(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130514
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ポリイミド、ワニス、ポリイミドフィルム、フレキシブルプリント配線基板用耐熱絶縁フィルム、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用基板、カバーウィンドウ用フィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240920BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040280
(22)【出願日】2023-03-15
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸太
(72)【発明者】
【氏名】涌井 洋行
(72)【発明者】
【氏名】東 昌男
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA86
4F071AC10
4F071AE19
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4J043VA022
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4J043XB20
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4J043ZA35
4J043ZA41
4J043ZA52
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】 優れた光学的透明性、非常に高いTg、非常に低いCTE、十分な可撓性を併せ持つポリイミドフィルム、及び、当該ポリイミドフィルムに好適なポリイミドを提供すること。
【解決手段】 テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを共重合したポリイミドであって、CpODA又はCBDAを含み、テトラカルボン酸二無水物がCpODAの場合は、ジアミン成分は変性AB-TFMB又はAB-TFMBを含み、テトラカルボン酸二無水物がCBDAの場合は、前記ジアミン成分は変性AB-TFMB及びAB-TFMBを含むポリイミド。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを共重合したポリイミドであって、
前記テトラカルボン酸二無水物成分は、2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノン、又は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物成分が2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノンの場合は、前記ジアミン成分は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)、及び/又は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物成分が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の場合は、前記ジアミン成分はN,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)、及び、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)を含むポリイミド。
【請求項2】
前記ポリイミドは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【化1】
【請求項3】
さらに、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、
前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体に対して10~90mol%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド。
【化2】
(式(2)中、Xは4価の芳香族基または脂肪族基、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリイミドが溶媒に溶解してなるワニス。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリイミドを含むことを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項6】
波長400nmにおける光透過率が40%以上または黄色度指数が10.0以下であり、
濁度が2.0%以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
100~200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が20ppm/K以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
300℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とする請求項5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを用いたフレキシブルプリント配線基板用耐熱絶縁フィルム。
【請求項10】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを用いたディスプレイデバイス用透明プラスチック基板。
【請求項11】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを用いたタッチセンサー用基板。
【請求項12】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを用いたカバーウィンドウ用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド、ワニス、ポリイミドフィルム、フレキシブルプリント配線基板用耐熱絶縁フィルム、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用基板、カバーウィンドウ用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型電子機器内の限られた空間に自在に折曲げ実装可能で、各種製造装置の可動部においても屈曲配線可能なフレキシブルプリント配線基板(FPC)が広く採用されている。現行のFPCでは、絶縁基板として耐熱性に優れた全芳香族ポリイミドフィルムが用いられているが、全芳香族ポリイミドフィルムは、その分子構造に由来する電荷移動相互作用により強く着色している(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
通常、FPCは電子機器内に組み込まれており、人の目に触れることはなかったため、FPCの絶縁基板として用いたポリイミドフィルムの強い着色は特に問題ではなかった。しかしながら将来、ウエアラブル機器、照明機器、医療機器等、人の目に触れるFPC用途の拡大が見込まれることから、透明性を強調したスケルトンタイプのFPCのように、デザイン性を重視したFPCの開発が課題となっている。
【0004】
従来より、光学的に透明なポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)を絶縁基板として用いたFPCが知られていたが、これらの絶縁基板は、物理的耐熱性(短期耐熱性)が不十分なために、260℃のハンダリフロー工程で熱変形するという深刻な問題があった。そのため、透明FPCに適用する新たな絶縁基板材料の候補として、耐熱性に優れた透明ポリイミドが検討されている。
【0005】
透明FPC用絶縁基板には、光学的透明性と耐熱性に加え、デバイス製造時の大きな温度変化に対抗する優れた寸法安定性も求められる。そのため、透明FPC用絶縁基板に適用する透明ポリイミドフィルムは、非常に低い線熱膨張係数(CTE)を有していなければならない。CTEが大きいと、透明ポリイミドフィルム上に薄膜トランジスタ(TFT)等の素子を形成していく工程で、複数の高温-室温温度サイクルの間、絶縁基板は大きく熱膨張-熱収縮を繰り返すことになり、フィルム面方向(XY方向)への伸縮のヒステリシス現象や不可逆的に蓄積された残留歪により、微細な回路の位置ずれ等の深刻な不具合が生じる恐れがある。
【0006】
ポリイミドの着色を抑制する方法として、ポリイミドを製造する際に用いるモノマー即ち、ジアミンまたはテトラカルボン酸二無水物のどちらか一方、あるいは両方に脂肪族(通常、耐熱性の観点から脂環式)のモノマーを選択することが有効であり、これにより、着色の原因である電荷移動相互作用を妨害してポリイミドを完全に無色透明化する技術が知られている(例えば非特許文献2、3参照)。
【0007】
しかしながら、ポリイミド骨格への脂環構造導入により、しばしば物理的耐熱性(短期耐熱性)の指標であるガラス転移温度(Tg)や熱寸法安定性が著しく悪化する。また、低CTEを達成するために、剛直で直線性の高い主鎖構造を選択すると、ポリイミド鎖間の絡み合いが激減して、通常、フィルムが著しく脆弱化するだけでなく、しばしば重合反応工程で反応溶液のゲル化や沈殿析出が起こり、次のフィルム形成工程に進めなくなるといった重大な問題が生じる。
【0008】
このような事情から、優れた光学的透明性、非常に高いTg、非常に低いCTE、十分な可撓性を併せ持つ、ポリイミドフィルムを開発することは非常に困難であり、透明FPC用絶縁基板、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用透明基板、有機電界発光(OLED)ディスプレイ用カバーウィンドウ用フィルム、特に透明FPC用絶縁基板に好適な材料はこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001).
【非特許文献2】J. Polym. Sci., Part A, 38, 108-116 (2000).
【非特許文献3】Polymer, 55, 4693-4708 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、極めて達成困難な複合的特性即ち、優れた光学的透明性、非常に高いTg、非常に低いCTE、十分な可撓性を併せ持つポリイミドフィルム、及び、当該ポリイミドフィルムに好適なポリイミドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、電荷移動相互作用による着色を回避しながら、内部回転によって主鎖が折れ曲がった形態をとることが困難な分子構造を有するテトラカルボン酸二無水物と、構造剛直性・溶媒溶解性を両立するよう精緻に分子設計されたジアミンを組み合わせて得られる高分子量ポリイミドを塗工・乾燥してなるキャストフィルム、または、高分子量のポリイミド前駆体を経由し、これを高温で加熱脱水閉環(熱イミド化)してなるポリイミドフィルムが上記要求特性を満たすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下に示すものである。
1.テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを共重合したポリイミドであって、
