(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130284
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】検体の特徴を識別する方法及びマイクロRNAがんマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240920BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240920BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240920BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240920BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039925
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 友美
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 良威
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR58
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 検出性能の安定した、検体の特徴を識別する方法及びmiRNAがんマーカーを提供する。
【解決手段】 実施形態の検体の特徴を識別する方法は、検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定すること、データを標準化するために変異特異的な濃度の数値を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得すること、得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、
データを標準化するために変異特異的な濃度の値を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、
得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定すること
を含む検体の特徴を識別する方法。
【請求項2】
前記miRNAが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13又はこれらの各配列の目的とする野生型及び変異型を特徴付ける部位以外又は相当する部位に1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれる配列、並びにこれらの相補配列の何れかで示される少なくとも1種類のmiRNAである請求項1に記載の検体の特徴を識別する方法。
【請求項3】
前記miRNAが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8又は各配列の目的とする野生型及び変異型を特徴付ける部位以外又は相当する部位に1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれる配列、並びにこれらの相補配列の何れかで示される少なくとも1種類のmiRNAである請求項1に記載の検体の特徴を識別する方法。
【請求項4】
前記変異特異的な濃度への補正が、miRNAの測定法に応じて、アライメントされた全リード数の正規化値に頻度情報を乗じること、又は内部標準で除することにより行われる請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記得られた補正された変異特異的濃度の増減が、予め定められた閾値により判定される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変異が1塩基の置換である、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記検体が、血清又は血漿である請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記がんが、乳がんおよび膵臓がんからなる群から選択される少なくとも一種のがんである、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定方法が、NGS法、PCR法又はマイクロアレイ法により行われる請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8、又はこれらの各配列の目的とする野生型及び変異型を特徴付ける部位以外又は相当する部位に1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれる配列、
或いはこれらの相補配列をそれぞれに有するmiRNA群からなるがんマーカーセット。
【請求項11】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8又はこれらの相補配列の配列からなるmiRNAがんマーカー。
【請求項12】
17_hsa-miR-199a-5p_C-T、9_hsa-miR-1260b_A-G、18_hsa-miR-146b-5p_A-G、9_hsa-miR-33b-5p_C-T、20_hsa-miR-15b-5p_A-G、10_hsa-miR-92b-3p_C-T、12_hsa-miR-106a-5p_C-T、11_hsa-miR-98-5p_A-G、13_hsa-miR-130a-3p_A-G、11_hsa-miR-26a-5p_C-T、16_hsa-let-7d-5p_C-T、17_hsa-let-7g-5p_A-G及び9_hsa-miR-501-3p_C-Tから少なくとも1種類選択されるmiRNAがんマーカー。
【請求項13】
17_hsa-miR-199a-5p_C-T、9_hsa-miR-1260b_A-G、18_hsa-miR-146b-5p_A-G、9_hsa-miR-33b-5p_C-T、20_hsa-miR-15b-5p_A-G、10_hsa-miR-92b-3p_C-T、12_hsa-miR-106a-5p_C-T、11_hsa-miR-98-5p_A-G、13_hsa-miR-130a-3p_A-G、11_hsa-miR-26a-5p_C-T、16_hsa-let-7d-5p_C-T、17_hsa-let-7g-5p_A-G及び9_hsa-miR-501-3p_C-TからなるmiRNAがんマーカーセット。
【請求項14】
