(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130246
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】表面処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C23C14/54 B
H01L21/31 D
H01L21/31 C
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039872
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】505402581
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・ディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】小田 修
(72)【発明者】
【氏名】江部 明憲
【テーマコード(参考)】
4K029
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K029AA24
4K029BA60
4K029CA05
4K029DA02
4K029DA04
4K029DA08
4K029DC20
4K029JA03
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4K029KA05
5F004BA03
5F004BB13
5F004BB17
5F004BB19
5F004BB24
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5F045DQ12
5F045EB10
5F045EG01
5F045EH02
5F045EH18
5F045EK13
5F045EM10
(57)【要約】
【課題】スパッタガス等の処理ガスや該処理ガスが反応して生成された反応ガスを効率良く排出することができる表面処理装置を提供する。
【解決手段】表面処理装置1は、真空容器11と、真空容器11内に設けられた、被処理物を保持する被処理物保持部(基板保持部122)及び該被処理物保持部を周回経路に沿って周回させる被処理物移動機構(基板移動機構12)と、前記周回経路に対向するように複数設けられた、前記被処理物の表面に対して所定の処理ガスを用いて表面処理を行う表面処理部(蒸着部13、ラジカル照射部14、基板加熱部15)と、 前記周回経路の内側に設けられた、前記処理ガス及び/又は該処理ガスが反応して生成された反応ガスを前記真空容器の外に排出する排気口16とを備える。排気口16を周回経路の内側に設けることにより、全ての表面処理部が排気口16に対向することとなるため、全ての表面処理部から処理ガスや反応ガスを真空容器11の外に効率良く排出することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた、被処理物を保持する被処理物保持部及び該被処理物保持部を周回経路に沿って周回させる被処理物移動機構と、
c) 前記周回経路に対向するように複数設けられた、前記被処理物の表面に対して所定の処理ガスを用いて表面処理を行う表面処理部と、
d) 前記周回経路の内側に設けられた、前記処理ガス及び/又は該処理ガスが反応して生成された反応ガスを前記真空容器の外に排出する排気口と
を備える。
【請求項2】
前記排気口を1個のみ備える、請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記排気口が、前記真空容器内に配置された筒状部材の一端であり、該筒状部材の他端は該真空容器の壁に設けられた孔に接続されている、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
複数の前記表面処理部のうち隣接する2つの表面処理部の間に隔壁が設けられている、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記被処理物移動機構が、回転軸に垂直な板材から成る回転板の表面の該回転軸の周りに前記被処理物保持部が複数個配置されたものであって、
さらに、前記隔壁の前記回転板寄りの端部に、該回転板に略平行に設けられた板状の第2隔壁を備える、
請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
複数の前記表面処理部のうちの少なくとも1つがプラズマ発生器を有する、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面に、プラズマ等を用いて成膜やエッチング等の処理を行う表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物の表面に金属の窒化物や酸化物等の金属化合物から成る膜を作製する際に、原子1~数個分相当の厚さの金属から成る金属層を形成したうえで該金属層に窒化や酸化等の処理を行うという操作を多数回繰り返す、という手法が用いられている。
