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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130276
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20240920BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L29/78 655F
H01L29/78 653A
H01L29/78 652P
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039910
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
(57)【要約】
【課題】 中間領域での電流集中を抑制する。
【解決手段】 半導体装置であって、半導体基板が素子領域と中間領域と外周領域を有する。素子領域内に、ゲート型のゲート電極と、エミッタ電極が設けられている。素子領域が、n型のエミッタ領域と、エミッタ電極にオーミック接触しているp型のコンタクト領域と、p型のボディ領域を有する。中間領域が、半導体基板の上面からボディ領域の下端よりも下側の位置まで伸びており、外周側からボディ領域に接するp型のディープ領域を有する。半導体基板が、素子領域、中間領域、及び、外周領域に跨って伸びるn型のドリフト領域及びp型のコレクタ領域を有する。エミッタ電極が、ディープ領域に対するコンタクト部を有していない。ディープ領域が、ボディ領域に対して外周側から接する低濃度領域と、低濃度領域に対して外周側から接する高濃度領域、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
絶縁ゲートバイポーラトランジスタが設けられている素子領域(20)と、前記素子領域の外周側に配置されている中間領域(50)と、前記中間領域の外周側に設けられている外周領域(60)を有し、前記素子領域内の上面にトレンチ(22)が設けられている半導体基板と、
前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜(24)と、
前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極(26)と、
前記素子領域内の前記上面に接するエミッタ電極(72)、
を有し、
前記素子領域が、
前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接し、前記エミッタ電極にオーミック接触しているn型のエミッタ領域(30)と、
前記エミッタ電極にオーミック接触しているp型のコンタクト領域(32)と、
前記コンタクト領域よりも低いp型不純物濃度を有するp型領域であり、前記エミッタ領域と前記コンタクト領域に接しており、前記エミッタ領域よりも下側の前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するボディ領域(34)、
を有し、
前記中間領域が、前記半導体基板の前記上面から前記ボディ領域の下端よりも下側の位置まで伸びており、外周側から前記ボディ領域に接するp型のディープ領域(50)を有し、
前記半導体基板が、
前記素子領域、前記中間領域、及び、前記外周領域に跨って伸び、前記ボディ領域と前記ディープ領域に対して下側から接しているn型のドリフト領域(36)と、
前記素子領域、前記中間領域、及び、前記外周領域に跨って伸び、前記ドリフト領域の下側に配置されているp型のコレクタ領域(40)、
を有し、
前記エミッタ電極が、前記ディープ領域に対するコンタクト部を有しておらず、
前記ディープ領域が、
前記ボディ領域に対して外周側から接するp型の低濃度領域(52a)と、
前記低濃度領域に対して外周側から接し、前記低濃度領域よりも高いp型不純物濃度を有するp型の高濃度領域(52b)、
を有する、
半導体装置。
【請求項2】
前記コンタクト領域が、前記トレンチと前記ディープ領域の間の位置に設けられており、
前記素子領域から前記外周領域に向かう方向における前記コンタクト領域と前記ディープ領域の間の間隔が16μm以上であり、
前記方向における前記低濃度領域の幅が155μm以上であり、
前記低濃度領域のp型不純物濃度が5×1016cm-3以下である、
請求項1の半導体装置。
【請求項3】
前記高濃度領域の下端が前記低濃度領域の下端よりも下側に位置しており、
前記低濃度領域の下面の外周部に前記高濃度領域が接している、