17_hsa-miR-199a-5p_C-T、9_hsa-miR-1260b_A-G、18_hsa-miR-146b-5p_A-G、9_hsa-miR-33b-5p_C-T、20_hsa-miR-15b-5p_A-G、10_hsa-miR-92b-3p_C-T、12_hsa-miR-106a-5p_C-T及び11_hsa-miR-98-5p_A-Gから少なくとも1種類選択されるmiRNAがんマーカー。
【請求項15】
17_hsa-miR-199a-5p_C-T、9_hsa-miR-1260b_A-G、18_hsa-miR-146b-5p_A-G、9_hsa-miR-33b-5p_C-T、20_hsa-miR-15b-5p_A-G、10_hsa-miR-92b-3p_C-T、12_hsa-miR-106a-5p_C-T及び11_hsa-miR-98-5p_A-GからなるmiRNAがんマーカーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検体の特徴を識別する方法及びマイクロRNAがんマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、特定のマイクロRNA(miRNA)と特定のがんとの関連性が研究されている。特に関連性が大きいとされたmiRNAは、検体の特徴を識別するためのマーカーとして使用できる可能性がある。例えば、そのようなマーカーの検体中の濃度や有無等を特定することにより、対象ががんであるのか否かを予測することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、検出性能の安定した、検体の特徴を識別する方法及びmiRNAがんマーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態のmiRNAを用いた検体の特徴を識別する方法は、
検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、
データを標準化するために変異特異的な濃度の数値を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、
得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定すること
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】第1の実施形態の識別方法の一例を示すフローチャート。
【
図4】第1の実施形態の識別方法の更なる一例を示すフローチャート。
【
図5】第1の実施形態の識別方法の更なる一例を示すフローチャート。
【
図6A】第1の実施形態に関するプロセスの一例を示すフローチャート。
【
図6B】第1の実施形態に関するプロセスの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下に、図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0007】
本発明者らは、これまでの独自の研究において、miRNAの変異に注目し、それらをがんマーカーとして用いて、がん罹患者と健常者の識別する方法を検討してきた。その研究を進める中で、検体間やデータセット間でmiRNA濃度の増減の傾向には、差が出やすくばらつきが大きいという特徴があることを見出した。このような特徴のため、性能が安定しないことを発見した。このような状況を独自の課題とし、これを解決する目的の下、鋭意研究をすることによって、以下に提案する実施形態に至った。これらの実施形態によれば、例えば、検体間やデータセット間でmiRNA濃度の増減の傾向に差が出やすくばらつきがより小さく、性能が安定することにより、汎用的に用いることが可能な技術を提供することが可能となる。
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の検体の特徴を識別する方法の1例は、
図1に示す通り、実施形態のmiRNAを用いた検体の特徴を識別する方法は、
検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、
データを標準化するために変異特異的な濃度の数値を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定することを備える。検体の特徴を識別することにより、例えば、当該検体が、がん罹患者に由来するものであるのか、健常者若しくは問題となるがんに罹患していない対象、即ち、非がん罹患者に由来するものであるのかを識別することが可能である。
【0009】
ここでいう変異は、例えば、一塩基多型及びRNA編集(RNA editing)であり得る。RNA編集(RNA editing)とは、DNAから転写されたRNA、又は転写中のRNAの塩基配列を置換したり、1~数塩基を挿入したり、削除したりする、動植物における機構である。RNA転写後の修飾の1つとも考えられており、様々な生体プロセスの制御に係わっていることが報告されている。
図2を用いて、代表的なRNA編集の例について説明する。即ち、代表的なRNA編集の例は、(1)A-to-I RNA編集、(2)C-to-U RNA編集、(3)1~数塩基の挿入、(4)1~数塩基の削除(欠失)などである。A-to-I RNA編集(adenosin to inosin editing)は、ADAR酵素によるRNA編集である。アデノシン(A)のアミノ基を加水分解し、イノシン(I)に置換するものであり、翻訳時には、化学構造が類似しているグアノシン(G)として認識される。C-to-U RNA編集(cytidine to uridine editing)は、シチジン(C)からウリジン(U)に置換されるものである。当該分析方法においては、RNA編集の機序は問わず、参照配列に照らして、配列変動が存在するRNAは変異とみなしてよい。好ましい変異は、DNA上の多様性(SNP)が要因となる配列変動ではなく、RNA転写後に発生した変異であるが、RNA転写後に発生した変異であると証明できている必要はない。
【0010】
ここで「変異特異的な濃度の数値を補正する」とは、データを標準化するために変異特異的な濃度の数値を補正することであり、異なる検体について汎用的に比較することを可能にするために行う補正である。それにより、個々のデータに含まれる目的とする変異以外の意図しないデータの個体差を除外し、標準化することである。具体的には後述するが、このような標準化は、使用される解析方法によって任意に選択されてよい。例えば、miRNAを網羅的に解析する場合には、そのデータ量のサイズによる影響を除外するように補正すればよい。
【0011】
ここで「検体」とは「試料(サンプル)」、「試験試料」とも交換可能に使用され、被験者又は被検動物から採取された解析されるべき対象物質である。
【0012】
