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特開2024-130544遠心型送液装置、遠心型分注装置、マイクロ流路デバイスおよび検査チップ
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  • 特開-遠心型送液装置、遠心型分注装置、マイクロ流路デバイスおよび検査チップ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130544
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】遠心型送液装置、遠心型分注装置、マイクロ流路デバイスおよび検査チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N35/00 D
G01N37/00 101
G01N35/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040339
(22)【出願日】2023-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開者名 清水一希、齋藤亮吾、飯田玲史、夏原大悟、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 刊行物名 2022年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集、第288頁-第289頁 発行日 令和4年8月25日(ウェブサイトの掲載日) ウェブサイトのアドレス http://2022-09autumn.jspe.or.jp/proceedings/ 公開者名 清水一希、齋藤亮吾、飯田玲史、夏原大悟、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 集会名および集会場所 集会名:2022年度精密工学会秋季大会学術講演会 集会場所:オンライン開催 開催日 令和4年9月7日 公開者名 齋藤亮吾、夏原大悟、白井孝興、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 刊行物名 The 19th International Conference on Precision Engineering(ICPE 2022 in Nara)CDROM(2PP)[C102] 発行日 令和4年11月21日(ウェブサイトの掲載日) ウェブサイトのアドレス http://www.scoop-japan.com/kaigi/icpe2022/program.html 公開者名 齋藤亮吾、夏原大悟、白井孝興、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 集会名および集会場所 集会名:The 19th International Conference on Precision Engineering(ICPE 2022 in Nara) 集会場所:奈良県コンベンションセンター(奈良県奈良市三条大路一丁目691-1) 開催日 令和4年12月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開者名 夏原大悟、齋藤亮吾、飯田玲史、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 刊行物名 2023年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、第815頁-第816頁 発行日 令和5年3月1日(ウェブサイトの掲載日) ウェブサイトのアドレス http://2023-03spring.jspe.or.jp/proceedings/ 公開者名 夏原大悟、齋藤亮吾、飯田玲史、岡本俊哉、永井萌土、柴田隆行 集会名および集会場所 集会名:2023年度精密工学会春季大会学術講演会 集会場所:東京理科大学 葛飾キャンパス(東京都葛飾区新宿6-3-1) 開催日 令和5年3月14日 公開者名 齋藤亮吾 刊行物名 豊橋技術科学大学機械工学専攻2022年度修士論文概要集、第15頁-第16頁 発行日 令和5年2月20日 公開者名 齋藤亮吾 集会名および集会場所 集会名:豊橋技術科学大学機械工学専攻2022年度修士論文審査会 集会場所:国立大学法人豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1) 開催日 令和5年2月20日 公開者名 齋藤亮吾 刊行物名 豊橋技術科学大学機械工学専攻2022年度修士論文「並列分注機能を有する遠心送液型マルチプレックス遺伝子診断デバイスの開発」 発行日 令和5年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(72)【発明者】
【氏名】柴田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】夏原 大悟
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】岡本 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】永井 萌土
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058EA14
(57)【要約】
【課題】 回転によって発生する遠心力を利用しつつ、簡易な構成により適宜な流路断面積のチャンバに液体を供給し得る送液装置と、当該送液される液体を分岐させて複数のチャンバに供給可能な分注装置と、分注装置を利用したマイクロ流路デバイスおよび検査チップを提供する。
【解決手段】 送液装置は、予め定めた回転中心11において適宜範囲による回転数で回転可能な基板1と、基板に設置された流路構成部2とを備える。流路構成部は、回転中心から任意の距離を有して構成されるチャンバ21と、チャンバよりも回転中心に近い位置を起点とし、チャンバよりも回転中心から離れた位置を経由して構成される供給流路22とを備える。供給流路は、チャンバに対して、基板の外周側から回転中心側に向かって流入させるように接続されている。分注装置は、主流路から分岐する分岐流路を介して複数のチャンバに流入させている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の流路断面積によって構成された基準流路から、該基準流路の流路断面積よりも拡大させた流路断面積を有するチャンバへ液体を送液するための装置であって、
予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設置された流路構成部とを備え、
前記流路構成部は、前記回転中心から任意の距離を有して構成される前記チャンバと、前記チャンバよりも前記回転中心に近い位置を起点とし、該チャンバよりも前記回転中心から離れた位置を経由して構成される供給流路とを備えるものであり、
前記供給流路は、前記チャンバに対して、前記基板の外周側から回転中心側に向かって流入させるように接続されるものであることを特徴とする遠心型送液装置。
【請求項2】
前記流路構成部は、前記チャンバに対して、前記基板の回転中心側に連続する排出流路を備えており、該排出流路は、流路内空気および余剰液体を排出するものである請求項1に記載の遠心型送液装置。
【請求項3】
前記流路構成部は、前記基板の回転中心から適宜位置において前記供給流路の基端側に連続して設けられ、前記供給流路を介して前記チャンバに供給できる量の液体を貯留する注入リザーバと、前記チャンバよりも前記回転中心に接近する位置において前記排出流路の末端に連続して設けられ、適宜量の余剰液体を貯留する廃液リザーバを備え、
前記注入リザーバは、外方に開口させた吸気口を備えるものであり、
前記廃液リザーバは、外方に開口させた排気口を備えるものである請求項2に記載の遠心型送液装置。
【請求項4】
前記流路構成部は、前記基板の回転中心から適宜位置において前記供給流路の基端側に連続して設けられ、前記供給流路を介して前記チャンバに供給できる量の液体を貯留する注入リザーバと、前記チャンバよりも前記回転中心に接近する位置において前記排出流路の末端に連続して設けられ、適宜量の余剰液体を貯留する廃液リザーバを備え、
前記注入リザーバおよび前記廃液リザーバは、それぞれ前記基板の回転中心側近傍を相互に連通させるものである請求項2に記載の遠心型送液装置。
【請求項5】
少なくとも前記供給流路がマイクロ流路である請求項1~4に記載の遠心型送液装置。
【請求項6】
予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設けられた流路構成部とを備え、前記流路構成部は、前記回転中心から等距離に設けられ、前記基板の回転中心側を排出部、外周側を流入部として配設された複数のチャンバと、供給すべき液体を貯留する注入リザーバと、前記注入リザーバから前記複数のチャンバのそれぞれに液体を供給する供給流路と、該供給流路および前記複数のチャンバに供給された液体の余剰分を貯留する廃液リザーバと、前記チャンバの排出部と前記廃液リザーバとを接続する排出流路とを備え、前記注入リザーバに貯留される液体を前記複数のチャンバに供給する分注装置であって、
前記注入リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置され、全てのチャンバおよび供給流路に充填される液体の全量を貯留可能な容量を有するものであり、
前記廃液リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置されるものであり、
前記供給流路は、前記複数のチャンバの流入部よりも前記基板の外周側に配置される主流路と、該主流路から分岐し、前記複数のチャンバのそれぞれの流入部に連続される分岐流路とに区分され、
前記分岐流路は、前記複数のチャンバのそれぞれの流入部から前記液体を供給させるものであることを特徴とする遠心型分注装置。
【請求項7】
前記主流路は、複数の前記チャンバよりも前記基板の外周側において連続する1本の流路によって構成されるものであり、
前記分岐流路は、前記供給流路から適宜分岐して前記複数のチャンバに個別に連続するように設けられるものである請求項6に記載の遠心型分注装置。
【請求項8】
少なくとも前記供給流路がマイクロ流路である請求項6または7に記載の遠心型分注装置。
【請求項9】
前記主流路は、前記分岐流路によって分岐されるよりも上流側において、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものである請求項8に記載の遠心型分注装置。
【請求項10】
予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設けられた流路構成部とを備え、前記流路構成部は、前記回転中心から等距離に設けられ、前記基板の回転中心側を排出部、外周側を流入部として配設された複数のチャンバと、供給すべき液体を貯留する注入リザーバと、前記注入リザーバから前記複数のチャンバのそれぞれに液体を順次供給する供給流路と、該供給流路および前記複数のチャンバに供給された液体の余剰分を貯留する廃液リザーバとを備え、前記注入リザーバに貯留される液体を前記複数のチャンバに順次供給する分注装置であって、
