(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130222
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】情報指向ネットワークの転送装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 45/851 20220101AFI20240920BHJP
【FI】
H04L45/851
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039839
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 尭彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 一暁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 力
【テーマコード(参考)】
5K030
【Fターム(参考)】
5K030GA10
5K030JA11
5K030LB08
(57)【要約】
【課題】無線デバイスが移動しても要求オブジェクトを配信できる、ICNの転送装置を提供する。
【解決手段】転送装置は、要求オブジェクトの送信先装置を示す転送情報を管理する管理手段と、移動通信ネットワークの制御システムから第1転送装置と第1無線デバイスとを示す第1メッセージを受信した場合、前記第1無線デバイスを示す情報と、前記第1無線デバイスが前記送信先装置として前記転送情報に示されている第1要求オブジェクトを示す情報とを、前記第1転送装置に通知する通知処理と、前記転送情報における前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置を前記第1無線デバイスから前記第1転送装置に変更する変更処理と、を行う処理手段と、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報指向ネットワークの転送装置であって、
要求オブジェクトの送信先装置を示す転送情報を管理する管理手段と、
移動通信ネットワークの制御システムから第1転送装置と第1無線デバイスとを示す第1メッセージを受信した場合、前記第1無線デバイスを示す情報と、前記第1無線デバイスが前記送信先装置として前記転送情報に示されている第1要求オブジェクトを示す情報とを、前記第1転送装置に通知する通知処理と、前記転送情報における前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置を前記第1無線デバイスから前記第1転送装置に変更する変更処理と、を行う処理手段と、
を備えている転送装置。
【請求項2】
前記要求オブジェクトを含むデータパケットを受信した場合、前記転送情報に従い前記データパケットを送信する転送手段をさらに備え、
前記転送手段は、前記制御システムから前記第1メッセージを受信した後、かつ、前記処理手段が前記通知処理及び前記変更処理を完了する前に前記第1要求オブジェクトを含む第1データパケットを受信した場合、前記処理手段が前記通知処理及び前記変更処理を完了するまで前記第1データパケットを保持する、請求項1に記載の転送装置。
【請求項3】
前記転送情報は、前記要求オブジェクトを前記転送装置に送信する送信元装置をさらに示し、
前記処理手段は、前記制御システムから前記第1メッセージを受信した場合、前記通知処理において、前記第1無線デバイスが前記送信元装置として前記転送情報に示されている第2要求オブジェクトを前記第1転送装置に通知し、前記変更処理において、前記第2要求オブジェクトの前記送信元装置を前記第1無線デバイスから前記第1転送装置に変更する、請求項1に記載の転送装置。
【請求項4】
前記第1メッセージは、前記第1無線デバイスの移動により、前記第1無線デバイスが送受信するパケットを中継する装置を前記転送装置から前記第1転送装置に前記制御システムが変更する際に、前記制御システムによって送信される、請求項1に記載の転送装置。
【請求項5】
1つ以上のプロセッサを有する装置の前記1つ以上のプロセッサで実行されると、前記装置を請求項1から4のいずれか1項に記載の転送装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
情報指向ネットワークの転送装置であって、
要求オブジェクトの送信先装置を示す転送情報を管理する管理手段と、
他の転送装置から第1要求オブジェクトと、移動通信ネットワークの無線デバイスと、を示すメッセージを受信したことに応答して、前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置を前記転送情報に追加する追加処理を行う処理手段と、