第1の実施形態によれば、変異特異的な濃度を比較することで汎用性を改善することが可能である。このような方法は、検体間やデータセット間で生じ得るmiRNA抽出効率の差や濃度の増減の傾向の差、検体間でのバラツキによる影響を受けにくく、そのために安定した性能が得られ得る。
【0013】
詳しくは後述するが、
図3を参照しながら、第1の実施形態の概要を例示的なモデルを用いて説明する。S31Aに、がん検体(a)と非がん検体(m)を併記した。がん検体(a)は、特定のmiRNAに関し、野生型31aと変異型31bを含む。一方、非がん検体(m)は、特定のmiRNAに関し、野生型31aを含む。この場合、便宜上、変異を指標として検体の特徴、即ち、がん検体であるのか、非がん検体であるのかを決定するやり方は主に3つ考えられる。
【0014】
1つ目のやり方は、S31Bに示すように、変異の有無を指標とする方法である。即ち、変異を検出した場合には、がん検体であると判定し、変異が検出されなかった場合には、非がん検体と判定する。2つ目のやり方は、検体中の合計リード数、即ち、問題となるmiRNAの濃度の増減を指標とする方法である。3つ目(第1の実施形態)は、変異のみの濃度の増減により判定する方法である。1つ目の方法及び2つ目の方法の場合、検体に含まれる野生型の存在や、問題となるmiRNAの量、即ち、リード数に影響を受ける可能性がある。そのため、得られる結果が、各検体によってバラツキが生じやすい。これに対して、変異のみに注目し、少なくとも1種類のmiRNAの変異型のリード数、即ち濃度(変異特異的な濃度)を測定し、且つそのリード数を検体全体のリード数で補正することで規格化したリード数を指標にすることにより、試料間でのバラツキを抑え、安定した結果を得ることが可能となる。
【0015】
第1の実施の形態において使用される変異を有したmiRNAは、これらに限定されるものではないが、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13である。例えば、好ましい変異を有したmiRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8である(表1)。
【0016】
【0017】
なお本明細書において、全ての配列について、便宜上書いた「T(チミン)」は、「U」であってもよい。「T」と表現することで、実際には問題の部位が「U(ウラシル)」である場合と「T(チミン)」である場合との両方の場合が共に含まれることを意図する。問題の部位の核酸塩基が「U(ウラシル)」である場合も「T(チミン)」である場合も等しく権利範囲である。例えば、RNAを対象に解析する場合、一般的にcDNA合成によりDNAに変換して解析する。例えば、各配列をRNA配列として記載する場合には問題の部位の核酸塩基は「U」と表現され、DNA配列として記載する場合には問題の部位の核酸塩基は「T」と表現される。従って、ここにおいて;
血清中に存在するmiRNAとして表す場合には、問題の箇所は「U」であり、
検体から抽出されたものは、RNAであるので「U」であり、
逆転写により得られたcDNAを元に増幅される配列は、DNA配列であるので問題の箇所は「T」である。
以降、混乱を避けるため、便宜上、全ての塩基配列をDNAとして表記する。従って、表記上は、問題の箇所は「T」として記載した。このような事情から、実施形態として権利範囲に含まれるのは上述した通り、問題の部位の核酸塩基が「U(ウラシル)」である配列についても「T(チミン)」である配列についても等しく含まれる。
【0018】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、第1の実施形態において、上述のような変異を有したmiRNA群をmiRNAがんマーカーセットとして利用する方法である。例えば、そのようなマーカーセットを用いる第1の実施形態の例は、
図4に示されるように、検体に含まれる配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8の何れかで示される少なくとも1種類のmiRNA変異特異的濃度を測定すること(S41)、変異体特異的な濃度を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得する
(S42)及び得られたmiRNA変異特異的濃度の増減を指標に当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定すること(S43)を備える。
【0019】
【0020】
配列番号1は、miRNA IDが「17_hsa-miR-199a-5p_C-T」であり、野生型「hsa-miR-199a-5p」の5'側から17番目のC(シトシン)がT(チミン)へと変異した構造を有する。配列は「5' CCCAGTGTTCAGACTATCTGTTC 3'」(23塩基長)である。配列番号2は、miRNA IDが「9_hsa-miR-1260b_A-G」であり、野生型「hsa-miR-1260b」の5'側から9番目のA(アデニン)がG(グアニン)へと変異した構造を有する。配列は「5' ATCCCACCGCTGCCACCAT 3'」(19塩基長)である。配列番号3は、miRNA IDが「18_hsa-miR-146b-5p_A-G」であり、野生型「hsa-miR-146b-5p」の5'側から18番目のA(アデニン)がG(グアニン)へと変異した構造を有する。配列は「5' TGAGAACTGAATTCCATGGGCTG 3'」(23塩基長)である。配列番号4は、miRNA IDが「9_hsa-miR-33b-5p_C-T」であり、野生型「hsa-miR-33b-5p」の5'側から9番目のC(シトシン)がT(チミン)へと変異した構造を有する。配列は「5' GTGCATTGTTGTTGCATTGC 3'」(20塩基長)である。配列番号5は、miRNA IDが「20_hsa-miR-15b-5p_A-G」であり、野生型「hsa-miR-15b-5p」の5'側から20番目のA(アデニン)がG(グアニン)へと変異した構造を有する。配列は「5' TAGCAGCACATCATGGTTTGCA 3'」(22塩基長)である。配列番号6は、miRNA IDが「10_hsa-miR-92b-3p_C-T」であり、野生型「hsa-miR-92b-3p」の5'側から10番目のC(シトシン)がT(チミン)へと変異した構造を有する。配列は「5' TATTGCACTTGTCCCGGCCTCC 3'」(22塩基長)である。配列番号7は、miRNA IDが「12_hsa-miR-106a-5p_C-T」であり、野生型「hsa-miR-106a-5p」の5'側から12番目のC(シトシン)がT(チミン)へと変異した構造を有する。配列は「5' AAAAGTGCTTATAGTGCAGGTAG 3'」(23塩基長)である。配列番号8は、miRNA IDが「11_hsa-miR-98-5p_A-G」であり、野生型「hsa-miR-98-5p」の5'側から11番目のA(アデニン)がG(グアニン)へと変異した構造を有する。配列は「5' TGAGGTAGTAGGTTGTATTGTT 3'」(22塩基長)である。
