(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130428
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】有機ナノ結晶の製造方法および分散液
(51)【国際特許分類】
C07B 63/00 20060101AFI20240920BHJP
C07C 15/28 20060101ALI20240920BHJP
C07C 15/27 20060101ALI20240920BHJP
C07C 7/14 20060101ALI20240920BHJP
C07D 333/24 20060101ALI20240920BHJP
C07D 333/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07B63/00 E
C07C15/28
C07C15/27
C07C7/14
C07D333/24
C07D333/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040120
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】591229440
【氏名又は名称】住化カラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】水野 斎
(72)【発明者】
【氏名】甚上 知美
(72)【発明者】
【氏名】眞田 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高口 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】西村 元志
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD15
4H006BB25
4H006BB31
4H006BC50
4H006BD82
(57)【要約】
【課題】孤立分散した結晶性の高い有機ナノ結晶が簡便に得られる、有機ナノ結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、(a)貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する少なくとも1種の有機化合物を溶解させた有機化合物溶液を調製する工程、(b)直径3mm以下の孔を1以上有する吐出器具から、有機化合物溶液を貧溶媒中に吐出して撹拌する工程、を含む。良溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アルコール、アミドおよび炭化水素から選択された少なくとも1種の溶媒であり、貧溶媒が、pH6.5以下または7.5以上の水溶液であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(iii)の1つ以上を示すことを特徴とする、π電子共役系を有する少なくとも1種の有機化合物の平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶
(i)制限視野電子回折パターンにおける回折スポット
(ii)60%以上の結晶化度
(iii)1.5以上の屈折率
の製造方法であって、
(a)貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する少なくとも1種の有機化合物を溶解させた有機化合物溶液を調製する工程、
(b)直径3mm以下の孔を1以上有する吐出器具から、有機化合物溶液を貧溶媒中に吐出して撹拌し、分散液を得る工程、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
有機化合物が、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、ポルフィリン、フラーレン、およびそれらの誘導体から選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
良溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アルコール、アミドおよび炭化水素から選択された少なくとも1種の溶媒であり、
貧溶媒が、pH6.5以下または7.5以上の水溶液であり、
良溶媒と貧溶媒との体積比率は、(良溶媒:貧溶媒)1:2~1:100である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
吐出器具が、シリンジ、ディスペンサー、インクジェットノズル、エアノズル、エアブローノズル、スリットノズル、ミストノズル、噴射ノズル、スプレーノズル、紡糸用ノズル、多孔質ガラス膜、多孔質セラミック膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜から選択された少なくとも1種の器具であり、
吐出器具の孔の直径が、0.1~800μmであり、
吐出速度が、1つの孔に対して、0.01~100mL/分である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
吐出して撹拌して、有機化合物が分散した分散液を得る、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法によって得られた有機ナノ結晶。
【請求項7】
有機ナノ結晶を半導体素子において使用する、請求項6に記載の有機ナノ結晶。
【請求項8】
半導体素子が、(a)表示素子、(b)太陽光発電素子、(c)円偏光発振素子、(d)有機レーザー素子、(e)波長変換素子(量子ドット素子)、(f)バイオイメージ素子、(g)抗原検査素子のいずれかである、請求項7に記載の有機ナノ結晶。
【請求項9】
請求項1の工程(b)において得られた、分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ナノ結晶の製造方法および分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物がナノサイズに整列した有機ナノ結晶は、単一分子、バルク結晶のいずれとも異なる特異な物性を発現するため、太陽電池、有機EL、発光トランジスタ活性層、レーザー活性媒質、顔料、医薬品としての利用が期待できる。有機ナノ結晶の作製方法としては、再沈殿現象を利用した再沈法が知られている。再沈法によると、有機化合物を良溶媒に溶解させ、これを撹拌条件下で貧溶媒中に混入するというシンプルな工程で、大量にナノ結晶の作製が可能である。そのため、再沈法は、極めて汎用性が高く多様な有機分子に用いることができる。
【0003】
従来技術として、貧溶媒として水を使用した再沈法によって有機ナノ結晶を作製する方法、ならびに、界面活性剤および分散剤などを添加剤として添加する再沈法が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、貧溶媒として水を使用し、試料化合物を溶解させたエタノール溶液を水中に混入することによって有機ナノ結晶を作製する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、貧溶媒として水および/またはアルコール系溶媒を使用し、顔料をアミド系溶媒を含む有機溶媒に溶解させた溶液を、水に注入することによって有機顔料微粒子を作製する方法が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、貧溶媒として水を使用し、各種有機化合物を溶解させたエタノール溶液を滴下することによって有機マイクロ結晶を作製する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献2には、貧溶媒として水を使用し、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセンを溶解させたアセトニトリル溶液を注入することでナノ粒子を作製する方法が開示されている。
【0008】
非特許文献3には、界面活性剤としてグリセリンおよびポリ(4-ビニルピリジンブロマイド)(PVPB)を添加した再沈法によって、有機ナノ粒子を作製する方法が開示されている。
【0009】
また、非特許文献4には、ナノ粒子の表面電荷を安定させるために、界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)を添加した再沈法によって、有機ナノ粒子を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-79168号公報
【特許文献2】特開2004-91560号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kasai et. al., Jpn. J. Appl. Phys. 31, L1132,1992.
【非特許文献2】Yagita et. al., J. Lumin. 161, 437-441, 2015.
【非特許文献3】Zhenglon et. al., J. Mater. Sci. 3587-3591, 2004.
