(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130234
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】フェニル硫酸含有試料の調製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/00 20060101AFI20240920BHJP
B01J 20/285 20060101ALI20240920BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N30/00 E
B01J20/285 Z
B01J20/281 A
B01J20/285 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039856
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 涼
(72)【発明者】
【氏名】三上 寿幸
(57)【要約】
【課題】フェニル硫酸の測定値に影響を及ぼす夾雑物が除去された、フェニル硫酸含有試料の調製方法を提供する。
【解決手段】フェニル硫酸含有試料の調製方法は、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させて接触液を調製する接触工程、及び前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前又は接触させている間に、前記溶液及び前記塩を混合する混合工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル硫酸含有試料の調製方法であって、
塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させて接触液を調製する接触工程、及び
前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前又は接触させている間に、前記溶液及び前記塩を混合する混合工程を含む、
調製方法。
【請求項2】
前記混合工程は、前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前に前記溶液及び前記塩を混合して塩混合液を調製することにより行われ、
前記接触工程は、前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させて前記接触液を調製することにより行われ、
前記接触工程の後に、前記塩混合液と前記逆相樹脂を分離して前記接触液の液体画分を前記試料として取得する分離工程をさらに含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記混合工程及び前記接触工程は、前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させている間に前記溶液及び前記塩を混合して前記接触液を調製することにより行われ、
前記接触工程の後に、前記塩を混合したフェニル硫酸を含む溶液と前記逆相樹脂を分離して前記接触液の液体画分を前記試料として取得する分離工程をさらに含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
前記接触工程は、前記塩混合液を前記逆相樹脂が充填されたカラムに通過させて前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させることにより行われ、
前記分離工程は、前記カラムを通過した前記塩混合液を前記接触液の液体画分として取得することにより行われる、請求項2に記載の調製方法。
【請求項5】
前記接触工程は、前記塩混合液中に前記逆相樹脂を懸濁して前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させることにより行われ、
前記分離工程は、前記逆相樹脂が懸濁した塩混合液の液体画分を前記接触液の液体画分として取得することにより行われる、請求項2に記載の調製方法。
【請求項6】
前記混合工程は、前記溶液1mLに対して前記塩を0.5mmol以上の割合で前記溶液及び前記塩を混合する工程である、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記接触工程において、前記溶液中のフェニル硫酸の比色分析において測定値に影響を及ぼすフェニル硫酸以外の溶質が前記逆相樹脂に吸着する、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
前記接触工程において、前記溶液中のフェノール類、ポリフェノール類、フェニル硫酸以外のフェノール類の硫酸抱合体及びポリフェノール類の硫酸抱合体からなる群から選択される1種以上の溶質が前記逆相樹脂に吸着する、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項9】
前記溶液が尿である、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項10】
前記逆相樹脂が、少なくとも1種の親水性モノマーと少なくとも1種の疎水性モノマーを共重合させることによって形成される水湿潤性ポリマー、少なくとも1種の疎水性モノマーを重合させることによって形成される疎水性ポリマー又はオクタデシルシリル化シリカゲルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項11】
前記親水性モノマーがN-ビニルピロリドンである、請求項10に記載の調製方法。
【請求項12】
前記疎水性モノマーがジビニルベンゼン及びスチレンからなる群から選択される、請求項10に記載の調製方法。
【請求項13】
前記水湿潤性ポリマーがポリ(ジビニルベンゼン-co-N-ビニルビロリドン)コポリマーである、請求項10に記載の調製方法。
【請求項14】
前記塩が塩化ナトリウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項15】
フェニル硫酸を含む溶液中のフェニル硫酸の定量方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法によってフェニル硫酸を含む溶液から調製されたフェニル硫酸含有試料とスルファターゼを接触させることによりフェノールを生成するスルファターゼ反応工程、
前記スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を水溶液中で接触させるペルオキシダーゼ反応工程、
前記ペルオキシダーゼ反応工程の生成物の光学特性値を測定する測定工程、
前記光学特性値に基づいて前記試料中のフェニル硫酸濃度を定量するフェニル硫酸定量工程を含む、
定量方法。
【請求項16】
前記溶液が尿である、請求項15に記載の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニル硫酸を測定する際の前処理に用いられる、フェニル硫酸含有試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェニル硫酸は、食物タンパク質に由来するチロシンの代謝産物であり、生体内で腸内細菌による代謝を受けて生成する尿毒素である。腸内細菌が有するチロシン・フェノールリアーゼ(TPL)の作用によって、食物に含まれるチロシンからフェノールが産生し、産生したフェノールが生体内に吸収された後、肝臓で硫酸抱合されることによってフェニル硫酸が産生する。産生したフェニル硫酸は、通常は腎臓から尿として排出されるが、腎機能が低下していると体内に蓄積され、例えば、糖尿病性腎症による腎障害に関与することが報告されている(非特許文献1)。したがって、生体試料中、特に尿中のフェニル硫酸の濃度を測定することは疾患の診断や検査にとって極めて有用である。
【0003】
従来、尿中のフェニル硫酸は、尿中の夾雑物による影響を避けるため、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)を用いて定量されてきた。例えば、尿を陰イオン交換クロマトグラフィーで前処理した後、尿中のフェニル硫酸をLC-MS/MSで定量する方法が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、高価な装置が必要であること、前処理工程や操作手順が煩雑であり、定量に時間と費用がかかることが問題となる。
【0004】
特許文献1には、検体中のフェノール類を定量する方法として、特定のpH条件下、フェノール類と4-アミノアンチピリン(4-AAP)にペルオキシダーゼを作用させる酵素反応を過酸化水素存在下で行い、さらにペルオキシダーゼを特定の濃度以上に設定することで、高い精度で、簡便かつ迅速に比色分析する方法が開示されている。また、生体試料中のフェニル硫酸をスルファターゼの作用によってフェノールに変換したものを検体とすることもできる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kikuchi K. et al. Nat Commun. 10(1):1835,doi:10.1038/s41467-019-09735-4,2019.
