(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130510
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】作業支援システム、及び、方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/70 20170101AFI20240920BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G06T7/70 A
G01B11/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040275
(22)【出願日】2023-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) ウェブサイトでのプログラムの公開 令和5年1月16日にhttps://www.gakkai-web.net/ipsj/85/program85.htmlで情報処理学会第85回全国大会プログラムを公開 (2)刊行物への発表による公開 令和5年2月16日に一般社団法人情報処理学会発行,情報処理学会第85回全国大会講演論文集,第4分冊第7貢(講演番号5E-04)にて掲載 (3)集会での発表による公開 令和5年3月3日に国立大学法人電気通信大学における情報処理学会第85回全国大会~ダイバーシティと情報処理~で発表
(71)【出願人】
【識別番号】591106462
【氏名又は名称】茨城県
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭志
(72)【発明者】
【氏名】平間 毅
【テーマコード(参考)】
2F065
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065BB28
2F065CC16
2F065FF01
2F065FF05
2F065FF31
2F065FF42
5L096CA04
5L096CA05
5L096DA02
5L096FA15
5L096FA66
5L096FA67
5L096FA69
5L096HA04
(57)【要約】
【課題】 作業者への負担が少なく、効率的な作業指示が行える、作業支援システムの提供。
【解決手段】 透過型表示装置4と、位置検出装置と、制御装置40とを備え、前記透過型表示装置は、その表示部20が、対象ワーク11、及び、ユーザの眼17を結ぶ仮想線と交わるように配置可能に構成され、前記位置検出装置は、少なくとも前記ワーク、前記眼、及び、前記表示部のそれぞれの位置を算出するための情報を取得し、前記制御装置は、前記情報に基づきそれぞれの前記位置を算出する位置推定部53と、前記仮想線と前記表示部との交点位置を算出し、前記ワークに重畳して表示させる指示マーカの前記表示部における表示位置を前記交点位置に基づき決定する表示指示部54と、を備える作業支援システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型表示装置と、位置検出装置と、制御装置とを備え、
前記透過型表示装置は、その表示部が、ワーク、及び、ユーザの眼を結ぶ仮想線と交わるように移動可能に構成され、
前記位置検出装置は、少なくとも前記ワーク、前記眼、及び、前記表示部のそれぞれの位置を算出するための情報を取得し、
前記制御装置は、
前記情報に基づきそれぞれの前記位置を算出する位置推定部と、
前記仮想線と前記表示部との交点位置を算出し、前記ワークに重畳して表示させる指示マーカの前記表示部における表示位置を前記交点位置に基づき決定する表示指示部と、を備える作業支援システム。
【請求項2】
更に、前記透過型表示装置に固定された第1マーカを備え、
前記情報は、少なくとも前記眼の奥行き情報を含む深度付き画像を含み、
前記位置検出装置は、前記深度付き画像を取得し、
前記位置推定部は、前記情報に基づき前記位置を算出する、請求項1に記載の作業支援システム。
【請求項3】
前記第1マーカは、互いに異なるパターン模様が付された複数の面を有する立体基材からなる、請求項2に記載の作業支援システム。
【請求項4】
複数の前記面のうちの1つが、基準面とされ、
前記基準面と前記表示部との相対的な位置関係、及び、前記基準面とその他の前記面との相対的な位置関係が、前記制御装置に予め記憶され、
前記位置推定部は、
前記深度付き画像に前記基準面以外の前記面のみが含まれる場合、2つの前記相対的な位置関係に基づき、前記表示部の前記位置を算出する、請求項3に記載の作業支援システム。
【請求項5】
前記位置推定部は、搬送面上を所定の送り速度で所定の搬送方向へと搬送される前記ワークの前記位置を、
前記送り速度、及び、前記搬送面の傾きから算出される前記ワークの移動速度ベクトルに基づき、基準位置からの変位として算出する、請求項2に記載の作業支援システム。
【請求項6】
前記位置検出装置は、2つの撮像装置を含み、
2つの前記撮像装置の少なくとも一方は、前記深度付き画像を取得可能に構成された第1撮像装置であり、
前記第1撮像装置は、前記眼、及び、前記第1マーカの前記深度付き画像を取得し、
他の前記撮像装置は、搬送方向上流側の前記搬送面上の基準位置にある前記ワークの画像を取得し、
前記制御装置は、2つの前記撮像装置の座標系を、2つの前記撮像装置の撮像範囲の重複箇所に載置された第2マーカをそれぞれ含む予め取得された画像に基づき変換する座標系変換式を算出する座標変換部を更に備える、請求項5に記載の作業支援システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記搬送面上の少なくとも3箇所に載置された第3マーカを他の前記撮像装置により撮像した画像に基づき、前記搬送面の傾きを算出する傾き算出部を更に備える、請求項6に記載の作業支援システム。
【請求項8】
少なくとも前記第1撮像装置が深度カメラである、請求項6に記載の作業支援システム。
【請求項9】
透過型表示装置と、位置検出装置と、制御装置とを備える、作業支援システムを用いて、前記透過型表示装置の表示部に、ワークに重畳させて、指示マーカを表示させる方法であって、
前記ワーク、ユーザの眼、及び、前記表示部の位置を算出するための情報を取得することと、
前記情報に基づき前記位置をそれぞれ算出することと、
前記ワーク、及び、ユーザの眼を結ぶ仮想線と前記表示部との交点位置を算出し、前記指示マーカの前記表示部における表示位置を前記交点位置に基づき決定することと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業支援システム、及び、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物(ワーク)を作業者に目視させ、作業者によりワークに対して何らかの作業が行われる場合に、作業対象となるワークの識別、作業対象となるワークの部位の識別、及び、作業手順に関するガイド等をオンサイトで、かつ、リアルタイムに作業者に伝達するための方法が種々検討されている。
