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特開2024-130515羊毛、羽毛、蹄角等のケラチンタンパク質含有物質を原料とする耐水性積層シート
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  • 特開-羊毛、羽毛、蹄角等のケラチンタンパク質含有物質を原料とする耐水性積層シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130515
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】羊毛、羽毛、蹄角等のケラチンタンパク質含有物質を原料とする耐水性積層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/02 20060101AFI20240920BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B9/02
B32B7/12
B32B27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040282
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】592005788
【氏名又は名称】山内 清
(72)【発明者】
【氏名】山内清
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AJ09C
4F100AK05A
4F100AK05B
4F100AK05D
4F100AK05E
4F100AK06A
4F100AK06B
4F100AK06D
4F100AK06E
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07D
4F100AK07E
4F100AK09A
4F100AK09B
4F100AK09D
4F100AK09E
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AK15D
4F100AK15E
4F100AK22A
4F100AK22B
4F100AK22D
4F100AK22E
4F100AK63A
4F100AK63B
4F100AK63D
4F100AK63E
4F100AK64A
4F100AK64B
4F100AK64D
4F100AK64E
4F100AK65A
4F100AK65B
4F100AK65D
4F100AK65E
4F100AK67A
4F100AK67B
4F100AK67D
4F100AK67E
4F100AK68A
4F100AK68B
4F100AK68D
4F100AK68E
4F100AK69A
4F100AK69B
4F100AK69D
4F100AK69E
4F100AK70A
4F100AK70B
4F100AK70D
4F100AK70E
4F100AK71A
4F100AK71B
4F100AK71D
4F100AK71E
4F100AL07C
4F100AL09A
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4F100AL09D
4F100AL09E
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4F100BA10E
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100GB08
4F100JB11C
4F100JB14A
4F100JB14E
4F100JC00A
4F100JC00B
4F100JC00D
4F100JC00E
4F100JL11B
4F100JL11D
4F100JL12A
4F100JL12E
4F100JM01A
4F100JM01B
4F100JM01D
4F100JM01E
(57)【要約】
【課題】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質から成るシートに耐水性を付与することを課題とする。
【解決手段】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質から成る基材シート上に接着樹脂層を設けた上で、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材シート上にアンカーシート層を施してから接着樹脂層を設けた上で、シーラントフィルム層を積層することで、水吸収性が低い水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートを得る。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラントフィルム層が、接着樹脂層を介して、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の片面に積層されているところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シート。及び、該タンパク質層の両面に積層されているところのシーラントフィルム層/接着樹脂層/水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シート。前記タンパク質基材層をAgm-2、積層シート全体の重さをBgm-2とするとき、0.5B<A<14000である。
【請求項2】
シーラントフィルム層が、アンカーコート層と接着樹脂層を介して、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の片面に積層されている水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/アンカーコート層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シート。及び、該タンパク質層の両面に積層されているところのシーラントフィルム層/接着樹脂層/アンカーコート層/水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/アンカーコート層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シート。及び、該タンパク質層の片面にのみアンカーコート層が設けられているところのシーラントフィルム層/接着樹脂層/水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/アンカーコート層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シート。前記タンパク質基材層をAgm-2、積層シート全体の重さをBgm-2とするとき、0.5B<A<14000である。