【非特許文献2】Yoshitomi K. et al. J. Chromatogr. B,Vol.1068-1069,p.1-8,2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床現場において、尿中のフェニル硫酸を測定することの需要は高いが、従来のLC-MS/MSを用いた測定方法は煩雑な前処理工程や操作手順を要するため、簡便かつ迅速な測定を求める臨床現場の要請に応えられないことが課題となっていた。また、LC-MS/MSは高価な装置であるため、高額な測定費用がかかることが課題となっていた。
【0008】
尿中のフェニル硫酸をスルファターゼの作用によってフェノールに変換したものを検体
として、特許文献1に記載の方法等を用いてフェノールを比色分析することで、高価な装置を用いることなく、簡便かつ迅速に尿中のフェニル硫酸を測定することができるが、尿中の夾雑物(例えば、フェノール類、ポリフェノール類等)が測定値に影響を及ぼすため、そのままでは尿を検体として使用することができないことが判明した。
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、フェニル硫酸の測定値に影響を及ぼす夾雑物が除去された、フェニル硫酸含有試料の調製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させることで、夾雑物が除去されたフェニル硫酸含有試料を調製できることを見出した。これにより、該試料中のフェニル硫酸を測定する際、夾雑物に起因するフェニル硫酸の測定値への影響を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]フェニル硫酸含有試料の調製方法であって、
塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させて接触液を調製する接触工程、及び
前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前又は接触させている間に、前記溶液及び前記塩を混合する混合工程を含む、
調製方法。
[2]前記混合工程は、前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前に前記溶液及び前記塩を混合して塩混合液を調製することにより行われ、
前記接触工程は、前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させて前記接触液を調製することにより行われ、
前記接触工程の後に、前記塩混合液と前記逆相樹脂を分離して前記接触液の液体画分を前記試料として取得する分離工程をさらに含む、[1]に記載の調製方法。
[3]前記混合工程及び前記接触工程は、前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させている間に前記溶液及び前記塩を混合して前記接触液を調製することにより行われ、
前記接触工程の後に、前記塩を混合したフェニル硫酸を含む溶液と前記逆相樹脂を分離して前記接触液の液体画分を前記試料として取得する分離工程をさらに含む、[1]に記載の調製方法。
[4]前記接触工程は、前記塩混合液を前記逆相樹脂が充填されたカラムに通過させて前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させることにより行われ、
前記分離工程は、前記カラムを通過した前記塩混合液を前記接触液の液体画分として取得することにより行われる、[2]に記載の調製方法。
[5]前記接触工程は、前記塩混合液中に前記逆相樹脂を懸濁して前記塩混合液と前記逆相樹脂とを接触させることにより行われ、
前記分離工程は、前記逆相樹脂が懸濁した塩混合液の液体画分を前記接触液の液体画分として取得することにより行われる、[2]に記載の調製方法。
[6]前記混合工程は、前記溶液1mLに対して前記塩を0.5mmol以上の割合で前記溶液及び前記塩を混合する工程である、[1]~[5]のいずれかに記載の調製方法。[7]前記接触工程において、前記溶液中のフェニル硫酸の比色分析において測定値に影響を及ぼすフェニル硫酸以外の溶質が前記逆相樹脂に吸着する、[1]~[6]のいずれかに記載の調製方法。
[8]前記接触工程において、前記溶液中のフェノール類、ポリフェノール類、フェニル硫酸以外のフェノール類の硫酸抱合体及びポリフェノール類の硫酸抱合体からなる群から選択される1種以上の溶質が前記逆相樹脂に吸着する、[1]~[7]のいずれかに記載の調製方法。
[9]前記溶液が尿である、[1]~[8]のいずれかに記載の調製方法。
[10]前記逆相樹脂が、少なくとも1種の親水性モノマーと少なくとも1種の疎水性モノマーを共重合させることによって形成される水湿潤性ポリマー、少なくとも1種の疎水性モノマーを重合させることによって形成される疎水性ポリマー又はオクタデシルシリル化シリカゲルである、[1]~[9]のいずれかに記載の調製方法。
[11]前記親水性モノマーがN-ビニルピロリドンである、[10]に記載の調製方法。
[12]前記疎水性モノマーがジビニルベンゼン及びスチレンからなる群から選択される、[10]に記載の調製方法。
[13]前記水湿潤性ポリマーがポリ(ジビニルベンゼン-co-N-ビニルビロリドン)コポリマーである、[10]に記載の調製方法。
[14]前記塩が塩化ナトリウムである、[1]~[13]のいずれかに記載の調製方法。
[15]フェニル硫酸を含む溶液中のフェニル硫酸の定量方法であって、
[1]~[14]のいずれかに記載の調製方法によってフェニル硫酸を含む溶液から調製されたフェニル硫酸含有試料とスルファターゼを接触させることによりフェノールを生成するスルファターゼ反応工程、
前記スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を水溶液中で接触させるペルオキシダーゼ反応工程、
前記ペルオキシダーゼ反応工程の生成物の光学特性値を測定する測定工程、
前記光学特性値に基づいて前記試料中のフェニル硫酸濃度を定量するフェニル硫酸定量工程を含む、
定量方法。
