(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130303
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電力変換装置及び制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039953
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】谷野 光平
(72)【発明者】
【氏名】長野 昌明
(72)【発明者】
【氏名】鶴口 祐規
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智紀
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS01
5H730BB26
5H730BB66
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE03
5H730EE07
5H730FD41
5H730XX15
5H730XX25
5H730XX35
(57)【要約】
【課題】単一の電流検出回路を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出する。
【解決手段】電流検出回路11は、対象素子に接続された第1の回路部分に挿入された第1の抵抗R1と、第1の抵抗R1に並列に接続された第2の回路部分であって、互いに直列に接続された第2の抵抗R2及び第1のダイオードD1を含む第2の回路部分とを備える。制御回路12は、対象素子に流れる電流I1に応じて第1の抵抗R1の両端にわたって生じる電圧をモニタリングする。制御回路12は、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1を超えたか否かに基づいて、第1の機能を用いてスイッチング素子Q1,Q2を制御する。制御回路12は、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1より大きい第2のしきい値Vth2を超えたか否かに基づいて、第2の機能を用いてスイッチング素子Q1,Q2を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのスイッチング素子を備える電力変換装置のための制御装置であって、
前記電力変換装置に含まれる対象素子に流れる電流を検出する電流検出回路と、
前記対象素子に流れる電流に基づいて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御する制御回路とを備え、
前記電流検出回路は、
前記対象素子に接続された第1の回路部分に挿入された第1の抵抗と、
前記第1の抵抗に並列に接続された第2の回路部分であって、互いに直列に接続された第2の抵抗及び第1のダイオードを含む第2の回路部分とを備え、
前記制御回路は、
前記対象素子に流れる電流に応じて前記第1の抵抗の両端にわたって生じる電圧をモニタリングし、
前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が第1のしきい値を超えたか否かに基づいて、第1の機能を用いて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御し、
前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第1のしきい値より大きい第2のしきい値を超えたか否かに基づいて、第2の機能を用いて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御する、
制御装置。
【請求項2】
前記第1のしきい値は前記第1のダイオードの順方向電圧降下よりも小さく、
前記第2のしきい値は前記第1のダイオードの順方向電圧降下よりも大きい、
請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記第2の抵抗の抵抗値は前記第1の抵抗の抵抗値よりも小さい、
請求項1記載の制御装置。
【請求項4】
前記電流検出回路は、前記第1のダイオードに逆並列に接続された第2のダイオードをさらに備える、
請求項1記載の制御装置。
【請求項5】
前記対象素子は第1のキャパシタであり、
前記制御装置は、前記第1の回路部分に挿入された第2のキャパシタであって、前記第1の抵抗に直列に接続された第2のキャパシタをさらに備え、
前記第2のキャパシタの容量は前記第1のキャパシタの容量よりも小さい、
請求項1記載の制御装置。
【請求項6】
前記電力変換装置はトランスを含み、
前記第1のキャパシタは前記トランスの一次巻線に接続される、
請求項5記載の制御装置。
【請求項7】