前記テトラカルボン酸二無水物成分は、2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノン、又は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物成分が2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノンの場合は、前記ジアミン成分は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)、及び/又は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物成分が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の場合は、前記ジアミン成分はN,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)、及び、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)を含むポリイミド。
【0013】
2.前記ポリイミドは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する上記1に記載のポリイミド。
【0014】
【0015】
3.さらに、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、
前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体に対して10~90mol%であることを特徴とする上記1又は2のポリイミド。
【0016】
【化2】
(式(2)中、Xは4価の芳香族基または脂肪族基、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
【0017】
4.上記1~3に記載のポリイミドが溶媒に溶解してなるワニス。
【0018】
5.上記1~3に記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
【0019】
6.波長400nmにおける光透過率が40%以上または黄色度指数が10.0以下であり、濁度が2.0%以下である上記5に記載のポリイミドフィルム。
【0020】
7.100~200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が20ppm/K以下である上記5または6に記載のポリイミドフィルム。
【0021】
8.300℃以上のガラス転移温度を有する上記5~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【0022】
9.上記5~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを用いたフレキシブルプリント配線基板用耐熱絶縁フィルム。
【0023】
10.上記5~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを用いたディスプレイデバイス用透明プラスチック基板。
【0024】
11.上記5~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを用いたタッチセンサー用基板。
【0025】
12.上記5~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを用いたカバーウィンドウ用フィルム。
【発明の効果】
【0026】
本発明の透明ポリイミドフィルムは、極めて高い光学的透明性、耐熱性、熱寸法安定性、十分な可撓性を有しているため、透明FPC用絶縁基板、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用透明基板、有機電界発光(OLED)ディスプレイ用カバーウィンドウ用フィルムに好適な材料を提供することができる。特に本発明のポリイミドフィルムをFPC用絶縁基板に適用すると、デザイン性に優れたスケルトンタイプの透明FPCを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<ジアミンの合成>
本発明のポリイミドを製造する際のモノマーとして用いたジアミンの合成方法を以下に説明するが、これに限定されず、公知の方法を適用することができる。該ジアミンは以下に示す反応式(3)に従って合成することができる。
【0028】
【0029】
まず、4-アミノ-2-トリフルオロメチル安息香酸(以下、4A2TFMBAと称する)(反応式(3)中、(a))のアミノ基をアセチル化して保護する工程について以下に説明する。
三口フラスコ中、4A2TFMBAと過剰量のアミノ基保護剤を入れ、窒素雰囲気中、50~140℃、好ましくは80~120℃で10分~5時間、より好ましくは30分~3時間還流を行う。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(TLC)により追跡することができる。反応終了後、過剰のアミノ基保護剤を減圧留去する。得られた生成物を濾過・洗浄・真空乾燥し、目的とするアセチル化体(反応式(3)中、(b))がほぼ定量的に得られる。この生成物は高純度であるため、そのまま次の工程に用いてもよいが、適当な溶媒から再結晶して精製してもよい。
【0030】
上記アミノ基の保護は、後工程で酸により容易に脱保護できるという観点から、アセチル化が好適である。アセチル化剤として、経済性、反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸が最適である。アセチル化以外にも、アセチル保護基と同様に、後工程で酸により脱保護可能なアミノ基の保護基としては、例えば、tert-ブトキシカルボニル(BOC)基が適用できる。その際、様々なBOC化剤が使用可能であるが、代表的な例として、ジ-tert-ブチルジカーボネートが挙げられる。
【0031】
上記アセチル化反応の際、無水酢酸の使用量は、4A2TFMBAに対して過剰量であり且つ還流によって溶質が完全に溶解し、均一な溶液となればよく、特に限定されないが、通常、4A2TFMBAの1gに対して無水酢酸の使用量は2~20gであり、好ましくは3~10gの範囲である。
【0032】
アセチル化反応の際、基質の溶解を促進するために、アセチル化剤と共に溶媒を必要最小量加えてもよい。その際に使用可能な溶媒は、基質やアセチル化剤と反応せず、基質をよく溶解するものであればよく、特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホオキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。これらを2種類以上混合して使用してもよい。
【0033】
次に上記のようにして得られたアセチル化体(b)と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)とのアミド化反応は以下のようにして行う。
三口フラスコ中、アセチル化体および縮合剤および縮合助剤を溶媒に溶かし、セプタムキャップで密栓してA液とする。次に別のナス型フラスコ中、TFMBを溶媒に溶かし、セプタムキャップで密栓してB液とする。A液を氷浴で冷却して撹拌しながら、A液にB液をシリンジにてゆっくりと添加する。添加終了後1時間0℃で撹拌した後、窒素雰囲気中、50~120℃、好ましくは60~100℃で1~24時間、より好ましくは2~16時間還流を行う。反応の進行はTLCにより追跡することができる。反応終了後、反応溶液を大量の沈殿剤(水)に滴下して沈殿を析出させる。過剰に加えたアセチル化体(b)を除去するため、この沈殿を濾別後、弱アルカリ性の水で洗浄してもよい。また、沈殿剤として水の代わりに弱アルカリ性の水を用いてもよい。このようにして析出物を濾過・洗浄・真空乾燥して、目的とするジアセチル化ビスアミド体(反応式(3)中、(c))が得られる。水に滴下・析出させた後、弱アルカリ水溶液で洗浄してもよい。この生成物は高純度であるため、そのまま次の工程に用いてもよいが、適当な溶媒から再結晶して精製してもよい。
【0034】
上記アミド化反応の際に用いるA液とB液の溶媒は、同一でも異なっていてもよく、基質(アセチル化体(b)、TFMB)および縮合剤/縮合助剤と反応せず、基質をよく溶解するものであればよい。使用可能な溶媒は特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン(GBL)等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホオキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。これらを2種類以上併用または混合して使用してもよい。溶解力の観点からGBLが好適に用いられる。
【0035】
上記のアミド化反応の際、TFMBと4A2TFMBAの仕込み比(モル比)は、モノアミド体の生成を抑制する観点から、TFMBを1molとすると、4A2TFMBAは当量の2.0molよりも過剰に用いられ、通常2.05~4molの範囲、好ましくは2.1~3molの範囲である。4A2TFMBAをこれ以上過剰に用いることは、経済性および反応後、未反応過剰分の除去の観点から、好ましくない。
【0036】
上記のアミド化反応に使用可能な縮合剤は特に限定されないが、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびEDC塩酸塩等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。これらと縮合助剤として4-ジメチルアミノピリジンや1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(オキシマ)等を添加・併用してもよい。カルボジイミド系縮合剤以外にもN,N’-カルボニルジイミダゾール等のイミダゾール系縮合剤、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物等のトリアジン系縮合剤も使用可能である。また、亜リン酸トリフェニルとピリジンを組み合わせた縮合剤も使用可能である。反応効率、経済性、縮合剤過剰分および副生成物の除去のしやすさの観点から、縮合剤/縮合助剤としてEDC塩酸塩とオキシマの組み合わせ等が好適に用いられる。
【0037】
アミド化反応の際、上記縮合剤を用いる代わりに、4A2TFMBAを塩化チオニル等を用いて酸塩化物としておき、ピリジン等の酸受容剤の存在下、この酸塩化物とTFMBよりアミド化反応する方法(酸ハライド法)は、一部、4A2TFMBAの脱保護が起こり、所望しない副生成物が生じるため、好ましくない。
【0038】
上記のようにして得られたジアセチル化ビスアミド体(c)が着色している場合には、該ジアセチル化ビスアミド体を、水を含む極性有機溶媒に溶かし、これに活性炭を加えて、静置することで脱色することができる。その際に使用可能な極性有機溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホオキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。これらを2種類以上混合して用いてもよい。溶解力、脱色効率、経済性および留去のしやすさの観点からエタノールが好適に用いられる。
【0039】