を備え、
前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置は、前記他の転送装置又は前記無線デバイスである、転送装置。
【請求項7】
前記転送情報は、前記要求オブジェクトを前記転送装置に送信する送信元装置をさらに示し、
前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置が前記他の転送装置である場合、前記第1要求オブジェクトの前記送信元装置は前記無線デバイスであり、前記要求オブジェクトの前記送信先装置が前記無線デバイスである場合、前記第1要求オブジェクトの前記送信元装置は前記他の転送装置である、請求項6に記載の転送装置。
【請求項8】
前記メッセージは、前記無線デバイスの移動により、前記無線デバイスが送受信するパケットを中継する装置を前記他の転送装置から前記転送装置に前記移動通信ネットワークの制御システムが変更する際に、前記他の転送装置によって送信される、請求項6に記載の転送装置。
【請求項9】
前記無線デバイスの移動により、前記無線デバイスが送受信するパケットを中継する装置を前記他の転送装置から前記転送装置に変更することにより、前記無線デバイスのアドレスが変更される場合、前記転送装置は、前記制御システムから前記無線デバイスの変更後の前記アドレスを受信する、請求項8に記載の転送装置。
【請求項10】
情報指向ネットワークの転送装置であって、
要求オブジェクトの送信先装置及び送信元装置を示す転送情報を管理する管理手段と、
第1転送装置から第1要求オブジェクトと、第2転送装置と、移動通信ネットワークの無線デバイスと、を示すメッセージを受信したことに応答して、前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置及び前記送信元装置を前記転送情報に追加する追加処理を行う処理手段と、
を備え、
前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置は前記第2転送装置であり、前記第1要求オブジェクトの前記送信元装置は前記無線デバイスである、転送装置。
【請求項11】
1つ以上のプロセッサを有する装置の前記1つ以上のプロセッサで実行されると、前記装置を請求項6から10のいずれか1項に記載の転送装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報指向ネットワーク(ICN:Information Centric Networking)の転送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテンツを特定する名前等の識別子に基づきコンテンツの配信を行う情報指向ネットワーク(ICN)が提案されている。非特許文献1は、ICNの1つのタイプであるコンテンツ・セントリック・ネットワーク(CCN:Content Centric Networking)を開示している。以下、CCNを例にしてICNの説明を行う。
【0003】
CCNにおいて、コンテンツを公開するサーバ装置は、当該コンテンツを1つ以上のチャンクと呼ばれるオブジェクトに分割し、クライアント装置は、この分割されたオブジェクト単位でコンテンツを取得する。また、CCNにおいて、オブジェクトの転送を行った通信装置(以下、転送装置と呼ぶ。)は、当該オブジェクトを保持(キャッシュ)できる。この転送装置は、自装置がキャッシュしているオブジェクトを要求するインタレストパケット(要求パケット)をクライアント装置から受信すると、当該要求パケットをサーバ装置に向けて転送することなく、保持しているオブジェクトを含むデータパケットを、当該要求パケットの送信元のクライアント装置に向けて送信できる。
【0004】
転送装置は、CS(Contents Store)と、FIB(Forwarding Information Base)と、PIT(PIT:Pending Interest Table)と、を管理する。CSは、自装置がキャッシュしているオブジェクトを示す情報である。FIBは、要求パケットで要求されているオブジェクト(以下、要求オブジェクト)と、当該要求パケットを転送する(出力する)出力インタフェースとの関係を示す情報である。PITは、転送した要求パケットを受信した受信インタフェースと、当該要求パケットの要求オブジェクトと、の関係を示す情報である。
【0005】
なお、例えば、ICNのアンダーレイヤネットワークとしてIPネットワークを使用する場合、FIBにおける出力インタフェースは、要求パケットの転送先の装置のIPアドレスになり、PITにおける受信インタフェースは、要求パケットを送信してきた装置のIPアドレスとなる。言い換えると、ICNのアンダーレイヤネットワークとしてIPネットワークを使用する場合、FIBにおける出力インタフェースは、要求パケットのIPレイヤにおける転送経路において1つ後の装置(次ホップの装置)を示すものとなり、PITにおける受信インタフェースは、要求パケットのIPレイヤにおける転送経路において1つ前の装置(前ホップの装置)を示すものとなる。
