(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130424
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両特性算出装置、車両特性算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/10 20120101AFI20240920BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60W40/10
G01M17/007 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040115
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康悟
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA49
3D241BB31
3D241CA15
3D241CA18
3D241CD15
3D241DA52Z
3D241DA55Z
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DC44Z
(57)【要約】
【課題】データの種類が少なくても最小回転半径を算出することができるようにする。
【解決手段】車両特性算出装置10は、履歴取得部130及び算出部150を備えている。履歴取得部130は、車両20の走行履歴を取得する。この走行履歴は、走行方向及び速度の履歴を含んでいる。算出部150は、走行履歴を用いて走行方向の単位時間当たりの変化量に関する指標の推移を特定し、当該推移を用いて車両20の最小回転半径を算出する。ここで用いられる指標は、車両20の軌跡における回転半径であってもよいし、走行方向の単位時間当たりの変化量そのものであってもよい。また、算出部150は、走行履歴を用いて車両20のホイールベース長を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行方向及び速度の履歴を取得する履歴取得部と、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベース長を算出する算出部と、
を備える車両特性算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両特性算出装置において、
前記算出部が用いる前記履歴において、前記走行方向は所定角度以上変化している車両特性算出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両特性算出装置において、
前記算出部は、
前記走行方向が変化する前の前記走行方向をy軸とした場合において、前記履歴における前記走行方向の推移及び前記速度を用いて、前記車両の前記y方向の変位の推移を特定し、
前記y方向の変位の最大値である第1値を用いて前記ホイールベース長を算出する、車両特性算出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両特性算出装置において、
前記y軸に直交する方向をx軸とした場合、
前記履歴において、前記走行方向が前記x方向において第1の方向に変化した後、前記x方向において第1の方向とは逆の第2の方向に変化することにより、前記第2の方向に所定角度以上変化していた場合、
前記算出部は、
前記履歴における前記走行方向の推移及び前記速度を用いて、前記車両の前記x方向の変位の推移を算出し、
前記x方向の変位のうち前記第1の方向の最大値である第2値をさらに用いて前記ホイールベース長を算出する、車両特性算出装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両特性算出装置において、
前記算出部は、前記走行方向の推移が所定の基準を満たす場合、前記第1値に所定の係数を乗じた値を用いて前記ホイールベース長を算出する、車両特性算出装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の車両特性算出装置において、
前記算出部は、
前記履歴の始点と終点における前記走行方向の差を算出し、
前記履歴の始点から当該差の中間地点までの前記車両の走行距離である第1距離と、当該差の中間地点から前記履歴の終点までの前記車両の走行距離である第2距離と、を特定し、
前記第1距離と前記第2距離との差を用いて前記ホイールベース長を算出する、車両特性算出装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の車両特性算出装置において、
前記算出部は、前記履歴を用いて前記走行方向の単位時間当たりの変化量に関する指標の推移を特定し、当該推移を用いて前記車両の最小回転半径を算出する車両特性算出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両特性算出装置において、
