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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130232
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ケース付きボンド磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20240920BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20240920BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240920BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F7/02 A
H01F1/08 130
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039854
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔平
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018BA18
4K018KA46
5E040AA03
5E040AA06
5E040BB03
5E040CA01
5E040NN04
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】ケース付きボンド磁石において、磁石表面のケースとの非接触面に所定の膜厚を有する防錆被膜を安定的に形成することを可能にする。
【解決手段】希土類磁石粉末を樹脂バインダで結合してなるボンド磁石1と、隙間Gaを介してボンド磁石1を収容したケース2と、樹脂製の封止材3とを備え、隙間Ga、及びケース2のうちボンド磁石1の挿入開口部2aで硬化した封止材3からなる防錆被膜4によりボンド磁石1が密封されたケース付きボンド磁石Aであって、封止材3は、硬化前の常温下での粘度が0.01~1Pa・sであり、ボンド磁石1の空隙率が14%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石粉末を樹脂バインダで結合してなるボンド磁石と、隙間を介して前記ボンド磁石を収容したケースと、封止材とを備え、
前記隙間、及び前記ケースのうち前記ボンド磁石の挿入開口部で硬化した前記封止材により前記ボンド磁石が密封されたケース付きボンド磁石であって、
前記封止材は、硬化前の常温下での粘度が0.01~1Pa・sであり、
前記ボンド磁石は、その空隙率が14%以下であることを特徴とするケース付きボンド磁石。
【請求項2】
前記ケースは、非磁性金属を主成分とする金属焼結体からなり、その空隙率が20%以下である請求項1に記載のケース付きボンド磁石。
【請求項3】
前記ボンド磁石は、前記希土類磁石粉末と前記樹脂バインダとを含むコンパウンドを成形材料とした成形品であり、前記コンパウンドに占める前記希土類磁石粉末の体積比率が85%以上90%以下であると共に、前記コンパウンドに占める前記樹脂バインダの粉末の体積比率が10%以上15%以下である請求項1又は2に記載のケース付きボンド磁石。
【請求項4】
前記ボンド磁石の空隙率が10%以下である請求項1又は2に記載のケース付きボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース付きボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂やポリアミド樹脂等の樹脂バインダを用いて磁石粉末を結合したボンド磁石がある。このボンド磁石は、樹脂バインダを含む分、バインダレスの焼結磁石に比べて磁気特性には劣る反面、形状自由度が高い、寸法精度や耐欠け性等に優れる、などという利点がある。ボンド磁石の用途例としては、車載用ポンプに設けられる流量調整弁の開閉度を非接触で検出する角度センサのセンサ磁石や、産業用ロボットの駆動モータの回転角を非接触で検出する角度センサ(回転角検出センサ)のセンサ磁石などがある。