【請求項3】
接着樹脂層を成す接着樹脂が低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンのエチレン系ホモポリマー、及び、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリエチレン組成物、及び、ポリプロピレン、プロピレン系エラストマ一、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレンと1 -ブテンから成るランダム共重合体、プロピレン-塩化ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-ビニルアルコール共重合体、プロピレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリプロピレン組成物、及び、ポリブテン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、エチレンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、1-ブテンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、シェラック、トウモロコシやサトウキビ等の植物を原料とするポリエチレン、ポリプロピレン等のバイオマス由来のポリオレフィン、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックス及び合成樹脂のラテックス[エチレン-塩化ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、プロピレン-塩化ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、ポリビニルアセテートの水性樹脂エマルジョン、ポリメチル(メタ)アクリレートの水性樹脂エマルジョン、水性高分子-イソシアネート系エマルジョン]であり、接着樹脂層の厚さが1マイクロメートル以上200マイクロメートル以下である請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の積層シート。
【請求項4】
シーラントフィルム層を成す樹脂が低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンのエチレン系ホモポリマー、及び、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリエチレン組成物、及び、ポリプロピレン、プロピレン系エラストマ一、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレンと1 -ブテンから成るランダム共重合体、プロピレン-塩化ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-ビニルアルコール共重合体、プロピレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むプロピレン系共重合体を含むポリプロピレン組成物、及び、ポリブテン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、エチレンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、1-ブテンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、シェラック、トウモロコシやサトウキビ等の植物を原料とするポリエチレン、ポリプロピレン等のバイオマス由来のポリオレフィン、紫外線硬化性樹脂であり、シーラントフィルム層の厚さが3マイクロメートル以上300マイクロメートル以下である請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層及び/又はシーラントフィルム層が抗菌性物質、抗ウイルス性物質、磁性粉及び蛍光性物質から選ばれる物質を有する請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の少なくとも1面に及び/又はシーラントフィルム層の少なくとも1面に印刷層を有する請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層と請求項4に記載の樹脂から成るシーラントフィルム層の間に請求項3記載の接着樹脂を塗布するか溶融状態で押し出しながら、積層工程が連続式または枚様式(各層ずつ処理していくタイプ)で行われる請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートの製造方法。
【請求項8】
アンカーコート層が設けられている水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層と請求項4に記載の樹脂から成るシーラントフィルム層の間に請求項3記載の接着樹脂を塗布するか溶融状態で押し出しながら、積層工程が連続式または枚様式(各層ずつ処理していくタイプ)で行われる請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羊毛、鶏や水鳥類の羽毛、哺乳動物の角や蹄等から誘導される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使って成形される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質のシート(本発明では、以降、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層と称する)に熱可塑性樹脂から成るシーラントフィルム層を積層することで、耐水性に優れる水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートを製造する方法に関する。本発明での積層シートとは、平面な板状シートあるいは容器の壁などのように曲面のあるシートであり、厚さは200mm以下である。なお、本発明では、該シーラントフィルム層が水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層上に、接着樹脂層を介して、もしくはアンカーコート層と接着樹脂層を介して、設けられる。
