(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130278
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】トウプリプレグの製造方法、トウプリプレグの製造に使用する樹脂組成物、及びトウプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08J5/24 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039915
(22)【出願日】2023-03-14
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/非FW/分割プリフォームおよび新規樹脂(REDOX硬化型樹脂)による高圧水素タンクの革新的ハイレート製造プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】内海 陽吉
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕文
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD09
4F072AD55
4F072AE02
4F072AE03
4F072AF17
4F072AF23
4F072AF24
4F072AF26
4F072AG03
4F072AH13
4F072AH18
4F072AH19
4F072AH25
4F072AH26
4F072AJ04
4F072AJ16
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】樹脂組成物を強化繊維束へ良好に含浸させるとともに、酸素存在下でも重合反応を進行させて、高速でトウプリプレグを製造可能とする。
【解決手段】トウプリプレグの製造方法は、強化繊維束Fを搬送する搬送工程と、強化繊維束Fの少なくとも一方の面に第1剤を塗布する第1塗布工程14と、第1塗布体S1に第2剤を塗布する第2塗布工程15と、トウプリプレグTPの両面にUV照射する光硬化工程16と、トウプリプレグTPを巻き取る巻取り工程17とを備えている。樹脂組成物は第1剤と第2剤とからなり、第1剤は、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、(C)光ラジカル開始剤と、(D)有機過酸化物とを含有し、前記第2剤は、(E)還元剤を含有し、前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物が強化繊維束に含浸されたトウプリプレグの製造方法であって、
前記樹脂組成物は、第1剤と第2剤とからなり、
前記第1剤は、
(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、
(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、
(C)光ラジカル開始剤と、
(D)有機過酸化物と
を含有し、
前記第2剤は、
(E)還元剤
を含有し、
前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%であり、
前記強化繊維束をローラに沿って搬送する搬送工程と、
前記強化繊維束の少なくとも一方の面に前記第1剤を塗布して第1塗布体を得る第1塗布工程と、
前記第1塗布体に前記第2剤を塗布してトウプリプレグを得る第2塗布工程と、
前記トウプリプレグの両面にUV照射する光硬化工程と、
前記トウプリプレグを巻取りローラに巻き取る巻取り工程と
を備えていることを特徴とするトウプリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記トウプリプレグを加熱する加熱工程をさらに備えている請求項1に記載のトウプリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記第1塗布工程では、前記強化繊維束の一方の面に前記第1剤を塗布し、
前記第2塗布工程では、前記第1剤が塗布されなかった面に前記第2剤を塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載のトウプリプレグの製造方法。
【請求項4】
第1剤と第2剤とからなり、トウプリプレグを製造するために強化繊維束に塗布される樹脂組成物であって、
前記第1剤は、
(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、
(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、
(C)光ラジカル開始剤と、
(D)有機過酸化物と
を含有し、
前記第2剤は、
(E)還元剤
を含有し、
前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)は、平均粒径が500nm以下の非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の樹脂組成物と強化繊維束とを含むことを特徴とするトウプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウプリプレグの製造方法、トウプリプレグの製造に使用する樹脂組成物、及びトウプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂材料は、軽量でありながら強度に優れていることから、スポーツ用品、医療用材料、自動車用材料、航空・宇宙用材料、建築用材料等様々な分野で広く利用されている。繊維強化樹脂材料からなる成形品は、通常、強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させたいわゆるプリプレグと呼ばれる成形基材を積層し、加圧及び加熱して、マトリックス樹脂を賦形することにより成形される。
【0003】
プリプレグとしては、シートプリプレグ、プリプレグテープ、トウプリプレグ等が知られている。シートプリプレグは、強化繊維基材としての織物や編物にマトリックス樹脂を含浸させたシート状の成形基材(強化繊維ファブリック)や、一方向に並行して配列させた複数本の強化繊維からなる強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させたシート状の成形基材(UD材)である。プリプレグテープは、シートプリプレグを所定の幅に切り出した成形基材である。トウプリプレグは、複数本の強化繊維からなる強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた成形基材である。
【0004】
トウプリプレグを製造するために、強化繊維束を搬送しながらマトリックス樹脂を塗布、含浸させて、得られたトウプリプレグを巻き取り可能としたトウプリプレグ製造装置を使用することが知られている。また、マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂だけでなく、熱可塑性樹脂も使用される。
【0005】