【0003】
このような技術として、特許文献1には、「製造ラインにおいて搬送装置によって搬送される複数の検査対象物の検査を支援する検査支援装置であって、前記搬送装置によって搬送されている複数の検査対象物を撮影することにより生成された画像を取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記画像に基づいて、前記複数の検査対象物のなかに正常でない検査対象物があるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって正常でないと判定された検査対象物の位置を作業者に知らせるよう表示装置に指示する指示手段と、を有することを特徴とする検査支援装置。」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「作業の支援者が作業者に対して指示を行うための作業支援装置と、前記作業者が装着する頭部装着型表示装置と、を有する作業支援システムであって、前記作業支援装置は、支援者の手指を撮影するハンド位置撮影部と、撮影された前記支援者の手指の位置又は動き情報を演算するジェスチャ判定部と、前記手指の位置又は動き情報を前記頭部装着型表示装置へ送信するハンド位置情報送信部と、前記頭部装着型表示装置から送られてくる映像情報を受信する映像受信部と、受信した前記映像情報を表示する映像表示部と、を備え、前記頭部装着型表示装置は、透過表示された現実空間の像に仮想映像を重畳して表示する透過型表示部と、前記作業支援装置から送信される前記支援者の手指の位置又は動き情報を受信するハンド位置情報受信部と、前記支援者の手指の位置又は動き情報に基づいて前記透過型表示部へ前記支援者の手指の仮想映像を表示するバーチャルハンド表示部と、前記透過型表示部に表示される現実空間の像及び仮想映像を映像情報として前記作業支援装置へ送信する映像送信部と、を備えたことを特徴とする作業支援システム。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-51702号公報
【特許文献2】特開2021-39567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、及び、特許文献2のような従来技術においては、プロジェクションマッピング、及び、頭部装着型表示装置等(スマートグラス等)を用いて作業者に指示内容を伝達していた。上記以外にも、作業者への指示をAR(Augmented Reality)技術が適用されるタブレット端末等への表示によって伝達する技術も知られている。
【0007】
しかし、本発明者らの検討によれば、プロジェクションマッピングによる作業指示は、作業者の手元に光を照射して何らかの表示を行おうとするもので、その光を遮るもの(例えば、作業者の頭部や体)があると、意図した位置に伝達すべき内容を表示できないという問題がある。
また、頭部装着型表示装置を作業者に長時間着用させると、作業者の心身への負担が大きくなりやすい問題がある。
また、タブレット端末を用いる技術では、端末の画面上で指示を行いつつ、作業に際しては、端末の画面内における対象物を見ながら行うか、又は、画面内と実物の対象物とを見比べながら作業を行わなければならない場合があった。更に、端末自体を作業者が把持する場合、作業効率に劣る問題があった。
【0008】
本発明は上記のような問題を解決するものであり、作業者への負担が少なく、効率的な作業指示が行える、作業支援システムの提供を課題とする。また、本発明は、方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
[1] 透過型表示装置と、位置検出装置と、制御装置とを備え、上記透過型表示装置は、その表示部が、ワーク、及び、ユーザの眼を結ぶ仮想線と交わるように移動可能に構成され、上記位置検出装置は、少なくとも上記ワーク、上記眼、及び、上記表示部のそれぞれの位置を算出するための情報を取得し、上記制御装置は、上記情報に基づきそれぞれの上記位置を算出する位置推定部と、上記仮想線と上記表示部との交点位置を算出し、上記ワークに重畳して表示させる指示マーカの上記表示部における表示位置を上記交点位置に基づき決定する表示指示部と、を備える作業支援システム。
[2] 更に、上記透過型表示装置に固定された第1マーカを備え、上記情報は、少なくとも上記眼の奥行き情報を含む深度付き画像を含み、上記位置検出装置は、上記深度付き画像を取得し、上記位置推定部は、上記情報に基づき上記位置を算出する、[1]に記載の作業支援システム。
[3] 上記第1マーカは、互いに異なるパターン模様が付された複数の面を有する立体基材からなる、[2]に記載の作業支援システム。
[4] 複数の上記面のうちの1つが、基準面とされ、上記基準面と上記表示部との相対的な位置関係、及び、上記基準面とその他の上記面との相対的な位置関係が、上記制御装置に予め記憶され、上記位置推定部は、上記深度付き画像に上記基準面以外の上記面のみが含まれる場合、2つの上記相対的な位置関係に基づき、上記表示部の位置を算出する、[3]に記載の作業支援システム。
[5] 上記位置推定部は、搬送面上を所定の送り速度で所定の搬送方向へと搬送される上記ワークの上記位置を、上記送り速度、及び、上記搬送面の傾きから算出される上記ワークの移動速度ベクトルに基づき、基準位置からの変位として算出する、[2]に記載の作業支援システム。
[6] 上記位置検出装置は、2つの撮像装置を含み、2つの上記撮像装置の少なくとも一方は、上記深度付き画像を取得可能に構成された第1撮像装置であり、上記第1撮像装置は、上記眼、及び、上記第1マーカの上記深度付き画像を取得し、他の上記撮像装置は、搬送方向上流側の上記搬送面上の基準位置にある上記ワークの画像を取得し、上記制御装置は、2つの上記撮像装置の座標系を、2つの上記撮像装置の撮像範囲の重複箇所に載置された第2マーカをそれぞれ含む予め取得された画像に基づき変換する座標系変換式を算出する座標変換部を更に備える、[5]に記載の作業支援システム。
[7] 上記制御装置は、上記搬送面上の少なくとも3箇所に載置された第3マーカを他の上記撮像装置により撮像した画像に基づき、上記搬送面の傾きを算出する傾き算出部を更に備える、[6]に記載の作業支援システム。
[8] 少なくとも上記第1撮像装置が深度カメラである、[6]に記載の作業支援システム。