請求項1または2の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置に関する。
【0002】
特許文献1には、絶縁ゲート電界効果トランジスタを有する半導体装置が開示されている。以下では、絶縁ゲート電界効果トランジスタをIGBT(insulated gate bipolar transistor)という場合がある。この半導体装置は、IGBT設けられた素子領域と、耐圧構造が設けられた外周領域と、これらの間に設けられた中間領域を有する。中間領域には、p型ウェル領域(以下、ディープ領域という)が設けられている。ディープ領域は、素子領域内のボディ領域(すなわち、IGBTのボディ領域)に外周側から接している。エミッタ電極は、素子領域の近傍においてディープ領域の上面に接するコンタクト部を有している。ボディ領域の下部、ディープ領域の下部及び外周領域に跨ってn型のドリフト領域が分布している。また、ドリフト領域の下部にp型のコレクタ領域が設けられている。
【0003】
IGBTのオン状態においては、ドリフト領域内にホールが存在している。IGBTがターンオフするときに、ドリフト領域内のホールがエミッタ電極へ排出される。このとき、外周領域及び中間領域内のドリフト領域に存在するホールは、ディープ領域を通ってエミッタ電極のコンタクト部へ流れる。特許文献1では、コンタクト部の抵抗を高くすることで、ホールによる電流がディープ領域に集中して流れることを防止している。これにより、半導体装置のアバランシェ耐量が向上される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-087730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術を用いた場合でも、中間領域内での電流集中を十分に抑制できない場合があった。本明細書では、中間領域内での電流集中をより効果的に抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置は、半導体基板と、ゲート絶縁膜と、ゲート電極と、エミッタ電極、を有する。前記半導体基板が、絶縁ゲートバイポーラトランジスタが設けられている素子領域と、前記素子領域の外周側に配置されている中間領域と、前記中間領域の外周側に設けられている外周領域を有しする。前記素子領域内の前記半導体基板の上面にトレンチが設けられている。前記ゲート絶縁膜は、前記トレンチの内面を覆っている。前記ゲート電極は、前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されている。前記エミッタ電極は、前記素子領域内の前記上面に接している。前記素子領域が、エミッタ領域と、コンタクト領域と、ボディ領域、を有する。前記エミッタ領域は、前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接し、前記エミッタ電極にオーミック接触しているn型領域である。前記コンタクト領域は、前記エミッタ電極にオーミック接触しているp型領域である。前記ボディ領域は、前記コンタクト領域よりも低いp型不純物濃度を有するp型領域であり、前記エミッタ領域と前記コンタクト領域に接しており、前記エミッタ領域よりも下側の前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接している。前記中間領域が、前記半導体基板の前記上面から前記ボディ領域の下端よりも下側の位置まで伸びており、外周側から前記ボディ領域に接するp型のディープ領域を有している。前記半導体基板が、ドリフト領域とコレクタ領域を有する。前記ドリフト領域は、前記素子領域、前記中間領域、及び、前記外周領域に跨って伸び、前記ボディ領域と前記ディープ領域に対して下側から接しているn型領域である。前記コレクタ領域は、前記素子領域、前記中間領域、及び、前記外周領域に跨って伸び、前記ドリフト領域の下側に配置されているp型領域である。前記エミッタ電極が、前記ディープ領域に対するコンタクト部を有していない。前記ディープ領域が、前記ボディ領域に対して外周側から接するp型の低濃度領域と、前記低濃度領域に対して外周側から接するとともに前記低濃度領域よりも高いp型不純物濃度を有するp型の高濃度領域、を有する。
【0007】