上記のジアセチル化ビスアミド体(c)末端基の脱保護は以下のようにして行う。三口フラスコ中、ジアセチル化ビスアミド体(c)を水とよく混和する有機溶媒に溶かした後、強酸を加え、窒素雰囲気中、50~100℃、好ましくは60~90℃で10分~5時間、好ましくは30分~4時間還流を行う。反応の進行はTLCにより追跡することができる。これ以上高温でまたは長時間反応を行うと、中央のアミド基まで加水分解される恐れがあるため、好ましくない。反応終了後、アルカリ水溶液で中和することで、白色沈殿が析出する。これを濾過・洗浄・真空乾燥することで、目的とするジアミン(反応式(3)中、(d))が得られる。このジアミンは高純度であるため、そのまま次のポリイミド前駆体の重合工程に供することができるが、適当な溶媒から再結晶して更に精製してもよい。また、上記と同様な方法で活性炭を用いて脱色操作を行ってもよい。
【0040】
上記の脱保護の際に使用可能な水溶性有機溶媒は特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホオキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。これらを2種類以上混合して用いてもよい。溶解力および経済性の観点からエタノールが好適に用いられる。
【0041】
上記の脱保護の際、使用可能な強酸として、濃塩酸、濃硫酸などの無機酸の他、トリフルオロ酢酸等の有機酸が挙げられる。経済性の観点から濃塩酸が好適に用いられる。また、その際に用いられる強酸の添加量は過剰量であれば特に限定されないが、濃塩酸(12N)であれば、通常、基質1gに対して濃塩酸(12N)を2~20mL,好ましくは3~10mLである。これ以上過剰に添加すると、後工程の中和の際にアルカリ水溶液が多量に必要になるため、好ましくない。
【0042】
上記の中和工程に用いるアルカリ水溶液としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水等が使用可能である。経済性の観点から水酸化ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
【0043】
上記反応式(3)で表される反応経路の以外に、出発原料として、4-ニトロ-2-トリフルオロメチル安息香酸(4N2TFMBA)を用い、そのカルボキシ基を塩化チオニルや塩化オキサリル等の塩素化剤を用いて酸塩化物基に変換しておき、次いで酸受容剤の存在下、TFMBと反応させてアミド化し、ニトロ基をアミノ基に還元する酸ハライド法、あるいは、上記の縮合剤を用いてアミド化し、ニトロ基をアミノ基に還元する方法が適用できる。しかしながらこの合成経路は、出発原料である4N2TFMBAの入手の困難さ、及び原料コストの観点から必ずしも好適ではない。
【0044】
<ポリイミドまたはその前駆体の重合およびポリイミドフィルムの作製>
本発明のポリイミドまたはその前駆体の重合およびポリイミドフィルムの作製方法は特に限定されず、公知の方法即ち(A)2段階法(ポリイミド前駆体の重合、塗工・乾燥、加熱脱水閉環(熱イミド化)、(B)化学イミド化法(上記(A)で得られたポリイミド前駆体ワニスに脱水閉環剤(化学イミド化剤)を添加、室温で撹拌して化学イミド化、ポリイミド粉末を単離、純溶媒に再溶解、塗工・乾燥、熱処理)および(C)ワンポット法(溶媒中でモノマーの加熱・リフラックス、ポリイミドワニスの塗工・乾燥、熱処理またはポリイミドワニスからポリイミドを単離、再溶解、塗工・乾燥、熱処理)のいずれかを適用することができる。
【0045】
<2段階法>
まず上記(A)2段階法について説明する。ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合は以下のようにして行う。反応容器中、ジアミンを脱水処理済みの溶媒に溶解し、所定量のテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、密封して0~100℃、好ましくは20~60℃で0.1~100時間、好ましくは3~72時間撹拌する。
【0046】
その際、反応容器に仕込むモノマー成分即ちジアミンとテトラカルボン酸二無水物との物質量(mol)比は、ジアミン1に対して、テトラカルボン酸二無水物を0.8~1.1とすることができるが、好ましくは0.9~1.1であり、より好ましくは0.95~1.05である。ポリイミド前駆体の重合度をできるだけ高める場合は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物は実質的に等モルで仕込まれる。
【0047】
また、重合を開始する際のモノマー(固形分)濃度は、7~50質量%、好ましくは10~40質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、モノマー及びポリマーの溶解性を十分確保することができ、且つ高重合度のポリイミド前駆体の均一なワニスを得ることができる。7質量%より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分に高くならず、ポリイミド前駆体を製膜した段階あるいは後工程でポリイミドに変換した際にフィルムが脆弱になり、場合によってはフィルムにクラックが入る恐れがある。また、50質量%以上で重合を開始すると、モノマーが十分に溶解しない恐れがある。また、生成したポリイミド前駆体が析出したり、反応溶液がゲル化したりする恐れもある。
【0048】
重合反応が進み、ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、反応溶液の粘度が高くなりすぎて十分に撹拌しにくくなった場合は、適宜同一の脱水処理済み溶媒で希釈することもできる。
【0049】
ポリイミド前駆体を重合する際の溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が十分に溶解し、且つこれらと溶媒が反応しなければ問題はなく特に限定されない。例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ-プチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-プチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフエノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が使用可能である。更にフェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプチル、プロピレングリコールメチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン等の一般的な溶媒も部分的に使用してもよい。
【0050】
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際には、テトラカルボン酸二無水物成分として、下記式(4)で表される2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノン(以下CpODAと称する)、又は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下CBDAと称する)を用いる。
【0051】
【0052】
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際のテトラカルボン酸二無水物成分には、前記(4)で表されるCpODA、又は、CBDAの共重合成分として、下記一般式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用し、共重合体としてもよい。
【0053】
【化5】
(式(5)中、Xは4価の脂肪族基または芳香族基を表す。)
【0054】
前記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用する場合、ポリイミドフィルムの透明性の観点から、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、脂肪族(通常脂環式)テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。なお、本明細書において、「脂肪族(通常脂環式)テトラカルボン酸二無水物」とは、酸無水物基が環状脂肪族炭化水素基に結合したテトラカルボン酸二無水物をいう。該「脂肪族(通常脂環式)テトラカルボン酸二無水物」は酸無水物基が結合していない芳香族基を含んでいてもよい。前記脂肪族(通常脂環式)テトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3c-カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c-トリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下H-PMDAと称する)、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下DM-CBDAと称する)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)ベンゼン(以下BzDAxxと称する)等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。また、ポリイミドフィルムの低熱膨張特性および重合反応性の観点から、好適な脂環式テトラカルボン酸二無水物共重合成分の例としてCBDA、DM-CBDA、H-PMDAおよびBzDAxxが挙げられる。
【0055】
また、前記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用する場合、ポリイミドフィルムの光学的透明性を損なわない範囲で、ポリイミド前駆体を重合する際に、上記式(5)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、本明細書において、「芳香族テトラカルボン酸二無水物」とは、酸無水物基が結合した芳香環基を有するテトラカルボン酸二無水物をいう。「芳香族テトラカルボン酸二無水物」は、さらに環状脂肪族基を有していてもよく、芳香環基などの環構造が、直接結合、テトラフルオロメチル基などの置換基を有する基、エステル基、カルボニル基、アミド基、エーテル基などの基を介して結合していてもよい。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、4,4’-(イソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)、2,3,3’,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(a-ODPA)、2,2’,3,3’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、ハイドロキノンジフタル酸無水物(HQDA)、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)(TA-HQ)、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が例として挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性の観点から、好適な芳香族テトラカルボン酸二無水物共重合成分の例として6FDA、s-ODPA、a-ODPA、i-ODPA、s-BPDA,a-BPDA,HQDA、TA-HQが挙げられる。
