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特開2024-130297ハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法、ハロゲン化無金属フタロシアニン、着色剤、及びバイオプラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130297
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法、ハロゲン化無金属フタロシアニン、着色剤、及びバイオプラスチック
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20240920BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20240920BHJP
   C09B 47/30 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 5/3417 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07D487/22
C09B67/20 B
C09B67/20 G
C09B47/30
C08L101/00
C08K5/3417
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039943
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】野上 敦
【テーマコード(参考)】
4C050
4J002
【Fターム(参考)】
4C050PA14
4J002AA001
4J002EU026
4J002FD096
(57)【要約】
【課題】鮮明な青色や緑色の色調を示すハロゲン化無金属フタロシアニンの簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合し、ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガンを脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニンを得る工程を有し、ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて4以下である場合には、酸成分が発煙硫酸又は90質量%以上の濃硫酸であり、ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が4超である場合には、酸成分が発煙硫酸であるハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合し、前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガンを脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニンを得る工程を有し、
前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて4以下である場合には、前記酸成分が発煙硫酸又は90質量%以上の濃硫酸であり、
前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が4超である場合には、前記酸成分が発煙硫酸であるハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンと前記酸成分を5℃以下の温度で混合する請求項1に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンをワイラー法によって得る工程をさらに有する請求項1に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化マンガンフタロシアニン中のハロゲン原子が、塩素原子及び臭素原子の少なくともいずれかである請求項1~3のいずれか一項に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法によって得られるハロゲン化無金属フタロシアニン。
【請求項6】
請求項5に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンを含む着色剤。
【請求項7】
バイオプラスチック材料と、請求項6に記載の着色剤と、を含有するバイオプラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法、ハロゲン化無金属フタロシアニン、着色剤、及びバイオプラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶カラーディスプレイ等の情報表示機器やインクジェットインキ等の情報記録用材料をはじめとする新たな用途のみならず、樹脂用着色剤、繊維用着色剤、製紙用着色剤、筆記具用着色剤、塗料、コーティング剤、及び各種印刷インキ等の様々な場面で数多くの染料や顔料等の色材が使用されている。色材に対しては、被着色物に対する適性だけでなく、用途に応じて色調、着色力、鮮明性、透明性、隠ぺい力、耐候性、耐溶剤性、耐薬品性、流動性、及び分散性等の特性を示すことが要求されている。なかでも、各種の耐性が要求される用途では顔料が用いられることが多い。
【0003】
一般的に使用されているフタロシアニン顔料には、金属が含まれていることが多い。一部の用途では、その構造中に特定元素を含む化合物の使用を控える動きがある。例えば、銅(Cu)は水道法、水質汚濁防止法、及び環境基本法等で規制値が設定されており、将来的には業界団体等による規制も懸念されている。