[16]前記溶液が尿である、[15]に記載の定量方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、夾雑物が除去されたフェニル硫酸含有試料を調製することができるため、該試料中のフェニル硫酸を測定する際、夾雑物に起因するフェニル硫酸の測定値への影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、逆相樹脂を用いた固相抽出前後のフェニル硫酸、フェノール及びカテキンの回収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<フェニル硫酸含有試料の調製方法>
本発明の一実施形態は、フェニル硫酸含有試料の調製方法であって、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させて接触液を調製する接触工程、及び前記溶液と前記逆相樹脂とを接触させる前又は接触させている間に、前記溶液及び前記塩を混合する混合工程を含む、調製方法である。
【0015】
本発明の調製方法は、好ましくはフェニル硫酸を比色分析する際の前処理に用いられる調製方法であり、夾雑物が除去されたフェニル硫酸含有試料の調製方法である。
【0016】
フェニル硫酸を含む溶液は、特に限定されないが、生体試料であることが好ましい。生体試料としては、例えば、尿、血液、細胞又は組織の抽出液等が挙げられ、これらのうち尿が好ましい。また、これらの生体試料に任意の化学的又は物理的な処理を加えたものをフェニル硫酸を含む溶液としてもよい。
【0017】
フェニル硫酸を含む溶液及びフェニル硫酸含有試料は、フェニル硫酸を含む可能性があ
れば特に限定されない。また、フェニル硫酸を含む溶液及びフェニル硫酸含有試料は、測定前にフェニル硫酸を含む疑いがあるだけで足り、測定した結果としてフェニル硫酸を含んでいないことが判明しても本発明の方法の範囲に含まれるものとする。さらに、フェニル硫酸を含む溶液は、夾雑物を含む疑いがあるだけで足り、実際には夾雑物を含まない溶液も本発明の方法の範囲に含まれるものとする。
【0018】
フェニル硫酸を含む溶液のpHとしては、pH6.5~7.5を用いることができる。なお、該pHはフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させるときの温度における数値とする。
【0019】
夾雑物は、フェニル硫酸の測定において測定値に影響を及ぼすフェニル硫酸以外の溶質である。フェニル硫酸の測定方法としては、例えば、比色分析が挙げられる。
フェニル硫酸の比色分析において測定値に影響を及ぼすフェニル硫酸以外の溶質としては、例えば、フェノール類、ポリフェノール類、フェニル硫酸以外のフェノール類の硫酸抱合体、ポリフェノール類の硫酸抱合体等が挙げられる。
【0020】
フェノール類は、フェノール性水酸基を1つ有する化合物であれば特に限定されない。フェノール性水酸基を1つ有する化合物は、例えば、一般式(1)で表される化合物であってよい。
【0021】
【0022】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は水素原子若しくは炭素原子が複素原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、アルケニル基若しくはアルコキシ基を表す。前記アルキル基又はアルコキシ基の末端が芳香環に結合して環が形成されていてもよい。
【0023】
フェノール類としては、例えば、フェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、2,3-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、o-メトキシフェノール、p-ブロモフェノール、o-クレゾール、o-アリルフェノール、3,5-ジメチルフェノール、8-ヒドロキシキノリン等が挙げられる。
【0024】
ポリフェノール類は、フェノール性水酸基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されない。
【0025】
ポリフェノール類としては、例えば、フラボノイド類、単純フェノール類等が挙げられる。
フラボノイド類としては、例えば、カテキン類、フラボノール類、イソフラボン類、アントシアニン類等が挙げられる。カテキン類としては、例えば、カテキン、エピガロカテキン、エピカテキン、ガロカテキン等の遊離型カテキン類、これら遊離型カテキン類にガレート基が結合したガレート型カテキン類(例えば、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、カテキンガレート等が挙げられる)等が挙げら
れる。フラボノール類としては、例えば、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン等が挙げられる。イソフラボン類としては、例えば、ゲニステイン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、エクオール等が挙げられる。アントシアニン類としては、例えば、ペラルゴニジン、シアニジン、ペツニジン、ペオニジン、ペチュニジン、デルフィニジン、マルビジン等が挙げられる。
単純フェノール類としては、例えば、クルクミン、クロロゲン酸等が挙げられる。
【0026】
フェノール類の硫酸抱合体又はポリフェノール類の硫酸抱合体は、分子内のフェノール性水酸基が硫酸化された化合物である。ここで、スルファターゼは、フェニル硫酸を加水分解して硫酸基を遊離させる反応を触媒する活性を有する酵素である。
【0027】