【0006】
転送装置は、要求パケットを受信すると、CSを検索し、当該要求パケットの要求オブジェクトをキャッシュしているか否かを判定する。要求オブジェクトをキャッシュしている場合、転送装置は、キャッシュしている要求オブジェクトを含むデータパケットを、当該要求パケットを送信してきた装置に送信する。要求オブジェクトをキャッシュしていない場合、転送装置は、要求オブジェクトのエントリがPITにあるか否かを判定する。要求オブジェクトのエントリがPITにない場合、転送装置は、FIBに基づき要求パケットを転送すると共に、転送した要求パケットの要求オブジェクトのエントリをPITに追加する。当該エントリは、転送した要求パケットの要求オブジェクトと、当該要求パケットの受信インタフェース又は当該要求パケットの前ホップの装置と、を示す。この様に、CCNにおいてPITには、受信待ち状態の要求オブジェクトが記録される。受信した要求パケットの要求オブジェクトのエントリがPITにある場合、転送装置は、受信した要求パケットを転送せず、当該要求パケットの受信インタフェース又は当該要求パケットの前ホップの装置を、既にあるエントリに追加する。
【0007】
転送装置は、要求オブジェクトを含むデータパケットを受信すると、当該データパケットの転送先をPITに基づき判定する。転送先は、当該要求オブジェクトの要求パケットを受信したインタフェース又は当該要求パケットの前ホップの装置である。転送装置は、要求オブジェクトを含むデータパケットを転送すると、当該要求オブジェクトのエントリをPITから削除する。また、転送装置は、データパケットに含まれる要求オブジェクトをキャッシュするとCSを更新する。この様に、ICNにおいて、要求オブジェクトは、要求パケットと同じ経路を逆方向に転送される。
【0008】
非特許文献2は、ICNを移動通信ネットワークに適用することを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】V.Jacobson,et al.,"Networking Named Content",in Proceedings of ACM CoNEXT 2009,2009年12月
【非特許文献2】J.Auge et.al.,"Anchorless mobility management through hICN (hICN-AMM): Deployment options",Internet-draft,IETF,2020年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図1は、移動通信ネットワークにICNを適用した場合のシステム構成例を示している。無線アクセスネットワーク(RAN)2は、複数の基地局を含み、無線デバイス(WD)1と無線で通信する。ユーザプレーン機能(UPF)3は、WD1とのPDUセッションを終端する。PDUセッションは、WD1とUPF3とを接続する仮想的な伝送路である。WD1は、PDUセッション上でパケットを送受信する。以下の説明において、WD1との間でPDUセッションを確立しているUPF3を、当該WD1に関連付けられたUPF3とも表記する。
【0011】
ICN4は、複数の転送装置を含む。転送装置は、ICNルータとも呼ばれ得る。転送装置は、UPF3に接続するエッジICNルータ(ER)40と、それ以外のICNルータ(R)41に分類され得る。以下の説明において、UPF3に接続されるER40を、当該UPF3に関連付けられたER40とも表記する。さらに、WD1に関連付けられたUPF3に関連付けられたER40を、当該WD1に関連付けられたER40とも表記する。WD1がICN4との間で送受信するパケットは、WD1に関連付けられたUPF3及びER40を介して中継される。また、ICN4は、インターネット等のデータネットワーク(DN)51、52に接続され得る。
【0012】
なお、
図1では、3つのUPF3を示しているが、UPF3の数は3に限定されない。また、
図1において、ICN40は、2つのDN51及び52に接続しているが、ICN40が接続するDNの数は、1以上の任意の数であり得る。さらに、
図1では、3つのUPF3に接続する3つのER40と、2つのDN51及び52に接続する2つのR41のみを示しているが、ICN4は、他のICNルータを含み得る。なお、ICN4は、IPネットワークをアンダーレイヤネットワークとして使用しているものとする。
【0013】
図2(A)は、WD#1がICN4を介してコンテンツを取得する処理の説明図である。