【背景技術】
【0002】
紙、布、ガラス、金属、電子材料等の表面にポリマーのフィルム等を積層(ラミネーション)して、基材の特性を保護したり、新たな機能を持たせたりすることが広く知られている(非特許文献1,非特許文献2)。特許文献も多い。例えば、熱可塑性樹脂シートにポリ塩化ビニル樹脂組成物シートを積層するもの(特許文献1)、紙基材層に石油系プラスチックフィルムを、アンカーコート層を介して、積層して紙積層シートを製造するもの(特許文献2)、石油系プラスチックフィルム基材層に無機蒸着膜を積層するもの(特許文献3)、ラミネート印刷インキ組成物を有する積層体を製造するもの(特許文献4)、可食性ゼラチンから成る水易溶性フィルムにシェラックから成る水難溶性フィルムを積層する食品分離シート材(特許文献5)、ゼラチンフィルムに生分解吸収性高分子の布、フィルム等を積層した医療用フィルム(特許文献6)、ゼラチンやフィブロイン支持層とシート状細胞培養物から成る医療用積層体(特許文献7)、木製基板上に羊毛やポリエステルの短繊維集合体や紙等を積層させて調湿や揮発性有機化合物(VOC)の吸収などの機能を有する内装用パネル(特許文献8)等である。羊毛や人髪によるホルムアルデヒドガスの吸収は広く知られているところである(非特許文献3)。
【0003】
一方、本発明者は羊毛、羽毛、角や蹄のケラチンタンパク質含有物質に着目して、水に不溶であることを特徴とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を調製し、シートや容器などの成形品を製造した(特許文献9)。また、上記の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質にポリウレタン樹脂やポリエポキシ樹脂等を添加して混練したものを加熱加圧してシート状に成形し、これに、アンカーコート層や接着樹脂層を設けること無く、ポリ乳酸フィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムなどを重ねて加熱加圧して積層することで耐水性が向上したシートを得た(特許文献10)。
【0004】
ちなみに、前述のケラチンタンパク質含有物質は毎年、多量に生産または副生産されている。たとえば、羊毛は服、絨毯などの生活資材として世界で毎年110万トンほどが産出されているが、破れたり古くなったりして使われなくなった羊毛製品は、その大分が、動物の餌や農地の肥料などに使われているか、廃棄・焼却処分されている。食用肉を採取した残りの鶏の羽毛については、米国だけで毎年140万トン、世界全体ではその約5倍の770万トンと推定されているが(非特許文献4)、これらはほとんどが肥料として使うか焼却されている。水鳥などの羽根を使った布団や枕等も、古くなれば、素材ゴミとして廃棄されるか焼却されている(非特許文献5)。前記動物由来のケラチンタンパク質含有物質を有効利用することが望まれている所以である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-290265号公報
【特許文献2】特開2022-069297号公報
【特許文献3】特開2022-031161号公報
【特許文献4】特許第7057846号公報
【特許文献5】特開2015-107832号公報
【特許文献6】特開2004-209228号公報
【特許文献7】特開2011-172925号公報
【特許文献8】特開2014-94543号公報
【特許文献9】特願第2021-132470号
【特許文献10】特願第2023-004305号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Wagner, “Blown film, cast film and lamination procedures”, (米), Multilayer Flexible Packaging, Chapter 9, 2010年、 p.107-112
【非特許文献2】B. Gregory, “Extrusion coating, lamination and coextrusion: complete process manual”, (英), 2017年、Plastics Information Direct
【非特許文献3】P. Ghanbarnejad, A. Goli, B.Bayat, H. Barzkar, A. Talaickhozani, M. Baghen、S. Sanaz, J. Enviro. Treatment Tech, (伊朗), 2014, Vol. 2, No.1, p.12-17
【非特許文献4】The International Wool Textile Organisation (IWTO), “Market Information”, Edition 17, (白比)、 2022年
【非特許文献5】A. Lasekan, F.A. Bakar, D. Hashim, Waste Manag. (蘭)、 2013, Vol. 33, p. 552-565
【非特許文献6】H. Zahn, Parfumerie und Kosmetik, (独), 1984, Vol. 65, p.507-594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者による先の発明(特許文献9、特許文献10)は水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使ったシート、容器などの製造に関している。しかしながら、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質のみ、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質に結着剤や可塑剤を混ぜて製造されるシートなどは(特許文献9)、水中に3時間浸漬すると30%~50重量%も膨潤し、力学強度も劣化するので、改良の余地があった。ちなみに、天然のケラチン物質である人髪、羊毛のような硬いものでさえも、それぞれ27重量%、36重量%の膨潤度を示す(非特許文献6)。