前記注入リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置され、全てのチャンバおよび供給流路に充填される液体の全量を貯留可能な容量を有するものであり、
前記廃液リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置されるものであり、
前記供給流路は、前記複数のチャンバごとに、前記流入部から該チャンバに対して液体を供給する主流路が構成されており、
前記主流路は、隣接するチャンバのための主流路を形成するために分岐されるものであり、分岐した側の主流路における分岐位置の近傍には、一時的な流下を阻害させる第1流路内抵抗部が設けられており、
前記複数のチャンバの排出部は、廃液リザーバに連続する排出流路に接続する接続部が設けられ、該接続部が該排出流路に合流する位置の近傍における該接続部または該排出流路には、一時的な流下を阻害する第2流路内抵抗部を備えており、
前記第1流路内抵抗部による流下の一時的阻害から開放するための第1の決壊圧力は、液体が第2流路内抵抗に到達するまでに受ける圧力よりも大きく、かつ、第2流路内抵抗部による流下の一時的阻害から開放するための第2の決壊圧力を加えた圧力よりも小さくなるように構成されていることを特徴とする遠心型分注装置。
【請求項11】
前記主流路は、前記チャンバよりも前記基板の外周側に配置され、前記チャンバの供給部の近傍において分岐されるものである請求項10に記載の遠心型分注装置。
【請求項12】
前記主流路は、前記複数のチャンバよりも前記基板の回転中心側において分岐されるものであり、分岐した側の主流路は、分岐後に隣接するチャンバの前記回転中心側を経由させ、前記接続部と接続することにより前記排出流路を兼用するものであり、
前記第1流路内抵抗部は、前記第2流路内抵抗部よりも前記回転中心に近い位置に設けられ、前記第1の決壊圧力は、個々のチャンバを充満するために必要な圧力も大きくなるように構成され、前記第2の決壊圧力は、第1流路内抵抗部と第2流路内抵抗部との位置の相違に基づく遠心力の作用する圧力差を前記第1の決壊圧力に加えた圧力よりも大きくなるように構成されるものである請求項10に記載の遠心型分注装置。
【請求項13】
少なくとも前記供給流路がマイクロ流路であり、前記第1流路抵抗部および第2流路抵抗部は、マイクロ流路の流路断面積を縮小させるように構成されたものである請求項10~12のいずれかに記載の遠心型分注装置。
【請求項14】
前記主流路の最も上流側と前記注入リザーバとの間には、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものである請求項13に記載の遠心型分注装置。
【請求項15】
請求項8または13に記載の遠心型分注装置を利用するマイクロ流路デバイスであって、マイクロ流路チップ内に前記流路構成部を備えることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項16】
前記流路構成部には、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものである請求項15に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項17】
請求項8または13に記載の遠心型分注装置を利用する検査チップであって、マイクロ流路チップ内に前記流路構成部を備えており、前記チャンバに反応容器が形成され、該反応容器に試薬が固定されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項18】
前記流路構成部には、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものである請求項17に記載の検査チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の回転により発生する遠心力を利用した送液装置および分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数のウイルス検査(遺伝子増幅反応)を行う場合には、当該検査数に相当する数のマーカーを要し、検査対象の数だけ反応行うため、その都度、サンプルと試薬の調製を必要としていた。そのため、専門知識やスキルが要求されるものとなっていた。遺伝子増幅反応には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法などがあり、PCR法は、三段階の温度調整とともに、合成酵素およびプライマーを用いてDNAを増幅させるものであり、LAMP法は、プライマーと鎖置換合成酵素により、DNAにおける目的の塩基配列を増幅させるものである。これらのいずれの遺伝子増幅反応を用いる場合においても、複数の検査においては複数の反応容器を必要とするものであった。
【0003】
上記のような複数のウイルス検査は、例えば、節足動物媒介性ウイルスによる感染症(例えば、デング熱やジカ熱など)を発見する際に用いられることがあり、当該感染症に起因する遺伝子を増幅するためのプライマーを反応容器に固定し、これに節足動物から採取した遺伝子サンプルと遺伝子増幅試薬を混合して加えることによるものである。また、近年流行する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における検査においても、PCR法を利用して、同種のウイルス検査が行われている。
【0004】
他方、生物学的な分析においてはμ-TAS(Micro Total Analysis Systems)などのマイクロチップを使用した検査装置が用いられており、これらの装置は、少量の試料によって反応させることができるものである。また、このような検査装置は、マイクロ流路を形成し、反応容器に対して所定の検査用液体を供給するように構成されたものであった。そして、同時に複数の反応容器に同じ検査用液体を供給するため、主流路と分岐流路とが構成され、検査用液体は、主流路を経由して複数の反応容器に供給されるものが開発されている(特許文献1参照)。
【0005】
前掲の特許文献1に開示される技術は、主流路に対し、複数の分岐流路を形成し、その分岐流路に収容部(反応容器)が形成されたものであり、収容部への液体供給を円滑に行うため、収容部に排気部を接続したものであった。この排気部の構成により、収容部への液体供給は円滑となるが、主流路および分岐流路を通過する液体の送液も円滑となり、個々の収容部(反応容器)に供給された液体の貯留状態が不安定となり、また相互のコンタミネーションを生じさせることが懸念されるものであった。
【0006】
そこで、本願の発明者らは、主流路および分岐流路の適宜位置に流路内抵抗部を設け、これをバルブのように挙動させることにより、各分岐流路に設けられる反応容器に適量の液体を供給し、かつ逆流の生じない分注装置を開発した。この技術は、上記分注装置における流路内抵抗部は、流路底面を嵩上げした浅底構造であって、その浅底構造部に流路方向に対して傾斜を設けることにより、抵抗の程度(決壊圧力)を調整し、主流路に供給された液体を上流側から順次分岐流路へ分注するものであった(非特許文献1参照)。
【0007】
ところが、上記技術における流路内抵抗部は、流路底面を嵩上げした浅底構造であるため、ソフトリソグラフィ技術によって製造する際、流路底面の嵩上げには、複数回のパターニング処理を行うことが要求され、浅底構造部の流路断面を精密に構成することが難しかった。また、浅底構造部を流路方向に対して傾斜させる角度によって決壊圧力を調整する場合、確かに角度の大きさにより決壊圧力を調整することができるものであったが、その角度が流路方向に対して45°よりも小さい場合には、抵抗の程度が小さくなるため、結果的に、90°から45°程度の範囲で調整しなければならなかった。そのため、決壊圧力の差が小さくなり、多数の分岐流路を形成させることができないという不具合が生じていた。
【0008】
そこで、さらに本願の発明者らは、ソフトリソグラフィ技術によって容易に製造できる分注装置を開発した(特許文献2参照)。この分注装置は、分岐流路の前後に異なる抵抗圧力(決壊圧力)を発揮する流路内抵抗部を構成し、複数の分岐流路に対する分注を可能にするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-284769号公報
【特許文献2】特開2022-080026号公報
【特許文献3】国際公開WO2008-139697号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】2018年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集、G02-12、772頁-773頁
【非特許文献2】https://doi.org/10.1039/C6LC00326E
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前掲の特許文献2に開示される技術は、流路内抵抗部による抵抗圧力(決壊圧力)の差に応じた分岐流路を構成させることができるものであるが、分岐流路が多数構成される場合、流路内抵抗部による圧力差を十分に設けることができず、分岐流路の設置個数(分注可能な分岐数)に限界があった。そのため、検査の種類等によっては多数の分岐流路によって分注させ、多種類の反応結果を得る場合には、分岐流路の数が制限されない分注装置が切望されていた。
【0012】
そこで、本願の発明者らは、異なる決壊圧力を有する二種類の流路内抵抗部のうち、一方を供給側流路(主流路)に設け、他方を排出側流路(排出路)に設ける構成とし、排出路の流路内抵抗部の決壊圧力に達しない圧力で排出路まで液体を到達させることにより、隣接する排出路の間に排気すべき空気を残存させることができ、排出流路に設けられる流路内抵抗部の決壊圧力を増大させ、適度な圧力差により設計上は分岐流路(分注可能な分岐数)を無制限とすることができるように構成されたものであった。
【0013】
上記構成の分注装置は、通常の使用において、全く正常に機能するものであり、極めて優れたものであるが、液体を供給するために所定の圧力で供給流路内に液体を注入することが必要であり、そのためにはシリンジ等により強制注入するなどの方法によるものとなっていた。そのことが、格別問題となるものではないとしても、上記構成の分注装置を使用して検査キットを製作する場合、シリンジ等は区別して構成されることとなり、供給すべき液体を含めた検査キットを提供し得るものではなかった。
【0014】
そこで、検査キットに供給液体を予め貯留しておき、回転によって発生する遠心力により、当該液体を移動させて、所望のチャンバに液体を供給する装置(いわゆる遠心型供給装置)が存在する(特許文献3および非特許文献2参照)。これらは、基本的に遠心力の作用する方向へ液体を移動(また、場合によってコリオリの力を利用して周方向へ移動)させるものであった。
