(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130410
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】トランス接続相判定プログラム、方法、及び装置
(51)【国際特許分類】
G01R 29/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01R29/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040099
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北島 弘伸
(57)【要約】
【課題】トランスの接続相の判定精度を向上させる。
【解決手段】算出部14が、複数の配電線の各々の線電流と、複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、線電流の各々と、複数のトランスについての消費電力量との正準相関係数が最大となるように、複数の配電線の各々に対する複数のトランスの各々の所属変数を算出し、判定部16が、線電流の各々について算出された所属変数に基づいて、複数のトランスの各々の接続相を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出し、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるためのトランス接続相判定プログラム。
【請求項2】
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する前記配電線毎に、前記正準相関係数が最大となるように連続変数である前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数を正規化した値のうち、最小の前記値に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
請求項1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項3】
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、連続変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数のうち、最小の前記所属変数に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
請求項1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項4】
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、バイナリ変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2のトランスについては、値が1の前記所属変数に対応する配電線の組み合わせに対応する相を接続相として判定することを含む、
請求項1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項5】
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2ではないトランスについては、前記所属変数の合計が2のトランスについて判定した接続相を部分解として固定し、前記所属変数の合計が2ではないトランスの接続相の候補のうち、前記正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定することを含む請求項4に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項6】
前記所属変数を算出する処理は、二次以下の項で構成される二値最適化問題を適用して、バイナリ変数である前記所属変数を算出することを含む請求項4又は請求項5に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項7】
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出し、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータが実行するトランス接続相判定方法。
【請求項8】
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出する算出部と、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する判定部と、
を含むトランス接続相判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、トランス接続相判定プログラム、トランス接続相判定方法、及びトランス接続相判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力を消費する需要家と二次側で接続されたトランスが、一次側で高圧配電線のいずれの相に接続されているかを判定するトランス接続相判定装置が提案されている。例えば、この装置は、複数の配電線の2つの組み合わせに対応した相のいずれかに接続されたトランスに接続された少なくとも1つの需要家で消費された電力に起因する相電流を計算する。そして、この装置は、相電流と、複数の配電線の各々を流れる線電流の各々との相関係数の各々を計算し、相関係数が最小の線電流に対応した配電線以外の配電線を組み合わせた相を、トランスが接続された相と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-94752号公報
【特許文献2】特開2015-161541号公報
【特許文献3】特開2015-161607号公報
【特許文献4】特開2016-70812号公報
【特許文献5】特開2016-73136号公報
【特許文献6】特開2017-83397号公報
【特許文献7】特開2022-30902号公報
【特許文献8】特開2022-124876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術の接続相判定方式の判定精度は、配電系回線の条件に大きく依存する。この条件の良し悪しには、高圧需要家での電力消費やPV(Photovoltaic)発電による逆潮流に伴う変動等、個人需要家で取得可能なスマートメータ等のデータでは把握できない高圧電流成分が、相関分析に対するノイズとして働くことが影響する。
【0005】
また、従来技術の接続相判定方式は、高圧側線電流と低圧側負荷との1対1の相関分析に基づいており、各高圧側線電流と低圧側負荷との相関指標の差が判定の基準となっている。しかし、高圧側線電流と低圧側負荷との1対1の相関分析の場合、この差は非常に微弱であり、上記のノイズに対する耐性が低く、判定精度が低下する一因となっている。
【0006】
