(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130300
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】メタン製造方法及びメタン製造装置
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20240920BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240920BHJP
C12M 1/107 20060101ALI20240920BHJP
C12M 1/02 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C12P5/02
C12M1/00 D
C12M1/107
C12M1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039947
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】松林 未理
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA07
4B029BB01
4B029DB01
4B029DF04
4B029DF10
4B029FA12
4B029GA08
4B029GB10
4B064AB03
4B064BA01
4B064CA01
4B064CC30
4B064CD23
4B064CD30
4B064DA16
4B064DA20
(57)【要約】
【課題】メタネーション反応における水素の溶解を促進でき、これにより効率良くメタンを生成しながら、装置の小型化及び簡略化が可能なメタン製造方法及びメタン製造装置を提供する。
【解決手段】微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させるメタン製造方法において、メタネーション反応が進行する反応槽1内の液相中へ水素の溶解を促進させるための、塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給するメタン製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させるメタン製造方法において、
前記メタネーション反応が進行する反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための、塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給することを特徴とするメタン製造方法。
【請求項2】
前記反応槽内に、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、前記反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給することを特徴とする請求項1に記載のメタン製造方法。
【請求項3】
前記反応槽内の前記液相中の前記浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、前記反応槽が備える撹拌機のトルク、粘度又は前記反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを測定し、測定結果に基づいて、前記水素溶解促進剤の前記反応槽内への供給量を制御することを特徴とする請求項1に記載のメタン製造方法。
【請求項4】
前記反応槽内の前記液相の界面張力を測定し、前記界面張力の測定結果が設定値を超えるときに、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、前記反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給することを特徴とする請求項1に記載のメタン製造方法。
【請求項5】
二酸化炭素の濃度に対して水素濃度が3~5倍となるように、前記反応槽内に前記水素溶解促進剤を供給することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のメタン製造方法。
【請求項6】
前記液相の20℃における界面張力が60mN/m以下となるように、前記反応槽内に前記水素溶解促進剤を供給することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のメタン製造方法。
【請求項7】
微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させる反応槽と、
前記反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給する供給手段と
を備えることを特徴とするメタン製造装置。
【請求項8】
前記反応槽内の液相中の前記浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、前記反応槽が備える撹拌機のトルク、粘度又は前記反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記水素溶解促進剤の供給量を制御する制御手段と
を更に備える特徴とする請求項7に記載のメタン製造装置。
【請求項9】
有機物のメタン発酵を行い、前記反応槽内へ供給するバイオガスと消化汚泥とを得るメタン発酵槽と、
前記反応槽の生物処理液を固液分離して分離汚泥と分離液とを得る固液分離装置と、
前記固液分離装置と前記反応槽との間に接続され、前記分離液を前記反応槽内へ供給可能な分離液供給ラインと、
前記メタン発酵槽と前記反応槽との間に接続され、前記メタン発酵槽で発生する消化汚泥を前記反応槽内へ供給可能な消化汚泥供給ラインと
を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載のメタン製造装置。
【請求項10】
前記制御手段が、
前記反応槽内の液相の界面張力が設定値を超え、前記反応槽内の前記浮遊性固形物の濃度が設定値を下回る場合に、有機物のメタン発酵により得られる消化汚泥を前記反応槽内に供給し、前記反応槽内の電気伝導度が設定値を下回るときに、前記反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離液を前記反応槽内へ供給するように前記水素溶解促進剤の供給を制御することを含む請求項8に記載のメタン製造装置。
