(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130382
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20240920BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040063
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 直幸
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
【Fターム(参考)】
3J042AA04
3J042AA11
3J042CA10
3J042CA12
3J043AA16
3J043BA04
3J043DA03
3J043HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高速で使用でき回転停止時も高密閉性を発揮する軸封装置を提供する。
【解決手段】軸孔61内に形成したシリンダ62の一端をギヤ室131に連通し,該シリンダ62内に円筒状のピストンを挿入して,モータの出力軸51が回転しているときのギヤ室131内の圧力(負圧)に対応した移動位置である第1移動位置と,停止させた時のギヤ室131内の圧力(大気圧以上の圧力)に対応した移動位置である第2移動位置間を移動可能とし,出力軸51が回転しているときにはシール材66を段差部22aより離間させてピストン63内周と回転軸20外周間の微小間隔δにより形成される非接触シール部68によるシールを行う一方,出力軸51を停止させた時には第2移動位置に移動してシール材66でピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sをシールした接触シール部69によりシールする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに形成された軸孔と,該軸孔に挿入された回転軸を備えた機器の前記軸孔の内周面と前記回転軸の外周面間の間隔を封止する軸封装置において,
前記軸孔内に前記回転軸と同心のシリンダを形成し,該シリンダの一端を,前記回転軸の回転速度の変化に伴い内部圧力が変化する前記ケーシング内の空間である変圧空間に連通し,
中央に前記回転軸が微小間隔を介して挿入される開口を備えた円筒状のピストンを前記シリンダ内に挿入して,前記回転軸が所定の回転速度を越えているときの前記変圧空間内の圧力に対応した移動位置である第1移動位置と,前記回転軸が前記所定の回転速度以下であるときの前記変圧空間内の圧力に対応した移動位置である第2移動位置間を前記回転軸の軸線方向に移動可能とし,
前記第2移動位置において前記ピストンの一方の端面と所定の間隔を介して近接対峙する段差部を前記回転軸に形成すると共に,前記ピストンの前記一方の端面,及び/又は,前記段差部のいずれか一方又は双方に,前記回転軸の外周を囲む無端環状のシール材を取り付け,
前記ピストンが前記第2移動位置にあるときに前記シール材が前記ピストンの前記一方の端面と前記段差部間の前記間隔を接触状態でシールする接触シール部を形成すると共に,
前記ピストンの前記第1移動位置への移動時,前記ピストンの前記一方の端面と前記段差部間のシールが解除されて前記ピストンの内周面と前記回転軸の外周間の前記微小隙間によって形成される非接触シール部によるシールを行うことを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記ピストンを前記第1移動位置又は前記第2移動位置に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の軸封装置。
【請求項3】
前記第1移動位置にある前記ピストンの内周面と対向する部分の前記回転軸の外周面に螺旋溝を形成したこと特徴とする請求項1又は2記載の軸封装置。
【請求項4】
前記回転軸が,回転軸本体と,該回転軸本体に外嵌したカラーを備え,該カラーに前記段差部と前記螺旋溝を形成したことを特徴とする請求項3記載の軸封装置。
【請求項5】
前記第2移動位置で前記ピストンの前記一方の端面の外周側の部分と突合するストッパ部を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸封装置に関し,より詳細には,ケーシングに設けた軸孔と,該軸孔内に挿入された回転軸を備えた各種の機器において,前記軸孔の内周と回転軸の外周間の間隔の封止に使用する軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュ圧縮機のようにケーシング内に形成したロータ室内にスクリュロータ等の回転体を収容した機器では,ケーシングに設けた軸孔内にスクリュロータの端部に突設されたロータ軸等の回転軸を挿入すると共に,軸孔の内周と回転軸の外周間の間隔を軸封装置によって封止する,所謂「軸封」が行われる。
【0003】
このような軸封を行うことにより,軸封位置に応じてロータ室からの流体の漏出防止や,ロータ軸を支承する軸受に給油された潤滑油のロータ室に対する浸入防止や機外への漏出防止等を図ることができる。
【0004】
この軸封装置に設けるシールとしては,ラビリンスシールやビスコシール(ネジシール)等に代表される非接触式シールと,リップシールやメカニカルシール等に代表される接触式シールがある。
【0005】
このうちの非接触式シールを採用した軸封装置として,後掲の特許文献1には無給油式スクリュ圧縮機の吸入側においてケーシングに設けた軸孔310の内周とロータ軸320の外周間を封止する軸封装置360が開示されている。
【0006】
この軸封装置360は,
図9に示すように,ガスをシールするエアシール部361と,軸受330からの油をシールする油切りシール部362と,エアシール部361と油切りシール部362との間に設けられたシールボックス部363を有し,該シールボックス部363を,大気開放穴364を介して大気解放した構成を採用する。