一つの側面として、開示の技術は、トランスの接続相の判定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様として、開示の技術は、複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とを取得する。また、開示の技術は、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出する。そして、開示の技術は、前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面として、トランスの接続相の判定精度を向上させることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】トランス接続相判定装置の機能ブロック図である。
【
図3】配電系統を仮想的な回路構成で表現した図である。
【
図7】トランス接続相判定装置として機能するコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【
図8】第1実施形態におけるトランス接続相判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】第2実施形態におけるトランス接続相判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第3実施形態におけるトランス接続相判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】β
x
*算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】例外処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、開示の技術に係る実施形態の一例を説明する。
【0011】
まず、
図1を参照し、配電網の一例について説明する。
図1に示す配電網100は、三相で高圧(例えば6.6kV)の交流電力を生成する配電変電所102を含んでいる。
図1の例では、配電系統が三相3線式とされ、配電変電所102には3本の高圧配電線104の一端が接続されている。配電変電所102で生成された三相で高圧の交流電力は3本の高圧配電線104を通じて送電される。なお、以下では3本の高圧配電線104を区別する場合に、それぞれをa線、b線、及びc線という。
【0012】
高圧配電線104の途中にはセンサ内蔵開閉器106が設置されており、センサ内蔵開閉器106により、a線の線電流Ia、b線の線電流Ib、及びc線の線電流Icの各々が、例えば30分単位で測定される。以下では、線電流Ia、Ib、及びIcを総称する場合は、線電流Ix(x∈{a,b,c})の符号を用いる。
【0013】
高圧配電線104は、センサ内蔵開閉器106の設置位置よりも交流電力の送電方向下流側の互いに異なる複数の位置に、単相のトランス108の一次側が各々接続されている。高圧配電線104に接続されるトランス108の数は、例えば数十~数百程度である。高圧配電線104は3本であるので、トランス108が接続される高圧配電線104の組み合わせ、すなわち接続相には3つの可能性がある。なお、実際のトランス108の多くは単相であるが、
図1では、トランス108の接続相に3つの可能性があることを表現するために、トランス108を三相で表している。以下では、可能性があるトランス108の接続相を、それぞれab相、bc相、及びca相という。
【0014】
個々のトランス108の二次側には複数本の低圧配電線110の一端が接続されており、トランス108で変換された単相で低圧(例えば105V)の交流電力は複数本の低圧配電線110を通じて送電される。低圧配電線110には、個々の需要家に近接した複数箇所において、個々の需要家に対応する引込線112が各々接続されている。個々の需要家へは、低圧配電線110及び引込線112を介して単相で低圧の交流電力が供給される。なお、1つのトランス108の配下の需要家の数は、例えば5~10程度である。
図1では、対応する引込線112が、1つのトランス108の二次側に接続された同じ低圧配電線110に接続されている需要家の数を表している。
【0015】
また、需要家の一部には通信機能付きの電力メータ(スマートメータ116)が設置されている。スマートメータ116が設置されている需要家における消費電力量Pは、例えば30分単位でスマートメータ116によって計測され、計測結果は図示しない通信線を介して配電事業者等へ送信される。
【0016】
ここで、上述したように、高圧側線電流と低圧側負荷との1対1の相関分析の場合、接続相の判定の基準である各高圧側線電流と低圧側負荷との相関指標の差が非常に微弱であり、ノイズに対する耐性が低い。これは、高圧側線電流には、接続されている複数のトランスでの負荷に起因するものが含まれているためである。そこで、各線電流との相関を、複数のトランスの各々の接続相の候補となる全ての組み合わせについて分析することも考えられる。しかし、この場合、1つの配電区間に対して接続されるトランスの数は100個程度であり、接続相の候補の組み合わせ数は膨大となるため、現実的な計算時間で各トランスの接続相を判定することは困難である。
【0017】
そこで、以下の各実施形態では、高圧側線電流と低圧側負荷との1対多の相関分析に正準相関分析を適用し、複数のトランスの各々の接続相の組み合わせの最適化問題を解くことにより、各トランスの接続相を判定する。以下、各実施形態について詳述する。
【0018】
<第1実施形態>
図2に示すように、第1実施形態に係るトランス接続相判定装置10は、選択部12と、算出部14と、判定部16と、出力部18とを備える。
【0019】
選択部12は、接続相の判定を行う対象の配電区間の識別情報である配電区間IDを入力として受け付け、配電区間IDに対応する配電区間に属するトランス、及びそのトランスに接続されている需要家を選択する。
【0020】
ここで、配電区間について説明する。例えば、
図3に示すような配電系統を考える。
図3の例は、三相3線式の回路であり、トランス(柱上トランス)は仮想的に三角結線された三相トランスであるとしている。実際の配電系統におけるトランスの多くでは単相3線式又は単相2線式のものが用いられ、利用される相も通常一つだけであるが、
図3では、接続相に複数の可能性があることを扱うために、配電系統を仮想的な回路構成で表現している。本実施形態では、2つのセンサ内蔵開閉器に挟まれた区間を「配電区間」とする。また、上述したように、需要家はトランスの二次側に接続されている。
【0021】
配電区間とその配電区間に属するトランスとの対応関係、及びトランスとそのトランスに接続されている需要家との対応関係は、配電情報として、配電情報DB(database)22に記憶されている。
【0022】
図4に、配電情報DB22の一例を示す。
図4の例では、配電情報DB22には、需要家毎に、「需要家ID」、「トランスID」、「配電区間ID」、及び「データ可用性フラグ」の各情報を含む配電情報が記憶されている。需要家IDは、需要家の識別情報である。トランスIDは、その需要家が接続されているトランスの識別情報である。配電区間IDは、そのトランスが属する配電区間の識別情報である。ここでは、