【0021】
第2の実施形態によれば、変異特異的な濃度を比較することで汎用性を改善することが可能である。このような方法により、検体間やデータセット間で生じ得るmiRNA抽出効率の差や濃度の増減の傾向の差、検体間でのバラツキによる影響を受けにくく、そのために安定した性能が得られ得る。
【0022】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1及び第2の実施形態において使用される変異を有したmiRNAを組み合わせて利用する、即ち、miRNAがんマーカーセットである。miRNAがんマーカーセットは、これらに限定されるものではないが、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13又はこれらの相補配列をそれぞれ有するmiRNAを含む。或いは、それは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13又はこれらの相補配列をそれぞれ有するmiRNAからなる。例えば、miRNAがんマーカーセットの更なる例は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8又はこれらの相補配列をそれぞれ有するmiRNAを含む。或いはそれは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8又はこれらの相補配列をそれぞれ有するmiRNAからなる。上述した検体の特徴を識別する方法においては、これらのmiRNAがんマーカーセットの少なくとも1のmiRNAについて、変異特異的な濃度が測定され得る。また、各miRNAは、上述の何れかの配列番号で示される配列を含んでもよく、各配列からなっていてもよい。また、このようなマーカーは、例えば、がん罹患者と健常者(非がん罹患者)を識別するための、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8又はこれらの相補配列の配列からなるmiRNAであるがんマーカーとして使用されてもよい。更にまた、上述の配列の1又は数個が置換、欠失又は1又は数個が付加された配列であってもよい。ただし、先に記載した1塩基置換で区別される野生型の配列は含まない。例えば、miRNA ID「17_hsa-miR-199a-5p_C-T」(配列番号15' CCCAGTGTTCAGACTATCTGTTC 3')の場合、5'側から17番目は、野生型の場合には「C(シトシン)」であり、変異型の場合には「T(チミン)」である。即ち、5'側から17番目の部位を除く部位又は相当する部位に、1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれてもよい。このような更なる変異は、配列番号1~配列番号20のそれぞれに関しても同様である。
【0023】
上述の配列番号1~配列番号20の各配列は、それぞれmiRNA IDとして表現されてもよく、そのようなIDとして示されたmiRNAをがん検出用マーカーとして使用することも可能である。そのようながん検出用マーカーは、17_hsa-miR-199a-5p_C-T(配列番号1に対応)、9_hsa-miR-1260b_A-G(配列番号2に対応)、18_hsa-miR-146b-5p_A-G(配列番号3に対応)、9_hsa-miR-33b-5p_C-T(配列番号4に対応)、20_hsa-miR-15b-5p_A-G(配列番号5に対応)、10_hsa-miR-92b-3p_C-T(配列番号6に対応)、12_hsa-miR-106a-5p_C-T(配列番号7に対応)、11_hsa-miR-98-5p_A-G(配列番号8に対応)、13_hsa-miR-130a-3p_A-G(配列番号9に対応)、11_hsa-miR-26a-5p_C-T(配列番号10に対応)、16_hsa-let-7d-5p_C-T(配列番号11に対応)、17_hsa-let-7g-5p_A-G(配列番号12に対応)、9_hsa-miR-501-3p_C-T(配列番号13に対応)である。これらのmiRNAを少なくとも1種類で、2種類以上を組み合わせて、或いは配列番号1~配列番号8を1セットとして、若しくは配列番号1~13を1セットとして使用してもよい。これらのIDで示されたmiRNAは、各配列と同様に各配列の野生型及び変異型を特徴付ける部位以外又は相当する部位に1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれてもよい。例えば、17_hsa-miR-199a-5p_C-Tであれば、5'側から17番目の部位を除く部位又は5'側から17番目の部位以外の部位に相当する部位に、そのような更なる変異、1又は数個の置換、欠失又は1又は数個の付加が含まれてもよい。
【0024】
第3の実施形態によれば、変異特異的な濃度を比較することで汎用性を改善することが可能である。このようなマーカーの利用により、検体間やデータセット間で生じ得るmiRNA抽出効率の差や濃度の増減の傾向の差、検体間でのバラツキによる影響を受けにくく、そのために安定した性能が得られ得る。
【0025】
(第4の実施形態)
図5に示すように、第4の実施形態の検体の特徴を識別する方法は、被験者に由来する検体中の配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8又はこれらの相補配列からそれぞれなるmiRNAのうちの少なくとも1種類のmiRNAを測定すること(S51)、測定により得られたデータについて、検体中のアライメントされた全リード数あるいは内部標準に基づく規格化により、補正された変異特異的濃度を算出すること(S52)、及び補正された変異特異的濃度の増減により、検体が、がん検体であるのか、非がん検体であるかを予測すること(S53)を備える。ここで「アライメントされた全リード数」とは、miRNAに関して、変異体も野生体もその両方を含む試料中に含まれる全てのmiRNAの量、即ち、miRNAの配列にアライメントされた全リード数をいう。また、着目miRNAとは、配列番号1~13で示される、即ち、それらからなる、又はそれらを含むmiRNAの少なくとも1種類、2種類以上の組み合わせ、又は配列番号1~13の全ての種類を含むmiRNAであり得る。検体中のアライメントされた全リード数に基づく規格化により、変異特異的濃度を算出することは、後述するように、変異体及び野生体の両者を含む各着目miRNAのTMM値に、得られた変異の出現頻度情報を乗じて、算出することができる。内部標準は、予め定めた基準に従って選択したmiRNAであればよく、これに限定するものではないが、例えばhsa-miR-486-5pのような存在量が多いmiRNAなど、着目対象を量的に補正するために適した、検体の特徴に左右されずに安定して発現しているmiRNAを選択し得る。内部標準で除することにより規格化することができる。
