(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130462
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層鉄心および積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/28 20060101AFI20240920BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02K1/28 Z
H02K15/02 F
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040206
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】大場 康隆
(72)【発明者】
【氏名】時本 優輝
(72)【発明者】
【氏名】平川 哲也
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE13
5H601EE17
5H601EE19
5H601GA02
5H601GA24
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC34
5H601HH22
5H601HH23
5H601KK08
5H601KK22
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS05
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】積層鉄心の溶接品質を向上させること。
【解決手段】積層鉄心は、積層された複数の金属板で構成される積層体を備える。積層体は、積層方向において最も端に位置する最端金属板と、最端金属板に接する金属板とを溶接する溶接部を有する。溶接部の溶接終端は、少なくとも一方の最端金属板に接している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の金属板で構成される積層体を備え、
前記積層体は、積層方向において最も端に位置する最端金属板と、前記最端金属板に接する前記金属板とを溶接する溶接部を有し、
前記溶接部の溶接終端は、少なくとも一方の前記最端金属板に接している
積層鉄心。
【請求項2】
前記溶接部は、三日月状の複数の溶接痕を有し、
複数の前記溶接痕は、前記最端金属板から離れる向きに突出する
請求項1に記載の積層鉄心。
【請求項3】
複数の前記溶接痕は、一列に並んで位置する
請求項2に記載の積層鉄心。
【請求項4】
複数の前記溶接痕は、複数の列に並んで位置する
請求項2に記載の積層鉄心。
【請求項5】
前記積層体は、積層方向に沿って貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔の内部では、積層方向に沿って延びる磁石が樹脂で封止されている
請求項1~4のいずれか一つに記載の積層鉄心。
【請求項6】
複数の金属板を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体の積層方向において最も端に位置する最端金属板と、前記最端金属板に接する前記金属板とを溶接する溶接工程と、
を含み、
前記溶接工程は、少なくとも一方の前記最端金属板に接する位置を最後に溶接する
積層鉄心の製造方法。
【請求項7】
前記溶接工程は、前記最端金属板から離れた位置を最初に溶接し、前記最端金属板に接する位置に向かって徐々に近づくように複数回溶接する
請求項6に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項8】
前記溶接工程は、溶接痕が一列に並ぶように複数回溶接する
請求項7に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項9】
前記溶接工程は、溶接痕が複数の列に並ぶように複数回溶接する
請求項7に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項10】
積層方向に沿って前記積層体を貫通する貫通孔に磁石を挿入する工程と、
前記磁石を樹脂で封止する工程と、をさらに含む
請求項6~9のいずれか一つに記載の積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、積層鉄心および積層鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、モータのステータやロータを構成する積層鉄心は、帯状の金属板を金型装置に順送りし、金属板の送り方向に沿って並んで位置する加工ステーションで順次打ち抜き加工を行って所望形状の鉄心片を形成し、得られた鉄心片を積層することで製造される。
【0003】
また、積層鉄心では、積層方向において最も端に位置する鉄心片(以下、最端鉄心片とも呼称する。)の剥離を防止するため、最端鉄心片とかかる最端鉄心片に隣接する鉄心片とを溶接する技術が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、この溶接工程では、溶接された部位が冷却時に収縮することで発生する引張方向の残留応力によって、溶接された部位にクラックが生じる場合があった。これにより、積層鉄心の溶接品質が低下してしまう恐れがあった。