[9] 透過型表示装置と、位置検出装置と、制御装置とを備える、作業支援システムを用いて、上記透過型表示装置の表示部に、ワークに重畳させて、指示マーカを表示させる方法であって、上記ワーク、ユーザの眼、及び、上記表示部の位置を算出するための情報を取得することと、上記情報に基づき上記位置をそれぞれ算出することと、上記ワーク、及び、ユーザの眼を結ぶ仮想線と上記表示部との交点位置を算出し、上記指示マーカの上記表示部における表示位置を上記交点位置に基づき決定することと、を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業者への負担が少なく、効率的な作業指示が行える、作業支援システムが提供される。また、本発明によれば、方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の作業支援システムの第1実施例の説明図である。
図1(A)は作業支援システムの正面図、
図1(B)は平面図である。
図1(C)は後述する第1マーカの斜視図である。
【
図2】作業支援システムのハードウェア構成図である。
【
図4】表示位置の決定方法の説明図である。
図4(A)は、搬送面、表示部、及び、眼の位置関係を表す斜視図である。
図4(B)はA-A断面模式図である。
【
図5】本発明の方法の実施例のフローチャートである。
【
図6】互いに異なるパターン画像が付された複数の面を有する立体基材からなる第1マーカを用いた表示部の位置、姿勢の推定方法のフロー図である。
【
図7】本発明の作業支援システムにおいて用いられる第1マーカの変形例の説明図である。
【
図8】本発明の作業支援システムの第2実施例の説明図である。
図8(A)は、作業支援システムの正面図、
図8(B)は、平面図である。
【
図9】
図9は作業支援システムのハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0015】
[作業支援システム]
図1は、本発明の作業支援システムの第1実施例の説明図である。
図1(A)は作業支援システムの正面図、
図1(B)は平面図である。それぞれの図には、説明のための座標軸が示されている。なお、
図1(B)では、後述するベース1等をはじめとする一部の部材の図示が省略されている。
また、
図1(C)は後述する第1マーカの斜視図である。また、
図2は、作業支援システム100のハードウェア構成図である。
【0016】
まず、作業支援システム100の概要、及び、用途等について説明する。
作業支援システム100は、ワーク搬送機構2の搬送面23上(以下、「搬送ライン」ともいう。)を、搬送方向15に沿って移動する対象ワーク11を、同時に搬送ライン上を移動するワーク10の中から作業者3に選び取らせて、所定の処理を行わせるために使用される。具体的には、ワーク10が良品で、対象ワーク11が不良品である場合、対象ワーク11を搬送ラインから除去させるために使用される。なお、上記は説明のために示される用途の一例であり、本発明の作業支援システムの用途を限定するものではない。他の用途等については、後段の第2実施例等において詳述する。
【0017】
上記の用途では、搬送ライン上を移動する多数のワーク10と対象ワーク11とを、限られた時間の中で作業者3に区別させるため、透過型表示装置4の表示部20に、作業者3への指示を表示する。具体例として、
図1(B)では、指示マーカ21が対象ワーク11aに重畳表示されている。
【0018】
指示マーカ21は、対象ワーク11aの移動に追従する。言い換えれば対象ワーク11aの搬送方向15への移動に伴って指示マーカ21も表示部20上を移動し、常に重畳表示されるよう調整される。
作業者3は、搬送面23上を搬送される、多数のワーク10、及び、対象ワーク11の中から、指示マーカ21を参考にして、簡単に対象ワーク11aを選び取り、所定の作業(ここでは、除去)をすることができる。
【0019】
本発明の特徴点の一つは、透過型表示装置4(光透過型表示装置)を用いて、作業者3への情報伝達を行う点にある。透過型表示装置4は、枠体により挟持される表示部20を有する表示デバイスである。表示部20は、公知の光透過型液晶パネル、及び/又は、光透過型(有機)ELパネル等により構成されるディスプレイパネルである。
透過型表示装置4は、その表示部20に任意の画像、及び、文字等を表示でき、更に、表示部20における任意の箇所において、可視光の少なくとも一部を透過させ、その背面側を見通すことができるよう構成される。言い換えれば、透過型表示装置4は、その表示部20を介して外界光と映像光とを重複して視認させ得る表示デバイスである。
【0020】
ここで「重畳表示」「重畳して表示」とは、作業者3から見たときに(作業者3が看取するイメージ22において)対象ワーク11bと、指示マーカ21Aとが重なり合って両者が認識されるように表示されることを意味する。
このように構成された作業支援システム100によれば、作業者3への指示に際し、プロジェクションマッピング技術を用いないため、作業者3の姿勢等により、光が遮られ、指示がうまく伝達されないという不具合は解消される。
また、ウェアラブルデバイスを用いなくても的確な情報伝達が可能なため、作業者3の負担が軽減される。
【0021】
また、透過型表示装置4は自在アーム12を介してベース1に固定され、把持する必要がないので、作業効率も落ちない。更に、作業者3は、指示マーカ21、対象ワーク11a(実物)、及び、自身の手元(実物)を一度に視認できる。透過型表示装置4の表示部20を介して、自身の手元を直接見ることができるため、AR、VR技術等と比較して作業が直感的で効率的になりやすい。
【0022】
なお、
図1(B)の平面視においては、表示された指示マーカ21と、対象ワーク11aとは、必ずしも重なる位置となっていない。これは、作業者3の眼17の位置、透過型表示装置4の位置・姿勢(傾き)を考慮し、イメージ22において所望の位置に、所望の形状の指示マーカ21Aが得られるよう、表示部20に実際に表示される指示マーカ21の位置・形状が調整されるためである。この調整の方法については、後述する。
【0023】
次に、作業支援システム100を構成する各ハードウェアについて説明する。
作業支援システム100は、透過型表示装置4と、位置検出装置を構成する深度カメラ5(第1撮像装置)、及び、カメラ6(他の撮像装置)と、制御装置40(
図1には図示されない)とを備える。透過型表示装置4、深度カメラ5、及び、カメラ6は、それぞれ、ベース1に支持される。
【0024】
透過型表示装置4は、自在アーム12を介してベース1に固定される。自在アーム12は、透過型表示装置4を6自由度(X軸、Y軸、Z軸、ヨー軸、ピッチ軸、及び、ロール軸)で移動可能に支持する。
表示部20には、作業者3に対する指示マーカ21が表示される。作業者3は、指示マーカ21を視認しやすいよう、自身の身長、及び、作業姿勢等にあわせて、透過型表示装置4の位置・姿勢を調整できる。
【0025】
透過型表示装置4には、その位置、及び、傾き(姿勢)を推測するのに使用される第1マーカ16が固定される。
