(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130473
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240920BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240920BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240920BHJP
C22B 1/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040230
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
(72)【発明者】
【氏名】小坂 悟
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001CA15
5H031EE01
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】電極合材からより多くのフッ素を分離する。
【解決手段】処理方法は、フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、電極合材からフッ素を分離する分離工程を含む。処理装置10は、フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、電極合材からフッ素を分離する分離部12を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離工程を含む、処理方法。
【請求項2】
前記処理対象電極は集電体上に前記電極合材が形成されたものであり、前記分離工程では、前記電極合材からフッ素を分離するとともに、前記集電体と前記電極合材とを分離する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記加熱温度範囲は、300℃以上500℃未満である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記酸素含有雰囲気は、酸素濃度が20%以上である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項5】
前記酸素含有雰囲気は、50g/m3以上の水分を含む、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項6】
前記処理液は、水である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項7】
前記加熱後の前記処理対象電極を、前記処理液中で超音波処理する、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項8】
前記分離工程で前記電極合材からフッ素を除去したフッ素除去率は、80%以上である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項9】
前記処理対象電極は集電体上に前記電極合材が形成されたものであり、前記分離工程では、前記電極合材からフッ素を分離するとともに、前記集電体と前記電極合材とを分離し、前記分離工程で前記集電体から前記電極合材を除去した合材除去率は、90%以上である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項10】
フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離部を備えた、処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済みリチウムイオン電池の処理方法としては、電池を加熱処理してフッ素化合物を熱分解する工程と、加熱処理した電池を破砕し篩分けして得られた細粒物を洗浄してフッ素化合物を溶出させる工程と、フッ素含有沈殿を生成させて固液分離して回収する工程と、を有する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法では、使用済み電池に含有されるフッ素を効率よく回収できるとしている。また、電池を分解して得られた正極材料を含む部材を500~600℃の大気雰囲気下で加熱処理する工程と、加熱処理物を水に浸漬させ所定時間超音波処理する工程と、を有する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この方法では、正極材料を安価で回収することができるとしている。また、電極を還元性雰囲気中で300~400℃で加熱してバインダーを分解することにより集電体と活物質とを分離する工程、を有する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。この方法では、分離の際の集電体の腐食、劣化等を防止できるとしている。また、電池廃材から回収した電極合材にアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程と、得られた混合物を活性化処理剤の溶融開始温度以上に加熱して活物質を活性化する工程と、冷却して得られる混合物から活性化した活物質やフッ素を回収する工程と、を含む方法が提案されている(例えば特許文献4)。この方法では、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から活物質を直接回収でき、またフッ素を回収できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6612506号
【特許文献2】特開2017-84681号公報
【特許文献3】特許第3452769号