【非特許文献4】Sonali et. al., J. Photochem. Photobiol. A. 329, 255-261, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述のような従来の再沈法は、簡便かつ汎用的な手法である一方、表面に保護膜が無い有機化合物粒子では凝集が生じ、孤立分散させるために界面活性剤および分散剤などの添加剤を加えると、ナノ結晶の物性に影響を及ぼす問題があった。
【0013】
本発明は、孤立分散した結晶性の高い有機ナノ結晶が簡便に得られる、有機ナノ結晶の製造方法(再沈法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係る有機ナノ結晶の製造方法は、貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する有機化合物を溶解させた溶液を、非中性水溶液中で攪拌する工程を含む。
【0015】
本発明の一態様に係る分散液は、π電子共役系を有する有機化合物の平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶と、非中性水溶液とを含む。
【0016】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]
以下の(i)~(iii)の1つ以上を示すことを特徴とする、π電子共役系を有する少なくとも1種の有機化合物の平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶
(i)制限視野電子回折パターンにおける回折スポット
(ii)60%以上の結晶化度
(iii)1.5以上の屈折率
の製造方法であって、
(a)貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する少なくとも1種の有機化合物を溶解させた有機化合物溶液を調製する工程、
(b)直径3mm以下の孔を1以上有する吐出器具から、有機化合物溶液を貧溶媒中に吐出して撹拌し、分散液を得る工程、を含むことを特徴とする製造方法。
[2]
有機化合物が、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、ポルフィリン、フラーレン、およびそれらの誘導体から選択された少なくとも1種である、[1]に記載の製造方法。
[3]
良溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アルコール、アミドおよび炭化水素から選択された少なくとも1種の溶媒であり、
貧溶媒が、pH6.5以下または7.5以上の水溶液であり、
良溶媒と貧溶媒との体積比率は、(良溶媒:貧溶媒)1:2~1:100である、[1]に記載の製造方法。
[4]
吐出器具が、シリンジ、ディスペンサー、インクジェットノズル、エアノズル、エアブローノズル、スリットノズル、ミストノズル、噴射ノズル、スプレーノズル、紡糸用ノズル、多孔質ガラス膜、多孔質セラミック膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜から選択された少なくとも1種の器具であり、
吐出器具の孔の直径が、0.1~800μmであり、
吐出速度が、1つの孔に対して、0.01~100mL/分である、[1]に記載の製造方法。
[5]
吐出して撹拌して、有機化合物が分散した分散液を得る、[1]に記載の製造方法。
[6]
[1]に記載の製造方法によって得られた有機ナノ結晶。
[7]
有機ナノ結晶を半導体素子において使用する、[6]に記載の有機ナノ結晶。
[8]
半導体素子が、(a)表示素子、(b)太陽光発電素子、(c)円偏光発振素子、(d)有機レーザー素子、(e)波長変換素子(量子ドット素子)、(f)バイオイメージ素子、(g)抗原検査素子のいずれかである、[7]に記載の有機ナノ結晶。
[9]
[1]の工程(b)において得られた、分散液。
【0017】
有機ナノ結晶は、
(i)制限視野電子回折パターンにおける回折スポット、
(ii)60%以上の結晶化度、および
(iii)1.5以上の屈折率
から選択された少なくとも1つの要件を満たす。有機ナノ結晶は、要件(i)および(ii)の組み合わせ、要件(i)および(iii)の組み合わせ、または要件(ii)および(iii)の組み合わせを満たすことが好ましい。有機ナノ結晶は要件(i)、(ii)および(iii)のすべてを満たすことがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、孤立分散した結晶性の高い有機ナノ結晶が簡便に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】実施例1の有機ナノ結晶のTEM像を示す図である。
【
図1B】実施例1の有機ナノ結晶の制限視野電子回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例2の有機ナノ結晶のSTEM像を示す図である。
【
図3A】実施例3の有機ナノ結晶のSTEM像を示す図である。
【
図3B】実施例3の有機ナノ結晶の発光スペクトルを示している。
【
図4】実施例4の有機ナノ結晶のSTEM像を示す図である。
【
図5】実施例5の有機ナノ結晶のSTEM像を示す図である。
【
図6】実施例6の有機ナノ結晶のSTEM像を示す図である。
【
図7】実施例1の有機ナノ結晶のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0021】
〔1.有機ナノ結晶の製造方法〕
本発明に係る有機ナノ結晶の製造方法(以下では、「本発明の製造方法」とも称する)は、貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する有機化合物を溶解させた溶液を、非中性水溶液中で攪拌する撹拌工程を含んでいる。
【0022】
有機ナノ結晶は、従来のように、レーザー加工などのトップダウンで作製されることにより、結晶の形状の制御が難しく、歪な形状になりやすかった。また、結晶表面および結晶端面が粗くなるために、ナノデバイスとして機能させるのは困難であった。これに対し、本発明の製造方法によると、ボトムアップで作製するため、有機ナノ結晶の結晶面および結晶端面が滑らかになる。また、貧溶媒(例えば、非中性水溶液)を使用して作製することにより、形状の整ったナノ結晶が得られる。
【0023】
<π電子共役系を有する有機化合物>
π電子共役系を有する有機化合物(以下では、「対象の有機化合物」とも称する)とは、交互に繋がった単結合と、多重結合とから構成され、非局在化した電子(π電子)を有する有機化合物である。本発明において、使用される対象の有機化合物としては、色素分子、光導電材料、光記録材料、光学材料、非線形光学材料、導電材料、磁性材料として公知の分子を用いることができる。