【請求項11】
前記反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、有機物のメタン発酵により得られる消化汚泥又は前記反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離液の少なくともいずれかを前記反応槽内に供給し、
前記消化汚泥又は前記分離液の少なくともいずれかを供給後も前記処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、界面活性剤又は塩類の少なくともいずれかを含む前記水素溶解促進剤を前記反応槽内へ更に供給するように、前記水素溶解促進剤の供給を制御する制御手段を備えることを含む請求項7に記載のメタン製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と水素を反応させてメタンを生成するメタン製造方法及びメタン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素CO2を回収し有効利用する技術として、メタン化触媒又は微生物触媒を利用したメタネーション反応により、二酸化炭素CO2と水素H2を反応させ、メタン(CH4)を生成させるメタンの製造方法が知られている。
【0003】
特許文献1(特表2022-506756号公報)は、二酸化炭素含有排出物及び/または廃ガスを使用して生物起源メタンを生成する方法に関し、バイオリアクターの反応条件やその調節に関することが記載されている。請求項2には、窒素源及び塩を供給する適切な液体培地の中にメタン生成微生物を保持することが記載されている。請求項5には、メタン生成微生物の培養物が、適切な量の適切な酸及び/もしくは塩基を添加することによって、pH10以下に維持されるように連続的に安定化及び/もしくは調節されることが記載されている。請求項8には、適切な液体培地が適度な塩分環境であり、塩化物アニオンの濃度が12mmol/L~300mmol/Lの範囲であること及び/またはNaClの濃度が0.4g/L~12g/Lの範囲であることが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、空気-水系では気泡の分散と合一が容易に起こり、空気-電解質溶解系では、気泡の合一が起こりにくいことや、気泡径は気液間の界面張力が大きいほど大きくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「新潟大学晶析工学研究室解説資料(撹拌槽工学)」、撹拌槽工学IV[物質移動編]、6.3 総括容量係数、第3~5頁、令和3年2月25日改訂、インターネット<URL:http://crystallization.eng.niigata-u.ac.jp/%E6%92%B9%E6%8B%8C%E6%A7%BD%E5%B7%A5%E5%AD%A6%E2%91%A3[%E7%89%A9%E8%B3%AA%E7%A7%BB%E5%8B%95]210225.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メタン化触媒又は微生物触媒を利用したメタネーション反応を用いた技術には以下の課題がある。メタネーション反応を行うために反応槽内には水素(H2)ガスを吹き込むが、水素ガスは液体に溶けにくい物質であるため、水素ガスの液相への溶解がメタネーション反応の律速となる。これにより、メタネーション反応槽の容量が増大し、建設コストや設置面積が大きくなる。一方、水素ガスの液槽への溶解が十分に進まないと、生成ガス中のメタン比率の低下及び水素比率の増加を招くため、生成されたガスの利用が難しくなる。
【0008】
一般的に気泡径を小さくすることで、ガスの液相への溶解速度が大きくなることが知られている。これを利用して、水素ガスを機械的にマイクロバブル、ファインバブル化させ、水素の溶解効率を上げる方法も考えられる。しかしながら、必要動力が大きくなり、装置を保守管理するための費用もかかるという問題がある。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、メタネーション反応における水素の溶解を促進でき、これにより効率良くメタンを生成しながら、装置の小型化及び簡略化が可能なメタン製造方法及びメタン製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタネーション反応が進行する反応槽内に所定の水素溶解促進剤を添加することが有効であるとの知見を得た。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示は一側面において、微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させるメタン製造方法において、メタネーション反応が進行する反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための、塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給するメタン製造方法である。
【0012】
本発明の実施の形態に係るメタン製造方法は一実施態様において、反応槽内に、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給する。
【0013】
本発明の実施の形態に係るメタン製造方法は別の一実施態様において、反応槽内の液相中の浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、反応槽が備える撹拌機のトルク、粘度又は反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを測定し、測定結果に基づいて、水素溶解促進剤の反応槽内への供給量を制御する。
【0014】
本発明の実施の形態に係るメタン製造方法は更に別の一実施態様において、反応槽内の液相の界面張力を測定し、界面張力の測定結果が設定値を超えるときに、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給する。
【0015】
本発明の実施の形態に係るメタン製造方法は更に別の一実施態様において、二酸化炭素の濃度に対して水素濃度が3~5倍となるように、反応槽内に水素溶解促進剤を供給する。
【0016】
