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特開2024-130525伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130525
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E01D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040309
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】権藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】横山 秀史
(72)【発明者】
【氏名】野寄 真徳
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059BB37
2D059GG05
(57)【要約】
【課題】鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、鉄道振動の対策箇所を決定することができるようにする。
【解決手段】鉄道の構造物及び構造物が設置された地盤の解析モデルを作成し、構造物に複数の着目点を設定する解析モデル作成部と、解析モデルに基づいて、列車走行時における着目点の変位ベクトルを計算し、地盤の地盤インピーダンスを含む着目点の複素動的剛性マトリクスと変位ベクトルとから、列車走行時における着目点の伝達力ベクトルを計算し、着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから着目点から評価点までの振動伝達経路の寄与度を計算し、評価点の鉄道振動に対する各着目点の影響度を寄与度から計算して、伝達経路解析を行う伝達経路解析部と、影響度を解析モデル上で可視化する解析結果出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における前記評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する対策周波数決定部と、
前記鉄道の構造物及び該構造物が設置された地盤の解析モデルを作成し、前記構造物に複数の着目点を設定する解析モデル作成部と、
前記解析モデルに基づいて、列車走行時における前記着目点の変位ベクトルを計算し、前記地盤の地盤インピーダンスを含む前記着目点の複素動的剛性マトリクスと前記変位ベクトルとから、列車走行時における前記着目点の伝達力ベクトルを計算し、前記着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、前記伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから前記着目点から評価点までの振動伝達経路の寄与度を計算し、前記評価点の鉄道振動に対する各着目点の影響度を前記寄与度から計算して、伝達経路解析を行う伝達経路解析部と、
前記影響度を前記解析モデル上で可視化する解析結果出力部とを備えることを特徴とする伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム。
【請求項2】
前記伝達経路解析部は、前記構造物上にレールを締結するための複数のレール締結装置の位置を列車走行時に前記構造物に加振力が入力される箇所として設定して、前記着目点の変位ベクトルを計算する請求項1に記載の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム。
【請求項3】
前記対策周波数決定部は、前記評価点の鉄道振動の周波数分析を行って前記対策周波数を決定し、
前記伝達経路解析部は、前記対策周波数についてのみ前記伝達経路解析を行う請求項1に記載の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム。
【請求項4】
前記解析結果出力部は、前記影響度を前記解析モデルの着目点にベクトル表示して可視化する請求項1に記載の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム。
【請求項5】
鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における前記評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する工程と、
前記鉄道の構造物及び該構造物が設置された地盤の解析モデルを作成し、前記構造物に複数の着目点を設定する工程と、
前記解析モデルに基づいて、列車走行時における前記着目点の変位ベクトルを計算し、前記地盤の地盤インピーダンスを含む前記着目点の複素動的剛性マトリクスと前記変位ベクトルとから、列車走行時における前記着目点の伝達力ベクトルを計算し、前記着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、前記伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから前記着目点から評価点までの振動伝達経路の寄与度を計算し、前記評価点の鉄道振動に対する各着目点の影響度を前記寄与度から計算して、伝達経路解析を行う工程と、