前記第1の機能は、前記少なくとも1つのスイッチング素子のうちの第1のスイッチング素子のオン期間中に、前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第1のしきい値より大きな値から前記第1のしきい値より小さな値に変化したとき、前記第1のスイッチング素子をオンからオフに切り換えることを含む、
請求項6記載の制御装置。
【請求項8】
前記第2の機能は、前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第2のしきい値より大きくなったとき、前記対象素子に流れる電流を停止又は低減するように前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御することを含む、
請求項1記載の制御装置。
【請求項9】
少なくとも1つのスイッチング素子と、
請求項1~8のうちの1つに記載の制御装置とを備えた、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源から負荷に電力を供給するため、少なくとも1つのスイッチング素子を備えたさまざまな電力変換装置が使用される。また、スイッチング素子を駆動するドライバ集積回路などのような、電力変換装置のための制御装置が提供される。
【0003】
例えば、特許文献1は、共振インダクタと、共振キャパシタと、トランスフォーマの磁化インダクタンスとによって形成された共振タンクを備えた共振変換器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換装置は、その内部に流れる電流に基づいて行われるさまざまな機能、例えば、逆流電流防止、ゼロ電流スイッチング、過電流保護などの機能を有する。逆流電流防止及びゼロ電流スイッチングを行うためには、0Aの近傍の大きさ、例えば数mA~数Aの大きさを有する電流を検出する必要がある。また、過電流保護を行うためには、電力変換装置に発生する、典型的には数十Aの大きさを有する過電流を検出する必要がある。
【0006】
一般に、電力変換装置のための制御装置は、単一の電流検出回路を用いて、電力変換装置に含まれる1つの対象素子又は1つの区間に流れる電流を検出する。しかしながら、数十Aの過電流を検出するための電流検出回路は、0Aの近傍の電流を高精度に検出することは困難である。また、0Aの近傍の電流を検出するための電流検出回路を用いて数十Aの過電流を検出しようとすると、回路が破損するおそれがある。このように、従来、単一の電流検出回路を用いて、数mAから数十Aの広い範囲にわたる電流値を検出することは困難であった。
【0007】
本開示の目的は、電力変換装置のための制御装置であって、単一の電流検出回路を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる制御装置を提供することにある。また、本開示の目的は、そのような制御回路を備えた電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置は、
少なくとも1つのスイッチング素子を備える電力変換装置のための制御装置であって、
前記電力変換装置に含まれる対象素子に流れる電流を検出する電流検出回路と、
前記対象素子に流れる電流に基づいて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御する制御回路とを備え、
前記電流検出回路は、
前記対象素子に接続された第1の回路部分に挿入された第1の抵抗と、
前記第1の抵抗に並列に接続された第2の回路部分であって、互いに直列に接続された第2の抵抗及び第1のダイオードを含む第2の回路部分とを備え、
前記制御回路は、
前記対象素子に流れる電流に応じて前記第1の抵抗の両端にわたって生じる電圧をモニタリングし、
前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が第1のしきい値を超えたか否かに基づいて、第1の機能を用いて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御し、
前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第1のしきい値より大きい第2のしきい値を超えたか否かに基づいて、第2の機能を用いて前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御する。
【0009】
これにより、単一の電流検出回路を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる。
【0010】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記第1のしきい値は前記第1のダイオードの順方向電圧降下よりも小さく、
前記第2のしきい値は前記第1のダイオードの順方向電圧降下よりも大きい。
【0011】
これにより、比較的に狭い電圧範囲内において、小電流を検出するための第1のしきい値を設定し、大電流を検出するための第2のしきい値を設定することができる。