本発明の実施の形態に係るメタン製造方法は更に別の一実施態様において、液相の20℃における界面張力が60mN/m以下となるように、反応槽内に水素溶解促進剤を供給する。
【0017】
本発明の実施の形態に係るメタン製造装置は一実施態様において、微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させる反応槽と、反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給する供給手段とを備えるメタン製造装置である。
【0018】
本発明の実施の形態に係るメタン製造装置は別の一実施態様において、反応槽内の液相中の浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、反応槽が備える撹拌機のトルク、粘度又は反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを検出する検出手段と、検出手段の検出結果に基づいて水素溶解促進剤の供給量を制御する制御手段とを更に備える。
【0019】
本発明の実施の形態に係るメタン製造装置は更に別の一実施態様において、有機物のメタン発酵を行い、反応槽内へ供給するバイオガスと消化汚泥とを得るメタン発酵槽と、反応槽の生物処理液を固液分離して分離汚泥と分離液とを得る固液分離装置と、固液分離装置と反応槽との間に接続され、分離液を反応槽内へ供給可能な分離液供給ラインと、メタン発酵槽と反応槽との間に接続され、メタン発酵槽で発生する消化汚泥を反応槽内へ供給可能な消化汚泥供給ラインとを備える。
【0020】
本発明の実施の形態に係るメタン製造装置は更に別の一実施態様において、制御手段が、反応槽内の液相の界面張力が設定値を超え、反応槽内の浮遊性固形物の濃度が設定値を下回る場合に、有機物のメタン発酵により得られる消化汚泥を反応槽内に供給し、反応槽内の電気伝導度が設定値を下回るときに、反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離液を反応槽内へ供給するように水素溶解促進剤の供給を制御する。
【0021】
本発明の実施の形態に係るメタン製造装置は更に別の一実施態様において、反応槽で得られる処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、有機物のメタン発酵により得られる消化汚泥又は反応槽の生物処理液を固液分離して得られる分離液の少なくともいずれかを反応槽内に供給し、消化汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給後も処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、界面活性剤又は塩類の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を反応槽内へ更に供給するように、水素溶解促進剤の供給を制御する制御手段を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、メタネーション反応における水素の溶解を促進でき、これにより効率良くメタンを生成しながら、装置の小型化及び簡略化が可能なメタン製造方法及びメタン製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るメタン製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係るメタン製造装置の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係るメタン製造方法の処理フローの一例を表すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係るメタン製造方法の処理フローの別の一例を表すフローチャートである。
【
図5】実施例の試験装置の構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0025】
(第1の実施の形態)
-メタン製造装置-
本発明の第1の実施の形態に係るメタン製造装置は、
図1に示すように、微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させる反応槽1と、反応槽1内の液相中へ水素の溶解を促進させるための水素溶解促進剤を供給する供給手段2とを備える。
【0026】
反応槽1は、液相部1aと、液相部1aの上方に形成された気相部1bとを備える。液相部1aには、反応槽1内の液相としてメタネーション反応に寄与する微生物を保持した汚泥又は有機性廃水等が収容される。気相部1bは、液相部1aにおけるガス発生量の増減に伴う液相部1aの液面の上昇を許容可能な程度の容積を備え、且つ液相部1aに保持される微生物等の反応槽1外への流出を抑制できる程度に十分な容積を備えている。
【0027】
反応槽1内の液相部1aに収容される汚泥又は有機性廃水の性状としては、以下に限定されるものではないが、例えば、pH:6.5~8.5、蒸発残留物(TS)濃度:3000~40000mg/L、浮遊性固形物(SS)濃度:500~35000mg/L、塩類の濃度を示す総溶解固形物(TDS):500~20000mg/L、粘度50~2000mPa・sの汚泥又は有機性廃水が好適に利用できる。ここでTS、SS、TDSは、下水試験方法(日本下水道協会発行、下水試験方法)に準拠した方法で測定した値を示す。pHは20℃の汚泥を一般的に入手可能なpH計で測定した値を示す。粘度は20℃1気圧で、B型粘度計を用いて測定した値を示す。
【0028】
液相部1a内に保持されるメタネーション反応に寄与する微生物としては、例えば、水素資化性のメタン生成菌が好適に利用できる。メタン生成菌は担体に付着させて液相中を流動させるようにしてもよいし、液相中に浮遊性固形物として浮遊させてもよい。中でも担体の表面上にメタン生成菌を付着固定させた結合固定化担体を用いることで、液相部1a内にメタン生成菌を高濃度に保持できるため、安定した生物処理が行える。結合固定化担体に加えて浮遊性固形物又はグラニュール汚泥等を添加してもよい。
【0029】
担体の材質は、メタン生成菌等の微生物が付着する素材であればよく、例えば、活性炭、アルミナ、ガラス、プラスチック、ウレタン等が挙げられる。以下に制限されないが、反応槽1内に収容される担体の充填率を10~60vol%とし、更には15~50vol%とすることにより、メタネーション反応をより効率良く行うことができる。