熱可塑性樹脂を使用する場合、重合された高分子量の熱可塑性樹脂(ポリマー)を、時間をかけて溶融させて強化繊維束に含浸させる。熱溶融させて含浸させる方法としては、従来から2つの方法が知られている。第1の方法は、熱可塑性樹脂をテープ状に加工した熱可塑性樹脂テープを、加熱溶融させながらプレスして強化繊維束に熱可塑性樹脂をゆっくり含浸させる方法である。また、第2の方法は、熱可塑性樹脂のペレットを加熱溶融して樹脂槽に貯留し、樹脂槽内に設けた複数のローラを通過させて強化繊維束の隙間に熱可塑性樹脂を含浸させる方法である。
【0006】
しかし、これらの方法はいずれも、既にポリマー化された熱可塑性樹脂を加熱溶融させることから樹脂粘度が高く、強化繊維束の小さな隙間への含浸は容易ではない。強化繊維束への含浸性が良好でないため、含浸工程に極めて長い時間を必要とするといった問題があった。その結果、トウプリプレグ製造装置での搬送速度が極めて遅くなり、高速での製造ができなかった。
【0007】
こうした点から、特許文献1に記載されるように、未重合のモノマーを強化繊維束に含浸させることで含浸性を向上させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、未重合の低分子量で低粘度なモノマーを、強化繊維束に含浸させた後、重合させて熱可塑性樹脂(いわゆる現場重合型熱可塑性樹脂)とする方法が記載されている。そのため、強化繊維束の小さな隙間へも素早く含浸させることができて含浸性は良好である。しかし、特許文献1に記載の方法では、重付加反応で重合する熱可塑性エポキシ樹脂を使用していることから、重合速度の進行が遅く、トウプリプレグの製造に時間を要するといった問題があった。
【0010】
そこで、重合時間の短縮を図るべく、連鎖重合で進行するラジカル重合反応可能な樹脂を利用することが効果的であると考えられる。しかし、ラジカル重合反応は、酸素による重合阻害を受けるため、トウプリプレグのような薄層で表面積の大きいものでは、ラジカル重合反応の進行が遅くなってしまう。そのため、高速でトウプリプレグを製造することに関しては、なお改善の余地があった。
【0011】
樹脂組成物を強化繊維束へ良好に含浸させるとともに、酸素存在下でも重合反応を進行させて、高速でトウプリプレグを製造可能とすることが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は、樹脂組成物が強化繊維束に含浸されたトウプリプレグの製造方法であって、前記樹脂組成物は、第1剤と第2剤とからなり、前記第1剤は、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、(C)光ラジカル開始剤と、(D)有機過酸化物とを含有し、前記第2剤は、(E)還元剤を含有し、前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%であり、前記強化繊維束をローラに沿って搬送する搬送工程と、前記強化繊維束の少なくとも一方の面に前記第1剤を塗布して第1塗布体を得る第1塗布工程と、前記第1塗布体に前記第2剤を塗布してトウプリプレグを得る第2塗布工程と、前記トウプリプレグの両面にUV照射する光硬化工程と、前記トウプリプレグを巻取りローラに巻き取る巻取り工程とを備えている。
【0013】
なお、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーの常温とは、20℃±15℃程度の温度をいうものとする。
上記の構成において、前記トウプリプレグを加熱する加熱工程をさらに備えていることが好ましい。
【0014】
上記の構成において、前記第1塗布工程では、前記強化繊維束の一方の面に前記第1剤を塗布し、前記第2塗布工程では、前記第1剤が塗布されなかった面に前記第2剤を塗布することが好ましい。
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明は、第1剤と第2剤とからなり、トウプリプレグを製造するために強化繊維束に塗布される樹脂組成物であって、前記第1剤は、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、(C)光ラジカル開始剤と、(D)有機過酸化物とを含有し、前記第2剤は、(E)還元剤を含有し、前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%である。
【0016】
上記の構成において、前記(B)は、平均粒径が500nm以下の非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子であることが好ましい。
上記の課題を解決するため、本発明のトウプリプレグは、上記樹脂組成物と強化繊維束とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂組成物を強化繊維束へ良好に含浸させるとともに、酸素存在下でも重合反応を進行させて、高速でトウプリプレグを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態のトウプリプレグ製造装置について説明する図である。
【
図2】トウプリプレグ製造装置の変更例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した樹脂組成物、及び樹脂組成物を塗布、含浸してトウプリプレグを製造する製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、後述するように、強化繊維束を搬送しながら樹脂組成物を塗布して重合する方法である。
【0020】
<樹脂組成物について>
まず、樹脂組成物について説明する。
強化繊維束に塗布、含浸される樹脂組成物は、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマー、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、(C)光ラジカル開始剤、(D)有機過酸化物、(E)還元剤を含有している。以下では、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーを単に、(A)単官能アクリレートモノマーという場合がある。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物は、第1剤と第2剤とからなる2剤混合型である。本実施形態の樹脂組成物は、後で説明するように、強化繊維束を搬送しながら第1剤、第2剤を順に塗布する。第1剤は、(A)単官能アクリレートモノマー、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、(C)光ラジカル開始剤、(D)有機過酸化物を含有している。第2剤は、(E)還元剤を含有している。
【0022】
(A)単官能アクリルモノマーは、樹脂組成物の主成分である。(A)単官能アクリルモノマーは、(D)有機過酸化物と(E)還元剤の存在下でレドックス重合する。レドックス重合することによってポリマーとなり、樹脂組成物の流動性が失われる。また、(A)単官能アクリルモノマーは、(G)光ラジカル開始剤によって光ラジカル重合する。(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、(A)単官能アクリルモノマーがラジカル重合する際の酸素阻害の影響を抑制する。(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を含有することにより、強化繊維束を搬送しながら樹脂組成物を塗布する際に、(D)有機過酸化物と(E)還元剤の存在下でのレドックス重合反応、(G)光ラジカル開始剤の存在下での光ラジカル重合反応が速やかに進行する。