【0007】
また,後掲の特許文献2にはスクリュ圧縮機の吐出側の軸封部を非接触式シールと接触式シールを組み合わせてシールする軸封装置460が記載されている。
【0008】
この軸封装置460は,
図10に示すように,スクリュロータ402のロータ軸420の外周と軸孔410内周間の間隔に,スクリュロータ402側から順に,第1非接触シール461と第2非接触シール462とリップシール463を配設し,第1非接触シール461と第2非接触シール462との間の第1シール空間464に潤滑油を供給する給油流路465を連通させると共に,第2非接触シール462とリップシール463との間の第2シール空間466をリップシール463の耐用圧力以下の空間に連通させる(大気解放する)連通孔467を設ける構成を採用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-256828号公報
【特許文献2】特開2009-287413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前掲の特許文献1に記載の軸封装置360では,エアシール部361によってロータ室からの圧縮気体の漏出を防止すると共に,油切りシール部362によって軸受330に給油された潤滑油がロータ室側に浸入することを防止している。
【0011】
しかしながら,特許文献1の軸封装置360で使用しているエアシール部361と油切りシール部362は,いずれも,ロータ軸320との間に形成された微小隙間を介して封止を行う非接触式シールである。
【0012】
このような非接触式シールはロータ軸320の外周面と接触しないため摩擦が殆どないことから,無給油式スクリュ圧縮機のロータ軸320のように高速で回転する回転軸の封止に用いるに適しているが,非接触である分,接触式シールに比較して流体を密封する能力が低い。
【0013】
また,回転軸の回転に伴い発生する動圧を利用してシール性能の向上を得ているビスコシール等の動圧型の非接触シールを使用した場合であっても,回転軸が低速回転状態,又は停止した状態では漏洩防止効果が大きく低下する。
【0014】
そのため,特許文献1に記載の軸封装置360では,油切りシール部362としてビスコシール(ネジシール)を採用しているものの,圧縮作業の停止に伴いスクリュロータの回転を停止すると油切りシール部の漏洩防止効果が低下して軸受330からの潤滑油の漏出を防止することができなくなり,油分の浸入を回避する必要がある無給油式スクリュ圧縮機のロータ室側に軸受330に給油された潤滑油が浸入してしまうおそれがある。
【0015】
これに対し,前掲の特許文献2に記載の軸封装置460の構成では,軸受430からの潤滑油の漏出をリップシール463によって封止する構成を採用する。
【0016】
このリップシール463は,合成ゴム等の弾性材料によって形成されたリップの先端部を回転軸であるロータ軸420の外周に押し当てて隙間なくシールすることから,非接触式シールに比較して密閉性が高く,かつ,ロータ軸420が回転を停止している状態でもシールできるという長所を有する。
【0017】
その結果,特許文献2に記載の構成では,スクリュ流体機械の運転を停止することによりロータ軸420が回転を停止している状態においても軸受430に給油された潤滑油がロータ室側に浸入することを防止できるものとなっている。
【0018】
しかしながら,引用文献2に記載の軸封装置460において軸受430からの漏油を封止しているリップシール463は,前述したように合成ゴム製のリップの先端部をロータ軸420の外周に押し当てる構造であるため,スクリュロータを高速回転させる必要がある無給油式のスクリュ圧縮機のように,高速回転,一例として周速20m/sを超える高速で回転する回転軸の軸封に使用すると,摩擦熱や摩耗等によって破損してしまうことから高速回転軸の軸封に使用することができないという欠点がある。
【0019】
特許文献2に記載の軸封装置460では,このようなリップシール463が有する欠点を補って高速回転する回転軸の軸封を可能とすべく,第1の非接触シール461と第2の非接触シール462間に形成された第1シール空間464に潤滑油を供給すると共に,第2の非接触シール462より漏出した潤滑油をリップシール463に供給することで,リップシール463の過熱に伴う劣化や損傷の発生を防止しつつ,ロータ軸420の回転速度の上昇を実現させることに成功している(特許文献2の段落[0023])。
【0020】
このように特許文献2に記載の構成では,接触式シール(リップシール)463を採用した軸封装置460によって高速回転軸の軸封を可能としているものの,これを実現するためには軸封装置460に2つの非接触式シール461,462と1つの接触式シール463から成る,合計3つのシールを設ける必要があると共に,ケーシングに給油流路465や連通孔467を穿設する必要があるなど,軸封装置460の構造が複雑なものとなっている。
【0021】
しかも,リップシール463を高速回転軸の軸封に適用可能とするために,第1シール空間464に対する給油を必須としていることから,スクリュロータ402が回転を停止して吐出側におけるロータ室内の圧力が低下すると,第1シール空間464に給油された潤滑油がロータ室内に入り込むおそれがある。
【0022】
そのため特許文献2に記載の軸封装置460は,例えば被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮する油冷式のスクリュ圧縮機の軸封装置として採用することは可能であっても,油分を含まない圧縮気体を得るために無給油で被圧縮気体の圧縮を行う無給油式スクリュ圧縮機の軸封装置としては使用できない等,その用途が制限される。
【0023】
このように,非接触式シールのみで構成された軸封装置は,高速回転軸の軸封に使用できるという長所を有するが,接触式シールを備えた軸封装置に比較して漏洩防止性能が低く,かつ,動圧型の非接触式シールを採用して漏洩防止性能の向上を図ったとしても低速回転時,特に回転停止時における漏洩防止を図ることが困難である。
