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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130352
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 25/08 20060101AFI20240920BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240920BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240920BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C25/08 Z
F16C19/18
F16C33/58
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040023
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J012
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB04
3J012BB03
3J012CB03
3J012FB10
3J012HB02
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA44
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA82
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701EA03
3J701EA41
3J701FA15
3J701FA31
3J701FA41
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】モーメント剛性および/または寿命を確保しやすいハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】最外列の転動体である玉4aおよび最内列の転動体である玉4cに、最外列の外輪軌道5aと最内列の外輪軌道5cとの位置関係、および、最外列の内輪軌道5cと最内列の内輪軌道7cとの位置関係に基づく、定位置予圧方式の予圧が付与されている。中間列の外輪軌道5bあるいは内輪軌道7bが、押圧力により軸方向の移動が可能であり、中間列の転動体である玉4bには、定圧予圧方式の予圧が付与されている。最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに付与された予圧が、中間列の玉4bに付与された予圧よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に3列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に3列の内輪軌道を有するハブと、
前記3列の外輪軌道と前記3列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、
を備え、
前記転動体のうち、軸方向に関して最も外側に位置する列である最外列に配置された最外列の転動体と、軸方向に関して最も内側に位置する列である最内列に配置された最内列の転動体とに、互いに背面組み合わせ型となる接触角が付与されており、
前記転動体のうち、軸方向に関して最外列と最内列との間に位置する列である中間列に配置された中間列の転動体に、前記最外列の転動体または前記最内列の転動体との関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されており、
前記最外列の転動体および前記最内列の転動体に、前記3列の外輪軌道のうちの最外列の外輪軌道と最内列の外輪軌道との位置関係、および、前記3列の内輪軌道のうちの最外列の内輪軌道と最内列の内輪軌道との位置関係に基づく、定位置予圧方式の予圧が付与されており、
前記3列の外輪軌道のうちの中間列の外輪軌道あるいは前記3列の内輪軌道のうちの中間列の内輪軌道が、押圧力により軸方向の移動が可能であり、前記中間列の転動体には、定圧予圧方式の予圧が付与されており、および、
前記最外列の転動体および前記最内列の転動体に付与された予圧が、前記中間列の転動体に付与された予圧よりも大きい、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記外輪は、前記最外列の外輪軌道および前記最内列の外輪軌道を有する本体部と、前記中間列の外輪軌道を有し、かつ、前記本体部に対して軸方向の移動を可能に組み合わされた可動部と、前記可動部に対して前記押圧力を付与する予圧ばねとを含み、
前記ハブは、前記3列の内輪軌道を備える、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記ハブは、前記最外列の内輪軌道および前記最内列の内輪軌道を有する本体部と、前記中間列の内輪軌道を有し、かつ、前記本体部に対して軸方向の移動を可能に組み合わされた可動部と、前記可動部に対して前記押圧力を付与する予圧ばねとを含み、