【特許文献4】特許第5859332号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1,4では、フッ素を回収できるとしているが、電極合材からのフッ素の分離が十分でないことがあった。また、特許文献2,3では、フッ素の分離について検討されていなかった。このため、電極合材からより多くのフッ素を分離することが望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、フッ素含有高分子を含む電極合材からより多くのフッ素を分離することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して電極合材からフッ素を分離すると、より多くのフッ素を分離できることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の処理方法は、
フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離工程を含むものである。
【0008】
また、本開示の処理装置は、
フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離部を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の処理方法及び処理装置では、フッ素含有高分子を含む電極合材からより多くのフッ素を分離できる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)に代表されるフッ素含有高分子は、アルカリによって脱フッ酸して単結合が連鎖的に二重結合に変化する。その二重結合は酸素が付加されると切断される。本開示では、リチウムを含有する電極を処理対象電極とするが、こうした電極ではアルカリ性のリチウム塩であるLiOHやLi2CO3が存在するため、フッ素含有高分子は、このアルカリによって脱フッ酸してフッ素含有高分子の単結合が二重結合に変化する。さらに、酸素含有雰囲気下で加熱すると、二重結合に酸素が付加されて二重結合が切断される。こうして、フッ素含有高分子の分解が促進され、加熱工程での揮発や、処理液での処理によって電極合材からフッ素が容易に分離される。それにより、フッ素含有高分子を含む電極合材からより多くのフッ素を分離できると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図7】実験例1~23の加熱温度とフッ素除去率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[処理方法]
本開示の処理方法は、フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、フッ素を分離する分離工程を含む。
【0012】
(処理対象電極)
処理対象電極は、フッ素含有高分子を含む電極合材を備えリチウムを含有する。処理対象電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材と、を備えていてもよい。処理対象電極は、リチウムイオン二次電池などのイオン二次電池や、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスの電極であり、使用済みの蓄電デバイスや劣化した蓄電デバイスから取り出したものとしてもよい。処理対象電極は、正極としてもよいし、負極としてもよいし、一方の面に正極合材が形成され他方の面に負極合材が形成されたバイポーラ電極としてもよい。
【0013】
処理対象電極の電極合材に含まれるフッ素含有高分子は、結着材であるものとしてもよい。フッ素含有高分子の結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、フッ素ゴム等が挙げられ、このうち、PVdFやPVdF-HFPのように少なくとも一部にPVdFを含む高分子がより好ましい。
【0014】
処理対象電極が含有するリチウムは、電極合材に含まれる電極活物質を構成するものとしてもよい。こうした電極活物質としては、例えば、後述するリチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物などのリチウム遷移金属複合酸化物や、リン酸鉄リチウムなど、リチウムを含む正極活物質が挙げられる。また、例えば、後述するリチウムチタン複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物など、リチウムを含む負極活物質が挙げられる。処理対象電極が含有するリチウムは、蓄電デバイスの充放電に伴い電極合材中に取り込まれたものとしてもよい。処理対象電極において、リチウムは、少なくとも一部がLiOHやLi2CO3などのアルカリ性のリチウム塩として存在していることが好ましい。リチウムを含む正極活物質や負極活物質では、通常、リチウムの少なくとも一部がLiOHやLi2CO3などのアルカリ性のリチウム塩として存在している。
【0015】
集電体の材質としては、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち、処理対象電極が正極である場合は、集電体はアルミニウムを含むことが好ましい。集電体の形状としては、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmである。
【0016】
電極合材は、電極活物質と結着材と、必要に応じて導電材などとを含むものとしてもよい。電極合材は、例えば、電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。電極合材は、集電体の片面に形成されていても両面に形成されていてもよい。
【0017】