接触工程を行うことにより、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させた接触液を調製することができる。接触工程において、フェニル硫酸を含む溶液は、該溶液と逆相樹脂との接触を可能にするいかなる方法で逆相樹脂と接触させてもよい。該溶液と逆相樹脂の接触を可能にする方法としては、例えば、逆相樹脂が充填されたカラム(例えばシリンジバレル)に溶液を通過させて該溶液と逆相樹脂とを接触させる方法、溶液中に逆相樹脂を懸濁して該溶液と逆相樹脂とを接触させる方法等が挙げられる。フェニル硫酸を含む溶液は、該溶液中の夾雑物が逆相樹脂上に吸着するのに充分な時間にわたって逆相樹脂と接触させる。接触させる時間は通常、夾雑物が逆相樹脂の表面と溶液との間で平衡になるのに必要な時間である。フェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させるときの温度は、該溶液中の夾雑物が逆相樹脂上に吸着する限りにおいて特に限定されないが、例えば、1~30℃とすることが好ましい。また、カラム法を用いてフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させる際、カラムを通過する該溶液の流量は、該溶液中の夾雑物が逆相樹脂上に吸着する限りにおいて特に限定されないが、例えば、10~20mL/分とすることが好ましい。
【0028】
塩の存在下とは、塩がフェニル硫酸を含む溶液と混合された状態を意味する。塩は、フェニル硫酸が逆相樹脂に吸着することを抑制する観点から、溶液中に均一に溶解していることが好ましい。
【0029】
塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、過塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられ、これらのうち塩化ナトリウムが好ましい。
【0030】
フェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させる前又は接触させている間に、該溶液及び塩を混合する混合工程を行う。混合工程において、該溶液と混合する塩は、粉末状等の固体状であっても、水等の溶媒に溶解した状態であってもよい。混合工程において、該溶液1mLに対して塩を0.5mmol以上の割合で混合することが好ましい。塩の混合量の上限は特に限定されないが、該溶液1mLに対して塩を3.3mmol以下の割合で混合することが好ましい。
【0031】
通常、接触工程を行った後、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂を分離する分離工程を行うことにより、接触液の液体画分を夾雑物が除去処理されたフェニル硫酸含有試料として取得する。分離工程において、フェニル硫酸を含む溶液は、該溶液と逆相樹脂との分離を可能にするいかなる方法で逆相樹脂と分離してもよい。なお、分離とは、
好ましくは、溶液と逆相樹脂とが接触していない状態にすることをいう。溶液と逆相樹脂の分離を可能にする方法としては、例えば、逆相樹脂が充填されたカラム(例えばシリンジバレル)に溶液を通過させて該溶液と逆相樹脂とを分離する方法、逆相樹脂の懸濁液を遠心分離やろ過等することで溶液と逆相樹脂を分離する方法等が挙げられる。フェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂を分離するときの温度は、該溶液中の夾雑物が逆相樹脂上に吸着する限りにおいて特に限定されないが、例えば、1~30℃とすることが好ましい。なお、フェニル硫酸を含む溶液と塩との混合液(塩混合液)を逆相樹脂が充填されたカラムに通過させることにより、塩の存在下でフェニル硫酸を含む溶液と逆相樹脂とを接触させる接触工程と、塩の存在下で該溶液と逆相樹脂を分離する分離工程が行われる。
【0032】
逆相樹脂は、膜状、ビーズ状、その他の形状であってもよい。逆相樹脂としては、例えば、少なくとも1種の親水性モノマーと少なくとも1種の疎水性モノマーを共重合させることによって形成される水湿潤性ポリマー、少なくとも1種の疎水性モノマーを重合させることによって形成される疎水性ポリマー又はオクタデシルシリル化シリカゲル等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種の親水性モノマーと少なくとも1種の疎水性モノマーを共重合させることによって形成される水湿潤性ポリマーが好ましい。
【0033】
親水性モノマーは、親水性部分を含むモノマーである。親水性部分としては、例えば、複素環基(例えば、飽和、不飽和又は芳香族の複素環基等が挙げられる)、エーテル基等が挙げられる。親水性モノマーとしては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリジン、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、エチレンオキシド等が挙げられ、これらのうちN-ビニルピロリドンが好ましい。
【0034】
疎水性モノマーは、疎水性部分を含むモノマーである。疎水性部分としては、例えば、炭素環式基(例えば、フェニル基、フェニレン基等が挙げられる)、アルキル基(例えば、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~18のアルキル基等が挙げられる)等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン等が挙げられ、これらのうちジビニルベンゼンが好ましい。
【0035】
水湿潤性ポリマーは、水その他の極性溶媒によって部分的又は全面的に溶媒和されるポリマーである。水湿潤性ポリマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンとN-ビニルピロリドンを共重合させることによって合成できるポリ(ジビニルベンゼン-co-N-ビニルビロリドン)コポリマー(例えば、シリンジバレルに充填されているものがOasis(登録商標) HLB(日本ウォーターズ社)の名称で市販されている)等が挙げられる。
【0036】
疎水性ポリマーは、水その他の極性溶媒によって溶媒和されないポリマーである。疎水性ポリマーとしては、例えば、スチレンとジビニルベンゼンを共重合させることによって合成できるポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマー(例えば、シリンジバレルに充填されているものがBond Elut(登録商標) PPL(アジレント・テクノロジー社)の名称で市販されている)等が挙げられる。
【0037】