前記外輪は、前記3列の外輪軌道を備える、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記中間列の転動体の直径が、前記最外列の転動体の直径および前記最内列の転動体の直径よりも小さい、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複数列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複数列の内輪軌道を有するハブと、複数列の外輪軌道と複数列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブには、車輪のホイールおよび制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側である。
【0004】
ハブユニット軸受を構成する外輪軌道および内輪軌道の列数、すなわち、転動体の列数は、通常、2列であるが、従来、転動体として玉を用いたハブユニット軸受において、該列数を3列とした構造が知られている(たとえば米国特許第2009/0010586号明細書参照)。
【0005】
一般に、列数が3列のハブユニット軸受の設計を行う際には、該ハブユニット軸受が搭載される車両の性格を考慮して、寿命を優先する設計を行うか、剛性を優先する設計を行うかを選択する。
【0006】
寿命と剛性とのいずれを優先する設計を行う場合も、軸方向に関して最も外側に位置する列である最外列の玉と、軸方向に関して最も内側に位置する列である最内列の玉とに、互いに背面組み合わせ型となる接触角を付与する。そして、寿命を優先する設計を行う場合には、軸方向に関して最外列と最内列との間に位置する列である中間列の玉に、最外列の玉との関係で背面組み合わせ型となる接触角を付与する。また、剛性を優先する設計を行う場合には、中間列の玉に、最内列の玉との関係で背面組み合わせ型となる接触角を付与する。
【0007】
米国特許第2009/0010586号明細書に記載された従来構造では、剛性を優先する設計が採用されている。また、該従来構造では、3列の外輪軌道の位置関係、および、3列の内輪軌道の位置関係を規制することにより、3列の玉に、それぞれ定位置予圧方式の予圧が付与されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2009/0010586号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
米国特許第2009/0010586号明細書に記載された従来のハブユニット軸受は、3列の玉に、それぞれ定位置予圧方式の予圧が付与されている。このため、下記の面で、改良の余地がある。
【0010】
ハブユニット軸受に備えられたそれぞれの外輪軌道および内輪軌道には、通常、熱処理後、ダイヤモンドホイールで成形された総型砥石を使用して研削加工が施された後、超仕上げ加工が施される。超仕上げ加工では、軌道に押し付けられた砥石を揺動させながら軌道の表面粗さを整えることから、軌道と砥石の表面状態で砥石の切れ味が変化しやすく、軌道の被削量がばらつくため、仕上がり寸法を正確にコントロールすることが難しい。
【0011】
列数が2列のハブユニット軸受であれば、それぞれの外輪軌道および内輪軌道の寸法を測定し、その測定結果に応じた寸法の玉を選択して組み付けることによって、それぞれの列の玉に適切な予圧を付与することができる。
【0012】
しかしながら、米国特許第2009/0010586号明細書に記載された、列数が3列のハブユニット軸受では、互いに同じ方向の接触角を持つ最外列および中間列において、それぞれの外輪軌道および内輪軌道の超仕上げ加工の被削量にばらつきが生じ、該外輪軌道および内輪軌道の寸法がばらついた場合には、最外列と中間列とで支承荷重をバランスよく分担することができなくなる。その結果、中間列で最外列よりも支承荷重の分担が大きくなった場合には、実質的な作用点間距離が中間列と最内列との列間距離、すなわち短い作用点間距離となって、モーメント剛性が低下したり、あるいは、設定以上の荷重が作用し寿命が短くなったりする可能性がある。
【0013】
本開示は、モーメント剛性および/または寿命を確保しやすいハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一態様のハブユニット軸受は、内周面に3列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に3列の内輪軌道を有するハブと、前記3列の外輪軌道と前記3列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体とを備える。
【0015】
前記転動体のうち、軸方向に関して最も外側に位置する列である最外列に配置された最外列の転動体と、軸方向に関して最も内側に位置する列である最内列に配置された最内列の転動体とに、互いに背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0016】
前記転動体のうち、軸方向に関して最外列と最内列との間に位置する列である中間列に配置された中間列の転動体に、前記最外列の転動体または前記最内列の転動体との関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0017】
前記最外列の転動体および前記最内列の転動体に、前記3列の外輪軌道のうちの最外列の外輪軌道と最内列の外輪軌道との位置関係、および、前記3列の内輪軌道のうちの最外列の内輪軌道と最内列の内輪軌道との位置関係に基づく、定位置予圧方式の予圧が付与されている。
【0018】
前記3列の外輪軌道のうちの中間列の外輪軌道あるいは前記3列の内輪軌道のうちの中間列の内輪軌道が、押圧力により軸方向の移動が可能であり、前記中間列の転動体には、定圧予圧方式の予圧が付与されている。
【0019】