電極合材に含まれる電極活物質としては、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物、リン酸鉄リチウムなど、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる活物質が挙げられる。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。また、電極活物質としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類など、キャパシタやリチウムイオンキャパシタの正極及び/又は負極に用いられる活物質が挙げられる。また、電極活物質としては、例えば、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなど、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる活物質が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。電極合材に含まれる導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などが挙げられる。
【0018】
電極合材に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、有機系溶剤に溶解して用いられる有機系結着材としてもよいし、水系溶剤に溶解して用いられる水系結着材としてもよいし、これらの混合物としてもよい。有機系結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、フッ素ゴム等のフッ素含有高分子、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)などが挙げられる。また、水系結着材としては、ポリビニルアルコール(PVA)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、などが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含むものとしてもよい。有機系溶剤としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。水系溶剤としては、水や各種水溶液などが挙げられる。電極合材に含まれる導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。
【0019】
(分離工程)
分離工程では、処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、電極合材からフッ素を分離する。以下では、処理対象電極を酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱する処理を加熱処理と称する。また、加熱後の処理対象電極の処理液での処理を液処理と称する。分離工程では、加熱処理で電極合材からフッ素が分離されてもよいし、液処理で電極合材からフッ素が分離されてもよいし、加熱処理及び液処理の両方で電極合材からフッ素が分離されてもよい。分離されたフッ素は、そのまま除去してもよいし、回収してもよい。この分離工程では、電極合材からフッ素を分離するとともに、集電体と電極合材とを分離してもよい。
【0020】
加熱処理において、加熱温度範囲は、250℃超過であればよいが、より多くのフッ素を分離する観点から、270℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましく、350℃以上が一層好ましい。加熱温度範囲は、省エネルギーの観点や電極活物質や集電体の変質を防ぐ観点からは低い方が好ましく、600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましく、500℃未満がさらに好ましく、450℃以下が一層好ましく、400℃以下がより一層好ましい。
【0021】
加熱処理において、酸素含有雰囲気の酸素濃度は、例えば、10%以上としてもよく、20%以上としてもよい。加熱温度範囲が400℃以下や350℃以下などの低温の場合には、酸素含有雰囲気の酸素濃度はより高い方が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく50%以上としてもよい。酸素含有雰囲気の酸素濃度は、90%以下としてもよく、70%以下としてもよく、60%以下としてもよい。なお、酸素濃度は、酸素含有雰囲気のうち水蒸気を除くガス全体における酸素の体積割合とする。酸素含有雰囲気は、酸素の他に、窒素を含むものとしてもよく、空気としてもよい。
【0022】
加熱処理において、酸素含有雰囲気は、水分を含むことが好ましい。例えば、酸素含有雰囲気の水分量は1g/m3以上が好ましく、20g/m3以上がより好ましい。加熱温度範囲が500℃未満や450℃以下などの低温の場合には、酸素含有雰囲気の水分量はより多い方が好ましく、30g/m3以上が好ましく、40g/m3以上がより好ましく、50g/m3以上がさらに好ましい。酸素含有雰囲気の水分量は、例えば500g/m3以下としてもよく、300g/m3以下としてもよく、100g/m3以下としてもよい。酸素含有雰囲気は、例えば、水中に酸素含有ガスをバブリングさせることで加湿したものとしてもよい。この場合、加湿時の温度、つまり加湿に使用する水の温度を調整することで、酸素含有雰囲気の水分量を調整でき、水分量は、加湿時の温度の飽和水蒸気量から見積もることができる。なお、加湿していない酸素含有雰囲気の水分量は、使用したガスの露点から見積もることができる。
【0023】
加熱処理において、加熱時間は、例えば、1分以上としてもよく、10分以上としてもよく、30分以上としてもよい。また、加熱時間は、例えば、24時間以下としてもよく、12時間以上としてもよく、2時間以下としてもよい。