【0024】
対象の有機化合物は、特に分子内に芳香環を有することが好ましい。分子内に含まれる芳香環の数は、特に限定されないが、溶解性、およびπ-π電子相互作用によるパッキング構造形成の観点から、3~32個であることが好ましい。
【0025】
また、分子内に2個以上の芳香環を有する場合、芳香環同士は、単結合、二重結合、三重結合などの共有結合を介して結合されていてもよく、2個以上の芳香環が縮合した縮合環であってもよい。
【0026】
芳香環の種類は、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素環、芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレンなどが挙げられる。また、芳香族複素環の例としては、チオフェン、フラン、オキサゾール、チアゾール、ピロール、イミダゾール、トリアゾール、ピリミジン、ピラジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フェナンスロリンなどが挙げられる。
【0027】
各芳香環は、無置換であってもよく、置換基によって置換されていてもよい。置換基を導入することにより、例えば、良溶媒への溶解性を高めたり、結晶性を高めたり、有機ナノ結晶内のパッキングにおける分子間距離を調節したり、ナノ結晶のバンドギャップを調節することができる。置換基としては、特に限定されず、電子吸引基であってもよく、電子供与基であってもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基などが挙げられる。分子内の置換基の数は特に限定されない。
【0028】
また、対象の有機化合物は、繰り返し単位を数個(2個または3個)~100個程度有するオリゴマーであってもよく、繰り返し単位を数100個以上有するポリマーであってもよい。
【0029】
対象の有機化合物の例としては、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、ポルフィリン、フラーレン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。また、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの具体例としては、5,5’-ビス(4-ビフェニリル)-2,2’-ビチオフェン(BP2T)、5,5’-ビス(4’-シアノビフェニル-4-イル)-2,2’-ビチオフェン(BP2T-CN)、2,5-ビス(4’-メトキシビフェニル-4-イル)チオフェン(BP1T-OMe)、2,5-ビス(4-ビフェニリル)テトラチオフェン(BP4T)などが挙げられる。
有機化合物は、単独または少なくとも2種の組み合わせであってもよい。
【0030】
<良溶媒>
良溶媒は、有機化合物を十分に溶解することができる溶媒である。良溶媒は、有機化合物の溶解度が、25℃において良溶媒100gに対して、0.01g以上、0.05g以上、0.1g以上、0.5g以上、1g以上、5g以上または10g以上であることが好ましい。
良溶媒の例は、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトンなどのケトン;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコール;N-メチルピロリドン、アセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素である。
アルコールなどの幾つかの溶媒は、有機化合物の種類に応じて、良溶媒になったり、あるいは貧溶媒になったりする。
良溶媒は、単独または少なくとも2種の組み合わせであってよい。
良溶媒の量は、有機化合物1重量部に対して、1~10000重量部、2~2000重量部、5~1000重量部、10~500重量部、または20~200重量部であってよい。
【0031】
<貧溶媒>
貧溶媒は、有機化合物の溶解度が低い溶媒であり、良溶媒と相溶する溶媒である。貧溶媒は、有機化合物の溶解度が、25℃において貧溶媒100gに対して、0.3g以下、0.1g以下、0.01g以下、0.005g以下、0.001g以下または0.0005g以下であることが好ましい。
貧溶媒の例は、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素である。
【0032】
貧溶媒は、単独または少なくとも2種の組み合わせであってよい。
貧溶媒の量は、有機化合物1重量部に対して、1~1000重量部または10~100重量部であってよい。
【0033】
本発明では、貧溶媒として、中性(pH 6.5超~7.5未満)ではない非中性水溶液を使用することが好ましい。非中性水溶液のpHは6.5以下(pHが1~6.5の酸性水溶液)または7.5以上(pHが7.5~14のアルカリ性水溶液)であってよい。
酸性水溶液のpHは、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、5.5以上、6以上であってよく、6以下、5.5以下、5以下、4.5以下、4以下、3.5以下、3以下、2.5以下、または2以下であってよい。
アルカリ性水溶液のpHは、8以上、8.5以上、9以上、9.5以上、10以上、10.5以上、11以上、11.5以上、12以上、12.5以上、13以上、13.5以上であってよく、14以下、13.5以下、13以下、12.5以下、12以下、11.5以下、11以下、10.5以下、10以下、9.5以下、9以下、8.5以下であってよい。水溶液のpHの一例は、12~14である。
本発明では、アルカリ性水溶液を貧溶媒として使用することが好ましい。アルカリ性水溶液を貧溶媒として用いることにより、作製中の有機ナノ結晶の表面電位を制御し、ナノ結晶同士の凝集を抑制することができる。本発明で貧溶媒として使用するアルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの電解質(特に、塩基)を水に溶解させてpH7以上に調製した物でもよく、塩化ナトリウムや炭酸カリウムなどの電解質を溶解した水を電気分解することで得られるpH7以上を示すもの(アルカリ電解水)であってもよい。
アルカリ性水溶液は、塩基と水の混合物である。塩基は、無機塩基または有機塩基である。
無機塩基の例は、アンモニア;水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;リチウムハイドライド、ナトリウムハイドライド等のアルカリ金属水素化物である。
有機塩基の例は、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドである。
塩基は、単独または2種以上の組み合わせであってよい。
【0034】