【0023】
以下、各成分について説明する。
<(A)単官能アクリレートモノマーについて>
(A)単官能アクリレートモノマーは、(D)有機過酸化物と(E)還元剤の存在下でレドックス重合してポリマーとなる化合物である。また、(C)光ラジカル開始剤によって光ラジカル重合してポリマーとなる化合物である。(A)成分は、1分子中に1個のアクリロイル基を有する単官能であるため、レドックス重合反応、光ラジカル重合反応によって直鎖状ポリマーとなる。本実施形態の製造方法では、強化繊維束を搬送しながら第1剤を強化繊維束に塗布するため、(A)単官能アクリレートモノマーは常温で液状である。
【0024】
(A)単官能アクリレートモノマーとしては、脂肪酸アクリレート、脂環式アクリレート、エーテル系アクリレート、環状エーテル系アクリレート、水酸基含有アクリレート、芳香族系アクリレート、カルボキシ含有アクリレート等のいずれも使用することができる。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ペンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、t-ブチルアミノエチルアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等、従来公知の単官能アクリレートが挙げられる。これらの中でも、環状骨格に1個のアクリロイル基が結合した構造のアクリレートが、適度なTgを有している点から好ましい。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
樹脂組成物中の(A)成分の含有率は、(A)成分と(B)成分の合計含有量の85質量%以下であることが好ましい。また、(A)成分の含有率は、(A)成分と(B)成分の合計含有量の60質量%以上であることが好ましい。
【0026】
<(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子について>
(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、(A)単官能アクリルモノマーがレドックス重合、光ラジカル重合する際の酸素阻害の影響を抑制する。
【0027】
従来から知られているラジカル重合系モノマーでは、空気中に含まれる酸素のビラジカルにより、マトリックス樹脂組成物のラジカルが補足されて重合阻害が起きる。トウプリプレグは、通常の厚さが200μm以下であるため、強化繊維束に含浸した樹脂組成物が空気に触れている面積が大きくなり、トウプリプレグとして必要な実用強度を有するポリマーの分子量にまで重合させることが困難である。この点、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子が酸素阻害の影響を抑制するため、トウプリプレグの表面から(A)単官能アクリルモノマーのレドックス重合、光ラジカル重合が迅速に進行して直鎖状ポリマーとなる。
【0028】
(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、平均粒径が500nm以下であることが好ましい。強化繊維束を構成する強化繊維の隙間は、500nm程度である。そのため、(B)成分の平均粒径が500nm以下であると、炭素繊維等の強化繊維の細かい隙間に入り込みやすく、その機能を発揮しやすい。
【0029】
(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子としては、市販される製品から適宜選択して使用することができる。例えば、株式会社クラレ製のポリメチルメタクリレートのビーズグレードが挙げられる。
【0030】
樹脂組成物中の(B)成分の含有率は、(A)成分と(B)成分の合計含有量の15質量%以上であることが好ましい。また、(B)成分の含有率は、(A)成分と(B)成分の合計含有量の40質量%以下であることが好ましい。(B)成分の含有率が15質量%以上であると、ラジカル重合反応における酸素阻害の影響を好適に抑制することができる。また、(B)成分の含有率が40質量%以下であると、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制することができる。
【0031】
<(C)光ラジカル開始剤について>
(C)光ラジカル開始剤は、UV照射により分解してラジカルを生成する化合物である。(C)光ラジカル開始剤は、(A)単官能アクリレートモノマーを光ラジカル重合して直鎖状ポリマーとする。
【0032】
(C)光ラジカル開始剤としては、(メタ)アクリレート系単量体の光重合に使用されている公知の光ラジカル発生剤から適宜選択して使用することができる。例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、チオキサントン誘導体、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルフォスフィンオキサイド誘導体、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、4-ベンゾイル-4´-メチルジフェニルスルファイド等があげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
(C)光ラジカル開始剤の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、(C)光ラジカル開始剤の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。
【0034】
<(D)有機過酸化物について>
(D)有機過酸化物は、加熱により分解してラジカルを生成する化合物である。(E)還元剤とともに(A)単官能アクリレートモノマーのレドックス重合反応を開始する。
【0035】
(D)有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、tーブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
(D)有機過酸化物の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、(C)光ラジカル開始剤の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。
【0037】
<(E)還元剤について>
(E)還元剤は、(D)有機過酸化物を常温程度の比較的低温で還元分解して、強制的にラジカルを放出させる。このレドックス重合反応は、(D)有機過酸化物と分子レベルで混合しなくても接触するだけで起こり、開始したラジカル重合反応はある程度の距離なら攪拌しなくても伝播していくという特徴を有する。
【0038】