前記影響度を前記解析モデル上で可視化する工程とを含むことを特徴とする伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行することで引き起こされ、構造物等を経て最終的に地盤まで伝播する振動、すなわち、地盤振動は環境問題となることがある。そのため、鉄道振動の対策を施す必要性が認識されているが、地盤上の構造物に対して対策を施す箇所、すなわち、対策箇所は、振動のモード形状や応力分布などの情報を参考としつつも、最終的には技術者の判断に基づいて決定されているので、効果的な対策箇所の決定が困難である。
【0003】
もっとも、伝達関数を用いた振動や騒音の対策箇所を決定する技術は、既に提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-059094号公報
【特許文献2】特開2006-185193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術は、自動車を対象とするものであって、鉄道振動を考慮していないので、鉄道の構造物に対して対策を実施するに当たって、対策箇所を決定するための十分な知見を得ることが困難であった。
【0006】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、伝達経路解析を用いて評価点の鉄道振動に対する構造物箇所ごとの影響度を可視化することによって、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、鉄道振動の対策箇所を決定することができる伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システムにおいては、鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における前記評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する対策周波数決定部と、前記鉄道の構造物及び該構造物が設置された地盤の解析モデルを作成し、前記構造物に複数の着目点を設定する解析モデル作成部と、前記解析モデルに基づいて、列車走行時における前記着目点の変位ベクトルを計算し、前記地盤の地盤インピーダンスを含む前記着目点の複素動的剛性マトリクスと前記変位ベクトルとから、列車走行時における前記着目点の伝達力ベクトルを計算し、前記着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、前記伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから前記着目点から評価点までの振動伝達経路の寄与度を計算し、前記評価点の鉄道振動に対する各着目点の影響度を前記寄与度から計算して、伝達経路解析を行う伝達経路解析部と、前記影響度を前記解析モデル上で可視化する解析結果出力部とを備える。
【0008】
他の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システムにおいては、さらに、前記伝達経路解析部は、前記構造物上にレールを締結するための複数のレール締結装置の位置を列車走行時に前記構造物に加振力が入力される箇所として設定して、前記着目点の変位ベクトルを計算する。
【0009】
更に他の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システムにおいては、さらに、前記対策周波数決定部は、前記評価点の鉄道振動の周波数分析を行って前記対策周波数を決定し、前記伝達経路解析部は、前記対策周波数についてのみ前記伝達経路解析を行う。
【0010】
更に他の伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システムにおいては、さらに、前記解析結果出力部は、前記影響度を前記解析モデルの着目点にベクトル表示して可視化する。
【0011】
伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定方法においては、鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における前記評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する工程と、前記鉄道の構造物及び該構造物が設置された地盤の解析モデルを作成し、前記構造物に複数の着目点を設定する工程と、前記解析モデルに基づいて、列車走行時における前記着目点の変位ベクトルを計算し、前記地盤の地盤インピーダンスを含む前記着目点の複素動的剛性マトリクスと前記変位ベクトルとから、列車走行時における前記着目点の伝達力ベクトルを計算し、前記着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、前記伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから前記着目点から評価点までの振動伝達経路の寄与度を計算し、前記評価点の鉄道振動に対する各着目点の影響度を前記寄与度から計算して、伝達経路解析を