(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130469
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の制御方法、および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240920BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 654Z
H01L29/78 657G
H01L29/78 658A
H01L29/78 655A
H01L29/78 655G
H01L29/78 655B
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040222
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】月東 綾則
(57)【要約】
【課題】第1信号の遷移と第2信号の遷移との時間差の許容範囲の拡大。
【解決手段】半導体装置は、半導体基板、半導体基板の表層において排他的に位置する第1半導体層と第2半導体層、第1半導体層と第2半導体層に対して半導体基板とは反対側に位置する第3半導体層、第3半導体層に対して半導体基板とは反対側において排他的に位置する第4半導体層と第5半導体層、いずれも表面が絶縁性を有する第1電極、第2電極、第3電極を備え、第1電極は第1半導体層、第2半導体層、第5半導体層および第3半導体層を貫通して第1半導体層まで達して延びる。第2電極は第2半導体層、第3半導体層、第4半導体層を、または第2半導体層、第3半導体層、第5半導体層を貫通し、半導体基板まで達して延びる。第3電極は、第4半導体層および第3半導体層を貫通して半導体基板まで達して延びて第1半導体層を第2半導体層から隔て、第2電極と共に第2半導体層を挟む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の表層に位置する第1導電型の第1半導体層と、
前記半導体基板の前記表層において前記第1半導体層と排他的に位置し、前記半導体基板よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層および前記第2半導体層に対して前記半導体基板とは反対側に位置する第2導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において選択的に位置し、前記第3半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第2導電型の第4半導体層と、
前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において前記第4半導体層と排他的に位置し、前記第2半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第5半導体層と、
前記半導体基板に対して前記第1半導体層、前記第2半導体層、前記第3半導体層、前記第4半導体層、前記第5半導体層のいずれとも反対側に位置する第2導電型の第6半導体層と、
前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第2半導体層と前記半導体基板との境界よりも前記第6半導体層から遠くで前記第1半導体層まで達して延び、表面が絶縁性を有する第1電極と、
前記第2半導体層、前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通し、または前記第2半導体層、前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、表面が絶縁性を有する第2電極と、
前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通して前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、前記第1半導体層を前記第2半導体層から隔て、前記第2電極と共に前記第2半導体層を挟み、表面が絶縁性を有する第3電極と
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記第1半導体層の不純物濃度のピーク値は、前記半導体基板の不純物濃度のピーク値よりも高い、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2電極は前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通する、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1半導体層の不純物濃度のピーク値は、前記第2半導体層の不純物濃度のピーク値よりも低い、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1半導体層は前記第2半導体層よりも薄い、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2電極は前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通する、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1半導体層は前記半導体基板の一部である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第2電極は前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第2電極は前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第2電極が延びる方向において前記第2電極が前記第2半導体層から前記半導体基板へ突出する長さと、前記第3電極が延びる方向において前記第3電極が前記第2半導体層から前記半導体基板へ突出する長さとが等しい、請求項1から請求項9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第1電極の大きさは、前記第2電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第2電極の大きさおよび前記第3電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第3電極の大きさのいずれよりも小さい、請求項1から請求項9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第2電極と前記第3電極とが並ぶ方向に沿った、互いに隣接する前記第2電極と前記第3電極との間隔、互いに隣接する前記第2電極同士の間隔、または互いに隣接する前記第3電極同士の間隔は15μm以下である、請求項1から請求項9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第3電極は、前記第1電極と前記第3電極とが並ぶ方向において、前記第1電極の一方側にも他方側にも位置し、
前記第1電極の前記一方側に位置する前記第3電極と、前記第1電極の前記他方側に位置する前記第3電極との間隔は、前記方向において15μm以下である、請求項1から請求項9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項14】
請求項1から請求項9のいずれか一つに記載された半導体装置を制御する方法であって、
第1信号が前記第1電極に与えられ、
第2信号が前記第2電極に与えられ、
前記第1信号および前記第2信号のいずれをも遷移させて前記半導体装置をターンオフさせるとき、前記第1信号は前記第2信号よりも遅延して遷移する、半導体装置の制御方法。
【請求項15】
前記第1導電型はN型であり、前記第2信号は前記第3電極に対して零以下の電位において遷移する、請求項14に記載の半導体装置の制御方法。
【請求項16】
請求項5に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第1半導体層および前記第2半導体層の形成に先だって、前記半導体基板に対して第1導電型の不純物が、第1導入量で第1領域へ、前記第1導入量よりも多い第2導入量で第2領域へ、それぞれ導入される導入工程と、
前記第1領域において導入された第1導電型の不純物の拡散と、前記第2領域において導入された第1導電型の不純物の拡散とを並行して実行して、前記第1半導体層および前記第2半導体層を形成する拡散工程と
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記導入工程において、ストライプパターンまたはドットパターンを有するマスクを用いたイオン注入によって、前記第1領域への第1導電型の不純物の導入と、前記第2領域への第1導電型の不純物の導入とを、並行して実行する、請求項16に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
請求項10に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第2電極および前記第3電極のいずれの形成にも先だって、前記第2電極を埋めこむトレンチおよび前記第3電極を埋めこむトレンチを、開口が設けられたマスクを用いた選択的エッチングによって並行して形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項19】
請求項11に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第1電極、前記第2電極、および前記第3電極のいずれの形成にも先だって、前記第1電極を埋めこむ第1トレンチ、前記第2電極を埋めこむ第2トレンチ、および前記第3電極を埋めこむ第3トレンチを、開口が設けられたマスクを用いた選択的エッチングによって並行して形成し、前記第1トレンチを形成するエッチングに用いられる開口よりも、前記第2トレンチを形成するエッチングに用いられる開口および前記第3トレンチを形成するエッチングに用いられる開口の方が広い、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に開示される技術は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置として、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(insulated gate bipolar transistor:以下「IGBT」と称される)が公知である。IGBTにおいて例えば、半導体基板の上面に不純物層が設けられる。例えば当該不純物層を貫通したトレンチが、周期的に設けられる。トレンチの側面および底面には絶縁層が設けられる。トレンチには絶縁層に囲まれて導電体が設けられる。例えば不純物層はチャネル層として機能し、半導体基板はドリフト層として機能する。
【0003】
IGBTは、深さが異なる二種のトレンチを採用する場合がある(例えば特許文献1参照)。例えば深いトレンチはドリフト層としての半導体基板まで到達し、浅いトレンチはドリフト層まで到達しない。
【0004】
当該半導体装置の動作を制御する信号は、深いトレンチに設けられた導電体と、浅いトレンチに設けられた導電体とに対して、個別に与えられる。これらの信号は、それぞれのトレンチの周囲におけるチャネル層のキャリア濃度を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述された構成を有するIGBTがターンオフするときの動作の例として、下記のシーケンスが想定される。但し、浅いトレンチに設けられた導電体には第1信号が与えられ、深いトレンチに設けられた導電体には第2信号が与えられる:第2信号のオフ遷移が第1信号のオフ遷移よりも早い。ここで「オフ遷移」は上述のキャリア濃度を低減する方向に働く電圧の遷移である。
【0007】
このようなシーケンスにより、第2信号のオフ遷移によって予め半導体基板の不純物層側のキャリア濃度が減少してから、第1信号のオフ遷移によって半導体装置がオフする。このようなシーケンスは、半導体装置のターンオフに費やされる時間を短くし、第1信号のオフ遷移の後のターンオフ損失を低減する。他方、半導体基板のキャリア濃度の減少は、半導体装置の順方向電圧を増加させ、第2信号のオフ遷移から第1信号のオフ遷移までの順方向導通損失が増加する。
