(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130390
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】粉末の固結防止剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20240920BHJP
A23L 27/00 20160101ALN20240920BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040072
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金田 知美
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG50
4B035LP24
4B035LP59
4B047LE06
4B047LF08
4B047LG28
4B047LG56
4B047LG64
4B047LP07
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】
保存期間中にブロッキングを起こしやすい一般的な粉末食品に添加することで高い固結防止効果を示し、かつ添加した粉末食品の食味に影響しないような粉末の固結防止剤を提供することである。
【解決手段】
酵母菌体から酵母エキスなどを抽出した酵母菌体残渣に固形分当たりの蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上の反応液の粉末を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母菌体を伝導加熱型乾燥機で乾燥する工程を有する粉体の固結防止用組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1の粉体の固結防止用組成物が、蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上、平均粒径が150μm以下である、請求項1の粉体の固結防止用組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の固結防止用組成物を粉末食品に添加し、粉末食品の固結を防止する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄後の酵母や酵母エキス等のエキスを抽出した後の酵母菌体から取得される粉末食品用の固結防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末調味料等には有機酸や無機酸、又はそれらの塩、アミノ酸類などが使用されている。これらの中には保存中に他の成分と反応して固結化したり、空気中の水分を吸収して潮解、固結化したりしてしまうという課題があった。
【0003】
食品粉末の固結防止策としては、粉末中にデキストリンや澱粉、微粒二酸化ケイ素やリン酸三カルシウム、粉末セルロースを配合する方法や、乳化剤で粉末表面をコーティングする方法などが知られている。
【0004】
デキストリンや澱粉は使用に当たって条件は限定されないが、食品粉末の味を希釈してしまうため、満足感が低下してしまう。また、効果が十分でないことが多い。
【0005】
微粒二酸化ケイ素やリン酸三カルシウムはデキストリンと比較して効果が高く、味に影響することは無いが食品添加物であり、使用に当たって制限がある。また、安全性は認められているものの、近年の天然志向では好まれない傾向にある。
【0006】
乳化剤も同様に食品添加物であるために、近年の天然志向では好まれない傾向にあるほか、表面をコーティングするため、食品の香りに悪影響を与える場合がある。
【0007】
食品由来の固結防止剤としては他に、小麦、コーン、ダイズ、イエローピーなどから得られる水不溶性食物ファイバーを添加する方法(特許文献1)や、コーンスターチを添加する方法(特許文献2)などが報告されているが、これら穀物を使用した場合、原料の安定供給に懸念があった。
【0008】
他方、酵母には核酸、アミノ酸、ペプチドなどの成分が含まれており、その抽出物は医薬品であるグルタチオンの原料や、天然調味料である酵母エキスとして用いられているが、抽出の際に大量に副生する酵母菌体残渣の有効利用が課題とされてきた。
【0009】
酵母エキス抽出後の酵母菌体残渣はグルカン、マンナン、マンノプロテイン、蛋白質、脂質、核酸を主要な成分とするものであるが、酵母エキス残渣にエキスを配合したブロッキングを起こしにくい粉末調味料も報告されている(特許文献3)。また、酵母菌体残渣に細胞壁溶解酵素を適量反応させる固結防止剤が報告されている(特許文献4)。
【0010】
しかしながら、上記の方法は調味料として使用するためにエキス類を配合しているため、ブロッキング防止に対する効果が十分でない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5-84048
【特許文献2】特開平7-184593
【特許文献3】特開2007-89543
【特許文献4】特開2020-98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、保存期間中にブロッキングを起こしやすい一般的な粉末食品に添加することで、より高い固結防止効果を示し、かつ添加した粉末食品の食味に影響しないような粉末の固結防止剤を提供することである。また、その食品用固結防止剤は、人体に安全であることが必要であり、安定供給が可能なものであることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題の解決に付き鋭意研究の結果、酵母菌体残渣をドラムドライ乾燥などの伝導加熱型乾燥方法により乾燥することで、より高いブロッキング効果を有する組成物を製造できることを見出し本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、