【0003】
酸化腐食し易い(錆び易い)希土類元素を含むボンド磁石(希土類ボンド磁石)を高温多湿環境や腐食性環境下で使用する場合には、酸化腐食等による磁気特性の劣化を防止するための対策が講じられる。磁気特性の劣化防止対策の一例として、樹脂塗膜やニッケルメッキ膜等の防錆被膜を磁石表面に形成することが考えられる。例えば下記の特許文献1には、溶融状態の防錆熱硬化性樹脂への浸漬、乾燥(硬化)を2~6回繰り返して行うことにより、ボンド磁石内の空隙(ボンド磁石の内部気孔)に上記樹脂を含浸させると共に、当該ボンド磁石表面に上記樹脂からなる0.005~0.05mmの防錆被膜を形成する、という技術手段が記載されている。
【0004】
ところで、磁気特性に優れたボンド磁石を実現すべく、磁石形成用の原料粉末(コンパウンド)に占める磁石粉末の配合量(配合割合)を増加させる一方で樹脂バインダの配合量を減少させるような場合には、ボンド磁石自体の強度低下が避けられない。そのため、このような場合、ボンド磁石は、好ましくは非磁性材料からなるケースに収容・固定された状態で使用される。例えば下記の特許文献2では、希土類ボンド磁石の圧粉体を収容したケースの挿入開口部に溶融状態の封止材(熱硬化性樹脂)を供給した後、ボンド磁石の樹脂バインダと上記封止材とを併せて熱硬化させることにより、ケースの挿入開口部を封止材で封口し、ボンド磁石を完成品に仕上げることが記載されている。ケースの挿入開口部が封止材で封口されると、ケースに対してボンド磁石が固定されると共に、ボンド磁石のうち外気への露出面(ケースとの非接触面)が封止材で封止(被覆)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-260943号公報
【特許文献2】特許第6258689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浸漬及び乾燥を複数回繰り返すことによってボンド磁石表面に防錆被膜を形成する特許文献1の方法では、防錆被膜の形成に多大な工数が掛かる。防錆被膜の形成時には、浸漬以外の方法、例えば電着塗装、静電塗装、又はスプレー塗装なども採用できるが、これらの方法も多くの工数を要する点では変わらない。
【0007】
これに対し、特許文献2に記載の方法では、ボンド磁石の防錆処理と、ケースに対するボンド磁石の固定作業とが実質的に同時に行われるので、ケース付きボンド磁石の製造コスト低減には有利である。しかしながら、ケースの開口を封口する樹脂製封止材の粘度等によっては、封止材がボンド磁石内部に浸透する、封止材がケースとボンド磁石の間(に形成される隙間)に適切に充填されない、などといった事態が生じ、磁石表面のうちケースとの非接触面)に所定膜厚の防錆被膜を形成することができないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、ケース付きボンド磁石において、磁石表面のうちケースとの非接触面に所定の膜厚を有する防錆被膜を安定的に形成することを可能とし、これにより高い防錆性及び磁気特性を兼ね備えたケース付ボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、希土類磁石粉末を樹脂バインダで結合してなるボンド磁石と、隙間を介して上記ボンド磁石を収容したケースと、樹脂製の封止材とを備え、
上記隙間、及び上記ケースのうち上記ボンド磁石の挿入開口部で硬化した上記封止材により上記ボンド磁石が密封されたケース付きボンド磁石であって、
上記封止材は、硬化前の常温下での粘度が0.01~1Pa・sであり、
上記ボンド磁石の空隙率が14%以下であることを特徴とする。
なお、「ボンド磁石の空隙率」とは、ボンド磁石全体の体積に対するボンド磁石中に存在する空隙(内部気孔)の体積の比の百分率であり、例えばボンド磁石の相対密度を算出し、算出した相対密度を下式(1)に代入することによって算出することができる。