この半導体装置では、エミッタ電極がディープ領域に対するコンタクト部を有していない。したがって、IGBTのターンオフ時にディープ領域へのホールの流入が抑制される。ホールは、ドリフト領域からディープ領域とボディ領域を通ってコンタクト領域へ流れる第1経路と、ディープ領域を迂回してドリフト領域からボディ領域を通ってコンタクト領域へ流れる第2経路に分岐して流れる。ディープ領域が低濃度領域を有するので、第1経路の抵抗が高い。このため、ホールが第1経路と第2経路に分散して流れ易く、中間領域内での電流集中が抑制される。また、この半導体装置では、低濃度領域の外周側に高濃度領域が設けられている。したがって、IGBTのターンオフ時に高濃度領域から外周領域へ空乏層が伸び易い。すなわち、ディープ領域に低濃度領域を設けても、外周領域へ空乏層を十分に伸展させることができる。したがって、この構成によれば、外周領域において高い耐圧を確保できる。この構成によれば、信頼性が高い半導体装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半導体装置10の平面図。
図2図1のII-II線における半導体装置の断面図。
図3】間隔Wcと電流密度Cdの関係を示すグラフ。
図4】幅W52aと電流密度Cdの関係を示すグラフ。
図5】第1変形例の半導体装置の断面図。
図6】第2変形例の半導体装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記コンタクト領域が、前記トレンチと前記ディープ領域の間の位置に設けられていてもよい。前記素子領域から前記外周領域に向かう方向における前記コンタクト領域と前記ディープ領域の間の間隔が16μm以上であってもよい。前記方向における前記低濃度領域の幅が155μm以上であってもよい。前記低濃度領域のp型不純物濃度が5×1016cm-3以下であってもよい。
【0010】
この構成によれば、中間領域内での電流集中をより効果的に抑制できる。
【0011】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記高濃度領域の下端が前記低濃度領域の下端よりも下側に位置していてもよい。前記低濃度領域の下面の外周部に前記高濃度領域が接していてもよい。
【0012】
図1、2に示す実施形態の半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、シリコンまたはその他の半導体によって構成されている。半導体基板12は、素子領域20、中間領域50、及び、外周領域60を有している。素子領域20は、IGBTが設けられている領域である。図1に示すように半導体基板12を上から見たときに、素子領域20は、半導体基板12の中央部に設けられている。中間領域50は、後述するディープ領域52が設けられている領域である。中間領域50は、素子領域20の外周側(すなわち、半導体基板12の外周面12cに近い側)に設けられている。図1に示すように半導体基板12を上から見たときに、中間領域50は、素子領域20の周囲を一巡している。外周領域60は、半導体基板12の外周面12cに隣接する領域である。外周領域60は、中間領域50の外周側に設けられている。図1に示すように半導体基板12を上から見たときに、外周領域60は、中間領域50の周囲を一巡している。すなわち、中間領域50は素子領域20と外周領域60の間に配置されている。
【0013】
図2に示すように、素子領域20内の半導体基板12の上面12aに複数のトレンチ22が設けられている。上面12aにおいて各トレンチ22は互いに平行に伸びている。各トレンチ22の内面は、ゲート絶縁膜24によって覆われている。各トレンチ22内に、ゲート電極26が配置されている。各ゲート電極26は、ゲート絶縁膜24によって半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極26の上面は、層間絶縁膜70によって覆われている。半導体基板12の上部にエミッタ電極72が配置されている。エミッタ電極72は、素子領域20内に配置されている。エミッタ電極72は、層間絶縁膜70と半導体基板12の上面12aを覆っている。層間絶縁膜70によってエミッタ電極72はゲート電極26から絶縁されている。層間絶縁膜70が存在しない範囲で、エミッタ電極72は上面12aに接している。半導体基板12の下部にコレクタ電極74が配置されている。コレクタ電極74は、半導体基板12の下面12bの全域に接している。
【0014】
半導体基板12は、複数のエミッタ領域30、複数のコンタクト領域32、及び、ボディ領域34を有している。複数のエミッタ領域30、複数のコンタクト領域32、及び、ボディ領域34は、素子領域20内に配置されている。
【0015】