【0015】
ところが、上記のように供給液体を遠心力の作用する方向へ移動しつつ、複数のチャンバに分注させる場合であって、適宜な大きさの流路断面積を有する当該複数のチャンバを回転中心から等距離の位置に整列させ、回転中心側に基準流路(基準となる流路断面積の流路)による供給路を、外周側に基準流路による排出路を接続した流路構成として、液体を供給する場合には、チャンバの流路断面積が基準流路の断面積よりも大きくなるように構成されていることから、基準流路を通過した液体がチャンバ内で乱流となり、当該液体によってチャンバ内部を充填する前に排出路に到達するため、チャンバに適量の液体を供給できない状態となり得るものとなっていた。その原因としては、液体が供給される前の状態におけるチャンバ内には空気が存在しており、このチャンバ内の空気は、本来は排出路から排出されるものであるが、チャンバ内に液体が供給されると、その液体に対して遠心力が作用するため、排出路に液体が想定外に早期に到達するためであると考えられる。このような流路断面積が基準流路よりも大きいチャンバ内に十分な量の液体を、簡易に供給し得る送液装置が切望されていた。また、同時に当該送液装置を基本として、複数のチャンバに分注し得る装置も切望される状況であった。
【0016】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、回転によって発生する遠心力を利用しつつ、簡易な構成により適宜な流路断面積のチャンバに液体を供給し得る送液装置と、当該送液される液体を分岐させて複数のチャンバに供給可能な分注装置とを提供し、さらに当該分注装置を使用する流路デバイスおよび検査チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、遠心型送液装置に係る本発明は、所定の流路断面積によって構成された基準流路から、該基準流路の流路断面積よりも拡大させた流路断面積を有するチャンバへ液体を送液するための装置であって、予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設置された流路構成部とを備え、前記流路構成部は、前記回転中心から任意の距離を有して構成される前記チャンバと、前記チャンバよりも前記回転中心に近い位置を起点とし、該チャンバよりも前記回転中心から離れた位置を経由して構成される供給流路とを備えるものであり、前記供給流路は、前記チャンバに対して、前記基板の外周側から回転中心側に向かって流入させるように接続されるものであることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、基板を所定の回転数で回転させることにより、供給流路の起点において供給される液体は、遠心力により基板の外周方向へ向かう圧力を受けることとなり、供給流路に沿って液体を流下させることができる。供給流路は、チャンバよりも回転中心から離れた位置(外周側)を経由してチャンバに接続されているため、回転中心に近い位置に起点を有する供給流路に供給された液体には、その起点から供給流路の最外周位置(回転中心から離れた位置)までの距離に応じて、流下させ得る圧力が付与される。従って、最も回転中心から離れた位置を経由した供給流路内の液体は、その下流側において、供給流路が横向き(基板が回転する円軌道の周方向)や回転中心方向(遠心力の作用する方向の逆向き)に構成される場合であっても、当該圧力によって連続して流下させることが可能となる。そこで、この供給流路をチャンバの外周側に接続し、基板の外周側から回転中心側に向かって液体を流入させるように配置することにより、チャンバ内に液体を供給することが可能となるのである。このとき、チャンバ内に流入する液体には、注入リザーバ内の液体と同様に、遠心力による圧力が外周側へ向かって(逆流方向に)作用することとなるが、チャンバ内に流入する液体が受ける遠心力に基づく逆流方向の圧力は、チャンバ内に流入する液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)から供給流路の最外周位置までの距離が短いため、供給流路内の液体が受けている圧力よりも小さいこととなり、その圧力差によって、チャンバ内の液体が逆流することなく、液体の供給を受けることができるものである。これは、液体に作用する遠心力が結果的に圧力として作用するため、液体の密度(ρ)および角速度(ω)は同じであるから、その圧力は、結果的に回転中心からの距離に比例することとなる。このときの遠心力は、液面からの差分により異なることとなるため、同じ供給流路(最外周位置またはチャンバの流入部の位置)に対して作用し得る圧力は、当該供給流路(最外周部等の位置)から液面までの距離に比例することとなり、供給流路(最外周部等の位置)までの距離は、起点側の液面がチャンバ側の液面よりも短い状態となるから、そこに生じる圧力差によってチャンバへの流入が可能となるものである。しかも、チャンバ内に作用する遠心力は、液体の供給方向とは逆向きに作用するため、チャンバ内に流入する液体は圧力差のみによって緩やかに流入することとなるため、液体が勢いよく吐出してチャンバの排出部に早期に移動することを回避し得ることとなる。そのため、基本流路を経由した液体を流路断面積が拡大するチャンバに供給する場合であっても、円滑な送液を実現することができるものとなる。
【0019】
なお、供給流路の起点がチャンバよりも回転中心に近い位置にある状態とは、チャンバが形成させる領域の全体よりも回転中心側に起点となる液体の液面が位置する状態を意味するものである。従って、後述のような注入リザーバに供給すべき液体を貯留する場合は、その貯留される液体の液面が起点となり、チャンバに液体を充満させた状態の液面よりも注入リザーバの液体の液面が回転中心に近くなっている状態である。
【0020】
上記構成の発明において、前記流路構成部は、前記チャンバに対して、前記基板の回転中心側に連続する排出流路を備えており、該排出流路は、流路内空気および余剰液体を排出するものとして構成することができる。
【0021】
上記構成によれば、供給流路内に液体を流下させる際、またはチャンバに対して液体を供給する際、供給流路およびチャンバ内に存在する空気を外方へ排出することができ、液体の流下や供給を円滑にすることができる。また、チャンバに供給される液体が過剰である場合に、その余剰分(余剰液体)を排出することができる。このとき、排出流路の位置を供給流路の起点よりも外周側に配置することにより、排出流路に作用する遠心力(液体の圧力)は供給流路を流下するための圧力より小さくすることができ、排出流路まで余剰液体を流入させることができる。
【0022】
上記構成の発明において、前記流路構成部は、前記基板の回転中心から適宜位置において前記供給流路の基端側に連続して設けられ、前記供給流路を介して前記チャンバに供給できる量の液体を貯留する注入リザーバと、前記チャンバよりも前記回転中心に接近する位置において前記排出流路の末端に連続して設けられ、適宜量の余剰液体を貯留する廃液リザーバを備え、前記注入リザーバは、外方に開口させた吸気口を備えるものであり、前記廃液リザーバは、外方に開口させた排気口を備える構成とすることができる。
【0023】
上記構成によれば、注入リザーバから供給流路に液体を供給させる際には、供給リザーバの吸気口から外気を取り入れることにより、注入リザーバに貯留される液体の供給を容易とし、また、供給流路およびチャンバに向かって液体が流下する際に、押し出される内部空気は排出流路を経由して廃液リザーバの排気口から外方へ排出し得ることとなり、内部空気による送液の阻害要因を排除し得ることとなる。なお、廃液リザーバは適度な容量を有して余剰液体を貯留できるものであることから、内部空気の排出後において過剰に供給された液体の余剰分(余剰液体)を適宜貯留させることができる。また、この廃液リザーバは、チャンバよりも回転中心に接近する位置に設けられ、排出流路の末端に連続するものであることから、チャンバに供給される液体に対して作用する圧力よりも高い圧力によって液体排出が可能となり、供給流路が分岐している場合のように、迂回流路が廃液リザーバに接続されていても廃液リザーバに液体が先行して流入することを回避することができる。
【0024】
また、上記構成に代わる構成として、前記流路構成部は、前記基板の回転中心から適宜位置において前記供給流路の基端側に連続して設けられ、前記供給流路を介して前記チャンバに供給できる量の液体を貯留する注入リザーバと、前記チャンバよりも前記回転中心に接近する位置において前記排出流路の末端に連続して設けられ、適宜量の余剰液体を貯留する廃液リザーバを備え、前記注入リザーバおよび前記廃液リザーバは、それぞれ前記基板の回転中心側近傍を相互に連通させるように構成してもよい。
【0025】
上記構成の場合には、注入リザーバの吸気口と廃液リザーバの排気口に代えて、両リザーバの吸気と排気を流路構成部内で処理させるものとなる。すなわち、注入リザーバおよび廃液リザーバの内部容量および流路構成部の内部容量の総量は一定であり、その内部で液体を移動させるものであるから、流路構造部内を液体が流下する際に、内部空気は廃液リザーバに移動した後、当該廃液リザーバから注入リザーバに移動するように構成したものである。従って、注入リザーバが供給流路に液体を供給する際に中空部分への空気の流入は、廃液リザーバから送られ、液体が供給流路を流下する際に移動する内部空気を循環させることにより、液体の流下を円滑にするものである。
【0026】
上記各構成の発明において、少なくとも前記供給流路がマイクロ流路であることが好ましい。この場合には、チャンバを除く流路構成部がマクロ流路で構成されることから、液体に作用する圧力差によって、容易に液体を流動させることができる。また、生物学的な分析においては、μ-TAS(Micro Total Analysis Systems)などのマイクロチップを使用した検査装置を使用する場合のように、少量の試料によって反応させることを可能にするものとなる。
【0027】
他方、遠心型分注装置に係る本発明は、予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設けられた流路構成部とを備え、前記流路構成部は、前記回転中心から等距離に設けられ、前記基板の回転中心側を排出部、外周側を流入部として配設された複数のチャンバと、供給すべき液体を貯留する注入リザーバと、前記注入リザーバから前記複数のチャンバのそれぞれに液体を供給する供給流路と、該供給流路および前記複数のチャンバに供給された液体の余剰分を貯留する廃液リザーバと、前記チャンバの排出部と前記廃液リザーバとを接続する排出流路とを備え、前記注入リザーバに貯留される液体を前記複数のチャンバに供給する分注装置であって、前記注入リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置され、全てのチャンバおよび供給流路に充填される液体の全量を貯留可能な容量を有するものであり、前記廃液リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置されるものであり、前記供給流路は、前記複数のチャンバの流入部よりも前記基板の外周側に配置される主流路と、該主流路から分岐し、前記複数のチャンバのそれぞれの流入部に連続される分岐流路とに区分され、前記分岐流路は、前記複数のチャンバのそれぞれの流入部から前記液体を供給させるものであることを特徴とする。