図3に示すように、配電系統の上流側と下流側とに設置されたセンサ内蔵開閉器に挟まれた配電区間が、直列にいくつもつながった配電系統を想定している。そして、例えば、センサ内蔵開閉器(S1)とセンサ内蔵開閉器(S2)とに挟まれた配電区間を示す配電区間IDを、「I1-2」のように定めている。データ可用性フラグは、各需要家の消費電力量のデータが利用可能か否かを示すフラグである。例えば、需要家に設置されたスマートメータ等の電力メータが、トランス接続相判定装置10とネットワークを介して接続されている場合には、その需要家の消費電力量のデータが利用可能であるとして、データ可用性フラグが「有」に設定される。
【0023】
したがって、選択部12は、配電情報DB22から、受け付けた配電区間IDに対応付けられた需要家ID及びトランスIDを選択する。なお、選択部12は、需要家IDを選択する際には、データ可用性フラグが「有」のものを選択する。また、選択部12は、該当の需要家IDが複数存在する場合には、複数の需要家IDを選択する。
【0024】
算出部14は、選択部12により選択されたトランス毎に、そのトランスに接続された需要家における消費電力の時系列データ(以下、「消費電力データ」という)を、消費電力データDB24から読み込む。消費電力データDB24には、需要家に設置されたスマートメータ116により、例えば30単位で測定された、需要家毎の消費電力データP(t)が記憶されている。
【0025】
図5に、消費電力データDB24の一例を示す。
図5に示す消費電力データDB24では、スマートメータ116で一定のサンプリング時間間隔(
図5の例では30分)で測定された消費電力量[kWh]が、需要家毎に時系列データとして蓄積されている。
【0026】
具体的には、選択されたトランスのうち、第iトランスに接続された需要家が1件の場合には、算出部14は、その需要家の需要家IDに対応した消費電力データを消費電力データDB24からそのまま読み込み、第iトランスの消費電力データPi(t)とする。第iトランスに接続された需要家が複数ある場合には、算出部14は、複数の需要家の各々の需要家IDに対応する複数の消費電力データを読み込む。そして、算出部14は、複数の消費電力データのサンプリング時刻毎の消費電力量を加算して、仮想的な1つの需要家の消費電力データPi(t)を算出する。なお、iは、i=1,2,・・・,m(mは判定対象の配電区間に属するトランスの数)である。さらに、算出部14は、選択された複数のトランスの消費電力データPi(t)をまとめて、第iトランスについての消費電力データP=(P1(t),P2(t),・・・,Pm(t))とする。
【0027】
また、算出部14は、判定対象の配電区間における線電流の時系列データ(以下、「線電流データ」という)を、線電流データDB26から読み込む。線電流データは、配電区間の両端を規定するセンサ内蔵開閉器106で測定された電流値から求めることができる。線電流データDB26には、センサ内蔵開閉器により、例えば30単位で測定された、配電区間毎かつ高圧配電線104毎の線電流データIx(t)(x∈{a,b,c})が記憶されている。
【0028】
図6に、線電流データDB26の一例を示す。
図6に示す線電流データDB26では、配電区間IDが示す配電区間のa線、b線、及びc線の各々において、一定のサンプリング時間間隔(
図6の例では30分)で測定された正味の電流値[A]が、線電流の時系列データとして蓄積されている。電流値は、判定対象の配電区間の上流に配置されたセンサ内蔵開閉器(S1)における測定値から、下流に配置されたセンサ内蔵開閉器(S2)における測定値を減算することにより算出される。算出部14は、読み込んだ線電流データI
x(t)を、平均0、標準偏差1となるように加工する。
【0029】
算出部14は、複数の配電線の各々の線電流と、複数のトランスについての消費電力量との正準相関係数が最大となるように、配電線の各々に対する複数のトランスの各々の所属変数を算出する。
【0030】
具体的には、算出部14は、配電線の線電流データの各々Ix(=Ix(t))(x∈{a,b,c})と、複数のトランスについての消費電力データPとの1対多の関係について、下記(1)式に示すように正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を定義する。
【0031】
【0032】
(1)式において、αは実数の係数である。また、βxはβx=(βx1,βx2,・・・,βxm)Tであり、βxiはx(x∈{a,b,c})線に対する第iトランスの所属変数であり、0≦βxi≦1の連続変数である。第1実施形態における所属変数βxiは、第iトランスがx線に属する尤度が高いほど1に近い値をとり、x線に属する尤度が低いほど0に近い値をとる。例えば、第iトランスがab相に接続されている場合、βai及びβbiは1に近い値となり、βciは0に近い値となる。また、Vは下記(2)式に示す分散共分散行列である。
【0033】
【0034】
算出部14は、正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を最大化するための目的関数を下記(3)式とした場合の極値問題をラグランジュの未定係数法で数値的に解き、正準相関係数が最大となる所属変数βx
*を、下記(4)式に示すように算出する。なお、λはラグランジュ乗数である。
【0035】
【0036】
判定部16は、算出部14により算出された所属変数βx
*に基づいて、複数のトランスの各々の接続相を判定する。具体的には、判定部16は、所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tを下記(5)式に示すように正規化した値γxiのうち、最小のγxiに対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、第iトランスの接続相として判定する。
【0037】
【0038】
より具体的には、判定部16は、以下のように第iトランスの接続相を判定する。
γci=min(γai,γbi,γci)の場合、ab相
γbi=min(γai,γbi,γci)の場合、ca相
γai=min(γai,γbi,γci)の場合、bc相
【0039】
出力部18は、判定部16により判定された、全てのトランス(第1トランス、第2トランス、・・・、第mトランス)の接続相の判定結果を、表示装置への表示、印刷装置による印刷等が可能な形式に処理して出力する。
【0040】
トランス接続相判定装置10は、例えば
図7に示すコンピュータ40で実現されてよい。コンピュータ40は、CPU(Central Processing Unit)41と、GPU(Graphics Processing Unit)42と、一時記憶領域としてのメモリ43と、不揮発性の記憶装置44とを備える。また、コンピュータ40は、入力装置、表示装置等の入出力装置45と、記憶媒体49に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するR/W(Read/Write)装置46とを備える。また、コンピュータ40は、インターネット等のネットワークに接続される通信I/F(Interface)47を備える。CPU41、GPU42、メモリ43、記憶装置44、入出力装置45、R/W装置46、及び通信I/F47は、バス48を介して互いに接続される。
【0041】