【0006】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、溶接品質を向上させることができる積層鉄心および積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る積層鉄心は、積層された複数の金属板で構成される積層体を備える。前記積層体は、積層方向において最も端に位置する最端金属板と、前記最端金属板に接する前記金属板とを溶接する溶接部を有する。前記溶接部の溶接終端は、少なくとも一方の前記最端金属板に接している。
【0008】
実施形態の一態様に係る積層鉄心の製造方法は、積層体形成工程と、溶接工程と、を含む。積層体形成工程は、複数の金属板を積層して積層体を形成する。溶接工程は、前記積層体の積層方向において最も端に位置する最端金属板と、前記最端金属板に接する前記金属板とを溶接する。前記溶接工程は、少なくとも一方の前記最端金属板に接する位置を最後に溶接する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態の一態様によれば、積層鉄心の溶接品質を向上させることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係る積層鉄心の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る積層鉄心の製造装置が実行する各製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、参考例における溶接工程の一例について説明するための図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【
図6】
図6は、実施形態の変形例1に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【
図7】
図7は、実施形態の変形例2に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する積層鉄心および積層鉄心の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0012】
また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0013】
<積層鉄心>
最初に、実施形態に係る積層鉄心1の構成について、
図1Aおよび
図1Bを参照しながら説明する。
図1Aは、実施形態に係る積層鉄心1の一例を示す模式図であり、
図1Bは、
図1Aに示すX-X線の矢視断面図である。
【0014】
積層鉄心1は、たとえば、回転子積層鉄心であり、回転子(ロータ)の一部である。この回転子に固定子(ステータ)が組み合わされることによって、モータが構成される。実施形態に係る積層鉄心1は、たとえば、埋込磁石型(IPM(Interior Permanent Magnet))モータに用いられる。
【0015】
積層鉄心1は、積層体10と、複数の磁石12と、複数の樹脂14と、複数のカシメ部16と、複数の溶接部18とを備える。積層体10は、たとえば、円筒形状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10aが設けられる。
【0016】
すなわち、軸孔10aは、積層体10の積層方向D(以下、単に「積層方向D」という。)に延びている。積層方向Dは、中心軸Axの延在方向でもある。本開示において、積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。軸孔10a内には、図示しないシャフトが挿通される。
【0017】
積層体10には、複数の貫通孔10bが形成される。かかる複数の貫通孔10bは、
図1Aに示すように、積層体10の周方向に沿って略均等な間隔で並んでいる。貫通孔10bは、
図1Bに示すように、積層方向Dに沿って延びるように積層体10を貫通する。
【0018】
貫通孔10bの形状は、たとえば、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔である。なお、貫通孔10bの位置、形状および数は、モータの用途、要求される性能などに応じて適宜変更されてもよい。
【0019】
磁石12は、柱状の永久磁石であり、たとえばネオジム磁石などの焼結磁石やボンド磁石などである。磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて適宜決定される。複数の磁石12は、複数の貫通孔10bにそれぞれ挿入されている。磁石12の形状は、特に限定されないが、本開示では直方体形状を呈している。
【0020】
実施形態では、回転子積層鉄心である積層鉄心1に複数の磁石12が設けられることで、高効率のモータを実現することができる。
【0021】
樹脂14は、磁石12が挿入された後の貫通孔10b内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填され、この溶融樹脂が固化したものである。樹脂14は、磁石12を貫通孔10b内に固定する機能と、積層方向Dにおいて互いに隣接する鉄心片W同士を接合する機能とを有する。すなわち、実施形態では、積層鉄心1に複数の樹脂14が設けられることで、積層鉄心1の機械的特性を向上させることができる。
【0022】
樹脂14を構成する樹脂材料としては、たとえば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、たとえば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0023】