空隙率[%]=(1-相対密度)×100 ・・・(1)
【0010】
上記のように、封止材として、硬化前の常温下での粘度が0.01~1Pa・sのものを使用し、また、ボンド磁石の空隙率を14%以下にしておけば、ボンド磁石の空隙(内部気孔)への封止材の浸透を抑制しつつ、ボンド磁石とケースの間に設けられる隙間全域、及びケースの挿入開口部全域に封止材を満遍なく行き渡らせることができる。これにより、所定の膜厚を有する防錆被膜を磁石表面のケースとの非接触面に安定的に形成することが可能になるので、防錆性、さらには磁気特性に優れたケース付きボンド磁石を実現することができる。
【0011】
ケースとしては、ボンド磁石から発生する磁力線に影響を及ぼさない非磁性金属又は樹脂からなるケースを使用するのが好ましく、ケースの強度や量産性を考慮すると、非磁性金属(例えば、SUS304等のオーステナイト系のステンレス鋼)を主成分とする金属焼結体からなるケースを使用するのが好ましい。但し、金属焼結体は無数の内部気孔を有する多孔質体であることから、その空隙率が高過ぎるとケース内に多くの封止材が浸透してしまい、所定膜厚の防錆被膜を得ることができなくなる懸念がある。そのため、金属焼結体製のケースを使用する場合、その空隙率は20%以下とするのが好ましい。なお、ケースの空隙率は、前述した「ボンド磁石の空隙率」と同様に上記の式(1)に基づいて算出することができる。
【0012】
ボンド磁石は、上記の希土類磁石粉末と樹脂バインダとを含むコンパウンド(混合粉末)を成形材料とする成形品とされる。ここで言う「成形品」とは、圧縮成形品及び射出成形品の双方を含む概念である。この場合、高い磁気特性及び強度を両立させるには、コンパウンドに占める希土類磁石粉末の体積比率を85%以上90%以下にすると共に、コンパウンドに占める樹脂バインダの粉末の体積比率を10%以上15%以下にするのが好ましい。
【0013】
本発明に係るケース付きボンド磁石において、ボンド磁石の空隙率は、上記のとおり14%以下であれば良いが、10%以下とするのが一層好ましい。これにより、一層磁気特性に優れたボンド磁石を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上より、本発明によれば、ケース付きボンド磁石において、磁石表面のケースとの非接触面に所定の膜厚を有する防錆被膜を安定的に形成することができる。これにより、高い防錆性及び磁気特性を兼ね備えたケース付きボンド磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係るケース付きボンド磁石の概略断面図である。
図2図1に示すケース付きボンド磁石の製造手順を示す図である。
図3】本発明の第2実施形態に係るケース付きボンド磁石の概略断面図である。
図4図3に示すケース付きボンド磁石の製造手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態に係るケース付きボンド磁石Aの概略断面図である。このケース付きボンド磁石Aは、円柱状に形成されたボンド磁石1と、ボンド磁石1を収容した有底筒状のケース2と、樹脂製の封止材3からなる防錆被膜4とを備える。
【0018】
ボンド磁石1は、磁石粉末と樹脂バインダとを含み、必要に応じて固体潤滑剤等の充填材を添加したコンパウンドを成形材料とする成形品とされる。ここでは、成形金型に充填した上記コンパウンドを円柱状に圧縮成形することで得られた成形品(圧粉体)を所定温度で所定時間で加熱することにより、圧粉体に含まれる樹脂バインダを溶融・硬化させた圧粉体の熱処理品とされ、無数の磁石粉末が樹脂バインダを介して結合した多孔質体となっている。この場合、樹脂バインダとしては、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などといった熱硬化性樹脂の粉末が使用される。
【0019】
ボンド磁石1は、上記のような圧粉体の熱処理品とする以外にも、上記コンパウンドを成形材料とする射出成形品とすることもできる。この場合、コンパウンドに含める樹脂バインダとしては、基本的にはポリアミド(PA)やポリフェニレンサルファイド(PPS)などの熱可塑性樹脂が使用される。