行う工程と、前記影響度を前記解析モデル上で可視化する工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、伝達経路解析を用いて評価点の鉄道振動に対する構造物箇所ごとの影響度を可視化することによって、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、鉄道振動の対策箇所を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態における鉄道振動対策箇所決定システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】本実施の形態における鉄道振動を再現する解析モデルの例を示す図である。
図3】本実施の形態における対策周波数の例を示す図である。
図4】本実施の形態における構造物に入力される加振力の例を示す図である。
図5】本実施の形態における寄与度の精度を確認する例を示す図である。
図6】本実施の形態における複素平面上のベクトルとして表した評価点の鉄道振動と寄与度との例を示す図である。
図7】本実施の形態における鉄道振動を再現する解析モデル上で可視化された影響度の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本実施の形態における鉄道振動対策箇所決定システムの機能構成を示すブロック図である。
【0016】
図において、10は、本実施の形態における伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システムであって、伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定方法を実行して、伝達経路解析を用いて地盤上の評価点の鉄道振動に対する影響度を計算して可視化することによって、鉄道の所定の線区における構造物に対して鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、構造物における鉄道振動の対策箇所を決定するために使用される一種のコンピュータシステムである。なお、前記鉄道振動対策箇所決定システム10は、CPU、MPU等の演算装置、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶装置、キーボード、マウス、タッチパネル、データ入力ポート等の入力装置、CRT、液晶ディスプレイ、プリンタ、データ出力ポート等の出力装置、通信インターフェイス等を備えるコンピュータ内に構築されたコンピュータシステムである。そして、前記コンピュータは、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、タブレットコンピュータ等であるが、記憶装置にインストールされたアプリケーションソフトウェア等のプログラムに従って動作するコンピュータであればいかなる種類のものであってもよく、また、単独のコンピュータであってもよいし、複数台のコンピュータをネットワークで通信可能に接続したコンピュータ群であってもよい。また、前記鉄道振動対策箇所決定システム10は、インターネット、イントラネット、LAN、WAN等の図示されない通信回線網又は通信回線を介して、外部のデータベース等に通信可能に接続されたものであってもよい。
【0017】
前記鉄道振動対策箇所決定システム10は、機能の観点から、あらかじめ現地で測定した鉄道振動の数値が入力されると対策周波数を決定する対策周波数決定部11と、解析モデルを作成する解析モデル作成部12と、伝達経路解析(例えば、非特許文献1参照。)を行う伝達経路解析部13と、着目点の影響度を可視化する解析結果出力部14とを備える。
【0018】
【非特許文献1】小泉、辻内、仲村、城戸、橋岡、「多岐伝達経路を有する構造体の振動伝達特性の抽出と可視化」、日本機械学会論文集(C編)、76巻772号(2010-12)、pp.3301-3308、論文No.10-0246
【0019】
前記対策周波数決定部11は、鉄道の所定の線区においてあらかじめ現地でオペレータによって測定された評価点の鉄道振動の数値が入力されると、該鉄道振動の数値の周波数分析に基づいて対策周波数の数値を決定する。
【0020】
前記解析モデル作成部12は、鉄道の所定の線区における鉄道振動を再現する解析モデルを作成し、評価点の鉄道振動を計算し、対策可能性箇所を着目点として、N(Nは着目点の総数)箇所決定する。
【0021】
前記伝達経路解析部13は、伝達経路解析を行い、列車走行時における着目点の変位ベクトルを計算し、着目点の複素動的剛性マトリクスを出力し、前記変位ベクトルと複素動的剛性マトリクスとから列車走行時における着目点の伝達力ベクトルを計算する。なお、前記複素動的剛性マトリクスは、一般的に、振動応答の計算過程で得られる。前記伝達経路解析部13は、さらに、着目点から評価点までの伝達関数ベクトルを計算し、前記伝達力ベクトルと伝達関数ベクトルとから、各着目点から評価点に伝達される鉄道振動の寄与度を計算し、前記評価点の鉄道振動と寄与度の総和とを比較して寄与度の精度を確認し、前記評価点の鉄道振動に対する前記着目点の影響度を前記寄与度から計算する。なお、前記伝達経路解析部13は、x、y、z、rx、ry及びrzの6自由度のすべてに関して計算を行う。