【0030】
反応槽1は、反応槽1内に水素を供給するための配管及びコンプレッサ等から構成される第1の原料ガス供給部11と、反応槽1内に二酸化炭素を供給するための配管及びコンプレッサ等から構成される第2の原料ガス供給部12とが接続されている。第2の原料ガス供給部12には、二酸化炭素の代わりに、有機物のメタン発酵処理等によって得られるバイオガス(二酸化炭素約40%、メタン60%)や焼却設備で排出される二酸化炭素を含む排ガスを供給してもよい。第1の原料ガス供給部11を介して反応槽1内へ供給される水素は再生可能エネルギー等を用いて水を電気分解して作製した水素等を用いてもよい。なお、
図1に示すように、水素及び二酸化炭素は、それぞれ別々に反応槽1へ供給してもよいし、水素と二酸化炭素とを混合後、単一の配管から反応槽1へ一緒に供給してもよい。
【0031】
反応槽1内では、以下の式(1)に従うメタネーション反応が進行し、液相部1aに存在する微生物の存在下で、二酸化炭素と水素とからメタンが生成する。
CO2+4H2→CH4+2H2O ・・・(1)
【0032】
反応槽1内の温度条件は30~80℃とする。反応槽1内では30~35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、或いは50~55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理、60~80℃を至適温度とした超高温メタン発酵処理の中から任意の発酵処理が選択できる。反応槽1の圧力条件は、大気圧下~1.0MPa、好ましくは0.3~0.8MPa程度とし、pHは6~9程度とする。
【0033】
メタネーション反応で得られるメタンを主成分とする処理ガスは反応槽1の上部から排出させる。反応槽1内のガス滞留時間を調整することにより、反応槽1の出口から排出されるメタンを含むガス中のメタン濃度が目標値になるように調整できる。反応槽1の出口から排出される処理ガス中のメタン濃度は、以下に限定されないが、典型的には90%以上であり、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上である。
【0034】
供給手段2は水素溶解促進剤を反応槽1内へ供給する。本実施形態において、水素溶解促進剤とは、反応槽1内の液相の表面張力又は粘度の少なくともいずれかを変化させ、これにより反応槽1内の液相へ供給される水素の平均気泡径を小さくすることが可能な促進剤をいう。液相の表面張力は、界面の片側が気体である液相の界面張力である。よって本実施形態では液相の表面張力を液相の界面張力ともいう。液相の界面張力が小さくなるほど、水素を含む原料ガスの平均気泡径を小さくできるため、原料ガスの液相中への溶解を促進できる。
【0035】
水の20℃での界面張力は72.8mN/m程度である。本実施形態によれば、水素溶解促進剤を反応槽1内に供給することによって、反応槽1内の液相の20℃での界面張力を70mN/m以下、更には65mN/m以下、より更には60mN/m以下に調整できる。このようにして液相の界面張力を低下させることにより、反応槽1内の液相へ供給する水素の平均気泡径を小さくできるため、反応槽1内への水素の溶解が促進できる。
【0036】
液相の界面張力を調整可能な水素溶解促進剤としては、例えば、塩類、界面活性剤等が挙げられる。塩類としては、以下に限定されるものではないが、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル等の金属塩類等を用いることができる。塩類として、海水又は逆浸透(RO)処理で得られるRO濃縮水等も利用できる。中でも、塩類として塩化ナトリウムや海水を用いることが、安価で取り扱い容易な点で好ましい。界面活性剤としては、アルコール系の界面活性剤を用いることが、生物処理に阻害を与えにくい点で好ましい。塩類の他に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、重炭酸等の電解質、或いは一般的に入手可能な消泡剤を水素溶解促進剤として加えてもよい。
【0037】
一般的には、純水に対して塩類を添加すると界面張力が増加する。しかしながら、本実施形態によれば、塩類と界面活性剤との併用、或いは塩類と反応槽1内に存在する微生物やメタン発酵によって得られる消化汚泥に由来する浮遊性固形物との共存により、界面活性作用の相乗効果が得られる。即ち、界面活性剤又は浮遊性固形物との共存の下、反応槽1内への塩類の供給量の増加に伴い、反応槽1内の液相の界面張力を効率良く低下させることができる。
【0038】
反応槽1中の液相の粘度が高いほど、水素を含む原料ガスの平均気泡径が小さくなり、液相への溶解が促進される。水の20℃での粘度は1.00mPa・s程度である。本実施形態によれば、反応槽1内に水素溶解促進剤を供給することにより、反応槽1内の液相の20℃での粘度を50mPa・s以上、好ましくは55mPa・s以上とすることができる。一実施態様では、反応槽1内の液相の20℃での粘度を100~1000mPa・s、更には100~650mPa・s程度に増加させることも可能である。液相の粘度を調整することによっても、反応槽1内の液相へ供給する水素の平均気泡径を小さくでき、メタネーション反応における水素の溶解を促進させることができる。
【0039】
反応槽1中の液相の粘度を高く保つ方法として液相中の粒子状物質又は固形物の濃度を高くする方法があげられる。例えば、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給することで、液相の粘度を高く保つことができる点で好ましい。本実施形態によれば、水素溶解促進剤を反応槽1内に供給し、TS:1000~60000mg/L程度、SS:500~30000mg/L程度に維持することで、メタネーション反応に好適な粘度が維持できる。
【0040】
以上の点を考慮すると、本実施形態において、水素溶解促進剤としては、塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給する。
【0041】
(a)界面活性剤
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも利用できる。界面活性剤は反応槽1内に収容される汚泥又は有機性廃水に対して0.05ppm以上添加することが好ましく、0.1ppm以上添加することが更に好ましく、1ppm以上添加することがより更に好ましい。界面活性剤の添加量の上限は、特に限定されないが、添加しすぎると微生物の活性に影響を及ぼす場合もある。界面活性剤の供給量は、以下に限定されないが、例えば10ppm以下とすることができる。