【0012】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記第2の抵抗の抵抗値は前記第1の抵抗の抵抗値よりも小さい。
【0013】
これにより、対象素子に流れる電流が増大しても、第1の抵抗の両端にわたる電圧をあまり増大させないことが可能になる。
【0014】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記電流検出回路は、前記第1のダイオードに逆並列に接続された第2のダイオードをさらに備える。
【0015】
これにより、対象素子に流れる正及び負の向きの電流を検出することができる。
【0016】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記対象素子は第1のキャパシタであり、
前記制御装置は、前記第1の回路部分に挿入された第2のキャパシタであって、前記第1の抵抗に直列に接続された第2のキャパシタをさらに備え、
前記第2のキャパシタの容量は前記第1のキャパシタの容量よりも小さい。
【0017】
これにより、対象素子に流れる電流に対して電流検出回路から与える影響を小さくすることができる。
【0018】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記電力変換装置はトランスを含み、
前記第1のキャパシタは前記トランスの一次巻線に接続される。
【0019】
これにより、LLC共振コンバータに流れる電流を検出することができる。
【0020】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記第1の機能は、前記少なくとも1つのスイッチング素子のうちの第1のスイッチング素子のオン期間中に、前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第1のしきい値より大きな値から前記第1のしきい値より小さな値に変化したとき、前記第1のスイッチング素子をオンからオフに切り換えることを含む。
【0021】
これにより、LLC共振コンバータの共振外れを防止することができる。
【0022】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置によれば、
前記第2の機能は、前記第1の抵抗の両端にわたる電圧が前記第2のしきい値より大きくなったとき、前記対象素子に流れる電流を停止又は低減するように前記少なくとも1つのスイッチング素子を制御することを含む。
【0023】
これにより、電力変換装置を過電流から保護することができる。
【0024】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、
少なくとも1つのスイッチング素子と、
前記制御装置とを備える。
【0025】
これにより、単一の電流検出回路を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示の一側面に係る電力変換装置のための制御装置は、単一の電流検出回路を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る電力変換装置2の構成例を模式的に示す回路図である。
【
図2】
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第1の状態を示す図である。
【
図3】
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第2の状態を示す図である。
【
図4】
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第3の状態を示す図である。
【
図5】
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第4の状態を示す図である。
【
図6】
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第5の状態を示す図である。
【
図7】
図1の電力変換装置2が正常に共振しているときにスイッチング素子Q1に流れる電流の波形を示すグラフである。
【
図8】
図1の電力変換装置2が共振状態から外れているときにスイッチング素子Q1に流れる電流の波形を示すグラフである。
【
図9】
図1の電流検出回路11によって検出される検出電圧Vdet及び電流検出回路11の抵抗値Rcomの特性を示すグラフである。
【
図10】
図1の共振制御回路22の動作を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の一側面に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。各図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0029】
[適用例]
