(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130532
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】屑鉄の大量溶解装置
(51)【国際特許分類】
F27B 14/14 20060101AFI20240920BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20240920BHJP
F27D 13/00 20060101ALI20240920BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F27B14/14
F27D11/06 A
F27D13/00 D
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040318
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【テーマコード(参考)】
4K014
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
4K014CB07
4K014CD01
4K014CD11
4K046AA01
4K046BA01
4K046CA03
4K046CD02
4K046CE01
4K046CE04
4K046DA03
4K063AA04
4K063AA12
4K063CA01
4K063CA05
4K063FA34
4K063FA43
4K063FA44
4K063GA01
4K063GA09
(57)【要約】
【課題】 CO2排出の少ない屑鉄の大量溶解装置を提供する。
【解決手段】 アーク炉に替わって誘導炉を使用する。該炉の基本問題である電力と耐火物原単位軽減のため、高周波誘導溶解炉の上方に低周波予熱塔を着脱自在に付設する。
予熱塔の出力を溶解炉の出力の約50%とし、キューリー点まで効率的に予熱する。
熔解能率は50%向上する。予熱と熔解が一体型の先行例(特許文献2)と比較して耐火物消費は格段に軽減し、能率向上に対応して耐火物原単位がさらに軽減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屑鉄を処理するるつぼ型の高周波誘導溶解炉において、高周波誘導溶解炉の上方に間隙を設けて下広円筒状で同軸の低周波誘導予熱塔を退避自在に配置し、該低周波予熱塔の出力を前記高周波誘導溶解炉の出力の35%以上65%以下として、溶解能力を強化したことを特徴とする誘導溶解炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在屑鉄の大量処理を担っているアーク式溶解炉に代替可能な誘導溶解炉に関している。
【背景技術】
【0002】
屑鉄を主原料としアーク熱溶解による電炉製鋼法は特殊鋼用として誕生成長し、その後地産地消型の普通鋼中小規模鉄鋼業の基幹設備として広範に普及、今日生産量が製鋼総量の約30%に達するだけでなく、主流の高炉-転炉製鋼法と比較して資源の自給・エネルギー消費・CO2発生量及び投資効率の有利性からその意義が再認識されつつある。国内では設備技術・操業技術・製品品質・公害対策とも高度に進展、技術的にはもはや大きな飛躍は望めない観がある。
【0003】
他方、対極には本願発明の図面の
図5に例示するように少量多品種の金属溶解には鋳鉄を含め、熔解容量が数トン以下の高周波・低周波の誘導溶解炉が多用されている。精錬機能は低いが良質原料を使用し、主として溶解・合金化のみの機能を果たし、使い勝手がよい。問題は当然ながらアーク式大型溶解炉と比較して電力原単位が大きいことである。
ここ数年、海外では誘導溶解炉の容量が急速に拡大して量産普通鋼に適用可能となり、特に低開発国では設備投資総額が小さい故に普及が速く、異様な発展を示しつつある。
エネルギー・耐火物等の原単位はアーク炉にまだまだ及ばないものの大きな可能性を秘める。
【0004】