記憶装置44は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等である。記憶媒体としての記憶装置44には、コンピュータ40を、トランス接続相判定装置10として機能させるためのトランス接続相判定プログラム50が記憶される。トランス接続相判定プログラム50は、選択プロセス制御命令52と、算出プロセス制御命令54と、判定プロセス制御命令56と、出力プロセス制御命令58とを有する。
【0042】
CPU41は、トランス接続相判定プログラム50を記憶装置44から読み出してメモリ43に展開し、トランス接続相判定プログラム50が有する制御命令を順次実行する。CPU41は、選択プロセス制御命令52を実行することで、
図2に示す選択部12として動作する。また、CPU41は、算出プロセス制御命令54を実行することで、
図2に示す算出部14として動作する。また、CPU41は、判定プロセス制御命令56を実行することで、
図2に示す判定部16として動作する。また、CPU41は、出力プロセス制御命令58を実行することで、
図2に示す出力部18として動作する。これにより、トランス接続相判定プログラム50を実行したコンピュータ40が、トランス接続相判定装置10として機能することになる。なお、プログラムを実行するCPU41はハードウェアである。また、プログラムの一部は、GPU42により実行されてもよい。
【0043】
なお、トランス接続相判定プログラム50により実現される機能は、例えば半導体集積回路、より詳しくはASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等で実現されてもよい。
【0044】
次に、第1実施形態に係るトランス接続相判定装置10の動作について説明する。トランス接続相判定装置10に接続相の判定対象の配電区間の配電区間IDが入力されると、トランス接続相判定装置10において、
図8に示すトランス接続相判定処理が実行される。なお、トランス接続相判定処理は、開示の技術のトランス接続相判定方法の一例である。
【0045】
ステップS10で、選択部12が、入力された配電区間IDを受け付ける。次に、ステップS12で、選択部12が、配電情報DB22から、受け付けた配電区間IDに対応する配電区間に属するトランス、及びそのトランスに接続されている需要家を選択する。
【0046】
次に、ステップS14で、算出部14が、上記ステップS12で選択されたトランス毎に、そのトランスに接続された需要家における消費電力データを、消費電力データDB24から読み込む。例えば、
図4及び
図5の例で、第iトランスとして、トランスID=T1のトランスが選択されている場合には、需要家ID=d1のみが選択される。したがって、算出部14は、消費電力データDB24から、需要家ID=d1に対応する消費電力データをP
i(t)として、そのまま読み込む。また、例えば、第iトランスとして、トランスID=T2のトランスが選択されている場合には、需要家ID=d2,d3が選択される。なお、d4はデータ可用性フラグが「無」のため選択されない。この場合、算出部14は、消費電力データDB24から、需要家ID=d2に対応する消費電力データ、及び需要家ID=d3に対応する消費電力データを読み込む。そして、算出部14は、「0:00」の消費電力量=0.65+0.51=1.16、「0:30」の消費電力量=0.62+0.44=1.06、・・・のような仮想的な1つの需要家の消費電力データを、消費電力データP
i(t)として算出する。そして、算出部14が、選択された複数のトランスの消費電力データP
i(t)をまとめて、消費電力データP=(P
1(t),P
2(t),・・・,P
m(t))とする。
【0047】
次に、ステップS16で、算出部14は、判定対象の配電区間における線電流データIx(t)を、線電流データDB26から読み込む。算出部14は、読み込んだ線電流データIx(t)を、平均0、標準偏差1となるように加工する。
【0048】
次に、ステップS18で、算出部14が、配電線の線電流データの各々Ix(x∈{a,b,c})と、複数のトランスについての消費電力データPとの1対多の関係について、(1)式に示す正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を定義する。そして、算出部14が、正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を最大化するための目的関数を(3)式とした場合の極値問題をラグランジュの未定係数法で数値的に解き、正準相関係数が最大となる所属変数βx
*を、(4)式に示すように算出する。
【0049】
次に、ステップS20で、判定部16が、所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tを(5)式に示すように正規化した値γx=(γx1,γx2,・・・,γxm)Tを算出する。次に、ステップS22で、判定部16が、γxiのうち、最小のγxiに対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、第iトランスの接続相として判定する。判定部16は、全てのトランス(第1トランス、第2トランス、・・・、第mトランス)について接続相を判定する。
【0050】
次に、ステップS24で、出力部18が、上記ステップS22で判定された、全てのトランスの接続相の判定結果を、表示装置への表示、印刷装置による印刷等が可能な形式に処理して出力し、トランス接続相判定処理は終了する。
【0051】
以上説明したように、第1実施形態に係るトランス接続相判定装置は、複数の配電線の各々の線電流を取得する。また、トランス接続相判定装置は、複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量を取得する。また、トランス接続相判定装置は、線電流の各々と、複数のトランスについての消費電力量との正準相関係数が最大となるように、線電流の各々に対応する配電線毎に、複数の配電線の各々に対する複数のトランスの各々の連続変数である所属変数を算出する。そして、トランス接続相判定装置は、配電線毎に算出された所属変数を正規化した値のうち、最小の値に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、複数のトランスの各々の接続相と判定する。これにより、高圧側線電流と低圧側負荷との1対1の相関分析を行う場合に比べ、1対多の正準相関分析を行うことによる相関係数の値の増大により、ノイズ耐性が向上し、トランス接続相の判定精度を向上させることができる。
【0052】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態に係るトランス接続相判定装置において、第1実施形態に係るトランス接続相判定装置10と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0053】
図2に示すように、第2実施形態に係るトランス接続相判定装置210は、選択部12と、算出部214と、判定部216と、出力部18とを備える。
【0054】
第1実施形態では、算出部14は、配電線毎の正準相関係数ρCCAx(Ix,P)(x∈{a,b,c})がそれぞれ最大となるように、所属変数βx