【0020】
コンパウンドに含める磁石粉末は、希土類系であれば特に制限はなく、例えばNd-Fe-B系、Sm-Fe-N系、Sm-Co系などの公知のものが使用される。また、コンパウンドは、これに占める希土類磁石粉末及び樹脂バインダの体積比率を、それぞれ、85%以上90%以下及び10%以上15%以下にしたものが使用される。これにより、高い磁気特性、強度及び寸法精度等を併せ持つボンド磁石1を得ることができる。
【0021】
多孔質体であるボンド磁石1の空隙率は、成形条件等によって変化させることができる。本実施形態では、ボンド磁石1の空隙率が14%以下、好ましくは10%以下となるようにボンド磁石1(の圧粉体)を成形する。空隙率を14%以下(空隙率の上限を14%)とすれば、必要とされる磁気特性を十分に具備するボンド磁石1となるが、空隙率を10%以下とすれば、一層磁気特性に優れたボンド磁石1を実現することができる。因みに、空隙率14%以下のボンド磁石1は、例えば、ボンド磁石1に占める磁石粉末及び樹脂バインダ(樹脂部)の体積比率を、それぞれ、75%以上85%以下及び9%以上15%以下とすることで得ることができる。また、空隙率14%以下のボンド磁石1を得るために使用するコンパウンドは、コンパウンドに占める希土類磁石粉末及び樹脂バインダの体積比率のそれぞれを、例えば上記のように85%以上90%以下及び10%以上15%以下とする。
【0022】
ケース2は、上面が開口した(上面にボンド磁石1を挿入するための挿入開口部2aが形成された)有底筒状をなし、ボンド磁石1全体を収容した磁石収容部2bを有する。すなわち、磁石収容部2bは、その深さ寸法(図1の紙面上下方向寸法)Hc及び直径寸法(図1の紙面左右方向寸法)Dcが、それぞれ、収容すべきボンド磁石1の高さ寸法Hm及び直径寸法Dmよりも所定量大きくなる(Hc>Hm、Dc>Dmの関係式が成立する)ように形成されている。
【0023】
ケース2の材質は特に問わないが、ケース2内に収容するボンド磁石1から発される磁力線(ボンド磁石1の磁気特性)に影響を与えない材料、例えば非磁性の金属材料、又は樹脂材料で形成されたケース2が好ましく使用できる。非磁性の金属材料としては、アルミニウム、銅、SUS303,304等のオーステナイト系ステンレス鋼などを挙げることができ、特にオーステナイト系ステンレス鋼を主成分とする金属焼結体でケース2を形成すれば、ボンド磁石1の磁気特性に影響を与えず、しかも高い寸法精度や強度を兼ね備えたケース2を低コストに得ることができて好ましい。但し、金属焼結体は、無数の内部気孔(空隙)を有する多孔質体であることから、その空隙率をコントロールする必要がある。金属焼結体からなるケース2を使用する場合、空隙率が20%以下のケース2を使用する。
【0024】
封止材3からなる防錆被膜4は、ボンド磁石1の上端面を被覆し、ケース2の挿入開口部2aを封止した平坦部4aと、ボンド磁石1の外周壁面を被覆し、ケース2の磁石収容部2bの内周壁面とボンド磁石1の外周壁面との間に形成される筒状の外周隙間Gaを封止した筒状部4bとを一体に有する。このような防錆被膜4が設けられていることにより、ケース2に対してボンド磁石1が固定されると共に、ケース2に収容されたボンド磁石1の表面のうちケース2との非接触面全域が封止されている。なお、本実施形態において、ボンド磁石1の下端面(外底面)は、これに対向するケース2の磁石収容部2bの内底面と接触している。このため、ボンド磁石1の外底面は、封止材3からなる防錆被膜4ではなくケース2によって封止されている。
【0025】
以上の構成を有するケース付きボンド磁石Aの製造手順を図2に基づいて説明する。
【0026】