【0028】
上記構成の分注装置によれば、基板には、流路構成部として、注入リザーバ、供給流路、複数のチャンバおよび廃液リザーバが連続して設けられることにより、注入リザーバに供給すべき液体を貯留させておき、基板を所定の範囲内による回転数で回転させることにより、貯留される液体に対して遠心力が作用し、供給流路を介して複数の各チャンバに液体を供給することができるものとなる。注入リザーバに貯留される液体に遠心力が作用すると、圧力の低い供給流路へ移動し、順次供給流路を流下する。供給流路の主流路は、チャンバよりも外周側に配置されていることから、この主流路に流入した液体には、注入リザーバ内の液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)から主流路までの距離に応じた大きい圧力が作用する。さらに、主流路の液体は分岐流路を介して個々のチャンバに流入するが、チャンバ内に流入する際には、チャンバ内の液体に作用する遠心力に抗して回転中心側に向かって流入することとなる。このとき、チャンバ内に流入する液体には、上記のような大きい圧力が作用しており、チャンバ内に供給される液体が受ける逆向きの遠心力(圧力)よりも大きいことから、その圧力差によって流入できるものとなる。なお、チャンバ内の液体の液面が、注入リザーバ内の液体の液面と同じ高さ(回転中心から同じ距離)となるまでは、チャンバ内に流入するための圧力と、チャンバ内において逆向きに作用する圧力との間には圧力差が生じるため、チャンバの排出部が注入リザーバ内の貯留液体の液面よりも十分に外周側に位置するものであれば、チャンバ内を充満させることが可能となるものである。
【0029】
上記構成の発明において、前記主流路は、複数の前記チャンバよりも前記基板の外周側において連続する1本の流路によって構成されるものであり、前記分岐流路は、前記供給流路から適宜分岐して前記複数のチャンバに個別に連続するように設けられるものであるものとすることができる。
【0030】
上記構成の場合には、単一の主流路から、複数の分岐流路が適宜位置において分岐するように設けられ、主流路に液体が充満した後に、分岐流路を遠心力に抗しつつチャンバに向かって流下することとなる。そのため、複数のチャンバに対して、ほぼ同時に流入が開始されることとなり、当該チャンバからの逆流を阻止し得ることとなる。
【0031】
上記構成の各発明においては、少なくとも前記供給流路がマイクロ流路であることが好ましい。供給流路をマイクロ流路によって構成することにより、液体に作用する圧力差によって、所望の流路に沿って液体を流下させ、管内空気の混入を防止することができる。また、生物学的な分析におけるμ-TASなどのマイクロチップを使用した検査装置に利用可能となる。
【0032】
また、上記構成の発明において、前記主流路は、前記分岐流路によって分岐されるよりも上流側において、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものとすることができる。
【0033】
このような構成の場合には、供給液体が複数の液体の混合によるものである場合、流下の進行に伴って液体の混合を促進させることができる。なお、混合流路を設ける場合には、その流下方向を遠心力の作用する径方向に一致させることにより、混合流路内の液体に作用する遠心力を流下方向に対してのみ作用させることができ、流路内部による遠心分離を排除させることができる。
【0034】
また、他の遠心型分注装置に係る本発明は、予め定めた回転中心において適宜範囲による回転数で回転可能な基板と、該基板に設けられた流路構成部とを備え、前記流路構成部は、前記回転中心から等距離に設けられ、前記基板の回転中心側を排出部、外周側を流入部として配設された複数のチャンバと、供給すべき液体を貯留する注入リザーバと、前記注入リザーバから前記複数のチャンバのそれぞれに液体を順次供給する供給流路と、該供給流路および前記複数のチャンバに供給された液体の余剰分を貯留する廃液リザーバと、前記チャンバの排出部と前記廃液リザーバとを接続する排出流路とを備え、前記注入リザーバに貯留される液体を前記複数のチャンバに順次供給する分注装置であって、前記注入リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置され、全てのチャンバおよび供給流路に充填される液体の全量を貯留可能な容量を有するものであり、前記廃液リザーバは、前記複数のチャンバが配置される位置よりも前記基板の回転中心側に配置されるものであり、前記供給流路は、前記複数のチャンバごとに、前記流入部から該チャンバに対して液体を供給する主流路が構成されており、前記主流路は、隣接するチャンバのための主流路を形成するために分岐されるものであり、分岐した側の主流路における分岐位置の近傍には、一時的な流下を阻害させる第1流路内抵抗部が設けられており、前記複数のチャンバの排出部は、廃液リザーバに連続する排出流路に接続する接続部が設けられ、該接続部には、一時的な流下を阻害する第2流路内抵抗部を備えており、前記第1流路内抵抗部による流下の一時的阻害から開放するための第1の決壊圧力は、液体が第2流路内抵抗に到達するまでに受ける圧力よりも大きく、かつ、第2流路内抵抗部による流下の一時的阻害から開放するための第2の決壊圧力を加えた圧力よりも小さくなるように構成されていることを特徴とする遠心型分注装置。
【0035】
上記のような構成によれば、注入リザーバ内に貯留される液体が遠心力によって受ける圧力により供給流路に流下するものであり、主流路が分岐する位置に設けられる第1流路内抵抗部の決壊圧力(第1の決壊圧力)と、チャンバの排出部に接続される接続部の第2流路抵抗部の決壊圧力(第2の決壊圧力)との差によって、複数のチャンバに対して順番に液体を供給することができるものとなる。この場合においても、チャンバ内に流入する液体には、注入リザーバおよび供給流路に充填されている液体に対する遠心力による圧力が作用しており、この圧力は、チャンバ内において液体が受ける逆向きの遠心力による圧力よりも大きいことから、その圧力差によって流入できるものとなる。このとき、第1流路内抵抗部の決壊圧力(第1の決壊圧力)は、分注すべきチャンバ内に液体を充填するために必要な圧力(流路内抵抗+遠心力)よりも大きくなるように設計することにより、チャンバに分注された液体は、第2流路抵抗部によって停止され、その決壊圧力(第2の決壊圧力)を超えない圧力が作用する範囲内で留めることができる。なお、第2流路抵抗部によって流下が阻害される液体には、遠心力が作用することとなるところ、その液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)の位置と、注入リザーバに貯留する液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)の位置とが、回転中心から異なるために、その差分に相当する圧力差が生じるため、注入リザーバに貯留されている(残存する)液体の液面が、チャンバ内の液体の液面よりも回転中心から十分に距離があれば、第2流路抵抗部に向かって流下しようとする圧力が維持されるものとなり、逆流を阻止し得ることとなる。
【0036】
上記構成の発明において、前記主流路は、前記チャンバよりも前記基板の外周側に配置され、前記チャンバの供給部の近傍において分岐されるように構成することができる。
【0037】
このような構成の場合には、主流路に設けられる第1流路内抵抗部が、個々のチャンバよりも外周側に形成されることとなり、この第1流路内抵抗部の決壊圧力(第1の決壊圧力)を超える圧力が作用するとき、次順位のチャンバのための主流路に供給すべき液体を流下させることが可能となる。なお、このとき、第1流路内抵抗部の決壊圧力(第1の決壊圧力)は、チャンバ内に充填された液体に対する遠心力による圧力よりも大きくなるように設計されるものである。これは、この第1の決壊圧力がチャンバ内の液体に作用する圧力より小さい場合には、チャンバ内の液体が逆流し、第1の流路内抵抗部から分岐された主流路へ流入することとなるためである。
【0038】
また、上記構成に代わる構成として、前記主流路は、前記複数のチャンバよりも前記基板の回転中心側において分岐されるものであり、分岐した側の主流路は、分岐後に隣接するチャンバの前記回転中心側を経由させ、前記接続部と接続することにより前記排出流路を兼用するものとなるように構成することができる。
【0039】
上記のような構成の場合には、主流路の分岐位置が、チャンバよりも回転中心側となっているため、分岐した側の主流路に設けられる第1流路内抵抗部は、当該分岐位置の近傍(チャンバよりも回転中心側)に設けられることとなる。その結果、チャンバ内の液体に作用する圧力を考慮することなく、チャンバ内の液体の逆流を防止し得ることとなる。これは、チャンバの接続部(第2流路抵抗部)に到達するだけの圧力がチャンバ内の液体に作用させることができれば、既に高い圧力をもって液体が充填されている主流路を経由した状態となるからである。また、分岐した側の主流路には、接続部が接続されることから、分岐した側の主流路に液体が供給され、接続部との接続位置を超えて液体が供給されることによって、接続部に残存する空気(第2流路抵抗部によって流下が阻止される結果として残存する空気)は、当該接続部の内部において封入されることとなる。このような接続部内の空気の封入により、チャンバ内の液体は停滞状態となり逆流を防止し得ることとなる。これは、内部空気の移動場所がないため、流路内を液体が移動できなくなるためである。なお、分岐した側の主流路が排出流路を兼用するとは、当該空気を封入させるまでの間に関して、チャンバ内の空気の排出路を形成することを意味する。また、分岐した側の主流路は、排出流路を兼用するが、空気の封入後は、次順位のチャンバに液体を供給するために、当該チャンバを迂回しつつ当該チャンバの流入部(外周側)に接続され、本来的な液体供給のための主流路として機能するものである。
【0040】
上記各構成の発明においては、少なくとも前記供給流路がマイクロ流路であり、前記第1流路抵抗部および第2流路抵抗部は、マイクロ流路の流路断面積を縮小させるように構成することができる。このように、供給流路をマイクロ流路によって構成することにより、液体に作用する圧力差によって、所望の流路に沿って液体を流下させ、管内空気の混入を防止することができる。また、生物学的な分析におけるμ-TASなどのマイクロチップを使用した検査装置に利用可能となる。なお、第1流路抵抗部および第2流路抵抗部は、マイクロ流路の流路断面積を縮小させることにより、比較的簡便に流路内抵抗部を構成することができる。
【0041】