図1は、実施形態に係る電力変換装置2の構成例を模式的に示す回路図である。電力変換装置2は、直流電源装置1から供給された入力電圧を所望の出力電圧に変換して負荷装置3に供給する。
【0030】
電力変換装置2は、少なくとも、少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2と、制御装置10とを備える。電力変換装置2は、例えば、後述するようにトランスT1及びキャパシタC1を備えるLLC共振コンバータであってもよい。
【0031】
制御装置10は、少なくとも、電流検出回路11及び制御回路12を備える。
【0032】
電流検出回路11は、電力変換装置2に含まれる対象素子に流れる電流I1を検出する。
図1の例では、対象素子はキャパシタC1である。電流検出回路11は、対象素子に接続された第1の回路部分に挿入された抵抗R1と、抵抗R1に並列に接続された第2の回路部分であって、互いに直列に接続された抵抗R2及びダイオードD1を含む第2の回路部分とを備える。
【0033】
電流検出回路11は、ダイオードD1に代えて逆向きのダイオードD2を備えてもよい。また、電流検出回路11は、互いに逆並列接続されたダイオードD1,D2の両方を備えてもよい。
【0034】
ダイオードD1,D2は、予め決められた順方向電圧降下Vf、例えば0.6Vを有する。
【0035】
電流検出回路11には、電流I1に対して予め決められた比率の大きさを有する電流I2が流れる。電流I2の大きさに応じて、抵抗R1の両端にわたって電圧Vdetが生じる。言いかえると、対象素子に流れる電流I1の大きさに応じて、抵抗R1の両端にわたって電圧Vdetが生じる。電圧Vdetは、電流検出回路11の抵抗値と、電流I2の大きさとの積である。
【0036】
電流検出回路11は、電流I1の大きさに応じて変化する抵抗値を有する。電流I1が小さく、電圧VdetがダイオードD1,D2の順方向電圧降下Vfを超えない場合、電流I2は、抵抗R2及びダイオードD1,D2の回路部分には流れず、抵抗R1のみに流れる。この場合、電流検出回路11の抵抗値は、抵抗R1の抵抗値に等しい。一方、電流I1が大きく、電圧VdetがダイオードD1,D2の順方向電圧降下Vfを超える場合、電流I2は、抵抗R1,R2の両方に流れる。この場合、電流検出回路11の抵抗値は、電流I1が増大するにつれて抵抗R1の抵抗値から次第に減少し、漸近的に、並列接続された抵抗R1,R2の合成抵抗R3=R1×R2/(R1+R2)に近づく。
【0037】
制御回路12は、対象素子に流れる電流I1に基づいて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する。制御回路12は、対象素子に流れる電流I1に応じて抵抗R1の両端にわたって生じる電圧Vdetをモニタリングする。制御回路12は、抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1を超えたか否かに基づいて、第1の機能を用いて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する。制御回路12は、抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1より大きい第2のしきい値Vth2を超えたか否かに基づいて、第2の機能を用いて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する。
【0038】
第1の機能は、例えば、LLC共振コンバータの共振外れ(後述)の防止であってもよい。また、第2の機能は、例えば、過電流保護であってもよい。LLC共振コンバータの共振外れが生じた場合、スイッチング素子Q1又はQ2のオン期間中に当該スイッチング素子に流れる電流の向きが正から負に変化する。従って、逆流電流を防止してLLC共振コンバータの共振外れを防止するためには、0Aの近傍の大きさ、例えば数mA~数Aの大きさを有する電流を検出する必要がある。また、過電流保護を行うためには、前述したように、数十Aの大きさを有する過電流を検出する必要がある。
【0039】
電流検出回路11によれば、Vdet>Vfの場合、電流I1の増加に対する電圧Vdetの増加率は、Vdet<Vfの場合の増加率に比べて小さくなる。その結果、電流I1の変化に応じて電圧Vdetが変化する範囲は、抵抗R2及びダイオードD1,D2をもたない場合、すなわち、電流I1の増加に対する電圧Vdetの増加率が常に一定である場合よりも狭くなる。従って、電流I1が増大しても電圧Vdetはあまり増大しないので、過電流によって過大な電圧Vdetが生じることはなく、制御装置10の回路が破損しにくくなる。また、電流検出回路11によれば、比較的に狭い電圧範囲内において、0Aの近傍の電流を検出するための第1のしきい値Vth1を設定し、数十Aの過電流を検出するための第2のしきい値Vth2を設定することができる。第1のしきい値Vth1は、例えば、ダイオードD1,D2の順方向電圧降下Vfより小さく設定される。また、第2のしきい値Vth2は、例えば、ダイオードD1,D2の順方向電圧降下Vfより大きく設定される。制御回路12は、単一の電流検出回路11を用いて、数mAから数十Aの広い範囲にわたる電流値を高精度に検出することができる。