【0042】
(b)浮遊性固形物
浮遊性固形物としては、SSを含有する物質であれば特に限定されないが、典型的には、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給することが好ましい。水素溶解促進剤として、消化汚泥、分離汚泥、分離液等を利用することにより、資源の有効活用が可能となる上、余剰汚泥の系外への搬出量を低減できる。これら消化汚泥、分離汚泥、分離液には、メタネーション反応における微生物の生育に必要な微量元素も含まれている。そのため、消化汚泥、分離汚泥、分離液を水素溶解促進剤として利用することで、液相中における微生物の生育を促しながらメタネーション反応をより安定的に行うことができる。
【0043】
反応槽1内に供給する消化汚泥の性状としては、以下に限定されないが、例えば、pH:6.5~8.5、TS:3000~40000mg/L、SS:500~35000mg/L、塩類(TDS):500~20000mg/L、粘度:50~2000mPa・sの汚泥が好適に利用できる。消化汚泥は主に反応槽1の粘度向上、塩類濃度向上に寄与する。
【0044】
反応槽1内に供給する分離液の性状としては、以下に限定されないが、例えば、pH:6.5~8.5、SS:100~2000mg/L、塩類(TDS):1000~40000mg/L、粘度:50~200mPa・sの脱水分離液が好適に用いられる。分離液は主に反応槽1の塩類濃度向上に寄与する。分離液の他に、分離汚泥も反応槽1へ供給してもよい。
【0045】
(c)塩類
界面活性剤又は浮遊性固形物に塩類を併用することで、反応槽1内の界面張力をより調整しやすくできる点で好ましい。塩類濃度としては、反応槽1内のTDSが5000mg/L以上、望ましくは10000mg/L以上となるように塩類を供給することが好ましい。その際の液相の電気伝導度としては、7000μS/cm以上、望ましくは14000μS/cm以上となるように調整することが好ましい。
【0046】
なお、上述の水素溶解促進剤は、反応槽1内に供給される二酸化炭素の濃度に対して水素濃度が3~5倍となるように供給されることが好ましい。これにより、装置の小型化を実現しながら、反応槽1内においてメタンの生成効率の高いメタネーション反応を行うことができる。なお、
図1においては、供給手段2が反応槽1の底部に接続される例が示される。供給手段2は反応槽1の上部に接続され、反応槽1の上部から反応槽1内に水素溶解促進剤が供給されてもよいことは勿論である。
【0047】
反応槽1は、反応槽1内の内部状態を検出するための検出手段3を更に備えることが好ましい。検出手段3としては、例えば、反応槽1内の液相中の浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、反応槽1が備える撹拌機4のトルク、粘度又は反応槽1で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを検出するための種々の検出装置が用いられる。
【0048】
検出手段3の具体的構成は限定されない。例えば、浮遊性固形物の濃度は、散乱光測定方式のセンサを用いることにより連続的に測定できる。浮遊性固形物の濃度は、反応槽1内の処理液をサンプリングし、下水試験方法に準じた一般的な測定方法によって測定してもよい。電気伝導度は、反応槽1内の液相中に導電率計を配置することで連続的に測定できる。撹拌機4のトルクは、負荷トルク測定器等のトルク計を接続して測定できる。撹拌機4のトルクは、反応槽1に粘度計が設定されている場合には粘度とトルクとの相関をとっておくことで、粘度及びトルクの同時測定が可能である。また、トルクによる測定以外にも撹拌機の電流値を用いてトルク測定の代替とすることも可能である。処理ガス中の水素濃度は、水素濃度計又はガス検知管等によって測定できる。
【0049】
検出手段3は制御手段5に接続されている。制御手段5は、第1の原料ガス供給部11、第2の原料ガス供給部12及び供給手段2に接続されている。制御手段5は、検出手段3の検出結果に基づいて、第1の原料ガス供給部11による水素の供給量、第2の原料ガス供給部12による二酸化炭素又はバイオガスの供給量、及び供給手段2による水素溶解促進剤の供給量を制御することができる。
【0050】
例えば、検出手段3が、反応槽1内の液相中の浮遊性固形物の濃度を測定する測定装置であるとする。制御手段5は、検出手段3が検出した浮遊性固形物濃度が予め定められた設定値を下回るときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。制御手段5は、検出手段3が検出した浮遊性固形物濃度が設定値以上となった場合には水素溶解促進剤の供給を停止してもよい。浮遊性固形物濃度を調整する場合の水素溶解促進剤としては、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥の少なくともいずれかを反応槽1内に供給することが好ましい。浮遊性固形物濃度の設定値は、反応槽1内でメタネーション反応を安定して行える設定値として、例えば、5000~40000mg/Lの範囲で任意に設定することができ、一実施態様では30000mg/Lとすることができる。
【0051】
検出手段3が、反応槽1内の液相の電気伝導度を測定する導電計であるとする。制御手段5は、検出手段3が検出した電気伝導度が予め定められた設定値を下回るときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。制御手段5は、検出手段3が検出した電気伝導度が設定値以上となった場合には水素溶解促進剤の供給を停止してもよい。電気伝導度を調整する場合の水素溶解促進剤としては、例えば、反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離液、又は界面活性剤と塩類との混合液、又は分離液と界面活性剤との混合液等を反応槽1内に供給することが好ましい。電気伝導度の設定値は、メタネーション反応を安定して行える設定値として例えば、5000~20000μS/cmの範囲で任意に設定することができ、典型的には7000μS/cmとすることができる。
【0052】