前記最外列の転動体および前記最内列の転動体に付与された予圧が、前記中間列の転動体に付与された予圧よりも大きい。
【0020】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記外輪は、前記最外列の外輪軌道および前記最内列の外輪軌道を有する本体部と、前記中間列の外輪軌道を有し、かつ、前記本体部に対して軸方向の移動を可能に組み合わされた可動部と、前記可動部に対して前記押圧力を付与する予圧ばねとを含み、前記ハブは、前記3列の内輪軌道を備える。
【0021】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記ハブは、前記最外列の内輪軌道および前記最内列の内輪軌道を有する本体部と、前記中間列の内輪軌道を有し、かつ、前記本体部に対して軸方向の移動を可能に組み合わされた可動部と、前記可動部に対して前記押圧力を付与する予圧ばねとを含み、前記外輪は、前記3列の外輪軌道を備える。
【0022】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記中間列の転動体の直径が、前記最外列の転動体の直径および前記最内列の転動体の直径よりも小さい。
【0023】
本開示のハブユニット軸受は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一態様のハブユニット軸受によれば、モーメント剛性および/または寿命を確保しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受の半部断面図である。
図2図2は、本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受の半部断面図である。
図3図3は、本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受の半部断面図である。
図4図4は、本開示の実施の形態の第4例のハブユニット軸受の半部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1例]
図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示している。
【0027】
本開示のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、駆動輪用のハブユニット軸受に、本開示の構造を適用する場合について説明する。
【0028】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、それぞれが転動体である複数個の玉4a、4b、4cとを備える。
【0029】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1の右側である。
【0030】
外輪2は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製で、内周面に、3列の外輪軌道5a、5b、5cを有する。
【0031】
外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ6を有する。静止フランジ6は、外輪2を懸架装置のナックルに結合固定するために用いられる部分である。
【0032】
ハブ3は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製で、外周面に、3列の内輪軌道7a、7b、7cを有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0033】
ハブ3は、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に突出した回転フランジ8を有する。回転フランジ8は、ハブ3に車輪および制動用回転部材を結合固定するために用いられる部分である。
【0034】
本例のハブユニット軸受1は駆動輪用であるため、ハブ3は、中心部に軸方向に貫通するスプライン孔9を有する。スプライン孔9には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。ただし、本開示のハブユニット軸受は、従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合には、ハブを中実構造とすることもできる。
【0035】
玉4a、4b、4cは、軸受鋼などの硬質金属製あるいはセラミックス製で、3列の外輪軌道5a、5b、5cと3列の内輪軌道7a、7b、7cとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、保持器10a、10b、10cにより保持された状態で転動自在に配置されている。
【0036】
本例では、軸方向に関して最も外側に位置する列である最外列に配置された、最外列の玉4aと、軸方向に関して最も内側に位置する列である最内列に配置された、最内列の玉4cとに、図中に一点鎖線で示すように、互いに背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0037】