【0026】
検体が、がん検体であるのか、非がん検体であるかを判断することによって、検体のオリジンである対象について、がんに罹患している可能性、これからがんに罹患する可能性、がんを有するか、又は発症する危険性があるかどうか、或いはがんに罹患していないことを医師が判定する材料として使用され得る。例えば、医師が、実施形態の方法を利用して、診断を行う場合、miRNAを用いた検体の特徴を識別する方法は、診断方法として利用することも可能である。その場合には、例えば、検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、変異特異的な濃度を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定することを含む、がん罹患者と健常者とを識別する方法として提供され得る。その場合、当該方法は、検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、変異特異的な濃度を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に被験者ががんを有する可能性、又は発症する危険性について判定することを含み得る。
【0027】
本明細書においてがんは、何れの病期のものも含み、例えば、発生母地の臓器内にがんが留まった状態、更に周辺の組織までがんが及んだ状態、更にリンパ節へがんが転移した状態、及び更に離れた臓器へのがんの転移がある状態等を含む。また本明細書において乳がんは、乳腺組織に形成される悪性腫瘍(新生物)をいう。例えば、乳がんは、一般に「乳癌」又は「乳がん」と称されるものも含む。また、実施形態に従う乳がんは、何れの種類の乳がんも含み、例えば乳腺小葉がん又は乳管がんを含む。また、実施形態に従う乳がんは、例えば上皮性腫瘍、非上皮性腫瘍、並びに上皮性及び非上皮性の両方からなる悪性葉状腫瘍を含む。
【0028】
例えば、がんは、乳がん、大腸がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮がん、卵巣がん、肉腫、前立腺がん、胆管がん、膀胱がん、食道がん、肝臓がん、脳腫瘍、腎臓がんからなる群から選択される少なくとも一種のがんであり得る。また、例えば、がんは、乳がん及びすい臓がんであり得る。
【0029】
変異特異的な濃度についての補正は、例えば、変異体及び野生体の両方を含む各着目miRNAのTMM値(即ち、アライメントされた全リード数に基づく規格化値)に得られた頻度情報を乗じればよい。また例えば、アライメントされた全リード数をTMM法やRPKM正規化法などで規格化し、比較することで、測定値、即ち、測定された、検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度に反映し、当該測定された濃度を補正することも可能である。これにより複数のmiRNAについて普遍的に比較することが可能となる。解析には単にリード数や規格化値を比較し有意差検定を行う手法や、DESeqやEdgeRなどのトランスクリプトーム解析用プラットフォーム、あるいはEZR(Easy R)やJMP(登録商標)などの医療統計用ソフトウェア、あるいはフィッシャーの判別分析、マハラノビス距離による非線形判別分析、ロジスティック回帰分析、ニューラルネットワーク、ランダムフォレストなどの機械学習などを用いて判別式を作成する方法が利用できるが、これらの手法に限定するものではない。また例えば、NGS法を利用する場合には、変異出力ソフトを用いて、変異体の存在比率(即ち、頻度情報)を出力し、TMM値に頻度情報を乗じて補正した変異特異的濃度を算出すればよい。また例えば、PCR法を利用する場合には、変異特異的な検出(即ち、増幅)手法により、変異体特異的濃度を測定し、内部標準となるmiRNA濃度で割り算するなどの方法で、補正された変異特異的な濃度を取得し得る。言い換えれば、例えば、NGSの場合にはアライメントされた全リード数の正規化値に頻度情報を乗じること、PCRの場合には内部標準で除することにより、補正された変異特異的な濃度を取得し得る。
【0030】
検体は、例えば、対象から得られた体液などであってよい。例えば、体液中のmiRNA変異特異的濃度を測定する工程は、主に(i)被験者からの検体採取、(ii)検体からのmiRNAの抽出(iii)配列変動が発生したmiRNA特異的な濃度の算出、から成ることが好ましく、その代表的な手法を下記に記すが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(i)被験者からの検体採取
測定に用いる検体は、被検者から採取されるものであり、特に限定されるものではなく、例えば、血液、血清、血漿、白血球、尿、消化液、唾液、胃液、汗、涙、鼻水、精液、膣液、羊水、乳汁、リンパ液、組織、口腔内粘膜、喀痰などを用いることができる。検体は、遠心、沈殿、抽出および/または分離などの処理を行い、核酸の増幅に適切である状態にする。また、採取された検体が、そのままで核酸の増幅に適切である場合には、採取された試料をそのまま検体として使用してもよい。
【0032】
(ii)検体からのmiRNAの抽出
核酸の抽出は、これらに限定されないが、市販の核酸抽出キットである、NucleoSpin(登録商標) miRNA Plasma(タカラバイオ製)、Quick-cfRNA Serum & Plasma Kit(ザイモリサーチ製)、miRNeasy Serum/Plasma キット(キアゲン製)、miRVana PARIS isolation kit(サーモフィッシャー製)、PureLinkTM Total RNA Blood Kit(サーモフィッシャー製)、Plasma/Serum RNA Purification Kit (Norgen Biotech製)、microRNA Extractor(登録商標) SP Kit(和光純薬)、High Pure miRNA Isolation Kit(シグマアルドリッチ製)などを利用して実行することができる。また、キットによらず、検体をバッファーで希釈した上で、80~100℃の加熱処理後に遠心分離して上清を得る、という簡便な方法を使うことも可能である。
【0033】
(iii)配列変動が発生したmiRNA特異的な濃度の算出