各エミッタ領域30は、高いn型不純物濃度を有するn型領域である。各エミッタ領域30は、半導体基板12の上面12aを含む範囲に配置されており、エミッタ電極72にオーミック接触している。各エミッタ領域30は、対応するトレンチ22の側面の上端部においてゲート絶縁膜24に接している。
【0016】
各コンタクト領域32は、高いp型不純物濃度を有するp型領域である。各コンタクト領域32は、半導体基板12の上面12aを含む範囲に配置されており、エミッタ電極72にオーミック接触している。複数のコンタクト領域32の中で最も中間領域50に近いコンタクト領域32aは、最も中間領域50に近いトレンチ22と中間領域50(すなわち、後述するディープ領域52)の間に配置されている。
【0017】
ボディ領域34は、コンタクト領域32よりも低いp型不純物濃度を有するp型領域である。ボディ領域34は、複数のエミッタ領域30の下部及び複数のコンタクト領域32の下部に跨って分布している。ボディ領域34は、複数のエミッタ領域30及び複数のコンタクト領域32に対して下側から接している。ボディ領域34は、エミッタ領域30よりも下側のトレンチ22の側面でゲート絶縁膜24に接している。
【0018】
半導体基板12は、中間領域50内にディープ領域52を有している。ディープ領域52は、半導体基板12の上面12aから各トレンチ22の下端よりも下側の深さまで分布している。ディープ領域52は、外周側からボディ領域34の側面に接している。ディープ領域52の上面は層間絶縁膜70に覆われている。ディープ領域52の上面を覆う部分の層間絶縁膜70にはコンタクトホールが設けられていない。したがって、エミッタ電極72は、ディープ領域52に対するコンタクト部を有していない。ディープ領域52は、低濃度領域52aと高濃度領域52bを有している。低濃度領域52aのp型不純物濃度は、5×1016cm-3以下である。高濃度領域52bのp型不純物濃度は、低濃度領域52aのp型不純物濃度よりも高い。低濃度領域52aは、半導体基板12の上面12aから各トレンチ22の下端よりも下側の深さまで分布している。低濃度領域52aは、外周側からボディ領域34の側面に接している。高濃度領域52bは、半導体基板12の上面12aから各トレンチ22の下端よりも下側の深さまで分布している。高濃度領域52bは、外周側から低濃度領域52aの側面に接している。素子領域20から外周領域60に向かう方向において、低濃度領域52aの幅W52aは高濃度領域52bの幅よりも広い。低濃度領域52aの幅W52aは155μm以上である。低濃度領域52aとコンタクト領域32aの間には、間隔が設けられている。当該間隔には、ボディ領域34が分布している。素子領域20から外周領域60に向かう方向において、当該間隔の幅Wcは16μm以上である。
【0019】
素子領域20、中間領域50及び外周領域60に跨って、ドリフト領域36が分布している。ドリフト領域36は、エミッタ領域30よりも低いn型不純物濃度を有するn型領域である。ドリフト領域36は、ボディ領域34、低濃度領域52a及び高濃度領域52bに対して下側から接している。ドリフト領域36は、ボディ領域34によってエミッタ領域30から分離されている。ドリフト領域36は、ボディ領域34よりも下側のトレンチ22の側面でゲート絶縁膜24に接している。
【0020】
素子領域20、中間領域50及び外周領域60に跨って、バッファ領域38が分布している。バッファ領域38は、ドリフト領域36よりも高いとともにエミッタ領域30よりも低いn型不純物濃度を有するn型領域である。バッファ領域38は、素子領域20、中間領域50及び外周領域60内においてドリフト領域36に対して下側から接している。
【0021】
素子領域20、中間領域50及び外周領域60に跨って、コレクタ領域40が分布している。コレクタ領域40は、ボディ領域34よりも高いp型不純物濃度を有するp型領域である。コレクタ領域40はドリフト領域36及びバッファ領域38の下側に配置されている。コレクタ領域40は、素子領域20、中間領域50及び外周領域60内においてバッファ領域38に対して下側から接している。コレクタ領域40は、下面12bの全域でコレクタ電極74にオーミック接触している。
【0022】
半導体基板12は、外周領域60内に複数のFLR(field limiting ring)62を有している。各FLR62はp型領域である。図示していないが、半導体基板12を上からみたときに、FLR62は、素子領域20と中間領域50の周囲を多重に囲むように環状に伸びている。各FLR62は、半導体基板12の上面12aからディープ領域52の下端とほぼ同じ深さまで伸びている。各FLR62は、ドリフト領域36によって互いから分離されている。また、FLR62は、ドリフト領域36によって高濃度領域52bから分離されている。各FLR62の側面及び底面にドリフト領域36が接している。