【0008】
当該順方向導通損失の増加が、第1信号のオフ遷移の後のターンオフ損失の減少を上回る場合が想定される。この場合、第2信号のオフ遷移の後に発生する損失の総量は、第1信号のオフ遷移と第2信号のオフ遷移とが並行して発生する場合と比較して、増加するかもしれない。
【0009】
当該総量の最小化を得る技術として、第2信号のオフ遷移から第1信号のオフ遷移までの時間差を最適化することも考えられ得る。当該時間差が許容される範囲は狭く、上述の損失の総量がばらついたり、最適な時間差を得るためのオフ遷移の制御が困難であったりするという問題が想定される。
【0010】
本願明細書に開示される技術は、このような問題に鑑みてなされたものであり、第1信号の遷移と第2信号の遷移との時間差の許容範囲を拡大することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示にかかる技術の第1の態様である半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の表層に位置する第1導電型の第1半導体層と、前記半導体基板の前記表層において前記第1半導体層と排他的に位置し、前記半導体基板よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第2半導体層と、前記第1半導体層および前記第2半導体層に対して前記半導体基板とは反対側に位置する第2導電型の第3半導体層と、前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において選択的に位置し、前記第3半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第2導電型の第4半導体層と、前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において前記第4半導体層と排他的に位置し、前記第2半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第5半導体層と、前記半導体基板に対して前記第1半導体層、前記第2半導体層、前記第3半導体層、前記第4半導体層、前記第5半導体層のいずれとも反対側に位置する第2導電型の第6半導体層と、前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第2半導体層と前記半導体基板との境界よりも前記第6半導体層から遠くで前記第1半導体層まで達して延び、表面が絶縁性を有する第1電極と、前記第2半導体層、前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通し、または前記第2半導体層、前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、表面が絶縁性を有する第2電極と、前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通して前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、前記第1半導体層を前記第2半導体層から隔て、前記第2電極と共に前記第2半導体層を挟み、表面が絶縁性を有する第3電極とを備える。
【0012】
本開示にかかる技術の第2の態様である半導体装置の制御方法は、本開示にかかる半導体装置を制御する方法であって、第1信号が前記第1電極に与えられ、第2信号が前記第2電極に与えられ、前記第1信号および前記第2信号のいずれをも遷移させて前記半導体装置をターンオフさせるとき、前記第1信号は前記第2信号よりも遅延して遷移する。
【発明の効果】
【0013】
本開示にかかる半導体装置およびその制御方法によれば、第1電極に与えられる第1信号のオフ遷移が、第2電極に与えられる第2信号のオフ遷移から遅延する時間差の許容範囲が拡大する。
【0014】
本願明細書に開示される技術に関連する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1にかかる半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1にかかる半導体装置の構成の他の一例を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1にかかる半導体装置の構成の他例を示す断面図である。
【
図4】IGBTに対して二種のゲート電圧を印加する回路を例示する回路図である。
【
図5】二種のゲート電圧のシーケンスを例示する波形図である。
【
図6】IGBTがターンオフする動作を例示ずる波形図である。
【
図7】比較例にかかる半導体装置の構成を例示する断面図である。
【
図8】損失総量の時間差に対する依存性を示すグラフである。
【
図9】比較例においてIGBTがターンオフする動作を例示する波形図である。
【
図10】
図9における領域R10を拡大して示す波形図である。
【
図11】
図9における領域R11を拡大して示す波形図である。
【
図12】実施の形態においてIGBTがターンオフする動作を例示する波形図である。
【
図13】
図12における領域R13を拡大して示す波形図である。
【
図14】
図12における領域R14を拡大して示す波形図である。
【
図15】飽和電圧に対する損失総量の依存性を示すグラフである。
【
図16】二種のゲート電圧のシーケンスの他例を示す波形図である。
【
図17】二種のゲート電圧のオン遷移を例示する波形図である。
【
図18】二種のゲート電圧のオン遷移を例示する波形図である。
【
図19】実施の形態1にかかる半導体装置がターンオンするときの動作を例示する波形図である。
【
図20】実施の形態1にかかる半導体装置がターンオンするときの動作を例示する波形図である。
【
図21】実施の形態2にかかる半導体装置の構成を例示する断面図である。
【
図22】実施の形態2にかかる半導体装置がターンオンするときの動作を例示する波形図である。
【
図23】実施の形態3にかかる半導体装置の構成を例示する断面図である。
【
図24】実施の形態4にかかる半導体装置の構成を例示する断面図である。
【
図25】半導体装置の耐電圧とトレンチ電極同士の間隔との関係を例示するグラフである。
【
図26】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図27】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図28】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図29】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図30】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図31】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図32】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図33】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図34】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図35】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図36】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図37】実施の形態1にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図38】実施の形態1にかかる半導体装置の第2の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図39】実施の形態1にかかる半導体装置の第2の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図40】実施の形態1にかかる半導体装置の第2の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図41】実施の形態1にかかる半導体装置の第2の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図42】トレンチの深さとマスクの開口幅との関係を例示するグラフである。
【
図43】実施の形態4にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図44】実施の形態4にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図45】実施の形態4にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図46】実施の形態4にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図47】実施の形態4にかかる半導体装置の第1の製造方法の一部を工程順に例示する断面図である。
【
図48】実施の形態4にかかる半導体装置の第2の製造方法の一部を例示する断面図である。
【
図49】実施の形態5にかかる半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図50】実施の形態5にかかる半導体装置の構成の他の一例を示す断面図である。
【
図51】実施の形態5にかかる半導体装置の構成の他例を示す断面図である。
【
図52】実施の形態6にかかる半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図53】実施の形態6にかかる半導体装置の構成の他の一例を示す断面図である。
【
図54】実施の形態6にかかる半導体装置の構成の他例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付される図面が参照されつつ、実施の形態が説明される。以下の実施の形態では、技術の説明のために詳細な特徴なども示されるが、それらは例示であり、実施の形態が実施可能となるために、それらのすべてが必ずしも必須の特徴ではない。
【0017】
本願明細書に記載される説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置または方向を意味する用語が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態が実際に実施される際の位置または方向とは関係しない。
【0018】
半導体の導電型を示す記号「N」、「P」の右隣における記号「+」「-」の有無は、不純物濃度の、例えば不純物濃度のピーク値の、相対的な高低を示す。例えばN+型の半導体はN型の半導体よりも、N型の半導体はN-型の半導体よりも、それぞれN型の不純物濃度が高い。P+型の半導体はP型の半導体よりも、P型の半導体はP-型の半導体よりも、それぞれP型の不純物濃度が高い。かかる不純物濃度の高低は相対的であり、例えば異なる半導体のいずれもがN型の半導体であると説明されても、それらの半導体の不純物濃度が互いに等しいことは意味されない。
【0019】
<実施の形態1>
図1は実施の形態1にかかる半導体装置100Aの構成を例示する断面図である。
図2は半導体装置100Aの構成の一例を示す断面図であり、
図3は半導体装置100Aの構成の他例を示す断面図である。
【0020】
図2に示される断面も、
図3に示される断面も、
図1の位置QQにおいて矢視方向から見て現れる。
図1に例示される断面は、
図2の位置JJにおいて矢視方向から見て現れる断面でもあり、
図3の位置KKにおいて矢視方向から見て現れる断面でもある。
図2に例示される構成は、例えばポリシリコンが用いられる配線の多層化の抑制、ひいては生産性の向上に寄与する。
【0021】
半導体装置100Aは、半導体基板1と、半導体層2,31,32,41,42,5,10,11と、トレンチ電極81,82,9とを備える。「トレンチ電極」は、半導体基板1の厚さ方向に溝状に延びる電極を示す仮称であり、その具体的構成は後述される。