オクタデシルシリル化シリカゲルとしては、例えば、シリンジバレルに充填されているものがSep-Pak(登録商標) C18(日本ウォーターズ社)、Sep-Pak(登録商標) tC18(日本ウォーターズ社)、InertSep(登録商標) C18(ジーエルサイエンス社)、Bond Elut(登録商標) C18(アジレント・テクノロジー社)等の名称で市販されている。
【0038】
<フェニル硫酸の定量方法>
本発明の一実施形態は、フェニル硫酸を含む溶液中のフェニル硫酸の定量方法であって
、<フェニル硫酸含有試料の調製方法>の項に記載の調製方法によって前記溶液から調製されたフェニル硫酸含有試料とスルファターゼを接触させることによりフェノールを生成するスルファターゼ反応工程、前記スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を水溶液中で接触させるペルオキシダーゼ反応工程、前記ペルオキシダーゼ反応工程の生成物の光学特性値を測定する測定工程、前記光学特性値に基づいて前記試料中のフェニル硫酸濃度を定量するフェニル硫酸定量工程を含む、定量方法である。
【0039】
スルファターゼ反応工程では、フェニル硫酸含有試料中のフェニル硫酸がスルファターゼの作用により加水分解され、フェノールが生成する。
【0040】
スルファターゼは、フェニル硫酸を加水分解して硫酸基を遊離させる反応を触媒する活性を有するものであれば特に限定されない。スルファターゼとしては、例えば、アリールスルファターゼ(例えば、Sulfatase from Aerobacter aerogenes(Sigma-Aldrich社)の名称で市販されているものが挙げられる)等が挙げられる。
【0041】
スルファターゼ反応工程の水溶液におけるスルファターゼの終濃度は、0.50Unit/mL以上であることが好ましく、2.5Unit/mL以上であることがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、通常5.0Unit/mL以下であることが好ましい。ここで、「スルファターゼ反応工程の水溶液」との文言は、フェニル硫酸含有試料とスルファターゼとの混合液を指す。1Unitは、pH7.1及び37℃において、1分間に1.0μmolの硫酸p-ニトロフェニルを加水分解するために必要なスルファターゼの量を意味する。また、該水溶液における終濃度及びpHに係る説明は、スルファターゼ反応工程の開始時のものを指す。
【0042】
スルファターゼ反応工程の水溶液のpHは、pH6.0~8.0であることが好ましく、pH7.0~8.0であることがより好ましい。なお、該pHはスルファターゼ反応工程のときの温度における数値とする。
【0043】
スルファターゼ反応工程の水溶液のpHを所定の範囲に調整するには、該水溶液に緩衝剤を含有させればよい。緩衝剤の種類としては、特に限定されず、リン酸、Tris-HCl、CHES、MES、Bis-Tris、EDTA、TAPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CAPS等を任意に用いることができる。
【0044】
スルファターゼ反応工程を行う温度は、スルファターゼが触媒作用を示す限りにおいて特に限定されないが、例えば、20~60℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。
【0045】
スルファターゼ反応工程における酵素と基質を反応させる時間の長さは任意である。酵素反応の時間は、酵素と基質との接触による反応開始時(通常は、反応試薬とフェニル硫酸含有試料の混合時)から、次のペルオキシダーゼ反応工程の開始時までの時間であってよい。あるいは、酵素と基質との接触による反応開始時から、任意の方法で酵素反応を停止させた時点までの時間であってもよい。
【0046】
スルファターゼ反応工程に続いて、ペルオキシダーゼ反応工程を行う。ペルオキシダーゼ反応工程は、スルファターゼ反応工程中又は工程後に行われる。ペルオキシダーゼ反応工程では、スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン及び過酸化水素が、ペルオキシダーゼにより触媒される酸化縮合反応により結合して、赤色キノン色素が生成する。
【0047】
ペルオキシダーゼ反応工程では、スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素が水溶液中で接触すれば、その添加順序は特に限定されない。例えば、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を含む水溶液をあらかじめ調製し、そこにスルファターゼ反応工程で生成したフェノールを添加することで、反応を開始することができる。
【0048】
ペルオキシダーゼは、フェノール等の水素供与体化合物と4-アミノアンチピリンの酸化縮合反応(トリンダー反応)を触媒する酵素であれば特に限定されない。ペルオキシダーゼとしては、例えば、植物由来、細菌由来、担子菌由来のペルオキシダーゼ等が挙げられる。これらのうち、純度、入手の容易さ、価格等の理由から、西洋ワサビ、イネ又は大豆由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼがより好ましい。より具体的には、Peroxidase from horseradish(Sigma-Aldrich社)、ペルオキシダーゼ 西洋わさび由来(富士フイルム和光純薬社)、PO”AMANO”3(天野エンザイム社)、Peroxidase(東洋紡社)等の名称で市販されているものが挙げられる。
【0049】
ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液におけるペルオキシダーゼの濃度は、7Unit/mL以上であることが好ましく、30Unit/mL以上であることがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、300Unit/mL以下であることが好ましく、71.4Unit/mL以下であることが好ましい。なお、「ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液」との文言は、スルファターゼ反応工程で生成したフェノール、4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を含有する混合液を指す。1Unitは、pH6.0及び20℃において、20秒間に1.0mgのプルプロガリンをピロガロールから生成するために必要なペルオキシダーゼの量を意味する。また、該水溶液における濃度及びpHに係る説明は、ペルオキシダーゼ反応工程の開始時のものを指す。