miRNA変異特異的濃度を定量する工程は、検出に用いるプライマーやプローブなどを変異に特異的な配列で設計することで、RNA、特にmiRNA等の短鎖のRNAを定量するための一般的な方法を用いて行うことができる。その方法は限定されるものではないが、例えば、miRNAを逆転写してcDNAを生成し、得られたcDNAを増幅し、増幅産物を検出及び定量することができる。RNAが短鎖である場合、増幅を容易にするため、逆転写して得たcDNAの末端に人工配列を付加するように伸長することも一般的に実施されている。また、逆転写を経ず、検体中のRNAを直接増幅し、増幅産物を検出及び定量する技術としてローリングサークル増幅法が知られている。増幅には、例えば、PCR法、qPCR法、又はLAMP法を用いることができる。検出及び定量は、増幅の後に行われてもよいし、増幅中に経時的に行われてもよい。また、マイクロアレイ法と組み合わせて行われてもよい。
【0034】
検出及び定量には、例えば、濁度若しくは吸光度に基づく信号を用いる測定法、光学的信号を用いる測定法又は電気化学的信号を用いる測定法、或いはこれらの組み合わせ等を用いることができる。例えば、増幅産物量に応じて得られる上記信号の強度又は変化量、或いは信号が閾値に達するまでの時間(立ち上がり時間)又はPCR法を用いる場合はサイクル数(立ち上がりサイクル数)からmiRNAの定量を行うことができる。miRNAの定量値は検量線を用いて決定してもよい。miRNAの存在量は、例えば、検体の単位量当たりの標的miRNAのコピー数として算出され得る。このような定量方法では、市販のキットを用いて行ってもよい。市販のキットの例は、TaqMan(登録商標)Advanced miRNA Assays(サーモフィッシャー製、カタログNo.A25576)、miRCURY LNA(登録商標) miRNA PCR Assays(キアゲン製、カタログNo.339306、SYBR(登録商標)Green qPCR microRNA検出システム(オリジンテクノロジーズ製)等であり、miRNA変異特異的な系を設計することで利用でき得る。
【0035】
配列情報を網羅的に取得することで、より変異体であることを直接的に確認して定量する方法として、次世代シーケンシング(NGS)法を用いることも可能である。NGS法は、複数の対象からの抽出物を混合した検体中の塩基配列を、超並列的に解析することが可能であり、さらに、その塩基配列がどの検体由来であるかを1回の分析で特定することが可能な塩基配列解析法である。従って、複数の対象中の、1種類又は複数種類のmiRNA変異特異的濃度を定量し判定することができるため、より簡便かつより高速に分析することが可能である。NGS法を用いる場合、illumina社製MiSeqやNextSeq550、NovaSeq6000など、あるいはPacific Biosciences社製などの1分子シーケンサーなどを使用できるがこれに限定されない。次世代シーケンサーで得られたリード情報を、例えばヒトゲノム全長配列や、miRNA配列群、あるいは目的のmiRNA変異体の配列にアライメントし、そのリード数を算出することでmiRNA量を定量し比較することができる。
【0036】
アライメントにはBWAやbowtie、bowtie2などを使用できるがこれに限定されない。アライメントを目的のmiRNA変異体の配列に対して完全一致で実施した場合、miRNA変異体と同一の配列を持つリードが定量でき、そのリード数をもって変異特異的濃度とすることができる。一方、野生型の配列群にミスマッチを許容してアライメントし、変異を抽出することで変異特異的濃度を算出することもできる。その場合、参照配列からの配列変動の有無をアライメント情報から抽出する方法として、bcftoolsを使用した変異情報格納ファイルの出力やLoFreqやREDIToolsのような変異出力プログラムを使用できるがこれに限定されない。
【0037】
検体間の比較の際は、アライメントされた全リード数をTMM法やRPKM正規化法などで規格化し、比較することができる。解析には単にリード数や規格化値を比較し有意差検定を行う手法や、DESeqやEdgeRなどのトランスクリプトーム解析用プラットフォーム、あるいはEZR(Easy R)やJMP(登録商標)などの医療統計用ソフトウェア、あるいはフィッシャーの判別分析、マハラノビス距離による非線形判別分析、ロジスティック回帰分析、ニューラルネットワーク、ランダムフォレストなどの機械学習などを用いて判別式を作成する方法が利用できるが、以上の手法に限定されない。
【0038】
がんと非がんを識別する際に、濃度の閾値などの識別基準を決定し、使用してもよい。例えば、閾値は検査の目的に合わせて選択、変更され得る。例えば、がん罹患者の見逃しを防ぐために偽陰性率をなるべく下げたい場合や、確定的な診断をするために偽陽性率を下げたい場合などで設定が変わることが想定される。あるいは、ROC(受信者動作特性試験、receiver operating characteristic)曲線から決定することもできる。ROC曲線は、X軸に(1-特異度)、Y軸に感度をプロットするもので、理想的な検査(感度100%、特異度100%)では左上隅に位置することになる。ROC曲線の下の面積(area under the curve, AUC)によって検査の定量テストの有用性を評価でき、一般的にAUC0.7以上である程度の性能があると判断される。ROC曲線から決定される最適な閾値として、(感度+特異度)を最大にする閾値を選択するYouden Indexを用いる場合や、ROC曲線の左上隅からの距離(={(1-感度)2+(1-特異度)2})が最小になる閾値を選択する最小距離法があるが、これらに限定されない。
【0039】
第4の実施形態によれば、変異特異的な濃度を比較することで汎用性を改善することが可能である。このようなマーカーの利用により、検体間やデータセット間で生じ得るmiRNA抽出効率の差や濃度の増減の傾向の差、検体間でのバラツキによる影響を受けにくく、そのために安定した性能が得られ得る。
【0040】
例
以下に、行った実験とそれにより得られたデータを示す。実験の大まかな進行は、
図6A及び
図6Bに示す作業手続に従って行った。即ち、
図6Aに示すように、まず、DNA上の多様性(SNP)およびNGS解析エラーとRNA編集を見分けるための情報を収集し(S61)、RNA編集に由来する変異を出力する手法の選定と出力及び比較をし(S62)、NGSデータの解析(SNPsが発生しうるポジションを除く、エラー有無目視確認)を行い、その後、RNA編集発生個所候補を選別し(S63)、単独マーカーの変異特異的な濃度でAUC0.7で識別可能なマーカーを選択した(S64)。各作業の詳細は、
図6Bに記載される通りである。
【0041】
