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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130277
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】転写方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20240920BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20240920BHJP
【FI】
G09F9/00 338
H01L33/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039914
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 憲治
【テーマコード(参考)】
5F142
5G435
【Fターム(参考)】
5F142AA26
5F142EA34
5F142FA32
5F142FA38
5G435AA04
5G435AA17
5G435BB04
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】発光素子の使用歩留まりを向上させ、色むらが生じない転写方法を提供する。
【解決手段】発光素子を備えたドナーと、パネルと、発光素子をパネルに転写させる転写手段と、発光素子の位置情報と発光波長を記憶する記憶手段と、発光素子を転写するためにドナーとパネルと転写手段の相対位置の順番を算出する算出手段とを用いる転写方法であって、転写手段は発光素子を転写可能な転写可能位置を複数有する転写領域を有し、パネル対角線の長さとパネルと観察者の距離により1度視野範囲を算出し、パネルに発光素子を転写するシミュレーションを各相対位置において行うシミュレーションステップと、シミュレーションに従い転写領域とパネルとドナーとを配置させる配置ステップと、発光素子をパネルに転写させる転写ステップとを備え、シミュレーションステップでは、所定の1度視野範囲の全発光素子及びそれに隣接する1度視野範囲の全発光素子の発光波長の平均値の差が波長弁別閾値以下となる配置を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色を呈する複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報および各前記発光素子の発光波長を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番を算出する算出手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、
前記転写手段は転写領域を有しているとともに、当該転写領域において前記発光素子の転写を行うことが可能な転写可能位置を複数有しており、
前記パネルの対角線の長さが10.16cm以上30.48cm未満であるときに前記パネルから30cm離れた位置で前記パネルを観察し、前記パネルの対角線の長さが30.48cm以上68.58cm未満であるときに前記パネルから50cm離れた位置で前記パネルを観察し、前記パネルの対角線の長さが68.58cm以上165.10cm未満であるときに前記パネルから130cm離れた位置で前記パネルを観察し、それぞれの観察によって視野角を算出し、
前記パネルに前記所定の数まで前記発光素子が転写されるシミュレーションを、算出された前記相対位置の順番に従って、各前記相対位置において前記発光素子の転写が行われる前記転写可能位置を用いて行うシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにより選択された前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせと、その順番に従って、前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、
前記転写手段により前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップと
を備え、
前記シミュレーションステップでは、所定の1度視野範囲に転写されるすべての前記発光素子の発光波長の平均値と、前記所定の1度視野範囲に隣接する隣接1度視野範囲に転写されるすべての前記発光素子の発光波長の平均値との差が波長弁別閾値以下となる配置を行う、転写方法。
【請求項2】