【0024】
一方,非接触式シールに代えて,又は,非接触式シールと共に,接触式シールを設けた軸封装置では,漏洩防止性能を向上させることが可能で,回転軸の停止時においても軸封部の密封が可能であるが,高速で回転する回転軸の軸封に使用することができず,又は,このような高速回転する回転軸の軸封に適用しようとした場合,擦接部に対する給油が必要となる等,構造が複雑となると共に,無給油型のスクリュ圧縮機の軸封装置として使用できない等,その用途が制約される。
【0025】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,高速回転軸の軸封に使用できるものでありながら,低速回転時や回転停止時においても高い密閉性を発揮することができる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0027】
上記目的を達成するために,本発明の軸封装置60は,
ケーシング10に形成された軸孔61と,該軸孔61に挿入された回転軸20を備えた機器の前記軸孔61の内周面と前記回転軸20の外周面間の間隔を封止する軸封装置60において,
前記軸孔61内に前記回転軸20と同心のシリンダ62を形成し,該シリンダ62の一端を,前記回転軸20の回転速度の変化に伴い内部圧力が変化する前記ケーシング10内の空間である変圧空間15に連通し,
中央に前記回転軸20が微小間隔δを介して挿入される開口64を備えた円筒状のピストンを前記シリンダ62内に挿入して,前記回転軸20が所定の回転速度を越えているときの前記変圧空間15内の圧力に対応した移動位置である第1移動位置と,前記回転軸が前記所定の回転速度以下であるときの前記変圧空間15内の圧力に対応した移動位置である第2移動位置間を前記回転軸20の軸線方向に移動可能とし,かつ
前記第2移動位置において前記ピストン63の一方の端面63aと所定の間隔Sを介して近接対峙する段差部22aを前記回転軸20に形成すると共に,前記ピストン63の前記一方の端面63a,及び/又は,前記段差部22aのいずれか一方又は双方に,前記回転軸20の外周を囲む無端環状のシール材66を取り付け,さらに,
前記ピストン63が前記第2移動位置にあるときに前記シール部材66が前記ピストン63の前記一方の端面63aと前記段差部22a間の前記間隔Sを接触状態でシールする接触シール部69を形成すると共に,
前記ピストン63の前記第1移動位置への移動時,前記ピストン63の前記一方の端面63aと前記段差部22a間のシールが解除されて前記ピストン63の内周面と前記回転軸20の外周間の前記微小隙間δによって形成される非接触シール部68によるシールを行うことを特徴とする(請求項1)。
【0028】
上記構成の軸封装置60には,前記ピストン63を前記第1移動位置又は前記第2移動位置に付勢するスプリング等の付勢手段70を設けるものとしても良い(請求項2)。
【0029】
前記第1移動位置にある前記ピストン63の内周面と対向する部分の前記回転軸20の外周面には螺旋溝22bを設けることが好ましい(請求項3)。
【0030】
この場合,前記回転軸20を回転軸本体21と,該回転軸本体21に外嵌したカラー22を備えた構成とし,該カラー22に前記段差部22aと前記螺旋溝22bを形成することが好ましい(請求項4)。
【0031】
更に,上記構成の軸封装置60には,前記第2移動位置で前記ピストン63の前記一方の端面63aの外周側の部分63a’と突合するストッパ部90を設けることができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0032】
以上で説明した本発明の軸封装置60では,回転軸20の回転速度が所定の回転速度を超えている状態では,ピストン63が第1移動位置に移動してピストン63の一方の端面63aと段差部22aとが離間してシール材66によるシールが解除されると共に,ピストン63の内周面と回転軸の外周面間に形成された微小隙間δによって形成された非接触シール部68のみによるシールが行われる。
【0033】
一方,回転軸20の回転速度が所定の回転速度以下(回転の停止及び逆転を含む)の状態では,ピストン63が第2移動位置に移動してピストン63の一方の端面63aと段差部22aが近接配置されると共に,ピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔がシール材66によってシールされて接触シール部69が形成される。
【0034】
その結果,本発明の軸封装置60では,回転軸20が所定の回転速度を超えた状態,従って高速で回転している状態では非接触シール部68によるシールのみが行われ,シール材66によるシールが行われないことから,高速回転軸の軸封に使用した場合であってもシール材66の焼けや摩耗といった問題が生じない一方,回転軸20の回転速度が所定の回転速度以下(停止及び逆転を含む)になると,シール材66によってピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔が封止されて形成される接触シール部69によってシールが行われることで,非接触シール部68によっては得ることのできない高い密封性を実現することができた。
【0035】
このように本発明によれば,非接触式シールと接触式シールのそれぞれの長所をいずれも残しつつ,両シールが持つ短所が取り除かれた,画期的な軸封装置60を提供することができた。
【0036】
前記第1移動位置にある前記ピストン63の内周面と対向する部分の前記回転軸20の外周に螺旋溝22bを形成した構成では,回転軸20の回転に伴う動圧の発生により回転軸20の回転時における非接触シール部68のシール性を向上させることができた。
【0037】