(E)還元剤としては、例えば、種々のアミンとアルデヒドとの反応縮合物、N,N-ジメチルパラトルイジン、2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、バナジウム化合物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(E)還元剤の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましい。また、(E)還元剤の配合量は、樹脂組成物中の(A)~(E)成分を100重量部とした場合、1重量部以下であることが好ましく、0.8重量部以下であることがより好ましい。
【0040】
<その他の添加剤について>
本発明の樹脂組成物には、ラジカル重合反応の機能を損なわない範囲で、必要に応じ、その他の添加剤を加えてもよい。その他の添加剤としては、例えば、反応促進剤、硬化調整剤、貯蔵安定剤、増量剤、物性調整剤、補強剤、着色剤、難燃剤、沈殿防止剤、酸化防止剤、老化防止剤、香料、顔料、染料等が挙げられる。
【0041】
<強化繊維束について>
次に、強化繊維束について説明する。
強化繊維束を構成する強化繊維は、従来公知の強化繊維から適宜選択することができる。具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、スチール繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、軽量であって、強度に優れた炭素繊維が好ましい。
【0042】
強化繊維束を構成する強化繊維の本数、繊維径、繊度、密度、引張強度等は、特に限定されない。強化繊維束としては、市販のものを適宜選択して使用することができる。
<トウプリプレグの製造方法について>
次に、樹脂組成物を塗布、含浸してトウプリプレグTPを製造する製造方法についての一実施形態について、
図1に従って説明する。
【0043】
図1に示すように、本実施形態のトウプリプレグTPの製造方法では、加熱した強化繊維束Fに樹脂組成物を塗布して含浸させた後、UV照射を経てトウプリプレグTPを製造する。トウプリプレグTPの製造方法は、巻出し工程11、開繊工程12、加熱工程13、第1塗布工程14、第2塗布工程15、光硬化工程16、及び巻取り工程17を備えている。トウプリプレグTPの製造は、強化繊維束Fを搬送しながら、上記各工程を順次行う。請求項で言う搬送工程とは、強化繊維束F又はトウプリプレグTPを、後に説明するガイドローラ22に沿って搬送する工程である。
【0044】
トウプリプレグTPは、
図1に示すトウプリプレグ製造装置10で製造する。トウプリプレグ製造装置10の最上流には給糸ボビン21が配置されている。巻出し工程11は、給糸ボビン21から強化繊維束Fを引き出す工程である。給糸ボビン21から引き出された強化繊維束Fは、複数のガイドローラ22に沿って搬送されて超音波開繊機23に送られる。
【0045】
開繊工程12では、強化繊維束Fを搬送しながら超音波開繊機23で開繊して、強化繊維が引き揃えられた状態とする。強化繊維束Fは、加熱装置24に搬送されるまでに、開繊された状態とされる。開繊工程12が設けられていることにより、強化繊維束Fの幅精度が向上し、最終的に製造されるトウプリプレグTPの幅精度が向上する。
【0046】
加熱工程13では、加熱装置24を使用して強化繊維束Fを加熱する。加熱装置24は、第1塗布工程14でのオイリングローラ25の上流側に近接して配置されている。本実施形態の加熱装置24は、レーザーで加熱するものを採用している。強化繊維束Fを加熱することにより、その後の第1塗布工程14、第2塗布工程15で塗布された樹脂組成物が、強化繊維束Fを介して加温されて、樹脂組成物の粘度が低下する。これにより、強化繊維束Fへの樹脂組成物の含浸速度が速くなる。加熱装置24の加熱温度は、適宜調整することができる。加熱温度は、80~150℃程度であることが好ましく、100~120℃程度であることがより好ましい。加熱温度の調製は、レーザーから強化繊維束Fまでの距離を調整することで可能である。レーザーの波長は1100nmが好ましい。
【0047】
第1塗布工程14は、強化繊維束Fをオイリングローラ25に沿って搬送することによって、強化繊維束Fの一方の面に樹脂組成物の第1剤を塗布及び含浸させる工程である。オイリングローラ25は、その外周面が搬送される強化繊維束Fに接触する位置に配置されるとともに、強化繊維束Fの搬送方向Aに沿って回転するように構成されている。
【0048】
オイリングローラ25の下部には、樹脂タンク26が配置されている。樹脂タンク26はオイリングローラ25の下部に当接する箱状部材である。オイリングローラ25の外周面と樹脂タンク26の下壁及び側壁との間には、第1剤を貯留する貯留空間が形成されている。オイリングローラ25は、その外周面の回転軌跡の一部において、樹脂タンク26に貯留された第1剤を通過して外周面に第1剤を付着させることによって、樹脂タンク26からの第1剤の供給を受ける。オイリングローラ25の外周面に供給された第1剤は、オイリングローラ25の側部に配置されたスクレーパ27によって所定厚みに調整されている。
【0049】
第1塗布工程14では、樹脂タンク26からの強化繊維束Fへの第1剤の塗布量が所定の目標値となるように制御されている。具体的には、オイリングローラ25に供給する第1剤が貯留された樹脂タンク26の重量を一定時間ごとに測定して、オイリングローラ25から強化繊維束Fに供給された樹脂量を算出する。このようにして、オイリングローラ25による第1剤の塗布量(第1塗布体S1の樹脂含有量Rc)が、所定の目標値に収束するように制御する。
【0050】
オイリングローラ25で塗布された第1剤は、強化繊維束Fの内部にまで含浸される。第1剤が塗布、含浸された強化繊維束Fを第1塗布体S1と言うものとする。
第2塗布工程15は、第1塗布体S1において第1剤が塗布された一方の面とは反対側の面に樹脂組成物の第2剤を塗布する工程である。第2剤を塗布することにより、樹脂組成物のレドックス重合反応が開始される。
【0051】
第2塗布工程15では、塗布装置28によって第2剤を噴射する。塗布装置28の形状、大きさ、長さ、塗布量等は、適宜選択することができる。塗布装置28としては、繊維幅方向に塗工できるスプレー法やインクジェット法のような非接触式、もしくは幅広の平塗りノズルによる接触式の微小液滴吐出装置が好ましい。第1剤中の各成分と第2剤中の(F)還元剤とは、分子レベルで混合されなくてもレドックス重合反応が開始し、開始したラジカル重合反応はある程度の距離なら攪拌しなくても伝播していく。そのため、第1剤と第2剤とを強化繊維束Fの裏表それぞれの面に塗布することで含浸時間を短くすることが可能である。第2剤が塗布、含浸された強化繊維束Fを第2塗布体S2と言うものとする。
【0052】
第2塗布体S2では、第1剤に含有された(A)単官能アクリレートモノマーが、(E)有機過酸化物、及び第2剤に含有された(F)還元剤の作用によってレドックス重合する。
【0053】