積層体10は、複数の鉄心片Wが積み重ねられて構成される。鉄心片Wは、金属板の一例である。鉄心片Wは、電磁鋼板MS(
図2参照)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。
【0024】
本開示では、
図1Bに示すように、積層体10の積層方向Dにおいて最も端以外に位置する鉄心片Wを「鉄心片W1」と呼称し、積層体10の積層方向Dにおいて最も端に位置する鉄心片Wを「最端鉄心片W2」と呼称する。最端鉄心片W2は、最端金属板の一例である。
【0025】
なお、実施形態に係る積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、鉄心片W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の鉄心片Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0026】
積層方向Dにおいて互いに隣接する鉄心片W同士は、
図1Bに示すように、カシメ部16によって締結される。具体的には、カシメ部16は、鉄心片W1および上端の最端鉄心片W2に形成されたカシメ20と、下端の最端鉄心片W2に形成された貫通孔22とを含む。
【0027】
カシメ20は、鉄心片W1および上端の最端鉄心片W2における表面側に形成された窪み20aと、鉄心片W1および上端の最端鉄心片W2における裏面側に形成された突起20bとで構成される。カシメ20は、たとえば、全体として山型状を呈している。このような形状のカシメ20は、「V字形カシメ」とも呼称される。
【0028】
一の窪み20aは、かかる一の窪み20aに隣接する突起20bと嵌合する。一の鉄心片W1の突起20bは、かかる一の鉄心片W1の裏面側において隣接する鉄心片W1の窪み20aと接合される。
【0029】
貫通孔22は、カシメ20の外形に対応した形状を呈する長孔である。カシメ20がV字形カシメである場合、貫通孔22は矩形状を呈する。貫通孔22には、下端の最端鉄心片W2に隣接する鉄心片W1の突起20bが嵌合される。
【0030】
貫通孔22は、積層体10を連続して製造する際、既に製造された積層体10に対し、続いて形成された鉄心片Wがカシメ20(突起20b)によって締結されるのを防ぐ機能を有する。
【0031】
なお、
図1Bの例では、カシメ20がV字型カシメである例について示したが、本開示はかかる例に限られず、様々な形状のカシメが適用可能である。
【0032】
さらに、実施形態に係る積層体10において、互いに隣接する鉄心片W同士は、カシメ部16に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。たとえば、互いに隣接する鉄心片W同士が、接着剤または樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。
【0033】
あるいは、鉄心片Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の鉄心片Wを締結して積層体を得た後、仮カシメをこの積層体から除去することによって、積層体10を得てもよい。この「仮カシメ」とは、複数の鉄心片Wを一時的に一体化させるのに使用され、かつ製品(積層鉄心1または固定子)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0034】
溶接部18は、後述する溶接工程が施された部位である。
図1Aに示すように、溶接部18は、少なくとも最端鉄心片W2(
図1B参照)に接するように、積層体10の積層方向Dにおける両端部に位置する。
【0035】
これにより、磁石12からの磁束が鉄心片Wに通ることで、互いに隣接する鉄心片W同士の間に発生する反発磁力に基づく斥力によって、最端鉄心片W2が積層体10から剥離することを防止できる。
【0036】
複数の溶接部18は、たとえば、周方向において略等間隔で並んでいる。かかる溶接部18の詳細な構成については後述する。
【0037】
<製造装置>
つづいて、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100の一例を示す概略図である。実施形態に係る製造装置100は、帯状の電磁鋼板MSから鉄心片W(
図1A参照)の積層体10を製造し、かかる積層体10から積層鉄心1(
図1A参照)を製造するように構成される。
【0038】
図2に示すように、製造装置100は、打ち抜き装置200と、磁石挿入装置300と、樹脂注入装置400と、溶接装置500と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0039】
打ち抜き装置200は、アンコイラー210と、送出装置220と、プレス加工装置230とを備える。アンコイラー210は、コイル材211を回転自在に保持するように構成される。コイル材211は、電磁鋼板MSがコイル状(渦巻状)に巻回されたものである。
【0040】
送出装置220は、電磁鋼板MSを上下から挟み込む一対のローラ221、222を含む。一対のローラ221、222は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転および停止し、電磁鋼板MSをプレス加工装置230に向けて間欠的に順次送り出すように構成されている。すなわち、一対のローラ221、222は、電磁鋼板MSを搬送するための搬送手段としての機能を有する。
