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特開2024-130311オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130311
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240920BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240920BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20240920BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D8/00 E
C21D9/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039964
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関向 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 明訓
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA25
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA33
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032BA02
4K032BA03
4K032CA03
4K032CB02
4K032CF02
4K032CH04
4K032CL03
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA21
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA29
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB13
4K037EC04
4K037FA03
4K037FF02
(57)【要約】
【課題】各種用途で使用可能な耐食性及び高温強度に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材を提供する。
【解決手段】質量基準で、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなり、σ相析出率が3.0~10.0%である、オーステナイト系ステンレス鋼材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準で、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなり、σ相析出率が3.0~10.0%である、オーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
質量基準で、B:0.0010~0.0100%、Ca:0.001~0.100%、Mg:0.001~0.100%、REM:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項3】
900℃における0.2%耐力が70MPa以上である、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項4】
孔食電位が0.70V vs.Ag/AgCl以上である、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項5】
常温におけるシャルピー衝撃値が30J/cm2以上である、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項6】
高温部品に用いられる、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項7】
質量基準で、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなるステンレス鋼素材を、600~800℃の均熱温度、10時間以上の均熱時間で加熱する、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記ステンレス鋼素材は、質量基準で、B:0.0010~0.0100%、Ca:0.001~0.100%、Mg:0.001~0.100%、REM:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%から選択される1種以上を更に含む、請求項7に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材を含む高温部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性及び高温強度(耐熱性)が要求される各種部品にはオーステナイト系ステンレス鋼材が用いられている(特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2のオーステナイト系ステンレス鋼材は、排気系部品に主に使用されるものであるため、排気系部品以外の用途での使用に適しているとは必ずしもいえない。実際、このオーステナイト系ステンレス鋼材は、用途によっては耐食性及び高温強度が十分でないことがある。
【0003】
他方、オーステナイト系ステンレス鋼材中に析出するσ相は、耐食性や靭性などの特性を低下させる要因となることが知られている(特許文献3及び4)。そのため、これらの特性の低下を抑制する観点から、σ相の析出を抑制することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/164344号
【特許文献2】特開2017-14538号公報
【特許文献3】特開2015-175017号公報
【特許文献4】特開2022-98633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、各種用途で使用可能な耐食性及び高温強度に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、σ相が高温強度の向上に有効であり、σ相析出率を所定の範囲に制御することにより、耐食性などの特性の低下を抑制しつつ高温強度を向上させ得ることを見出した。また、本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼材の組成を適切に制御することにより、σ相が析出しても耐食性を向上させ得ることを見出した。本発明は、上記のような背景の下、完成されるに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなり、σ相析出率が3.0~10.0%である、オーステナイト系ステンレス鋼材である。
【0008】
また、本発明は、質量基準で、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなるステンレス鋼素材を、600~800℃の均熱温度、10時間以上の均熱時間で加熱する、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
【0009】
さらに、本発明は、前記オーステナイト系ステンレス鋼材を含む高温部品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種用途で使用可能な耐食性及び高温強度に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0012】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、C:0.010~0.200%、Si:2.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.035%以下、S:0.030%以下、Ni:6.00~14.00%、Cr:20.0~26.0%、Mo:3.00%以下、Cu:0.01~3.00%、Al:0.200%以下、N:0.10~0.25%を含み、残部がFe及び不純物からなる。
【0013】
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。
