(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130380
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】螺旋状掛止め材
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E02D29/02 309
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040060
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】518264055
【氏名又は名称】株式会社エンバイン
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 喜央
【テーマコード(参考)】
2D048
【Fターム(参考)】
2D048AA82
2D048AA92
(57)【要約】
【課題】押したり引いたりしてもフックから外れるおそれが少なく、作業効率が良い螺旋状掛止め材を提供する。
【解決手段】二つの部材間に架け渡されて両者を掛け止める棒材又は管材からなる掛止め材1において、少なくとも一端が、一回転以上軸線が螺旋状に巻かれた螺旋部1aが形成され、その螺旋部1aの軸線の間隔が前記部材の掛止めフック又は掛け止めるための掛止め孔が形成された掛止め部の部材厚を挿通できる間隔とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの部材間に架け渡されて両者を掛け止める棒材又は管材からなる掛止め材であって、
少なくとも一端が、一回転以上軸線が螺旋状に巻かれた螺旋部が形成され、その螺旋部の軸線の間隔が前記部材の掛止めフック又は掛け止めるための掛止め孔が形成された掛止め部の部材厚を挿通できる間隔となっていること
を特徴とする螺旋状掛止め材。
【請求項2】
前記螺旋部は、前記棒材又は管材の前記螺旋部を除く一般部の軸線に対して直交する面に沿うように螺旋状に巻かれていること
を特徴とする請求項1に記載の螺旋状掛止め材。
【請求項3】
両端に前記螺旋部が形成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材。
【請求項4】
前記二つの部材は、一方が補強土壁の壁面パネルであり、他方が当該壁面パネルの支持部材であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材。
【請求項5】
前記二つの部材は、一方が少なくとも一般型枠であり、アイボルトを介して揺動自在に掛け止められていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺旋状掛止め材に関し、詳しくは、補強土壁に用いられる壁面パネル、残置型枠、又は一般型枠のフックを掛止めるのに最適な螺旋状掛止め材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロック積み擁壁やコンクリート擁壁の代替として、補強土壁工法により補強土壁が構築されている。このような補強土壁は、残置型枠となる壁面パネルを斜面に沿って積み上げ、固定用の鉄筋等に掛け止めれて支持されている。また、壁面パネルの斜面側の背面は、空洞のままであったり、コンクリート等を打設したり、土砂等を充填したりすることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、積み上げて壁面の外面を形成するための略立方体形状の壁面パネルにおいて、隣接する壁面パネルと係合するガイドランナー6と、壁面パネルを固定物20に固定されたセパレータ30と結合するフック7を備える壁面パネルであって、上記ガイドランナーが、壁面パネルの上辺5aと下辺5b付近のそれぞれに2箇所以上に設けられていることと、上記フックが、上記ガイドランナーとは独立に壁面パネルの裏面5の適所に設けられている壁面パネル1及びそれを用いた壁面構築方法が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0014]~[0032]、図面の
図1~
図12等参照)。
【0004】
このような残置型枠となる壁面パネル1は、フック状の棒材であるセパレータ30で掛け止められている。しかし、壁面パネル1は、正面側を面一としなければ見栄えが悪く、セパレータ30の長さを調節するだけでなく、壁面パネル1の角を押し引きして調節することがある。このとき、壁面パネル1を押すことにより、セパレータ30の長手方向の両端から圧縮力が作用した場合に、セパレータ30がフック7から外れてしまい、セパレータ30の長さ調整からやり直す必要が生じる場合がある。また、このとき、セパレータ30が外れた壁面パネル1だけでなく、周囲の壁面パネル1を取り外してやり直さないと手が入らない事態となり、作業効率が極めて悪くなるという問題もあった。