【0003】
そのような処理を行う装置として、特許文献1には、真空容器内に、回転する円盤の円周部に複数の基板(被処理物)を保持する基板ホルダと、基板ホルダの円周部の上方又は下方に、該基板ホルダに対向するように、周方向に交互に2個ずつ設けられたスパッタ源及びプラズマ発生器を備える表面処理装置が記載されている。スパッタ源は、表面にターゲットが保持されるカソードと、ターゲット近傍にスパッタガスを供給する手段を有する。プラズマ発生器は、マイクロ波発生器(その代わりに、誘導結合型の高周波アンテナや容量結合型の電極も可)と、窒素ガスや酸素ガス等のプラズマ原料ガスを供給する手段を有する。
【0004】
この表面処理装置では、基板ホルダの円周部に複数の基板を保持した状態で該基板ホルダを一定速度で回転させつつ、スパッタ源では金属製のターゲットをスパッタし、プラズマ発生器では窒素プラズマ又は酸素プラズマを発生させる。これにより、各基板の表面にスパッタ源により金属層を形成したうえでプラズマ発生器により該金属層を窒化又は酸化するという操作を繰り返し実行し、各基板の表面に金属窒化物又は酸化物の膜を作製する。
【0005】
この表面処理装置では、スパッタ源に供給されたスパッタガスがプラズマ発生器に流入することや、プラズマ発生器でプラズマ原料ガスが分解した反応ガスがスパッタ源に流入することを防ぐ必要がある。そのため、周方向に隣接するスパッタ源とプラズマ発生器の間、及びそれらスパッタ源やプラズマ発生器から見て基板ホルダの回転中心側の位置に、ガスの移動を防ぐ隔壁が設けられている。それと共に、スパッタ源やプラズマ発生器の側方の真空容器の壁に、排気用ポンプと接続された排気口が設けられている。これらの構成により、スパッタ源に供給されたスパッタガスやプラズマ発生器で発生した反応ガスは、排気口を通して真空容器外に排気される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の表面処理装置では、2個ずつ設けられたスパッタ源及びプラズマ発生器に対応して合わせて4個の排気口が設けられており、それに対応して排気用ポンプを4個用いる必要がある。このように表面処理装置に複数の排気用ポンプを設けると装置コストが上昇する。一方、装置コストを抑えるために排気口の個数を減少させると、排気口から離れた位置に設けられたスパッタ源及びプラズマ発生器からスパッタガスや反応ガスを効率良く排出することができない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、排気口の個数に依らず、スパッタガス等の処理ガスや該処理ガスが反応して生成された反応ガスを効率良く排出することができる表面処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表面処理装置は、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた、被処理物を保持する被処理物保持部及び該被処理物保持部を周回経路に沿って周回させる被処理物移動機構と、
c) 前記周回経路に対向するように複数設けられた、前記被処理物の表面に対して所定の処理ガスを用いて表面処理を行う表面処理部と、
d) 前記周回経路の内側に設けられた、前記処理ガス及び/又は該処理ガスが反応して生成された反応ガスを前記真空容器の外に排出する排気口と
を備える。
【0010】
本発明に係る表面処理装置では、被処理物保持部に保持された被処理物を被処理物移動機構によって周回経路に沿って周回させながら、該周回経路に対向して複数設けられた表面処理部によってそれぞれ被処理物に対して所定の処理ガスを用いて表面処理を行う。これにより、被処理物には、表面処理部の個数に周回経路を周回させる回数を乗じた回数の表面処理が施される。
【0011】
ここで被処理物移動機構には、特許文献1と同様の回転する板状(但し、形状は円形には限定されない)の基板ホルダを用いてもよいし、それ以外の搬送コンベア等を用いてもよい。また、被処理物移動機構は、被処理物保持部(及びそれに保持された被処理物)が各表面処理部に対向する位置を移動しながら通過するように該被処理物保持部を連続的に移動させるものであっても良いし、被処理物保持部(同上)が前記位置に一定時間留まるように該被処理物保持部を間欠的に移動させるものであってもよい。
【0012】
表面処理部には、特許文献1と同様のスパッタ源やプラズマ発生器を用いてもよいし、それら以外の成膜装置やエッチング装置等を用いてもよい。処理ガスには、スパッタガスやプラズマ原料ガス等を用いることができる。
【0013】