前記シミュレーションステップでは少なくとも1つの前記所定の1度視野範囲において、互いに発光波長に差異がある前記ドナー内の複数の前記発光素子を前記所定の1度視野範囲に配置する、請求項1に記載の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の液晶ディスプレイに代わるものとしてLEDを使用したディスプレイの開発が進められており、製品化が進みつつある。このようなLEDを使用したディスプレイ(LEDディスプレイ)は、FHD(Full High Definition)パネルであって、赤色LED、緑色LED、青色LEDが1920×1080個、4Kパネルでは3840×2160個、それぞれ格子状の配列にて配線基板に高密度に実装されている。
【0003】
このように配線基板へ高密度に実装される各色LEDとしては、たとえば約50μm×50μmといった微小寸法を有する、いわゆるマイクロLEDが用いられる。このようなマイクロLEDは特許文献1に示すようにサファイアなどの成長基板上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て得られ、基板上で上記寸法のチップ状にダイシングされる。このように形成されたLEDチップは、1回もしくは複数回の転写工程を経て成長基板からディスプレイである配線基板へ転写される。その後、熱圧着などの実装工程を経て、配線基板にLEDチップが固定される。
【0004】
LEDチップをディスプレイパネルである配線基板に転写する方法はいくつかあるが、例えば特許文献2,3に開示されているレーザーアブレーション技術を用いた方法が知られている。
【0005】
特許文献2にはレーザーアブレーション技術を用いた素子(LEDチップ)の転写方法が開示されている。また、1つの成長基板上に形成された複数のLEDチップの発光波長には個体差があるが、特許文献3には、LEDディスプレイを製造した際に発光波長の個体差によって色むらが見る人によって感じられないようにする転写方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-170993号公報
【特許文献2】特開2006-41500号公報
【特許文献3】特開2022-135521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示された発明は、特許文献2に開示された発明を利用しつつLEDディスプレイに色むらが生じないようにするという新たな課題を解決すべく創作されたものである。しかしながら、特許文献3に開示された発明では、各LEDチップの発光波長の最頻値から大きく外れた発光波長を有するLEDチップは使用しないという方法を採用しているのでLEDチップの歩留まりが下がってしまう。また、発光波長の最頻値から所定の波長範囲外れた発光波長を有するLEDチップを色むらが目立たないディスプレイパネルの外周部に配置するだけであり、すべてのLEDチップを使用して外周部であっても色むらが生じないディスプレイパネルを製造する技術ではなかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ウェハに作成された発光素子の使用歩留まりを向上させ且つディスプレイ全面において色むらが生じない転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写方法は、所定の色を呈する複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報および各前記発光素子の発光波長を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番を算出する算出手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、前記転写手段は転写領域を有しているとともに、当該転写領域において前記発光素子の転写を行うことが可能な転写可能位置を複数有しており、前記パネルの対角線の長さが10.16cm以上30.48cm未満であるときに前記パネルから30cm離れた位置で前記パネルを観察し、前記パネルの対角線の長さが30.48cm以上68.58cm未満であるときに前記パネルから50cm離れた位置で前記パネルを観察し、前記パネルの対角線の長さが68.58cm以上165.10cm未満であるときに前記パネルから130cm離れた位置で前記パネルを観察し、それぞれの観察によって視野角を算出し、前記パネルに前記所定の数まで前記発光素子が転写されるシミュレーションを、算出された前記相対位置の順番に従って、各前記相対位置において前記発光素子の転写が行われる前記転写可能位置を用いて行うシミュレーションステップと、前記シミュレーションステップにより選択された前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせと、その順番に従って、前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、前記転写手段により前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップとを備え、前記シミュレーションステップでは、所定の1度視野範囲に転写されるすべての前記発光素子の発光波長の平均値と、前記所定の1度視野範囲に隣接する隣接1度視野範囲に転写されるすべての前記発光素子の発光波長の平均値との差が波長弁別閾値以下となる配置を行うことを特徴とする。