また、前記のシートや容器にポリエチレンフィルムやナイロンフィルムなどの樹脂フィルムを、アンカーコート層や接着樹脂層を設置すること無く、直接に重ねて調製された積層シートでは(特許文献10)、膨潤は抑えられたものの、折り曲げたりして強い剪断力が加わると、高分子フィルムが水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層から容易に剥離して耐水性が劣化する欠点があった。本発明では、既報の方法で製造した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質から成るシート(特許文献9、特許文献10)に、アンカーコート層や接着樹脂層を設けることで高分子樹脂から成るシーラントフィルム層が強固に積層されている耐水性シートを製造することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記課題を解決するために以下の手段が採られる。水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使って製造される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の片面もしくは両面に、アンカーコート層を設けた上で、接着用樹脂の溶融物を押し広げるか押し出しながら、シーラントフィルム層を重ね合わせることで水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートを製造する(図1)。積層工程は連続式または枚様式(各層ずつ処理していくタイプ)で行う。なお、前記アンカーコート層の設置は必ずしも必要としなく省くことができる。
【0009】
なお、前記タンパク質基材層の重量をAg/m、積層シート全体の重量をBg/mとするとき、0.5B<A<14000である。
【発明の効果】
【0010】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に、接着樹脂層を介して、又は、アンカーコート層及び接着樹脂層を介して、シーラントフィルム層が積層されている水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートは折り曲げるなどの剪断力に対してシーラントフィルム層の乖離が起こり難くなった。また、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層のみから成るシートに比べて、水の吸収が大幅に抑えられた。さらに、該積層シートは、全重量の過半を占める水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質が土中で生分解されたことから(特許文献9)、生分解され難い石油系プラスチックシートに比べて、地球環境の保全に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層を有する一実施例の積層シートの模型的断面図である。(1)S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層;(2)アンカーコート層;(3)接着樹脂層;(4)シーラントフィルム層。アンカーシート層は省くことができる。図1に示していないが、印刷層を水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層及び/又はシーラントフィルム層の表面に設けることができる。また、抗菌性、抗ウイルス性機能を有する物質や磁性粉体や蛍光性物質をいずれかの前記の層に含ませることができる。図1aと図1bは、それぞれ、該タンパク質基材層の片面と両面に上記の積層シートを有する模型的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明について説明するが、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、同様の効果を発揮する範囲において、種々の実施形態をとることができる。
【0013】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層
先行の特許文献9に記載されている製造工程に準じて、羊毛、羽毛、豚や牛などの哺乳動物の蹄角などのケラチン含有物質を原料として製造される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質に大豆タンパク質、豆乳、脱脂豆乳、牛乳、脱脂粉乳(スキムミルク)、脱脂牛乳、小麦タンパク、おから、卵白、ゼラチン、大豆レシチンなどの結着剤、必要ならポリオールなどの可塑剤を混練して、加熱加圧工程を経て、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層は製造される。
【0014】
また、先行の特許文献10に記載の製造工程に準じて、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質に次の物質群A,又は物質群B,又は物質群Cから選ばれる架橋剤を添加し、必要なら大豆タンパク質、豆乳、脱脂豆乳、牛乳、脱脂粉乳(スキムミルク)、脱脂牛乳、小麦タンパク、おから、卵白、ゼラチン、大豆レシチンなどの結着剤を添加し、また、必要ならポリオールなどの可塑剤を添加し、加熱加圧工程を経て、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層は製造される。
物質群A:ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレン ジイソシアネートプレポリマーアダクト体等のイソシアネート基を2個以上有する公知の物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
物質群B:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂等のエポキシ基を2個以上有する公知の物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
物質群C:(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸のエステル体のモノマーと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーとスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等のモノマーとの共重合体、さらに、エチレンモノマー、プロピレンモノマーに(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーが共重合した共重合体等のカルボン酸基を2個以上有する公知の物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