【0041】
プレス加工装置230は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作するように構成される。プレス加工装置230は、たとえば、送出装置220によって間欠的に送り出される金属板MSを順次打ち抜き加工して鉄心片Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた鉄心片Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0042】
積層体10は、複数の鉄心片Wがカシメ部16などにより互いに締結された状態で積み重ねられたものである。
【0043】
磁石挿入装置300は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、打ち抜き装置200からコンベアCvなどによって搬送された積層体10の貫通孔10b(
図1A参照)に磁石12(
図1A参照)を挿入する機能を有する。
【0044】
樹脂注入装置400は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、磁石挿入装置300から搬送された積層体10の貫通孔10bに樹脂14(
図1A参照)を注入する機能を有する。
【0045】
溶接装置500は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、樹脂注入装置400から搬送された積層体10を溶接する機能を有する。この溶接装置500での溶接工程の詳細については後述する。
【0046】
コントローラCtrは、たとえば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラムまたはオペレータからの操作入力などに基づいて、製造装置100内の各装置を動作させるための指示信号を生成するように構成されている。コントローラCtrは、製造装置100内の各装置にこの指示信号を送信するように構成されている。
【0047】
<製造工程>
つづいて、実施形態に係る積層鉄心1の製造工程について、
図3~
図7を参照しながら説明する。
図3は、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100が実行する各製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
図3に示すように、コントローラCtrは、まず、打ち抜き装置200を制御して、電磁鋼板MSに打ち抜き加工を行い、かかる打ち抜き加工で形成された鉄心片Wを積層して積層体10を形成する(ステップS101)。
【0049】
次に、コントローラCtrは、磁石挿入装置300を制御して、積層体10の貫通孔10bに磁石12を挿入する(ステップS102)。そして、コントローラCtrは、樹脂注入装置400を制御して、積層体10において磁石12が挿入された貫通孔10bに樹脂14を注入する(ステップS103)。
【0050】
最後に、コントローラCtrは、溶接装置500を制御して、最端鉄心片W2と、かかる最端鉄心片W2に隣接する鉄心片W1とを溶接する(ステップS104)。これにより、一連の製造工程が終了する。
【0051】
図4は、参考例における溶接工程の一例について説明するための図である。実施形態および参考例の溶接工程では、コントローラCtr(
図2参照)が、溶接装置500(
図2参照)に搭載される溶接トーチ(図示せず)を制御して、積層体10における所望の位置にレーザを照射する。
【0052】
これにより、レーザが照射された箇所が溶融し、さらに冷えて固化することで、レーザが照射された箇所が溶接される。
【0053】
図4に示す参考例では、
図4の(a)に示すように、コントローラCtrが、最端鉄心片W2に接する位置に最初にレーザを照射する。これにより、積層体10において最端鉄心片W2に接するように、半円状の溶接痕T1が形成される。
【0054】
また、この溶接痕T1の周囲には、溶接時の残留応力が溜まった領域Aが形成される。この領域Aの残留応力は、溶接された部位が冷却時に収縮することで発生する引張方向の応力である。
【0055】
次に、コントローラCtrは、
図4の(b)に示すように、最初の溶接位置(溶接痕T1に対応)に対して最端鉄心片W2から離れる方向に徐々に溶接位置をずらしながら、2回目および3回目の溶接を行なう。なおこの際、前回の溶接位置と一部重複させながら、次の溶接を行なう。これにより、2回目の溶接痕T2および3回目の溶接痕T3が形成される。
【0056】
溶接痕T1~T3の周囲には、1回目から3回目における溶接時の残留応力が溜まった領域Aが形成される。そして、この領域Aにおいて、最後に溶接された位置(
図4の(b)では3回目の溶接痕T3)の周囲には、より多くの残留応力が溜まる。なぜなら、直前の溶接位置と一部が重複するように溶接されることで、前回の溶接時に発生した残留応力が次の溶接位置の周囲に引き継がれるからである。
【0057】
さらに、コントローラCtrは、
図4の(c)に示すように、4回目以降も最端鉄心片W2から離れる方向に徐々に溶接位置をずらすとともに、前回の溶接位置と一部を重複させながら、n回目(たとえば、n=10程度)までの溶接を行なう。これにより、複数の溶接痕T1、T2、T3・・・Tn-1、Tnを含む溶接部18が形成されて、参考例の溶接処理が終了する。
【0058】