【0022】
半導体基板1は、例えばN-型のシリコンで実現される。半導体装置100Aは典型的にはIGBTであり、半導体基板1は例えばドリフト層として機能する。
【0023】
半導体層31,32は半導体基板1の表層において排他的に位置する。半導体層31,32は例えばN型のシリコンで実現される。半導体層31,32は例えばキャリア蓄積層として機能する。例えば本実施の形態では半導体層31,32は不純物濃度のピーク値が等しい。
【0024】
なお、後述される実施の形態3においては、半導体層31の不純物濃度と半導体基板1の不純物濃度とが等しい場合について説明され、半導体層31が半導体基板1の一部として考えられる。後述される実施の形態4では半導体層31の不純物濃度のピーク値が半導体層32の不純物濃度のピーク値よりも低い場合について説明される。
【0025】
半導体層2は、半導体層31,32に対して半導体基板1とは反対側に位置する。半導体層2は、その導電型が半導体基板1、半導体層31,32とは逆であり、例えばP型のシリコンで実現される。半導体層2は例えばIGBTのチャネル層として機能する。
【0026】
半導体層5は半導体層2に対して半導体基板1とは反対側において選択的に位置する。半導体層5は、その導電型が半導体層2と同じであって半導体層2よりも不純物濃度のピーク値が高く、例えばP+型のシリコンで実現される。例えば半導体層5はIGBTのエミッタ層として機能する。
【0027】
半導体層41,42は半導体層2に対して半導体基板1とは反対側において半導体層5と排他的に位置する。半導体層41,42のいずれも、その導電型が半導体基板1,半導体層31,32と同じであって半導体層32よりも不純物濃度のピーク値が高く、例えばN+型のシリコンで実現される。例えば半導体層41,42はIGBTのエミッタ層として機能する。
【0028】
半導体層11は、半導体基板1に対して半導体層2,31,32,41,42,5のいずれとも反対側に位置する。半導体層11は、その導電型が半導体層2と同じであって、例えばP型のシリコンで実現される。例えば半導体層11はIGBTのコレクタ層として機能する。半導体層11は、例えば不図示の構造によってIGBTのコレクタ電極Cに電気的に接続される。
【0029】
半導体層10は、半導体基板1と半導体層11の間で両者に接触して位置する。半導体層10は、その導電型が半導体基板1と同じであって半導体基板1よりも不純物濃度のピーク値が高く、例えばN型のシリコンで実現される。例えば半導体層10はIGBTのバッファ層として機能する。
【0030】
トレンチ電極81は、半導体層41,2を貫通し、半導体層32と半導体基板1との境界よりも半導体層11から遠くで(
図1においては紙面上側へ離れて)半導体層31まで達して延びる。トレンチ電極81は表面が、具体的には半導体層41,2,31と対向する表面が絶縁性を有する。トレンチ電極81は例えば不図示の構造によってIGBTのゲート電極G1に電気的に接続される。
【0031】
トレンチ電極82は、半導体層2,42,32を貫通して半導体基板1まで達して延びる。トレンチ電極82は、半導体層31,32のいずれよりも半導体層11に近接する。トレンチ電極82は、表面が、具体的には半導体基板1、半導体層42,2,32と対向する表面が絶縁性を有する。トレンチ電極82は例えば不図示の構造によってIGBTのゲート電極G2に電気的に接続される。
【0032】
トレンチ電極9は、半導体層5,2を貫通して半導体基板1まで達して延びる。半導体層31,32を一体として捉えると、トレンチ電極9,82はいずれも、半導体層31,32を貫通するとも言える。トレンチ電極9は、半導体層31,32のいずれよりも半導体層11に近接する。トレンチ電極9は半導体層31を半導体層32から隔てる。トレンチ電極9は、トレンチ電極82と共に半導体層32を挟む。トレンチ電極9は、表面が、具体的には半導体基板1、半導体層2,31,32,5と対向する表面が絶縁性を有する。トレンチ電極9は例えば半導体層41,42,5と共に、IGBTのエミッタ電極Eに電気的に接続される。トレンチ電極9は、ゲート電極G1,G2のいずれにも接続されず、ゲートとして機能しない観点で、ダミーの電極であると見ることができる。
【0033】
トレンチ電極81,82,9はいずれも絶縁膜6と導電体7とを有する。導電体7は例えばポリシリコンによって実現される。絶縁膜6はトレンチ電極81,82,9が有する上述の絶縁性を担い、例えば酸化シリコンによって実現される。トレンチ電極81,82,9のいずれも、溝の内部において絶縁膜6に囲まれるものの、外部との電気的接続が可能な電極である、と見ることができる。
【0034】
トレンチ電極81,82,9は半導体基板1の厚さ方向に沿って見て周期的に位置する。例えば一方向に沿ってトレンチ電極81,82が交互に、かつトレンチ電極81,82に間にトレンチ電極9が位置する(
図2参照)。例えば二方向に沿ってトレンチ電極81,82が交互に位置し、かつトレンチ電極81,82に間にトレンチ電極9が格子状に位置する(
図3参照)。
【0035】
トレンチ電極81の周囲で半導体層41は、
図3に例示されるように連続的に形成される他、断続的に形成されてもよい。トレンチ電極82の周囲で半導体層42は、
図3に例示されるように連続的に形成される他、断続的に形成されてもよい。
【0036】
図4は、IGBT100に対して二種のゲート電圧を印加する回路を例示する回路図である。半導体装置100Aはゲート電極G1,G2、エミッタ電極E、コレクタ電極Cを有するIGBT100として採用可能である。
【0037】
二種のゲート電圧によってIGBT100のオン/オフが制御される。ゲート電極G1は遅延回路101と抵抗とを介して信号源102に接続される。この抵抗は信号源102に含まれて実現されてもよいし、遅延回路101に含まれて実現されてもよい。
【0038】
ゲート電極G2は抵抗を介して信号源102に接続される。この抵抗は信号源102に含まれて実現されてもよい。
【0039】
図5は上述の二種のゲート電圧のシーケンスを例示する波形図である。エミッタ電極Eの電位を基準とすると、ゲート電極G1に印加される電圧(以下「第1ゲート電圧」と仮称される:上述の第1信号に相当)は値Vg1(>0)と値(-Vg1)との間を遷移し、ゲート電極G2に印加される電圧(以下「第2ゲート電圧」と仮称される:上述の第2信号に相当)は値Vg2(>0)と値(-Vg2)との間を遷移する。第1ゲート電圧の立ち下がりおよび第2ゲート電圧の立ち下がりのいずれも、オフ遷移に相当する。
【0040】
遅延回路101は、少なくとも、第2ゲート電圧の立ち下がりに対する第1ゲート電圧の立ち下がりを、時間差dtで遅延させる機能を有する。例えば第2ゲート電圧を遅延回路101に入力して遅延回路101から第1ゲート電圧が得られる。あるいは遅延回路101を省略して信号源102から第1ゲート電圧および第2ゲート電圧が得られる。
【0041】
第1ゲート電圧はゲート電極G1に印加されるので、第1信号がトレンチ電極81に与えられるといえる。第2ゲート電圧はゲート電極G2に印加されるので、第2信号がトレンチ電極82に与えられるといえる。IGBT100として採用される半導体装置100Aをターンオフさせる制御の方法として、第1ゲート電圧および第2ゲート電圧のいずれをも遷移させ、第1ゲート電圧を第2ゲート電圧よりも遅延して遷移させる。後述される半導体装置100B,100C,100Dの制御も同様である。
【0042】
図6は、IGBT100がターンオフする動作を例示する波形図である。
図6において左側の縦軸はコレクタ電流Ic[A]を示し、右側の縦軸はエミッタ電位を基準としたコレクタ電圧Vce[V]を示す。横軸は時間(time)[s]を示す。波形H20がコレクタ電流Icの波形を示し、波形H21がコレクタ電圧Vceの波形を示す。
【0043】
第2ゲート電圧は時刻t2でオフ遷移し、第1ゲート電圧は時刻t1でオフ遷移する。時刻t1,t2の差が上述の時間差dtである。時刻t0でコレクタ電流Icは流れなくなる。IGBT100の、時刻t2から時刻t0に至る期間における損失の総量は、以下において損失総量Eoffとして扱われる。
【0044】
図7は、半導体装置100Aと比較される比較例としての半導体装置100Zの構造を例示する断面図である。半導体装置100Zの構造はおおまかには、半導体装置100Aの構造においてトレンチ電極81,82,9の並ぶ順序が相違する。半導体装置100Aではトレンチ電極81,82の間にトレンチ電極9が介在するが、半導体装置100Zではトレンチ電極81,82の間にトレンチ電極9は介在せず、トレンチ電極81,82はトレンチ電極9に挟まれる。
【0045】
より具体的には、半導体装置100A,100Zのいずれにおいても半導体層31,32を一体として捉えると、トレンチ電極82,9は半導体層31,32を貫通すると言える。半導体装置100A,100Zのいずれにおいても、トレンチ電極81は半導体層41を貫通して半導体層31,32まで達して延びるといえる。
【0046】
半導体装置100Zにおいても半導体装置100Aと類似して、トレンチ電極82は半導体基板1および半導体層42,2,32と対向する。半導体装置100Zにおいてトレンチ電極82は半導体層31にも対向し、半導体層31と対向する表面が絶縁性を有する。
【0047】
半導体装置100Zにおいても半導体装置100Aと類似して、トレンチ電極81は半導体層41,2と対向する。半導体装置100Zにおいてトレンチ電極81は半導体層32にも対向し、半導体層32と対向する表面が絶縁性を有する。
【0048】
半導体装置100Zにおいても半導体装置100Aと類似して、トレンチ電極9は半導体基板1、半導体層31,2と対向する。しかし半導体装置100Aにおけるトレンチ電極9は半導体層5に対向し、半導体装置100Zにおけるトレンチ電極9は、トレンチ電極9は半導体層5に対向しない。
【0049】
半導体装置100Zではトレンチ電極81,82の間では半導体層41,42,5が、トレンチ電極9が介在することなく並ぶ。
【0050】
図8は、損失総量Eoff[%]の時間差dtに対する依存性を示すグラフである。損失総量Eoffは、時間差dtが零のときの値を100%として百分率で示される。百分率白丸は比較例、具体的には半導体装置100ZがIGBT100に採用された場合のデータを示し、破線で結ばれている。黒丸は本実施の形態、具体的には半導体装置100AがIGBT100に採用された場合のデータを示し、実線で結ばれている。
【0051】
比較例の場合、時間差dtが増大するにつれて、損失総量Eoffが一旦は減少した後に増大する傾向を示す。具体的には時間差dtが20μs辺りの値をとるときに損失総量Eoffは極小値を示す。
【0052】
実施の形態の場合、時間差dtが増大するにつれて、損失総量Eoffはほぼ単調減少する傾向を示し、時間差dtが35μs辺りよりも長いと損失総量Eoffはほぼ安定する傾向を示す。
【0053】
上述のグラフから、損失を低下させる時間差dtに許容される範囲、換言すると第1ゲート電圧のオフ遷移が第2ゲート電圧のオフ遷移から遅延する時間差dtの許容範囲が、本実施の形態の場合に比較例よりも、拡大することが理解される。
【0054】
図9は、比較例においてIGBT100がターンオフする動作を例示する波形図である。
図9において左側の縦軸はコレクタ電流Ic[A]を示し、右側の縦軸はエミッタ電位を基準としたコレクタ電圧Vce[V]を示す。横軸は時間(time)[s]を示す。破線の波形はコレクタ電流Icの波形を示し、実線の波形はコレクタ電圧Vceの波形を示す。コレクタ電流Icおよびコレクタ電圧Vceのいずれについても、時間差dtが値0μs,18μs,60μsを採る場合について示される。いずれの時間差dtについても、時刻100μs(図において「1.0E-04」と標記される)において第1ゲート電圧がオフ遷移する。
【0055】
図10は
図9における領域R10を拡大して示す波形図である。
図11は
図9における領域R11を拡大して示す波形図である。
【0056】
実線で示された波形H31,H32,H33はいずれも、比較例におけるコレクタ電圧Vceの波形を示す。破線で示された波形H41,H42,H43のいずれも、比較例におけるコレクタ電流Icの波形を示す。
【0057】
波形H31,H41はいずれも時間差dtが値0μsを採る場合を示す。波形H32,H42はいずれも時間差dtが値18μsを採る場合を示す。波形H33,H43はいずれも時間差dtが値60μsを採る場合を示す。