【0024】
加熱処理は、処理対象電極に含まれるフッ素含有高分子を分解する処理としてもよい。例えば、加熱処理は、フッ素含有高分子を脱フッ酸する処理としてもよいし、フッ素含有高分子の高分子鎖を切断する処理としてもよい。また例えば、加熱処理は、フッ酸やLiFなどのフッ素化合物を生成させる処理としてもよい。加熱処理で生じたフッ素化合物は、揮発して電極合材から分離されてもよいし、揮発せずに電極合材内に残留してもよい。
【0025】
液処理は、加熱後の処理対象電極を処理液に浸漬させることなどによって洗浄する処理としてもよい。また、液処理は、加熱処理後の処理対象電極から、加熱処理で生じたフッ素含有高分子の分解生成物を、処理液に溶解又は分散させて、処理液とともに除去する処理としてもよい。また、液処理は、加熱処理後の処理対象電極の集電体から、電極合材を分離する処理としてもよい。液処理に用いる処理液は、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、環境負荷の観点などから、水であることが好ましい。液処理は、非加熱環境下で行ってもよい。液処理は、例えば0℃以上30℃以下の温度範囲で行ってもよいし、15℃以上25℃以下の温度範囲で行ってもよい。液処理の時間は、例えば、30分以内としてもよく、10分以内としてもよく、5分以内としてもよく、3分以内としてもよい。液処理の時間は、1秒以上としてもよく、5秒以上としてもよく、15秒以上としてもよい。
【0026】
液処理は、加熱処理後の処理対象電極を処理液中で(つまり処理液に浸漬させた状態で)超音波処理する処理としてもよい。超音波処理は、超音波の周波数をスイープさせながら行ってもよい。周波数をスイープさせるとは、例えば、
図1,2に示すように、周波数を周期的に変化させることである。超音波処理では、基本周波数F
0を中心に最大周波数Fmaxと最小周波数Fminとの間を往復するように超音波の周波数を周期的に変化させてもよい(
図1及び
図2参照)。基本周波数F
0は、40kHz以上240kHz以下とすることが好ましく、80kHz以上200kHz以下とすることがより好ましい。超音波処理では、基本周波数F
0を中心とする周波数の変動幅をスイープ幅と定義したときに(
図2参照)、スイープ幅を±5kHz以内としてもよい。つまり、Fmax-F
0≦+5kHz、Fmin-F
0≧-5kHzとしてもよい。スイープ幅は、±3kHz以内としてもよく、±1kHz以内としてもよい。超音波処理では、最小周波数Fminとなる波の立ち上がりから最大周波数Fmaxとなる波の立ち下がりまで(最小周波数Fminとなる波の立ち上がりから最小周波数Fminとなる次の波の立ち上がりまでの半分でもよい)を1スイープサイクルと定義し(
図1参照)、1秒あたりのスイープサイクルの回数をスイープレートと定義したときに、スイープレートを500スイープサイクル/秒以上としてもよい。スイープレートは、700スイープサイクル/秒以上としてもよく、1000スイープサイクル/秒以上としてもよい。また、スイープレートは、2000スイープサイクル/秒以下としてもよい。超音波処理は、30分以内の範囲で行うことが好ましく、10分以内の範囲で行うことがより好ましく、300秒以内の範囲で行うことがさらに好ましく180秒以内の範囲で行うことが一層好ましい。超音波処理は、1秒以上行うものとしてもよく、5秒以上行うものとしてもよく、15秒以上行うものとしてもよい。超音波処理は、処理対象電極における集電体と電極合材との接触面積をA[cm
2]とし、超音波の出力(発振器の出力)をB[W]としたときに、B/Aで表される出力密度(電力密度)が30W/cm
2以下となるように超音波処理を行うことが好ましい。出力密度B/Aは10W/cm
2以下とすることが好ましく、5W/cm
2以下としてもよい。出力密度B/Aは0.1W/cm
2以上としてもよく、0.5W/cm
2以上としてもよい。
【0027】
液処理後の処理液は、ろ過や、遠心分離、などの固液分離の手法により、電極合材を含む固相と、フッ素を含む液相とに分離してもよい。フッ素は、例えば、HFやLiFなどのフッ素化合物として液相に含まれていてもよい。これにより、電極合材からより多くのフッ素を分離することができる。
【0028】
以上説明した分離工程を行うと、電極合材からフッ素が除去され、除去されたフッ素は、そのまま揮発したり、処理液に溶解されたりする。また、集電体から電極合材が除去され、集電体から除去された電極合材は、例えば、処理液に分散されたり、沈殿したりする。こうして、分離工程後には、電極合材からフッ素が分離され、集電体と電極合材とが分離され、集電体と、電極合材を含む合材含有処理液と、が得られる。合材含有処理液においては、例えば、電極合材が分散又は沈殿され、フッ素が溶解されることで、電極合材からフッ素が分離されていてもよい。この場合、さらに上述の固液分離を行い、電極合材を含む固相と、フッ素を含む液相とに分離させ、電極合材からより多くのフッ素を分離させてもよい。
【0029】
分離工程で電極合材からフッ素を除去したフッ素除去率は、50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が一層好ましい。このフッ素除去率は、多い方が好ましいが、例えば、99%以下としてもよく、95%以下としてもよく、90%以下としてもよい。
【0030】
分離工程で集電体から電極合材を除去した合材除去率は、80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0031】
分離工程は、バッチ式で行ってもよいし連続式で行ってもよい。分離工程を連続式で行う場合、ロールtoロール方式を採用してもよい。なお、この処理方法では集電体や電極合材が得られるため、この処理方法は、集電体の製造方法でもあり、電極合材の製造方法でもある。