【0005】
このような型枠の間隔を保持するセパレータで圧縮力が作用しても対抗できるものとしては、特許文献2には、蟻足状の溝に、先端が円錐状に拡径したほぞ83となった連結棒83が差し込まれて連結されたパネル体が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0019]~[0029]、図面の
図1~
図3等参照)。
【0006】
このような特許文献2の連結棒83は、引張力や圧縮力が作用しても対抗できるものの、パネル体の端部からしかあり足状の溝に連結棒83を挿し込むことができず、その点で作業効率が悪いものであった。特に、前述の強土壁の壁面パネルのように、パネル同士を平行に設置せずに、現地の状況合わせてカーブするような現地合わせでパネルを並べていくようなものに適用した場合、極めて作業効率が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-179096号公報
【特許文献2】特開平11-141033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、押したり引いたりしてもフックから外れるおそれが少なく、作業効率が良い螺旋状掛止め材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の螺旋状掛止め材は、二つの部材間に架け渡されて両者を掛け止める棒材又は管材からなる掛止め材であって、少なくとも一端が、一回転以上軸線が螺旋状に巻かれた螺旋部が形成され、その螺旋部の軸線の間隔が前記部材の掛止めフック又は掛け止めるための掛止め孔が形成された掛止め部の部材厚を挿通できる間隔となっていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の螺旋状掛止め材は、請求項1に記載の螺旋状掛止め材において、前記螺旋部は、前記棒材又は管材の前記螺旋部を除く一般部の軸線に対して直交する面に沿うように螺旋状に巻かれていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の螺旋状掛止め材は、請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材において、両端に前記螺旋部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の螺旋状掛止め材は、請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材において、前記二つの部材は、一方が補強土壁の壁面パネルであり、他方が当該壁面パネルの支持部材であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の螺旋状掛止め材は、請求項1又は2に記載の螺旋状掛止め材において、前記二つの部材は、一方が少なくとも一般型枠であり、アイボルトを介して揺動自在に掛け止められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1~5に係る発明によれば、螺旋状掛止め材をフックに比較的簡単に掛け止めることができ、パネルを押したり引いたりして出入りを調整してもフックから螺旋状掛止め材が外れるおそれが少なく、作業効率が良い。
【0015】
特に、請求項2に係る発明によれば、前記螺旋部は、一般部の軸線に対して直交する面に沿うように螺旋状に巻かれているので、螺旋状掛止め材の一般部を持って軸線の軸に沿って回転させるだけで、螺旋部を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。このため、鉄筋が込み入って掛止め材を掛け止める位置を支点に回転させるスペースが無い状態でも容易に螺旋部を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。よって、鉄筋施工後に掛止め材が外れてしまった場合でも後からにも螺旋部を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。
【0016】
特に、請求項3に係る発明によれば、両端が螺旋状に形成されているので、いずれの連結部分に対しても押し引きしても外れ難い構造とすることができ、さらに外れ難く作業効率が向上する。
【0017】
特に、請求項4に係る発明によれば、補強土壁工法による補強土壁に螺旋状掛止め材を適用して、壁面パネルの構築作業の効率化・工期短縮を達成することができる。
【0018】