【0004】
従来の顔料をそのまま用いる場合には、例えば、顔料の使用量を削減したり、複数の顔料を混合して使用したりすることが考えられる。また、フタロシアニン顔料の場合には中心金属を変更する等の対応策もある。そして、近年、顔料中の金属を削減するための技術が求められている。例えば、ハロゲン化銅フタロシアニンのクルードを発煙硫酸で処理して、遊離銅の含有量を一定以下に低減したハロゲン化銅フタロシアニン顔料を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4584547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ハロゲン化金属フタロシアニンの構造中の金属を除去して、青色や緑色の色調を示す実質的に無金属のハロゲン化フタロシアニン(ハロゲン化無金属フタロシアニン)を簡易な操作で製造する方法はこれまでに知られていなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、鮮明な青色や緑色の色調を示すハロゲン化無金属フタロシアニンの簡便な製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この製造方法によって製造されるハロゲン化無金属フタロシアニン、並びにこのハロゲン化無金属フタロシアニンを用いた着色剤及びバイオプラスチックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法が提供される。
[1]ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合し、前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガンを脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニンを得る工程を有し、前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて4以下である場合には、前記酸成分が発煙硫酸又は90質量%以上の濃硫酸であり、前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が4超である場合には、前記酸成分が発煙硫酸であるハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
[2]前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンと前記酸成分を5℃以下の温度で混合する前記[1]に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
[3]前記ハロゲン化マンガンフタロシアニンをワイラー法によって得る工程をさらに有する前記[1]又は[2]に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
[4]前記ハロゲン化マンガンフタロシアニン中のハロゲン原子が、塩素原子及び臭素原子の少なくともいずれかである前記[1]~[3]のいずれかに記載のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示すハロゲン化無金属フタロシアニン、着色剤、及びバイオプラスチックが提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法によって得られるハロゲン化無金属フタロシアニン。
[6]前記[5]に記載のハロゲン化無金属フタロシアニンを含む着色剤。
[7]バイオプラスチック材料と、前記[6]に記載の着色剤と、を含有するバイオプラスチック。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鮮明な青色や緑色の色調を示すハロゲン化無金属フタロシアニンの簡便な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、この製造方法によって製造されるハロゲン化無金属フタロシアニン、並びにこのハロゲン化無金属フタロシアニンを用いた着色剤及びバイオプラスチックを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ハロゲン化無金属フタロシアニン及びその製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のハロゲン化無金属フタロシアニンの製造方法の一実施形態は、ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合し、ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガンを脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニンを得る工程(脱金属工程)を有する。ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて4以下である場合には、酸成分は発煙硫酸又は90質量%以上の濃硫酸である。また、ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が4超である場合には、酸成分は発煙硫酸である。そして、本発明のハロゲン化無金属フタロシアニンの一実施形態は、上記の製造方法によって得られるものである。
【0012】
(定義)