【0056】
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際、前記テトラカルボン酸二無水物成分がCpODA(2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノン)の場合、ジアミン成分として下記式(6)で表されるN,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)(以下TFM-AB-TFMBと称する)、及び/又は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)(AB-TFMB)を用いる。
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際、前記テトラカルボン酸二無水物成分がCBDA(1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物)の場合、ジアミンとして下記式(6)で表されるTFM-AB-TFMB、又は、AB-TFMBを用いる。
【0057】
【0058】
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際のジアミン成分として、前記(6)で表されるTFM-AB-TFMB、及び/又は、AB-TFMBの共重合成分として、下記一般式(7)で表されるジアミンを併用し、共重合体としてもよい。
【0059】
【化7】
(式(7)中、Yは2価の脂肪族基または芳香族基を表す。)
【0060】
前記式(7)で表されるジアミンを併用する場合、前記式(7)で表されるジアミンとして、芳香族ジアミンを使用することができる。前記芳香族ジアミンは、特に限定されないが、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル(TFM-ODA)、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(3-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性および重合反応性の観点から、好適な芳香族ジアミン共重合成分の例としてTFMB、およびTFM-ODAが挙げられる。
【0061】
また、ポリイミドフィルムの光学的透明性を改善する等の目的で、要求特性を損なわない範囲で、ポリイミド前駆体を重合する際に、上記式(7)で表される、TFM-AB-TFMBの共重合成分として、脂肪族ジアミンを用いることができ、環状脂肪族基を有するジアミンがさらに好ましく用いることができる。脂肪族ジアミンは、特に限定されないが、例えば、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン(t-CHDA)、シス-1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性および重合反応性の観点から、好適な脂肪族ジアミン共重合成分の例としてt-CHDAが挙げられる。
【0062】
前記ポリイミドは、なかでも、前記式(1)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0063】
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを共重合体とする場合、当該ポリイミド共重合体は、
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドと、
上記式(5)と上記式(7)で表されるモノマーから得られる下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、
前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体に対して10~90mol%であることが好ましく、30~90mol%であることがより好ましく、50~90mol%であることがさらに好ましい。前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量を30%以上とすることにより、ポリイミドの溶解性の低下によるゲル化を防止することができる。
【0064】
【化8】
(式(2)中、Xは4価の芳香族基または脂肪族基、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
【0065】
ポリイミド前駆体のフィルム形成性や靭性の観点から、重合によって得られたポリイミド前駆体の固有粘度は0.5dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。
【0066】
上記のように得られたポリイミド前駆体の均一なワニスを用いて以下のようにしてポリイミドフィルムを作製する。まず、ポリイミド前駆体のワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗工し、オーブン中40~150℃、好ましくは50~120℃で10分から4時間、好ましくは30分~2時間乾燥する。
【0067】
得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中、あるいは空気中、200~400℃、好ましくは250~350℃で5分から4時間、好ましくは10分~2時間加熱脱水環化(熱イミド化)することでポリイミドに変換してポリイミドフィルムを作製することができる。またポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点から、熱イミド化は真空中あるいは不活性ガス中、330℃以下で行うことが好ましい。
【0068】
熱イミド化反応の完結は、別途反応追跡用にポリイミド前駆体の薄膜を作製しておき、製品と同一の温度条件で熱イミド化した後、赤外線吸収スペクトルを測定して、ポリイミド前駆体由来のアミドC=O伸縮振動吸収帯の完全な消失とイミドC=O伸縮振動吸収帯の出現から確認することができる。
【0069】
熱イミド化工程後、ポリイミドフィルムを基板上から剥離することで、ポリイミドの自立フィルムが得られる。剥離の際、ポリイミドフィルム/基板積層体を水やアルコール浴等に浸漬して剥離を促進してもよい。また、残留歪を除く等の目的で、得られた自立フィルムを真空中あるいは不活性ガス中で更に熱処理してもよい。その際フィルムの変形、着色、配向緩和によるCTEの増加等悪影響を抑制するため、熱処理の温度条件を適宜選択することができる。
【0070】
<化学イミド化法>
ポリイミドの溶媒溶解性が高い場合、上記(B)化学イミド化法によるイミド化を経て製膜し、ポリイミドフィルムを作製することができる。以下に具体的に説明する
【0071】
上記のように重合して得られたポリイミド前駆体のワニスを同一溶媒で適宜希釈し、撹拌しながら、塩基と脱水閉環剤からなる化学イミド化剤をゆっくりと添加し、密封容器中0~100℃、好ましくは20~60℃で1~48時間、好ましくは2~24時間撹拌することで、反応溶液の均一性を確保しながらイミド化(化学イミド化)を完結することができる。
【0072】
化学イミド化剤中の塩基としては有機3級アミンが使用可能であり、特に限定されないが、例えばピリジン、ピコリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が用いられる。毒性や経済性の観点からピリジンが好適に使用される。
【0073】
化学イミド化剤中の脱水閉環剤としては、特に限定されず、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸等の酸無水物が使用可能であるが、除去の容易さや経済性の観点から無水酢酸が好適に用いられる。
【0074】
化学イミド化剤中の脱水閉環剤と塩基の混合比(質量比)は特に限定されず、脱水閉環剤の質量を1gとすると、塩基の質量比は0.1~5の範囲であり、好ましくは0.2~2の範囲である。
【0075】
化学イミド化剤は、その中に含まれる脱水閉環剤がポリイミド前駆体中のカルボキシ基量即ち理論脱水量(モル)の1~20倍量の範囲になるように添加する。化学イミド化剤の添加量が十分でないと、イミド化が未完結となる場合や、イミド化完結に長時間を要する場合がある。一方、化学イミド化剤の添加量が多すぎると、生成物であるポリイミドに対する溶解性が不十分となり、沈殿析出やゲル化が起こり、イミド化も完結しない場合がある。この観点から、ポリイミド前駆体溶液に添加する化学イミド化剤中の脱水閉環剤は理論脱水量(モル)の3~10倍量の範囲であることが好ましい。
【0076】
化学イミド化により生成するポリイミドの溶媒溶解性が高い場合、化学イミド化後の反応溶液からポリイミドを粉末として単離した後、これを重水素化溶媒に溶解して1H-NMRスペクトルを測定し、ポリイミド前駆体由来のアミド基(NHCO)のプロトンピークやカルボキシ基(COOH)のプロトンピークの完全な消失より、化学イミド化の完結を確認することができる。
【0077】
ポリイミドのフィルム形成性や靭性の観点から、化学イミド化により得られたポリイミドの固有粘度は0.5dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。
【0078】
ポリイミド前駆体のワニスに化学イミド化剤を添加・所定時間撹拌して得られた均一なポリイミドワニスをそのまま製膜工程に使用することもできるが、反応溶液よりポリイミドを単離し、これを純粋な溶媒に再溶解して化学イミド化剤をあらかじめ除去したワニスを用いてもよい。その場合、化学イミド化反応終了後、反応溶液を適宜同一溶媒で希釈し、大量の沈殿剤(貧溶媒)例えば水、メタノール、エタノール、プロパノールやこれらの混合溶液中に撹拌しながらゆっくりと滴下してポリイミドを析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミドを適切な形状(繊維状粉末)として単離・乾燥し、これを5~40質量%、好ましくは10~30質量%の固形分濃度で純粋な溶媒に再溶解して均一なポリイミドワニスを得ることができる。再溶解にはポリイミド前駆体の重合に用いた溶媒と同一なものが使用可能であるが、異なった溶媒を用いてもよい。また混合溶媒を用いてもよい。単離したポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際、30~150℃、好ましくは50~100℃で1分~4時間、好ましくは10分から1時間加熱してもよい。
【0079】
上記のようにして得られたポリイミドの均一なワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗工し、オーブン中50~180℃、好ましくは60~150℃で5分から4時間、好ましくは10分~2時間乾燥する。次いで真空中または窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200~350℃、好ましくは250~300℃で5分から4時間、好ましくは10分~2時間熱処理することで基板上にポリイミドフィルムが形成される。またフィルムの着色を抑制するという観点から、熱処理は真空中あるいは不活性ガス中、且つ300℃以下で行うことが好ましい。また、ポリイミドフィルム表面の平滑性確保および低熱膨張特性発現の観点から上記乾燥・熱処理工程は緩やかな昇温となるように多段階で行うことができる。
【0080】