【0022】
前記解析結果出力部14は、前記影響度を解析モデル上で可視化し、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所をオペレータが特定し得るようにする。
【0023】
次に、前記構成の鉄道振動対策箇所決定システム10の動作について説明する。
【0024】
図2は本実施の形態における鉄道振動を再現する解析モデルの例を示す図、図3は本実施の形態における対策周波数の例を示す図、図4は本実施の形態における構造物に入力される加振力の例を示す図、図5は本実施の形態における寄与度の精度を確認する例を示す図、図6は本実施の形態における複素平面上のベクトルとして表した評価点の鉄道振動と寄与度との例を示す図、図7は本実施の形態における鉄道振動を再現する解析モデル上で可視化された影響度の例を示す図である。
【0025】
本実施の形態における鉄道振動対策箇所決定システム10は、鉄道振動の対策を検討又は実施する際に、構造物に対して対策を施す箇所、すなわち、対策箇所を決定するために使用されるものであり、伝達経路解析を用いて評価点の鉄道振動に対する寄与度を計算して可視化することによって、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、鉄道振動の対策箇所を決定するためのものである。
【0026】
ここでは、説明の都合上、前記構造物がラーメン高架橋であるものとして説明するが、前記構造物は、鉄道構造物であればいかなる種類のものであってもよく、例えば、桁式高架橋、橋梁、トンネル等であってもよい。そして、図2は、鉄道振動を再現する解析モデルの例を示す図であって、張り出し式ラーメン高架橋区間の一部(1セット)である。なお、前記解析モデルにおいては、1セット当たり、径間(スパン)3×6〔m〕+張り出し部2×3〔m〕=24〔m〕となっている。また、図2において、20はラーメン高架橋としての高架橋、21はその上面に図示されないレールが敷設されている橋桁(高架スラブ)、22は橋桁21を下方から支持する橋脚、23は各橋脚22の下端部で側方に突出するフーチング、○で囲まれた×は着目点24である。ここで、前記橋脚22は、橋桁21の長手方向に延在する柱列を左右2本形成するように、並んで配設されているものとし、前記着目点24は、橋脚22の根元から高さ1.3〔m〕の箇所であるものとして説明する。
【0027】
また、前記評価点は、鉄道の沿線における地盤上であればいかなる箇所乃至地点であってもよく、単数でも複数でもよいが、ここでは、鉄道振動が環境問題とならないようにする、との観点、及び、説明の簡素化の観点から、鉄道の敷地境界上の一点であるものとして、説明する。そして、図2に示される解析モデルでは、柱中心から橋軸直角方向に11〔m〕の箇所に位置するように設定される。
【0028】
まず、オペレータは、事前に、鉄道の所定の線区の沿線において前記評価点を設定し、前記線区を実際に列車が走行する際の前記評価点における鉄道振動を現地で測定する。例えば、前記評価点における鉄道振動の加速度を振動レベル計を用いて測定する。
【0029】
続いて、オペレータが、測定した鉄道振動の数値を鉄道振動対策箇所決定システム10に入力すると、対策周波数決定部11は、周波数分析を行い、対策周波数を決定する。例えば、図3に示されるように、中心周波数で1~80〔Hz〕について1/3オクターブバンド分析を行い、振動レベルが最も大きい周波数帯域Fを求めた後、FFT(Fast Fourier Transform)分析を行い、周波数帯域Fの範囲内で最も振幅が大きい周波数(図3に示される例において20〔Hz〕)を対策周波数とする。
【0030】
また、解析モデル作成部12は、まず、鉄道振動を再現する解析モデルを作成する。例えば、図2に示されるような高架橋20の解析モデルを有限要素法でモデル化するとともに、前記高架橋20が設置された箇所の地盤を薄層要素法でモデル化する。これにより、動的連成解析を行い得る解析モデルが作成される。該解析モデルは、必ずしも図2に示されるものに限定されるものでなく、例えば、図2に示される1セットのモデルを5個連続させたもの、すなわち、連続する5セットから成る解析モデルを作成することもできる。この場合、例えば、15385個のノード(45個は地盤上の評価点ノード)と、13280個のエレメントを含むものとなる。なお、前記解析モデルは、例えば、シーメンスPLMソフトウェア株式会社が販売するソフトウェアであるSimcenterFemap Version 2021 2 MP1 を使用して作成することができる。また、当該ソフトウェアを使用すると、前記解析モデルの作成のみならず、該解析モデルを用いた解析結果の可視化も行うことができる。
【0031】
続いて、解析モデル作成部12は、着目点24をN箇所設定する。ここで、前記着目点24は、対策箇所となり得る箇所、すなわち、対策可能性箇所であって、図2に示される例において、橋脚22の根元から高さ1.3〔m〕の箇所である。
【0032】