図6Bを参照しながら、これらの具体的な工程について説明する。まず、作業1として、RNA編集と混在し得る配列を見分けるために、まず、NGSデータ上の変異要因、即ち、DNA上の多様性とNGS解析エラーについて確認した。DNA上の多様性については、SNPsの存在をデーターベース情報から、17,048種類のmiRNA上に存在しうるSNPsリストを出力して識別した。NGS解析エラーについては、NGS解析時付与した分子バーコード(UMI)を利用した解析エラーを識別し、それらの情報を排除した(S61)。次に、作業2として、RNA編集に由来する変異を識別する手法の選定と出力し、比較した。変異抽出手法として、すい臓がん患者由来の24検体について、AがGへ変異、CがUに変異する、A→G/C→U変異抽出率が最多となる手法を選択した。このとき、すべての変異が均等に生じた場合の理論的変異発生率は0.167である。PCRエラーについて未処理の場合と、一部を排除した場合について、bcftools、LoFreq、REDIToolsについて出力した。それぞれの結果は、bcftools、LoFreq、REDIToolの未処理の場合及び一部を排除した場合で、0.148及び0.160、0.210及び0.210、0.197及び0.231であった。この結果から、REDIToolsを用い、一部を排除した場合が、A→G/C→U変異抽出率が最多であることが分かり、この条件のデータを以下の解析に使用した(S62)。続く作業3では、NGSデータの解析を行った。具体的には、SNPsが発生しうる部位(ポジション)を除く、エラーの有無を目視で確認した。確認した結果から、RNA編集発生個所候補を選別した(S63)。次に、作業4として、単独マーカーの変異特異的な濃度でAUC値が良好なmiRNAを選択した。例えば、AUC0.7付近、又はAUC0.7以上を基準として識別可能なマーカーを選択した。このようにして選択したmiRNAを以下の実験に使用した(S64)。同様に、乳がん患者由来の24検体についても解析した。
【0042】
(例1)
非がん検体と乳がん・膵臓がん被験者検体の血清中miRNA変異特異的濃度を指標とした識別系を構築するために、有効なマーカーの選別を行った過程について以下に示す。独立して2回のNGS解析を行い、それぞれの検体数は非がん検体血清24検体と乳がん24検体、膵臓がん24検体であった(表3 NGS_DATA1、NGS_DATA2)。
【0043】
【0044】
血清中の核酸配列を次世代シーケンサー解析により決定した。すべての血清300μLから、miRNeasy Serum/Plasma Kit(Qiagen)を用いてmiRNAを抽出した。抽出したmiRNAはQIAseq miRNA Library Kit(Qiagen)およびQIAseq miRNA NGS 96 Index IL(Qiagen)を用いてプロトコルに従って実施した。使用したインデックスにはUMIと呼ばれる分子バーコード技術が用いられており、ライブラリ調整に伴う遺伝子増幅によるPCR Duplicateや増幅バイアスの影響を排除でき、より正確な配列決定が可能である。
【0045】
NGS解析はNovaSeq6000(シングルエンド、75bp)を用いて実施し、全検体について1000万リード以上のデータを得た。UMI-tools(Genome Res. (2017) 27(3):491-499. PMID: 28100584)のextractコマンドを利用し、UMIを除去したFASTQファイルを得た。さらにリード品質によるQCを実施した。miRNAの種類に応じた配列の分類として、miRBase Release 22に対するアノテーションをミスマッチ許容パラメーター2として実施した。
【0046】
また、miRBase Release 22の配列を野生型配列とした。得られたアライメント情報からUMI-toolsのdedupコマンドを利用してPCR duplicateを排除したアライメント情報(samファイル)を出力した。このsamファイルに格納された各miRNAにアライメントされたリード数情報を、検体間の比較ができるようTMM値に変換し、変異体も含む各着目miRNAの濃度として出力した。
【0047】
また、samファイルから、REDIToolsを用いて変異候補を抽出した。得られた変異候補からAからGおよびCからTへの変異候補のみを選別し、変異の部位と併せて変異の頻度情報を得た。変異体も含む各着目miRNAのTMM値に得られた頻度情報を乗じて、変異特異的濃度とした。非がん検体と乳がん・膵臓がん検体を識別可能なマーカーを選別するために、各検体の種別(がん/健常者)と得られた変異候補それぞれの変異特異濃度を用いてROC曲線を作成し、それぞれのAUC値を算出し表4に記載した。表4に示した20個の候補マーカーのうち、表2に示す8個のマーカー、即ち、配列番号1~配列番号8が、AUC値0.7以上を示したことから、単独マーカーで乳がん・膵臓がん識別に利用できることが示された。また、配列番号9~13は、AUC値0.6以上であり、利用可能性が示唆される。
【0048】
【0049】
(例2~例9)
表4に示したマーカーを組み合わせることで、乳がん・膵臓がんをより効率的に識別できるかどうかを検討するために、ロジスティック回帰分析を利用した判別式を作成し性能を評価した。表3に示したNGS_DATA1の検体を2分割して学習用又はテスト用検体とした(表5)。
【0050】
【0051】
L1正則化を用いたロジスティック回帰分析の結果、8個のマーカーのうち係数が0となったマーカーを除く4種類のマーカーを用いることで、テスト用検体の識別性能がAUC0.802となり、単独で使用した場合よりも高い識別性能を示した(例2、
図7)。閾値を0.5とした場合、感度96%、特異度75%、陽性的中率88%となり、がん識別検査に使用できうる高性能であることが示された。L2正則化を用いたロジスティック回帰分析で8個全てのマーカーを用いた場合、テスト用検体の識別性能がAUC0.813となり、単独で使用した場合よりも高い識別性能を示した(例3、
図8)。閾値を0.5とした場合、感度92%、特異度75%、陽性的中率88%となり、同様の優れた結果が得られた。
【0052】
なお実施例では参考性能を示すための閾値として0.5を利用している。L2正則化を用いたロジスティック回帰分析で表4のマーカー1番~4番のみを用いた場合(例4、
図9)、5番~8番のみを用いた場合(例5、
図10)も、同様に高い識別性能、それぞれAUC0.760及びAUC0.816、単独で使用した場合よりも高い識別性能を示した(
図9及び10)。また、閾値を0.5とした場合、感度75%及び96%、特異度75%及び67%、陽性的中率86%及び85%となり、を示したことから、これらのマーカーは組み合わせることでより高い識別性能を持つことが示された。
【0053】
一方、単独で識別性能を示さなかった表4の9番~13番(例6及び例7、
図11及び
図12)の場合には、AUC値はそれぞれ0.653及び0.660であり、上記の例には及ばなかった。14番~20番(例8及例9び、
図13及び
図14)を用いた場合、AUC値はそれぞれ0.523及び0.533と低く、となりほとんど識別性能を示さなかった。
【0054】
以上の結果から、表2に示すマーカーがより有用なマーカーであることが示された。
【0055】
(例10~例17)