まず、図2(a)に示すように、封止材3が塗布・充填等されていないケース2の磁石収容部2bの内底面上にボンド磁石1を載置するようにして、磁石収容部2bにボンド磁石1を収容する。このとき、前述したように、磁石収容部2bの直径寸法Dcとボンド磁石1の直径寸法Dmとの間にDc>Dmの関係式が成立することから、磁石収容部2bの内周壁面とこれに対向するボンド磁石1の外周壁面との間には全体として筒状をなした外周隙間Gaが形成される。外周隙間Gaの隙間幅[=(Dc-Dm)/2]は、例えば0.02mm~0.2m程度に設定される。また、磁石収容部2bの深さ寸法Hcとボンド磁石1の高さ寸法Hmとの間にHc>Hmの関係式が成立することから、ボンド磁石1の上端面(ケース2の挿入開口部2aに近い側の端面)は、磁石収容部2bの開口端よりも低位に位置し、ボンド磁石1の上端面とケース2の開口端面(上端面)との間には封止材収容空間Sが形成される。封止材収容空間Sの空間幅(=Hc-Hm)は、例えば0.1~0.5mm程度に設定される。
【0027】
次に、図2(a)に示すように、ボンド磁石1の上端面に溶融状態の封止材3を滴下する。滴下した封止材3は、図2(b)(c)に示すように、ボンド磁石1の上端面に沿って自然に濡れ広がった後、ボンド磁石1の外周壁面を伝って自然に濡れ広がり、封止材収容空間S及び外周隙間Gaを満たす。
【0028】
封止材3は、ボンド磁石1をケース2に対して固定(接着固定)することができ、かつボンド磁石1のうちケース2との非接触面を封止することができるものであれば良く、例えば、熱硬化型接着剤や嫌気性接着剤を使用することができる。封止材3に熱硬化型接着剤を用いる場合、ケース2に収容されたボンド磁石1と、上記の空間S及び隙間Gaに充填された封止材3とを備えたアセンブリを所定温度で所定時間加熱することにより、封止材3を硬化させる。封止材3として嫌気性接着剤を用いる場合、ケース2に収容されたボンド磁石1と、上記の空間S及び隙間Gaに充填された封止材3とを備えたアセンブリを酸素遮断環境下に所定時間置くことにより、封止材3を硬化させる。
【0029】
これにより、図1に示すケース付きボンド磁石A、すなわち、希土類磁石粉末を樹脂バインダで結合してなるボンド磁石1と、隙間(外周隙間Ga)を介してボンド磁石1を収容したケース2と、樹脂製の封止材3(からなる防錆被膜4)とを備え、外周隙間Ga及び封止材収容空間Sで硬化した封止材3(からなる防錆被膜4)によりボンド磁石1が密封されたケース付きボンド磁石Aが得られる。
【0030】
本実施形態において、封止材3としては、硬化前の常温下での粘度が0.01~1Pa・sの範囲内にあるものを使用する。これは、粘度が過剰に低い(0.01Pa・sを下回る)場合には、ボンド磁石1の上端面に滴下された封止材3がボンド磁石1の空隙に浸透し易くなるために、所定の膜厚を有する防錆被膜4(換言すると、外周隙間Ga及び封止材収容空間Sを埋める防錆被膜4)を形成することが難しくなること、また、粘度が過剰に高い(1Pa・sを上回る)場合には、封止材3が適切に濡れ広がらず、特に外周隙間Gaに封止材3を充填させることが難しくなるために、所定の防錆被膜を形成することが難しくなること、を理由とする。これに加え、本実施形態のボンド磁石1では、その空隙率を14%以下(好ましくは10%以下)にすると共に、金属焼結体からなるケース2の空隙率を20%以下としていることから、封止材3が濡れ広がる過程でのボンド磁石1の空隙及びケース2の空隙への封止材3の浸透も抑制又は防止することができる。
【0031】
以上の作用効果が相俟って、本実施形態のケース付きボンド磁石Aを構成するボンド磁石1のうちケース2との非接触面は、所定の膜厚及び形状精度を有する高品質の防錆被膜4によって被覆(保護)されていると言える。そのため、本実施形態のケース付きボンド磁石Aは、高い防錆性及び磁気特性を兼ね備えている。
【0032】
図3は、本発明の第2実施形態に係るケース付きボンド磁石Aの概略断面図である。同図に示すケース付きボンド磁石Aが図1に示すケース付きボンド磁石Aと異なる主な点は、ケース2の磁石収容部2bに収容されたボンド磁石1の外底面と、これに対向する磁石収容部2bの内底面との間に隙間(底隙間)Gbが形成され、この底隙間Gbに封止材3(が硬化することで形成された防錆被膜4)が設けられている点にある。これ以外の構成は、図1に示すものと実質的に同一であるので、同一の参照番号を付して重複説明を省略する。
【0033】