次に、伝達経路解析部13は、前記解析モデルに基づいて、列車走行時における着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算する。この場合、伝達経路解析部13は、橋桁21上に設置された複数のレール締結装置の位置を、列車走行時に構造物である高架橋20に加振力が入力される箇所として設定して、着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算する。前記連続する5セットから成る解析モデルの場合、レール締結装置の位置は、左右のレール位置に200点ずつであり、合計400点である。なお、加振力は、列車の走行によって各振動源、すなわち、各レール締結装置の位置に入力される力である。つまり、伝達経路解析部13は、列車走行時における着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算する際に、複数のレール締結装置のそれぞれの位置に対して、別途行われる列車走行解析によって計算された加振力を入力する。図4は、連続する5セットから成る解析モデルにおいて、複数のレール締結装置のそれぞれの位置に入力される加振力の例を示している。図4からは、それぞれの位置に入力される加振力の振幅と位相が互いにずれていることが分かる。
【0033】
続いて、伝達経路解析部13は、着目点24の複素動的剛性マトリクス[K(f)]を出力する。該複素動的剛性マトリクス[K(f)]は、一般的に、振動応答の計算過程で得られる。
【0034】
続いて、伝達経路解析部13は、着目点24の変位ベクトル{X(f)}と複素動的剛性マトリクス[K(f)]とから、次の式(1)で表される列車走行時における着目点24の伝達力ベクトル{R(f)}を計算する。
{R(f)}=[K(f)]{X(f)} ・・・式(1)
【0035】
なお、非特許文献1には、自動車のような構造物における振動の伝達経路解析で伝達力の計算に使用するために、次の式(2)のような伝達力ベクトル{R(f)}を表す式が示されている。
{R(f)}=(-ω2 [M]+[K]){X(f)} ・・・式(2)
【0036】
ここで、ωは角周波数、[M]は構造物の質量マトリクス、[K]は構造物の剛性マトリクスである。
【0037】
しかしながら、鉄道振動対策箇所決定システム10のように鉄道振動を取り扱う場合には、解析の対象物には、構造物だけでなく、構造物が設置された箇所の地盤も含まれるので、構造物情報である(-ω2 [M]+[K])に加えて、地盤情報としての地盤インピーダンス[KG (f)]を考慮する必要がある。
【0038】
そこで、伝達力ベクトル{R(f)}は、前記式(2)に代えて、地盤インピーダンス[KG (f)]を考慮に入れた次の式(3)で表されることとなる。
{R(f)}=(-ω2 [M]+[K]+[KG (f)]){X(f)}・・・式(3)
【0039】
ここで、(-ω2 [M]+[K]+[KG (f)])=[K(f)]を前記式(3)に代入すると、前記式(1)を得ることができる。
【0040】
なお、着目点24の変位ベクトル{X(f)}や地盤インピーダンス[KG (f)]の計算等は、例えば、株式会社構造計画研究所が販売するソフトウェアであるSuperFLUSH/3D を使用して行うことができる。また、行列式等の四則演算は、例えば、米国のMathWorks 社が販売するソフトウェアであるMATLAB R2022b を使用して行うことができる。
【0041】
続いて、伝達経路解析部13は、着目点24から評価点までの伝達関数ベクトル{H(f)}を計算する。すべての着目点24から評価点までの伝達関数ベクトル{H(f)}は、評価点を単位加振することによって一度に取得することができる。
【0042】
続いて、伝達経路解析部13は、伝達力ベクトル{R(f)}と伝達関数ベクトル{H(f)}とから、各着目点24から評価点に伝達される振動Q(f)を計算する。なお、評価点における振動Q(f)は、各着目点24から評価点までの各振動伝達経路の寄与度C(f)の総和であり、次の式(4)で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、Hi (f)はi番目の着目点24から評価点までの振動の伝達関数、Ri (f)はi番目の着目点24の伝達力ベクトル、Ci (f)はi番目の着目点24から評価点までの振動伝達経路の寄与度、iは着目点番号、Nは着目点総数である。
【0045】
続いて、伝達経路解析部13は、寄与度C(f)の総和である評価点の振動Q(f)と事前の現地測定によって得られる評価点の鉄道振動Qoriginal(f)とを比較し、図5に示されるように、寄与度C(f)の精度を確認する。
【0046】
続いて、伝達経路解析部13は、評価点の鉄道振動Qoriginal(f)に対する寄与度C(f)の影響度I(f)を、次の式(5)に従って計算する。
I(f)=|C(f)|cosθ ・・・式(5)
【0047】
ここで、θは鉄道振動Qoriginal(f)と寄与度C(f)との位相差である。
【0048】
なお、図6は、位相差がθである鉄道振動Qoriginal(f)と寄与度C(f)とを複素平面上におけるベクトルとして表した例である。
【0049】
本実施の形態において、伝達経路解析部13は、各種の計算をx、y、z、rx、ry及びrzの6自由度のすべてに関して行うようになっている。なお、周波数については、対策周波数決定部11が決定した対策周波数についてのみ伝達経路解析を行うようになっているので、解析時間を短縮することができる。例えば、地盤インピーダンス[KG (f)]は複素動的剛性マトリクスであり、周波数依存性を有するので、通常であれば、周波数毎に計算する必要があり計算に長時間を要するが、本実施の形態においては、対策周波数についてのみ計算を行えばよいので、短時間で計算することができる。