本発明に係る表面処理装置はさらに、周回経路の内側に排気口を備える。各表面処理部で使用された処理ガスや該処理ガスが反応して生成された反応ガスは、この排気口から真空容器の外に排出される。
【0014】
本発明に係る表面処理装置によれば、排気口を周回経路の内側に設けることで、全ての表面処理部が排気口に対向することとなるため、排気口の個数に依らず、全ての表面処理部から処理ガスや反応ガスを真空容器の外に効率良く排出することができる。
【0015】
本発明に係る表面処理装置において、前記排気口を1個のみ備えるという構成を取ることができる。これにより、排気に用いるポンプも1個のみ設ければよいため、装置コストを抑えることができる。
【0016】
一方、前記排気口を複数個備えるという構成を取ることもできる。この場合、排気の効率を高くすることができる。また、複数個の排気口をそれぞれ適切な位置に配置する(例えばそれら複数個の排気口を周回経路の内側に均等に配置する)ことにより、真空容器内のガスの分布の均一性を高くすることができる。
【0017】
本発明に係る表面処理装置において、前記排気口は、前記真空容器内に配置された筒状部材の一端であり、該筒状部材の他端は該真空容器の壁に設けられた孔に接続されている、という構成を取ることができる。これにより、排気口を真空容器の壁ではなく、真空容器の内部の適切な位置に配置することができる。
【0018】
本発明に係る表面処理装置においてさらに、複数の前記表面処理部のうち隣接する2つの表面処理部の間に隔壁が設けられていることが望ましい。これにより、それら2つの表面処理部の一方から他方に処理ガスや反応ガスが流入することを防ぐことができる。前記筒状部材を用いる場合には、該隔壁は該筒状部材の壁から放射状に延びるように複数枚形成し、隣接する隔壁間に表面処理部を1個ずつ配置するとよい。
【0019】
前記隔壁を備える構成において、
前記被処理物移動機構が、回転軸に垂直な板材から成る回転板の表面の該回転軸の周りに前記被処理物保持部が複数個配置されたものであって、
さらに、前記隔壁の前記回転板寄りの端部に、該回転板に略平行に設けられた板状の第2隔壁を備える
という構成を取ることができる。ここで「略平行」とは、回転板と第2隔壁が成す角度が20°以下であることをいう。このような構成により、隔壁で隔てられた2個の表面処理部の間で、回転板と隔壁との間を介してガスが移動することを、第2隔壁によって抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る表面処理装置によれば、排気口を1個のみ設ければよいため、排気用ポンプによる装置コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る表面処理装置の一実施形態を示す縦断面図。
【
図2】本実施形態の表面処理装置における真空容器内の各部の配置を示す平面図。
【
図3】本実施形態の表面処理装置における被処理物移動機構を示す下面図。
【
図4】本実施形態の表面処理装置における被処理物移動機構の部分拡大図。
【
図5】本実施形態の表面処理装置における隔壁及び第2隔壁を含む部分拡大図。
【
図6】本実施形態の表面処理装置を用いて作製された窒化チタン薄膜のX線回折測定の結果を示すグラフ。
【
図8】別の変形例における真空容器内の各部の配置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1~
図8を用いて、本発明に係る表面処理装置の実施形態を説明する。
【0023】
(1) 本実施形態の表面処理装置の構成
図1に本実施形態の表面処理装置1の縦断面図を示す。本実施形態の表面処理装置1は、真空容器11、並びに、該真空容器11内に設けられた基板移動機構(前記被処理物移動機構に相当)12、蒸着部(スパッタ部)13、ラジカル照射部(プラズマ処理部)14、基板加熱部15(
図2参照)、排気口16、隔壁17(
図2参照)等を有する。蒸着部13及びラジカル照射部14は前記表面処理部に相当する。
図2に、真空容器11内の上記各部の配置を平面図で示し、
図3に、基板移動機構12の下面図を示す。さらに、真空容器11の外には真空ポンプ18を備える。
【0024】
真空容器11は、本実施形態では円筒形の容器である。真空容器11の形状はこの例には限定されないが、次に述べる基板移動機構12において基板Sを周回させる周回経路の形状(本実施形態では円形)に対応した横断面を有する形状とすることが、真空容器11内の空間を有効に利用できるという点で好ましい。真空容器11の天板111には基板移動機構12が設けられており、底面には蒸着部13、ラジカル照射部14、基板加熱部15等が設けられている。
【0025】
基板移動機構12は、ベース板(前記回転板に相当)121と、基板保持部(前記被処理物保持部に相当)122と、回転軸123と、モータ124とを備える。
【0026】