検出手段3が、反応槽1が備える撹拌機4のトルクを測定する測定装置であるとする。制御手段5は、検出手段3が検出した撹拌機4のトルクが予め定められた設定値を上回るときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、反応槽1内の液相の粘度を下げるための水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。この際の水素溶解促進剤としては、例えば、界面活性剤でもよいし、浮遊性固形物でもよいし、塩類と界面活性剤の混合液でもよいし、塩類と浮遊性固形物の混合液でもよいし、又はこれらの組み合わせでもよい。撹拌機4のトルクの設定値は、反応槽1の容量等によって異なるが、例えば反応槽1の容量が1m3である場合、メタネーション反応を安定して行える設定値として例えば、0.3~30kgf・mの範囲で任意に設定することができ、典型的には10kgf・mとすることができる。
【0053】
検出手段3が粘度計であるとする。制御手段5は、検出手段3が検出した粘度計が予め定められた設定値を上回るときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、反応槽1内の液相の粘度を下げるための水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。この際の水素溶解促進剤としては、例えば、界面活性剤でもよいし、浮遊性固形物でもよいし、塩類と界面活性剤の混合液でもよいし、塩類と浮遊性固形物の混合液でもよいし、又はこれらの組み合わせでもよい。
【0054】
検出手段3が、反応槽1で得られる処理ガス中の水素濃度を測定する測定装置であるとする。制御手段5は、処理ガス中の水素濃度が予め定められた設定値以上となったときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、水素の液相への溶解を促進させる水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。この際の水素溶解促進剤としては、例えば、界面活性剤でもよいし、浮遊性固形物でもよいし、塩類と界面活性剤の混合液でもよいし、塩類と浮遊性固形物の混合液でもよいし、又はこれらの組み合わせでもよい。
【0055】
制御手段5は、処理ガス中の水素濃度が高い場合には、第1の原料ガス供給部11を制御して、水素の供給量を低減させるような制御を必要に応じて行ってもよい。処理ガス中の水素濃度の設定値は、処理ガスの有効利用の観点等から、例えば、1~10%の範囲で任意に設定することができ、典型的は5%とすることができる。
【0056】
制御手段5は、反応槽1内の液相のTDSが予め定められた設定値を上回るときに、供給手段2へ制御信号を出力する。供給手段2は、制御手段5からの制御信号の出力に基づいて、反応槽1内の液相のTDSを下げるための水素溶解促進剤の供給を開始するか、またはその供給量を増加させるように、水素溶解促進剤の供給を制御する。TDSは、下水試験方法に準じた測定方法でバッチ式で測定してもよいし、TDS(mg/L)=電気伝導度値(μS/cm)÷a(aは1~2の任意の値)の換算式に従って連続的に測定してもよい。
【0057】
制御手段5は、反応槽1の液相の界面張力の測定結果が設定値を超えるときに、有機物のメタン発酵処理で発生する消化汚泥、反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給するように、供給手段2を制御することが好ましい。制御手段5は、反応槽1内の液相の界面張力が70mN/m以下、更には60mN/m以下となるように、反応槽内に水素溶解促進剤を供給することが好ましい。
【0058】
-メタン製造方法-
本発明の第1の実施の形態に係るメタン製造方法は、微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させるメタン製造方法において、メタネーション反応が進行する反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を供給することを含む。
【0059】
本発明の第1の実施の形態に係るメタン製造装置及びメタン製造方法によれば、メタネーション反応が進行する反応槽内の液相中へ水素の溶解を促進させるための水素溶解促進剤が反応槽1内へ供給される。水素溶解促進剤が反応槽1内に供給されることにより、反応槽1内の液相の界面張力又は粘度を下げることができるため、反応槽1内へ供給される水素の平均気泡径を小さくできる。水素の気泡径が小さくなることで、液相中へ溶存する水素の溶存量(体積)が多くなるため、微生物を用いたメタネーション反応により好適な環境を反応槽1内に作り出すことができる。その結果、メタネーション反応における水素の溶解を促進でき、これにより効率良くメタンを生成し、装置の小型化を図ることが可能となる。
【0060】
また、本発明の第1の実施の形態に係るメタン製造装置及びメタン製造方法によれば、水素溶解促進剤を反応槽1内へ供給することによって水素の平均気泡径を小さくすることができるため、マイクロバブル又はナノバブル等を発生させる気泡発生装置等を更に用いる必要がない。よって、気泡発生装置等の付帯設備のメンテナンスのための作業時間も不要で、より簡易な装置を用いて作業効率も良好となる。
【0061】
(第2の実施の形態)
-メタン製造装置-
本発明の第2の実施の形態に係るメタン製造装置は、
図2に示すように、微生物を用いたメタネーション反応により二酸化炭素と水素とを反応させてメタンを生成させる反応槽1と、反応槽1内の液相中へ水素の溶解を促進させるための水素溶解促進剤を供給する供給手段2と、有機物のメタン発酵を行い、反応槽1内へ供給するバイオガスと消化汚泥とを得るメタン発酵槽6と、反応槽1の生物処理液を固液分離して分離汚泥と分離液とを得る固液分離装置7とを備える。
【0062】
固液分離装置7と反応槽1との間には、固液分離装置7で得られる分離液を反応槽1内へ供給可能な分離液供給ライン8が接続されている。メタン発酵槽6と反応槽1との間には、メタン発酵槽6で発生する消化汚泥を反応槽1内へ供給可能な消化汚泥供給ライン9が接続されている。反応槽1には、反応槽1内の液相中の浮遊性固形物の濃度、電気伝導度、反応槽1が備える撹拌機(図示省略)のトルク、粘度又は反応槽1で得られる処理ガス中の水素濃度の少なくともいずれかを検出する検出手段3が接続されている。
【0063】
