(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130402
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車輪駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 35/073 20060101AFI20240920BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240920BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20240920BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C35/073
F16C19/18
F16C25/08 Z
B60B35/14 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040089
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 拓真
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J012
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB07
3J012BB03
3J012CB01
3J012CB04
3J012DB08
3J012DB12
3J012FB10
3J117AA02
3J117AA06
3J117AA10
3J117DA02
3J117DB01
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA80
3J701FA01
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】かしめ部と等速ジョイント用外輪との間に設置されたワッシャによる異音抑制効果を維持しやすい車輪駆動ユニットを提供する。
【解決手段】ワッシャ5は、全体を円環状に構成され、かしめ部16の軸方向内側面16aと等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aとの間で軸方向に挟持されており、かしめ部16の軸方向内側に隣接して配置され、径方向に伸長する第1環状板22と、等速ジョイント用外輪18の軸方向外側に隣接して配置され、径方向に伸長する第2環状板23と、第1環状板22と第2環状板23との間に軸方向に挟持され、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転することに伴って弾性的に捩れ変形するゴム部材24とを含み、駆動軸部材からハブへのトルクの非伝達時および/または伝達時に、ゴム部材24の少なくとも一部分に圧縮応力が作用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブユニット軸受と、駆動軸部材と、ナットと、ワッシャとを備え、
前記ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体とを含み、
前記ハブは、外周面に前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道、軸方向内側の端部に径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部、および径方向中央部に軸方向に貫通するスプライン孔を有するハブ輪と、外周面に前記複列の内輪軌道のうちの軸方向内側の内輪軌道を有し、前記ハブ輪に外嵌され、軸方向内側の端面を前記かしめ部により抑え付けられた内輪とを含み、
前記駆動軸部材は、前記ハブに対して軸方向内側に配置された等速ジョイント用外輪と、前記等速ジョイント用外輪の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出し、軸方向中間部に前記スプライン孔とスプライン係合するスプライン部、および軸方向外側の端部に雄ねじ部を有する軸部とを含み、
前記ナットは、前記雄ねじ部に螺合されており、
前記ワッシャは、全体を円環状に構成され、前記かしめ部の軸方向内側面と前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側面との間で軸方向に挟持されており、前記かしめ部の軸方向内側に隣接して配置され、径方向に伸長する第1環状板と、前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側に隣接して配置され、径方向に伸長する第2環状板と、前記第1環状板と前記第2環状板との間に軸方向に挟持され、前記第1環状板と前記第2環状板とが相対回転することに伴って弾性的に捩れ変形するゴム部材とを含み、
前記駆動軸部材から前記ハブへのトルクの非伝達時および/または伝達時に、前記ゴム部材の少なくとも一部分に圧縮応力が作用する、
車輪駆動ユニット。
【請求項2】
前記第1環状板は、その径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった第1内側筒部を有し、および、
前記第1内側筒部の軸方向内側の端面が、前記第2環状板の軸方向外側面に対して接触している、あるいは、接触することなく対向し、
前記第2環状板は、その径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった第2外側筒部を有し、
前記ゴム部材は、前記第1環状板の軸方向内側面と前記第1内側筒部の外周面とに加硫接着され、かつ、前記第2外側筒部に内嵌されるゴム本体部を有し、
前記ゴム本体部は、前記第1環状板と前記第2環状板との間で軸方向に圧縮されている、
請求項1に記載の車輪駆動ユニット。
【請求項3】
前記第1環状板の軸方向内側面と前記第2環状板の軸方向外側面とのうちの少なくともいずれか一方の周方向複数箇所に、前記ゴム本体部に対して周方向に係合する凸部が備えられている、
請求項2に記載の車輪駆動ユニット。
【請求項4】
前記第1環状板は、その径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった第1内側筒部を有し、および、
前記第1内側筒部の軸方向内側の端面が、前記第2環状板の軸方向外側面に対して接触している、あるいは、接触することなく対向し、
前記第2環状板は、その径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった第2外側筒部を有し、
前記ゴム部材は、前記第1環状板の軸方向内側面、前記第2環状板の軸方向外側面、前記第1内側筒部の外周面、および、前記第2外側筒部の内周面に加硫接着されたゴム本体部を有し、