【0040】
このように、実施形態に係る制御装置10は、単一の電流検出回路11を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる。制御装置10は、複数の異なる電流しきい値をそれぞれ用いた複数の異なる機能を提供することができる。
【0041】
[実施形態]
以下、実施形態に係る電力変換装置についてさらに説明する。
【0042】
[実施形態の構成例]
図1を参照して、電力変換装置2の各構成要素についてさらに説明する。
【0043】
電力変換装置2は、スイッチング素子Q1,Q2、キャパシタC1、トランスT1、ダイオードD11,D12、キャパシタC11、及び制御装置10を備える。
【0044】
スイッチング素子Q1,Q2は、直流電源装置1の正極及び負極の間に互いに直列に接続される。スイッチング素子Q1,Q2は、例えば、ボディダイオードを備えるMOSFETである。スイッチング素子Q1,Q2は、ハーフブリッジ型インバータを構成する。
【0045】
トランスT1は、一次巻線w1及び二次巻線w2,w3を備える。トランスT1はさらに、一次巻線w1に電磁的に結合された補助巻線4をさらに備える。補助巻線4には、一次巻線w1に発生する電圧の変化を示す電圧Vwが発生する。
【0046】
トランスT1の一次巻線w1の一端は、スイッチング素子Q1,Q2の間のノードに接続され、一次巻線w1の他端は、電源電圧のノード又は接地電圧のノードに接続される。
図1の例では、一次巻線w1は接地電圧のノードに接続される。キャパシタC1は、スイッチング素子Q1,Q2と、トランスT1の一次巻線w1との間に接続される。
【0047】
トランスT1は、励磁インダクタンス及び漏れインダクタンスを有する。キャパシタC1、励磁インダクタンス、及び漏れインダクタンスは、LLC共振回路を構成する。
【0048】
トランスT1の二次巻線w2,w3の一端は、ダイオードD11のアノードに接続され、二次巻線w2,w3の他端は、ダイオードD12のアノードに接続され、ダイオードD11,D12のカソードは、負荷装置3の陽極に接続される。トランスT1の二次巻線w2,w3のセンタータップは、負荷装置3の負極に接続される。また、キャパシタC11は、ダイオードD11,D12のカソードと、二次巻線w2,w3のセンタータップとの間に接続され、ダイオードD11,D12によって整流された電圧を平滑化する。
【0049】
電力変換装置2は、トランスT1及びキャパシタC1を備えることにより、LLC共振コンバータとして構成される。
【0050】
制御装置10は、電流検出回路11、制御回路12、キャパシタC2、比較器CMP1,CMP2、及び基準電圧源E1,E2を備える。
【0051】
キャパシタC2は電流検出回路11の抵抗R1に直列に接続され、抵抗R1及びキャパシタC2を含む回路部分がキャパシタC1に並列に接続される。キャパシタC2の容量は、キャパシタC1の容量よりずっと小さく設定される。これにより、抵抗R1及びキャパシタC2を含む回路部分に流れる電流I2が電流I1よりずっと小さくなるので、電流検出回路11から電流I1に与える影響を小さくすることができる。
【0052】
電流検出回路11は、前述したように、抵抗R1,R2及びダイオードD1,D2を備える。抵抗R2の抵抗値は、抵抗R1の抵抗値より小さく設定されてもよい。抵抗R2の抵抗値を小さくするほど、Vdet>Vfの場合、電流I1の増加に対する電圧Vdetの増加率は小さくなり、その結果、電流I1の変化に応じて電圧Vdetが変化する範囲は狭くなる。
【0053】
基準電圧源E1は電圧のしきい値Vth1を発生する。比較器CMP1は、電圧Vdetがしきい値Vth1を超えたか否かを示す信号を出力する。基準電圧源E2は電圧のしきい値Vth2を発生する。比較器CMP2は、電圧Vdetがしきい値Vth2を超えたか否かを示す信号を出力する。
【0054】
制御回路12は、駆動回路21、共振制御回路22、及び過電流保護回路23を備える。駆動回路21は、スイッチング素子Q1,Q2を所望の周波数及びデューティ比でオン/オフする制御信号を発生してスイッチング素子Q1,Q2のゲートに印加する。共振制御回路22は、補助巻線4によって検出された電圧Vwと、比較器CMP1の出力信号とに基づいて、電力変換装置2の共振外れを防止するように駆動回路21を制御する。過電流保護回路23は、比較器CMP2の出力信号に基づいて、電力変換装置2を過電流から保護するように駆動回路21を制御する。
【0055】
[実施形態の動作例]
まず、
図2~
図8を参照して、一般的なLLC共振コンバータの共振動作及び共振外れについて説明する。
【0056】
図2~
図6は、
図1の電力変換装置2の共振動作を説明するための第1~第5の状態をそれぞれ示す図である。