光硬化工程16では、第2塗布体S2はUV照射装置29に送られる。光硬化工程16は、第2塗布体S2をUV照射装置29内で搬送することにより、第2塗布体S2の両面にUV照射する工程である。UV照射装置29は、塗布装置28に近接して配置されている。UV照射装置29は、内部に複数のUV照射ランプが配置された箱状の装置である。UV照射装置29の内面は鏡張りされている。そのため、複数のUV照射ランプからのUV光は、UV照射装置29の内面で反射して、搬送される第2塗布体S2の表面に効率よく照射される。UV照射装置29内を搬送された第2塗布体S2では、(A)単官能アクリレートモノマーが、(C)光ラジカル開始剤の作用によって光ラジカル重合する。これにより、(A)単官能アクリレートモノマーのラジカル重合反応が速く進行して、樹脂組成物が固化してその流動性が失われる。トウプリプレグTPの表面が粘着性を有しない状態(タックフリーの状態)となる。
【0054】
UV照射装置29の形状、大きさ、長さや、UV照射ランプの数、配置、光量等は、適宜調整すればよい。これらは、第2塗布体S2における樹脂組成物の塗布量、第2塗布体S2の厚み、搬送速度等との関係から設定、調整することができる。また、UV照射装置29の選定は、樹脂組成物の発熱量を測定し、UV照射装置29でのUVの光量とUV照射時間(長さ、繊維強化束Fの搬送速度等)により決定することができる。
【0055】
トウプリプレグ製造装置10の最下流には巻取りローラ30が配置されている。巻取り工程17は、タックフリーのトウプリプレグTPを巻取りローラ30に巻き取る工程である。UV照射装置29から搬送されたトウプリプレグTPは、ガイドローラ22に沿って搬送されて、所定の圧力を掛けながら、巻取りローラ30に巻き取られる。
【0056】
本実施形態の巻取り工程17では、トウプリプレグTPを巻取りローラ30にレコード巻きしている。レコード巻きとは、巻取りローラ30に対するトウプリプレグTPの巻き付け位置をずらさずに、トウプリプレグTPの幅方向両端を揃えて重ねるように巻き付ける方法である。トウプリプレグTPの表面はタックフリーとなっているため、表面に強化繊維束F由来の強化繊維が露出していない。順次同じ位置に巻き付けていくレコード巻きにしても、強化繊維同士が嵌まり込んで解舒し難いという事態が起こり難い。また、常温でも粘着性が発現しない状態で保存可能である。
【0057】
以上の工程を経て、トウプリプレグTPが製造される。
<樹脂組成物及びトウプリプレグTPの作用について>
次に、樹脂組成物が塗布、含浸されたトウプリプレグTPの作用について説明する。
【0058】
樹脂組成物の第1剤に含有される(A)単官能アクリレートモノマーは、常温で液状である。そのため、強化繊維束Fへの第1剤の含浸性が良好である。トウプリプレグ製造装置10を高速で稼働しても、強化繊維束Fの内部にまで第1剤が含浸していく。
【0059】
また、加熱工程13では樹脂含浸の直前で強化繊維束Fを加熱する。そのため、樹脂組成物(第1剤)が加温される。その結果、樹脂粘度が低下して強化繊維束Fへの第1剤の含浸速度が速くなる。
【0060】
第2塗布工程15で第1塗布体S1に(E)還元剤が塗布されると、樹脂組成物の(A)単官能アクリレートモノマーは、(D)有機過酸化物及び(E)還元剤の作用によってレドックス重合する。このレドックス重合反応は、比較的低温でも速やかに進行する。また、このレドックス重合反応は、(D)有機過酸化物と(E)還元剤とを分子レベルで混合しなくても接触するだけで起こり、開始したラジカル重合反応はある程度の距離なら攪拌しなくても伝播していくという特徴を有する。そのため、第2塗布体S2での樹脂組成物中の(A)単官能アクリレートモノマーは、常温で速やかにレドックス重合してポリマー化していく。第2塗布体S2の表面では、樹脂組成物が固化して流動性が失われていく。
【0061】
強化繊維束Fの厚みは0.1mm~0.2mm程度と薄い。そのため、強化繊維束Fを搬送しながら、第1剤、第2剤を塗布していく場合、レドックス重合反応が酸素阻害の影響を受けやすくなる。この点、第1剤中の(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子が酸素を遮断する作用を有し、樹脂組成物のレドックス重合反応における酸素阻害の影響を抑制することができる。
【0062】
(C)光ラジカル開始剤は、UV照射により分解してラジカルを発生する化合物である。そのため、光硬化工程16で第2塗布体S2がUV照射されると、(A)単官能アクリレートモノマーが光ラジカル重合する。(D)有機過酸化物及び(E)還元剤による(A)単官能アクリレートモノマーのレドックス重合反応は、比較的時間を要するが、光ラジカル重合は、レドックス重合反応に比べてより速やかに進行する。(C)光ラジカル開始剤を含有する樹脂組成物にUV照射することにより、(A)単官能アクリレートモノマーの光ラジカル重合反応が、強化繊維束Fの表面から速やかに進行する。
【0063】
また、UV照射でUVが届くのは、第2塗布体S2の表面から50μm程度の深さまでである。そのため、(A)単官能アクリレートモノマーの全てがレドックス重合するのに時間を要しても、第2塗布体S2の表面では、(A)単官能アクリレートモノマーの光ラジカル重合反応が速やかに進行する。
【0064】
このように、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と(C)光ラジカル開始剤との存在により、(A)単官能アクリレートモノマーのレドックス重合反応が常温で進行する場合に比べて、より速く進行することになる。また、厚みの薄い強化繊維束Fに塗布した場合であっても、酸素阻害による影響を抑制して、ラジカル重合反応が速やかに進行する。トウプリプレグTPでは、樹脂組成物の流動性が失われて、表面が粘着性を有しないタックフリーの状態となる。
【0065】
これにより、トウプリプレグ製造装置10を使用して、強化繊維束Fを搬送しながら樹脂組成物を塗布、含浸して、トウプリプレグTPを巻き取っていくような場合、高速での搬送、巻き取りが可能となる。光ラジカル重合反応によって表面がタックフリーの状態となるのが速いため、内部でのレドックス重合反応の進行が比較的遅くても、高速での巻取りが可能である。また、このトウプリプレグTPを使用して成形品を成形するような場合に、積層したトウプリプレグTPが滑って形状変化を起こすことが抑制される。成形性の良好なトウプリプレグTPを高速で製造することができる。
【0066】
トウプリプレグTPに含浸された樹脂組成物の主成分は、(A)単官能アクリレートモノマーであるため、ラジカル重合反応によりポリマー化された化合物は、直鎖状構造をなしている。そのため、トウプリプレグTPの表面はタックフリーである一方で、樹脂組成物は加熱により可塑性を呈する熱可塑性樹脂として機能する。成形品を形成するような場合に、トウプリプレグTPに対して所定の圧力を掛け、加温しながら巻き付けることがあるが、加圧、加温されたときには樹脂組成物全体が適度に再流動化する。そのため、成形品の成形する際の積層時には、わずかな加圧、加温(40℃程度の低温での加温)によりトウプリプレグTPが適度な粘着性を発現する。これにより、トウプリプレグTPの積層時にトウプリプレグTP同士がずれ難くなる。樹脂組成物が流動化状態を発現することにより、積層したトウプリプレグTPの位置ずれが抑制されて、積層性が良好となる。
【0067】