前記第1環状板の軸方向内側面と前記第2環状板の軸方向外側面とのうちの少なくともいずれか一方の周方向複数箇所に、前記ゴム本体部に対して周方向に係合する凸部が備えられている、
請求項1に記載の車輪駆動ユニット。
【請求項5】
前記ワッシャが、前記かしめ部に対する係止部を備え、
前記係止部が、前記ゴム部材に備えられている、
請求項1に記載の車輪駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持し、かつ、該車輪を回転駆動するための車輪駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図11および
図12は、特開2008-296841号公報に記載されている、従来構造の1例の車輪駆動ユニット100を示している。なお、車輪駆動ユニット100に関して、軸方向外側は、車両への組付け状態で車両の幅方向外側となる
図11の左側であり、軸方向内側は、車両への組付け状態で車両の幅方向中央側となる
図11の右側である。
【0003】
車輪駆動ユニット100は、ハブユニット軸受101と、駆動軸部材102と、ナット103とを備える。
【0004】
ハブユニット軸受101は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するための軸受であり、外輪104と、ハブ105と、複数個の転動体106a、106bとを備える。
【0005】
外輪104は、内周面に複列の外輪軌道107a、107bを有する。外輪104は、使用状態で、懸架装置に結合固定され、回転しない。
【0006】
ハブ105は、外周面に複列の内輪軌道108a、108b、および、外輪104よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に向けて突出した回転フランジ109を有する。ハブ105は、使用状態で、回転フランジ109に結合固定された車輪および制動用回転部材と一体となって回転する。
【0007】
ハブユニット軸受101は駆動輪用であるため、ハブ105は、径方向中央部に軸方向に貫通するスプライン孔110を有する。スプライン孔110は、駆動軸部材102のスプライン部116をスプライン係合させる部分である。
【0008】
ハブ105は、ハブ輪111と内輪112とを組み合わせてなる。ハブ輪111は、軸方向外側部に回転フランジ109、外周面の軸方向中間部に軸方向外側の内輪軌道108a、径方向中央部にスプライン孔110、および軸方向内側の端部に径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部113を有する。内輪112は、外周面に軸方向内側の内輪軌道108bを有し、ハブ輪111の軸方向内側部に外嵌され、軸方向内側の端面をかしめ部113により抑え付けられている。
【0009】
転動体106a、106bは、複列の外輪軌道107a、107bと複列の内輪軌道108a、108bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されている。
【0010】
駆動軸部材102は、等速ジョイント用外輪114と軸部115とを有する。等速ジョイント用外輪114は、ハブ105に対して軸方向内側に配置される。軸部115は、等速ジョイント用外輪114の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出し、軸方向中間部にスプライン孔110とスプライン係合するスプライン部116、および軸方向外側の端部に雄ねじ部117を有する。
【0011】
ナット103は、雄ねじ部117に螺合され、さらに締め付けられている。これにより、等速ジョイント用外輪114の軸方向外側面とナット103の軸方向内側面との間でハブ105を軸方向に挟持することで、ハブ105と駆動軸部材102とが結合固定されている。
【0012】
自動車の運転時には、エンジン、電動モータなどの駆動源から駆動軸部材102に伝達された駆動トルクが、スプライン部116とスプライン孔110とのスプライン係合部を介して、ハブ105に伝達される。
【0013】
この際に、軸部115のうちスプライン係合部よりも軸方向内側に位置する部分が弾性的に捩れ変形する。該部分のねじれ変形量は、該部分の軸方向寸法L(
図11参照)を概ね10mm以内に収めることができれば、十分に小さくすることができる。しかしながら、ハブ105の軸方向内側の端部にかしめ部113を有する構造では、該部分の軸方向寸法を概ね10mm以内に収めることが難しく、該部分のねじれ変形量が大きくなりやすい。
【0014】
このため、かしめ部113の軸方向内側面と等速ジョイント用外輪114の軸方向外側面とを直接接触させると、両接触面間で金属面同士の滑り現象であるスティックスリップ現象が発生する。かしめ部113の軸方向内側面と等速ジョイント用外輪114の軸方向外側面との接触部には、ナット103の締め付けに基づく高い面圧が作用していることから、スティックスリップ現象が発生すると、スティックスリップ音と呼ばれる耳障りな異音が発生する可能性がある。
【0015】
そこで、車輪駆動ユニット100においては、かしめ部113の軸方向内側面と等速ジョイント用外輪114の軸方向外側面との間に、ワッシャ118を介在させている。
【0016】
ワッシャ118は、金属板により円環状に構成されており、当接面の摩擦係数を減少させるために表面粗さが低く設定されている。このため、駆動軸部材102に大きな駆動トルクが入力された場合に、かしめ部113と等速ジョイント用外輪114との間に大きなエネルギが溜まる前に、かしめ部113と等速ジョイント用外輪114とのうちのいずれか一方を、ワッシャ118に対して相対回転させることができる。したがって、かしめ部113と等速ジョイント用外輪114との間で異音が発生することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特開2008-296841号公報に記載された従来構造の車輪駆動ユニット100では、ワッシャ118の軸方向側面が、かしめ部113または等速ジョイント用外輪114の軸方向側面に対して摺動することにより摩耗する。このため、ワッシャ118の軸方向側面の摩擦係数が摩耗により増大して、異音抑制効果が低下する可能性がある。
【0019】
本開示は、かしめ部と等速ジョイント用外輪との間に設置されたワッシャによる異音抑制効果を維持しやすい車輪駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示の一態様の車輪駆動ユニットは、ハブユニット軸受と、駆動軸部材と、ナットと、ワッシャとを備える。
【0021】
前記ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体とを含む。