【0057】
図2~
図4は、電力変換装置2が正常に共振している場合を示す。スイッチング素子Q1がオンされ、スイッチング素子Q2がオフされているとき、
図2に示すように電流が流れる。
図2の場合、電流はスイッチング素子Q1のドレインからソースに流れている。
図2に示すように電流が流れているとき、スイッチング素子Q1がオンからオフに遷移すると、電流は
図3に示すように変化する。
図3の場合、電流はスイッチング素子Q2のボディダイオードに流れている。適切なデッドタイム期間の経過後にスイッチング素子Q2をオンすると、電流の向きが反転し、
図4に示すように電流が流れる。
【0058】
電力変換装置2が共振状態から外れている場合、
図2に示すように流れる電流の向きは、キャパシタC1の電荷を放電するために反転し、
図5に示すように逆流電流が流れる。その後、スイッチング素子Q2をオンすると、電流は
図6に示すように変化する。
図6の場合、スイッチング素子Q1の逆回復により発生した貫通電流がさらに流れている。
【0059】
図7は、
図1の電力変換装置2が正常に共振しているときにスイッチング素子Q1に流れる電流の波形を示すグラフである。
図8は、
図1の電力変換装置2が共振状態から外れているときにスイッチング素子Q1に流れる電流の波形を示すグラフである。電力変換装置2が正常に共振している場合、スイッチング素子Q1のオン期間においてスイッチング素子Q1に正の電流が流れ始めた後、オン期間中に電流の向きが正から負に反転することはない。一方、電力変換装置2が共振状態から外れている場合、オン期間中に電流の向きが正から負に反転して逆流電流が流れる。また、後者の場合、オン期間の最初に貫通電流が発生する。電力変換装置2の共振外れ、すなわち、逆流電流及び貫通電流の発生を防止するためには、オン期間中に電流の向きが正から負に反転する前にスイッチング素子Q1をオフし、適切なデッドタイム期間の経過後、スイッチング素子Q2をオンする必要がある。電流の反転を事前に検出するために、0Aの近傍の大きさ、例えば数mA~数Aの大きさを有する電流を検出する必要がある。
【0060】
次に、
図9及び
図10を参照して、
図1の電力変換装置2の動作について説明する。
【0061】
図9は、
図1の電流検出回路11によって検出される検出電圧Vdet及び電流検出回路11の抵抗値Rcomの特性を示すグラフである。前述したように、電流検出回路11は、電流I1の大きさに応じて変化する抵抗値Rcomを有する。電流I1が小さく、Vdet<Vfの場合、電流検出回路11の抵抗値Rcomは、抵抗R1の抵抗値に等しい。一方、電流I1が大きく、Vdet>Vfの場合、電流検出回路11の抵抗値Rcomは次式で表される。
【0062】
【0063】
式(1)によれば、Vdet>Vfの場合、電流検出回路11の抵抗値Rcomは、電流I1が増大するにつれて抵抗R1の抵抗値から次第に減少し、漸近的に、並列接続された抵抗R1,R2の合成抵抗R3=R1×R2/(R1+R2)に近づく。
【0064】
電圧Vdetは、このように決まる電流検出回路11の抵抗値Rcomと、電流I2の大きさとの積である。
【0065】
例えば、電力変換装置2の共振外れを防止するために、電流I1が1Aよりも小さくなる瞬間を検出し、電力変換装置2を過電流から保護するために、電流I1が50Aよりも大きくなる瞬間を検出する場合を想定する。この場合、キャパシタC1,C2の容量及び抵抗R1,R2の抵抗値は、例えば、下記の値に設定されてもよい。
【0066】
C1=100nF
C2=1nF
R1=30Ω
R2=3Ω
【0067】
この場合、電流I2=I1×(C2/C1)=I1/100になる。また、ダイオードD1,D2は、順方向電圧降下Vf=0.6Vを有する。従って、電圧Vdetがしきい値Vth1=0.3Vを超えたか否かに基づいて、電流I1が1Aよりも大きいか否かを判断することができる。0≦I1<2Aのとき、Vdet<VfかつRcom=R1である。また、2A≦I1のとき、Vdet≧Vfであり、電流検出回路11の抵抗値Rcomは式(1)で表される。電圧Vdetがしきい値Vth2=2.1Vを超えたか否かに基づいて、電流I1が50Aよりも大きいか否かを判断することができる。
【0068】
図10は、
図1の共振制御回路22の動作を説明するためのグラフである。共振制御回路22は、スイッチング素子Q1のオン期間中に、電圧Vwが正から負に変化した後、比較器CMP1の出力信号に基づいて、電圧Vdetがしきい値Vth1を超えるか否かを判断する。共振制御回路22は、電圧Vdetがしきい値Vth1より大きな値からしきい値Vth1より小さな値に変化したとき、スイッチング素子Q1をオンからオフに切り換える制御信号を駆動回路21に送る。これにより、スイッチング素子Q1のオン期間中にスイッチング素子Q1に流れる電流の向きが正から負に変化することを防止し、従って、電力変換装置2の共振外れを防止するようにスイッチング素子Q1,Q2を制御することができる。
【0069】