本発明の製造方法は、貧溶媒(特に、アルカリ性水溶液)を用いることにより、界面活性剤、分散剤などの特別な添加剤を必要とせず、有機ナノ結晶の結晶化を阻害するファクターが少なく、形状の整った有機ナノ結晶を得やすくなる。また、添加剤を用いないことから、有機ナノ結晶の作製時および使用時において、人体に及ぼす健康被害、環境負荷が少ない。
【0035】
本発明におけるアルカリ性水溶液は、pHが10.0~14.0であることが好ましい。アルカリ性水溶液のpHが10.0~14.0であれば、アルカリ性水溶液と、作製中の有機ナノ結晶との静電相互作用により、作製中の有機ナノ結晶、および作製後の有機ナノ結晶の表面電位を好適に制御することができる。ここで、作製中の有機ナノ結晶とは、良溶媒に溶解された状態の有機ナノ結晶を含む。作製中の有機ナノ結晶の表面電位が制御されることにより、有機ナノ結晶同士が凝集せず、孤立分散した分散液を得ることができる。また、作製後の有機ナノ結晶の表面電位が制御されることにより、有機ナノ結晶同士が凝集せず、作製後長期間に渡り、分散状態を維持できる分散液を得ることができる。アルカリ性水溶液のpHが10.0~14.0に維持されている間は、有機ナノ結晶同士が孤立分散した状態が維持される。例えば、作製後1年程度、有機ナノ結晶同士が孤立分散した状態が維持される。さらに、分散液中にて有機ナノ結晶同士が凝集せず、分散することにより、結晶性の高い有機ナノ結晶を得ることができる。ここで、「結晶性の高い」とは、結晶が規則的な分子の配列を実質的に有していることをいう。
【0036】
貧溶媒(非中性水溶液)は、酸性水溶液であってもよい。酸性水溶液は、酸と水との混合物である。酸は、無機酸または有機酸であってよい。
無機酸の例は、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸などである。
有機酸の例は、ギ酸、酢酸である。
酸は、単独または2種以上の組み合わせであってよい。
【0037】
本発明の製造方法において、良溶媒と、貧溶媒(非中性水溶液)との体積比率は、特に限定されないが、良溶媒:貧溶媒=1:2~1:100または1:30~1:10であることが好ましく、1:30~1:15であることがより好ましく、1:25~1:20であることが最も好ましい。良溶媒と、貧溶媒(非中性水溶液)との体積比率が前記の範囲であることにより、有機ナノ結晶が孤立分散した分散液を得ることができる。
【0038】
<撹拌工程>
撹拌工程は、貧溶媒と相溶性を有する良溶媒にπ電子共役系を有する有機化合物を溶解させた溶液を、貧溶媒で攪拌する工程である。
【0039】
撹拌工程において、攪拌装置としては、一般的に用いられるマグネチックスターラやプロペラ翼、パドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼、ディスパー翼等の攪拌翼を有する回転式攪拌機、ロータ・ステータ構造を有する回転剪断型撹拌装置などを使用してもよい。具体例としては、ホモディスパー、フィルミックス、ホモミクサー等の高速撹拌混合装置を好ましく用いることができる。
【0040】
撹拌速度は、特に限定されないが、100~8000rpmまたは500~3000rpmであることが好ましく、800~1500rpmであることがさらに好ましく、800~1000rpmであることが最も好ましい。撹拌速度が前記の範囲であれば、有機ナノ結晶が孤立分散した分散液を得ることができ、孤立分散した有機ナノ結晶を得ることができる。
攪拌の剪断速度は、50~500000sec-1または100~20000sec-1であってよい。
【0041】
撹拌工程において、貧溶媒の温度は、特に限定されないが、例えば、5℃~120℃または25℃~100℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましく、40℃~80℃が最も好ましい。貧溶媒の温度が前記の範囲であれば、対象の有機化合物を溶解させた良溶媒を好適な速度にて揮発させることができ、結晶性の高い有機ナノ結晶を得ることができる。
【0042】
また、貧溶媒の温度と、良溶媒の温度とは、ほぼ同じ(温度差10℃以下、3℃以下または1℃以下)であることが好ましい。これによれば、有機ナノ結晶を作製中である分散液の温度を一定に維持することができ、結晶性の高い有機ナノ結晶を得ることができる。
【0043】
また、撹拌工程における撹拌時間は、良溶媒の揮発が完了するまでの時間であってよく、貧溶媒の温度に依存するが、例えば、0.1~24時間または6~12時間であることが好ましく、8~12時間であることがより好ましく、10~12時間であることがより好ましい。ここで、撹拌時間は、注入工程が完了してからの撹拌時間のことを指す。
【0044】
また、本発明の製造方法は、撹拌工程の前に、対象の有機化合物を良溶媒に溶解した溶液を調製する調製工程と、調製工程にて調製された溶液を貧溶媒に注入する注入工程とをさらに含んでもよい。
【0045】
<調製工程>
調製工程は、対象の有機化合物を良溶媒に溶解した溶液を調製する工程である。調製工程において、使用される良溶媒は、対象の有機化合物を溶解し、かつ、水と相溶性を有する溶媒であることが好ましい。良溶媒の種類としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどが挙げられる。
【0046】
調製工程において、調製される溶液の濃度は、所望の有機ナノ結晶の平均粒子径によって適宜設定可能であるが、一例として、0.0001~1mg/mLまたは0.001~0.5mg/mLであることが好ましく、0.001~0.1mg/mLであることがより好ましく、0.01~0.1mg/mLであることが最も好ましい。
【0047】
調製工程において、良溶媒の温度は、対象の有機化合物を溶解することができる温度であればよい。また、良溶媒の温度は、溶媒の種類によって適宜設定可能であるが、例えば、5℃~120℃または25℃~100℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましく、40℃~80℃が最も好ましい。良溶媒の温度が前記の範囲であれば、対象の有機化合物を好適に溶解させることができ、良溶媒の揮発後において結晶性の高い有機ナノ結晶を得ることができる。
【0048】
良溶媒の温度と、貧溶媒の温度とは、ほぼ同じ(温度差10℃以下、3℃以下または1℃以下)であることが好ましい。これによれば、有機ナノ結晶を作製中である分散液の温度を一定に維持することができ、結晶性の高い有機ナノ結晶を得ることができる。
【0049】
<注入工程(吐出工程)>
注入工程は、調製工程にて調製された溶液を貧溶媒に注入する工程である。注入工程において、注射器を手動で操作して、良溶媒に対称の有機化合物を溶解させた溶液を貧溶媒に注入してもよいし、該溶液をシリンジポンプを用いて自動で注入してもよい。溶液を一定速度にて注入する観点からはシリンジポンプを用いることが好ましい。溶液を注入する注入速度(吐出速度)は、特に限定されないが、1つの孔に対して、0.01~100mL/分または0.1~20mL/分であってよい。注入速度は、1つの注入器具に対して、1~500mL/分または2~100mL/分であってよい。注入速度は、1つの注入器具に対して、例えば、3~6mL/分であることが好ましい。