アーク炉の問題点を検討する。コストの過半を占める電力に対してその節減が長く追求され、現在優れた製鋼工場の電力原単位は300kWh/t以下と低位である。変圧器の増強、酸素・LNGバーナーの付設、原料の連続装入、スクラップ・プレヒーターの付設、炭材投入による発泡スラグ操業等々が寄与している。
その結果、LNG原単位は5~10Nm3/t、酸素ガス30~40Nm3/t、炭材5~10kg/t、最大30kg/tと補助燃料が増加している。炭材の使用はCO2の抑制に対して大いに問題含みである。
【0005】
非特許文献1には、新鋭アーク炉に関する詳細な説明がある。それによると大量の熱排ガスを効率的に原料屑鉄の予熱に活用するものであって、消費電力の削減は著しいが、大量の酸素ガス(40Nm3/t)とそれに見合う大量のLNGと炭材が消費される。炭材消費が30kg/t(3%Cに相当)を超えると転炉における脱炭量と大差がなくなり、CO2発生量が過大になる。今後の製鋼方法としては問題が大きい。
【0006】
誘導炉の問題点を検討する。
非特許文献2には通常のアーク炉対大型誘導炉の普通鋼実操業における比較が詳述されている。電力原単位は、約350kWh/t対約600kWh/tであって、誘導炉は圧倒的に不利である(Figure 3)。原因は溶解サイクル(通称 Tap to Tap)がアーク炉では約60分以下に対して誘導炉では約150分(電源容量の設計値が低位と推測)であって、能率が低くエネルギーの損失が増加していると考えられる(Figure 4)。
【0007】
電力差は約250kWh/tとなるが、誘導炉では高価な黒鉛電極棒を使用しない利点がある。当該費用を電力に換算すると約100~150kWh/tに相当する。アーク炉は補助燃料を使用しているので差はさらに縮まる。誘導炉の低能率を解決すると両者の差異は克服不可能とは言い切れない水準であろう。
【0008】
低能率の改善策として、上記の事例では誘導炉を3基併設して見かけ上溶解サイクルを50分とし、後続工程の需要量に対処している。経営的には意味があってもエネルギー効率面では効果が大きくない。
特許文献1には、少量多品種のAl合金溶解において電力消費改善策として、バーナーを持つ水平式予熱炉を近傍に設け、原料を一定温度に予熱後誘導炉に装入することが記載されている。これは量産普通鋼に対しても参考になる策である。
【0009】
誘導炉の他の問題として、屑鉄を大量溶解すると多量の浮遊スラグが発生し、耐火物の耐久を低下させる。脱炭・脱燐・脱ガス等の精錬も必要でありスラグは効果的な機能を果たさなければならない。耐火物問題の改善は容易ではない。
【0010】
誘導炉において本来意図したことではないが新たな利点がある。補助熱源としての炭材やスラグ発泡用の炭材を要しないことである。将来の炭素税を勘案すると先進国においても十分競争力を持ち得る溶解炉・製鋼方法に成長する可能性を秘める。
【0011】
特許文献2には、量産用誘導溶解炉の改良策が開示されている。それによるとるつぼ型誘導溶解炉において、るつぼ深さを拡張し、熔落時の深さに該当する外周には従来同様高周波コイルを配置し、上方のフリーボード部の外周には低周波コイルを配置して、1)出力の増強・溶解能率の向上を通して電力節減、2)誘導効率の向上(キューリー点までの加熱は低周波では効率は70%以上で高周波よりも高い)による節減が期待される。
【0012】
当該装置の問題点は、傾転による出鋼時にはフリーボード部も溶鋼に接するので容器全体を誘導炉用の耐火物でライニングしなければならない。該耐火物の施工・管理・補修・耐久にはとかく問題が多い。誘導効率上、耐火物厚は大きくできない。耐火物にワレが発生し、溶鋼がコイルまで差し込むと操業停止になる。耐火物の耐蝕性とワレ発生には反比例の関係があって、耐火物コストの問題が大きい。誘導炉用の非焼結性耐火物は高価格でありしかも煉瓦積みよりも施工工数が大きい。溶蝕部の適切な補修方法が無い等々。誘導溶解能力の強化とエネルギー効率改善には耐火物問題を解決しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】公開特許公報2021-71230
【特許文献2】特許公報第7128600号
【0014】
【非特許文献1】水上ら、ふぇらむ Vol.26(2021) No.12 p.737 革新的スクラップ予熱型電気炉の開発
