系統12の電源で動作する制御部であるFS-CPU26が起動され、FS-CPU26は、その起動時に自己照査を行い、正常と判断した場合に動作用電源系統14におけるスイッチ部30を閉制御する。スイッチ部30は常開形であるから、閉制御された後にスイッチ部30の下流側に接続された出力動作部である送信器32に電源が投入されて起動される。このように、ATC架10の電源投入時において、負荷であるFS-CPU26と送信器32との間で電源の投入タイミング、つまり突入電流が生じるタイミングが原理的に分散化することから、ATC架10全体としての突入電流を抑制でき、その結果、外部電源9の容量を小さくすることができる。
【0032】
また、外部電源9を共通とする複数のATC架10を具備する制御システム1では、ATC架10ごとに、FS-CPU26が自己照査を完了するまでの時間が異なり得るから、動作用電源系統14のスイッチ部30を閉制御するタイミングも異なり得る。これにより、制御システム1全体としての突入電流の最大値を抑制し、共通の外部電源9の容量を小さくすることが可能である。
【0033】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0034】
例えば、上述の実施形態では、鉄道保安制御装置をATC架10として適用した場合について説明したが、例えば、電子連動装置についても同様に適用可能である。この場合、作動対象装置は転てつ機や信号機などの現場機器となり、出力動作部はこの現場機器を制御する電子端末となる。
【符号の説明】
【0035】
1…制御システム
10…ATC架(鉄道保安制御装置)
22…第1内部電源
24…制御スイッチ
26…FS-CPU(制御部)
28…第2内部電源
30…スイッチ部
32…送信器(出力動作部)
12…制御用電源系統
14…動作用電源系統
9…外部電源