第1マーカ16は、六面体の基材30と、その各面に付されたパターン模様により構成される。基材30は、底面以外の側面31、33、及び、天面32に、互いに異なるパターン模様310、320、330をそれぞれ有する。なお、図示しない背面側2面についても、パターン模様をそれぞれ有している。第1マーカ16は、後述するとおり、透過型表示装置4(表示部20)の位置、及び、姿勢を計算するために用いられる。
【0026】
パターン模様は、それぞれ独立に識別され、固有の情報と結びつけられる識別のための図形である。このようなパターン模様としては、「ArUcoマーカ」、「同心円マーカ」、「QRコード(登録商標)」等が知られる。第1マーカ16、後述する第2マーカ、及び、第3マーカは、上記パターン模様により識別される。
【0027】
深度カメラ5は、奥行き情報を含む深度付き画像を取得可能な撮像装置である。深度カメラ5は、近赤外光の照射により対象物の奥行き情報を取得するTOF(Time Of Flight)形式の撮像装置である。なお、深度カメラの測距方式は、上記に限定されず、2つの撮像素子から構成されるステレオカメラ方式としてもよい。また、近赤外光の照射による測距装置とカメラとを組み合わせた装置も使用できる。
【0028】
なお、第1マーカ16として、画像に基いてその位置・姿勢を計算可能なパターン模様(「ArUcoマーカ」等)、及び、対応するアルゴリズムを用いる場合、透過型表示装置4の位置の算出には、深度付き画像は必須ではない。すなわち、一般的なカメラにより取得される深度情報を有しない画像から、第1マーカ16の位置・姿勢(透過型表示装置4の位置・姿勢)を推測できる。
この場合、深度カメラ5による画像取得に代えて、一般的なカメラで作業者3の眼17と、第1マーカ16とを含む画像を取得し、更に、測距装置にて、眼17の深度(距離)を測定する形態とすることもできる。
以下では、深度カメラ5により、第1マーカ16、及び、眼17の深度付き画像を取得し、位置を算出する形態について説明する。
【0029】
深度カメラ5はアーム13によりベース1に固定される。深度カメラ5による撮像範囲には、作業者3の眼17、及び、透過型表示装置4に固定された第1マーカ16を含む。深度カメラ5の固定位置は、上記を撮像範囲に含めばよく、特に限定されない。
【0030】
作業支援システム100は、位置検出装置のひとつとして、更に、カメラ6を備える。カメラ6は、固定アーム14によってベース1に固定される。カメラ6は、ワーク搬送機構2の搬送面23を向くように固定される。
カメラ6の撮像範囲(領域R1)は、透過型表示装置4に対して、搬送方向15の上流側にある。カメラ6により撮像される領域R1に含まれるワーク10、及び、対象ワーク11は、撮像後、所定時間が経過すると、透過型表示装置4側(具体的には領域R2)に移動する。
【0031】
ワーク搬送機構2は、その搬送面23においてワーク10、及び、対象ワーク11を支持し、所定の搬送方向15に、所定の送り速度で、これらを移動させる。ワーク搬送機構2は、典型的にはベルトコンベアであってよい。
搬送面23上を搬送されるワーク10、及び、対象ワーク11は、搬送面に載置され、搬送され得るものであれば、特に限定されない。例えば、機械、その部品、水産/農畜産物又はその加工品等であってよい。
【0032】
作業者3は、搬送面23を搬送されるワーク10、及び、対象ワーク11を見ながら、透過型表示装置4の表示部20に表示される指示マーカ21に基づき、対象ワーク11を判別し、所定の作業を行う。
具体的には、ワーク10、及び、対象ワーク11が搬送面23を搬送方向15に移動して、領域R2付近まで進むと、透過型表示装置4の表示部20には、対象ワーク11aに重畳して指示マーカ21が現れる。
【0033】
図2に戻り、制御装置40は、プロセッサ41と、記憶デバイス42と、入出力インターフェース43(入出力I/F)と、を備える。制御装置40は、典型的にはコンピュータである。
【0034】
プロセッサ41は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等である。
【0035】
記憶デバイス42は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサの作業エリアを提供する。
記憶デバイス42は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0036】
入出力インターフェース43には、深度カメラ5、カメラ6、及び、透過型表示装置4等が接続される。また、ワーク搬送機構2が接続されてもよい。更に、他の入力デバイス、又は、出力デバイスが接続されてもよい。
入出力インターフェース43を介して制御装置40と接続される(図示しない)入力デバイスは、制御装置40への各種情報入力、及び、指示の入力のためのデバイスである。入力デバイスは、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0037】
また、入出力インターフェース43を介して制御装置40と接続される(図示しない)出力デバイスは、各部のステータス、及び、各種結果等を出力するためのデバイスである。出力デバイスは、透過型表示装置4とは異なるデバイスであってよく、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、出力デバイスは、入力デバイスと一体として構成されていてもよい。この場合、出力デバイスがタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0038】
制御装置40は、図示しない通信インターフェースを備えてもよく、これを介してインターネット、ワイド・エリア・ネットワーク、及び、ローカル・エリア・ネットワーク等のコンピュータネットワークと接続されてもよい。
この場合、入力デバイスに代えて、コンピュータネットワークから各種指示を受信したり、コンピュータネットワークを介して外部へと情報を出力してもよい。
【0039】
作業支援システム100は、ワーク10及び対象ワーク11を搬送するワーク搬送機構2に適用され得る。なお、ワーク搬送機構2は、作業支援システム100を構成しない。本発明の作業支援システムは、ワーク搬送機構2に代えて、後述する第2実施例のように、対象ワーク11を支持するワーク支持台に適用することもできる。
【0040】
次に、各部の機能等について説明する。
図3は、作業支援システム100の機能ブロック図である。作業支援システム100は、深度カメラ5と、カメラ6と、透過型表示装置4と、制御部50と、記憶部57とから構成される。制御部50は、傾き算出部51、座標変換部52、位置推定部53、表示指示部54、及び、画像解析部56を備える。また、制御部50は、ワーク搬送機構2とも接続される。各部は、互いにデータの送受信が可能なように構成される。
【0041】