ベース板121は円盤状の板材から成り、略水平となるように真空容器11の天板111寄りの高さに配置されている。基板保持部122はベース板121の下面に設けられた、ベース板121よりも径が小さい円盤状の部材から成り、その下面に基板Sが保持される。基板保持部122は4個設けられており、各基板保持部122はベース板121の円盤の外周付近に90°間隔で配置されている(
図3参照)。本実施形態ではベース板121の直径を1014mm、基板保持部122の直径を360mmとしたが、この例には限定されない。
【0027】
回転軸123は、真空容器11の円筒の中心軸と一致するように略鉛直に設けられ、下端がベース板121の円板の中心に固定されている。後述のように、モータ124によって回転軸123を回転させることにより、ベース板121がその円盤の中心の周りに回転すると共に、各基板保持部122もその円盤を中心の周りに回転する。これにより、基板保持部122に保持された基板Sは、ベース板121の回転により回転軸123を中心とする円形の周回経路を公転するように移動すると共に、基板保持部122の回転により自転する。ここで周回経路は、ベース板121の回転により基板保持部122が通過する領域で規定し、
図3では一点鎖線で示した二重の円(外縁1221と内縁1222)の間のドーナツ状の領域が該当する。
【0028】
回転軸123の上端付近は天板111を貫通して該天板111よりも上方まで延びている。天板111上には回転機構部の安全カバーとして、回転軸123の上端付近及びモータ124を囲うように壁112が設けられている。また、天板111の回転軸123が貫通する部分には真空容器11内と外部との間の気密を維持する軸シール機構(図示せず)が設けられている。軸シール機構には、ウイルソンシール、メカニカルシール、磁性流体シール等を用いることができる。
図4に示すように、回転軸123は1対のギア125を介してモータ124に接続されており、モータ124を回転させるとギア125を介して回転軸123及びそれに固定されたベース板121が回転する。
【0029】
また、各基板保持部122の円盤の中心から上方に向けてベース板121を貫通するように第2回転軸126が延びている。第2回転軸126の上端には第2ギア127が設けられている。さらに、天板111の下面には、回転軸123を囲うように設けられ、第2ギア127と噛み合った固定ギア128が固定されている。ベース板121の回転に伴って基板保持部122が公転すると、第2ギア127が固定ギア128と噛み合いながら該固定ギア128の周りを回転することにより、第2回転軸126及び基板保持部122が自転する。
【0030】
蒸着部13は、カソード電極131と、直流電源132と、スパッタガス供給部133とを有する。
【0031】
カソード電極131は、基板移動機構12の周回経路の直下に設けられ、該周回経路を移動する基板Sと略平行に配置された板状の電極である。カソード電極131の上面には、成膜する材料であるターゲットTが載置される。直流電源132は300Vの直流電圧をカソード電極131と接地の間に印加する電源であって、その負極がカソード電極131に接続されている。直流電源132の代わりに直流パルス電源や交流(高周波)電源(後述の高周波電源142とは別のもの)を用いてもよい。
【0032】
スパッタガス供給部133は、真空容器11外に設けられたガスボンベ(図示せず)から真空容器11内のターゲットTの近傍にスパッタガスを供給する管であって、該管は真空容器11の壁を貫通している。本実施形態ではスパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用いるが、本発明ではこの例には限定されない。
【0033】
ラジカル照射部14は、真空容器11の円筒の中心軸を挟んで蒸着部13と対向する位置に設けられており、プラズマ生成室140と、高周波アンテナ141と、高周波電源142と、プラズマ原料ガス供給部143とを備える。
【0034】
プラズマ生成室140は、基板移動機構12の周回経路の直下に設けられ、該周回経路を移動する基板Sに対向する位置に設けられている。プラズマ生成室140の上面(基板保持部122に対向する側の面)には、該プラズマ生成室140内で生成されるプラズマにより得られるラジカルを通過させるラジカル通過孔1401が設けられている。
【0035】
高周波アンテナ141はプラズマ生成室140の側方に、該プラズマ生成室140を挟んで2個設けられており、それぞれプラズマ生成室140に隣接する高周波アンテナ収容室1411内に収容されている。本実施形態では、高周波アンテナ141には線状導体をU字形に成形したものを用いるが、本発明ではこの例には限定されない。高周波アンテナ141の線状導体の一端には高周波電源142が接続され、他端は接地されている。高周波電源142は真空容器11外に配置されており、真空容器11の壁を通過する導線を通して高周波アンテナ141の一端に接続されている。この高周波電源142は周波数13.56MHzの高周波電流を高周波アンテナ141に供給する。