*をそれぞれ算出する場合について説明した。第2実施形態では、算出部214は、下記(6)式の最大化問題を解く。具体的には、算出部214は、(6)式を最大化するための目的関数を下記(7)式とした場合の極値問題をラグランジュの未定係数法で数値的に解き、正準相関係数が最大となる所属変数βx
*(x∈{a,b,c})を算出する。
【0055】
【0056】
判定部216は、所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tのうち、最小のβxi
*に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、第iトランスの接続相と判定する。より具体的には、判定部216は、以下のように第iトランスの接続相を判定する。
βci
*=min(βai
*,βbi
*,βci
*)の場合、ab相
βbi
*=min(βai
*,βbi
*,βci
*)の場合、ca相
βai
*=min(βai
*,βbi
*,βci
*)の場合、bc相
【0057】
トランス接続相判定装置210は、例えば
図7に示すコンピュータ40で実現されてよい。コンピュータ40の記憶装置44には、コンピュータ40を、トランス接続相判定装置210として機能させるためのトランス接続相判定プログラム250が記憶される。トランス接続相判定プログラム250は、選択プロセス制御命令52と、算出プロセス制御命令254と、判定プロセス制御命令256と、出力プロセス制御命令58とを有する。
【0058】
CPU41は、トランス接続相判定プログラム250を記憶装置44から読み出してメモリ43に展開し、トランス接続相判定プログラム250が有する制御命令を順次実行する。CPU41は、算出プロセス制御命令254を実行することで、
図2に示す算出部214として動作する。また、CPU41は、判定プロセス制御命令256を実行することで、
図2に示す判定部216として動作する。他の制御命令については、第1実施形態に係るトランス接続相判定プログラム50と同様である。これにより、トランス接続相判定プログラム250を実行したコンピュータ40が、トランス接続相判定装置210として機能することになる。
【0059】
なお、トランス接続相判定プログラム250により実現される機能は、例えば半導体集積回路、より詳しくはASIC、FPGA等で実現されてもよい。
【0060】
次に、第2実施形態に係るトランス接続相判定装置210の動作について説明する。トランス接続相判定装置210に接続相の判定対象の配電区間の配電区間IDが入力されると、トランス接続相判定装置210において、
図9に示すトランス接続相判定処理が実行される。なお、第2実施形態に係るトランス接続相判定処理において、第1実施形態に係るトランス接続相判定処理(
図8)と同様の処理については、同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
ステップS10~S16を経て、次のステップS218で、算出部214が、(6)式に示す正準相関係数ρCCAx(Ix,P)(x∈{a,b,c})の合計を最大化するための目的関数を(7)式のように定義する。そして、算出部214が、(7)式の極値問題をラグランジュの未定係数法で数値的に解き、正準相関係数が最大となる所属変数βx
*(x∈{a,b,c})を算出する。
【0062】
次に、ステップS222で、判定部216が、所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tのうち、最小のβxi
*に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、第iトランスの接続相と判定する。
【0063】
以上説明したように、第2実施形態に係るトランス接続相判定装置は、複数の配電線の各々の線電流を取得する。また、トランス接続相判定装置は、複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量を取得する。また、トランス接続相判定装置は、線電流の各々と、複数のトランスについての消費電力量との正準相関係数の合計が最大となるように、線電流の各々に対応する配電線毎に、複数の配電線の各々に対する複数のトランスの各々の連続変数である所属変数を算出する。そして、トランス接続相判定装置は、配電線毎に算出された所属変数のうち、最小の所属変数に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、複数のトランスの各々の接続相と判定する。これにより、第1実施形態と同様に、トランス接続相の判定精度を向上させることができる。
【0064】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態に係るトランス接続相判定装置において、第1実施形態に係るトランス接続相判定装置10と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0065】
図2に示すように、第3実施形態に係るトランス接続相判定装置310は、選択部12と、算出部314と、判定部316と、出力部18とを備える。
【0066】
第1及び第2実施形態では、連続変数である所属変数βxを用いる場合について説明したが、第3実施形態では、バイナリ変数である所属変数βxを用いる。
【0067】
具体的には、算出部314は、第1実施形態と同様に、(1)式に示す正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を定義する。ただし、所属変数βxi∈{0,1}である。ここで、(1)式を下記(8)式のように変換し、正準相関係数ρCCAx(Ix,P)を最大化するための目的関数を下記(9)式のように定義する。
【0068】
【0069】
なお、ηxは、QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)形式を表す。算出部314は、下記(10)式を逐次的に解くことで、正準相関係数が最大となる所属変数βx
*を算出する。
【0070】
【0071】
ここで、各トランスは、高圧側の配電線の二線に接続されているため、理想的には、Σx∈{a,b,c}βxi
*=2(i=1,2,・・・,m)になるはずである。しかし、様々な原因からこの条件を満たさない解が得られる場合もある。そこで、第3実施形態の判定部316は、Σx∈{a,b,c}βxi
*=2とならない場合の判定を例外処理として実行する。
【0072】
具体的には、判定部316は、通常処理として、Σx∈{a,b,c}βxk
*=2である第kトランスについて、βxk
*=1に対応する配電線の組み合わせに対応する相を、第kトランスの接続相として判定する。例えば、判定部316は、βak
*=1及びβbk
*=1の場合、第kトランスの接続相をab相と判定する。また、判定部316は、例外処理として、Σx∈{a,b,c}βxj
*≠2である第jトランスについて、通常処理の判定結果を部分解として固定し、接続相の候補のうち、正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定する。
【0073】
より具体的には、判定部316は、Σx∈{a,b,c}βxi