【0023】
素子領域20内には、エミッタ領域30、ボディ領域34、ドリフト領域36、バッファ領域38、コレクタ領域40、ゲート電極26及びゲート絶縁膜24等によってIGBTが形成されている。
【0024】
次に、半導体装置10の動作について説明する。半導体装置10は、コレクタ電極74にエミッタ電極72よりも高い電位が印加されている状態で使用される。ゲート電極26の電位をゲート閾値よりも高くすると、ゲート絶縁膜24に隣接する範囲内のボディ領域34にチャネルが形成される。チャネルが形成されると、エミッタ電極72から、エミッタ領域30とチャネルを介してドリフト領域36に電子が流入する。また、コレクタ電極74から、コレクタ領域40とバッファ領域38を介してドリフト領域36にホールが流入する。ホールの流入によってドリフト領域36の抵抗が低くなる。したがって、電子は、ドリフト領域36を低損失で通過する。ドリフト領域36を通過した電子は、バッファ領域38とコレクタ領域40を介してコレクタ電極74へ流れる。このように、ゲート電極26の電位をゲート閾値よりも高くすると、IGBTがオンし、エミッタ電極72からコレクタ電極74へ電子が流れる。
【0025】
上述したように、IGBTがオンすると、コレクタ領域40からバッファ領域38を介してドリフト領域36にホールが流入する。したがって、IGBTがオンしている状態においては、ドリフト領域36内に多くのホールが存在している。コレクタ領域40が中間領域50と外周領域60まで分布しているので、IGBTがオンしている状態においては、素子領域20内のドリフト領域36だけでなく、中間領域50と外周領域60内のドリフト領域36にも多くのホールが存在している。
【0026】
ゲート電極26の電位をゲート閾値以下の値まで低下させると、チャネルが消失する。すると、電子の流れが停止し、IGBTがオフする。IGBTがオフすると、ドリフト領域36内に存在するホールがエミッタ電極72へ排出される。このように、ターンオフ時にはドリフト領域36からエミッタ電極72へ排出されるホールによって電流が発生する。この電流は、テール電流と呼ばれる。
【0027】
ドリフト領域36内に存在するホールは、ボディ領域34とコンタクト領域32を通ってエミッタ電極72へ流れる。素子領域20内では、ドリフト領域36の上部全域にボディ領域34が存在する。したがって、素子領域20内では、テール電流の経路が広く、テール電流の集中はほとんど生じない。他方、中間領域50及び外周領域60内に存在するホールは、半導体基板12内を横方向に素子領域20へ向かって流れ、素子領域20内のボディ領域34及びコンタクト領域32を通ってエミッタ電極72へ流れる。このため、中間領域50内においてテール電流の密度が高くなる。従来は、中間領域50内のディープ領域52にテール電流が流入し易く、ディープ領域52の周辺でアバランシェ降伏が生じ易いという問題があった。これに対し、本実施形態の半導体装置10では、以下に説明するように、中間領域50内におけるテール電流の集中が抑制される。
【0028】
図2の矢印100、102は、中間領域50内のテール電流の経路を示している。矢印100はディープ領域52を経由してエミッタ電極72へ流れるテール電流の経路である。矢印102は、ディープ領域52の下部のドリフト領域36を通ってエミッタ電極72へ流れるテール電流の経路である。本実施例では、ディープ領域52の上面全体が層間絶縁膜70に覆われており、エミッタ電極72がディープ領域52に対するコンタクト部を有していない。このため、ドリフト領域36からディープ領域52へテール電流が流入し難い。また、エミッタ電極72がディープ領域52に対するコンタクト部を有さないので、矢印100の経路では、低濃度領域52a、ボディ領域34及びコンタクト領域32aを通ってエミッタ電極72へテール電流が流れる。低濃度領域52aのp型不純物濃度が低いので、低濃度領域52aの抵抗は高い。このため、矢印100に示す経路にテール電流が流れ難い。その結果、矢印102に示すようにディープ領域52を迂回して流れるテール電流の割合が従来よりも大きくなる。このように、本実施形態では、矢印100、102の経路に分散してテール電流が流れやすいので、中間領域50内での電流集中を抑制できる。このため、IGBTのターンオフ時に中間領域50内でアバランシェ降伏が生じ難い。
【0029】