【0058】
図12は、本実施の形態においてIGBT100がターンオフする動作を例示する波形図である。
図12において左側の縦軸はコレクタ電流Ic[A]を示し、右側の縦軸はエミッタ電位を基準としたコレクタ電圧Vce[V]を示す。横軸は時間(time)[s]を示す。破線の波形はコレクタ電流Icの波形を示し、実線の波形はコレクタ電圧Vceの波形を示す。コレクタ電流Icおよびコレクタ電圧Vceのいずれについても、時間差dtが値0μs,18μs,60μsを採る場合について示される。いずれの時間差dtについても、時刻100μs(図において「1.0E-04」と標記される)において第1ゲート電圧がオフ遷移する。
【0059】
図13は
図12における領域R13を拡大して示す波形図である。
図14は
図12における領域R14を拡大して示す波形図である。
【0060】
実線で示された波形H51,H52,H53はいずれも、実施の形態におけるコレクタ電圧Vceの波形を示す。破線で示された波形H61,H62,H63のいずれも、実施の形態におけるコレクタ電流Icの波形を示す。
【0061】
波形H51,H61はいずれも時間差dtが値0μsを採る場合を示す。波形H52,H62はいずれも時間差dtが値18μsを採る場合を示す。波形H53,H63はいずれも時間差dtが値60μsを採る場合を示す。
【0062】
図10と
図13とから、比較例よりも本実施の形態の方が、第2ゲート電圧がオフ遷移してからのコレクタ電圧Vceの増大が抑制されることが理解される。コレクタ電圧Vceの増大は、IGBT100の導通時の損失を増大させる。
図8で示された時間差dtの増大に伴う比較例における損失総量Eoffの増大は、コレクタ電圧Vceの増大に由来すると考えられる。
【0063】
図11と
図14とから、比較例よりも本実施の形態の方が、コレクタ電圧Vceの上昇速度が抑制されることが理解される。時間差dtが大きいと、比較例においてはコレクタ電圧Vceの波形に歪みが生じる。
【0064】
半導体装置100A,100Zのいずれにおいても半導体層2,31,32,5はIGBTのエミッタ領域として考えられる。半導体装置100A,100Zのいずれにおいても、それらの動作において内部に流れる電流はエミッタ領域を通過する。
【0065】
トレンチ電極82の電位に由来して半導体層31,32に蓄積される電子は、第2ゲート電圧がオフ遷移することによって減少する。当該減少は、半導体層31,32から半導体基板1へ注入される電子の減少を招来し、ひいては半導体基板1の半導体層31,32側におけるキャリアの減少を招来する。かかる減少により、半導体基板1と半導体層31,32との境界から延びる空乏層が拡大する。
【0066】
半導体装置100Zではトレンチ電極81,82同士が隣接し、両者の間でエミッタ領域が共有される。半導体装置100Zでは、ホール電流は空乏層のみを流れる。空乏層の抵抗成分は高く、空乏層の拡大は、半導体装置100Zをオンさせる電圧の増加を招来する。時間差dtが長いほど、空乏層は長く延び、順方向導通損失が増大する。
【0067】
時間差dtが長いほど(第2ゲート電圧のオフ遷移が第1ゲート電圧のオフ遷移よりも早いほど)、コレクタ電圧Vceは増大する(
図10の波形H31,H32,H33参照)。第1ゲート電圧がオフ遷移する時点では既にエミッタ領域において空乏層が拡大しており、コレクタ電圧Vceの上昇速度は大きい(
図11の波形H32,H33参照)。
【0068】
半導体装置100Aでは、トレンチ電極81,82同士の間でエミッタ領域が共有されない。具体的にはトレンチ電極81が対向する半導体層31と、トレンチ電極82が対向する半導体層32とは、トレンチ電極9によって隔てられている。
【0069】
第2ゲート電圧がオフ遷移することにより半導体基板1において半導体層32から延びる空乏層が拡大しても、第1ゲート電圧がオフ遷移するまではトレンチ電極81が対向する半導体層31と半導体基板1との境界には空乏層は殆ど存在しない。空乏層が拡大する半導体層2,32,5を含むエミッタ領域よりも空乏層が殆ど存在しない半導体層2,31,5を含むエミッタ領域の方が、抵抗成分は小さい。半導体装置100Aにおいてホール電流は後者を流れる。
【0070】
これら二種のエミッタ領域は半導体装置100Aにおいて並列しており、半導体装置100Aをオンさせる電圧は時間差dtに殆ど依存しない(
図13の波形H51,H52,H53参照)。そして第1ゲート電圧がオフ遷移する時点では、まだ半導体層31と半導体基板1との境界近傍には空乏層が殆ど存在せず、コレクタ電圧Vceの上昇速度は抑制される(
図14の波形H51,H52,H53参照)。
【0071】
図15は、コレクタ電圧Vceについての飽和電圧Vce(sat)に対する損失総量Eoffの依存性を例示するグラフである。
図15において、縦軸は損失総量Eoff[mJ]を示し、横軸は飽和電圧Vce(sat)[V]を示す。
【0072】
白丸は比較例、具体的には半導体装置100ZがIGBT100に採用された場合のデータを示し、破線で結ばれている。黒丸は本実施の形態、具体的には半導体装置100AがIGBT100に採用された場合のデータを示し、実線で結ばれている。比較例のデータには、時間差dtに対して極小値となる損失総量Eoffが採用される。
【0073】
比較例でも本実施の形態でも、飽和電圧Vce(sat)と損失総量Eoffとの間にはトレードオフの関係が看取される。損失総量Eoffを低減すると飽和電圧Vce(sat)が増大する傾向が看取される。
【0074】
比較例と本実施の形態とがほぼ等しいトレードオフの関係を示す飽和電圧Vce(sat)の範囲(以下「低速側」と仮称される)が存在する。本実施の形態の方が比較例よりも損失総量Eoffが小さい飽和電圧Vce(sat)の範囲(以下「高速側」と仮称される)が存在する。高速側では低速側よりも飽和電圧Vce(sat)が高い。
【0075】
比較例および本実施の形態のいずれについても、つまり半導体装置100A,100Zのいずれについても、半導体基板1におけるキャリア濃度は、低速側よりも高速側において低い。比較例では、時間差dtが大きいほど半導体基板1のエミッタ領域側において空乏層が拡大し易く、第2ゲート電圧がオフ遷移してから第1ゲート電圧がオフ遷移するまでの間の順方向導通損失が大きくなり、損失総量Eoffが抑制されにくい。本実施の形態では空乏層の延びによる順方向導通損失の増大が抑制され、比較例よりも損失総量Eoffが抑制される。
【0076】
<不純物濃度のピーク値の範囲の例示>
半導体基板1、および半導体層2,31,32,41,42,5に採用される不純物濃度のピーク値は以下のように例示される。
【0077】
半導体基板1における不純物濃度のピーク値は、例えば1×1012cm-3を下限とし、1×1014cm-3を上限とする。半導体基板1における不純物濃度のピーク値が当該上限および下限を満足することは、満足しない場合と比較して、半導体装置100Aが大きな耐圧を有する観点で好ましい。
【0078】
半導体層2における不純物濃度のピーク値は、例えば1×1016cm-3を下限とし、1×1017cm-3を上限とする。半導体層2における不純物濃度のピーク値が当該上限を満足することは、満足しない場合と比較して、半導体装置100Aが大きなターンオフ遮断能力を有する観点で好ましい。半導体層2における不純物濃度のピーク値が当該下限を満足することは、満足しない場合と比較して、短絡時の遮断能力が大きい観点で好ましい。
【0079】
半導体層31,32における不純物濃度のピーク値は、例えばいずれも、1×1016cm-3を上限とする。半導体層31,32における不純物濃度のピーク値が当該上限を満足することは、満足しない場合と比較して、半導体装置100Aが大きな耐圧を有する観点で好ましい。
【0080】
半導体層41,42,5における不純物濃度のピーク値は、例えばいずれも1×1018cm-3を下限とする。半導体層41,42,5における不純物濃度のピーク値が当該下限を満足することは、満足しない場合と比較して、それぞれにおけるコンタクト抵抗が小さい観点で好ましい。
【0081】
<第2ゲート電圧の他例>
図16は、二種のゲート電圧のシーケンスの他例を示す波形図である。第1ゲート電圧は、
図5の例示と同様に、値Vg1と値(-Vg1)との間を遷移する。第2ゲート電圧は、
図5の例示と異なり、値0と値(-Vg2)との間を遷移する。第2ゲート電圧は零以下の電位において遷移する。
【0082】
半導体装置100Aにおいて半導体層31,32および半導体層41,42の導電型はいずれもN型であり、半導体層2の導電型はP型であり、二種類のNチャネル型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)が構成される。具体的には半導体層41,2,31が構成するMOSFET(以下「第1MOSFET」と仮称される)と、半導体層42,2,32が構成するMOSFET(以下「第2MOSFET」と仮称される)とが、半導体装置100Aにおいて並列に接続される。
【0083】
第1MOSFETは第1ゲート電圧が所定の正値を越えることによってターンオンする。第2MOSFETは第2ゲート電圧が所定の正値を越えることによってターンオンする。
【0084】
図5で例示された第1ゲート電圧および第2ゲート電圧はいずれも、立ち上がりによって所定の正値を越え、半導体装置100Aはターンオンする。第2MOSFETのターンオンが、第1MOSFETのターンオンよりも遅れると、半導体装置100Aがターンオンするときに流れる電流(コレクタ電流Ic)の波形が乱れる。
【0085】
図17及び
図18は二種のゲート電圧のオン遷移を例示する波形図である。
図17及び
図18のいずれにおいても、縦軸は第1ゲート電圧にも第2ゲート電圧にも共用して採用されるゲート電圧Vge[V]を示し、横軸は時間(time)[s]を示す。波形H71は第1ゲート電圧を、波形H72は第2ゲート電圧を、それぞれ示す。
図17及び
図18のいずれも、第2ゲート電圧の立ち上がりが、第1ゲート電圧の立ち上がりよりも0.15μs遅い場合を例示する。
【0086】
図17は第2ゲート電圧も第1ゲート電圧と同様に-15Vから15Vへ遷移する場合を例示し、立ち上がりの遅延を除いて
図5に例示された二種のゲート電圧のシーケンスに対応する。
図18は第1ゲート電圧が-15Vから15Vへ遷移し、第2ゲート電圧が0Vから15Vへ遷移する場合を例示し、立ち上がりの遅延を除いて
図16に例示された二種のゲート電圧のシーケンスに対応する。
【0087】
図19は、
図17で例示された遷移が行われたときの、半導体装置100Aがターンオンするときの動作を例示する波形図である。
図20は、
図18で例示された遷移が行われたときの、半導体装置100Aがターンオンするときの動作を例示する波形図である。
図19および
図20のいずれにおいても左側の縦軸はコレクタ電流Ic[A]を示し、右側の縦軸はエミッタ電位を基準としたコレクタ電圧Vce[V]を示す。横軸は時間(time)[s]を示す。
【0088】
図19に示されるコレクタ電流Icの波形はその極大値の近傍で尖るように歪む。
図20に示されるコレクタ電流Icの波形にはそのような歪みが現れない。
図16で例示される第2ゲート電圧が採用されるとき、第2ゲート電圧が遷移しても所定の正値には至らず、第2MOSFETはターンオンしない。この場合、第1MOSFETがターンオンした後の第2MOSFETのターンオンがないので、コレクタ電流Icの波形には上述の歪みは現れない。
【0089】
半導体基板1、半導体層31,32,41,42の導電型がN型であるとき、上述の様に、第2ゲート電圧が零以下の電圧で遷移することにより、半導体装置100Aに流れるコレクタ電流Icの歪みは抑制される。半導体基板1、半導体層31,32,41,42の導電型がP型であるとき、第2ゲート電圧が零以上の電圧で遷移することにより、半導体装置100Aに流れるコレクタ電流Icの歪みは抑制される。
【0090】
<実施の形態2>
既述の「第2ゲート電圧の他例」で説明されたように、第2MOSFETがターンオンしないことは、コレクタ電流Icにおける歪みの抑制に寄与する。例えば第2MOSFETが構成されないことは、コレクタ電流Icにおける歪みの抑制に寄与する。
【0091】