【0032】
[処理装置]
本開示の処理装置は、フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、電極合材からフッ素を分離する分離部を備えている。この処理装置では、上述した処理方法を行うものとしてもよく、上述した処理方法で説明した構成や条件を適用してもよい。この処理装置は、分離部を制御する制御部を備えていてもよい。分離部は、処理対象電極を加熱する加熱部と、加熱後の処理対象電極を処理液で処理する液処理部とを備えているものとしてもよい。
【0033】
以下、本開示の処理装置の一例として、処理装置10について説明する。
図3に、処理装置10の構成の概略を示す説明図を示す。処理装置10は、分離部12を備えている。この処理装置10では、集電体52とフッ素含有高分子を含む電極合材54とを有しリチウムを含有する処理対象電極50を処理して、電極合材54からフッ素を分離するとともに、集電体52と電極54とを分離する。処理対象電極50、集電体52及び電極合材54は、各々、上述の処理方法で説明した処理対象電極、集電体及び電極合材と同様としてもよい。
【0034】
分離部12は、処理対象電極50を加熱する加熱部20と、加熱後の処理対象電極50Aを処理液で処理する液処理部30と、分離部12全体の制御を司る制御部15と、を備えている。
図4に、加熱部20の構成の概略を示す説明図を示す。
図5に、液処理部30の構成の概略を示す説明図を示す。
図5Aは、液処理前の液処理部30の構成の概略を示す説明図である。
図5Bは、液処理後の液処理部30の構成の概略を示す説明図である。
【0035】
加熱部20は、処理対象電極50を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度で加熱するものである。加熱部20は、
図4に示すように、発熱体21を備えた処理室22を有しており、酸素含有ガスがガス導入管24から導入されガス排出管26から排出されることで、処理室22の内部が所定の酸素含有雰囲気となるように構成されている。
【0036】
液処理部30は、加熱後の処理対象電極50Aを処理液42で処理するものである。ここでは、液処理部30は、処理対象電極50Aに対して、処理液42中で超音波処理を行う超音波処理装置として構成されている。液処理部30は、
図5に示すように、処理容器32と、振動子38と、発振器40とを備えている。処理容器32には、処理対象電極50A及び処理液42が収容される。この処理容器32は、処理対象電極50Aが収容される内槽34と、内槽34が載置される載置台35と、内槽34及び載置台35が収容される外槽36と、を備えており、内槽34に処理液42が収容され、外槽36に超音波伝播媒体46が収容されている。処理液42としては、例えば水が用いられる。処理液42は、水道水や、蒸留水、イオン交換水などとしてもよい。超音波伝播媒体46は、例えば水であり、処理液42とともに超音波を伝播する役割を果たす。処理容器32には、図示しない配管及びバルブが設けられており、処理液42の処理容器32への供給有無や供給量を調整できるようになっている。振動子38は、処理容器32に接触するように配置されている。発振器40は、振動子38に電力を供給し振動子38を発振させるものである。発振器40は、スイープ機能を有している。スイープ機能とは、例えば
図1,2に示すように、周波数を周期的に変化させる機能である。液処理部30は、発振器40のスイープ機能を用いることで、振動子38から発生する超音波の周波数をスイープ(周期的に変化)させることができるように構成されている。
【0037】
制御部15は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、図示しない記憶装置や入出力ポートなどを備えている。制御部15は、加熱部20の発熱体21や液処理部30の発振器40などに電気的に接続されており、これらのいずれかへ信号を出力し、これらのいずれかから信号を入力する。制御部15は、加熱部20の処理室22が所定の温度になるように発熱体21を制御するように構成されている。加熱条件は、上述した処理方法と同様の条件を適用してもよい。また、制御部15は、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うよう液処理部30の発振器40を制御するように構成されている。超音波処理の条件は、上述した処理方法と同様の条件を適用してもよい。
【0038】
処理装置10の動作の一例について説明する。まず、制御部15は、加熱部20の処理室22が所定の加熱温度範囲になるように、発熱体21を制御して発熱させる。処理室22が所定の加熱温度範囲になったら、ガス導入管24から処理室22に酸素含有ガスを導入しながら、処理室22に処理対象電極50を収容し、所定時間加熱する。酸素含有ガスとしては、上記処理方法で説明した酸素含有雰囲気のいずれかを用いればよい。酸素含有ガスは、例えば、酸素濃度が20%以上で、50g/m
3以上の水分を含むものとする。加熱雰囲気は、例えば、300℃以上500℃未満とする。加熱時間は、例えば、30分以上2時間以下とする。こうした加熱処理により、処理対象電極50の電極合材54に含まれるフッ素含有高分子が、アルカリ性のリチウム塩による脱フッ酸や、脱フッ酸によって生じた二重結合への酸素の付加による主鎖の切断などを経て、分解する。
図4では、フッ素含有高分子がPVdFであり、アルカリ性のリチウム塩がLiOHである場合をその一例として説明した。フッ素含有高分子から発生したフッ酸は、そのまま揮発したり、アルカリ性のリチウム塩と反応してLiFなどのリチウム化合物を形成して電極合材54に残留したりすると考えられる。こうした加熱処理により、処理対象電極50の電極合材54は、含まれるフッ素含有高分子からフッ素が分離したり、フッ素含有高分子の結着力が弱まったりした、電極合材54Aとなる。こうして、電極合材54Aを備えた加熱後の処理対象電極50Aとなる。