特に、請求項5に係る発明によれば、従来のセパレータのように、型枠とセパレータが剛接合とならず、螺旋状掛止め材とアイボルトが揺動自在なピン接合となる。このため、曲面型枠などの特殊な形状の型枠にも対応して型枠同士を接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る螺旋状掛止め材を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、同上の螺旋状掛止め材を示す図であり、(a)が軸方向直角に水平方向に見た側面図、(b)が平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る螺旋状掛止め材を示す図であり、(a)が軸方向直角に水平方向に見た側面図、(b)が平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3実施形態に係る螺旋状掛止め材を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係る螺旋状掛止め材を用いて壁面パネルを取り付けた壁面パネルの取付構造を示す鉛直断面図である。
【
図6】
図6は、各壁面パネルの取付構造を拡大して示す
図5のA部拡大図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材で掛け止める壁面パネルを示す図であり、(a)が正面図、(b)が右側面図である。
【
図8】
図8は、同上の壁面パネルを示す図であり、(a)が背面図、(b)が平面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材で掛け止める枠固定クランプを示す図であり、(a)が正面図、(b)が平面図である。
【
図10】
図10は、同上の枠固定クランプ4を示す右側面図である。
【
図11】
図11は、螺旋状掛止め材の掛止め方法を説明する説明図であり、(a)が掛止めフックに螺旋状掛止め材を掛け止める前を示す図、(b)が掛止めフックに螺旋状掛止め材を掛け止めた状態を示す図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る螺旋状掛止め材で壁面パネルのパネルフックに掛け止める手順を示す説明図であり、(a)~(d)の順番で掛け止める。
【
図13】
図13は、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材をアイボルトに掛け止めている使用形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る高さ調整コンクリート擁壁の壁面パネル設置構造及び高さ調整コンクリート擁壁の構築方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
<螺旋状掛止め材>
先ず、
図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1を示す斜視図である。また、
図2は、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1を示す図であり、(a)が軸方向直角に水平方向に見た側面図、(b)が平面図である。
【0022】
螺旋状掛止め材1は、直径が3mm~13mm程度の鋼線からなり、
図1,
図2に示すように、鋼線の軸線に沿った長手方向の一端である掛け止めるフック側の端部(先端)が、側面視で一回転以上軸線が螺旋状に巻かれた螺旋部1aが形成されている。なお、この螺旋状掛止め材1は、先端と反対側の長手方向の端部(基端)は、直線状との直線部1bとなっている。なお、本発明に係る螺旋状掛止め材は、鋼線や鋼材からなるものに限られず、棒材や管材からなるものには適用することができる。
【0023】
螺旋部1aは、
図1,
図2(b)に示すように、鋼線の軸線が360度以上巻かれて所定の曲率で曲げ加工されており、先端が開いて軸線の間隔が離間距離D1だけ離間している。この離間距離D1は、掛け止める掛止めフック(パネルフック32)や掛止め孔(43a)が形成された掛止め部(掛止め片43)の部材厚と略同等となっている。ここで、略同等とは、離間距離D1が掛止めフックや掛止め部を挿通できる間隔であることを指しており、離間距離D1が掛止めフックや掛止め部より狭い場合でも螺旋部1aの軸線が押し開いて挿通できる場合を含んでいる。
【0024】
また、螺旋部1aの円弧の内径は、後述の掛止めフック(パネルフック32)の内径又は掛止め部(掛止め片43)の掛止め孔(43a)からの縁までの距離と同等の内径となっている。図示形態では、内径6mm程度となっている。また、
図2(b)に示すように、この螺旋部1aは、直線部1bに対する円弧の角度が角度αだけ傾斜して螺旋状となっており、結果的に離間距離D1だけ軸線の間隔が開いている。
【0025】
[第2実施形態]
次に、