前記回転軸20を回転軸本体21と該回転軸本体21に外嵌したカラー22を備えた構成とし,該カラー22に前記段差部22aと前記螺旋溝22bを形成した構成では,例えばゴミの噛み込みにより螺旋溝22bに傷が入って非接触シール部68のシール性能が低下した場合や,段差部22aの摩耗等(段差部22a側にシール材66を設けている場合にはシール材66の摩耗等)によって接触シール部69の密封性が低下した場合等であっても,回転軸20全体を交換することなくカラー22部分のみを交換するだけで破損や摩耗が生じる前の状態に比較的簡単に回復させることができた。
【0038】
前記第2移動位置で前記ピストン63の前記一方の端面63aの外周側の部分63a’と突合するストッパ部90を設けてピストン63の移動を規制したことで,第2移動位置にある前記ピストン63の前記一方の端面63aと前記段差部22a間に形成される間隔Sが常に一定となり,シール材66の段差部22a(段差部22a側にシール材66を設けた場合にはピストン63の一方の端面63a)に対する押し付け量を一定にすることができた。
【0039】
これにより,シール材66が過度に押し付けられることを防止することができ,シール材66を劣化させ難い構造とすることができた。
【0040】
また,このようにピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sが一定に維持されることで,該部分をシールするシール材66として,比較的強度が低いが回転軸20の表面に対する追従性が高く密閉性が高い,リップシールを採用した場合であっても破損等を生じ難くすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の軸封装置を備えたスクリュ圧縮機の断面図。
【
図2】
図1のスクリュ圧縮機における軸封装置部分の拡大図。
【
図3】
図2の軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第1移動位置にある状態,(B)はピストンが第2移動位置にある状態。
【
図4】変形例(回転軸に直接,螺旋溝と段差部を形成した例)における軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第1移動位置にある状態,(B)はピストンが第2移動位置にある状態。
【
図5】変形例(変圧空間内に発生する負圧を利用してピストンを作動させるようにした例)における軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第2移動位置にある状態,(B)はピストンが第1移動位置にある状態。
【
図6】変形例(軸封装置をスクリュ圧縮機の吐出側の軸封に使用した例)における軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第2移動位置にある状態,(B)はピストンが第1移動位置にある状態。
【
図7】変形例(ピストンの一方の端面の外周側の部分と突合するストッパ部を設けた構成)における軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第1移動位置にある状態,(B)はピストンが第2移動位置にある状態。
【
図8】変形例(ストッパ部の変形例)における軸封装置の上側部分の拡大図であり,(A)はピストンが第1移動位置にある状態,(B)はピストンが第2移動位置にある状態。
【
図9】従来の軸封装置の説明図(特許文献1の
図1に対応)。
【
図10】従来の軸封装置の説明図(特許文献2の
図2に対応)。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に,本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0043】
なお,以下に記載する実施形態では本発明の軸封装置60をスクリュ圧縮機1の軸封に使用する場合を例に挙げて説明するが,本発明の軸封装置60の適用対象はスクリュ圧縮機1に限定されず,回転軸の回転速度の変化に応じて内部圧力が変化する空間(変圧空間)をケーシング内に備えた機器であれば,既知の各種の機器に対し適用可能である。
【0044】
〔スクリュ圧縮機の全体構成〕
図1に,本発明の軸封装置60を備えたスクリュ圧縮機1の全体構成を示す。
【0045】
このスクリュ圧縮機1のケーシング10は,ロータケーシング11と,このロータケーシング11の吸入側端部に設けられた吸入側ケーシング13と,前記ロータケーシング11の吐出側端部に取り付けた吐出側ケーシング12によって構成されており,このうちのロータケーシング11内に形成されたロータ室113内にオス・メス一対のスクリュロータ2,3が噛み合い回転可能に収容されている。
【0046】
ロータケーシング11は,吐出側端部においてロータ室113を開放する筒状に形成されていると共に,吸入側端部にはスクリュロータ2,3の吸入側ロータ軸2b,3bを収容する軸孔が形成され,この軸孔内に形成された軸受室内に軸受を収容し,この軸受によりオス,メス各スクリュロータ2,3の吸入側ロータ軸2b,3bを支承させている。
【0047】
ロータケーシング11の吸入側端部に設けられた吸入側ケーシング13内にはギヤ室131が形成されており,このギヤ室131内には,オス,メスいずれかのスクリュロータ2,3に対してモータ50からの回転駆動力を増速して入力する増速装置30が収容されている。
【0048】
この増速装置30は,一例としていずれか一方のスクリュロータ2又は3の吸入側ロータ軸(図示の実施形態にあってはオスロータ2の吸入側ロータ軸2b)に取り付けた従動歯車31と,この従動歯車31よりも大径の駆動歯車32によって構成されており,モータ50の出力軸51の先端を吸入側ケーシング13に設けた軸孔61を貫通してギヤ室131内に挿入すると共に,このモータ50の出力軸51の先端に前述の駆動歯車32を取り付けることにより,モータ50の出力軸51を介して入力された回転駆動力が増速されてオスロータ2の吸入側ロータ軸2bに伝達され,スクリュロータ2,3を増速回転させることができるように構成されている。
【0049】