【0010】
前記シミュレーションステップでは少なくとも1つの前記所定の1度視野範囲において、互いに発光波長に差異がある前記ドナー内の複数の前記発光素子を前記所定の1度視野範囲に配置していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
1度視野範囲及び波長弁別閾値という基準を用いてシミュレーションを行うことによって、パネル内のどの位置であっても色むらが生じないように且つドナーの発光素子を歩留まり良く転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る発光素子の転写装置の模式的な図である。
図2】実施形態に係るドナー、転写手段、転写領域、パネルの相対的な位置関係の一例を示す模式的な図である。
図3】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す一例である。
図4】赤緑縞の空間コントラスト感度を表すグラフである。
図5】実施形態に係るドナーに存在している緑色を呈する発光素子の発光波長分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態について説明を行う前に、本願発明者が本願発明に思い至り創作した経緯を説明する。
【0014】
サファイアなどの成長基板(ウェハ)上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て製造されるマイクロLED(発光素子)は、1枚のウェハ上に多数のチップとして整列して存在している。このような成長工程においては、窒化ガリウムの結晶成長を始めどのような加工工程であっても、1つのウェハ上のあらゆる位置において均一に加工がなされるようにすることは非常に困難である。そのため、出来上がったチップの特性は1つ1つ少しずつ異なっていてばらつきがある。このような特性のうち、ディスプレイに関しては発光波長が特に重要になる。
【0015】
上述のようなばらつきは、製造装置内における温度むらや原材料の供給むらに起因する場合が多く、1つの製造装置で多数のウェハを一度に加工する場合には、ウェハを置く位置によってむらが生じてしまう。そのため例えばウェハの中央部分と周辺部分とで、あるいは右側と左側とで、または縞状に特性値の大きさが変化してむらになる。
【0016】
1つのウェハ上の多数のチップに、上記のように特性値、特に発光波長にむらが生じることを回避するのは非常に困難である。従って、例えば、中央部分の発光素子は発光波長が長めであるのに対して、周辺部分の発光素子は発光波長が短めになるといったむらが生じることがままあるが、そのようなむらが存在することを前提としてパネルを製造することになる。
【0017】
一般に1つのウェハには非常に多数のチップ(発光素子)が存在しており、1つのウェハから複数のパネルに発光素子を供給することができる。通常はウェハよりもパネルの方が面積が大きいが、ウェハ上のチップ間距離よりもパネル上のチップ間距離の方がかなり大きいため、1つのウェハ上の発光素子数が1つのパネルに搭載される発光素子数よりも多くなるのである。また、ウェハからパネルに発光素子を転写させる転写装置は、1度に転写することができる領域の面積がウェハ全体やパネル全体の面積に対して小さいため、1つのパネルに必要な発光素子をすべて転写するためには、ウェハ及びパネルを転写領域に対して複数回移動させて転写を行うことが必要である。
【0018】
さらには、パネルの製造コストを低減させるために、移動回数および転写回数を減らすことが重要である。そのためには転写領域内に存在するウェハ上の発光素子であってパネルに転写可能なものはできるだけ多く、可能であれば転写可能な全数を転写することが考えられる。この場合、パネル上の所定の領域にウェハの中央部分から転写可能な限りの発光素子を転写し、その隣の領域にウェハの周辺部分から転写可能な限りの発光素子を転写する、ということが起こりうる。もし上記のように、ウェハの中央部分と周辺部分とで発光素子の発光波長に大きな差があるようなむらがあったとしたら、パネル上の所定の領域は発光波長の長い発光素子が集中的に転写され、その隣の領域には発光波長の短い発光素子が集中的に転写されて、結果として隣接する2つの領域に明確な発光波長の差、即ち色むらが生じることになる。
【0019】