図3を用いて、本発明の第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’について説明する。第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’が、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1と相違する点は、主に、長手方向の両端に螺旋部1aが形成されている点である。よって、その点を主に説明し、同一構成は、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
図3は、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’を示す図であり、(a)が軸方向直角に水平方向に見た側面図、(b)が平面図である。
【0026】
螺旋状掛止め材1’は、螺旋状掛止め材1と同様に鋼線からなり、
図3に示すように、前述の螺旋部1aが、長手方向に両端に設けられている。また、螺旋状掛止め材1’は、直線部1bの各螺旋部1aと反対側には、それぞれねじ山が形成されたねじ部1cとなっており、ねじ部1c,1c同士が高ナット等の長さ調整部1dで連結されて長さ調整自在となっている。勿論、長さ調整部1dは、高ナットに限られるターンバックルなど、ねじ部同士を長さ調整自在に連結する他の長さ調整連結具であっても構わない。
【0027】
[第3実施形態]
次に、
図4を用いて、本発明の第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1”について説明する。第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1”が、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1と相違する点は、主に、螺旋部1a”の形状が異なる点である。よって、その点を主に説明し、同一構成は、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
図4は、第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1’を示す斜視図である。
【0028】
螺旋状掛止め材1”は、螺旋状掛止め材1と同様に直径が3mm~13mm程度の鋼線からなり、
図4に示すように、鋼線の軸線に沿った長手方向の一端が、正面視で一回転以上軸線が螺旋状に巻かれた螺旋部1a”となっている。詳細に説明すると、この螺旋状掛止め材1”の螺旋部1a”は、鋼線の螺旋部1a”を除く一般部の軸線に対して直交する面に沿うように螺旋状に巻かれている。
【0029】
また、この螺旋部1a”は、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1と同様に、先端が開いて軸線の間隔が離間距離D1だけ離間している。この離間距離D1は、掛け止める掛止めフック(パネルフック32)や掛止め孔(43a)が形成された掛止め部(掛止め片43)の部材厚と略同等となっている。このため、後述のように、掛け止める掛止めフック(パネルフック32)や掛止め孔(43a)に対して、一般部の軸線の軸を中心として回転させるだけで、螺旋部1a”を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。
【0030】
このため、鉄筋が込み入って掛止め材1”を掛け止める位置を支点に回転させるスペースが無い状態でも容易に螺旋部1a”を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。よって、調整中に鉄筋施工後に掛止め材1”が外れてしまった場合でも後からにも螺旋部1a”を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。
【0031】
なお、この螺旋状掛止め材1”は、先端と反対側の長手方向の端部(基端)は、直線状との直線部1b”となっている。なお、本発明に係る螺旋状掛止め材は、鋼線や鋼材からなるものに限られず、棒材や管材からなるものには適用することができる。また、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’と同様に、長手方向の両端に螺旋部1a”が形成してもよい。
【0032】
[螺旋状掛止め材の適用形態]
<壁面パネルの取付構造>
次に、
図5,
図6を用いて、螺旋状掛止め材の適用形態について説明する。第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’を用いて、補強土壁の土砂Sの斜面形状を保持する鋼製枠2に鋼製枠2との間隔を調整しつつ壁面パネル3を取り付ける場合を例示して説明する。
図5は、本発明の第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1を用いて壁面パネル3を取り付けた壁面パネルの取付構造10を示す鉛直断面図であり、
図6は、各壁面パネルの取付構造10を拡大して示す