図21は実施の形態2にかかる半導体装置100Bの構成を例示する断面図である。半導体装置100Bは、半導体装置100Aと比較して半導体層42が設けられず、トレンチ電極82,9の間には半導体層2,5,32が設けられる。
【0092】
半導体装置100Aにおけるトレンチ電極82は半導体層2,42,32を貫通して半導体基板1まで達して延びる。半導体装置100Bにおけるトレンチ電極82は半導体層2,5,32を貫通して半導体基板1まで達して延びる。トレンチ電極82は、表面が、具体的には半導体層5,2,31と対向する表面が絶縁性を有する。
【0093】
半導体装置100Bには、半導体装置100Aが有する半導体層42がなく、第2MOSFETは構成されない。
【0094】
図22は、
図17で例示された遷移が行われたときの、半導体装置100Bがターンオンするときの動作を例示する波形図である。
図22において左側の縦軸はコレクタ電流Ic[A]を示し、右側の縦軸はエミッタ電位を基準としたコレクタ電圧Vce[V]を示す。横軸は時間(time)[s]を示す。
【0095】
半導体装置100Bに印加される第2ゲート電圧が、
図17に例示されたように正値と負値との間で遷移し、かつ第1ゲート電圧の立ち上がりに遅れて立ち上がる場合であっても、
図18に例示されたように零以下で遷移する場合と同様に、コレクタ電流Icにおける歪みは現れない。
【0096】
半導体装置100Bにおいても、半導体装置100Aと同様にトレンチ電極9が半導体層31を半導体層32から隔てるので、第1ゲート電圧のオフ遷移が第2ゲート電圧のオフ遷移から遅延する時間差dtの許容範囲が拡大する。
【0097】
<実施の形態3>
半導体層31の不純物濃度と半導体基板1の不純物濃度とが等しい場合には、半導体層31を半導体基板1の一部として考えることができ、半導体基板1の半導体層2側の一部を半導体層31として考えることもできる。
【0098】
図23は実施の形態3にかかる半導体装置100Cの構成を例示する断面図である。半導体装置100Aにおいて半導体層31が存在していた領域に対応する、半導体装置100Cにおける半導体基板1の領域が、仮想的に分離して半導体層31として例示される。半導体装置100Cにおいては、半導体層31の不純物濃度と半導体基板1の不純物濃度とが等しいといえる。
【0099】
図2に示される断面も、
図3に示される断面も、
図23の位置LLにおいて矢視方向から見て現れる。
図2は半導体装置100Cの構成の一例を示す断面図であり、
図3は半導体装置100Cの構成の他の一例を示す断面図である、といえる。
【0100】
半導体装置100Cは、半導体装置100Aと比較して半導体層31の不純物濃度のピーク値が低いとみることができる。半導体層31の不純物濃度のピーク値の低下は、飽和電圧Vce(sat)を上昇させ、損失総量Eoffの低減に寄与する(
図15参照)。実施の形態1において比較例を用いて行われた説明からも理解されるように、損失総量Eoffは半導体層31を含む第1MOSFETの動作に大きく影響され、第2MOSFETの動作による影響は小さい。よって半導体装置100Cは半導体装置100Aと比較して、飽和電圧Vce(sat)と損失総量Eoffとの間のトレードオフの関係が改善される。
【0101】
<実施の形態4>
実施の形態3において説明されたように、半導体層31の不純物濃度のピーク値の低下は、飽和電圧Vce(sat)と損失総量Eoffとの間のトレードオフの関係の改善に寄与する。例えば半導体層31の不純物濃度のピーク値は半導体装置100Aにおける半導体基板1の不純物濃度のピーク値よりも高く、かつ半導体層32の不純物濃度のピーク値よりも低い。
【0102】
図24は実施の形態4にかかる半導体装置100Dの構成を例示する断面図である。
図2に示される断面も、
図3に示される断面も、
図24の位置MMにおいて矢視方向から見て現れる。
図2は半導体装置100Dの構成の一例を示す断面図であり、
図3は半導体装置100Dの構成の他の一例を示す断面図である、といえる。
【0103】
半導体装置100Aにおいて半導体層31の不純物濃度のピーク値は、例えば半導体層32の不純物濃度のピーク値と同程度である。半導体装置100Dにおいて半導体層31の不純物濃度のピーク値は、半導体層32の不純物濃度のピーク値よりも低い。半導体装置100Dは、半導体装置100Aと比較して、飽和電圧Vce(sat)と損失総量Eoffとの間のトレードオフの関係が改善される。
【0104】
<トレンチ電極81,82,9の深さと、半導体層31,32の底との位置関係>
図24には、半導体装置100Dにおいて規定される深さd1,d2,d9,d31,d32が示される。半導体装置100A(
図1参照),100B(
図21参照)においても同様にして深さd1,d2,d9,d31,d32が示される。半導体装置100C(
図23参照)においても同様にして深さd1,d2,d9,d32が示される(半導体装置100Cにおいては半導体層31が半導体基板1の一部であるので、深さd31は示されない)。
【0105】
深さd1,d2,d9,d31,d32の基準となる位置(以下「基準位置」と仮称される)には、半導体層41,42,5の、半導体層11から遠い方の面(以下「半導体装置表面」と仮称される)が採用される。例えば半導体層41,42,5の半導体装置表面は実質的に同一平面に位置する。例えば基準位置には半導体層5の半導体装置表面の位置が採用される。
【0106】
半導体層41,42,5は後述されるように、半導体基板1の一方の主面に形成され、半導体基板1は半導体層41,42,5よりも半導体層11側に残る。トレンチ電極81,82,9は上述のように、半導体層41,42,5のいずれかを貫通するので、それらの開口部は、それぞれの半導体層11とは反対側の端(後述される「底」とは反対側の端)として、半導体装置表面に位置するということができる。
【0107】
深さd1はトレンチ電極81の底(半導体層11に最も近い部位:以下同様)の深さであり、深さd2はトレンチ電極82の底の深さであり、深さd9はトレンチ電極9の底の深さである。例えば深さd2と深さd9とが一致することは、製造工程(後述)においてトレンチ電極82,9に利用されるトレンチを並行して形成でき、当該形成の処理の簡略化に寄与する。
【0108】
トレンチ電極82が延びる方向(半導体基板1の厚さ方向)においてトレンチ電極82は半導体層32から半導体基板1へと突出する、と見ることができる。トレンチ電極9が延びる方向(半導体基板1の厚さ方向)においてトレンチ電極9は半導体層32から半導体基板1へと突出する、と見ることができる。
【0109】
例えばトレンチ電極82がその延びる方向において半導体層32から突出する長さと、トレンチ電極9がその延びる方向において半導体層32から突出する長さとが等しい。このように突出する長さが等しく、半導体層41,42,5の半導体装置表面は実質的に同一平面に位置するとき、深さd2と深さd9とが一致する。
【0110】
深さd31は半導体層31の底の深さであり、深さd32は半導体層32の底の深さである。半導体装置100A,100Bにおいては、それぞれ
図1、
図21に例示されるように、例えば深さd31,d32が等しい。
【0111】
上述のように半導体層31,32はキャリア蓄積層として機能する。深さd31,d32は、キャリア蓄積層のコレクタ層側における境界の位置を示す、ということができる。
【0112】
トレンチ電極81は、半導体層32と半導体基板1との境界よりも半導体層11から遠くで半導体層31まで達して延びる。半導体層31が第1MOSFETにおけるキャリア蓄積層として機能する観点から、例えばトレンチ電極81は半導体層31を貫通しない。この位置関係は深さd1,d32を用いてd1<d32と表される。更に、半導体装置100A,100B,100Dにおいては深さd31を用いてd1<d31と表わされる位置関係がある。
【0113】
半導体装置100Dにおいては、例えば更に、d31<d32の関係があり、半導体層31は半導体層32よりも薄い。かかる関係は、半導体層31,32を得るためのプロセス、具体的には、製造工程(後述)において不純物を拡散する処理の簡略化に寄与する。
【0114】
トレンチ電極9,82が半導体層31,32よりも半導体層11側に延在して、半導体基板1に達すること(d31<d2,d32<d2,d31<d9,d32<d9)は、半導体装置100A,100B,100Dが動作するときの半導体層31,32における電界の集中を緩和し、耐電圧の向上に寄与する。
【0115】
トレンチ電極9,82が半導体層32よりも半導体層11側に延在して、半導体基板1に達すること(d32<d2,d32<d9)は、半導体装置100Cが動作するときの半導体層32における電界の集中を緩和し、耐電圧の向上に寄与する。
【0116】
<トレンチ電極81,82,9同士の間隔>
図25は、半導体装置100A,100B,100C,100Dの耐電圧と、トレンチ電極81,82,9同士の間隔との関係を例示するグラフである。
図25において、縦軸は25℃における耐電圧BV[V]を示し、横軸はトレンチ間隔[μm]を示す。ここにいうトレンチ間隔とは、隣り合うトレンチ電極82とトレンチ電極9とが並ぶ方向に沿った両者の間隔に相当する。トレンチ電極9は、トレンチ電極9とトレンチ電極81とが並ぶ方向において、トレンチ電極81の一方側にも他方側にも位置する(
図1、
図21、
図23、
図24参照)。トレンチ電極81を介して隣り合うトレンチ電極9同士の間隔もトレンチ間隔に相当する。
【0117】
図25からは、トレンチ間隔が大きくなるほど、耐電圧が低下することが看取される。たとえば、半導体層31,32の不純物濃度のピーク値が半導体基板1と同じであり、トレンチ間隔が15μmである場合に、耐電圧は目標となる耐電圧の約90%である。
【0118】
トレンチ間隔が狭いことは、トレンチ電極9,82の間でのフィールドプレート効果を強め、トレンチ電極82の底面近傍での電界の集中を緩和し、ひいては耐電圧の改善に寄与する。
【0119】
半導体層31,32の不純物濃度のピーク値が半導体基板1の不純物濃度のピーク値よりも高いことは、トレンチ間隔に対する耐電圧の依存性を顕著にする。上述の半導体装置100A,100B,100C,100Dは、いずれもN-型の半導体基板1およびN型の半導体層32を有する。この場合、トレンチ間隔を15μmよりも狭くすることは、半導体装置100A,100B,100C,100Dの耐電圧を、目標となる耐電圧の90%以上にすることに寄与する。
【0120】
<半導体装置100Aの第1の製造方法>
図26から
図37は、実施の形態1にかかる半導体装置100Aの第1の製造方法の一部、特にトレンチ電極81,82,9の製造工程を、工程順に例示する断面図である。
【0121】
図26は半導体基板1を利用して半導体層25,3が既に形成された構造に対して、N型不純物を導入する工程を例示する。半導体層3は、後に半導体層31,32となる。半導体層2,5は半導体層25として纏めて示される。
【0122】
半導体層25,3と反対側における半導体基板1の構成は省略される。例えば半導体基板1には半導体層25,3と反対側に、半導体層10,11が既に設けられている。ここで説明される製造方法の説明、および後に説明される製造方法のいずれにおいても、半導体層10,11についての図示が省略される。
【0123】
当該N型不純物が導入される前に、半導体基板1,半導体層3,25、絶縁膜400、およびマスク501がこの順に、
図26においては紙面下から上に向かう方向に沿って積み重なっている。
【0124】
絶縁膜400は例えば、半導体層25,3が設けられる前の半導体基板1の酸化によって得られる酸化膜で実現される。半導体基板1の材料にシリコンが採用されるときには、絶縁膜400は例えば酸化シリコン膜である。
【0125】
マスク501には開口501a,501bが空いている。開口501a,501bは、それぞれ半導体層41,42(
図1参照)が形成される位置に対応してマスク501に空く。マスク501には例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。開口501a,501bは、例えばフォトレジスト膜に対する写真製版技術によって空けられる。
【0126】
当該N型不純物として、例えば砒素(As)が導入される。
図26では砒素イオン(As+:但しここでの記号「+」は不純物濃度の大小ではなく、正イオンであることを示す)を用いたイオン注入が、N型不純物の導入において採用される場合が例示される。半導体層25における記号「×」はN型不純物が導入された箇所を模式的に示す。