特許文献3に開示された発明はこのような色むらが生じないようにするための発明であるが、上述したように発光波長が最頻値から外れている発光素子を色むらが目立ちにくいパネルの外周部に転写するという方法であるので、色むらが生じないようにしているわけではない。また、最頻値から大きく外れる発光波長を有する発光素子は転写しないようにしているので、ウェハ内で使用することができる発光素子が減ってしまい歩留まりが下がってしまう。本願発明者はこのような状況に鑑みて様々な検討を行って本願発明に想到するに至った。
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
(実施形態1)
実施形態1は、所定の色を呈する多数のマイクロLEDのチップが平面的に隣り合って配列されているドナー(ウェハ)から、転写手段によりチップをディスプレイパネルとなるパネル基板に転写する転写方法に関する。転写手段はレーザーリフトオフ(レーザーアブレーション技術)を用いているが、他の方法を用いても構わない。
【0022】
図1に示すように、ドナー20は所定の色(例えば緑色)を呈する複数の発光素子22が平面的に配列されているものであって、保持手段25により保持されてパネル30に向き合っている。パネル30は、発光素子22aが転写された面とは反対側の面を載置部32により吸着把持されており、載置部32は移動ステージ42の上に載せられている。なお、パネル30に転写済みの発光素子には符号22aを付す。また、保持手段25は、チップをエピタキシャル成長させるベースとなる成長基板やウェハに貼り付けられた中間基板などである。
【0023】
転写手段10はレーザー光源11、ガルバノミラー12、Fθレンズ14を備えている。レーザー光源11は1本のレーザー光13を出射する装置である。用いるレーザーとしてはYAGレーザー、可視光レーザー、紫外線レーザーなどを挙げることができる。ガルバノミラー12は2枚のミラーを有し、これらのミラーの位置および角度を制御することで、入射してきた光線を任意の方向へ出射する。
【0024】
(転写ステップ)
転写は以下のように行われる。レーザー光源11から発せられたパルス状のレーザー光13がガルバノミラー12及びFθレンズ14を経由して保持手段25に照射される。レーザー光13は保持手段25を透過して、保持手段25と発光素子22との界面に到達し、この界面においてレーザーアブレーションを生じさせる。このレーザーアブレーションによって発光素子22は保持手段25から剥離して下側に付勢されて、パネル30に転写される。
【0025】
転写手段10においては、レーザー光13はガルバノミラー12によって光路が制御されて、保持手段25の様々な位置に照射されるが、ガルバノミラー12の位置および角度の変更範囲は限定されている。そのため、図2に示すように、転写手段10において、レーザー光13を照射可能な領域である転写領域15はドナー20及びパネル30に比べて小さい面積となっている。
【0026】
本実施形態では、波長測定手段によってドナー20の個々の発光素子22の発光波長が、転写が行われる前に測定されて、個々の発光素子22の位置と発光波長が記憶手段により記憶される。波長測定手段およびそれを用いた発光波長の測定方法は、例えば特許文献3に記載されているように、発光素子22にレーザー光を照射して発光素子22内の電子を励起させ、この電子が基底状態に戻る際に放出する光を波長測定器で測定をして、発光波長を測定する方法を用いてもよいし、他の方法を用いてもよい。
【0027】
(配置ステップ)
転写領域15がドナー20及びパネル30に比べて小さい面積であるので、パネル30の全面に発光素子22aを必要な数だけ転写させるためには、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置を変更してその都度転写を行う必要がある。転写手段10は大がかりな装置であって固定されているので、保持手段25を把持している把持手段41によりドナー20の位置を制御し、パネル30の位置を移動ステージ42により制御する。把持手段41及び移動ステージ42を備えた位置制御手段によって、パネル30の発光素子22aが転写される面に対して平行にドナー20及びパネル30が移動して、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置が変わっていく。ドナー20とパネル30とは、選択された所定の位置(領域)が転写領域15に対して相対するように、位置制御手段によって移動されて配置される。
【0028】
(ある相対位置における転写の検討)
図3に示すように、(A)では転写領域15に相対するドナー20の領域に複数の発光素子22が隙間(小さな間隔)を介して隣接して並んでいるのに対し、(C)では転写領域15に相対するパネル30の領域に、ドナー20における発光素子22同士の隣接間隔よりも大きな間隔(数倍から数十倍)で発光素子22aが転写されることになる。転写領域15も(B)に示すようにパネル30の転写間隔と同じ間隔で転写可能位置16が設定されている。