ロータケーシング11の吐出側端部は,オスロータ2及びメスロータ3の吐出側ロータ軸2a,3aを収容する軸孔を備えた吐出側ケーシング12で覆われており,スクリュロータ2,3の吐出側ロータ軸2a,3aを,前記吐出側ケーシング12の軸孔内に形成された軸受室内に収容された軸受で支承している。
【0050】
なお,ロータケーシング11には吸気口(図示せず)と,この吸気口に連通する吸入空間117が形成されており,吸気口(図示せず)を介してロータ室113の吸入空間117内に導入された被圧縮気体が,オス・メス一対のスクリュロータ2,3とロータ室113の内壁によって画成される圧縮作用空間内に導入されて圧縮され,ロータケーシング11の吐出側端部に設けられた吐出口(図示せず)を介して機外に吐出されるように構成されている。
【0051】
〔軸封装置〕
以上のように構成されたスクリュ圧縮機1の吸入側ケーシング13には,
図2及び
図3に示すようにモータ50の出力軸51によって貫通される軸孔61が形成されていると共に,この軸孔61の内周面と出力軸51の外周間の間隔を,本発明の軸封装置60によって封止している。
【0052】
従って,
図1~
図3に示す実施形態では,モータ50の出力軸51が本発明の軸封装置60で封止対象とする回転軸20となる。
【0053】
本発明の軸封装置60において,前述の軸孔61内には回転軸20であるモータ50の出力軸51と同心を成すシリンダ62が形成されており,このシリンダ62の一端は吸入側ケーシング13内に形成されたギヤ室131に連通されていると共に,他端はケーシング外の空間と連通されている。
【0054】
このシリンダ62の一端が連通されているギヤ室131は,ロータケーシング11内に形成された吸入空間117(
図1参照)と連通することによりスクリュロータ2,3の回転時には大気圧に対し僅かに負圧となる一方,モータ50を停止してスクリュロータ2,3の回転を停止させると,圧縮中であった圧縮気体が膨張しながら吸入空間117に逆流する(この逆流の際にスクリュロータ2,3は僅かに逆転する場合がある)ことにより吸入空間117と連通するギヤ室131内の圧力も上昇するようになっており,図示の実施形態においてシリンダ62の一端と連通したギヤ室131は,回転軸20であるモータの出力軸51の回転速度が所定の回転速度(周速度0m/s)を超えている状態と,該回転速度以下(周速度0m/s又は負の回転速度である僅かに逆回転した状態)にあるときとで内部圧力が負圧の状態から大気圧以上の圧力へと上昇する変圧空間15となっている。
【0055】
このように,変圧空間15であるギヤ室131に一端が連通されたシリンダ62内には,
図2及び
図3に示すように回転軸20の軸線方向に進退移動する円筒状のピストン63がシリンダ62内に回転しないように収容されている。
【0056】
このピストン63の中央には,回転軸20の外径に対し僅かに大径に形成された開口64が形成されており,この開口64内に回転軸20を挿入した状態でシリンダ62内に収容することにより,ピストン63の開口64の内周面と回転軸20の外周間には,回転軸20の回転を許容する上で必要な微小間隔δが形成されるように構成されている。
【0057】
また,ピストン63の外周面とシリンダ62の内周面間の隙間は,該隙間を介して流体が漏出することがないようOリング65によってシールされている。
【0058】
回転軸20のうち軸孔61内に位置する部分には,該部分の回転軸20の外径を変化させることにより形成された段差部22aが設けられていると共に,この段差部22aと対向するピストン63の一方の端面63aには,回転軸20の外周を囲むように無端環状のシール材66が取り付けられている。
【0059】
なお,図示の実施形態では,このシール材66をピストン63の一方の端面63aに取り付けた構成を示したが,これとは逆に,段差部22a側にシール材66を取り付けるものとしても良く,又は,ピストン63の一方の端面63aと段差部22aの双方にシール材66を取り付ける構成を採用するものとしても良い。
【0060】
このシール材66としては,合成ゴム等の弾性材料からなる既知の各種のシール材を採用可能であり,図示の例に限定されずリップシール等を採用することもできる。また,軸封装置60の用途によっては金属製のシール材を使用するものとしても良い。
【0061】
シリンダ62内においてピストン63は,回転軸20(出力軸51)が所定の回転速度を超える回転状態にあるときの変圧空間15(ギヤ室131)内の圧力に対応した移動位置である所定の第1移動位置と,所定の回転速度以下の状態にあるときの変圧空間15(ギヤ室131)内の圧力に対応した移動位置である所定の第2移動位置間を移動可能に構成されており,図示の実施形態では,ギヤ室131側の軸孔61の端部の外周部分を覆う軸孔カバー67を設け,この軸孔カバー67にピストン63の他方の端面63bが突合した
図3(A)に示す移動位置を第1移動位置として,ピストン63が第1移動位置にあるときにピストン63の一方の端面63aに設けたシール材66が回転軸20に設けた段差部22aより離間して非接触の状態となり,ピストン63の内周面と回転軸20の外周面間に形成された微小間隔δによって形成される非接触シール部68のみでシールが行われるようにした。
【0062】
本実施形態では,この非接触シール部68のシール性を向上させるために,回転軸20の外周面のうち,少なくとも第1移動位置にあるピストン63の内周面と対向する部分に螺旋溝22bを形成し,回転軸20の回転により非接触シール部68の微小間隔δにギヤ室131側へ向かう流体の流れが生じるようにしているが,このような螺旋溝22bは必ずしも設けなくても良く,又は,螺旋溝22bに代えてラビリンス溝(図示せず)を形成するものとしても良い。
【0063】
また,これらの螺旋溝22bやラビリンス溝(図示せず)は,ピストン63の内周面側に形成するものとしても良い。
【0064】
一方,