次いでポリイミドフィルムを基板上から剥離すると、ポリイミドの自立フィルムが得られる。剥離の際、ポリイミドフィルム/基板積層体を水やアルコール浴等に浸漬して剥離を促進してもよい。また、残留歪を除く等の目的で、得られた自立フィルムを真空中あるいは不活性ガス中で更に熱処理してもよい。その際フィルムの変形、着色、配向緩和によるCTEの増加等悪影響を抑制するため、熱処理の温度条件を適宜選択することができる。
【0081】
<ワンポット重合法>
上記(C)ワンポット重合法は溶媒中、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物よりポリイミド前駆体で止めることなく一段階でポリイミドを重合する方法であり、生成するポリイミドの溶媒溶解性が十分に高い場合、ワンポット重合法により均一なポリイミドワニスを得ることができ、これを用いて簡便にポリイミドフィルムを作製することができる。以下にその方法を具体的に説明する。
【0082】
窒素導入管、撹拌装置、ディーン・スタークトラップおよびコンデンサーを備えたセパラブルフラスコ中、ジアミン、共沸剤およびイミド化触媒を重合溶媒に溶かしておき、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、150~250℃、好ましくは160~200℃で0.5~12時間、好ましくは1~7時間加熱還流することでポリイミドのワニスが得られる。ワニスの着色を抑制するという観点から、重合反応は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、不活性ガスの導入を省略することもできる。
【0083】
上記ワンポット重合反応の際、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込比(モル比)は、ジアミンの総量1に対して、テトラカルボン酸二無水物を0.8~1.1とすることができるが、好ましくは0.9~1.1であり、より好ましくは0.95~1.05である。ポリイミドの重合度をできるだけ高める場合は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物は実質的に等モルで仕込まれる。
【0084】
また、重合を開始する際のモノマー(固形分)濃度は、7~50質量%、好ましくは10~40質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、モノマー及びポリマーの溶解性を十分確保することができ、且つ高重合度のポリイミドの均一なワニスを得ることができる。7質量%より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミドの重合度が十分に高くならず、フィルムが脆弱になり、場合によってはフィルムにクラックが入る恐れがある。また、50質量%以上で重合を開始すると、モノマーが十分に溶解しない恐れがある。また、生成したポリイミドが析出したり、反応溶液がゲル化したりする恐れもある。
【0085】
重合反応が進み、ポリイミドの重合度が急激に増加し、反応溶液の粘度が高くなりすぎて十分に撹拌しにくくなった場合は、適宜同一の脱水処理済み溶媒で希釈することもできる。
【0086】
ワンポット重合の際に用いる溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミドが十分に溶解し、これらと反応せず且つイミド化反応完結の観点から沸点が150℃で以上であればよく、特に限定されない。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフエノール等のフェノール系溶媒、シロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や沸点の観点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンおよびγ-ブチロラクトンが好適に用いられる。
【0087】
重合後に得られたワニスをそのまま塗工する場合、使用する重合溶媒は低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミドが部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工設備の湿度管理が不要になるなど低コスト化にも有利である。この観点からγ-ブチロラクトン、シロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等を好適に用いることができる。
【0088】
ワンポット重合中、イミド化反応により生ずる副生成物である水を除去するために用いられる共沸剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クメン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ピリジン等が挙げられる。沸点や除去のしやすさの観点からトルエンやキシレンが好適に用いられる。また、共沸剤の使用により重合溶媒の溶解力が低下するため、反応溶液がゲル化することがあり、これを防止するために、共沸剤を使用せずにワンポット重合を行ってもよい。
【0089】
ワンポット重合の際、適宜イミド化触媒を使用することができる。例えば、塩基性触媒として1-エチルピペリジン、ピリジン、ビピリジン、ピコリン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾールおよびこれらの異性体、誘導体等の他、安息香酸およびその類似体等の有機酸が使用可能である。これらの塩基性触媒および酸性触媒は単独で使用してもこれらを併用してもよい。これらの触媒の添加量は特に制限はないが、理論脱水量1に対して、モル比0.1~10倍量の範囲である。ただし、上記イミド化触媒はポリイミドワニスを着色し、結果としてポリイミドフィルムの透明性を低下させる場合があるため、適当量添加することが望ましい。
【0090】
本発明のポリイミドの重合方法は特に限定されないが、上記の触媒を使用したワンポット重合は、上記の2段階法(A)や化学イミド化法(B)に比べて、ポリイミドの重合度を高めるのにしばしば有効であるため、フィルム特性をできるだけ高める観点から、溶媒溶解性を損なわないポリイミド構造を選択して、ワンポット重合法にてポリイミドを製造することが望ましい。
【0091】
本発明のポリイミドをワンポット重合する際には、テトラカルボン酸二無水物として、下記式(4)で表されるCpODA、又は、CBDAを用いる。
【0092】
【0093】
本発明のポリイミドをワンポット重合する際のテトラカルボン酸二無水物成分には、前記(4)で表されるCpODA、又は、CBDAの共重合成分として、下記一般式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用し、共重合体としてもよい。
【0094】
【化10】
(式(5)中、Xは4価の脂肪族基または芳香族基を表す。)
【0095】
前記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用する場合、ポリイミドフィルムの透明性の観点から、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、脂肪族(通常脂環式)テトラカルボン酸二無水物を使用することができる。特に限定されないが、例えば、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3c-カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c-トリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下H-PMDAと称する)、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下DM-CBDAと称する)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)ベンゼン(以下BzDAxxと称する)等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。また、ポリイミドフィルムの低熱膨張特性および重合反応性の観点から、好適な脂環式テトラカルボン酸二無水物共重合成分の例としてCBDA、DM-CBDA、H-PMDAおよびBzDAxxが挙げられる。
【0096】
また、前記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用する場合、ポリイミドフィルムの光学的透明性を損なわない範囲で、ポリイミドをワンポット重合する際に、上記式(5)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることができる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、4,4’-(イソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)、2,3,3’,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(a-ODPA)、2,2’,3,3’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、ハイドロキノンジフタル酸無水物(HQDA)、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)(TA-HQ)、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-ターフェニルテtラカルボン酸二無水物等が例として挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性の観点から、好適な芳香族テトラカルボン酸二無水物共重合成分の例として6FDA、s-ODPA、a-ODPA、i-ODPA、s-BPDA,a-BPDA,HQDA、TA-HQが挙げられる。
【0097】
本発明のポリイミドをワンポット重合する際、前記テトラカルボン酸二無水物成分がCpODA(2,5-ビス(2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-ジカルボン酸無水物)シクロペンタノン)の場合、ジアミン成分として下記式(6)で表されるN,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルベンズアミド)(以下TFM-AB-TFMBと称する)、及び/又は、N,N-4,4’-(2,2’-トリフルオロメチルビフェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)(AB-TFMB)を用いる。
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際、前記テトラカルボン酸二無水物成分がCBDA(1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物)の場合、ジアミン成分として下記式(6)で表されるTFM-AB-TFMB、又は、AB-TFMBを用いる。
【0098】
【0099】
本発明のポリイミドをワンポット重合する際のジアミン成分として、前記(6)で表されるTFM-AB-TFMB、及び/又は、AB-TFMBの共重合成分として、下記一般式(7)で表されるジアミンを併用し、共重合体としてもよい。
【0100】
【化12】
(式(7)中、Yは2価の脂肪族基または芳香族基を表す。)
【0101】