【0039】
続いて、処理容器32に処理液42を収容し、処理液42に加熱後の処理対象電極50Aを浸漬させる。処理液42は、上記処理方法で説明したいずれかを用いるものとすればよい。制御部15は、処理対象電極50Aが処理液42に浸漬されたあと、発振器40を制御して振動子38に電力を供給させ、振動子38を発振させる。これにより、処理液42中の処理対象電極50Aに対して超音波処理が行われる。超音波処理にあたり、制御部15は、発振器40のスイープ機能を用い、例えば、基本周波数F0が40kHz以上240kHz以下、スイープ幅が±5kHz以内、スイープレートが500スイープサイクル/秒以上の条件で、周波数をスイープさせるように発振器40を制御する。また、制御部15は、例えば、出力密度B/Aが30W/cm2以下となる電力を出力するように発振器40を制御する。また、制御部15は、超音波処理を例えば1秒以上30分以内の範囲の所定時間実行するように発振器40を制御する。こうした超音波処理により、処理対象電極50Aの集電体52と電極合材54Aとが分離され、集電体52と電極合材54Aを含む合材含有処理液43とが得られる。合材含有処理液43においては、例えば、電極合材が分散又は沈殿され、フッ素が溶解されることで、電極合材からフッ素が分離されていてもよい。その場合、さらに上述の固液分離を行い、電極合材を含む固相と、フッ素を含む液相とに分離させ、電極合材からより多くのフッ素を分離させてもよい。
【0040】
以上説明した処理方法及び処理装置では、フッ素含有高分子を含む電極合材からより多くのフッ素を分離できる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)に代表されるフッ素含有高分子は、アルカリによって脱フッ酸して単結合が連鎖的に二重結合に変化する。その二重結合は酸素が付加されると切断される。本開示では、リチウムを含有する電極を処理対象電極とするが、こうした電極ではアルカリ性のリチウム塩であるLiOHやLi2CO3が存在するため、フッ素含有高分子は、このアルカリによって脱フッ酸してフッ素含有高分子の単結合が二重結合に変化する。さらに、酸素含有雰囲気下で加熱すると、二重結合に酸素が付加されて二重結合が切断される。こうして、フッ素含有高分子の分解が促進され、加熱工程での揮発や、処理液での処理によって電極合材からフッ素が容易に分離される。それにより、フッ素含有高分子を含む電極合材からより多くのフッ素を分離できると推察される。なお、リチウムを含有する電極には、例えば、活物質の表層などに、アルカリLi塩(LiOH、Li2CO3)が存在しており、雰囲気が酸素を含むだけでも上記の反応は進むが、加湿雰囲気の方が乾燥雰囲気よりアルカリLi塩が多く形成されるため、脱フッ酸が生じやすく、フッ素含有高分子の分解がより促進され、それにより、加熱処理をより低温で行っても、電極合材からより多くのフッ素を分離できると推察される。
【0041】
また、集電体上に電極合材が形成された電極に対して上述した処理方法及び処理装置を適用した場合、フッ素含有高分子に由来するフッ素の除去率が高い状態で、集電体と電極合材とを分離することができる。それにより、高純度な電極活物質を回収することが可能であり、電極活物質のダイレクトリサイクルに活用できる。なお、電池リサイクル手法には、乾式製錬、湿式製錬、ダイレクトリサイクルなどがある。ダイレクトリサイクルは直接活物質を再利用する手法である。ダイレクトリサイクルはCO2排出量が少なく、経済的なメリットが大きい。しかし、ダイレクトリサイクルを実現するためには、前処理として、電極の集電箔と合材の分離、バインダーの除去により、活物質を高純度に回収する必要がある。本開示では、活物質を高純度に回収できるため、ダイレクトリサイクルに適している。
【0042】
また、液処理として超音波処理を行った場合、集電体からより多くの電極合材を分離できる。超音波処理では、集電体と電極合材との分離に、超音波のキャビテーション効果を用いた物理的作用を利用しているため、処理液として水を用いても集電体と電極合材とを分離できる。そして、水は表面張力が大きく、有機溶剤よりキャビテーション効果を発生しやすいため、効率よく集電体と電極合材とを分離できる。さらに、処理液中で、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行う場合、エネルギー分布が好適になり、集電体の損傷や電極合材の残存が抑制され、集電体と電極合材とを高精度に分離できる。なお、超音波処理では、超音波のキャビテーション効果を用いた物理的作用を用いるため、電極合材に含まれる結着材が水系か有機系かにかかわらず、水で集電体と電極合材とを分離できるという効果も得られる。また、処理液として水を用いた場合、処理液が比較的安価である、分離した集電体や電極合材からの処理液の除去が容易である、廃液の処理が容易であり環境負荷が小さい、といった効果も得られる。さらにまた、効率よく集電体と電極合材とを分離できるため、例えば40~240kHz(好ましくは80~200kHz)などの高周波(低エネルギー)でも、処理対象電極が比較的大きくても、非加熱環境下でも、集電体と電極合材とを高精度に分離できるという効果も得られる。
【0043】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、処理装置10は、バッチ式で加熱処理や液処理を行うものとしたが、連続式で加熱処理や液処理を行うものとしてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、処理対象電極50は、集電体52上に電極合材54が形成されたものとしたが、集電体52を有さないものとしてもよい。集電体52を有さない場合でも、電極合材からより多くのフッ素を除去できるという効果が得られる。