図3(B)に示すように,ピストン63の一方の端面63aに設けたシール材66が段差部22aと突合して,ピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sがシール材66によって封止された状態にある移動位置を,第2移動位置と成すと共に,ピストン63の第2移動位置への移動により,ピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sがシール材66で塞がれて接触シール部69が形成される。
【0065】
なお,本実施形態では
図3に示すように前述の回転軸20を,回転軸本体21と該回転軸本体21に外嵌されたカラー22を備えた構造とし,このカラー22に前述した螺旋溝22bや段差部22aを形成する構成を採用したが,この構成に代えて,
図4に示すように回転軸20を,カラーを備えていない一体構成のものとして形成し,この回転軸20に直接,螺旋溝22bや段差部22aを設けるようにしても良い。
【0066】
もっとも,
図3に示したように螺旋溝22bや段差部22aを回転軸本体21に外嵌したカラー22に設けた構成では,例えばゴミの噛み込みによって螺旋溝22bが破損した場合や,段差部22aが傷付いてシール材66を密着させることができなくなる等してシール性が低下した場合であっても,回転軸20の全体を交換することなくカラー22の部分のみを交換することで対処することができる点で経済的である。
【0067】
また,変圧空間15であるギヤ室131からの潤滑油の漏出防止を目的として軸封装置60を設けた
図1~
図3に記載の構成では,カラー22に対し機外側の回転軸本体21の外周にスペーサ23を取り付けており,このスペーサ23の外周に環状の凹凸を設けることにより形成された油切り溝を設けている。
【0068】
もっとも,
図4に示すようにこのようなスペーサ23や油切り溝についても必ずしも設けなくとも良い。
【0069】
なお,
図2~
図4中の符号70は,ピストン63を付勢するための付勢手段として設けられたスプリングであり,この付勢手段70は,回転軸20の回転速度の変化に応じて変化する変圧空間15(ギヤ室131)内の圧力変化のみではピストン63を第1移動位置と第2移動位置間を進退移動させることができない場合にのみ設けるものとしても良い。
【0070】
図3及び
図4に示す実施形態の構成において,変圧空間15であるギヤ室131は回転軸20を回転させている状態では負圧となることで,この負圧による吸引によって付勢手段70を設けることなく回転軸20の回転時にはピストン63を
図3(A)に示す第1移動位置に移動させることができると共に,回転軸20の回転を停止させた際には,圧縮中の被圧縮流体の逆流によってギヤ室131内の圧力が上昇することで,付勢手段70を設けることなく
図3(B)に示した第2移動位置に移動させることができるが,ピストン63の動作をより安定的に行わせるべく,付勢手段70としてピストン63を第1移動位置に向けて付勢する圧縮スプリングを設けている。
【0071】
もっとも,この付勢手段70による付勢方向は,後に詳述するように,変圧空間15における圧力変化や封止する流体の向き等に応じて適宜選択することにより,回転軸20の回転速度が所定の回転速度を越えたときにピストン63を第1移動位置に移動させ,所定の回転速度以下のときに第2移動位置に移動させることができるようにする。
【0072】
〔作用等〕
図1に示す構成のスクリュ圧縮機1の吸入側ケーシング13に設けた軸孔61とモータ50の出力軸51である回転軸20間の間隔に設けられた本発明の軸封装置60(
図1~
図3参照)の動作を説明すると,下記の通りである。
【0073】
回転軸20であるモータ50の出力軸51が回転している状態,従って,ロータケーシング11内に収容されているスクリュロータ2,3が回転している状態では,該スクリュロータ2,3の噛み合い回転によって吸入空間117内が負圧となることで,この吸入空間117と連通するギヤ室131内の圧力も負圧となる。
【0074】
吸入側ケーシング13の軸孔61内に形成されたシリンダ62は,一端を変圧空間15であるギヤ室131に連通されていると共に,他端を大気圧の空間である機外に連通させていることから,モータ50の出力軸(回転軸)51が回転している状態(所定の回転速度である周速度0m/sを越えている状態)では,ピストン63は,変圧空間15であるギヤ室131内の負圧による吸引(付勢手段70を設けている場合にはこれに加えて付勢手段70の付勢力)によって
図3(A)に示す第1移動位置に移動した状態にあり,ピストン63の一方の端面63aと段差部22aとは離間しておりシール材66が段差部22aと接触していない状態となっている。
【0075】
その結果,回転軸20の回転時には,軸封装置60による軸封はピストン63の内周面と回転軸20の外周面間に形成された微小間隔δによって形成された非接触シール部68のみによって行われ,シール材66は段差部22aとは非接触の状態となっていることから,回転軸20であるモータ50の出力軸51の回転速度を高速(一例として周速度で20m/s以上)とした場合であってもシール材66が焼けや摩耗により劣化することが防止されている。
【0076】
一方,モータ50を停止すると,スクリュロータ2,3が回転を停止すると共に圧縮作用空間内で圧縮過程にあった被圧縮気体が吸入空間117に向かって逆流を開始することで,吸入空間117及び該吸入空間117に連通したギヤ室131(変圧空間15)内の圧力が上昇する。
【0077】
なお,被圧縮気体の逆流によってスクリュロータ2,3は僅かに逆回転する場合があり,このようなスクリュロータ2,3の逆回転に伴い回転軸20であるモータ50の出力軸51も逆回転(負の回転速度)となる場合がある。
【0078】
このように,回転軸20であるモータ50の出力軸51の回転速度が所定の回転速度(周速度0m/s)以下になると,変圧空間15であるギヤ室131内の圧力上昇によって,シリンダ62内のピストン63は
図3(B)に示す第2移動位置へと移動させる力が加わり,この力が付勢手段70による付勢力を越えると,ピストン63が第2移動位置に移動する。
【0079】