【0036】
プラズマ原料ガス供給部143は、真空容器11外に設けられたガスボンベ(図示せず)からプラズマ生成室140内にプラズマ原料ガスを供給する管であって、該管は真空容器11の壁を貫通している。本実施形態ではプラズマ原料ガスとして窒素(N2)ガスを用いるが、酸素(O2)ガス等の他のプラズマ原料ガスを用いてもよい。なお、本実施形態ではプラズマ生成室140は後述のように蒸着部13の動作によって基板S上に形成された金属製の膜を窒化(あるいは酸化等)するためのラジカルを生成することを目的として用いるが、その代わりに、成膜する材料を基板S上に供給するためのプラズマを生成してもよい。その場合には、成膜の原料となるガス(例えばシリコンの膜を成膜する場合におけるシランガス)をプラズマ原料ガス供給部143からプラズマ生成室140内に供給する。
【0037】
基板加熱部15は、基板移動機構12の周回経路の直下であって、真空容器11の円筒の周方向に関して蒸着部13の両隣に合わせて2個設けられており、いずれも該周方向に関して蒸着部13とラジカル照射部14の間に位置する。基板加熱部15にはランプヒータ151が配置されている。ランプヒータ151は図示せぬ電源から電力が供給されることにより発光及び発熱する。
【0038】
排気口16は、真空容器11の底面に立設された筒状部材161の上端の開口から成る。排気口16は、基板移動機構12の周回経路の内側であって、蒸着部13のカソード電極131に載置されたターゲットT及びラジカル照射部14のラジカル通過孔1401よりも上側(基板移動機構12側)に1個のみ配置されている。筒状部材161は真空容器11の底板113に設けられた孔114を介して、真空容器11外に設けられた真空ポンプ18に接続されている。真空ポンプ18には、本実施形態ではターボ分子ポンプを用いるが、他の真空ポンプを用いてもよい。本実施形態の表面処理装置1は、排気口16が1個のみであることに対応して、真空ポンプ18も1個のみ備える。
【0039】
隔壁17は、蒸着部13と基板加熱部15の間や、ラジカル照射部14と基板加熱部15の間を隔てる壁である。本実施形態では、隔壁17は、蒸着部13から見て両隣の基板加熱部15の間にそれぞれ1枚ずつ、ラジカル照射部14から見て両隣の基板加熱部15の間にそれぞれ1枚ずつ、合計4枚設けられている。隔壁17はいずれも、基板移動機構12のベース板121に垂直に、真空容器11の底面に立設されており、横方向には筒状部材161の壁から外方に向かって真空容器11の壁に到達するまで放射状に延びるように形成されている。筒状部材161も、該筒状部材161を挟んで対向する蒸着部13とラジカル照射部14の間を隔てる壁としての役割を併せ持つ。
【0040】
隔壁17の上端には、基板移動機構12のベース板121に略平行であって蒸着部13側及びラジカル照射部14側に向かって延びる第2隔壁172が設けられている(
図2、
図5参照)。第2隔壁172は、蒸着部13のターゲットTの上方及びラジカル照射部14のプラズマ生成室140の上方には設けられておらず、それらの上方の位置よりも隔壁17側にのみ存在する。これにより、蒸着等の成膜やラジカルによる処理等を行う際に、スパッタ粒子SPやプラズマから生成されたラジカルが基板Sに到達することを妨げないようにしている。また、真空容器11の円筒の径方向に関しては、排気口16から所定の距離までは第2隔壁172は設けられていない。換言すれば、第2隔壁172は、真空容器の壁から内方に向かって、筒状部材161の壁に到達する手前の位置まで延びるように形成されている。第2隔壁172は、基板保持部122に保持され基板移動機構12により移動する基板Sとの間に、1mm~5mmの隙間が生じる高さに配置されている。第2隔壁172の平面形状は、略扇形(但し、扇の要付近の位置には第2隔壁172は存在しない)である。
【0041】
真空容器11の天板111は基板移動機構12が取り付けられたままの状態で開放可能であって、且つ真空容器11内を気密に閉鎖することができる(図示省略)。成膜処理の開始前には、天板111を開放することで、基板保持部122に基板Sを保持させることやカソード電極131の上面にターゲットTを載置する操作を行うことができる。同様に、成膜処理の終了後には、天板111を開放することで、表面に成膜された基板Sを取り出すことができる。
【0042】
(2) 本実施形態の表面処理装置の動作
本実施形態の表面処理装置1の動作を説明する。まず、真空容器11の天板111を開放し、基板保持部122に基板Sを保持させると共に、カソード電極131の上面にターゲットTを載置する。その後、天板111を閉鎖して真空容器11内を気密に保持する。ここで基板Sの表面は下側を向き、この状態で該表面に処理を行うこととなる。このように基板Sの表面を下向きにするのは、表面処理中に該表面に不純物が落下してコンタミネーションが生じることを防ぐためである。