前記ホイールベース長及び前記最小回転半径を用いて、前記車両の車種を推定する推定部を備える、車両特性算出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両特性算出装置において、
前記推定部は、少なくとも、前記車両がトラクター及びトレーラを含んでいるか否かを推定する、車両特性算出装置。
【請求項10】
コンピュータが、
車両の走行方向及び速度の履歴を取得し、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベース長を算出する、車両特性算出方法。
【請求項11】
コンピュータに、
車両の走行方向及び速度の履歴を取得する機能と、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベース長を算出する機能と、
を持たせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両特性算出装置、車両特性算出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の特性を示す指標としては、様々なものがある。例えば特許文献1には、車両のハンドルをフル切り状態にして、その車両を360°旋回させることにより、その車の最小回転半径を得ることが記載されている。
【0003】
また特許文献2には、車両に取り付けられたセンサシステムやカメラの画像を用いてトレーラの長さを推定することが記載されている。特許文献2において、センサシステムに含まれるセンサとして、超音波距離計、レーダー、ソナー、LIDAR、及びLADARが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-40059号公報
【特許文献2】特表2020-534209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の特性を示す指標として、ホイールベース長は重要である。本発明の目的の一例は、データの種類が少なくてもホイールベースを算出することができる車両特性算出装置、車両特性算出方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
車両の走行方向及び速度の履歴を取得する履歴取得部と、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベースを算出する算出部と、
を備える車両特性算出装置である。
【0007】
請求項10に記載の発明は、コンピュータが、
車両の走行方向及び速度の履歴を取得し、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベースを算出する、車両特性算出方法である。
【0008】
請求項11に記載の発明は、コンピュータに、
車両の走行方向及び速度の履歴を取得する機能と、
前記履歴における前記走行方向の推移を特定し、当該推移及び前記速度を用いて前記車両のホイールベースを算出する機能と、
を持たせるプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る車両特性算出装置の使用環境を示す図である。
【
図2】車両特性算出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】車両特性算出装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】車両特性算出装置が行う処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】対象履歴に対応する車両の走行履歴の一例を示している。
【
図6】走行方向が走行時間に対してどのように変化しているかを示す図である。
【
図7】走行方向の変化量が走行時間に対してどのように変化しているかを示す図である。
【
図8】ホイールベース長の算出処理の第1例を説明するための図である。
【
図10】ホイールベース長の算出処理の第2例を説明するための図である。
【
図11】ホイールベース長の算出処理の第3例を説明するための図である。
【
図12】ホイールベース長の修正方法の一例を示す図である。
【
図13】第2の実施形態に係る車両特性算出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図14】算出部がホイールベース長を算出する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る車両特性算出装置10の使用環境を示す図である。車両特性算出装置10は、複数の車両20と通信する。車両20は、例えば、トラクタ及びトレーラからなる牽引自動車、トラック、バス、又は乗用車である。
【0012】
具体的には、車両20にはジャイロセンサ及び速度計が取り付けられている。車両特性算出装置10は、車両20からジャイロセンサ及び速度計の測定結果すなわち車両20の走行方向及び速度を繰り返し取得し、その車両20の走行履歴として記憶する。そして車両特性算出装置10は、この走行履歴を用いて、車両20の最小回転半径を算出するとともに、車両20のホイールベース長を算出する。