【0050】
直径3mm以下の孔を1つ以上有する吐出器具を用いる。吐出器具は、例えば、平面板上に空いている孔から溶液に圧力をかけて吐出する平面板ノズル吐出器具、不定形な形状に空いている孔から溶液に圧力をかけて吐出させる吐出器具、溶液に振動を付与して、液滴として孔から吐出する吐出器具であってよい。吐出器具の具体例は、シリンジ、ディスペンサー、インクジェットノズル、エアノズル、エアブローノズル、スリットノズル、ミストノズル、噴射ノズル、スプレーノズル、紡糸用ノズル、多孔質ガラス膜(例えば、SPG膜(シラス多孔質ガラス膜)製ノズル)、多孔質セラミック膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜などである。吐出器具先端の吐出孔に膜を使用する場合、膜が親水処理や疎水処理されたものが使用できる。水を貧溶媒として使用する本発明においては、水が吐出孔から良溶媒側に侵入しないために、疎水処理を施した膜が好ましい。
良溶媒の除去などによって貧溶媒中のナノ結晶粒子を濃縮しながら、連続的な注入を行ってもよく、さらに大量のナノ結晶粒子の生産が可能となる。
【0051】
吐出器具において、孔の数は、1つ以上である。孔の数は、2以上、10以上、100以上、1000以上、または10000以上であってよい。孔の数は、10000000以下、1000000以下、100000以下、10000以下、または1000以下であってよい。
【0052】
孔の直径は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.5μm以上、1μm以上、2μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、50μm以上、100μm以上、200μm以上、または500μm以上であってよく、2500μm以下、2000μm以下、1000μm以下、800μm以下、600μm以下、500μm以下、200μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、2μm以下、1μm以下、0.5μm以下、または0.2μm以下であってよい。孔の直径の一例は、0.1~800μmである。
【0053】
〔2.分散液〕
本発明に係る分散液(以下、「本発明の分散液」とも称する)は、π電子共役系を有する有機化合物の平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶と、貧溶媒とを含む。なお、〔1.有機ナノ結晶の製造方法〕の項で既に説明した事項については、説明を省略する。
【0054】
本発明の分散液は、前記の成分を含むことにより、分散液中の有機ナノ結晶が孤立分散する。「孤立分散」とは、分散質である有機ナノ結晶同士が凝集および合一していない状態をいう。
2種以上のナノ結晶凝集体の孤立分散液を得るために、2種以上の有機化合物の良溶媒による混合溶液を使用することができる。たとえばp型半導体の性質を示す化合物とn型半導体の性質を示す化合物の2種などである。
【0055】
分散液中の有機ナノ結晶の濃度は、分散性の観点より、0.01mmol/mL以下であることが好ましく、0.001mmol/mL以下であることがより好ましく、0.0005mmol/mL以下であることが最も好ましい。分散液中の有機ナノ結晶の濃度は、仕込み濃度より決定してもよい。あるいは、分散液の溶媒を揮発させて粉末を得て、その重量より濃度を測定してもよい。
分散液において、有機ナノ結晶(有機化合物)の平均粒子径は、10~2000nmまたは50~500nmであってよい。分散液における有機化合物の平均粒子径は、動的光散乱法(DLS)によって測定できる。
【0056】
分散液の分散性および有機ナノ結晶の平均粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影されたTEM像から評価することができる。
【0057】
また、〔1.有機ナノ結晶の製造方法〕の項でも記載した通り、貧溶媒において、有機ナノ結晶同士が孤立分散した状態が維持される。
【0058】
本発明の分散液は、π電子共役系を有する有機化合物の平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶および貧溶媒以外の物質が含まれていてもよく、前記以外の物質の種類は限定されない。
分散液は、有機ナノ結晶を含んでおり、溶媒(貧溶媒と良溶媒)を(例えば、乾燥などによって)除去することによって、有機ナノ結晶が得られる。
分散液をえるために、攪拌工程(a)で述べたのと同様の攪拌装置および条件を使用することができる。
【0059】
〔3.有機ナノ結晶〕
本発明の製造方法によって製造される有機ナノ結晶は、平均粒子径1nm~1μmの有機ナノ結晶である。
【0060】
有機ナノ結晶の平均粒子径は、〔1.有機ナノ結晶の製造方法〕の項で説明した、良溶媒にπ電子共役系を有する有機化合物を溶解させた溶液の濃度に依存する。溶液の濃度が高ければ、生成される有機ナノ結晶の平均粒子径は大きくなり、溶液の濃度が低ければ、生成される有機ナノ結晶の平均粒子径は小さくなる。
【0061】
有機ナノ結晶の平均粒子径は、1nm~1μmであることが好ましい。平均粒子径が前記の範囲であることにより、有機ナノ結晶をナノデバイスとして好適に利用することができる。有機ナノ結晶の平均粒子径は、2nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、50nm以上、または100nm以上であってよく、500nm以下、200nm以下、100nm以下、80nm以下、50nm以下、20nm以下、または10nm以下であってよい。
【0062】
有機ナノ結晶の平均粒子径の求め方は、特に限定されない。例えば、TEM像を用いて任意の数(例えば、100個または200個)の有機ナノ結晶の粒子径から粒度分布を作成して求められるメジアン径(D50)を平均粒子径としてもよい。粒子径は最大長さの平均値である。他には、例えば、動的光散乱法(DLS)、遠心沈降法などを使用して平均粒子径を求めることができる。
【0063】
有機ナノ結晶の平均粒子径のばらつきは小さいことが好ましい。具体的には、平均粒子径のばらつきを示す粒度分布指数が2以下であることが好ましい。粒度分布指数とは、分散液に含まれる有機ナノ結晶の平均粒度分布の累積10%、累積50%、累積90%の平均粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50で求められる値である。有機ナノ結晶の粒度分布指数が2以下であることにより、有機ナノ結晶をナノデバイスにおいて好適に利用することができる。