また、本明細書において「オーステナイト系」とは、常温で金属組織が主にオーステナイト相であるものを意味する。したがって、「オーステナイト系」には、オーステナイト相以外の相(例えば、フェライト相など)が僅かに含まれるものも包含される。この場合、オーステナイト相以外の相は、一般的に5体積%以下である。
さらに、本明細書において「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。不純物としては、例えばOが挙げられる。
なお、各元素の含有量に関して、「xx%以下」を含むとは、xx%以下であるが、0%超(特に、不純物レベル超)の量を含むことを意味する。
【0014】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、必要に応じて、B:0.0010~0.0100%、Ca:0.001~0.100%、Mg:0.001~0.100%、REM:0.001~0.100%、Ti:0.001~1.000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Co:0.001~1.000%、Hf:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.100%から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0015】
<C:0.010~0.200%>
Cの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性や加工性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.180%、より好ましくは0.160%に制御される。一方、Cの含有量は少なすぎると、精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、0.010%、好ましくは0.015%、より好ましくは0.020%に制御される。
【0016】
<Si:2.00%以下>
Siの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.95%、より好ましくは1.90%に制御される。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
【0017】
<Mn:3.00%以下>
Mnは、オーステナイト相(γ相)生成元素である。Mnの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Mnの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.95%、より好ましくは2.90%に制御される。一方、Mnの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
【0018】
<P:0.035%以下>
Pの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限値は、0.035%、好ましくは0.034%、より好ましくは0.033%に制御される。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%、更に好ましくは0.010%である。
【0019】
<S:0.030%以下>
Sの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Sの含有量の上限値は、0.030%、好ましくは0.025%、より好ましくは0.020%に制御される。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%、更に好ましくは0.0005%である。
【0020】
<Ni:6.00~14.00%>
Niは、Mnと同様にオーステナイト相(γ相)生成元素である。Niは高価であるため、含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Niの含有量の上限値は、14.00%、好ましくは13.80%、より好ましくは13.60%に制御される。一方、Niの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下する。そのため、Niの含有量の下限値は、6.00%、好ましくは6.10%、より好ましくは6.15%に制御される。
【0021】
<Cr:20.0~26.0%>
Crの含有量は多すぎると、金属間化合物(σ相)の生成が促進されるため、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限値は、26.0%、好ましくは25.5%に制御される。一方、Crの含有量は少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、20.0%、好ましくは20.2%に制御される。
【0022】
<Mo:3.00%以下>
Moは高価であるため、Moの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.80%、より好ましくは2.50%に制御される。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、更に好ましくは0.003%である。
【0023】
<Cu:0.01~3.00%>
Cuの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cuの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.80%、より好ましくは2.60%に制御される。一方、Cuの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Cuの含有量の下限値は、0.01%、好ましくは0.10%、より好ましくは0.15%に制御される。
【0024】
<Al:0.200%以下>
Alの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Alの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.100%、より好ましくは0.050%に制御される。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%、更に好ましくは0.0003%である。
【0025】
<N:0.10~0.25%>
Nの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限値は、0.25%、好ましくは0.24%に制御される。一方、Nの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が十分に得られない。そのため、Nの含有量の下限値は、0.10%、好ましくは0.11%に制御される。
【0026】
<B:0.0010~0.0100%>
Bの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0060%、より好ましくは0.0040%に制御される。一方、Bの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性(熱間加工性)が低下してしまう。そのため、Bの含有量の下限値は、0.0010%、好ましくは0.0015%に制御される。
【0027】
<Ca:0.001~0.100%>
Caは、製造性(熱間加工性)を向上させるための元素である。Caによる効果を得る観点から、Caの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Caの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Caの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.050%に制御される。
【0028】
<Mg:0.001~0.100%>
Mgは、製造性(熱間加工性)を向上させるための元素である。Mgによる効果を得る観点から、Mgの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Mgの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Mgの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.050%に制御される。