【0050】
ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液における4-アミノアンチピリン(分子量203.24)の濃度は特に限定されないが、71μg/mL(0.35mM)以上であることが好ましく、91.5μg/mL(0.45mM)以上であることがより好ましく、178.6μg/mL(0.88mM)以上であることがさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、通常は2032.4μg/mL(10mM)以下である。ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液における4-アミノアンチピリンのモル濃度は、測定するフェノールの測定前に推定されるモル濃度の1倍以上であることが好ましく、20倍以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、100倍以下が好ましい。
【0051】
ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液における過酸化水素の濃度は、特に限定されないが、50μg/mL(0.005質量%)以上であることが好ましく、150μg/mL(0.015質量%)以上であることがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、通常は1000μg/mL(0.1質量%)以下である。ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液における過酸化水素のモル濃度は、測定するフェノールのモル濃度の1~100倍量であることが好ましく、1~80倍量であることがより好ましく、20~60倍量であることがさらに好ましい。
【0052】
ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液のpHの下限は7.0以上であり、7.5以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましい。また、上限は9.5以下であり、9.0以下であることが好ましい。なお、pHはペルオキシダーゼ反応工程の温度における数値とする。
【0053】
ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液のpHを所定の範囲に調整するには、該水溶液に緩衝液を含有させればよい。緩衝剤の種類としては、特に限定されず、リン酸、Tris-
HCl、CHES、MES、Bis-Tris、EDTA、TAPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CAPS等を任意に用いることができる。
【0054】
ペルオキシダーゼ反応工程を行う温度は、ペルオキシダーゼが触媒作用を示す限りにおいて特に限定されないが、例えば、20~60℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。
【0055】
ペルオキシダーゼ反応工程における酵素と基質とを反応させる時間の長さは任意である。酵素反応の時間は、酵素と基質との接触による反応開始時(通常は、反応試薬とフェニル硫酸含有試料の混合時)から、次の測定工程における光学特性値の測定時までの時間であってよい。あるいは、酵素と基質との接触による反応開始時から、任意の方法で酵素反応を停止させた時点までの時間であってもよい。
【0056】
ペルオキシダーゼ反応工程に続いて、ペルオキシダーゼ反応の生成物の光学特性値を測定する測定工程を行う。光学特性値としては、例えば、吸光度、反射率、透過率等が挙げられ、測定の容易さから吸光度が好ましい。また、光学特性値としてペルオキシダーゼ反応工程における生成物の呈色度合いであってもよく、ペルオキシダーゼ反応後の呈色度合いを目視等で測ってもよい。この場合は、水溶液の状態での呈色度合いを測定する態様であってもよく、尿試験紙のように試験紙上でペルオキシダーゼ反応を行い試験紙上での呈色度合いを測定する態様であってもよい。
【0057】
吸光度を測定する場合の測定波長としては、フェノールと4-アミノアンチピリンから生成される赤色キノン色素を検出できる限りにおいて特に限定されないが、440~560nmで測定することが好ましい。
【0058】
測定工程は、ペルオキシダーゼ反応工程中又は工程後に行われ、ペルオキシダーゼ反応工程開始時から好ましくは8分間以内、より好ましくは5分間以内、さらに好ましくは2分間以内の期間内で行われる。測定工程を行う最短のタイミングは特に限定されず、反応開始(通常は、反応試薬とフェニル硫酸含有試料の混合時)の直後であってもよい。
【0059】
次いで、測定工程で得た光学特性値の測定値からスルファターゼ反応工程で生成したフェノール量を定量するフェノール定量工程を行う。フェノール定量工程は、通常、フェノールを既知濃度で含む標準試料を用いて作成した検量線に基づいて、光学特性値の測定値をスルファターゼ反応後のスルファターゼ反応工程の水溶液中のフェノール濃度に換算することで行うことができる。あるいは、ペルオキシダーゼ反応後の呈色度合いを、段階的な既知濃度のフェノールの標準色と比べることにより、スルファターゼ反応後のスルファターゼ反応工程の水溶液中のフェノール濃度を定量することもできる。ペルオキシダーゼ反応後の呈色度合いと既知濃度のフェノールに対応する標準色を目視で比べることにより、スルファターゼ反応後のスルファターゼ反応工程の水溶液中のフェノール濃度を求めることも定量に含まれる。
【0060】