ところで、樹脂組成物が(C)光ラジカル開始剤のみを含有しており、(E)有機過酸化物、及び(F)還元剤を含有していない場合を想定する。この場合には、樹脂組成物中のレドックス重合反応は起こらない。そのため、強化繊維束Fを構成する強化繊維が、例えば黒色の炭素繊維であると、UVが炭素繊維に当たって、それ以上内部にまでUVが到達しにくいことになる。第2塗布体S2の内部では光ラジカル反応が起こりにくく、樹脂組成物が未硬化状態となる。これは、強化繊維が濃色の炭素繊維、アラミド繊維、バサルト繊維等である場合に顕著である。また、透明なガラス繊維等であっても、強化繊維束Fの厚みが厚いような場合には、内部の樹脂組成物にUVが到達しにくく、内部での光硬化が進まない場合がある。
【0068】
この点、本実施形態の樹脂組成物は、(D)有機過酸化物、及び(E)還元剤を含有していることによってレドックス重合反応による(A)単官能アクリレートモノマーの重合が進行する。これにより、例えば、濃色の強化繊維束Fであっても、トウプリプレグTPの内部まで樹脂組成物のラジカル重合反応が進行する。
【0069】
次に、上記実施形態の樹脂組成物、及びトウプリプレグTPの製造方法の効果について説明する。
(1)上記実施形態の樹脂組成物は、第1剤と第2剤を混合することにより、(A)単官能アクリレートモノマーが、(D)有機過酸化物、及び(E)還元剤の作用によってレドックス重合する。第1剤中の(A)単官能アクリレートモノマーは、常温で液状であるため、第1剤の含浸性が非常に良好である。また、強化繊維束Fを高速で搬送しても含浸ムラが生じ難く、強化繊維束Fの高速搬送が可能である。
【0070】
(2)第1剤は、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を含有している。そのため、ラジカル重合反応における酸素阻害の影響を抑制することができる。厚みの薄い強化繊維束Fに塗布、含浸した場合であっても、酸素阻害による影響を抑制して、ラジカル重合反応を速やかに進行させることができる。
【0071】
(3)第1剤は、(C)光ラジカル開始剤を含有している。そのため、(A)単官能アクリレートモノマーを光ラジカル重合させることができる。ラジカル重合反応を速やかに進行させることができる。
【0072】
(4)(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の配合により、酸素阻害の影響が抑制された状態で(A)単官能アクリレートモノマーのラジカル重合反応が速やかに進行する。また、(C)光ラジカル開始剤の配合により、トウプリプレグTPの表面から光ラジカル重合反応が進行する。そのため、トウプリプレグTPの表面は早期にタックフリーとなる。トウプリプレグTPを高速で搬送し、巻き取ることができる。トウプリプレグTPの生産効率を向上させることができる。また、巻取り工程17で巻き取ったトウプリプレグTPの解舒性も良好である。
【0073】
(5)樹脂組成物中の(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の含有率は、(A)単官能アクリレートモノマーと(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の合計含有量の15質量%以上40質量%以下である。そのため、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制しつつ、ラジカル重合反応における酸素阻害の影響を好適に抑制することができる。
【0074】
(6)(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、平均粒径が500nm以下である。そのため、炭素繊維等の強化繊維の細かい隙間に入り込みやすく、酸素阻害の機能を発揮することができる。
【0075】
(7)第1剤の主成分は(A)単官能アクリレートモノマーであり、ラジカル重合反応により直鎖状のポリマーとなる。そのため、トウプリプレグTPの表面はタックフリーである一方で、樹脂組成物は加熱により再流動化して適度な可塑性を呈する。トウプリプレグTPが適度な粘着性を発現して、トウプリプレグTPの積層性が良好となるとともに、加熱による賦型性に優れたトウプリプレグTPを製造することができる。
【0076】
(8)(A)単官能アクリレートモノマーは直鎖状のポリマーとなるため、アクリル化合物が網目状に架橋している場合に比べて、低温での加温でも粘着性を発現し易い。そのため、熱容量の大きな加熱装置を備えた成形装置での成形が不要となり、よりコンパクトな成形装置での成形が可能となる。
【0077】
(9)(A)単官能アクリレートモノマーは、ラジカル重合反応により重合する。そのため、強化繊維束Fを構成する強化繊維が濃色の炭素繊維等であっても、(A)単官能アクリレートモノマーの重合を、第2塗布体S2の内部まで濃度揺らぎなく進行させることができる。
【0078】
(10)トウプリプレグ製造装置10は加熱装置24を有している。そのため、樹脂粘度を低下させて強化繊維束Fへの含浸速度を速くすることができる。
(11)トウプリプレグ製造装置10での第1塗布工程14では、強化繊維束Fの一方の面に第1剤を塗布し、第2塗布工程15では、第1剤が塗布されなかったもう一方の面に第2剤を塗布している。そのため、トウプリプレグ製造装置10において、オイリングローラ25に近接して塗布装置28を配置することができる。
【0079】
(12)光硬化工程16は、内面が鏡張りされたUV照射装置29の内部で第2塗布体S2を搬送している。そのため、第2塗布体S2の両面に対して、むらなくUV照射をすることができる。トウプリプレグTPの表面全体が均質にタックフリーとなり、その品質が安定する。また、搬送しながら光硬化させることができるため、装置構成が簡略化する。
【0080】
(13)光硬化工程16では、UV照射装置29の内部で第2塗布体S2を搬送している。そのため、UV照射装置29の形状、大きさ、長さや、UV照射ランプの数、配置、光量や、第2塗布体S2の搬送速度等を調整することにより、トウプリプレグTPの表面を所望の状態にすることができる。
【0081】
(14)トウプリプレグTPの製造方法は、開繊工程12を備えている。そのため、強化繊維束Fを構成する強化繊維が引き揃えられた状態となって、強化繊維束Fの幅精度が向上する。
【0082】
(15)第1塗布工程14は、周面に樹脂組成物が供給されたオイリングローラ25に沿わせながら強化繊維束Fを搬送している。そのため、強化繊維束Fの表面に連続的に樹脂組成物を塗布することができる。高速での樹脂含浸が可能である。
【0083】
上記実施形態から把握される技術思想について以下に記載する。
(イ)樹脂組成物が強化繊維束に含浸されたトウプリプレグの製造方法であって、前記樹脂組成物は、第1剤と第2剤とからなり、前記第1剤は、(A)常温で液状の単官能アクリレートモノマーと、(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、(C)光ラジカル開始剤と、(D)有機過酸化物とを含有し、前記第2剤は、(E)還元剤を含有し、前記(B)の含有率は、前記(A)と前記(B)の合計含有量の15~40質量%であり、前記強化繊維束をローラに沿って搬送する搬送工程と、周面に前記第1剤が供給されたオイリングローラに沿わせながら前記強化繊維束を搬送して、前記強化繊維束の少なくとも一方の面に前記第1剤を塗布して第1塗布体を得る第1塗布工程と、前記第1塗布体に前記第2剤を塗布してトウプリプレグを得る第2塗布工程と、前記トウプリプレグの両面にUV照射する光硬化工程と、前記トウプリプレグを巻取りローラに巻き取る巻取り工程とを備えていることを特徴とするトウプリプレグの製造方法。