*≠2である第jトランスについての接続相の候補を下記のように作成する。
Σx∈{a,b,c}βxj
*=0又は3の場合 →
(βaj
*,βbj
*,βcj
*)=(1,1,0),(0,1,1),(1,0,1)
Σx∈{a,b,c}βxj
*=1の場合 →
(βaj
*,βbj
*,βcj
*)=(1,1,0),(0,1,1),(1,0,1)のうち、βxj
*=1に合致するもの。例えば、βaj
*=1の場合、(βaj
*,βbj
*,βcj
*)=(1,1,0),(1,0,1)
【0074】
判定部316は、第kトランスについての判定結果である部分解{βxk
*}と、上記のように作成した第jトランスの接続相の候補の各々とを用いて、候補毎に、下記(11)式に示す正準相関係数ρsubtotalを算出し、ρsubtotalが最大となる候補を、第jトランスについての解{βxj
*}として決定する。
【0075】
【0076】
判定部316は、{βxk
*}及び{βxj
*}から、全てのトランスの所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tを決定し、決定したβx
*に基づいて、以下のように第iトランスの接続相を判定する。
(βai
*,βbi
*,βci
*)=(1,1,0)の場合、ab相
(βai
*,βbi
*,βci
*)=(1,0,1)の場合、ca相
(βai
*,βbi
*,βci
*)=(0,1,1)の場合、bc相
【0077】
トランス接続相判定装置310は、例えば
図7に示すコンピュータ40で実現されてよい。コンピュータ40の記憶装置44には、コンピュータ40を、トランス接続相判定装置310として機能させるためのトランス接続相判定プログラム350が記憶される。トランス接続相判定プログラム350は、選択プロセス制御命令52と、算出プロセス制御命令354と、判定プロセス制御命令356と、出力プロセス制御命令58とを有する。
【0078】
CPU41は、トランス接続相判定プログラム350を記憶装置44から読み出してメモリ43に展開し、トランス接続相判定プログラム350が有する制御命令を順次実行する。CPU41は、算出プロセス制御命令354を実行することで、
図2に示す算出部314として動作する。また、CPU41は、判定プロセス制御命令356を実行することで、
図2に示す判定部316として動作する。他の制御命令については、第1実施形態に係るトランス接続相判定プログラム50と同様である。これにより、トランス接続相判定プログラム350を実行したコンピュータ40が、トランス接続相判定装置310として機能することになる。
【0079】
なお、トランス接続相判定プログラム350により実現される機能は、例えば半導体集積回路、より詳しくはASIC、FPGA等で実現されてもよい。
【0080】
次に、第3実施形態に係るトランス接続相判定装置310の動作について説明する。トランス接続相判定装置310に接続相の判定対象の配電区間の配電区間IDが入力されると、トランス接続相判定装置310において、
図10に示すトランス接続相判定処理が実行される。なお、第3実施形態に係るトランス接続相判定処理において、第1実施形態に係るトランス接続相判定処理(
図8)と同様の処理については、同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
【0081】
ステップS10~S16を経て、次のステップS30で、β
x
*算出処理が実行される。ここで、
図11を参照して、β
x
*算出処理について説明する。
【0082】
ステップS302で、算出部314が、(9)式のλ、逐次処理の収束判定のための精度指標F及び閾値εの初期値を設定する。例えば、λ=0、F=+∞、ε=10-4としてよい。次に、ステップS304で、算出部314が、|F|がεより小さくなったか否かを判定する。|F|<εの場合には、ステップS310へ移行し、|F|≧εの場合には、ステップS306へ移行する。
【0083】
ステップS306では、算出部314が、(10)式を解くことで、η
xが最大となる、すなわち、正準相関係数が最大となる所属変数β
x
*を算出する。次に、ステップS308で、算出部314が、Fにη
x(β
x
*,λ)を設定し、λにρ
CCAx(β
x
*)を設定し、ステップS304に戻る。一方、ステップS310では、直近のステップS306で算出されたβ
x
*を出力し(判定部316へ受け渡し)、トランス接続相判定処理(
図10)にリターンする。
【0084】
次に、ステップS32で、判定部316が、上記ステップS30で算出されたβx
*に基づいて、第iトランスについてのΣx∈{a,b,c}βxi
*が2か否かを判定する。Σx∈{a,b,c}βxi
*≠2の場合には、ステップS34へ移行し、判定部316が、その第iトランスを、例外処理の対象として記憶する。Σx∈{a,b,c}βxi
*=2の場合には、上記ステップS34の処理はスキップする。判定部316は、全てのトランスについて上記ステップS32の判定を行うと、ステップS36へ移行する。
【0085】
ステップS36では、判定部316が、Σ
x∈{a,b,c}β
xk
*=2である第kトランスについて算出された{β
xk
*}を、所属変数β
x
*の部分解として決定する。次に、ステップS40で、例外処理が実行される。ここで、
図12を参照して、例外処理について説明する。
【0086】
ステップS402で、判定部316が、上記ステップS36で決定した、Σx∈{a,b,c}βxk
*=2である第kトランスについて算出された{βxk
*}を、部分解として固定する。
【0087】
次に、ステップS404で、判定部316が、例外処理対象の第jトランスについての接続相の候補として、Σx∈{a,b,c}βxj
*=0又は3の場合は、(βaj
*,βbj
*,βcj
*)=(1,1,0),(0,1,1),(1,0,1)を作成する。また、判定部316が、第jトランスについての接続相の候補として、Σx∈{a,b,c}βxj
*=1の場合には、(βaj
*,βbj
*,βcj
*)=(1,1,0),(0,1,1),(1,0,1)のうち、βxj
*=1に合致するものを作成する。
【0088】
次に、ステップS406で、判定部316が、上記ステップS402で固定した部分解{β
xk
*}と、上記ステップS404で作成した第jトランスの接続相の候補の各々とを用いて、候補毎に(11)式に示す正準相関係数ρ
subtotalを算出する。次に、ステップS408で、判定部316が、ρ
subtotalが最大となる候補を、第jトランスについての解{β
xj
*}として決定し、トランス接続相判定処理(
図10)にリターンする。
【0089】
次に、ステップS42で、判定部316が、{βxk
*}及び{βxj
*}から、全てのトランスの所属変数βx
*=(βx1
*,βx2
*,・・・,βxm
*)Tを決定する。次に、ステップS44で、判定部216が、決定したβx
*に基づいて、第iトランスの接続相を、(βai
*,βbi
*,βci
*)=(1,1,0)の場合、ab相、(1,0,1)の場合、ca相、(0,1,1)の場合、bc相と判定する。
【0090】
