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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130282
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】レトラクタ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
A61B17/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039919
(22)【出願日】2023-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年3月15日、独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイト(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/)にて公開した。 (2)令和4年6月4日、大阪大学Knee Osteotomyセミナーにて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】521278829
【氏名又は名称】湘南メディカルテクニック合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良平
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】伊原 秀
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳輝
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL03
4C160LL12
4C160LL27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大腿骨の遠位部の後方の軟組織を確実に保護することができるレトラクタを提供する。
【解決手段】レトラクタ1は、遠位大腿骨骨切り術に使用され、帯板状の部材からなる。レトラクタは、切開部から膝内に挿入され大腿骨の遠位部の後面に配置される保護部2を先端側に備える。保護部は、幅方向の一側に大腿骨の外顆または内顆を受け入れる切欠部5を先端部に有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位大腿骨骨切り術に使用され帯板状の部材からなるレトラクタであって、
切開部から膝内に挿入され大腿骨の遠位部の後面に配置される保護部を先端側に備え、
該保護部が、幅方向の一側に前記大腿骨の外顆または内顆を受け入れる切欠部を先端部に有する、レトラクタ。
【請求項2】
前記切欠部を画定する前記保護部の先端面が、前記大腿骨の遠位部の外顆または内顆の側面にフィットする湾曲形状を有する、請求項1に記載のレトラクタ。
【請求項3】
体外に配置されるハンドル部を基端側に備えるとともに、
前記切開部の縁に配置される中間部を前記保護部と前記ハンドル部との間に備え、
前記中間部が、前記レトラクタに対する骨切削具の位置および角度を制限し該骨切削具を前記レトラクタの長手方向に案内するガイド部を有する、請求項1に記載のレトラクタ。
【請求項4】
前記保護部が、前記レトラクタの上側に前記遠位部の後面と対向して配置される上面を有し、
前記中間部が、前記上側に突出する鉤状に湾曲した湾曲部である、請求項3に記載のレトラクタ。
【請求項5】
前記ガイド部が、前記レトラクタの中心軸線に沿う方向に延び前記骨切削具を前記長手方向に移動可能に受け入れる溝であり、
好ましくは、前記溝は、前記中間部を厚さ方向に貫通するスリットである、請求項3または請求項4に記載のレトラクタ。
【請求項6】
少なくとも前記保護部が、X線透過性を有する、請求項1に記載のレトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトラクタに関し、特に、遠位大腿骨骨切り術用のレトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変形性膝関節症の治療法として、脛骨の近位部を骨切りする高位脛骨骨切り術(HTO)が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。脛骨の近位部の周囲には血管等の軟組織が存在する。