【0084】
上記実施形態は、次のように変更することができる。なお、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
・
図2に示すように、トウプリプレグTPの製造には、トウプリプレグ製造装置10とは異なるものを使用してもよい。
図2に示すトウプリプレグ製造装置10aは、第1剤を塗布、含浸させる第1塗布工程14を、トウプリプレグ製造装置10の第2塗布工程15で使用した塗布装置28と同様の塗布装置28aによって行っている。第1剤の粘度が低い場合は、このようなトウプリプレグ製造装置10aが好ましい。また、塗布装置28aとしては、スプレー法やインクジェット法のような非接触の微小液滴吐出装置が好ましい。なお、
図1のトウプリプレグ製造装置10と同じ構成については、同じ番号を付して示している。また、
図2では、第2塗布工程15の塗布装置28を塗布装置28bとして示している。
【0085】
・(B)非架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の平均粒径が500nmより大きくてもよい。
・第2剤は(F)還元剤に加えて、第1剤中の(D)有機過酸化物以外の少なくとも一つの成分を含んでいてもよい。例えば第2剤が(A)~(C)成分を含有していると、第1剤と粘度、含有比率を等しくすることができて第1剤と混合しやすい。第2剤が(A)~(C)成分を含有している場合、含有していない場合に比べて粘度が高くなることから、第2塗布工程15は、第1塗布工程14と同様にオイリングローラ25によって第2剤を塗布することが好ましい。
【0086】
・第1塗布工程14では、強化繊維束Fの両面に第1剤を塗布してもよい。この場合、オイリングローラ25の下流に、さらにオイリングローラ25を配置すればよい。そして、オイリングローラ25に沿わせながら搬送して、強化繊維束Fの一方の面に第1剤を塗布し、下流のオイリングローラ25に沿わせながら搬送して、強化繊維束Fの他方の面に第1剤を塗布するようにすればよい。また、下流側のオイリングローラ25に供給する第1剤の樹脂量は、オイリングローラ25から強化繊維束Fに供給された樹脂量に基づいて調整すればよい。このようにすれば、2つのオイリングローラ25による第1剤の塗布量(第1塗布体S1の樹脂含有量Rc)を、所定の目標値に収束するように制御することができる。
【0087】
・第1塗布工程14で2つのオイリングローラ25で強化繊維束Fの両面に第1剤を塗布する場合、上記のように、強化繊維束Fの搬送方向Aに沿って2つのオイリングローラ25が配置されている場合に限定されない。オイリングローラ25が強化繊維束Fの両面を同時に挟むような位置に配置されていてもよい。
【0088】
・第2塗布工程15では、第1塗布体S1において第1剤が塗布された面と同じ面に第2剤を塗布してもよい。
・第2塗布工程15では、第1塗布体S1の両面に第2剤を塗布してもよい。
【0089】
・オイリングローラ25への樹脂組成物の供給は、樹脂タンク26によるものでなくてもよい。例えば、オイリングローラ25の表面に所定量の樹脂組成物を滴下するようにしてもよい。
【0090】
・開繊した強化繊維束Fの厚さが薄い場合(例えば、0,1mm以下)や、樹脂粘度が低い場合(例えば、100mPas以下)等の場合は、樹脂粘度を下げる必要が無いため、加熱工程13を省略することができる。
【0091】
・トウプリプレグ製造装置10は
図1に示す構成に限定されない。例えば、強化繊維束F、第1塗布体S1、第2塗布体S2、及びトウプリプレグTPの搬送速度を調整したり、張力を付加したりするための、公知のフィードローラ、ニップローラ、ダンサーローラ等が配置されていてもよい。また、ガイドローラ22が図示のものより多くても少なくてもよい。
【実施例0092】
本発明を具体化した樹脂組成物と、その樹脂組成物を塗布、含浸させてトウプリプレグを製造した場合の樹脂組成物の含浸性、重合性、トウプリプレグの生産性について評価した。
【0093】
<樹脂組成物の調製>
(実施例1)
実施例1の樹脂組成物として、(A)~(E)成分を含有するものを調製した。第1剤は、(A)~(D)成分を含有し、第2剤は、(E)成分を含有している。
【0094】
(A)成分は、FA-513AS(トリシクロデカニルアクリレート、株式会社レゾナック・ホールディングス製)である。(B)成分は、KIT-T5(平均粒径200nmの非架橋ポリメチルメタクリレート粒子、株式会社クラレ製)である。(C)成分は、OmniradBDK(2,2-ジメソキシ-2-フェニルアセトフェノン、IGM Resins B.V.社製)である。(D)成分は、パークミル(登録商標)(クメンハイドロパーオキサイド、日油株式会社製)であり、1時間半減期温度188℃の有機過酸化物である。(E)成分は、ナフテン酸コバルト(東京化成工業株式会社製)である。樹脂組成物中の各成分の含有量(単位:g)は、表1に示すとおりである。(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する(A)成分の含有率は80質量%、(B)成分の含有率は20質量%である。
【0095】
(比較例1)
比較例1の樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する(A)成分の含有率を50質量%、(B)成分の含有率を50質量%とした以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0096】
(比較例2)
比較例2の樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する(A)成分の含有率を90質量%、(B)成分の含有率を10質量%とした以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0097】
(比較例3)
比較例3の樹脂組成物は、実施例1の樹脂組成物における(A)成分に代えて、多官能アクリレートとして、2官能アクリレートであるA-DCP(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、新中村化学工業株式会社製)を使用した熱硬化性樹脂組成物である。単官能アクリレートに代えて多官能アクリレートを含有している以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0098】
(比較例4)
比較例4の樹脂組成物は、従来の熱可塑性樹脂として、アミラン(登録商標)CM1007(ポリアミド6フィルム、東レ株式会社製)を使用した。
【0099】
(比較例5)
比較例5の樹脂組成物は、従来の熱可塑性樹脂として、ウィンテック(登録商標)WSX-03(ポリプロピレンペレット、日本ポリプロ株式会社製)を使用した。
【0100】
(比較例6)
比較例6の樹脂組成物は、従来のいわゆる現場重合型熱可塑性樹脂として、溶剤希釈型熱可塑性エポキシ樹脂であるXNR6850V/XNH6850V(ナガセケムテックス株式会社製)を使用した。