【0043】
次に、真空ポンプ18を作動させ、真空容器11内の大気を排気口16を通して排出する。真空容器11内が所定の真空度に到達した後、真空ポンプ18の作動を継続したままで基板移動機構12、蒸着部13、ラジカル照射部14及び基板加熱部15を以下のように動作させる。
【0044】
基板移動機構12では、モータ124を駆動させることにより、ベース板121及び基板保持部122を回転させる。これにより、基板保持部122及びそれに保持された基板Sは回転軸123の周りを公転すると共に、第2回転軸126の周りを自転する。ベース板121の回転速度(公転速度)は例えば50~100rpm(1分間あたり50~100回転)、基板保持部122の第2回転軸126の周りの回転速度(自転速度)は例えば100~400rpmとする。
【0045】
蒸着部13では、スパッタガス供給部133からターゲットTの近傍にスパッタガス(Arガス)を供給しつつ、直流電源132によりカソード電極131と接地の間に、カソード電極131側が負となる直流電圧を印加する。これにより、スパッタガスのArが電離して正イオンと電子から成るプラズマが生成される。これらのうちの正イオンは、前記直流電圧によりカソード電極131側に向かって加速され、カソード電極131上面に載置されたターゲットTに衝突する。すると、ターゲットTがスパッタされ、該ターゲットTの材料から成るスパッタ粒子が飛び出し、基板保持部122に保持された基板Sに向かって飛行する。
【0046】
ラジカル照射部14では、プラズマ原料ガス供給部143からプラズマ生成室140内にプラズマ原料ガス(N2ガス)を供給しつつ、高周波電源142から高周波アンテナ141に高周波電流を供給する。これにより、プラズマ原料ガスのN2分子が分解した窒素ラジカルから成るプラズマが生成される。生成された窒素ラジカルはラジカル通過孔1401を通過し、基板保持部122に保持された基板Sに向かって拡散する。
【0047】
基板加熱部15では、ランプヒータ151に電力を投入することにより、該ランプヒータ151が発熱する。
【0048】
このように、ベース板121及び基板保持部122を回転させつつ蒸着部13、ラジカル照射部14及び基板加熱部15を動作させることにより、4個の基板保持部122の各々に保持された基板Sは周回経路上を繰り返し周回し、その間に基板加熱部15、蒸着部13、基板加熱部15、ラジカル照射部14の順でこれら各部の上方を繰り返し通過する。これにより、基板Sは、基板加熱部15で所定の温度に加熱された後に蒸着部13においてスパッタ粒子が表面に入射することによってターゲットTの材料から成る膜が成膜され、続いて基板加熱部15で所定の温度に加熱された後にラジカル照射部14において該膜が窒素ラジカルに晒されることで窒化する、という操作がベース板121の1周毎に繰り返される。その間、基板保持部122が自転することにより、成膜及び窒化処理を基板Sの表面内で均一に行うことができる。
【0049】
ベース板121を所定回数回転させた後、各部の動作を停止することにより、基板Sの表面に形成された、ターゲットTの材料の窒化物から成り所定の厚みを有する膜が得られる。その後、真空容器11の天板111を開放することにより、膜が形成された基板Sを表面処理装置1から取り出す。
【0050】
本実施形態の表面処理装置1では、表面処理部である蒸着部13及びラジカル照射部14の作動中に真空ポンプ18を作動させることにより、蒸着部13に供給されたスパッタガスやラジカル照射部14に供給されたプラズマ原料ガス等の処理ガスやそれらが反応して生成された反応ガス、あるいはラジカル照射部14で生成されたラジカルのうち余分のものを排気口16から排出するため、それら余分なガスやラジカルが他の表面処理部に流入することが抑えられる。ここで、排気口16を基板Sの周回経路の内側に設けたことにより、全ての表面処理部が排気口16に対向しているため、全ての表面処理部から余分なガスやラジカルを真空容器11の外に効率良く排出することができる。
【0051】
また、排気口16の個数を1個のみとすることができ、それによって真空ポンプ18も1個のみ設ければ済むため、表面処理装置1の装置コストを抑えることができる。
【0052】
さらに、本実施形態の表面処理装置1では、真空容器11内に設けられた筒状部材161の一端(上端)を排気口16とするため、真空容器11内の適切な位置に排気口16を配置することができる。上記の例では、排気口16をカソード電極131に載置されたターゲットT及びラジカル通過孔1401よりも基板移動機構12側に配置しているため、ターゲットTからスパッタガスや、ラジカル通過孔1401から放出される窒素ラジカルのうち蒸着部13側に向かって拡散するもの(仮にこのような窒素ラジカルが蒸着部13に侵入するとターゲットTを窒化させてしまい、スパッタすることが困難になる)を効率よく排出できる。