【0046】
上述した実施形態では、液処理部30は、超音波処理を行うものとしたが、超音波処理を行わないものとしてもよい。ただし、超音波処理を行った方が、集電体からより多くの電極合材を分離できるという効果が得られるため、好ましい。
【0047】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離工程を含む、処理方法。
[2] 前記処理対象電極は集電体上に前記電極合材が形成されたものであり、前記分離工程では、前記電極合材からフッ素を分離するとともに、前記集電体と前記電極合材とを分離する、[1]に記載の処理方法。
[3] 前記加熱温度範囲は、300℃以上500℃未満である、[1]又は[2]に記載の処理方法。
[4] 前記酸素含有雰囲気は、酸素濃度が20%以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の処理方法。
[5] 前記酸素含有雰囲気は、50g/m3以上の水分を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の処理方法。
[6] 前記処理液は、水である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の処理方法。
[7] 前記加熱後の前記処理対象電極を、前記処理液中で超音波処理する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の処理方法。
[8] 前記分離工程で前記電極合材からフッ素を除去したフッ素除去率は、80%以上である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の処理方法。
[9] 前記処理対象電極は集電体上に前記電極合材が形成されたものであり、前記分離工程では、前記電極合材からフッ素を分離するとともに、前記集電体と前記電極合材とを分離し、前記分離工程で前記集電体から前記電極合材を除去した合材除去率は、90%以上である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の処理方法。
[10] フッ素含有高分子を含む電極合材を有しリチウムを含有する処理対象電極を、酸素含有雰囲気下250℃超過の所定の加熱温度範囲で加熱後、処理液で処理して、前記電極合材からフッ素を分離する分離部を備えた、処理装置。
【実施例0048】
以下には、本開示の処理方法を実施した例について説明する。なお、実験例3~5、8~12、15~20、24~26が本開示の実施例に相当し、実験例1~2、13~14、21~23が比較例に相当する。
図6は、本実施例における処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0049】
(処理対象電極)
ニッケル-マンガン-コバルト三元系リチウム酸化物(NCM)を92質量%、カーボンブラックを5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量%の割合で含む正極合材を、N-メチルピロリドン(NMP)を用いてペースト状とし、20μm厚のアルミ集電体の両面に塗布、乾燥して、正極を作製した。正極合材の目付量は20mg/cm2であった。また、上記の正極を用い、黒鉛系の負極と組み合わせて電池を作製し、充放電試験を行い、充放電後の電池から正極を取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)で洗浄後、乾燥した。電池に組み込む前の電解液未接触の正極又は充放電後の正極を、処理対象電極とした。
【0050】
(加熱処理)
直径30mmの石英管を配した環状炉を用い、2cm×5cmに切り抜いた正極を石英ボートに置き、雰囲気ガスを500mL/min流しながら、均熱帯に挿入して250~550℃の加熱温度で1時間加熱した。雰囲気ガスは、以下のいずれかとした。
・乾燥窒素:純度>99.999%、露点<-70℃
・40℃加湿窒素:40℃の水中にボールフィルターを通じて乾燥窒素をバブリングさせて加湿したもの
・乾燥空気:露点<-17℃
・20℃加湿空気:20℃の水中にボールフィルターを通じて乾燥空気をバブリングさせて加湿したもの
・40℃加湿空気:40℃の水中にボールフィルターを通じて乾燥空気をバブリングさせて加湿したもの
・80℃加湿空気:80℃の水中にボールフィルターを通じて乾燥空気をバブリングさせて加湿したもの
・乾燥酸素:純度>99.5%、露点<-70℃
・酸素50%:乾燥酸素と乾燥窒素とをマスフローコントローラーで50%ずつ混合したもの
・40℃加湿酸素50%:40℃の水中にボールフィルターを通じて酸素50%をバブリングさせて加湿したもの
【0051】
(液処理)
超音波装置(ブランソン製GCX-M-3FQ12、出力500W、洗浄槽内容量20L)を用い、外槽の洗浄槽内に水を入れ、内槽のガラス容器に10mlの純水を入れ、その中に加熱処理後の正極(面積は2cm×5cm)を入れ、直ちに、外槽下の振動子から超音波を印加した。超音波処理の条件は、超音波周波数(基本周波数F0)170kHz、スイープ幅±1kHz、スイープ速度1000スイープサイクル/秒で、処理時間60秒、電力密度は25W/cm2とした。なお、電力密度は、超音波装置の出力(500W)を集電箔と電極合材層との接触面積(ここでは、電極面積×2)で除した値である。その後、集電体を取り出し、残った処理水をろ過し、ろ物である合材粉を得た。
【0052】
(合材除去率)