図3に示すケース付きボンド磁石Aは、図4に示すような手順で製造することができる。まず、図4(a)に示すように、溶融状態の封止材3をケース2の磁石収容部2bの内底面上に滴下してから、図4(b)に示すように、磁石収容部2にボンド磁石1を収容する。これにより、封止材3は、ボンド磁石1の外底面(ケース2の内底面)、ボンド磁石1の外周壁面(ケース2の内周壁面)及びボンド磁石1の上端面に沿って濡れ広がり、底隙間Gb、外周隙間Ga及び封止材収容空間Sに充填される。このようにして封止材3が充填された後、封止材3の種類に見合った適宜の手段で封止材3を硬化させると、図3に示すケース付きボンド磁石Aが得られる。
【0034】
図3に示すケース付きボンド磁石Aにおいても、硬化前の常温下での封止材3の粘度、ボンド磁石1の空隙率、さらにはケース2を金属焼結体で形成した場合におけるケース2の空隙率を、図1に示すケース付きボンド磁石Aと同様の数値範囲に管理する。これにより、高い防錆性及び磁気特性を兼ね備えたケース付きボンド磁石Aを実現できる。
【0035】
以上、本発明の実施形態に係るケース付きボンド磁石Aについて説明したが、ケース付きボンド磁石Aには、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことができる。すなわち、本発明は、前述した実施形態に限定適用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施することができる。
【実施例0036】
本発明の有用性を実証するため、図1に示すケース付きボンド磁石A(図2に示す手順で作製されるケース付きボンド磁石A)において、封止材3の粘度、並びにボンド磁石1及びケース2の空隙率が、封止材3からなる防錆被膜4の膜厚、さらにはボンド磁石1の磁気特性や防錆性にどのような影響を与えるかを確認(評価)した。この評価試験を実施するに当たり、評価対象のケース付きボンド磁石(試験体)を計23種類準備した。その内訳は、本発明の構成を有する実施例に係る試験体が計12種類(実施例1~実施例12)であり、本発明の構成を有しない比較例に係る試験体が計11種類(比較例1~比較例11)である。以下、試験体を構成するボンド磁石、ケース及び封止材の詳細、並びに防錆被膜の膜厚測定方法、磁気特性の評価方法及び防錆性確認方法を示す。
【0037】
[ボンド磁石]
実施例1~12、及び比較例1~11に係る試験体を構成するボンド磁石は、磁石粉末としてのNd-Fe-B系磁石粉末と樹脂バインダとしてのビスフェノールA型エポキシ樹脂とからなるコンパウンドを円柱状の圧粉体に圧縮成形した後、この圧粉体を所定の加熱(熱処理)条件で加熱して上記エポキシ樹脂を硬化させることにより作製した。
【0038】
[ケース]
実施例1~12、及び比較例1~11に係る試験体を構成するケースは、ステンレス鋼(SUS304)粉末を有底筒状(有底円筒状)に圧縮成形することで得られた圧粉体を、上記ステンレス鋼粉末の焼結温度以上で加熱(焼結)することにより作製した金属焼結体である。このケースには、円柱状に形成した上記ボンド磁石の外周壁面との間に隙間幅0.2mmの外周隙間を形成する磁石収容部を設けた。
【0039】
[封止材]
封止材としては、粘度等が互いに異なる下記4種類(封止材A~封止材D)を準備した。各封止材の粘度は、硬化前の常温(25℃)下において、東京計器株式会社製のB型粘度計B8Lを用いて測定した実測値である。
・封止材A:粘度0.5Pa・sのエポキシ系熱硬化型接着剤
・封止材B:粘度0.1Pa・sの嫌気性接着剤
・封止材C:粘度5Pa・sのエポキシ系熱硬化型接着剤
・封止材D:粘度0.009Pa・sの防錆塗料
【0040】
[防錆被膜の膜厚測定方法]
防錆被膜の形成前にケースの磁石収容部に収容したボンド磁石の上端中央部とケースの開口端面との高低差(Δ1)を測定すると共に、防錆被膜の形成後に防錆被膜の上端中央部とケースの開口端面との高低差(Δ2)を測定する。そして、両高低差の差分(=Δ1-Δ2)を「防錆被膜の膜厚」とした。従って、ここでの「防錆被膜の膜厚」の測定対象は、図1等に示すケース付きボンド磁石Aのうち封止材収容空間Sに形成される防錆被膜のみであり、外周隙間Gaに形成された防錆被膜の膜厚は測定対象外である。外周隙間Gaに形成された防錆被膜については、これがボンド磁石の外周壁面を適切に被覆しているか否か(のみ)を確認した。