【0050】
次に、解析結果出力部14は、伝達経路解析部13が計算した影響度I(f)を解析モデル上で可視化する。例えば、図7に示されるように、解析モデルの着目点24に影響度I(f)をベクトル表示することによって可視化することができる。
【0051】
そして、解析結果出力部14がこのように解析モデル上で可視化された影響度I(f)を、例えば、液晶ディスプレイに表示して出力すると、オペレータは、表示された内容に基づいて、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、当該箇所を鉄道振動の対策箇所として決定することができる。
【0052】
このように、本実施の形態における伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム10は、鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する対策周波数決定部11と、鉄道の構造物である高架橋20及び高架橋20が設置された地盤の解析モデルを作成し、高架橋20に複数の着目点24を設定する解析モデル作成部12と、解析モデルに基づいて、列車走行時における着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算し、地盤の地盤インピーダンス[KG (f)]を含む着目点24の複素動的剛性マトリクス[K(f)]と変位ベクトル{X(f)}とから、列車走行時における着目点24の伝達力ベクトル{R(f)}を計算し、着目点24から評価点までの伝達関数ベクトル{H(f)}を計算し、伝達力ベクトル{R(f)}と伝達関数ベクトル{H(f)}とから着目点24から評価点までの振動伝達経路の寄与度C(f)を計算し、評価点の鉄道振動に対する各着目点24の影響度I(f)を寄与度C(f)から計算して、伝達経路解析を行う伝達経路解析部13と、影響度I(f)を解析モデル上で可視化する解析結果出力部14とを備える。
【0053】
また、本実施の形態における伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定方法は、鉄道の沿線における地盤上に設定された評価点で測定された列車走行時における評価点の鉄道振動が入力されると、対策周波数を決定する工程と、鉄道の構造物である高架橋20及び高架橋20が設置された地盤の解析モデルを作成し、高架橋20に複数の着目点24を設定する工程と、解析モデルに基づいて、列車走行時における着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算し、地盤の地盤インピーダンス[KG (f)]を含む着目点24の複素動的剛性マトリクス[K(f)]と変位ベクトル{X(f)}とから、列車走行時における着目点24の伝達力ベクトル{R(f)}を計算し、着目点24から評価点までの伝達関数ベクトル{H(f)}を計算し、伝達力ベクトル{R(f)}と伝達関数ベクトル{H(f)}とから着目点24から評価点までの振動伝達経路の寄与度C(f)を計算し、評価点の鉄道振動に対する各着目点24の影響度I(f)を寄与度C(f)から計算して、伝達経路解析を行う工程と、影響度I(f)を解析モデル上で可視化する工程とを含んでいる。
【0054】
これにより、評価点の鉄道振動に対する各着目点24の影響度I(f)が可視化されるので、鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定することができ、鉄道振動の対策をどの箇所に施せば効果的であるかを判断し、鉄道振動の対策箇所を決定することができる。
【0055】
さらに、伝達経路解析部13は、高架橋20上にレールを締結するための複数のレール締結装置の位置を列車走行時に高架橋20に加振力が入力される箇所として設定して、着目点24の変位ベクトル{X(f)}を計算する。したがって、鉄道振動をより正確に把握して振動の伝達経路解析を行うことができる。
【0056】
さらに、対策周波数決定部11は、評価点の鉄道振動の周波数分析を行って対策周波数を決定し、伝達経路解析部13は、対策周波数についてのみ伝達経路解析を行う。したがって、計算時間を短縮することができる。
【0057】
さらに、解析結果出力部14は、影響度I(f)を着目点24にベクトル表示して可視化する。したがって、オペレータは、容易に鉄道振動の大きさを決定付ける箇所を特定し、当該箇所を鉄道振動の対策箇所として決定することができる。
【0058】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示は、伝達経路解析を用いた鉄道振動対策箇所決定システム及び方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 鉄道振動対策箇所決定システム
11 対策周波数決定部
12 解析モデル作成部
13 伝達経路解析部
14 解析結果出力部
20 高架橋
24 着目点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7