【0127】
N型不純物が導入された後に、マスク501が公知技術によって除去されて絶縁膜400が露出する。絶縁膜400が露出したのち、少なくとも半導体層25近傍を、例えば当該構造の全体を加熱して、導入されたN型不純物を拡散させる(いわゆる「ドライブイン」)。当該拡散によって
図27に例示されるように、半導体層41,42が形成される。絶縁膜400が酸化シリコン膜であるとき、例えば当該ドライブインによって絶縁膜400は厚みが増して絶縁膜401となる。
【0128】
絶縁膜401には半導体基板1とは反対側でマスク502が設けられる(
図28)。マスク502には開口502aが空いている。開口502aは、トレンチ電極81(
図1参照)が形成される位置に対応してマスク502に空く。マスク502には例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。開口502aは、例えばフォトレジスト膜に対する写真製版技術によって空けられる。マスク502を介した絶縁膜401のエッチングにより、開口502aに対応した穴が絶縁膜401に空き、半導体層41が部分的に露出する。
【0129】
マスク502および上述の様に開口した絶縁膜401をマスクとして半導体層41,25,3の選択的エッチングが行われ、半導体層41,25を貫通して半導体層3に達するトレンチ801が形成される(
図29)。トレンチ801の位置は、トレンチ電極81が設けられる位置に対応する。
【0130】
絶縁膜401は公知の技術、例えばエッチングによって除去される。トレンチ801の内壁において露出する半導体層41,25,3、および当該除去により露出した半導体層41,42,25に絶縁膜601が形成される(
図30)。トレンチ801内の当該絶縁膜601は、後にトレンチ電極81の表面における絶縁性を担う絶縁膜6となる。絶縁膜601の形成には、例えば熱酸化が利用される。
【0131】
トレンチ801内を含めて、絶縁膜601には半導体基板1とは反対側に導電体701が設けられる(
図31)。トレンチ801は絶縁膜601と導電体701とによって埋められる。導電体701には、例えば高い不純物濃度でドープされたポリシリコンが採用される。
【0132】
導電体701は、半導体基板1とは反対側からエッチングされてトレンチ801内にのみ残り(いわゆる「エッチバック」)、導電体7となって露出する(
図32)。その後、例えば酸化処理によって、トレンチ801において露出した導電体7の表面が酸化されてトレンチ電極81が得られる。当該酸化処理によって絶縁膜601の厚みが増して絶縁膜602が得られる。上述の製造工程に鑑みて、トレンチ801にトレンチ電極81が埋めこまれる、ということができる。
【0133】
絶縁膜602には半導体基板1とは反対側でマスク503が設けられる(
図33)。マスク503には開口503a,503bが空いている。開口503a,503bは、それぞれトレンチ電極9,82(
図1参照)が形成される位置に対応してマスク503に空く。マスク503には例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。開口503a,503bは、例えばフォトレジスト膜に対する写真製版技術によって空けられる。マスク503を介した絶縁膜602のエッチングにより、開口503a,503bに対応した穴が絶縁膜602に空き、半導体層42が部分的に露出する。
【0134】
マスク503および上述の様に開口した絶縁膜602をマスクとして、半導体層25,3及び半導体基板1の選択的エッチングが行われ、トレンチ90,802が形成される(
図34)。
【0135】
トレンチ90の位置は、トレンチ電極9が設けられる位置に対応する。トレンチ90は半導体層25,3を貫通して半導体基板1に達する。トレンチ802の位置は、トレンチ電極81が設けられる位置に対応する。トレンチ802は半導体層42,25,3を貫通して半導体基板1に達する。トレンチ90,802が形成されることにより、半導体層3は半導体層31,32へ区分される。
【0136】
トレンチ90,802の内壁において露出した半導体層31,32,42,25および半導体基板1に絶縁膜6が形成される(
図35)。トレンチ802内の当該絶縁膜6は、後にトレンチ電極82の表面における絶縁性を担う。トレンチ90内の当該絶縁膜6は、後にトレンチ電極9の表面における絶縁性を担う。絶縁膜6の形成には、例えば熱酸化が利用される。
【0137】
トレンチ90,802内の絶縁膜6および絶縁膜602には半導体基板1とは反対側に導電体702が設けられる(
図36)。トレンチ90,802のいずれも、絶縁膜6と導電体702とによって埋められる。導電体702には、例えば高い不純物濃度でドープされたポリシリコンが採用される。
【0138】
導電体702は、半導体基板1とは反対側からのエッチバックによってトレンチ90,802内にのみ残り、導電体7となって露出する(
図37)。その後、例えば酸化処理によって、トレンチ90,802において露出した導電体702の表面が酸化され、それぞれに対応したトレンチ電極9,82が得られる。上述の製造工程に鑑みて、トレンチ802にトレンチ電極82が埋めこまれ、トレンチ90にトレンチ電極9が埋めこまれる、ということができる。
【0139】
トレンチ90,802は並行した処理で形成される(
図34参照)。トレンチ電極82の底の位置(例えば深さd2)とトレンチ電極9の底の位置(例えば深さd9)とが一致することは、かかる処理の採用に寄与する。かかる並行した処理の採用は、トレンチ電極82,9の形成の簡略化、ひいては半導体装置100Aの製造工程の簡略化に寄与する。当該製造工程の簡略化は半導体装置100Aの製造コストの低減に寄与する。
【0140】
上述された、トレンチ802,90の形成は、下記の様に説明され得る:トレンチ電極82,9のいずれの形成にも先だって、トレンチ電極82を埋めこむトレンチ802およびトレンチ電極9を埋めこむトレンチ90を、開口503a,503bが設けられたマスク503を用いた選択的エッチングによって並行して形成する。
【0141】
トレンチ90,802の形成が、トレンチ801の形成に先行してもよい。トレンチ801の形成が半導体層41の形成に先行してもよい。トレンチ90,802の形成が半導体層42の形成に先行してもよい。
【0142】
<半導体装置100Aの第2の製造方法>
図38から
図41は、半導体装置100Aの第2の製造方法の一部、特にトレンチ電極81,82,9の製造工程を、工程順に例示する断面図である。
【0143】
第1の製造方法と同様にして、
図27に例示された構造が得られた後、絶縁膜401には半導体基板1とは反対側でマスク502が設けられる(
図38)。マスク502には開口502a,502b,502cが空いている。開口502a,502b,502cは、それぞれトレンチ電極81,9,82(
図1参照)が形成される位置に対応してマスク502に空く。マスク502を介した絶縁膜401のエッチングにより、開口502a、502b、502cに対応した穴が絶縁膜401に空き、半導体層41,42が部分的に露出する。
【0144】
マスク502および上述の様に開口した絶縁膜401をマスクとして、半導体層25,3,41,42および半導体基板1の選択的エッチングが行われ、トレンチ801,90,802が形成される(
図39)。
【0145】
トレンチ801の位置はトレンチ電極81が設けられる位置に対応する。トレンチ801は半導体層41,25を貫通して半導体層3に達する。トレンチ802の位置はトレンチ電極82が設けられる位置に対応する。トレンチ802は半導体層42,25,3を貫通して半導体基板1に達する。トレンチ90の位置はトレンチ電極9が設けられる位置に対応する。トレンチ90は半導体層25,3を貫通して半導体基板1に達する。
【0146】
トレンチ90,802が形成されることにより、半導体層3は半導体層31,32へ区分される。
【0147】
トレンチ90,802は、それぞれトレンチ電極9,82の形成に利用される。トレンチ電極9,81,82において表面の絶縁性に利用される絶縁膜6は、いわゆるゲート絶縁膜として機能するので、それらの厚さはトレンチ90,801,802同士においてほぼ等しい。トレンチ電極9,82はトレンチ電極81よりも深く形成されるので、トレンチ90,802もトレンチ801よりも深く形成される。
【0148】
このように深いトレンチ90,802と浅いトレンチ801とを並行して形成することは、トレンチ90,802がトレンチ801よりも広く開口することで容易となる。例えば選択的エッチングにおいて利用されるマスクにおける開口が広いほど、得られるトレンチの開口は広く、かつエッチング速度が速い。
【0149】
図42は、開口を有するマスクを用いた選択的エッチングによってトレンチを形成するときの、トレンチの深さとマスクの開口幅との関係を例示するグラフである。横軸はマスクに設けられた開口の最小の幅を、開口幅[nm]として示す。例えば当該開口が矩形であるとき、開口幅として当該矩形の短辺の長さが採用される。縦軸はトレンチの深さ[μm]を示す。
【0150】
図42から看取されるように、マスクの開口幅が大きいほど、形成されるトレンチの深さは深い。トレンチ801,802,90にはそれぞれトレンチ電極81,82,9が埋めこまれるので、実質的にはトレンチ801,802,90の深さを、それぞれ深さd1,d2,d9として扱うことができる。
【0151】
開口502aよりも開口502b,502cの方が広いことは、深いトレンチ90,802と浅いトレンチ801とを並行して形成することに寄与し、ひいてはトレンチ電極81,82,9を形成する処理の簡略化に寄与する。
【0152】
例えばトレンチ電極81よりも深く延びるトレンチ電極82,9のそれぞれの幅w2,w3が、いずれもトレンチ電極81の幅w1よりも大きい(
図1参照)。幅w1,w2,w3は、それぞれトレンチ電極81,82,9が延びる方向(
図1では紙面上下方向)に対して直交する方向(
図1では紙面左右方向)におけるトレンチ電極81,82,9の大きさである。
【0153】
一般的に、マスクの開口幅が大きいほど、形成されるトレンチの幅は広い。トレンチ801,802,90にはそれぞれトレンチ電極81,82,9が埋めこまれるので、実質的にはトレンチ801,802,90の幅を、それぞれ幅w1,w3,w3として扱うことができる。幅について上述の関係(w1<w2,w1<w3)を有するトレンチ電極81,82,9の形成は、深いトレンチ90,802と浅いトレンチ801とを並行して形成することに寄与し、上述の簡略化、ひいては製造コストの抑制に寄与する。同様のことが半導体装置100B,100C,100Dおよびそれらの製造方法についても妥当する(
図21、
図23、
図24参照)。
【0154】
上述された、トレンチ801,802,90の形成は、以下の様に説明され得る:トレンチ電極81,82,9のいずれの形成にも先だって、トレンチ電極81を埋めこむトレンチ801、トレンチ電極82を埋めこむトレンチ802、トレンチ電極9を埋めこむトレンチ90を、開口502a,502b,502cが設けられたマスク502を用いた選択的エッチングによって並行して形成する。トレンチ801を形成するエッチングに用いられる開口502aよりも、トレンチ802を形成するエッチングに用いられる開口502bおよびトレンチ90を形成するエッチングに用いられる開口502cの方が広い。
【0155】
トレンチ801の内壁において露出する半導体層41,25,31と、トレンチ802,90の内壁において露出する半導体基板1および半導体層42,25,31,32とに絶縁膜6が形成される(
図40)。かかる絶縁膜6の形成には、例えば熱酸化が利用される。
【0156】
トレンチ90,801,802内の絶縁膜6と、絶縁膜401とには、半導体基板1とは反対側に導電体703が設けられる(
図41)。トレンチ90,801,802のいずれもが、絶縁膜6と導電体703とによって埋められる。導電体703には、例えば高い不純物濃度でドープされたポリシリコンが採用される。
【0157】
導電体703は、半導体基板1とは反対側からのエッチバックによってトレンチ90,801,802内にのみ導電体7として残る。その後、例えば酸化処理によって、トレンチ90,801,802のそれぞれにおいて露出した導電体703の表面が酸化されて、トレンチ電極9,81,82が得られる。これにより、