溶接痕T1~Tnの周囲には、すべての溶接時の残留応力が溜まった領域Aが形成される。そして、この領域Aには、最後に溶接された位置(すなわち、最後の溶接痕Tn)の周囲に、より多くの残留応力が溜まる。なぜなら、参考例の溶接処理では、最後の溶接痕Tn(以下、「溶接終端Tn」とも呼称する。)がすべて鉄心片W1に囲まれるため、溶接終端Tnの周囲に残留応力の逃げ場がないからである。
【0059】
そして、参考例では、溶接終端Tnの周囲に蓄積された引張方向の残留応力に溶接部18が耐えきれない場合に、溶接部18にクラックCが発生してしまう。これにより、参考例では、溶接部18の品質が低下してしまう恐れがある。
【0060】
そこで、実施形態では、以下に説明する手順で溶接処理を行なうことによって、このクラックCが発生することを抑制することとした。
図5は、実施形態に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【0061】
図5の(a)に示すように、実施形態では、コントローラCtr(
図2参照)が、最端鉄心片W2から所定の距離Lだけ離れた位置に最初にレーザを照射する。この所定の距離Lは、たとえば、1(mm)~3(mm)である。
【0062】
これにより、積層体10において最端鉄心片W2に接しない位置に、楕円状または円状の溶接痕T1が形成される。また、この溶接痕T1の周囲には、上述の参考例と同様に、溶接時の残留応力が溜まった領域Aが形成される。
【0063】
次に、コントローラCtrは、
図5の(b)に示すように、最初の溶接位置(溶接痕T1に対応)に対して最端鉄心片W2に近づく方向に徐々に溶接位置をずらしながら、2回目および3回目の溶接を行なう。なおこの際、前回の溶接位置と一部重複させながら、次の溶接を行なう。これにより、2回目の溶接痕T2および3回目の溶接痕T3が形成される。
【0064】
溶接痕T1~T3の周囲には、1回目から3回目における溶接時の残留応力が溜まった領域Aが形成される。そして、この領域Aにおいて、最後に溶接された位置(
図5の(b)では3回目の溶接痕T3)の周囲には、上述の参考例と同様に、より多くの残留応力が溜まる。
【0065】
さらに、コントローラCtrは、
図5の(c)に示すように、4回目以降も最端鉄心片W2に近づく方向に徐々に溶接位置をずらすとともに、前回の溶接位置と一部を重複させながら、n回目(たとえば、n=10程度)までの溶接を行なう。これにより、複数の溶接痕T1、T2、T3・・・Tn-1、Tnを含む溶接部18が形成されて、実施形態に係る溶接処理が終了する。
【0066】
そして、実施形態では、
図5の(c)に示すように、最後(n回目)の溶接痕Tn(すなわち、溶接終端Tn)が、最端鉄心片W2に接している。
【0067】
これにより、溶接終端Tnの形成時に溶接終端Tnの周囲に溜まった残留応力が緩和される。なぜなら、溶接終端Tnが最端鉄心片W2の露出面W2aに接することで、かかる露出面W2aが残留応力の逃げ場となるからである。
【0068】
すなわち、実施形態では、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接するように溶接されることで、溶接箇所の一部を重複させながら複数回溶接した場合でも、溶接部18にクラックC(
図4の(c)参照)が発生することを抑制できる。したがって、実施形態によれば、積層鉄心1(
図1A参照)の溶接品質を向上させることができる。
【0069】
また、実施形態に係る溶接工程は、最端鉄心片W2から離れた位置を最初に溶接し、前回の溶接位置と一部重複させながら次の溶接を行ない、最後に最端鉄心片W2に接する位置を溶接してもよい。
【0070】
これにより、溶接部18における表面(すなわち、積層体10の側面)よりも深い部位においても、溶融凝固した部位を積層方向Dに沿って一繋ぎにできるため、溶接部18の溶接強度を強くすることができる。
【0071】
また、実施形態に係る溶接工程は、溶接部18において最端鉄心片W2から最も離れた位置を最初に溶接し、最端鉄心片W2に接する位置に向かって徐々に近づくように複数回溶接してもよい。すなわち、実施形態では、溶接部18が、
図5の(c)に示すように、最端鉄心片W2から離れる向きに突出する三日月状の複数の溶接痕T1~Tn-1を含むように構成されてもよい。
【0072】
これにより、溶接工程における溶接トーチの移動距離を短くできることから、溶接工程をより短い時間で完了させることができる。
【0073】
なお、
図5の例では、実施形態に係る溶接工程は、溶接部18において最端鉄心片W2から最も離れた位置を最初に溶接し、最端鉄心片W2に接する位置に向かって徐々に近づくように複数回溶接する例について示したが、本開示はかかる例に限られない。
【0074】
たとえば、
図6に示すように、溶接部18において最端鉄心片W2に接する位置と、最端鉄心片W2から最も離れた位置との間の位置から溶接を開始し(
図6の(a))、最端鉄心片W2から離れる方向に徐々に溶接位置をずらす(
図6の(b))。
【0075】
そして、溶接部18において最端鉄心片W2から最も離れた位置まで溶接が終了した後、最初に溶接した位置から最端鉄心片W2に接する位置に向かって徐々に近づくように複数回溶接してもよい(
図6の(c))。
図6は、実施形態の変形例1に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【0076】
これによっても、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接していることで、溶接終端Tnの形成時に溶接終端Tnの周囲に溜まった残留応力が緩和されるため、積層鉄心1(