この第2移動位置へとピストン63が移動することにより,ピストン63の一方の端面63aに設けたシール材66が段差部22aに押し当てられることにより,ピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sがシール材66によってシールされて接触シール部69が形成される。
【0080】
これにより,ピストン63の内周面と回転軸20(回転軸のカラー22)の外周間の微小隙間δを介してギヤ室131内の空気と共に漏出しようとする潤滑油の漏出を防止することが可能となる。
【0081】
このように,
図1~
図3に示した軸封装置60の構成では,回転軸20であるモータの出力軸51の回転時には非接触シール部68による封止が行われると共にシール材66が段差部22aから離間されることで高速回転軸の軸封に使用した場合であってもシール材66が摩擦熱や摩耗によって破損することを防止できる一方,回転軸20であるモータの出力軸51の回転が停止した時(停止後の僅かな逆転を含む)にはシール材66を段差部22aに押し当てることにより密封性の高いシールが行われることで,非接触シールと接触シールの双方の長所を併せ持った軸封装置60を得ることができた。
【0082】
なお,
図1~
図4を参照して行った上記の説明では,本発明の軸封装置60を,スクリュ圧縮機1の吸入側に設けたギヤ室131内の潤滑油が,スクリュ圧縮機1の停止時に機外に漏出することを防止する目的で設けた構成例について説明したが,本発明の軸封装置60の用途はこれに限定されず,各種の変更が可能である。
【0083】
一例として,
図5は,スクリュ圧縮機1のケーシングの吸入側端部にケーシング10の内外を貫通する軸孔61を設け,この軸孔61内に挿入されたオスロータのロータ軸2bの外周と軸孔61の内周間の間隔を本発明の軸封装置60で封止した例である。
【0084】
この例では,
図5に示すように,本発明の軸封装置60を,軸孔61に設けた軸受80と吸入空間117との間に設け,軸受80に給油された潤滑油がロータ室113内に形成された吸入空間117に浸入することを防止している。
【0085】
従って,
図5に示す軸封装置60において,オスロータのロータ軸2bが封止対象とする回転軸20であり,シリンダ62の一端が連通された吸入空間117が,ピストン63に作動圧力を与える変圧空間15となる。
【0086】
また,
図5に示す実施形態では,ピストンを
図5(A)に示す第2移動位置へと付勢する圧縮スプリングを付勢手段70として設けている。
【0087】
このように,本発明の軸封装置60を
図5に示す位置に設けることで,回転軸20であるロータ軸2bの回転が停止している状態,又は比較的低速の状態では変圧空間15である吸入空間117内の圧力は大気圧又は僅かな負圧であるため,付勢手段70の付勢力によってシール材66が段差部22aに押し当てられて接触シール部69によるシールが行われる。
【0088】
これに対し,回転軸20であるロータ軸2bの回転速度が上昇し,従ってスクリュロータの回転速度が上昇して変圧空間15である吸入空間117内の負圧が高まると,シリンダ63が
図5(B)に示す第1移動位置に移動することで,シール材66が段差部22aより離間して接触シール部69におけるシールが解除されることで,シリンダ63の内周面と回転軸(ロータ軸2b)の外周面間に形成された微小間隔δに形成された非接触シール部68のみでのシールが行われる。
【0089】
これにより,回転軸20であるロータ軸2bを高速回転させた場合であっても,シール材66の熱や摩耗による劣化が防止される。
【0090】
その後,回転軸20であるロータ軸2bの回転が停止してスクリュロータが回転を停止すると,圧縮中であった被圧縮気体の逆流によって吸入空間117(変圧空間)内の圧力が高まると,ピストン63が再度,
図5(A)に示す第2移動位置に移動してピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔をシール材66で封止することにより接触シール部69によるシールが行われ,吸入空間117内の圧力上昇によって軸受80に給油された潤滑油がケーシング10外に噴き出すことも防止することができる。
【0091】
更に,以上で説明した実施形態では,第1移動位置側(紙面左側)のシリンダ62の端部を変圧空間15に連通させる構成について説明したが,この構成に代えて,
図6に示すように,第2移動位置側(紙面右側)におけるシリンダ62の端部を一端として変圧空間15に連通させて使用するものとしても良い。
【0092】
図6に示す実施形態は,一例としてスクリュ圧縮機のオスロータ2の吐出側ロータ軸2aを駆動軸とし,吐出側ケーシング12に貫通孔として設けた軸孔61内の軸受81とロータ室113間に本発明の軸封装置60を設けることで,軸孔61内に取り付けた軸受81に給油した潤滑油がロータ室113側に浸入することを防止した例である。
【0093】
この構成では,付勢手段70としてピストン63を
図6(A)に示す第2移動位置に付勢する引張スプリングを設けている。
【0094】
上記の位置に本発明の軸封装置60を設けることで,回転軸20である吐出側のロータ軸2aの回転が停止している状態では,変圧空間15であるロータ室113の吐出側の圧力は大気圧の状態にあり,ピストン63は付勢手段70の付勢力によって
図6(A)に示す第2移動位置に移動されており,シール材66が段差部22aに押し付けられて接触シール部69が形成された状態となっている。
【0095】
この状態から吐出側ロータ軸(回転軸)2aを回転させてスクリュロータが回転を開始すると,変圧空間15であるロータ室113の吐出側の圧力が上昇して付勢手段70の付勢力に抗してピストン63が
図6(B)に示した第1移動位置に移動することでシール材66が段差部22aより離間して接触シール部59によるシール状態が解除されると共に,ピストン63の内周面と回転軸(ロータ軸2a)の外周面間に形成された微小間隔δによって形成された非接触シール部68によるシールに切り替わる。
【0096】
このように,