したがって、HTOにおいて、脛骨を骨切りする骨鋸から軟組織を保護するためのレトラクタが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-521011号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yong Seuk Lee、外4名、“Open-Wedge High TibialOsteotomy Using a Protective Cutting System: Technical Advancement for the Accuracyof the Osteotomy and Avoiding Intraoperative Complications”、Arthroscopy Techniques、2016年2月、Vol 5、No 1、pp e7-e10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変形性膝関節症のもう1つの治療法として、遠位大腿骨骨切り術(DFO)が知られている。DFOにおいては、骨鋸の使用の際に、大腿骨の遠位部の後方に存在する血管等の軟組織を確実に保護することが重要である。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、大腿骨の遠位部の後方の軟組織を確実に保護することができるレトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、遠位大腿骨骨切り術に使用され帯板状の部材からなるレトラクタであって、切開部から膝内に挿入され大腿骨の遠位部の後面に配置される保護部を先端側に備え、該保護部が、幅方向の一側に前記大腿骨の外顆または内顆を受け入れる切欠部を先端部に有する、レトラクタである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大腿骨の遠位部の後方の軟組織を確実に保護することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るレトラクタの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るレトラクタの(a)上面図および(b)側面図である。
図3】(a)本発明のレトラクタおよび(b)従来のレトラクタのDFOにおける使用状態を示す図である。
図4】本発明の一実施形態のレトラクタの(a)第1タイプおよび(b)第2タイプの保護部の上面図である。
図5】大腿骨の遠位部の後面に配置された保護部を示す図である。
図6】スリットを通る鋸刃のレトラクタに対する動きを説明する上面図である。
図7】本発明の一実施形態のレトラクタおよびガイドピンが挿入された膝のX線透視画像の一例を示す図である。
図8】本発明の他の実施形態に係るレトラクタの(a)上面図および(b)側面図である。
図9】(a)内側閉塞型DFOおよび(b)外側閉塞型DFOを説明する図である。
図10】(a)従来のレトラクタの側面図と、(b)その保護部の上面図である。
図11】(a),(b)大腿骨の遠位部の後面に配置された従来のレトラクタの保護部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係るレトラクタについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係るレトラクタ1は、遠位大腿骨骨切り術(DFO)において、大腿骨の遠位部の後方に存在する軟組織を保護するために使用される。
図9(a)は、内側閉塞型DFOを説明している。このDFOにおいて、大腿骨Aの遠位部A1に内側面から外側に向かってV字に骨切りし、楔状の骨片を遠位部A1から除去する。次に、骨片が除去された骨切り部を閉塞することによってX脚を矯正し、大腿骨Aの内側面に骨プレート(図示略)を固定する。
【0010】
DFOには、図9(a)の内側DFOの他に、図9(b)に示されるように、外側面から内側に向かって骨切りする外側DFOがある。さらに、右脚と左脚は、相互に対称な構造を有する。したがって、後述するように、相互に面対称な2つのタイプのレトラクタ1が準備される(図4(a),(b)参照。)。
【0011】
図1および図2に示されるように、レトラクタ1は、単一の帯板状の部材からなり、厚さ方向に相互に対向する上面1aおよび下面1bを有する。レトラクタ1の使用時、上面1aおよび下面1bは、重力方向における上側および下側にそれぞれ配置される。符号1cは、レトラクタ1の中心軸線である。
レトラクタ1は、長手方向X、幅方向Yおよび上下方向Zを有する。長手方向Xは、レトラクタ1の基端側から先端側に向かう方向である。幅方向Yは、長手方向Xに直交し面1a,1bに沿う方向である。上下方向Zは、長手方向Xおよび幅方向Yに直交する方向である。
【0012】
また、レトラクタ1は、遠位側、近位側、上側および下側を有する。遠位側は、幅方向Yの一側であり、近位側は、幅方向Yの他側である。レトラクタ1の遠位側および近位側は、レトラクタ1の使用時に大腿骨Aの遠位側および近位側にそれぞれ配置される。上側は、上下方向Zの上面1a側であり、下側は、上下方向Zの下面1b側である。