制御部50は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。制御部50は、作業支援システム100の各部を制御し、その機能を実現させる。
【0042】
画像解析部56は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。画像解析部56は、深度カメラ5から取得される深度データ付き画像から、作業者3の眼17を識別する。作業者の眼17の識別方法は特に限定されず、公知の顔認識アルゴリズム(例えば「InsightFace」)等を応用して行うことができる。
また、認識された作業者3の眼17に代えて、画像から認識された作業者3の「顔」を眼17の位置とする形態であってもよい。この場合、計算がより単純化され、処理が高速となる。
【0043】
また、画像解析部56は、カメラ6により取得された画像から、記憶部57に予め記憶された基準に基づき、ワーク10、及び、対象ワーク11を識別する。更に、外部ac1から入力される対象ワーク情報(ワーク10と対象ワーク11との画像上の識別に関する情報)をもとに、ワーク10、及び、対象ワーク11区別する。
また、深度カメラ5の取得画像から、第1マーカ16を識別する。
【0044】
カメラ6の取得画像中のワーク10の認識方法は特に限定されず、公知のアルゴリズムを適宜適用可能である。このようなアルゴリズムとしては、ワーク10の三次元位置を検出可能なアルゴリズムが使用でき、例えば、画像解析により画像中の作業対象物の色を認識して対象物の三次元位置を検出するもの、AI(人工知能)の学習によって画像中のワーク10の三次元位置を検出するもの等すでに公知である。
【0045】
外部ac1から入力される対象ワーク情報は、作業支援システム100のユーザ、又は、作業支援システム100に接続された学習済みの分類器によって指示される対象ワーク11の識別に関する情報である。すなわち、カメラ6により取得された画像における識別されたワーク10のうち、いずれを対象ワーク11と判定するかの基準となる情報である。
【0046】
作業支援システム100は、ワーク搬送機構2の上流側にカメラ6を有し、透過型表示装置4の搬送方向上流側で、ワーク10、及び、対象ワーク11を識別する。
その後、ワーク10、及び、対象ワーク11は、搬送面23上を移動し、透過型表示装置4の下の領域R2に達した時点で、指示マーカ21が表示部20に表示される。詳細は後述するが、ワーク10、及び、対象ワーク11の位置は、カメラ6による識別結果、移動速度ベクトルに基づき、基準位置からの変位として予測される。具体的には、撮像された時間、位置を基準位置とし、所定時間経過後の変位を移動ベクトルをもとに算出する。
【0047】
従って、ワーク10、及び、対象ワーク11が検出されてから、実際に透過型表示装置4下(領域R2)に移動するまでに、所定の時間的猶予がある。その時間内に、カメラ6の取得画像をもとに、対象ワーク11が分類器等によって計算、特定され、制御装置40に渡される。この点では、カメラ6は搬送面23のより上流側を撮像可能に構成されることが好ましい。
【0048】
傾き算出部51は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。傾き算出部51は、搬送面23上の少なくとも3箇所に一時的に設置された第3マーカを含むように、カメラ6により取得された画像に基づき、搬送面23の傾きを算出する。なお、使用される第3マーカは、第1マーカと同様のものであってもよいし、平板状の基材の一方側の主面に固有のパターン模様が付された、より簡便なものであってもよい。なお、第3マーカが有するパターン模様はそれぞれ独立である。
【0049】
画像解析部56により、第3マーカがそれぞれ認識されると、それぞれの相対的な位置関係、及び、傾き等によって、搬送面の傾きが算出される。言い換えれば、搬送面の平面方程式が算出され得る。
なお、搬送面23の傾きは予め記憶されていてもよく、この場合、第3マーカによる傾きの算出は省略され得る。
【0050】
傾き算出部51は、更に、ワーク搬送機構2から提供される(又は、予め取得される)送り速度と、上記計算された搬送面23の傾きとから、ワーク10、及び、対象ワーク11の移動速度ベクトルを算出する。
なお、ワーク搬送機構2の送り速度が予め取得(記憶)される場合には、ワーク搬送機構2は、制御部50と接続されていなくてもよい。
【0051】
座標変換部52は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。座標変換部52は、位置検出装置を構成する深度カメラ5及びカメラ6の座標系を変換するための座標系変換式を算出する。
座標系の変換方法は特に限定されないが、より簡便に実行できる観点で、深度カメラ5及びカメラ6の撮像範囲の重複箇所に一時的に載置された第2マーカの画像を予め取得し、画像解析部56によって、第2マーカを識別し、それぞれの取得画像における第2マーカの位置から、互いの座標系を変換するための座標系変換式を算出することが好ましい。すなわち、第2マーカを基準に、それぞれの座標系を合わせることが好ましい。なお、第2マーカは、第1マーカ、又は、第3マーカと同様のもの(ARマーカ等)が使用できる。
【0052】
位置推定部53は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。位置推定部53は、各部で得られた情報をもとに、作業者3の眼17の位置、及び、第1マーカ16の位置(・姿勢)、及び、対象ワーク11aの位置を算出する。
作業者3の眼17の位置、及び、第1マーカ16の位置・姿勢は、深度カメラ5の深度データ付き画像、及び、その識別結果からリアルタイムに計算され得る。
【0053】
また、対象ワーク11aの位置は、所定の時刻においてカメラ6により取得された対象ワーク11aの画像(領域R1にあったときのもの)、移動速度ベクトル、及び、位置を予想すべき時刻(例えば現在時刻)から算出される。
例えば、作業者3の眼17の位置、及び、第1マーカ16の位置・姿勢をリアルタイムに(所定の短い間隔で)算出する場合、所定の短い時間間隔で対象ワーク11aの位置を予測すれば、それぞれの位置(・姿勢)がほぼリアルタイムに算出され得る。
【0054】
表示指示部54は、記憶デバイス42に記憶されたプログラムをプロセッサ41が実行することで実現される機能である。表示指示部54は、計算された作業者の眼17の位置、表示部20の位置・姿勢、及び、搬送面23上の対象ワーク11aの位置から、対象ワーク11aに重畳表示させる指示マーカ21の表示部20内における位置(表示位置)を決定する。
【0055】
図4は、表示位置の決定方法の説明図である。
図4(A)は、搬送面23、表示部20、及び、眼17の位置関係を表す斜視図である。また、
図4(B)はA-A断面模式図である。なお、
図4(A)では、第1マーカ16の図示は省略されている。