検出手段3には、検出手段3の検出結果に基づいて水素溶解促進剤の供給量を制御する制御手段5が接続されている。制御手段5は、消化汚泥供給ライン9が備えるポンプP1、分離液供給ライン8が備えるポンプP2及び供給手段2が備えるポンプP3に接続されている。反応槽1内に供給される水素は第1の原料ガス供給部11を介して反応槽1内へ供給される。メタン発酵槽6で得られるバイオガスは、第2の原料ガス供給部12を介して反応槽内へ供給される。
【0064】
反応槽1内には塩類、界面活性剤、又は浮遊性固形物の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤が反応槽1内へ供給される。制御手段5は、例えば、
図3に示すフローに従って、反応槽1内へ供給される水素溶解促進剤の供給を制御できる。
図3に示す手順は操作者が手動で行っても良いし、
図3に示す手順を実行する所定のプログラムを備えた計算機によって実行されてもよい。
【0065】
図3のステップS11において、反応槽1内の液相の界面張力が測定される。界面張力の測定は連続的には行えないため、例えば一般的に知られるWilhelmy法を利用した表面張力測定装置を用いて測定するか、懸滴法を用いて測定する。懸滴法の場合は、遠心分離等の公知の方法によってSS成分を分離し、上澄水を測定する。
【0066】
ステップS12において、界面張力の測定結果が設定値(例えば50mN/m)を上回るか否かが判定される。界面張力の測定結果が設定値以下である場合は処理を終了する。界面張力の測定結果が設定値を上回る場合は、ステップS13へ進む。ステップS13において、反応槽1内のSSの濃度が測定される。SSの濃度の測定結果が設定値(例えば30000mg/L)を下回る場合は、ステップS14へ進む。SSの濃度の測定結果が設定値以上である場合はステップS15へ進む。
【0067】
ステップS14において、
図2の制御手段5は、消化汚泥供給ライン9が備えるポンプP1を稼働させて、反応槽1内のSSが設定値以上となるまで、水素溶解促進剤として消化汚泥を反応槽1内に供給した後、ステップS15へ進む。ステップS15において、反応槽1内の電気伝導度が測定される。電気伝導度の測定結果が設定値(例えば7000μS/cm)よりも下回る場合は、ステップS16へ進む。電気伝導度の測定結果が設定値以上である場合はステップS17へ進む。
【0068】
ステップS16において、
図2の制御手段5は、分離液供給ライン8が備えるポンプP2を稼働させて、反応槽1内の電気伝導度が設定値以上となるまで、水素溶解促進剤として分離液を反応槽1内に供給した後、ステップS17へ進む。ステップS17において、再び、反応槽1内の界面張力が測定され、界面張力の測定結果が設定値を上回るか否かが判定される。界面張力の測定結果が設定値以下である場合は処理を終了する。界面張力の測定結果が設定値を上回る場合は、ステップS18へ進む。
【0069】
ステップS18において、
図2の制御手段5は、供給手段2に接続されたポンプP3を稼働させて、反応槽1内の界面張力が設定値以下となるまで、水素溶解促進剤として、界面活性剤、又は塩類と界面活性剤を含む薬剤を反応槽1内に供給し、処理を終了する。
【0070】
図3に示す制御方法によれば、界面張力が設定値を超える場合に、まず、浮遊性固形物を含む消化汚泥又は分離液が反応槽1内に供給されるため、反応槽1内へ供給する水素の液相への溶解促進を行いながら、メタネーション反応を効率良く進めることができる。消化汚泥又は分離液が反応槽1内への供給後も界面張力が設定値を超えている場合には、界面活性剤、又は塩類と界面活性剤を含む薬剤を供給することで、反応槽1内の液相中への水素の溶解促進を行う。このような手順で水素溶解促進剤を反応槽1内へ供給することにより、反応槽1内のメタン生成菌の活性阻害を抑制しながら、メタネーション反応の原料となる水素を液相中へより多く溶解させることができる。なお、
図3の例では、ステップS13~S14の後にステップS15~S16を行う例を示しているが、ステップS15~S16を先に行って、ステップS13~S14をその後に行ってもよい。また、S13~S14とS15~S16との間に、ステップS12又は17に示すような界面張力と設定値とを比較する手順を更に行っても良い。
【0071】
制御手段5は、処理ガス中の水素濃度に基づく水素溶解促進剤の供給制御を行っても良い。例えば、制御手段5は、処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、有機物のメタン発酵により得られる消化汚泥又は反応槽1の生物処理液を固液分離して得られる分離液の少なくともいずれかを反応槽1内に供給する。そして、一定期間が経過した後に、消化汚泥又は分離液の少なくともいずれかを供給後も処理ガス中の水素濃度が設定値を超える場合に、水素溶解促進剤として界面活性剤又は塩類の少なくともいずれかを含む水素溶解促進剤を反応槽内へ更に供給するように、水素溶解促進剤の供給を制御するようにしてもよい。
【0072】
以下に限定されないが、制御手段5は、例えば、
図4に示すフローに従って、反応槽1内へ供給される水素溶解促進剤の供給を制御することもできる。
【0073】
図4のステップS21において、処理ガス中の水素濃度が測定される。ステップS22において、処理ガス中の水素濃度の測定結果が設定値(例えば5%)を上回るか否かが判定される。処理ガス中の水素濃度が設定値以下である場合は処理を終了する。界面張力の測定結果が設定値を上回る場合は、ステップS23へ進む。ステップS23において、反応槽1内のSSの濃度が測定される。SSの濃度の測定結果が設定値(例えば30000mg/L)を下回る場合は、ステップS24へ進む。SSの濃度の測定結果が設定値以上である場合はステップS25へ進む。
【0074】
ステップS24において、
図2の制御手段5は、消化汚泥供給ライン9が備えるポンプP1を稼働させて、反応槽1内のSSが設定値以上となるまで、水素溶解促進剤として消化汚泥を反応槽1内に供給した後、ステップS25へ進む。ステップS25において、反応槽1内の電気伝導度が測定される。電気伝導度の測定結果が設定値(例えば7000μS/cm)よりも下回る場合は、ステップS26へ進む。電気伝導度の測定結果が設定値以上である場合はステップS27へ進む。
【0075】
ステップS26において、
図2の制御手段5は、分離液供給ライン8が備えるポンプP2を稼働させて、反応槽1内の電気伝導度が設定値以上となるまで、水素溶解促進剤として分離液を反応槽1内に供給した後、ステップS27へ進む。ステップS27において、再び、処理ガス中の水素濃度が測定され、処理ガス中の水素濃度の測定結果が設定値を上回るか否かが判定される。処理ガス中の水素濃度の測定結果が設定値以下である場合は処理を終了する。処理ガス中の水素濃度の測定結果が設定値を上回る場合は、ステップS28へ進む。