【非特許文献2】Harald,SEAISI Qoarterly Journal 2017 Vol.46 No.2, p.6 Induction Furnace Versus Electric Arc Furnace in Steel Making Process
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明は、屑鉄の大量処理に適用されているアーク加熱電気炉製鋼法において、大量に発生しているCO2ガスを削減することを目的とし、そのためにはアーク炉に替わって排ガスが圧倒的に少ない高周波誘導炉を使用することを原則とする。該誘導炉を使用する場合、アーク炉と比較して溶解能率(t/h)の低さから電力源単位が2倍近くになるという決定的と思える問題がある。当該問題の主原因は溶解能率がまだまだ低いことにあり、即ち低能率が各種の熱損・耐火物損を増大させていることに鑑み、誘導炉の溶解能率を強化することが解決策の一つである。特許文献2において開示された炉高を拡張して既存の高周波コイルの上方に低周波コイルを増設する策は溶解能率の強化には有効だが、溶解炉室の拡張が高価な耐火物の消費を増大させる。本願発明は当該の2段加熱の方法における耐火物コストの低減を解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、屑鉄を処理するるつぼ型の高周波誘導溶解炉において、高周波誘導溶解炉の上方に間隙を設けて下広円筒状で同軸の低周波誘導予熱塔を退避自在に配置し、該低周波予熱塔の出力を前記高周波誘導溶解炉の出力の35%以上65%以下として、溶解能力を強化したことを特徴とする誘導溶解炉である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の誘導溶解炉の構造は、高周波溶解炉の上方に低周波予熱装置を連結させて屑鉄の効率的予熱を付加したものである。
第1の効果は、高価で且つ耐久に問題のある溶解炉室用の耐火物の施工量が先行例(特許文献2の2段コイル)と比較して約半減する。低周波予熱塔の耐火物の熱負荷は極めて軽く、耐火物は約700℃の耐火性があれば良く、しかも耐久に大きく影響するスラグとの反応が全くないので予熱塔の耐久は半永久的で耐火物費用は問題とならない。
【0018】
第2に、新たな加熱装置の付設による溶解能率(t/h)の向上である。溶解能率の向上は種々の効果を生む。
1)初めに生産力の増強である。需要堅調な地域では有力な経営手段となる。
2)炉壁からの伝導熱損失、溶鋼面からの放射熱損失、誘導回路の自己誘導損失等を相対的に減少させ、コスト最大要因の電力原単位(kWh/t)を向上させる。
3)第2のコスト要因である耐火物原単位を改善する。耐火物の損耗は、ヒートサイクル数・高温負荷時間及びスラグとの反応性に影響を受ける。溶解能率の向上は上記の負荷時間,スラグとの反応に対して有利に作用する。
【0019】
第3の効果は、誘導加熱効率の向上である。屑鉄の満載状態では底部は溶解、頂部は常温に近い。誘導加熱の入力効率は、表皮効果に関する計算式から被加熱材の電気抵抗・透磁率及び電源の周波数等の影響を強く受ける。キューリー点(約770℃)以下では磁性を活用した低周波が高周波よりも有利であり、以上では高周波が有利であることは当業者には周知である。
本願発明はこの原理を応用し、低周波部分(約700℃以下)における加熱効率は従来の高周波単一よりも相当向上する。高周波部分も非磁性一様となって、回路のインピーダンスが安定し、加熱効率がある程度向上する。
【0020】
電源設備費は総設計出力の約1/3が高価格の高周波から低価格の低周波(50または60Hz又は300Hzまで)に変更されるのでその分割安になる。
【0021】
第4の効果は、誘導炉そのものの効果であるが、アーク炉のように大量の熱排ガスを発生しない。アーク熱の吸収効率を上げるための炭材投入(熱源にもなる)による発泡スラグの発現を要しない。炭材投入・CO反応の促進に起因する溶鋼攪拌による溶解促進も要しない。誘導加熱が誘導攪拌を伴っている。その結果CO2発生は格段に低減する。