図2(A)において、WD#1は、基地局(BS)#1を介してUPF#1との間でPDUセッションを確立しているものとする。なお、UPF#1は、ER#1に接続されている。したがって、UPF#1及びER#1は、WD#1に関連付けられたUPF3及びER40である。
【0014】
図3(A)は、WD#1がオブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する3つの要求パケットを送信し、ER#1がFIBに従い3つの要求パケットをR#3に転送した際にER#1が保持しているPITを示している。なお、オブジェクトOB#1~OB#3についてはR#3から受信していないものとする。各エントリにおいて、"前ホップ"フィールドには、要求パケットをER#1に送信したIPレイヤにおける1つ前のホップであるWD#1を特定する情報、例えば、WD#1のIPアドレスが記録される。例えば、ER#1がR#3からオブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信すると、ER#1は、PITに従い当該データパケットをWD#1に転送し、オブジェクトOB#1のエントリをPITから削除する。
【0015】
図3(B)は、
図3(A)の状態から図示しないWD#2がオブジェクトOB#1及びOB#2それぞれを要求する2つの要求パケットを送信した状態を示している。なお、WD#2もUPF#1との間でPDUセッションを確立しているものとする。PITにオブジェクトOB#1及びOB#2のエントリが有るため、ER#1は、WD#2から受信した要求パケットを転送しないが、PITのオブジェクトOB#1及びOB#2のエントリの"前ホップ"フィールドにWD#2を特定する情報を追加している。この場合、例えば、ER#1がR#3からオブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信すると、ER#1は、PITに従い当該データパケットをWD#1及びWD#2に転送し、オブジェクトOB#1のエントリをPITから削除する。
【0016】
ここで、
図2(A)に示す様に、オブジェクトOB#1~OB#3がWD#1に配信される前に、WD#1の移動により、WD#1がBS#2を介してUPF#2とPDUセッションを確立する状態になったものとする。なお、UPF#2は、ER#1ではなくER#2に接続されているものとする。ER#1は、オブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信した場合、PITに従い、宛先をWD#1のアドレスとして当該データパケットをUPF#1に出力するが、UPF#1とWD#1とのPDUセッションがないため当該データパケットはWD#1に配信されない。つまり、オブジェクトOB#1~OB#3はWD#1に配信されない。したがって、WD#1は、再度、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する3つの要求パケットをER#2に送信しなければならない。
【0017】
上記の問題は、WD#1がコンテンツを取得するのではなく、コンテンツを配信する場合にも生じる。
図2(B)は、WD#1がICN4を介してコンテンツを配信する処理の説明図である。なお、接続関係は
図2(A)と同様であるものとする。
図3(C)は、ER#1がR#3からオブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する3つの要求パケットを受信し、ER#1がFIBに従い3つの要求パケットをWD#1に転送した際にER#1が保持しているPITを示している。なお、オブジェクトOB#1~OB#3は未配信であるものとする。各エントリにおいて、"前ホップ"フィールドには、要求パケットをER#1に送信したIPレイヤにおける1つ前のホップであるR#3を特定する情報、例えば、R#3のIPアドレスが記録される。例えば、ER#1がWD#1からオブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信すると、ER#1は、PITに従い当該データパケットをR#3に転送し、オブジェクトOB#1のエントリをPITから削除する。
【0018】
ここで、
図2(B)に示す様に、オブジェクトOB#1~OB#3をWD#1が配信する前に、WD#1の移動により、WD#1がBS#2を介してUPF#2とPDUセッションを確立する状態になったものとする。WD#1が送信するオブジェクトOB#1~OB#3を含むデータパケットはER#2には届くが、ER#2のPITには、オブジェクトOB#1~OB#3のエントリがないため、ER#2は、これらのデータパケットを廃棄する。したがって、オブジェクトOB#1~OB#3は、これらを要求したクライアント装置には配信されない。したがって、当該クライアント装置は、オブジェクトOB#1~OB#3を要求する要求パケットを再送する。