一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて16以下であるハロゲン化フタロシアニンのことを「ポリハロゲノフタロシアニン」とも記す。同様に、一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて16以下であるハロゲン化マンガンフタロシアニン及びハロゲン化無金属フタロシアニンのことを、それぞれ「ポリハロゲノマンガンフタロシアニン」及び「ポリハロゲノ無金属フタロシアニン」とも記す。「ハロゲノ」、「ブロモ」、及び「クロロ」の前にカッコ書きで表記された数値は、一分子中の「ハロゲン基」、「臭素(Br)基」、及び「塩素(Cl)基」の平均置換数をそれぞれ示す。一方、「ハロゲノ」、「ブロモ」、及び「クロロ」の前にハイフンを介して付された数値は、置換位置をそれぞれ示す。また、本明細書における「無金属」とは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により対象物を分析した場合に、マンガン等の金属を含有することが実質的に測定されないことを意味する。
【0013】
(脱金属工程)
脱金属工程では、ハロゲン化マンガンフタロシアニン(ポリ(1~16)ハロゲノマンガンフタロシアニン)と酸成分を混合する。これにより、ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガン(Mn)を脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニン(ポリ(1~16)ハロゲノ無金属フタロシアニン)を得ることができる。
【0014】
ハロゲン化マンガンフタロシアニンのハロゲン基平均置換数によって、脱金属するのに要する酸成分の種類や濃度が相違する。このため、ハロゲン化マンガンフタロシアニンのハロゲン基平均置換数に応じて、用いる酸成分の種類等を適宜選択する必要がある。具体的には、ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が0を超えて4以下である場合には、発煙硫酸又は90質量%以上の濃硫酸を酸成分として用いる。一方、ハロゲン化マンガンフタロシアニンの一分子当たりのハロゲン基平均置換数が4超である場合には、発煙硫酸を酸成分として用いる。このように、ハロゲン化マンガンフタロシアニンのハロゲン基平均置換数に応じて酸成分を選択して用いることで、ハロゲン化マンガンフタロシアニンから効率的にマンガンを脱離させて、ハロゲン化無金属フタロシアニンを得ることができる。
【0015】
濃硫酸としては、90質量%以上の濃硫酸、好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上の濃硫酸を用いる。濃硫酸の濃度の上限は特に限定されず、100質量%濃硫酸を用いてもよい。
【0016】
発煙硫酸としては、三酸化硫黄(SO)の濃度が、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上のものを用いる。以下、三酸化硫黄の濃度がX質量%の発煙硫酸のことを「X質量%発煙硫酸」又は「X%発煙硫酸」とも記す。
【0017】
脱金属工程では、ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合し、ハロゲン化マンガンフタロシアニンを酸成分に溶解させて酸溶液を得る。ハロゲン化マンガンフタロシアニン中のハロゲン原子は、好ましくは、塩素原子(Cl)及び臭素原子(Br)の少なくともいずれかである。酸溶液の温度は、5℃以下とすることが好ましく、3℃以下とすることがさらに好ましく、0℃以下とすることが特に好ましい。酸溶液の温度を上記の範囲内とすることで、副反応の発生を抑制し、ハロゲン化無金属フタロシアニンの収率を向上させることができる。なお、ハロゲン化マンガンフタロシアニンと酸成分を混合する時間は特に限定されず、例えば0.1~5時間の範囲で適宜設定すればよい。
【0018】
(ハロゲン化マンガンフタロシアニンの製造工程)
原料として用いるハロゲン化マンガンフタロシアニンは、例えば、ワイラー法(尿素法)によって製造することができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、ハロゲン化マンガンフタロシアニンをワイラー法によって得る工程をさらに有することが好ましい。ニトリル法でハロゲン化マンガンフタロシアニンを製造することもできるが、ワイラー法に比してコスト面で不利である。また、ニトリル法で無金属フタロシアニンを製造した後、ハロゲン化してハロゲン化無金属フタロシアニンを得ることもできるが、コスト面で不利である。
【0019】
ワイラー法(尿素法)は、ハロゲン化フタル酸類、尿素、金属塩、及び触媒を、必要に応じて用いられる鮮明化助剤及び撹拌助剤等とともに、高沸点の有機溶媒の存在下又は非存在下で高温に加熱及び撹拌して、ハロゲン化マンガンフタロシアニンを製造する方法である。高沸点の有機溶媒としては、従来ワイラー法で用いられる反応溶媒をいずれも用いることができる。触媒としては、四塩化チタン、オルトチタン酸テトラブチル、及びオルトチタン酸テトラプロピル等を用いることができる。工業的には、例えば、松本製薬工業社製の商品名「オルガチックスTA-10」等を用いることができる。
【0020】
(析出工程)
ハロゲン化マンガンフタロシアニンを酸成分に溶解させた後、例えば、脱金属して生成した成分(ハロゲン化無金属フタロシアニン)を析出させることが好ましい。ハロゲン化無金属フタロシアニンを析出させる方法としては、例えば、以下に示す(1)~(3)の方法等を挙げることができる。