【0022】
前記ハブは、外周面に前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道、軸方向内側の端部に径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部、および径方向中央部に軸方向に貫通するスプライン孔を有するハブ輪と、外周面に前記複列の内輪軌道のうちの軸方向内側の内輪軌道を有し、前記ハブ輪に外嵌され、軸方向内側の端面を前記かしめ部により抑え付けられた内輪とを含む。
【0023】
前記駆動軸部材は、前記ハブに対して軸方向内側に配置された等速ジョイント用外輪と、前記等速ジョイント用外輪の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出し、軸方向中間部に前記スプライン孔とスプライン係合するスプライン部、および軸方向外側の端部に雄ねじ部を有する軸部とを含む。
【0024】
前記ナットは、前記雄ねじ部に螺合されている。
【0025】
前記ワッシャは、全体を円環状に構成され、前記かしめ部の軸方向内側面と前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側面との間で軸方向に挟持されている。該ワッシャは、前記かしめ部の軸方向内側に隣接して配置され、径方向に伸長する第1環状板と、前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側に隣接して配置され、径方向に伸長する第2環状板と、前記第1環状板と前記第2環状板との間に軸方向に挟持され、前記第1環状板と前記第2環状板とが相対回転することに伴って弾性的に捩れ変形するゴム部材とを含む。
【0026】
特に、該車輪駆動ユニットでは、前記駆動軸部材から前記ハブへのトルクの非伝達時および/または伝達時に、前記ゴム部材の少なくとも一部分に圧縮応力が作用する。
【0027】
本開示の一態様の車輪駆動ユニットでは、前記第1環状板は、その径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった第1内側筒部を有し、および、前記第1内側筒部の軸方向内側の端面が、前記第2環状板の軸方向外側面に対して接触している、あるいは、接触することなく対向し、前記第2環状板は、その径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった第2外側筒部を有し、前記ゴム部材は、前記第1環状板の軸方向内側面と前記第1内側筒部の外周面とに加硫接着され、かつ、前記第2外側筒部に内嵌されるゴム本体部を有し、前記ゴム本体部は、前記第1環状板と前記第2環状板との間で軸方向に圧縮されている。
【0028】
この場合には、追加的に、前記第1環状板の軸方向内側面と前記第2環状板の軸方向外側面とのうちの少なくともいずれか一方の周方向複数箇所に、前記ゴム本体部に対して周方向に係合する凸部を備えることができる。
【0029】
本開示の一態様の車輪駆動ユニットでは、前記第1環状板は、その径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった第1内側筒部を有し、および、前記第1内側筒部の軸方向内側の端面が、前記第2環状板の軸方向外側面に対して接触している、あるいは、接触することなく対向し、前記第2環状板は、その径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった第2外側筒部を有し、前記ゴム部材は、前記第1環状板の軸方向内側面、前記第2環状板の軸方向外側面、前記第1内側筒部の外周面、および、前記第2外側筒部の内周面に加硫接着されたゴム本体部を有し、前記第1環状板の軸方向内側面と前記第2環状板の軸方向外側面とのうちの少なくともいずれか一方の周方向複数箇所に、前記ゴム本体部に対して周方向に係合する凸部が備えられる。
【0030】
前記凸部を備える構成においては、前記第1環状板と前記第2環状板とが相対回転することに伴って前記ゴム部材が弾性的に捩れ変形する際に、前記ゴム本体部のうち前記凸部が周方向に係合する部分に圧縮応力が作用する。
【0031】
本開示の一態様の車輪駆動ユニットでは、前記ワッシャが、前記かしめ部に対する係止部を備え、前記係止部が、前記ゴム部材に備えられている。
【0032】
本開示の車輪駆動ユニットは、上述した各態様の車輪駆動ユニットの構成を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0033】
本開示の車輪駆動ユニットによれば、かしめ部と等速ジョイント用外輪との間で軸方向に挟持されるワッシャの異音抑制効果を維持しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例の車輪駆動ユニットを示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のA部拡大図であり、
図2(b)は、ワッシャに軸方向の圧縮力が加わっていない状態における、
図2(a)に相当する図である。
【
図3】
図3は、第1例に対する参考例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態の第2例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態の第3例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態の第4例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施の形態の第5例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施の形態の第6例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施の形態の第7例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施の形態の第8例についての
図2(a)に相当する図である。
【
図11】
図11は、従来構造の車輪駆動ユニットの1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例の車輪駆動ユニットについて、
図1および
図2を用いて説明する。
【0036】
本例の車輪駆動ユニット1は、ハブユニット軸受2と、駆動軸部材3と、ナット4と、ワッシャ5とを備える。なお、車輪駆動ユニット1に関して、軸方向外側は、車両への組付け状態で車両の幅方向外側となる
図1の左側であり、軸方向内側は、車両への組付け状態で車両の幅方向中央側となる
図1の右側である。
【0037】