なお、積層シートの製造にあたって、前記項0013と前記項0014で製造される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の表面を拭いたり、表面に乾燥空気を吹き付けたりして、油やゴミなどの付着物を除いておくことが望ましい。
【0015】
[水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シート]
本発明で名付けるところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートは、図1に示すように、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層及びアンカーコート層及び接着樹脂層及びシーラントフィルム層が配置されている積層シートである。なお、アンカーコート層の設置は省くことができる。
【0016】
アンカーコート層
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層と接着樹脂層との密着を助けるための層である。アンカーコート層は該タンパク質基材層上にあらかじめを設けておくことが好ましいが、アンカーコート層の設置は必ずしも必要としない。アンカーコート層は、公知の反応硬化型接着剤を用いて備えることができ、溶剤タイプの1液硬化型アンカーコート剤、2液硬化型アンカーコート剤等である。また、アンカーコート剤の種類としては、市販されているところのポリイソシアネート系アンカーコート剤、ポリエポキシ系アンカーコート剤、ポリウレタン系アンカーコート剤、ポリエチレンイミン系アンカーコート剤、ポリプロピレン系アンカーコート剤、ポリブタジエン系アンカーコート剤、ポリエステル系アンカーコート剤等を挙げることができる。アンカーコート層の厚さは、特に制限するものではないが、0.01マイクロメートル以上10マイクロメートル以下が好ましい。
【0017】
接着樹脂層
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層、又はアンカーコート層が設けられているところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層、とシーラントフィルム層の中間に接着用樹脂を溶融させつつ押広げるか押し出すことで接着樹脂層が設けられる。接着樹脂層に用いられる物質は低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のエチレン系ホモポリマー、及び、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリエチレン組成物、及び、ポリプロピレン、プロピレン系エラストマ一、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレンと1 -ブテンから成るランダム共重合体、プロピレン-塩化ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-ビニルアルコール共重合体、プロピレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリプロピレン組成物、及び、ポリブテン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、エチレンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、1-ブテンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、シェラック、トウモロコシやサトウキビ等の植物を原料とするポリエチレン、ポリプロピレン等のバイオマス由来のポリオレフィン、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックス及び合成樹脂のラテックス[エチレン-塩化ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、プロピレン-塩化ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン、ポリビニルアセテートの水性樹脂エマルジョン、ポリメチル(メタ)アクリレートの水性樹脂エマルジョン、水性高分子-イソシアネート系エマルジョン]であり、市販の水性樹脂エマルジョンとして、プロピレン-塩化ビニル共重合体やエチレン-塩化ビニル共重合体の水性樹脂エマルジョン(商品名、スミエリート、住化ケミテック株式会社製)を例示することができる。上述した接着樹脂は単独で使用してもよく、適宜ブレンドして用いてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲において、他の樹脂をブレンドしてもよい。
【0018】
接着用樹脂が低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンである場合、そのメルトフローレート(JIS-K7210 190℃ 2.16kg荷重)は5g/10min以上30g/10min以下であることが望ましい。 接着樹脂層の厚さは特に限定されるものではないが、1マイクロロメートル以上200マイクロメートル以下の範囲であることが好ましい。
【0019】
シーラントフィルム層