また、上記各構成の分注装置に係る発明においても、前記主流路の最も上流側と前記注入リザーバとの間には、液体の混合を促進させる混合流路を備えるものとすることができる。供給液体が複数の液体の混合によるものである場合、流下の進行に伴って液体の混合を促進させることができるからである。なお、この場合においても、混合流路における流下方向を遠心力の作用する径方向に一致させることが好ましい。
【0042】
上記構成の各発明のうち、少なくとも供給流路をマイクロ流路とする構成を利用して、マイクロ流路デバイスおよび検査チップを構成することができる。マイクロ流路デバイスは、マイクロ流路チップ内に前記流路構成部を備えることを特徴とするものであり、検査チップは、さらに、前記チャンバに反応容器が形成され、該反応容器に試薬が固定されていることを特徴とする。
【0043】
上記構成のマイクロ流路デバイスによれば、マイクロ流路チップ内に注入される流体を複数のチャンバに分注しつつ、各チャンバを反応容器として使用することができる。すなわち、複数のチャンバに個別の検体等を固定し、試薬等を個々のチャンバに分注することができるほか、節足動物媒介性ウイルスによる感染症(例えば、デング熱やジカ熱など)ごとに起因する遺伝子増幅用のプライマーを個別にチャンバに固定し、節足動物から採取した遺伝子サンプルと遺伝子増幅試薬を混合した混合液を、各チャンバに分注することができる。このように複数のチャンバ(反応容器)ごとに異なる反応を生じさせることにより、一度の液体供給により同時に異なる反応結果を得ることができる。特に、流体分注装置における分岐流路の数は制限されないことから、検体等の種類や検査対象項目の数などが多い場合であっても単一のマイクロ流路チップを用いた検査が可能となる。なお、上記のような検査にあっては、ウイルス検査に限らず、加工食品中に微量に含まれる食物アレルギー物質(小麦、そば、落花生など)や違法薬物(大麻草など)の遺伝子検査にも適用が可能となる。
【0044】
他方、検査チップの構成によれば、各チャンバに形成される反応容器に予め試薬が固定されていることから、流体となっている検体を個々のチャンバ(反応容器)に分注することにより、各試薬との反応結果を得ることができる。例えば、病原性ウイルス等に反応する異なる種類の試薬を各反応容器に固定し、検査対象物(人や動物)から採取した体液や血液(原液または希釈流体)を各反応容器に分注することにより、想定された各種の試薬に反応するウイルスを特定することが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
遠心型送液装置に係る本発明によれば、基板を回転させることによって発生する遠心力を利用しつつ、供給流路内の液体が起点からの距離に相当する圧力と、チャンバ内において逆向きに作用する圧力との差により、緩やかにチャンバ内に液体を供給することができ、極めて簡易な構成により適宜な流路断面積のチャンバに対する液体を円滑に供給し得ることとなる。
【0046】
また、遠心型分注装置に係る本発明によれば、注入リザーバに貯留される液体は、主流路を経由しつつ複数のチャンバに個別に流入されるものとなる。また、流路内抵抗部を設ける構成の場合には、複数のチャンバに対し順次供給し、1本の主流路から分岐流路を介して供給する構成の場合は、ほぼ同時に個別のチャンバに供給することができる。
【0047】
さらに、上記遠心型分注装置をマイクロ流路デバイスおよび検査チップに利用することが可能となる。マイクロ流路チップ内に上記分注装置を形成させることにより、複数のチャンバを利用して各種の反応試験に使用することができる。また、上記構成のマイクロ流路デバイスにおけるチャンバ(反応容器)に予め試薬を固定すれば検査チップとして使用することができる。この場合の検査チップは、複数のチャンバ(反応容器)に、所望の反応試験に使用する複数種類の試薬を固定しておけば、同時に複数の反応試験を行うことができることとなり、多種同時検査用の検査チップとして使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】遠心型送液装置に係る本発明の実施形態の構成を示す説明図である。
図2】遠心型送液装置による送液状態を示す説明図である。
図3】遠心型分注装置に係る本発明の第1の実施形態の構成を示す説明図である。
図4】遠心型分注装置の複数のチャンバに送液される状態を示す説明図である。
図5】遠心型分注装置の複数のチャンバに送液される状態を示す説明図である。
図6】遠心型分注装置に係る本発明の第2の実施形態の構成を示す説明図である。
図7】遠心型分注装置に係る本発明の第3の実施形態の構成を示す説明図である。
図8】遠心型分注装置のチャンバに順次送液される状態を示す説明図である。
図9】遠心型分注装置に係る第1の実施形態の変形例を示す説明図である。
図10】遠心型分注装置に係る第1の実施形態の他の変形例を示す説明図である。
図11】遠心型分注装置に係る第2の実施形態の他の変形例を示す説明図である。
図12】基板の積層構造および流路内抵抗部の構造を例示する説明図である。
図13】使用態様を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
<遠心型送液装置(実施形態)の構成>
まず、遠心型送液装置の実施形態について説明する。図1は、遠心型送液装置に係る本発明の実施形態を示す図である。なお、説明の都合上、図は、1つの基板に2つの流路構成を示しており、図中の拡大部分は、流路を開放した状態で示している。本実施形態は、この図1に示すように、回転可能な基板1と、この基板1に形成される流路構成部2とを備える構成である。流路構成部2には、標準的な流路断面積によって構成される基準流路20と、これよりも流路断面積を拡大するチャンバ21とに大別され、本実施形態は、このようなチャンバ21に対する液体の送液を目的としている。
【0050】
基板1は、流路構成部2が設けられるものであり、予め定める回転中心11を中心に回転可能である。基板1の回転には、回転ドラム(図示せず)に設置し、回転ドラムを所定の回転数で回転させることにより、基板1の全体が回転可能となるものである。なお、基板1の形状は、図において円形板状としているが、円形に限定されるものではく、回転中心11から適宜な距離を有して流路構成部2を形成できる面積を有するものであれば形状は任意に定めることができる。なお、基板1を回転させることにより、基板1には遠心力が作用し、流路構成部2の内部に注入する液体に対しても同様に遠心力が作用することとなる。この遠心力は、基板1の回転中心11から周縁(外周)12に向かって径方向へ作用する。
【0051】
流路構成部2としては、前記チャンバのほかに、基準流路20によって形成される供給流路22が設けられる。供給流路22は、起点を形成させるべき注入リザーバ3からチャンバ21までの間を連続させた構成であり、注入リザーバ3に貯留する液体をチャンバ21まで移動させるものである。チャンバ21および供給流路22の末端は、廃液リザーバ4に接続され、流路内空気および供給された液体の余剰分(余剰液体)をそれぞれ排出させるものとしている。なお、送液される液体の「起点」とは、注入リザーバ等(液体を貯留し得るもの)において液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)を意味するものである。
【0052】
また、チャンバ21および供給流路22を設ける位置は、チャンバ21が回転中心11から任意の距離に設ける場合、そのチャンバ21の位置を基準に、供給流路22が回転中心11から離れた位置を経由させるものとしている。供給流路22の起点を形成させるべき注入リザーバ3は、チャンバ21よりも回転中心11に近い位置としており、結果的に、供給流路22は、チャンバ21よりも回転中心11に近いところを起点として、チャンバ21よりも回転中心11から離れた位置を経由して、チャンバ21に接続されるものである。
【0053】
さらに、供給流路22は、チャンバ21に対して、基板1の外周側から回転中心側に向かって流入させるように接続されるものである。すなわち、チャンバ21は、一方を流入部21aとし、他方を排出部21bとして、両者21a,21bが回転中心11から周縁(外周)12に向かって径方向に配置され、外周12の側に流入部21aを、回転中心11の側に排出部21bを、それぞれ配置させた状態としている。供給流路22は、このチャンバ21の流入部21aに接続して、遠心力の作用する方向とは逆向きに流入させるようにしているのである。
【0054】
<送液状態>
遠心型送液装置に係る本実施形態は上記のような構成であるから、基板1を回転させると流路構成部2の内部に注入されている液体は遠心力によって基板1の外周12の方向へ移動することとなる。この移動は、液体に対して圧力として作用するためであり、その圧力は、回転中心11からの距離によって異なるものとなる。
【0055】
そこで、送液時の状態を図2にモデル化して示す。この図は、基本的に回転中心11から適宜距離を有して配置されるチャンバ21と供給流路22の状態を示している。この図に示しておるように、本実施形態は、供給流路22の起点3(注入リザーバ3などに貯留される液体の液面)が、チャンバ21よりも回転中心11に近い位置としている。また、この供給流路22は、チャンバ21よりも回転中心11から離れた位置を経由させている。すなわち、流路構成部21,22に存在する液体Xに対しては常に遠心力が作用するが、起点3に作用する遠心力は、外周側へ向かって作用するが、供給流路22の最も外周側の位置に到達した時点で供給流路内の液体にも遠心力が作用する。その結果、両者の位置の差分が内部の液体Xを流下させる相対的な圧力として作用することとなる。これはチャンバ21に流入した液体の場合も同様である。従って、最も離れた供給流路22から起点3までの距離R1は、最も離れた供給流路22からチャンバ21に流入する液体Xの液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)Xaまでの距離R2よりも長い状態となる。この距離の差は、チャンバ21に液体が充満する状態においても維持される。
【0056】
そこで、起点3により供給流路22(最も離れた位置)まで流下した液体に作用する圧力(最大圧力)PR1とチャンバ21に流入した液面Xaによって供給流路22(最も離れた位置)までの液体に作用する圧力PR2とは、回転中心11から供給流路22(最も離れた位置)までの距離をRとすると、次式(1)および(2)により算出でき、結果的に次式(3)のように、PR1>PR2となる。
【0057】
【数1】
【0058】
上記のように、起点3から供給流路22に供給される液体Xに対して作用する最大圧力PR1は、チャンバ21に流入する際に受ける反対方向の圧力PR2よりも大きくなるため、供給流路22の流体Xは、最大圧力PR1を維持しつつチャンバ21に流入するとき、その圧力差PR1-PR2の範囲内で強制的な流入を可能とするものである。ただし、厳密には、流体Xが注入リザーバ3の出口位置(流出部31)から液面Xaに到達するまでの流路抵抗による圧力損失を考慮する必要がある。このような流入の方法により、流路断面積が標準流路から拡大させたチャンバ21に流入させるとき、流入方向への吐出状態が急激かつ増量することがないため、排出部21bに液体Xが早期に移動することを防止し、チャンバ21の内部に内部空気を残存させる可能性を皆無にすることができる。