また、過電流保護回路23は、比較器CMP2の出力信号に基づいて、電力変換装置2を過電流から保護するように駆動回路21を制御する。電圧Vdetがしきい値Vth2より大きくなったとき、スイッチング素子Q1,Q2をオフする又はそれらのデューティ比を低減する制御信号を駆動回路21に送る。これにより、過電流が生じたとき、電流I1を停止又は低減するようにスイッチング素子Q1,Q2を制御することができる。
【0070】
[実施形態の効果]
実施形態に係る制御装置10によれば、
図1に示すような電流検出回路11を備えたことにより、電流I1が増大しても電圧Vdetはあまり増大しないので、過電流によって過大な電圧Vdetが生じることはなく、制御装置10の回路が破損しにくくなる。また、実施形態に係る制御装置10によれば、比較的に狭い電圧範囲内において、小電流を検出するためのしきい値及び大電流を検出するためのしきい値を設定できるので、単一の電流検出回路11を用いて、数mAから数十Aの広い範囲にわたる電流値を高精度に検出することができる。このように、実施形態に係る制御装置10は、単一の電流検出回路11を用いて従来よりも広い範囲にわたる電流値を検出することができる。
【0071】
[変形例]
以上、本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本開示の例示に過ぎない。本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0072】
電流検出回路11は、互いに逆並列接続されたダイオードD1,D2を備えることにより、正及び負の両方の向きの電流I1を検出することができる。電流I1の向きが一定であれば、電流検出回路11は、ダイオードD1,D2のうちの一方のみを備えてもよい。
【0073】
制御装置10は、例えば、スイッチング素子Q1,Q2を駆動するドライバ集積回路として提供されてもよい。この場合、制御装置10の構成要素のうちの一部(例えば、キャパシタC2、抵抗R1,R2、及びダイオードD1,D2)は、集積回路の外付け部品として設けられてもよい。
【0074】
共振制御回路22は、補助巻線4によって検出された電圧Vwに代えて、例えば、スイッチング素子Q1,Q2の間のノードの電圧(ハーフブリッジ電圧)に基づいて、電力変換装置2の共振外れを防止するように駆動回路21を制御してもよい。この場合、共振制御回路22は、電流I1及びハーフブリッジ電圧をモニタリングし、それらの位相差が所定の条件を満たすか否かに基づいて共振外れを防止することができる。
【0075】
電力変換装置2は、2つのスイッチング素子Q1,Q2を含むハーフブリッジ型インバータに代えて、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ型インバータを備えてもよい。
【0076】
電力変換装置2は、
図1に示すような2つのダイオードD11,D12を含む整流回路に代えて、ダイオードブリッジを含む制球回路を備えてもよい。
【0077】
実施形態に係る制御装置10は、LLC共振コンバータのキャパシタC1に流れる電流に代えて、他の電力変換装置の他の構成要素に流れる電流を検出してもよい。例えば、臨界モード力率調整器は、インダクタに流れる電流がゼロになったとき、スイッチング素子のオン/オフを切り換える。また、擬似共振フライバック回路は、トランスの二次側回路のダイオードに流れる電流がゼロになったとき、一次側回路の発振動作を開始する。このようなさまざまな回路において電流のゼロ交差を検出するために、
図1に示すような電流検出回路11を利用可能である。電流のゼロ交差は、交差の直前に検出されてもよく、交差の直後に検出されてもよい。ただし、比較器などの構成要素のオフセットバラツキ、しきい値のバラツキ、検出動作にかかる遅延、などを考慮して、電流のゼロ交差を検出するためのしきい値を0Aよりもわずかに大きく設定してもよい。
【0078】
[まとめ]
本開示の各側面に係る電力変換装置及び制御装置は、以下のように表現されてもよい。
【0079】
本開示の第1の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を備える電力変換装置2のための制御装置10であって、電力変換装置2に含まれる対象素子に流れる電流I1を検出する電流検出回路11と、対象素子に流れる電流I1に基づいて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する制御回路12とを備える。電流検出回路11は、対象素子に接続された第1の回路部分に挿入された第1の抵抗R1と、第1の抵抗R1に並列に接続された第2の回路部分であって、互いに直列に接続された第2の抵抗R2及び第1のダイオードD1を含む第2の回路部分とを備える。制御回路12は、対象素子に流れる電流I1に応じて第1の抵抗R1の両端にわたって生じる電圧をモニタリングする。制御回路12は、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1を超えたか否かに基づいて、第1の機能を用いて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する。制御回路12は、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1より大きい第2のしきい値Vth2を超えたか否かに基づいて、第2の機能を用いて少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御する。