ハブユニット軸受2は、外輪6と、ハブ7と、複数個の転動体8a、8bとを備える。
【0038】
外輪6は、中炭素鋼などの硬質金属製で、内周面に複列の外輪軌道9a、9bを有する。
【0039】
外輪6は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ10を有する。静止フランジ10は、外輪6を懸架装置のナックルに結合固定するために用いられる部分である。外輪6は、使用状態で、懸架装置のナックルに結合固定され、回転しない。
【0040】
ハブ7は、中炭素鋼、軸受鋼などの硬質金属製で、外周面に複列の内輪軌道11a、11bを有する。ハブ7は、外輪6の径方向内側に、外輪6と同軸に配置されている。
【0041】
ハブ7は、外輪6よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に突出した回転フランジ12を有する。回転フランジ12は、ハブ7に車輪および制動用回転部材を結合固定するために用いられる部分である。ハブ7は、使用状態で、回転フランジ12に結合固定された車輪および制動用回転部材と一体となって回転する。
【0042】
ハブユニット軸受2は駆動輪用であるため、ハブ7は、径方向中央部に軸方向に貫通するスプライン孔13を有する。スプライン孔13は、駆動軸部材3のスプライン部20をスプライン係合させる部分である。
【0043】
ハブ7は、中炭素鋼などの硬質金属製のハブ輪14と、軸受鋼などの硬質金属製の内輪15とを組み合わせてなる。
【0044】
ハブ輪14は、軸方向外側部に回転フランジ12、径方向中央部にスプライン孔13、および軸方向内側の端部に径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部16を有する。本例では、軸方向外側の内輪軌道11aは、ハブ輪14の外周面の軸方向中間部に設けられている。
【0045】
内輪15は、ハブ輪14の軸方向内側部に外嵌され、軸方向内側の端面をかしめ部16により抑え付けられている。本例では、軸方向内側の内輪軌道11bは、内輪15の外周面に設けられている。かしめ部16の軸方向内側面16aは、ハブ7の軸方向に直交する平面により構成されている。かしめ部16は、外周面の軸方向中間部に、最も外径が大きくなった最大径部Pを有する。かしめ部16の外周面は、最大径部Pから軸方向両側に向かうにしたがって外径が小さくなる凸曲面形状を有する。
【0046】
本例では、ハブ輪14を単一部品として、軸方向外側の内輪軌道11aをハブ輪14の外周面の軸方向中間部に直接設けているが、本開示の車輪駆動ユニットを実施する場合には、外周面に軸方向外側の内輪軌道を有する別の内輪と、軸方向外側部に回転フランジ、軸方向内側の端部にかしめ部、および径方向中央部にスプライン孔を有し、前記別の内輪を外嵌したハブ輪本体とを含む、組立品により構成することもできる。すなわち、軸方向外側の内輪軌道11aを別の内輪の外周面に設けることもできる。
【0047】
転動体8a、8bは、複列の外輪軌道9a、9bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、周方向に離隔して配置され、かつ、それぞれの列の保持器17a、17bにより転動自在に保持されている。これにより、ハブ7は、外輪6の径方向内側に回転自在に支持されている。
【0048】
本例では、転動体8a、8bとして玉を使用しているが、転動体として円すいころを使用することもできる。本例では、軸方向外側列の転動体8aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体8bのピッチ円直径とを互いに同じとしている。ただし、本開示の車輪駆動ユニットは、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径とが互いに異なる異径PCD型の構造に適用することもできる。
【0049】
駆動軸部材3は、中炭素鋼などの硬質金属製で、等速ジョイント用外輪18と、軸部19とを備える。
【0050】
等速ジョイント用外輪18は、ハブ7に対して軸方向内側に配置される。等速ジョイント用外輪18は、軸方向内側に開口するカップ形状を有し、駆動軸部材3の軸方向に直交する平面により構成された軸方向外側面18aを有する。
【0051】
軸部19は、等速ジョイント用外輪18の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出し、軸方向中間部にスプライン孔13とスプライン係合するスプライン部20、および軸方向外側の端部に雄ねじ部21を有する。
【0052】
エンジン、電動モータなどの駆動源から駆動軸部材3に伝達された駆動トルクを、ハブ7を介して車輪に伝達可能とするために、軸部19のスプライン部20を、ハブ7のスプライン孔13にスプライン係合させている。等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aは、ハブ7の軸方向内側の端面であるかしめ部16の軸方向内側面16aに対し、ワッシャ5を介して当接している。
【0053】
ナット4は、ハブ7のスプライン孔13から軸方向外側に突出した軸部19の雄ねじ部21に螺合され、さらに締め付けられている。これにより、等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aとナット4の軸方向内側面との間でハブ7およびワッシャ5を軸方向に挟持することで、ハブ7と駆動軸部材3とが結合固定されている。
【0054】
ワッシャ5は、全体を円環状に構成され、かしめ部16の軸方向内側面16aと等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aとの間で軸方向に挟持されている。ワッシャ5は、スティックスリップ音である異音の発生を抑制する機能を有する。
【0055】
ワッシャ5は、
図2(a)に示すように、第1環状板22と、第2環状板23と、ゴム部材24とを備える。なお、
図2(a)は、雄ねじ部21に螺合したナット4(
図1参照)を締め付けた状態、すなわち組立完了後の状態を示しており、
図2(b)は、雄ねじ部21に螺合したナット4を締め付ける前の状態、すなわち組立途中の状態を示している。
【0056】
第1環状板22および第2環状板23は、それぞれが防錆処理された冷間圧延鋼板、ステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板により全体を円環状に構成されている。第1環状板22は、かしめ部16の軸方向内側に隣接して配置され、径方向に伸長する。第2環状板23は、等速ジョイント用外輪18の軸方向外側に隣接して配置され、径方向に伸長する。
【0057】