図5のA部拡大図である。
【0033】
図5,
図6に示すように、補強土壁に螺旋状掛止め材1’を用いる場合は、エキスパンドメタル又は溶接金網からなる鋼製枠2に枠固定クランプ4を取り付け、取り付けた枠固定クランプ4に螺旋状掛止め材1’を掛け止めて鋼製枠2と壁面パネル3との離間状態を調整しつつ壁面パネル3を取り付け、壁面パネルの取付構造10を構築する。
【0034】
<壁面パネル>
次に、
図7,
図8を用いて、螺旋状掛止め材1’を用いて掛け止める壁面パネル3について説明する。
図7は、螺旋状掛止め材1’を用いて掛け止める壁面パネル3を示す図であり、(a)が正面図、(b)が右側面図である。また、
図8は、壁面パネル3を示す図であり、(a)が背面図、(b)が平面図である。なお、正面(表面)とは、補強土壁の擁壁の斜面に向かって見た面を指すものとする(以下同じ。)。
【0035】
図7に示すように、壁面パネル3は、防草及び景観向上のために鋼製枠2で保持された補強土壁などの擁壁の前面を覆うように設置される正面視矩形状のパネルであり、背面に裏込めコンクリートが打設される場合は、残置(残存)型枠としても機能する。但し、壁面パネルの取付構造10には、原則裏込めコンクリートを打設する必要はない。
【0036】
本実施形態に係る壁面パネル3は、軽量モルタルなどのセメント系経時硬化材に引張補強材として鋼線が埋設されたプレキャスト製の軽量パネルであり、
図8に示すように、幅W1=800mm×高さH1=400mmの長方形状に成形されている。また、この壁面パネル3は、正面から見える表面に石垣を模した図示しない擬岩模様が形成され、背面となる裏面がフラットに形成されている。勿論、壁面パネル3の寸法等は、例示であり、幅900mm×高さ300mmや、半割タイプである幅400mm×高さ400mm、幅450mm×高さ300mm等、適宜設定できることは云うまでもない。
【0037】
また、壁面パネル3の材質は、セメント系経時硬化材に限られず、樹脂など他の材質から構成しても構わない。但し、壁面パネル3は、作業員が一人で持ち運べる程度以下の重量からなる軽量パネルとすることが好ましい。クレーンなどの揚重機やチェーンブロックなどの揚重装置が不要となるからである。
【0038】
この壁面パネル3は、
図7,
図8に示すように、セメント系経時硬化材からなる鉛直断面及び水平断面が台形状のパネル本体30と、このパネル本体30の裏面から鋼製枠2側に突設された上下三対ずつの計6つのガイドランナー31と、螺旋状掛止め材1’で掛け止められる上下2段の左右二対の4つのパネルフック32など、から構成されている。
【0039】
(ガイドランナー)
このガイドランナー31は、壁面パネル3同士を掛け止めるための鋼線からなる側面視コの字状のフックである。螺旋状掛止め材1’で掛け止められた下段の壁面パネル3に他の上段の壁面パネル3を載置すると、互いのガイドランナー31同士が、他の壁面パネル3に掛け止められることにより、載置した壁面パネル3が自立するように構成されている。このように、載置した壁面パネル3が自立することにより、パネルフック32に螺旋状掛止め材1’を掛け止める作業が作業員一人でも極めて容易となる。
【0040】
なお、ガイドランナー31は、
図7(a),
図8(a),
図8(b)に示すように、パネル本体30の上部に設けられたガイドランナー31と、パネル本体30の下部に設けられたガイドランナー31とが、隣接する上下段の他の壁面パネル3のガイドランナー31と干渉しないように、左右にずれて設けられている。
【0041】
(パネルフック)
パネルフック32は、螺旋状掛止め材1’で壁面パネル3を掛け止めるための鋼線からなるくの字状のフックであり、
図7(b)に示すように、鋼線が途中で一回転したループ部32aが形成されている。このループ部32aに螺旋状掛止め材1’の螺旋部1aが掛け止められることにより、鋼製枠2がはらんで壁面パネル3に背面から押圧力が作用した場合でも、後述の枠固定クランプ4の掛止め片43がループ部32aから外れて離脱するおそれを低減することができる。しかも、壁面パネルの取付構造10では、螺旋状掛止め材1’で壁面パネル3を掛け止めているため、壁面パネル3を押したり引いたりして出入りを調整してもパネルフック32から螺旋状掛止め材1’が外れるおそれが少なく、作業効率が良い。
【0042】
<枠固定クランプ>
次に、
図9,
図10を用いて、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’で掛け止める壁面パネルの取付構造10の枠固定クランプ4について説明する。
図9は、壁面パネルの取付構造10の枠固定クランプ4を示す図であり、(a)が正面図、(b)が平面図である。また、
図10は、壁面パネルの取付構造10の枠固定クランプ4を示す右側面図である。
【0043】
枠固定クランプ4は、
図9,