すなわち、本例では、最外列の外輪軌道5aおよび内輪軌道7a、ならびに、最内列の外輪軌道5cおよび内輪軌道7cは、それぞれがアンギュラ型である。具体的には、最外列の外輪軌道5aは、軸方向内側に、軸方向外側よりも径方向内側に大きく張り出した溝肩部を有する。最内列の外輪軌道5cは、軸方向外側に、軸方向内側よりも径方向内側に大きく張り出した溝肩部を有する。最外列の内輪軌道7aは、軸方向外側に、軸方向内側よりも径方向外側に大きく張り出した溝肩部を有する。最内列の内輪軌道7cは、軸方向内側に、軸方向外側よりも径方向外側に大きく張り出した溝肩部を有する。これにより、最外列の玉4aと最内列の玉4cとに、互いに背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0038】
本例のハブユニット軸受1は、寿命と剛性とのうちの剛性を優先して設計されたハブユニット軸受である。すなわち、本例では、軸方向に関して最外列と最内列との間に位置する列である中間列に配置された、中間列の玉4bに、最内列の玉4cとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0039】
すなわち、本例では、中間列の外輪軌道5bは、軸方向内側に、軸方向外側よりも径方向内側に大きく張り出した溝肩部を有する。中間列の内輪軌道7bは、軸方向外側に、軸方向内側よりも径方向外側に大きく張り出した溝肩部を有する。これにより、中間列の玉4bに、最内列の玉4cとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0040】
最外列の玉4aおよび最内列の玉4cには、最外列の外輪軌道5aと最内列の外輪軌道5cとの位置関係、および、最外列の内輪軌道7aと最内列の内輪軌道7cとの位置関係に基づく、定位置予圧方式の予圧が付与されている。
【0041】
本例では、中間列の外輪軌道5bが、押圧力により軸方向の移動が可能であり、中間列の玉4bには、定圧予圧方式の予圧が付与されている。
【0042】
このために、本例では、外輪2は、本体部である外輪本体11と、可動部である小外輪12と、予圧ばね13とを組み合わせてなる。外輪本体11は、最外列の外輪軌道5aと最内列の外輪軌道5cとを備える。小外輪12は、中間列の外輪軌道5bを備え、かつ、外輪本体11に対して軸方向の移動を可能に組み合わされている。予圧ばね13は、小外輪12に対して前記押圧力を付与する。中間列の玉4bには、予圧ばね13の押圧力に基づく、定圧予圧方式の予圧が付与されている。
【0043】
最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに付与された予圧が、中間列の玉4bに付与された予圧よりも大きい。
【0044】
以下では、本例のハブユニット軸受1における、それぞれの列の玉4a、4b、4cに上述のような予圧を付与するための外輪2およびハブ3の構成について、より具体的に説明する。
【0045】
外輪2を構成する外輪本体11は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製であり、内周面に、最外列の外輪軌道5aおよび最内列の外輪軌道5cを有し、外周面に、静止フランジ6を有する。
【0046】
外輪本体11は、最内列の外輪軌道5cの軸方向外側に隣接する部分に、径方向内側に突出する円輪状の内向鍔部14を有する。さらに、外輪本体11は、内周面のうち、軸方向に関して最外列の外輪軌道5aと内向鍔部14との間に位置する部分に、円筒面状のガイド面15を有する。
【0047】
外輪2を構成する小外輪12は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製であり、内周面に、中間列の外輪軌道5bを有する。
【0048】
小外輪12は、外輪本体11のガイド面15に、径方向のがたつきが生じない隙間嵌めで内嵌されている。すなわち、小外輪12は、ガイド面15に、径方向のがたつきなく、軸方向の移動を可能に内嵌されている。
【0049】
なお、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、本体部(本例では外輪本体11)と可動部(本例では小外輪12)との互いに向かい合う周面同士の間に、ブッシュなどの滑り軸受を設置して、本体部に対する可動部の軸方向移動を、より円滑に行えるようにすることもできる。
【0050】
外輪2を構成する予圧ばね13は、皿ばねやコイルばねなどの適宜のばねにより構成されている。ハブユニット軸受1の組立状態で、予圧ばね13は、外輪本体11の内向鍔部14の軸方向外側面と小外輪12の軸方向内側面との間で軸方向に弾性的に圧縮されており、自身の弾性的な復元力により、小外輪12を外輪本体11に対して軸方向外側に向けて押圧している。
【0051】
ハブ3は、内輪16とハブ輪17とを組み合わせてなる。
【0052】
内輪16は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製であり、外周面に、最内列の内輪軌道7cを有する。
【0053】
ハブ輪17は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製であり、外周面に、最外列の内輪軌道7aと、中間列の内輪軌道7bと、回転フランジ8とを有し、かつ、中心部にスプライン孔9を有する。
【0054】
ハブ輪17は、中間列の内輪軌道7bよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪16が外嵌される小径段部18を有する。さらに、ハブ輪17は、小径段部18の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面19を有し、かつ、小径段部18の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部20を有する。
【0055】