【0056】
対象ワーク11aは、ある時刻(タイミング)において、カメラ6の撮像範囲である領域R1において画像として捉えられる(図中、対象ワーク11c)。この画像から対象ワーク11cの当該時刻における位置(基準位置)が算出される。
対象ワーク11aの任意の時刻における位置は、上記基準位置と、移動速度ベクトルvecとから、変位として算出される。
【0057】
次に、作業者3が、透過型表示装置4の表示部20を介して視認できる範囲である領域R2について説明する。表示部20の厚みが十分に薄く、その材質等の影響により、屈折による影響が無視できる程度に小さい場合、領域R2は、眼17の位置と、透過型表示装置4の表示部20の端部とを結ぶ線(BL1、BL2、BL3、BL4)を外挿し、搬送面23との交点を求め、これを結ぶ範囲となる。
対象ワーク11aが搬送面23上を移動し、この領域R2に入ると、重畳表示が可能となる。
【0058】
指示マーカの表示位置は、眼17の位置、及び、対象ワーク11aの位置から計算される仮想線LNと、表示部20との交点位置pos1に基づき決定される。
交点位置pos1は、深度カメラ5の座標系で検出された眼17の位置、及び、第1マーカ16の位置・姿勢、並びに、上述のとおり算出される対象ワーク11aの位置をもとに、仮想線LNの直線方程式、及び、表示部20の平面方程式を算出し、その交点として算出される。
【0059】
光の屈折による影響が無視できるほどに小さい場合、交点位置pos1に指示マーカ21が表示されると、作業者3から見ると、対象ワーク11aに指示マーカ21が重畳表示されて認識される。
また、表示部20の材質、及び、厚み等によって、光の屈折による影響を考慮する必要があれば、交点位置pos1を基準に指示マーカ21の表示位置が調整され得る。
表示指示部54により決定された指示マーカ21の表示位置に従い、制御部50により透過型表示装置4が制御され、指示マーカ21が表示部20に表示される。
【0060】
次に、作業支援システム100によって作業対象となる対象ワーク11aに指示マーカ21を重畳表示させる方法について説明する。
図5は、上記方法のフローチャートである。
まず、ステップS11として、座標変換部52により、深度カメラ5と、カメラ6との座標系を互いに変換するための座標系変換式が算出される。
【0061】
具体的には、まず、両者の撮像範囲の重複箇所に一時的に載置された第2マーカを両者でそれぞれ撮像して画像を取得する。
このとき、第2マーカの載置される場所は特に限定されない。搬送面23上であってもよいし、それ以外の場所であってもよい。
典型的には、ベルトコンベアであるワーク搬送機構2を停止させ、一時的に搬送面23上に第2マーカを載置し、この画像を、それぞれの撮像装置で撮像することが好ましい。これらの画像において、第2マーカを基準として座標系変換式が算出される。
【0062】
次に、傾き算出部51によって、搬送面の傾きが算出され、ワーク搬送機構2の送り速度とあわせて、ワーク10、対象ワーク11の移動速度ベクトルvecが算出される(ステップS12)。
搬送面23の傾きは、カメラ6の撮像範囲内であって、搬送面23上の少なくとも3箇所に設置された第3マーカを含む画像に基づき算出される。すなわち、3つのマーカの相対的な位置関係、及び、傾きから、搬送面23の傾き(平面方程式)が算出される。これと、ワーク搬送機構2の送り速度を併せて、ワーク10、及び、対象ワーク11aの移動速度ベクトルvecが算出される。
なお、搬送面23の傾きは、予め記憶されていてもよく、この場合、第3マーカによるキャリブレーションは省略され得る。
【0063】
なお、上記ステップS11、及び、ステップS12はこの順番で実施される必要はなく、逆の順番で実施されてもよい。また、第2マーカと第3マーカとを兼ねるマーカを用いて、一度に実施されてもよい。
ステップS11、及び、ステップS12は、作業支援システム100のキャリブレーションの意義を有する工程であり、事前に実施されていれば、使用の都度行わなくてもよい。すなわち、すでに座標系変換式、及び、移動速度ベクトルvecが記憶部に記憶されていれば、ステップS11、及び、ステップS12は、省略されてもよい。
【0064】
次に、ステップS13として、カメラ6により領域R1の画像が取得される。このとき、搬送面23上には、搬送面23を所定の方向に搬送されるワーク10、及び、対象ワーク11が載置されている。画像の取得間隔は特に限定されないが、一形態として、1/60~1/10秒等であってよい。
取得された画像は、取得された時刻と共に記録され、画像解析部56に渡される。
【0065】
次に、ステップS14として、深度カメラ5により、眼17、及び、第1マーカ16を含む画像が取得される。画像の取得間隔は特に限定されず、カメラ6と同一であっても異なってもよい。取得された画像は、取得された時刻、及び、奥行きデータと共に記録され、画像解析部56に渡される。
【0066】
なお、ステップS13、及び、ステップS14とは、順次行われてもよいし、同時に行われもよく、作業支援システム100の使用の期間中、所定の間隔をもって常に行われることが好ましい。
次に、ステップS15として、画像解析部56により、深度カメラ5により取得された画像における、作業者3の眼17、及び、第1マーカ16が識別される。また、カメラ6により取得された画像における、対象ワーク11が識別される。識別の方法は特に限定されず、公知の方法が使用できる。
【0067】
次に、ステップS16として、位置推定部53によって、上記識別結果から、作業者3の眼17の位置、第1マーカ16の位置・姿勢、及び、ワークの位置が推定される。
眼17の位置は、深度カメラ5により取得された画像において、画像解析部56による識別結果(その結果として得られる座標)、及び、付加された深度情報(奥行き情報)から、その位置が計算される。
【0068】
ワークの位置は、カメラ6により取得された画像における識別結果(その結果として得られる座標)、移動速度ベクトル、及び、推定すべき時刻から算出される。すなわち、画像の取得時刻における位置を基準位置とし、それより後の時刻である、推定すべき時刻における位置を、基準位置からの変位として推定する。
【0069】
第1マーカ16の位置・姿勢から、表示部20の位置・姿勢を算出する方法は特に限定されないが、より正確に算出できる点で、互いに異なるパターン画像が付された複数の面を有する立体基材からなる第1マーカ16を用いた、以下の方法が好ましい。
【0070】
図6は、互いに異なるパターン画像が付された複数の面を有する立体基材からなる第1マーカ16を用いた表示部20の位置、姿勢の推定方法のフロー図である。
図6のフローは、
図5のフローのステップS15に続いて、ステップS16の一部として行われる。すなわち、
図6のフローにおけるステップS31~ステップS37は、
図5のフローのステップS16に含まれていてよい。
【0071】