図10に示すように、螺旋状掛止め材1’を介して鋼製枠2に壁面パネル3を掛け止めるために、鋼製枠2に固定するためのクランプである。この枠固定クランプ4は、クランプ本体40と、このクランプ本体40にねじ止めされるフックボルト41と、クランプ本体40に接合されたステンレス製の当接板42と、を備えており、壁面パネル3を螺旋状掛止め材1’で掛け止めるための支持部材として機能する。
【0044】
(クランプ本体)
このクランプ本体40は、厚さ3mm程度のステンレス鋼板から切削及び曲げ加工されて形成された部材である。また、
図9,
図10に示すように、このクランプ本体40には、螺旋状掛止め材1’の螺旋部1aを掛け止める掛止め片43が形成されているとともに、鋼製枠2のエキスパンドメタルを構成する枠材を挿通する凹溝44が形成されている。そして、クランプ本体40の中央付近には、フックボルト41を挿通するボルト孔(図示せず)が穿設されている。
【0045】
この掛止め片43には、螺旋状掛止め材1’の螺旋部1aを掛け止める直径8mmの円形の孔かなる掛止め孔43aが形成されている。勿論、掛止め孔43aの径は、適宜定めればよい。このように、壁面パネルの取付構造10では、螺旋状掛止め材1’で掛止め片43に掛け止めているため、壁面パネル3を押したり引いたりして出入りを調整しても掛止め片43から螺旋状掛止め材1’が外れるおそれが少なく、作業効率が良い。
【0046】
また、凹溝44は、
図10に示すように、鋼製枠2側となる図示下端の幅が広く、奥側となる上端の幅が狭いテーパー状の側辺となっている。
【0047】
(フックボルト)
フックボルト41は、ステンレス製のボルトであり、先端がJ字状に折れ曲がったJ字フック41aと、M8のねじ山が形成されたねじ部41bと、このねじ部41bと螺合するM8のステンレス製のナット41cなど、から構成されている。勿論、ねじの径は、M8を例示したに過ぎず、大きさに応じて適宜選定すればよいことは云うまでもない(以下同じ)。
【0048】
(当接板)
当接板42は、厚さ3mm程度のステンレス鋼板であり、クランプ本体40と同様に、中央にフックボルト41を挿通するボルト孔(図示せず)が穿設されている。この当接板42は、中央のボルト孔に挿通されたフックボルト41で鋼製枠2の枠材に掛け止められたときに、両端部が鋼製枠2の枠材の他の部分に必ず当接する長さを有している。図示形態では、当接板42の長さは80mmとなっており、フックボルト41で中央が掛け止められた状態で当接板42の両端までの長さを40mm確保することで、エキスパンドメタルの枠材に三点以上で接触することを担保している。
【0049】
勿論、この当接板42の長さは、鋼製枠2の枠材の隙間間隔や配置位置に応じて適宜設定されるものであり、溶接金網からなる鋼製枠2の場合は、枠材である溶接金網の間隔の倍以上の長さとすることが好ましい。
【0050】
なお、当接板42は、クランプ本体40と溶接接合されている。しかし、当接板42は、枠材に三点以上で接触する長さを有していればよく、クランプ本体40と一体成形されていても構わない。その場合は、当接板42と一体となったクランプ本体40に前述の掛止め片43が溶接されるなどして取り付けられていればよい。
【0051】
このように枠固定クランプ4は、鋼製枠2の枠材に凹溝44を押し当てた状態で、フックボルト41のJ字フック41aを鋼製枠2の枠材に引っ掛けてナット41cで締め付けることにより、鋼製枠2の枠材が凹溝44の奥の定位置に案内されて確実に掛け止められて固定される。
【0052】
なお、第2実施形態に係る螺旋状掛止め材1’を用いて、補強土壁の土砂Sの斜面形状を保持する鋼製枠2に鋼製枠2との間隔を調整しつつ壁面パネル3を取り付ける場合を例示して説明したが、第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1”を用いて、壁面パネル3を取り付けてもよいことは云うまでもない。
【0053】
[螺旋状掛止め材の掛止め方法]
次に、
図11を用いて、第1実施形態及び第2実施形態に係る螺旋状掛止め材の掛止め方法について説明する。
図11は、螺旋状掛止め材1,1’の掛止め方法を説明する説明図であり、(a)が掛止めフック(パネルフック32)に螺旋状掛止め材1,1’を掛け止める前を示す図、(b)が掛止めフック(パネルフック32)に螺旋状掛止め材1,1’を掛け止めた状態を示す図である。
【0054】
図11(a)に示すように、掛止めフック(パネルフック32)に対し、図の矢印方向に、螺旋状掛止め材1,1’の螺旋部1aの鋼線同士が離間した部分を押し込み、前述の離間距離D1を押し広げながら差し込む。すると、螺旋部1aの鋼線の螺旋状の内周面に沿って、螺旋状掛止め材1,1’が回転しながら、掛止めフック(パネルフック32)に螺旋状掛止め材1,1’の螺旋部1aが差し込まれ、
図11(b)に示す状態となる。
【0055】
このとき、