【0080】
本開示の第2の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第1の側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。第1のしきい値Vth1は第1のダイオードD1の順方向電圧降下Vfよりも小さい。第2のしきい値Vth2は第1のダイオードD1の順方向電圧降下Vfよりも大きい。
【0081】
本開示の第3の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第1又は第2の側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。第2の抵抗R2の抵抗値は第1の抵抗R1の抵抗値よりも小さい。
【0082】
本開示の第4の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第1~第3のうちの1つの側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。電流検出回路11は、第1のダイオードD1に逆並列に接続された第2のダイオードD2をさらに備える。
【0083】
本開示の第5の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第1~第4のうちの1つの側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。対象素子は第1のキャパシタC1である。制御装置10は、第1の回路部分に挿入された第2のキャパシタC2であって、第1の抵抗R1に直列に接続された第2のキャパシタC2をさらに備える。第2のキャパシタC2の容量は第1のキャパシタC1の容量よりも小さい。
【0084】
本開示の第6の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第5の側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。電力変換装置2はトランスを含む。第1のキャパシタC1はトランスの一次巻線に接続される。
【0085】
本開示の第7の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第6の側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。第1の機能は、少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2のうちの第1のスイッチング素子のオン期間中に、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第1のしきい値Vth1より大きな値から第1のしきい値Vth1より小さな値に変化したとき、第1のスイッチング素子をオンからオフに切り換えることを含む。
【0086】
本開示の第8の側面に係る電力変換装置2のための制御装置10は、第1~第7のうちの1つの側面に係る制御装置10において、下記のように構成されてもよい。第2の機能は、第1の抵抗R1の両端にわたる電圧Vdetが第2のしきい値Vth2より大きくなったとき、対象素子に流れる電流I1を停止又は低減するように少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2を制御することを含む。
【0087】
本開示の第9の側面に係る電力変換装置2は、少なくとも1つのスイッチング素子Q1,Q2と、第1~第8のうちの1つの側面に係る制御装置10とを備える。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の一側面に係る電力変換装置及びその制御装置は、複数の異なる電流しきい値をそれぞれ用いた複数の異なる機能を提供するために利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 直流電源装置
2 電力変換装置
3 負荷装置
10 制御装置
11 電流検出回路
12 制御回路
21 駆動回路
22 共振制御回路
23 過電流保護回路
C1,C2,C11 キャパシタ
CMP1,CMP2 比較器
D1,D2,D11,D12 ダイオード
E1,E2 基準電圧源
Q1,Q2 スイッチング素子
R1,R2 抵抗
T1 トランス