以上説明したように、第3実施形態に係るトランス接続相判定装置は、複数の配電線の各々の線電流を取得する。また、トランス接続相判定装置は、複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量を取得する。また、トランス接続相判定装置は、線電流の各々と、複数のトランスについての消費電力量との正準相関係数が最大となるように、バイナリ変数である配電線毎の所属変数を算出する。そして、トランス接続相判定装置は、複数のトランスのうち、所属変数の合計が2のトランスについては、値が1の所属変数に対応する配電線の組み合わせに対応する相を接続相として判定する。また、トランス接続相判定装置は、所属変数の合計が2ではないトランスについては、所属変数の合計が2のトランスについて判定した接続相を部分解として固定し、接続相の候補のうち、正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定する。これにより、第1及び第2実施形態と同様に、トランス接続相の判定精度を向上させることができる。また、トランスの接続関係を示す所属変数を連続変数で近似している第1及び第2実施形態に比べ、所属変数をバイナリ変数とするため、より厳密な接続関係を算出することができる。
【0091】
さらに、第3実施形態に係るトランス接続相判定装置は、正準相関係数が最大となる所属変数の算出にQUBO形式を適用することで、現実的な計算時間で全てのトランスの接続相を判定することができる。具体的には、第3実施形態では、バイナリ変数版の組み合わせ最適化問題を現実的な時間で求解するために量子コンピューティングの利用を想定している。デジタルアニーラ、実機等の一般的な量子計算機で組み合わせ最適化問題を効率的に解くには、問題を、評価関数がバイナリ変数の二次以下の項で構成される問題であるQUBO形式に落とし込むことが望ましい。形式的には、第2実施形態のように、3種類の高圧側配電線に対応した正準相関係数の和を最大化するような最適化問題を設計することは可能である。しかし、バイナリ変数版では、連続変数版のように正準相関係数の分母を1に制約することができないという問題がある。{0,1}の変数で常に分母を1にすることは不可能だからである。また、3つの正準相関係数の和を逐次解法で最大化するには、和を通分して分数関数の形にする必要があるが、この場合、分母にも分子にも二次以上の項が出てくるため、QUBOにならないという問題がある。
【0092】
そこで、第3実施形態では、まず3つの正準相関係数のそれぞれを個別に最大化する処理を行い、その後に各トランスが接続関係にあると推定される配電線が現実通りの2種類であるかどうかをチェックしている。チェック結果が2種類であれば、接続相判定結果がそのまま出力され、それ以外であれば例外処理を実行して判定結果を修正している。これにより、第3実施形態では、全てのトランスの接続相の判定を、現実的な計算時間で実現することができる。
【0093】
また、第1~第3実施形態では、上述したように、1対多の正準相関分析を行うことによる相関係数の値の増大により、ノイズ耐性が向上し、トランス接続相の判定精度を向上させることができる。この相関係数増大の見積もりについて説明する。接続相判定の基準となる相関係数の差Δρは、各トランスの負荷の時間変化が無相関であると仮定した場合、Δρ∝√(3n/2N)のような比例関係にあると概算することができる。Nはトランスの総数、nは相関分析の対象として想定するトランス数である。
【0094】
ここで、典型的な配電系回線の規模から、N=100とし、従来技術のような1対1の相関分析(n=1)と、上記各実施形態の正準相関分析(n=66)とを比較すると、上記の比例関係から、本実施形態の方が、8.1倍程度相関係数が大きくなる。なお、n=66と設定したのは、複数のトランスと、a線、b線、及びc線とが均等に接続されると想定した場合、各高圧線には66個のトランスが接続されていると仮定したものである。
【0095】
なお、日周期成分、月周期成分、年周期成分等の周期成分による擬似相関のある原信号等の場合、上記の各トランスの負荷の時間変化が無相関であるとの仮定が成立し難い場合もある。このような場合でも、ハイパスフィルタを適用する等の前処理により、上記仮定を妥当なものにすることが可能である。
【0096】
また、上記各実施形態では、トランス接続相判定プログラムが記憶装置に予め記憶(インストール)されているが、これに限定されない。開示の技術に係るプログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、USBメモリ等の記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。
【0097】
以上の各実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0098】
(付記1)
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出し、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるためのトランス接続相判定プログラム。
【0099】
(付記2)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する前記配電線毎に、前記正準相関係数が最大となるように連続変数である前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数を正規化した値のうち、最小の前記値に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
付記1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0100】
(付記3)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、連続変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数のうち、最小の前記所属変数に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
付記1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0101】
(付記4)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、バイナリ変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2のトランスについては、値が1の前記所属変数に対応する配電線の組み合わせに対応する相を接続相として判定することを含む、
付記1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0102】
(付記5)
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2ではないトランスについては、前記所属変数の合計が2のトランスについて判定した接続相を部分解として固定し、前記所属変数の合計が2ではないトランスの接続相の候補のうち、前記正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定することを含む付記4に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0103】