図11(b)に示すように、掛止めフック(パネルフック32)に螺旋部1aが差し込まれた状態では、掛止めフック(パネルフック32)のループ部と、螺旋部1aのループ部とが互いにほぼ密着した状態となっている。このため、壁面パネル3を押したり引いたりして出入りを調整してもパネルフック32から螺旋状掛止め材1’が外れるおそれが少なく、作業効率が良い。特に、壁面パネルの取付構造10のように、壁面パネル3のパネル同士を平行に設置せずに、現地の状況合わせてカーブするような現地合わせでパネルを並べていくようなものに適用した場合、極めて作業効率が良く、壁面パネルの構築作業の効率化・工期短縮を達成することができる。
【0056】
それに加え、前述のように、螺旋状掛止め材1’を用いた壁面パネルの取付構造10では、螺旋部1aで掛止め片43に掛け止めているため(
図5,
図6参照)、壁面パネル3を押したり引いたりして出入りを調整しても掛止め片43からも螺旋状掛止め材1’が外れるおそれが少なく、作業効率が極めて良い。
【0057】
なお、本発明の第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1を用いる場合は、支持部材(支持材)である鋼棒やアングル材などに対して位置調整(長さ調整)しつつ溶接で固定しても良いし、螺旋状掛止め材1’の長さ調整部1dから一方を、鋼線を単純にJ字状に曲げ加工したJ字フックとすることもできる。
【0058】
次に、
図12を用いて、第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1”の掛止め方法について説明する。
図12は、第3実施形態に係る螺旋状掛止め材1”で壁面パネル(3)のパネルフック32に掛け止める手順を示す説明図である。
図12(a)に示すように、螺旋部1a”は、第1実施形態に係る螺旋状掛止め材1と同様に、先端が開いて軸線の間隔が離間距離D1だけ離間しているので、一般部の軸線の軸を中心として回転させることで、先端の開いた間隔にパネルフック32等の掛止めフックに押し付けて、掛止めフックに螺旋部1a”を挿入する。その後、螺旋状掛止め材1の一般部の軸線の軸を中心として回転を継続すると、(b)~(d)に示すように、螺旋部1a”が掛止めフックに巻きついていき、押したり引いたりしても掛止めフックから外れるおそれが少なく、作業効率が良い。
【0059】
しかも、軸線の軸を中心として回転させるだけで、螺旋部1a”を掛止めフックに掛け止めることができる。このため、掛止め材1”を掛け止める位置を支点に回転させるスペースが無い状態でも容易に螺旋部1a”を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができる。つまり、調整中に鉄筋施工後に掛止め材1”が外れてしまった場合でも後からにも螺旋部1a”を掛止めフックや掛止め孔に掛け止めることができるだけでなく、鉄筋が密に配筋されている橋脚の耐震補強など残置型枠のパネルを掛け止めるセパレータにも好適に適用することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態に係る螺旋状掛止め材1~1”及びそれらを用いた壁面パネルの取付構造10ついて詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明に係る技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0061】
特に、螺旋状掛止め材1~1”で掛け止めるものとして補強土壁の壁面パネル3などの残置型枠を例示して説明したが、これらに限られず、型枠間の間隔調整に使用されるセパレータなど、パネル材を掛け止めて押し引きして調整する作業を行うパネルの取付構造に適用することができる。特に、鉄筋が密に配筋されるような橋脚の耐震補強など残置型枠のパネルを掛け止めるセパレータなどにも好適に適用することができる。また、
図13に示すように、一般型枠F1のPコンPCにアイボルトEB接続してそのアイボルトEBに、螺旋状掛止め材1~1”を掛け止めることにより、従来のセパレータのように、型枠とセパレータが剛接合とならず、螺旋状掛止め材1(~1”)とアイボルトEBが揺動自在なピン接合となる。このため、曲面型枠などの特殊な形状の型枠にも対応して型枠同士を接合可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1,1’,1”:螺旋状掛止め材
1a,1a”:螺旋部
1b:直線部
1c:ねじ部
1d:調整部
10:壁面パネルの取付構造
2:鋼製枠
3:壁面パネル
30:パネル本体
31:ガイドランナー
32:パネルフック
32a:ループ部
4:枠固定クランプ
40:クランプ本体
41:フックボルト
41a:J字フック
41b:ねじ部
42:当接板
43:掛止め片
43a:掛止め孔
44:凹溝
S:土砂
F1:一般型枠
PC:ピーコン
EB:アイボルト