前記式(7)で表されるジアミンを併用する場合、前記式(7)で表されるジアミンとして、芳香族ジアミンを使用することができる。前記芳香族ジアミンは、特に限定されないが、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル(TFM-ODA)、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(3-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性および重合反応性の観点から、好適な芳香族ジアミン共重合成分の例としてTFMB、およびTFM-ODAが挙げられる。
【0102】
また、ポリイミドフィルムの光学的透明性を改善する等の目的で、要求特性を損なわない範囲で、ポリイミドをワンポット重合する際に、上記式(7)で表される、TFM-AB-TFMBの共重合成分として、脂肪族ジアミンを用いることができる。特に限定されないが、例えば、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン(t-CHDA)、シス-1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これらを2種類以上併用することもできる。ポリイミドフィルムの光学的透明性および重合反応性の観点から、好適な脂肪族ジアミン共重合成分の例としてt-CHDAが挙げられる。
【0103】
前記ポリイミドは、なかでも、前記式(1)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0104】
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを共重合体とする場合、当該ポリイミド共重合体は、
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドと、
上記式(5)と上記式(7)で表されるモノマーから得られる下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有し、
前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体に対して10~90mol%であることが好ましく、30~90mol%であることがより好ましく、50~90mol%であることがさらに好ましい。前記式(1)で表される繰り返し単位の含有量を30%以上とすることにより、ポリイミドの溶解性の低下によるゲル化を防止することができる。
【0105】
【化13】
(式(2)中、Xは4価の芳香族基または脂肪族基、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
【0106】
ワンポット重合後、イミド化反応の完結は、ポリイミドを粉末として単離したものを重水素化溶媒に溶解して1H-NMRスペクトルを測定し、ポリイミド前駆体由来のNHCOプロトンやCOOHプロトンシグナルの完全な消失より確認することができる。
【0107】
ポリイミドのフィルム形成性や靭性の観点から、ワンポット重合によって得られたポリイミドの固有粘度は0.5dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。
【0108】
ワンポット重合により得られた均一なポリイミドワニスをそのまま製膜工程に用いることもできるが、反応後の溶液を貧溶媒中に滴下・沈殿析出・濾過・洗浄・乾燥・再溶解操作により、触媒残渣を除去したポリイミドワニスを用いてポリイミドフィルムを作製してもよい。その場合、ワンポット重合終了後、反応溶液を適宜同一溶媒で希釈し、大量の沈殿剤(貧溶媒)例えば水、メタノール、エタノール、プロパノールやこれらの混合溶液中に撹拌しながらゆっくりと滴下してポリイミドを析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミドを適切な形状(繊維状粉末)として単離・乾燥し、これを5~40質量%、好ましくは10~30質量%の固形分濃度で純粋な溶媒に再溶解して均一なポリイミドワニスを得ることができる。再溶解にはワンポット重合に用いた溶媒と同一なものが使用可能であるが、異なった溶媒を用いてもよい。また混合溶媒を用いてもよい。単離したポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際、30~150℃、好ましくは50~100℃で1分~4時間、好ましくは10分から1時間加熱してもよい。
【0109】
上記のようにして得られたポリイミドの均一なワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗工し、オーブン中50~180℃、好ましくは60~150℃で5分から4時間、好ましくは10分~2時間乾燥する。次いで真空中または窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200~350℃、好ましくは250~300℃で5分から4時間、好ましくは10分~2時間熱処理することで基板上にポリイミドフィルムが形成される。またフィルムの着色を抑制するという観点から、熱処理は真空中あるいは不活性ガス中、且つ300℃以下で行うことが好ましい。また、ポリイミドフィルム表面の平滑性確保および低熱膨張特性発現の観点から上記乾燥・熱処理工程は緩やかな昇温となるように多段階で行うことできる。
【0110】
次いでポリイミドフィルムを基板上から剥離すると、ポリイミドの自立フィルムが得られる。剥離の際、ポリイミドフィルム/基板積層体を水やアルコール浴等に浸漬して剥離を促進してもよい。また、残留歪を除く等の目的で、得られた自立フィルムを真空中あるいは不活性ガス中で更に熱処理してもよい。その際フィルムの変形、着色、配向緩和によるCTEの増加等悪影響を抑制するため、熱処理の温度条件を適宜選択することができる。
【0111】
上記の重合・製膜方法によらず、本発明のポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されず、適宜調節することができる。透明FPC用絶縁基板、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用透明基板、有機電界発光(OLED)ディスプレイ用カバーウィンドウ用フィルムに供する場合、フィルム厚は10~100μmが好適な範囲である。
【0112】
上記の重合・製膜方法によらず、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記のようにして得られたポリイミドワニスまたはポリイミド前駆体ワニスに無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を添加してポリイミドフィルムを製膜してもよい。
【0113】
本発明のポリイミドフィルムは、透明FPC用絶縁基板、ディスプレイデバイス用透明プラスチック基板、タッチセンサー用透明基板、有機電界発光(OLED)ディスプレイ用カバーウィンドウ用フィルムに適用するため、高い光学的透明性を有することが必要である。そのため本発明のポリイミドフィルムは波長400nmにおける光透過率(T400)が40%以上または黄色度指数(YI)が10.0以下であり、濁度は10.0%以下であることが好ましい。光透過率(T400)は60%以上であることがより好ましく、黄色度指数(YI)は5以下であることがより好ましい。また、濁度は2.0%以下がより好ましく、1.2%以下がさらに好ましい。
【0114】
本発明ポリイミドフィルムは、デバイス構成部品・素子を形成・実装する工程の際の熱変形を避けるため、ガラス転移温度(Tg)は300℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがさらに好ましく、340℃以上であることがさらに好ましい。
【0115】
デバイス構成部品・素子を形成・実装する工程で実施される複数の高温加熱-室温冷却の温度サイクルに伴う回路の位置ずれ等の不具合を避けるため、本発明のポリイミドフィルムは低熱膨張性を有しており、線熱膨張係数(CTE)は20ppm/K以下であることが好ましく、18.5ppm/K以下であることがさらに好ましい。
【0116】
本発明ポリイミドフィルムは、フレキシブルプリント配線基板等に使用可能とするため、充分な可撓性を持たせるために、常温(25℃)での破断伸びが2%以上であることが好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、破断伸びは、15回測定した平均値をいう。
【実施例0117】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の示す方法により評価した。
【0118】
〔物性評価〕
<赤外線吸収スペクトル>
日本分光(株)製フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR4100)を用い、KBrプレート法にて合成したジアミンおよびその中間体の赤外線吸収スペクトルを測定し、分子構造解析を行った。また、ポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定し、イミド化の完結を確認した。
【0119】
<1H-NMRスペクトル>
日本電子社(株)製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として、合成したジアミンおよびその中間体の1H-NMRスペクトルを測定し、分子構造解析を行った。また、ワンポット重合法または化学イミド化法で得られたポリイミド粉末試料の1H-NMRスペクトルを測定し、イミド化の完結を確認した。
【0120】
<元素分析>
ジェイ・サイエンス・ラボ(株)製有機微量元素分析装置(MICRO CORDER JM10)を用い、合成したジアミンおよびその中間体のC、H、Nの化学組成分析を行った。
【0121】
<示差走査熱量分析(融点)>
ネッチ・ジャパン(株)製示差走査熱量分析装置(DSC3100)またはネッチ・ジャパン(株)製熱重量分析装置(TG-DTA2000S)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定したサーモグラムのピーク温度から合成したジアミンおよびその中間体の融点を求めた。
【0122】
<固有粘度>
ポリイミドの粉末をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、またはポリイミド前駆体ワニスを同一溶媒で希釈して、固形分濃度0.5重量%の溶液とし、オストワルド粘度計を用いて30℃で還元粘度(ηred)を測定した。この値は実質的に固有粘度と見なすことができ、この値が高いほどポリイミドの分子量が高いことを表す。通常、この条件で測定された還元粘度が1.0dL/g以上であると、十分高分子量であると見なすことができる。
【0123】
<ガラス転移温度(Tg)>
リガク(株)製熱機械分析装置(TMA8311)を用い、試験片(長さ:20mm、幅:5mm、チャック間長さ:15mm)の温度-試験片長曲線において、試験片長が急激に増加した温度を2つの接線の交点からポリイミドフィルム(約20μm厚)のガラス転移温度(Tg)を求めた。Tgが高いほど、短期耐熱性(物理的耐熱性)が高いことを表す。
【0124】
<線熱膨張係数(CTE)>
リガク(株)製熱機械分析装置(TMA8311)を用い、試験片(長さ:20mm、幅:5mm、チャック間長さ:15mm)に膜厚1μm当たり静荷重0.5gをかけて、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100~200℃の範囲での平均値としてポリイミドフィルム(約20μm厚)のフィルム面(XY)方向の線熱膨張係数(CTE)を求めた。この値が低いほど、ガラス状態温度領域における熱寸法安定性に優れていることを表す。