(1)酸溶液中に含水酸を添加し、酸濃度を低下させてハロゲン化無金属フタロシアニンを析出させる方法
(2)酸溶液に水分を吸収させ、酸濃度を低下させてハロゲン化無金属フタロシアニンを析出させる方法
(3)酸溶液を、激しく撹拌若しくは噴流している大量の水又は氷水に注入し、ハロゲン化無金属フタロシアニンを瞬時に析出させる方法
【0021】
上記(3)の方法で用いる水又は氷水は、有機溶剤を含有していてもよい。上記(1)~(3)の方法のなかでも(3)の方法が好ましい。特に、アスピレーターやエジェクター等の減圧吸引装置で水を高速で噴流させるとともに、その減圧作用で酸溶液を吸引して噴流する水と接触させて希釈し、粒子状のハロゲン化無金属フタロシアニン(顔料粒子)を析出させることが好ましい。また、ディゾルバー及びホモミキサー等の高速ミキサーや高効率撹拌機を備えた混合槽中で激しく撹拌した水中に酸溶液を滴下等して注入し、酸溶液を水中に拡散させて粒子状のハロゲン化無金属フタロシアニン(顔料粒子)を析出させることも好ましい。
【0022】
(顔料化処理工程)
析出させたハロゲン化無金属フタロシアニンを顔料化処理(ピグメンテーション)することが好ましい。具体的には、不純物を除去して純度を高める、粒子を微細にする、及び顔料の結晶を整えることが好ましい。より具体的には、疎水性有機溶剤や親水性有機溶剤を含有する水又は氷水中に酸溶液を注入してハロゲン化無金属フタロシアニンを析出させるとともに、微細化及び結晶調整する方法がある。また、析出物を含む処理水に疎水性有機溶剤や親水性有機溶剤を添加して処理する方法もある。
【0023】
析出工程に引き続き、キシロール等の有機溶剤中、又はキシロールエマルジョンの状態で加熱処理して結晶化を進行させる、いわゆるソルベントフィニッシュ法等の公知の顔料化処理を実施することが好ましい。さらに、必要に応じて、界面活性剤、ロジン、各種樹脂類、高分子分散剤、及び顔料誘導体の少なくとも一種を併用してもよい。
【0024】
顔料は、析出工程や析出工程後の工程で微細化することができる。析出工程後の工程で顔料を微細化する方法としては、水溶性塩、必要に応じて水溶性有機溶剤とともにニーダー等の混練機中で混練及び摩砕して微細化する、いわゆる乾式磨砕法やソルトミリング法等の公知の顔料微細化方法等を挙げることができる。
【0025】
顔料粒子が微細すぎる場合には、ニーダー等を用いて有機溶剤とともに混錬し、結晶成長させながら整えることが好ましい。顔料の一次粒子の平均粒子径は、5~130nmであることが好ましく、10~110nmであることがさらに好ましい。
【0026】
ハロゲン化無金属フタロシアニンを構成する置換基であるハロゲン基は、好ましくは塩素(Cl)原子及び臭素(Br)原子の少なくともいずれかである。一分子中のハロゲン基平均置換数が少ない場合には、青色を呈する傾向にある。そして、ハロゲン基平均置換数の増加に伴って緑味の青色~緑色を呈する傾向にある。なお、臭素(Br)基の数が多いほど、黄味の緑色を呈する傾向にある。
【0027】
ハロゲン化無金属フタロシアニンは、無金属フタロシアニン顔料をハロゲン化することによっても製造することができるが、コスト面で不利であるとともに、ハロゲン基の平均置換数等を制御することが困難である。このため、ハロゲン化マンガンフタロシアニンからマンガンを脱離させてハロゲン化無金属フタロシアニンを得る本実施形態の製造方法は、コスト面及び得られるハロゲン化無金属フタロシアニンの構造を厳密に制御する観点から好ましい。
【0028】
ハロゲン基の種類及び平均置換数をより厳密に制御する観点からは、所望とするハロゲン基の種類及び置換数のハロゲン化フタル酸無水物、ハロゲン化フタルイミド、ハロゲン化フタロジニトリル類、又はハロゲン化アミノイミノイソインドレニン類を原料とし、これらを縮合反応させて得たハロゲン化マンガンフタロシアニンを脱金属することが好ましい。また、ハロゲン基が臭素(Br)原子のみであるブロモ化マンガンフタロシアニンは、例えば、トリブロモフタル酸無水物(又はテトラブロモフタル酸無水物)、トリブロモフタルイミド(又はテトラブロモフタルイミド)、トリブロモフタロジニトリル類(又はテトラブロモフタロジニトリル類)、又はトリブロモアミノイミノイソインドレニン類(又はテトラブロモアミノイミノイソインドレニン類)を原料とし、これらを金属塩の存在下で縮合反応させて得ることができる。
【0029】
本実施形態の製造方法によって製造される、青色顔料及び緑色顔料等として有用なハロゲン化無金属フタロシアニンは、耐溶剤性や耐熱性等の堅牢性、及び鮮明性に優れている。具体的には、本実施形態のハロゲン化無金属フタロシアニンは、染料、レーキ顔料、及びモノアゾ顔料等に比して、堅牢性に格段に優れている。本実施形態のハロゲン化無金属フタロシアニンは、銅フタロシアニンや亜鉛フタロシアニンと同等以上の鮮明性を示すとともに、コバルト、ニッケル、及び鉄等の金属を含むフタロシアニンに比して鮮明性に優れている。以上より、本実施形態のハロゲン化無金属フタロシアニンは、例えば、バイオプラスチックを着色するための色材や、カラーフィルターの画素用顔料として特に有用である。
【0030】
本実施形態のハロゲン化無金属フタロシアニンを用いれば、青色又は緑色の顔料分散組成物を調製することができる。顔料分散組成物は、例えば、ハロゲン化無金属フタロシアニンを金属せっけん等と混合粉砕して得ることができる。また、ハロゲン化無金属フタロシアニンを分散剤とともに樹脂中に混練分散させることによっても、顔料分散組成物を得ることができる。さらに、ハロゲン化無金属フタロシアニンと、各種の液媒体、重合性オリゴマーや重合性単量体等の重合性液状媒体、可塑剤、オリゴマー、及び合成樹脂等の樹脂媒体と、必要に応じて用いられる重合体系分散剤や低分子分散助剤等の分散助剤等とを混合することによっても、顔料分散組成物を得ることができる。