また、IGBTがターンオフするときに、ディープ領域52から外周領域60内のドリフト領域36へ空乏層が伸びる。ディープ領域52から伸びる空乏層は、各ガードリング62を経由しながら半導体基板12の外周面12cの近くまで伸びる。外周領域60内に伸びる空乏層によって、エミッタ電極72と外周面12cの間の耐圧が確保される。仮にディープ領域52の全体が低濃度領域52aによって構成されているとした場合には、低濃度領域52aから外周領域60へ空乏層が伸び難く、外周領域60内で電界集中が生じるおそれがある。これに対し、本実施形態の半導体装置10では、低濃度領域52aの外周側に高濃度領域52bが設けられている。高濃度領域52bのp型不純物濃度が高いので、高濃度領域52bから外周領域60には空乏層が伸び易い。このため、本実施形態の半導体装置10では、外周領域60内での電界集中を抑制できる。
【0030】
以上に説明したように、本実施形態では、エミッタ電極72がディープ領域52に対するコンタクト部を有さないこと、及び、低濃度領域52aが設けられていることによって、中間領域50での電流集中が抑制される。また、本実施形態では、高濃度領域52bが設けられていることによって、外周領域60における電界集中を抑制できる。したがって、信頼性が高いIGBTを実現できる。
【0031】
図3は、間隔Wcを変更しながらターンオフ時の中間領域50内の電流密度Cdを算出したシミュレーション結果である。なお、図3は、幅W52aが155μmの場合を示している。また、図3は、低濃度領域52aのp型不純物濃度Dpが、Dp=5×1016cm-3の場合とDp=1×1017cm-3の場合を示している。Dp=5×1016cm-3では、間隔Wcが16μm以上の場合に電流密度Cdが顕著に低くなる。また、Dp=1×1017cm-3では、間隔Wcを20μmまで広くしないと、電流密度Cdの顕著な低下は見られない。このように、低濃度領域52aのp型不純物濃度Dpが低いほど、間隔Wcが狭い場合において電流密度Cdを低減できることが分かった。
【0032】
図4は、低濃度領域52aの幅W52aを変更しながら電流密度Cdを算出したシミュレーション結果である。なお、図4は、間隔Wcが16μmであり、p型不純物濃度Dpが5×1016cm-3の場合を示している。図4に示すように、幅W52aが広いほど、電流密度Cdが低くなる。
【0033】
図4、5の結果から、間隔Wcが16μm以上であり、幅W52aが155μm以上であり、p型不純物濃度Dpが5×1016cm-3以下の場合に、電流密度Cdを特に低減できることが分かった。
【0034】
なお、上述した実施形態(すなわち、図2)では、低濃度領域52aの下端と高濃度領域52bの下端が略同じ深さに位置していた。しかしながら、図5に示すように、高濃度領域52bの下端が低濃度領域52aの下端よりも下側に位置しており、低濃度領域52aの下面の外周部に高濃度領域52bが接していてもよい。
【0035】
また、上述した実施形態(すなわち、図2)では、低濃度領域52aの下端と高濃度領域52bの下端がトレンチ22の下端よりも下側に位置していた。しかしながら、図6に示すように、低濃度領域52aの下端と高濃度領域52bの下端が、トレンチ22の下端よりも上側であってボディ領域34の下端よりも下側に位置していてもよい。
【0036】
また、上述した実施形態では、ディープ領域52を覆う範囲内の層間絶縁膜70にコンタクト部が存在しなかった。しかしながら、ディープ領域52を覆う範囲内の層間絶縁膜70に、エミッタ電極72以外の電極(例えば、フローティング電極)のコンタクト部が設けられていてもよい。
【0037】
また、上述した実施形態では、ディープ領域52を覆う範囲内の層間絶縁膜70の上部に構造物が設けられていなかった。しかしながら、ディープ領域52を覆う範囲内の層間絶縁膜70の上部にゲート配線等が設けられていてもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、外周領域60内にFLR62が設けられていたが、外周領域60内に他の耐圧構造(例えば、リサーフ層など)が設けられていてもよい。
【0039】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
20:素子領域、26:ゲート電極、30:エミッタ領域、32:コンタクト領域、34:ボディ領域、36:ドリフト領域、50:中間領域、52:ディープ領域、52a:低濃度領域、52b:高濃度領域、60:外周領域、62:ガードリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6