【0064】
有機ナノ結晶は、高い結晶性を有する単結晶であることが好ましい。結晶性は、例えば、TEMによって取得されるTEM像、制限視野電子回折パターンの他、結晶化度、屈折率などを用いて評価されてもよい。TEM像では、明確な格子縞が観察できる場合に結晶性が高いと言える。制限視野電子回折パターンでは、明確な回折スポットがみられる場合に結晶性が高いと言える。結晶化度は一般的に、結晶化度(%)=((結晶質含有量) / (結晶質含有量+非晶質含有量))×100のようにして求められる。
【0065】
結晶化度(%)が高い場合に結晶性が高く、結晶化度60%以上が好ましく、結晶化度80%以上または85%以上がより好ましい。結晶化度は、65%以上、66%以上、67%以上、68%以上、69%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、または92%以上であってよく、100%以下、98%以下、96%以下、95%以下、93%以下、または90%以下であってよい。
【0066】
結晶化度を求めるための測定手法は、特に限定されないが、例えばX線回折測定(θ―2θ法)が好ましい。X線回折測定(θ―2θ法)で得られたデータに対して、結晶化度(%)=((結晶質のピーク面積) / (結晶質のピーク面積+非晶質のピーク面積))として結晶化度を求めることができる。屈折率は高い場合に結晶性が高いと言える。有機ナノ結晶の屈折率を求める測定手法は、特に限定されないが、例えば発光スペクトル測定に現れるモード構造のモード間隔から求めることが好ましい。
【0067】
有機ナノ結晶の形状は、特に限定されないが、多面体の結晶であってよい。有機ナノ結晶の形状は、例えば、向かい合う辺が平行である、または円状に閉じた形状を有することが好ましい。有機ナノ結晶の面の形状は、具体的には、平行四辺形、六角形、ニードル状、球体、円盤状、円柱形状、三角形などであることが好ましい。また、有機ナノ結晶の表面および端面は滑らかであることが好ましい。
【0068】
有機ナノ結晶の形状は、有機ナノ結晶の光学的性質に影響を与えうる。光学的性質とは、例えば、吸収波長、発光波長、発光スペクトルの形状、発光寿命、発光量子収率などである。例えば、上述のような形状の有機ナノ結晶では、発光スペクトルにモード構造が現れる。モード構造とは、ナノ結晶が光共振器として機能するときに現れる共振器モードのことである。例えば、平行平面鏡共振器の場合では、2枚の平面ミラーを共振する波長の1/2の整数倍の間隔で平行配置したときに共振器モードが観測される。
【0069】
また、特異な光学的性質を有する有機ナノ結晶は、ナノデバイスとして利用することが可能である。例えば、発光スペクトルにモード構造が見られる有機ナノ結晶は、有機ナノ結晶内に光を閉じ込めることが可能であるため、光共振器として利用することができる。有機ナノ結晶内に光を閉じ込めるとは、共鳴する波長の光を境界となる結晶の端面で反射させ、再び別の端面で反射させることで、結晶内において光を定在波として閉じ込めることをいう。光共振器は、例えば、光源から出射された光を取り入れ、結晶内部で共振させることによって、光の強度を強める機能を有する。
【0070】
有機ナノ結晶は、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、2.6以上、2.7以上、2.8以上、2.9以上、3以上、3.1以上、3.2以上、3.3以上、3.4以上、3.5以上、3.6以上、3.7以上、3.8以上、3.9以上、4以上または4.5以上の屈折率を有することが好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、15以下、12以下、10以下、7以下または5以下であり得る。有機ナノ結晶の屈折率が前記の範囲であれば、強い光閉じ込め効果を示すことができる。一例として、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーのナノ結晶は屈折率が3~5であり、強い光閉じ込め効果を示す。
【0071】
また、有機ナノ結晶が光共振器として利用できることにより、高効率照明および光源の開発、デバイスの小型化が可能になる。これによれば、省エネ、CO2削減を実現し、例えば、目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0072】
<有機ナノ結晶の塗布>
有機ナノ結晶の層を形成する方法の一例は、分散液を基板または層(例えば、電極層)に塗布し、溶媒(貧溶媒および良溶媒)を除去(例えば、揮発)して、有機ナノ結晶の活性層(例えば、発光層)を形成することを含む。
【0073】
塗布する方法としては、例えば、スリットコート法、ナイフコート法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットコート法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法を用いることができる。スリットコート法、キャピラリーコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ノズルコート法、インクジェットコート法、スピンコート法が好ましい。
【0074】
活性層の厚さは、50nm以上、100nm以上、150nm以上、または200nm以上であり、100μm以下、50μm以下、10μm以下、5μm以下、1μm以下であってよい。
【0075】
<再沈法とミニエマルション法による有機ナノ結晶の相違点>
再沈法による有機ナノ結晶とミニエマルション法による有機ナノ結晶の相違点は次のとおりである。
再沈法(再沈殿法)で作製したナノ結晶は、結晶性(結晶化度)が高いので、四角形・平行四辺形・六角形等の多角形をとりやすい。一方、ミニエマルション法では、結晶性が低く、ナノ結晶の表面に近い部分は分子配向の乱れ等があるので、円形もしくは円柱状や不定形の形態をとる。
再沈法で得られたナノ結晶とミニエマルション法で得られたナノ結晶は、共振器モードが異なる。再沈法の場合は、多角形における対面での共振モード(ファブリペローモード)、または周回モードに起因する。ミニエマルション法における共振器モードは,形状がきれいな円形ナノ結晶での周回モード、または対向する面が平行なナノ結晶でのファブリペローモードになる。従って、多角形をとりやすい再沈法で作製したナノ結晶のほうが共振器モードの観測が容易であるので、屈折率の算出がしやくなる。ミニエマルション法で得られたナノ結晶は、屈折率の算出が困難である。すなわち、ミニエマルション法において実質的に屈折率が得られない。
【0076】
<共振器モードの観察方法>
ナノ結晶に紫外線照射を行った場合,ナノ結晶が有する導波路構造およびナノ結晶の形態に由来する共振器構造により、発光スペクトルに共振器モードが観測される。共振器モードの観測方法は,紫外線照射が可能な光源と分光器を用いた発光分光法でもよく、顕微発光分光法でもよい。