図37における絶縁膜602を絶縁膜401に置き換えた構造が得られる。このような製造工程に鑑みて、トレンチ801,802、90には、それぞれトレンチ電極81,82,9が埋めこまれる、と言える。
【0158】
第2の製造方法において、トレンチ90,801,802の形成が半導体層41,42の形成に先行してもよい。
【0159】
<半導体装置100Bの製造方法>
実施の形態2にかかる半導体装置100Bは、半導体装置100Aに対して、半導体層42が存在しない点で相違する。半導体装置100Bの製造方法は半導体装置100Aの第1の製造方法に対して、マスク501に開口501bが空いていない点で相違する。開口501bが空いていないことにより、N型不純物が導入されてドライブインが行われると、半導体層41は形成されるが、半導体層42は形成されない。
【0160】
<半導体装置100Dの第1の製造方法>
図43から
図47は、実施の形態4にかかる半導体装置100Dの第1の製造方法の一部、特に半導体層31,32の製造工程を、工程順に例示する断面図である。後述されるように、当該製造方法についての説明は、実施の形態1にかかる半導体装置100A、実施の形態2にかかる半導体装置100B、実施の形態3にかかる半導体装置100Cの製造方法の説明にも援用できる。
【0161】
図43から
図47においては、破断線よりも左側において半導体層31が形成され、破断線よりも右側において半導体層32が形成される場合が例示される。
【0162】
半導体基板1の主面に対し絶縁膜410が設けられる(
図43)。例えば半導体基板1にシリコンが用いられるとき、絶縁膜410は半導体基板1の主面を酸化して得られる酸化シリコン膜で実現される。
【0163】
マスク511が絶縁膜410を選択的に覆う(
図44)。マスク511は後に半導体層32が形成される領域を避け、後に半導体層31が形成される領域において絶縁膜410を覆う。絶縁膜410は、後に半導体層32が形成される領域において開口するマスク511によって覆われる、ということもできる。
【0164】
マスク511には例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。半導体基板1には絶縁膜410および上述のように開口したマスク511を介して、N型不純物が導入される。当該N型不純物として、例えば燐(P)が導入される。
【0165】
図44では燐イオン(P+:但しここでの記号「+」は不純物濃度の大小ではなく、正イオンであることを示す)を用いたイオン注入が、N型不純物の導入において採用される場合が例示される。
【0166】
半導体基板1における記号「×」はN型不純物が導入された箇所を模式的に示す。
図44においてN型不純物が導入された領域302が示される。
【0167】
マスク511が公知の技術によって除去されたのち、マスク512が絶縁膜410を選択的に覆う(
図45)。マスク512は後に半導体層31が形成される領域を避け、後に半導体層32が形成される領域において絶縁膜410を覆う。絶縁膜410は、後に半導体層31が形成される領域において開口するマスク512によって覆われる、ということもできる。
【0168】
マスク512にも、例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。半導体基板1には絶縁膜410および上述のように開口したマスク512を介して、N型不純物が導入される。当該N型不純物として、例えば燐(P)が導入される。
【0169】
図45では燐イオンを用いたイオン注入が、N型不純物の導入において採用される場合が例示される。
図45においてN型不純物が導入されたは領域301が示される。
【0170】
半導体装置100Dでは半導体層31の不純物濃度のピーク値、たとえばそのピーク濃度が、半導体層32の不純物濃度のピーク値、たとえばそのピーク濃度よりも低い。このように不純物濃度のピーク値が相違する半導体層31,32を得る一つの手法として、上述の様にマスク511,512を用いてそれぞれ領域302,301へN型不純物が導入される。
【0171】
図45においては領域302におけるN型不純物濃度のピーク値の導入量が領域301におけるそれよりも多いことが、領域302における記号「×」が領域301におけるそれよりも密に配置されることによって、模式的に示される。
【0172】
マスク512が除去されたのち、半導体基板1には絶縁膜410を介して、P型不純物が導入される(
図46)。より具体的には、後に半導体層2が形成される領域が開口する不図示のマスクを介して、P型不純物が導入される。
【0173】
当該P型不純物として、例えば硼素(B)が導入される。
図46では硼素イオン(B+:但しここでの記号「+」は不純物濃度の大小ではなく、正イオンであることを示す)を用いたイオン注入が、P型不純物の導入において採用される場合が例示される。
【0174】
半導体基板1における記号「●」はP型不純物が導入された箇所を模式的に示す。
図46においては領域301,302のいずれについても絶縁膜410側においてP型不純物が導入された領域200が示される。
【0175】
P型不純物が半導体基板1へ導入された後、ドライブインによって半導体層2,31,32が得られる。当該P型不純物は、領域301,302の位置に依存せずに領域200へ導入される。半導体層2は領域200へ導入されたP型不純物に起因する。半導体層2は半導体層31,32の何れに対しても、絶縁膜410側において深さd2で形成される(
図47)。
【0176】
領域301において導入されたN型不純物の濃度は、領域302において導入されたN型不純物の濃度よりも低い。領域301へ導入されたN型不純物と、領域302へ導入されたN型不純物とは、並行してドライブインを受け、それぞれ半導体層31,32を形成する。上述の不純物濃度のピーク値の高低を反映して半導体層31の深さd31は半導体層32の深さd32よりも浅い(d31<d32:
図24も参照)。
【0177】
半導体層31,32を形成する工程は、以下の様に導入工程と拡散工程とに大別して説明され得る:
半導体層31,32の形成に先だって、半導体基板1に対してN型不純物が、第1導入量で領域301へ、第2導入量で領域302へ、それぞれ導入される。但し第1導入量よりも第2導入量の方が多い(導入工程);
領域301において導入されたN型不純物の拡散と、領域302において導入されたN型不純物の拡散とを並行して実行して、半導体層31,32が形成される(拡散工程)。
【0178】
この後、半導体層5が公知の手法で形成され、半導体層41,42、トレンチ電極81,82,9が半導体装置100Aの第1の製造方法、第2の製造方法、半導体装置100Bの製造方法と同様にして形成され、半導体装置100Dが得られる。
【0179】
N型不純物の導入に先行して、P型不純物が導入されてもよい。
【0180】
半導体装置100A,100Bを製造する際、半導体層5と共に半導体層25として纏めて示された半導体層2と、半導体層3とは、例えば
図43から
図47で例示された工程によって形成される。例えば半導体装置100Aにおいて半導体層31,32の不純物濃度のピーク値が揃えられる場合、N型不純物を、マスク511,512を用いて二段階(
図44、
図45参照)に分けて行う必要はない。例えばP型不純物の導入(
図46参照)と類似して、半導体層3が形成されるべき領域で開口するマスクを用いて、領域301,302へ並行してN型不純物が導入される。
【0181】
半導体装置100Cにおいて半導体層31は半導体基板1の一部と考えられる。半導体装置100Cを製造する際、領域301におけるN型不純物は不要である。この場合にはマスク512を用いたN型不純物の導入は不要である。半導体装置100Cの製造は、半導体装置100A,100B,100Dの製造と比較して、処理が簡略化される。
【0182】
<半導体装置100Dの第2の製造方法>
図48は、半導体装置100Dの第2の製造方法の一部、特に半導体層31,32の製造工程の一部を例示する断面図である。
【0183】
半導体装置100Dの第2の製造方法においても半導体装置100Dの第1の製造方法と同様にして、半導体基板1に絶縁膜410が設けられる(
図43参照)。
【0184】
マスク510が絶縁膜410を選択的に覆う。マスク510はマスク511(
図44参照)と同様に、後に半導体層32が形成される領域を避け、後に半導体層31が形成される領域において絶縁膜410を覆う。絶縁膜410は、後に半導体層32が形成される領域において開口するマスク510によって覆われる、ということもできる。
【0185】
但しマスク510はマスク511と比較して、N型不純物の導入を阻害する能力が低い。例えばマスク510は後に半導体層31が形成される領域において、ストライプパターンまたはドットパターンを有する。
【0186】
マスク510には例えばパターニングされたフォトレジスト膜が採用される。半導体基板1には絶縁膜410および上述のように開口したマスク510を介して、N型不純物が導入される。当該N型不純物として、例えば燐(P)が導入される。
【0187】
マスク510のストライプパターンまたはドットパターンを介して、領域301には領域302よりも少ない導入量でN型不純物が導入される。マスク510で覆われない領域302には、領域301よりも多い導入量でN型不純物が導入される。
図48においても
図45と同様に、記号「×」の密度が、導入されたN型不純物の導入量を模式的に示す。
【0188】
マスク510を用いて領域301,302へ並行してN型不純物を導入して、それぞれにおける導入量が相違する。領域301へ導入されるN型不純物の実効注入量は、領域302へ導入されるN型不純物の実効注入量よりも低い。
【0189】
領域301,302へのN型不純物の導入の後、
図46で例示されたようにしてP型不純物が導入される。P型不純物が導入された後、ドライブインにより、
図47で例示される構造が得られる。その後の処理は半導体装置100Dの第1の製造方法と同様に実行される。
【0190】
既述の「導入工程」の説明に即して言えば、当該導入工程において、ストライプパターンまたはドットパターンを有するマスク510を用いたイオン注入によって、領域301へのN型不純物の導入と、領域302へのN型不純物の導入とが並行して実行される。
【0191】
半導体装置100Dの第2の製造方法は、半導体装置100Dの第1の製造方法よりも、N型不純物を導入する工程数が少なく、ひいては半導体装置100Dの製造工程の簡略化に寄与する。当該製造工程の簡略化は半導体装置100Dの製造コストの低減に寄与する。
【0192】
<実施の形態5>
上述された「トレンチ電極81,82,9同士の間隔」の説明においては、トレンチ間隔として、隣り合うトレンチ電極82とトレンチ電極9とが並ぶ方向に沿った両者の間隔と、トレンチ電極81を介して隣り合うトレンチ電極9同士の間隔が例示された。トレンチ電極81,82同士の間でエミッタ領域が共有されない。トレンチ電極81が対向する半導体層31と、トレンチ電極82が対向する半導体層32とを隔てるトレンチ電極9が複数であっても、空乏層の延びによる順方向導通損失の増大が抑制され、ひいては損失を低下させる時間差dtに許容される範囲が拡大する。
【0193】
図49は実施の形態5にかかる半導体装置100Eの構成を例示する断面図である。
図50は半導体装置100Eの構成の一例を示す断面図であり、
図51は半導体装置100Eの構成の他例を示す断面図である。
【0194】
図50に示される断面も、
図51に示される断面も、
図49の位置AAにおいて矢視方向から見て現れる。
図49に例示される断面は、
図50の位置BBにおいて矢視方向から見て現れる断面でもあり、
図51の位置CCにおいて矢視方向から見て現れる断面でもある。
図50に例示される構成は、例えばポリシリコンが用いられる配線の多層化の抑制、ひいては生産性の向上に寄与する。
【0195】
半導体装置100Eは半導体装置100A(
図1、
図2、
図3参照)と比較して、トレンチ電極81,82が並ぶ方向においてトレンチ電極9が2つに分割された構成を有すると理解される。分割されたトレンチ電極9の間には半導体基板1側から見て半導体層31,2,5がこの順に積層され、半導体層41,42のいずれも存在しない。
【0196】
半導体装置100Eで例示されるような、トレンチ電極81を介さずに隣り合うトレンチ電極9同士の間隔もトレンチ間隔に相当する、と考えられる。そして