ハブ3は、ハブ輪17の小径段部18に内輪16を外嵌し、かつ、ハブ輪17の段差面19とかしめ部20との間で内輪16を軸方向両側から挟持することにより、内輪16とハブ輪17とを結合固定することで構成されている。
【0056】
本例では、外輪本体11に備えらえた最外列の外輪軌道5aと最内列の外輪軌道5cとの位置関係、および、ハブ3を組み立てた状態での最外列の内輪軌道7aと最内列の内輪軌道7cとの位置関係を規制することにより、最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに、定位置予圧方式の予圧を付与している。また、小外輪12を外輪本体11に対して軸方向外側に向けて押圧する予圧ばね13の押圧力を規制することにより、中間列の玉4bに、定圧予圧方式の予圧を付与している。
【0057】
本例では、中間列の玉4bの直径を、最外列の玉4aの直径および最内列の玉4cの直径よりも小さくしている。これにより、ハブユニット軸受1の径方向の幅寸法を小さく抑えることで、ハブユニット軸受1を軽量に構成できるようにしている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、中間列の玉の直径と、最外列の玉の直径および最内列の玉の直径との大小関係を、本例と異ならせることもできる。
【0058】
本例では、最外列の玉4aの直径と最内列の玉4cの直径とを互いに等しくしている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、最外列の玉の直径と最内列の玉の直径とを互いに異ならせることもできる。
【0059】
本例では、最外列の玉4aのピッチ円直径と最内列の玉4cのピッチ円直径とを互いに等しくし、かつ、中間列の玉4bのピッチ円直径を、最外列の玉4aのピッチ円直径および最内列の玉4cのピッチ円直径のよりも小さくしている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、3列の玉4a、4b、4cのピッチ円直径の大小関係を、本例と異ならせることもできる。いずれにしても、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、採用した各列のピッチ円直径の大小関係を満たした上で、それぞれの列の玉として、適切なサイズの玉を選定する。
【0060】
以上のように、本例のハブユニット軸受1では、最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに定位置予圧方式の予圧を付与する構成を採用している。このため、最外列の外輪軌道5aおよび内輪軌道7a、ならびに、最内列の外輪軌道5cおよび内輪軌道7cの超仕上げ加工の被削量にばらつきが生じ、該外輪軌道5a、5cおよび内輪軌道7a、7cの寸法がばらついた場合でも、該外輪軌道5a、5cおよび内輪軌道7a、7cの寸法を測定し、その測定結果に応じた寸法の玉4a、4bを選択して組み付けることによって、最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに適正範囲の予圧を付与することができる。
【0061】
また、中間列の玉4bに定圧予圧方式の予圧、すなわち外輪軌道5bおよび内輪軌道7bの寸法ばらつきに対する感度が低い方式の予圧を付与する構成を採用している。このため、該外輪軌道5bおよび内輪軌道7bの超仕上げ加工の被削量にばらつきが生じ、該外輪軌道5bおよび内輪軌道7bの寸法がばらついた場合でも、予圧ばね13の押圧力を調整することにより、中間列の玉4bに適正範囲の予圧を付与することが容易となる。具体的には、中間列の玉4bに、最外列の玉4aおよび最内列の玉4cに付与される予圧よりも小さい、適正範囲の予圧を付与することが容易となる。
【0062】
したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、互いに同じ方向の接触角を持つ最外列および中間列において、最外列で中間列よりも支承荷重の分担を大きくして、実質的な作用点間距離を、最外列と最内列との列間距離、すなわち長い作用点間距離にすることができる。その結果、実質的な作用点間距離が、中間列と最内列との列間距離、すなわち短い作用点間距離になる場合に比べて、モーメント剛性および/または寿命を確保しやすい。
【0063】
[第2例]
図2は、本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受を示している。
【0064】
本例のハブユニット軸受1aは、寿命と剛性とのうちの剛性を優先して設計されたハブユニット軸受であって、押圧力により中間列の内輪軌道7bの軸方向の移動を可能とすることで、中間列の玉4bに定圧予圧方式の予圧を付与する点が、第1例と異なる。
【0065】
具体的には、本例では、外輪2aは、単一部品により構成されている。外輪2aの内周面に備えられた3列の外輪軌道5a、5b、5cは、軸方向の相対移動が不能である。
【0066】
本例では、ハブ3aは、本体部である内輪16aとハブ輪17aとの結合体と、可動部である小内輪21と、予圧ばね13aとを組み合わせてなる。
【0067】
最外列の内輪軌道7aは、ハブ輪17aの軸方向中間部の外周面に備えられており、最内列の内輪軌道7cは、内輪16aの軸方向内側の半部の外周面に備えられており、最外列の内輪軌道7aと最内列の内輪軌道7cとは、軸方向の相対移動が不能である。
【0068】