【0059】
<遠心型分注装置(第1の実施形態)の構成>
そこで、上記のような遠心型送液装置を利用して、分注装置を設けることができる。図3は、遠心型分注装置に係る本発明の第1の実施形態を示す。なお、図3は、分注装置に係る流路構成のみを示すものである。これらの流路構成は、前述の回転可能な基板1に形成されるものであるが(図1参照)、個々では、分注装置の構造を中心として示すため、これらの構成を省略して図示している。
【0060】
この図3に示すように、本実施形態の遠心型分注装置は、同一構造とした複数のチャンバ21が、回転中心11から等距離に配置され、相互に適宜間隔を有して設けられるものとしている。複数のチャンバ21が回転中心から等距離に設けられることにより、これらのチャンバ21に液体が流入されるときに、当該液体が受ける遠心力による圧力の状態は、いずれのチャンバ21においても同様となる。
【0061】
また、それぞれのチャンバ21は、前述のように流入部21aと排出部21bを有し、流入部21aを外周側、排出部21bを回転中心側に向けて配置される。そのため、チャンバ21よりも外周側に配置される供給流路22の一部が流入部21aに接続され、排出部21bが、廃液リザーバ4に接続されるものとなる。なお、遠心力が作用する向きに対して逆向きに液体を供給するため、それぞれのチャンバ21における流入部21aと排出部21bとは、ともに回転中心から径方向に直線上に配置されるものとしている。
【0062】
供給流路22の液体供給の基端は、液体供給の起点となる注入リザーバ3に接続され、遠心力が作用する方向に直線的な流路部分を経由し、末端は、内部空気および余剰液体の移動先となる廃液リザーバ4に接続される。この注入リザーバ3から廃液リザーバ4までの経路において、チャンバ21よりも外周側を経由する流路が設けられるものである。本実施形態では、回転中心11を中心点とする円弧状の経路としており、当該円弧状部分を主流路22aとし、この主流路22aから回転中心側に分岐させた分岐流路22bを設ける構成としている。この分岐流路22bは、個々のチャンバ21の流入部21aに接続されており、主流路22aに供給される液体を分岐させたうえ、個々のチャンバ21に流入させるように構成されている。なお、供給流路の直線的な流路部分は、注入リザーバ3の液体Xを主流路22aまで送液するためのものであり、原則的には径方向に一致させて構成されるが、径方向に一致しなくてもよく、また、直線的とすることで送液距離を短縮しているが直線状でなくてもよい。要諦は主流路22aの位置まで注入リザーバ3の液体を送液させることができればよいものである。
【0063】
また、チャンバ21の排出部21bは、廃液リザーバ4に接続される排出流路5に接続されるものであるが、個別の排出部21bとの間に個別の接続部6が設けられ、この接続部6を介して接続されるように構成している。排出流路5および接続部6は、チャンバ21に液体が供給される際、内部空気を排出させるための排気流路として機能し、また、チャンバ21に流入した液体が過剰な場合の余剰分(余剰液体)を排出するための廃液流路としても機能するものである。
【0064】
なお、本実施形態における流路構成部全体は、閉鎖空間として形成されるものではなく、注入リザーバ3および廃液リザーバ4に外部に開口する吸気口30および排気口40を設けて開放空間として形成されたものである。注入側と排出側を開口することにより、注入リザーバ3では、内部に貯留する液体の流下に伴うリザーバ内の真空化を排除し、吸気による流下を円滑にするものであり、他方、廃液リザーバ4では、流路内の専ら内部空気の流入による気圧上昇を排除し、流路内の送液を円滑にするものである。
【0065】
<分注装置における送液状態>
遠心型送液装置に係る本実施形態は、上記のような構成としたことから、本実施形態における送液状態は、注入リザーバ3に貯留される液体を主流路22aに供給された後、分岐流路22bを介して個々のチャンバ21に流入させることができる。このとき、注入リザーバ3は、チャンバ21よりも回転中心11に接近した位置に配置されることから、注入リザーバ3に貯留される液体の液面(遠心力が作用している状態における回転中心側表面)は、チャンバ21に流入した際の液体の液面よりも回転中心側となり、前述の送液装置と同様に圧力差によりチャンバ21に液体を供給できるものとなる。
【0066】
また、チャンバ21に液体が供給される場合には、チャンバ21の内部空気は、排出部21bから接続部6に排出される。同様に、チャンバ21に流入した液体の量が過剰となるときは、その余剰液体も同様に排出部21bから接続部6に排出される。このとき、図3に示した構成のように、接続部6を長く構成する場合には、当該接続部6に流出する液体の液面は、注入リザーバ3の液体の液面よりも上昇する(回転中心に近付く)ことはなく、実質的には、内部空気のみを接続部6を介して廃液リザーバ4に移動させ、余剰液体は接続部6の内部に留まることとなる。
【0067】
ここで、複数のチャンバ21に対する個別の送液状態について説明する。図4および図5は、複数のチャンバ21に送液される状態を示すものである。なお、図は、説明の都合上、部分的に拡大した状態を示している。
【0068】
まず、図4に示すように、基板1(図1参照)を回転させることにより、注入リザーバ3に貯留する液体に遠心力が作用すると、注入リザーバ3の液体は、注入リザーバ3の流出部31を底面とした状態で、回転中心11の側に液面(起点)3Aを形成する状態となり、注入リザーバ3から供給流路22に対する液体Xの流出を開始する。注入リザーバ3に貯留される液体Xは、上記遠心力の作用により、所定の圧力が付与され、供給流路22を流下することとなり、直線的な流路部分を経由して主流路22aに到達する。直線的な流路部分は、前述のとおり、注入リザーバ3の液体Xを主流路22aに送液するものであるが、注入リザーバ3の液体Xの液面(起点)3Aから主流路22aまでの距離(回転中心からの距離の差分)を設けるためのものである。この距離に応じて主流路22aの内部を流下させるための圧力(流路内の相対的な圧力差)を得ることができるものであり、その流下圧力(圧力差)によって、液体Xが主流路22aに沿って流下できることとなる。
【0069】
液体Xが流路に沿って流下する場合には、液体が流下する範囲の流路において流路抵抗(P(L))を受けることとなる。このときの流路抵抗(P(L))は、供給流路22の全体(注入リザーバ3の流出部31から主流路22aまでの直線部分の長さL1、主流路22aの長さL2)を流下する際に受けることとなる。従って、流下する主流路22aの距離が長くなることで流路抵抗は増大することとなる。
【0070】
他方、液体Xが、分岐流路22bおよびチャンバ21に流入する際には、分岐流路22bを流下する際の流路抵抗に加えて逆向きの遠心力が作用するため、これらの抵抗圧力を受けることとなる。また、分岐流路22bが標準流路の流路断面積であるのに対し、チャンバ21は流路断面積が拡大している流路構成であるため、チャンバ21に流入する際には、液体の表面張力による抵抗圧力(Pc)も作用する。
【0071】
そこで、チャンバ21に流入するためには、これらの抵抗圧力を超える流下圧力が作用する必要があるが、基本的には、前式(3)のとおり、圧力差によりチャンバ21へ流入は可能である。ところが、流下する液体に流路抵抗が作用するため、主流路22aを流下する途上において、上流側のチャンバ21Aから流入が進むこととなる。ただし、上流側のチャンバ21Aへ流入する流量は、当初こそ大きいが、順次チャンバ21Mへの流入が進むと、流量が減少し、末端(最も下流)のチャンバ21Nに対する流入が開始されると、全てのチャンバへ流入される流量が同じになり、ほぼ同時に充満することとなる。
【0072】
図4に示す状態は、主流路22aを液体Xが流下する途中段階を示しており、この図に示されているように、液体Xは、最も上流側のチャンバAから流入を開始することとなる。また、その後の状態を図5に示す。この図のように、液体Xが主流路22aを流下し、順次下流側のチャンバ21Mに到達すると、そのチャンバ21Mに対する流入を開始するが、っこのときの最初のチャンバ21Aに対する流量は大きい状態となっている。ところが、順次チャンパ21Mへの流入が開始されると、最初のチャンバ21Aに対する流量も低下し、最後の(末端の)チャンバ21Nに対する流入を開始すると、全てのチャンバ21A~21Nの全体に対する流量が分散されて、最終的にはほぼ同時に充満状態となるものである。
【0073】
このときの流量(Q)は、主流路22aの長さの1/2に対する圧力損失として計算すると、次のような論理式を導くことができ、全てのチャンバ21A~21Nを充満させるための時間(Ttotal)を求めることも可能となる。なお、主流路22aにおける圧力損失(流路抵抗)を主流路22aの1/2として見積もることについては、実験的に得られたものである。
【0074】
【数2】
【0075】
<遠心型分注装置(第2の実施形態)の構成>
次に、遠心型分注装置に係る第2の実施形態について説明する。前述の実施形態は、複数のチャンバ21に対してほぼ同時に液体を流入させる場合の構成を示したが、第2の実施形態は、複数のチャンバに対して順次液体を注入させる構成としたものである。
【0076】
そのような構成とするために、本実施形態は、図6に示すように、主流路22aと分岐流路22bとが分岐する位置Dの近傍における分岐後の主流路22aに第1流路内抵抗部S1を設け、また、接続部6が排出流路5に合流する位置Eの両側近傍に各1個(2個1組として)第2流路内抵抗部S2を設ける構成としたものである。このように、第1流路内抵抗部S1を分岐後の主流路22aに設けることにより、主流路22aを流下する液体は、決壊圧力(第1の決壊圧力(PS1))を超えるまでは分岐流路22bを経由してチャンバ21に流入されることとなる。また、チャンバ21に流入した液体は、第2流路内抵抗部S2による決壊圧力(第2の決壊圧力(PS2))を超えなければ第2の流路内抵抗部S2を超えて流下することができない。
【0077】
ここで、第1の決壊圧力(PS1)は、第2流路内抵抗部S2に到達するまでの圧力に第2の決壊圧力(PS2)を加えた圧力よりも小さくなるように設定することによって、チャンバ21に流入した液体が第2流路内抵抗部S2によって流下が阻害される状態において、第1流路内抵抗部S1が決壊し、主流路22aを次順位のチャンバ21に向かって流下させることができる。次順位のチャンバ21においても、主流路22aには、分岐流路22bとの分岐位置Dの近傍に第1流路内抵抗部S1が設けられ、接続部6には第2流路内抵抗部S2が設けられることにより、前順位と同様に、チャンバ21への液体の流入を先行させることができる。そして、これを最後の順位のチャンバ21まで継続させることにより、全てのチャンバ21に対して順次液体の流入を完了し得ることとなる。
【0078】