【0053】
本実施形態の表面処理装置1ではさらに、隣接する蒸着部13と基板加熱部15の間、及びラジカル照射部14と基板加熱部15の間に隔壁17を設けているため、それら隣接する表面処理部の間でガスやラジカルが移動することを防ぐことができる。
【0054】
また、本実施形態の表面処理装置1ではさらに、隔壁17から蒸着部13及びラジカル照射部14側に、基板移動機構12のベース板121と略平行な第2隔壁172を、基板Sとの間に1mm~5mmの隙間が生じる高さで配置することにより、隔壁17の上端よりも上側を通って他の表面処理部にガスやラジカルが侵入することを抑えることができる。ここで第2隔壁172と基板Sの隙間の大きさは、基板S及びその表面に形成される膜と第2隔壁172が接触しない範囲内で、できるだけガスやラジカルが該隙間を通過しないように、狭く設定する。
【0055】
次に、本実施形態の表面処理装置1を用いて、窒化チタン(TiN)の薄膜を作製した実施例を説明する。この実施例では、ターゲットTは金属チタンから成るものを用い、スパッタガスはアルゴンガスを500sccmの速度で導入した。カソード電極131には2kWの放電電力を投入した。プラズマ原料ガスは窒素ガスを200sccmの速度で導入した。2個の高周波アンテナ141には合わせて2kWの高周波電力を投入した。ランプヒータ151に投入する電力は、それにより加熱された基板Sの温度が蒸着部13及びラジカル照射部14において200℃となるように調整した。ベース板121の回転速度(公転速度)は50rpmとし、基板保持部122の回転速度(自転速度)は200rpmとした。
【0056】
以上の作製条件で50分間(ベース板121を2500回転させる間)処理を行い、基板S上に厚さ約200nmの膜を成膜した。得られた膜に対してX線回折測定(CuKα線、波長1.54Å)を行ったところ、
図6に示すように、TiNの回折パターンと一致する(金属Tiの回折ピークは見られない)測定結果が得られた。このように、本実施形態の表面処理装置1によってストイキオメトリなTiNの薄膜が得られることが確認された。
【0057】
(3) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、真空容器11内に配置した筒状部材161の一端を排気口16として用いたが、その代わりに、又はそれに加えて、排気口として筒状部材の161の壁に孔を設けてもよい。この場合、筒状部材の161の周方向に複数個の孔を設けることにより、複数個の表面処理部から処理ガスや反応ガス等を効率良く排出することができる。また、この場合においても筒状部材161自体は1個のみ設ければよいため、それに接続する真空ポンプも1個のみ設ければ済む。
【0059】
排気口は平面視して基板の周回経路の内側に位置してさえすればよく、周回経路の中心に位置することは必須ではない。
【0060】
筒状部材161は真空容器11の天板111に設けてもよい。この場合には筒状部材161を基板移動機構12の回転軸123から横方向にずらした位置に配置する。あるいは、
図7に示すように、筒状部材161を外側、基板移動機構12の回転軸123Aを中空として、その真空容器11内側の端部を排気口16Aとしてもよい。
図7では回転軸123Aを基板移動機構12のベース板121よりも下側に突出させたうえで排気口16Aを該ベース板121よりも下側に配置したが、回転軸123Aをベース板121から突出させずに排気口16Aを該ベース板121の下面に設けてもよい。この例では、回転軸123Aの排気口16Aとは反対側の端部には排気管162を接続し、該排気管162を真空ポンプ18と接続している。回転軸123Aと排気管162の間にはシール材(図示せず)を設ける。
【0061】
また、筒状部材161や中空の回転軸123A等のような真空容器11内に延びる筒状(管状)の部材を用いることなく、真空容器11の天板111や底面113に設けた孔を排気口として用いてもよい。
【0062】
上述のように表面処理装置1の装置コストを抑えるという点では排気口16の個数を1個のみとすることがよいが、処理ガスや反応ガス等を排出する効率をより重視する場合には、周回経路の内側に排気口を複数個設けてもよい。この場合、例えば周回経路の内側の中央付近に最も開口が大きい排気口を設けると共にその周囲に開口がより小さい補助的な排気口を1個又は複数個設けるという構成を取ってもよいし、周回経路の内側に同程度の大きさの開口を有する排気口を複数個設けるという構成を取ってもよい。
図8に示した例では、排気口16よりも蒸着部13寄りに該排気口16よりも開口が小さい第1補助排気口163を設けると共に、排気口16よりもラジカル照射部14寄りに該排気口16よりも開口が小さい第2補助排気口164を設けている。
【0063】