【0031】
<着色剤>
本発明の着色剤の一実施形態は、上述のハロゲン化無金属フタロシアニンを含むものである。本実施形態の着色剤は、例えば、希釈媒体、塗膜形成材料として用いられる熱可塑性重合体、反応性重合体、反応性オリゴマー、重合性単量体、及び架橋剤等の成分と、前述の顔料分散組成物とを混合して得ることができる。さらに、必要に応じて、硬化触媒や重合触媒を含有させてもよい。本実施形態の着色剤や前述の顔料分散組成物を用いて物品を着色することで、各種の着色物品を製造することができる。また、バイオプラスチック材料と、上述の着色剤とを混合することによって、着色されたバイオプラスチックとすることもできる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0033】
<ハロゲン化無金属フタロシアニンの製造>
(実施例1)
[1](16)クロロマンガンフタロシアニンの合成
撹拌装置、逆流冷却器、及び温度計を備えた反応容器と加熱装置を準備した。ニトロベンゼン144.0部、及び塩化マンガン四水和物31.2部を反応容器に入れ、撹拌しながら160℃に加熱して8時間脱水した。放冷後、テトラクロロ無水フタル酸114.4部、及び尿素120.1部を添加し、120℃になるまで徐々に昇温した。オルトチタン酸テトラブチル22.7部を添加して175℃まで昇温させた後、4時間撹拌して反応を継続した。反応終了直前の温度は190℃であった。反応媒体(ニトロベンゼン)を除去した後、希酸及び希アルカリで順次処理して不純物を除去し、黄褐色の粗製顔料(A1)101.8部を得た。収率は91.0%であった。
【0034】
赤外分光法(IR)、蛍光X線分析法(XRF)、及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)によって構造分析を行い、得られた粗製顔料(A1)が(16)クロロマンガンフタロシアニンであることを確認した。対象物の金属(マンガン)含有量及びハロゲン含有量は、マイクロ波分解装置を使用して対象物を強酸で分解した後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定した。以下、他の実施例についても同様の方法で分析した。
【0035】
[2](16)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
撹拌装置、空冷管、及び温度計を備えた反応容器と冷却装置を準備した。20%発煙硫酸200部を反応容器に入れ、氷冷下で撹拌しながら粗製顔料(A1)10部を発熱しないようにゆっくり添加し、0℃で1時間撹拌した。撹拌した氷水2,000部に反応生成物を滴下した後、生成した析出物をろ過及び水洗した。次いで、キシレン-エマルジョン法により顔料化して、鮮明な緑色の(16)クロロ無金属フタロシアニン(A2)7.7部を得た。
【0036】
(実施例2)
[1]ブロモ(12)クロロマンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、4-ブロモ無水フタル酸22.7部及びテトラクロロ無水フタル酸85.8部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、緑味黒色の粗製顔料(B1)92.3部を得た。収率は87.1%であった。
【0037】
[2]ブロモ(12)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(B1)を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な緑色のブロモ(12)クロロ無金属フタロシアニン(B2)8.7部を得た。
【0038】
(実施例3)
[1](2)ブロモ(8)クロロマンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、4-ブロモ無水フタル酸45.4部及びテトラクロロ無水フタル酸57.2部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、緑味黒色の粗製顔料(C1)77.6部を得た。収率は77.5%であった。
【0039】
[2](2)ブロモ(8)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(C1)を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な青味緑色の(2)ブロモ(8)クロロ無金属フタロシアニン(C2)9.1部を得た。
【0040】
(実施例4)
[1](4)ブロモ(12)クロロマンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、テトラブロモ無水フタル酸46.4部及びテトラクロロ無水フタル酸85.8部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、緑味黒色の粗製顔料(D1)116.0部を得た。収率は89.5%であった。
【0041】
[2](4)ブロモ(12)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(D1)を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な黄味緑色の(4)ブロモ(12)クロロ無金属フタロシアニン(D2)7.3部を得た。粗製顔料(D1)には、(16)ブロモマンガンフタロシアニンが少量含まれていた。しかし、脱金属して得た(4)ブロモ(12)クロロ無金属フタロシアニン(D2)には、(16)ブロモ無金属フタロシアニンは含まれていなかった。ハロゲンの配置が立体的に窮屈であったため、脱金属の際に分解したものと推測される。