【0077】
本発明の有機ナノ結晶は、多くの種類の素子(デバイス)、特に半導体素子において使用できる。有機ナノ結晶は、ディスプレイ(特に、高輝度ハイコントラストの有機ELディスプレイ)、太陽光発電素子、円偏光発振素子、量子ドット素子、バイオイメージセンサ、抗原検査素子、波長変換素子、光センサ、ナノ結晶複合体の作製において、使用できる。
有機ナノ結晶は、有機半導体素子に加えて、蛍光材料、燐光材料、色素(顔料または染料)としても使用できる。
【0078】
ナノ結晶複合体は、一般に、2種以上(特に、2種)の有機ナノ結晶によって形成される。ナノ結晶複合体は、良溶媒と2種の有機化合物を混合する工程を含む製法によって、または1種の有機化合物と良溶媒の溶液と、他の少なくとも1種の有機化合物と良溶媒の溶液を混合することを含む製法によって、製造できる。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0080】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0081】
(分散液、および有機ナノ結晶の作製)
使用したπ電子共役系を有する有機化合物は、以下の通りである。
・アントラセン(ANT)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・5,5’-bis(4-biphenylyl)-2,2’-bithiophene(BP2T)(有限会社高橋合成研究所製)
・5,5’-bis(4’-cyanobiphenyl-4-yl)-2,2’-bithiophene(BP2T-CN)(有限会社高橋合成研究所製)
また、以下の装置を用いて生成物の評価を行った。
・透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、製品名:JEM-3100FEF)
・走査透過電子顕微鏡(STEM、日立ハイテク、製品名:SU-9000)
・動的光散乱式粒度分布計(DLS、マイクロトラック・ベル株式会社製、製品名:EX-150)
【0082】
〔結晶性の評価〕
結晶性の評価は、以下の(a)~(c)のいずれかを満たす場合を結晶性が高と評価した。
(a)TEM像に格子縞が現れている、または制限視野電子回折パターンに明確な回折スポットが現れている。
(b)X線回折測定(θ―2θ法)で得られXRDパターンに対して、結晶化度(%)=((結晶質のピーク面積) / (結晶質のピーク面積+非晶質のピーク面積))として求めた結晶化度(%)が60%以上である。
(c)発光スペクトル測定に現れるモード構造のモード間隔から求める屈折率が1.5以上である。
【0083】
〔分散性の評価基準〕
分散液の分散性は、それぞれの分散液のTEM像、またはSTEM像を目視観察し、以下の基準で評価した。
良:有機ナノ結晶(生成物)同士が凝集または合一していない。
不良:有機ナノ結晶(生成物)同士が凝集または合一している。
【0084】
〔平均粒子径〕
DLSにて求められるメジアン径(D50)を平均粒子径とした。
【0085】
〔粒度分布指数〕
粒度分布指数は、分散液に含まれる有機ナノ結晶の平均粒度分布の累積10%、累積50%、累積90%の平均粒子径をそれぞれD10、D50、D90とし、式(D90-D10)/D50を用いて求めた。
【0086】
実施例1
アントラセン(ANT)0.01mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH13.2)を25℃で攪拌機(マグネチックスターラ)を用いて800rpmで攪拌しながら、注射器(孔径260μm)を用いて溶液を3~6mL/分の速度で注入した。その後、混合物を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてANTナノ結晶(1)を含む分散液(1)を得た。得られたANTナノ結晶(1)について、TEMを用いてTEM像、および制限視野電子回折パターンを得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は160nmであった。ANTナノ結晶(1)のTEM像および制限視野電子回折パターンを
図1Aおよび
図1Bに示す。
【0087】
実施例2
アントラセン(ANT)0.01mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH13.2)を25℃で攪拌機(ホモディスパー)を用いて400rpmで攪拌しながら、孔径130μmの注射針(1本)を取り付けたジェットディスペンサー(CYBERJET2 MJET-C-2、武蔵エンジニアリング社製)により、ストローク100μm、バルブ圧30kPa、バルブオンタイム50ms、バルブオフタイム450msの条件で注入した。その後、溶液を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてANTナノ結晶(2)を含む分散液(2)を得た。得られたANTナノ結晶(2)について、STEMを用いてSTEM像を得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は180nmであった。ANTナノ結晶(2)のSTEM像を
図2に示す。
【0088】
実施例3
5,5’-bis(4-biphenylyl)-2,2’-bithiophene(BP2T)0.01mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH13.2)を25℃で攪拌機(マグネチックスターラ)を用いて800rpmで攪拌しながら、溶液を細孔孔径10μmのSPG膜(直径8mm)を通過させて3~6mL/分の速度で注入した。その後、混合物を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてBP2Tナノ結晶(3)を含む分散液(3)を得た。得られたBP2Tナノ結晶(3)について、STEMを用いてSTEM像を得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は490nmであった。BP2Tナノ結晶(3)のSTEM像を
図3Aに示す。
図3BはBP2Tナノ結晶の発光スペクトルを示している。発光スペクトルに表れているピーク構造(モード構造)の間隔を基に屈折率を求めたところ、2.76の値が得られた。
【0089】
実施例4