【0076】
ステップS28において、
図2の制御手段5は、供給手段2に接続されたポンプP3を稼働させて、処理ガス中の水素濃度が設定値以下となるまで、水素溶解促進剤として、界面活性剤、又は塩類と界面活性剤を含む薬剤を反応槽1内に供給し、処理を終了する。
【0077】
図4に示す制御方法によれば、処理ガス中の水素濃度を超える場合に、まず、浮遊性固形物を含む消化汚泥又は分離液が反応槽1内に供給されるため、反応槽1内へ供給する水素の液相への溶解促進を行いながら、メタネーション反応を効率良く進めることができる。消化汚泥又は分離液が反応槽1内への供給後も処理ガス中の水素濃度が設定値を超えている場合には、界面活性剤、又は塩類と界面活性剤を含む薬剤を供給することで、反応槽1内の液相中への水素の溶解促進を行う。このような水素溶解促進剤の供給制御を行うことにより、反応槽1内への薬剤への供給をできるだけ少なく、反応槽1内のメタン生成菌の活性阻害を抑制しながら、メタネーション反応の原料となる水素を液相中へより多く溶解させることができる。なお、
図4の例では、ステップS23~S24の後にステップS25~S26を行う例を示しているが、ステップS25~S26を先に行って、ステップS23~S24をその後に行ってもよい。また、S23~S24とS25~S26との間に、ステップS22又は27に示すような水素濃度と設定値とを比較する手順を更に行っても良い。
【0078】
-メタン製造方法-
第2の実施の形態に係るメタン製造方法は、
図2に示すメタン製造装置を用いて行うことができる。即ち、第2の実施の形態に係るメタン製造方法は、有機物のメタン発酵を行い、反応槽1内へ供給するバイオガスと消化汚泥とを得るメタン発酵処理と、微生物を用いたメタネーション反応によりバイオガスと水素とを反応させてメタンを生成させる処理と、反応槽1内の液相中へ水素の溶解を促進させるための水素溶解促進剤を供給する処理と、反応槽1の生物処理液を固液分離して分離汚泥と分離液とを得る固液分離処理とを含む。
【0079】
第2の実施の形態に係るメタン製造装置及びメタン製造方法によれば、反応槽1内の液相の性状に応じて、制御手段5がポンプP1、P2を介して、水素溶解促進剤として消化汚泥又は分離液を反応槽1内へ供給できるため、製造装置内で発生する汚泥又は分離液を有効活用できる。
【0080】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したがこの開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0081】
図1及び
図2の反応槽1の後段には、処理ガス中の二酸化炭素とメタンとを分離する分離膜を備えた分離装置(不図示)を備えていてもよい。反応槽1の後段に分離装置が配置されることにより、処理ガス中から二酸化炭素を分離膜によって選択的に除去できるため、小型な装置で、処理ガス中のメタン濃度を高めることができる。
【0082】
反応槽1の液相部1a内には、1又は複数の仕切り板等を設け、液相部1aで発生する気体の通り道を制御するように構成されることが好ましい。これにより、メタネーション反応をより効率良く進めることができる。液相部1a内には、液相部1aで発生する気体を収集するガス収集部(不図示)を配置してもよい。更には、反応槽1内の圧力を測定する圧力測定計を配置し、反応槽1内の圧力が負圧となる場合には、反応槽1中に不活性ガスを注入して反応槽1内の圧力を調整するようにしてもよい。
【実施例0083】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0084】
図5に示す試験水槽を用いてメタン生成処理を行った。試験水槽は耐熱容器を使用し、全容積2L、液相:純水、水温35℃、1L、気相:水素100%、圧力0.5MPa、1Lとした。水素溶解促進剤の添加物として、塩類:塩化ナトリウム試薬、界面活性剤:ノニオン界面活性剤、メタン発酵汚泥:下水汚泥の消化槽汚泥、分離液:下水処理場の消化槽汚泥の脱水分離液を使用し、試験1は水素溶解促進剤を添加しなかった。試験2~21は、純水に上記の添加物を添加して混合した。
【0085】
試験水槽に蓋をし、気相を水素ガスで置換した。ガスの出口側の弁を閉じ、所定の圧力(0.5MPa)になるように水素ガスを投入した。液相を300rpmで撹拌し、圧力の変化を測定し、圧力の変化から水素の溶解速度(物質移動容量係数KLa)を求めた。結果を表1に示す。
【0086】
表1において、界面張力は、試験水槽内の溶液をサンプリングし、遠心分離機に入れて5分間3000rpmで処理を行ってSS成分を分離した後の上澄水を、20℃の条件で懸滴法を用いて測定することにより評価した。懸滴法における液体密度による補正は0.998g/cm3とした。粘度は試験水槽内の溶液をサンプリングして20℃1気圧においてB型粘度計等の粘度計を用いて測定した。圧力は圧力計を試験水槽内の気相の位置に設置することにより測定した。物質移動容量係数(KLa)は気相の圧力変化から水相の溶存水素濃度を算出し、下水試験方法記載の総括酸素移動容量係数(非定常法)を水素の場合に置き換えることにより測定した。水素の溶解効果の評価は、試験1は純水の物質移動容量係数に基づいて判断し、0.020[1/h]以下の場合を「×」、0.020超0.021以下を「△」、0.021超0.026以下を「〇」0.026超を「◎」として評価した。
【0087】
【0088】
表1に示すように、水素溶解促進剤を添加しない試験1と塩化ナトリウム試薬を添加した試験2~3では水素溶解速度は有意には向上しなったが、界面活性剤、メタン発酵汚泥、脱水分離液を加えた試験4~21は水素溶解速度が増加した。また、試験10~15に示す様に、塩化ナトリウム試薬を、界面活性剤、メタン発酵汚泥、脱水分離液のいずれかと組み合わせることで、水素溶解速度は大きく上昇した。実際のメタネーション反応槽の液相の場合、微生物由来のSSや界面活性剤を含むため、NaCl単独添加でも水素溶解速度上昇効果があることが推定される。
【0089】
また、試験16~17に示す脱水分離液とメタン発酵汚泥の組み合わせ、試験18~19に示す界面活性剤とメタン発酵汚泥の組み合わせ、試験20~21に示す界面活性剤と脱水分離液の組み合わせでも水素溶解速度の上昇がみられ、2種類以上の水素溶解促進剤の組み合わせが水素溶解速度の向上に有効であることが示された。