【0013】
レトラクタ1は、少なくとも保護部2においてX線透過性を有し、レトラクタ1の全体がX線透過性を有していてもよい。例えば、レトラクタ1は、ステンレスまたはアルミニウム合金等のX線透過性の金属から形成されるか、または、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリフェニレンサルファイド(PPS)等のX線透過性の樹脂から形成される。ステンレス製の場合、保護部2は、0.5mm~3.0mmの厚さを有し、好ましくは、0.5mm~0.8mmの厚さを有する。
【0014】
レトラクタ1は、レトラクタ1の先端を含む保護部2と、レトラクタ1の基端を含むハンドル部3と、保護部2とハンドル部3との間の中間部4とを備える。
保護部2は、レトラクタ1の先端側の部分である。図3(a)に示されるように、保護部2は、膝Eの内側または外側の皮膚Fに形成された切開部Gから膝E内に挿入され、遠位部A1の後面と隣接して配置される。したがって、保護部2の上面1aは、遠位部A1の後面と対向し後面と接触する面である。図3(a),(b)は、膝E内の遠位部A1を大腿骨Aの遠位側から見た図である。
【0015】
図2(b)に示されるように、保護部2は、スプーンのつぼのように下側に凸の椀状であり、長手方向Xおよび幅方向Yにおいて湾曲している。このような湾曲形状によって、保護部2の上面1aを遠位部A1の後面に良好にフィットさせることができる。保護部2のフィット性をより高めるために、保護部2の近位側の側面の曲率半径R1は、保護部2の遠位側の側面の曲率半径R2よりも大きくてもよい。R1およびR2は、遠位側または近位側から見た側面視における曲率半径である。例えば、図1および図5に示されるように、距離r2と距離r1との比(r2:r1)が1.1~1.3となるように、曲率半径R1,R2は設計される。図5は、遠位部A1の後面Bに配置された保護部2を示している。図1および図5において、P1は、保護部2の近位側の側面の後面Bとの接触点であり、P2は、保護部2の遠位側の側面の後面Bとの接触点であり、P3は、レトラクタ1の先端面の顆部CまたはDとの接触点(レトラクタ1の先端面の中心)である。距離r1は、顆部接触点P3から近位側接触点P1までの距離であり、距離r2は、顆部接触点P3から遠位側接触点P2までの距離である。
【0016】
保護部2は、該保護部2の先端部の遠位側に形成され、大腿骨Aの外顆Cまたは内顆Dを受け入れる切欠部5を有する。切欠部5は、上側から上下方向Zに見た上面視において、基端側および近位側に向かって凹む凹部である。したがって、保護部2の先端面(すなわち、レトラクタ1の先端面)の遠位側半分2aと近位側半分2bは、相互に異なる形状を有し、レトラクタ1は、保護部2において幅方向Yに非対称な形状を有する。そのため、図4(a),(b)に示される2つのタイプのレトラクタ1が用意される。図4(a)は、右脚の内側DFOおよび左脚の外側DFO用の第1タイプの保護部2を示している。図4(b)は、右脚の外側DFOおよび左脚の内側DFO用の第2タイプの保護部2を示している。
【0017】
図5に示されるように、遠位部A1の後面Bには、隆起した外顆Cおよび内顆Dが存在する。切欠部5を画定する先端面2aは、外顆Cまたは内顆Dの湾曲した側面にフィットする湾曲形状を有することが好ましい。例えば、上側から上下方向Zに見た上面視において、先端面2aは、中心軸線1cから先端面2aまでの幅方向Yの距離が基端側に向かって漸次大きくなる円弧状である。上面視における先端面2aの曲率半径は、例えば、10mm~30mmである。
【0018】
ハンドル部3は、体外に配置されユーザによって把持されるレトラクタ1の基端側の部分であり、長手方向Xに延びる。図1および図2におけるハンドル部3は、略全体にわたって平坦であるが、ハンドル部3は、大腿骨Aを切削する電動の骨鋸の操作に支障を与えない範囲で平坦以外の形状を有していてもよい。
【0019】
図3(a)に示されるように、中間部4は、レトラクタ1の使用時に切開部Gの縁に配置される部分である。中間部4は、上側に突出する鉤状に湾曲した湾曲部である。湾曲部4は、遠位側または近位側から見た側面視において、鋭角に湾曲する略逆V字型または略逆U字型である。保護部2およびハンドル部3は、湾曲部4の先端および基端とそれぞれ滑らかに連続する。また、ハンドル部3は、湾曲部4と角度を成し、湾曲部4の最も上側の位置よりも下側にオフセットした位置に配置される。
【0020】