本願発明の2段階式誘導加熱は当該効果を加えることがあっても減ずることはない。
【0022】
第5の効果は、本願発明の予熱塔は着脱自在であって諸作業が先行例(特許文献2)と比較して格段にやり易い。例えば誘導炉の難点である棚刷りに対して酸素バーナーを使用して容易に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本願発明の2段誘導溶解炉の縦断面模式図である。
【
図2】本願発明の2段誘導溶解炉による屑鉄の溶解途上の状態1を示す。
【
図3】本願発明の2段誘導溶解炉による屑鉄の溶解途上の状態2を示す。
【
図4】本願発明の2段誘導溶解炉による屑鉄の溶解途上の状態3を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明の屑鉄大量処理用の誘導炉の構造を
図1に従って説明する。
1は坩堝に相当する有底円筒状の耐火物容器であって屑鉄を内装する。外周にはソレノイド型の高周波コイル2が設けられ、内装された屑鉄を誘導加熱する。該高周波コイル2の外周には柱状の継鉄3が設けられ、磁束を収束して誘導効率の向上と周辺への悪影響を減ずる機能を果たす。該耐火物容器1と高周波コイル2と継鉄3とで誘導溶解炉4が構成される。従来の高周波誘導炉と特に変わる点は無い。
【0025】
誘導溶解炉4の上方には、間隙5をとって下広型円筒状の予熱塔6が同軸に配置される。該予熱塔6は該誘導溶解炉4と同様の構造を持ち、ソレノイド型の低周波コイル7と該低周波コイルの外周に設けられた柱状の継鉄8と内周に設けられた耐火物壁9とから成る。下広型は原料の屑鉄が円滑に落下するようにしたものであり、且つ耐火物の耐久を支える。
【0026】
予熱塔6は台車10上に積載され、軌道11に沿って、前記誘導溶解炉4の直上から状況に応じて容易に退避することができる。誘導溶解炉4からの傾転出鋼に際して、予熱塔6は交錯を回避するため退避しておかねばならない。
【0027】
予熱塔6の上方には原料装入コンベア12が設けられ、さらにその上には集塵ダクト13が設けられる。予熱塔6と誘導溶解炉4との間隙5にはシャッター14,酸素ランス共用の酸素・LNGバーナー15の附設が望ましい。
【0028】
図2に沿って操業方法を説明する。操業開始は原料装入コンベア12から予熱塔6へ屑鉄16を落下装入する。誘導溶解炉4に半分程度装入されると通電開始する。さらに屑鉄16が予熱塔6の半分まで装入されると低周波予熱塔5も通電する。屑鉄16中には適宜石灰CaOを混入しておく。
溶鋼溜まり17が形成されると、酸素・LNGバーナー15を適宜稼働させ、溶解補助・酸化・脱炭・脱燐を図る。屑鉄バルク18は順次低下していく。屑鉄16の装入量が定格量の達すると一端装入を停止する。屑鉄バルク18の最上部が予熱塔6の最下端を通過するとシャッター14を閉じ、原料装入を再開し低周波電源を通電する。
耐火物容器1の底部にはガス吹込み用のプラグ19が設けられ、適宜酸化性ガスを吹き込む。
【0029】
図3はメルトダウン状態を示す。溶鋼表面に浮遊するスラグ20はソレノイド型コイルの特徴であるピンチ力21により容器内周辺部に集合する。溶鋼とスラグ20は激しく撹拌されて化学反応が促進される。
【0030】
図4に示すように、メルトダウン後直ちに予熱塔6を退避させ、誘導溶解炉4をわずかに傾動してスラグ20を出鋼口22部から排出する。その際、プラグ19からガスを吹き込むとスラグは周辺部から出鋼口へ集合する。排出に効果がある。
その後充分に昇温し、傾動して取鍋中(図示せず)に出鋼する。出鋼に際して溶鋼量の10~20%を溶解炉内に残す。次回溶解が円滑に進行する。残湯操業とか、 Hot Heel Operation とか称されている。出鋼が完了すると誘導溶解炉4を垂直位置に復帰し、他方予熱塔6も復帰してシャッター14を開いて、予熱塔6内の屑鉄を落下させる。その後屑鉄の連続装入を続ける。
【0031】
アーク炉のように強力で多数の酸素・LNGバーナーや熱源及びスラグ発泡材である炭材を使用することが無いので排煙は圧倒的に少ない。小規模の集塵装置12で事足りる。
【0032】