【0042】
(実施例5)
[1](12.8)クロロマンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、(3.2)クロロ無水フタル酸103.0部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、灰褐色の粗製顔料(E1)93.2部を得た。粗製顔料収率は92.4%であった。
【0043】
[2](12.8)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(E1)を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な青味緑色の(12.8)クロロ無金属フタロシアニン(E2)8.6部を得た。
【0044】
(実施例6)
[1](4)クロロマンガンフタロシアニン顔料の合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、4-クロロ無水フタル酸73.0部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、緑味黒色の粗製顔料(F1)60.4部を得た。収率は85.6%であった。
【0045】
[2](4)クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(F1)を用いるとともに、20%発煙硫酸に代えて95%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な緑味青色の(4)クロロ無金属フタロシアニン(F2)7.9部を得た。
【0046】
(実施例7)
[1]クロロマンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて、4-クロロ無水フタル酸18.3部及び無水フタル酸44.4部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、緑味黒色の粗製顔料(G1)48.2部を得た。収率は80.1%であった。
【0047】
[2]クロロマンガンフタロシアニンの脱金属
粗製顔料(A1)に代えて粗製顔料(G1)を用いるとともに、20%発煙硫酸に代えて95%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして、鮮明な青色のクロロ無金属フタロシアニン(G2)7.6部を得た。
【0048】
(参考例1)
[1]無置換マンガンフタロシアニンの合成
テトラクロロ無水フタル酸に代えて無水フタル酸59.2部を用いるとともに、オルトチタン酸テトラブチルに代えてモリブデン酸アンモニウム0.1部を用いたこと以外は、前述の実施例1[1]と同様にして、くすんだ緑色の粗製顔料(H1)47.7部を得た。収率は84.0%であった。
【0049】
[2]無置換マンガンフタロシアニンの脱金属
撹拌槽に5%硫酸500部及び粗製顔料(H1)10部を入れた。80℃に加熱して1時間撹拌した後、ろ過及び水洗した。次いで、ブチルセロソルブ-エマルジョン法により顔料化して、鮮明な青色の無金属フタロシアニン(H2)9.3部を得た。
【0050】
(比較例1)
粗製顔料(H1)に代えて粗製顔料(A1)を用いたこと以外は、前述の参考例1[2]と同様にして脱金属しようとしたが、黄褐色の粗製顔料(A1)のまま変化しなかった。
【0051】
(比較例2)
20%発煙硫酸に代えて96%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして粗製顔料(A1)を脱金属しようとした。分析の結果、得られた生成物のマンガン濃度は粗製顔料(A1)のマンガン濃度と同一であり、脱金属することができなかった。
【0052】
(比較例3)
20%発煙硫酸に代えて98%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして粗製顔料(A1)を脱金属しようとした。分析の結果、得られた生成物のマンガン濃度は粗製顔料(A1)のマンガン濃度の約5割であり、完全に脱金属することができなかった。
【0053】
(比較例4)
20%発煙硫酸に代えて100%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例1[2]と同様にして粗製顔料(A1)を脱金属しようとした。分析の結果、得られた生成物のマンガン濃度は粗製顔料(A1)のマンガン濃度の約4割であり、完全に脱金属することができなかった。
【0054】
(比較例5)
95%硫酸に代えて85%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例6[2]と同様にして粗製顔料(F1)を脱金属しようとした。分析の結果、得られた生成物のマンガン濃度は粗製顔料(F1)のマンガン濃度と同一であり、脱金属することができなかった。
【0055】
(比較例6)
95%硫酸に代えて85%硫酸200部を用いたこと以外は、前述の実施例7[2]と同様にして粗製顔料(G1)を脱金属しようとした。分析の結果、得られた生成物のマンガン濃度は粗製顔料(G1)のマンガン濃度の約7割であり、完全に脱金属することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法は、例えば、バイオプラスチックを着色するための色材や、カラーフィルターの画素用顔料として好適なハロゲン化無金属フタロシアニンを簡易に製造する方法として有用である。