【0125】
<5%重量減少温度(Td
5)(窒素雰囲気)>
ネッチジャパン(株)製熱重量分析装置(TG-DTA2000S)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(膜厚約20μm)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。Td
5の値が高いほど、熱安定性(化学的耐熱性)が高いことを表す。
<5%重量減少温度(Td
5)(空気雰囲気)>
ネッチジャパン(株)製熱重量分析装置(TG-DTA2000S)を用いて、空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(膜厚約20μm)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。Td
5の値が高いほど、熱安定性(化学的耐熱性)が高いことを表す。
なお、5%重量減少温度(Td
5)(窒素雰囲気)、5%重量減少温度(Td
5)(空気雰囲気)は、いずれも5%が熱分解する温度(重量が5%減少する温度)である点で共通する。しかしながら、窒素雰囲気(不活性ガス)の場合、熱分解は熱のみの影響となる一方、空気雰囲気の場合は酸素による酸化分解も加わるため、一般に、5%重量減少温度(Td
5)(窒素雰囲気)の値の方が、5%重量減少温度(Td
5)(空気雰囲気)よりも大きくなる。
【0126】
<機械的特性(弾性率(E)、破断伸び(εb)、破断強度(σb))>
A&D(株)製引張試験機(テンシロンUTM-2)を用いて、ポリイミド試験片(3mm×30mm×約20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から引張弾性率(E)、フィルムが破断時の伸び率から破断伸び(εb)、破断時の応力から破断強度(σb)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。測定数は15とし、引張初期での破断やチャック外れなど正確に測定できなかったデータを除外して評価データとした。
破断伸び(εb)に関して、表1中、avは、破断伸びの平均値を意味し、maxは、破断伸びの最大値を意味する。フィルム中の気泡などの欠点は破断伸度を小さくすることから、破断伸びの最大値であるεb maxがフィルムとしての実力値を表す。
本明細書において単に「破断伸び」というときは、15回測定した破断伸びの平均値(表1ではavの値)を意味する。
【0127】
<ポリイミドフィルムの透明性:光透過率(T400)、黄色度指数(YI)、濁度(ヘイズ)>
日本分光(株)製紫外-可視分光光度計(V-530)を用いて波長200~800nmの範囲でポリイミドフィルム(膜厚約20μm)の光透過率曲線を測定し、波長400nmにおける光透過率(T400)を求めた。またこのスペクトルを基にして、日本分光(株)製色彩計算プログラムを用い、ASTM E313規格に基づいて黄色度指数(YI)を求めた。更に、日本電色工業(株)製ヘイズメーター(NDH4000)を用い、JIS K7361-1およびJIS K7136規格に基づき、全光線透過率(Ttot)および濁度(ヘイズ)を求めた。T400およびTtotが高いほど、またYIおよび濁度が低いほど、フィルムの光学的透明性が高いことを表す。
【0128】
<ジアミンの合成>
[合成例1]
本発明のポリイミドのモノマーであるジアミンは、以下の反応式(3)に従って合成した。
【0129】
【0130】
まず、4-アミノ-2-トリフルオロメチル安息香酸(4A2TFMBA)(反応式(3)中、(a))のアミノ基を次のようにしてアセチル化した。
三口フラスコに4A2TFMBA10.403g(50mmol)と無水酢酸(40mL)を入れ、マグネチックスターラーで撹拌しながら窒素雰囲気中、100℃で1時間還流し、均一な橙色溶液を得た。反応終了後、反応溶液に水40mLを加え、100℃で1時間加熱し、過剰の無水酢酸を酢酸に変換してエバポレーターで減圧留去した。得られた生成物を水でよく洗浄し、100℃で12時間真空乾燥して、橙色粉末を得た(収率90%)。
この生成物の分析結果を以下に示す。FT-IR(KBrプレート法、cm
-1):3308/3192(アミド基、N-H伸縮)、2995(脂肪族C-H伸縮)、2654(水素結合性カルボキシ基、O-H伸縮)、1688(水素結合性カルボキシ基、C=O伸縮)、1535(アミド基、C=O伸縮)、1168(CF
3基、C-F伸縮)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):13.30(s、1H(相対積分強度:0.99H)、COOH)、10.47(s、1H(1.00H)、NHCO)、8.12(s、1H(1.00H)、安息香酸ユニット(BA)の3―プロトン)、7.90-7.83(m、2H(2.05H)、BAの5-プロトン+6-プロトン)、2.10(sd、3H(3.07H)、J=1.1Hz、CH
3)。融点(TG-DTA):181℃。これらの分析結果より、生成物は目的とするアセチル化体(式(3)中、(b))であることが確認された。
次のアミド化工程は以下のようにして行った。100mL三口フラスコ中、上記のようにして得られたアセトキシ化体(式(3)中、(b))3.256g(25mmol)、EDC塩酸塩4.867g(25mmol)、オキシマ3.604g(25mmol)をGBL25mLで溶かし、セプタムキャップで密栓してA液とした。別のナス型フラスコ中、TFMB3.560g(11mmol)をGBL5mLに溶かし、セプタムキャップで密栓してB液とした。A液を撹拌しながら氷浴で冷却し、A液にB液をシリンジにて徐々に加え、添加終了後0℃で1時間撹拌し、次いで窒素雰囲気中、80℃で12時間還流を行った。反応終了後、反応液を500mLの0.5M炭酸ナトリウム水溶液に滴下して沈殿を析出させ、沈殿を濾過、水およびメタノール水溶液(体積比1/1)で洗浄後、120℃で12時間真空乾燥し、薄橙色粉末を得た(収率96%)。この生成物の分析結果を以下に示す。FT-IR(KBrプレート法、cm
-1):3440/3256/3189(アミド基、N-H伸縮)、3116(芳香族C-H伸縮)、1672/1651/1538(アミド基、C=O伸縮)、1603(ビフェニル基)、1325/1173(CF
3基、C-F伸縮)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):10.95(s、2H(2.00H)、中央TFMB由来のNHCO)、10.47(s、2H(2.03H)、末端NHCO)、8.27(sd、2H(2.00H)、J=1.7Hz,中央TFMBユニットの3,3’-プロトン)、8.16(s、2H(2.02H)、末端4A2TFMBAユニットの3,3’-プロトン)、7.94-7.91(m、4H(4.07H)、TFMBユニットの5,5’-プロトン+4A2TFMBAユニットの5,5’-プロトン)、7.76(d、2H(2.08H)、J=8.4Hz、4A2TFMBAユニットの6,6’-プロトン)、7.38(d、2H(1.98H)、J=8.5Hz、TFMBユニットの6,6’-プロトン)、2.12(s、6H(6.04H)、CH
3)。融点(TG-DTA):331℃(ブロード)。これらの分析結果より、生成物は目的とするジアセチル化ビスアミド化体(式(3)中、(c))であることが確認された。
次に、ジアセチル化ビスアミド体(c)の脱色を以下のようにして行った。反応容器中、ジアセチル化ビスアミド体8.259gをエタノール200mLに溶かし、これに水3mLを添加した。この溶液に活性炭33.16gを加えた。30分後、溶液が脱色されたため、濾過により活性炭を分離・除去し、濾液をエバポレーターで濃縮後、500mL飽和塩化ナトリウム水溶液に滴下して沈殿を析出させた。沈殿を濾過・水で洗浄し、120℃で12時間真空乾燥して白色沈殿を得た。融点(TG-DTA):334℃(ブロード)。脱色前後で
1H-NMRスペクトルおよび赤外吸収スペクトルの変化は実質的に見られなかった。
次に、上記ジアセチル化ビスアミド体(c)の脱保護工程は以下のようにして行った。三口フラスコ中、ジアセチル化ビスアミド体1.016g、エタノール15mLおよび12M塩酸5mLを加え、窒素雰囲気中、80℃で3時間還流し、均一な溶液を得た。反応終了後、反応溶液に2N水酸化ナトリウム水溶液を適量加えて中和し、沈殿を析出させた。これを濾過・水で洗浄し、白色の生成物を得た(収率77%)。生成物のFT-IR、
1H-NMRスペクトルおよび元素分析より、この生成物は十分純度の高い目的とするジアミン(式(3)中、(d))であることが確認されたが、酢酸エチル/n-ヘキサン混合溶媒(体積比1/1)から再結晶して更に精製を行った(再結晶収率83%)。
この白色生成物の分析結果を以下に示す。FT-IR(KBrプレート法、cm
-1):3423(アミノ基、N-H伸縮)、3311/3249(アミド基、N-H伸縮)、3102/3050(芳香族C-H)、1676/1526(アミド基、C=O伸縮)、1508(1,4-フェニレン基)、1324/1173(CF
3基、C-F伸縮)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):10.68(s、2H(2.00H)、NHCO)、8.27(sd、2H(2.07H)、J=2.1Hz,TFMBユニットの3,3’-プロトン)、7.92(dd、2H(2.06H)、J=8.5、2.1Hz、TFMBユニットの5,5’-プロトン、7.45(d、2H(2.04H)、J=8.4Hz、4A2TFMBAユニットの6,6’-プロトン)、7.33(d、2H(2.04H)、J=8.5Hz、TFMBユニットの6,6’-プロトン)、6.98(sd、2H(2.11H)、J=2.0Hz、4A2TFMBAユニットの3,3’-プロトン)、6.83(dd、2H(2.10H)、J=8.4、2.1Hz、4A2TFMBAユニットの5,5’-プロトン)、6.02(s、4H(4.02H)、NH
2)。融点(DSC):253℃。元素分析(C
30H
18O
2N
4F
12、分子量694.48):推定値C;51.88%、H;2.61%、N;8.07%、分析値C;51.64%、H;2.85%、N;8.00%。これらの分析結果より、生成物は目的とする下記式(6):
【化15】
で表されるジアミン(TFM-AB-TFMB)であることが確認された。
【0131】
[合成例2]
【化16】
で表されるジアミン(以下、AB-TFMBと称する)は次のように合成した。
ナス型フラスコ中、TFMB(30mmol)を脱水処理済みテトラヒドロフラン(THF)15.6mLに溶かし、これにピリジン8.7mL(108mmol)を加えてセプタムキャップで密栓してA液とした。別のナス型フラスコ中、4-ニトロベンゾイルクロリド(4-NBC)(72mmol)をTHF35mLに溶かし、セプタムキャップで密栓してB液とした。B液を氷浴中で冷やして撹拌しながら、B液にA液をシリンジにて徐々に加えた。添加終了後、0℃で数時間、更に室温で12時間撹拌したところ、黄白色沈殿が析出した。これを濾別し、少量のTHFおよびイオン交換水で洗浄した。得られた粉末を100℃で12時間真空乾燥し、ジニトロ体(以下NB-TFMBと称する)を得た(収率87%)。生成物の分析結果を以下に示す。FT-IR(KBr、cm