【0013】
なお、車両20が走行している場所と車両特性算出装置10が設置されている場所は、同一の国であってもよいし、異なる国であってもよい。車両20は、無線通信を介してインターネットなどの公衆通信網に接続する。そして車両特性算出装置10は、有線通信又は無線通信を介して公衆通信網に接続する。
【0014】
なお、車両特性算出装置10は車両20に搭載されていてもよい。また、後述する車両特性算出装置10の機能の一部は車両20によって行われてもよい。
【0015】
図2は、車両特性算出装置10の機能構成の一例を示すブロック図である。車両特性算出装置10は、履歴取得部130及び算出部150を備えている。履歴取得部130は、車両20の走行履歴を取得する。この走行履歴は、走行方向及び速度の履歴を含んでいる。算出部150は、走行履歴を用いて走行方向の単位時間当たりの変化量に関する指標の推移を特定し、当該推移を用いて車両20の最小回転半径を算出する。ここで用いられる指標は、車両20の軌跡における回転半径であってもよいし、走行方向の単位時間当たりの変化量そのものであってもよい。また、算出部150は、走行履歴を用いて車両20のホイールベース長を算出する。
【0016】
以下、車両特性算出装置10の機能構成の詳細を説明する。車両特性算出装置10は、履歴取得部130及び算出部150に加えて、通信部110、履歴記憶部120、及び特定部140を有している。履歴記憶部120は、車両特性算出装置10の外部に位置していてもよい。
【0017】
通信部110は、車両20と通信し、車両20から当該車両20の走行履歴を取得し、この車両20を識別する車両識別情報に対応付けて履歴記憶部120に記憶させる。走行履歴の一例は、例えば、走行方向及び速度を含む測定データを測定日時に紐づけたものである。ただし、測定データの測定間隔が一定である場合、走行履歴は測定日時を含んでいなくてもよい。この場合、履歴記憶部120は、測定データの測定間隔を記憶している。
【0018】
履歴取得部130は、最小回転半径及びホイールベース長の算出対象となる車両20の車両識別情報を取得すると、この車両識別情報に対応する走行履歴を履歴記憶部120から読み出す。
【0019】
特定部140は、履歴取得部130が読み出した走行履歴のうち、走行方向が所定角度以上変化している部分である対象履歴を特定する。ここで所定角度は、例えば80°以上である。さらに好ましくは、所定角度は、80°以上100°以下である。これは、車両20が所定角度以上曲がったとき、例えば交差点でほぼ直角に曲がったときのデータが対象履歴として好適であるためである。
【0020】
ここで特定部140は、対象履歴となるべき部分を特定する際の条件として、さらに、速度が基準速度以下であること、及び、走行方向が所定角度変化するまでの時間が基準時間以上であること、の少なくとも一方を加えてもよい。このようにすると、「算出部150が用いる履歴において、速度が基準速度以下であり、かつ/または、走行方向が所定角度変化するまでの時間は所定時間
以上である」という条件は満たされる。この場合、最小回転半径及びホイールベース長の算出精度は高くなる。
【0021】
算出部150は、対象履歴を用いて車両20の最小回転半径を算出する。例えば算出部150は、対象履歴における走行方向の単位時間当たりの変化量の最大値及び速度を対象データとして特定し、当該対象データを用いて車両20の最小回転半径を算出する。また算出部150は、対象履歴を用いて回転半径の推移を算出し、この推移の最小値を車両20の最小回転半径としても良い。これらの算出処理の詳細は、他の図を用いて後述される。また、算出部150は、必要に応じて、対象履歴に含まれる走行方向及び速度の履歴を用いて、車両20の軌跡を特定する。
【0022】
また算出部150は、対象履歴を用いて車両20のホイールベース長を算出する。この算出処理の詳細は、他の図を用いて後述される。
【0023】
なお、特定部140が対象履歴となるべき部分を特定する際の条件として、速度が基準速度以下であること、及び、走行方向が前記所定角度変化するまでの時間が基準時間以上であること、のいずれも用いていない場合、算出部150は、対象履歴のうち、速度が基準速度以下であり、かつ/又は、走行方向が所定角度変化するまでの時間が基準時間以上である部分を用いて、最小回転半径及びホイールベース長の少なくとも一方を算出してもよい。この場合においても、「算出部150が用いる履歴において、速度が基準速度以下であり、かつ/または、走行方向が所定角度変化するまでの時間は所定時間以下である」という条件は満たされるため、最小回転半径及びホイールベース長の算出精度は高くなる。
【0024】
図3は、車両特性算出装置10のハードウェア構成例を示す図である。車両特性算出装置10は、バス1010、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060を有する。
【0025】