【0029】
図3では、ドナー20に抜けなく発光素子22が並んでいるため、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ発光素子22を転写することが可能である。ここでは、転写領域15における転写可能位置16は9個存在している。すべての転写可能位置16を用いてパネル30へ発光素子22を転写することで転写効率を良くすることができるが、このやり方を続けると、パネル30が発光したときにパネル30上において色むらがはっきりと現れることがある。
【0030】
上記のようなパネル30の発光時の色むらが生じないようにするとともにドナー20の発光素子22を歩留まりよく使用するため、本願発明者は様々な検討を行い、シミュレーションを行った結果、ある1度視野範囲内に転写される複数の発光素子22の発光波長が所定の条件を満たすように転写のシミュレーションを行ってから転写を実行すればよいことを見出した。
【0031】
(1度視野範囲の算出)
パネル30上における1度視野範囲は円で表され、パネル30の観察者からパネル30までの距離により算出することができる。即ち、観察者が所定の距離からディスプレイパネルを見た時に、観察者の視野角が1度となるディスプレイパネル上の円が1度視野範囲である。ディスプレイパネルの用途及び大きさによって、ディスプレイの表示が明確に視認できるような観察者からパネル30までの距離は決められている。例えば、対角線の長さが40インチ(101.6cm)のテレビ用途のディスプレパネルでは、一般社団法人日本オーディオ協会によれば、視聴のための推奨距離が2290mmで最短距離が1220mmとされている。距離が短いほど1度視野範囲は大きくなるので、最短距離を基準として1度視野範囲を算出する。
【0032】
対角線の長さで表示するパネルサイズが、4インチ(10.16cm)以上12インチ(30.48cm)未満のディスプレイは、スマートフォンやタブレットに用いられるものであり、本実施形態では観察者からディスプレイパネルまでの距離を30cmとして1度視野範囲を算出する。この場合、パネル30上の1度視野範囲は直径5.24mmの円形となる。
【0033】
対角線の長さで表示するパネルサイズが、12インチ(30.48cm)以上27インチ(68.58cm)未満のディスプレイは、PC等のモニターに用いられるものであり、本実施形態では観察者からディスプレイパネルまでの距離を50cmとして1度視野範囲を算出する。この場合、パネル30上の1度視野範囲は直径8.76mmの円形となる。
【0034】
対角線の長さで表示するパネルサイズが、27インチ(68.58cm)以上65インチ(165.10cm)未満のディスプレイは、テレビに用いられるものであり、本実施形態では観察者からディスプレイパネルまでの距離を130cmとして1度視野範囲を算出する。この場合、パネル30上の1度視野範囲は直径22.69mmの円形となる。
【0035】
(シミュレーションステップ)
一般的に1枚のドナー(ウェハ)20の全発光素子22数よりも、パネル30に搭載される全発光素子22a数の方が相当少ないため、1枚のドナー20から複数枚のパネル30に発光素子22を転写できる。
【0036】
ドナー20からパネル30に発光素子22の転写を開始する前に、ドナー20のどの位置の発光素子22を、パネル30のどの位置に搭載するのかについて、パネル30の発光素子搭載位置のすべてに発光素子22を転写できるようにシミュレーションをまず行う。シミュレーションにおいては転写がすべて完了したパネル30が色むらを生じないように、記憶手段に記憶された個々の発光素子22の位置と発光波長を用いて各発光素子22を転写するパネル30上の位置を決定する。このようなシミュレーションを完了せずに転写を開始してしまうと、パネル30に色むらが現れてしまったり、ドナー20に発光素子22が残っていてもパネル30への転写が行えずパネル30が完成できない事態に陥る虞がある。
【0037】
本実施形態では、所定の色(例えば緑色)を呈する複数の発光素子22が平面的に配列されているドナー20からパネル30に発光素子を22を転写する際に、シミュレーションステップにおいて所定の1度視野範囲に転写されるすべての発光素子22の発光波長の平均値と、この所定の1度視野範囲に隣接する隣接1度視野範囲に転写されるすべての発光素子22の発光波長の平均値との差が波長弁別閾値以下となるようにシミュレーションを行う。このような発光波長の平均値の比較は、パネル30内のすべての1度視野範囲に対して行う。
【0038】