スルファターゼ反応後のスルファターゼ反応工程の水溶液中のフェノールの濃度は特に限定されず、低濃度でも測定することができ、例えば、0.09mg/dL以上であることが好ましく、0.12mg/dL以上であることがより好ましい。また、上限も特に限定されないが、20mg/dL以下であることが好ましい。測定に供する該水溶液中のフェノールの濃度が大きい場合は希釈する等、ペルオキシダーゼ反応を行う水溶液中の濃度は適宜調整してもよい。ペルオキシダーゼ反応工程の水溶液中のフェノールの濃度としては、0.032mg/dL以上であることが好ましく、0.043mg/dL以上であることが好ましい。また、上限も特に限定されないが、7.1mg/dL以下であることが好ましい。
【0061】
次いで、フェノール定量工程で定量されたフェノール量からフェニル硫酸含有試料中のフェニル硫酸濃度を定量するフェニル硫酸定量工程を行う。フェニル硫酸定量工程は、フェノール定量工程で定量されたフェノール量をフェニル硫酸濃度に換算することにより行う。なお、フェノール定量工程で得たフェノール濃度をフェニル硫酸濃度とすることができる。また、フェニル硫酸を既知濃度で含む溶液から<フェニル硫酸含有試料の調製方法>の項に記載の調製方法によってフェニル硫酸含有試料を調製し、フェニル硫酸含有試料とスルファターゼと4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を接触させることによりスルファターゼ反応及びペルオキシダーゼ反応を起こすことで光学特性値を取得し、該溶液中のフェニル硫酸濃度と光学特性値の相関関係を予め取得する。そしてフェニル硫酸を定量する対象の溶液から<フェニル硫酸含有試料の調製方法>の項に記載の調製方法によってフェニル硫酸含有試料を調製し、フェニル硫酸含有試料とスルファターゼと4-アミノアンチピリン、ペルオキシダーゼ及び過酸化水素を接触させることによりスルファターゼ反応及びペルオキシダーゼ反応を起こすことで光学特性値を取得し、取得した光学特性値と予め取得した相関関係から対象の溶液中のフェニル硫酸濃度を算出できる。
【実施例0062】
実施例は、開示する目的のために記載されており、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0063】
<実施例1>
試料の調製
複数の健常者から尿(病院より取得)を採取し、混合した後、カプセルカートリッジフィルター(CCS-045-E1H、アドバンテック東洋社)でろ過してプール尿を調製した。該プール尿1mLに対して0g~0.1948g(0~3.3mmol)の割合で塩化ナトリウム(ナカライテスク社)を添加して調製したプール尿(塩添加プール尿)に、フェニル硫酸カリウム(Sigma-Aldrich社)、並びにフェノール類であるフェノール(ナカライテスク社)又はポリフェノール類であるカテキン(038-23461、富士フイルム和光純薬社)を添加し、以下の(1)~(4)に示すフェニル硫酸添加尿試料、フェノール添加尿試料、カテキン添加尿試料及びブランク試料(プール尿)を調製した。各尿試料は、フェニル硫酸を含む尿に塩が添加された塩添加尿に当たる。
(1)フェニル硫酸添加尿試料
塩添加プール尿 200μL
フェニル硫酸カリウム水溶液(終濃度5.0mM) 50μL
純水 50μL
(2)フェノール添加尿試料
塩添加プール尿 200μL
フェノール水溶液(終濃度5.0mM) 50μL
純水 50μL
(3)カテキン添加尿試料
塩添加プール尿 200μL
カテキン水溶液(終濃度5.0mM) 50μL
純水 50μL
(4)ブランク試料(プール尿)
塩添加プール尿 200μL
純水 100μL
【0064】
固相抽出
室温下で、上記(1)~(4)の各試料の一部を、逆相樹脂であるポリ(ジビニルベン
ゼン-co-N-ビニルビロリドン)コポリマーが充填されたシリンジバレル(Oasis(登録商標) HLB(1cc)(日本ウォーターズ社))又はイオン交換樹脂が充填されたシリンジバレル(Oasis(登録商標) MAX(1cc)(日本ウォーターズ社))に通過させ、シリンジバレルを通過した溶液を取得する固相抽出を行い、逆相樹脂又はイオン交換樹脂に塩添加尿を接触させることで得られる接触液を取得した。この取得した溶液(接触液)の液体画分を固相抽出後の(固相抽出した)試料とし、フェニル硫酸を含有するフェニル硫酸含有試料とした。シリンジバレルを通過させる前の(シリンジバレルを通過していない)試料を固相抽出前の(固相抽出していない)試料とした。これにより、上記(1)~(4)の各試料について、固相抽出前の試料と固相抽出後の試料を調製した。
【0065】
固相抽出前後の各添加物質の回収率の評価
室温下で、固相抽出前の試料60μL及び固相抽出後の試料60μLを96ウェルマイクロプレート(透明、平底)(Thermo Fisher Scientific社)に分注し、各試料に対して50μLのスルファターゼ(「Sulfatase from
Aerobacter aerogenes」、Sigma-Aldrich社)を添加した。マイクロプレートミキサー(IWAKI)を用いて5分間撹拌した後、各試料に対して50μLの500mM Tris-HCl(pH8.0)、15μLの264Unit/mL ペルオキシダーゼ水溶液及び10μLの98mM 4-アミノアンチピリン水溶液を添加した。各試料に10μLの109mM 過酸化水素水を添加して発色反応を開始した後、直ちにマイクロプレートリーダー(ベックマン・コールター社)を用いて492nmにおける吸光度を30分間測定した。測定開始から30分経過後における吸光度から、以下の計算式により、固相抽出前後のフェニル硫酸、フェノール及びカテキンの回収率をそれぞれ算出した。
【0066】
回収率(%)=(吸光度(固相抽出後)/吸光度(固相抽出前))×100
吸光度(固相抽出後):固相抽出後の試料を測定して得た吸光度の測定値
吸光度(固相抽出前):固相抽出前の試料を測定して得た吸光度の測定値
【0067】
各試料における逆相樹脂を用いた固相抽出前後のフェニル硫酸、フェノール及びカテキンの回収率を
図1に示す。