湾曲部4は、骨鋸の鋸刃(骨切削具)10を案内するガイド部6を有する。ガイド部6は、中心軸線1cに沿って延び厚さ方向に貫通するスリット(溝)であり、側面視において、湾曲部4と同様に、鋭角に湾曲する略逆V字型または略逆U字型である。スリット6は、鋸刃10の厚さよりも大きな幅Wを有し、図1において二点鎖線で示されるように、長手方向Xに移動可能に鋸刃10を受け入れることができる。
【0021】
スリット6の側壁6a,6bは、スリット6を通る鋸刃10の幅方向Yにおける動きおよび傾きを制限する。これにより、鋸刃10は、長手方向Xに案内され、鋸刃10の良好な直進性が得られる。したがって、図6において二点鎖線で示されるように、鋸刃10の先端がレトラクタ1から幅方向Yに突出することが防止される。
【0022】
図6に示されるように、スリット6の幅Wは鋸刃10の厚さに対して遊びを有し、それにより、スリット6は、鋸刃10の先端がレトラクタ1の側面から幅方向Yに突出しない範囲において、幅方向Yにおける鋸刃10の移動と傾きとを許容することが好ましい。例えば、鋸刃10の一般的な厚さを考慮しスリット6の幅Wは、7.0mm~15.0mmである。このようなスリット6によって、レトラクタ1から鋸刃10の先端が幅方向Yに突出することを防ぎつつ、レトラクタ1の位置ずれを防ぎレトラクタ1の使い勝手を向上することができる。仮にスリット6の幅が狭い場合、鋸刃10が大腿骨A等から受ける反力がレトラクタ1に伝わり易く、鋸刃10による骨切り中にレトラクタ1の位置がずれ易い等の不都合が生じ得る。
また、スリット6が遊びを有することによって、遠位部A1に対する鋸刃10の挿入方向に応じてレトラクタ1の位置を変更する必要がない。したがって、閉塞型DFOにおいて、レトラクタ1を同一位置に保持しながら遠位側および近位側の両方の骨切り線Lに沿って骨切りすることができる(図9(a),(b)参照。)。
【0023】
次に、本実施形態に係るレトラクタ1の作用について、内側閉塞型DFOを例に説明する。なお、レトラクタ1は、外側閉塞型DFOにも適用することができ、また、内側または外側開大型DFOにも適用することができる。
図3(a)に示されるように、保護部2を、切開部Gから膝E内に挿入し、大腿骨Aの遠位部A1と該遠位部A1の後方に存在する血管等の軟組織(図示略)との間に挿入し、遠位部A1の後面Bを覆う位置に配置する。そして、湾曲部4を、切開部Gの縁の皮膚Fおよび脂肪組織Hに引っ掛ける。
【0024】
次に、スリット6を通って鋸刃10を遠位部A1に内側面から挿入し、外側面の近傍まで大腿骨Aを骨切り線Lに沿って鋸刃10で骨切りする。
鋸刃10を大腿骨Aから抜いた後、再びスリット6を通って鋸刃10を遠位部A1に内側面から挿入し、外側面の近傍まで大腿骨Aをもう1つの骨切り線Lに沿って鋸刃10で骨切りする。
次に、2つの骨切り線Lの間の楔形の骨片を大腿骨Aから除去し、骨切り部を閉塞する。次に、閉塞された骨切り部を跨ぐように大腿骨Aの内側面に骨プレート(図示略)を配置し、骨プレートをスクリュによって大腿骨Aに固定する。
【0025】
この場合において、本実施形態によれば、保護部2の先端部の遠位側部分に外顆Cを受け入れる切欠部5が形成されている。したがって、図5に示されるように、外顆Cと干渉することなく骨切り線Lの全体を覆う位置に保護部2を容易に配置することができ、後面Bの後側の軟組織を保護部2によって確実に保護することができる。
また、切欠部5を画定する先端面2aは、外顆Cの側面にフィットする湾曲形状を有する。したがって、先端面2aが外顆Cの側面に接触する位置に保護部2を配置することによって、骨切り線Lが外顆Cの近傍を通る場合においても、骨切り線Lの全体を確実に覆うように保護部2を配置することができ、軟組織をより確実に保護することができる。
【0026】
図10(a),(b)は、切欠部5を有しない従来のレトラクタ101を示し、図11(a),(b)は、大腿骨Aの後面Bに配置されたレトラクタ101の保護部102を示している。大腿骨Aの遠位部A1の後側には、外顆Cおよび内顆Dに加えて、筋肉や靱帯が多く存在する。従来のレトラクタ101は、外顆Cまたは内顆Dや筋肉との干渉によって、骨切り線Lの全体を覆う位置に配置することが難しい。
これに対し、本実施形態のレトラクタ1によれば、上述したように、図11(a),(b)のような不都合を生じることなく、骨切り線Lの全体を覆う位置に保護部2を容易に配置することができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、レトラクタ1にスリット6が設けられ、鋸刃10がレトラクタ1から幅方向Yに突出することがないように、レトラクタ1に対する幅方向Yの鋸刃10の位置および角度がスリット6によって制限される。これにより、遠位部A1の後方の軟組織を鋸刃10からより確実に保護することができる。