上記実施形態では回転板(ベース板121)に基板保持部122を設けることにより円形の周回経路を形成したが、搬送コンベア等を用いて基板の周回経路を形成してもよい。
【0064】
上記実施形態では表面処理部同士の境界に隔壁17を設けたが、排気口16からの排気速度を適宜設定することにより、隔壁17を省略しても表面処理部間でガス等の流出入を抑えることができることもあり得る。第2隔壁172も省略可能である。
【0065】
第2隔壁172の形状は上記実施形態のものには限定されない。例えば、蒸着部13のターゲットTの上方及びラジカル照射部14のプラズマ生成室140の上方に最低限の開口を設けるとともに、排気口16の近傍にガスが通過する(このガスは排気口16から排出される)最小限の大きさの孔を設けたうえで、それら以外の2枚の隔壁17の間の上方全体を第2隔壁で覆ってもよい。また、上記実施形態では、第2隔壁172は蒸着部13及びラジカル照射部14の上方に設けたが、基板加熱部15の上に設けてもよいし、これら蒸着部13、ラジカル照射部14及び基板加熱部15以外の基板処理部を設けたうえで、その上方に第2隔壁を設けてもよい。
【0066】
上記実施形態では蒸着部13及びラジカル照射部14を1個ずつ設けたが、それらを複数個ずつ設けてもよい。これにより、基板Sが周回経路を1周する毎にターゲット材料の堆積とラジカル処理(窒化や酸化等)が複数回実行されるため、成膜速度を高くすることができる。この場合にはまた、蒸着部13毎及び/又はラジカル照射部14毎に異なるターゲット材料の堆積及び/又はラジカル処理を行うことにより、異なる材料から成る複数種の膜が繰り返し堆積した多層膜を形成することができる。
【0067】
さらに、表面処理部として、蒸着部13やラジカル照射部14以外のもの、例えば化学蒸着(CVD)装置やエッチング装置等を用いてもよい。その他、ここまでに述べた各構成を適宜組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…表面処理装置
11…真空容器
111…天板
112…壁
113…底板
114…孔
12…基板移動機構(被処理物移動機構)
121…ベース板
122…基板保持部
1221…周回経路の外縁
1222…周回経路の内縁
123、123A…回転軸
124…モータ
125…ギア
126…第2回転軸
127…第2ギア
128…固定ギア
13…蒸着部
131…カソード電極
132…直流電源
133…スパッタガス供給部
14…ラジカル照射部
140…プラズマ生成室
1401…ラジカル通過孔
141…高周波アンテナ
1411…高周波アンテナ収容室
142…高周波電源
143…プラズマ原料ガス供給部
15…基板加熱部
151…ランプヒータ
16、16A…排気口
161…筒状部材
162…排気管
163…第1補助排気口
164…第2補助排気口
17…隔壁
172…第2隔壁
18…真空ポンプ
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた、被処理物を保持する被処理物保持部及び該被処理物保持部を周回経路に沿って周回させる被処理物移動機構と、
c) 前記周回経路に対向するように複数設けられた、前記被処理物の表面に対して所定の処理ガスを用いて表面処理を行う表面処理部と、
d) 前記周回経路の内側に設けられた、前記処理ガス及び/又は該処理ガスが反応して生成された反応ガスを前記真空容器の外に排出する排気口と
を備える表面処理装置。
【請求項2】
前記排気口を1個のみ備える、請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記排気口が、前記真空容器内に配置された筒状部材の一端であり、該筒状部材の他端は該真空容器の壁に設けられた孔に接続されている、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
複数の前記表面処理部のうち隣接する2つの表面処理部の間に隔壁が設けられている、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記被処理物移動機構が、回転軸に垂直な板材から成る回転板の表面の該回転軸の周りに前記被処理物保持部が複数個配置されたものであって、
さらに、前記隔壁の前記回転板寄りの端部に、該回転板に略平行に設けられた板状の第2隔壁を備える、
請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
複数の前記表面処理部のうちの少なくとも1つがプラズマ発生器を有する、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
また、筒状部材161や中空の回転軸123A等のような真空容器11内に延びる筒状(管状)の部材を用いることなく、真空容器11の天板111や底板113に設けた孔を排気口として用いてもよい。