図25およびこれを用いた説明に鑑みれば、半導体装置100Eにおいて隣接するトレンチ電極9同士の間隔を15μmよりも狭くすることは、半導体装置100Eの耐電圧を、目標となる耐電圧の90%以上にすることに寄与する。
【0197】
半導体装置100Eも半導体装置100Aと同様に製造され得る。具体的には、半導体装置100Aの第1の製造方法においてマスク503に開口される開口503a(
図33参照)が開口503bよりもトレンチ電極81側に寄って複数個設けられる。あるいは半導体装置100Aの第2の製造方法においてマスク502に開口される開口502b(
図38参照)が開口502a,502cの間で複数個設けられる。
【0198】
半導体装置100Eにおいても半導体装置100Dと同様に、半導体層31の不純物濃度のピーク値が、半導体層32の不純物濃度のピーク値よりも低くてもよい。更に半導体層31は半導体層32よりも薄く、d31<d32の関係があってもよい。この場合の半導体装置100Eは、例えば半導体装置100Dと同様に製造され得る。具体的には例えば、半導体装置100Dの第1の製造方法、第2の製造方法が適用され得る。
【0199】
<実施の形態6>
一対のトレンチ電極9が複数のトレンチ電極82を挟んでも、トレンチ電極81,82同士の間でエミッタ領域が共有されない。空乏層の延びによる順方向導通損失の増大が抑制され、ひいては損失を低下させる時間差dtに許容される範囲が拡大する。
【0200】
図52は実施の形態6にかかる半導体装置100Fの構成を例示する断面図である。
図53は半導体装置100Fの構成の一例を示す断面図であり、
図54は半導体装置100Fの構成の他例を示す断面図である。
【0201】
図53に示される断面も、
図54に示される断面も、
図52の位置DDにおいて矢視方向から見て現れる。
図52に例示される断面は、
図53の位置EEにおいて矢視方向から見て現れる断面でもあり、
図54の位置FFにおいて矢視方向から見て現れる断面でもある。
図53に例示される構成は、例えばポリシリコンが用いられる配線の多層化の抑制、ひいては生産性の向上に寄与する。
【0202】
半導体装置100Fは半導体装置100A(
図1、
図2、
図3参照)と比較して、トレンチ電極81,9が並ぶ方向においてトレンチ電極82が2つ設けられた構成を有すると理解される。いずれのトレンチ電極82についても、当該並ぶ方向における両側において、半導体基板1側から見て半導体層32,2,5がこの順に積層される。いずれのトレンチ電極82についても、当該並ぶ方向における両側において、半導体層5よりも近くに半導体層42が存在する。
【0203】
半導体装置100Fで例示されるような、トレンチ電極81,9のいずれをも介さずに隣り合うトレンチ電極82同士の間隔もトレンチ間隔に相当する、と考えられる。そして
図25およびこれを用いた説明に鑑みれば、半導体装置100Fにおいて隣接するトレンチ電極82同士の間隔を15μmよりも狭くすることは、半導体装置100Fの耐電圧を、目標となる耐電圧の90%以上にすることに寄与する。
【0204】
半導体装置100Fも半導体装置100Aと同様に製造され得る。具体的には、
図33を参照して、半導体装置100Aの第1の製造方法において半導体層42が隣接して一対設けられ、マスク503に開口される開口503bがそれぞれの半導体層42に設けられる。あるいは
図38を参照して、半導体装置100Aの第2の製造方法において半導体層42が隣接して一対設けられ、マスク502に開口される開口502cがそれぞれの半導体層42に設けられる。
【0205】
半導体装置100Fにおいても半導体装置100Dと同様に、半導体層31の不純物濃度のピーク値が、半導体層32の不純物濃度のピーク値よりも低くてもよい。更に半導体層31は半導体層32よりも薄く、d31<d32の関係があってもよい。この場合の半導体装置100Fは、例えば半導体装置100Dと同様に製造され得る。具体的には例えば、半導体装置100Dの第1の製造方法、第2の製造方法が適用され得る。
【0206】
上述されたいずれの技術も、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)に採用され得る。
【0207】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【0208】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0209】
(付記1)
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の表層に位置する第1導電型の第1半導体層と、
前記半導体基板の前記表層において前記第1半導体層と排他的に位置し、前記半導体基板よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層および前記第2半導体層に対して前記半導体基板とは反対側に位置する第2導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において選択的に位置し、前記第3半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第2導電型の第4半導体層と、
前記第3半導体層に対して前記半導体基板とは反対側において前記第4半導体層と排他的に位置し、前記第2半導体層よりも不純物濃度のピーク値が高い第1導電型の第5半導体層と、
前記半導体基板に対して前記第1半導体層、前記第2半導体層、前記第3半導体層、前記第4半導体層、前記第5半導体層のいずれとも反対側に位置する第2導電型の第6半導体層と、
前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第2半導体層と前記半導体基板との境界よりも前記第6半導体層から遠くで前記第1半導体層まで達して延び、表面が絶縁性を有する第1電極と、
前記第2半導体層、前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通し、または前記第2半導体層、前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、表面が絶縁性を有する第2電極と、
前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通して前記半導体基板まで達して延び、前記第1半導体層および前記第2半導体層のいずれよりも前記第6半導体層に近接し、前記第1半導体層を前記第2半導体層から隔て、前記第2電極と共に前記第2半導体層を挟み、表面が絶縁性を有する第3電極と
を備える半導体装置。
【0210】
(付記2)
前記第1半導体層の不純物濃度のピーク値は、前記半導体基板の不純物濃度のピーク値よりも高い、付記1に記載の半導体装置。
【0211】
(付記3)
前記第2電極は前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通する、付記2に記載の半導体装置。
【0212】
(付記4)
前記第1半導体層の不純物濃度のピーク値は、前記第2半導体層の不純物濃度のピーク値よりも低い、付記3に記載の半導体装置。
【0213】
(付記5)
前記第1半導体層は前記第2半導体層よりも薄い、付記4に記載の半導体装置。
【0214】
(付記6)
前記第2電極は前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通する、付記2に記載の半導体装置。
【0215】
(付記7)
前記第1半導体層は前記半導体基板の一部である、付記1に記載の半導体装置。
【0216】
(付記8)
前記第2電極は前記第5半導体層および前記第3半導体層を貫通する、付記1に記載の半導体装置。
【0217】
(付記9)
前記第2電極は前記第4半導体層および前記第3半導体層を貫通する、付記1に記載の半導体装置。
【0218】
(付記10)
前記第2電極が延びる方向において前記第2電極が前記第2半導体層から前記半導体基板へ突出する長さと、前記第3電極が延びる方向において前記第3電極が前記第2半導体層から前記半導体基板へ突出する長さとが等しい、付記1から付記9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【0219】
(付記11)
前記第1電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第1電極の大きさは、前記第2電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第2電極の大きさおよび前記第3電極が延びる方向に対して直交する方向における前記第3電極の大きさのいずれよりも小さい、付記1から付記10のいずれか一つに記載の半導体装置。
【0220】
(付記12)
前記第2電極と前記第3電極とが並ぶ方向に沿った、互いに隣接する前記第2電極と前記第3電極との間隔、互いに隣接する前記第2電極同士の間隔、または互いに隣接する前記第3電極同士の間隔は15μm以下である、付記1から付記11のいずれか一つに記載の半導体装置。
【0221】
(付記13)
前記第3電極は、前記第1電極と前記第3電極とが並ぶ方向において、前記第1電極の一方側にも他方側にも位置し、
前記第1電極の前記一方側に位置する前記第3電極と、前記第1電極の前記他方側に位置する前記第3電極との間隔は、前記方向において15μm以下である、付記1から付記11のいずれか一つに記載の半導体装置。
【0222】
(付記14)
付記1から付記13のいずれか一つに記載された半導体装置を制御する方法であって、
第1信号が前記第1電極に与えられ、
第2信号が前記第2電極に与えられ、
前記第1信号および前記第2信号のいずれをも遷移させて前記半導体装置をターンオフさせるとき、前記第1信号は前記第2信号よりも遅延して遷移する、半導体装置の制御方法。
【0223】
(付記15)
前記第1導電型はN型であり、前記第2信号は前記第3電極に対して零以下の電位において遷移する、付記14に記載の半導体装置の制御方法。
【0224】
(付記16)
付記5に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第1半導体層および前記第2半導体層の形成に先だって、前記半導体基板に対して第1導電型の不純物が、第1導入量で第1領域へ、前記第1導入量よりも多い第2導入量で第2領域へ、それぞれ導入される導入工程と、
前記第1領域において導入された第1導電型の不純物の拡散と、前記第2領域において導入された第1導電型の不純物の拡散とを並行して実行して、前記第1半導体層および前記第2半導体層を形成する拡散工程と
を備える、半導体装置の製造方法。
【0225】
(付記17)
前記導入工程において、ストライプパターンまたはドットパターンを有するマスクを用いたイオン注入によって、前記第1領域への第1導電型の不純物の導入と、前記第2領域への第1導電型の不純物の導入とを、並行して実行する、付記16に記載の半導体装置の製造方法。
【0226】
(付記18)
付記10に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第2電極および前記第3電極のいずれの形成にも先だって、前記第2電極を埋めこむトレンチおよび前記第3電極を埋めこむトレンチを、開口が設けられたマスクを用いた選択的エッチングによって並行して形成する、半導体装置の製造方法。
【0227】
(付記19)
付記11に記載の半導体装置を製造する方法であって、
前記第1電極、前記第2電極、および前記第3電極のいずれの形成にも先だって、前記第1電極を埋めこむ第1トレンチ、前記第2電極を埋めこむ第2トレンチ、および前記第3電極を埋めこむ第3トレンチを、開口が設けられたマスクを用いた選択的エッチングによって並行して形成し、前記第1トレンチを形成するエッチングに用いられる開口よりも、前記第2トレンチを形成するエッチングに用いられる開口および前記第3トレンチを形成するエッチングに用いられる開口の方が広い、半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0228】
1 半導体基板、2,3,5,10,11,31,32,41,42 半導体層、81,82,9 トレンチ電極、100A~100F 半導体装置、301,302 領域、502,503 マスク、502a,502b,502c,503a,503b 開口、801,802,90 トレンチ。