-1):3444/3340(アミド基、N-H伸縮)、1685/1523(アミド基、C=O伸縮)、1492(1,4-フェニレン基)、1327(C-F)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):10.96(s、2H(2.00H)、NHCO)、8.42(d、4H(4.16H)、J=8.9Hz、末端4-ニトロベンゾイル(4-NB)基の3,3’、5,5’-プロトン)、8.36(sd、2H(2.10H)、J=2.1Hz、中央TFMBユニットの3,3’-プロトン)、8.24(d、4H(4.16H)、J=8.9Hz、4-NB基の2,2’、6,6’-プロトン)、8.12(dd、2H(2.16H)、J=8.4、2.1Hz、TFMBユニットの5,5’-プロトン)、7.43(d、2H(2.12H)、J=8.4Hz、TFMBユニットの6,6’-プロトン)。融点(DSC):281℃。これらの分析結果から、生成物は目的とするジニトロ体(NB-TFMB)であることが確認された。
次に三口フラスコにNB-TFMB4.14g、エタノール130mLおよびPd/C0.43gを入れてマグネチックスターラーで撹拌しながら水素ガスをバブリングし、70℃で9時間還流した。反応の終了は薄層クロマトグラフィーにより確認した。反応後、反応混合物を熱濾過して触媒残渣を分離・除去し、濾液を水中に滴下して白色沈殿を析出させた。得られた沈殿を濾過・水で洗浄後、100℃で12時間真空乾燥を行い、白色の粗生成物を得た。これをエタノール水溶液(エタノール/水体積比:3/7)から再結晶し、100℃で12時間真空乾燥を行った。この生成物の分析結果を以下に示す。FT-IR(KBr、cm
-1):3418(アミノ基、N-H伸縮)、3303(アミノ基+アミド基、N-H伸縮)、3069/3043(芳香族C-H伸縮)、1654(アミド基、C=O伸縮)、1509(1,4-フェニレン基)、1310(CF
3基、C-F)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):10.16(s、2H、NHCO)、8.33(sd、2H、J=2.0Hz、中央TFMBユニットの3,3’-プロトン)、8.06(dd、2H、J=8.4、2.1Hz、TFMBユニットの5,5’-プロトン)、7.76(d、4H、J=8.7Hz、末端4-アミノベンゾイル(4-AB)基の2,2’、6,6’-プロトン)、7.31(d、2H、J=8.4Hz、TFMBユニットの6,6’-プロトン)、6.62(d、4H、J=8.6Hz、4-AB基の3,3’,5,5’-プロトン)、5.86(s、4H、NH
2)。融点(DSC):317℃。元素分析(C
28H
20O
2N
4F
6、分子量558.47):推定値C;60.22%、H;3.61%、N;10.03%、分析値C;60.00%、H;3.87%、N;9.98%。これらの分析結果より、この生成物は目的とする上記式(8)で表されるAB-TFMBであることが確認された。
【0132】
<ポリイミドの重合および製膜>
[実施例1]
TFM-AB-TFMBとCpODAより、以下のようにしてワンポット重合を行った。窒素導入管、撹拌装置、ディーン・スタークトラップ付コンデンサーを備えたセパラブル三口フラスコに合成例1に記載のTFM-AB-TFMB1.3886g(2mmol)および触媒として安息香酸0.5182g(4.24mmol)を入れ、脱水処理済みのDMAc2.30mLを加えて室温で溶解した後、触媒として1-エチルピペリジン0.4836g(4.27mmol)を加えた。この溶液にCpODA(ENEOS(株)製)粉末0.7686g(2mmol)を加え、窒素雰囲気中で撹拌しながら反応容器を170℃のオイルバスにて加熱した(初期モノマー(固形分)濃度:50質量%)。反応の進行と共に溶液粘度が高くなりすぎたため、撹拌を確保するため、適宜DMAcを追加(合計44mL)しながら4時間反応させ、均一で粘稠なポリイミドワニスを得た。触媒残渣を除去するため、この均一なワニスにDMAc30mLを加えて希釈した後、1.5Lのメタノール中にゆっくり滴下してポリイミドを析出させ、沈殿を濾別・メタノールで洗浄後、120℃で12時間真空乾燥してポリイミドを白色繊維状粉末として単離した。得られたポリイミドの還元粘度は5.27dL/gであり、高分子量体であった。単離したポリイミド粉末を重水素化ジメチルスルホオキシドに溶解して1H-NMRスペクトルを測定したところ、イミド化が完結していることが確認された。
上記のポリイミド粉末をGBLに溶解し、10質量%の均一なワニスとした。バーコーターを用いてこのワニスをガラス基板に塗工し、熱風乾燥器中65℃で2時間乾燥し、次いで真空中150℃、200℃で各30分、260℃で1時間乾燥させた。次いで水に浸漬してフィルムをガラス基板から剥がし、残留歪を除くため、真空中300℃で1時間熱処理を行い、約20μm厚の柔軟なポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの波長400nmにおける光透過率(T400)は75.3%と高く、黄色度指数(YI)は4.5と低い値であり、このポリイミドフィルムは高い光学的透明性を有していた。また、ガラス転移温度(Tg)は328℃であり、極めて高い短期耐熱性を有していた。また、線熱膨張係数(CTE)は17.7ppm/Kと非常に低い値であり、低熱膨張特性(熱寸法安定性)も保持していた。その他の物性を表1に示す。該ポリイミドフィルムは可撓性(εb)があり、十分な長期耐熱性(Td
5(N2))も保持していた。
【0133】
[実施例2]
ジアミンとして、TFM-AB-TFMBの代わりにAB-TFMBを用い、重合溶媒およびキャスト製膜溶媒として共にNMPを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ワンポット重合を行い、キャスト製膜・乾燥・熱処理して柔軟なポリイミドフィルムを得た。フィルムにヘイズが見られたため、見かけ上T400はやや低下したが、非常に高いTgと低CTEを有していた。その他の物性を表1に示す。
【0134】
[実施例3]
ジアミンとして、AB-TFMB(1.4mmol、70mol%)およびTFM-AB-TFMB(0.6mmol、30mol%)を併用し、重合溶媒およびキャスト製膜溶媒として共にDMAcを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ワンポット重合を行い、キャスト製膜・乾燥・熱処理して柔軟なポリイミドフィルムを得た。フィルムにややヘイズが見られたため、見かけ上T400はやや低下したが、非常に高いTgと低CTEを有していた。また、良好な破断伸びを示した。その他の物性を表1に示す。
【0135】
[実施例4]
ジアミンとして、AB-TFMB(1.2mmol、60mol%)およびTFM-AB-TFMB(0.8mmol、40mol%)を併用し、重合溶媒およびキャスト製膜溶媒として共にDMAcを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ワンポット重合を行い、キャスト製膜・乾燥・熱処理して柔軟なポリイミドフィルムを得た。フィルムにややヘイズが見られたため、見かけ上T400はやや低下したが、非常に高いTgと低CTEを有していた。その他の物性を表1に示す。
【0136】
[実施例5]
テトラカルボン酸二無水物として、CpODA(1.4mmol、70mol%)およびBzDAxx(エネオス社製、0.6mmol、30mol%)を併用し、重合溶媒としてDMAc、キャスト製膜溶媒としてGBLを用いた以外は、実施例3に記載した方法に従って、ワンポット重合を行い、キャスト製膜・乾燥・熱処理して柔軟なポリイミドフィルムを得た。フィルムに少しヘイズが見られたため、見かけ上T400は少し低下したが、非常に高いTgと低CTEを有していた。また、良好な膜靭性(破断伸び)を示した。その他の物性を表1に示す。
【0137】
[実施例6]
テトラカルボン酸二無水物として、CpODA(1.2mmol、60mol%)およびBzDAxx(エネオス社製、0.8mmol、40mol%)を併用し、重合溶媒としてDMAc、キャスト製膜溶媒としてGBLを用いた以外は、実施例3に記載した方法に従って、ワンポット重合を行い、キャスト製膜・乾燥・熱処理して柔軟なポリイミドフィルムを得た。フィルムに少しヘイズが見られたため、見かけ上T400は少し低下したが、非常に高いTgと低CTEを有していた。また、良好な膜靭性(破断伸び)を示した。その他の物性を表1に示す。
【0138】
[実施例7]
反応容器中、ジアミンとして、AB-TFMB(2.7mmol、90mol%)およびTFM-AB-TFMB(0.3mmol、10mol%)を脱水処理済みのDMAc(5.84mL)に溶かし、この溶液にテトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)粉末(3mmol)を加え、室温で72時間マグネチックスターラーにて撹拌した。この間、溶液粘度が増加して、十分な撹拌が困難になったため、最小量のDMAcを加えて適宜希釈した。初期固形分濃度30質量%で重付加反応を開始し、最終的な固形分濃度は24質量%であった。このポリイミド前駆体ワニスをガラス基板上に塗布し、熱風乾燥器中、60℃、2時間で乾燥してポリイミド前駆体をキャスト製膜した。これを真空中200℃で1時間、次いで300℃で1時間熱イミド化を行った。更にフィルムをガラス基板から剥離後、残留応力を除くため、真空中270℃で1時間熱処理して、ヘイズのない柔軟なポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは非常に高いTgと極めて低いCTEを有していた。その他の物性を表1に示す。
【0139】
[実施例8]
反応容器中、ジアミンとして、AB-TFMB(2.4mmol、80mol%)およびTFM-AB-TFMB(0.6mmol、20mol%)を用いた以外は、実施例7に記載した方法に従って、ポリイミド前駆体を重合・キャスト製膜・熱イミド化・熱処理して、ヘイズのない柔軟なポリイミドフィルムを得た。このフィルムは、比較的高い光透過率光透過率(T400)に加え、非常に高いTgおよび極めて低いCTEを有していた。その他の物性を表1に示す。
【0140】
[実施例9]
実施例8で得られたポリイミド前駆体ワニスに脱水処理済みDMAcを加えて5.0質量%まで希釈した後、撹拌しながらこの溶液に無水酢酸/ピリジン(体積比7/3)混合物をゆっくり加えて密封し、24時間撹拌して化学イミド化を行った。反応後、1Lのメタノール中にこれをゆっくり滴下して沈殿物を析出させ、濾別・洗浄後、120℃で12時間真空乾燥して、繊維状のポリイミド粉末を得た。これをDMAcに再溶解して得られた均一なワニスをガラス基板上に塗布し、熱風乾燥器中、60℃、2時間乾燥後、更に真空中200℃で0.5時間、250℃で0.5時間次いで300℃で1時間熱処理した。更に残留応力を除くため、フィルムをガラス基板から剥離後、真空中300℃で1時間熱処理した。得られたフィルムにはヘイズが見られたため、見かけ上T400は低下したが、非常に高いTgと超低CTEを有していた。その他の物性を表1に示す。
【0141】
[比較例1]
ジアミンとしてTFMB、テトラカルボン酸二無水物としてH-PMDAを用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にしてワンポット重合・キャスト製膜し、膜物性を評価した(表1)。このポリイミドフィルムは高い透明性および、高いTgを示したが、低熱膨張性は有していなかった。これはH-PMDAの立体構造に由来して、ポリイミドの主鎖の直線性が低く、キャスト製膜の過程で主鎖の面内配向が妨げられたことによる。
【0142】