ステップS15に続いて、ステップS31では、画像解析部56により、深度カメラ5の取得画像に、第1マーカ16が含まれているか判断される。
透過型表示装置4は、所定の自由度(例えば6自由度)で移動可能に自在アーム12よって支持されている。作業者3は、自身の作業姿勢、身長等に合わせて、透過型表示装置4を自由に移動させることができる。
【0072】
そのため、深度カメラ5の撮像範囲内に第1マーカ16が入らない場合がある(ステップS31:NO)。この場合、位置の推定ができないため、フローは終了する。この場合は、第1マーカ16が検出できないことをユーザに知らせる表示を透過型表示装置4に表示させてもよい。
なお、深度カメラ5の撮像範囲から、第1マーカ16が逸脱しないよう、自在アーム12の可動範囲が予め制限されることが好ましい。この場合、ステップS31は省略され得る。
【0073】
一方、ステップS31において、深度カメラ5の取得画像に第1マーカが含まれる場合(ステップS31:YES)、位置推定部53は、画像中に第1マーカ16の複数の面が含まれるかについて判定を行う(ステップS32)。画像に第1マーカ16の複数の面が含まれる(2つ以上の面が写っている)場合(ステップS32:YES)、角度が最も大きい面が選択される(ステップS33)。
一方、画像に第1マーカ16の複数の面が含まれない(1つの面しか写っていない、又は、1つの面以外は識別できない)場合(ステップS32:NO)、ステップS33はスキップされる。
なお、角度が最も大きいとは、深度カメラ5の視線方向に対する第1マーカ16の面のなす角が最も大きいことを意味する。
【0074】
次に、ステップS34として、当該面が基準面かどうかが判定される。なお、ステップS32において、画像に複数の面が含まれない(ステップS32:NO)場合には、その面について、基準面への該当性が当ステップにおいて判定される。
基準面は、第1マーカ16の複数ある面のうちの1つで、予め定められ、特定のパターン模様により識別される。基準面については、透過型表示装置4の表示部20との位置・姿勢の関係が予め記憶部57に記憶されている。一方、第1マーカの複数ある面のうち、基準面以外の面(他の面)については、それぞれ特定のパターン模様により個別に識別されるものの、表示部20との位置・姿勢の関係は記憶されず、それぞれ基準面との位置・姿勢関係だけが記憶部57に記憶される。
【0075】
ステップS33において選択された面、又は、1つだけ識別された面(ステップS32:NO)を計算対象面と呼ぶとき、計算対象面が基準面でない場合(ステップS34:NO)、位置推定部53により、当該面(「他の面」)の位置・姿勢が算出される。上述のとおり、他の面は、表示部20との相対的な位置関係に関するデータを有していないため、ここから直接には、表示部20の位置・姿勢は算出されない。
【0076】
ステップS36では、記憶部57に予め記憶された他の面と基準面との相対的な位置・姿勢関係が参照され、他の面の位置・姿勢が、基準面の位置・姿勢に変換して算出される。
なお、計算対象面が基準面であるとき(ステップS34:YES)、ステップS35はスキップされ、ステップS36が実行される。
【0077】
次に、ステップS37として、表示部20の位置・姿勢が算出される。
基準面と表示部20との位置・姿勢の相対的な関係は、予め記憶部57に記憶されており、基準面の位置・姿勢が算出されると、その関係を参照することで、表示部20の位置・姿勢が算出できる。
【0078】
上記方法によれば、第1マーカ16の各面のうち、表示部20との相対的な位置関係については、基準面との関係で記憶されていればよく、他の面と表示部20との相対的な位置関係は記憶される必要はない。計算対象面の位置・姿勢を、基準面を介して、表示部20の位置・姿勢に関単に変換できる。
【0079】
上記構成では、透過型表示装置4との関係については、基準面だけが規定されればよいため、透過型表示装置4を他機種に交換するような場合であっても、プログラムの修正が最小限で済むという利点がある。
また、第1マーカ16の基材30は、任意の形状とすることが可能であるため、一般に透過型表示装置4よりもより単純な形状(例えば、正多面体等)とすることができる。第1マーカ16の各面と透過型表示装置4の変換に係るデータを予め準備して記憶部57に記憶させるより、透過型表示装置4との関係は基準面だけが有しており、他の面と基準面とは、より単純な変換式のみを有している形態の方が、データ量も少なく、処理も高速となりやすい。
【0080】
上記のようにして、対象ワーク11a、及び、眼17の位置が算出され、第1マーカ16の位置・姿勢から、表示部20の位置・姿勢が算出される(
図5:ステップS16)。
【0081】
図5に戻り、次に、ステップS17として、表示指示部54によって眼17と対象ワーク11aとを結ぶ直線方程式が算出される。なお、眼17の位置は、典型的には、深度カメラ5の画像、すなわち、深度カメラ5の座標系により決定される。一方、対象ワーク11aの位置は、ある時刻におけるカメラ6の取得画像における位置(基準位置)をスタートとして、移動速度ベクトルを加味して、所定の時間経過後の位置(所定時刻における位置)として、リアルタイムで推定される。
なお、深度カメラ5、及び、カメラ6の座標系は、座標変換部52により算出された座標系変換式により互いに変換、統一化される。所定の時刻における眼17と対象ワーク11aとの位置関係から、直線方程式が算出され得る。
【0082】
この直線方程式により算出される仮想線LNは、いわば、作業者3が対象ワーク11aを視認する場合の視線と言える。この仮想線LNは、対象ワーク11a、及び、眼17の位置の移動に伴ってリアルタイムで更新され得る。
次に、ステップS18として、表示指示部54によって、表示部20の平面方程式が算出される。記憶部57には、表示部20の大きさが予め記憶されており、位置推定部53により算出した位置・姿勢と併せて、平面方程式と、表示部20の境界とが算出される。
【0083】
次に、表示指示部54は、算出された表示部20の平面方程式、その境界、及び、仮想線LNの直線方程式から、平面方程式と直線方程式とが交点を有するかを判定する。
例えば、対象ワーク11aが、まだ領域R1内にあり、領域R2は未だ到達していない場合、算出される仮想線LNと表示部20の平面とは、交点を有さない場合がある(ステップS19:NO)。この場合、作業者3が対象ワーク11aを見たとしても、その視線の範囲内には表示部20が存在しないため、重畳表示を行う事はできない。その場合、再度、ステップS16~ステップS18までの手順が繰り返される。
【0084】
一方で、領域R1内にあったワークが、時間経過とともに領域R2まで移動してきた場合、仮想線LNと表示部20の平面とは交点を有する(ステップS19:YES)。このとき、作業者3は、表示部20を介して対象ワーク11aを視認できる。
【0085】