【0019】
本開示は、無線デバイスが移動しても要求オブジェクトを配信できる、ICNの転送装置及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示の一態様によると、情報指向ネットワークの転送装置は、要求オブジェクトの送信先装置を示す転送情報を管理する管理手段と、移動通信ネットワークの制御システムから第1転送装置と第1無線デバイスとを示す第1メッセージを受信した場合、前記第1無線デバイスを示す情報と、前記第1無線デバイスが前記送信先装置として前記転送情報に示されている第1要求オブジェクトを示す情報とを、前記第1転送装置に通知する通知処理と、前記転送情報における前記第1要求オブジェクトの前記送信先装置を前記第1無線デバイスから前記第1転送装置に変更する変更処理と、を行う処理手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0021】
本開示によると、無線デバイスが移動しても要求オブジェクトを配信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ICNを移動通信ネットワークに適用した場合の構成例を示す図。
【
図2】ICNを移動通信ネットワークに適用した場合におけるコンテン配信例を示す図。
【
図3】
図2のER#1が保持するPITの例を示す図。
【
図5】幾つかの実施形態による、無線デバイスがコンテンツを取得する際のシーケンス図。
【
図6】
図5のシーケンスにおいてエッジICNルータが保持するPITの例を示す図。
【
図7】幾つかの実施形態による、無線デバイスがコンテンツを配信する際のシーケンス図。
【
図8】
図7のシーケンスにおいてエッジICNルータが保持するPITの例を示す図。
【
図9】幾つかの実施形態による、無線デバイスが新たなPDUセッションを確立した後のコンテンツの配信経路を示す図。
【
図10】幾つかの実施形態による、転送装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0024】
図4は、本実施形態の説明に使用するシステム構成を示している。なお、
図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付与してその説明については省略する。制御システム6は、移動通信ネットワークの制御プレーン(CP)の各ネットワーク機能(NF)の総称である。NFの例は、WD1のモビリティを管理するアクセス及びモビリティ管理機能(AMF)、PDUセッションを管理するセッション管理機能(SMF)、ポリシーを制御するポリシー制御機能(PCF)等である。
【0025】
以下、
図2(A)及び
図2(B)に示す様に、WD#1がUPF#1との間でPDUセッションを確立している状態から、WD#1の移動により、UPF#1との間のPDUセッションが削除され、代わりに、UPF#2との間でPDUセッションを確立する状態になった場合を例にして本実施形態を説明する。なお、
図2(A)及び
図2(B)に示す様に、UPF#1はER#1に接続され、UPF#2はER#2に接続されているものとする。
【0026】
図5は、WD#1がICN4を介してコンテンツを取得している場合の処理のシーケンス図である。なお、処理の開始時において、WD#1は、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する3つの要求パケットを送信し、ER#1がFIBに従い3つの要求パケットをR#3に転送しているものとする。
図6(A)は、処理の開始時点においてER#1が保持しているPITを示している。なお、
図6(A)では、UPF#1との間でPDUセッションを確立している図示しないWD#2もオブジェクトOB#1及びOB#2それぞれを要求する2つの要求パケットを送信しているものとする。PITは、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれのエントリを有する。PITの"前ホップ"フィールドは、
図3(B)と同様である。本実施形態では、PITに"次ホップ"フィールドを設ける。"次ホップ"フィールドには、要求パケットの転送先の装置を特定する情報、例えば、転送先の装置のIPアドレスが記録される。
図5(A)によると、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する要求パケットは、いずれも、R#3に転送されている。
【0027】