バス1010は、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1020などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。
【0026】
プロセッサ1020は、CPU(Central Processing Unit) やGPU(Graphics Processing Unit)などで実現されるプロセッサである。
【0027】
メモリ1030は、RAM(Random Access Memory)などで実現される主記憶装置である。
【0028】
ストレージデバイス1040は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカードなどのリムーバブルメディア、又はROM(Read Only Memory)などで実現される補助記憶装置である。ストレージデバイス1040は車両特性算出装置10の各機能(例えば履歴取得部130、特定部140、及び算出部150)を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1020がこれら各プログラムモジュールをメモリ1030上に読み込んで実行することで、そのプログラムモジュールに対応する各機能が実現される。また、ストレージデバイス1040は履歴記憶部120としても機能する。
【0029】
入出力インタフェース1050は、車両特性算出装置10と各種入出力機器とを接続するためのインタフェースである。
【0030】
ネットワークインタフェース1060は、車両特性算出装置10をネットワークに接続するためのインタフェースである。このネットワークは、例えばLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1060がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。車両特性算出装置10は、ネットワークインタフェース1060を介して車両20と通信してもよい。この場合、ネットワークインタフェース1060は通信部110の少なくとも一部を構成する。
【0031】
図4は、車両特性算出装置10が行う処理の一例を示すフローチャートである。本図に示す処理とは別に、車両特性算出装置10の通信部110は、車両20の走行履歴を繰り返し取得して履歴記憶部120に記憶させる。すなわち通信部110は、履歴記憶部120を更新し続けている。
【0032】
そして車両20の最小回転半径及びホイールベース長を算出する必要があるとき、履歴取得部130は、その車両20の車両識別情報を取得する。履歴取得部130は、ユーザからの操作に従って車両識別情報を取得してもよい。この操作は、車両識別情報の入力であってもよいし、車両識別情報のリストから特定の車両識別情報を選択することであってもよい。また履歴取得部130は、車両識別情報のリストから自動的に車両識別情報を選択してもよい。
【0033】
すると履歴取得部130と、取得した車両識別情報に紐づいている走行履歴を履歴記憶部120から読み出す(ステップS110)。そして特定部140は、読み出された走行履歴から処理対象となる対象履歴を特定する。この特定方法の具体例は、
図2を用いて説明した通りである(ステップS120)。
【0034】
次いで算出部150は、対象履歴を用いて車両20の最小回転半径を算出する(ステップS130)。また算出部150は、対象履歴を用いて車両20のホイールベース長を算出する(ステップS140)。なお、ステップS130及びステップS140の順序は逆でもよい。またステップS130及びステップS140は並列に行われてもよい。
【0035】
その後、算出部150は、車両20の最小回転半径及びホイールベース長を、その車両20の車両識別情報に紐づけて履歴記憶部120に記憶させる。
【0036】
次に、
図5、
図6、及び
図7を用いてステップS130で行われる処理の一例を説明する。
【0037】
図5は、対象履歴に対応する車両20の走行履歴の一例を示している。
図6は、走行履歴において、走行方向が走行時間に対してどのように変化しているかを示している。
図7は、走行履歴において、走行方向の変化量が走行時間に対してどのように変化しているかを示している。
【0038】
図5に示す例において、車両20は交差点において約90°曲がっている。この曲がる過程の一部において、車両20のドライバは、その交差点において、最もハンドルを切った状態で旋回することが多い。そこで、算出部150は、走行履歴のうち、最も舵角を切った区間、すなわち走行方向の変化量が最も急な区間(
図6及び
図7において「最小回転半径の算出対象区間」と記載)を特定し、この区間のデータを用いて最小回転半径を算出する。
【0039】
具体的には、算出部150は、対象履歴を用いて、対象履歴に対応する区間における走行方向の単位時間あたりの変化量ωを算出する。この変化量ωは、走行方向の微分値に相当する。あるタイミングにおける変化量ωは、そのタイミング(又は一つ後のタイミング)で測定された走行方向と、一つ前のタイミング(又はそのタイミング)で測定された走行方向との差であってもよい。また変化量ωは、走行方向を、時間を変数とした関数で近似し、この関数の微分式を用いて求められてもよい。