【0029】
<REM:0.001~0.100%>
REMは、製造性(熱間加工性)を向上させるための元素である。REMによる効果を得る観点から、REMの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、REMは高価であるため、REMの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、REMの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.050%に制御される。
【0030】
<Ti:0.001~1.000%>
Tiは、鋼中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるための元素である。Tiによる効果を得る観点から、Tiの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Tiの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Tiの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0031】
<Nb:0.001~1.000%>
Nbは、鋼中のCを固定して耐粒界腐食性を向上させるための元素である。Nbによる効果を得る観点から、Nbの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Nbの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Nbの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0032】
<V:0.001~1.000%>
Vは、耐食性を向上させるための元素である。Vによる効果を得る観点から、Vの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Vの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Vの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0033】
<Zr:0.001~1.000%>
Zrは、耐食性を向上させるための元素である。Zrによる効果を得る観点から、Zrの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Zrの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Zrの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0034】
<W:0.001~1.000%>
Wは、耐食性を向上させるための元素である。Wによる効果を得る観点から、Wの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Wの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Wの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0035】
<Co:0.001~1.000%>
Coは、耐食性を向上させるための元素である。Coによる効果を得る観点から、Coの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Coの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0036】
<Hf:0.001~1.000%>
Hfは、耐食性を向上させるための元素である。Hfによる効果を得る観点から、Hfの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Hfの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Hfの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0037】
<Ta:0.001~1.000%>
Taは、耐食性を向上させるための元素である。Taによる効果を得る観点から、Taの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Taの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに製造コストの上昇につながる。そのため、Taの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.800%、より好ましくは0.500%に制御される。
【0038】
<Sn:0.001~0.100%>
Snは、耐食性を向上させるための元素である。Snによる効果を得る観点から、Snの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。また、Snの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.050%、より好ましくは0.030%に制御される。
【0039】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、σ相析出率が3.0~10.0%である。σ相析出率を3.0%以上とすることにより、高温強度を向上させることができる。σ相析出率を10.0%以下に制御することにより、耐食性や靭性の低下を抑制することができる。このような効果を安定して確保する観点から、σ相析出率は、好ましくは3.1~9.0%、より好ましくは3.2~8.0%である。
ここで、σ相析出率は、以下のようにして求めることができる。まず、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面を湿式研磨などによってデスケールした後、10%のNaOH水溶液中で電解エッチングしてσ相を着色する。その後、光学顕微鏡を用い、100μm角の範囲内に析出したσ相の面積率を二値化画像から計測する。この計測は、オーステナイト系ステンレス鋼材の任意の50か所の表面で行い、それらの平均値をσ相析出率の結果とする。
【0040】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、900℃における0.2%耐力が70MPa以上であることが好ましく、72MPa以上であることがより好ましく、75MPa以上であることが更に好ましい。このような範囲の0.2%耐力であれば高温強度に優れていると評価できる。なお、0.2%耐力の上限値は、特に限定されないが、例えば200MPaである。
ここで、900℃における0.2%耐力は、JIS G0567:2020に準拠して測定することができる。この評価において、引張試験前の均熱時間は30分間とし、ひずみ速度は0.003min-1とする。
【0041】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、孔食電位が0.70V vs.Ag/AgCl以上であることが好ましく、0.80V vs.Ag/AgCl以上であることがより好ましく、0.85V vs.Ag/AgCl以上であることが更に好ましい。このような範囲の孔食電位であれば耐食性に優れていると評価できる。なお、孔食電位の上限値は、特に限定されないが、例えば2.00V vs.Ag/AgClである。
ここで、孔食電位は、JIS G0577:2014に準拠して測定することができる。具体的には、以下のようにして求めることができる。まず、オーステナイト系ステンレス鋼材から測定用試験片を作製する。次に、Ar脱気を十分に行った3.5%のNaCl溶液(温度30℃)中に測定用試験片を浸漬し、自然電位から20mV/分で動電位アノード分極を行い、孔食電位を測定する。孔食電位は、電流が100μA/cm2流れたときの電位とする。この測定は試験数を5とし、それらの平均値を孔食電位の結果とする。