5,5’-bis(4-biphenylyl)-2,2’-bithiophene(BP2T)0.01mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH13.2)を25℃で攪拌機(マグネチックスターラ)を用いて800rpmで攪拌しながら、溶液を細孔孔径10μmのSPG膜(直径8mm)を通過させて3~6mL/分の速度で注入した。その後、溶液を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてBP2Tナノ結晶(4)を含む分散液(4)を得た。得られたBP2Tナノ結晶(4)について、STEMを用いてSTEM像を得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は490nmであった。BP2Tナノ結晶(4)のSTEM像を
図4に示す。
【0090】
実施例5
対象の有機化合物を5,5’-bis(4’-cyanobiphenyl-4-yl)-2,2’-bithiophene(BP2T-CN)とした以外は、実施例4と同様の操作を行い、分散液(5)およびBP2T-CNナノ結晶(5)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(5)について、STEMを用いてSTEM像を得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は140nmであった。BP2T-CNナノ結晶(5)のSTEM像を
図5に示す。
【0091】
実施例6
5,5’-bis(4’-cyanobiphenyl-4-yl)-2,2’-bithiophene(BP2T-CN)0.001mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH:13.2)を25℃で攪拌機(ホモディスパー)を用いて400rpm(周速4m/s)で攪拌しながら、孔径300μmの注射針(1本)を取り付けたジェットディスペンサー(CYBERJET2 MJET-C-2、武蔵エンジニアリング社製)により、ストローク100μm、バルブ圧30kPa、バルブオンタイム10ms、バルブオフタイム90msの条件で注入した。その後、溶液を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてBP2T-CNナノ結晶(6)を含む分散液(6)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(6)について、STEMを用いてSTEM像を得た。また、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は140nmであった。BP2T-CNナノ結晶(6)のSTEM像を
図6に示す。
【0092】
実施例1~6の結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
実施例1で得られた分散液(1)は、
図1のTEM像より、ANTナノ結晶(1)同士が凝集せずに、孤立分散した液であることがわかった。
図1のTEM像のうち、黒い部分が各有機ナノ結晶に相当する。
【0094】
図1の制限視野電子回折パターンによると、回折パターンが検出され、ANTナノ結晶(1)は単結晶であり、高い結晶性を有することが示された。結晶性の評価指標としては、結晶化度を用いてもよい。
図7は、実施例1の有機ナノ結晶のXRDパターンを示す図である。
図7ではANTナノ結晶(1)のX線回折測定(θ-2θ法)で得られたデータ(黒線)に対して、結晶化度(%)=((結晶質のピーク面積)/(結晶質のピーク面積+非晶質のピーク面積))として、ガウス関数を用いてフィッティングを行うことにより結晶化度を求めると、86%の値となった。ここでフィッティング関数は、ガウス関数ではなく、ローレンツ関数または擬フォークト関数を用いても良い。
【0095】
実施例1の分散液と同様に、実施例2~6で得られた分散液(2)~(6)も、いずれも有機ナノ結晶同士が凝集せずに孤立分散した液であった。
【0096】
実施例7
対象の有機化合物を5,5’-bis(4’-cyanobiphenyl-4-yl)-2,2’-bithiophene(BP2T-CN)0.01mgをテトラヒドロフラン(THF)1mLに加え、25℃で攪拌し溶液を調製した。アルカリ電解水20mL(pH13.2)を25℃で攪拌機(ディスパー)を用いて800rpmで攪拌しながら、注射器(孔径260μm)を用いて溶液を3~6mL/分の速度で注入した。その後、混合物を60℃で12時間攪拌し、THFを揮発させてANTナノ結晶(7)を含む分散液(7)を得た。得られたBP2Tナノ結晶(7)について、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は220nmであった。
【0097】
実施例8
アルカリ電解水を水酸化リチウム水溶液(pH12.7)とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、分散液(8)およびBP2T-CNナノ結晶(8)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(8)について、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は310nmであった。
【0098】
実施例9
アルカリ電解水を水酸化ナトリウム水溶液(pH13.2)とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、分散液(9)およびBP2T-CNナノ結晶(9)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(9)について、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は300nmであった。
【0099】
実施例10
アルカリ電解水を水酸化カリウム水溶液(pH13.4)とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、分散液(10)およびBP2T-CNナノ結晶(10)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(10)について、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は240nmであった。
【0100】
実施例11
アルカリ電解水をアンモニア水(pH11.4)とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、分散液(11)およびBP2T-CNナノ結晶(11)を得た。得られたBP2T-CNナノ結晶(11)について、DLSを用いて平均粒子径を測定した。平均粒子径は420nmであった。
【0101】
実施例7~11の結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
実施例7~11において、何れのアルカリ性水溶液を用いても有機ナノ結晶の分散液(7)~(11)が得られた。