【0040】
そして、上記した変化量ω及びそのタイミングの速度Vを用いると、以下の式(1)により車両20のそのタイミングにおける回転半径を算出することができる。
回転半径=V/ω・・・(1)
【0041】
そして算出部150は、変化量ωの最大値ωmax及びこの時の速度Vを対象データとして特定し、これらの値を式(1)に代入することにより、最小回転半径を算出する。
【0042】
なお、算出部150は、式(1)に従って車両20の回転半径の推移を算出し、この推移における回転半径の最小値を、車両20の最小回転半径としても良い。
【0043】
この際、算出部150は、
図7に示すように、走行方向の単位時間あたりの変化量の最大値ω
maxが基準時間(又は基準角度)以上継続していた場合(又は式(1)に従って算出された回転半径の推移において、回転半径の最小値が基準時間又は基準角度継続していた場合)に、上記した方法を用いて最小回転半径を算出するのが好ましい。これは、
上記した最大値ω
maxが、交差点が狭い、又は車両が通行できる可動域が狭い場合、最もハンドルが切られていた可能性が高い。その場合には、場合、最大値ω
maxは一定時間継続する場合が多いためである。すなわちこのようにすると、算出部150が算出した最小回転半径の精度は高くなる。
【0044】
また、ハンドルが最も舵角を切るタイミングは、走行方向が変化し始めてから、上記した所定角度×1/3以上かつ前記所定角度×2/3以下の範囲である場合が多い。このため、算出部150は、この範囲(
図6において「最大値ω
maxが検出されるべき区間」と記載)で、走行方向の単位時間当たりの変化量に関する指標(変化量ω又は回転半径)が基準を満たした場合、上記した方法を用いて最小回転半径を算出するのが好ましい。ここで「指標が基準を満たす」の例は、変化量ωの最大値ω
max又は回転半径の最小値が検出されること、である。
【0045】
次に、
図8、
図9、
図10、及び
図11を用いて、ステップS140で行われる処理を説明する。以下の説明において、交差点を曲がる前に車両20が進行している方向をy方向として、y方向に直交する方向をx方向とする。算出部150は、対象履歴における走行方向の推移を特定し、当該推移及び速度を用いてホイールベース長を算出する。この算出処理に関する3つの例を、
図8~
図10を用いて説明する。
【0046】
図8は、ホイールベースの算出処理の第1例を説明するための図である。本図に示す例において、車両20は、トレーラ及びトラクタからなる牽引車両である。
【0047】
まず、車両20は交差点内をy方向に直進する。この際、車両20の先頭部分(例えばトラクタ)は、交差点を曲がり終えた後に車両20が進むべき車線を越えた位置まで、直進する。その後、車両20は、大きく曲がる。この際、車両20の先頭部分は、y方向で見た場合、車両20が進むべき進入車線まで戻る。
【0048】
この場合、算出部150は、車両20が曲がり始めてから曲がり終えるまでの車両20のy方向の変位の推移を特定し、この変位の最大値である第1値(
図8における点αのy方向の位置に相当)を用いて車両20のホイールベース長を算出する。より具体的には、算出部150は、上記した第1値と、上記したy方向の変位の最小値(
図8における点βのy方向の位置に相当)と、により定義される区間においてy方向の変移を積分した値A、すなわち第1値と上記最小値との差をホイールベース長とする。
【0049】
一例として、算出部150は、y方向の速度成分を算出する。そして算出部150は、車両20が曲がり始めてからのこの速度成分を積分して値Aを算出する。
【0050】
他の例として、算出部150は、車両20のy方向の速度成分に、車両20の走行方向の測定間隔を乗じることにより、単位時間当たりの車両20のy方向の測定間隔毎の変位を算出する。そして算出部150は、この変位を加算していき、この加算値の最大値を上記した第1値とするとともに、当該加算値の最小値を第2値としてもよい。
【0051】
図9は、
図8で説明した方法の変形例を示している。交差点の形状によっては、本図に示すように、車両20の位置は、y方向の変位が最大値となる状態を維持したまま、x方向にのみ変位することがある。算出部150は、車両20がこのような軌跡を取った場合、上記した値Aに所定の係数を乗じた値を、車両20のホイールベース長とする。なお、所定の係数は、1より大きい値、例えば√2であるが、これに限定されない。
【0052】
なお、算出部150は、走行方向の推移や軌跡に係る別の条件を満たした場合においても、ホイールベース長を算出する際に上記した値Aに所定の係数を乗じてもよい。この条件の一例は、変化量ωの最大値ωmax又は回転半径の最小値の継続距離又は継続時間が基準値以上、である。その他、この条件は、車両20が走行する交差点やカーブの形状に応じて適宜設定され得る。
【0053】
図10は、ホイールベース長の算出処理の第2例を説明するための図である。本図に示す例においても、車両20は、トレーラ及びトラクタからなる牽引車両である。