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に耐水性を付与する層である。シーラントフィルム層に使われる物質は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等、直鎖状低密度ポリエチレンのエチレン系ホモポリマー、及び、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むポリエチレン組成物、及び、ポリプロピレン、プロピレン系エラストマ一、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレンと1 -ブテンから成るランダム共重合体、プロピレン-塩化ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-ビニルアルコール共重合体、プロピレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のポリプロピレン組成物、及び、ポリブテン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、エチレンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、1-ブテンと4-メチル-1-ペンテンの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、シェラック、トウモロコシやサトウキビ等の植物を原料とするポリエチレン、ポリプロピレン等のバイオマス由来のポリオレフィン、及び、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン11を含むポリアミド系樹脂である。なお、ポリオレフィン系フィルムは極性が小さくまた張力に対して伸びが大きいため、ラミネートまたは印刷などの接着力が弱い。そのため、表面をコロナ処理、プラズマ処理、フレーム(火炎)処理などの物理的処理、あるいは表面を酸やアルカリなどで改質する化学的処理、あるいはフィルム表面に微細な砂を振り付けて(サンドブラストまたはサンドマット)微細な凸凹状態にして機械的に接着性を高めたものも使うことができ、これらには、当然、強度を高めた二軸延伸フィルムも含まれる。例示すれば、市販されているポリプロピレンフィルム(商品名、P2002, P2102;東洋紡績株式会社)である。さらに、市販されている紫外線硬化性樹脂も用いてシーラントフィルム層を成すことができる。例示すれば、商品名、UV-1700B、UV-7600B(三菱ケミカル株式会社)である。上述したシーラントフィルム層に使われる樹脂は単独で使用してもよく、またはブレンドして用いてもよい。また、シーラントフィルム層は上述した各種樹脂から成るフィルムを2層以上に、必要ならアンカーコート層を介して、多層化したものでもよい。
【0020】
シーラントフィルム層の耐水性に加えて耐衝撃性やガスバリヤ性を付与することを考慮すると、シーラントフィルム層を成す樹脂はオレフィン系ホモポリマーあるいはオレフィン系共重合体などが適する。特に好適な樹脂は低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレンーポリプロピレン共重合体、ポリメチルペンテン等である。シーラントフィルム層が低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンである場合、メルトフローレート(JIS-K7210 190℃ 2.16kg荷重)は0.1g/10min以上15.0g/10min以下の範囲であり、エチレン-酢酸ビニルの共重合体(10~40重量%)である場合はメルトフローレートが0.1g/10min以上20g/10min以下の範囲であることが望ましい。シーラントフィルム層の厚さは特に限定されるものではないが、3マイクロメートル以上300マイクロメートル以下が好ましい。
【0021】
ラミネート用の市販されているフィルム
接着剤がシーラントフィルム層にあらかじめ設けられているラミネート用フィルムが、多種、上市されていて、接着剤を新たに用いることなく、アンカーコート層が備えられているかあるいは省かれているところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に積層できる。例示すれば、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンなどを成分とするシーラントフィルム層の上に接着樹脂層を重ねた32-250マイクロン厚のラミネートフィルム(東京ラミネックス株式会社)などである。
【0022】
印刷層
意匠性を付与する目的で、あらかじめ水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層及び/又はシーラントフィルム層に印刷をしておくことが望ましい。印刷には公知の染料、顔料やインキが使われる。
【0023】
その他の機能の担持
あらかじめ、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質及び/又はシーラントフィルム用樹脂に抗菌性、抗ウイルス性、蛍光性、磁性などの機能を有する物質を添加しておくことで、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートに抗菌性、抗ウイルス性、蛍光性、磁性などの機能を付与することができる。このためには公知の抗菌剤や抗ウイルス剤、公知の蛍光性物質や公知の磁性粉が使われる。磁性粉としてはガンマ-Fe,Co被着Fe,Fe,Co-Cr,Co-Ni,Baフェライト,Sr-フェライト等を例示することができる。更に、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層及び/又はシーラントフィルム層に公知の染料、顔料、インキなどを混合または印刷することでこれらの層を任意に色付けすることができる。また、シーラントフィルム層用につや消しタイプの市販されているフィルム(例示すれば、商品名、パイレンフィルムOT;東洋紡績株式会社)を使うことでマットな意匠性を持たせることができる。
【0024】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の耐水性化の方法
前記の項0013あるいは項0014で製造された水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に接着用樹脂を溶融状態にて広げて、シーラントフィルム層を設置する方法、あるいは、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に接着用樹脂の水性溶媒液または水性分散液または有機溶媒溶液を塗工し乾燥してからシーラントフィルム層を設置する方法が採られる。より詳しくは以下の様である。水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の片面または両面に、必要ならば、アンカーコート層を塗布するか押し広げて乾燥させて設けておく。水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層又は水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/アンカーコート層の構造を有する2層シートとシーラントフィルムとの間に接着用樹脂を溶融状態で押し広げながらもしくは押し出しながら(いわゆるサンドラミネート法)、あるいは、接着用樹脂の水性溶媒液または水性分散液または有機溶媒溶液を塗工し乾燥してから、シーラントフィルムを加熱加圧して貼り合わせることにより該タンパク質基材層の片側面の耐水性化を完成する(図1a)。同様な方法を該タンパク質基材層の両面に施すことで、シーラントフィルム層/接着樹脂層/アンカーコート層/該タンパク質基材層/アンカーコート層/接着樹脂層/シーラントフィルム層の構成を有する水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートを得る(図1b)。なお、該タンパク質基材層上に接着樹脂層が密着するなら、上記工程からアンカーコート層の設置を省くことができる。前記項0021に示している市販のラミネート用フィルムも利用することができる。