miRNA濃度を用いた一般的ながん罹患者識別系では、変異特異的な濃度には着目せず、多様性を持つmiRNA全体の濃度として変異を含むmiRNA濃度を用いている。本系で示す変異特異的濃度を用いる利点を確認するために、データセット間での再現性評価を実施した。異なる時期に異なる装置(NovaSeq6000ではなくNextSeq500を利用、他の手法は同一)を用いて取得したデータセット(表3 NGS_DATA2)に判別式を適用できるかどうかを検証するために、学習用データをNGS_DATA1、テスト用データをNGS_DATA2として同様の検証を行った(表6)。なお、変異特異的な濃度を利用する有効性を評価するために、同一miRNAの変異体も含む全濃度(TMM値)を利用して同様の学習とテストを行った。
【0056】
【0057】
表4のマーカー1~8番を用いL1正則化を用いたロジスティック回帰分析を行ったところ、変異特異的な濃度を用いた場合にはAUC値が0.778と高い値を示した(例10、
図15A)。一方で、変異体も含む全濃度を用いた場合には、判別式からの出力値の大小が学習用データとテスト用データとで逆転し、AUC値0.145と識別性能を示さないことが示唆された(例11、
図15B)。
【0058】
同様の傾向はL2正則化を用いたロジスティック回帰分析でも確認された。変異特異的な濃度を用いた場合にはAUC値が0.734と高い値を示した(例12、
図16A)。一方で、変異体も含む全濃度を用いた場合には、判別式からの出力値の大小が学習用データとテスト用データとで逆転し、AUC値0.294と低く、識別性能は示さないことが示唆された(例13、
図16B)。
【0059】
表4のマーカー9~13番を用いL1正則化を用いたロジスティック回帰分析を行ったところ、変異特異的な濃度を用いた場合でAUC値が0.249であり(例14、
図17A)、一方で、変異体も含む全濃度を用いた場合でもAUC値0.321(例15、
図17B)と共に識別性能が低かった。
【0060】
同マーカー9~13番についてのL2正則化を用いたロジスティック回帰分析でも同様の結果が確認された。変異特異的な濃度を用いた場合にはAUC値が0.266(例16、
図18A)、全濃度を用いた場合もAUC値0.306(例17、
図18B)と識別性能は低かった。
【0061】
以上のような実施形態によって、検出性能の安定した、検体の特徴を識別する方法及びmiRNAがんマーカーセットを提供された。
【0062】
更なる実施形態として、以下のような方法も提供され得る。
・検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、
変異特異的な濃度を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、
得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に、当該検体ががん検体であるのか、非がん検体であるのかを判定することを含む、がん罹患者と健常者とを識別する方法。
・被験者に由来する検体に含まれる少なくとも1種類のmiRNAの変異特異的な濃度を測定することと、
変異特異的な濃度を補正し、補正された変異特異的な濃度を取得することと、
得られた補正された変異特異的濃度の増減を指標に被験者ががんを有する可能性、又は発症する危険性について判定することを含む、がん罹患者と健常者とを識別する方法。
【0063】
ここでは、何れも核酸についてのDNA配列として記載した。上述した通り、配列番号1~20で記載された配列において、「T」は「U」と読み替えることが可能であり、それによりそれぞれ示される何れも核酸も何れかの本実施形態に従う範囲に含まれるものである。しかしながら、この段落には参考のために、「T」を「U」として表す配列群を記載する;
17_hsa-miR-199a-5p_C-U 配列番号21(配列番号1に対応)
CCCAGUGUUC AGACUAUCUG UUC 23;
9_hsa-miR-1260b_A-G 配列番号22(配列番号2に対応)
AUCCCACCGC UGCCACCAU 19;
18_hsa-miR-146b-5p_A-G 配列番号23(配列番号3に対応)
UGAGAACUGA AUUCCAUGGG CUG 23;
9_hsa-miR-33b-5p_C-U 配列番号24(配列番号4に対応)
GUGCAUUGUU GUUGCAUUGC 20;
20_hsa-miR-15b-5p_A-G 配列番号25(配列番号5に対応)
UAGCAGCACA UCAUGGUUUG CA 22;
10_hsa-miR-92b-3p_C-U 配列番号26(配列番号6に対応)
UAUUGCACUU GUCCCGGCCU CC 22;
12_hsa-miR-106a-5p_C-U 配列番号27(配列番号7に対応)
AAAAGUGCUU AUAGUGCAGG UAG 23;
11_hsa-miR-98-5p_A-G 配列番号28(配列番号8に対応)
UGAGGUAGUA GGUUGUAUUG UU 22;
13_hsa-miR-130a-3p_A-G 配列番号29(配列番号9に対応)
CAGUGCAAUG UUGAAAGGGC AU 22;
11_hsa-miR-26a-5p_C-U 配列番号30(配列番号10に対応)
UUCAAGUAAU UCAGGAUAGG CU 22;
16_hsa-let-7d-5p_C-U 配列番号31(配列番号11に対応)
AGAGGUAGUA GGUUGUAUAG UU 22;
17_hsa-let-7g-5p_A-G 配列番号32(配列番号12に対応)
UGAGGUAGUA GUUUGUGCAG UU 22;
9_hsa-miR-501-3p_C-U 配列番号33(配列番号13に対応)
AAUGCACCUG GGCAAGGAUU CU 22;
7_hsa-miR-335-3p_A-G 配列番号34(配列番号14に対応)
UUUUUCGUUA UUGCUCCUGA CC 22;
16_hsa-miR-320e_A-G 配列番号35(配列番号15に対応)
AAAGCUGGGU UGAGAGGG 18;
6_hsa-miR-1827_C-U 配列番号36(配列番号16に対応)
UGAGGUAGUA GAUUGAAU 18;
10_hsa-miR-1273h-3p_C-U 配列番号37(配列番号17に対応)
CUGCAGACUU GACCUCCCAG GC 22;
10_hsa-miR-200a-3p_C-U 配列番号38(配列番号18に対応)
UAACACUGUU UGGUAACGAU GU 22;
1_hsa-miR-99a-5p_A-G 配列番号39(配列番号19に対応)
GACCCGUAGA UCCGAUCUUG UG 22;
17_hsa-miR-4510_A-G 配列番号40(配列番号20に対応)
UGAGGGAGUA GGAUGUGUGG UU 22。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【配列表】