ハブ輪17aの段差面19は、軸方向に関して最外列の内輪軌道7aと中間列の内輪軌道7bとの間に位置している。内輪16aは、最内列の内輪軌道7cよりも軸方向外側に位置する、軸方向外側の半部の外周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径が小さい円筒面状のガイド面15aを備える。
【0069】
小内輪21は、外周面に、中間列の内輪軌道7bを有する。小内輪21は、内輪16aのガイド面15aに、径方向のがたつきが生じない隙間嵌めで外嵌されている。すなわち、小内輪21は、ガイド面15aに、径方向のがたつきなく、軸方向の移動を可能に外嵌されている。すなわち、中間列の内輪軌道7bは、最外列の内輪軌道7aおよび最内列の内輪軌道7cに対する軸方向移動が可能である。
【0070】
予圧ばね13aは、ハブ輪17aの段差面19と小内輪21の軸方向外側面との間で軸方向に弾性的に圧縮されており、自身の弾性的な復元力により、小内輪21を、内輪16aとハブ輪17aとの結合体に対して軸方向内側に向けて押圧している。本例では、このような予圧ばね13aの押圧力を規制することにより、中間列の玉4bに、定圧予圧方式の予圧を付与している。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0071】
[第3例]
図3は、本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受を示している。
【0072】
本例のハブユニット軸受1bは、寿命と剛性とのうちの寿命を優先して設計されたハブユニット軸受であって、中間列の玉4bに、最外列の玉4aとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている点が、第1例と異なる。
【0073】
具体的には、本例では、中間列の外輪軌道5bは、軸方向外側に、軸方向内側よりも径方向内側に張り出した溝肩部を有し、中間列の内輪軌道7bは、軸方向内側に、軸方向外側よりも径方向外側に張り出した溝肩部を有する。これにより、中間列の玉4bに、最外列の玉4aとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0074】
本例では、外輪2bを構成する外輪本体11aは、最外列の外輪軌道5aの軸方向内側に隣接する部分に、径方向内側に突出する円輪状の内向鍔部14aを有する。さらに、外輪本体11aは、内周面のうち、軸方向に関して最内列の外輪軌道5cと内向鍔部14aとの間に位置する部分に、円筒面状のガイド面15を有する。
【0075】
本例では、中間列の外輪軌道5bを備える小外輪12aは、外輪本体11のガイド面15に、径方向のがたつきなく、軸方向の移動を可能に内嵌され、かつ、内向鍔部14aの軸方向内側面と小外輪12aの軸方向外側面との間で軸方向に弾性的に圧縮された予圧ばね13により、外輪本体11aに対して軸方向内側に向けて押圧されている。本例では、このような予圧ばね13の押圧力を規制することにより、中間列の玉4bに、定圧予圧方式の予圧を付与している。
【0076】
本例では、ハブ3bを構成するハブ輪17bの段差面19は、軸方向に関して最外列の内輪軌道7aと中間列の内輪軌道7bとの間に位置している。内輪16bは、最内列の内輪軌道7cよりも軸方向外側に位置する、軸方向外側の半部の外周面に、中間列の内輪軌道7bを有する。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0077】
[第4例]
図4は、本開示の実施の形態の第4例のハブユニット軸受を示している。
【0078】
本例のハブユニット軸受1cは、寿命と剛性とのうちの寿命を優先して設計されたハブユニット軸受であって、中間列の玉4bに、最外列の玉4aとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている点が、第2例と異なる。
【0079】
具体的には、本例では、中間列の外輪軌道5bは、軸方向外側に、軸方向内側よりも径方向内側に張り出した溝肩部を有し、中間列の内輪軌道7bは、軸方向内側に、軸方向外側よりも径方向外側に張り出した溝肩部を有する。これにより、中間列の玉4bに、最外列の玉4aとの関係で背面組み合わせ型となる接触角が付与されている。
【0080】
本例では、ハブ3cにおいて、中間列の内輪軌道7bを備えた小内輪21aは、内輪16aの軸方向中間部に存在する軸方向外側を向いた段差面22と小内輪21aの軸方向内側面との間で軸方向に弾性的に圧縮された予圧ばね13aにより、内輪16aとハブ輪17aとの結合体に対して軸方向外側に向けて押圧されている。本例では、このような予圧ばね13aの押圧力を規制することにより、中間列の玉4bに、定圧予圧方式の予圧を付与している。本例についてのその他の構成および作用効果は、第2例と同様である。
【0081】
なお、本開示のハブユニット軸受は、転動体として円すいころを使用するハブユニット軸受に適用することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1、1a、1b、1c ハブユニット軸受
2、2a、2b 外輪
3、3a、3b、3c ハブ
4a、4b、4c 玉
5a、5b、5c 外輪軌道
6 静止フランジ
7a、7b、7c 内輪軌道
8 回転フランジ
9 スプライン孔
10a、10b、10c 保持器
11、11a 外輪本体
12、12a 小外輪
13、13a 予圧ばね
14、14a 内向鍔部
15、15a ガイド面
16、16a、16b 内輪
17、17a、17b ハブ輪
18 小径段部
19 段差面
20 かしめ部
21、21a 小内輪
22 段差面
図1
図2
図3
図4