制御システム6は、移動通信ネットワークにおけるWD#1の位置を管理している。制御システム6は、WD#1がBS#1のセルからBS#2のセルに移動することを検知すると、WD#1のPDUセッションの終端先を、UPF#1からUPF#2に切り替えると判定し、PDUセッションを切り替える切替処理を開始する。また、制御システム6は、当該切替処理により、WD#1に関連付けられたERが、ER#1からER#2に変更されることを判定する。この判定に応じて、制御システム6は、S1において、WD#1に関連付けられているER#1に対して変更通知メッセージを送信する。変更通知メッセージは、PDUセッションの変更対象であるWD#1を示す情報と、PDUセッションの変更によりWD#1に新たに関連付けられるER#2を示す情報と、を含む。
【0028】
変更通知メッセージに応答して、ER#1は、WD#1へのデータパケットの転送を中断する。例えば、ER#1は、
図6(B)に示す様に、PITエントリの"前ホップ"フィールドのWD#1を示す情報にフラグをたてる(
図6(B)では下線で表現)ことで、WD#1へのデータパケットの転送を中断する。例えば、
図6(B)の状態において、オブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信すると、ER#1は、PITに従い、当該データパケットをWD#2に配信するが、WD#1への配信については保留する。また、当該データパケットのWD#2への配信により、PITのオブジェクトOB#1に関するエントリの"前ホップ"フィールドからWD#2を示す情報を削除するが、WD#1への配信を保留しているためオブジェクトOB#1に関するエントリについては削除しない。また、ER#1は、オブジェクトOB#1を含むデータパケットをバッファ(又は、キャッシュ)する。
【0029】
続いて、ER#1は、ER#2に対して、第1PITエントリ作成メッセージを送信する。第1PITエントリ作成メッセージは、ER#2に作成を指示するPITのエントリのオブジェクトと、当該エントリの"前ホップ"フィールドに格納する装置と、を示す。ER#2に作成を指示するPITのエントリのオブジェクトは、ER#1のPITの各エントリの内の"前ホップ"フィールドに、PDUセッションの切り替え対象であるWD#1が含まれているオブジェクトである。つまり、
図6(B)では、オブジェクトOB#1~OB#3である。なお、作成するエントリの"前ホップ"フィールドに格納する装置はPDUセッションの切り替え対象であるWD#1である。ER#2は、作成したエントリの"次ホップ"フィールドに、第1PITエントリ作成メッセージの送信元であるER#1を示す情報を格納する。したがって、ER#2は、S6で、
図6(D)に示すエントリをPITに追加する。
【0030】
続いて、ER#1は、S4で、自身のPITを修正する。具体的には、
図6(C)に示す様に、"前ホップ"フィールドのWD#1を示す情報を、PDUセッションに新たに関連付けられるER#2を示す情報に変更する。データパケットの転送を中断していたWD#1の情報がPITから削除されたため、ER#1が行っていた転送中断はこの削除により終了する。なお、ER#1は、自身のPITを修正するまでに受信し、バッファ(又はキャッシュ)していたWD#1宛のデータパケットについては、修正後のPITに従いER#2に転送する。
【0031】
処理の終了時点において、ER#1は
図6(C)に示すPITを保持し、ER#2は
図6(D)に示すエントリを保持している。したがって、ER#1は、
図9(A)に示す様に、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを含むデータパケットをER#2に転送し、ER#2は、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを含むデータパケットをWD#1に転送する。これにより、WD#1が移動しても、要求パケットの再送無しにデータパケットをWD#1に配信することができる。
【0032】
なお、WD#1のPDUセッションを終端する装置がUPF#1からUPF#2に変更された際にWD#1のIPアドレスも変更される場合がある。この様な場合、制御システム6は、S5で、ER#2にWD#1の新しいIPアドレスを通知する。この場合、ER#2が作成するPITエントリの"前ホップ"フィールドには、WD#1の新しいIPアドレスが格納される。
【0033】
図7は、WD#1がICN4を介してコンテンツを配信している場合の処理のシーケンス図である。なお、処理の開始時において、ER#1は、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する3つの要求パケットをR#3から受信し、FIBに従い3つの要求パケットをWD#1に転送しているものとする。
図8(A)は、処理の開始時点においてER#1が保持しているPITを示している。PITは、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれのエントリを有する。PITの"前ホップ"フィールドは、