【0101】
【表1】
<評価方法>
実施例1、比較例1~3の樹脂組成物は、
図1に示すトウプリプレグ製造装置10を使用して、炭素繊維束(強化繊維束F)を搬送しながら塗布、含浸させた。炭素繊維束は、パイロフィル(登録商標)フィラメントTR50S12L(繊度800mg/m、三菱ケミカル株式会社製)を使用した。トウプリプレグ製造装置10の加熱装置24では、樹脂組成物が含浸されたトウプリプレグTPを100~120℃で加熱しながら搬送した。オイリングローラ25の樹脂タンク26内の樹脂組成物は、室温程度の約25℃に保持した。
【0102】
比較例4の樹脂組成物であるポリアミド6フィルムとしてのアミラン(登録商標)CM1007は、
図1に示すトウプリプレグ製造装置10ではなく、超音波含浸装置UD1000MS(株式会社アドウェルズ製)を使用して、炭素繊維束(強化繊維束F)を搬送しながら塗布、含浸させた。アミラン(登録商標)CM1007は、常温で搬送し、含浸部分では超音波による加温により280℃程度にまで昇温させた。
【0103】
比較例5の樹脂組成物であるポリプロピレンペレットとしてのウィンテック(登録商標)WSX-03は、樹脂含浸装置CD1001(株式会社神戸製鋼所製)を使用して、炭素繊維束(強化繊維束F)を搬送しながら塗布、含浸させた。ウィンテック(登録商標)WSX-03は、樹脂バスで200℃に加熱したものを、溶融状態で使用した。
【0104】
比較例6の樹脂組成物である溶剤希釈型熱可塑性エポキシ樹脂としてのXNR6850V/XNH6850Vは、マルチコーターM200L(株式会社ヒラノテクシード製)とベルトコンベア式オーブンを使用して、炭素繊維束(強化繊維束F)を搬送しながら塗布、含浸させた。XNR6850V/XNH6850Vは室温で搬送し、ベルトコンベア式オーブンは180℃に加熱した。
【0105】
(含浸性評価)
含浸性の評価は、樹脂組成物の重合前の粘度を測定することにより行った。
評価基準は以下のとおりである。
【0106】
〇;樹脂粘度が2000mPa・s未満。
△;樹脂粘度が2000mPa・s以上10000mPa・s未満。
×;樹脂粘度が10000mPa・s以上。
【0107】
(重合性評価)
重合性の評価は、炭素繊維束として、パイロフィルテナックス(登録商標)フィラメントTR50S12L(繊度800mg/m、肉厚0.6mm、三菱ケミカル株式会社製)を使用して、酸素による重合阻害を受けずにラジカル重合が可能かどうかをトウプリプレグTPの表面の状態から評価した。
【0108】
評価基準は以下のとおりである。
〇;良好に重合した。
△;重合したが表面にタックが残っていた。
【0109】
×;重合せず液状のままであった。
(生産性評価)
生産性の評価は、樹脂組成物が炭素繊維束中に良好に含浸して重合した状態で搬送可能な搬送速度(トウプリプレグTPの製造速度)を測定することにより行った。
【0110】
(室温でのタックフリー性の評価)
樹脂組成物が重合した後のトウプリプレグTPの表面の状態を観察することにより評価した。
【0111】
評価基準は以下のとおりである。
〇;全くベトツキがない。
△;僅かにベトツキがある。
【0112】
×;ベトツキがある。
(高温時の再溶融性の評価)
樹脂組成物が重合した後のトウプリプレグTPが、加熱により融着性を発揮するかについて評価した。トウプリプレグTPは、それぞれの樹脂の軟化点もしくは融点よりも50℃高い温度に加熱した。
【0113】
評価基準は以下のとおりである。
〇;再溶融して熱可塑性が発現し、容易に融着した。
△;再溶融しているようにみえるが若干架橋していて、融着しにくい。
【0114】
×;架橋していて熱可塑性を示さず融着しない。
実施例1及び比較例1~6についての各評価試験の結果を表1に示した。
従来の熱可塑性樹脂である比較例4のポリアミド6フィルムは、既に重合済みであるため、含浸性、重合性についての評価は行わなかった。比較例4のポリアミド6フィルムを加熱しながら搬送して、熱溶融しながら炭素繊維束に含浸させた場合には、樹脂組成物が含浸可能な程度の粘度となるのに時間を要した。そのため、製造速度が1m/分程度と非常に遅く、生産性が良好ではなかった。
【0115】
同様に、従来の熱可塑性樹脂である比較例5のポリプロピレンペレットは、既に重合済みであるため、含浸性、重合性についての評価は行わなかった。比較例5のポリプロピレンペレットを加熱しながら搬送して、熱溶融しながら炭素繊維束に含浸させた場合には、樹脂組成物が含浸可能な程度の粘度となるのに時間を要した。そのため、製造速度が5m/分程度と非常に遅く、生産性が良好ではなかった。
【0116】
従来の熱可塑性樹脂である比較例6の溶剤希釈型熱可塑性エポキシ樹脂は、常温では樹脂粘度が2000mPa・s未満であって含浸性が良好であった。また、酸素による重合阻害の影響が抑制されることで、膜厚の薄い炭素繊維束での重合が良好であった。しかし、トウプリプレグTPの表面がタックフリーの状態となるまでに時間を要したため、トウプリプレグTPの製造速度は1m/分程度と非常に遅く、生産性が良好ではなかった。
【0117】
また、2官能アクリレートを含有する熱硬化性樹脂を炭素繊維束に含浸させた比較例4は、常温では樹脂粘度が2000mPa・s未満であって含浸性が良好であり、膜厚の薄い炭素繊維束での重合も良好であった。また、熱硬化性であるために未硬化の状態でトウプリプレグTPを搬送可能なため、製造速度は50m/分程度と早く設定することが可能であった。一方、未硬化の状態であるため、トウプリプレグTPの表面が粘稠であってベトツキがあった。このトウプリプレグTPを積層して成形品を成形する場合、積層したトウプリプレグTP同士が滑り易く、成形性が良くない。
【0118】
これに対して、2官能アクリレートに代えて(A)単官能アクリレートモノマーを含有する実施例1の樹脂組成物では、重合前は常温で液状であるため、常温での樹脂粘度が2000mPa・s未満と低く含浸性が良好であった。また、(C)光ラジカル開始剤を含有していることにより、酸素による重合阻害の影響が抑制されて、膜厚の薄い炭素繊維束での重合性も良好であった。さらに、加熱状態の樹脂組成物中での(D)有機過酸化物と(E)還元剤によるレドックス重合反応により、重合反応が速やかに進行するため、トウプリプレグTPの製造速度を50m/分程度と、早く設定することが可能であった。トウプリプレグTPについては、室温では表面のベトツキが全くなく、タックフリーとなっている一方で、加熱により再溶融して熱可塑性が発現した。このトウプリプレグTPを積層して成形品を成形する場合、積層したトウプリプレグTP同士が融着し易く、成形性が良好である。
【0119】
比較例2の樹脂組成物は、(A)単官能アクリレートモノマーと(B)非架橋ポリメチルメタクリレート粒子の合計含有量に対する(B)成分の含有率が15質量%未満である。これは、実施例1と同様含浸性が非常に良好である一方で、酸素阻害の影響により重合性が良好ではなかった。
【0120】
また、比較例1の樹脂組成物は、(A)単官能アクリレートモノマーと(B)非架橋ポリメチルメタクリレート粒子の合計含有量に対する(B)成分の含有率が40質量を超えている。これは、多量の(B)成分により樹脂組成物の粘度が高くなるため含浸性が良好ではなかった。含浸不良により生産性の評価は行わなかった。