図1から判るように、塩化ナトリウムが添加されていない尿試料においては、フェニル硫酸、フェノール及びカテキンの回収率はいずれも低い値となった。一方、1mLあたり0.50mmol以上の割合で塩化ナトリウムが添加された尿試料においては、フェニル硫酸の回収率は40%以上となったが、フェノール及びカテキンの回収率は、塩化ナトリウムが添加されていない尿試料と同様に、いずれも低い値となった。これらの結果から、塩化ナトリウムが添加されていない場合、尿試料中のフェニル硫酸及びフェノール、カテキン等の夾雑物はいずれも逆相樹脂に吸着するが、1mLあたり0.50mmol以上の割合で塩化ナトリウムが添加された尿試料の場合、尿試料中のフェノール、カテキン等の夾雑物は逆相樹脂に吸着するものの、フェニル硫酸の逆相樹脂への吸着は抑制されることが示唆された。また、塩化ナトリウムを添加していない尿検体と逆相樹脂とを混合すると尿検体中のフェニル硫酸と夾雑物が逆相樹脂に吸着するが、その混合液に混合液1mLあたり0.50mmol以上の割合で塩化ナトリウムを添加して接触液を調製することで、逆相樹脂に吸着したフェニル硫酸を接触液の液体部分に溶出させ、かつ、逆相樹脂に吸着した夾雑物が接触液の液体部分に溶出することを抑制できることが示唆された。
【0068】
イオン交換樹脂を用いた固相抽出前後のフェニル硫酸、フェノール及びカテキンの回収率は、塩化ナトリウムの添加の有無にかかわらず、いずれも低い値となった。この結果から、尿試料中のフェニル硫酸、フェノール及びカテキンはいずれもイオン交換樹脂に吸着するため、イオン交換樹脂は尿試料中のフェノール類、ポリフェノール類等の夾雑物を除
去する用途には適さないことが示唆された。
【0069】
<実施例2>
試料の調製
臨床尿検体(ベリタス社)A~Dに、尿検体1mLあたり3mmolの割合で塩化ナトリウムを添加し、塩添加尿である測定試料A~Dを調製した。塩化ナトリウム添加前の臨床尿検体A~Dをブランク試料(臨床尿検体)とした。また、1mLあたり3mmolの割合で塩化ナトリウムを添加した純水又はプール尿に、フェニル硫酸濃度が0~500μMとなるようにフェニル硫酸カリウムを添加し、純水及びプール尿の検量線試料を調製した。
【0070】
固相抽出
実施例1の「固相抽出」と同様に、室温下で、測定試料A~D及び各検量線試料の一部を逆相樹脂が充填されたシリンジバレルであるOasis(登録商標) HLB(1cc)に通過させて固相抽出し、フェニル硫酸含有試料を得た。
【0071】
比色分析によるフェニル硫酸の測定
実施例1の「各添加物質の回収率の評価」における固相抽出前及び固相抽出後の各試料を固相抽出後の各検量線試料に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、各検量線試料の492nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定値とフェニル硫酸の添加濃度をもとに直線の検量線を作成した。純水の各検量線試料から作成した検量線の傾きと、プール尿の各検量線試料から作成した検量線の傾きは同等であったため、プール尿に含まれる発色物質による吸光度への影響を避ける観点から、純水の各検量線試料から作成した検量線の切片とプール尿の各検量線試料から作成した検量線の傾きを用いて本実施例の検量線とした。
【0072】
実施例1の「各添加物質の回収率の評価」における固相抽出前及び固相抽出後の各試料を固相抽出後の測定試料A~D(フェニル硫酸含有試料)及びブランク測定試料(臨床尿検体)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、各測定試料の492nmにおける吸光度を測定した。本実施例の検量線を用いて、吸光度の測定値から各測定試料中のフェニル硫酸の濃度を算出した。
【0073】
LC-MS/MS法によるフェニル硫酸の測定
装置はNANOSPACE SI-2 HPLC(資生堂社)及びTSQ Quantum Ultra(Thermo Fisher Scientific社)、カラムはScherzo SS-C18 3μm 2mm×50mm(インタクト社)を用いて、カラム温度は55℃、移動相は酢酸/アセトニトリル/水=0.1/20/79.9(v/v%)(A液)及び10mM 酢酸アンモニウム/アセトニトリル/水=0.07/80/19.93(v/v%)(B液)を使用し、流速0.2~0.6mL/分で、B液比率を分析開始時:25%、18.5分経過時:100%とするグラジエント条件で分離した。
質量分析計では、加熱エレクトロスプレーにより試料をイオン化した。加熱エレクトロスプレーイオン化は、正イオンモードと負イオンモードで行われた。噴霧化及び脱溶媒には窒素を使用し、衝突ガスにはアルゴンを使用した。キャピラリーにおいては、正イオンモードで4.0kVの電圧を6.5分間印加し、続いて負イオンモードで2.5kVの電圧を13.5分間印加した。
【0074】
比色分析及びLC-MS/MS法によるフェニル硫酸の測定結果を表1に示す。なお、LC-MS/MS法による定量値は尿中の夾雑物による影響を受けないものとして、該定量値を各測定試料中のフェニル硫酸濃度の真値として扱った。表1から判るように、逆相
樹脂を用いた固相抽出を行うことで、比色分析による定量値はLC-MS/MS法による定量値に大幅に近づいた。この結果から、臨床尿検体に含まれるフェノール、カテキン等の夾雑物は、逆相樹脂を用いた固相抽出によって臨床尿検体から排除されることが示唆された。
【0075】
【0076】
<変形例1>
実施例1及び実施例2は、逆相樹脂を充填したシリンジバレルに塩添加尿を通過させ、塩添加尿と逆相樹脂とを接触させることで接触液を調製し、シリンジバレルを通過した塩添加尿(すなわち、該接触液の液体画分)をフェニル硫酸含有試料として取得した。この他にも、塩添加尿中に逆相樹脂を懸濁して、塩添加尿と逆相樹脂とを接触させることで接触液を調製した後、逆相樹脂と塩添加尿を分離することで、逆相樹脂と分離した塩添加尿(すなわち、接触液の液体画分)をフェニル硫酸含有試料として取得することができる。
【0077】
<変形例2>
尿検体中に逆相樹脂を懸濁して尿検体と逆相樹脂とを接触させることで、尿検体中のフェニル硫酸及び夾雑物を逆相樹脂に吸着させる。尿検体と逆相樹脂とを接触させている間に該尿検体と塩を混合して接触液を調製することで、逆相樹脂に夾雑物を吸着させたまま、逆相樹脂に吸着したフェニル硫酸を該接触液の液体部分に溶出させる。塩混合尿検体と逆相樹脂を分離して該接触液の液体部分を取得することで、該塩混合尿検体を夾雑物の含量が少ないフェニル硫酸含有試料として取得することができる。