表示指示部54は、表示部20と仮想線LNとが交点を有する場合(ステップS19:YES)、交点位置pos1を算出する(ステップS20)。
次に、ステップS21として、表示指示部54は、交点位置pos1に基づき、指示マーカ21の表示位置を決定し、表示部20に指示マーカ21を表示させる。交点位置と指示マーカ21の表示位置の関係は、例えば、表示部20の材質、及び、厚み等により、光の屈折の影響が十分に小さい場合には、交点位置に指示マーカを表示させるよう制御する。
【0086】
一方で、表示部20の材質、及び、厚み等によっては、光の屈折の影響が無視できない場合には、予めこの関係が記憶部57に記憶され、交点位置pos1を基準として、表示位置が調整される。また、指示マーカの形状についても、仮想線LNと、表示部20とのなす角等に基づき、変形させて表示させてもよい。
例えば、指示マーカ21を対象ワーク11aの周囲を囲むような円として作業者3に看取させたい場合、なす角に基づき、表示部20に表示させる図形を楕円とする方法等が挙げられる。
【0087】
上記作業支援システム100によれば、プロジェクションマッピング技術を使った作業支援システムと比較して、指示マーカ21が投影されたものではないため、作業者3の姿勢や位置にかかわらず、所望の位置に表示できる。また、ウェアラブル端末を用いないため、長時間の作業であっても、作業者へ負担が少ない。
また、移動可能に支持された透過型表示装置4を用いて指示マーカを表示するため、タブレット端末のように作業者自身がディスプレイ装置を把持する必要がないため、作業性に優れる。更に、透過型表示装置4を介して、指示マーカと、対象ワーク(の実物)とを両方確認できる点でより直感的な作業が可能となる。
【0088】
[第1マーカの変形例]
図7は、本発明の作業支援システムにおいて用いられる第1マーカの変形例の説明図である。
図7(a)は、第1マーカ600の正面図、(b)は平面図、図(c)は右側面図、(e)は斜視図である。
第1マーカ600は、六面体の側面のうちの1つ(面61)を中心にこれと辺を共有して隣接する側面62、64、及び、天面63を、共有する辺を軸として基準面である面61側に所定の角度分、展開したような形態とした多面体基材60と、それぞれの面に配置された互いに独立したパターン模様610、620、630、640を備える。
【0089】
第1マーカ600は、図示されない底面65側で、透過型表示装置4上に載置される。また、深度カメラ5側に、面61を向けて載置される。多面体基材60において、基準面である面61に接する2つの側面62、64は、それぞれ、平面視で、面61の延在方向に沿う基準線L1とのなす角α、βが0degを超えて90deg未満となるように、面61と共有する1辺を軸に面61側に開かれている。
α、βの大きさは特に限定されず、深度カメラ5で画像を取得した際に、計算値の信頼性がより向上しやすい観点から、10~80degが好ましく、20~70degがより好ましく、30~60degが更に好ましい。
【0090】
また、天面63も、側面視で面61(基準面)の延在方向に沿う基準線L2とのなす角γが0degを超えて90deg未満となるように、面61と共有する1辺を軸に面61側に開かれている。
γの大きさは特に限定されず、深度カメラ5で画像を取得した際に、計算値の信頼性がより向上しやすい観点から、10~80degが好ましく、20~70degがより好ましく、30~60degが更に好ましい。
なお、第1マーカ600は、面61を基準面としているが、基準面は側面62,64、及び、天面63のいずれであってもよい。
【0091】
このような形状を有する第1マーカ600によれば、基準面である面61を深度カメラ5側にして(深度カメラ5に近い方向に置いて)撮像した際に、2つ以上の面が画像に収まりやすい。更に、それぞれの面には互いに、90deg未満の角度をもって開かれているため、いずれか一方、又は、両方の面が、信頼性の高い計算値が取得しやすい角度になりやすい。すなわち、画像の法線(奥行き)方向に対して、パターン画像が、10~80deg(好ましくは、20~70deg、より好ましくは30~60deg)傾いた状態となりやすい。
上記第1マーカ600を備える作業支援システム100は、より精度よく透過型表示装置4の位置を推定できる。
【0092】
[作業支援システムの第2実施例]
図8は、本発明の作業支援システムの第2実施例の説明図である。
図8(A)は、作業支援システムの正面図、
図8(B)は、平面図である。また、
図9は作業支援システムのハードウェア構成図である。
【0093】
作業支援システム200は、ワーク支持台70上の所定の位置に載置された定型の対象ワーク11における作業箇所の指示を行うために使用される。
作業支援システム200は、カメラ6を有さない。対象ワーク11は、定型であり(例えば、プリント基板)ワーク支持台70上の所定の箇所に固定される。そのため、対象ワーク11の位置は予め記憶デバイス42に記憶される。
【0094】
その他の構成は第1実施例と同様である。指示マーカ21a、21b、21cは、それぞれ、対象ワーク11の特定箇所に向けて重畳して表示されるよう、表示位置が調整される。
表示位置は、深度カメラ5の画像から計算される眼17の位置、透過型表示装置(表示部20)の位置・姿勢、及び、対象ワーク11における(予め記憶された)特定箇所の位置をもとに決定される。
【0095】
すなわち、眼17の位置と、予め記憶された対象ワーク11上の特定箇所の位置とから、直線方程式が算出される。これと、表示部20の平面方程式との交点位置に基づき、指示マーカ21a、21b、21cの表示位置が調整される。
【0096】
作業支援システム200によれば、静止した対象ワーク11に対して、位置検出装置として、1つの深度カメラ5を用いて、所望の位置に指示マーカ21a、21b、21cを重畳表示させることができる。作業支援システム200は、例えば、対象ワーク11をプリント基板とする手はんだ付け工程等において、作業者3に対して、作業手順やプリント基板上の作業位置等を指示、伝達するために好ましく使用できる。
【符号の説明】
【0097】
1 ベース、2 ワーク搬送機構、3 作業者、4 透過型表示装置、5 深度カメラ、6 カメラ、10 ワーク、11 対象ワーク、12 アーム、13 アーム、14 固定アーム、15 搬送方向、16 第1マーカ、17 眼、20 表示部、21 指示マーカ、23 搬送面、30 基材、31 側面、32 天面、33 側面、40 制御装置、41 プロセッサ、42 記憶デバイス、43 入出力インターフェース、50 制御部、51 算出部、52 座標変換部、53 位置推定部、54 表示指示部、56 画像解析部、57 記憶部、60 多面体基材、61 面、62 側面、63 天面、64 側面、65 底面、70 ワーク支持台、100 作業支援システム、200 作業支援システム、600 第1マーカ