ゴム部材24は、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料により全体を円環状に構成されており、第1環状板22と第2環状板23との間に軸方向に挟持され、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転することに伴って弾性的に捩れ変形する。
【0058】
ゴム部材24は、駆動軸部材3からハブ7へのトルクの非伝達時および/または伝達時に、ゴム部材24の少なくとも一部分に圧縮応力が作用するように構成されている。本例では、使用状態、すなわち、車輪駆動ユニット1の組立完了後の状態において、ゴム部材24が第1環状板22と第2環状板23との間で軸方向に圧縮されて、ゴム部材24に軸方向の圧縮応力が作用するように構成されている。
【0059】
このような本例のワッシャ5について、以下、より具体的に説明する。
【0060】
本例では、第1環状板22は、径方向に伸長する第1環状側板部25と、第1環状側板部25の径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった第1内側筒部26とを有する。第1環状板22は、第1環状側板部25を有することで、径方向に伸長している。
【0061】
本例では、第1環状側板部25は、中空円形平板状に構成されており、第1環状側板部25の軸方向外側面を、かしめ部16の軸方向内側面16aに接触させている。本例では、第1環状側板部25の内径は、かしめ部16の軸方向内側面16aの内径よりも大きい。また、第1環状側板部25の外径は、かしめ部16の最大径部Pの外径D16よりも大きい。
【0062】
本例では、第1内側筒部26は、円筒状に構成されており、かしめ部16の軸方向内側面16aと軸方向に重畳する(隣接する)位置に配置されている。
【0063】
本例では、第1環状板22は、第1環状側板部25の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて折れ曲がった第1外側筒部27をさらに備える。第1外側筒部27は、円筒状に構成されており、かしめ部16の径方向外側に配置されている。
【0064】
本例では、第2環状板23は、径方向に伸長する第2環状側板部28と、第2環状側板部28の径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった第2外側筒部29とを有する。第2環状板23は、第2環状側板部28を有することで、径方向に伸長している。
【0065】
本例では、第2環状側板部28は、中空円形平板状に構成されており、第2環状側板部28の軸方向内側面を、等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aに接触させている。本例では、第2環状側板部28の内径は、第1内側筒部26の内径とほぼ等しい。また、第2環状側板部28の外径は、第1外側筒部27の外径および等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aの外径よりも大きい。
【0066】
本例では、第2外側筒部29は、円筒状に構成されており、軸方向外側部分がかしめ部16および第1外側筒部27の径方向外側に配置されている。
【0067】
本例では、ゴム部材24は、第1環状板22と第2環状板23とのうちの第1環状板22にのみ加硫接着されている。より具体的には、ゴム部材24は、第1環状板22の表面のうち、第1内側筒部26の外周面、第1環状側板部25の軸方向内側面および径方向外端面、第1外側筒部27の全表面、ならびに第1環状側板部25の軸方向外側面のうち第1外側筒部27の径方向内側に隣接する部分を覆うように加硫接着されている。
【0068】
本例では、ゴム部材24は、第1環状側板部25の軸方向内側面と第1内側筒部26の外周面とに加硫接着され、かつ、第2外側筒部29の軸方向内側部分に内嵌されるゴム本体部30を有する。ゴム本体部30は、中空円形平板状の形状を有する。
【0069】
本例では、ゴム部材24のゴム本体部30が第2外側筒部29の軸方向内側部分に内嵌される、すなわち、第2外側筒部29がゴム本体部30を含むゴム部材24にがたつきなく外嵌されることにより、第2環状板23がゴム部材24に係止されている。このため、ワッシャ5が使用箇所に組み付けられる前の状態で、第2環状板23がゴム部材24から脱落しにくくなり、ワッシャ5の取り扱い性が向上する。なお、ゴム本体部30を含むゴム部材24に対する第2外側筒部29の外嵌は、締め代を有しない中間嵌め、あるいは、小さい締め代を有する締り嵌めとすることができる。
【0070】
本例では、雄ねじ部21に螺合したナット4の締め付けによって、ゴム本体部30が第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向に圧縮されている。このため、駆動軸部材3からハブ7へのトルクの伝達時のみならず、非伝達時においても、ゴム本体部30に軸方向の圧縮応力が作用している。
【0071】
すなわち、本例では、ゴム本体部30の自由状態での軸方向幅寸法L
30は、
図2(b)に示すように、第1環状側板部25の軸方向内側面から第1内側筒部26の軸方向内側の端面までの軸方向幅寸法L
26よりも大きい(L
30>L
26)。このため、ゴム本体部30の自由状態において、ゴム本体部30の軸方向内側面は、第1内側筒部26の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に位置しており、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間には、軸方向の隙間が介在している。
【0072】
本例の車輪駆動ユニット1の組立完了後の状態では、雄ねじ部21に螺合したナット4を締め付けることにより、ワッシャ5に軸方向の圧縮力を付与している。これにより、
図2(b)から
図2(a)の順に示すように、第1内側筒部26の軸方向内側の端面が第2環状側板部28の軸方向外側面に接触するまで、ゴム本体部30を、第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向に圧縮している。
【0073】
本例では、ワッシャ5は、車輪駆動ユニット1の組立完了後の状態では、第1内側筒部26の軸方向内側の端面が第2環状側板部28の軸方向外側面に接触するように構成されている。したがって、第1内側筒部26の軸方向内側の端面が第2環状側板部28の軸方向外側面に接触するまでしかゴム本体部30が軸方向に圧縮されないため、ゴム本体部30に過度な圧縮応力が作用することを防止しやすい。
【0074】
本例では、ワッシャ5は、かしめ部16に対する係止部31を備える。係止部31は、かしめ部16に外嵌される係止筒部32と、係止筒部32の軸方向外側の端部から径方向内側に突出し、かしめ部16の径方向外側の端部に対して軸方向外側から係合可能な係止突起部33とを有する。