(1)酵母菌体を伝導加熱型乾燥機で乾燥する工程を有する粉体の固結防止用組成物の製造方法、
(2)前記(1)の粉体の固結防止用組成物が、蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上、平均粒径が150μm以下である、前記(1)の粉体の固結防止用組成物の製造方法、
(3)前記(1)又は(2)の固結防止用組成物を粉末食品に添加し、粉末食品の固結を防止する方法、
に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、酵母菌体を熱水洗浄等した後の酵母菌体をドラムドライ乾燥などの伝導加熱型乾燥方法により乾燥することで得られる組成物は、平均粒径が、比較的大きい場合であっても粉末食品の固結を防止することができる。これにより、粉砕工程の簡略化ができる。
本発明の粉体を粉末食品に添加したり、液体食品に添加して一緒に粉末化したりすることで食品の固結を防止することができる。本発明の固結防止剤は、味や臭いが少ないため、食品の食味への影響はほとんど無い。
【0016】
また、原料として酵母エキスなどを抽出した後の菌体残渣も用いることが出来、そこから簡単な工程で菌体残渣そのものを固結防止剤とすることが出来る。トルラ酵母やビール酵母の菌体残渣は、調味料である酵母エキスや他の有用成分の生産に伴って大量に副生しており、本発明はその酵母菌体残渣を有効利用できるため、コスト、廃棄物削減の点でも、極めて有利である。また、動植物を原料とする場合と比較して、供給不安、価格変動、品質変動のリスクも少ない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法は、酵母菌体をドラムドライヤーなどの伝導加熱型乾燥機で乾燥工程を含む固結防止用酵母組成物の製造方法である。
【0018】
以下に、本発明を具体的に説明する。本発明において原料として用いることのできる酵母菌体の種類は、食用に用いる酵母が好ましい。たとえば、サッカロミセス、エンドミコプシス、サッカロミコデス、ネマトスポラ、キャンディダ、トルロプシス、プレタノミセス、ロドトルラなどの属に属する菌、あるいはいわゆるビール酵母、パン酵母、清酒酵母などが挙げられる。このうち、特に食経験が多いキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエが望ましい。
【0019】
本発明の酵母菌体は、酵母を一般的な工業生産方法により培養して得られる酵母菌体を熱水で菌体洗浄した後の酵母菌体を利用する。具体的には、酵母の培養形式はバッチ培養、あるいは連続培養のいずれかが用いられる。培養に用いる培地は炭素源として、ブドウ糖、酢酸、エタノール、グリセロール、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液等が用いられ、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸塩などが使用される。リン酸、カリウム、マグネシウム源も過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の通常の工業用原料でよく、その他亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩を添加する。その他、ビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等を添加したり、カゼイン、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等の有機物を添加しても良い。培養温度は21~37℃、好ましくは25~34℃で、pHは3.0~8.0、特に3.5~7.0が好ましい。
【0020】
得られた酵母菌体は、菌体洗浄をする。菌体洗浄は、熱水洗浄が好ましい。熱水洗浄については、特に制限はないが、例えば、酵母菌体を50~95℃の温度の熱水中に、0.5~5時間熱水中に滞留後、遠心分離等により、菌体を回収する。
【0021】
また、本発明の酵母菌体は、酵母菌体残渣を利用することもできる。酵母菌体残渣とは、酵母に熱水、酸・アルカリ性溶液、自己消化、機械的破砕等のいずれか一つ以上を用いて抽出処理することにより、酵母エキスまたは有用成分を抜いた後の残渣である。例えば、興人ライフサイエンス(株)製の「KR酵母」が挙げられる。
【0022】
本発明の固結防止剤を製造する方法は、酵母残渣を用いる場合は、酵母菌体残渣に水を加えて、乾燥菌体重量で5~20重量%濃度の菌体懸濁液を調製する。必要であれば、菌体洗浄する工程を設けても良い。具体的な洗浄方法は、例えば、菌体懸濁液を遠心分離して酵母菌体残渣を取得し、再度水を加えて5~20重量%濃度の菌体懸濁液を調製する。
【0023】
伝導加熱型乾燥方法にて乾燥して食品用固結防止剤とする。本発明で用いる伝導加熱型乾燥機には、ドラム型やディスク型のもの等があり、ドラム型であるドラムドライヤーが望ましい。ドラムドライヤーは、特に制限は無く、シングルドラムドライヤー、ダブルドラムドライヤー、ツインドラムドライヤー、真空ドラムドライヤーなどを用いることができる。乾燥物はドラムの表面から掻き取って取得し、そのままもしくは粉砕機、整粒機で粉末化して、調味料とすることができる。
【0024】
本発明で用いる伝導加熱型乾燥機の操作条件は、乾燥機の種類や被乾燥物の状態によって