図6に示した構成においても,回転軸20であるロータ軸2aの回転が停止している状態では接触シール部69による密封が可能となる一方,ロータ軸2aが回転を開始することでシール材66が段差部22aより離間して接触シール部69におけるシールが解除されるため,ロータ軸2aを高速回転させた場合であってもシール材66が摩擦熱や摩耗により劣化することを防止することが可能である。
【0097】
なお,以上で説明した本発明の軸封装置60では,いずれもピストン63を第1移動位置又は第2移動位置に付勢する付勢手段70を設けた構成例を示したが,例えば,
図1~
図4を参照して説明した軸封装置60の構成例では,回転軸20(駆動軸51)の回転により変圧空間15であるギヤ室131内が負圧となる場合,このような付勢手段70を設けない場合でも回転軸の回転速度の変化に応じピストン63を第1移動位置と第2移動位置間を移動させることが可能であることは前述した通りであり,付勢手段70は必ずしも必要ではない。
【0098】
また,図示の例では水平方向に配置された回転軸20の軸封を行う構成について説明したが,回転軸20を垂直方向に配置可能な機器に対する軸封に本発明の軸封装置60を使用する場合には,第1移動位置又は第2移動位置のいずれか一方に対するピストン63の移動を,前述した付勢手段70による付勢に代えて,重力を利用して行うようにしても良く,本発明の軸封装置60を適用する機器の構成によっては付勢手段70を必ずしも設ける必要はない。
【0099】
〔変形例〕
以上,
図1~
図6を参照して説明した実施形態では,いずれもピストン63の一方の端面63aに設けたシール材66が段差部22aに押し当てられることによりピストン63が移動できなくなる位置を前述した第2移動位置とする構成を採用した。
【0100】
しかしながら,この構成ではシール材66が段差部22aに対し必要以上に強く押し付けられる場合があると共に,この状態で回転軸20の回転(逆転を含む)が行われると,依然としてシール材66の劣化が起こり得る。
【0101】
このようにシール材66が段差部22aに対し必要以上に強く押し付けられることを防止するために,
図7に示す実施形態では,
図7(B)に示す第2移動位置でピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’と突合するストッパ部90を設け,ピストン63が前記第2移動位置に移動すると該ピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’がストッパ部90と突合して移動が規制されることで,ピストン63の一方の端面63aと前記段差部53a間が一定間隔となるように形成した。
【0102】
図7に示す実施形態では,ピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’を紙面右側に突出させて突部を形成し,この突部をシリンダ62の機外側の端壁からなるストッパ部90に突合させることにより第2移動位置でピストン63の移動を停止させることができるようにした。
【0103】
なお,このストッパ部90は,ピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’と突合してピストン63の移動を規制することができるものであれば,ピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’に突部を設ける
図7に記載の構成に代えて,
図8に変形例として示したように,ストッパ部90と成るシリンダ62の機外側端壁の位置を機内側に移動させることにより形成するものとしても良く,ピストン63の一方の端面63aと段差部22a間の間隔Sを一定に維持し得るものではあれば図示の例に限定されない。
【0104】
もっとも,
図7を参照して説明したようにピストン63の一方の端面63aの外周側の部分63a’に突部を設けた構成では,ピストン63の外周面にOリング65の他にも軸受材(ウェアリング)65’を設ける等して,ピストン63の潤滑性を高めると共に,ピストンの偏心を防止してOリング65を保護することによりピストン63の外周面とシリンダ62の内周面間の間隔のシール性を向上させることが可能であり,これによりピストン63の外周面とシリンダ62の内周面間の間隔を介した流体の漏出についても密閉性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0105】
1 スクリュ圧縮機
2 スクリュロータ(オス)
2a 吐出側ロータ軸(オスのスクリュロータの)
2b 吸入側ロータ軸(オスのスクリュロータの)
3 スクリュロータ(メス)
3a 吐出側ロータ軸(メスのスクリュロータの)
3b 吸入側ロータ軸(メスのスクリュロータの)
10 ケーシング
11 ロータケーシング
113 ロータ室
117 吸入空間
12 吐出側ケーシング
13 吸入側ケーシング
131 ギヤ室
15 変圧空間
20 回転軸
21 回転軸本体
22 カラー
22a 段差部
22b 螺旋溝
23 スペーサ
30 増速装置
31 従動歯車
32 駆動歯車
50 モータ
51 出力軸
60 軸封装置
61 軸孔
62 シリンダ
63 ピストン
63a 一方の端面(ピストンの)
63a’ 一方の端面の外周側の部分
63b 他方の端面
64 開口(ピストンの)
65 Oリング
65’ 軸受材(ウェアリング)
66 シール材
67 軸孔カバー
68 非接触シール部
69 接触シール部
70 付勢手段(スプリング)
80,81 軸受
90 ストッパ部
310 軸孔
320 ロータ軸
330 軸受
360 軸封装置
361 エアシール部
362 油切りシール部
363 シールボックス部
364 大気解放穴
402 スクリュロータ
410 軸孔
420 ロータ軸
430 軸受
460 軸封装置
461 第1非接触シール
462 第2非接触シール
463 リップシール
464 第1シール空間
465 給油流路
466 第2シール空間
467 連通孔
δ 微小間隔
S 間隔(ピストンの一方の端面と段差部間の)