色むらが感じられるか否かの参考となる指標として色度格子縞による空間的コントラスト感度がある。本実施形態では、1つのドナー20に存在している発光素子22は単色、即ちばらつきを除けば発光波長が同じものであって、単色を前提とした色むらを抑制するシミュレーションを行う。しかしながら、単色の色むらは、むらの有る無しの判断が難しいため、より厳しい条件である異なる2波長、例えば赤(602nm)の線と緑(526nm)の線とが交互に並んで縞を形成しているときに、赤と緑の色の区別ができるのか混色して区別がつかないのかを判断する色度格子縞による空間的コントラスト感度を参考にする。
【0039】
図4は赤緑縞の空間コントラスト感度を表すグラフである。横軸は1度視野範囲の縞の繰り返しサイクルである空間周波数(cy/deg)を表しており、縦軸はコントラスト感度を表している。空間周波数が約10cy/deg(符号51)よりも大きくなると色度感度が消失して混色して見え、赤と緑の区別がつかなくなる。混色するということは赤と緑の平均波長として感じる(見える)ということである。例えば、27インチの8Kのディスプレイパネルでは、発光素子の繰り返しの周期は0.155mmなので、95cm離れて観察する場合1度視野範囲が直径16.6mmの円形である。この1度視野範囲での発光素子の設置繰り返しサイクルは約107cy/degになり、色度感度が消失する。したがって、この範囲内の発光素子に波長のばらつきがあっても平均された波長として感じられ、波長のばらつきを感じることはない。
【0040】
次に波長弁別閾値であるが、これは隣り合う領域において色が違うと感じるか否かの境目を表す数値である。この値には個人差があるが、例えば青(波長:452nm)では3.5nm、緑(534nm)では3.1nm、赤(620nm)では2.5nmである。
【0041】
以上の点を考慮すると、1度視野範囲内の発光素子の設置繰り返しサイクルが色度感度の消失が生じる範囲にある場合は、ある1度視野範囲から人間が感じられる波長(色)は、その1度視野範囲内に存在するすべての発光素子の発光波長の平均値となる。そして、隣接する1度視野範囲内に存在するすべての発光素子の発光波長の平均値との比較では、その差が波長弁別閾値以下であれば同じ色と感じられるため色むらは生じない(色むらがあると感じることがない)。上記の1度視野範囲の算出の記載において列記した3種類のディスプレイはすべて1度視野範囲内の発光素子の設置繰り返しサイクルが大きくて、色度感度の消失が生じる。従って、シミュレーションでは1度視野範囲内に存在するすべての発光素子の発光波長の平均値を計算することで色むらが生じない発光素子の転写を行うことが可能となる。
【0042】
シミュレーションステップでは、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置を1つ選び、転写領域15の転写可能位置16のすべてあるいは一部を用いてドナー20からパネル30へ発光素子22を転写するシミュレーションを行う。このとき、記憶手段には各発光素子22の発光波長が記憶されており、どのような発光波長を有する発光素子22がパネル30のどの位置に転写されたのかも記憶手段に記憶される。それから、転写領域15とドナー20とパネル30との次の相対的な位置(前回の相対的な位置とは異なる位置)を選んで、同じように転写を行う。
【0043】
このように相対的な位置を次々に選んで転写を行っていくのと同時に、パネル30上の任意の位置での1度視野の範囲内に転写されている複数の発光素子22aの平均発光波長を算出手段によって算出する。シミュレーションが進み、パネル30に転写される発光素子22aの数が増えるにつれて、それぞれの1度視野の平均発光波長が変化していく。このような転写の進行に従って、隣接する1度視野範囲間の平均発光波長の差も計算し、パネル30の完成時には前記平均発光波長の差がパネル30上のいずれの場所においても波長弁別閾値以下になるように、シミュレーションにおける各配置ステップ・各転写ステップにおいて発光波長及び転写位置を考慮した発光素子22の転写を行う。また、各1度視野範囲の平均発光波長そのものも、目標値から所定の範囲内に収まるようにシミュレーションを行う。このシミュレーションによって隣接する1度視野範囲間の平均発光波長の差がパネル30上のいずれの場所においても波長弁別閾値以下になるような配置、転写の順番が導出できたら、実際にその順番に従って発光素子22のパネル30への転写を行う。
【0044】
なお、シミュレーションステップの具体的な方法は、パネル30の完成時に隣接する1度視野範囲間の平均発光波長の差がパネル30上のいずれの場所においても波長弁別閾値以下になるようにできればどのような方法であってもよいので、特に限定されない。例えば、最初の転写から、転写領域15の転写可能位置16のうち一部だけを用いて同じような発光波長を有する複数の発光素子22がパネル30の特定の領域に集中しないようにしたり、パネル30上に転写されている隣り合う発光素子22aはドナー20においてある程度離れた位置にある発光素子22同士を転写するようにする方法などが挙げられる。さらには、ドナー20における発光素子22を可能な限り転写するようにシミュレーションを行うことにより、歩留まり良く発光素子22を転写することができる。