【0025】
本発明では、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の耐水性を上げるためにシーラントフィルム層を設けることを基本しており、以下に実施例に基づき説明するが、以下の実施形態に限定されるものではなく、同様の効果を発揮する範囲において種々の実施形態をとることができる。なお、積層シートの耐水性は水に対する膨潤度で評価しており、以下の方法で測定した。なお、測定試料である水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の切片の重量は電子天秤で秤量し、長さや厚さはマイクロメーターで測定した。
【0026】
膨潤度の測定
(1)積層シートの片面に水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層が露出している場合(図1、1a): 積層シートから直径50mmの試料切片を切り出し、タンパク質層が露出しているところの切り口からの水の侵入による膨潤を防ぐために、切り口をポリウレタン樹脂で、ついでエポキシ樹脂を重ねて塗って耐水化した後、積層シートのタンパク質基材層側を下にして、水平に置いたフッ素樹脂(PTEE)円盤上(直径10cm)の中央部に置き、ついで、積層シートのシーラントフィルム層側に水で濡らした吸水紙(直径47、厚さ0.5mm)を5枚重ねにして載せ、最後に、直径5mmの穴を中央に開けた真鍮円板(直径、47mm;高さ、4.5mm)を吸水紙上に被せ置く。ゴム製円板(直径3cm、厚さ0.5mm)を真鍮ブロックに載せて穴を簡単に塞いだり開けたりすることができるようにしておく。全体は直径15cmのガラスシャーレの中央に静置され、シャーレのフタはせずに開放系である。ついで、試料切片の下部(タンパク質基材層側)に水が流れしみ込まないように注意しながら、吸水紙が水を常に含むように真鍮ブルックの穴より水をスポイトで添加する。全体の温度を25±2℃に保つ。3,12時間後に一時的に該積層試料切片を取り出し、乾いた濾紙片を積層板に軽く押して付着水を除去し、積層シートの重量を計り、膨潤により増分した重量を処理前のシートの重量で割算して膨潤度を百分率(%)で求める;本試験にて、吸水紙の面積は該タンパク質積層シートにほぼ等しいので膨潤度の測定値に大きく影響しない。3枚のタンパク質基材層シートについて膨潤度を測定し平均値を求める。
(2)積層シートの両面ともシーラントフィルム層を有する場合: 積層シートの膨潤度を測定する場合(図1、1b)は、円形シートの端をポリウレタン樹脂で、ついでエポキシ樹脂を重ねて塗って耐水化した後、湯冷ましの水を深さ10mmまで入れたシャーレ内に25℃にて浸ける他は上記と同じ方法で膨潤度を求める。
【実施例0027】
羊毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の製造
特許文献9の実施例1に従って、Herdwick種のウールトップ(繊維長、約5cm~8cm;30g)をステンレススチール製メッシュ(10メッシュ)製の円筒(直径6cm、長さ15cm)の2本に、それぞれ15gずつ巻き、水を加えて、全量を約1リットルとした。加熱して沸騰してから、二亜硫酸ナトリウム(10g)を入れ、同温度で30分間、時々、ゆるく攪拌しながら、エヤーポンプで空気を吹き込みながら、加熱した。室温まで冷却後、不溶物をメッシュから外して、水で洗浄し、再び水を加え,3M苛性ソーダ水溶液を加えることでpHが7.0~8.0になるように調節した。固形物を風乾して水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を得た;収量、約28g(収率、93重量%)。当該S-スルホン化ケラチンタンパク質のアミノ酸分析によるとシステイン、ハーフシスチン残基以外のアミノ酸残基は原料の羊毛繊維の値に準じていた。S-スルホネート基(―S―SO )の含量はFTIRスペクトルでのS-O伸縮振動吸収バンド(1201cm-1と1023cm-1)の面積増減をS-エチルチオスルホ酸ナトリウム(CS-SO Na)を標準試料に使って比較することで概算したところ、原料の羊毛繊維のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の10.7%)の約35%がS-スルホシステイン残基となっていることが示唆された。
【0028】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の製造(1)
前述で得た水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質をカードニングして薄く広げた。これを4つに分け、それぞれをおおよそ直交させながらに積み重ねた(面積、7cmx7cm;合計重量、5.50g)。ついで、脱脂豆乳(1.40g)と卵白パウダー(0.35g)を水(15ml)に分散させ1モル苛性ソーダ水溶液でpH9~10に調整したものを室温にて添加し全体をよく馴染ませてから、60℃以下で全重量が9.4g程度まで風乾し、そのまま2枚の平面のステンレス板(3cm x10cmx10cm)から成るヒートプレスに挟み、30℃/minの加温速度で140℃まで昇温し(最終プレス間隔は0.5mm)、そのまま温度で30秒間保持してから、90℃以下に冷却した後、圧力を解放し、半透明薄褐色のシート成形品を水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層として得た;0.57mm厚。
【0029】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の製造(2)