【0041】
[磁気特性の評価方法]
試験体(ケース付きボンド磁石)をコンデンサ着磁器によって飽和着磁した後に、DMT社製のマグネットアナライザMAD-300を用いてボンド磁石の所定位置における磁束密度を測定し、その測定値に基づいて「◎」、「〇」、「×」の三段階で評価した。必要とされる磁束密度よりも遥かに高い測定値が得られた場合を「◎」とし、必要とされる磁束密度を満足できる測定値が得られた場合を「〇」とし、必要とされる磁束密度を下回る測定値が得られた場合を「×」とした。
【0042】
[防錆性評価方法]
試験体の防錆性(耐食性)確認に際しては、まずJIS Z2371:2015に規定の中性塩水噴霧試験に準拠するかたちで各試験体に塩水を48時間噴霧した。次いで、試験体を水で洗浄し、試験体に付着した水分を丁寧に拭き取った後、ボンド磁石表面をマイクロスコープを用いて目視観察した。磁石表面に錆の存在を確認した場合は、防錆被膜が適切に形成されていない(防錆性/耐食性が不十分である)として「×」を付し、磁石表面に錆の存在を確認できなかった場合には、防錆被膜が適切に形成されているものとして「〇」を付した。
【0043】
計23種類ある試験体それぞれについての磁気特性及び防錆性(耐食性)の評価結果を下記の表1に示す。表1には、上記評価結果の他、試験体の作製に用いた封止材の種類及び粘度、試験体を構成するボンド磁石及びケースの空隙率、試験体に形成された防錆被膜の膜厚を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
まず、封止材Aを使用した実施例1~6に係る試験体と比較例1~5に係る試験体の防錆被膜厚を対比すると共に、封止材Bを使用した実施例7~12に係る試験体と比較例6~9に係る試験体の防錆被膜厚を対比すると、ボンド磁石の空隙率やケースの空隙率が高くなるほど防錆被膜の膜厚が薄くなることがわかる。そして、比較例1~9に係る試験体のように、ボンド磁石の空隙率が14%を上回る場合、及び/又はケースの空隙率が20%を上回る場合には、防錆被膜の膜厚が相当に薄くなることがわかる。比較例1~3及び6~8に係る試験体は、磁気特性(磁束密度)については実使用可能な数値を示したものの、ボンド磁石の表面に錆の発生を確認した。これは、防錆被膜の膜厚が薄いために、防錆性が不十分であるためと推察される。また、封止材Cを用いて防錆被膜を形成した比較例10に係る試験体は、実施例1~12に係る試験体と同等の「防錆被膜の膜厚」は確保できたものの、図1に示す外周隙間Gaに相当する部分において、防錆被膜が形成されておらず、錆が発生している箇所が確認された。これは、封止材Cの粘度が高過ぎるために、比較例10に係る試験体のうち外周隙間Gaに相当する部分に封止材が行き渡らなかったためであると推察される。さらに、封止材Dを用いて防錆被膜を形成した比較例11に係る試験体においても、ボンド磁石の表面に錆の発生を確認した。これは、封止材Dが低粘度であるがために、極薄膜厚の防錆被膜しか形成できず、防錆機能が不十分であったためと推察される。
【0046】
これに対し、粘度が0.01~1Pa・sの範囲内にある封止材A又は封止材Bを使用して、空隙率が14%以下のボンド磁石及び空隙率が20%以下の(金属焼結体からなる)ケースを採用した実施例1~12に係る試験体においては、所定の膜厚を有する防錆被膜をボンド磁石の表面に精度良く形成することができるため、所定の磁気特性及び防錆性を確保できることが確認された。よって、実施例1~12に係る試験体は、高い防錆性及び磁気特性を兼ね備え、長期間の実使用に適したボンド磁石になると言える。
【符号の説明】
【0047】
1 ボンド磁石
2 ケース
2a 挿入開口部
2b 磁石収容部
3 封止材
4 防錆被膜
A ボンド磁石
Ga 外周隙間
S 封止材収容空間
図1
図2
図3
図4