【0045】
本実施形態ではシミュレーションステップを用いて、隣接する1度視野範囲間の平均発光波長の差が波長弁別閾値以下になるようにドナーから発光素子を選択してパネルに転写する順番を定めて実際の転写を行うので、完成したパネルからは色むらが観察されることがない。
【0046】
(実施形態2)
実施形態2は、具体的な発光波長の分布を示しているドナー20からの発光素子の転写のシミュレーションを行う転写方法である。
【0047】
実施形態2に用いるドナー20に存在している複数の発光素子22(緑色)の発光波長分布を図5に示す。隣接する1度視野範囲間の平均発光波長の差がパネル30上のいずれの場所においても波長弁別閾値以下にするには、535nm(符号61)から540nm(符号62)の範囲内の発光波長を備えた発光素子22のみを転写すればよく、これにより確実に条件を満たすことができて色むらが生じないようになる。しかしながら、このような転写方法では符号61よりも短波長側の発光素子22及び符号62よりも長波長側の発光素子22を転写しないことになり、使用できない発光素子22が非常に多くなって歩留まりが下がってしまう。
【0048】
本実施形態では、符号61よりも短波長側の発光素子22及び符号62よりも長波長側の発光素子22もすべてパネル30に転写するようにシミュレーションステップでシミュレーションを行う。具体的には、まず、発光素子22の発光波長のうち、最も短い発光波長と最も長い発光波長とを検出して比較する。図5では530nm(符号52)と547nm(符号53)である。この2つの波長の平均は538.5nmであり、535nmから540nmの範囲(許容範囲)に入る。そこでシミュレーションにおいて、これらの発光波長を備えた2つの発光素子22をパネル30において隣接する位置に転写させることにして、実際の配置ステップ及び転写ステップにおいてもこのシミュレーションに従って発光素子22の転写を行う。なお、パネル30上のどの領域にこれらの発光素子22を転写するかについては特に限定されず、シミュレーション時間が短くなり、実際の転写の時間も短いようにできる転写領域を求めるシミュレーションを行うことが好ましい。
【0049】
1度視野範囲には数十個の発光素子22が配置されるため、この範囲において発光波長の平均を行うのであれば、最短発光波長と最長発光波長の2つの発光素子22は隣接する位置に転写する必要はない。しかしながら、隣接する位置に転写すれば、その2つだけで平均波長が許容範囲に入ると共に、隣り合う1度視野範囲の中での発光素子22の配置まで考慮すると、シミュレーションステップでの計算時間を短くすることができる。
【0050】
符号52の530nmと符号53の547nmの発光素子22の転写位置をすべて決定したら、次に符号54の531nmと符号55の546nmの発光波長を備えた発光素子22を用いて同じように隣り合わせになるように転写のシミュレーションを行う。これら2つの発光波長の平均は538.5nmであり、535nmから540nmの範囲(許容範囲)に入る。
【0051】
図5では符号54の531nmの発光波長を備えた発光素子22の方が、符号55の546nmの発光波長を備えた発光素子22よりも多い。そこで、546nmの発光波長を備えた発光素子22をすべて転写し終えた後は、符号57の545nmの発光波長を備えた発光素子22と符号54の531nmの発光波長を備えた発光素子22とを組み合わせて隣同士になるようにシミュレーションを行う。これら2つの発光波長の平均は538nmであり、やはり535nmから540nmの範囲(許容範囲)に入る。
【0052】
このように、発光波長が短いものと長いものとを組み合わせて隣同士に転写し、波長が短い方も長い方も順に発光波長の最頻値に近づいていくシミュレーションを行っていけば、発光波長が許容範囲内(符号61から符号62の間)の発光素子22を転写する場合に、色むらが生じないようにするためのシミュレーションにおいて、許容範囲内の発光波長を有する発光素子22はパネル30上の発光素子22が転写されていない位置のどこに転写してもよいようになり、転写できる位置の選択肢が大きくなる。即ち、シミュレーション後半では発光素子22の配置の自由度が大きくなってシミュレーションおよび実際の転写を短時間で行うことができる。
【0053】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10 転写手段
15 転写領域
16 転写可能位置
20 ドナー
22 発光素子
22a 発光素子(パネル上に転写された)
30 パネル
図1
図2
図3
図4
図5