異なる。伝導加熱型乾燥機の加熱部の表面温度は1 4 0 ~ 1 7 0 ℃ であることが望ましく、1 5 0 ~ 1 6 0 ℃ であることがより望ましい。この加熱部に前記の濃縮液を供給して乾燥させるが、その濃縮液の供給量は加熱部の面積に対して1 0 0 ~ 4 0 0 m L / m 2 となるようにすることが望ましく、より望ましくは1 5 0 ~ 2 0 0 m L / m 2 である。加熱部と被乾燥物との接触時間は、1 0 ~ 4 0 秒間が望ましく、さらに望ましくは1 5 ~ 2 0 秒である。伝導加熱型乾燥機がドラムドライヤーの場合、ドラム表面の温度や表面積、回転速度などから、適当な給液速度を決定すればよい。
【0025】
得られた固結防止剤粉末は、平均粒子径150μm以下、望ましくは100μm以下、より望ましくは50μm以下になるように適宜調整する。調整方法は、常法による粉砕等の一般的な方法で良い。伝導加熱型乾燥方法以外の方法で乾燥した場合は、10μm以下にするなど、微粉砕する必要があったが、本願では、10μm以上の平均粒子径であっても、固結防止効果を得られる。
【0026】
さらには、その乾燥物中の蛋白質含量が20重量%以上、望ましくは40重量%以上で、食物繊維含量が20重量%以上、望ましくは25重量%以上である。
なお、本願に記載の数値は、実施例に記載の方法により測定されたものである。
【0027】
本発明の固結防止剤は、対象とする粉末物に対して、適宜添加し混合することで、対象物の固結を防止することができる。添加量は、任意であるが、通常は、0.01~0.1重量%添加することで、対象物の固結を防止することができる。混合方法は、任意である。対象とする食品は、特に制限はない。例としては、粉末スープ、粉末調味料、茶、コーヒーなどの粉末化飲料品、ビーフエキス、ポークエキス、酵母エキスなどの各種エキス粉末など粉末化した各種食品、粉末状の栄養補助食品、サプリメントに利用することができる。さらに、粉末状の飼料などにも利用することができる。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、以下の態様に限定されるものではない。
【0029】
<蛋白質含量の測定方法>
本発明において、固結防止剤に含まれる蛋白質含量測定には加水分解法を用いた。固結防止剤の試料を6N 塩化水素にて110℃、24時間加水分解したのち前処理を行い全自動アミノ酸分析計(日立社製)にて測定して求めた。
【0030】
<食物繊維含量の測定方法>
固結防止剤の食物繊維含量測定には加水分解法を用いた。固結防止剤の試料を1N硫酸にて110℃、3.5時間加水分解して中和後、加水分解生成物であるマンノース、グルコースを液体クロマトグラフィーにて測定し、グルカン・マンナンへ換算して求めた。検出にはRI検出器、分離カラムはSP810(Shodex)、移動相は超純水を使用した。
【0031】
<平均粒径の測定方法>
固結防止剤の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(MicrotracBEL社製、Microtrac MT3000)を使用し、2-プロパノールを分散媒とした際のメジアン径を測定した。
【0032】
<実施例1>
キャンディダ・ユティリス酵母エキス抽出後の酵母菌体「KR酵母」(興人ライフサイエンス社製)1kgを水に懸濁して10質量%とした後、ダブルドラムドライヤー(伝熱面積28.3m2 、ドラム表面温度155℃、ドラム回転数2.0rpm、給液速度10L /hr、ドラムと被乾燥物との接触時間19秒)で乾燥した乾燥して粉末化し、実施例1の固結防止剤を得た。
この食品用固結防止剤は、この組成物の平均粒子径は5.9μmであった。
【0033】
<実施例2>
実施例1と同じ酵母菌体懸濁物をダブルドラムドライヤーで乾燥させた後、粉砕した。この固結防止剤の平均粒子径は38.8μmであった。
【0034】
<比較例1>
実施例1と同じ酵母菌体懸濁物をスプレードライヤーで乾燥させた。この固結防止剤の平均粒子径は、7.4μmであった。
【0035】
<固結防止効果の測定方法>
粉末シーズニング(ヒガシマル醤油株式会社製、うどんスープ)、デキストリン(三和澱粉工業株式会社製、サンデック#70FN)、及び実施例1、比較例1を表1の割合で混合し、テスト粉末を作製した。テスト粉末を直径3cm、高さ1cmの円筒形容器に充填し、25℃、65RH%環境下で6時間吸湿させた後、25℃、35RH%環境下に一晩放置して固結させた。続いて、固結させた粉末に負荷を加えた際の最大荷重をクリープメーター(山電社製、RE2-33005S)で測定した。なお、プランジャー直径3mm、測定速度1mm/sec、クリアランス80%とした。
【0036】
<結果>
前段までで製造したテスト粉末の最大荷重を100%とすると、それぞれのテスト粉末の最大荷重は、実施例1:11.3±3.4%、実施例2:34.2±3.6%、比較例1:50.1±7.7%であった。最大荷重の値が低い程テスト粉末の固結強度は低く、固結防止剤の力価が高いと判断できる。固結防止効果は一般的に粒子径が小さい程力価が高いとされる。実施例1及び比較例1の固結防止剤は、粒子径が同程度であるが実施例1の固結防止効果の方が高い。さらに、実施例2は比較例1の粒子径よりも5倍程度大きいが、実施例2の固結防止効果の方が高いことが確認された。
以上から、ドラムドライヤーで乾燥させた場合は、より固結防止効果が高い組成物を得ることができる。
本発明の固結防止剤は、食品、栄養補助食品、サプリメント、飼料の粉末物に添加して用いることができる。これにより、他の食品添加物指定の固結防止剤やデキストリン、粉末セルロースや食品由来ファイバーなどよりも優れた固結防止効果を示し、粉末食品の品質の低下を防ぐことが出来る。