ここで、第1の決壊圧力(PS1)は、液体が流下するための圧力から第2流路内抵抗部S2に流入できる逆向きの遠心力による抵抗圧力を差し引いた圧力よりも大きいことが要求される。そのため第2流路内抵抗部S2まで流入し得る状態の液体において、遠心力による第1流路内抵抗部S1に作用する圧力は、上記式(1)と同様に計算することが可能であるから、起点3(注入リザーバの液面3A)とチャンバ21に流入した第2流路内抵抗部S2における液面Xaとの相違による圧力差は、結果的には、Ph(S1)―Ph(S2)となる。従って、第1流路内抵抗部S1における第1の決壊圧力PS1は、次式を満たせばよいものとなる。
【0079】
【数3】
【0080】
他方、第2流路内抵抗部S2における第2の決壊圧力(PS2)は、次式のとおりであればよい。その結果として、両者に差を生じつつ、第2の決壊圧力S2を経由して内部空気のみが排出される状態となり、余剰液体は排出されない状態となる。。
【0081】
【数4】
【0082】
また、遠心力によって生じる圧力P(S)およびP(S)に比して、液体の表面張力による抵抗圧力(Pc)およびΔP(L)は極めて小さく、上記式(6)は遠心力によって生じる圧力P(S)およびP(S)が支配的となる。そのため、同一構造による第1流路内抵抗部S1を使用しつつ、基板の回転数(回転速度)を大きくする場合には、上式を満たさないこととなってしまうことから、基板の回転速度は適宜な範囲内とすべきこととなる。
【0083】
なお、図示の実施形態は、主流路22aを1本とし、適宜分岐流路22bにより分岐させているが、次順位となるチャンバ21に対する主流路22aは、分岐流路22bから分岐させてもよい。さらに、分岐流路22bがチャンバ21の流入部21aに接続されていればよく、主流路22aと分岐流路22bとの分岐位置は適宜な場所に設定するものであってもよい。この場合、例えば、主流路22aをいわゆるケスケード状に順次分岐させる構成とすることができる。そして、分岐された位置からチャンバ21までが分岐流路22bとなり、分岐位置において、分岐により次順位のチャンバ21に向かって流下する主流路(分岐した側の主流路)22aに第1流路内抵抗部S1を設けることとなる。
【0084】
<遠心型分注装置(第3の実施形態)の構成>
上述の第2の実施形態では、第1流路内抵抗部S1による第1の決壊圧力の利用は、基板の回転速度に密接に関連するものであった。そこで、これを解消させる構成として第3の実施形態を説明する。
【0085】
図7は、第3の実施形態を示すものである。本実施形態は、この図に示されるように、個々のチャンバ21に対して液体を供給する主流路22aは、注入リザーバ3に接続される供給流路22から分岐させた構成とし、個々のチャンバ21ごとに主流路22aを設ける構成としている。個々の主流路22aは、末端がチャンバ21の流入部21aに接続される構成としている。
【0086】
この場合、第1流路内抵抗部S1は、第1順位のチャンバ21Aに接続される主流路22aA(供給流路22)から分岐した次順位のチャンバ21Bのための主流路(この主流路を「分岐した側の主流路」と称する)22aBに設けられる。設置すべき位置は、分岐点の近傍における分岐した側の主流路22aBである。両流路を分岐するための分岐位置Dは、チャンバ21よりも基板の回転中心11に近い位置としている。なお、第2流路内抵抗部S2は、チャンバ21の排出部21bに連続する接続部6に設けられるものである。この第2流路内抵抗部S2における決壊圧力(第2の決壊圧力)(PS2)は、第1流路内抵抗部S1における決壊圧力(第1の決壊圧力)(PS1)よりも大きくなるように構成するものであり、第2流路内抵抗部S2に液体が到達した後に第1流路内抵抗部S1が決壊して次順位の主流路(分岐した側の主流路)22aBへの流下を開始させるものとしている。
【0087】
ここで、接続部6(第2流路内抵抗部S2を含む)は、分岐した側の主流路22aBに接続され、この主流部22aBを排出流路5として合流部Eで合流させるように構成している。すなわち、次順位の主流路(分岐した側の主流路)22aBは、排出流路5を兼用させるものとしている。本実施形態は、複数のチャンバ21に対して順次液体を流入させる構成であるから、第1順位のチャンバ21Aに液体を充填したうえで、第2順位のチャンバ21Bに液体を供給するものである。そのため、第1順位のチャンバ21Aに液体が充満するまでは、次順位の主流路(分岐した側の主流路)22aBには液体を流下させないことから、当該主流路22aBに液体が流下するまでは、内部空気の排出のための排出流路5として機能させることができるのである。なお、ここで、排出される内部空気は、廃液リザーバ4まで連続する排出流路5を経由して(第1流路内抵抗部は関係なく)、当該廃液リザーバ4(この時点では余剰液体の貯留はない)を経由して排気口40から外方に排出される。
【0088】
また、主流路22aの分岐位置Dをチャンバ21よりも回転中心11に近い位置としたことから、個々の主流路22aは、分岐位置Dから、チャンバ21を迂回するように配置し、チャンバ21よりも基板の外周側を経由してチャンバ21の流入部21aに接続させるようにしている。
【0089】
上記構成の場合には、主流路22aを流下する液体の圧力は、上記式(3)と同様に、チャンバ21における遠心力による圧力よりも大きいため、これを考慮する必要はなく第1流路内抵抗部S1による第1の決壊圧力(PS1)を設定することができ、次式のような範囲内であればよいものとなる。
【0090】
【数5】
【0091】
他方、第2流路内抵抗部S2による第2の決壊圧力(PS2)は、第1の決壊圧力(PS1)との相対的な関係が重視される。これは、第1流路内抵抗部S2は接続部6に設けられ、接続部6は主流路22aに接続されることから、第2流路内抵抗部S2に到達した(接続部6を通過する)液体には供給側(主流路を通過する)液体と同様の遠心力による逆向きの圧力が作用するためである。そこで、主流部22aの分岐位置Dと、第2流路内抵抗部S2が設けられる位置との間における圧力差(Ph(S2)-Ph(S1)を考慮しなければならない。
【0092】
そのため、次式(7)に示すように、第2の決壊圧力(PS2)は、第1の決壊圧力(PS1)に加えて両者の位置における遠心力による圧力差を加えた圧力よりも大きくなるように設計する必要がある。そして、結果的には、次式(8)のように、設計されるが、遠心力による圧力差は、両者の位置関係(回転中心からの距離)によって相違するが、十分な程度の圧力差を想定しておけば、回転数(回転速度)が増減した場合においても機能させることができる。
【0093】
【数6】
【0094】
上記のように、第1流路内抵抗部S1および第2流路内抵抗部S2が構成されることにより、先順位のチャンバ21Aに液体が充満され、第2流路内抵抗部S2により流下が阻止された状態で、第1流路内抵抗部S1が決壊し、次順位の(分岐した側の)主流路22aBに液体が供給される。この液体の流下により、先行するチャンバ21Aの接続部6との合流部Eまで流下するとき、当該接続部6には内部空気が残存されることとなる。この内部空気の存在により、チャンバ21Aの液体が合流部Eにおいて排出流路5へ流出することを阻止するものとして機能させている。
【0095】
すなわち、接続部6の両端は、チャンバ21と次順位の主流路22aに供給された液体が存在し、これらに挟まれる状態で空気が封入されることとなり、当該空気の移動が制限され、外部からの空気の流入もできないこととなる。その結果、チャンバ21の液体が第2流路内抵抗部を決壊させて、排出流路5に流入することを確実に阻止することができる。さらに、全てのチャンバ21への分注が完了した後に、基板1の回転を停止した場合に、各流路およびチャンバ21の内部の圧力は大気圧となるが、封入された空気の存在により、排出流路5への液体の流入は依然として阻止され、しかも、チャンバ21の液体の逆流も阻止することができる。これは、チャンバ21の液体が逆流するためには、封入された空気の気圧の低下を伴うことから、事実上逆流することができないためである。なお、主流部22aを流下する液体は、第1流路内抵抗部S1を決壊した後に供給され、少なくとも第2の決壊圧力(PS2)よりも小さい圧力であるから、当該主流路22aの液体が、接続部6(第2流路内抵抗部S2)を経由してチャンバ21に流入することはない。従って、チャンバ21に流入し、第2流路内抵抗部S2によって流下が停止した液体は、他の流路を移動する液体と混合することはないものとなる。
【0096】
<第3の実施形態における液体の流下状態>
遠心型分注装置に係る第3の実施形態は、上記のような構成としたことから、本実施形態による液体の流下の状態は、基板の回転により注入リザーバ3に貯留される液体が供給流路22に供給されることによって開始する。注入リザーバ3から流下する液体は、図8に示すように、まず、第1順位の主流路22aAのみに液体を供給する。つまり、第1順位の分岐位置DAから次順位の主流路22aBへの液体供給は、第1順位の第1流路内抵抗部S1Aによって停止されている。この状態で、第1順位のチャンバ21Aに流入し、当該チャンバ21Aに充満させた後、第2流路内抵抗部S2Aによって流入が停止される(図8(a)参照)。
【0097】
引き続き、液体が供給され、前記のように第1順位の第1流路内抵抗部S1Aが決壊し、第2順位の主流路22aBに液体該供給される(図8(b)参照)。第2順位の主流路22aBにおいても第3順位の主流路22aCに分岐すべき分岐位置DBが設けられており、この分岐した側の主流路22aCには第2順位の第1流路内抵抗部S1Bが設けられ、結果として、第2順位の主流路22aBにのみ液体が供給されることとなる。そして、第2順位のチャンバ21Bに液体が充満されると、第2順位の第2流路内抵抗部S2Bによって流入が停止され、第2順位の第1流路内抵抗部S1Bが決壊すると、さらに次順位(第3順位)の主流路22aCに液体が供給される。上記が繰り返されて、最終順位のチャンバ21Nまで液体供給が完了すると、最終順位の第1流路内抵抗部S1Nが決壊し、最終順位の排出流路5Nから廃液リザーバ4に余剰液体が流入することとなり(図7中の符号参照)、分注を完了する。分注完了の状態における供給流路内の液体は逆流されることはなく、基板の回転を停止した場合でも、分注された状態を維持させることができる。
【0098】
<変形例>
以上が本発明の実施形態の代表的な例示であるが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。従って、上記実施形態の要素を変形し、または他の要素を追加するものであってもよい。
【0099】
例えば、図9に示すように、遠心型分注装置に係る第1の実施形態の構成において(図3参照)、排出流路5の他端を注入リザーバ3に接続し、吸気口30および排気口40を設けない構成としてもよい。ただし、注入リザーバ3に液体を導入する際には、導入した液体の体積に相当する空気を同時に排出する必要がある。この場合、注入リザーバ3と廃液リザーバ4との内部空間を排出流路5で接続するものであり、本来的に、流路内の内部空気が廃液リザーバ40から外方に放出させていたものを、注入リザーバ3へ返戻させることにより、外部と遮断させることができる構成となるものである。流路内を移動する液体と空気との絶対量は液体供給の前後において変化がないことから、液体の流下に応じて排除すべき空気を注入リザーバ3に返戻させることにより、液体流下に支障を来すことなく、外部との遮断を実現できるものとなる。