図1A参照)の溶接品質を向上させることができる。
【0077】
また、実施形態に係る溶接工程は、溶接痕T1~Tnが一列に並ぶように複数回溶接してもよい。これにより、溶接工程における溶接トーチの移動距離を短くできることから、溶接工程をより短い時間で完了させることができる。
【0078】
なお、
図5および
図6の例では、溶接部18において溶接痕T1~Tnが一列に並んで位置する例について示したが、本開示はかかる例に限られない。
図7は、実施形態の変形例2に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【0079】
図7に示すように、本開示では、溶接部18において溶接痕T1~Tnが複数の列(
図7では2列)に並んで位置してもよい。また、この場合、
図7の(a)~(c)に示すように、一方の列の上ともう一方の列の上とに交互に溶接するとともに、最端鉄心片W2から離れた位置から、最端鉄心片W2に接する位置に向かって徐々に近づくように複数回溶接してもよい。
【0080】
これによっても、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接していることで、溶接終端Tnの形成時に溶接終端Tnの周囲に溜まった残留応力が緩和されるため、積層鉄心1(
図1A参照)の溶接品質を向上させることができる。
【0081】
また、複数の列に沿って複数回溶接することで、溶接部18の幅を大きくすることができるため、溶接部18の溶接強度をさらに強くすることができる。
【0082】
なお、
図7の例では、溶接部18において溶接痕T1~Tnが2列に並んで位置する例について示したが、本開示はかかる例に限られず、溶接部18において溶接痕T1~Tnが3以上の列に並んで位置してもよい。
【0083】
また、実施形態では、樹脂14が設けられることで隣接する鉄心片W同士が接合した積層体10に対して、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接するように溶接部18を形成してもよい。
【0084】
もし仮に、隣接する鉄心片W同士が樹脂14で接合した積層体10に対して、
図4に示した参考例の溶接処理を行なった場合、鉄心片W同士が樹脂14で接合していない積層体10よりも残留応力の逃げ場が少ないため、溶接時にクラックCが発生しやすくなる。
【0085】
そこで、実施形態では、隣接する鉄心片W同士が樹脂14で接合した積層体10に対して、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接するように溶接部18を形成することで、溶接時にクラックCが発生しやすい積層体10であっても、クラックCの発生が抑制される。
【0086】
また、ここまで説明した実施形態において、溶接部18の溶接終端Tnが接する最端鉄心片W2は、上端の最端鉄心片W2および下端の最端鉄心片W2のいずれか一方であってもよいし、上端の最端鉄心片W2および下端の最端鉄心片W2の両方であってもよい。すなわち、溶接部18の溶接終端Tnは、少なくとも一方の最端鉄心片W2に接していればよい。
【0087】
この場合、溶接終端Tnが最端鉄心片W2に接する溶接部18にクラックCが発生することを抑制できるため、積層鉄心1の溶接品質を向上させることができる。
【0088】
また、ここまで説明した実施形態では、積層体10における最も端の金属板が電磁鋼板MSから形成される鉄心片Wである例について示したが、本開示はかかる例に限られない。
【0089】
たとえば、磁石12を貫通孔10bから離脱させないことを目的として、かかる貫通孔10bの出入り口を塞ぐ金属板が積層体10の最も端に位置する場合に、この最端金属板を溶接する溶接部18に本開示の技術が適用されてもよい。この場合、最端金属板は電磁鋼板MSで構成される場合に限られず、たとえばステンレスなどで構成されてもよい。
【0090】
この場合でも、溶接終端Tnが最端金属板に接していることで、溶接終端Tnの形成時に溶接終端Tnの周囲に溜まった残留応力が緩和されるため、積層鉄心1(
図1A参照)の溶接品質を向上させることができる。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、上記の実施形態では、ロータを構成する積層鉄心1の最端鉄心片W2を溶接する際の溶接工程について示したが、本開示はかかる例に限られず、ステータを構成する積層鉄心の最端鉄心片を溶接する際に、本開示の技術が適用されてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態では、貫通孔10bが形成された積層体10に磁石12が挿入された積層鉄心1における溶接工程について示したが、本開示はかかる例に限られない。たとえば、貫通孔10bを有さない、または貫通孔10bに磁石12が挿入されない積層鉄心1における溶接工程において、本開示の技術が適用されてもよい。
【0093】
すなわち、
図3に示した積層鉄心の製造工程において、挿入工程(ステップS102)および注入工程(ステップS103)が含まれない場合にも、本開示の技術が適用されてもよい。
【0094】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 積層鉄心
10 積層体
10b 貫通孔
12 磁石
14 樹脂
16 カシメ部
18 溶接部
D 積層方向
T1~Tn 溶接痕
Tn 溶接終端
W、W1 鉄心片
W2 最端鉄心片(最端金属板の一例)