【0075】
ワッシャ5は、係止筒部32がかしめ部16に外嵌されることで、かしめ部16に対して径方向に位置決めされ、係止突起部33がかしめ部16の径方向外側の端部に対して軸方向外側から係合することで、かしめ部16に対して軸方向内側に脱落することを防止されている。このため、ハブユニット軸受2と駆動軸部材3とを結合する際に、予めワッシャ5をかしめ部16に係止しておくことで、ハブユニット軸受2と駆動軸部材3とを結合する作業を容易に行うことができる。
【0076】
係止部31は、ゴム部材24に備えられている。すなわち、本例では、係止筒部32は、ゴム本体部30の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長しており、係止突起部33は、係止筒部32の軸方向外側の端部から径方向内側に突出している。
【0077】
本例では、ゴム製の係止筒部32に、第1環状板22の第1外側筒部27を埋め込むことで、係止筒部32を補強している。ただし、本開示の構造を実施する場合、ゴム製の係止筒部32の強度を十分に確保できるようであれば、第1外側筒部27を省略することもできる。また、本例では、第2環状板23の第2外側筒部29は、ゴム製の係止筒部32に対しても、ゴム本体部30に対する嵌合態様と同様の態様で、径方向のがたつきなく外嵌されている。
【0078】
本例では、係止筒部32の内径を、かしめ部16の最大径部Pの外径D16よりも僅かに大きくすることで、係止筒部32をかしめ部16に隙間嵌めで外嵌し、外径D16のばらつきを吸収している。
【0079】
係止突起部33は、かしめ部16の最大径部Pよりも軸方向外側に配置されている。本例では、係止突起部33の内径d32を、かしめ部16の最大径部Pの外径D16よりも僅かに小さくしている(d32<D16)。これにより、係止突起部33を、かしめ部16の径方向外側の端部に対して、全周にわたり軸方向外側から係合可能としている。
【0080】
なお、係止突起部33をかしめ部16の最大径部Pよりも軸方向外側に配置する作業は、たとえば、係止突起部33をかしめ部16の外周面に軸方向内側から押し込むことにより、係止突起部33を弾性的に拡径させながら、かしめ部16の最大径部Pを軸方向に通過させることで行うことができる。
【0081】
本例の車輪駆動ユニット1では、駆動軸部材3に大きな駆動トルクが入力されると、軸部19の基端部、すなわち、軸部19のうちスプライン孔13とスプライン部20とのスプライン係合部よりも軸方向内側に位置する部分が、弾性的に捩れ変形する。これに伴い、ワッシャ5において、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転できるようにゴム部材24のゴム本体部30が自身の中心軸を中心に弾性的に捩れ変形する。これにより、第1環状板22の第1環状側板部25の軸方向外側面とかしめ部16の軸方向内側面16aとの間、および、第2環状板23の第2環状側板部28の軸方向内側面と等速ジョイント用外輪18の軸方向外側面18aとの間では、それぞれ周方向の滑りが生じることを抑制することができる。このため、スティックスリップ音などの異音が発生することを抑制できる。また、第1環状側板部25の軸方向外側面および第2環状側板部28の軸方向内側面が摩耗することを抑制できるため、ワッシャ5による異音抑制効果を維持しやすい。
【0082】
本例では、ゴム部材24は、第2環状板23に加硫接着されていないが、ゴム部材24の材料であるゴムと第2環状板23の材料である鋼材との間の摩擦係数は、鋼材同士の摩擦係数より大きい。このため、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転する際に、ゴム本体部30の軸方向内側面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間で周方向の滑りは生じない。
【0083】
本例では、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面とが接触しているため、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転する際に、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間で周方向の滑りが生じる。ただし、本例では、第1環状側板部25と第2環状側板部28との間でゴム本体部30が軸方向に圧縮されることにより、ゴム本体部30がナット4の締め付けにより発生する軸力の一部を支承しているため、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との接触圧を低く抑えることができる。また、滑りにより発生した振動を、ゴム部材24の制振効果で低減することができる。このため、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間でスティックスリップ音などの異音が発生することを抑制できる。
【0084】
さらに、本例では、使用状態で、ゴム本体部30が第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向に圧縮されることにより、ゴム本体部30に軸方向の圧縮応力が作用している。また、本例では、ゴム本体部30が第1内側筒部26と第2外側筒部29との間で径方向に挟持されているため、ゴム本体部30は、第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向に圧縮される際に、径方向両側に向けて弾性的に膨らむことを、第1内側筒部26と第2外側筒部29とにより阻止されている。したがって、ゴム本体部30には、軸方向だけでなく、径方向にも、圧縮応力が作用している。
【0085】
このため、ゴム部材24が自身の中心軸を中心に弾性的に捩れ変形する際には、ゴム部材24に作用している軸方向および径方向の圧縮応力によって、ゴム部材24の捩れ変形により作用する周方向引張応力を緩和することができる。このため、該周方向引張応力によってゴム部材24が破損することを有効に防止できる。
【0086】
[参考例]
参考例の車輪駆動ユニットについて、
図3を用いて説明する。
【0087】
参考例の車輪駆動ユニットの構造は、基本的には、第1例の構造と同様である。ただし、ゴム部材24zは、第1環状板22と第2環状板23との間で加硫成形されている。すなわち、ゴム部材24zは、第1環状板22だけでなく、第2環状板23にも加硫接着されている。
【0088】
具体的には、ゴム部材24zは、第1環状板22の表面のうち、第1内側筒部26の外周面、第1環状側板部25の軸方向内側面および径方向外端面、第1外側筒部27の全表面、ならびに第1環状側板部25の軸方向外側面のうち第1外側筒部27の径方向内側に隣接する部分を覆うように加硫接着されるだけでなく、第2環状板23の表面のうち、第2環状側板部28の軸方向外側面および第2外側筒部29の内周面にも、加硫接着されている。