図3(C)と同様である。本実施形態では、PITに"次ホップ"フィールドを設ける。"次ホップ"フィールドには、要求パケットの転送先の装置を特定する情報、例えば、転送先の装置のIPアドレスが記録される。
図7(A)によると、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを要求する要求パケットは、いずれも、WD#1に転送されている。
【0034】
図5のS1と同様に、制御システム6は、S10において、ER#1に対して変更通知メッセージを送信する。変更通知メッセージは、PDUセッションの変更対象であるWD#1を示す情報と、PDUセッションの変更によりWD#1に新たに関連付けられるER#2を示す情報と、を含む。変更通知メッセージ応答して、ER#1は、S11において、ER#2に対して、第2PITエントリ作成メッセージを送信する。第2PITエントリ作成メッセージは、ER#2に作成を指示するPITのエントリのオブジェクトと、当該エントリの"次ホップ"フィールドに格納する装置と、を示す。ER#2に作成を指示するPITのエントリのオブジェクトは、ER#1のPITの各エントリの内の"次ホップ"フィールドに、PDUセッションの切り替え対象であるWD#1が含まれているオブジェクトである。つまり、
図8(A)では、オブジェクトOB#1~OB#3である。なお、作成するエントリの"次ホップ"フィールドに格納する装置はPDUセッションの切り替え対象であるWD#1である。ER#2は、作成したエントリの"前ホップ"フィールドに、第2PITエントリ作成メッセージの送信元であるER#1を示す情報を格納する。したがって、ER#2は、S14で、
図8(C)に示すエントリをPITに追加する。
【0035】
続いて、ER#1は、S12で、自身のPITを修正する。具体的には、
図8(B)に示す様に、"次ホップ"フィールドのWD#1を示す情報を、新しくWD#1に関連付けられるER#2を示す情報に変更する。処理の終了時点において、ER#1は
図8(B)に示すPITを保持し、ER#2は
図8(C)に示すエントリを保持している。したがって、ER#2は、
図9(B)に示す様に、WD#1から受信するオブジェクトOB#1~OB#3それぞれを含むデータパケットをER#1に転送し、ER#1は、オブジェクトOB#1~OB#3それぞれを含むデータパケットをR#3に転送する。これにより、WD#1が移動しても、要求パケットの再送無しにデータパケットをWD#1から配信することができる。
【0036】
なお、WD#1のPDUセッションを終端する装置がUPF#1からUPF#2に変更された際にWD#1のIPアドレスも変更される場合がある。この様な場合、制御システム6は、S13で、ER#2にWD#1の新しいIPアドレスを通知する。この場合、ER#2が作成するPITエントリの"次ホップ"フィールドには、WD#1の新しいIPアドレスが格納される。
【0037】
また、本実施形態において、WD#1は、あるPDUセッションで受信した要求パケットの応答としての要求オブジェクトを、当該PDUセッションとは別のPDUセッションで送信する場合、当該要求オブジェクトを搬送するデータパケットのヘッダに、異なるPDUセッションで送信していることを示すフラグを設定する様に構成される。したがって、WD#1は、UPF#2との間で新しく確立したPDUセッションでオブジェクトOB#1~OB#3それぞれを含むデータパケットを送信する場合、これらデータパケットのヘッダにフラグを設定する。また、本実施形態において、ER40は、受信したデータパケットのヘッダにフラグが設定されている場合、当該データパケットが搬送している要求オブジェクトのエントリがPITになくても、所定期間、当該データパケットをバッファ(又はキャッシュ)する様に構成される。したがって、ER#2は、例えば、S14でPITエントリを作成する前に、WD#1からオブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信しても、当該データパケットを廃棄せず、S14でPITエントリを作成後、当該エントリに従い、オブジェクトOB#1を含むデータパケットを転送する。
【0038】
また、例えば、
図7のS11でER#1が送信する第2PITエントリ作成メッセージに、ER#2に作成を指示するPITのエントリの"前ホップ"フィールドに格納する装置として、ER#1の"前ホップ"フィールドに格納されているR3を通知する構成とすることもできる。この場合、ER#2は、S14で、