(付記6)
前記所属変数を算出する処理は、二次以下の項で構成される二値最適化問題を適用して、バイナリ変数である前記所属変数を算出することを含む付記4又は付記5に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0104】
(付記7)
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出し、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータが実行するトランス接続相判定方法。
【0105】
(付記8)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する前記配電線毎に、前記正準相関係数が最大となるように連続変数である前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数を正規化した値のうち、最小の前記値に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
付記7に記載のトランス接続相判定方法。
【0106】
(付記9)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、連続変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記配電線毎に算出された前記所属変数のうち、最小の前記所属変数に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定することを含む、
付記7に記載のトランス接続相判定方法。
【0107】
(付記10)
前記所属変数を算出する処理は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、バイナリ変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出することを含み、
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2のトランスについては、値が1の前記所属変数に対応する配電線の組み合わせに対応する相を接続相として判定することを含む、
付記7に記載のトランス接続相判定方法。
【0108】
(付記11)
前記判定する処理は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2ではないトランスについては、前記所属変数の合計が2のトランスについて判定した接続相を部分解として固定し、前記所属変数の合計が2ではないトランスの接続相の候補のうち、前記正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定することを含む付記10に記載のトランス接続相判定方法。
【0109】
(付記12)
前記所属変数を算出する処理は、二次以下の項で構成される二値最適化問題を適用して、バイナリ変数である前記所属変数を算出することを含む付記10又は付記11に記載のトランス接続相判定方法。
【0110】
(付記13)
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出する算出部と、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する判定部と、
を含むトランス接続相判定装置。
【0111】
(付記14)
前記算出部は、前記線電流の各々に対応する前記配電線毎に、前記正準相関係数が最大となるように連続変数である前記所属変数を算出し、
前記判定部は、前記配電線毎に算出された前記所属変数を正規化した値のうち、最小の前記値に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定する
付記13に記載のトランス接続相判定装置。
【0112】
(付記15)
前記算出部は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、連続変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出し、
前記判定部は、前記配電線毎に算出された前記所属変数のうち、最小の前記所属変数に対応する配電線以外の配電線の組み合わせに対応する相を、前記複数のトランスの各々の接続相と判定する
付記13に記載のトランス接続相判定装置。
【0113】
(付記16)
前記算出部は、前記線電流の各々に対応する配電線毎の前記正準相関係数の合計が最大となるように、バイナリ変数である前記配電線毎の前記所属変数を算出し、
前記判定部は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2のトランスについては、値が1の前記所属変数に対応する配電線の組み合わせに対応する相を接続相として判定する
付記13に記載のトランス接続相判定装置。
【0114】
(付記17)
前記判定部は、前記複数のトランスのうち、前記配電線毎に算出された前記所属変数の合計が2ではないトランスについては、前記所属変数の合計が2のトランスについて判定した接続相を部分解として固定し、前記所属変数の合計が2ではないトランスの接続相の候補のうち、前記正準相関係数が最大となる候補を接続相として判定する付記16に記載のトランス接続相判定装置。
【0115】
(付記18)
前記算出部は、二次以下の項で構成される二値最適化問題を適用して、バイナリ変数である前記所属変数を算出することを含む付記16又は付記17に記載のトランス接続相判定装置。
【0116】
(付記19)
複数の配電線の各々の線電流と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかの相に接続された複数のトランスの各々に接続された消費主体で消費された消費電力量とについて、前記線電流の各々と、前記複数のトランスについての前記消費電力量との正準相関係数が最大となるように、前記複数の配電線の各々に対する前記複数のトランスの各々の所属変数を算出し、
前記線電流の各々について算出された前記所属変数に基づいて、前記複数のトランスの各々の接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるためのトランス接続相判定プログラムを記憶した非一時的記憶媒体。
【符号の説明】
【0117】
10、210、310 トランス接続相判定装置
12 選択部
14、214、314 算出部
16、216、316 判定部
18 出力部
22 配電情報DB
24 消費電力データDB
26 線電流データDB
40 コンピュータ
41 CPU
42 GPU
43 メモリ
44 記憶装置
45 入出力装置
46 装置
47 通信I/F
48 バス
49 記憶媒体
50、250、350 トランス接続相判定プログラム
52 選択プロセス制御命令
54、254、354 算出プロセス制御命令
56、256,356 判定プロセス制御命令
58 出力プロセス制御命令