【0089】
また、ゴム部材24zは、第1環状側板部25の軸方向内側面、第2環状側板部28の軸方向外側面、第1内側筒部26の外周面、および、第2外側筒部29の内周面に加硫接着されたゴム本体部30zを有する。
【0090】
このため、参考例では、ワッシャ5zは、使用箇所に組み付けられる前の単体の状態で、第1環状板22の第1内側筒部26の軸方向内側の端面と、第2環状板23の第2環状側板部28の軸方向外側面とが接触している。また、ゴム部材24zのゴム本体部30zには、第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向の圧縮応力が付与されていない。
【0091】
さらに、参考例の構造では、ゴム部材24zに、成形収縮による引張応力が作用している。具体的には、ゴム部材24zの材料であるゴムは液体的な性質を持っているので、ゴム部材24zには、軸方向と径方向の両方に成形収縮による引張応力が作用している。
【0092】
参考例の構造では、第1環状板22と第2環状板23とが相対回転することに伴い、ゴム部材24zが自身の中心軸を中心に弾性的に捩れ変形すると、ゴム部材24zには、成形収縮による引張応力に加えて、捩れ変形による周方向引張応力が作用する。このため、第1例の構造と異なり、ゴム部材24zの強度が不足し、ゴム部材24zが破損する可能性がある。
【0093】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例の車輪駆動ユニットについて、
図4を用いて説明する。
【0094】
本例の車輪駆動ユニットの構造は、基本的には、参考例の構造と同様である。すなわち、ゴム部材24aは、参考例と同様に、第1環状板22aだけでなく、第2環状板23にも加硫接着されている。
【0095】
本例の車輪駆動ユニットでは、ワッシャ5aを構成する第1環状板22aの構造が、
図3に示した参考例の構造と異なる。
【0096】
すなわち、第1環状板22aの軸方向内側面の周方向複数箇所に、ゴム部材24aのゴム本体部30aに対して周方向に係合する凸部である外側凸部34が備えられている。
【0097】
それぞれの外側凸部34は、第1環状板22aを構成する第1環状側板部25aの径方向中間部にプレス加工を施してなる。このため、第1環状側板部25aのうち、それぞれの外側凸部34が設けられた部分の裏面には、外側凹部35が形成されている。
【0098】
ゴム本体部30aは、外側凸部34の表面全体に対し、該表面全体を覆うように加硫接着されている。
【0099】
本例では、駆動軸部材からハブへのトルクの非伝達時には、ゴム部材24aに軸方向の圧縮応力は作用していない。一方、該トルクの伝達時には、ゴム部材24aが自身の中心軸を中心に弾性的に捩れ変形する際に、ゴム部材24aのうち、それぞれの外側凸部34と周方向に係合する部分が、それぞれの外側凸部34により周方向に押圧されることで、該部分に周方向の圧縮応力が作用する。
【0100】
すなわち、本例では、ゴム部材24aが自身の中心軸を中心に弾性的に捩れ変形する際に作用する周方向の引張応力の一部を周方向の圧縮応力に変換し、引張応力と圧縮応力の両方で捩れ変形時に発生する周方向応力を支承するとともに、周方向の引張応力によるゴム部材24aの伸びを緩和し、ゴム部材24aの破損を有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、参考例と同様である。
【0101】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例の車輪駆動ユニットについて、
図5を用いて説明する。
【0102】
本例の車輪駆動ユニットの構造も、基本的には、参考例の構造と同様である。すなわち、ゴム部材24bは、参考例と同様に、第1環状板22だけでなく、第2環状板23aにも加硫接着されている。
【0103】
本例では、ワッシャ5bを構成する第2環状板23aの構造が、
図3に示した参考例の構造と異なる。
【0104】
本例では、ゴム部材に対して周方向に係合する凸部が、第1環状板22ではなく、第2環状板23aに備えられている。すなわち、本例では、第2環状板23aの軸方向外側面の周方向複数箇所に、ゴム部材24bのゴム本体部30bに対して周方向に係合する凸部である内側凸部36が備えられている。
【0105】
それぞれの内側凸部36は、第2環状板23aを構成する第2環状側板部28aの径方向中間部にプレス加工を施してなる。このため、第2環状側板部28aのうち、それぞれの内側凸部36が設けられた部分の裏面には、内側凹部37が形成されている。
【0106】
ゴム本体部30bは、内側凸部36の表面全体に対し、該表面全体を覆うように加硫接着されている。
【0107】
本例では、第2例においてトルク伝達時にそれぞれの外側凸部により果たしていたゴム部材の周方向の圧縮機能を、それぞれの内側凸部36により果たすことによって、周方向の引張応力によるゴム部材24bの伸びを緩和し、ゴム部材24bの破損を有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、参考例と同様である。
【0108】
[第4例]
本開示の実施の形態の第4例の車輪駆動ユニットについて、
図6を用いて説明する。
【0109】
本例の車輪駆動ユニットの構造も、基本的には、参考例の構造と同様である。すなわち、ゴム部材24cは、参考例と同様に、第1環状板22aだけでなく、第2環状板23aにも加硫接着されている。
【0110】
本例では、ワッシャ5cを構成する第1環状板22aおよび第2環状板23aの構造が、
図3に示した参考例の構造と異なる。
【0111】
本例では、第1環状板22aについて第2例と同じ構造を採用し、第2環状板23aについて第3例と同じ構造を採用している。第1環状板22aの外側凸部34と第2環状板23aの内側凸部36とは、周方向に関して交互に配置されている。また、外側凸部34と内側凸部36との互いの先端側部分同士が周方向に重畳かつ離間して配置されている。
【0112】
ゴム部材24cのゴム本体部30cは、外側凸部34および内側凸部36の表面全体に対し、該表面全体を覆うように加硫接着されている。
【0113】
本例の場合、駆動軸部材からハブへのトルクの伝達時には、それぞれの外側凸部34によるゴム部材24cの周方向の圧縮機能と、それぞれの内側凸部36によるゴム部材24cの周方向の圧縮機能とが重畳して発揮されるため、周方向の引張応力によるゴム部材24cの伸びがより効率的に緩和され、ゴム部材24cの破損をより有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、参考例と同様である。