【0054】
本図に示す例において、車両20は、交差点に進入してから又は交差点に進入する前に、まず、x方向のうち本来曲がるべき方向とは逆側に変位する。すなわち、車両20の走行方向は、x方向において第1の方向(
図10の例においては右側)に変化した後、x方向において第1の方向とは逆の第2の方向(
図10の例においては左側)に変化している。このような場合、算出部150は、対象履歴における走行方向の推移及び速度を用いて、車両20のx方向の変移の推移を算出する。そして、算出部150は、
図8を用いて説明した第1値に加え、車両20のx方向の変位のうち第1の方向の最大値である第3値(
図10における値Cに相当)を用いてホイールベース長を算出する。なお、第3値は、車両20のx方向の変位を積分した値のうち、第1方向(例えば正方向)の最大値に相当する。
【0055】
具体的には、算出部150は、
図8に示した例と同様の方法を用いて、第1値(
図10における値Bに相当)を算出する。
【0056】
また、算出部150は、x方向の速度成分を算出する。そして算出部150は、車両20が曲がり始めてからのこの速度成分を積分し、当該積分値の第1方向における最大値を上記した第3値とする。
【0057】
他の例として、算出部150は、車両20のx方向の速度成分に、車両20の走行方向の測定間隔を乗じることにより、単位時間当たりの車両20のx方向の測定間隔毎の変位を算出する。そして算出部150は、この変位を加算していき、この加算値の第1方向における最大値を上記した第3値としてもよい。
【0058】
次いで算出部150は、第1値に、第3値に所定の係数を乗じた値を加えることにより、車両20のホイールベース長を算出する。ここで用いられる所定の係数は、例えば√2であるが、これに限定されない。
【0059】
図11は、ホイールベース長の算出処理の第3例を説明するための図である。本図に示す例において、車両20は、トラック、バス、又は乗用車などである。本図に示す例において、車両20は、曲がり初めで急激に走行方向を変化させ、その後、徐々に走行方向を変化させている。これは、車両20の内輪差のクリアランスをとるために、車両20のドライバが、ハンドルを交差点に少し進入してからハンドルを大きく切り、その後、ハンドルを徐々に戻したためである。
【0060】
このような場合、算出部150は、まず、対象履歴の始点と終点における走行方向の差を算出する。この差は、2つの道路が直交している交差点ではほぼ90°になる。次いで、算出部150は、
図11のa)で示すように、対象履歴の始点から当該差の中間地点までの車両20の走行距離である第1距離l
1と、当該差の中間地点から対象履歴の終点までの車両20の走行距離である第2距離l
2と、を特定する。そして
図11のb)及びc)で示すように、算出部150は、第1距離l
1と第2距離l
2との差を用いて車両20のホイールベース長を算出する。算出部150は、第1距離l
1と第2距離l
2との差をホイールベース長としても良いし、この差に所定の係数を乗じた値をホイールベース長としても良い。
【0061】
図8~
図11において、車両20は左折している。ただし、車両20が右折しているときも、上記した説明と同様に扱うことができる。
【0062】
なお、車両20のホイールベース長は、算出部150が算出した最小回転半径を用いてある程度推定することができる。そこで、算出部150は、
図12に示すように、この最小回転半径を用いて、
図8~
図11に示した方法で算出したホイールベース長を修正してもよい。
【0063】
具体的には、算出部150は、まず、
図8~
図11のいずれかの方法で、ホイールベース長W
1を算出する。
【0064】
また、車両20がトラクタ及びトレーラからなる牽引車両ではない場合、最小回転半径とホイールベース長は以下の式(2)で示される関係を有している。
ホイールベース長=最小回転半径×sin(θmax)・・・(2)
【0065】
ここで、θmaxは、車両20の前輪の最大切れ角であり、車両20の車種によってその値はほぼ決まっている。例えば乗用車のθmaxは約30°であり、トラックやトラクタのθmaxは約45°である。このため、算出部150は、式(2)に、算出部150が算出した最小回転半径と、予め記憶している車種別のθmaxを代入することにより、車両20が当該車種であると仮定した場合のホイールベース長Wn(ただしn=2,3・・・)を算出する。ここで算出部150は、複数の車種それぞれについてホイールベース長Wnの算出処理を行うのが好ましい。
【0066】
そして算出部150は、ホイールベース長W
1に誤差を加えることにより、ホイールベース長がとり得る値の第1の範囲を特定する。また、算出部150は、ホイールベース長W
n(ただしn=2,3・・・)のそれぞれに誤差を加えることにより、ホイールベース長W
nがとり得る値の第nの範囲を特定する。そして、算出部150は、第1のうち、第nの範囲のいずれかと重なった部分を、補正後の車両20のホイールベース長が取り得る範囲W