誘導溶解炉がアーク式溶解炉に対して競争力を持つには多くの課題がある。電力原単位と耐火物原単位の低減である。そのためには出鋼サイクル(Tap to Tap と称される)のアーク炉なみの短縮、少なくとも60分以下が不可欠であり溶解能力の強化が不可欠である。
公称能力・炉容が設定されると自ずからコイル寸法が限定される。アーク炉のように容易に電源増強とは行かない。本願発明は当該問題に対して予熱塔により対処する。
誘導溶解炉の電源出力は出来る限り大きく設定し、予熱塔の出力は溶解炉出力の50±15%と設定する。根拠は1600℃溶鋼の含熱量に対して磁性材が効果的に加熱される約700℃までの含熱量は約1/3であり、電源出力の1/3を低周波に割り当てればよい。溶解炉の全出力は約50%増強される。35%でも不十分ながら能力強化が得られるのでこれを下限とした。65%は一見過剰のようだが本体の高周波が不足傾向なら意味のある数値であり、これを上限と特定した。
【0033】
耐火物の選定について説明する。誘導溶解炉では耐火物の選定は特に重要である。誘導効率上耐火物厚さは制限され、耐久性に欠ける。その上耐火物温度勾配が大きくなりクラックが発生し易い。耐火物にクラックが発生すると溶鋼が差し込み、漏電・損傷が発生する。銅管製コイルからの漏水は特に危険である。その対策には、
1)耐火物背面にアンテナを設けて、溶鋼侵入を早期に発見する。
2)クラックの発生しにくい耐火物を選定する。非焼結性が良いが耐久性に問題がある。3)耐蝕性の良い耐火物が必要になる。
残念ながら耐クラック性と耐蝕性は整合しにくい。通常、耐クラック性が優先されるので常に耐火物コストが問題になっている。
先行例(特許文献2)では溶解室の耐火物が上方の予熱部分にも必要になる。なぜなら出鋼時には必ず予熱部分も溶鋼に接するからである。高価で低耐久の耐火物の使用量が増加すると言う決定的弱点を持つ。
【0034】
本願発明では予熱塔内は一切溶鋼と接触することはない。炉内温度は約700℃であり耐火物負担は著しく軽い。下広型はエロージョンにも強い。耐久に問題が無い。高級耐火物は溶解室のコイル内面に限定し、溶解室上部や底面には非焼結を考慮する必要が無い。
予熱塔6の附設は溶解能率を向上させる。その分耐火物の負担も軽減される。予熱と溶解を分離することが耐火物問題の決定的解決策となる。
【0035】
適用される周波数について補足する。予熱塔では常温からの加熱であるから磁気ヒステリシスロスを利用することができる低周波が望ましい。通常商用周波数から約300Hzまでである。
低周波コイルの内側では屑鉄の温度はキューリー点(約770℃)以下であって、低周波誘導により、磁気ヒステリシス発熱と誘導電流によるジュール熱との両者によって効果的に予熱される。加熱効率(=被加熱材の含熱量/消費熱量)は適切に設計すると70%以上が得られる。
【0036】
誘導溶解炉では屑鉄はキューリー点を超えているので高周波が効率的である。通常500~2000Hzが適用されている。
【0037】
誘導熔解炉の作業上の弱点は、『棚吊り』と言われるように、下部の溶融部と上部の未溶融部が分離してブリッジを形成すると溶解の進行が急減することである。溶解を順調に進めるため、原料の配合や装入順序の適正化だけでなく、
図2に示すように、酸素ランスや酸素・LNGバーナーを溶解補助に活用することにより棚吊りは防止され、能率向上に寄与する。酸素ランス機能を持つ酸素・LNGバーナーが市販されている。
バーナーの付設は本発明の不可欠要件ではないが、本発明の趣旨に添う望ましい条件であり、既存のアーク炉と競合するためにも改良手段となる。
【0038】
誘導炉はアーク炉のように大量の熱排ガスを発生しない。多少のCO反応が生ずるが、アークの着熱効率を上げるための激しいCO反応沸騰や、スラグ中への大量の炭材投入と酸素吹き込みによる発泡スラグを必要としない。CO2の排出は圧倒的に少なくなる。
【実施例0039】
本発明を効果的に実施するための設備仕様と予想溶解能率を示す。
定格容量; 60トン
耐火物容器内径; 2.0m
耐火物容器深さ; 3.5m
定格容量深さ; 2.9m
高周波電源出力; 30000kVA
低周波電源出力; 15000kVA
出鋼サイクル; 50±10分(予測値)
電力源単位; 500±30kWh/t(予測値)