また、スリット6は、簡単な加工によって板状の部材に形成することができる。すなわち、ガイド部6がスリットであることによって、簡単な加工によってガイド部をレトラクタ1に設けることができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、図3(a)に示されるように、スリット6が鉤状の湾曲部4に設けられていることによって、鋸刃10を水平方向(大腿骨Aの左右方向)に近い角度で大腿骨Aに容易に挿入することができ、鋸刃10の先端が大腿骨Aの後方に向かうことを防止することができる。これは、大腿骨Aの後側部分の切り過ぎを防止する点において有利である。
【0029】
図3(b)は、スリット6を有しない従来のレトラクタ101を使用したときの、大腿骨Aに対する鋸刃10の挿入角度を示している。従来のレトラクタ101の場合、鋸刃10の中間部104との干渉に因り、鋸刃10を大腿骨Aに水平方向に挿入することが難しく、鋸刃10の先端は、保護部102が配置されている外顆Cに向かいやすい。この場合、大腿骨Aの後側部分を切り過ぎたり、鋸刃10が保護部102と干渉したりし得る。
皮膚Fおよび脂肪組織H等の軟組織を下側に圧迫しながら中間部104の位置を下側にずらすことによって鋸刃10の大腿骨Aへの挿入角度を水平方向に近付けることはできるが、この方法は、軟組織の圧迫を伴うため好ましくない。
【0030】
また、本実施形態によれば、レトラクタ1自身がガイド部6を有し、保護部2を遠位部A1に対して適切な位置に位置決めことによって、ガイド部6も遠位部A1に対して適切な位置に自ずと位置決めされる。したがって、レトラクタとは別体のガイド部をレトラクタと組み合わせて使用する場合と比べて、部品点数および操作手順が少なく使い勝手の良いレトラクタ1を実現することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、中間部4が、上側に突出する鉤状の湾曲部であることによって、切開部G付近の軟組織を下方に圧迫することなくハンドル部3を切開部Gよりも低い位置に配置することができる。これにより、切開部Gの外側において骨鋸にハンドル部3が干渉しハンドル部3が骨鋸の操作の邪魔になることを防ぎ、鋸刃10を容易に操作することができる。
従来のレトラクタ101の場合、中間部104の基端側においてハンドル部103が骨鋸と干渉し骨鋸の操作の邪魔になり易い。
【0032】
また、DFOにおいて、大腿骨Aに対してレトラクタ1およびガイドピンを正しい位置に配置することが重要である。図7に示されるように、本実施形態によれば、少なくとも保護部2がX線透過性を有することによって、保護部2と重なる大腿骨Aおよびガイドピン7もX線透視画像において観察することができる。例えば、厚さ0.6mm~0.8mmのステンレス製の保護部2は、X線透視画像において保護部2、ガイドピン7および大腿骨Aを容易に見分けることができ、好適である。
【0033】
上記実施形態において、レトラクタ1が、鋸刃10をガイドするガイド部としてスリット6を有することとしたが、これに代えて、他の形態のガイド部を備えていてもよい。
例えば、ガイド部は、下側に向かって凹み鋸刃10を長手方向Xに移動可能に受け入れる細長い窪み(溝)であってもよい。
【0034】
図8(a),(b)は、本発明の他の実施形態に係るレトラクタ11を示している。レトラクタ11は、湾曲部4に代えて、平坦な中間部14を備える。ガイド部16は、中間部14の上面1aから上側に突出する2対の突起16a,16b;16c,16dを有する。先端側の第1対の突起16a,16bは、相互に距離d1を空けて幅方向Yに配列し、基端側の第2対の突起16c,16dは、相互に距離d2を空けて幅方向Yに配列する。第1距離d1は、第2距離d2よりも小さい。
このような突起16a,16b,16c,16dからなるガイド部16によっても、保護部2から鋸刃10が幅方向Yに突出しないように、鋸刃10をガイドすることができる。ハンドル部13が鋸刃10と干渉することを防ぐために、ハンドル部13は、中間部4に対して下側にずれた位置に配置されていてもよい。
【0035】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形および変更が可能である。例えば、切欠部5を画定する先端面2aの形状は、円弧に限らず、外顆Cおよび内顆Dを長手方向Xおよび幅方向Yに受け入れることができる限りにおいて、他の形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1,11 レトラクタ
2 保護部
3 ハンドル部
4 湾曲部(中間部)
5 切欠部
6 スリット(ガイド部、溝)
14 中間部
16 ガイド部
10 鋸刃(骨切削具)
A 大腿骨
A1 遠位部
B 後面
C 外顆
D 内顆
G 切開部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11