処理前後の正極について質量を測定し、合材除去率[%]=(処理前の正極合材量[g]-処理後の正極合材量[g])/処理前の正極合材量[g]×100の式から、合材除去率を算出した。なお、処理前の正極合材量は、加熱処理前の正極質量から集電体質量をマイナスした量である。また、処理後の正極合材量は、液処理後の正極質量から集電体質量(加熱処理前の集電体質量と同じと仮定)をマイナスした量である。
【0053】
液処理でろ物として得られた合材粉について、JIS K 0127に準じた燃焼イオンクロマトグラフ法で、処理後のフッ素量[%]を測定した。また、処理前(加熱処理前)の合材粉についても、同様にフッ素量を測定し、フッ素除去率[%]=(処理前のフッ素量[%]-処理後のフッ素量[%])/処理前のフッ素量[%]×100の式から、フッ素除去率[%]を算出した。
【0054】
[実験例1~5]
実験例1~5では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を550℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例1では乾燥窒素とし、実験例2では40℃加湿窒素とし、実験例3では乾燥空気とし、実験例4では20℃加湿空気とし、実験例5では40℃加湿空気とした。
【0055】
[実験例6~11]
実験例6~11では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を400℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例6では乾燥窒素とし、実験例7では40℃加湿窒素とし、実験例8では乾燥空気とし、実験例9では20℃加湿空気とし、実験例10では40℃加湿空気とし、実験例11では40℃加湿酸素50%とした。
【0056】
[実験例12]
実験例12では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を350℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例12では40℃加湿酸素50%とした。
【0057】
[実験例13~19]
実験例13~19では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を300℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例13では乾燥窒素とし、実験例14では40℃加湿窒素とし、実験例15では乾燥空気とし、実験例16では20℃加湿空気とし、実験例17では40℃加湿空気とし、実験例18では80℃加湿空気とし、実験例19では40℃加湿酸素50%とした。
【0058】
[実験例20]
実験例20では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を280℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例20では40℃加湿酸素50%とした。
【0059】
[実験例21~23]
実験例21~23では、処理対象電極として電池に組み込む前の電解液未接触の正極を用い、加熱処理の加熱温度を250℃とした。加熱処理の雰囲気ガスは、実験例21では乾燥空気とし、実験例22では80℃加湿空気とし、実験例23では40℃加湿酸素50%とした。
【0060】
[実験例24~26]
実験例24~26では、処理対象電極として充放電後の正極を用い、加熱処理の雰囲気ガスを40℃加湿酸素50%とした。加熱処理の加熱温度は、実験例24では400℃、実験例25では350℃、実験例26では300℃とした。
【0061】
[結果と考察]
表1に、実験例1~26の処理対象電極、加熱温度、雰囲気ガス、雰囲気ガスの酸素量(酸素濃度)[%]、雰囲気ガスの水分量[g/m3]、フッ素量[%]、フッ素除去率[%]、合材除去率[%]をまとめた。なお、酸素量は、加湿をしていない状態のガスにおける酸素の体積割合、つまり、雰囲気ガスのうち水蒸気を除くガス全体における酸素の体積割合とした。水分量は、加湿した雰囲気ガスにおいては、加湿時の温度の飽和水蒸気量から見積もり、加湿をしていない雰囲気ガスにおいては使用したガスの露点から見積もった。
【0062】
図7に、実験例1~23の加熱温度と、フッ素除去率との関係を示した。
図7に示すように、同じ加熱温度どうしで比較した場合、酸素を含む雰囲気ガスを用いることで、フッ素除去率が高くなることがわかった。加熱温度が250℃を超えると、酸素を含む雰囲気ガスを用いたものではいずれも、50%以上の高いフッ素除去率となった。加熱温度300℃では、水分量を50g/m
3以上などに増やすと、フッ素除去率が80%以上まで高くなり、さらに酸素量を50%以上などに増やすと、フッ素除去率がさらに高くなった。また、加熱温度350℃~550℃では、酸素を含む雰囲気ガスを用いたものはいずれも、80%以上の高いフッ素除去率となった。処理対象電極を充放電後の正極とした場合についても、処理対象電極を電解液未接触の正極とした場合と同程度のフッ素除去率となった。
【0063】
以上より、加熱処理での雰囲気ガスを、酸素を含むものとすることで、フッ素除去率を高めることができ、さらに水分を含むものとすることでフッ素除去率をより高めることができることがわかった。このような効果が得られた理由は、加熱処理の雰囲気ガスを酸素や水分を含むものとすることで、PVdFの分解が促進され、比較的低温の加熱処理でも多くのLiFが生成したため、水洗により多くのフッ素を除去できたものと推察された。
【0064】
10 処理装置、12 分離部、15 制御部、20 加熱部、21 発熱体、22 処理室、24 ガス導入管、26 ガス排出管、30 液処理部、32 処理容器、34 内槽、35 載置台、36 外槽、38 振動子、40 発振器、42 処理液、43 合材含有処理液、46 超音波伝播媒体、50,50A 処理対象電極、52 集電体、54,54A 電極合材。