【0100】
また、図10に示すように、注入リザーバ3から液体を流下させ、主流路22aに供給する前の段階において、混合流路23を設ける構成としてもよい。この混合流路23は、特願2021-130775において開示される構成を使用することができるが、その他の混合流路を使用してもよい。ただし、混合流路23は、2種類以上の液体を混合するためのものであるから、液体の流下方向を遠心力の作用する径方向に一致させることが肝要である。遠心力の作用する方向と異なる場合は、内部で遠心分離される可能性があるためである。
【0101】
なお、上記実施形態は、基本的にはマイクロ流路を前提とした構成である。すなわち、一般的には0.005~2.0mm程度の流路断面積を流路構成としており、マイクロ流体(1~500マイクロリットル程度の微小な液体流体)を送液するためのものである。従って、マイクロ流路による上記構成の遠心型送液装置および遠心型分注装置は、概ね2層の貼り合わせによる積層構造として設けることができる。
【0102】
また、他の変形例としては、図11に示すように、遠心型分注装置に係る第2の実施形態(図6)における第2流路内抵抗部S2を、接続部6に設ける構成としてもよい。同時に第1流路内抵抗部を数個の狭幅流路で構成するものとしてよい。これらの構成においても第1流路内抵抗部S1および第2流路内抵抗部S2の各決壊圧力は上述のとおりに設計することにより、実質的に同様の効果を得ることができる。
【0103】
当該積層構造による構成を図12(a)に例示する。なお、図12(a)は、図1中のXA-XA線における断面図である。この図に示しているように、基板1は、底板10aに流路構成板10bを接着部材(両面テープなど)10cにより貼り合わせた構成である。底板10aは、例えば、ガラス基板やプラスチック板によって構成し、流路構成板10bはシリコーン樹脂(PDMS:ポリジメチルシロキサン)などで構成することができる。流路構成板10bに、予めソフトリソグラフィによって流路構成領域を形成させておき、貼り合わせにより、内部空間を流路等として使用するものである。なお、基板1を円形板状とする場合、半円ごとに1つの流路構成部100を設けることも可能である。
【0104】
上記構成の場合における流路内抵抗部S1,S2は、図12(b)に示すように構成することができる。図12(b)は、遠心型分注装置の第2の実施形態における流路内抵抗部S1,S2を具体化したものであるが、この種の流路構成部200は、他の実施形態においても同様に構成することができる。ここで例示する流路内抵抗部S1,S2は、基準流路(主流路22aなど)の流路に対し側壁を内側に張り出させて構成したものである。基準流路の流路断面は矩形としており、流路断面積は、幅寸法Wと深さ(高さ)寸法Hとで決定する。そこで、側面を張り出させることにより、同じ深さ(高さ)寸法Hを維持しつつ、幅寸法Wのみを小さくして流路断面積を縮小させることができる。そして、第1流路内抵抗部S1の場合の幅寸法W1と、第2流路内抵抗部S2における幅寸法W2を調整することにより、両者の決壊圧力(PS1,PS2)の状態を適宜調整することが可能となる。
【0105】
なお、上記貼り合わせによる基板1については、底板10aもしくは流路構成板10bのいずれか一方または双方を光透過性のある材料とすることにより、また、チャンバ21における反応が比色試薬や蛍光試料を用いる場合には、図13に示すように基板1の中心線上に光源LTを配置し、光線RYを照射することにより、反応状態を即座に確認し得るものとなる。
【実施例0106】
<実験例1>
第3の実施形態(図7)に基づく実験用分注装置を作製し、分注の状態を実験した。実験に使用した基板1は、ガラス板(底板10a)と、PDMSに流路を形成した流路構成板10bを両面テープ10cで貼り合わせて作製した。基板1の全体は、概ね半径40mmの円形板状とした。流路の各寸法は、基準流路(供給流路22、主流路22a、分岐流路22b、排出流路5)については、幅寸法Wを200μm、深さ(高さ)寸法Hを105μmとし、第1流路内抵抗部S2における流路幅W1を40μm、第2流路内抵抗部S2における流路幅W2を20μmとした(なお、深さ(高さ)寸法Hは基準流路と同じ105μmである)。回転中心11からのそれぞれの距離は、主流路22aの最も外周側までが27.85mm、排出流路5までが20.15mm、チャンバの中心までが24.0mmであった。なお、チャンバ21と排出流路5とを接続する接続部6は、基準流路を基本に、第2流路内抵抗部S2を形成する狭幅部分を断続的に4つ形成した。また、注入リザーバ3の容量は190μLとし、廃液リザーバ4の容量を40μLとし、チャンバ21の容量を3μLとなるように構成した。チャンバ21は全部で10個整列するものとした。
【0107】
上記のような構成による実験用分注装置を使用し、注入リザーバ3に100μLの水(分注状態を確認するために緑色に着色させた水を使用)を貯留させ、最大回転速度を1500rpmで回転させたところ、1500rpmに達した状態から25秒後に全てのチャンバ21に水を分注することができた。なお、回転速度は1500rpmに達する前10秒感は、加速時間であったため、分注がどの回転速度に達した時点で分注を開始したかまでは把握できなかったが、上記加速時間を含めても35秒後には分注が完了していた。
【0108】
上記分注完了後に実験用分注装置の状態を確認したところ、流下させるべき流路には液体が充満しており(着色水が存在し)、他方、各チャンバ21の排出部から接続部6(第2流路内抵抗部S2)の内部には内部空気が封入された状態(着色水の存在なし)であった。これにより、チャンバ21に供給された液体は、第2流路内抵抗部S2により流下が停止され、逆流した形成もないことが判明した。
【0109】
<実験例2>
前記と同様に、混合流路23を有する変形例(図10)に基づく実験用の分注装置を作製し、分注状態を確認した。なお、この実験用分注装置では、基準流路の寸法は、幅寸法Wを200μm、深さ(高さ)寸法を99μmとした。また、回転中心からの距離は、供給流路22から混合流路23に連続する位置(回転中心から最も離れた位置)までを36.8mmとし、主流路22aまでを25.8mmとし、チャンバ21の中心までを22.0mmとした。なお、回転中心から注入リザーバ3の流出位置までの距離が20.0mmであり、注入リザーバの容量を88μLとした。ちなみに、注入リザーバ3は、液体供給前における注入リザーバ3の液体の液面までが約16.0mmとなるような形状とした。他方、廃液リザーバ4は、39μLの容量とし、回転中心から18.1mmの位置で排出流路5を廃液リザーバ4に接続した。なお、チャンバ21の容量は3μLとし、全部で7個配置した。
【0110】
上記のような構成による実験用分注装置を使用し、注入リザーバ3に40.6μLの水(分注状態を確認するために緑色に着色させた水を使用)を貯留させ、最大回転速度を2000rpmで回転させた。なお、加速時間を4秒とした。この結果、回転開始後117秒後に全てのチャンバ21に分注できたことを確認した。
【0111】
上記分注完了後に実験用分注装置の状態を確認したところ、チャンバ21に流入した液体は、接続部6の途中まで流下した状態で停止しており、排出流路5には到達していなかった。これにより、液体はほぼ同時に複数のチャンバ21に流入し、個々のチャンバ21に供給された液体は、接続部6の途中まで流下した状態で停止していたことから、隣接するチャンバ21の間で液体が混合されることがないことを確認した。
【0112】
<実験例3>
上記実験例2に使用した実験用分注装置において、排出流路5を廃液リザーバ4と注入リザーバ3とが連続するように構成したもの(図9参照)とし、他の流路構成を実験例2と同様に構成した装置を作製した。なお、当初は、注入リザーバ3および廃液リザーバ4には開口30,40を設けておき、液体を注入リザーバ3に貯留させた後の両開口30.40を樹脂テープで封止するものとした。この装置を、同様に2000rpmの回転速度で回転させた(加速時間を4秒とした)実験を行った。その結果、回転開始後127秒後に全てのチャンバ21に分注できたことを確認した。
【0113】
<実験例4>
また、コリオリの力の影響を確認するため、実験例3におけるものと同様の構成において、注入リザーバ3と廃液リザーバ4の位置が逆となるように全ての流路構造を反転させた実験用装置をさらに作製した。この実験用装置と実験例3に使用した実験用装置の二種類について、同じ回転方向(時計回り)に加速時間0秒にて、2000rpmによって回転させた場合の変化を確認する実験を行った。実験例3の装置の場合は、開始後102秒で分注を完了し、反転した装置の場合は、144秒後に完了した。分注速度に若干の相違はあったが、分注状態に差異は見当たらなかった。このことから、上記構成の場合にはコリオリの力の影響を行けないものと判断された。
【0114】
以上のとおり、遠心型送液装置および遠心型分注装置の実施形態をおよびその変形例を示したが、上述した遠心型分注装置に係る構成をマイクロ流路チップ内に構成することにより、マイクロ流路デバイスを構成し得ることとなり、また、チャンバ21を反応容器として形成し、これに所望の試薬を予め固定することにより検査チップを構成させることができる。マイクロ流路デバイスは、非常に小型に構成し得るものとなり、検査チップは、所定の回転数で回転させることができる装置があれば、シリンジ等を使用する必要がなく、注入圧力を制御することなく使用可能なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上より、チャンバに適宜反応試薬等を固定させることにより、当該チャンバを反応容器として使用することができ、複数のチャンバ(反応容器)に単一液体を分注させることにより、複数のウイルス検査(遺伝子増幅反応)に使用でき、遺伝子増幅反応としてのPCR法やLAMP法など複数の検査における複数の反応容器を必要とする場合に利用できる。また、遠心型送液装置は、送液中に流路内の気体との混合がなければ送液可能となるから、マイクロ流路以外にも使用可能となる。
【符号の説明】
【0116】
1 基板
2,100,200 流路構成部
3 注入リザーバ(起点)
4 廃液リザーバ
5 排出流路
6 接続部
10a 底板(基部)
10b 流路構成基板
10c 接着用部材
11 回転中心
12 基板の周縁(外周)
20 基準流路
21,21A,21B,21C,21M,21N チャンバ
21a 流入部
21b 排出部
22 供給流路
22a,22aA,22aB,22aC 主流路
22b 分岐流路
23 混合流路
30 吸気口(開口)
31 注入リザーバの流出部
40 排気口(開口)
D 分岐位置
E 合流位置
X 液体
Xa,Xb 液面
S1 第1流路内抵抗部
S2 第2流路内抵抗部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13