correctionとする。
図12に示す例において、車両20はトラックであったため、ホイールベース長がとり得る値の第1の範囲(
図12においては「W
1+誤差」と記載)は、トラックに対応するθ
maxを用いて特定されたホイールベース長の範囲(
図12においては「W
2+誤差」と記載)と重なっている。そして算出部150は、「W
1+誤差」と記載した範囲のうち「W
2+誤差」と記載した範囲と重なっている部分を、範囲W
correctionとする。
【0067】
なお、ホイールベース長W1に基づいた第1の範囲が、第nの範囲のいずれとも重ならない場合、車両20はトラクタ及びトレーラからなる牽引車両である可能性が高い。この場合、算出部150は、車両20が牽引車両であることを示す情報を、その車両20の車両識別情報に紐づけて履歴記憶部120に記憶させる。
【0068】
以上、本実施形態によれば、データの種類が少なくても車両20の最小回転半径及びホイールベース長を算出することができる。
【0069】
(第2の実施形態)
図13は、本実施形態に係る車両特性算出装置10の機能構成を示すブロック図であり、第1の実施形態の
図2に対応している。本実施形態に係る車両特性算出装置10は、以下の点を除いて第1の実施形態に係る車両特性算出装置10と同様である。
【0070】
まず、車両特性算出装置10は、車種情報記憶部160を利用可能である。車種情報記憶部160は、車両特性算出装置10の一部であってもよいし、車両特性算出装置10の外部に位置していてもよい。
【0071】
車種情報記憶部160は、車種別に、その車種に属する車両20の各種の情報を記憶している。一例として、車種情報記憶部160は、車の車種ごとに、その車種に属する車が取り得る最小回転範囲の範囲及びホイールベース長の範囲を記憶している。ここで「車の車種」とは、例えば、牽引自動車、トラック、バス、及び乗用車という分類であるが、これらの中でさらに細分化されていてもよい。一例として、トラックは、さらん、小型トラック、中型トラック、及び大型トラックに分かれていてもよい。
【0072】
また、車種情報記憶部160は、商品名単位で、車両20の各種の情報、例えば最小回転半径及びホイールベース長を記憶していてもよい。
【0073】
また、算出部150は、少なくともホイールベース長を算出する際に、車種情報記憶部160が記憶している情報を用いて、ホイールベース長を算出する。
【0074】
図14は、本実施形態において算出部150がホイールベース長を算出する方法の一例を示す図である。まず算出部150は、車両20のホイールベース長が取り得る範囲W
correctionを算出する。範囲W
correctionの算出方法は、第1の実施形態で
図12を用いて説明した通りである。
【0075】
この段階で、車両20は特定の車種、例えばトラックであると推定される。そこで算出部150は、推定部170から、推定された車種に対応するホイールベース長の範囲(
図14においては「トラックの規格に基づいたWの範囲」と記載)を読み出す。次いで算出部150は、範囲W
correctionのうち、推定された車種に対応するホイールベース長の範囲と重なっている部分を、再補正後のホイールベース長の範囲W
correction2とする。
【0076】
なお、推定部170は、同様の処理を最小回転半径に対して行ってもよい。
【0077】
さらに、
図13に示すように、車両特性算出装置10は推定部170を有している。推定部170は、算出部150が算出したホイールベース長及び最小回転半径を用いて車両20の車種を推定する。一例として、推定部170は、車種情報記憶部160が記憶している車種別の最小回転半径及びホイールベース長の範囲の組み合わせのうち、算出部150が算出したホイールベース長及び最小回転半径の組み合わせとの一致度が最も高い組み合わせを特定する。そして推定部170は、この組み合わせに対応する車種を、車両20の車種とする。この処理において、推定部170は、少なくとも、車両20が牽引車両であるか否か、すなわち車両20がトラクタ及びトレーラを含んでいるか否かを推定する。そして推定部170は、推定した車種を示す情報を、その車両20の車両識別情報に紐づけて履歴記憶部120に記憶させる。
【0078】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、算出部150が算出するホイールベース長の精度は高くなる。また、車両特性算出装置10は推定部170を備えているため、車両20の車種を推定できる。
【0079】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0080】
また、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。各実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 車両特性算出装置
20 車両
110 通信部
120 履歴記憶部
130 履歴取得部
140 特定部
150 算出部
160 車種情報記憶部
170 推定部