【0042】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、常温(25℃)におけるシャルピー衝撃値が30J/cm2以上であることが好ましく、40J/cm2以上であることがより好ましく、50J/cm2以上であることが更に好ましい。このような範囲のシャルピー衝撃値であれば靭性に優れていると評価できる。なお、シャルピー衝撃値の上限値は、特に限定されないが、例えば200J/cm2である。
ここで、シャルピー衝撃値は、JIS Z2242:2005に準拠して測定することができる。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼材からVノッチ試験片を試験片長手方向が圧延方向と平行になるよう採取し、常温でのシャルピー衝撃値で評価する。
【0043】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の種類は、特に限定されない。例えば、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、熱延材、冷延材などの圧延材であってもよいし、鋳造材などであってもよいが、圧延材(特に、熱延材)であることが好ましい。
【0044】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、耐食性及び高温強度に優れているため、当該特性が要求される各種用途で用いることができる。特に、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、プラントなどに用いられる高温部品に用いるのに好適である。
ここで、高温部品とは、600℃以上(好ましくは600~1000℃)の高温に対する耐性が要求される部品のことを意味する。
【0045】
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、上記の特徴を有するオーステナイト系ステンレス鋼材を製造可能な方法であれば特に限定されない。以下、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の一例について説明する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、上記の組成を有するステンレス鋼素材を、600~800℃の均熱温度、10時間以上の均熱時間で加熱することによって製造することができる。
ステンレス鋼素材としては、特に限定されず、熱延材、冷延材などの圧延材であってもよいし、鋳造材などであってもよい。また、圧延材には、焼鈍や酸洗などが行われていてもよい。ステンレス鋼素材の製造方法は、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
【0046】
ステンレス鋼素材を600~800℃の均熱温度で加熱することにより、σ相を析出させることができる。均熱温度の範囲外であると、σ相が析出しない。
また、均熱時間を10時間以上とすることにより、σ相の析出量を十分確保することができる。均熱時間が10時間未満であると、σ相の析出量が少なくなってしまう。なお、均熱時間の上限は、特に限定されないが、1000時間であることが好ましい。
加熱処理における雰囲気としては、特に限定されず、大気雰囲気などの各種雰囲気で行うことができる。
【0047】
本発明の実施形態に係る高温部品は、オーステナイト系ステンレス鋼材を含む。
本発明の実施形態に係る高温部品において、オーステナイト系ステンレス鋼材は、適切な形状に加工されていてよく、溶接などが行われていてもよい。
また、本発明の実施形態に係る高温部品は、オーステナイト系ステンレス鋼材に加えて、オーステナイト系ステンレス鋼材以外の部材を含むことができる。
高温部品としては、特に限定されないが、プラントなどに用いられる各種部品が挙げられる。
【実施例0048】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0049】
表1に示す組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼30kgを真空溶解で溶製し、厚さ30mmの板に鍛造した後、1230℃で2時間加熱し、厚さ5mmに熱間圧延して熱延板を得た。次に、熱延板を焼鈍して酸洗することによって熱延焼鈍板を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
上記で得られた熱延焼鈍板に対して、大気雰囲気下、表2に示す条件で加熱処理を行ってオーステナイト系ステンレス鋼板を得た。なお、比較例1については加熱処理を行わなかった。
上記で得られたオーステナイト系ステンレス鋼板に対して以下の評価を行った。
【0052】
<σ相析出率>
オーステナイト系ステンレス鋼板の表面を湿式研磨によってデスケールした後、10%のNaOH水溶液中で電解エッチングしてσ相を着色した。その後、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製STM6)を用い、100μm角の範囲内に析出したσ相の面積率を二値化画像から計測した。この計測は、オーステナイト系ステンレス鋼板の任意の50か所の表面で行い、それらの平均値をσ相析出率の結果とした。
【0053】
<0.2%耐力>
JIS G0567:2020に準拠し、900℃における0.2%耐力を測定した。この評価において、引張試験前の均熱時間は30分間とし、ひずみ速度は0.003min-1とした。この評価において、0.2%耐力が70MPa以上であれば高温強度に優れていると評価できる。
【0054】
<孔食電位>
JIS G0577:2014に準拠し、孔食電位を測定した。まず、オーステナイト系ステンレス鋼板の幅方向中央部から15mm×20mmの試験片を切り出した後、#600の湿式研磨を行った。次に、この試験片の電極面(露出部分)が10mm×10mmとなるように、電極面以外の部分をシリコーン樹脂で絶縁被覆して測定用試験片を得た。次に、Ar脱気を十分に行った3.5%のNaCl溶液(温度30℃)中に測定用試験片を浸漬し、自然電位から20mV/分で動電位アノード分極を行い、孔食電位を測定した。孔食電位は、電流が100μA/cm2流れたときの電位とした。この測定は試験数を5とし、それらの平均値を孔食電位の結果とした。この評価において、孔食電位が0.70V vs.Ag/AgCl以上であれば耐食性に優れていると評価できる。
【0055】
<シャルピー衝撃値>
JIS Z2242:2005に準拠し、シャルピー衝撃値を測定した。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼板からVノッチ試験片を試験片長手方向が圧延方向と平行になるよう採取し、常温でのシャルピー衝撃値で評価した。この評価において、シャルピー衝撃値が30J/cm2以上であれば靭性に優れていると評価できる。
【0056】
上記の各評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示されるように、実施例1~6のオーステナイト系ステンレス鋼板は、所定の組成及びσ相析出率を満たしているため、0.2%耐力(高温強度)、孔食電位(耐食性)及びシャルピー衝撃値(靭性)の結果が全て良好であった。
これに対して比較例1のオーステナイト系ステンレス鋼板は、加熱処理を行っていないため、σ相が析出せず、0.2%耐力(高温強度)が十分でなかった。
比較例2のオーステナイト系ステンレス鋼板は、加熱処理時の均熱温度が高すぎたため、σ相が析出せず、0.2%耐力(高温強度)が十分でなかった。
比較例3のオーステナイト系ステンレス鋼板は、加熱処理時の均熱温度が低すぎたため、σ相が析出せず、0.2%耐力(高温強度)が十分でなかった。
比較例4のオーステナイト系ステンレス鋼板は、加熱処理時の均熱時間が短すぎたため、σ相析出率が低く、0.2%耐力(高温強度)が十分でなかった。
比較例5のオーステナイト系ステンレス鋼板は、Moの含有量が多すぎたため、σ相析出率が高く、シャルピー衝撃値(靭性)が十分でなかった。
比較例6のオーステナイト系ステンレス鋼板は、Cr及びNの含有量が少なすぎたため、σ相析出率が低く、0.2%耐力(高温強度)及び孔食電位(耐食性)が十分でなかった。
【0059】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、各種用途で使用可能な耐食性及び高温強度に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに高温部品を提供することができる。