【0114】
[第5例]
本開示の実施の形態の第5例の車輪駆動ユニットについて、
図7を用いて説明する。
【0115】
本例の車輪駆動ユニットの構造は、基本的には、第1例の構造と同様である。すなわち、本例では、ゴム部材24aは、第1環状板22aにのみ加硫接着されている。
【0116】
本例では、ワッシャ5dを構成する第1環状板22aの構造が、第1例の構造と異なる。
【0117】
本例では、第1環状板22aについて第2例と同じ構造を採用している。ゴム部材24aのゴム本体部30aは、外側凸部34の表面全体に対し、該表面全体を覆うように加硫接着されている。
【0118】
本例の場合も、駆動軸部材からハブへのトルクの伝達時には、第2例と同様の理由により、周方向の引張応力によるゴム部材24aの伸びを緩和し、ゴム部材24aの破損を有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0119】
[第6例]
本開示の実施の形態の第6例の車輪駆動ユニットについて、
図8を用いて説明する。
【0120】
本例の車輪駆動ユニットの構造も、基本的には、第1例の構造と同様である。すなわち、本例では、ゴム部材24bは、第1環状板22にのみ加硫接着されている。
【0121】
本例では、ワッシャ5eを構成する第2環状板23aの構造が、第1例の構造と異なる。
【0122】
本例では、第2環状板23aについて第3例と同じ構造を採用している。ゴム部材24bのゴム本体部30bは、内側凸部36の表面全体に対して密に接触している。
【0123】
本例の場合も、駆動軸部材からハブへのトルクの伝達時には、第3例と同様の理由により、周方向の引張応力によるゴム部材24bの伸びを緩和し、ゴム部材24bの破損を有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0124】
[第7例]
本開示の実施の形態の第7例の車輪駆動ユニットについて、
図9を用いて説明する。
【0125】
本例の車輪駆動ユニットの構造も、基本的には、第1例の構造と同様である。すなわち、本例では、ゴム部材24cは、第1環状板22aにのみ加硫接着されている。
【0126】
本例では、ワッシャ5fを構成する第1環状板22aおよび第2環状板23aの構造が、第1例の構造と異なる。
【0127】
本例では、第1環状板22aについて第2例と同じ構造を採用し、第2環状板23aについて第3例と同じ構造を採用している。第1環状板22aの外側凸部34と第2環状板23aの内側凸部36とは、周方向に関して交互に配置されている。また、外側凸部34と内側凸部36との互いの先端側部分同士が周方向に重畳かつ離間して配置されている。
【0128】
ゴム部材24cのゴム本体部30cは、外側凸部34の表面全体に対し、該表面全体を覆うように加硫接着されており、かつ、内側凸部36の表面全体に対して密に接触している。
【0129】
本例の場合も、駆動軸部材からハブへのトルクの伝達時には、第4例と同様の理由により、周方向の引張応力によるゴム部材24cの伸びがより効率的に緩和され、ゴム部材24cの破損をより有効に防止することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0130】
[第8例]
本開示の実施の形態の第8例の車輪駆動ユニットについて、
図10を用いて説明する。
【0131】
本例の車輪駆動ユニットの構造も、基本的には、第1例の構造と同様である。すなわち、本例では、ゴム部材24は、第1環状板22にのみ加硫接着されている。
【0132】
本例では、車輪駆動ユニットの組立完了状態における、ワッシャ5gを構成する第1環状板22aと第2環状板23aとの軸方向の位置関係が、第1例の構造と異なる。
【0133】
本例では、自由状態でのゴム本体部30の軸方向幅寸法を、第1例の場合よりも大きくしている。そして、雄ねじ部21に螺合したナット4(
図1参照)の締め付けによって、ゴム本体部30を第1環状側板部25と第2環状側板部28との間で軸方向に圧縮した状態で、第1内側筒部26の軸方向内側の端面を、第2環状側板部28の軸方向外側面に対して接触させることなく対向させている。すなわち、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間に、軸方向の隙間Cを残存させている。本例では、ナット4の締め付けによって生じる軸力は、第1内側筒部26とゴム本体部30とのうち、ゴム本体部30にのみ負荷される。
【0134】
本例の構造によれば、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面とが接触していないため、第1内側筒部26の軸方向内側の端面と第2環状側板部28の軸方向外側面との間でスティックスリップ音などの異音が発生することを防止できる。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0135】
本開示の車輪駆動ユニットは、上述した各実施の形態の構造を適宜組み合わせて実施することができる。たとえば、第2例~第7例に対する変形例として、組立完了後の状態で、第1内側筒部26の軸方向内側の端面を、第2環状側板部28の軸方向外側面に対して接触させることなく対向させる構造を採用することもできる。
【符号の説明】
【0136】
1 車輪駆動ユニット
2 ハブユニット軸受
3 駆動軸部材
4 ナット
5、5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g、5z ワッシャ
6 外輪
7 ハブ
8a、8b 転動体
9a、9b 外輪軌道
10 静止フランジ
11a、11b 内輪軌道
12 回転フランジ
13 スプライン孔
14 ハブ輪
15 内輪
16 かしめ部
16a 軸方向内側面
17a、17b 保持器
18 等速ジョイント用外輪
18a 軸方向外側面
19 軸部
20 スプライン部
21 雄ねじ部
22、22a 第1環状板
23、23a 第2環状板
24、24a、24b、24c、24z ゴム部材
25 第1環状側板部
26 第1内側筒部
27 第1外側筒部
28 第2環状側板部
29 第2外側筒部
30、30a、30b、30c、30z ゴム本体部
31 係止部
32 係止筒部
33 係止突起部
34 外側凸部
35 外側凹部
36 内側凸部
37 内側凹部
100 車輪駆動ユニット
101 ハブユニット軸受
102 駆動軸部材
103 ナット
104 外輪
105 ハブ
106a、106b 転動体
107a、107b 外輪軌道
108a、108b 内輪軌道
109 回転フランジ
110 スプライン孔
111 ハブ輪
112 内輪
113 かしめ部
114 等速ジョイント用外輪
115 軸部
116 スプライン部
117 雄ねじ部
118 ワッシャ