脱脂豆乳(1.40g)の代わりとして、豆乳(固形分、0.70g)と大豆たんぱく(SPI,0.70g)を使う以外は項0028の方法で、半透明薄褐色のシート状の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層を得た;0.58mm厚。
【0030】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートの製造と膨潤度
前記の項0028で調製した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層に1液ポリエチレンイミン系のアンカーコート剤(商品名、セイカダイン4100、大日本精化工業株式会社製)を塗布し、乾燥して、タンパク質基材層にアンカーコート層を重ねた。このタンパク質基材層/アンカーコート層に溶融した中密度ポリエチレンから成る接着剤用樹脂を押し出しながら、シーラントフィルム層を成すポリエチレンフィルム(厚さ30マイクロメートル)を重ねて、面圧0.35MPa,温度105℃、ラミネート速度4cm/秒で圧着して、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/アンカーコート/接着剤用樹脂/シーラントフィルム層を有する水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートを得た;接着樹脂層の厚さ、15
5マイクロメートル;膨潤度:1%未満(12h)。比較試料の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層のみから成るシートの膨潤度:33%(3h)、43%(12h)。よって、積層処理は水に対する膨潤度を下げたことから、耐水性に大きな効果を示すことが明らかである。
【0031】
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートのホルムアルデヒド吸収性
プラスチック製の箱(本体、ポリプロピレン;蓋、ポリエチレン;直径、13cm、高、10cm;ふた中央に開け閉めのできる直径3cmの穴を設けている)の底の中央付近に前記項0030で調製した積層シート(5cmx5cm)を、タンパク質基材層側を上にして、置き、箱の底隅にホルマリン水溶液(濃度、20重量%;2マイクロリットル)を垂らし、室温にて12時間保った後、ホルムアルデヒド検出試験紙(商品名、ドクターシックハウス;関東化学)を箱上部からつり下げて10時間静置した。試験紙は無色であり、箱の空気中の遊離ホルムアルデヒド濃度は40ミリグラム/m(0.04ppm)以下と判定された。比較試験として、該積層シートを入れない場合、試験紙は黄色に着色したので、プラスチック箱中のホルムアルデヒドガス濃度は80ミリグラム/m(0.08ppm)以上であると判定された。水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層が、羊毛製の絨毯のように、ホルムアルデヒドを吸収したと推定された。
【実施例0032】
羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の製造
大豆タンパク質(SPI,1.40g)と豆乳(3mL;固形分、0.35g)を水(10ml)に分散させ1モル苛性ソーダ水溶液でpH9~10に調整したものを室温にて、前記項0027に準じて調製した鶏毛(羽軸を含む全体)の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(5.5g)に加え、全体をよく馴染ませてから、全体重量が9.4g程度まで60℃以下で風乾し、そのまま2枚の平面のステンレス板(3cm x10cmx10cm)から成るヒートプレスに挟み、30℃/minの加温速度で140℃まで昇温(最終プレス間隔は0.5mm)、そのまま温度を1分間保持した後、90℃以下に冷却してから圧力を解放し、半透明薄黄色のシート成形品を水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層として得た;0.62mm厚。
【0033】
羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートの製造
水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートの製造方法は実施例1の項目0030に準じた。しかし、項目0032で製造した基材層上へのアンカーコート剤の塗工処理は省かれ、合成ゴムラテックス(エマルジョン)を直接に羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の両面に塗工し乾燥して接着剤樹脂層(厚、10~20マイクロメートル)とした。ついで、シーラントフィルム層として厚さ20マイクロメートルのポリプロピレンフィルム(商品名、P2102;東洋紡績株式会社)を加熱圧着して、該タンパク質基材層の両面にシーラントフィルム層を有するシーラントフィルム層/接着剤用樹脂層/水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層/接着剤用樹脂層/シーラントフィルム層の構造を有する積層シートを得た;膨潤度:1%未満(12h)。比較例として、上記製造の該タンパク質基材層のみから成る羽毛シート成形品の膨潤度:37%(3h)、44%(12h)。積層処理で製造された羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートも耐水性が向上したことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質積層シートは水吸収に因る膨潤性が低いために、合成高分子シートから作られている小型カードやより大きなプラスチック板等の代替として用いることができる。片面にのみシーラントフィルム層等が積層されているシートでは、反対側の面にホルムアルデヒド吸収性を示すタンパク質基材層が露出していることから、建築内装材、パネル材等としての利用が可能である。さらに、タンパク質は一般に難燃性であることを鑑みると、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層の片面又は両面に積層されているシートは難燃性建築材料としての利用が可能である。また、該積層シートは、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質基材層が生分解性であることから、自然環境の保全に寄与すると思われる。
図1