図8(C)の"前ホップ"フィールドにR#3が格納されたPITエントリを作成する。また、ER#1は、S12で、WD#1に関するPITのエントリを削除する。この場合、ER#2は、WD#1からオブジェクトOB#1を含むデータパケットを受信すると、当該データパケットを、直接、R#3に送信する。IPネットワークをアンダーレイヤネットワークとして使用している場合、ICN4内の装置は、IPアドレスにより相互にパケットの送受信が可能であるためデータパケットを中継する装置を削減することができる。
【0039】
なお、本実施形態において、PITで次ホップフィールドを管理するのは、WD#1がコンテンツを配信する形態に対応するためである。つまり、
図7のシーケンスで述べると、ER#2に作成を指示するエントリの要求オブジェクトをER#1が判定するためである。したがって、WD#1がコンテンツを取得するのみであり、コンテンツの配信を行わない形態においては、PITにおいて次ホップフィールドを管理する必要はない。
【0040】
図10は、ER40の構成図である。通信インタフェース404は、ER40に設けられた1つ以上の通信インタフェースの総称である。管理部401は、CS、FIB、PITを管理する。PITは、上述した様に、要求オブジェクトの送信先装置(転送先装置)を示す情報であり、本実施形態では"転送情報"としても参照される。
【0041】
処理部403は、移動通信ネットワークの制御システム6から、第1転送装置と第1無線デバイスとを示す第1メッセージを受信した場合、以下に説明する通知処理と、変更処理と、を行う。なお、第1メッセージは、
図5のS1や
図7のS10における変更通知メッセージに対応する。通知処理は、第1無線デバイスを示す情報と、第1無線デバイスが送信先装置として転送情報に示されている第1要求オブジェクトを示す情報とを、第1転送装置に通知する処理である。これは、
図5のS3の処理に対応する。変更処理は、転送情報における第1要求オブジェクトの送信先装置を第1無線デバイスから第1転送装置に変更する処理である。これは、
図5のS4の処理に対応する。
【0042】
なお、転送情報は、要求オブジェクトを転送装置に送信する送信元装置をさらに示し得る。要求オブジェクトを転送装置に送信する送信元装置は、PITの次ホップフィールドに示される。また、処理部403は、制御システムから第1メッセージを受信した場合、通知処理において、第1無線デバイスが送信元装置として転送情報に示されている第2要求オブジェクトをさらに第1転送装置に通知する。これは、
図7のS11の処理に対応する。さらに、処理部403は、変更処理において、第2要求オブジェクトの送信元装置を第1無線デバイスから第1転送装置に変更する。これは、
図7のS12の処理に対応する。なお、
図5及び
図7では、第1PITエントリ作成メッセージと第2PITエントリ作成メッセージを異なるメッセージとしていたが、1つの作成メッセージで第1転送装置に作成するエントリを通知する構成であっても良い。言い換えると、制御システム6から変更通知メッセージを受信したことに応答して、
図5及び
図7の処理を纏めて行う構成とすることができる。
【0043】
転送部402は、管理部401が管理している情報に基づき要求パケットやデータパケットの転送を行う。なお、転送部402は、制御システムから第1メッセージを受信した後で、かつ、処理部403が通知処理及び変更処理を完了する前に第1要求オブジェクトを含む第1データパケットを受信した場合、処理部403が通知処理及び変更処理を完了するまで第1データパケットを保持する。
【0044】
また、処理部403は、他の転送装置から、移動通信ネットワークの無線デバイスを示す情報と共に、第1要求オブジェクトや第2要求オブジェクトを追加することを示すメッセージを受信すると、第1要求オブジェクトや第2要求オブジェクトを転送情報に追加する追加処理を行う。第1要求オブジェクトの送信先装置は当該無線デバイスであり、送信元装置は当該他の転送装置である。第2要求オブジェクトの送信先装置は当該他の転送装置であり、送信元装置は当該無線デバイスである。
【0045】
なお、転送部402は、データパケットのヘッダに所定のフラグが設定されている場合、データパケットが搬送する要求オブジェクトのエントリが転送情報になくても、少なくとも所定期間だけ当該データパケットを保持する様に構成される。
【0046】
本開示によるER40は、1つ以上のプロセッサを有する装置の当該1つ以上のプロセッサで実行されると、当該装置をER40として動作させるコンピュータプログラムにより実現することができる。これらコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0047】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【0048】
以上の構成により、無線デバイスが移動しても要求オブジェクトを配信することができる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
401:管理部、403:処理部